説明

脳機能改善効果を有するオキナグサ抽出物

【課題】脳機能改善効果を有するオキナグサ抽出物を提供する。
【解決手段】本発明は、β−アミロイドによる神経毒性に対する保護作用、β−アミロイドの生成抑制効果、抗酸化効果、神経細胞増殖効果および減退した記憶力増進に有用な効果を有し、軽度認知障害(MCI)および認知症などの脳機能改善に有用なオキナグサ抽出物とその活性分画物およびこれを含有する脳機能改善用医薬品および健康食品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脳機能改善効果を有するオキナグサ抽出物に関し、更に詳しくは、β−アミロイドによる神経毒性に対する保護作用、β−アミロイドの生成抑制効果、抗酸化効果、神経細胞増殖効果および減退した記憶力増進に有用な効果を有し、軽度認知障害(MCI)および認知症などの脳機能改善に有用なオキナグサ抽出物とその活性分画物およびこれを含有する脳機能改善用医薬品および健康食品に関する。
【0002】
老人人口の増加が韓国を含み世界的傾向となっており、各種退行性老人疾患が社会的および経済的な損失を引き起こしている。最近、米国アルツハイマー協会と米国老化協会(American Aging Association)が発表した統計によると、400万名の米国人が認知症を患っており、一般的に、60歳以降で認知症が発病するが、稀には50代で発病する。米国人の10.3%が認知症を患っており、認知症を治療するのに使用される費用は年間950億ドルである。韓国保健社会研究院の報告書によると、韓国の人口に対する認知症比率が急増し、1995年の認知症有病率は65歳以上の老人中8.3%であり、2020年には0.7%増加した9%に至ると推定されている。また、認知症有病率を統計庁が公開した将来推計人口に適用した結果、2000年の認知症老人数は277,048名(65歳以上の老人人口の8.3%)、2015年は527,068名(9%)、2020年は619,132名(9%)に至るであろうと推定している。認知症は患者自身の人間的な生活だけでなく家族の生活までも荒廃化させる難治性疾患であり、深刻な社会的および経済的問題となっている。
【0003】
軽度認知障害(MSI)は健康状態に比べて記憶力、判断力、学習能力などの認知機能が低下しているが、臨床的に認知症の基準と合わない状態を指す。しかし、最近の臨床研究結果によると、軽度認知障害状態にある患者は認知症に発展する危険度が非常に高いことを示唆している。臨床実験によると、MCIは正常対照群が毎年1〜2%の比率で認知症に転換し、10〜15%の比率で認知症に発展する。従って、認知症の進行を防止するために早期治療が認知症患者において重要である。認知症およびアルツハイマー病は多様な原因により発病し得るが、この疾患の特徴は、β−アミロイドタンパク質が脳細胞の外に沈着し、学習能力と記憶力が著しく減退するという症状が現れる。
【背景技術】
【0004】
アルツハイマー病の治療剤として1993年に初めてFDA公認を受けたタクリン(tacrine)は、初期または中期にアルツハイマー病患者の脳で生成されるアセチルコリンを抑制することで認知機能障害を遅らせることができたが、肝に係る副作用を引き起こすため現在はほとんど使用されていない。1996年に米国FDAの承認を受けたアリセプト(aricept)は、アセチルコリンの利用度を高めることで効果をもたらし、就寝前に一日一回の服用によりその効果を延ばし、副作用として吐き気、下痢、疲労感などがあるが、これらの副作用はひどいものではなく、すぐになくなる。しかし、タクリンもアリセプトもアルツハイマー病自体を完全に治すことはできず、服用期間や効果の継続期間が明確ではないのが実情である。従って、副作用が少なく、優れた効能を有する認知症を治療することのできる医薬品を開発することが切実に必要とされている。
【0005】
一方、オキナグサは双子葉植物であるキンポウゲ科に属する多年生植物であり、様々な名称で呼ばれており、Pulsatillae chinensis(Bge)Reg、P.koreana Nakai、P.cernua Var、P.patensおよび同属植物の乾燥された球根は解熱、収斂、消炎、殺菌などの効果を有する医薬品として使用したり、赤痢などの下痢止め剤として使用し、民間ではマラリアや神経痛の治療にも使用する。しかし、オキナグサが認知症の治療効能を示すという研究は全く報告されたことはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の発明者は、毒性がほとんどなく、β−アミロイドによる神経毒性の保護、β−アミロイドの生成抑制、抗酸化効果、神経細胞の増殖効果および減退した記憶力の増進に効果がある認知症治療剤を開発するために研究を行った結果、オキナグサから有用な抽出物およびその活性分画物を得ることで本発明を完成するに至った。
【0007】
従って、本発明の目的はβ−アミロイドによる神経毒性に対する保護作用、β−アミロイドの生成抑制効果、抗酸化効果、神経細胞の増殖効果および減退した記憶力増進に有用なオキナグサ抽出物またはその活性分画物を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は前記オキナグサ抽出物またはその分画物の製造方法を提供することにある。
【0009】
更に、本発明のまた別の目的は脳機能改善に効果のある前記オキナグサ抽出物またはその分画物を含有する医薬品および健康食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は脳機能改善効果を有するオキナグサ抽出物またはその活性分画物、およびその製造方法をその特徴とする。
【0011】
更に、前記オキナグサ抽出物またはその活性分画物を含有する脳機能改善剤、軽度認知障害(MSI)の予防および治療剤、認知症の予防および治療剤と、脳機能改善用健康食品をその特徴とする。
【0012】
このような本発明を更に詳しく説明すると下記の通りである。
【0013】
本発明は脳機能改善用オキナグサ抽出物に関し、更に詳しくは、β−アミロイドによる神経毒性に対する保護作用、β−アミロイドの生成抑制効果、抗酸化効果、神経細胞の増殖効果および減退した記憶力増進に有用な効果を持ち、軽度認知障害および認知症などの脳機能改善に有用なオキナグサ抽出部とその活性分画物およびこれを含有する脳機能改善用医薬品および健康食品に関する。
【0014】
本発明で原料物質として使用するオキナグサは白頭翁(Pulsatillae chinensis)、朝鮮白頭翁(Pulsatillae koreana)、キバナオキナグサ(Pulsatillae cernua)、プルサティラ・パテンス(Pulsatillae patens)およびキンポウゲ科植物を使用する。このようなオキナグサの主要用途としては消炎、収斂、止血、下痢止め剤がある。
【0015】
本発明は前記オキナグサから下記のような方法により優れた治療効果を有するオキナグサ抽出物およびその分画物を効率的に分離する方法に関し、これを更に詳しく見ると下記の通りである。
【0016】
まず、オキナグサを細かく粉砕した後、生薬の重量に対して約5〜10倍量の低級アルコール、好ましくは炭素数1〜6のアルコール、更に好ましくはメタノールまたはエタノール水溶液を入れる。2〜4回抽出してアルコール抽出液を生成した後、濾過して減圧濃縮し、抽出液内のアルコールを完全に除去し、従って、溶媒分画が容易になされる。原生薬の重量に対して約3〜5倍量(v/w)の蒸留水で抽出物を完全に溶解したり懸濁させる。この時、抽出物を水に完全に溶解させると、多量の水が必要であるが、取り扱いの不便さが伴うため、抽出物を完全に溶解させなくとも下記段階を遂行することができる。同量の水飽和低級アルコールを入れて約10〜20分間、約30〜50rpmで攪拌して層を分離した後、水飽和低級アルコール層を濾過、減圧濃縮して活性分画物を得る。この時、使用される水飽和低級アルコールは低級アルコールの飽和水溶液として、低級アルコールに蒸留水を加えて攪拌させた後、層を分離させ、水飽和低級アルコール層を収集することで得られる。例えば、炭素数1〜6のアルコール、好ましくはプロパノールまたはブタノールが使用可能であり、層の分離は2〜3回実施する。万一、低級アルコールを使用して溶媒分画を得ることにおいて、少量の低級アルコールを使用すると、精製効率が落ち、抽出物の収率および有効成分の含量が低くなり、多量の低級アルコールを使用すると、経済性を低下させる。従って、生薬重量の2〜3倍量(v/w)の低級アルコールを使用することが良い。前記の方法にて製造されたオキナグサの抽出物およびその分画物の活性を試験した結果、β−アミロイドによる神経毒性に対する保護活性において有用な効果を見せた。
【0017】
更に、前記オキナグサの溶媒分画物から活性の極大化と活性成分および化合物の定義のためにオクタデシルシリカレジン(YMC*GEL ODS−A 12nm、S−150m)でカラムクロマトグラフィを行った。前記レジンの量は試料の量の約25倍量を使用し、溶媒は10%(v/v)メタノール水溶液から10%(v/v)ずつメタノールの量を増やしていき、レジン容積の2〜3倍量の溶媒を使用してステップグラジエント方式を採用した。この時、60%(v/v)、70%(v/v)、80%(v/v)メタノール水溶液を溶出させた分画でβ−アミロイドによる神経毒性に対する保護活性が観察され、70%(v/v)メタノール水溶液を溶出させた分画で最も優れた活性を得ることができた。
【0018】
動物実験では、神経伝達物質の伝達を妨害することで記憶力を減退させると知られているスコポラミンおよび薬物を投与しなかった対照群を100%とし、スコポラミン(1mg/kg)を投与した群を0%とした際、スコポラミン投与1時間後にオキナグサ抽出物およびその分画物を投与した時、記憶力増進が見られた。更に、前記実験で活性が最も優れていた活性分画物は過酸化水素とスタウロスポリンにより誘導された毒性に対する阻害効果と、細胞増殖効果およびα−セクレターゼの活性増加を確認し、追加的な動物実験である水迷路テストを通して記憶力の改善効果を確認した。従って、本発明によるオキナグサ抽出物(または分画物)は軽度認知障害(MSI)と認知症の治療に有用であり、脳機能改善用医薬品および健康食品として剤形が可能である。
【0019】
医薬品として製造する際、本発明のオキナグサ抽出物(または分画物)は臨床投与時に経口または非経口にて投与が可能であり、一般的な医薬品製剤の形態に剤形することができる。具体的には、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの典型的な添加剤または賦形剤を使用して製造する。
【0020】
経口投与のための固形製剤には錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤はリグナンとラクトン化合物およびその誘導体に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロースまたはラクトース、ゼラチンなどを添加して調剤する。更に、典型的な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使用される。
【0021】
経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内溶液剤、乳剤、シロップ剤、および単純希釈剤である水、液体パラフィン以外に、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などの様々な賦形剤が使用される。
【0022】
非経口投与のための製剤としては、滅菌された水溶液、非水溶性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤および坐剤が含まれる。例えば、非水溶性溶剤および懸濁剤としてはプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどが使用され得る。坐剤の基剤としてはウィテプソール、マクロゴール、ツイン61、カカオ脂、Sevum Laurinumn、グリセロールゼラチンなどを使用することができる。
【0023】
本発明による有効成分の製剤内の含有量は活性成分の吸収度、不活性化率、排泄速度、患者の年齢、性別および健康状態などによって適切に調節される。
【0024】
本発明のオキナグサ抽出物(または分画物)は約10〜400mg/kgの範囲で投与することが好ましく、更に好ましくは約20〜200mg/kgであり、一日1〜3回投与する。
【0025】
更に、本発明はオキナグサ抽出物(または分画物)を含む軽度認知障害と認知症の治療剤および脳機能改善用健康食品を提供する。健康食品とは、オキナグサ抽出物(または分画物)を一般食品に添加したり、カプセル剤、粉末化、懸濁液などに剤形した食品であり、これを摂取する場合、健康上、特定な効果をもたらすことを意味するが、一般薬品とは異なり、食品を原料として薬品の長期服用時に発生し得る副作用などがないという長所がある。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるオキナグサ抽出物と活性分画物がβ−アミロイドによる神経毒性を防ぎ、β−アミロイド生成抑制、抗酸化効果、神経細胞の増殖効果および学習能力と記憶力の増進効果を表すことで、軽度認知障害と認知症治療および脳機能改善用医薬品および健康食品として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例2によるオキナグサ抽出物および分画物を製造する工程を表すものである。
【図2】オキナグサの各抽出物および分画物を1回経口投与し、スコポラミンによる減退した記憶力を増進させる効果を表すグラフである。
【図3】オキナグサ活性分画物の水迷路学習効果を見るために、6日間180秒内に逃避台に到達するまでの時間を測定する獲得能力において、対照群と分画物の濃度別投与群の結果を表したグラフである。
【図4】水迷路学習の最終日である7日目に逃避台を除去し、逃避台が位置した四分面にとどまる程度を測定する獲得能力において、対照群と分画物の濃度別投与群の結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を下記実施例により更に詳しく説明するが、本発明がこれらに限定されるわけではない。
【実施例】
【0029】
(実施例1)オキナグサの抽出および分画
細かく粉砕した乾燥オキナグサ2kgを50%エタノール14Lに4時間還流しながら抽出し、この工程を2度行った。抽出液を濾過した後、回転蒸発器で50℃の減圧下で濃縮し、その結果として得られた濃縮物に水を添加し、原生薬の重量に対して約5倍量(v/w)となるように懸濁した後、同量の水飽和n−ブタノールと混合して分離装置に入れて放置した後、24時間攪拌して上層のブタノール層のみを分離した。更に2〜3回再分画し、蒸発器を利用してブタノール層と残った層を濃縮した後、真空オーブンで溶媒を完全に除去して乾燥させた。得られた各分画は粉末化した後、−20℃で保管して使用した。
【0030】
(実施例2)オキナグサ分画物の亜分画物の製造
前記実施例1のn−ブタノール分画物に対してオクタデシルシリカレジン(YMC*GEL ODS−A 12nm、S−150m)を使用してカラムクロマトグラフィを行った。レジンの量は試料の量の25倍量である500gを使用し、溶媒は10%(v/v)メタノール水溶液から10%(v/v)ずつメタノール溶液の量を増やしていき、レジンの容積の2〜3倍量の溶媒をステップグラジエント方式を使用した。10個の分画物が得られ、回転蒸発器を利用して濃縮し、真空オーブンで溶媒を完全に除去して乾燥させた。前記10個の分画物は使用するまで−20℃で保管した。
【0031】
(実施例3)β−アミロイドによる神経毒性の阻害率測定方法
前記実施例1で得られたオキナグサ抽出物およびn−ブタノール分画物、前記実施例2で得られた10個の分画物を50%エタノール水溶液に溶解させた後、最終濃度20および4μg/mLとなるように細胞培地(MEM−α)に希釈し、50μLで各細胞を前処理した(EtOH最終濃度0.5%で細胞に対するvehicle effectがないことを確認)。使用した細胞はSK−N−SHヒト神経芽細胞種の細胞株として96ウェルプレートに5×103細胞濃度で分注した(各群当り3ウェル)。2時間後、100%DMSOに溶解されたβ−アミロイドを最終濃度40μMとなるように細胞を処理し、37℃の5%CO2培養器に48時間培養させた。培養が終了した後、細胞の生存率を測定するために、MTT溶液(5mg/mL in PBS)を各ウェル当り25μLずつ処理した後、4時間培養し、MTTが細胞内でホルマザンを形成するようにした。その後、細胞培地を除去し、100%DMSOで細胞を融解させ、ELISAで550nmでUV吸光度を測定した。更に、β−アミロイドおよび薬物を入れなかったグループを対照群とし、この時の細胞生存率を100%とした際、β−アミロイドによる細胞毒性をβ−アミロイド(%)で表し、前記分画物による細胞の生存率(%)を下記表1に表した(各値は3ウェルの平均値を求める)。
【0032】
【表1】

【0033】
前記表1の結果では、50%エタノール抽出物とn−ブタノール分画物で処理した20μg/mLの濃度でSK−N−SH細胞株の細胞生存率は、β−アミロイドによる細胞生存率である68.5%と比較し、78.4%、80.5%と有意性のある水準で表れ、60%、70%および80%メタノール水溶液分画物の場合、各々79.2%、83.6%および81.1%と向上し、β−アミロイドによる神経毒性を非常に抑制することを確認することができた。前記表1に表されるように、70%メタノール水溶液分画物の場合、各々83.6%(20μg/mL)および79.8%(4μg/mL)まで向上させ、β−アミロイドによる神経毒性に対し非常に抑制することを確認することができた。
【0034】
(実施例4)過酸化水素の細胞毒性阻害効果の測定
前記実施例2で得られた70%メタノール水溶液分画物が活性酸素により誘導された毒性に対する阻害効果を調べるために、過酸化水素を250mMの濃度で細胞に処理し、細胞毒性を誘発した後、下記のような実験を行った。
【0035】
使用した細胞はHT22ラット神経芽細胞種の細胞株として96ウェルプレートに5×103細胞濃度で分注した(各郡当り3ウェル)。その後、実験群と対照群に分けて活性分画物を10μg/mLと100μg/mLで処理した後、48時間培養した後、MTT溶液(5mg/mL in PBS)で処理して可溶化し、OD比値(A570/A630)を測定した。更に、過酸化水素または薬物で処理しなかった群を対照群とし、この時の細胞生存率を100%とした際、過酸化水素による細胞毒性を過酸化水素(%)で表し、前記分画物による細胞の生存率(%)を下記表2に表した(各値は3ウェルの平均値を求める)。
【0036】
【表2】

【0037】
前記表2に表されるように、70%メタノール水溶液分画物がHT22細胞株にて過酸化水素による細胞毒性を減少させることを確認することができ、これは前記分画物が抗酸化効果を持っていることを確認した。
【0038】
(実施例5)スタウロスポリン誘導アポトーシスに対する抑制効果の測定
前記実施例4で70%メタノール水溶液分画物が活性酸素による毒性に対する阻害効果を調べた通り、タンパク質キナーゼC経路に影響を及ぼすことで知られたスタウロスポリンを1mMの濃度でHT22細胞を処理し、細胞毒性を誘発した後、下記のような実験を行った。
【0039】
細胞を96ウェルプレートに5×103細胞濃度で分注した後(各群当り3ウェル)、実験群と対照群に分けて活性分画物を10μg/mLと100μg/mLの濃度で処理した後、48時間培養し、MTT溶液(5mg/mL in PBS)で処理して可溶化し、OD比値(A570/A630)を測定した。更に、スタウロスポリンまたは薬物を入れなかった群を対照群とし、この時の細胞生存率を100%とした際、スタウロスポリンによる細胞毒性をスタウロスポリン(%)で表し、前記分画物による細胞の生存率(%)を下記表3に表した。
【0040】
【表3】

【0041】
前記表3に表されるように、70%メタノール水溶液分画物がHT22細胞株にてスタウロスポリンによる細胞毒性を減少させることを確認することができ、これは70%メタノール水溶液分画物が抗酸化効果を持っていることを意味する。
【0042】
(実施例6)細胞増殖効果の確認
70%メタノール水溶液分画物が神経細胞で様々な効果を示し、神経細胞の増殖効果があるのかを調べるために活性分画物により下記のような実験を行った。
【0043】
HT22細胞株の細胞を96ウェルプレートに5×103細胞の濃度で分注した後(各郡当り3ウェル)、実験群と対照群に分け、活性分画物10μg/mLと100μg/mLで48時間処理した後、MTT溶液(5mg/mL in PBS)で処理して可溶化し、OD比値(A570/A630)を測定した。薬物で処理しなかった群を対照群とし、この時の細胞生存率を100%とし、前記分画物による細胞の生存率(%)を下記表4に表した。
【0044】
【表4】

【0045】
前記表4に表されるように、70%メタノール水溶液分画物がHT22細胞株の細胞増殖活性を持つことを確認することができた。
【0046】
(実施例7)α−セクレターゼ活性の増加
認知症の主要原因物質であるβ−アミロイドはアミロイド前駆体タンパク質(APP)がα−セクレターゼにより加工されて製造される。正常な場合、APPはα−セクレターゼによりsAPPα(secreted amyloid precusor protein)に加工される。β−アミロイドによる毒性は神経細胞の壊死を誘発する反面、sAPPαは神経細胞の増殖を促進するなどの神経栄養活性を有する。従って、α−セクレターゼの活性は認知症の予防と治療において重要である。
【0047】
前記実施例2で得られた70%メタノール水溶液分画物が前述したAPP加工に及ぼす影響を調べるために、APPを大量発現するW4細胞株を利用して下記のような実験を行った。
【0048】
W4細胞株に70%メタノール水溶液分画物を処理し、12時間培養した後、培養液をTCAで濃縮してウエスタンブロットを行った後、バンドを密度法で定量して培養液内のsAAPαの量を測定した。sAAPαはα−セクレターゼによりAPPのタンパク質を分解することで出る産物として、sAPPαの量がα−セクレターゼの活性を間接的に確認させてくれる。この時、陽性対照群としてはα−セクレターゼの活性誘導剤であるPDBu(Phorbol 12,13-dibutyrate)で最終濃度が1mMとなるように処理した細胞培養液を濃縮して使用した。何も処理しなかった細胞培養液のsAPPαの量を基準として各実験群のsAPPαの量を比較してα−セクレターゼの活性を表示した。
【0049】
【表5】

【0050】
前記表5に表されるように、70%メタノール水溶液分画物がW4細胞株のα−セクレターゼの活性を増加させることを確認することができ、これはα−セクレターゼの活性の増加およびこれによるsAPPαの量の増加は認知症誘導物質であるβ−アミロイドの生成が減少したことを意味する。
【0051】
(実施例8)受動回避テスト
前記結果によると、オキナグサ抽出物と活性分画物がin vitroでβ−アミロイドによる細胞毒性を阻害する効果があるため、β−アミロイドによる細胞毒性が主な原因であると知られているアルツハイマー病の症状を改善させる効果があると予測される。そこで、実際に生体内でオキナグサ抽出物と分画物が認知症の主要症状である記憶力減退に効果があるかを調べるために、実施例1と2で得られたオキナグサ抽出物および分画物との受動回避テストを行った。
【0052】
実験装置は横×縦×高さが50×15×40cmであるシャトルボックスを利用した。この箱は仕切りドアを利用して二つの部屋に分けられており、一方の部屋は照明があり明るい部屋を作り、もう一方の部屋は暗幕で覆って暗い部屋を作り、二つの部屋で照明の効果を異にするようにした。
【0053】
まず、明るい部屋にラットを入れて照明をつけ、仕切り門を開いてやるとラットは暗い所を探して入っていく本能により、20秒以内に暗い部屋へ入っていき、ラットが暗い部屋に移動してすぐさま仕切り門を閉めた。このようにラットが明るい部屋から暗い部屋に入っていくまでの時間を到達時間として測定するが、全てのラットが20秒内に入っていくように訓練課程を実験初日に実施した。その翌日、上記の訓練を経たラットを再び明るい部屋に入れて照明を点けて暗い部屋に入るようにする。この時、暗い部屋の床に設置された電気網を通して3秒間0.8mAの電気刺激を与えると、ラットは足の裏にショックを受ける。
【0054】
このような認識試行を行い、24時間が過ぎた後、再びラットを明るい部屋に入れて照明を点け、暗い部屋に誘導した時、正常的なラットは前日のショックを記憶し、暗い部屋に入ることを躊躇する。この時の到達時間を300秒を最大として再び測定した。
【0055】
前記実験において、スコポラミンまたは薬物を投与しなった対照群を100%とし、神経伝達物質の伝達妨害を通して記憶力を減退させることで知られているスコポラミン(1mg/mL)を投与した群を0%とした際、スコポラミン投与後、1時間後にオキナグサ抽出物を投与した群の記憶力増進効果を測定した。
【0056】
その結果、対照群に比べてオキナグサ抽出物と分画物が脳でアセチルコリンの伝達を妨害するスコポラミンによる記憶力減退を防ぐ効果があることを確認することができた。
【0057】
対照薬物としてタクリンを使用し、30mg/Lの量を経口投与する場合、35%の記憶力減退を防ぐ効果を示し、前記実施例1で得られたオキナグサ抽出物とブタノール分画物は200mg/Lを経口投与した際、各々31.9%、35.2%の活性を見せ、前記実施例2で得られた60%、70%および80%メタノール水溶液分画物は100mg/Lを経口投与した際、各々39.4%、48.6%および41.8%と有意性のある活性を見せた。前記実施例2で得られたオキナグサ抽出物の70%メタノール水溶液分画物は150mg/Lを経口投与した際、57.1%と有意性のある活性を見せた。
【0058】
このような結果から見て、オキナグサ抽出物と分画物が軽度認知障害と認知症疾患の症状から観察される減退された記憶力を増進させる効果があることを確認することができた。
【0059】
(実施例9)水迷路テスト
オキナグサ抽出物および分画物が減退した記憶力を増進させる効果を確認した後、学習能力および長期記憶能力にも効果があるのかを調べるために、水迷路テストを行った。
【0060】
実験ラットをペントバルビタールナトリウム(50mg/kg、i.p.) で麻酔した後、定位法(stereotaxic technique)を利用して内側中隔(AP:−0.2、L:±0.3、H:−6.2)の位置に192サポリン1μgを両側に注入した。翌日から実施例2で得た70%メタノール水溶液分画物を0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)に製造し、実験群に50、100および200mg/kgの容量を滅菌したラット用鉄製経口注入器で3週間、毎日経口投与した。水迷路として利用される水槽は高さ50cmの円筒形であり、22±2℃の水が30cmの高さまで満たされており、ビデオカメラ、実験台、実験台上の水温調節用装置などの空間装置は一定位置に維持した。逃避台は直径12cmの円形の透明アクリルを付着し、水面より1.5cm低く位置させた。水迷路は北東、北西、南東、南西の4個の同一の四分円からなり、逃避台は北東の四分円の中心に置かれ、残りの一つを出発位置に使用した。更に、1日に4度ずつ7日間訓練させ、7日目の最終日が終わると、自由水泳検査試行が挿入され、この時、動物は逃避台が除去された状態で60秒間水泳させた。実験動物の行動はビデオカメラで録画され、訓練試行では出発所から逃避台に上がるまでにかかった時間を測定し、60秒間の検査試行では訓練時に逃避台があった四分円にとどまった時間を測定した。
【0061】
水迷路学習において、6日間180秒内に逃避台に到達する前の時間を測定する獲得能力で、1日目対照群は144.3±7.2秒、実施例2の70%メタノール水溶液分画物50mg/kg投与群は154.9±9.4秒、100mg/kg投与群は130.8±21.7秒、200mg/kg投与群は135.8±11.9秒であり、集団間の差は見られなかった。しかし、200mg/kg投与群の逃避台到達所要時間が78.1±23.0秒であり、対照群に比べて有意な差を見せた(P<0.05)(図3)。
【0062】
更に、水迷路学習の最終日である7日目に逃避台を除去し、逃避台が位置していた四分面にとどまる程度を測定する獲得能力において、対照群は21.8±1.8%、実施例2の70%メタノール水溶液分画物50mg/kg投与群は29.6±3.4%、100mg/kg投与群は32.1±4.7秒、200mg/kg投与群は38.8±7.6秒であり、70%メタノール水溶液分画物200mg/kg薬物投与群が対照群に比べて逃避台があった四分面にとどまる程度に有意な差が見られた(P<0.5)(図4参照)。従って、オキナグサの活性分画物が空間学習および記憶力増加に効果があることを確認することができた。
【0063】
このような結果から見て、オキナグサ抽出物の活性分画物が軽度認知障害と認知症のような主症状で見られる減退した記憶力と低下した学習能力を増進させる効果があることを確認することができた。
【0064】
(実施例10)毒性実験
活性分画物の1度の経口投与による毒性を調査するために、各性別のSD系ラット5匹ずつに実験物質2,000mg/kgおよび1,000mg/kg投与群と賦形剤投与対照群を設定し、2週間の死亡率、一般症状、体重変化および剖検所見を観察した。その結果、死亡動物は観察されず、一般症状において試験物質の投与と係るあらゆる異常症状も観察されなかった。更に、体重変化において試験物質の投与と係るあらゆる異常症状も観察されなかった。剖検所見でもまた、試験物質と係る異常所見は観察されなかった。以上の結果から見て、活性分画物のラットに対する1度の経口投与時には一般症状、体重変化および剖検所見で全くの変化も見せず、死亡動物も観察されず、最小致死量はメスオス全て2,000mg/kgを上回ることが判断された。更に、活性分画物の4週反復経口投与を1度の経口投与のような方法にて2,000mg/kg投与群を最高容量群に設定し、1,000mg/kg投与群と500mg/kg投与群および100mg/kg投与群を設定し、ラットに実験した結果、死亡動物が観察されず、剖検所見でも試験物質の投与と係る異常所見は観察されなかった。
【0065】
(製造例1)粉末およびカプセル剤の製造
オキナグサ抽出物(または活性分画物)100mgをラクトース14.8mg、結晶性セルロース3mg、ステアリン酸マグネシウム0.2mgと共に混合した。混合物を適当な装置を使用してNo.5ゼラチンカプセルに充填した。
【0066】
(製造例2)注射液剤の製造
オキナグサ抽出物(または活性分画物)50mg、マンニトール180mg、Na2HPO4・12H2O 26mgおよび蒸留水2,974mgを混合して注射剤を製造した。
前記溶液を瓶に入れて20℃で30分間加熱して滅菌処理した。
【0067】
(製造例3)健康食品の製造
1日服用基準でオキナグサ抽出物(または活性分画物)0.3g、粉末ビタミンE、乳酸鉄、酸化亜鉛、ニコチン酸アミド、ビタミンA、ビタミンB1およびビタミンB2を混合して製造した。
【0068】
前記健康食品の構成成分は下記の通りである(ヒト1日服用量基準)。
有効成分 300mg
朝鮮人参抽出物 100mg
緑茶抽出物 100mg
ビタミンC 100mg
粉末ビタミンE 120mg
乳酸鉄 2mg
酸化亜鉛 2mg
ニコチン酸アミド 20mg
ビタミンA 5mg
ビタミンB1 2mg
ビタミンB2 2mg
とうもろこし澱粉 200mg
ステアリン酸マグネシウム 20mg

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキナグサ抽出物を含有することを特徴とする脳機能改善用薬剤組成物。
【請求項2】
前記オキナグサが、白頭翁(Pulsatillae chinensis)、朝鮮白頭翁(Pulsatillae koreana)、キバナオキナグサ(Pulsatillae cernua)、プルサティラ・パテンス(Pulsatillae patens)または同属植物を含むことを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(a)オキナグサ抽出物を低級アルコール水溶液で抽出してアルコール抽出物を収得する工程、
(b)前記アルコール抽出物を減圧下で濃縮した後、水飽和低級アルコールで層分離してアルコール分画物を収得する工程、および
(c)前記アルコール分画物をカラムクロマトグラフィで精製し、活性分画物を収得する工程とからなることを特徴とする活性分画物の製造方法。
【請求項4】
前記クロマトグラフィで精製する際、溶出溶媒として60〜80%メタノール水溶液を使用することを特徴とする、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項3による各々の抽出精製段階で得られた収得物を含有することを特徴とする脳機能改善用医薬品。
【請求項6】
請求項3による各々の抽出精製段階で得られた収得物を含有することを特徴とする軽度認知障害の予防および治療剤。
【請求項7】
請求項3による各々の抽出精製段階で得られた収得物を含有することを特徴とする認知症の予防および治療剤。
【請求項8】
オキナグサ抽出物を含有することを特徴とする脳機能改善用健康食品。
【請求項9】
請求項3による各々の抽出精製段階で得られた収得物を含有することを特徴とする脳機能改善用健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246311(P2012−246311A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195297(P2012−195297)
【出願日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【分割の表示】特願2007−553994(P2007−553994)の分割
【原出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(500116041)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (49)
【Fターム(参考)】