説明

脳梗塞の検査方法

【課題】脳梗塞を簡便で効率よく検査することのできる方法を提供すること。
【解決手段】 被検動物より採取された血液試料中の、α−1アンチトリプシン、α−2マクログロブリン、アポリポプロテイン−A1、アポリポプロテイン−CIII、アポリポプロテイン−H、β−2ミクログロブリン、脳由来神経栄養因子、カルシトニン、癌抗原CA-125、CD40、CD40リガンド、Complement3、クレアチンキナーゼMB、上皮成長因子、ENA-78、エンドセリン−1、EN-RAGE、エオタキシン、エリスロポエチン、FactorVII、脂肪酸結合タンパク質、フェリチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、フィブリノゲン、G-CSF、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、成長ホルモン、ハプトグロブリン、IgA、IGF-1、IgM、IL-10、IL-13、L-15、IL-16、IL-1ra、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、インスリン、レプチン、MCP-1、MDC、MIP-1α、MIP-1β、MMP-2、MMP-3、ミエロペルオキシダーゼ、PAI-1、PAPP-A、前立腺酸性フォスファターゼ、RANTES、血清アミロイドP、SGOT、SHBG、幹細胞因子、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、TIMP-1、組織因子、TNFレセプターII、TNF-α、VCAM-1、VEGFからなる群から選択される1つ以上の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳梗塞の検査方法、脳梗塞治療または予防効果の評価方法、脳梗塞の予防薬または治療薬のスクリーニング方法、および脳梗塞検査用、脳梗塞治療効果評価用または脳梗塞予防・治療薬候補化合物スクリーニング用のキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳卒中とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害の総称である。これら脳卒中の病型のうち、最近では脳梗塞が相対的に増加してきている。脳梗塞急性期の薬物療法としては血栓溶解療法、抗凝固療法、抗血小板療法、脳保護薬投与などが用いられ、重篤な患者や出血性脳梗塞を起こした患者に対しては外科的手術が行われる。脳梗塞の症状は急性期にもっとも強く、その後徐々に改善していく。これは、壊死に陥った脳組織が腫脹して、周囲の脳組織も圧迫・障害していることによる。腫脹が引いていくとともに、周囲の組織が機能を回復して症状は固定していくのである。ただし、脳虚血部位から放出されるフリーラジカルは周囲の組織をも壊死させる働きがあるため急性期を過ぎても機能予後の向上につなげるため継続的な治療が必要とされている。
【0003】
脳梗塞の臨床病型には、脳内小動脈が閉塞して発症するラクナ梗塞、脳内大動脈が粥腫で閉塞して発症するアテローム血栓性脳梗塞、心臓内の血栓が栓子となり脳内動脈を閉塞して発症する心原性脳塞栓症等がある。これらの臨床病型により急性期及び慢性期の適切な治療法が異なるため、脳梗塞患者の臨床病型を迅速に診断する方法が求められていた。
脳梗塞の臨床病型の分類方法としては、臨床症候の観察と心エコー、MRI、MRA、頚部血管エコー等を施行してTOAST分類に準拠した脳梗塞臨床診断のフローチャート(非特許文献1)等により分類する方法や、分子マーカーを用いた方法、具体的には、CRP、D-Dimer、RAGE、MMP-9、S100B、BNP等の分子マーカーを脳梗塞発症24時間以内に同時測定した結果、BNPとD-Dimerで、特定のカットオフ値を設定すると、心原性脳塞栓症を他病型と分類できること(非特許文献2)などが開示されているが、さらに迅速で確実な病型診断が可能となる分子マーカーが求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lee,L.J. et al., Stroke , 1081-1089 (2000)
【非特許文献2】Montaner et al., Stroke, 2280-2287(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑み、脳梗塞患者などの血清等を用いて迅速かつ確実な脳梗塞の検査を行う方法、及び脳梗塞治療効果の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、患者血清中の、α-1アンチトリプシン、α-2マクログロブリン、アポリポプロテイン-A1、アポリポプロテイン−CIII、アポリポプロテイン−H、β-2ミクログロブリン、脳由来神経栄養因子、カルシトニン、癌抗原CA-125、CD40、CD40リガンド、Complement3、クレアチンキナーゼMB、上皮成長因子、ENA-78、エンドセリン−1、EN-RAGE、エオタキシン、エリスロポエチン、FactorVII、脂肪酸結合タンパク質、フェリチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、フィブリノゲン、G-CSF、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、成長ホルモン、ハプトグロブリン、IgA、IGF-1、IgM、IL-10、IL-13、IL-15、IL-16、IL-1ra、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、インスリン、レプチン、MCP-1、MDC、MIP-1α、MIP-1β、MMP-2、MMP-3、ミエロペルオキシダーゼ、PAI-1、PAPP-A、前立腺酸性フォスファターゼ、RANTES、血清アミロイドP、SGOT、SHBG、幹細胞因子、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、TIMP-1、組織因子、TNFレセプターII、TNF-α、VCAM-1、VEGFが、健常者の血漿中のその濃度に比べて変化するという知見を得、これらの蛋白質の量が脳梗塞の検査のための有用な指標となることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1] 被検動物より採取された血液試料中の、α−1アンチトリプシン、α−2マクログロブリン、アポリポプロテイン−A1、アポリポプロテイン−CIII、アポリポプロテイン−H、β−2ミクログロブリン、脳由来神経栄養因子、カルシトニン、癌抗原CA-125、CD40、CD40リガンド、Complement3、クレアチンキナーゼMB、上皮成長因子、ENA-78、エンドセリン−1、EN-RAGE、エオタキシン、エリスロポエチン、FactorVII、脂肪酸結合タンパク質、フェリチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、フィブリノゲン、G-CSF、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、成長ホルモン、ハプトグロブリン、IgA、IGF-1、IgM、IL-10、IL-13、L-15、IL-16、IL-1ra、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、インスリン、レプチン、MCP-1、MDC、MIP-1α、MIP-1β、MMP-2、MMP-3、ミエロペルオキシダーゼ、PAI-1、PAPP-A、前立腺酸性フォスファターゼ、RANTES、血清アミロイドP、SGOT、SHBG、幹細胞因子、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、TIMP-1、組織因子、TNFレセプターII、TNF-α、VCAM-1、VEGFからなる群から選択される1つ以上の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の検査方法。
[2] 被検動物がヒトである[1]に記載の方法。
[3] 血液試料が血清又は血漿である[1]または[2]記載の方法。
[4] 蛋白質量の測定が、免疫測定法により行われることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] [1]に記載の蛋白質の他に、さらに1以上の脳梗塞マーカー量を測定することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 脳梗塞の予防薬もしくは治療薬が投与された脳梗塞の予防もしくは治療を必要とする動物から採取された血液試料中の、上記[1]に記載される少なくとも1種類の蛋白質の量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の予防もしくは治療効果の評価方法。
[7] 被検体と脳梗塞の予防薬または治療薬の候補化合物を接触させた後、該被検体中の、上記[1]に記載される少なくとも1種類の蛋白質の量を測定する工程を含む、脳梗塞の予防薬または治療薬のスクリーニング方法。
[8] 上記[1]に記載される少なくとも1種類の蛋白質の量を測定し得る試薬を含んでなる、脳梗塞検査用、脳梗塞治療効果評価用、または脳梗塞予防・治療薬候補化合物のスクリーニング用のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、脳梗塞患者の血漿中で健常者と比べて含有量が変化する蛋白質が脳梗塞検査用分子マーカーとして提供される。これらの脳梗塞検査用分子マーカーを単独であるいは組み合わせて用いることにより脳梗塞の迅速、確実な診断あるいは脳梗塞の病型の分類を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(1)脳梗塞検査方法
本発明の第1は、被検動物より採取された血液試料中の、α-1アンチトリプシン、α-2マクログロブリン、アポリポプロテイン-A1、アポリポプロテイン−CIII、アポリポプロテイン−H、β-2ミクログロブリン、脳由来神経栄養因子、カルシトニン、癌抗原CA-125
、CD40、CD40リガンド、Complement3、クレアチンキナーゼMB、上皮成長因子、ENA-78、エンドセリン−1、EN-RAGE、エオタキシン、エリスロポエチン、FactorVII、脂肪酸結合タンパク質、フェリチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、フィブリノゲン、G-CSF、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、成長ホルモン、ハプトグロブリン、IgA、IGF-1、IgM、IL-10、IL-13、IL-15、IL-16、IL-1ra、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、インスリン、レプチン、MCP-1、MDC、MIP-1α、MIP-1β、MMP-2、MMP-3、ミエロペルオキシダーゼ、PAI-1、PAPP-A、前立腺酸性フォスファターゼ、RANTES、血清アミロイドP、SGOT、SHBG、幹細胞因子、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、TIMP-1、組織因子、TNFレセプターII、TNF-α、VCAM-1、VEGFからなる群から選択される1つ以上の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の検査方法である。
【0010】
本明細書において、「脳梗塞」とは、脳動脈が血栓または塞栓によって閉塞し虚血状態となり、脳組織が壊死および障害される疾患であり、脳内小動脈が閉塞して発症するラクナ梗塞、脳内大動脈が粥腫で閉塞して発症するアテローム血栓性脳梗塞、心臓内の血栓が栓子となり脳内動脈を閉塞して発症する心原性脳塞栓症のいずれをも含む。また、脳梗塞でも急性期、亜急性期、回復期(慢性期)等のいずれをも含む。
【0011】
本明細書において「蛋白質」とは、本発明の検査法において血液試料中の含有量を測定する対象である蛋白質を意味し、被検動物に由来する蛋白質であればよいが、ヒト由来の蛋白質として具体的には、下述する特定のアミノ酸配列で示される蛋白質が例示される。さらに、これらと同様の機能を有する蛋白質の断片、誘導体、および変異体も包含される。
【0012】
上記検査方法において、「被検動物」は、脳梗塞を起こす可能性のある動物であれば如何なるものでもよく、具体的には、ヒト、サル、あるいはラット等のげっ歯類等が挙げられる。本発明の脳梗塞の検査方法は、このうち、脳梗塞の疑いのあるヒト、あるいは脳梗塞発症後のヒト等において特に好ましく行われる。
【0013】
また、上記被検動物から採取された「血液試料」としては、下述する蛋白質を含有し、その濃度を測定できるものであれば特に制限はないが、具体的には、EDTA血漿、クエン酸血漿等の血漿、血清、全血の何れでもよいが、これらのうち、EDTA血漿が簡便に採取でき、保存が容易で且つ採取量が多いため好ましく用いられる。被検動物から該血液試料を採取するために採血するタイミングは、脳梗塞の診断を行うタイミングであればいずれのタイミングでもよい。脳梗塞は、発症後刻々と症状や病態が変化するので、具体的には、例えば脳梗塞の診断では発症後3〜72時間の間、脳梗塞の進展を診断する場合には発症後1〜14日の間、回復期の予後を診断する場合には発症後3ヶ月〜1年の間、等に採血することが好ましい。
【0014】
本発明の検査法において、被検動物から採取した血液試料中の含有量を測定する対象である蛋白質(本明細書中では、これを「脳梗塞検査用分子マーカー」と称することがある)としては、以下のものが挙げられる。また、以下に示すアミノ酸配列はいずれもヒトのものであるが、被検動物が異なる場合には、該動物由来のホモログ蛋白質が測定対象の蛋白質となる。
【0015】
α-1アンチトリプシンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name A1AT_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースなどにおいて上記Entry Nameを入力することで配列情報を得ることができる。以下の蛋白質も同様である。
α-2マクログロブリンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name A2MG_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
アポリポプロテイン−A1は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name APOA1_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
アポリポプロテイン−CIIIは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name APOC3_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
アポリポプロテイン−Hは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name APOH_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
β-2ミクログロブリンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name B2MG_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name BDNF_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0016】
カルシトニンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CALC_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
癌抗原CA-125は、モノクローナル抗体OC125と反応することで発見された蛋白質である(Bast RC, Feeney M, Lazarus H, Nadler LM, Colvin RB, Knapp RC (November 1981). "Reactivity of a monoclonal antibody with human ovarian carcinoma". J. Clin.Invest. 68 (5): 1331-7.)。
CD40は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name TNR5_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
CD40リガンドは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CD40L_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
Complement3は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CO3_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0017】
クレアチンキナーゼMBは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name KCRB_HUMANあるいはKCRM_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
上皮成長因子(epidermal growth factor)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name EGF_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
ENA-78(CXCL5)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CXCL5_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
エンドセリン−1は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name EDN1_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
EN-RAGE(S10AC)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name S10AC_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
エオタキシンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CCL11_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0018】
エリスロポエチンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name EPO_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
FactorVIIは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name FA7_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
脂肪酸結合タンパク質(fatty acid binding protein)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name FABPH_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
フェリチンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name FRIH_HUMANあるいはFRIL_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
塩基性線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor basic:FGF2)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name FGF2_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
フィブリノゲンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name FIBA_HUMAN、FIBB_HUMANあるいはFIBG_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0019】
G-CSF(granulocyte colony stimulating factor)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CSF3_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
グルタチオン-Sトランスフェラーゼは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name GSTA1_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
成長ホルモンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name SOMA_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
ハプトグロビンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name HPT_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0020】
IgAとは、蛋白質の免疫グロブリンAである。
IGF-1(insulin-like growth factor 1)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry NameIGF1A_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IgMとは、蛋白質の免疫グロブリンMである。
【0021】
IL-10(interleukin 10)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL10_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IL-13(interleukin 13)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL13_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IL-15(interleukin 15)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL15_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IL-16(interleukin 16)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL16_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IL-1ra(interleukin 1 receptor antagonist)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL1RA_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IL-3(interleukin 3)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL3_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IL-4(interleukin 4)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL4_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0022】
IL-6(interleukin 6)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL6_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IL-7(interleukin 7)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL7_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
IL-8(interleukin 8)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name IL8_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
インスリンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name INS_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
レプチンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name LEP_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
MCP-1(monocyte chemotactic protein 1)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CCL2_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
MDC(Macrophage-Derived Chemokine)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CCL22_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
MIP(macrophage inflammatory protein)-1αは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntryName CCL3_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
MIP-1βは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CCL4_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0023】
MMP(matrix metalloproteinase)-2は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name MMP
2_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
MMP-3は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name MMP3_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
ミエロペルオキシダーゼは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name PERM_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntryName PAI1_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
PAPP-A(pregnancy-associated plasma protein A)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name PAPP1_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
前立腺酸性フォスファターゼ(prostatic acid phosphatase)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name PPAP_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
RANTESは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name CCL5_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0024】
血清アミロイドP成分は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name SAMP_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
SGOTは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name AATC_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
SHBG (sex hormone binding protein)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name SHBG_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
幹細胞因子(stem cell factor)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name SCF_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
トロンボポエチンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name TPO_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
甲状腺刺激ホルモンは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name TSHB_HUMANおよびGLHA_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
TIMP-1(tissue inhibitor of metalloproteinase-1)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name TIMP1_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0025】
組織因子(tissue factor)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name TF_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
TNF(tumor necrosis factor)レセプターIIは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name TNR1B_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
TNF-αは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name TNFA_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
VCAM-1 (vascular cell adhesion molecule-1)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntryName VCAM1_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
VEGF(vascular endothelial growth factor)は、ヒトの場合には、UniProtKBのEntryName VEGFA_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0026】
上記蛋白質の血液試料中の含有量の測定方法としては、該蛋白質の含有量が測定できる方法であれば特に制限はないが、例えば、該蛋白質の抗体を用いた既存の免疫測定法や、クロマトグラフィー技術と飛行時間型質量分析(TOF-MS)を組み合わせて、クロマト担体(例:カチオン交換体、アニオン交換体、疎水性クロマト担体、金属イオンなど)に一定条件下で捕捉されるすべての成分の質量を一括して測定する方法、二次元ゲル電気泳動法、m−RNA量を競合RT−PCRまたはリアルタイムRT−PCR法等が用いられる。免疫測定法としては、酵素免疫定量法に従い定量検出する方法や、蛍光免疫測定法、化学発光免疫測定法等で測定する方法等が好ましい。酵素免疫定量法は、標識イムノアッセイ法のうち、酵素を標識物質として用いる検出方法である。また、イムノソルベントを用いる、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA) 法を選択するのが、特に好適である。また、ELISAのうちサンドイッチ法は、操作の簡便性、経済上の利便性、とりわけ臨床検査における汎用性を考慮すると、特に好適な測定態様の一つとして挙げられる。これらの測定方法は、例えば、新生化学実験講座(日本生化学会編;東京化学同人)、Molecular Cloning, A Laboratory Manual (T. Maniatis et al., Cold Spring Harbor Laboratory (1982))、Antibodies - A Laboratory Manual(E.Harlow, et al., Cold Spring Harbor Laboratory(1988))等の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じて行うことができる。
【0027】
上記測定を行う際に用いられる抗体等(抗体断片を含む)は、対象の脳梗塞検査用分子マーカーを抗原として公知の方法によって得ることができる。ただし、対象の脳梗塞検査用分子マーカーを抗原として製造されたものである必要はなく、該マーカーと少なくとも交差反応性を示し、その含有量を測定することができるものであれば何れのものでもよい。このような免疫測定法、及びそれに用いられる抗体としては、例えば、Rules Based Medicine社により提供されるHuman MapTMv1.6法によるものが好ましく用いられる。
【0028】
本発明の方法で使用する血液試料は、被検動物から採取直後のものを上記測定に用いることが好ましいが、保存したものを用いてもよい。血液試料の保存方法としては、脳梗塞検査用分子マーカー量が変化しない条件で有れば特に制限は無いが、例えば0〜10℃の凍結しない程度の低温条件、暗所条件および無振動条件下が好ましい。止むをえず凍結する場合には、深凍結などマーカー分子の分解や酸化反応等を避けられる方法が好ましい。
【0029】
本発明の検査方法においては、被検動物から採取された血液試料(本明細書中では、これを「検体」と称することがある)中の上記脳梗塞検査用分子マーカーの含有量を測定して、これを指標として、脳梗塞を検査することができる。これらの検査は、検体中の上記脳梗塞検査用分子マーカーの少なくとも1つの含有量を測定することにより行われる。また、既存の脳梗塞マーカーであるCRPやD-Dimer等の検体中含有量とを組み合わせることや、臨床症候の観察と心エコー、MRI、MRA、頚部血管エコー等の結果とを関連付けた複合指標を用いることで、より的確に検査することが可能である。
【0030】
上記脳梗塞検査用分子マーカーの検体中の含有量を指標として上記脳梗塞検査を行う場合には、脳梗塞検査用分子マーカーの検体中の含有量の絶対値を健常者(健常動物)のそれと比較してもよいし、適当なカットオフ値を規定して検査する方法でもよい。健常者の上記脳梗塞検査用マーカーの血液試料中の含有量は、予め脳梗塞でないことを臨床的に確認された健常者から血液を採取し、被検動物から採取した血液と同様の処理及び測定を行って定量することにより得ることができる。臨床的に各種脳梗塞を確認する方法は特に制限がないが、例えば頭部X線CT、頭部MRI、MRA、脳血管造影、頚部血管エコー等の機器診断方法等から確認する方法等があげられる。
【0031】
カットオフ値とは、ある物質に着目して目的とする疾患群と非疾患群とを判定する場合に定める値をいう。目的とする疾患と非疾患とを判定する場合に、カットオフ値以下であれば陰性、カットオフ値以上であれば陽性として、またはカットオフ値以下であれば陽性、カットオフ値以上であれば陰性として疾患を判定することができる(金井正光編、臨床検査法提要 金原出版株式会社)。
【0032】
カットオフ値の臨床的有用性を評価する目的で用いられる指標としては、感度と特異度があげられる。ある母集団をカットオフ値を用いて判定し、疾病患者のうち、判定で陽性とされたものをa(真陽性)、疾病患者でありながら判定で陰性とされたものをb(偽陰性)、疾病患者でないにも関わらず判定で陽性とされたものをc(偽陽性)、疾病患者でなく判定で陰性とされたものをd(真陰性)と表したときに、a/(a+b)で表される値を感度(真陽性率)、d/(c+d)で表される値を特異度(真陰性率)として表すことができる。
【0033】
目的とする疾患群と非疾患群との測定値の分布は通常、一部重複する。したがって、カットオフ値を上下させることにより、感度と特異度は変化する。カットオフ値を下げることにより感度は高くなるが、特異度は低下し、カットオフ値を上げることにより感度は低くなるが、特異度は上がる。判定方法としては、感度と特異度の両者の値が高いほうが好ましい。また、感度と特異度の値が0.5を超えない判定方法は、有用とは認められない。
【0034】
カットオフ値を設定する方法としては、非疾患群の分布の95%を含む、中央からの両端のいずれかの値をカットオフ値として設定する方法、非疾患群の分布が正規分布を示す場合、平均値+2倍の標準偏差(SD)または平均値−2SDをカットオフ値として設定する方法等があげられる。
【0035】
また、分子マーカーの有用性を見出す方法として一般的に統計学的検定が用いられる。統計的処理法としては、例えば、Mann-Whitney検定(Hollander, M., and D. A. Wolfe (1999) Nonparametric Statistical Methods. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, Inc.)等が用いられる。脳梗塞群の分子マーカーの検体中の含有量と健常者のそれとで検定を行い、有意水準である0.05を下回った場合に、健常者に対して有意に差があると判断され、該分子マーカーは、脳梗塞群の分子マーカーとして用いることができる。
【0036】
かくして、本発明の方法により脳梗塞の診断がついた被検者(動物)は、それぞれの疾患に適した治療法を受けることにより、予後の経過や治療効果が非常に良好となる。
【0037】
本発明は、さらに上記脳梗塞検査に用いるためのキット、あるいは下述する脳梗塞の予防もしくは治療効果の評価、あるいは脳梗塞予防もしくは治療薬のスクリーニング方法を行うためのキットも含まれる。キットの内容は、機器または試薬の組み合わせにより構成されるが、以下に述べる各構成要素と本質的に同一、またはその一部と本質的に同一な物質が含まれていれば、構成または形態が異なっていても、本発明のキットに包含される。試薬としては、例えば、免疫測定法により脳梗塞検査用分子マーカーを測定する場合には、抗分子マーカー抗体を含む。また、必要に応じ、生体試料の希釈液、抗体固定化固相、反応緩衝液、洗浄液、標識された二次抗体またはその抗体断片、標識体の検出用試薬、標準物質なども含まれる。生体試料の希釈液としては、界面活性剤、緩衝剤などにBSAやカゼインなどの蛋白質を含む水溶液などがあげられる。
【0038】
抗体固定化固相としては、各種高分子素材を用途に合うように整形した素材に、抗分子マーカー抗体またはそれらの抗体断片を固相化したものが用いられる。形状としてはチューブ、ビーズ、プレート、ラテックスなどの微粒子、スティック等が、素材としてはポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレート等の高分子素材、ガラス、セラミックスや金属等が挙げられる。抗体の固相化の方法としては物理的方法と化学的方法またはこれらの併用方法等、公知の方法により調製することができる。例えば、ポリスチレン製96ウェルの免疫測定用マイクロタープレートに抗体または抗体断片等を疎水固相化したものが挙げられる。
【0039】
反応緩衝液は、抗体固定化固相の抗体と生体試料中の抗原とが結合反応をする際の溶媒環境を提供するものであればいかなるものでもよいが、界面活性剤、緩衝剤、BSAやカゼインなどの蛋白質、防腐剤、安定化剤、反応促進剤等を含む反応緩衝液があげられる。
【0040】
標識された二次抗体またはその抗体断片としては、本発明に用いられる抗体または抗体断片に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ウシ小腸アルカリホスファターゼ、β−
ガラクトシダーゼなどの標識用酵素をラベルしたもの、緩衝剤、BSAやカゼインなどの蛋白質、防腐剤などを混合したものが用いられる。
【0041】
標識体の検出用試薬としては前記の標識用酵素に応じて、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼであれば、テトラメチルベンジジンやオルトフェニレンジアミンなどの吸光測定用基質、ヒドロキシフェニルプロピオン酸やヒドロキシフェニル酢酸などの蛍光基質、ルミノールなどの発光基質が、アルカリホスファターゼであれば、4−ニトロフェニルフォスフェートなどの吸光度測定用基質、4−メチルウンベリフェリルフォスフェートなどの蛍光基質等が挙げられる。
【0042】
(2)脳梗塞の予防もしくは治療効果の評価方法
本発明の第2の態様は、脳梗塞の予防薬もしくは治療薬が投与された脳梗塞の予防もしくは治療を必要とする動物から採取された血液試料中の上記(1)に記載の蛋白質のうちの少なくとも1種類の蛋白質の量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の予防もしくは治療効果の評価方法である。
【0043】
脳梗塞の予防もしくは治療を必要とする動物とは、具体的には、脳梗塞の症状を示すヒトあるいは(1)記載の動物(これらを単に「被検者」と称することがある)や、上記(1)の方法により脳梗塞と診断された患者等が挙げられる。
【0044】
脳梗塞予防もしくは治療薬とは、脳梗塞予防または治療薬として用いられているものであればいずれのものでもよいが、例えば、ウロキナーゼ、組織プラスミノゲンアクチベーターの等血栓溶解剤、へパリン等の抗凝固剤、サイクロオキシゲナーゼ阻害薬、フォスフォリジエステラーゼ阻害薬、スロンボキセンA2(TXA2)合成阻害薬等の抗血小板剤、フリーラジカルスカベンジャー等の脳保護薬等が挙げられる。
脳梗塞の予防薬もしくは治療薬が投与された脳梗塞の予防もしくは治療を必要とする動物から採取された血液試料における上記(1)に記載の蛋白質の量が、投与前の量に比べて減少するか、あるいは、脳梗塞を発症していない対照の動物における量に近づいた場合、予防または治療効果があったと判定することができる。
【0045】
(3)脳梗塞予防もしくは治療薬のスクリーニング方法
本発明の第3の態様は、被検体と脳梗塞の予防薬もしくは治療薬の候補化合物を接触させた後、該被検体中の血液試料中の上記(1)に記載の蛋白質のうちの少なくとも1種類の蛋白質の量を測定する工程を含む、脳梗塞の予防もしくは治療薬のスクリーニング方法である。
【0046】
被検体とは、上記脳梗塞検査用分子マーカーの含有量が、脳梗塞状態と同様の異常を示す非ヒト動物個体、組織、細胞等が用いられる。脳梗塞の症状を有する動物としては、例えば、外科的手法等で脳梗塞状態を形成させた脳梗塞モデル非ヒト動物(Yuji Kuge, Kazuo Minematsu et al. Nylon Monofilament for Intraluminal Middle Cerebral Artery Occlusion in Rats. Stroke, 26, 1655 (1995))等が挙げられる。被検体とともに、対照として被検体と同種の個体、組織、細胞等で上記脳梗塞検査用分子マーカーの含有量が、健常状態と同様(正常)であるものを用いることも好ましい。
【0047】
これらの被検体に接触させる脳梗塞予防もしくは治療薬候補化合物(以下、「候補化合物」と称することがある)としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、低分子合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。その投与量、投与方法、処理時間等は、用いる被検体に従って適宜選択すればよい。
【0048】
候補化合物と接触させた後に、該被検体中の上記脳梗塞検査用分子マーカーの含有量を測定する方法としては、各被検体に適した方法により行うことができる。例えば、被検体が細胞の場合には、公知の方法に従って細胞抽出液に調製し、これを試料として用いてもよいし、細胞を培養プレートやスライドグラス上に固定化し、これを試料として用いてもよい。例えば、細胞抽出液を調製してこれを試料とする場合には、ELISA法等により検出を行うことができる。これらの試料は、検出の結果得られた数値を正確に比較・解析できるように、あらかじめ抽出に用いる細胞数をそろえるか、精製されたRNA量又は抽出された蛋白質量をそろえることが好ましい。
候補化合物と接触させた被検体における上記(1)に記載の蛋白質の量が、接触前の量に比べて減少するか、あるいは、対照の被検体における量に近づいた場合、予防または治療効果があったと判定することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1
脳梗塞発症直後、発症3日後、7日後、14日後、および3ヵ月後時点の脳梗塞患者115名と健常者93名から採血を行い、EDTA血漿を取得したのちにRules Based Medicine社に依頼して免疫測定法(Human MapTMv1.6法)を用いてEDTA血漿中の各種蛋白質濃度を測定した。次に測定値が検出下限を下回った場合には検出下限の1/2の値を、測定値が検出上限を上回った場合には検出上限の2倍の値を補完して、各採血時点において脳梗塞患者と健常者で差があるかを知るために、Hollander, M., and D. A. Wolfe (1999) Nonparametric Statistical Methods. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, Inc.に記載の方法に従いMann-Whitney検定を行った。その結果を表1に示す。それぞれの採血時点において、有意水準である0.05を下回ったものが脳梗塞との関連性が有意に示された。
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【表1−6】

【0051】
実施例2
脳梗塞発症直後、発症3日後、7日後、14日後、および3ヵ月後時点のアテローム血栓性脳梗塞患者22名、ラクナ梗塞患者34名、心原性脳塞栓症患者34名から採血を行い、EDTA血漿を取得したのちにRules Based Medicine社に依頼して免疫測定法(Human MapTMv1.6法)を用いてEDTA血漿中に各蛋白質濃度を測定した。次に測定値が検出下限を下回った場合には検出下限の1/2の値を、測定値が検出上限を上回った場合には検出上限の2倍の値を補完して、各採血時点においてアテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞・心原性脳塞栓症の各脳梗塞病型間で差があるかを知るために、永田靖・吉田道弘 (1997)「統計的多重比較法の基礎」サイエンティスト社に記載の方法に従いSteel-Dwass検定を行った。その結果を表2に示す。それぞれの採血時点において、有意水準である0.05を下回ったものが脳梗塞との関連性が有意に示された。
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【表2−4】

【表2−5】

【表2−6】

【表2−7】

【0052】
実施例3
脳梗塞発症後、種々の炎症細胞が脳梗塞巣に浸潤し劇的な免疫応答が生じる。局所より分泌されるサイトカイン群は局所修復反応のみならず、生体反応にも影響を及ぼすと考え
られる。そこで、脳梗塞発症直後から慢性期にかけて血液中のサイトカイン群がどのような動態を示すか検討した。
【0053】
福岡脳卒中データベース研究(FSR)関連3施設(九州大学病院、独立行政法人国立病院機構九州医療センター、社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院)における発症24時間以内の脳梗塞84例(アテローム血栓性脳梗塞16例、心原性脳塞栓症24例、ラクナ梗塞29例、分類不能15例)について、発症日、第3、7、14病日、および3ヶ月後の5ポイントで静脈採血を行った。年齢・性をマッチさせた福岡県久山町在住の健常者60例のデータをコントロールとした。実施例1と同様に既知のサイトカインを網羅的に測定し、その動態について臨床情報とともに解析した。
【0054】
その結果、測定したサイトカイン群のうち、Interleukin-7 (IL-7)は、発症日において既に病型(アテローム血栓性脳梗塞99±46 pg/ml、心原性脳塞栓症91±41、ラクナ梗塞91±46、分類不能103±43、脳梗塞平均95±44 vs 健常者59±26、 p<0.0001)や重症度(NIHSS)と無関係(p=0.72)に上昇しており、3ヶ月後(脳梗塞平均130±30、p<0.0001)も高値が持続していた。IL-7上昇は、亜急性〜慢性期にかけて上昇するTh2サイトカイン群( IL-4 (3ヶ月後脳梗塞平均89 ± 33 vs健常者62 ±25 pg/ml、 p<0.0001)、 IL-13 (同 140 ± 38vs 59 ± 26 pg/ml)、 p<0.0001)と有意に正相関を示した(ともにp<0.0001)。一方、Th1サイトカイン群の上昇は測定期間内には認められなかった。
【0055】
以上より、IL-7上昇は脳梗塞診断のマーカーとなるとともに、脳梗塞の修復過程において重要な役割を果たす可能性がある。またIL-7は脳梗塞慢性期のTh2サイトカイン上昇に関与する可能性があると考えられた。
【0056】
実施例4
福岡脳卒中データベース研究(FSR)関連施設における発症24時間以内の脳梗塞84例(アテローム血栓性脳梗塞16例、心原性脳塞栓症24例、ラクナ梗塞29例、分類不能15例)について、発症日、第3、7、14病日、および3ヶ月後の5ポイントで静脈採血を行った。年齢・性をマッチさせた福岡県久山町在住の健常者における値をコントロールとし、炎症関連、サイトカイン、増殖・栄養因子、凝固線溶系、糖脂質代謝など、タンパク質100項目の動態について検討し、脳梗塞診断に有用なマーカーを探索した。
【0057】
その結果、脳梗塞診断の高感度マーカーの一つとしてvascular endothelial growth factor(VEGF)を検出した。VEGFは、発症日において既に病型(アテローム血栓性脳梗塞 628±160、心原性脳塞栓症653±205、ラクナ梗塞653±255、分類不能620±266 pg/ml)や重症度(NIHSS)とは無関係に、健常者(455±127 pg/ml)に比べ有意に上昇していた(p<0.0001)。受診者動作特性解析では、カットオフ値480 pg/mlとして感度80% 、特異度78%で脳梗塞を検出できた。高血圧、糖尿病など危険因子の有無や発症前治療の有無とVEGF値は無関係であったが、発症日VEGF値と入院時収縮期血圧(p=0.03)・拡張期血圧(p=0.04)はともに有意な正相関を示した。VEGFは病型とは無関係に3ヶ月後も有意に高値を示し(p<0.0001)、血管新生などの作用は長期に持続していると考えられた。
【0058】
以上より、VEGFは脳梗塞急性期の病態において重要な役割を担っており、その診断のバイオマーカーとして有用である。
【0059】
実施例5
(1)血液中のVEGF濃度による脳梗塞診断の可能性検討
脳梗塞発症直後、発症3日後、7日後、14日後、および3ヵ月後時点の脳梗塞患者132名(アテローム血栓性脳梗塞患者27名、心原性脳塞栓症患者39名、ラクナ梗塞患者39名、分類不能脳梗塞患者27名)と健常者111名から採血を行い、EDTA血漿を取得したのちにRules Based Medicine社に依頼して免疫測定法(Human MapTM v1.6法)を用いてEDTA血漿中のVEGF(vascular endothelial growth factor )濃度を測定した。次に測定値が検出下限を下回った場合には検出下限の1/2の値を、測定値が検出上限を上回った場合には検出上限の2倍の値を補完して、各採血時点において脳梗塞患者と健常者の判別性能を評価するために、Fawcett, T. (2004) ROC Graphs: Notes and Practical Considerations for Researchers に記載の方法に従い ROC 曲線の AUC 値を算出した。その結果、脳梗塞発症直後の脳梗塞患者と健常者の血液中のVEGF濃度でROC曲線を作成して算出したAUC値は0.73となった。同様に、発症後3日後では0.73、7日後では0.78、14日後で0.81、および3ヶ月後では0.77となった。いずれの採血時点においても、AUC値が0.5を大きく上回っており、血液中のVEGF濃度を測定比較することにより、脳梗塞患者と健常者が判別可能であることが示された。
【0060】
(2)血液中のVEGF濃度による予後の予測の可能性
脳梗塞発症直後、発症3日後、7日後、14日後の心原性脳塞栓症患者39名から採血を行い、EDTA血漿を取得したのちにRules Based Medicine社に依頼して免疫測定法(Human MapTM v1.6法)を用いてEDTA血漿中の各蛋白質濃度を測定した。次に測定値が検出下限を下回った場合には検出下限の1/2の値を、測定値が検出上限を上回った場合には検出上限の2倍の値を補完して用いることとした。また、一方で、上記心原性脳塞栓症患者について、発症3ヶ月後に障害の程度を示すmodified Rankin Scale (van Swieten JC, et al., Stroke 1988;19:604-607) を発症3ヵ月後に測定したところ、0〜2の予後良好例が25名、3〜5の予後不良例が14名であった。
各採血時点における予後良好例と予後不良例の判別可能性を評価するために、前述の方法に従い、これらの予後良好例と不良例の各採血時のVEGF濃度についてROC 曲線のAUC 値を算出した。その結果、予後良好例と不良例の発症直後の血液中のVEGF濃度で、ROC曲線を作成して算出したAUC値は0.76となった。同様に、発症後3日後では0.72、7日後では0.68、および14日後で0. 77となった。いずれの採血時点においてもAUC値が0.5を大きく上回っており、発症直後、3日後、7日後、14日後のいずれの時点においても、血液中のVEGF濃度を測定比較することにより発症3ヶ月の予後予測が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の方法によれば脳梗塞の正確な検査や治療・予防効果の評価を行うことができ、医療や診断の分野で有用である。また、本発明の方法によれば脳梗塞の治療・予防薬をスクリーニングすることができ、医薬分野でも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検動物より採取された血液試料中の、α−1アンチトリプシン、α−2マクログロブリン、アポリポプロテイン−A1、アポリポプロテイン−CIII、アポリポプロテイン−H、β−2ミクログロブリン、脳由来神経栄養因子、カルシトニン、癌抗原CA-125、CD40、CD40リガンド、Complement3、クレアチンキナーゼMB、上皮成長因子、ENA-78、エンドセリン−1、EN-RAGE、エオタキシン、エリスロポエチン、FactorVII、脂肪酸結合タンパク質、フェリチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、フィブリノゲン、G-CSF、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、成長ホルモン、ハプトグロブリン、IgA、IGF-1、IgM、IL-10、IL-13、L-15、IL-16、IL-1ra、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、インスリン、レプチン、MCP-1、MDC、MIP-1α、MIP-1β、MMP-2、MMP-3、ミエロペルオキシダーゼ、PAI-1、PAPP-A、前立腺酸性フォスファターゼ、RANTES、血清アミロイドP、SGOT、SHBG、幹細胞因子、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、TIMP-1、組織因子、TNFレセプターII、TNF-α、VCAM-1、VEGFからなる群から選択される1つ以上の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の検査方法。
【請求項2】
被検動物がヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血液試料が血清又は血漿である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
蛋白質量の測定が、免疫測定法により行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の蛋白質の他に、さらに1以上の脳梗塞マーカー量を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
脳梗塞の予防薬もしくは治療薬が投与された脳梗塞の予防もしくは治療を必要とする動物から採取された血液試料中の、α−1アンチトリプシン、α−2マクログロブリン、アポリポプロテイン−A1、アポリポプロテイン−CIII、アポリポプロテイン−H、β−2ミクログロブリン、脳由来神経栄養因子、カルシトニン、癌抗原CA-125、CD40、CD40リガンド、Complement3、クレアチンキナーゼMB、上皮成長因子、ENA-78、エンドセリン−1、EN-RAGE、エオタキシン、エリスロポエチン、FactorVII、脂肪酸結合タンパク質、フェリチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、フィブリノゲン、G-CSF、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、成長ホルモン、ハプトグロブリン、IgA、IGF-1、IgM、IL-10、IL-13、L-15、IL-16、IL-1ra、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、インスリン、レプチン、MCP-1、MDC、MIP-1α、MIP-1β、MMP-2、MMP-3、ミエロペルオキシダーゼ、PAI-1、PAPP-A、前立腺酸性フォスファターゼ、RANTES、血清アミロイドP、SGOT、SHBG、幹細胞因子、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、TIMP-1、組織因子、TNFレセプターII、TNF-α、VCAM-1、VEGFからなる群から選択される1つ以上の蛋白質の量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の予防もしくは治療効果の評価方法。
【請求項7】
被検体と脳梗塞の予防薬または治療薬の候補化合物を接触させた後、該被検体中の、α−1アンチトリプシン、α−2マクログロブリン、アポリポプロテイン−A1、アポリポプロテイン−CIII、アポリポプロテイン−H、β−2ミクログロブリン、脳由来神経栄養因子、カルシトニン、癌抗原CA-125、CD40、CD40リガンド、Complement3、クレアチンキナーゼMB、上皮成長因子、ENA-78、エンドセリン−1、EN-RAGE、エオタキシン、エリスロポエチン、FactorVII、脂肪酸結合タンパク質、フェリチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、フィブリノゲン、G-CSF、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、成長ホルモン、ハプトグロブリン、IgA、IGF-1、IgM、IL-10、IL-13、L-15、IL-16、IL-1ra、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、インスリン、レプチン、MCP-1、MDC、MIP-1α、MIP-1β、MMP-2、MMP-3
、ミエロペルオキシダーゼ、PAI-1、PAPP-A、前立腺酸性フォスファターゼ、RANTES、血清アミロイドP、SGOT、SHBG、幹細胞因子、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、TIMP-1、組織因子、TNFレセプターII、TNF-α、VCAM-1、VEGFからなる群から選択される1つ以上の蛋白質の量を測定する工程を含む、脳梗塞の予防薬または治療薬のスクリーニング方法。
【請求項8】
α−1アンチトリプシン、α−2マクログロブリン、アポリポプロテイン−A1、アポリポプロテイン−CIII、アポリポプロテイン−H、β−2ミクログロブリン、脳由来神経栄養因子、カルシトニン、癌抗原CA-125、CD40、CD40リガンド、Complement3、クレアチンキナーゼMB、上皮成長因子、ENA-78、エンドセリン−1、EN-RAGE、エオタキシン、エリスロポエチン、FactorVII、脂肪酸結合タンパク質、フェリチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、フィブリノゲン、G-CSF、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、成長ホルモン、ハプトグロブリン、IgA、IGF-1、IgM、IL-10、IL-13、L-15、IL-16、IL-1ra、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、インスリン、レプチン、MCP-1、MDC、MIP-1α、MIP-1β、MMP-2、MMP-3、ミエロペルオキシダーゼ、PAI-1、PAPP-A、前立腺酸性フォスファターゼ、RANTES、血清アミロイドP、SGOT、SHBG、幹細胞因子、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、TIMP-1、組織因子、TNFレセプターII、TNF-α、VCAM-1、VEGFからなる群から選択される1つ以上の蛋白質の量を測定し得る試薬を含んでなる、脳梗塞検査用、脳梗塞治療効果評価用、または脳梗塞予防・治療薬候補化合物のスクリーニング用のキット。

【公開番号】特開2011−107116(P2011−107116A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27409(P2010−27409)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(505256685)一般社団法人久山生活習慣病研究所 (8)
【Fターム(参考)】