説明

脳内刺激のための標的体積を規定するシステムおよび方法

1つの実施形態は、複数の患者の分析に由来する組織活性化体積(VTA)データ構造を格納することを含む、コンピュータにより実行される方法を提供する。所与の患者について、患者の状態の判定を表している患者データが受信される。VTAデータ構造は、その所与の患者について所望の治療効果を達成するための標的VTAを決定するために、該患者データに関連して評価される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、患者の脳内の刺激のための標的体積を決定するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経系の電気刺激は様々な疾患の治療的処置を提供してきた。例えば、電気刺激は、脊髄の刺激を実施することなどにより、疼痛管理に適用されてきた。電気刺激は、移植蝸牛刺激装置に関しては聴力を増強するために行なわれてきた。深部脳刺激(DBS)は、例えばパーキンソン病およびジストニアを含む様々な病態を治療するための確立された療法にもなってきた。DBSはさらに、他のいくつかの病態、例えば数例を挙げれば臨床的鬱病、強迫神経症、およびてんかんなどを治療するためにも用いられてきた。
【0003】
さらなる例を挙げれば、高周波DBSが外科的な破壊処置によって達成されるのと類似の臨床的有益性をもたらすという発見は、運動障害の治療のための機能的脳神経外科手術の使用を変質させた。先進国では、難治性振せんに対する視床DBSが視床の切除的破壊に取ってかわり、また視床下核または淡蒼球内節(GPi)のDBSは、パーキンソン病の基本的な運動上の特徴(例えば振せん、硬直、運動緩慢)の治療における淡蒼球切除術に取ってかわった。GPiのDBSはさらにジストニアの有効な治療法としても知られるようになり、DBSの有用性はてんかん、強迫神経症、トゥレット症候群、および大うつ病の治療について検討されている。
【0004】
(関連出願の相互参照)
本願は、2008年12月4日に出願された「SYSTEM AND METHOD TO DEFINE TARGET VOLUME FOR STIMULATION IN BRAIN」という表題の米国仮特許出願第61/120,006号の利益を主張する。本願はさらに、2006年11月28日に出願された「SYSTEM AND
METHOD TO DESIGN STRUCTURE FOR DELIVERING ELECTRICAL ENERGY TO TISSUE」という表題の米国特許出願第11/606,260号にも関連し、前記出願は、2004年7月7日に出願された「BRAIN STIMULATION MODELS, SYSTEMS, AND METHODS」という表題の米国特許出願第10/885,982号すなわち現在の米国特許第7,346,382号の一部継続出願であり、また2005年11月28日に出願された「ROLE OF ELECTRODE DESIGN ON THE VOLUME OF TISSUE ACTIVATED DURING DEEP BRAIN STIMULATION」という表題の米国仮特許出願第60/740,031号の利益を主張する。上記に特定された各出願の全内容は参照により本願に組み込まれる。
【0005】
(政府資金援助)
本発明は、交付番号第NIH R01 NS‐059736号および同第NIH F32 NS‐52042号の下に米国政府の支援を得て行われた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
神経刺激の臨床的成功が立証されたにもかかわらず、ニューロンレベルでの神経刺激の機構および効果は依然として予測が難しい。その結果、モデル化およびシミュレーションは、神経刺激の技術的設計および科学的分析においてますます重要な役割を果たしてきた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は概して、患者の脳内における刺激のための標的体積を決定するためのシステムおよび方法に関する。
1つの実施形態は、複数の患者の分析に由来する組織活性化体積(volume of tissue activation;VTA)データ構造を(例えばメモリに)格納することを含む、コンピュー
タにより実行される方法を提供する。所与の患者について患者データが受信され、該患者データは患者の状態の判定を表している。VTAデータ構造は、その所与の患者について所望の治療効果を達成するための標的VTAを決定するために、該患者データに関連して評価される。例えば、VTAデータ構造は、患者集団について得られた解剖学的および電気的データから構築される統計アトラス脳として具体化されうる。このように、標的活性化体積は、患者について所望の治療結果を達成するために刺激することができる統計学的に最適化された組織体積に相当しうる。
【0008】
別の実施形態は、所与の患者について所望の治療効果を達成するために組織活性化体積を決定するためのシステムを提供する。該システムは、メモリに格納された組織活性化体積(VTA)データ構造を備えている。VTAデータ構造(例えば統計アトラス脳)は、複数の患者について得られた解剖学的および電気的な解析データに由来する。患者データもメモリに格納される。該患者データは所与の患者についての患者の状態の判定を表している。プロセッサは、所与の患者について所望の治療効果を達成するための標的VTAを決定するために、患者データに関してVTAデータ構造を評価する命令を実行するようにプログラムされる。該プロセッサは、所与の患者について、標的VTAにほぼ適合する設計VTAを提供することが可能な構造パラメータおよび刺激パラメータのうち少なくとも一方を決定するようにもプログラムされる。
【0009】
方法はさらに、所望の治療効果を達成する標的VTAについて患者の脳を刺激するために実行される。さらなる例を挙げれば、該方法は、電極構造物の移植のために標的となる地点および軌道が規定される術前期を含むものとして実行されてもよい。標的となる地点および軌道は、一連の患者データに基づくなど、患者について決定された標的VTAに基づいて決定することができる。電極が予め決められた位置に移植された後、標的VTAにほぼ適合する組織活性化体積を提供する刺激パラメータを計算するために、最適化プロセスが実施されてもよい。標的VTAを達成する刺激パラメータは、例えば、電極構造物の電気的性質、移植された電極構造物の(例えば患者の定位座標系における)位置、患者の画像データおよび決定された標的VTAに基づいて計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】患者のための標的とする組織活性化体積を同定するために利用可能なシステムの例を示す図。
【図2】本発明の態様に従って組織活性化体積を決定するために使用可能な一例の手法の機能ブロック図。
【図3】神経の刺激を予測するために適用可能な閾値をプロットしているグラフ。
【図4】神経の刺激を予測するために使用可能な2階差分に基づいた手法のプロットを示すグラフ。
【図5】等方性の組織媒体について確認することができる組織活性化体積の例を示す図。
【図6】異方性かつ不均質な組織媒体について確認することができる組織活性化体積の例を示す図。
【図7】本発明の態様に従って実行可能な設計システムの例を示す図。
【図8】本発明の態様に従って電極を設計するために使用可能な標的VTAの一例の画像。
【図9】図10の画像上に重ね合わされた第1の設計VTAの例を示す図。
【図10】図10の画像上に重ね合わされた第2の設計VTAの例を示す図。
【図11】図10の画像上に重ね合わされた第3の設計VTAの例を示す図。
【図12】視床における例示の標的VTAを表している画像。
【図13】第1の電極設計について図12の標的VTAの上に重ねられた例示の設計VTAを表している画像。
【図14】第2の電極設計について図12の標的VTAの上に重ねられた例示の設計VTAを表している画像。
【図15】様々な刺激パラメータに関する患者の臨床評価から得られたデータのグラフ。
【図16】本発明の態様によるVTAデータ構造の構築に利用可能な患者特異的な刺激モデルを示す図。
【図17】本発明の態様に従ってVTAデータ構造を構築するために利用することができるような、複数のVTAに関する所与の患者の臨床的転帰の例を示す図。
【図18】様々な症状についての複数のVTAに関する臨床的転帰の例を示す図。
【図19】本発明の態様によるVTAデータ構造の構築に利用可能なサンプルデータの例を示す表。
【図20】本発明の態様による方法およびプロセスを実施するために使用可能な例示のコンピュータ環境を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本発明は概して、患者の脳内における刺激のための標的とする組織活性化体積(VTA)を決定するためのシステムおよび方法に関する。
【0012】
当然ながら、標的VTAの決定またはその他標的VTAの利用に使用される本発明の一部は、方法、データ処理システム、またはコンピュータプログラム製品として具体化されうる。従って、本発明のこれらの実施形態は、全体がハードウェアの実施形態、全体がソフトウェアの実施形態、または、図20のコンピュータシステムに関して図示かつ説明されるようなソフトウェアとハードウェアとを組み合わせる実施形態のかたちをとることができる。さらに、本発明の一部は、コンピュータで利用可能な記憶メディア上にコンピュータ可読プログラムコードを有している、該メディア上のコンピュータプログラム製品であってもよい。任意の適切なコンピュータ可読メディア、例えば、限定されるものではないが、静的および動的記憶デバイス、ハードディスク、光学的記憶デバイス、フラッシュ記憶デバイスならびに磁気記憶デバイスを利用可能である。
【0013】
本発明のある実施形態は、方法、システム、およびコンピュータプログラム製品のブロック図を参照して本明細書中でも説明されている。当然ながら、図のブロック、および図中のブロックの組合せは、コンピュータ実行可能命令によって実行されうる。これらのコンピュータ実行可能命令は、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、またはその他のプログラマブルデータ処理装置(またはデバイスと回路との組合せ)の1つ以上のプロセッサに提供されて、該プロセッサを介して実行する命令が1または複数のブロックにおいて指定された機能を実行するようになっているマシンを作り出してもよい。
【0014】
これらのコンピュータ実行可能命令は、コンピュータまたはその他のプログラマブルデータ処理装置を特定の方式で機能させることができるコンピュータ可読メモリにも格納されて、該コンピュータ可読メモリに格納された命令が、1または複数のフローチャート・ブロックにおいて指定された機能を実行する命令を含んだ製造品をもたらすようになっていてもよい。コンピュータプログラム命令は、コンピュータで実行されるプロセスを生じるためにコンピュータまたはその他のプログラマブルデータ処理装置上で実施される一連の操作上のステップをもたらすため、該コンピュータまたはその他のプログラマブルデータ処理装置に搭載されて、コンピュータまたはその他のプロセッサベースの装置上で実行
する命令が、1または複数のブロックにおいて指定された機能を実行するためのステップを提供するようになっていてもよい。
【0015】
図1は、標的VTAを決定するために使用可能なシステム10の実施例を示している。システム10は、本発明の態様によって所与の患者について標的VTA14を決定するためにデータおよびプログラム方法を使用するコンピュータ12を含むものとして示されている。コンピュータ12は、ワークステーション、スタンドアロン型コンピュータ、ノート型コンピュータであってもよいし、本明細書に含まれた教示に基づいてプログラムされる、マイクロプロセッサをベースとした装置または利用可能なその他の機器の一部として実装されてもよい。
【0016】
コンピュータ12は、本明細書中に記載の方法を実施するためにプログラムされた命令を実行するプロセッサ16を備えている。該命令は付属のメモリ18に格納されてもよい。図1の例では、プロセッサ16はVTA評価方法20を実行しているものとして示されている。VTA評価方法20は、メモリ18に格納されて標的VTA14の決定のためにプロセッサ16にロードされてもよい。
【0017】
本明細書中で使用されるように、VTAは神経系の細胞を含む組織の三次元体積のような、組織の解剖学的領域を表わす。このように標的VTAは、所与の患者について電気刺激、化学的刺激、または電気刺激と化学的刺激との組合せによる刺激が与えられた場合に、その所与の患者について所望の治療効果を達成すると予想される組織の領域に相当する。治療効果は治療を受けている患者の状態によって様々であってよい。「組織活性化体積」という語句すなわちVTAおよびその変形語句は、典型的には解剖学的領域の組織活性化体積を表わしているが、当然ながら、そのような体積は抑制領域の体積すなわち組織不活性化体積を表わすことも考えられる、というのも、刺激は、所望の治療効果を達成するための、活性化電位の生成または既存の活性化電位の抑制または活性化電位の活性化と抑制との組合せのいずれをもたらすことも考えられるからである。
【0018】
VTA評価方法20は、VTAデータ構造24の中の情報に関する患者特異的データ22の分析に基づいて標的VTAを計算する。得られる標的VTA14は、同定された解剖学的領域中の解剖学的体積の確率論的定義に相当しうる。VTA評価方法は、VTAデータ構造24の統計学的に有意なサブセットから標的VTA14を決定することができる。VTAデータ構造24の適切なサブセットは、患者の状態の評価に依存して変化しうるなど、患者データ22によって様々であってよい。
【0019】
患者データ22には、患者の疾病または状態(例えば診断から同定されるもの)の臨床上の判定に相当する情報を挙げることができる。臨床上の判定は、患者の状態の定性的判定または定量的判定のうち少なくともいずれか一方から決定可能である。例えば、定性的判定には、任意の臨床的評定システム、例えば統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS)またはその他既知の特定の疾患に関する評定システムが挙げられる。他の定性的判定は、患者によって自覚される生活の質であってもよいし、(患者または他の人によって)知覚可能な測定基準であってもよい。定量的要素の1つの例には、例えば試験時に患者の身体に取り付けられた1または複数の加速度計によって計測可能な、振せんの際の身体部分の加速度が挙げられる。
【0020】
患者データ22に使用される情報の種類は、治療効果の臨床上の判定と併せて得られる情報の種類と同一または類似であってもよいし、複数の異なる刺激パラメータに関する臨床上の転帰がVTAデータ構造24を構築するために利用されてもよい。当然ながら、所与の患者の状態を判定するために利用可能な情報の種類は、従来の基準に応じて様々であってよく、該基準が患者の状態によってさらに調整されてもよい。
【0021】
VTAデータ構造24は、単一のプラットフォームに同時登録される3つの基本要素すなわち:1)解剖学的モデル、2)電界モデル、および3)神経活性化モデル、を含んでなることができる患者特異的なモデルをさらに利用することができる。臨床的に規定された治療的および非治療的刺激パラメータを、それぞれの所与の患者におけるVTAを決定するために使用することができる。例えば、複数のVTAそれぞれを共通のアトラス脳プラットフォーム上にマッピングして、部分的に重なり合っているVTAおよび該VTAと周囲の神経解剖学的構造との関係の確率論的3Dマップを構築することができる。VTAデータ構造24によって定義された確率論的3Dマップは、所与の患者に関する臨床上の判定に相当する入力データ22に基づいて統計的に最大の臨床的利益を提供すると判定された組織体積に従って、その所与の患者について所望の治療結果を達成するための標的VTAを突き止めるために使用することができる。
【0022】
VTAデータ構造24は、統計アトラス1〜N(Nはアトラスの数を表示する正の整数)として示される、複数の統計アトラス26に相当するデータを含むことができる。さらなる例として、VTAデータ構造24は、アトラス26の階層として組織化されてもよく、例えば疾病および症状の特異性、ならびに複数のVTAについての刺激に関連した治療結果に応じて、階層的に配置構成されてもその他の方法で組織化されてもよい。各々のアトラス26はさらに、所与のVTAについての刺激の提供に伴う所望の治療効果の可能性または確率を同定する統計データ表示の形であってもよく、前記所与のVTAは、そのアトラスを作り出す由来となった個体群における各患者の疾病または症状のうち少なくともいずれかによって変化しうる。アトラス26はさらに、それぞれのVTAについての刺激の提供に伴う負または望ましくない治療効果について同様の統計情報を提供することもできる。負または望ましくない治療効果には、所与のVTAの刺激の際に医師または患者によって認められた副作用を挙げることができるが、例えば、適用可能な定性的かつ/または定量的な判定に応じて与えられた値であってもよい。
【0023】
さらなる例として、複数の異なる刺激パラメータおよび電極配置についてのVTAが、上記において組み込まれた米国特許第7,346,382号明細書に表示および説明されたシステムおよび方法によって決定されてもよい。例えば、電極の解剖学的な位置は、個体群中の各患者についてのアトラス脳から(例えば、定位座標系内における相対的位置に基づいて)決定されてもよい。脳内の1または複数の電極の位置および刺激パラメータ(例えば振幅、周波数、パルス幅)に基づいて、対応するVTAが複数の異なる刺激パラメータそれぞれについて計算されてもよい。加えて、1つ以上の対応するVTAが複数の電極位置それぞれについて計算されてもよく、そのVTAは刺激パラメータに依存して変化することになる。個々のそのような刺激の結果が同定されて、電極位置情報および刺激パラメータならびに計算されたVTAデータを伴って、該患者について格納される治療上の値または値一式(例えばスコア)が割り当てられてもよい。VTAデータ構造は、代表的な個体群の複数の患者についてのそれぞれの臨床的判定に基づいて生成されてもよい。
【0024】
患者入力データ22と同様に、刺激パラメータの各セットについて格納される治療結果には、任意の数の1つ以上の定性的判定、定量的判定または定性的判定と定量的判定との組合せを挙げることができる。例えば、定性的判定には、任意の臨床上の評定システム、例えばUPDRSまたはその他の既知の特定の疾病用の評定システムを挙げることができる。他の定性的判定は、患者によって自覚される生活の質または(患者または他の人によって)知覚可能な測定基準であってよい。所与のVTAの刺激中に治療効果を判定するために利用される基準は、患者の状態を判定するため、および患者入力データを提供するために使用されるのと同一の基準であっても異なる基準であってもよい。
【0025】
当業者には、所与の一連の刺激パラメータに関連した治療効果を判定するために利用可
能な様々な他の定性的および定量的な測定基準が理解されるであろう。さらに当然ながら、大多数の刺激パラメータは電気刺激パラメータに関するものとして本明細書中では記載されているが、刺激パラメータは、例えば特定の解剖学的部位における用量および適用に従った化学的刺激と関連付けられてもよく、この化学的刺激も対応するVTAを有する。そのような化学的刺激パラメータおよび治療結果のデータは、従ってVTAデータ構造24において使用することができる。
【0026】
異なる刺激パラメータを用いて既知の組織の刺激を繰り返すことによって、対応するデータセットは、複数の異なるVTAについての治療効果(例えば、正の効果または負の効果のうち少なくともいずれか一方を含む)の表示を提供することができる。そのような情報は、既知の統計学的方法によって分析されて生じるVTAデータ構造を提供することが可能な、大標本の患者集団について得ることができる。当然ながら、VTAデータ構造(例えば確率論的3Dマップ)は、さらなる患者について得られた臨床データに基づいて、例えばVTA評価方法20によって決定された標的VTA14に従って患者を刺激した結果に基づいて、更新することができる。
【0027】
標的VTAが所与の患者について決定された後、プロセッサは、その標的VTAを歪曲または変形させて特定の患者の対応する解剖学的領域に当てはめるように(例えば、該患者について決定された患者の解剖学的モデルに基づいて)プログラムされ、かつ患者特異的な標的VTAデータ14を提供するために格納されてもよい。例えば、標的VTAは一般的なアトラス脳において組織体積を規定するために提供されてもよく、該アトラス脳は、MRI、CTなどのような適切な画像診断法によって所与の患者について得られた対応する解剖学的データに基づいて、その所与の患者に対してマッピング可能である。
【0028】
コンピュータシステム12はさらに、(所与の患者に予め決められた位置に移植された時に)組織を刺激するのに使用可能な一組の電極設計および刺激パラメータ30を決定して標的VTA14を達成するようにプログラムされている最適化設計アルゴリズム28を含むこともできる。当業者には、所望の治療効果を達成することがわかっている標的VTA14に近似するため構造パラメータまたは電気的パラメータのうち少なくともいずれか一方を決定するための、設計アルゴリズム28によって利用可能な様々な最適化方式が理解されるであろう。
【0029】
設計アルゴリズム28は、術前に実施されても術中に実施されてもよいし、または術前および術中の両方で実施されてもよい。例えば、該プロセスを術前に実施することにより、特化された電極設計を選択することが可能であり、該電極設計は一連の市販の構造物から選択されてもよいし、完全に個別仕様の患者特異的な設計が作られてもよい。その後、移植物が例えば標的VTAの幾何学的な中心に配置された後、患者データ22、電極構成配置、および患者の定位座標系における電極の位置に基づいて標的VTAを達成する一連の刺激パラメータを決定するために、最適化が実施されてもよい。
【0030】
例を挙げると、最適な刺激パラメータ設定値を規定するために、体積に基づいた最適化アルゴリズムが標的VTAに適用されてもよい。このように、臨床的に規定された治療的刺激パラメータは究極の基準に相当する可能性がある。定性的尺度と同様に定量的尺度も、所望の治療結果を達成するための適切な最適設定値を決定するためにパラメータとして利用可能である。具体的な定量的または定性的パラメータは患者の具体的な症状によって様々であってよい。例えば、既知の臨床的評定尺度は、様々な状態、例えば、限定するものではないが運動緩慢、硬直、振せん、および両手機能(bimanual hand function)について定量的尺度を提供することができる。
【0031】
さらなる例として、場合によっては、第1の最適化ルーチンの際に予め規定された刺激
パラメータセットについて構造パラメータを究明することで十分であるかもしれない。刺激パラメータ30は第2の最適化ルーチンの際に微調整可能である。別例として、構造パラメータおよび電気的パラメータは、総体として最適化されるパラメータ空間を形成することもできる。刺激パラメータと構造パラメータとの間の順位および相互関係はこのように、様々な程度の特異性で、かつそのような分析の際にどのような近似および仮定がなされるかに応じて、所望の治療効果を達成または近似するために最適化可能である。加えて、得られるパラメータ30は、標的移植部位への電極の移植に伴う潜在的な外科手術上の変動性と同様に患者間の解剖学的な変動性に対応するように決定されうる。電極設計パラメータ30はさらに、電荷注入レベルを最小限に維持しながら刺激の影響を最大限にする電極接点寸法を提供することが確認されてもよい。
【0032】
設計アルゴリズム28によって計算される設計パラメータ30には、電極構造(または形態学的)パラメータ、電極刺激パラメータまたは構造パラメータと刺激パラメータとの組合せが含まれうる。円筒状の電極接点を有している電極の例については、電極構造パラメータには、各々の円筒状電極接点の高さまたは直径のうち少なくともいずれか一方が挙げられる。電極シャフトに沿って互いに間隔をおいて配置された1つ以上の接点を有する電極については、構造パラメータには電極対の間の軸方向の間隔も含まれうる。当然ながら、電極接点は環状の円筒形状以外の形状を有することも可能である。例えば、電極接点がほぼC字形状の断面を有し、電極構造パラメータが該接点の曲率半径、アーク長、または軸方向長のうち少なくともいずれかを含むようなものであってもよい。したがって、アーク長はこのように0度(接点が無いことに相当する)〜360度(円筒状タイプの接点に相当する)の範囲であってよい。電極構造パラメータには、電極を形成する接点に関するその他の幾何学的な特徴(例えば、形状、輪郭、不連続性など)および相互関係を含まれうる。
【0033】
システム10は、設計アルゴリズムによって実施された結果および計算を表すために利用可能なディスプレイ32も備えることができる。例えば、ディスプレイ32は、電極設計の決定に関連した、図的表示、テキスト形式の表示または図的情報とテキスト形式情報との組合せをデモンストレーションすることができる。一例として、図的インタフェースは、標的VTAに関する1つ以上の所与の設計についての予想されるVTAを重ねるためにディスプレイ32にデータを供給することができる。そのような表示は、所与の状況について電極を構築するためにどの設計パラメータを利用すべきかを決める助けとなりうる、予想される性能の視覚的デモンストレーションを提供する。
【0034】
システム10はさらに、1つ以上の他の入力デバイスまたは出力デバイス34も備えることができる。そのようなデバイス34は、ユーザが方法20および28を制御することができると同様にデータを入力することができるインタフェースを提供することができる。例えば、ユーザは、電極設計手順を開始または変更する命令のようなデータを入力するために入出力デバイス34を使用することができる。別例として、入出力デバイス34は、例えばメモリ18の中の別の場所から、別の格納場所から、VTAデータ22を獲得するために、またはコンピュータ12もしくは別のマシンで作動している別のプロセスからVTAデータを獲得するために、使用されてもよい。ユーザはさらに、パラメータ30の範囲を設定するために、または患者データ22、そのようなパラメータの精度、を入力するために、さらには該処理手順において使用されている他のパラメータをプログラムするために、入出力デバイス34を使用することも可能である。入出力デバイス34は、磁気共鳴撮像(MRI)システム、コンピュータトモグラフィー(CT)システムまたはその他の画像診断法のような関連する撮像デバイスからのデータ(例えば撮像データ)とインタフェースして該データの獲得を可能にするために利用することもできる。
【0035】
加えて、システム10は、所与の患者について所望の治療効果を達成すると判定された
設計パラメータ30に基づいて移植式パルス発生器(IPG)またはその他の刺激デバイス36を(例えば該システムを刺激デバイスと通信で連結するインタフェースを介して)プログラムするために利用可能である。例えば、刺激デバイス36へ向けてプログラムされている刺激パラメータは、所与の患者について選択済みの電極構成配置に応じて様々であってよい。当業者には、設計パラメータ30に従ってIPGをプログラムするために利用可能な、様々な種類の有線接続および無線接続(例えば、有線または無線)ならびに通信プロトコルが認識されよう。
【0036】
図2は、所望の治療効果を達成するための標的VTA102を決定するために使用可能なシステム100のブロック図の例を示している。例えば、標的VTA102は、標的VTAの内部または付近に位置する1つ以上の電極接点による電気刺激に応答して伝播する活動電位を生成(かつ/または抑制)することなどにより所望の治療効果を達成すると予想される刺激のための解剖学的領域を規定する。標的VTAには化学的刺激も関与することができる。本明細書中に記載されるように、標的VTA102は、所与の患者について所望の治療効果を達成する電極設計のための、1つ以上の電極の幾何学的パラメータ(例えば高さ、直径、接点の間隔、形状)および刺激パラメータ(電圧または電流、周波数、パルス幅、および波形形状)を計算するために利用可能である。設計プロセスの一部として、システム100はさらに、標的VTA102を達成するための該当する設計および刺激パラメータに従ってVTA104を計算することもできる。システム100は、図2に示されかつ同図に関して記載された方法および機能を実施するようにプログラムされたコンピュータまたはワークステーション上で実行されてもよい。
【0037】
システム100は、解剖学的モデル108および電気的モデル110にそれぞれ基づいて空間的かつ時間的な電圧解112を決定するようにプログラムかつ/または構成されている有限要素モデル(FEM)ソルバ106を備えている。空間的かつ時間的な電圧解112は、刺激パラメータ114によって変化することもできる。例えば、FEMソルバ106は、モデル108および110に基づいて、それぞれの(またはサブセットの)利用可能な刺激パラメータ114について空間的かつ時間的な電圧解112を決定することができる。
【0038】
解剖学的モデル108は、システム100で使用するためにモデル化されている解剖学的領域の構造上の特徴とともに電極の位置を規定する。解剖学的モデル108は、解剖学的領域および周囲の解剖学的構造物の中の電極の位置を規定するために利用可能な、適切な画像診断法(例えばMRIまたはCT撮像)を使用して生成可能である。例えば、予備的な初期の接点の位置は神経核の解剖学的中心にあってよい。
解剖学的モデル108は、解剖学的領域において生成される電界を特徴解析する電気的モデル110に連結される。電気的モデル110は、例えば、対象とする解剖学的領域の組織導電率を特徴解析することができる。一例として、電気的モデル110は該領域の組織導電率を等方性かつ均質なものとして表示することができる。別の例として、電気的モデル110は組織導電率を異方性かつ不均質なものとして特徴解析することができる。具体的な特徴解析は、所望の精度、ならびに解剖学的および電気的モデルによって表わされている組織の具体的な種類によって、様々であってよい。電気的モデル110は、組織の電極インタフェースの電気的性質ならびに電極インピーダンスおよび電極容量を特徴解析することもできる。電気的モデル110はさらに、例えば電極容量に起因するような、電極組織インタフェースにおける時間依存的特性を(例えばフーリエのFEMにより)反映することができる。
【0039】
例を挙げると、多くの電極(例えばDBSのために使用されるようなもの)は三次元構造物であり、中枢神経系の組織導電率は不均質(位置に依存)かつ異方性(方向に依存)である。電極を囲んでいる組織不均質性および異方性は、電界の形状およびその後の神経
の対刺激応答を変化させる可能性がある。そのような組織媒体の異方性および不均質性は、組織の3D導電率を組み入れているFEMソルバ106および電気的モデル110によって説明可能である。一例として、拡散テンソル画像(DTI)を使用して、1または複数の電極を囲んでいる組織媒体の電気伝導率テンソルを推定することができる。
【0040】
例えば、拡散テンソル画像(DTI)を使用して、空間のあらゆる方向に対応して拡散係数を得ることができるマトリックス量に換算してボクセル単位で組織中の水の拡散挙動を特徴解析することができる。組織媒体の電気伝導率テンソル(σ)は、該組織媒体について決定された対応する拡散テンソル(D)から得ることができる。組織中の電気伝導と水の拡散との間に仮定された関係は、構造化された媒体中においてこの2つのプロセスは組織の幾何学的形状がもたらす境界条件に対する相互尊重によって関連づけられる、という観察を動機としている。明らかになったのは、電気伝導率テンソルσの値は、マトリックスDの線形変換すなわち:
σ=(σ/d)D 方程式1
(上記式中、σは有効細胞外導電率、dは有効細胞外拡散率である)
を使用して各ボクセル(例えばDTIデータからのもの)について得ることができる、ということである。対応するDTI法から得られた拡散テンソルは、上記に議論されるように導電率テンソルに変形可能であり、また電気的モデル110およびFEMソルバ106へ組み込まれうる。
【0041】
このようにFEMソルバ106は、刺激パラメータ114による組織内電気刺激に応答して組織媒体中で生成される空間的かつ時間的な電圧分布(例えば電位分布(V))112について値を求めることができる。電位分布の単位は単一のボクセルに対応可能であり、単一ボクセルはピクセルを表しても複数形のセットを表してもよい。例えば、FEMソルバ106は組織の解剖学的領域における電位分布112を決定することが可能であり、該電位分布112はFEMソルバ106が用いる組織モデルによって変化しうる。このように電位分布112は、予め規定された電極接点の幾何学的形状および刺激パラメータに関して各ボクセルについての電界を表わすことができる。一例として、FEMソルバ106は、電圧で制御される刺激下での電極‐組織インタフェースの静電容量を説明するフーリエFEMソルバとして実装されてもよい。このようにFEMソルバは、DTIに基づいた組織導電率および電極‐組織インタフェースの無効分を単一の連立方程式に組み入れることができる。
【0042】
1つ以上の閾値116が電位分布112に適用されて、電位分布の所与の単位(例えばボクセル)それぞれについて活性化電位が達成されたかどうかを確認する(または予測する)ことができる。閾値116が予め規定されて電位分布112に適用されて、相当する活性化電位が各ボクセルについて達成されたかどうかに従って該当するVTA104を決定することができる。VTA104は、刺激パラメータ114の規定のセットについて計算されて、対応する検索空間を規定するために複数のVTA104が決定されるようになっていてもよい。システム100は刺激パラメータの各セットについてVTA104(および適切な中間値)を再計算することが可能であり、この手順は接続118によって概略的に表されている。すなわち、対応するVTA104の検索空間は、一連の刺激パラメータ114に関して決定されてもよい。その結果得られるVTA104の検索空間が最適化方法120によって分析されて、標的VTA102を達成するための設計パラメータと刺激パラメータとのセットを突き止めることができる。
【0043】
閾値116は、相当する活性化電位に達したかどうかを確認する神経刺激予測値の使用により実装されてもよい。一例として、フーリエFEM型DBS電極モデルが解剖学的領域についての軸索モデルまたはニューロンモデル(例えばフィールド‐ニューロンモデル)に連結されて、活性化電位が各ボクセルについて存在するかどうかが決定されてもよい
。適切な閾値116は、総合FEM分析において活性化電位を引き起こすのに十分な軸索モデルまたはニューロンモデルについて規定可能である。
【0044】
上述のフィールド‐ニューロンシミュレーションの代替手法は、活性化関数に基づいた技術の使用である。電気刺激に対するニューロン応答を近似するために使用可能な活性化関数の一例は、神経プロセスに沿った細胞外電位分布の2階差分であり(∂Ve/∂x)、前記式中、Veは所与のボクセルの電位を表わす。この2階差分は、印加された電界に応答した軸索またはニューロンの分極の量的推計を提供する。このように2階差分を電位分布に適用して、∂Ve/∂xが所与の刺激パラメータ114に関する軸索活性化の閾値を超えている体積を包含する3D表面を規定することができる。
【0045】
例を挙げると、図3は、神経活性化の予測値として利用することができる∂Ve/∂x関数の例を備えたグラフを示している。図3の例では、∂Ve/∂xの値は、電極の中心から計測された電極‐軸索間距離の関数としてプロットされている。絶対閾値(破線142によって示されている)は、神経活性化を予測する際に低レベルの精度を有する可能性のある、単純な予測値の1つのタイプである。代替手法は、臨床の生データを近似する、対応する可変閾値(実線144によって示されている)を提供するために、曲線の当てはめ機能を実施することである。
【0046】
さらに別の代替手法は、∂Ve/∂x閾値をパルス幅および電圧の関数として決定することである。具体的には、∂Ve/∂x閾値が記録され、これらの値は陰極の電圧(V)かけるパルス幅(PW、μs)の関数として表現される。この表現は、2つの刺激パラメータが閾値の予測のための単一の数字に簡略化されるのを可能にする。さらに、この方法で記録された閾値は、様々な電極設計および刺激パラメータについて有効であることが分かった。次いでこれらの値は、VTA体積を規定するためにz軸のまわりを延びる2D空間の輪郭線を作出するために使用することができる。体積計算のために、分析機能を用いてVTA輪郭線について記述すると便利である場合が多い。例えば、各々の輪郭線は楕円すなわち:
(x−x0)/a2+(y−y0)/b2=1 方程式2
(上記式中、x0、y0は楕円の中心であり、aおよびbはそれぞれ長半径および短半径である(b<aと仮定))
によって記述可能である。長半径および短半径の係数は下記、すなわち:a=X軸に沿った電極接点からの閾値の距離;b=2D閾値輪郭線のyの最大値、から計算される。この例示の輪郭線では、電極接点の中心は原点にあるものとして規定可能であり、各楕円の中心はx0=a、y0=0である。この方法を用いて、様々な電極設計および刺激パラメータについて∂Ve/∂x閾値およびVTA体積の予測が可能となる。
【0047】
図4は、上述のようにして実行可能な空間的楕円体に基づいた予測値148の例を示している。予測値148は様々な電極設計および刺激パラメータに適用可能である。図4の例では、電圧で制御される刺激についての対応する∂Ve/∂x予測値が、図の右側にある関連の表示バーによって表わされるようにして塗りつぶされた∂Ve/∂x閾値輪郭線に重ね合わされる。本明細書中に記載されるように、∂Ve/∂x閾値輪郭線は統合フィールドニューロンモデルから生成可能である。
【0048】
さらなる例を挙げると、図5および6はそれぞれ例示の画像150および152を示しており、同一の活性化関数について異なる組織モデルを適用することにより深部脳刺激について決定可能な異なるVTAを実証している。一貫性を期して、同様の参照文字は、図5および6それぞれにおいて同一の構造的かつ解剖学的部分を指す。
【0049】
図5では、154で示されたVTAは、組織媒体が等方性かつ均質であるものとして表
わされる組織モデルについて決定されている。図6では、画像152は、組織媒体を、DTIに基づいた組織媒体のような不均質かつ異方性であるものとして表わすモデル(より複雑で、通常はより正確な組織の表現)について156で示されたVTAを実証している。該手法の比較により、結果として生じる周囲の解剖学的構造物の示差的な活性化が実証される。
【0050】
図5および6の画像を導くために利用された各々の組織モデルは、電極シャフト162のまわりに組織包み込み層160を備えている。電極シャフト162は視床164を通って伸び、その先端が視床下核(STN)166の内部に位置するかまたは視床下核に隣接して終端となる。複数の電極接点168は、シャフト162の長さに沿って間隔をおいて離れた関係に配置される。VTA154は、STN166の内部の接点168のうち1つの所与のセットの刺激パラメータについて適用された活性化関数によって規定された境界内の組織体積に相当する。図8では、VTA156は同様に、STN166の内部の単一の接点における同じ所与のセットの刺激パラメータについて適用された活性化関数によって規定された境界内の組織体積に相当する。この2つの条件の下で生成されたVTA154(図5)およびVTA156(図6)は、電極インピーダンスについては一致した。
【0051】
図2に戻って参照すると、システム100は、所望の治療効果の達成のためにいずれのVTAが標的VTA102に最も良く適合するかを決定するため、VTA104を検索するように作動するVTA評価ブロック120も備えている。評価ブロック120は、検索空間内の候補VTA104を評価する、コンピュータで実行される(またはコンピュータで支援される)アルゴリズムとして実行可能である。したがって各候補VTA104は、該候補VTAを提供する電極設計パラメータおよび刺激パラメータのセットを有している。評価ブロックは、例えば、各候補VTA104に対してスコアを付するスコア化機能122を備えることができる。スコアは、ユーザがVTA検索空間から標的VTA102を最も良く得るための設計パラメータおよび刺激パラメータのセットを選択する助けとなることができる。別例として、評価ブロック120は、検索空間内の各VTA104に提供されたスコアに(少なくとも部分的に)基づいて、標的VTA102に適合するVTAを自動的に選択することができる。VTA104およびそのスコアは、例えば該当データをディスプレイまたはその他の出力デバイス(例えばプリンタ)に提供することによって、ユーザに表示されてもよい。
【0052】
一例として、評価ブロック120の評価アルゴリズムは:(a)活性化が望まれる1つ以上の領域;または(b)活性化が回避されるべき1つ以上の領域、を定める1つ以上の基準を使用することができる。この基準は、所与の患者について標的VTAが究明された統計アトラス脳の一部分として提供されうる。例えば、スコア化機能122は、各候補VTAが標的VTA102に比べて望ましい領域および望ましくない領域にどの程度に位置するかというスコアを決定することができる。一例では、スコア化機能122は、活性化が望まれる1つ以上の領域に位置するVTAボクセルの数、および活性化が望まれない1つ以上の領域に位置するVTAボクセルの数の関数としてスコアを計算する。別の例として、これら2つの数量は、例えばある領域の活性化を回避することが他の領域の活性化を得ることより重要(またはその逆)である場合など、違ったかたちに重みづけされてもよい。さらに別の例では、これら2つの数量は個別のスコアとして使用されてもよい。別例として、評価ブロック120およびスコア化機能122は、実証された治療効果に基づいて実行されて、各VTAおよびその関連する刺激パラメータに、対応する素点を付することができる。
【0053】
さらなる例を挙げると、パーキンソン病の治療のための標的VTAを決定するためには、スコア化機能122によって提供される素点は、盲検UPDRS評価に従って実証された改善に対応していてもよい。VTAは、硬直、運動緩慢、または振せんのうち少なくと
もいずれかのような、1つ以上の改善の1次症状によって指定することも可能である。VTAは、あるVTAが臨床的に規定された副作用の種類(例えば筋収縮、錯感覚など)と同一視された場合は、非治療的であるとして指定することも可能である。症状の軽減および副作用の指定は、重み付けされて、所与のVTAに関連した(例えば臨床試験により)認識された状態に従ってスコア化基準に適用されてもよい。評価ブロック120によって利用可能な他のスコア化基準が、パーキンソン病用におよび他の種類の疾患用に存在しうる。このようにスコア化機能122は、適宜重み付けをすることが可能な、VTA104に関連した治療効果および非治療的効果の表示を提供することができる。そのようなスコア化は、所与の患者について標的VTAを決定するために利用されるなど、統計的VTAデータ構造に対して候補VTA104を評価することにより確認可能である。
【0054】
さらなる例として、VTAデータ構造は確率論的3Dマップまたは機能的VTAアトラスの形で提供されうる。VTAデータは、例えば複数の(例えば何百または何千の)患者について得られて、各患者のVTA104が、VTAと該患者について所望される治療効果との定量的関係を提供できるようになっていてもよい。例えば、各々のVTA104は、各ボクセルがそれぞれのVTAについて決定されたスコアを保持しているボクセル化グリッドに分割されてもよい。ボクセルマトリックスは統計分析されて、機能的アトラスにおいて各ボクセルの統計スコアを表わす該マトリックス中の各ボクセルについての対応する確率値を提供することができる。十分に大きな検索空間を用いて、対応する標的VTAがこのように該検索空間内のVTA104の集合セットに基づいて同定されうる。副作用の経路も、所与の患者について標的VTA102を規定する場合に回避すべきエリアとして、治療的VTAの確率論的3Dマップに統合可能である。その結果得られる確率論的VTAマップは、所与の患者についての画像データおよびその患者の臨床的判定に基づいて標的VTAを決定するために利用可能である。上記の判定は、本明細書中に記載されたように、患者の状態の定性的かつ/または定量的判定を伴うこともできる。
【0055】
図7は、本発明の態様によって実行可能な電極設計システム200の例を示している。システム200は、1つ以上のコンピュータまたはその他のプロセッサ系システムにおいて作動するコンピュータ実行可能命令として実装することができる。システム200は、所望の治療効果を達成するための電極設計204、電気刺激または化学的刺激のうち少なくともいずれかを提供するように変更可能な1つ以上の設計パラメータに相当するパラメータを含む、パラメータ化空間202を備えている。システム200の目的は、いずれのパラメータまたは複数の設計パラメータの組合せが所与の患者のための標的VTA206に最も良く適合するVTAを提供することができるかを決定することである。例えば、電極設計のための1つ以上のパラメータまたは利用可能な範囲は、ユーザ入力によって設定可能である。
【0056】
標的VTA206は、組織の領域であって、該領域内にある電極からの電界によって刺激されると所望の治療効果を達成することがわかっている活動電位を生成する領域、を規定する。治療効果および標的VTA206の位置は、特定の患者の疾患によって様々であってよい。標的VTA206は、本明細書中に記載されるようにして、所与の患者について予め決定することができる。
【0057】
例として、図8は、所与の標的神経核について電極設計パラメータを決定するために利用可能な標的VTA302の表示を含む画像300を示している。図8に示されるように、電極304は複数の接点306を備え、そのうち少なくとも1つは標的VTA302の中に位置している。電極シャフトは、視床308を通り、STN310の少なくとも一部を通って伸びる。図8の例では、標的VTA302は、背側のSTNおよびZI/H2を包含する領域、例えばSTNのDBSのための標的VTAの予備的規定に相当するような領域を含んでなる。当業者には当然のことであるが、設計システム200(図7)は脳内
およびその他の解剖学的領域内における他の神経核についての標的VTAの決定に適用可能である。
【0058】
図7に戻って参照すると、パラメータ化空間202は一連の電極構造パラメータ208を含んでいる。複数の円筒状電極接点を有する電極の例については、電極構造パラメータ208として、電極シャフトに沿った電極接点の高さ、直径および間隔(または分布)を挙げることができる。一例として、高さおよび直径のパラメータに関する予め規定された値域は、(例えば最小および最大の高さおよび直径に限度を設定することにより)パラメータ化空間の一部として格納されうる。例えばアスペクト比(d/h)のようなパラメータ間の関係もパラメータ化空間202においてパラメータ化することができる。アスペクト比はさらに、標的VTA206の形状および大きさに応じて設定可能な予め規定された範囲のアスペクト比に検索空間を限定すること(例えば、d/h<何らかの予め規定された値)などによって、最適化手順を制約するために利用可能である。
【0059】
パラメータ化空間202はさらに、電圧または電流の振幅、周波数、パルス幅およびパルス波形のような電極刺激パラメータ210を含むこともできる。該刺激パラメータは、1つ以上の電極接点に一様に適用されてもよいし、異なるセットの刺激パラメータが各々の電極接点に、他の電極接点とは無関係に適用されてもよい。解剖学的領域内における接点の位置および電極の軌道は、解剖学的領域における相対的な電極および接点の配置を同定しているパラメータ化空間202にパラメータ212として含められてもよい。例えば、接点の位置は標的VTA206によって規定された解剖学的領域の中心におかれてもよく、軌道は標的神経核に関して該当する標準弾道に設定されてもよい。別例として、そのようなパラメータは、本明細書中に記載された他の例示の実施形態に関して記載されるように、多様であってよい。
【0060】
最適化方法214は、パラメータ化空間202について検索するパラメータを制御する。最適化方法214は、パラメータ化空間のいずれの事例(または事例のサブセット)が最も良く標的VTAに適合する設計VTAを提供するかを確認するために、標的VTA206に関連してパラメータ化空間202の事例について設計VTA216を評価することができる。最適化方法214は、電極設計204を決定するようにプログラムされた1つ以上の検索アルゴリズムを備えることができる。
【0061】
一例として、最適化方法214は、電極構造パラメータの1つ以上の事例を決定するためにパラメータ化空間202を検索するようにプログラムされた電極構造検索218を含むことができる。例えば、電極構造検索218は、任意に設定される可能性もあれば、様々な基準(例えば実証的研究または臨床研究)に基づいて設定される可能性もあるなど、電極構造パラメータ208(高さおよび直径)を予め決定された寸法に設定するようにパラメータ化空間202を初期化することが可能である。電極の位置/軌道パラメータ212は、電極構造検索218の適用中は固定されたままであってよい。本明細書中に記載されるように、電気刺激パラメータ210は、標的VTA206に関する最大の設計VTA適用範囲を提供するために、電極構造パラメータ208の所与のセットについて様々に変更可能である。
【0062】
システム200は、パラメータ化空間202の所与の事例または一連の複数の事例について設計VTA216を決定するためにVTA予測機構224によって用いられる電極場(electrode field)モデル220および組織モデル222を備えている。VTA予測機
構224は、ニューロン/軸索モデル222に電界モデル220の電位分布を適用することにより、設計VTA216に対応する、刺激に対する神経の応答を予測する。細胞外刺激に対する神経の応答は、いくつかの要因、例えば:(1)電極の幾何学的形状(例えば電極構造パラメータ208);(2)電極刺激パラメータ210(例えば刺激波形、刺激
周波数、パルス幅など);(3)電界の形状(例えば不均質かつ異方性の組織全体の性質によって決定されるもの);(4)ニューロンの幾何学的形状;(5)刺激電極に対するニューロンの配置;および(6)ニューロン膜の動態、に依存する。これらの要因のうち一部またはすべてが電界モデル220およびニューロン/軸索モデル222において表現されうる。
【0063】
一例として、電界モデル220はパラメータ化空間202の電極構造パラメータ208および刺激パラメータ210に基づいてコンピュータ可解なFEMメッシュとして実装可能である。このように電界モデル220は、電極構造検索218によって用いられた電極構造パラメータ208によって設定されるような、電極の形態(または構造)を表わす刺激電極モデルを備えることができる。電界モデル220はさらに、電極組織インタフェースを提供する、特定の電極を包み込んでいる組織薄層の導電率の表示を備えることもできる。電界モデル220はさらに、電極インピーダンスおよび電極容量を明示的に表すこともできる。電界モデル220はさらに、電極を囲んでいる解剖学的構造を表す組織導電率モデルを備えることもできる。本明細書中に記載されるように、組織導電率モデルは、例えばDTI撮像または本明細書中に記載された他の技術の使用によって得られるような、刺激電極付近の組織の不均質性または異方性を表すデータを備えることも可能である。別例として、組織導電率モデルは、本明細書中に記載されたような、刺激電極付近の組織を均質かつ等方性なものとして表すデータを備えることも考えられる。このように電界モデル220は、パラメータ化空間202において所与の一連のパラメータ(例えば電極構造パラメータおよび電極刺激パラメータ)について組織媒体中の電位分布を表示する。
【0064】
ニューロン/軸索モデル222には、モデル化されたニューロンまたは軸索を、電界モデル220によって規定されたFEMメッシュ中の1つ以上の神経経路に沿って特定可能な配置に位置づける、多重コンパートメントのニューロンまたは軸索モデルを挙げることができる。個々のニューロンの特性に加えて、ニューロン/軸索モデル222は、モデル化されている刺激のパラメータ(例えば電極構造パラメータ208および電気刺激パラメータ210)のうち1つ以上に左右される場合がある。例えば、刺激パルス幅はニューロンの応答に影響を及ぼすことになろう。したがって、一例では、ニューロン/軸索モデル222は、1または複数のDBS刺激パラメータについての特定値に対して調節可能である。さらなる例を挙げると、神経経路は、DTI由来の撮像データを使用して、または解剖学的アトラスデータ、もしくは任意の他の適切な技法の使用により、確認することが可能である。
【0065】
当業者であれば、システム200において使用されることが考えられる様々なニューロンモデルまたは軸索モデル化技法を理解することができよう。軸索モデルの一例はキャメロン C.マッキンタイア(Cameron C. McIntyre)ら、"Modeling the Excitability of
Mammalian Nerve Fibers: Influence of Afterpotentials on the Recovery Cycle"、J.
Neurophysiology, Vol. 87, February 2002, pp. 995-1006に記載されており、前記文献は、軸索モデルについての開示内容を含む全体が参照により本願に組み込まれる。別例においては、より一般化されたニューロンモデルを使用可能であるが、その一例はキャメロン C.マッキンタイア(Cameron C. McIntyre)ら、"Cellular Effects of Deep Brain
Stimulation: Model-Based Analysis of Activation and Inhibition," J. Neurophysiology, Vol. 91, April 2004, pp. 1457-1469に記載されており、前記文献は全体が参照により本願に組み込まれる。ニューロン/軸索モデル222は、ニューロンが印加された電界にどのように応答するか;すなわち、ニューロンは発火するかどうか、またニューロンは伝播する活動電位を生成することになるかどうか、を説明する。
【0066】
さらなる例として、ニューロンモデル222の幾何学的形状は、典型的には多数(例えば数百)のコンパートメントへと分割される。VTA予測機構224は、電界モデル22
0のFEMメッシュ内にニューロン/軸索モデル222の様々なコンパートメントを同時登録することができる。この同時登録により、複雑な神経の幾何学的形状に沿った印加電界からの細胞外電位の計算が可能となる。細胞外電位が、電極に対する個々の神経の位置について、適用された刺激の際の時間の関数として個々のニューロンコンパートメントごとに決定された後、ニューロン/軸索モデル222を使用して、適用された刺激が活動電位を引き起こす神経閾値を越えたかどうかを試験することが可能である。
【0067】
別の例として、ニューロン(例えば、DTI由来の導電率データから決定されるような位置にあるもの)がどのような挙動を示すかをシミュレートするニューロン/軸索モデル222を使用して、そのような伝播する活動電位をもたらすことになる電界の2階差分の閾値を計算することができる。(電界モデル220によって表わされるような)電界の刺激作用は、ニューロン/軸索モデルのニューロンに適用されて閾値が規定される。次いでこの閾値を使用して、図2に関して上記に議論されたのと同様に、不均一な導電率の組織における設計VTAの境界を規定することが可能である。
【0068】
電極構造検索218は、上述のように、予め規定された値の範囲で電極の高さおよび直径を変化させることができる。対応する設計VTAは、パラメータ値の範囲に関して決定可能である。当業者であれば、設計システムの計算量を縮小するために電極構造検索218またはパラメータ化空間202にプログラムすることが可能な様々な制約条件を十分に理解するであろう。例えば、直径対高さ(アスペクト)比を所定値より低く(例えば、d/h>1に)とどめるように制約することが望ましい場合があり、該所定値はさらに標的VTA206の形状および体積によって様々であってよい。当業者であれば、適切なVTAアスペクト比を確立して最適化に適宜制約を加えることが可能なように、標的VTA206の形状および大きさを定量する様々な方法を、十分に理解するであろう。
【0069】
最適化方法214はさらに、標的VTA206に関して検索空間内の設計VTA216のうち少なくともいくつかを評価するために使用される1つ以上のスコア化機能226を備えることもできる。最適化方法の異なる検索構成要素が同一のスコア化機能を利用してもよいし、異なる検索のために異なるスコア化機能が利用されてもよい。一例として、各々の設計VTA(電極構造検索218の反復に相当する)は、次の方程式すなわち:
スコア=(VTA標的内/VTA標的)*(1−VTA標的外/X体積) 方程式3
(上記式中:VTA標的内は、標的VTA206の内部に存在する設計VTA216の部分に相当し、
VTA標的外は、標的VTA206の外側に存在するVTA216の部分に相当し、
X体積は、標的VTAの外側へ広がった刺激に対するペナルティを規定する)に従ってスコア化可能である。最も高いスコアを得る電極設計VTAは、刺激VTAと標的VTAとの間で最大の体積の重なりを示すと同時に、標的VTAの外側に広がったVTAに対するペナルティを提供することになろう。実際には、上記のスコア化方程式(およびその他のスコア化機能)の可変要素は、X体積パラメータについて適正値を1つに絞り込むために使用可能である。
【0070】
電極構造検索218の一部として、1つ以上の電極刺激パラメータ210が所与の電極構造設計について調節されて、設計VTAが標的VTA206の端またはその付近に及ぶようになっていてもよい。別例として、電極構造検索218が1つ以上の電極構造パラメータを繰り返し調節する一方、電極刺激パラメータは一定のままで、繰り返しごとに新しい設計VTA216が生じてもよい。当業者であれば、パラメータ化空間全体またはそのサブセットに関して設計VTA216を生成するために利用可能な様々な手法を十分に認識するであろう。当業者は、最適化プロセスを促進するようにパラメータ化空間を制約するために使用可能な手法もさらに認識するであろう。
【0071】
電極構造検索218の結果は1つ以上の電極設計204を提供することができる。例えば、電極構造検索218は、標的VTA206に最も良く適合するそれぞれの設計VTAをもたらす複数の電極設計(例えば、電極構造パラメータおよび電極刺激パラメータが規定されているもの)を提供することができる。
【0072】
例証として、図9、10および11はそれぞれ、異なる刺激パラメータについて所与の電極構造(例えば電極構造パラメータ208によって規定されたもの)304の電極接点に関して生じた例示の設計VTAを含む画像312、314および316を示している。各図9、10および11において、同一の参照番号は図8に関して導入されたのと同一の構造部分を指すために使用されている。それぞれの接点において生成されたVTAは、ある量のVTA標的内およびある量のVTA標的外をもたらし、これらのVTA標的内およびVTA標的外はいずれも刺激パラメータの設定および電極接点の幾何学的形状の関数として変化する。
【0073】
図9では、画像312は、それぞれの接点において約−2Vの刺激電圧について構築された設計VTA320を含んでいる。図10では、画像314は、それぞれの接点における約−2.5Vの刺激電圧についての設計VTA322を含んでいる。図11では、画像316は、それぞれの接点における約−3Vの刺激電圧についての設計VTA324を含んでいる。
【0074】
図8、9、10および11では、説明を簡潔にするために、かつ比較を目的として、電極の幾何学的形状が不変であるものと仮定されている。上記のスコア化基準の適用によって、図10の例は最も高いスコアを有し、したがって、図7の電極設計に関する所与のセットの電極構造パラメータ208に関連した電気刺激パラメータ210を定めるために利用可能である。当然ながら、電極構造検索218の一部として4つ以上の異なる刺激パラメータが評価かつスコア化されてもよい(かつ一般にはそのようにされることになる)。
【0075】
図7に戻って参照すると、ここでも電極位置/軌道パラメータ212が電極構造検索218および接点間隔検索232(実行される場合)に関連した電極設計の最適化の際に固定されたままであってよいことが分かる。所与の神経核への電極の移植のための外科的な軌道は比較的標準化されている。一例として、STNのDBSのための一般的な軌道は軸平面から上におよそ65度であり、矢状面からおよそ10度外れる。別の例として、GPiのDBSのための一般的な軌道は軸平面から上におよそ70度であり、矢状面からおよそ5度外れる。しかしながら、個々の患者において使用される具体的な軌道は、主要な血管、静脈溝、および脳室を回避するために術前の撮像データに基づいて選択される。
【0076】
このように電極/位置および軌道パラメータ212は、所与の神経核について、接点の位置を該神経核の解剖学的中心として(主要な血管、静脈溝、および脳室を回避するために調節された)標準的な電極軌道に設定可能である。該パラメータ値は、上記に記載されるように、電極構造検索218の際に固定されたままであってよい。1つ以上の電極設計のサブセットが標的VTAについて決定された後、最適化方法214は、外科手術上の変動性(例えば、電極の外科的な配置に関係するもの)および解剖学的な変動性(例えば、解剖学的モデルおよび電気的モデルの決定のための撮像技術に関係するもの)に適応するために、電極構造パラメータおよび刺激パラメータを変更することができる。
【0077】
最適化方法214はさらに、変動性調整要素230を備えることができる。該調整要素230は、検索空間の一部を絞り込み、1つ以上の電極設計の有効性を再評価して臨床的に予想される変動性を説明することができる。臨床上の変動性の1つの原因は電極配置の定位的精度である。例えば、DBS電極のような多くの種類の電極を移植する場合には、
三次元空間において全方向におよそ1mmの不確実性が存在することが分かっている。したがって、変動性調整要素230は、複数の優良な電極設計204それぞれについて、例えば三次元空間におけるおよそ1mmの不確実性を反映するように電極位置/軌道パラメータ212を調節することなどによって、電極構造パラメータを再評価することができる。
【0078】
例として、標的VTA206に関する複数(例えば2つ以上、例えば5つ)の上位スコアの電極設計204が、スコア化を含む詳しい分析に供されてもよい。例えば、電極位置および軌道が、背側/腹側、前方/後方、および内側/外側の方向に(例えば標的VTAの幾何学的な中心に対して)漸増的に調整されて、得られた設計VTA216が準最適な電極配置を与えるスコアを得てもよい。電極位置パラメータは、例えば、明らかにされた変動の量と同じかそれよりも小さい予め決められた間隔で調整可能である。
【0079】
3Dの解剖学的領域における電極の外科手術上の軌道も、例えば軸平面に対してある範囲(例えば±5度)にわたって複数の間隔で、かつ矢状面に対してある範囲(例えば±5度)にわたって同様の間隔で、変更可能である。このように最終候補のDBS電極設計204はそれぞれ、(位置および軌道における変動に適応するための)漸増的な調整から生じたそれぞれの関連する設計VTA216について複数のスコアを割り当てられることになる。再評価を受けている、漸増的に調整されたそれぞれの電極設計204についての一連のVTAスコアは、各設計についての集合的な合計スコアを提供するために集められてもよい。各電極設計204についての平均VTAスコアはさらに平均されてもよく、最高スコアの電極設計は、所与の標的神経核のための最適なDBS電極接点を表わすものとして選択されうる。同一のスコア化機能226(例えば方程式3)が、電極構造検索218によって使用されるようにして変動性調整要素230によって利用されてもよい。代替例として、異なるスコア化機能を、例えば電極/軌道パラメータ212における変動性の違いに従って違うかたちで重み付けすること(例えば、変動性の増大につれて高いペナルティを課すこと)によって、利用することも考えられる。
【0080】
例を挙げると、既存の神経刺激デバイスは、電流ステアリング能を装備している(例えば、8個または16個の独立電源を有する移植式パルス発生器)。神経刺激に電流ステアリング技術が存在することは、2つ(またはそれ以上)の接点が標的VTA内部に位置しているがどちらも刺激を近隣の副作用領域へ広げることなく十分に標的VTAを刺激する配置にはない状況では、魅力的な動作モードになる。可能な解決法は、恐らくは不均等な刺激振幅を用いて、2つの接点を通じた刺激のバランスをとり、標的VTAが最大限に刺激されるようにすることである。
【0081】
最適化方法214はさらに、標的VTA206に関して設計VTA適用範囲をさらに最大限にする接点間隔を規定するために、接点間隔検索232を使用することもできる。電流ステアリング分析に基づけば、電極シャフトの軌道に沿った、VTA適用範囲を最大限にする接点間隔が存在する。最適化方法214は、空間的かつ/または時間的に相互作用しうる電界を供給するために2以上の電極接点が活性化される状況などにおいて、接点間隔検索232を使用することができる。一例として、最適化方法214は、上位スコアの電極設計が標的VTA206に関して最低限度スコアを満たさない場合などに、電流ステアリングの影響を評価するために接点間隔検索232を起動することができる。
【0082】
一例として、接点間隔検索232は、複合電極から生成された空間的かつ/または時間的に重なり合う電界に従ってパラメータ化空間202を検索することができる。接点間隔検索232は、独立に制御可能な電源を備えた複数の接点を有しているいずれの設計または一連の電極設計が標的VTAに最も良く適合するかを決定するために、得られる設計VTAをスコア化することができる。注目すべきことは、電極構造検索218は、接点間隔
検索232の一部として、または接点間隔検索232と併用して実行されうることである。その結果、電極構造検索218と接点間隔検索232との組合せを使用して、電極シャフトの軌道に沿った最大のVTA適用範囲を与えることになる他の電極構造パラメータ(例えば各接点の高さおよび直径)208と併せた接点間隔を同定することができる。したがって、接点間隔検索232は、より精密に標的VTA206に適合する設計VTA216を提供する電極設計に関する間隔パラメータを決定するために、電極設計204における1以上の電極対の間の間隔を調整するために利用することができる。
【0083】
最適化方法214は、電流ステアリング接点を用いて達成可能な付加的VTA適用範囲に関して電極軌道変動性および電極位置変動性の影響を評価することができる。接点間隔検索232は、それぞれの電界の間隔および電荷分布に従って重なり合うことが可能な2つ以上の電界分布を表わす電界モデル220をもたらすことができる。電極接点の間の間隔は、電極構造パラメータ208において規定された適切な間隔パラメータによってパラメータ化空間202の中で規定可能である。当業者であれば、本明細書中に含まれた教示に基づいて多重接点電極のための適切な電界モデル220を構築する方法を理解するであろう。
【0084】
変動性調整230も、単一接点の方法論に関して記載されたのと同じように、接点間隔検索232および得られる多重接点電極設計204と併せて利用可能である。したがって変動性調整要素は、(例えば得られた電極設計204の電極構造パラメータ208によって規定されるような)決定された最適な接点設計および接点間隔と共に使用されるべき、理論上最適な軌道を同定することができる。
【0085】
前述を考慮すると、このように設計システム200は、標的神経核(例えばSTNまたはGPi)の解剖学的および電気的制約に合わせて特化された神経核特異的な単一接点電極設計または多重接点設計を提供することができることが認識されよう。電極の配置および軌道における潜在的な変動性をさらに明らかにすることによって、そのような電極設計は、外科手術上の配置の変動性に対する高い対応力を与えると同時に標的VTAのためのVTA適用範囲も最大化するはずである。
【0086】
本明細書中に記載されるように、結果として得られる、電極設計についての刺激パラメータを使用して、構造パラメータに従って構築された電極に刺激を加えるためにIPGまたはその他の刺激デバイスをプログラムし、その結果として標的VTAとほぼ適合する神経刺激を達成することができる。
【0087】
当業者であれば、このように設計システム200が標的神経核(例えばSTNまたはGPi)の解剖学的および電気的制約に合わせて特化されたVTA特異的な単一接点電極設計または多重接点設計を提供することができることを、さらに認識するであろう。患者特異的な標的VTAのための電極を設計する方法に関するさらなる情報は、上記において組み込まれた米国特許出願第11/606,260号明細書に開示されている。電極の配置および軌道における潜在的な変動性を明らかにすることによっても、そのような電極設計は、外科手術上の配置の変動性に対する高い対応力を与えると同時に標的VTAのVTA適用範囲も最大化するはずである。本明細書中に記載されるように、結果として得られる、電極設計204についての刺激パラメータを使用して、構造パラメータに従って構築された電極に刺激を加えるためにIPGまたはその他の刺激デバイスをプログラムし、その結果として標的VTA206とほぼ適合する神経刺激を達成することができる。
【0088】
例を挙げると、刺激パラメータを含む、電極設計204は、インタフェース236経由でIPG238に伝達可能である。例えば、インタフェース236は物理的通信インタフェース(例えば、電気伝導性リンクもしくは光リンクを含む)として、または無線通信イ
ンタフェース(例えばブルートゥース、もしくは電磁結合)として実装可能である。IPG238は、IPGを移植する前または移植後にインタフェース236経由でプログラム可能である。当業者には、市販の方法および独自の方法を伴う場合のある、刺激パラメータを用いたIPG238のプログラミングに利用することができる様々な種類の接続プロトコルおよび通信プロトコルが理解されるであろう。加えて、システム200はIPGをプログラムすることができる2以上のインタフェースを有してもよく、そのようなインタフェースのうち選択された1つは、IPGの種類および該IPGがin vivoで移植済みであるかどうかに依存して様々であってよい。
【0089】
前述を考慮すると、接点の数および間隔、電気刺激パラメータおよびその他のような他の設計パラメータを調整することにより、VTAの形状のさらなる変形を達成することができることが認識されよう。当業者には、本明細書中で記載された方法およびシステムを使用して、所与の標的神経核についてのVTAの広がりを最大化するように電極設計204を特化することができることが認識されるであろう。先述の手法は電気刺激に関して記載されているが、当業者には、該手法が神経系における組織の局所的な化学的刺激にも等しく適用可能であることが理解されるであろう。
【0090】
さらなる例を挙げると、図12、13および14は、特定の神経核、すなわち視床の腹側中間神経核(VIM)478についてのVTAに対する電極の幾何学的形状の影響を実証している。例えば、図12は、視床484に挿入された単一接点482を有する電極480を示している。図12の例では、電極はVIM478の解剖学的中心に配置されている。VIMは、およそ8mm(背‐腹)×およそ3mm(前‐後)×およそ12mm(内‐外)の細長い神経核である。
【0091】
図13は、第1の電極設計パラメータを有する電極482についてのVTA480を示している。図13の例では、電極482は、−1Vおよび90μsパルス幅、130Hzの刺激設定とともに、標準的な電極接点の幾何学的形状(例えば、高さおよそ1.5mm、直径およそ1.27mmを有し、表面積〜6mmを呈するもの)に相当する接点484を備えている。電極接点484のアスペクト比(d/h)はおよそ0.4である。図19の電極設計は、VIM478によって規定された標的VTAを外側へと広げる前のVIM478のおよそ26%を満たすVTA480を生じる。
【0092】
図14は、例えば本発明の態様によって決定されうるような、図13の電極482のものとは異なる第2の(特化された)電極設計パラメータを有する電極492についてのVTA490を示している。図20の例では、電極は同じくVIMの解剖学的中心に配置された接点494を備えている。電極接点494は、直径がおよそ0.75mmおよび高さがおよそ2.54mm高であっておよそ0.4のアスペクト比を提供するように設計されており、図13の例における例示の電極よりもVIM478のアスペクト比により精密に一致する。比較のために、電極接点494は図13の例とほぼ同じ接点表面積を有し、同じ刺激(刺激電圧が約−1Vおよび90μsのパルス幅)の下での対応する設計VTA490を示している。図14の条件の設計は、図13の例におけるVTA480と比較して約28%の増加である、体積の33%を満たすVTAを生じることにより、VIM478のより十分な刺激をもたらす。加えて、この特化型電極設計492は、VIMによって規定された標的VTAの境界の外側への広がりは増大することなく、およそ7%大きい刺激をVIM478にもたらすことができる。
【0093】
図15は、1人の患者における1つの電極接点での刺激試験に由来する例示データを示しており(合計では163種の刺激パラメータ設定が6人の患者にわたって試験された)、該データは例えば、複数の患者について得られた類似データに基づいたVTAデータ構造の構築に使用するための患者データを提供するために使用することができる。該DBS
データは、130Hzの固定刺激周波数および0.06msの固定刺激パルス幅を用いて得られた。
【0094】
図15(A)は、臨床用インピーダンス測定デバイス(RA‐1型、ニューロカイネティクス(Neuro Kinetics))を用いて得られた硬直計測値の定量的データを示している。図15(A)では、機械インピーダンスの値がより高いほどより強い硬直を表す。
【0095】
図15(B)は、ソリッドステートジャイロスコープ(G‐1型、ニューロカイネティクス)を用いて得られた指タップ運動緩慢計測値の例示データを示している。図15(B)では、より高い値ほどより低い運動緩慢を表わす。
【0096】
図15(C)は、患者によって報告されたとおりの、10ポイントスケールで評価された錯感覚データを表している。図15(D),(E)は、1から−1までの標準化スケールに再スコア化された、硬直データ、運動緩慢データをそれぞれ表している。0を上回るスコアは改善を示し、0を下回るスコアは、DBSなし(OFF DBS)のベースラインに対して悪化していることを示す。陰をつけた部分は、錯感覚閾値を上回る刺激を示す。
【0097】
図16(図16(A)〜(K)からなる)は、本発明の実施形態に従った標的VTAの決定に関して使用することができる患者特異的な刺激モデルの例を示している。図16(A)は、3D神経核(例えば視床およびSTN)が各対象者の術前MRIに当てはめられたことを例証している。図16(B)は、移植されたDBS電極の位置を同定するために術後MRIとともに同時登録済みの術前MRIを示している。図16(C)は、試験された各々の脳半球(n=7)について、適切な神経核に関して規定された電極の位置を図示している。
【0098】
図16(D)は、単一アトラス脳の状況に転換された各患者特異的なモデルを例証している。該アトラス脳は解剖学的画像データおよび拡散テンソル画像データをいずれも含んでおり、刺激プロトコルからの神経活性化を予測するために使用された。
【0099】
図16(E)は、異方性比率を示している色を伴ったDTIに基づいた導電率テンソルにより、組織の電気的性質が描写されたことを図示している。図16(F)は、固有のDBS電極位置を有する各患者特異的なモデルを示している。図16(G)は、各々の実験的に試された刺激パラメータ設定が固有の電圧分布をもたらし、該電圧分布は刺激パラメータによって様々であることを例証している。図16(H)は、各々の試験された設定(n=163)による理論上の組織活性化体積(VTA)が計算されたことを例証している。
【0100】
図16(I)には硬直について、図16(J)には運動緩慢について、図16(K)には錯感覚について示されるように、各VTAに臨床スコアが割り当てられた。当業者には、各VTAに、患者の状態の定量的かつ/または定性的な評価などの他の臨床上適切なスコアをさらに(または代替として)提供することができることが十分に理解されるであろう。
【0101】
図17(図17(A)〜(D)からなる)は、様々な電極配置および刺激パラメータについての臨床的転帰の例を示している。図17(A)は、アトラス脳の状況においてすべての患者(n=7の脳半球)についてのDBS電極の位置を示している。図17(B)は、互いに重ね合わせて示されたすべての電極位置および刺激プロトコルについて生成されたVTAを示している(n=163のVTA)。各VTAは、硬直、運動緩慢およびパラテジア(parathesia)について割り当てられた臨床スコアを有していた。
【0102】
図17(C)は、硬直の改善に関連した合計の活性化体積を示している。図17(D)は、運動緩慢の改善に関連した合計の活性化体積を示している。図17(C),(D)の左側のカラムは、硬直または運動緩慢の改善を伴った全てのVTAを示す一方、図17(C),(D)の右側のカラムは、さらに錯感覚を生成しなかった刺激設定に対応するVTAのみを示している。
【0103】
図18(図18(A)〜(F)からなる)は、確率論的な刺激標的VTAを示している。それぞれの標的VTAには、硬直および運動緩慢、ならびにその他の病態についての臨床スコアを割り当てることができる。各VTAは、DBSを用いて評価された脳領域全体を包含する0.5mmの立方体の3Dグリッド上でボクセル化された。その後、統計学的に明らかにされた臨床的改善レベルが、各ボクセルについて、そのボクセルと重なるVTAに基づいて規定された。図18(A)〜(F)では、青色の体積は、硬直の標準化された臨床スコアにおける少なくとも50%(図18(A))または75%(図18(B))の改善に関係している刺激領域を示す。ピンク色の体積は、運動緩慢における50%(図18(C))または75%(図18(D))の改善を示す。図18(E),(F)は、図18(A),(C)について決定されたそれぞれの体積ならびに図18(B),(D)由来の体積を集合することにより、組み合わされた硬直および運動緩慢の体積を示している。
【0104】
図19は、VTAデータ構造に投入するために使用することができる情報の種類の例を示す表である。図19の表は6人の患者かつ163個のVTAについての患者データを示しているが、当然ながらVTAデータ構造はより大きな個体数に基づいて生成可能である(典型的にはより大きな個体数に基づいて生成される)。しかしながら、統計的データベースを提供するために6人以下でも十分な場合もある。
【0105】
図19では、各患者について、1次症状の表示が含まれている。さらに含まれるのは、患者の年齢、性別、手術後の年数、刺激を受けた脳半球である。各々のVTAのための複数の接点それぞれについてのインピーダンスおよび電圧の範囲などを含む、電極パラメータおよび刺激パラメータも提供されている。図19の例示の表では、電極は4個の接点を備えているが、4個より多数の接点が使用されてもよいし少数の接点が使用されてもよい。加えて、それぞれの患者が異なる電極構成配置で治療されることも考えられる。
【0106】
表示されるように、データは、例えば本明細書に記載された電極配置および刺激パラメータに従って、各患者についていくつかのVTAについて得られる。1つ以上の臨床スコア(図示せず)も、VTAデータ構造における各患者に関する各々のVTAに関連付けられる。例えば、各VTAには、例えば硬直について、運動緩慢について、また錯感覚について、臨床スコアが割り当てられてもよい(例えば、図16(I),(J),(K)を参照のこと)。当業者には、各VTAに関する上記およびその他の患者の状態をスコア化するために使用可能な様々な臨床評定システム(定性的かつ/または定量的な測定基準を含む)が十分に理解されるであろう。
【0107】
前述を考慮すると、図20は、コンピュータ実行可能命令の格納かつ/または実行により本発明の1つ以上の実施形態を実行するために使用することができるコンピュータシステム500の一例を図示している。コンピュータシステム500は、1または複数の汎用ネットワークコンピュータシステム、埋込み型コンピュータシステム、ルータ、スイッチ、サーバ装置、クライアントデバイス、様々な中間デバイス/中間ノードまたはスタンドアロン型コンピュータシステムにおいて実装可能である。加えて、コンピュータシステム500は、十分な処理能力を備えていれば、様々なモバイルクライアントに、例えば携帯情報端末(PDA)、ラップトップコンピュータ、ページャーなどに実装可能である。
【0108】
コンピュータシステム500は、プロセシングユニット501、システムメモリ502、および該システムメモリを含む様々なシステム構成要素をプロセシングユニット501に連結するシステムバス503を備えている。デュアルマイクロプロセッサおよび他のマルチプロセッサのアーキテクチャもプロセシングユニット501として使用可能である。システムバス503は、任意の様々なバス方式を使用するメモリバスまたはメモリコントローラ、周辺バス、およびローカルバスを含むいくつかの種類のバス構造のいずれかであってよい。システムメモリ502は読み取り専用メモリ(ROM)504およびランダムアクセスメモリ(RAM)505を備えている。基本入出力システム(BIOS)506は、コンピュータシステム500内部の要素中の情報を転送するのを支援する基本ルーチンを含んでいるROM504の中にあってよい。
【0109】
コンピュータシステム500は、ハードディスクドライブ507、例えば取外し可能ディスク509を読み書きするための磁気ディスクドライブ508、および例えばCD‐ROMディスク511を読むための、またはその他の光メディアを読み書きするための光ディスクドライブ510を備えることができる。ハードディスクドライブ507、磁気ディスクドライブ508、および光ディスクドライブ510は、それぞれハードディスクドライブインタフェース512、磁気ディスクドライブインタフェース513、および光ドライブインタフェース514によってシステムバス503に接続される。該ドライブおよびその関連するコンピュータ可読メディアは、コンピュータシステム500に、データ、データ構造、およびコンピュータ実行可能命令の、不揮発性記憶装置を提供する。上記のコンピュータ可読メディアの説明は、ハードディスク、取外し可能な磁気ディスクおよびCDを指すが、様々な形式のコンピュータによって判読可能な他の種類のメディア、例えば磁気カセット、フラッシュメモリカード、デジタル映像ディスクなどが、操作環境中で使用されてもよく;さらに、任意のそのようなメディアが本発明の1つ以上の部分を実装するためのコンピュータ実行可能命令を含んでいてもよい。
【0110】
いくつかのプログラムモジュール、例えばオペレーティングシステム515、1つ以上のアプリケーションプログラム516、その他のプログラムモジュール517、およびプログラムデータ518などがドライブおよびRAM505に格納されてもよい。アプリケーションプログラムおよびプログラムデータは、本明細書に図示および説明されているように、標的VTAを決定し、かつ所与の患者における該標的VTAの刺激のための設計パラメータを決定するようにプログラムされた機能および方法を備えることができる。
【0111】
ユーザは、1つ以上の入力デバイス520、例えばポインティングデバイス(例えばマウス、タッチスクリーン)、キーボード、マイクロホン、ジョイスティック、ゲームパッド、スキャナなどを通してコンピュータシステム500に命令および情報を入力することができる。例えば、ユーザは、ドメインモデルを編集または変更するために入力デバイス520を使用することができる。加えて、または別例として、本明細書中に記載されるように、ユーザは、入力デバイスを介してユーザインタフェースにアクセスし、所与のドメインモデルおよび関連するデータ管理ツールの1つ以上のインスタンスを作成することができる。上記およびその他の入力デバイス520は、システムバスに連結された対応するポートインタフェース522を介してプロセシングユニット501に接続されることが多いが、他のインタフェース、例えば並列ポート、シリアルポート、またはユニバーサルシリアルバス(USB)によっても接続可能である。1つ以上の出力デバイス524(例えばディスプレイ、モニタ、プリンタ、プロジェクタ、またはその他の種類の展示デバイス)も、ビデオアダプタのようなインタフェース526を介してシステムバス503に接続される。
【0112】
コンピュータシステム500は、リモートコンピュータ528のような1つ以上のリモ
ートコンピュータへの論理結合を使用して、ネットワーク化された環境中で作動可能である。リモートコンピュータ528は、ワークステーション、コンピュータシステム、ルータ、ピアデバイス、またはその他一般的なネットワークノードであってよく、典型的にはコンピュータシステム500に関して記載された多数または全ての要素を備えている。530で概略的に示された論理結合には、ローカルエリアネットワーク(LAN)および広域ネットワーク(WAN)を挙げることができる。
【0113】
LANネットワーキング環境で使用される場合、コンピュータシステム500はネットワークインタフェースまたはアダプタ532によってローカルネットワークに接続可能である。WANネットワーキング環境で使用される場合、コンピュータシステム500はモデムを含んでもよいし、LAN上の通信サーバに接続されてもよい。モデム(内部モデムでも外部モデムでもよい)は適切なポートインタフェース経由でシステムバス503に接続可能である。ネットワーク化された環境では、コンピュータシステム500またはその一部に関連して示されたアプリケーションプログラム516またはプログラムデータ518は、遠隔メモリ格納装置540に格納されてもよい。
【0114】
上述してきたのは本発明の実施例および実施形態である。当然のことながら、上述のものでは、本発明について説明する目的のための構成要素や方法論のあらゆる考えられる組合せについて記述することは不可能であるが、当業者であれば、本発明の多数のさらなる組合せおよび置換が可能であることを認識するであろう。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲内にある全ての代替形態、変更形態および変形形態を包含することが意図されている。特許請求の範囲においては、別途記載のないかぎり、冠詞「1つの(a)」は「1つまたは2以上」を意味するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより実行される方法であって、
複数の患者の分析に由来する組織活性化体積(VTA)データ構造をメモリに格納するステップと、
所与の患者について、患者の状態の判定を表している患者データを受信するステップと、
所与の患者について所望の治療効果を達成するための標的VTAを決定するために、該患者データに関連してVTAデータ構造を評価するステップと
を備える方法。
【請求項2】
標的VTAは、患者についての三次元座標系において規定される境界を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標的VTAにほぼ適合する設計VTAを提供することが可能な構造パラメータおよび刺激パラメータのうち少なくとも一方を決定するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
構造パラメータは電極設計パラメータのデータを含んでなり、刺激パラメータは電気刺激パラメータのデータを含んでなる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
電極設計パラメータのデータに従って電極設計を選択するステップをさらに備える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
移植された電極構造物にそれぞれの電気刺激データを適用することにより所与の患者についての標的VTAをほぼ達成する組織の刺激がもたらされるように、選択された電極設計についての電気刺激パラメータのデータに従って移植式パルス発生器をプログラムするステップをさらに備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
所望の治療効果を達成するための標的VTAに最も良く適合する設計VTAを決定するために構造パラメータおよび刺激パラメータのうち少なくとも一方を調整することによって複数のVTAを検索するステップをさらに備える、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
設計VTA候補としての複数のVTAそれぞれについて、各々の設計VTA候補と標的VTAとの間で重複する量を特徴解析するスコアを提供するためにスコア化を行うステップをさらに備える、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
標的VTAは患者についての三次元座標系において規定される境界を有することを特徴とし、スコア化、該方法は、標的VTAの該境界の外側に及ぶ設計組織活性化体積の広がりに従ってスコア化にペナルティを適用するステップをさらに備える、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
スコアは、
スコア=(VTA標的内/VTA標的)*(1−VTA標的外/X体積)
(上記式中:VTA標的内は、標的VTAの内部に存在する設計VTAの部分に相当し、
VTA標的外は、標的VTAの外側に存在するVTAの部分に相当し、
X体積は、標的VTAの外側へ広がった刺激に対するペナルティを規定する)
に従って決定されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
VTAデータ構造は複数の統計アトラス脳をさらに含んでなり、複数の統計アトラス脳は各々が複数の患者について得られた複数のVTAについて治療効果を統計学的に特徴解析するデータを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
VTAデータ構造内のデータは、複数のVTAそれぞれに関連する刺激パラメータをさらに含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
VTAデータ構造内のデータは、複数のVTAそれぞれに関連する少なくとも1つの臨床スコアをさらに含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
各々の統計アトラス脳は、複数のVTAそれぞれについて刺激の提供に伴う所望の治療効果の可能性を同定するデータの統計学的表示をさらに含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
各々の統計アトラス脳は、各VTAそれぞれについて刺激の提供に伴う負または望ましくない治療効果に相当する統計学的情報をさらに含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
所与の患者の対応する解剖学的領域に当てはめるために設計VTAを変形するステップと、設計VTAに対応する患者特異的データを提供するために、変形された設計VTAを表示するデータを格納するステップとをさらに備える、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1人の追加の患者についての臨床データの獲得に応じてVTAデータ構造を更新するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
所与の患者について所望の治療効果を達成するために組織活性化体積を決定するためのシステムであって、
メモリに格納された組織活性化体積(VTA)データ構造であって、複数の患者について得られた解剖学的および電気的な解析データに由来する、VTAデータ構造と、
メモリに格納された患者データであって、所与の患者についての患者の状態の判定を表している、患者データと、
プロセッサであって、
所与の患者について所望の治療効果を達成するための標的VTAを決定するために、患者データに関してVTAデータ構造を評価する命令、ならびに
所与の患者について標的VTAにほぼ適合する設計VTAを提供することが可能な構造パラメータおよび刺激パラメータのうち少なくとも一方を決定する命令
を実行するようにプログラムされたプロセッサと
を含んでなるシステム。
【請求項19】
システムを刺激デバイスに通信で連結するように構成されたインタフェースをさらに含んでなることと、プロセッサは、所与の患者について所望の治療効果を達成するために刺激パラメータに従って刺激デバイスをプログラムするようにプログラムされていることとを特徴とする、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
プロセッサは、所望の治療効果を達成するための標的VTAに最も良く適合する設計VTAを決定するために構造パラメータおよび刺激パラメータのうち少なくとも一方を調整することによって、VTAデータ構造内の複数のVTAを検索するようにプログラムされた最適化アルゴリズムを使用するようにプログラムされている、請求項18に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図19】
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【図20】
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【図3】
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【図4】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2012−510877(P2012−510877A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539747(P2011−539747)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/066821
【国際公開番号】WO2010/065888
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(500064708)ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション (12)
【Fターム(参考)】