説明

脳波処理装置、脳波処理方法、およびプログラム

【課題】従来、波形数が未知の場合や3つ以上の場合に使用可能な一般的な脳波波形推定手法がなかった。
【解決手段】1以上の脳波情報を取得する脳波情報取得部と、現在波形数を用いて、1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間を取得する遅れ時間推定部と、遅れ時間を用いて推定される1以上の波形を取得する波形推定部と、遅れ時間および1以上の波形を用いて1以上の各チャンネルの脳波に対する残差の分布を取得し、分布を用いて現在波形数の確からしさを評価する現在波形数評価部と、現在波形数が確からしくないとの評価である場合現在波形数をインクリメントして、新たな現在波形数を取得し、遅れ時間推定部、波形推定部、および現在波形数評価部の処理を繰り返し、現在波形数が確からしいとの評価である場合遅れ時間と波形等を出力する出力部を具備する脳波処理装置により、一般的な脳波測定の手法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波の情報を処理する脳波処理装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳波には、視覚誘発電位のように、試行間で共通した波形(以後これを「波形」とよぶ)が存在することが知られている。従来、こうした波形は主に加算平均法によって推定されてきた。しかし、波形が2つ以上ありそれらが時間的に重なっている、もしくは感覚刺激を呈示してから波形が出現するまでの時間(以後これを「波形の遅れ時間」とよぶ)が未知な場合には、加算平均法では波形を正確に推定することが困難であった。
【0003】
かかることに鑑み、波形が2つある場合に単チャンネル脳波から波形を推定する手法が開発されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。これらの手法は、2つの波形が時間的に重なっている、もしくは波形の遅れ時間が未知な場合にも使用可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Takeda, K. Yamanaka, Y. Yamamoto, Temporal decomposition of EEG during a simple reaction time task into stimulus- and response-locked components, NeuroImage,vol.39, pp.742-754, 2008.
【非特許文献2】Y. Takeda, K. Yamanaka, D. Nozaki, Y. Yamamoto, Extracting a stimulus-unlocked component from EEG during NoGo trials of a Go/NoGo task, NeuroImage vol.41, pp.777-788, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、波形が3つ以上存在する場合に使用可能な波形推定手法はない。一般に、波形数は未知であり3つ以上である可能性は否定できない。
【0006】
そこで本願発明において、波形数が未知の場合に波形数に関わらず使用可能な、一般的な脳波波形推定の手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の手法は、任意のチャンネル数の脳波から、波形の数、波形の遅れ時間、そして全ての波形を推定する。具体的には、本願の課題を解決するための手段は、以下である。
【0008】
本第一の発明の脳波処理装置は、初期の波形の数である初期波形数を格納している初期波形数格納部と、1以上の脳波に関する情報である脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する脳波情報取得部と、初期波形数を現在波形数として、現在波形数を用いて、1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間(τ)を取得する遅れ時間推定部と、遅れ時間推定部が取得した遅れ時間(τ)を用いて、推定される1以上の波形を取得する波形推定部と、遅れ時間推定部が取得した遅れ時間(τ)および波形推定部が取得した1以上の波形を用いて、取得された1以上の各チャンネルの脳波(y(ch)(t))に対する残差の分布を取得し、分布を用いて、現在波形数の確からしさを評価する現在波形数評価部と、現在波形数評価部の評価結果が、現在波形数が確からしくないとの評価である場合、現在波形数をインクリメントして、新たな現在波形数を取得し、遅れ時間推定部に、新たな現在波形数を用いて、脳波情報から推定され得る新たな遅れ時間(τ)を取得するように指示し、波形推定部に、新たな遅れ時間(τ)を用いて、推定される波形を取得するように指示し、現在波形数評価部に、新たな現在波形数の確からしさを評価するように指示する制御部と、現在波形数評価部の評価結果が、現在波形数が確からしいとの評価である場合、遅れ時間推定部が最後に取得した遅れ時間(τ)と、波形推定部が最後に取得した波形と、新たな現在波形数のうち1以上の情報を出力する出力部とを具備する脳波処理装置である。
【0009】
かかる構成により、波形数が未知の場合に波形数に関わらず使用可能な一般的な脳波波形推定の手法を提供できる。
【0010】
また、本第二の発明の脳波処理装置は、第一に対して、1以上のチャンネルの脳波(y(ch)(t))を取得する脳波取得部をさらに具備し、脳波情報取得部は、脳波取得部が取得した1以上のチャンネルの各脳波を離散フーリエ変換し、1以上の脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する脳波処理装置である。
【0011】
かかる構成により、波形数が未知の場合に波形数に関わらず使用可能な一般的な脳波波形推定の手法を提供できる。
【0012】
また、本第三の発明の脳波処理装置は、第一または第二に対して、脳波情報(Y(ch)(ω))は、後述する数式2であり、遅れ時間推定部は、後述する数式3により、遅れ時間(τ)を取得し、波形推定部は、後述する数式4により、波形を取得する脳波処理装置である。
【0013】
かかる構成により、波形数が未知の場合に波形数に関わらず使用可能な一般的な脳波波形推定の手法を提供できる。
【0014】
また、本第四の発明の脳波処理装置は、第一から第三いずれかに対して、現在波形数評価部は、コルモゴロフ−スミルノフ検定により、現在波形数の確からしさを評価する脳波処理装置である。
【0015】
かかる構成により、波形数が未知の場合に波形数に関わらず使用可能な一般的な脳波波形推定の手法を提供できる。
【0016】
また、本第五の発明の脳波処理装置は、第一から第四いずれかに対して、出力部が出力した遅れ時間(τ)、波形、新たな現在波形数のうちの1以上の情報から1以上の特徴量を取得する特徴量取得部と、特徴量取得部が取得した1以上の特徴量を用いて、脳波の発生主であるユーザの意図を決定する意図決定部と、意図を出力する意図出力部とをさらに具備する脳波処理装置である。
【0017】
かかる構成により、被験者の脳波から当該被験者の意図を抽出できる。
【0018】
また、本第六の発明の脳波処理装置は、第五に対して、意図決定部は、1以上の特徴量と意図の組である学習データを1以上格納し得る学習データ格納手段と、1以上の学習データに、特徴量取得部が取得した1以上の特徴量を適用して、線形判別法によって意図を決定する意図取得手段とを具備する脳波処理装置である。
【0019】
かかる構成により、被験者の脳波から当該被験者の意図を、精度高く抽出できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明による脳波処理装置によれば、波形数に関わらず使用可能な一般的な脳波波形推定の手法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態1における脳波処理装置1を含む全体システムの概念図
【図2】同脳波処理装置1のブロック図
【図3】同評価アルゴリズムの概念を示した図
【図4】同脳波処理装置の動作について説明するフローチャート
【図5】同意図出力処理の動作について説明するフローチャート
【図6】同脳波処理装置の意図識別処理の概念図
【図7】同脳波処理装置のシミュレーション結果を示す図
【図8】同コンピュータシステムの概観図
【図9】同コンピュータシステムのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、脳波処理装置等の実施形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態において同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
【0023】
(実施の形態1)
【0024】
本実施の形態において、波形の数の初期値(通常、「1」)を取得し、遅れ時間を推定し、波形を推定し、波形の数の評価を行い、評価結果に応じて波形の推定処理を進める脳波処理装置について説明する。また、本実施の形態において、いわゆるBMIとして動作し、被制御機器を制御する脳波処理装置等について説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態における脳波処理装置1を含む全体システムの概念図である。全体システムは、脳波取得装置0、脳波処理装置1、および被制御機器2を有する。脳波取得装置0は、ここでは、例えば、脳波計である。脳波取得装置0は、通常、脳波を取得するためのチャンネルを2以上有する。また、脳波処理装置1は、後述する脳波の処理を行う。脳波の処理とは、好ましくは被験者の意図の出力である。被制御機器2は、脳波処理装置1が脳波の処理を行った結果を受け付けて、動作する機器(例えば、ロボットや電子機器など)である。脳波取得装置0は公知の装置である。被制御機器2は、外部からの指示に応じて動作する機器であれば何でも良く、公知の装置である。なお、脳波処理装置1は、脳波取得装置0を含んでいても良いし、脳波取得装置0から脳波を取得するなどしても良い。
【0026】
図2は、本実施の形態における脳波処理装置1のブロック図である。脳波処理装置1は、初期波形数格納部100、脳波取得部101、脳波情報取得部102、遅れ時間推定部103、波形推定部104、現在波形数評価部105、制御部106、出力部107、特徴量取得部108、意図決定部109、意図出力部110を具備する。意図決定部109は、学習データ格納手段1091、意図取得手段1092を具備する。
【0027】
初期波形数格納部100は、初期の波形の数である初期波形数を格納している。初期波形数とは、通常、「1」である。ここで、格納とは、記憶媒体に格納されていることが通常であり、プログラム中に埋め込まれていても良いことは言うまでもない。
【0028】
初期波形数格納部100は、不揮発性の記録媒体が好適であるが、揮発性の記録媒体でも実現可能である。初期波形数格納部100に初期波形数が記憶される過程は問わない。例えば、記録媒体を介して初期波形数が初期波形数格納部100で記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信された初期波形数が初期波形数格納部100で記憶されるようになってもよく、あるいは、入力デバイスを介して入力された初期波形数が初期波形数格納部100で記憶されるようになってもよい。
【0029】
脳波取得部101は、1以上のチャンネルの脳波(y(ch)(t))を取得する。ここで、(y(ch)(t))は、チャンネルch試行nの脳波である。また、(y(ch)(t))は、以下の数式1で表現され得る。
【数1】

【0030】
数式1において、s(ch)(t)は、チャンネルchのk番目の波形を示す。
【0031】
また、数式1において、τn,kは試行nのs(ch)(t)の遅れ時間である。また、v(ch)(t)はチャンネルch試行nのノイズ成分である。Kは波形の数を表す。さらに、数式1において、Τは時間長、CHはチャネル数である。
【0032】
脳波取得部101は、脳波を取得する装置で実現され、公知の技術である。脳波取得部101は、例えば、脳波計である。また、脳波取得部101は、例えば、脳波取得装置0や外部の記憶装置などの外部の装置から、脳波を受け付ける装置である。脳波取得部101は、例えば、無線または有線の通信手段により実現され得る。
【0033】
脳波情報取得部102は、1以上の脳波に関する情報である脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する。脳波情報取得部102は、例えば、取得された1以上のチャンネルの脳波(y(ch)(t))を離散フーリエ変換して、1以上の脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する。ただし、脳波情報取得部102は、脳波(y(ch)(t))を離散フーリエ変換された脳波情報を取得することは必須ではない。脳波情報取得部102は、時間遅れを掛算に変換する他の方法で変換された脳波情報を取得しても良い。例えば、脳波情報取得部102は、脳波(y(ch)(t))をz変換された脳波情報を取得しても良い。なお、離散フーリエ変換を利用することは、簡単に波形推定ができ、好適である。また、波形を推定する方法として、例えば、FIR(Finite Impulse Response)モデルを仮定してシステム同定する方法が考えられる。これは、脳波情報取得部102が推定する波形(s(ch)(t))を外部入力に対するインパルス応答とみなし、脳波を出力とみなすことである。なお、脳波情報取得部102は、外部入力を、遅れ時間(τ)をもとに作成する。そして、脳波情報取得部102は、出力として、エポック毎に切り出す前の長い連続した脳波データを用意する。次に、脳波情報取得部102は、入力と出力からシステム同定の手法を用いてインパルス応答を推定する。
【0034】
また、脳波情報(Y(ch)(ω))は、例えば、数式2で表される。また、離散フーリエ変換や、FIR(Finite Impulse Response)モデルを仮定してシステム同定する方法は公知技術であるので、詳細な説明を省略する。さらに、脳波情報取得部102は、記録媒体に格納されている脳波情報を読み出す処理を行っても良いし、外部から通信手段を用いて脳波情報を受信しても良い。
【数2】

【0035】
数式2において、Y(ch)(ω)、S(ch)(ω)、V(ch)(ω)は、それぞれy(ch)(t)、s(ch)(t)、v(ch)(t)の離散フーリエ変換した結果を表す。また、数式2において、E(ω,τ)は、位相のずれを示す行列である。
【0036】
脳波処理装置1は、Y(ch)(ω)から、遅れ時間τ[τn,k(n=1,・・・,N;k=1,・・・,K)]、波形S(ch)(ω)、およびその次元Kを取得する。
【0037】
脳波情報取得部102は、脳波取得部101が取得した1または2以上のチャンネルの各脳波を離散フーリエ変換し、1以上の脳波情報(Y(ch)(ω))を取得することは好適である。
【0038】
脳波情報取得部102は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。脳波情報取得部102の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0039】
遅れ時間推定部103は、最初、初期波形数を現在波形数として、当該現在波形数を用いて、1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間(τ)を取得する。また、遅れ時間推定部103は、後述する制御部106によって、インクリメントされた現在波形数を用いて、1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間(τ)を取得する。
【0040】
さらに具体的には、遅れ時間推定部103は、例えば、数式3により、遅れ時間(τ)を取得する。つまり、遅れ時間推定部103は、例えば、数式3の情報を格納しており、当該数式3に、現在波形数(K)を代入し、最小二乗法により、遅れ時間(τ)の値を推定する。推定されたτはτハット(^)である。
【0041】
また、遅れ時間推定部103は、ランダムサーチ法により、τをゆらがし、τハット(^)を得ることは好適である。ランダムサーチ法は、公知技術であるので、詳細な説明を省略する。さらに、数式3のY(ch)(ω)、E(ω,τ)については、上述した通りである。
【数3】

【0042】
遅れ時間推定部103は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。遅れ時間推定部103の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0043】
波形推定部104は、時間推定部が取得した遅れ時間(τ)を用いて、推定される1以上の波形を取得する。波形推定部104は、例えば、数式4を用いて、波形を取得する。なお、数式4は、数式5および数式6から取得され得る。波形推定部104は、例えば、数式4の情報を予め格納している。そして、波形推定部104は、数式4に、時間推定部が取得した遅れ時間(τ)とY(ch)(ω)とを代入し、S(ch)(ω)(^は省略)を得る。このS(ch)(ω)(^は省略)は、推定された波形である。
【数4】

【数5】

【数6】

【0044】
波形推定部104は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。波形推定部104の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0045】
現在波形数評価部105は、遅れ時間推定部103が取得した遅れ時間(τ)および波形推定部104が取得した1以上の波形を用いて、取得された1以上の各チャンネルの脳波(y(ch)(t))に対する残差の分布を取得し、分布を用いて、現在波形数の確からしさを評価する。なお、残差は、数式7により算出できる。
【数7】

【0046】
また、2以上の各チャンネルの脳波が存在する場合、現在波形数評価部105は、SN比が一定の条件を満たすほど高い一のチャンネルを選択し、当該チャンネルの脳波(y(ch)(t))に対する残差の分布を取得し、当該分布を用いて、現在波形数の確からしさを評価しても良い。なお、現在波形数評価部105は、SN比が一定の条件を満たすことを、例えば、加算平均波形のピークの振幅から判断する。
【0047】
また、2以上の各チャンネルの脳波が存在する場合、現在波形数評価部105は、全チャンネルの刺激前の残差(標本X)を取得し、かつ、全チャンネルの刺激後の残差(標本Y)を取得し、前記標本Xと前記標本Yとの分布が異なるか検定して、現在波形数の確からしさを評価しても良い。
【0048】
また、2以上の各チャンネルの脳波が存在する場合、現在波形数評価部105は、各チャンネルの脳波(y(ch)(t))に対する残差の分布を取得し、当該分布を用いて、全チャンネルの残差の分布に対して、現在波形数の確からしい場合に現在波形数の確からしいと評価し、一のチャンネルの残差の分布に対して、現在波形数の確からしくない場合には現在波形数が確からしくないと評価しても良い。
【0049】
現在波形数評価部105は、例えば、コルモゴロフ−スミルノフ検定(Kolmogorov-Smirnov test)を用いて、現在波形数の確からしさを評価することは好適である。ただし、現在波形数評価部105は、分布を評価する他の検定、例えば、T検定やΧ検定を用いても良い。現在波形数評価部105は、例えば、コルモゴロフ−スミルノフ検定を用いて、残差の分布が刺激の前後で異なる場合は、予め決められた条件を満たさない(現在波形数が確からしくない)と評価し、残差の分布が刺激の前後で同一の場合は、予め決められた条件を満たす(現在波形数が確からしい)と評価する。かかる評価アルゴリズムの概念を示した図が、図3である。
【0050】
なお、コルモゴロフ−スミルノフ検定は、以下の数式8、数式9、および数式10を用いて行われる。つまり、現在波形数評価部105は、I(u<=v)=1(u<=v);=0(u>v)とおくとき、標本Xの経験分布関数として、数式8を用いて、Fm(x)を算出する。なお、標本Xは、刺激前(t<t)の値の集合である。
【0051】
次に、現在波形数評価部105は、標本Yの経験分布関数として、数式8を用いて、Gn(x)を算出する。なお、標本Yは、刺激後(t>=t)の値の集合である。また、Gn(x)は、数式8のmをnに変更し、XをYに変更して適用し、得られる。
【0052】
そして、現在波形数評価部105は、取得したFm(x)、Gn(x)を、数式9に代入し、dmnを得る。
【0053】
次に、現在波形数評価部105は、取得したdmnから数式10に基づいてp値を算出する。p値は、√(mn/N)dmn[()内が平方根の中に入る]を数式10の右辺のzに代入することにより得られる。また、p値は、例えば、MATLABのkstest2.mという関数を使って得る。なお、MATLABは、アメリカ合衆国のMathWorks社が開発している数値解析ソフトウェアであり、公知の技術である。
【0054】
そして、現在波形数評価部105は、p値<予め決められた値(例えば、「0.05」)であれば刺激前後で残差の分布が異なる(現在波形数の確からしくない)と評価し、p値>=予め決められた値であれば刺激前後で残差の分布が同じである(現在波形数の確からしい)と評価する。なお、現在波形数評価部105は、数式8から数式10の情報を予め保持している、とする。
【数8】

【0055】
なお、数式8において、I(u<=v)=1(u<=v);=0(u>v)である。Xは、i番目の標本の値である。xは、標本Xのとる値である。mは、標本数である。
【数9】

【数10】

【0056】
なお、数式10において、Nは、m+nである。zは、√(mn/N)dmn[()内が平方根の中に入る]のとる値である。
【0057】
現在波形数評価部105は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。現在波形数評価部105の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0058】
制御部106は、現在波形数評価部105の評価結果が、現在波形数が確からしくないとの評価である場合、現在波形数をインクリメントして、新たな現在波形数を取得し、遅れ時間推定部103に、新たな現在波形数を用いて、脳波情報から推定され得る新たな遅れ時間(τ)を取得するように指示する。そして、次に、制御部106は、波形推定部104に、新たな遅れ時間(τ)を用いて、推定される波形を取得するように指示する。さらに、次に、制御部106は、現在波形数評価部105に、新たな現在波形数の確からしさを評価するように指示する。インクリメントとは、通常、「1」のインクリメントである。つまり、制御部106は、現在波形数が確からしいとの評価になるまで、現在波形数をインクリメントしながら、新たな現在波形数を取得し、遅れ時間推定部、波形推定部、および現在波形数評価部の処理を繰り返させる制御を行う。なお、この制御は、例えば、プログラム中で、遅れ時間推定部に対応するプログラム(関数やメソッドなど)、波形推定部に対応するプログラム(関数やメソッドなど)、現在波形数評価部に対応するプログラム(関数やメソッドなど)を呼び出す処理でも良いし、遅れ時間推定部に対応するオブジェクト、波形推定部に対応するオブジェクト、現在波形数評価部に対応するオブジェクトにメッセージを送信するなどの処理などでも良い。
【0059】
制御部106は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。制御部106の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0060】
出力部107は、現在波形数評価部105の評価結果が、現在波形数が確からしいとの評価である場合、遅れ時間推定部103が最後に取得した遅れ時間(τ)と、波形推定部104が最後に取得した波形と、最新の現在波形数とを出力する。なお、出力部107は、波形推定部104が最後に取得した波形と、最新の現在波形数のみを出力しても良い。また、出力部107は、遅れ時間(τ)と、波形と、最新の現在波形数のうちのいずれかの情報を出力しても良い。ここでの出力とは、ディスプレイへの表示、プロジェクターを用いた投影、プリンタへの印字、音出力、外部の装置への送信、記録媒体(例えば、学習データ格納手段1091)への蓄積、他の処理装置(例えば、被制御機器2)や他のプログラムや他の処理部などへの処理結果の引渡しなどを含む概念である。
【0061】
出力部107は、ディスプレイやスピーカー等の出力デバイスを含むと考えても含まないと考えても良い。出力部107は、出力デバイスのドライバーソフトまたは、出力デバイスのドライバーソフトと出力デバイス等で実現され得る。
【0062】
特徴量取得部108は、出力部107が出力した遅れ時間(τ)、波形、新たな現在波形数のうちの1以上の情報を用いて1以上の特徴量を取得する。特徴量取得部108は、遅れ時間(τ)、波形、新たな現在波形数以外の情報をも用いて、1以上の特徴量を取得しても良い。特徴量取得部108は、例えば、学習されている1以上の各脳波から得られたS(ch)(ω)によって再構成される脳波と実際の脳波との距離を算出し、当該距離を特徴量とする。その他、例えば、再構成される脳波と実際の脳波との相関係数などを特徴量としても良い。なお、再構成される脳波と実際の脳波との相関係数を取得する処理は公知技術であるので詳細な説明を省略する。また、特徴量の内容は問わないことは言うまでもない。
【0063】
特徴量取得部108は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。特徴量取得部108の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0064】
意図決定部109は、特徴量取得部108が取得した1以上の特徴量を用いて、脳波の発生主であるユーザの意図を決定する。
【0065】
意図決定部109は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。意図決定部109の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0066】
学習データ格納手段1091は、1以上の特徴量と意図の組である学習データを1以上格納し得る。学習データ格納手段1091は、不揮発性の記録媒体が好適であるが、揮発性の記録媒体でも実現可能である。
【0067】
学習データ格納手段1091に学習データが記憶される過程は問わない。例えば、記録媒体を介して学習データが学習データ格納手段1091で記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信された学習データが学習データ格納手段1091で記憶されるようになってもよく、あるいは、入力デバイスを介して入力された学習データが学習データ格納手段1091で記憶されるようになってもよい。
【0068】
意図取得手段1092は、1以上の学習データに、特徴量取得部108が取得した1以上の特徴量を適用して、意図を決定する。意図取得手段1092は、例えば、1以上の学習データに、特徴量取得部108が取得した1以上の特徴量を適用して、線形判別法により、意図を決定する。線形判別法とは、例えば、フィッシャーの線形判別法であるが、他の線形判別法でも良い。また、意図取得手段1092は、例えば、1以上の学習データに、特徴量取得部108が取得した1以上の特徴量を適用して、サポートベクターマシンによって意図を決定する。サポートベクターマシンは公知技術であるので、詳細な説明を省略する。意図取得手段1092は、フィッシャーの線形判別法やサポートベクターマシン以外の機械学習のアルゴリズムを用いて、意図を決定しても良い。例えば、意図取得手段1092は、決定木により、意図を決定しても良い。また、意図取得手段1092は、機械学習以外のアルゴリズムを用いて、意図を決定しても良い。例えば、意図取得手段1092は、特徴量取得部108が取得した1以上の特徴量をパラメータとする予め決められた式を演算し、当該演算結果を用いて、意図を決定しても良い。
【0069】
意図取得手段1092は、通常、MPUやメモリ等から実現され得る。意図取得手段1092の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現しても良い。
【0070】
意図出力部110は、意図決定部109が決定した意図を出力する。ここで、意図とは、意図を識別する情報のことである。また、出力とは、ディスプレイへの表示、プロジェクターを用いた投影、プリンタへの印字、音出力、外部の装置(例えば、被制御機器2)への送信、記録媒体への蓄積、他の処理装置や他のプログラムや他の処理部(例えば、特徴量取得部108)などへの処理結果の引渡しなどを含む概念である。
【0071】
意図出力部110は、ディスプレイやスピーカー等の出力デバイスを含むと考えても含まないと考えても良い。意図出力部110は、出力デバイスのドライバーソフトまたは、出力デバイスのドライバーソフトと出力デバイス等で実現され得る。
【0072】
次に、脳波処理装置1の動作について図4のフローチャートを用いて説明する。図4において、脳波処理装置1が学習データを取得する処理について説明する。
【0073】
(ステップS401)脳波取得部101は、1以上のチャンネルの脳波(y(ch)(t))を取得する。なお、脳波取得部101は、被験者に刺激を与える前の脳波と、刺激を与えた後の脳波とを含む脳波を取得する、とする。ここでの刺激とは、上述した感覚刺激と同意義である。つまり、脳波取得部101は、刺激を与えた時刻(t)の情報を得ている、とする。
【0074】
(ステップS402)脳波情報取得部102は、例えば、取得された1以上のチャンネルの脳波(y(ch)(t))を離散フーリエ変換して、1以上の脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する。
【0075】
(ステップS403)遅れ時間推定部103は、初期波形数格納部100から初期波形数「1」を読み出し、現在波形数(K)を「1」にセットする。
【0076】
(ステップS404)遅れ時間推定部103は、遅れ時間(τ)を算出する式の情報を、図示しない記憶媒体(通常、遅れ時間推定部103が具備する記憶媒体)から読み出す。式の情報は、例えば、数式3である。そして、遅れ時間推定部103は、読み出した式に、ステップS403でセットされた現在波形数(K)を代入して、1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間(τ)を取得する。
【0077】
(ステップS405)波形推定部104は、時間推定部が取得した遅れ時間(τ)を用いて、推定される1以上の波形を取得する。例えば、波形推定部104は、1以上の波形を取得するための式の情報を、図示しない記憶媒体(通常、波形推定部104が具備する記憶媒体)から読み出す。式の情報は、例えば、数式4である。そして、波形推定部104は、読み出した式に、ステップS404で得られた遅れ時間(τ)と、ステップS402で取得されたY(ch)(ω)とを代入して、1以上の推定された波形を取得する。
【0078】
(ステップS406)現在波形数評価部105は、コルモゴロフ−スミルノフ検定を用いて、現在波形数の確からしさを評価する。具体的には、現在波形数評価部105は、現在波形数の確からしさを評価するための式の情報(数式8から数式10)を、図示しない記憶媒体(通常、現在波形数評価部105が具備する記憶媒体)から読み出す。そして、現在波形数評価部105は、刺激前(t<t)の標本Xを数式8に代入し、Fm(x)を得る。次に、現在波形数評価部105は、刺激後(t>=t)の標本Yを数式8に代入し、Gn(x)を得る。次に、現在波形数評価部105は、Fm(x)、Gn(x)を、数式9に代入し、dmnを得る。次に、現在波形数評価部105は、取得したdmnを、数式10に代入し、p値を算出する。さらに、現在波形数評価部105は、「p値<予め決められた値」を満たすか否かを判断する。
【0079】
(ステップS407)制御部106は、ステップS406における判断結果が、「p値<予め決められた値」を満たすとの判断の場合はステップS409に行き、満たさないとの判断の場合はステップS408に行く。
【0080】
(ステップS408)出力部107は、遅れ時間推定部103が最後に取得した遅れ時間(τ)と、波形推定部104が最後に取得した波形(S(ch)(ω))と、新たな現在波形数(K)等のうち、1以上の情報を出力する。なお、ここでの出力は、通常、学習データ格納手段1091への蓄積である。また、出力は、ディスプレイ等への表示でも良い。
【0081】
(ステップS409)制御部106は、現在波形数を、1、インクリメントして、新しい現在波形数を得る。ステップS404に行く。
【0082】
なお、図4のフローチャートにおいて、Kの評価は、コルモゴロフ−スミルノフ検定を用いたが、他の方法でも良い。
【0083】
次に、学習データ格納手段1091に格納された学習データを用いて、被験者の意図を出力する処理(意図出力処理)について説明する。
【0084】
(ステップS501)特徴量取得部108は、出力部107が出力した波形と、最新の現在波形数とを取得する。
【0085】
(ステップS502)特徴量取得部108は、ステップS501で取得した情報を用いて、1以上の特徴量を取得する。なお、特徴量取得部108は、学習データ格納手段1091に格納されている意図識別子ごとの波形(学習データの一部)を用いて、脳波情報取得部102が出力した脳波情報(Y(ch)(ω))と各識別子ごとの波形によって再構成される脳波との距離を特徴量として取得する。
【0086】
(ステップS503)意図取得手段1092は、学習データ格納手段1091から学習データ(例えば、線形識別関数)を読み出す。なお、ここで、例えば、学習データは、線形識別関数(式の情報)と学習させた波形(意図識別子ごとの波形)である。
【0087】
(ステップS504)意図取得手段1092は、ステップS502で取得した1以上の特徴量、およびステップS503で読み出した学習データを用いて、意図を決定する。例えば、意図取得手段1092は、例えば、フィッシャーの線形判別法によって意図を決定する。つまり、意図取得手段1092は、学習データである線形識別関数に、特徴量である距離を適用し、意図を決定する(意図識別子を取得する)。
【0088】
(ステップS505)意図出力部110は、ステップS504で決定された意図を出力する。上位処理にリターンする。
【0089】
以下、本実施の形態における脳波処理装置1の具体的な動作について説明する。脳波処理装置1の概念図は図1である。ここでは、脳波処理装置1は、ブレイン-コンピュータ・インタフェースに利用されている。
【0090】
今、脳波処理装置1の被験者が「右手動作」を想像したのか「左手動作」を想像したのかを脳波から識別する。そして、「右手動作」を想像した場合と「左手動作」を想像した場合とで、被制御機器2が異なる動作を行うことを想定する。
【0091】
まず、脳波処理装置1の脳波取得部101は、被験者に指示して右手動作を想像している時の脳波(ynr(ch)(t))、及び左手動作を想像している時の脳波(ynl(ch)(t))を取得する。
【0092】
次に、脳波処理装置1の脳波情報取得部102、遅れ時間推定部103、波形推定部104、現在波形数評価部105、および制御部106等の動作(図4のフローチャートにより説明した動作)により、右手動作想像中の脳波(ynr(ch)(t))から、波形(S(ch)(ω))を推定して、取得する。
【0093】
次に、脳波情報取得部102は、右手動作想像中の脳波の処理と同様に、左手動作想像中の脳波(ynl(ch)(t))から、波形(S(ch)(ω))を推定して、取得する。
【0094】
次に、特徴量取得部108は、波形(S(ch)(ω))によって再構成される脳波と実際の脳波(ynr(ch)(t))との距離を計算する。なお、この距離は、以下の数式11で計算される。また、この距離は、一つの特徴量である。
【数11】

【0095】
また、特徴量取得部108は、波形(S(ch)(ω))によって再構成される脳波と実際の脳波(ynl(ch)(t))との距離を計算する。なお、この距離は、以下の数式12で計算される。また、この距離も、一つの特徴量である。
【数12】

【0096】
そして、かかる特徴量の取得を繰り返し、特徴量取得部108は、多数の(d、d)の組を取得し、かかる多数の(d、d)の組から、特徴量の線形識別関数を得る。そして、特徴量取得部108は、この線形識別関数を学習データ格納手段1091に蓄積する。
また、出力部107は、波形(S(ch)(ω))や波形(S(ch)(ω))を、学習データ格納手段1091に蓄積する。
【0097】
次に、脳波処理装置1の脳波取得部101は、被験者から脳波(y(ch)(t))を取得する。
【0098】
次に、脳波情報取得部102は、例えば、取得された1以上のチャンネルの脳波(y(ch)(t))を離散フーリエ変換して、1以上の脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する。
【0099】
次に、特徴量取得部108は、Y(ch)(ω)を数式11、12に代入し、d、dを算出する。なお、特徴量取得部108は、学習データである波形(S(ch)(ω))、および(S(ch)(ω))[ここでは^の表示は除いている]を、学習データ格納手段1091から読み出す。そして、特徴量取得部108は、ランダムサーチ法により、τをゆらがしながらE(ω,τ)を得て、d、dを算出する。
【0100】
次に、意図取得手段1092は、線形識別関数を学習データ格納手段1091から読み出す。
【0101】
次に、意図取得手段1092は、特徴量取得部108が算出したd、dを、線形識別関数に代入し、意図が「右手動作」であるか、「左手動作」であるかを決定する。
【0102】
以上の処理の概要を示したのが図6である。図6において、被験者の脳波情報(Y(ch)(ω))から特徴量抽出処理が行われ、d、dが算出される。そして、線形識別関数により、意図が識別される。
【0103】
次に、意図出力部110は、意図取得手段1092が決定した意図(「右手動作」または「左手動作」)を、被制御機器2に渡す。
【0104】
次に、被制御機器2は、意図に対応した動作を行う。なお、被制御機器2は、意図に対応した動作モジュールを格納している。そして、被制御機器2は、脳波処理装置1から受け付けた意図に対応する動作モジュールを読み出し、当該動作モジュールを実行する。その結果、被験者が意図する動作が、被制御機器2によって行われる。
【0105】
図7は、脳波処理装置1のシミュレーション結果を示す図である。図7のグラフにおいて、縦軸は正解率、横軸はノイズの標準偏差[Standard Deviation(SD)]を示す。また、図7において、グラフ(1)は、上述した脳波処理装置1の手法による意図識別の正解率を示す。図7において、グラフ(2)は、サポートベクターマシンによる意図識別の正解率を示す。図7において、グラフ(3)は、最近傍決定則による意図識別の正解率を示す。図7において、脳波処理装置1の手法による意図識別の正解率は、他を上回っている。なお、図7において、701はノイズのSDが0のときの模擬脳波、702はノイズのSDが5のときの模擬脳波である。
【0106】
以上、本実施の形態によれば、波形数が未知の場合に使用可能な、一般的な脳波波形推定の手法を提供できる。
つまり、加算平均法などの従来の波形推定手法は、波形が1つ存在する場合には正しい推定結果が得られるが、2つ以上存在する場合には間違った推定結果が得られるというように、波形数に関して制約があり、使用できる場面が限られていた。そして、波形数が3つ以上の場合に使用可能な手法は、これまで存在しなかった。また、一般に、波形数は未知である。本実施の形態によれば、波形数が未知の一般的な場面において、たとえ波形が3つ以上存在していても、存在する全ての波形を推定することができる。この点において、本実施の形態は、従来手法よりも一般的で汎用性の高い波形推定手法と言える。
【0107】
なお、本実施の形態において、現在波形数評価部105は、上述した評価方法を含む評価方法のうち、いずれの評価方法を用いても良い。
また、本実施の形態において、上述した数式1から数式12の情報は、通常、図示しない記憶媒体(脳波処理装置1の各構成要素が保持している記憶媒体でも良い)に記憶されており、脳波処理装置1の各構成要素が記憶媒体から必要な数式の情報を読み出して、演算を実行することは言うまでもない。
【0108】
さらに、本実施の形態における処理は、ソフトウェアで実現しても良い。そして、このソフトウェアをソフトウェアダウンロード等により配布しても良い。また、このソフトウェアをCD−ROMなどの記録媒体に記録して流布しても良い。なお、このことは、本明細書における他の実施の形態においても該当する。なお、本実施の形態における情報処理装置を実現するソフトウェアは、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、コンピュータを、1以上の脳波に関する情報である脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する脳波情報取得部と、記憶媒体に格納されている初期波形数を現在波形数として、当該現在波形数を用いて、前記1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間(τ)を取得する遅れ時間推定部と、前記遅れ時間推定部が取得した遅れ時間(τ)を用いて、推定される1以上の波形を取得する波形推定部と、前記遅れ時間推定部が取得した遅れ時間(τ)および前記波形推定部が取得した1以上の波形を用いて、取得された1以上の各チャンネルの脳波(Y(ch)(ω))に対する残差の分布を取得し、当該分布を用いて、現在波形数の確からしさを評価する現在波形数評価部と、前記現在波形数評価部の評価結果が、現在波形数が確からしくないとの評価である場合、現在波形数をインクリメントして、新たな現在波形数を取得し、前記遅れ時間推定部に、当該新たな現在波形数を用いて、前記脳波情報から推定され得る新たな遅れ時間(τ)を取得するように指示し、前記波形推定部に、当該新たな遅れ時間(τ)を用いて、推定される波形を取得するように指示し、前記現在波形数評価部に、新たな現在波形数の確からしさを評価するように指示する制御部と、前記現在波形数評価部の評価結果が、現在波形数が確からしいとの評価である場合、前記遅れ時間推定部が最後に取得した遅れ時間(τ)と、前記波形推定部が最後に取得した波形(Y(ch)(ω))と、前記新たな現在波形数とを出力する出力部として機能させるためのプログラム、である。
【0109】
また、上記プログラムにおいて、コンピュータを、1以上のチャンネルの脳波(y(ch)(t))を取得する脳波取得部としてさらに動作させ、前記脳波情報取得部は、前記脳波取得部が取得した1以上のチャンネルの各脳波を離散フーリエ変換し、1以上の脳波情報(Y(ch)(ω))を取得するものとして、コンピュータを動作させるプログラムであることは好適である。
【0110】
また、上記プログラムにおいて、前記現在波形数評価部は、コルモゴロフ−スミルノフ検定により、前記現在波形数の確からしさを評価するものとして、コンピュータを動作させるプログラムであることは好適である。
【0111】
また、上記プログラムにおいて、2以上の各チャンネルの脳波が存在する場合、前記現在波形数評価部は、SN比が一定の条件を満たすほど高い一のチャンネルを選択し、当該チャンネルの脳波(y(ch)(t))に対する残差の分布を取得し、当該分布を用いて、現在波形数の確からしさを評価するものとして、コンピュータを動作させるプログラムであることは好適である。
【0112】
また、上記プログラムにおいて、2以上の各チャンネルの脳波が存在する場合、前記現在波形数評価部は、全チャンネルの刺激前の残差(標本X)を取得し、かつ、全チャンネルの刺激後の残差(標本Y)を取得し、前記標本Xと前記標本Yとの分布が異なるか検定して、現在波形数の確からしさを評価するものとして、コンピュータを動作させるプログラムであることは好適である。
【0113】
また、上記プログラムにおいて、2以上の各チャンネルの脳波が存在する場合、前記現在波形数評価部は、各チャンネルの脳波(y(ch)(t))に対する残差の分布を取得し、当該分布を用いて、全チャンネルの残差の分布に対して、現在波形数の確からしい場合に現在波形数の確からしいと評価し、一のチャンネルの残差の分布に対して、現在波形数の確からしくない場合には現在波形数が確からしくないと評価するものとして、コンピュータを動作させるプログラムであることは好適である。
【0114】
また、上記プログラムにおいて、前記出力部が出力した遅れ時間(τ)、波形、新たな現在波形数のうちの1以上の情報から1以上の特徴量を取得する特徴量取得部と、前記特徴量取得部が取得した1以上の特徴量を用いて、脳波の発生主であるユーザの意図を決定する意図決定部と、前記意図を出力する意図出力部として、コンピュータをさらに動作させるプログラムであることは好適である。
【0115】
さらに、上記プログラムにおいて、前記意図決定部は、1以上の特徴量と意図の組である学習データを1以上格納し得る学習データ格納手段と、前記1以上の学習データに、前記特徴量取得部が取得した1以上の特徴量を適用して、サポートベクターマシンによって意図を決定する意図取得手段とを具備するものとして、コンピュータを動作させるプログラムであることは好適である。
【0116】
また、図8は、本明細書で述べたプログラムを実行して、上述した実施の形態の脳波処理装置等を実現するコンピュータの外観を示す。上述の実施の形態は、コンピュータハードウェア及びその上で実行されるコンピュータプログラムで実現され得る。図8は、このコンピュータシステム340の概観図であり、図9は、コンピュータシステム340のブロック図である。
【0117】
図8において、コンピュータシステム340は、FDドライブ、CD−ROMドライブを含むコンピュータ341と、キーボード342と、マウス343と、モニタ344とを含む。
【0118】
図9において、コンピュータ341は、FDドライブ3411、CD−ROMドライブ3412に加えて、MPU3413と、CD−ROMドライブ3412及びFDドライブ3411に接続されたバス3414と、ブートアッププログラム等のプログラムを記憶するためのROM3415とに接続され、アプリケーションプログラムの命令を一時的に記憶するとともに一時記憶空間を提供するためのRAM3416と、アプリケーションプログラム、システムプログラム、及びデータを記憶するためのハードディスク3417とを含む。ここでは、図示しないが、コンピュータ341は、さらに、LANへの接続を提供するネットワークカードを含んでも良い。
【0119】
コンピュータシステム340に、上述した実施の形態の脳波処理装置等の機能を実行させるプログラムは、CD−ROM3501、またはFD3502に記憶されて、CD−ROMドライブ3412またはFDドライブ3411に挿入され、さらにハードディスク3417に転送されても良い。これに代えて、プログラムは、図示しないネットワークを介してコンピュータ341に送信され、ハードディスク3417に記憶されても良い。プログラムは実行の際にRAM3416にロードされる。プログラムは、CD−ROM3501、FD3502またはネットワークから直接、ロードされても良い。
【0120】
プログラムは、コンピュータ341に、上述した実施の形態の脳波処理装置等の機能を実行させるオペレーティングシステム(OS)、またはサードパーティープログラム等は、必ずしも含まなくても良い。プログラムは、制御された態様で適切な機能(モジュール)を呼び出し、所望の結果が得られるようにする命令の部分のみを含んでいれば良い。コンピュータシステム340がどのように動作するかは周知であり、詳細な説明は省略する。
【0121】
なお、上記プログラムにおいて、情報を送信する送信ステップや、情報を受信する受信ステップなどでは、ハードウェアによって行われる処理、例えば、送信ステップにおけるモデムやインターフェースカードなどで行われる処理(ハードウェアでしか行われない処理)は含まれない。
【0122】
また、上記プログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、あるいは分散処理を行ってもよい。
【0123】
また、上記各実施の形態において、各処理(各機能)は、単一の装置(システム)によって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置によって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0124】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0125】
以上のように、本発明にかかる脳波処理装置は、波形が3つ以上存在するような場合にも使用可能な一般的な脳波測定の手法を提供できる、という効果を有し、脳波処理装置等として有用である。
【符号の説明】
【0126】
1 脳波処理装置
100 初期波形数格納部
101 脳波取得部
102 脳波情報取得部
103 遅れ時間推定部
104 波形推定部
105 現在波形数評価部
106 制御部
107 出力部
108 特徴量取得部
109 意図決定部
110 意図出力部
1091 学習データ格納手段
1092 意図取得手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期の波形の数である初期波形数を格納している初期波形数格納部と、
1以上の脳波に関する情報である脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する脳波情報取得部と、
前記初期波形数を現在波形数として、当該現在波形数を用いて、前記1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間(τ)を取得する遅れ時間推定部と、
前記遅れ時間推定部が取得した遅れ時間(τ)を用いて、推定される1以上の波形を取得する波形推定部と、
前記遅れ時間推定部が取得した遅れ時間(τ)および前記波形推定部が取得した1以上の波形を用いて、取得された1以上の各チャンネルの脳波(Y(ch)(ω))に対する残差の分布を取得し、当該分布を用いて、現在波形数の確からしさを評価する現在波形数評価部と、
前記現在波形数評価部の評価結果が、現在波形数が確からしくないとの評価である場合、現在波形数をインクリメントして、新たな現在波形数を取得し、前記遅れ時間推定部に、当該新たな現在波形数を用いて、前記脳波情報から推定され得る新たな遅れ時間(τ)を取得するように指示し、前記波形推定部に、当該新たな遅れ時間(τ)を用いて、推定される波形を取得するように指示し、前記現在波形数評価部に、新たな現在波形数の確からしさを評価するように指示する制御部と、
前記現在波形数評価部の評価結果が、現在波形数が確からしいとの評価である場合、前記遅れ時間推定部が最後に取得した遅れ時間(τ)と、前記波形推定部が最後に取得した波形(Y(ch)(ω))と、前記新たな現在波形数のうち、1以上の情報を出力する出力部とを具備する脳波処理装置。
【請求項2】
1以上のチャンネルの脳波(y(ch)(t))を取得する脳波取得部をさらに具備し、
前記脳波情報取得部は、
前記脳波取得部が取得した1以上のチャンネルの各脳波を離散フーリエ変換し、1以上の脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する請求項1記載の脳波処理装置。
【請求項3】
前記脳波情報(Y(ch)(ω))は、数式13であり、
前記遅れ時間推定部は、数式14により、遅れ時間(τハット(^))を取得し、
前記波形推定部は、数式15により、波形(S(ハット)(ch)(ω))を取得する請求項1または請求項2記載の脳波処理装置。
【数13】

【数14】

【数15】

【請求項4】
前記現在波形数評価部は、
コルモゴロフ−スミルノフ検定により、前記現在波形数の確からしさを評価する請求項1から請求項3いずれか記載の脳波処理装置。
【請求項5】
前記出力部が出力した遅れ時間(τ)、波形、新たな現在波形数のうちの1以上の情報から1以上の特徴量を取得する特徴量取得部と、
前記特徴量取得部が取得した1以上の特徴量を用いて、脳波の発生主であるユーザの意図を決定する意図決定部と、
前記意図を出力する意図出力部とをさらに具備する請求項1から請求項4いずれか記載の脳波処理装置。
【請求項6】
前記意図決定部は、
1以上の特徴量と意図の組である学習データを1以上格納し得る学習データ格納手段と、
前記1以上の学習データに、前記特徴量取得部が取得した1以上の特徴量を適用して、線形判別法によって意図を決定する意図取得手段とを具備する請求項5記載の脳波処理装置。
【請求項7】
脳波情報取得部、遅れ時間推定部、波形推定部、現在波形数評価部、制御部、および出力部とを用いて実現される脳波処理方法であって、
前記脳波情報取得部により、1以上の脳波に関する情報である脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する脳波情報取得ステップと、
前記遅れ時間推定部により、記憶媒体に格納されている初期波形数を現在波形数として、当該現在波形数を用いて、前記1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間(τ)を取得する遅れ時間推定ステップと、
前記波形推定部により、前記遅れ時間推定ステップで取得された遅れ時間(τ)を用いて、推定される1以上の波形を取得する波形推定ステップと、
前記現在波形数評価部により、前記遅れ時間推定ステップで取得された遅れ時間(τ)および前記波形推定ステップで取得された1以上の波形を用いて、取得された1以上の各チャンネルの脳波(Y(ch)(ω))に対する残差の分布を取得し、当該分布を用いて、現在波形数の確からしさを評価する現在波形数評価ステップと、
前記により、前記現在波形数評価ステップにおける評価結果が、現在波形数が確からしくないとの評価である場合、現在波形数をインクリメントして、新たな現在波形数を取得し、前記遅れ時間推定ステップに、当該新たな現在波形数を用いて、前記脳波情報から推定され得る新たな遅れ時間(τ)を取得するように指示し、前記波形推定ステップに、当該新たな遅れ時間(τ)を用いて、推定される波形を取得するように指示し、前記現在波形数評価ステップに、新たな現在波形数の確からしさを評価するように指示する制御ステップと、
前記出力部により、前記現在波形数評価ステップにおける評価結果が、現在波形数が確からしいとの評価である場合、前記遅れ時間推定ステップで最後に取得された遅れ時間(τ)と、前記波形推定ステップで最後に取得された波形(Y(ch)(ω))と、前記新たな現在波形数とを出力する出力ステップとを具備する脳波処理方法。
【請求項8】
コンピュータを、
1以上の脳波に関する情報である脳波情報(Y(ch)(ω))を取得する脳波情報取得部と、
記憶媒体に格納されている初期波形数を現在波形数として、当該現在波形数を用いて、前記1以上の脳波情報から推定され得る遅れ時間(τ)を取得する遅れ時間推定部と、
前記遅れ時間推定部が取得した遅れ時間(τ)を用いて、推定される1以上の波形を取得する波形推定部と、
前記遅れ時間推定部が取得した遅れ時間(τ)および前記波形推定部が取得した1以上の波形を用いて、取得された1以上の各チャンネルの脳波(Y(ch)(ω))に対する残差の分布を取得し、当該分布を用いて、現在波形数の確からしさを評価する現在波形数評価部と、
前記現在波形数評価部の評価結果が、現在波形数が確からしくないとの評価である場合、現在波形数をインクリメントして、新たな現在波形数を取得し、前記遅れ時間推定部に、当該新たな現在波形数を用いて、前記脳波情報から推定され得る新たな遅れ時間(τ)を取得するように指示し、前記波形推定部に、当該新たな遅れ時間(τ)を用いて、推定される波形を取得するように指示し、前記現在波形数評価部に、新たな現在波形数の確からしさを評価するように指示する制御部と、
前記現在波形数評価部の評価結果が、現在波形数が確からしいとの評価である場合、前記遅れ時間推定部が最後に取得した遅れ時間(τ)と、前記波形推定部が最後に取得した波形(Y(ch)(ω))と、前記新たな現在波形数とを出力する出力部として機能させるためのプログラム。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−284391(P2010−284391A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141812(P2009−141812)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月4日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 Vol.108 No.480」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/複数モダリティー統合によるオンライン脳活動計測技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】