説明

脳卒中の血栓溶解療法の治療可能時間の拡張のためのG−CSFの使用

本発明は、急性脳卒中のその後の血栓溶解処置の治療可能時間を拡張し、それにより、血栓溶解の出血性副作用および他の重篤な有害副作用を避けるために血栓溶解処置の前に必要な診断検査を可能とするG−CSFおよびその誘導体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2006年2月17日付け出願のUSSN61/153,079号公報の優先権を主張するものであり、引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【0002】
発明の分野
本発明は、急性脳卒中後の梗塞周縁部における神経細胞死の予防における顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)ポリペプチドの使用に関する。より詳しくは、本発明は、後の血栓溶解療法と併用したG−CSFポリペプチドの先行投与によって急性脳卒中後の血栓溶解処置の治療可能時間(therapeutic window)を拡張する方法を提供する。
発明の背景
【0003】
顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)は、最初は、好中性顆粒球の生成を担う骨髄細胞系列の造血因子として同定された。最近になって、中枢神経系におけるこの因子の存在および活性が確認された。G−CSFおよびその受容体は、脳虚血後にアップレギュレートされ、G−CSFは、ニューロンに対して抗アポトーシス作用を及ぼし、無傷の血液脳関門を通過し、実験的脳卒中モデルでは梗塞サイズを縮小する(Schneider et al., J Clin Invest. 2005, 115: 2083、 Zhao et al., Exp Neurol. 2007, 204: 569、 Schabitz et al., Stroke 2003, 34: 745、 Six et al., Eur J Pharmacol. 2003, 458: 327、 Shyu et al., Circulation 2004, 110: 1847、 Gibson et al., 2005, 25: 431 、 Komine-Kobayashi et al., J Cereb Blood Flow Metab. 2006, 26: 402、 Schneider et al., BMC Biol. 2006, 4: 36)。これが急性虚血性脳卒中患者における複数の小規模な臨床試験につながった(Schabitz et al., Stroke 2006, 37: 1654、 Schabitz et al., Trends Pharmacol Sci. 2007, 28: 157に概説される)。しかしながら、公開データのメタ分析は実験脳卒中モデルにおけるこの因子の有効性の幅広い根拠を裏付けているが(Minnerup et al., Stroke 2008, 39: 1856)、試験の大部分は一過性虚血モデルを使用して行われた。特に、塞栓モデルについては公開データが存在しない。
【0004】
組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rt−PA)を用いた血栓溶解は、現在に至るまで、依然として唯一の承認された急性脳卒中療法である。残念ながら、rt−PAの使用は比較的狭い治療可能時間に限定される。最近になって、有効性は、脳卒中症状の発症後4.5時間までであることが示されたが、有効性は経時的に急速に低下する(Hacke et al., Lancet 2004, 363: 768、 Hacke et al., N Engl J Med. 2008, 359: 1317)。治療効果が経時的に低下する生物学的な理由は、低潅流脳領域における虚血/低酸素状態の進行を伴う細胞生存力の低下の進行にあると見られている。これは、再潅流中のフリーラジカルの発生(すなわち、再潅流傷害)を伴う可能性がある。臨床的には、この概念は、MRIにおける潅流/拡散(PWI/DWI)不一致の存在によって、血栓溶解が治療可能時間の後半に有効であり得る患者が特定されるということを示唆するデータによって裏付けられている(Fisher et al. Cerebrovasc Dis. 2006, 21 Suppl 2:64)。
【0005】
血栓溶解の治療可能時間を拡張するための戦略は、PWI/DWI不一致領域として特定される、危険のある組織を保護することであり得る。この仮説の概念実証は、常圧高酸素処置(Henninger et al. J Cerb Blood Flow Metab. 2007, 27: 1632)および翼口蓋神経節の刺激(Henninger and Fisher Stroke 2007, 38: 2779)によって立証されている。
【発明の概要】
【0006】
脳卒中(stroke)によって起こる脳梗塞には、梗塞中心部(すでに不可逆的に損傷を受けている組織)および周縁部(危険があるが救うことができる組織)が含まれる。特に、組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)による血栓溶解は、急性虚血性脳卒中の効果的な処置として知られているが、それは療法が脳卒中発症後短期間(治療可能時間)内に開始される場合に限られている。救うことができる周縁部組織の体積は、脳虚血後最初の数時間以内に経時的に著しく減少し続ける。その後は、血栓溶解性再潅流の確立は、さらなる神経細胞死を予防し、臨床結果を改善するには効果はないか、あるいは有害でさえある。t−PAは脳卒中発症後最初の4.5時間、好ましくは3時間以内に投与しなければならないが、この期間は、医師によって合計6時間まで延長されることもある。
【0007】
このため、早期血栓溶解介入が通常望まれる。しかしながら、その一方で、血栓溶解介入には、脳卒中患者の臨床結果を悪化させる重篤な出血性副作用があることがある。従って、血栓溶解処置には、血栓溶解剤(thrombolytic agent)の投与前に、出血を排除するための神経画像検査および基本血液凝固パラメーターの評価が必要である。しかしながら、この間も梗塞周縁部での神経細胞死は続き、血栓溶解の治療可能時間が終了するかもしれない。
【0008】
脳卒中発症直後に周縁部における神経細胞死(「周縁部フリージング(penumbra freezing)」)を止めることができ、それによって、後の、必要で慎重な診断検査および処置決定を可能とする血栓溶解処置の治療可能時間を拡張することができる、方法または薬剤が必要である。
【0009】
本発明者らは、G−CSFを、脳卒中モデルにおいて投与した場合、周縁部領域を保護することができ、それによって、梗塞サイズのさらなる拡大を防ぐことができることを見出した。血栓溶解性再潅流の有益な効果に重要であるのは保護される周縁部組織の広さであることは当技術分野で十分受け入れられている。G−CSFは急性虚血性脳卒中患者において安全であり、少なくとも動物モデルにおいては、G−CSFが脳内出血を引き起こす可能性または全身出血の危険を増す可能性は示されていないため、G−CSFは、集中治療を開始してすぐに詳細にわたる事前診断検査を行わずに、準医療活動従事者または他の有資格医療従事者によって行われる入院または病院への搬送の前でも脳卒中患者に投与することができる。G−CSFは、例えば、t−PAによって、可能時間時間を延長する、また可能性としては血栓溶解後の結果を改善するために救急車内で投与可能な救急用薬剤と考えることができる。
【0010】
本発明は、急性脳卒中のその後の、必要な血栓溶解前診断検査を可能にする続血栓溶解処置の治療可能時間を拡張するためのG−CSFの使用に関する。
【0011】
一つの態様として、急性脳卒中患者を治療する方法であって、まずG−CSFを投与した後に診断検査を行い、該検査によって血栓溶解療法がその患者に適している否かの決定が可能であることから、さらに所望により、その診断検査の結果に基づいて、血栓溶解処置を行うことを含んでなる方法である。このような診断検査は、例えば、血栓溶解療法に禁忌である出血性脳卒中の排除であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】1回の血塊注射による塞栓性虚血誘導の24時間後の梗塞体積。TTC染色した切片から得られた浮腫補正体積を示す。ラットを、血塊注射(静脈内)の1時間後および血塊注射(腹腔内)の4時間後に各々120μg/kg体重でG−CSF処置を行った。G−CSF処置によって、ビヒクル群と比べて有意に小さい梗塞部となった(p<0.05)。
【図2】sMCAOモデルにおける拡散強調病巣の時空的進展。ラットにMCAの永久フィラメント閉塞を施し、拡散強調病巣の進展について閉塞後3時間測定した。G−CSFまたはビヒクル溶液を閉塞開始の60分後および4時間後に与えた。60分時点において画像取得前に60分の投与を開始した。CBF不足に統計的な群間または群内差異はなかった。CBFは、ビヒクル群では120分および180分を除く総ての時点においてADCより有意に大きかった。G−CSF群は、90分に開始したビヒクル群より有意に小さいADC体積を示した。G−CSF群では、最終梗塞体積もまた、ビヒクル群と比べて有意に小さかった(p=0.007)。平均+/−SEM、:p<0.05、PWI体積(A)、DWIおよび最終梗塞部(B)、絶対的不一致(C)、および相対的不一致(D)を示す。
【図3】様々な種のG−CSFペプチド配列(ヒト(配列番号6)、マウス(配列番号11)、ラット(配列番号12)、ネコ(配列番号13)、ウシ(配列番号14)、およびブタ(配列番号15))のアライメントによって、保存性の高い、また低いアミノ酸の位置を示す。進化的に保存性の高いアミノ酸は、該タンパク質の構造および機能に主として重要であると一般に考えられる。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明者らは、任意のさらなる療法、好ましくは血栓溶解性脳卒中療法(例えば、rt−PAを用いる)のために脳卒中処置において治療可能時間の拡張因子として理想的に適したG−CSFを作製する知見について記載する。
【0014】
これは血栓溶解性脳卒中療法の有用性を制限する主要な問題として(例えば、rt−PA療法は経時的に有効性が失われるために治療可能時間が限られている)、極めて有用な適用である。rt−PAは、臨床試験に基づけば、通常、脳卒中発症後最初の3〜4.5時間の間に投与されなければならない。医師によっては6時間までに投与される場合もある。状況の悪化を避けるため、個々の患者に関してrt−PAの出血性副作用の可能性を排除しなければならないので、この治療可能時間の中で安全な血栓溶解療法を可能とするのは難しい場合が多い。G−CSFは、出血性脳卒中を併発しないので、また、高用量であっても十分な耐用性があるので、G−CSFを脳梗塞の疑いの後に極めて速やかに投与することができる。
【0015】
本知見は、脳卒中の動物モデルである永久フィラメント閉塞において、G−CSFが進行中の虚血の存在下で安定な拡散強調脱落を維持するという事実に関連する。このような効果は、「周縁部フリージング」としても知られる。これは、閉塞した血管を再開放するために血栓溶解療法が適用できるまで脳組織に対する損傷を遅らせることができることを意味する。脳卒中からの完全な回復を可能とするのにG−CSFだけでは十分でない場合、本発明による予期されない知見は、最初の工程である被験体へのG−CSF投与と、後の工程である血栓溶解剤、例えば、rt−PAの投与とを含んでなる組合せまたは連続療法を可能とする。最初のG−CSF投与は、脳卒中発症後の最初の7日以内、好ましくは最初の24時間以内、より好ましくは最初の12時間以内に血栓溶解療法の開始を遅らせることを可能とする。これにより、脳卒中後または脳卒中の疑いの後に、安全かつ有効な付加的血栓溶解療法を保証するための患者のより密な診断検査が可能となる。このような初期のG−CSF投与と、延期された血栓溶解療法(例えば、rt−PA投与)との組合せの利点は、本発明者らの知る限り、これまでに開示されていない。
【0016】
予期されないことに、G−CSFは、血管が閉塞した際でさえ周縁部組織の保護に有効であった。
【0017】
本発明によれば、G−CSF投与は、脳卒中発症後最初の12時間、好ましくは最初の6時間、より好ましくは最初の3時間の間に開始される。G−CSFの好ましい使用は、24時間までの治療可能時間で、少なくとも10μg/kg体重、少なくとも90μg/kg体重、または少なくとも130μg/kg体重の用量で1〜24時間にわたり、静脈内(i.v.)または皮下(s.c.)に与えられるものであり得る。
【0018】
本発明によれば、G−CSFの投与が、血栓溶解剤の投与前に完了される場合、または血栓溶解剤の投与後も継続される場合のいずれも含まれる。さらに、G−CSFが1回だけ投与される場合も本発明の範囲内に含まれる。あるいは、G−CSFはまた、少なくとも二つの別の工程で投与されてもよい。
【0019】
好ましくは、フィルグラスチム(Filgrastim)などのヒト組換えG−CSFが本発明に従って用いられる。また、当業者に知られている機能的G−CSF誘導体も本発明により使用可能である。
【0020】
本発明による方法は、脳卒中に罹患しているかまたは脳卒中を疑う理由のある哺乳類、好ましくはヒトの療法に好適である。
【0021】
本発明の一つの態様として、(a)治療上有効な量で、被験体へ、G−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体の投与を開始する工程と、その後に(b)その被験体に血栓溶解剤を治療上有効な量で投与する工程を含んでなる、哺乳類被験体の脳卒中の処置方法が提供される。
【0022】
本発明の別の態様として、(a)被験体へ、G−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体を治療上有効な量で投与する工程と、その後に(b)その被験体に血栓溶解剤を治療上有効な量で投与する工程を含んでなる、哺乳類被験体の脳卒中の処置方法が提供される。
【0023】
哺乳類被験体はヒトであってもよい。
【0024】
本発明の一つの実施形態として、被験体が工程(a)の後、工程(b)の前に、工程(b)の間の出血性副作用または他の有害副作用の危険を排除するために診断検査を受ける上述の方法が提供される。
【0025】
上述の工程(b)の「血栓溶解剤」とは、フィブリン−血小板血塊を少なくとも部分的に溶解することができるいずれの薬剤も意味する。血栓溶解剤の例としては、ストレプトキナーゼ、プロウロキナーゼ、ウロキナーゼ、デスモテプラーゼ、および組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)が挙げられる。天然t−PAも使用可能であるが、組換えt−PA(rt−PA、例えば、アルテプラーゼ(Alteplase))を用いるのが好ましい。本発明はさらに、上記血栓溶解剤のハイブリッド、生理活性断片、または変異型も使用可能である。本明細書において「組織型プラスミノーゲン活性化因子」には、このようなハイブリッド、断片、および変異体、ならびに天然由来および組換え由来双方の組織型プラスミノーゲン活性化因子を含むものとする。
【0026】
本発明のさらなる実施形態として、工程(a)のG−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体の投与が脳卒中発症後の最初の6時間以内に開始され、および/または工程(b)の血栓溶解剤の投与を脳卒中発症後最初の24時間以内、または脳卒中発症後4.5時間〜24時間もしくは脳卒中後6時間〜24時間の期間に開始する、前述のような方法が提供される。
【0027】
本発明のさらなる実施形態として、工程(a)のG−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体が脳卒中発症後最初の6時間、最初の4.5時間、または最初の3時間以内に被験体に投与され、かつ/または工程(b)の血栓溶解剤の投与を脳卒中発症後最初の24時間以内、または4.5時間〜24時間もしくは脳卒中後6時間〜24時間の期間に開始する、前述のような方法が提供される。
【0028】
本発明の一つの実施形態として、工程(a)のG−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体の投与、投与の開始、または投与の終了と、工程(b)の血栓溶解剤の投与の開始との間に少なくとも0.5時間、少なくとも1.5時間、または少なくとも3時間の時間がある、上述の方法が提供される。好ましくは、この時間は血栓溶解療法の出血性副作用または他の有害副作用の危険を評価する被験体の診断検査に用いられる。
【0029】
本発明のさらなる態様として、急性脳卒中に罹患している哺乳類被験体の処置方法であって、最初のG−CSF投与または最初のG−CSF投与の開始と、その後の診断検査、この検査は被験体に対する血栓溶解療法の危険を評価することから、さらに所望により、その診断検査の結果に基づいて血栓溶解処置を含んでなる方法が提供される。このような診断検査は例えば、このような診断検査は、例えば、血栓溶解療法に禁忌である出血性脳卒中の排除であり得る。
【0030】
本発明の別の実施形態として、工程(a)のG−CSFが少なくとも10μg/kg体重、少なくとも90μg/kg体重または少なくとも130μg/kg体重の用量で静脈内または皮下投与される、上述の方法が提供される。
【0031】
本発明のさらなる態様として、急性脳卒中に罹患している哺乳類被験体を処置するための医薬組成物を製造するためのG−CSFまたはその機能的に活性な誘導体が提供され、ここでこの被験体は脳卒中発症後最初の6時間以内にまたは脳卒中発症後3〜6時間の期間にまたは脳卒中発症後4.5〜6時間の期間に脳卒中専門病棟(stroke unit)または診療所に収容され、そうでなければ、被験体の、血栓溶解処置の出血性副作用または他の重篤な有害副作用の危険を評価するのに必要な診断検査のための時間消費により、血栓溶解処置の治療可能時間の終了を引き起こす。この場合の血栓溶解処置は例えば、rt−PAなどのt−PAの投与であり得る。この場合の血栓溶解処置の治療可能時間は脳卒中発症後3時間以内、4.5時間以内または6時間以内であり得る。この場合の診断検査は少なくとも0.5時間、少なくとも1.5時間または少なくとも3時間続き得る。この場合の哺乳類被験体は、脳卒中専門病棟または診療所に収容直後にまたは脳卒中発症後最初の6時間以内、最初の4.5時間以内または最初の3時間以内にG−CSFまたはその機能的に活性な誘導体を受けることができる。さらに、この場合の哺乳類被験体は、診断検査がその処置を許容すれば、続いて血栓溶解処置を受けることができる。この場合の哺乳類被験体はヒトであり得る。この場合のG−CSFはヒトG−CSF、好ましくはフィルグラスチムであり得る。
【0032】
上記実施形態の診断検査とは、患者の血栓溶解処置、特にt−PAを用いた血栓溶解処置が適応か禁忌かの判断を可能とする、改善する、または支持する、急性脳卒中に罹患している哺乳類患者のいずれの検査も意味する。このような診断検査は、例えば、完全であることを主張するものではないが、磁気共鳴画像法(MRI)などの医療画像法、血液凝固因子などの血液パラメーターの分析、あるいはまた患者の既往歴の調査であり得る。急性脳卒中に罹患している患者は意識不明であるかまたは混乱している場合が多いので、患者の既往歴の調査には時間がかかるであろう。処置を開始する前の診断検査によって排除されるべき急性脳卒中の血栓溶解処置、特にt−PA処置に対する禁忌は、例えば、完全であることを主張するものではないが、活動性の内出血、脳血管障害の病歴、最近の頭蓋内または脊髄内手術または外傷、頭蓋内新生物、動静脈奇形または動脈瘤、出血素因(限定されるものではないが、その時点での経口抗凝固薬(例えば、ワルファリンナトリウム)の使用、国際標準比(INR)>1.7、プロトロンビン時間(PT)>15秒、脳卒中発症前48時間以内のヘパリン投与および活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)(呈示次第)、または血小板総数<100,000/mmを含む)、処置時の管理できない高血圧(例えば、収縮期>185mmHgまたは拡張期>110mmHg)、頭蓋内出血、くも膜下出血、最近の(3か月以内)頭蓋内または脊髄内手術、重篤な頭部外傷、過去の脳卒中、頭蓋内出血の病歴、脳卒中発症時の発作である。
【0033】
顆粒球−コロニー刺激因子(G−CSF)は周知の増殖因子である。本明細書に記載される本発明の方法で使用可能なG−CSFは、ヒトG−CSF(プロ型、ショートスプライス変異体(配列番号2)、成熟型、ショートスプライス変異体(配列番号4)、プロ型、ロングスプライス変異体(配列番号6)、成熟型、ロングスプライス変異体(配列番号8)、フィルグラスチム(配列番号10))または種々の機能的変異体、ムテイン、およびミメティクスであり、これらは既知であり、利用可能である。以下の記述では、これらはG−CSF誘導体と呼ばれる。
【0034】
本発明で使用可能な該G−CSF誘導体は、本明細書に記載のヒトG−CSFアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の同一性を有するタンパク質である。別の実施形態では、使用可能なG−CSFは、ヒトG−CSFコード配列(プロ型、ショートスプライス変異体(配列番号1)、成熟型、ショートスプライス変異体(配列番号3)、プロ型、ロングスプライス変異体(配列番号5)、成熟型、ロングスプライス変異体(配列番号7)、フィルグラスチム(配列番号9))と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、および97%の同一性を有するポリヌクレオチド配列によりコードされているものであり、これらのポリヌクレオチドは、ストリンジェント条件下で、ヒトG−CSFコード配列のコードポリヌクレオチド配列とハイブリダイズするであろう。「ストリンジェント条件」または「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」には、ポリヌクレオチドがその標的配列と、他の配列よりも検出可能により高い程度(例えば、バックグラウンドの少なくとも2倍)でハイブリダイズするであろう条件への言及を含む。ストリンジェント条件は、塩濃度がpH7.0〜8.3で約1.5M Naイオン未満、一般に約0.01〜1.0M Naイオン濃度(または他の塩)であり、温度が、ショートプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)では少なくとも約30℃、ロングプローブ(例えば、50ヌクレオチドを超える)では少なくとも約60℃であり、例えば、高ストリンジェンシー条件としては、37℃、50%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSでのハイブリダイゼーションおよび60〜65℃、0.1×SSCでの洗浄を含む(Trjssen, Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Acid Probes, Part I, Chapter 2 "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays", Elsevier, New York (1993)、およびC
urrent Protocols in Molecular Biology, Chapter 2, Ausubel, et al., Eds., Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York (1995)参照)。アミノ酸およびポリヌクレオチドの同一性、相同性、および/または類似性は、ClustalWアルゴリズム、MEGALIGN(商標)、Lasergene、Wisconsinを用いて決定することができる。
【0035】
種々のG−CSF機能的変異体、ムテイン、およびミメティクスの例としては、機能的断片および変異体(例えば、野生型タンパク質と構造的および生物学的に類似し、少なくとも一つの生物学的に均等なドメインを有する)、G−CSFの化学誘導体(例えば、ポリエチレングリコールおよびそのポリエチレングリコール誘導体などの付加的化学部分を含み、および/またはLenogastrim(商標)などのグリコシル化形態)、およびG−CSFのペプチドミメティクス(例えば、構造および/または機能においてペプチドを模倣する低分子量化合物(例えば、Abell, Advances in Amimo Acid Mimetics and Peptidomimetics, London: JAI Press (1997)、 Gante, Angew Chem. 1994, 106: 1780、 Olson et al., J Med Chem. 1993, 36: 3039参照))が挙げられる。
【0036】
G−CSF誘導体のさらなる例としては、アルブミンとG−CSFの融合タンパク質(Albugranin(商標))、または米国特許第6,261,250号公報に開示されているものなどの他の融合修飾、PEG−G−CSFコンジュゲート、および他のPEG化形態、WO00/44785号公報およびViens et al., J Clin Oncology 2002, 6: 24に記載されているもの、G−CSFのノルロイシン類似体、米国特許第5,599,690号公報に記載されているもの、G−CSFミメティクス、例えば、WO99/61445号公報、WO99/61446号公報およびTian et al., Science 1998, 281: 257に記載されているもの、米国特許第5,214,132号公報および同第5,218,092号公報に記載されているような、単一または複数のアミノ酸が改変、欠失または挿入されているG−CSFムテイン、米国特許第6,261,550号公報および同第4,810,643号公報に記載されているG−CSF誘導体、およびG−CSFの完全配列または一部を他の配列断片と組み合わせて含むキメラ分子、例えば、Leridistim(例えば、Streeter et al., Exp Hematol. 2001, 29:41, Monahan et al., Exp Hematol. 2001, 29:416, Hood et al., Biochemistry 2001, 40: 13598, Farese et al., Stem Cells 2001, 19: 514, Farese et al., Stem Cells 2001, 19: 522, MacVittie et al., Blood 2000, 95:837参照)が挙げられる。さらにG−CSF誘導体には、配列番号4の17、36、42、64および74番にシステインを有するものまたは米国特許第6,004,548号公報に記載されているように別のアミノ酸(セリンなど)で置換された配列番号10の類似体、最初の(N末端)位置にアラニンを有するG−CSF、欧州特許第0335423号公報に記載されているようにG−CSF活性を有するポリペプチドにおける少なくとも一つのアミノ基の改変、欧州特許第0272703号公報に記載されているようにタンパク質のN末端領域においてアミノ酸が置換または欠失されているG−CSF誘導体、天然G−CSFの少なくとも一つの生物特性と、5mg/mlで少なくとも35%の溶液安定性とを有する天然G−CSFの誘導体(この誘導体は欧州特許第0459630号公報に記載されているように、少なくとも天然配列のCys17がSer17残基で置換され、天然配列のAsp27がSer27残基で置換されている)、G−CSFをコードする改変DNA配列(ここでは、欧州特許第0459630号公報に記載されているように、タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく、N末端が組換え宿主細胞でのタンパク質発現の増強のために改変される)、欧州特許第0243153号公報に記載されているように、酵母を用いた組換え生産での収量を高めるために少なくとも一つの酵母KEX2プロテアーゼプロセシング部位を不活性化させることによって改変されるG−CSF、米国特許第4,904,584号公報に記載されているようなリシン改変タンパク質、WO90/12874(米国特許第5,166,322号公報)に記載されているようなタンパク質のシステイン改変変異体、AU−A−10948/92に記載されているような、原核生物発現後に分子の折りたたみを助ける目的での、G−CSF分子のいずれかの末端へのアミノ酸付加、AU−A−76380/91に記載されているような、配列番号4のG−CSFの50〜56番および配列番号8のG−CSFの53〜59番または/および配列番号xx(174型)の成熟G−CSFの43、79、156および170番の4つのヒスチジン(histedine)残基のうちの少なくとも一つ、または配列番号8の成熟G−CSFの46、82、159または173番における配列Leu−Gly−His−Ser−Leu−Gly−Ile(配列番号16)の置換、ならびにGB2213821に記載されているような、選択された領域のカセット突然変異誘発を助けるために制限部位を組み込み、所望の発現系へのその遺伝子の組み込みを助けるために制限部位をフランキングする合成G−CSFをコードする核酸配列が含まれる。G−CSF類似体のさらなる例には、配列番号17および米国特許第6,632,426号公報に記載されている他のものが含まれる。上記の内容は引用することにより本発明の開示の一部とされる。
【0037】
G−CSFの種々の機能的誘導体、変異体、ムテイン、および/またはミメティクスは、好ましくは、野生型哺乳類G−CSF活性の少なくとも20%、好ましくは50%、より好ましくは少なくとも75%および/または最も好ましくは少なくとも90%の生物活性を保持し、生物活性の量としては25%、30%、35%、40%、45%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、95%、およびそれらの間の全ての値および部分範囲が含まれる。さらに、G−CSFの機能的誘導体、変異体、ムテインおよび/またはミメティクスはまた、野生型哺乳類G−CSF活性に比べて100%以上の生物活性も持つことができ、生物活性の量としては少なくとも105%、少なくとも110%、少なくとも125%、少なくとも150%、および少なくとも200%が含まれる。
【0038】
G−CSFの生物活性を測定するためには、いくつかの既知のアッセイを単独でまたは組み合わせて使用することができる。G−CSF機能を測定する一つの例が、実施例1に示されている。G−CSF機能を測定する他の方法も既知であり、ネズミ骨髄細胞を用いたコロニー形成アッセイ、G−CSFにより誘導される骨髄細胞の増殖刺激、増殖をG−CSFに依存するか、またはG−CSF(例えば、AML−193、32D、BaF3、GNFS−60、HL−60、Ml、NFS−60、OCI/AMLla、およびWEHI−3B)に嘔吐する細胞系統を用いる特殊なバイオアッセイが含まれる。これらおよびその他のアッセイは、Braman et al., Am J Hematology 1992, 39: 194、 Clogston et al., Anal Biochem. 1992, 202: 375、 Hattori et al., Blood 1990, 75: 1228、 Kuwabara et al., J Pharmacobiodyn. 1992, 15: 121 、 Motojima et al., J Immunological Methods 1989, 118: 187、 Sallerfors and Olofsson, Eur J Haematology 1992, 49: 199、 Shorter et al., Immunology 1992, 75:468、 Tanaka and Kaneko, J Pharmacobiodyn. 1992, 15: 359、 Tie et al., J Immunological Methods 1992, 149: 115、 Watanabe et al., Anal Biochem. 1991, 195:38に記載されている。
【0039】
一つの実施形態においては、G−CSFは改変もしくは処方されるか、または血液脳関門を通過するその能力を増強する、もしくはその分配係数を脳組織向けにシフトするG−CSFミメティックとして存在する。このような改変の例はPTDまたはTAT配列の付加である(Cao et al., J Neurosci. 2002, 22:5423、 Mi et al., Mol Ther. 2000, 2: 339、 Morris et al., Nat Biotechnol. 2001, 19: 1173、 Park et al., J Gen Virol. 2002, 83: 1173)。これらの配列はまた、突然変異型で使用することもできるし、タンパク質のアミノ末端またはカルボキシ末端に付加的アミノ酸を付加することもできる。また、いずれのG−CSF製剤でも静脈適用にブラジキニンまたは類似物質を加えると、その脳または脊髄への送達が補助されるであろう(Emerich et al., Clin Pharmacokinet. 2001, 40: 105、 Siegal et al., Clin Pharmacokinet. 2002, 41: 171)。
【0040】
一つの実施形態においては、G−CSFの生物活性は別の造血因子との融合によって増強される。増強された活性は上記のような生物活性アッセイで測定することができる。このようなG−CSFの好ましい改変または処方は抗アポトーシス作用の増強および/または神経発生の増強をもたらす。このような改変の一つの例として、G−CSF/IL−3融合タンパク質であるミエロポエチン−1(McCubrey et al., Leukemia 2001, 15: 1203)があり、またはプロゲニポエチン−1(ProGP−1)はヒト胎児肝臓チロシンキナーゼflt−3およびG−CSF受容体と結合する融合タンパク質である。
【実施例】
【0041】
実施例1:
G−CSFは塞栓モデルで梗塞サイズを縮小する。
【0042】
脳虚血の塞栓モデルは、おそらく、フィラメントモデルよりもヒトの状態に近い脳卒中モデルを提供する。これまでのところ、G−CSFの有効性は塞栓モデルでは示されていない。ここで、塞栓性脳卒中は、予め形成された血塊をラットの内頚動脈へ注射することによってモデル化された。
【0043】
体重およそ320gの雄ウィスターラット(n=20)をイソフランで麻酔した(誘導5%、手術2%、維持1.2%)。平均動脈血圧(MABP)の測定のため、また、血中ガス(pH、PaO、PaCO)、電解質(Na、K、Ca2+)、および血漿グルコースを測定するための血液サンプルを得るために、大腿動脈にPE−50ポリエチレン管を挿入した。体温を直腸探針で継続的に測定し、サーモスタット制御の加熱灯で37.0+/−0.3℃に維持した。塞栓性脳卒中(ES)では、1個の赤血球血塊(直径=0.35mm、長さ=18mm)を、20匹の動物の内頸動脈(internal caroted artery)(ICA)の翼口蓋動脈(PPA)とICAの分岐部におよそ1秒で注射した。Laser Doppler Flowmetryを用いて閉塞の成功を測定した。
【0044】
ビーラム(verum)群(G−CSF、フィルグラスチム(配列番号10))およびビヒクル(バッファー溶液(250mMソルビトール、0.004%Tween−80および10mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4))群に、血塊注射1時間後に静注(30分にわたって120μg/kg体重)、そして血塊注射4時間後に腹腔内ボーラス(120μg/kg体重)の2回の注射を施した。24時間の時点で、従前に記載されているように動物に神経学的スコアをつけ(評定尺度:0:欠陥無し、1:左前脚を伸ばせない、2:左前脚の握力低下、3:尾を引っ張ることで麻痺側へ回転、4:無意識に反対側へ回転、5:死亡、Menzies et al., Neurosurgery 1992, 31:100)、浮腫補正を伴う2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)染色によって梗塞体積を測定するために犠牲にした(Meng et al., Ann Neurol. 2004, 55:207)。
【0045】
生理学的パラメーター(血液pH、血中ガス(PaCO、PaO)の分圧、電解質(Na、K、CA2+)、およびグルコースの血漿濃度)は処置によって有意に変化しなかった。また、MABPも処置による影響が無かった(p>0.05、反復測定ANOVAによる)が、30分の時点でMABPに有意な群依存的低下が見られ、この後、再び血圧が上昇した。
【0046】
20匹中12匹の動物がES後16〜24時間の間の早期に死に至ったため、TTC分析に含まれた。死後TTC染色によって測定された梗塞体積は295+/−20mm(ビヒクル)に対して206+/−16mm(G−CSF、平均+/−SEM、P=0.003)であった(図1参照)。しかしながら、梗塞サイズにおけるこの顕著な減少は24時点での神経スコアには表れておらず、これは処置間で差を示しておらず(ビヒクル:4.0+/−1.33、G−CSF:4.2+/−1.32)、おそらくこの尺度では大きな梗塞に対して感受性がないことを表している。
【0047】
実施例2
G−CSFは永久的潅流欠如の存在下でDWI病巣の進展を停止させる。
【0048】
MCAの永久フィラメント閉塞は、4−0シリコンコーティングナイロンフィラメント糸を用い、従前に記載されているように行った(右中脳の縫合糸閉塞 sMCAO、Bouley et al., Neurosci Lett. 2007, 412: 185)。体重320+/−19gのウィスターラット(n=15)を室内空中、イソフランで麻酔した(誘導5%、手術2%、維持1.2%)。平均動脈血圧(MABP)の測定のため、また、中脳動脈閉塞(MCAO)の前ならびに30、60、90、120、180分後に血中ガス(pH、PaO、PaCO)、電解質(Na、K、Ca2+)および血漿グルコースを測定するための血液サンプルを得るために、大腿動脈にPE−50ポリエチレン管を挿入した。体温を直腸探針で継続的に測定し、サーモスタット制御の加熱灯で37.0+/−0.3℃に維持した。
【0049】
潅流欠如およびDWI病巣はMRI測定により、180分間測定した。これらのMRI試験は、Biospec Brukerコンソール(Billerica, MA, USA)および20G/cmグラジェントインサート(ID=12cm、立ち上がり時間120μ秒)を備えた4.7T/40cm水平磁石にて行った。脳画像には表面コイル(ID=2.3cm)を、潅流標識にはアクティブリー・デカップルド・ネック・コイル(actively decoupled neck coil)を用いた(Meng et al., Ann Neurol. 2004, 55:207)。sMCAO後25、45、60、90、120、150、および180分後に動物の画像をとった。三つのADCマップをそれぞれx、y、またはz方向に適用した拡散感受性勾配で得た。マトリックス=64×64、スペクトル幅=200kHz、TR=2秒(フリップ角90°)、TE=37.5ms、b=8および1,300s/mm、Δ=24ミリ秒、δ=4.75ミリ秒、有効視野(FOV)=2.56×2.56cm、1.5mm 7スライス、および積算回数16で3分にわたりシングルショット、エコープラナー画像(EPI)を撮影した。定量的CBF測定は、シングルショット、グラジェントエコー、EPI取得で連続動脈磁気標識法を用いて行った。4分にわたって60対の画像(シグナル積算回数)を撮影し、あるものは動脈磁気標識で、他のもの(対照)は磁気標識法を用いずに撮影した。MRIパラメーターは、TE=13.5ミリ秒であること以外はADCの測定と同様であった。動脈磁気標識法は、流動方向に沿った1.0ガウス/cmグラジェントの存在下で1.78秒の矩形ラジオパルスを用いた。非標識画像については周波数オフセットのサインを切り換えた。
【0050】
最終の梗塞体積は閉塞発生の24時間後に測定したが、脳を取り出し、冠状に切断してMRスライスに相当する1.5mm厚の7枚のスライスとし、TTCにより染色した。
【0051】
ラットをビヒクル(バッファー溶液(250mMソルビトール、0.004%Tween−80および10mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4))、n=5)またはG−CSF(フィルグラスチム、配列番号10、n=10)で閉塞1時間後(静脈内、30分にわたって120μg/kg体重)と、閉塞4時間後(腹腔内、ボーラスとして120μg/kg体重)とに処置した。
【0052】
16時間を超えて生き残った動物を予備的に特定し、16時間までに死に至ったものを排除した。見かけの拡散係数(ADC)および脳血流(CBF)に対するG−CSFの効果ならびに虚血病巣時空的進展を評価した。
【0053】
血中ガス、電解質、pH、および血糖レベルは二つの群間で異ならなかった。MABPもまた、両試験で処置群間において有意差はなかった(p>>0.05 反復測定ANOVAによる)が、試験過程で群とは独立の有意な上昇が見られた(p<0.05 反復測定ANOVAによる倍数に関する)。15匹中2匹の動物が16〜24時間の間に死に至った。
画像はQuickvol II(Schmidt et al., J Neurooncol. 2004, 68:207)を用いて解析した。定量的CBFおよびADCマップおよびそれらの対応する閾値から導かれる病巣体積を従前に記載されているように計算した(Meng et al., Ann Neurol. 2004, 55: 207)。異常なDWIおよびPWI領域を定義するために用いられる閾値は、従前にバリデートされたように(Meng et al., Ann Neurol. 2004, 55:207)、ADCでは0.53×10ー3mm/秒への低下、CBFでは0.3mL/g/分であった。図2は、閾値から導かれるADCおよびCBF病巣体積の時空的進展をまとめたものである。CBF病巣体積は群間(ビヒクルとG−CSF)で異ならず、時間が経っても約230mmで比較的一定であった(図2A参照)。
【0054】
ビヒクル処置動物のADCにより導かれる病巣は、カーブが平坦となる120分まで、時間ととともに直線的に増加した。24時間の時点でTTC法により測定された最終梗塞体積は、閉塞後180分に測定された最終のDWI体積のわずかに上にあった。G−CSF処置動物では、DWI病巣はビヒクルの場合と同じく閉塞後に25mmから45mmに成長した。しかしながら、MRIデータがG−CSFの適用後60分の時点で得られた場合には、この増加は逆転し始めているものと思われた。90分の時点で、G−CSF処置動物のDWI病巣は、ビヒクル処置ラットに比べて有意に小さくなっていた(反復測定ANOVA:p<0.0001 処置−時間の相互作用に関する、その後、Tukey−Kramer post−hoc検定)。測定された以下の時点に関して、病巣は180分時点でMRIデータの取得が終了するまで安定であり、24時間時点でほぼ同じサイズの最後の梗塞が起こった(図2B参照)。
【0055】
TTCにより定義される梗塞体積には処置群間で有意差は無く(223+/−7mm(ビヒクル)に対して124+/−19mm(G−CSF、p=0.007)、両群における3時間のADC病巣体積およびビヒクル群における3時間のCBFによく対応している(図2Bおよび2A参照)。
【0056】
図2Cおよび2Dは、CBFにより導かれる体積と、ADCにより導かれる体積との間の絶対的、そして相対的不一致を示す。二つの測定値はいずれも閉塞90分後に有意に異なるようになった(p<0.05、反復測定ANOVA、その後、Tukey Kramer post hoc検定)。
【0057】
もう一つの統計アプローチを用い、多重線形回帰モデル(因子:PWI、動物(ランダム因子)、処置、時間、時間×処置の相互作用)により、経時的なDWI体積をPWI体積および処置と比較したところ、処置効果はsMCAO後84分時点で有意となることが示された。本試験は、G−CSFの作用が、閉塞発生後少なくとも90分時点でDWI欠如体積に有意な効果を見込めるほど急速なものでなければならないことを示す。in vitroにおける抗アポトーシスカスケードの誘導は急速であり、ニューロン9にG−CSFを添加した後5分以内にAktのリン酸化および活性化が起こる。対照的に、骨髄由来細胞によって媒介される間接的な効果は、これらの細胞を骨髄から血流中へ放出し、血液脳関門を通過させ、組織に浸潤し、おそらくはその後に保護因子を放出する必要がある。これはここでの試験で見られた作用に対して十分速いとは思えない。
【0058】
4時間と、24時間との時点ではそれぞれMenziesの神経学的スコアにおいて有意な群間差は検出されなかったが、これはおそらくこの尺度では大きな梗塞に対して感受性を有さないことを表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類被験体の脳卒中の処置方法であって、
(a)治療上有効な量で、被験体へ、G−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体の投与を開始する工程と、その後に
(b)その被験体に血栓溶解剤を治療上有効な量で投与する工程と
を含んでなる、方法。
【請求項2】
被験体が工程(a)の後、工程(b)の前に、工程(b)の間の出血性副作用または他の有害副作用の危険を排除するために診断検査を受ける工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒトG−CSFが工程(a)に用いられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
rt−PAが工程(b)に用いられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
G−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体の投与が、脳卒中発症後の最初の6時間以内に開始される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
血栓溶解剤が脳卒中発症後6時間より後に投与される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
G−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体の投与が脳卒中発症後、最初の6時間以内に完了する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
血栓溶解剤がG−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体の投与の開始の少なくとも0.5時間後に投与される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
診断検査が少なくとも0.5時間続く、請求項2〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
G−CSFが少なくとも90μg/kg体重の用量で静脈内または皮下投与される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
急性脳卒中に罹患した哺乳類被験体(ここで、該被験体は脳卒中発症後最初の6時間以内に脳卒中専門病棟または診療所に収容され、そうでなければ、被験体の、血栓溶解処置の出血性副作用または他の重篤な有害副作用の危険を評価するのに必要な診断検査のための時間消費により血栓溶解処置の治療可能時間の終了を引き起こす)を処置するために医薬組成物を製造するための、G−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体の使用。
【請求項12】
血栓溶解処置の治療可能時間が脳卒中発症後3時間以内である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
診断検査が少なくとも0.5時間続く、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
哺乳類被験体が、脳卒中専門病棟または診療所への収容直後にG−CSFまたは機能的に活性なG−CSF誘導体を受ける、請求項11〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
G−CSFがヒトG−CSFである、請求項11〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
被験体における脳卒中の処置方法(ここで、該脳卒中の発症がG−CSFの投与前6時間以内に該被験体に認められ、該G−CSF投与の前に、該脳卒中発症を認めたこと以外には、さらなる脳卒中診断は行われていない場合)に用いるための、G−CSF。
【請求項17】
被験体における脳卒中の処置方法(ここで、該脳卒中の発症がG−CSFの投与前6時間以内に該被験体に認められ、該G−CSFの投与後に、該血栓溶解剤の投与による出血性副作用または他の有害副作用の危険を排除するために該被験体の診断検査が行われる場合)に用いるための、G−CSF。
【請求項18】
被験体における脳卒中の処置方法(ここで、該被験体が該被験体における脳卒中の発症後6時間以内にG−CSFを投与され、該G−CSFの投与後に、該血栓溶解剤の投与による出血性副作用または他の有害副作用の危険を排除するために該被験体の診断検査が行われた場合)に用いるための、血栓溶解剤。
【請求項19】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の特徴を有する、請求項18に記載の血栓溶解剤。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−518014(P2012−518014A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550322(P2011−550322)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/024426
【国際公開番号】WO2010/096446
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(507002619)シグニス・バイオサイエンス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディートゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】SYGNIS BIOSCIENCE GMBH & CO. KG
【Fターム(参考)】