説明

脳磁計及び脳磁測定方法

【課題】簡易な構成で、低コストで精度の良い脳磁計及び脳磁測定方法を提供する。
【解決手段】被測定者の頭部を覆うヘルメット形状をなすように光ポンピング磁力計1を複数配置し、光ポンピング磁力計1には、被測定者の頭部の表面にほぼ平行に配置された蒸気セル2を設け、ポンプ光レーザ3、プローブ光レーザ7により被測定者の頭部の表面にほぼ垂直であって被測定者の頭部に向かう方向にポンプ光L1、プローブ光L2を出射し、プローブ光L2を蒸気セル2に入射させ、プローブ光L2をミラー10により被測定者の頭部の表面にほぼ垂直であって被測定者の頭部から離れる方向に反射し、フォトダイオード11によりプローブ光L2の偏光の変化を検出することにより、簡易な構成で、低コストで精度良く脳磁を測定することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳磁計及び脳磁測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SQUIDセンサに代わる高感度磁力計として、アルカリ金属を利用した光ポンピング磁力計が開発されている。光ポンピング磁力計は、冷却機能が不要であり、SQUIDセンサに対して大幅なランニングコスト削減が可能となることからも、脳磁計等への適用が期待されている。
【0003】
ここで、光ポンピング磁力計を用いて脳磁場を精密に測定し、また、測定感度を向上するためには、小型の光ポンピング磁力計を多数使用することが必要となる。そこで、例えば下記の非特許文献1に記載されているように、体積12mmの光ポンピング磁力計が試作されている。非特許文献1に記載の光ポンピング磁力計は、次のような構成からなる。垂直共振器面発光レーザが基板から上方に離間した位置に設けられると共に、この垂直共振器面発光レーザの下方に、ルビジウム蒸気を封入した蒸気セルが設けられ、さらにこの蒸気セルの下方にフォトダイオードが設けられる。そして、このフォトダイオードは、基板の上面に設けられており、垂直共振器面発光レーザから発光され、蒸気セルを通り抜けた光を受光する位置に受光部を有する構成とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P. D. D. Schwindt et al., "Chip-scale atomic magnetometer",App. Phys. Lett. Vol.85, No.26, pp.6409-6411 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、光ポンピング磁力計を被測定者の頭部の上に平面的に配置した場合、場所によっては光ポンピング磁力計の検出できる磁場の向きと、被測定者の発生する脳磁の向きとが一致しないため、脳磁の測定を精度良く行うことができない。
【0006】
また、上記のように、フォトダイオードなどの受光素子を基板上に設ける構成をとると、電気配線を外部から基板上の受光素子まで引き回すことが必要になる。したがって、多数の光ポンピング磁力計を並べて脳磁計を作製する場合に、簡易な構成で脳磁計を作製することができない。
【0007】
そこで、本発明は、簡易な構成で、低コストで精度の良い脳磁計及び脳磁測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る脳磁計は、被測定者の頭部の脳磁を測定するための脳磁計であって、被測定者の頭部を覆うヘルメット形状をなすように複数配置された光ポンピング磁力計を備え、光ポンピング磁力計は、アルカリ金属原子を充填され、被測定者の頭部の表面にほぼ平行に配置された蒸気セルと、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向にレーザ光を出射して蒸気セルにレーザ光を入射させるレーザ光出射手段と、蒸気セルを通過したレーザ光を、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部から離れる方向に反射する反射手段と、反射手段により反射されたレーザ光を受光して、レーザ光の偏光の変化を検出する偏光変化検出手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る脳磁測定方法は、被測定者の頭部の脳磁を測定するための脳磁測定方法であって、被測定者の頭部を覆うヘルメット形状をなすように複数配置された光ポンピング磁力計を用い、光ポンピング磁力計においては、被測定者の頭部の表面にほぼ平行に配置された蒸気セルにアルカリ金属原子を充填し、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向にレーザ光を出射して蒸気セルにレーザ光を入射させ、蒸気セルを通過したレーザ光を、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部から離れる方向に反射し、反射されたレーザ光を受光して、レーザ光の偏光の変化を検出することにより、被測定者の頭部の脳磁を測定することを特徴とする。
【0010】
これらによれば、被測定者の頭部を覆うヘルメット形状をなすように複数の光ポンピング磁力計が配置され、この光ポンピング磁力計を構成する蒸気セルが被測定者の頭部の表面にほぼ平行に配置される。したがって、光ポンピング磁力計の検出できる磁場の向きと、被測定者の発生する脳磁の向きとを一致させることが可能となり、脳磁の測定を精度良く行うことができる。また、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向にレーザ光が出射され、レーザ光が蒸気セルに入射され、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部から離れる方向に光路変更されたレーザ光が受光される。このため、レーザ光を受光する受光素子に対する電気配線を、外部から被測定者の頭部に近接する位置まで引き回すことが不要となる。したがって、多数の光ポンピング磁力計を並べて脳磁計を作製する場合に、簡易な構成で脳磁計を作製することができる。
【0011】
また、本発明に係る脳磁計において、蒸気セルは複数のレーザ光を通過させることが好ましい。これによれば、蒸気セルを大きくして、複数のレーザ光に対して1つの蒸気セルを共用できるため、各レーザ光が通過する領域における蒸気密度のばらつきを小さくすることができ、測定精度を高めることができる。
【0012】
また、蒸気セルは、一定の平面度を保つ限り大きくすることが好ましい。これによれば、セルの数を少なくできるため、蒸気密度のばらつきを小さくすることができ、測定精度を高めることができる。
【0013】
また、レーザ光出射手段、偏光変化検出手段は、いずれも蒸気セル上に設けられることが好ましい。これによれば、レーザ光出射手段、偏光変化検出手段と蒸気セルとを一体のユニットとして扱うことができ、取り扱いが容易になり、また、脳磁計の小型化が図れる。
【0014】
また、光ポンピング磁力計において、レーザ光出射手段は、ポンプ光を出射するポンプ光出射手段とプローブ光を出射するプローブ光出射手段を別々に有し、ポンプ光出射手段は、ポンプ光を、被測定者の頭部の表面に平行な第1の方向で蒸気セルに入射させ、プローブ光出射手段は、プローブ光を被測定者の頭部の表面に平行な方向であって第1の方向に垂直な第2の方向で蒸気セルに入射させ、反射手段は、蒸気セルを通過した前記プローブ光を反射し、偏光変化検出手段は、反射手段により反射されたプローブ光の偏光の変化を検出する構成とすることができる。
【0015】
これによれば、ポンプ光を、被測定者の頭部の表面に平行な第1の方向で蒸気セルに入射させ、レーザ光をプローブ光として、被測定者の頭部の表面に平行な方向であって第1の方向に直交する第2の方向で蒸気セルに入射させる。したがって、第1の方向と第2の方向のいずれにも垂直な方向、すなわち被測定者の頭部の表面に垂直な方向の脳磁を精度良く測定することができる。
【0016】
また、レーザ光出射手段は、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向でレーザ光を蒸気セルに入射させることとしてもよい。
【0017】
これによれば、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向でレーザ光を入射させ、その後、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直であって被測定者の頭部から離れる方向にレーザ光を反射して、レーザ光を受光して、レーザ光の偏光の変化を検出する。このため、ポンプ光とプローブ光の2つの光源を用意する必要がなく、低コストかつ省スペースで脳磁計を作製することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡易な構成で、低コストで精度の良い脳磁計及び脳磁測定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る脳磁計を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る脳磁計を構成する光ポンピング磁力計を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る脳磁計を構成する他の光ポンピング磁力計を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る脳磁計を構成する光ポンピング磁力計を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る脳磁計を構成する他の光ポンピング磁力計を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による脳磁計の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る脳磁計を示す概略斜視図である。この脳磁計は、人間の頭部の脳磁を測定するためのものである。
【0022】
図1に示すように、脳磁計100は、複数の光ポンピング磁力計1を備える。光ポンピング磁力計1は、蒸気セル2(図2参照)を有している。これらの蒸気セル2は、被測定者の頭部を覆うヘルメット形状をなすように(頭部の表面形状に倣うように)多数配置されている。
【0023】
図2は、本発明の第1実施形態に係る光ポンピング磁力計1を示す斜視図である。
【0024】
光ポンピング磁力計1は、蒸気セル2、ポンプ光レーザ(ポンプ光出射手段)3、偏光子4、ミラー5、ミラー6、プローブ光レーザ(プローブ光出射手段)7、偏光子8、ミラー9、ミラー(反射手段)10、フォトダイオード(偏光変化検出手段)11を有している。ここで、被測定者の頭部は、光ポンピング磁力計1から見て、z軸方向の負側にある。また、被測定者の頭部の表面は、xy平面に平行でz軸方向とは垂直である。そして、人間の脳磁は、主に頭部の表面に垂直な方向の成分からなるため、被測定者の脳磁は、主にz軸方向の成分からなる。
【0025】
蒸気セル2は、透明な材料、例えばガラスや石英などによって形成される中空体である。この蒸気セル2の内部に、アルカリ金属、例えばカリウム、ルビジウム又はセシウムなどのアルカリ金属が充填される。また、アルカリ金属原子が蒸気セル2の壁に衝突することを防止するためのバッファガスとして、希ガス、例えばヘリウムなども蒸気セル2の内部に充填される。さらに、蛍光防止のためのクエンチングガスとして、例えば窒素などの気体も蒸気セル2の内部に充填される。蒸気セル2は、蒸気セル2の壁に接して設けられるヒーターによって、または、蒸気セル2とは別の場所で発生させた熱風を蒸気セル2の周囲に流すことによって加熱される。脳磁測定の感度は、蒸気セル2中の蒸気の密度が高いほど向上する。しかし、実用性を考慮すると、セルの温度は摂氏100度から200度程度とすることが好ましい。なお、蒸気セル2の温度を保つため、及び、被測定者の頭部を保護するため、蒸気セル2の全体は断熱材で覆われる。ここで、蒸気セル2は、一定の平面度を保つ限り大きくすることが好ましい。すなわち、蒸気セル2の平面と、被測定者の頭部の表面とが平行にできる範囲で、蒸気セル2を大きくすることが好ましい。
【0026】
ポンプ光レーザ3は、ポンプ光L1を蒸気セル2に対して照射するものである。ポンプ光L1は、蒸気セル2内のアルカリ金属を光ポンピングする。このポンプ光レーザ3は、蒸気セル2内のアルカリ金属を光ポンピングすることのできる波長を有する光を発光する。そして、ポンプ光レーザ3は、z軸方向の負の向きにポンプ光L1を出射する。このz軸方向の負の向きは、被測定者の頭部の表面に垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向である。
【0027】
偏光子4は、ポンプ光レーザ3から出射されたポンプ光L1の偏光状態を円偏光にするためのものである。具体的には、直線偏光を円偏光にするためのλ/4板などが用いられる。
【0028】
ミラー5は、偏光子4を通過したポンプ光L1の光路を変更し、蒸気セル2に入射させるためのものである。
【0029】
ミラー6は、蒸気セル2を通過したポンプ光L1の光路を被測定者の頭部から離れる方向に変更するためのものである。
【0030】
一方、プローブ光レーザ7は、プローブ光L2を蒸気セル2に対して照射するものである。そして、プローブ光レーザ7は、z軸方向の負の向きにプローブ光L2を出射する。このz軸方向の負の向きは、被測定者の頭部の表面に垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向である。
【0031】
偏光子8は、プローブ光レーザ7から出射されたプローブ光L2の偏光状態を直線偏光にするためのものである。
【0032】
ミラー9は、偏光子8を通過したプローブ光L2の光路を変更し、蒸気セル2に入射させるためのものである。
【0033】
ミラー10は、蒸気セル2を通過したプローブ光L2の光路を変更し、フォトダイオード11に入射させるためのものである。このミラー10は、プローブ光L2を、z軸方向の正の向きに反射する。このz軸方向の正の向きは、被測定者の頭部の表面に垂直な方向であって、被測定者の頭部から離れる方向である。
【0034】
フォトダイオード11は、ミラー10によって反射されたプローブ光L2を受光する受光素子である。そして、このフォトダイオード11は、プローブ光L2の偏光面の回転角を検出することができる。
【0035】
なお、ポンプ光レーザ3、プローブ光レーザ7及びフォトダイオード11は、いずれも蒸気セル2上に設けられる。
【0036】
上述のように構成される光ポンピング磁力計1は、以下に説明するように、SERF(spin exchange relaxation-free)法によって磁場を測定する。
【0037】
被測定者の脳磁を測定するにあたり、あらかじめ、蒸気セル2の壁に接して設けられるヒーターによって、または、蒸気セル2とは別の場所で発生させた熱風を蒸気セル2の周囲に流すことによって、蒸気セル2を加熱しておく。これにより、蒸気セル2の内部のアルカリ金属原子が所定の密度に達する。
【0038】
次に、ポンプ光レーザ3からポンプ光L1が、z軸方向の負の向きに出射され、この出射されたポンプ光L1は、偏光子4によって、偏光状態を円偏光とされ、この円偏光とされたポンプ光L1は、ミラー5によってx軸方向の正の向き(第1の方向)に反射され、蒸気セル2へ入射する。このx軸方向は、被測定者の頭部の表面に平行な方向である。なお、ミラー5は、一般にはs波(電界成分が入射面に垂直な光)に対する反射率とp波(電界成分が入射面に平行な光)に対する反射率が異なる。したがって、ポンプ光L1が反射された後、蒸気セル2に入射するときにポンプ光L1の偏光状態が円偏光であるようにすべく、ミラー5に入射するポンプ光L1のs波成分とp波成分は適宜調整される。後述のミラー9も同様である。
【0039】
円偏光であるポンプ光L1が蒸気セル2へ入射すると、蒸気セル2内のアルカリ金属原子は光ポンピングされ、その原子スピンが同一方向にそろえられる。
【0040】
そして、ポンプ光L1は蒸気セル2を通過し、ミラー6によってz軸方向の正の向きに反射される。
【0041】
上記のようにして蒸気セル2内のアルカリ金属が光ポンピングされた状態で、プローブ光レーザ7からプローブ光L2が、z軸方向の負の向きに出射され、この出射されたプローブ光L2は、偏光子8によって、偏光状態を直線偏光とされ、この直線偏光とされたプローブ光L2は、ミラー9によってy軸方向の正の向き(第2の方向)に反射され、蒸気セル2へ入射する。このy軸方向は、被測定者の頭部の表面に平行な方向であって、x軸方向と直交する方向である。
【0042】
ここで、蒸気セル2において、円偏光のポンプ光L1はx軸方向に入射し、直線偏光のプローブ光L2はy軸方向に入射している。この場合、プローブ光L2の偏光面は、ポンプ光L1とプローブ光L2のいずれにも垂直な方向、すなわちz軸方向の磁場Bzに応じた角度だけ回転する。
【0043】
そして、プローブ光L2は蒸気セル2を通過し、ミラー10によってz軸方向の正の向きに反射され、その後、フォトダイオード11によって受光される。フォトダイオード11が受光することによって流れる電流は、プローブ光L2の偏光面の回転角に応じて変化する。したがって、フォトダイオード11によって、プローブ光L2の偏光面の回転角、すなわち偏光の変化を検出することができ、プローブ光L2の偏光面の回転角から、蒸気セル2におけるz軸方向の磁場Bz、すなわち被測定者の脳磁を測定することができる。
【0044】
以上のように、第1実施形態に係る脳磁計100においては、被測定者の頭部を覆うヘルメット形状をなすように複数の光ポンピング磁力計1が配置され、光ポンピング磁力計1を構成する蒸気セル2が被測定者の頭部の表面にほぼ平行に配置されるため、光ポンピング磁力計1の検出できる磁場の向きと、被測定者の発生する脳磁の向きとが一致し、脳磁の測定を精度良く行うことができる。また、光ポンピング磁力計1においては、円偏光であるポンプ光L1を、被測定者の頭部の表面に平行なx軸方向で蒸気セル2に入射させ、直線偏光であるプローブ光L2を、被測定者の頭部の表面に平行であってx軸方向とは直交するy軸方向で蒸気セル2に入射させる。したがって、x軸方向とy軸方向のいずれにも垂直な方向、すなわち被測定者の頭部の表面に垂直な方向の脳磁を精度良く測定することができる。
【0045】
また、プローブ光L2は、被測定者の頭部の表面に垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向であるz軸方向の負の向きに出射され、偏光状態が直線偏光にされ、直線偏光にされたプローブ光L2が蒸気セル2に入射され、被測定者の頭部の表面に垂直な方向であって被測定者の頭部から離れる方向であるz軸方向の正の向きに光路変更されてフォトダイオード11に受光されるため、フォトダイオード11に対する電気配線を、外部から被測定者の頭部に近接する位置まで引き回すことが不要となり、多数の光ポンピング磁力計1を並べて脳磁計100を作製する場合に、簡易な構成で脳磁計100を作製することができる。
【0046】
また、蒸気セル2は、一定の平面度を保つ限り大きくされているため、蒸気セル2の数を少なくできるから、蒸気密度のばらつきを小さくすることができ、測定精度を高めることができる。
【0047】
また、ポンプ光レーザ3、プローブ光レーザ7及びフォトダイオード11は、いずれも蒸気セル2上に設けられるため、ポンプ光レーザ3、プローブ光レーザ7及びフォトダイオード11と蒸気セル2とを一体のユニットとして扱うことができ、取り扱いが容易になり、また、脳磁計100の小型化が図れる。
【0048】
図3は、本発明の第1実施形態に係る他の光ポンピング磁力計21を示す斜視図である。
【0049】
光ポンピング磁力計21が光ポンピング磁力計1と異なる点は次の点である。すなわち、光ポンピング磁力計1においては、蒸気セル2を通過するプローブ光L2は1本だけであるが、これに対し、光ポンピング磁力計21においては、蒸気セル2は複数のプローブ光L2を通過させることができるように、一定の平面度を保つ限り大きなものとされている。このように、蒸気セル2をどれだけ大きくできるかは、測定対象となる領域の平面度により制限される。すなわち、蒸気セル2を大きくしすぎると、測定対象となる領域が曲面であることから、蒸気セル2の底面と測定対象となる領域が平行でなくなり、脳磁測定が不可能となってしまう。また、蒸気セル2の大きさは、ポンプ光レーザ3から発光されるポンプ光L1の強度の減衰、蒸気セル2内のアルカリ金属蒸気の密度の均一性などによっても制限される。その他の点においては、光ポンピング磁力計21の構成及び機能は、光ポンピング磁力計1と同様である。
【0050】
このように構成された光ポンピング磁力計21においても、光ポンピング磁力計1と同様な効果を得ることができ、加えて、ポンプ光レーザ3の数を低減でき、一層低コスト化を図ることができる。
【0051】
また、光ポンピング磁力計21においては、光ポンピング磁力計1のように複数のプローブ光L2に対して複数の蒸気セル2を設けるのではなく、1個の大きな蒸気セル2を設ける構成となっている。このため、複数のプローブ光に対して1つの蒸気セル2を共用できるから、各プローブ光が通過する領域における蒸気密度のばらつきを小さくすることができ、測定精度を高めることができる。
【0052】
また、蒸気セル2は、一定の平面度を保つ限り大きくされているため、セルの数を少なくすることができるから、蒸気密度のばらつきを小さくすることができ、測定精度を高めることができる。
【0053】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る光ポンピング磁力計31を示す斜視図である。
【0054】
第2実施形態に係る光ポンピング磁力計31が第1実施形態に係る光ポンピング磁力計1と異なる点は、次の点である。すなわち、第1実施形態に係る光ポンピング磁力計1は、SERF法によって脳磁の測定を行っているが、これに対し、光ポンピング磁力計31においては、いわゆる非線形ファラデー回転現象を利用して脳磁の測定を行う。そのため、第2実施形態に係る光ポンピング磁力計31は、第1実施形態に係る光ポンピング磁力計1と、具体的には以下のように異なる構成を備えている。
【0055】
第2実施形態に係る光ポンピング磁力計31は、レーザ(レーザ光出射手段)32、偏光子8、蒸気セル2、ミラー(反射手段)33及びフォトダイオード(偏光変化検出手段)11を有する。ここで、被測定者の頭部は、光ポンピング磁力計31から見て、z軸方向の負側にある。また、被測定者の頭部の表面は、xy平面に平行でz軸方向とは垂直である。
【0056】
レーザ32は、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向で、z軸の負の向きにほぼ近い方向にレーザ光L3を出射する。なお、ここでのz軸の負の向きにほぼ近い方向とは、レーザ光L3が、z軸方向の磁場によって非線形ファラデー回転現象を生じるような方向であって、かつ、被測定者の頭部の表面に沿って光ポンピング磁力計31を並べて配置したときに、レーザ32やフォトダイオード11の位置が干渉することのないような方向をいう。また、レーザ32は、偏光子8を介して、z軸方向の負の向きにほぼ近い方向で蒸気セル2にレーザ光L3を入射させる。
【0057】
偏光子8は、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直であって被測定者の頭部に向かう方向、より具体的には、z軸の負の向きにほぼ近い方向でレーザ光L3を蒸気セル2に入射させる。
【0058】
ミラー33は、蒸気セル2を通過したレーザ光L3を、被測定者の頭部の表面に垂直な方向であって被測定者の頭部から離れる方向、より具体的には、z軸方向の正の向きにほぼ近い方向に反射する。
【0059】
なお、レーザ32及びフォトダイオード11は、いずれも蒸気セル2上に設けられる。
【0060】
上述のように構成される光ポンピング磁力計31は、以下に説明するように、非線形ファラデー回転現象を利用して磁場を測定する。
【0061】
被測定者の脳磁を測定するにあたり、あらかじめ蒸気セル2の壁に接して設けられるヒーターによって、または、蒸気セル2とは別の場所で発生させた熱風を蒸気セル2の周囲に流すことによって蒸気セル2を加熱しておくのは、光ポンピング磁力計1の場合と同様である。
【0062】
次に、レーザ32からレーザ光L3が、z軸の負の向きにほぼ近い方向に出射され、このレーザ光L3は、偏光子8によって、その偏光状態を直線偏光とされ、この直線偏光とされたレーザ光L3は、z軸の負の向きにほぼ近い方向で蒸気セル2へ入射する。
【0063】
レーザ光L3は、蒸気セル2の内部を、z軸の負の向きにほぼ近い方向に進む。このとき、レーザ光L3の偏光面は、非線形ファラデー回転現象により、z軸方向の磁場Bzに応じた角度だけ回転する。
【0064】
そして、レーザ光L3は蒸気セル2を通過し、ミラー33によってz軸方向の正の向きに反射され、その後、フォトダイオード11によって受光される。フォトダイオード11によってレーザ光L3の偏光面の回転角、すなわち偏光の変化が検出され、この回転角によって蒸気セル2におけるz軸方向の磁場、すなわち被測定者の脳磁が測定されるのは、第1実施形態に係る光ポンピング磁力計1の場合と同様である。
【0065】
以上で説明した光ポンピング磁力計31を用いた脳磁計100によっても、光ポンピング磁力計31の検出できる磁場の向きと、被測定者の発生する脳磁の向きとが一致し、脳磁の測定を精度良く行うことができる。
【0066】
また、複数の蒸気セル2を有する光ポンピング磁力計31の作用は、光ポンピング磁力計1の場合と同様であり、したがって、フォトダイオード11に対する電気配線を、外部から被測定者の頭部に近接する位置まで引き回すことが不要となり、簡易な構成で脳磁計100を作製することができる。
【0067】
また、蒸気セル2は、一定の平面度を保つ限り大きくされるため、セルの数を少なくできるから、蒸気密度のばらつきを小さくすることができ、測定精度を高めることができる。
【0068】
また、レーザ32及びフォトダイオード11は、いずれも蒸気セル2上に設けられるため、レーザ32及びフォトダイオード11と蒸気セル2とを一体のユニットとして扱うことができ、取り扱いが容易になり、また、脳磁計100の小型化が図れる。
【0069】
さらに、光ポンピング磁力計31においては、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって被測定者の頭部に向かう方向でレーザ光L3が入射し、被測定者の頭部の表面にほぼ垂直であって被測定者の頭部から離れる方向にレーザ光L3が反射され、レーザ光L3が受光されて、レーザ光L3の偏光の変化が検出される。このため、ポンプ光とプローブ光の2つの光源を用意する必要がなく、低コストかつ省スペースで脳磁計を作製することができる。
【0070】
図5は、本発明の第2実施形態に係る他の光ポンピング磁力計41を示す斜視図である。
【0071】
光ポンピング磁力計41が光ポンピング磁力計31と異なる点は次の点である。すなわち、光ポンピング磁力計31においては、蒸気セル2を通過するレーザ光L3は1本だけであるが、これに対し、光ポンピング磁力計41においては、蒸気セル2は複数のレーザ光L3を通過させることができるように、一定の平面度を保つ限り大きなものとされている。その他の点においては、光ポンピング磁力計41の構成及び機能は、光ポンピング磁力計31と同様である。
【0072】
したがって、光ポンピング磁力計41は、光ポンピング磁力計31と同様の作用効果を奏する。さらに、蒸気セル2は複数のレーザ光L3を通過させるため、蒸気セル2を大きくして、複数のレーザ光L3に対して1つの蒸気セル2を共用できるから、各レーザ光が通過する領域における蒸気密度のばらつきを小さくすることができ、測定精度を高めることができる。
【0073】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、偏光変化検出手段として、上記実施形態ではフォトダイオード11を使用したが、これに代えて、種々の公知の手法を用いて、プローブ光L2又はレーザ光L3の偏光面の回転角を検出してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1,21,31,41…光ポンピング磁力計、2…蒸気セル、3…ポンプ光レーザ(レーザ光出射手段、ポンプ光出射手段)、4…偏光子、7…プローブ光レーザ(レーザ光出射手段、プローブ光出射手段)、8…偏光子、10,33…ミラー(反射手段)、11…フォトダイオード(偏光変化検出手段)、32…レーザ(レーザ光出射手段)、100…脳磁計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の頭部の脳磁を測定するための脳磁計であって、
前記被測定者の頭部を覆うヘルメット形状をなすように複数配置された光ポンピング磁力計を備え、
前記光ポンピング磁力計は、
アルカリ金属原子を充填され、前記被測定者の頭部の表面にほぼ平行に配置された蒸気セルと、
前記被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって前記被測定者の頭部に向かう方向にレーザ光を出射して前記蒸気セルに前記レーザ光を入射させるレーザ光出射手段と、
前記蒸気セルを通過した前記レーザ光を、前記被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって前記被測定者の頭部から離れる方向に反射する反射手段と、
前記反射手段により反射された前記レーザ光を受光して、前記レーザ光の偏光の変化を検出する偏光変化検出手段と、
を有することを特徴とする脳磁計。
【請求項2】
前記蒸気セルは複数の前記レーザ光を通過させることを特徴とする、請求項1に記載の脳磁計。
【請求項3】
前記蒸気セルは、一定の平面度を保つ限り大きくしたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の脳磁計。
【請求項4】
前記レーザ光出射手段、前記偏光変化検出手段は、いずれも前記蒸気セル上に設けられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の脳磁計。
【請求項5】
前記光ポンピング磁力計において、
前記レーザ光出射手段は、ポンプ光を出射するポンプ光出射手段とプローブ光を出射するプローブ光出射手段を別々に有し、
前記ポンプ光出射手段は、前記ポンプ光を、前記被測定者の頭部の表面に平行な第1の方向で前記蒸気セルに入射させ、
前記プローブ光出射手段は、前記プローブ光を前記被測定者の頭部の表面に平行な方向であって前記第1の方向に垂直な第2の方向で前記蒸気セルに入射させ、
前記反射手段は、前記蒸気セルを通過した前記プローブ光を反射し、
前記偏光変化検出手段は、前記反射手段により反射された前記プローブ光の偏光の変化を検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の脳磁計。
【請求項6】
前記レーザ光出射手段は、前記被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって前記被測定者の頭部に向かう方向で前記レーザ光を前記蒸気セルに入射させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の脳磁計。
【請求項7】
被測定者の頭部の脳磁を測定するための脳磁測定方法であって、
前記被測定者の頭部を覆うヘルメット形状をなすように複数配置された光ポンピング磁力計を用い、
前記光ポンピング磁力計においては、
前記被測定者の頭部の表面にほぼ平行に配置された蒸気セルにアルカリ金属原子を充填し、
前記被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって前記被測定者の頭部に向かう方向にレーザ光を出射して前記蒸気セルに前記レーザ光を入射させ、
前記蒸気セルを通過した前記レーザ光を、前記被測定者の頭部の表面にほぼ垂直な方向であって前記被測定者の頭部から離れる方向に反射し、
反射された前記レーザ光を受光して、前記レーザ光の偏光の変化を検出することにより、被測定者の頭部の脳磁を測定することを特徴とする脳磁測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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