説明

腎損傷の処置における使用のための造血幹細胞

本明細書では、患者における腎損傷を処置する方法であって、腎損傷を処置するのに効果的な量の造血幹細胞(HSC)を患者に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、HSCが腎損傷の直後に投与されないように、HSCの投与が遅延される。ある特定の態様において、HSCは、腎臓の修復期の開始期に患者に投与される。本発明のさらなる実施形態および態様は、本発明における使用のための関連した方法および組成物を含めて、本明細書に記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる、2009年10月2日出願の米国仮特許出願第61/248,316号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、再生のための驚異的な能力を有しているが、急性腎損傷後、または反復性および慢性腎損傷後の慢性腎臓疾患および腎不全は、現在、世界の疾病および死亡の主要原因となっている[1〜3]。さらに、慢性腎臓疾患は、心臓血管疾患および心臓血管系死亡率の主要な独立した危険因子として同定されている[4]。慢性腎疾患は、損傷後の不成功または不十分な腎臓修復を示し得るが、現在、腎臓の修復および再生を促進する治療はほとんどない[5]。
【0003】
近年、腎臓の傍尿細管微小血管系がますます注目されてきているが、これは、この壊れやすい血管が損傷後正常に再生することができないためである。これは、腎臓の慢性虚血にかかりやすくし[12〜15]、慢性腎臓疾患の特徴である、慢性炎症、尿細管萎縮、および間質性線維症の引き金となり得る[12、13]。損傷後の傍尿細管毛細血管の再生の失敗は、慢性腎臓疾患への進行の中核となることが示唆されている[12〜14]。
【0004】
骨髄からの幹細胞の修復および血管形成特性に対して大きな関心が向けられており[6〜8]、腎臓疾患のマウスモデルにおけるいくつかの研究は、マウス骨髄間葉間質細胞(MSC)が、おそらくはパラクリンまたは全身分泌機序によって、腎損傷を予防または軽減し得ることを示している[6、9、10]。しかしながら、腎臓修復における造血幹細胞(HSC)の可能な血管形成の役割はほとんど探求されておらず、臓器修復および再生を促進するために、細胞治療においてヒトHSCを採集する実行可能性を究明した研究はない[11]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Meguid El Nahas A, Bello AK. Chronic kidney disease: the global challenge. Lancet. Jan 22−28 2005;365(9456):331−340
【非特許文献2】Thadhani R, Pascual M, Bonventre JV. Acute renal failure.N Engl J Med.May 30, 1996;334(22):1448−1460
【非特許文献3】Ali T, Khan I, Simpson W, et al.Incidence and outcomes in acute kidney injury: a comprehensive population−based study.J Am Soc Nephrol.Apr 2007;18(4):1292−1298
【非特許文献4】Weiner DE, Tighiouart H, Amin MG, et al.Chronic kidney disease as a risk factor for cardiovascular disease and all−cause mortality: a pooled analysis of community−based studies.J Am Soc Nephrol.May 2004;15(5):1307−1315
【非特許文献5】Sagrinati C, Ronconi E, Lazzeri E, et al.Stem−cell approaches for kidney repair: choosing the right cells.Trends Mol Med.Jul 2008;14(7):277−285
【非特許文献6】Togel F, Weiss K, Yang Y, et al.Vasculotropic, paracrine actions of infused mesenchymal stem cells are important to the recovery from acute kidney injury.Am J Physiol Renal Physiol.May 2007;292(5):F1626−1635
【非特許文献7】Li B, Morioka T, Uchiyama M, et al.Bone marrow cell infusion ameliorates progressive glomerulosclerosis in an experimental rat model.Kidney Int.Jan 2006;69(2):323−330
【非特許文献8】Van Huyen JP, Smadja DM, Bruneval P, et al.Bone marrow−derived mononuclear cell therapy induces distal angiogenesis after local injection in critical leg ischemia.Mod Pathol.Jul 2008;21(7):837−846
【非特許文献9】Bi B, Schmitt R, Israilova M, et al.Stromal cells protect against acute tubular injury via an endocrine effect.J Am Soc Nephrol.Sep 2007;18(9):2486−2496
【非特許文献10】Imberti B, Morigi M, Tomasoni S, et al.Insulin−like growth factor−1 sustains stem cell mediated renal repair.J Am Soc Nephrol.Nov 2007;18(11):2921−2928
【非特許文献11】Dekel B, Shezen E, Even−Tov−Friedman S, et al.Transplantation of human hematopoietic stem cells into ischemic and growing kidneys suggests a role in vasculogenesis but not tubulogenesis.Stem Cells.May 2006;24(5):1185−1193
【非特許文献12】Basile DP.Challenges of targeting vascular stability in acute kidney injury.Kidney Int.Aug 2008;74(3):257−258
【非特許文献13】Basile DP.The endothelial cell in ischemic acute kidney injury: implications for acute and chronic function.Kidney Int.Jul 2007;72(2):151−156
【非特許文献14】Basile DP, Donohoe D, Roethe K, et al.Renal ischemic injury results in permanent damage to peritubular capillaries and influences long−term function.Am J Physiol Renal Physiol.Nov 2001;281(5):F887−899
【非特許文献15】Yuan HT, Li XZ, Pitera JE, et al.Peritubular capillary loss after mouse acute nephrotoxicity correlates with down−regulation of vascular endothelial growth factor−A and hypoxia−inducible factor−1 alpha.Am J Pathol.Dec 2003;163(6):2289−2301
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、当技術分野において、腎損傷の処置のための方法を開発することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に記載の研究は、ヒトCD34+幹細胞が損傷腎臓に動員され、生存、血管再生および機能回復を促進することを、初めて実証するものである。ヒトCD34+造血幹細胞の、腎臓の修復および再生を促進する能力は、確立されているマウス虚血再かん流傷害モデルを使用して研究された。腎損傷後に例えば全身投与されたヒトHSCは、マウスの損傷腎臓に選択的に動員され、血管内および周囲に顕著に局在化した。この動員は、腎臓微小血管系、小管上皮細胞の修復の向上、機能回復の向上および生存率の増加を伴った。いくつかの場合において、HSCは、腎臓内の初期骨髄およびリンパ分化マーカーを獲得し、また内皮前駆細胞マーカーの獲得を示したが、腎臓への動員後、高レベルの血管形成促進転写物の合成を維持した。注入された精製HSCは、少数の循環内皮前駆細胞および偶発的内皮細胞を含有したが、稀なヒト内皮細胞のみがマウス毛細血管壁において同定され、これは、HSC媒介腎臓修復が、血管の交代ではなくパラクリン機序によるものであることを示唆している。これらの研究は、ヒトHSCを、損傷後の腎臓修復を促進するための有望な治療戦略として発展させるものである。
【0008】
したがって、本発明は、患者における腎損傷を処置する方法であって、造血幹細胞(HSC)を患者に投与することを含む方法を提供する。HSCは、腎損傷を処置するのに効果的な量で患者に投与され、この量は本明細書においてさらに説明される。ある特定の実施形態において、HSCの投与が遅延される、すなわちHSCは腎損傷の直後に投与されない。本発明のいくつかの態様において、HSCは、腎臓の修復期の開始時に、例えば少なくとも損傷後約12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、または24時間で、患者に投与される。さらなる実施形態において、HSCは、損傷後約24時間で、またはその後ある程度の時間を置いて、但し損傷後約14日までに、患者に投与される。HSCの投与の時間に関するさらなる実施形態は、本明細書において詳説される。
【0009】
さらに、本明細書において、HSCの投与を含む関連した方法が提供される。例えば、腎損傷を有する患者における腎疾患または腎臓の病状を予防する方法、腎損傷を有する患者の生存率を増加させる方法、および腎損傷を有する患者における腎疾患または腎臓の病状により引き起こされる、またはそれに伴う、腎臓以外の疾患または腎臓以外の病状を予防する方法が提供される。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の方法において使用されるHSCは、薬学的に許容される担体とともに製剤化される。したがって、本発明は、HSCの集団および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物を提供する。ある特定の実施形態において、薬学的組成物は、任意でHSCに結合した、追加的な治療薬または診断薬を含む。そのような薬学的組成物は、治療薬または診断薬を損傷腎臓に送達するために使用され得る。したがって、本発明は、さらに、治療薬または診断薬を患者の損傷腎臓に送達する方法であって、治療薬または診断薬に結合したHSCを患者に投与することを含む方法を提供する。
【0011】
いくつかの態様において、薬学的組成物は、細胞の不均一集団を含み、HSC(例えば、CD34+HSC)は、集団の細胞の少なくとも約25%(例えば、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約98%)を構成する。本発明の薬学的組成物のさらなる実施形態およびその使用は、本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ヒト造血幹細胞が、NOD/SCIDマウスの虚血再かん流障害(IRI)後の腎臓、脾臓および骨髄に動員されることを実証する図である。(A)IRI後1日目に適合移植ヒトHSCを受けたNOD/SCIDマウスのIRI後3日目の腎臓の代表的共焦点画像であり、マウスCD31標識化により示された傍尿細管毛細血管におけるCMFDA標識化ヒト細胞(矢印)を示している。(B)IRI後3日目、5日目および7日目の、IRI後および対照腎臓において確認されたヒトHSCの数を示すグラフである。(C)IRI後24時間でヒトHSCで処理されたNOD/SCIDマウスの7日後のIRI腎臓のヒトHLAクラスI(緑、矢印)を検出する代表的共焦点画像である。(D)IRI後7日目、14日目および28日目の、IRI後および対照腎臓における切片当たりのヒトHLAクラスI細胞の数を示すグラフである。(E)腎臓IRI後1日目に適合移植された、IRI後3日目の脾臓におけるCMFDA標識化ヒトHSCの代表的共焦点画像である。(F)IRI後3日目、5日目および7日目の脾臓における、切片当たりのCMFDA陽性細胞の数を示すグラフである。(G)IRI後1日目にヒトHSCを適合移植された腎臓IRI後7日目のマウスからの全骨髄のCD11b(マウスおよびヒト抗原を検出する)およびヒトCD45の代表的フローサイトメトリープロットである。(H)1日目および2日目におけるマウス骨HSC(E)におけるヒトCD45+細胞の割合を示すグラフである。(D)における重度に損傷した小管における顕著な残屑が、(E)では、はるかに低い程度で存在することに留意されたい。(F)ビヒクルまたはHSC後のマウスにおける尿細管損傷インデックスを示すグラフである(時点毎にn=3)。(G〜H)IRI後1日目および2日目にビヒクル(G)またはHSC(H)を受けた、IRI後28日目のシリウスレッド染色腎臓の代表的画像である。(I)ビヒクルまたはHSC後のマウスにおける線維症領域を示すグラフである(時点毎にn=3)。平均±標準偏差。*P<0.05、対ビヒクル群。(バー=50μm)。
【図2】腎臓虚血再かん流障害後のNOD/SCIDマウスに対するヒトHSCの適合移植が、死亡率を減少させ、腎機能を改善することを実証する図である。(A)両側IRIおよびそれに続く損傷後1日目のPBS(ビヒクル、n=16)または2.5×10(HSC、n=10)のIV注射後の損傷後1日目、2日目および7日目の血漿クレアチニンレベルである。データは、平均±標準偏差である。P値<0.01である。(B)マウスの、両側IRIおよびそれに続く損傷後1日目のPBS(ビヒクル)または2.5×10ヒトHSC(HSC)のIV注射後の、生存率曲線および各時点での数である。P値=0.039である。
【図3】ヒトHSCの適合移植が、傍尿細管毛細血管喪失を軽減し、腎臓虚血再かん流障害後の尿細管上皮損傷を低減することを実証する図である。(A〜B)1日目および2日目にビヒクル(A)またはHSC(B)を受けたIRI後7日目の腎臓の、髄質外部のマウスCD31標識化傍尿細管毛細血管(PTC)の代表的画像である。(A)における顕著なPTC損失に留意されたい。(C)ビヒクルまたはHSC後のマウスにおけるPTCインデックスを示すグラフである(時点毎にn=3)。(D〜E)1日目および2日目にビヒクル(D)またはHSC(E)を受けたマウスからの、IRI後5日目の腎臓の髄質外部のPAS染色腎臓切片の代表的光学画像である。(D)における重度に損傷した小管における顕著な残屑が、(E)においてははるかに低い程度で存在することに留意されたい。(F)ビヒクルまたはHSC後のマウスにおける尿細管損傷インデックスを示すグラフである(時点毎にn=3)。(G〜H)IRI後1日目および2日目にビヒクル(G)またはHSC(H)を受けた、IRI後28日目のシリウスレッド染色腎臓の代表的画像である。(I)ビヒクルまたはHSC後のマウスにおける線維症領域を示すグラフである(時点毎にn=3)。平均±標準偏差。*P<0.05、対ビヒクル群。(バー=50μm)。
【図4】腎臓におけるヒトHSCの分化を示す図である。腎臓髄質外部の代表的共焦点画像(A、C)およびエピ蛍光画像(E)であり、マウス血管系のmCD31(赤)を示すために共に標識化された、損傷後1日目にHSCのIV注射を受けたIRI後5日目の腎臓における細胞(矢尻)内のヒトCD45(A)、ヒトCD68(C)、およびヒトCD3(E)の発現を示している。グラフは、IRI後腎臓および対照腎臓において確認された、ヒトCD45(B)、ヒトCD68(D)、およびヒトCD3(F)細胞の数を示す。データは、平均±標準偏差である。n=6/時点である。(G〜H)ヒトCD133(G)、CD146(H)およびKDR(I)に対する抗体で共に標識化された、CMFDAで1日目〜2日目に標識化された(矢尻)ヒトHSCを受けたNOD/SCIDマウスのIRI後3日目の腎臓の代表的エピ蛍光画像である。抗KDR抗体はまた、マウス内皮(矢印)を検出したことに留意されたい(バー=50μm)。
【図5】稀なヒト内皮細胞が虚血性傷害およびHSC注入後の腎臓において検出され得ることを実証する図である。(A〜B)IRI後28日目の腎臓の共焦点画像であり、ヒトCD31発現細胞の存在を示しており、そのいくつかは毛細血管(矢尻)(A)内に統合されているようだが、大部分は形態学的に単球であり、hCD45を共発現している(矢尻)(B)。(C)損傷から1日後のHSCの適合移植後の、IRI後の腎臓における経時的なヒトCD31発現細胞の数を示すグラフである。(D)IRI後腎臓におけるヒトCD45の発現を示さない細胞における、ヒトフォン・ヴィレブランド因子(vWF)であってマウスvWFではない特定の発現(矢尻)(バー=50μm)。
【図6】ヒトHSCが、腎臓虚血性傷害後の腎臓において、血管形成パラクリン因子を生成することを実証する図である。適合移植前のHSC(白)および適合移植から48時間後のIRI後腎臓から精製されたHSCにおける、血管形成促進転写物のGAPDHと比較した、相対的遺伝子発現である。腎臓に動員されたHSCは、血管形成促進転写物の高レベルの発現を保持することに留意されたい。平均±標準偏差。n=6/群である。(バー=50μm)。
【図7】損傷後の腎臓の修復における、HSCの機能のモデルを示す図である。HSCは、損傷腎臓に動員され、そこでCEPマーカーCD146を獲得し、損傷した毛細血管内および間質に局在化する。アンジオポイエチンを含むサイトカイン、血管内皮成長因子、ハプトサイト(haptocyte)成長因子およびインスリン様成長因子の局所的産生が生じ、パラクリン機序による細胞修復を促進する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載のデータは、損傷腎臓を有する哺乳動物に対し投与されたHSCの特定の局在化、およびその後の、傍尿細管微小血管系を含むがこれに限定されない損傷腎臓組織の修復を初めて実証するものであり、この修復はHSCにより媒介される。したがって、本発明は、患者における腎損傷を処置する方法であって、腎損傷を処置するのに効果的な量の造血幹細胞(HSC)を患者に投与することを含む方法を提供する。
【0014】
「処置」という用語およびそこから派生する用語は、本明細書で使用される場合、必ずしも標的状態の100%または完全な改善を暗示するものではない。むしろ、当業者が有益であると認識する様々な程度の治療効果が存在する。この点において、本明細書に記載の方法は、腎損傷に対する任意の量または任意のレベルの治療的利益を提供し、したがって損傷を「処置」する。例えば、様々な態様において、腎損傷を処置する方法は、患者の損傷腎臓組織の修復または再生の促進、患者の生存率の増加、腎臓の機能的回復の向上、または腎臓機能の復元のうちの1つ以上を含む。別の態様において、この方法によって提供される処置は、損傷腎臓によりもたらされる1つ以上の状態または症状の改善を含む。例えば、制限されることなく、本明細書に記載の本発明の方法は、腎臓の傍尿細管微小血管系(例えば、傍尿細管毛細血管)の修復または再生の向上、腎臓内の血管(例えば、傍尿細管微小血管系(例えば、傍尿細管毛細血管))の形成もしくは安定化、損傷腎臓内での血管形成の誘導、または小管上皮細胞の修復の向上、腎臓の負のリモデリングの発生の低減のうちの1つ以上を達成する。
【0015】
腎損傷
本発明の様々な態様において、提供される方法は、虚血、毒素への暴露、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)もしくはアンジオテンシンII受容体遮断薬の使用、輸血反応、筋肉への損傷または外傷、手術、ショック、低血圧、または、本明細書においてさらに説明されるようなARFもしくは慢性腎疾患の原因のいずれかのうちの任意の1つ以上によって引き起こされる、腎臓に対する任意の損傷である、患者の腎損傷の処置を意図する。
【0016】
標的とする腎損傷は、腎臓内に見られる任意の組織への損傷を含み、例えば、髄質、皮質、腎錐体、葉間動脈、腎動脈、腎静脈、腎門部、腎盂、尿管、小腎杯、腎被膜、下腎被膜、上腎被膜、葉間静脈、腎単位、大腎杯、腎乳頭、糸球体、ボーマン嚢、および腎柱の組織を含むがこれらに限定されず、これらの組織は、部分的または完全な機能喪失をもたらすほど十分損傷を受けている。損傷腎臓組織は、腎臓糸球体壁細胞、腎臓糸球体有足細胞、糸球体内メサンギウム細胞、糸球体の内皮細胞、腎臓近位小管刷子縁細胞、ヘンレ薄層部分細胞のループ(loop of Henle thin segment cells)、肥厚上行脚細胞、腎臓遠位小管細胞、腎臓集合管細胞、および間質腎細胞を含むがこれらに限定されない、腎臓内で生じ得る異なる細胞型の任意の1つ以上を含む。本発明のある特定の実施形態において、腎損傷は、腎臓の傍尿細管微小血管系への損傷を含む。ある特定の態様において、腎損傷は、傍尿細管毛細血管への損傷を含む。いくつかの態様において、腎損傷は、小管(尿細管)上皮細胞への損傷を含む。
【0017】
腎疾患および腎臓の病状の予防
腎臓は、自己修復または自己再生のための驚異的な能力を有しているが、腎損傷は、多くの場合、腎疾患または腎臓の病状への傾向につながる。本明細書で提供される、患者の腎損傷の処置方法によれば腎臓の修復および再生の成功が可能であり、その結果、患者における腎疾患または腎臓の病状への傾向が増加しないと理論化されている。したがって、本発明は、さらに、腎損傷を有する患者における腎疾患または腎臓の病状を予防する方法を提供する。この方法は、腎疾患または腎臓の病状を予防するのに効果的な量のHSCを患者に投与することを含む。いくつかの実施形態において、この量は、腎損傷を処置するのに効果的であり、例えば腎機能の復元、腎臓の傍尿細管微小血管系の再生に効果的な量である。
【0018】
本明細書で使用される場合、「予防」という用語およびそこから派生する単語は、必ずしも、100%または完全な予防を暗示するものではない。むしろ、当業者が潜在的に有益であると認識する様々な程度の予防が存在する。この点において、本明細書に記載の予防方法は、腎疾患または腎臓の病状の任意の量または任意のレベルの予防を提供する。様々な態様において、予防方法は、腎疾患もしくは腎臓の病状、またはその症状もしくは状態の、発症、展開、発生、または進行を、遅延、抑制、低減、または軽減する方法である。
【0019】
いくつかの実施形態において、予防される腎疾患または腎臓の病状は、急性腎不全、慢性腎臓疾患、腎間質線維症、糖尿病性ネフロパシー、糸球体腎炎、水腎症、間質性腎炎、腎臓結石(腎結石症)、腎腫瘍(例えば、ウィルムス腫瘍、腎細胞癌)、ループス腎炎、微小変化型疾患、ネフローゼ症候群、腎盂腎炎、腎不全(例えば、急性腎不全および慢性腎疾患以外)である。
【0020】
急性腎不全
「急性腎不全」という用語は、本明細書で使用される場合、「急性腎損傷」または「ARF」と同義であり、腎臓への損傷による腎機能の急速な損失を指す。ARFは、通常は腎臓により排泄される窒素性(例えば、血清中クレアチンおよび/または尿排出)ならびに非窒素性廃棄物生成のレベルの急激な変化により特徴付けられる。ARFの症状および診断は、当技術分野において知られている。例えば、Acute Kidney Injury, Contributions to Nephrology, Vol.156, vol.eds.Ronco et al., Karger Publishers, Basel, Switzerland, 2007およびBellomo et al., Crit Care 8(4): R204−R212, 2004を参照されたい。
【0021】
様々な態様において、ARFは、病因に依存して、腎前性ARF、内因性ARF、または腎後性ARFである。この点において、腎前性ARFは、血液量減少(例えば、ショック、脱水、体液喪失、または過度の利尿薬の使用)、肝腎症候群、血管障害(例えば、ネフローゼ症候群に関連した、アテローム塞栓性疾患、腎静脈血栓症)、感染症(例えば、敗血症)、重度の熱傷、腐骨形成(例えば、心膜炎、膵臓炎による)、低血圧症(例えば、抗高血圧症、血管拡張剤の使用による)のうちの1つ以上により引き起こされ得る。
【0022】
内因性ARFは、毒素または薬剤(例えば、NSAID、アミノ配糖体系抗生物質、ヨード造影剤、リチウム、ホスフェート腎症(例えば、結腸鏡検査におけるリン酸ナトリウムによる腸の前処理)、横紋筋融解(例えば、損傷(例えば、挫滅外傷または広範囲の鈍的外傷)により引き起こされる)、スタチン、興奮剤の使用により引き起こされる)、溶血、多発性骨髄腫、急性糸球体腎炎のうちの1つ以上により引き起こされ得る。
【0023】
腎後性ARFは、薬剤(例えば、抗コリン作用薬)、良性の前立腺肥大症もしくは前立腺癌、腎臓結石、腹部悪性腫瘍(例えば、卵巣癌、結腸直腸癌)、導尿カテーテル閉塞、および結晶尿もしくはミオグロビン尿を引き起こす薬物、または膀胱炎のうちの1つにより引き起こされ得る。
【0024】
ARFは、患者における虚血、毒素、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)またはアンジオテンシンII受容体遮断薬の使用、輸血反応、筋肉に対する損傷または外傷、手術、ショック、および低血圧により引き起こされ得る。ARFを引き起こす毒素は、抗真菌剤またはX線写真用の染料であり得る。また、いくつかの実施形態において、ARFは、急性腎尿細管壊死または腎虚血再かん流傷害を含む。
【0025】
慢性腎臓疾患
腎疾患または腎臓の病状を予防する方法のいくつかの実施形態において、腎疾患は、慢性腎臓疾患(CKD)である。本明細書において使用される場合、「慢性腎疾患」としても知られる「慢性腎臓疾患」は、何ヶ月または何年もの期間にわたる進行性の腎機能喪失を指す。処置されるCKDは、例えば、第1期、第2期、第3期、第4期または第5期(確立されたCKD、末期腎疾患(ESRD)、慢性腎機能障害(CKF)、または慢性腎不全(CRF)としても知られる)を含む、任意の段階である。
【0026】
CKDは、急性腎損傷、急性腎損傷の病因、糖尿病性ネフロパシーにつながる1型および2型糖尿病、高血圧(高血圧症)、糸球体腎炎(腎臓の濾過系の炎症および損傷)、多発性嚢胞腎、鎮痛薬性腎症につながる鎮痛薬(例えば、アセトアミノフェン、イブプロフェン)の使用(例えば、常用および長期間の使用)、虚血性ネフロパシーにつながるアテローム性動脈硬化、石による尿の流れの阻害、前立腺肥大、狭窄症(狭窄)、HIV感染、鎌状赤血球病、ヘロインの乱用、アミロイドーシス、腎臓結石、慢性腎感染、およびある特定の癌を含むがこれらに限定されない、いくつかの因子のうちのいずれか1つにより引き起こされ得る。
【0027】
腎臓以外の疾患または腎臓以外の病状の予防
慢性腎臓疾患は、心臓血管疾患および心臓血管系死亡率の主要な独立した危険因子として同定されている。本明細書に記載のようなHSCの投与は、さらに、腎臓疾患および腎臓の病状以外の疾患または病状を予防するのに有用であることが理論付けられる。したがって、腎損傷を有する患者における、腎疾患または腎臓の病状により引き起こされる、またはそれに関連した、腎臓以外の疾患または腎臓以外の病状を予防する方法が、本明細書においてさらに提供される。この方法は、腎臓以外の疾患または腎臓以外の病状を予防するのに効果的な量のHSCを患者に投与することを含む。ある特定の実施形態において、腎臓以外の疾患または腎臓以外の病状は、心臓血管疾患である。
【0028】
生存率の増加
急性腎損傷後、または反復性および慢性の腎損傷後の慢性腎臓疾患および腎不全は、現在、世界の疾病および死亡の主要原因となっている。本明細書に記載のようなHSCの投与は、さらに、腎損傷を有する患者の死亡を予防する(生存率を増加させる)のに有用であることが理論付けられている。したがって、腎損傷を有する患者の生存率を増加させる方法が、本明細書においてさらに提供される。この方法は、患者の生存率を増加させるのに効果的な量のHSCを患者に投与することを含む。
【0029】
造血幹細胞(HSC)
本明細書の目的において、「造血幹細胞」または「HSC」という用語は、例えば、骨髄性(単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球、血小板、樹枝状細胞)およびリンパ系(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞)を含む血液細胞型を生成する多能性幹細胞を指す。HSCは、多能性、少機能性、または単機能性HSCであってもよい。
【0030】
HSCを得る方法およびHSC源
HSCは、当技術分野において知られた任意の手段により得ることができる。いくつかの実施形態において、HSCは、ドナーから単離される。「単離」という用語は、本明細書において使用される場合、その自然環境から取り出されたことを意味する。HSCは、様々な態様において、骨髄、脂肪組織、血液、卵黄嚢、骨髄組織(例えば、肝臓、脾臓、胎児、例えば胎児肝臓、胎児脾臓における)、臍帯血、胎盤、および大動脈・性腺・中腎を含むがこれらに限定されない、HSCを有する任意の成人、胎児または胚組織から単離される。
【0031】
HSCのドナーは、患者に関して本明細書に記載される宿主のいずれかである。いくつかの態様において、ドナーは哺乳動物である。特定の態様において、ドナーはヒトである。他の態様において、HSCのドナーは、患者と同じである。この点において、HSCは、患者の「自己」細胞であるとされる。いくつかの実施形態において、HSCのドナーは、患者とは異なるが、ドナーおよび患者は同じ種である。この点において、HSCは、患者の「同種異系」細胞であるとされる。
【0032】
いくつかの実施形態において、HSCは、ドナーの骨髄、例えばドナーの腰から、注射器および針を使用して単離される。別の実施形態において、HSCは、血液(例えば、末梢血)から単離される。ある特定の態様において、HSCは、骨髄から血液、例えば末梢血へのHSCの移動を誘導または促進するサイトカインによるドナーの前処理後に、血液から単離される。いくつかの場合において、サイトカインは、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、またはAMD−3100である。
【0033】
いくつかの実施形態において、HSCは、初代細胞または新たに単離された細胞である。あるいは、HSCは、培養細胞、樹立細胞株からの細胞、および/またはHSCの凍結ストックから解凍した細胞である。HSCは、細胞レポジトリから、例えばAmerican Tissue Culture Collection(ATCC)、National Stem Cell Resource(NSCR)、National Stem Cell Bank(NSCB)、および他の商業的供給者から入手可能である。
【0034】
他の態様において、HSCの特定の集団を得るためのさらなるステップが実行される。いくつかの実施形態において、HSCは精製される。本明細書において使用される場合、「精製」という用語は、純度が増加したことを意味し、「純度」とは、相対的用語であり、必ずしも絶対的な純粋さとして解釈されるべきではない。例えば、様々な態様において、純度は、少なくとも約50%であるが、60%、70%もしくは80%超であってもよく、または100%であってもよい。したがって、いくつかの実施形態において、本発明のHSCは、細胞の異種集団の一部、または実質的に同種の細胞集団の一部である。例えば、いくつかの態様において、HSCは、HSCのクローン集団であり、集団の各細胞は、集団の別の細胞から遺伝子的に区別できない。細胞の異種集団は、他の細胞型、HSC以外の細胞を含む。例えば、いくつかの態様において、細胞の異種集団は、HSCに加えて、白血球(骨髄細胞系またはリンパ系の白血球)、赤血球、内皮細胞、循環内皮前駆細胞、上皮細胞、腎細胞、肺細胞、骨細胞、骨髄球、神経細胞、平滑筋細胞を含む。代替的に、または追加的に、細胞の異種集団は、HSCのみを含むが、HSCは、クローン細胞ではなく、例えば互いから遺伝子的に区別できる。異種集団のHSCは、本明細書においてさらに論じられるように、異なる表現型を有する。特定の表現型を有する細胞、例えばHSCを単離する好適な方法は、当技術分野において知られており、例えば、光学的流動選別器を使用する方法(例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS))および非光学的流動選別器を使用する方法(例えば、磁気活性化細胞選別)を含む。
【0035】
HSCにより発現されるマーカー
HSCは、HSCの任意の表現型特性を有する。いくつかの実施形態において、HSCは、系統マーカー(の発現)に対して陰性(すなわち、lin−)である。いくつかの場合において、HSCは、CD34、CD38、CD90、CD133、CD105、CD45、およびc−kitのうちの1つ以上(の発現)に対して陽性である。いくつかの場合において、HSCは、CD34+であり、他の場合において、HSCは、CD45+である。さらに別の態様において、HSCは、CD34+およびCD45+である。ある特定の実施形態において、HSCの表現型は、患者に投与されると変化する。したがって、いくつかの実施形態において、HSCは、マーカー、例えば循環内皮前駆細胞(CEP)マーカー(CEP上に発現するマーカー、例えばCD146、CD133、CD34、CD117、CD31)の発現に対して陽性となるHSCである。
【0036】
HSCは、任意で、異種細胞集団の一部であり、集団内の細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、特定の表現型を有する。本発明のいくつかの実施形態において、HSCは、細胞の異種集団の一部であり、細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、CD34+HSCである。本発明のいくつかの実施形態において、HSCは、細胞の異種集団の一部であり、細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、CD45+HSCである。本発明のいくつかの実施形態において、HSCは、細胞の異種集団の一部であり、細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、患者への投与後にCD146+HSCになるHSCである。
【0037】
HSCのさらなる改質ステップ
いくつかの態様において、HSCは、単離および/または精製後にさらに改質される。一代替例において、細胞は、HSC集団の拡張、HSCへの遺伝子の送達、HSCの分化、または、治療薬もしくは診断薬等の化合物のHSCへの結合を目的として、生体外で培養される。これらのさらなるステップを実行する方法は、当業者に周知である。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001;Ogawa et al., Blood 81: 2844−2853 (1993);米国特許第7,144,731号;Li et al, FASEB J 15: 586 (2001);Norol et al., Experimental Hematology 35(4): 653−661 (2007);Verhoeyen and Cosset, Gene Transfer: Delivery and Expression of DNA and RNA, eds.Friedmann and Rossi, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2007を参照されたい。
【0038】
薬学的組成物
本明細書に記載のHSCは、任意で、薬学的組成物等の組成物に製剤化される。この点において、本発明は、HSCおよび薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物を提供する。担体は、従来使用されている任意の担体であり、溶解度および活性化合物(複数を含む)との反応性の欠如等の物理化学的考慮点、ならびに投与経路によってのみ制限される。本明細書に記載の薬学的に許容される担体、例えば、ビヒクル、アジュバント、賦形剤、および希釈剤は、当業者に周知であり、一般に容易に利用可能である。一態様において、薬学的に許容される担体は、活性薬剤(複数を含む)、例えば造血幹細胞に対して化学的に不活性である担体、および使用条件下で有害な副作用または毒性を有さない担体である。担体の選択は、部分的に、薬学的組成物を成す特定の薬剤により、および薬学的組成物を投与するために使用される特定の経路により決定される。したがって、本発明の薬学的組成物の好適な製剤が種々存在する。
【0039】
投与経路
いくつかの実施形態において、HSCを含む薬学的組成物は、非経口投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、くも膜下投与、または腹腔内投与用に製剤化される。他の実施形態において、薬学的組成物は、鼻腔内、スプレー、口内、エアロゾル、直腸内、または膣内投与により投与される。
【0040】
HSCを投与する方法は、当技術分野において知られている。例えば、米国特許第5423778号、第5550050号、第5662895号、第5800828号、第5800829号、第5811407号、第5833979号、第5834001号、第5834029号、第5853717号、第5855619号、第5906827号、第6008035号、第6012450号、第6049026号、第6083523号、第6206914号、第6303136号、第6306424号、第6322804号、第6352555号、第6368612号、第6479283号、第6514522号、第6534052号、第6541024号、第6551338号、第6551618号、第6569147号、第6579313号、第6599274号、第6607501号、第6630457号、第6648849号、第6659950号、第6692738号、第6699471号、第6736799号、第6752834号、第6758828号、第6787357号、第6790455号、第6805860号、第6852534号、第6863900号、第6875441号、第6881226号、第6884427号、第6884428号、第6886568号、第6918869号、第6933281号、第6933286号、第6949590号、第6960351号、第7011828号、第7031775号、第7033345号、第7033603号、第7049348号、第7070582号、第7074239号、第7097832号、第7097833号、第7135172号、第7145055号、第7157080号、第7166280号、第7176256号、第7244242号、第7452532号、第7470425号、および第7494644号を参照されたい。
【0041】
非経口
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の薬学的組成物は、非経口投与用に製剤化される。本発明の目的において、非経口投与は、静脈内、動脈内、筋肉内、脳内、脳室内、心臓内、皮下、骨内、皮内、くも膜下、腹腔内、膀胱内、および陰茎海綿体内注射または注入を含むが、これらに限定されない。
【0042】
非経口投与に好適な製剤は、酸化防止剤、緩衝剤、静菌薬、および製剤を対象被投与者の血液と等張性にする溶質を含有し得る、水性および非水性等張性滅菌注射液、ならびに、懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および保存料を含み得る、水性および非水性滅菌懸濁液を含む。様々な態様において、薬学的組成物は、水、生理食塩水、デキストロース水溶液および関連糖溶液、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール等のグリコール、グリセロール、エーテル、ポリ(エチレングリコール)400、油、脂肪酸、脂肪酸エステルもしくはグリセリド、または石鹸もしくは洗剤等の薬学的に許容される界面活性剤を添加した、または添加しないアセチル化脂肪酸グリセリド、ペクチン、カルボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースもしくはカルボキシメチルセルロース等の懸濁剤、あるいは、乳化剤および他の薬学的アジュバントを含む、滅菌液体または複数の液体の混合など、薬学的担体中の生理学的に許容される希釈剤により投与される。
【0043】
非経口製剤において任意で使用される油は、石油、動物油、植物油、または合成油を含む。油の特定の例には、落花生油、大豆油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ油、ワセリン、およびミネラルオイルが含まれる。非経口製剤における使用に好適な脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸を含む。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルが、好適な脂肪酸エステルの例である。
【0044】
いくつかの実施形態における非経口製剤は、保存料または緩衝剤を含有する。注射部位における刺激を最小限化または排除するためには、そのような組成物は、任意で、約12から約17の親水性・親油性バランス(HLB)を有する1つ以上の非イオン性界面活性剤を含有する。そのような製剤中の界面活性剤の量は、典型的には、約5重量%から約15重量%の範囲内である。好適な界面活性剤は、ソルビタンモノオレエート等のポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル、および、プロピレンオキシドとプロピレングリコールとの縮合により形成される、エチレンオキシドの疎水性塩基との高分子量付加体を含む。様々な態様において、非経口製剤は、単位用量または複数用量の密閉容器内、例えばアンプルおよびバイアル内に提供され、使用直前に注射用の水等の滅菌液体賦形剤を添加するだけでよい、フリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存され得る。ある特定の態様において、上述のような無菌粉末、顆粒、および錠剤から、即席の注射液および懸濁液が調製される。
【0045】
注射製剤は、本明細書に従う。注射組成物用の効果的な薬学的担体の要件は、当業者に周知である(例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice, J.B.Lippincott Company, Philadelphia, PA, Banker and Chalmers, eds., pages 238−250 (1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs, Toissel, 4th ed., pages 622−630 (1986)を参照されたい)。
【0046】
細胞送達マトリックス
いくつかの実施形態において、HSCは、細胞送達マトリックスにより投与される。ある特定の実施形態において、細胞送達マトリックスは、コラーゲン、フィブリン、キトサン、MATRIGEL、ポリエチレングリコール、化学架橋性または光架橋性デキストランを含むデキストラン等を含むポリマーおよびヒドロゲルのうちのいずれか1つ以上を含む。ある特定の実施形態において、細胞送達マトリックスは、収縮および非収縮コラーゲンゲルを含むコラーゲン、例えばフィブリンを含むがこれらに限定されないヒドロゲル、アルギン酸塩、アガロース、ゼラチン、ヒアルロン酸塩、ポリエチレングリコール(PEG)、化学架橋、光架橋もしくはその両方に好適なデキストランを含むデキストラン、アルブミン、ポリアクリルアミド、ポリグリコール酸、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ(n−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、親水性ポリウレタン、アクリル誘導体、プルロニック、例えばポリプロピレンオキシドおよびポリエチレンオキシドコポリマー、35/65ポリ(イプシロン−カプロラクトン)(PCL)/ポリ(グリコール酸)(PGA)、Panacryl(登録商標)生体吸収性コンストラクト、Vicryl(登録商標)ポリグラクチン910、ならびに自己組織化ペプチドおよびフッ素ポリマーのような非吸収性材料(例えば、Teflon(登録商標)フッ素ポリマー)、プラスチックおよび金属のうちの1つ以上を含む。
【0047】
いくつかの場合において、マトリックスは、非分解性材料、例えば、これらに限定されないが、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ(ブチレンテレフタレート(PBT)、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、シリコーン等、または、選択的に分解性の材料、例えばポリ(乳酸−コ−グリコール酸;PLGA)、PLA、もしくはPGAを含む(Middleton et al., Biomaterials 21:2335 2346, 2000;Middleton et al., Medical Plastics and Biomaterials, March/ April 1998、30 37ページ;Handbook of Biodegradable Polymers, Domb, Kost, and Domb, eds., 1997, Harwood Academic Publishers, Australia; Rogalla, Minim.Invasive Surg.Nurs.11:6769, 1997;Klein, Facial Plast.Surg.Clin.North Amer.9:205 18, 2001;Klein et al., J.Dermatol.Surg.Oncol.1 1:337 39, 198;Frey et al., J.Urol.154:812 15, 1995;Peters et al., J.Biomed. Mater. Res. 43:422 27, 1998、およびKuijpers et al., J. Biomed. Mater. Res. 51:13645, 2000もまた参照されたい)。
【0048】
いくつかの実施形態において、マトリックスは、生体吸収性であるか否か、液体、ゲル、または固体であるかを問わず、生体適合性の骨格、格子、自己組織化構造等を含む。そのようなマトリックスは、治療的細胞処置、外科的修復、再生医療、および創傷治癒の分野において既知である。ある特定の態様において、マトリックスは、HSCで前処理される。他の実施形態において、マトリックスには、マトリックスまたはその空間に密接に関連してHSCが配置される。HSCは、マトリックスに接着することができ、または、マトリックス空間内に捕捉または含有され得る。ある特定の態様において、マトリックス−HSC複合物が生成し、細胞がマトリックスと密接に関連して成長し、治療上使用された場合には、患者自身の腎細胞の成長、修復および/または再生が刺激されおよび支援され、適切な血管形成が同様に刺激されまたは支援される。マトリックス−細胞組成物は、移植、注射、外科的付着、他の組織による移植等を含むがこれらに限定されない、当技術分野において知られた任意の手法で患者の体内に導入され得る。いくつかの実施形態において、マトリックスは、生体内で、またはさらにより好ましくはin situで形成され、例えば、本発明に従いin situ重合性ゲルを使用することができる。そのようなゲルの例は、当技術分野等において知られている。
【0049】
いくつかの実施形態において、HSCは、三次元フレームワークまたはマトリックス、例えば骨格、発泡体またはヒドロゲル等の上に播種され、適宜投与される。ある特定の態様において、フレームワークは、実質的に平坦、実質的に円筒状または管状等、様々な形状に構成されるか、または、考慮される矯正的構造に必要とされ得る、または所望され得るように、完全に自由形態であってもよい。いくつかの態様において、多層フレームワークを生成するように、2つ以上の実質的に平坦なフレームワークが重ねて配置され、必要に応じて互いに固定される。
【0050】
本発明の態様に使用され得るマトリックス、例えば骨格の例は、マット(織られた、編まれた、より好ましくは不織の)、多孔質または半多孔質発泡体、自己組織化ペプチド等を含む。不織マットは、例えば、天然または合成ポリマーを含む繊維を使用して形成され得る。いくつかの実施形態において、VICRYL(登録商標)(Ethicon, Inc.、Somerville、N.J.)の商品名で販売されているグリコール酸および乳酸(PGA/PLA)の吸収性コポリマーを使用して、マットが形成される。例えば、米国特許第6,355,699号に記載のようにフリーズドライまたは凍結乾燥等のプロセスにより形成される、ポリ(イプシロン−カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(PCL/PGA)コポリマーで構成される発泡体もまた、骨格として機能し得る。ゲルもまた、本明細書において使用されるような好適なマトリックスを形成する。例として、in situ重合性ゲル、および、例えば自己組織化ペプチドで構成されるヒドロゲルが含まれる。いくつかの態様において、これらの材料は、組織成長の支持体として使用される。in situ形成分解性ネットワークもまた、本発明における使用に好適である(例えば、Anseth, K.S.et al., 2002, J.Controlled Release 78: 199−209、Wang, D.et al., 2003, Biomaterials 24: 3969−3980;Heらに対する米国特許公開第2002/0022676号を参照されたい)。これらの材料は、いくつかの態様において、注射に好適な流体として製剤化され、次いで、in situまたは生体内で分解性ヒドロゲルネットワークを形成するために、様々な手段(例えば、温度変化、pH、光への暴露)により導入され得る。
【0051】
いくつかの実施形態において、フレームワークはフェルトであり、生体吸収性材料、例えばPGA、PLA、PCLコポリマーもしくはブレンド、またはヒアルロン酸から作製されたマルチフィラメント糸で構成され得る。ある特定の態様において、糸は、圧着、切断、梳綿および縫製からなる標準的な繊維加工技術を用いてフェルトに加工される。ある特定の態様において、HSCは、複合構造であってもよい発泡骨格上に播種される。さらに、いくつかの態様において、三次元フレームワークが有用な形状、例えば、修復され、交換されまたは増強される腎臓内またはその周囲の特定の構造に成形される。
【0052】
フレームワークは、細胞付着を高めるために、HSCの接種前に処理され得る。例えば、HSCでの接種前に、ナイロンマトリックスが0.1モルの酢酸で処理され、ポリリシン、PBS、および/またはコラーゲン内でインキュベートしてナイロンをコーティングする。いくつかの態様において、ポリスチレンが硫酸を使用して同様に処理される。
【0053】
追加の実施形態において、三次元フレームワークの外側表面は、例えば、フレームワークのプラズマコーティングにより、または1つ以上のタンパク質(例えば、コラーゲン、弾性繊維、細網繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリンサルフェート、コンドロイチン−4−サルフェート、コンドロイチン−6−サルフェート、デルマタンサルフェート、ケラチンサルフェート)、細胞マトリックス、ならびに/もしくは他の材料、例えば、特に、これらに限定されないが、ゼラチン、アルギネート、寒天、アガロース、および植物ゴム等の付加により、細胞の付着または成長および組織の分化を改善するために改質される。
【0054】
いくつかの実施形態において、骨格は、骨格を抗血栓性とする材料を含む。ある特定の実施形態において、これらの材料は、内皮成長、移動、および細胞外マトリックス堆積を促進および保持する。そのような材料の例には、天然材料、例えばラミニンおよびIV型コラーゲン等の基底膜タンパク質、ePTFE等の合成材料、およびセグメント化ポリウレタン尿素シリコーン、例えばPURSPAN(登録商標)(The Polymer Technology Group, Inc.、Berkeley、Calif.)が含まれるが、これらに限定されない。これらの材料は、骨格を抗血栓性とするためにさらに処理され得る。そのような処理は、ヘパリン等の抗血栓剤、およびプラズマコーティング等の材料の表面電荷を改変する処理を含む。
【0055】
ある特定の実施形態において、HSCを含む薬学的組成物は、本明細書に記載の成分のいずれかを含む、細胞送達マトリックスの成分のいずれかを含む。
【0056】
用量
本明細書の目的において、投与される薬学的組成物の量または用量は、例えば、妥当な期間にわたり、対象または動物において治療または予防的反応をもたらすのに十分である。例えば、薬学的組成物の用量は、投与時から、約1日から4日またはそれ以上、例えば5日、6日、1週間、10日、2週間、16日から20日、またはそれ以上の期間、腎虚血再かん流傷害を処置または予防するのに十分である。ある特定の実施形態において、期間はそれよりさらに長い。用量は、特定の薬学的組成物の有効性および処置される動物(例えばヒト)の状態、ならびに動物(例えばヒト)の体重により決定される。
【0057】
投与用量を決定するための多くのアッセイが、当技術分野において知られている。いくつかの実施形態において、所与の用量のHSCを哺乳動物に投与した後、そのようなHSCが損傷腎臓に局在化する程度を、それぞれ所与の異なる用量のHSCが与えられる一組の哺乳動物の間で比較することを含む検定を使用して、哺乳動物に投与される開始用量が決定される。ある特定用量が投与された後にHSCが損傷腎臓に局在化する程度は、例えば本明細書に記載の方法を含む当技術分野において知られた方法により検定することができる。
【0058】
追加的または代替的に、特定用量のHSCが、腎臓の傍尿細管毛細血管喪失の軽減、尿細管上皮細胞の再生、長期線維症の予防、死亡率の低減、または腎損傷後の腎機能の改善をもたらす程度を比較することを含む検定を使用して、哺乳動物に投与される開始用量を決定することができる。そのような検定は、本明細書の実施例の項に記載される。
【0059】
薬学的組成物の用量はまた、特定の薬学的組成物の投与に伴い得る任意の有害な副作用の存在、性質および程度により決定される。典型的には、担当医は、年齢、体重、全体的な健康、食生活、性別、投与される薬学的組成物の治療薬(複数を含む)、投与経路、および処置される状態の重症度等の様々な因子を考慮して、個々の患者を処置するための薬学的組成物の用量を決定する。例えば、本発明を制限することを意図せずに、薬学的組成物の用量は、少なくとも約0.5×10(例えば、少なくとも約1×10、1.5×10、2×10、2.5×10、3.0×10、5.0×10、10、10)個のHSCが、患者に投与されるような用量となり得る。
【0060】
投与のタイミング
提供される方法において、HSCは、腎臓への損傷の時間に関連した時間に患者に投与される。本発明のある特定の実施形態において、HSCの投与は遅延され、すなわち、HSCは、腎損傷の直後に投与されない(例えば、損傷後約30分以降、約1時間以降、約2時間以降、約3時間以降、約4時間以降、約5時間以降、約6時間以降、約7時間以降、約8時間以降、約9時間以降、約10時間以降、約11時間以降、または約12時間以降)。
【0061】
本発明のいくつかの態様において、HSCは、腎損傷の修復期の開始時に、患者に投与される。「腎損傷の修復期」という用語は、本明細書において使用される場合、例えば、細胞が破壊された後の既存の腎単位の再配置、好塩基性扁平上皮細胞による小管の被膜、小管細胞の正常形態の復元、上皮細胞の分化、移動、増殖または再分化、腎単位の機能的完全性の復元、腎機能の復元等により示される、腎臓再生反応が観察される損傷後の時点を指す。腎臓の修復期は、哺乳動物について十分に記述されている。例えば、Reimschuessel, ILAR J 42: 285−291 (2001)を参照されたい。いくつかの実施形態において、HSCは、損傷後少なくとも約12時間(例えば、少なくとも約14時間、少なくとも約16時間、少なくとも約18時間、少なくとも約20時間、少なくとも約21時間、少なくとも約22時間、少なくとも約23時間、少なくとも約24時間、少なくとも約25時間、少なくとも約26時間、少なくとも約28時間、少なくとも約30時間、少なくとも約32時間、少なくとも約32時間、少なくとも約34時間、少なくとも約36時間、少なくとも約38時間、少なくとも約40時間、少なくとも約42時間、少なくとも約44時間、少なくとも約46時間、少なくとも約48時間、少なくとも約50時間、少なくとも約52時間、少なくとも約54時間、少なくとも約56時間、少なくとも約58時間、少なくとも約60時間、少なくとも約62時間、少なくとも約64時間、少なくとも約66時間、少なくとも約68時間、少なくとも約70時間、少なくとも約72時間)で投与される。
【0062】
さらなる実施形態において、HSCは、損傷後、上述のような時点で、および約14日目まで(例えば、約13日目まで、約12日目まで、約11日目まで、約10日目まで、約9日目まで、約8日目まで、約7日目まで、約6日目まで、約5日目まで、約4日目まで、約3日目まで)に患者に投与される。いくつかの実施形態において、HSCは、損傷後約24時間で、またはその後ある程度の時間を置いて、但し損傷後約14日目までに、患者に投与される。
【0063】
いくつかの態様において、HSCは、損傷後Xの後および損傷後Yの前までに投与され、ここでXは、約20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、25時間、26時間、27時間、28時間、29時間、30時間、31時間、32時間、33時間、34時間、35時間、36時間、40時間、48時間、52時間、58時間、64時間、72時間、3.5日、4日、5日、6日、1週間、8日、9日、10日からなる群から選択され、Yは、16日、15日、14日、13日、12日、11日、10日、9日、8日、1週間からなる群から選択され、XはYより小さい。本発明のいくつかの態様において、HSCは、損傷後約20、21、22、23、24時間で投与される。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態において、HSCは、2回以上患者に投与される。HSCは、1日1回、1日2回、1日3回、4回、1週間に1回、2日、3日、4日、5日、6日、8日、9日、10日、11日、12日、13日もしくは14日ごとに1回、または1ヶ月に1回投与されてもよい。いくつかの実施形態において、HSCは、損傷後約24時間(例えば24時間)後に投与され、損傷後約48時間(例えば48時間)後に再び投与される。
【0065】
制御放出製剤
ある特定の態様において、薬学的組成物は、薬学的組成物が投与される体内に放出される様式が、時間および体内の場所に関して制御されるように、デポー剤形に修正される(例えば、米国特許第4,450,150号を参照されたい)。様々な態様において、デポー剤形は、治療または活性薬剤(複数を含む)および多孔質または非多孔質材料、例えばポリマーを含む埋め込み型組成物であり、HSCは、材料によりカプセル化されているか、または材料全体に拡散しているか、および/または非多孔質材料の分解物である。次いで、デポー剤形は体内の所望の場所に埋め込まれ、HSCが所定の速度でインプラントから放出される。
【0066】
したがって、ある特定の態様において、薬学的組成物は、任意の種類の生体内放出プロファイルを有するように修正される。本発明のいくつかの態様において、薬学的組成物は、即時放出、制御放出、持続放出、徐放出、遅延放出、または二相放出製剤である。
【0067】
複合体
本発明のいくつかの態様において、HSCは、第2の部分、例えば、治療薬または診断薬等に付着または連結される。HSCは損傷した腎組織に特異的に局在化し得るため、これらの実施形態のHSCは、標的化薬剤として機能する。したがって、本発明は、一態様において、診断薬の治療薬に付着したHSCを含む組成物を提供する。本明細書の目的に好適な治療薬および診断薬は、当技術分野において知られており、本明細書に記載のもののうちのいずれをも含むが、それらに限定されない。
【0068】
組み合わせ
複合体を含む本明細書に記載の薬学的組成物は、いくつかの実施形態において、単独で投与される。他の実施形態において、複合体を含む薬学的組成物は、他の治療または診断薬と併せて投与される。いくつかの実施形態において、薬学的組成物は、例えば、サイトカインまたは成長因子、抗炎症薬、TLR2阻害薬、ATF3遺伝子または遺伝子産物、およびミネラルコルチコイド受容体遮断薬(例えば、スピロノラクトン)、リゾホスファチジン酸、2−メチルアミノクロマン(例えば、U83836E)、21−アミノステロイド(例えば、ラゾロイド(U74389F))、トリメタジジン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)、およびスラミン等を含む、腎疾患または腎臓の病状を処置するのに知られている別の治療薬とともに投与される。
【0069】
いくつかの実施形態において、HSCは、抗血栓薬、抗アポトーシス薬、抗炎症薬、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、ラパマイシン)、酸化防止剤、または、腎損傷もしくは腎臓障害を処置するために当技術分野において通常使用される他の薬剤、例えばエプロジセートおよびトリプトリド、HMG−CoAレダクターゼ阻害薬(例えば、シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチンおよびアトロバスタチン)、細胞溶解物、可溶性細胞分画、膜濃縮細胞分画、細胞培養培地(例えば、馴化培地)、または細胞外基質栄養素(例えば、肝細胞成長因子(HGF)、骨形態形成タンパク質−7(BMP−7)、形質転換成長因子ベータ(TGF−β)、マトリクス・メタロプロテイナーゼ−2(MMP−2)、および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)等の、他の追加的治療薬とともに投与される。
【0070】
患者の種類
本明細書に記載の本発明の方法に関して、患者は任意の宿主であり得る。いくつかの実施形態において、宿主は哺乳動物である。本明細書において使用される場合、「哺乳動物」という用語は、単孔類、有袋類および胎盤分類のいずれをも含むがこれらに限定されない、哺乳綱の脊椎動物を指す。いくつかの実施形態において、哺乳動物は、マウスおよびハムスター等の齧歯目の哺乳動物、ならびにウサギ等のウサギ目の哺乳動物のうちの1つである。ある特定の実施形態において、哺乳動物は、ネコ科(ネコ)およびイヌ科(イヌ)を含む食肉目の哺乳動物である。ある特定の実施形態において、哺乳動物は、ウシ科(ウシ)およびブタ科(ブタ)を含む偶蹄目、またはウマ科(ウマ)を含む奇蹄目の哺乳動物である。いくつかの場合において、哺乳動物は、霊長目、セボイド目もしくはシモイド目(サル)、または類人猿目(ヒトおよび類人猿)の哺乳動物である。特定の実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0071】
以下の実施例は、本発明を例示することのみを目的として記載され、本発明の範囲を限定することを目的としない。
【実施例】
【0072】
実施例1
実施例2〜7において、以下の材料および方法を使用した。
【0073】
動物
8〜10週齢の雄の免疫不全非肥満性糖尿病(NOD/SCID)マウス(NOD.CB17−Prkdcscid/J)(Jackson Laboratories、Bar Harbor、ME)を使用した。これらのマウスは糖尿病ではないが、機能性TおよびB細胞を有さないことに留意されたい。全てのマウスは、フィルタートップケージ内で維持し、無菌食および酸性化した水を与えた。全ての実験プロトコルは、Harvard Center for Animal Research and Comparative Medicineにより承認された。
【0074】
ヒト末梢血CD34+細胞精製および追跡
ヒト末梢血CD34+幹細胞を、正常健常成人ドナーから得られた顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)動員アフェレーシス産物から選択した(カタログ番号mPB026、AllCells、Berkeley、CA)。簡潔には、G−CSF(10μg/kg/日)を連続5日間ドナーに投与し、CD34+細胞を骨髄から末梢循環に動員した。ドナーは、動員された末梢血単核球を収集するために、5日目および6日目にアフェレーシスを受けた。CD34+細胞は、ISOLEX300i Magnetic Cell Positive Selection System(バージョン2.5、Baxter Healthcare、Deerfield、IL、USA)を使用して、機器の取扱説明書に示されたプロトコルに従い、アフェレーシス産物から高濃縮された。精製した細胞を、フローサイトメトリーで特性決定した(下記参照)。濃縮され、選択された細胞を、0.5%ヒト血清アルブミンを含むRPMI中で25℃で維持し、48時間以内に使用した。生存能力を試験するために、2×10個の細胞の一定量を、7−AAD(20μg/ml、20分、4℃、100μlのPBS中)で標識化し、FACS緩衝液(PBS/5%BSA)で洗浄し、次いでフローサイトメトリーで分析した。いくつかの実験において、全身投与後のHSCを追跡するために、ヒトCD34+細胞を、1μg/10細胞を用い、30分間、25℃で、10mlのRPMI中で、緑色蛍光トレーサー5−クロロメチルフルオレセインジアセテート(CMFDA、Invitrogen)で標識化した。過剰のCMFDAを、遠心分離(250×g 5分)後、10mlのRPMI(Invitrogen)中5%BSA(超純粋)(Sigma)に再懸濁させることによりクエンチした。さらなる遠心分離後、細胞を1%BSA/RPMI(12.5×10/ml)に再懸濁させた。CMFDA標識化では、7−AADを使用して検出された生存能力の変化が見られなかった(図示せず)。
【0075】
動物モデル
腎臓の虚血−再かん流傷害は、以前に説明されている方法[1]から修正した。簡潔には、0日目に、麻酔下の雄のマウス(8〜10週齢)の腎臓を、脇腹への外科的切開により露出させ、36.8〜37.3℃の中核温度で、片方または両方の腎臓の腎動脈および腎静脈にかけて、外科用クランプを設置した。腎臓が浅黒くなったことを確認し、次いで後腹膜内に27分間(片側モデル)または25分間(両側モデル)再配置した。クランプを取り外し、腎臓への再かん流を目視により確認し、創傷を閉じた。ヒトHSCの効果を試験するため、片側IRI腎損傷を有するこれらのマウスを、2つの群に分けた。処置群(n=6〜10/群)においては、腎損傷後1日目および2日目に、CMFDAで標識化された2.5 ×10個のヒトCD34+細胞を含有する200μlの細胞懸濁液を、尾静脈を通して静脈内注射した。対照群においては、マウスにはビヒクルのみを投与した。腎臓のIRIから3日目、5日目、7日目、14日目および28日目にマウスを致死させた。
【0076】
腎機能
腎機能を評価するために、両側IRI腎損傷(0日目)を有するマウスを、無作為に2つの群に分けた。処置群(n=10)には、1日目および2日目に、尾静脈からの静脈内注射により2.5×10個のヒトHSCを投与した。対照群(n=16)には、ビヒクルのみを投与した。以前に説明されている方法[1]を使用して、損傷後1日目、2日目、5日目、7日目、14日目および28日目に尾静脈から採取した血液試料から、血漿クレアチニンを分析した。
【0077】
組織の準備、免疫染色、損傷および修復の画像化および定量化
氷冷PBSでマウスをかん流し、次いで過ヨウ素酸−リジンパラホルムアルデヒド(PLP)溶液で2時間、続いて18%ショ糖で16時間臓器を固定し、次いで最適切断温度(OCT)媒体(最適切断温度を確実にし、低温保持装置上で切片化するまで組織を包埋するために、凍結組織に使用される包埋剤)内で保存する(−80℃)[2]か、または、光学顕微鏡用の組織を10%中性緩衝ホルマリン内で12時間固定し、70%エタノールに移し、次いでパラフィン切片用に加工し(3mm)、切片を過ヨウ素酸−Schiff(PAS)もしくはピクロシリウスレッド染色2で染色した。5mm低温切片に対し免疫蛍光標識化を行った。腎臓、脾臓および心臓における注入されたヒト細胞を検出するために、マウス抗原に対する交差反応性を有さないヒト白血球抗原に対する抗体を使用するか、またはCMFDAの蛍光を使用した(7日目まで)。別途説明されている方法[1、2]を採用し、以下の抗体を使用した:抗ヒト白血球抗原クラスI(HLA)−ABC(FITC、1:200、eBioscience)、抗ヒトCD45(FITC、1:200、eBioscience)、ラット抗ヒトCD45(1:200、Abcam)、抗ヒトCD68(FITC、1:200、eBioscience)、抗ヒトCD3(FITC、1:200、eBioscience)、抗ヒトCD31(FITC、1:200、eBioscience)、ウサギ抗ヒトvWF(1:200、Abcam)、抗ヒトCD146(FITC、1:100、Abcam)、ビオチン抗ヒトCD13 3(1:100、Miltenyi)、ウサギ抗ヒトCD13 3(1:100、CellSignaling)、ヤギ抗ヒトKDR(1:100、R&D Systems)、およびウサギ抗ヒトKDR(1:100、NeoMarkers)、続いてウサギ抗FITC(1:200、Invitrogen)、抗ラットCy3もしくは抗ウサギCy3もしくは抗ヤギCy3(1:400、Jackson Immunosresearch)、または抗アビジンCy3(1:3000、Jackson Immunosresearch)。マウス血管系を標識化するために、ヒト抗原と交差反応しないラット抗マウスCD31(1:200、eBioscience)、続いて抗ラットCy3(1:400、Jackson Immunosresearch)を適用した。切片を1%パラホルムアルデヒド(PFA)で後固定し、次いでDAPI含有Vectashield内に入れた。傍尿細管毛細血管喪失および小管損傷は、それぞれ以前に報告されているような盲検的スコア法[3]を使用して、抗CD31−Cy3標識化腎臓切片またはPAS染色パラフィン切片を評価することにより決定した。簡潔には、皮質および髄質外部を組み込んだ矢状断面全体にわたり順次デジタル画像化(200倍)により画像を撮像した(10〜20画像)。各画像をグリッドにより252個の正方形に分割した。傍尿細管毛細血管喪失を計算するために、傍尿細管毛細血管を含まない各正方形を正のスコアとし、最終的なスコアは正のスコアのパーセンテージとして示された。尿細管損傷を評価するために、各正方形の小管損傷の存在(小管の平坦化、壊死、アポトーシスまたは円柱の存在)を正のスコアとした。最終スコアは、画像当たりの正のスコアを有する正方形のパーセンテージであり、これを個々の腎臓からの全ての画像に対して平均化した。Nikon TE2000顕微鏡、CoolSnapカメラ(Roper Scientific、Germany)を用いてエピ蛍光画像を撮影し、IPラボソフトウェア(BD Biosciences、San Jose、CA)を使用して処理した。Nikon C1 D−Eclipse共焦点顕微鏡を用いて共焦点画像を生成した。投影画像は、0.1mmステップで取得した10Z−スタック画像から生成した。切片間の比較を可能とするため、含まれる全ての共焦点設定は、切片間で一定に維持した。
【0078】
フローサイトメトリー分析および選別
以前に説明されている方法[1]を使用して、Isolex濃縮CD34細胞を、以下のヒト抗体の組み合わせを用いて分析した:抗CD31−FITC(1:100、BD)、抗CD146−PE(1:100、BD)、抗KDR−FITC(1:100、R&D Systems)、抗CD45−FITC(1:100、BD)、抗CD140b−Alexa Fluor 488(1:100、BD)、抗CD29−PE(1:100、BD)、抗CD105−FITC(1:100、R&D Systems)、抗CD34−PE(1:100、BD)、抗CD99−FITC(1:100、BD)、抗CD144−PE(1:100、R&D Systems)、抗CD38−FITC(1:100、BD)、抗CD14−FITC(1:100、BD)、抗CD64−PE(1:100、BD)、抗CD61−PerCP(1:100、BD)、抗CD133−APC (1:100、Miltenyi)、抗CXCR4−APC (1:100、BD)、抗−CD90−APC(1:100、BD)、抗CD117−APC(1:100、BD)、抗VEGFR1−APC(1:100、R&D Systems)。HSCの完全な特性決定は、別途記述される(D.M.& A.C未発表)。以前に説明されているように[2]、腎臓、脾臓および骨髄から単細胞を調製した。簡潔には、腎臓、脾臓および骨髄からの単細胞(1×10)を、FACS緩衝液に再懸濁させ、ヒトCD45に対する抗体(FITC、1:200、eBioscience)およびマウスCD11bに対する抗体(PE、1:200、eBioscience)とともに30分間インキュベートした。FACS洗浄緩衝液で洗浄し、200μlのFACS緩衝液に再懸濁させた後、BD FACSCaliburフローサイトメーターを使用して細胞を分析した。注射後2日目のCMFDAで標識化したヒトHSCを、FACSariaを使用してFACS選別により直接選別した[2]。腎臓からの選別されたCMFDA+細胞をすぐに溶解させ、リアルタイムPCRのために、RNA Easy(Qiagen)システムを使用してRNA精製した。
【0079】
リアルタイムPCR
キット(RNA Easy Qiagen)を使用して、製造元の取扱説明書に従い、組織および細胞から全RNAを生成した。純度はA260からA280により決定した。iScript、ならびにランダムヘキサマーおよびpoly dTを含むプライマーを使用して、1μgの全RNAからcDNAを合成した[2]。以前に説明されている方法を使用して[4]、ABI7900HT配列検出システム(PerkinElmer Life Sciences、Boston、Applied BioSystems、Foster City、CA)を用い、SYBR −Green(SYBR Green PCRキット;Qiagen)の存在下、ヒトおよびマウス試料のリアルタイムPCRを行った。ヒトGAPDH、HPRT1、アンジオポイエチン1(ANGPT1)、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、肝細胞成長因子(HGF)、インスリン様成長因子1(IGF1)、インターロイキン−8(IL8)、血小板由来成長因子b(PDGFb)、形質転換成長因子b1(TGFb 1)、血管内皮成長因子(VEGF)、TIE1に特異的なプライマー/プローブセットは、Sabiosciences社製であった。同量のcDNAをRT−PCR反応に使用し、すぐに使用可能な反応ミックス(Sabiosciences)と混合した。反応は全て、3重で行った。リアルタイムPCRの最適化は、製造元の取扱説明書に従って行った。標準曲線の決定のために、4つのlog2ステップで連続的に希釈し、試料に対して並行して行った全ての試料のプールを使用した。各反応の全体積は20μlであり、300nMの順方向プライマーおよび300nMの逆方向プライマーおよび125ngのDNAを含有した。各反応に対して適切な陰性対照を使用した。
【0080】
統計分析
全ての値は、平均±標準偏差(SD)として示される。Mantel−Cox Log−rank検定を使用して、生存率を分析した。2つの群間の比較は、対応のないt検定(両側)により行った。対応のあるt検定は、偽手術マウスと比較対照した、動物または罹患したマウスの左(IRI)と右(対照)の腎臓を直接比較するために使用した。全ての統計試験において、0.05未満のP値を有意とみなした。
【0081】
実施例2
Isolex−生成G−Csf−動員造血幹細胞の特性決定
造血幹細胞動員ヒトドナーからのCD34+濃縮白血球を、生存能力および純度について分析した。HSCの99%超が、7−AAD除外により生存可能であった(図示せず)。白血球の96%超は、CD45+、CD34+であり、それらが造血幹細胞(HSC)であることを示していた(表1参照)。少数は、CD34を発現したがCD45は発現しなかった。多分化能の確認および推定内皮前駆細胞の同定のために、細胞表面マーカーCD14、CD34、CD146、CD133、CD31、VEGFR2を使用して、濃縮白血球のさらなる特性決定を行った(表2参照)[19]。特性決定は、HSCに加えて、動員されたヒト末梢血CD34+細胞が、少数の循環内皮前駆細胞(CEP)および稀に循環する内皮前駆細胞(CEC)を含有することを示している。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

実施例3
ヒト造血幹細胞は、虚血再かん流傷害後の修復中に腎臓に動員される
腎臓修復に対するヒトHSCの効果を試験するために、まずそれらが損傷腎臓に動員され得るかどうかを決定した。予備試験において、CMFDAで標識化された2.5×10個のHSCの損傷前の静脈内注射は、注射から24時間後も有意な動員をもたらさなかった(データは示さず)。次に、腎臓IRI後1日目および2日目に、CMFDA標識化HSCを注射し、損傷後3日目、5日目、7日目に腎臓を観察したところ(図1A、B)、腎実質部に多くの動員されたHSCを発見することができた。多くは傍尿細管毛細血管(PTC)内に局在化していたが、いくつかは、血管周囲の毛細血管境界外で発見された(図1C)。また、片側IRI後、非損傷腎臓に対する小規模ながらも有意なHSCの動員が見られることに気付いた(図1B)。しかしながら、心臓においてはいかなるHSCも発見することができず(図示せず)、これが非損傷および損傷腎臓へのHSCの特異的な動員であることが示された。経時的にCMFDAが希釈される可能性があるという懸念により、損傷後1日目および2日目に、マウスに非標識化HSCを注射した。これらの非標識化細胞は、HLAクラスIに対する抗体により検出された(図1C、D)。HLA−I陽性細胞は、全ての時点において腎臓で容易に検出されたが、明らかに、IRI後14日目および28日目に腎臓内でHLA−I+細胞の持続が見られた(図1D)。予想したように、HSCはまた脾臓および骨髄においても確認され(図1E〜H)、骨髄においてHSCの持続が見られ、IRI後7日目に、骨髄中のHSCが骨髄マーカーCD11bを誘導したという痕跡があり(図1G)、HSCがマウス骨髄に植え付けられ、マウスは最終的にキメラとなったことが示唆された。
【0084】
実施例4
全身ヒト造血幹細胞治療は、死亡率を低減し、虚血再かん流傷害後の腎機能を改善する
損傷腎臓へのHSC補充が修復中に任意の機能的結果をもたらすかどうかを決定するために、マウスに両側IRIを施し(0日目)、続いて1日目および2日目にヒトHSCの静脈内注射を行った。偽手術マウスにおいて血漿クレアチニンを検定し(0日目、血漿クレアチニン値は0.05±0.06)、またIRI後1日目、2日目および7日目にも検定した。両側腎臓IRIは、24時間で血清中クレアチニンの有意な増加をもたらし、48時間でピークに達した(図2A)。24時間(第1の注射時)での血漿クレアチニンレベルは、処置群とビヒクル群とで差はなかったが、HSCが投与されたマウスにおいては、48時間で血漿クレアチニンの顕著かつ有意な減少が見られ(図2A)、一方マウスのビヒクル群は、この時点で極めて上昇した血漿クレアチニンレベルを持続した。7日目までに、ビヒクル群および処置群両方の生存したマウスは、同様のレベルの血漿クレアチニンを示した。IRIモデルは回復モデルであるため、これは驚くべきことではない。しかしながら、ビヒクル群においては、7日目にマウスの50%しか生存しなかったが(図2B)、一方ヒトHSCが投与されたマウスの90%が7日目に生存した(図2B)。2つの群における生存数は、図2Bに示す。これらの驚くべき所見は、ヒトHSCが、腎臓修復/再生を促進するとともに生存率を向上させることを示唆している。
【0085】
実施例5
ヒト造血幹細胞治療は、腎臓の傍尿細管毛細血管喪失を軽減し、尿細管上皮再生を促進し、虚血再かん流傷害後の長期線維症を予防する
HSCが腎臓修復を促進する機序を調査するために、傍尿細管毛細血管(PTC)の損失および小管損傷の持続について、腎臓切片を分析した(図3)。形態計測によるmCD31標識化PTCの分析では、HSC処置が、修復中のPTC損失を予防することが明らかとなった(図3A〜C)。しかしながら、明らかに、14日後および28日後のPCT損失に差異はなく、これは、PTCの再生を促進する内因性の要因が存在するものの、HSC治療が血管系の初期喪失を軽減することを示唆している。同様に、HSC治療は、このIRIモデルの修復段階における小管損傷の持続を軽減した(図3D〜F)。これは、HSCが小管再生を直接的または間接的に促進していることを示唆している。我々は以前、腎臓IRIが、慢性腎臓疾患の前兆であり、進行性の長期腎機能喪失と強く関連した、持続性間質性線維症をもたらし得ることを実証している[14、20〜22]。損傷腎臓の修復中のHSCの全身注射が損傷の長期的結果に影響するかどうかを試験するために、間質性線維症を定量化した(図3G〜I)。ビヒクル処置マウスにおいて、間質性線維症は、損傷後4週間で徐々に蓄積したが、HSCが投与されたマウスにおいては、間質性線維症は28日目までに軽減された。
【0086】
実施例6
ヒト造血幹細胞は、虚血再かん流傷害後の腎臓において、初期リンパおよび骨髄分化マーカーならびに内皮前駆細胞マーカーを獲得する
HSCは、骨髄、赤血球、巨核球よびリンパ系細胞の源である。我々は、多くのHSCが損傷後3日目に腎臓に動員されたが、7日目にかけて保持される細胞の数が徐々に減少したこと、しかし、その後、損傷後最大28日目まで再び増加したことを認めた(図1)。我々は、ヒトリンパおよび骨髄関連マーカーについて腎臓を標識化した(図4)。損傷後3日目という早期に、動員されたHSCの多くがCD68またはCD3を獲得し、この誘導は、非損傷および損傷腎臓の両方において同様であった(図4)。7日目までに腎臓に動員されたHSCのいずれも単球性の核形態を獲得しなかったが、データは、腎臓内の骨髄およびリンパ系に対する早期の局所的関連があることを示唆している。腎臓におけるヒト細胞の数は、損傷後後期に増加する。IRI後14日目および28日目の腎臓において、好中球の特徴的な核を有する偶発的ヒト細胞が観察された(図示せず)。これらの所見は、BMキメラ現象の所見と併せて、腎臓におけるヒト細胞の後期の増加が、骨髄キメラ現象を反映するか、または腎臓内の成熟細胞型の局所的分化を反映するかのいずれかを示唆している。
【0087】
腎臓におけるHSCの局所的分化をさらに調査するために、マーカーVEGFR2(KDR)、CD146およびCD133で標識化された切片、ならびに細胞表面発現を、注射前の幹細胞と比較した(表3)。動員された濃縮HSCはほとんどKDRまたはCD146を発現せず、大多数はCD133を発現した。しかしながら、IRI後3日目の腎臓において、ほぼ全ての動員されたHSCはCD146を発現したが、いずれもCD133を発現しなかったことから、表現型の切り替えがあった。動員された濃縮HSCにおけるKDRの発現は、腎臓に動員されたものと比較して同様であった。CD146はCEP機能と関連していたため、我々の所見は、腎臓がCEP型機能へのHSC分化を促進することを示唆している。
【0088】
【表3】

実施例7
ヒト造血幹細胞は、主にパラクリン機序により血管修復に寄与する
肉芽形成を支援するHSCのさらなる役割を調査するために、まずHSCが内皮細胞に分化したかどうかを決定した。CD31およびヒトvWFに対するヒト特異的抗体、内皮細胞の2つのマーカーを使用して、7日目、14日目および28日目であるがそれより早期ではない時点において、損傷腎臓内のヒトCD31+細胞を確認した(図5A、B、C)。したがって、CD31発現は、最大限の修復と一致しなかった。偶発的CD31+HSCは、CD45発現を有さず、PTC壁内で発見され、形態は内皮細胞と一致していた(図5A)。しかしながら、CD31+ヒト細胞の大部分はまた、CD45を共発現する(図5B)か、またはリンパ球および単球によるCD31発現と一致する白血球形態を伴って間質内に存在しており、またヒトCD31が内皮の特異的マーカーではないことを示していた。抗ヒトvWF抗体(マウスvWFと交差反応しなかった)を使用した並行試験はまた、CD45発現を有さない非常に稀なvWF+ヒト細胞を確認し(図5D)、偶発的ヒト細胞が機能性内皮細胞となる観察結果を裏付けた。これらの調査は、ヒトCD34+細胞の直接的毛細血管再生に対するごくわずかな寄与の証拠を提供したにすぎないが、全てのHSCにおけるCEPマーカーCD146の顕著な誘導が見られたため(表1)、我々は、HSCがパラクリン機序により機能しているかどうかを試験した。これは、損傷後の腎臓におけるHSCの血管内および血管周囲の場所を考慮すると、特に制御しやすかった。これをさらに試験するために、我々は、IRI後4日目の腎臓に動員されたCMFDA標識化HSCを精製し、RT−PCRによりそのヒト特異的転写プロフィールを分析し、マウスへの全身注射前の同種HSCの転写プロフィールと比較した。HSCは、ANG−1、FGF−2、およびVEGF−Aを含む血管形成促進サイトカインの高レベルの転写物を生成し、さらに、上皮再生における役割が知られている高レベルのHGFを生成した(図6)。驚くべきことに、腎臓に動員されたそれらのHSCは、非常に類似した血管形成促進サイトカインの転写活性を示したが、これは、血管形成におけるパラクリンの役割をさらに支持している。
【0089】
実施例8
本明細書に示されたデータの考察
ヒトにおける急性腎損傷は、依然として高い死亡率を示すとともに治療の選択肢が限られており、したがって、新たな治療戦略として可能性のある再生手法を特定することが強く望まれている。さらに、ヒトにおける急性腎障害は、臓器不全に至る炎症、血管障害、上皮萎縮、線維症および進行性の機能喪失を特徴とする慢性腎臓疾患の前兆であるという証拠が次々と示されている[2、14、22、23]。腎損傷を軽減する、または修復および再生を向上させる新たな戦略は、短期間の影響を与えるだけでなく、おそらく、腎機能への長期コースを改変すると思われる。慢性腎臓疾患は、心臓血管疾患の独立した危険因子であるであるため[4]、そのような治療の長期的結果は、腎臓疾患だけでなく心臓血管疾患にも影響を与える。最近、成人ヒト末梢血CD34+細胞およびHSCが、脳卒中および骨損傷後の脈管形成および骨形成を促進することが報告された[16、24]。さらに、CD34+細胞は、外部から与えられたG−CSFの存在下で末梢循環に拡大および動員可能であり[25〜27]、HSCを容易に利用可能とし、臨床細胞治療の理論的根拠を支持している。
【0090】
本研究において、我々は、腎損傷から24時間後に全身投与されたヒトHSCが、損傷腎臓に選択的に動員され、主に血管内およびその周囲に局在化することを実証した。この動員は、微小血管系/小管上皮細胞の修復の向上、機能回復の向上および生存率の増加を伴い、さらに長期線維症を予防した。HSCは、腎臓への動員後、腎臓において初期リンパおよび骨髄特定マーカーを誘導し、CEPマーカーを獲得したが、高レベルの血管形成促進転写物の合成を保持した。精製HSCは、腎臓への動員前には少数の循環内皮前駆細胞および偶発的循環内皮細胞を含有しており、腎臓に動員されたHSCはCEP分化に合わせてCD146を誘導したが、マウス毛細血管壁内ではヒト内皮細胞はほとんど確認されなかった。総合すると、HSC媒介腎臓修復は血管の交代ではなくパラクリン機序によるものであることを、これらのデータは示している(図7)。
【0091】
ヒトHSCは、片側腎臓IRIモデルにおいて損傷腎臓に選択的に動員されたが、これは、損傷腎臓が末梢循環中のHSCを選択的に動員することができることを示している。IRI後腎臓へのヒトHSCの選択的動員は、ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)を含むケモカインの局所的放出を示唆し、その受容体CXCR4が重要となり得ること、ならびに転写因子低酸素誘導因子−1(HIF−1)が、局所的ケモカイン誘導の調整において役割を担っている可能性があることを示している[28、29]。損傷の発生時(0日目)におけるHSCの全身投与ではHSCの動員は良好ではなかったが、修復期の開始時のHSCの遅延投与は、動員を誘発するのに極めて効果的であったことに注目すべきである。この補充パターンは、腎臓への単球流入と類似するが好中球動員とは異なり、追加のモノカインがHSC動員において役割を担っている可能性があることを示唆している。マウスに対する我々の以前の研究では、単純にIRIに応答した骨髄からの内因性HSC動員または腎臓への動員の証拠は得られなかったが、これは、正常な骨髄腔からのHSCの動員のための内因性シグナルが不十分であることを示している[30]。末梢循環へのHSCの注射が腎臓への効果的な動員をもたらすことから、HSC治療は、骨髄腔からの放出における通常の遮断を克服する。また、片側IRIモデルにおいて、非損傷腎臓にも少数のヒトHSCが動員された。同じマウスの心臓もしくは消化系、または健常マウスの腎臓にはHSCは補充されなかった(図示せず)。片側IRIに反応して、非損傷腎臓は代償性変化を示すが、肥大および過形成もその一部であった。したがって、非損傷腎臓へのHSC動員は、血管形成を促進するか、または損傷が存在しない状況で予防的役割を担うと考えられる。
【0092】
HSCは、HLA−クラス−I抗原に対する抗体を使用して、IRI後14日目から28日目に腎臓内に検出された。腎臓内での経時的なHSC保持の二峰性分布が見られ、約7日目に底部が生じた。我々は、マウスが骨髄キメラ現象を発現し、14日目および28日目(但しそれより早期ではない)に、腎臓におけるヒト細胞のいくつかが好中球であることを認めた。したがって、腎臓の修復期の最初の7日目〜10日目の間、HSCは幹細胞、初期特定細胞またはCEPのままであり、修復が進行するにつれて徐々に腎臓から消失し、後に、元の全身循環HSCから得られるのではなく骨髄から動員された成熟白血球に置き換わったと思われる。CD31の後期発現を伴う腎臓におけるヒト白血球の後期の増加、およびヒト好中球の出現は、キメラ骨髄からの白血球補充と一致している。しかしながら、我々のデータは、驚くべきことに、疾患の1日目および2日目のHSC注射が線維症に対し長期的に影響をもたらすことを示している。長期的線維症の低減が初期血管修復の改善を反映するものであるか、または後の時点での腎臓における修復ヒトHSCの持続性集団を反映するものであるかは、これらの現在の研究からは不明である。
【0093】
腎臓における虚血性傷害は、上皮損傷を特徴とする。傍尿細管毛細血管(PTC)喪失は、より十分に説明されていない。しかしながら、重度の急性腎損傷のいくつかのモデル(虚血、毒素、一過性アンジオテンシンII)から得られたデータは、典型的には著しい線維症の発達に先行する毛細血管喪失を実証しており[14、15、31]、血管形成が、血管構造の保存および臓器機能の復元における中心的プロセスである可能性がある[12、13、32、33]。また、我々は、これらの研究において、IRI後、比較的軽度の腎損傷のみでのPTCの顕著な喪失があること、また、修復中これらのPTCの著しい再生があるものの、損傷後1ヶ月で血管系の持続的喪失があることを示しているが、これは、腎臓は、皮膚等の他の器官と異なり、損傷後の血管再建において固有の欠陥を有することを表している[14]。我々の研究は、修復中、HSCが腎臓のPTC喪失を軽減すること、また、それが腎臓の急速な機能的回復およびマウスの生存率の向上の両方と関連することを明確に示している。我々の片側IRIモデルにおいて、PTCのHSC媒介再生は、28週目において長期持続PTC喪失を軽減しなかったが、それにもかかわらず、両側IRIモデルにおいて見られる回復および生存率に影響を与えた。これは、腎臓修復における中心的プロセスとしての早期血管修復を示している。HSC媒介血管修復の有効性は損傷後早期の時点に限られているが、それでも損傷後1ヶ月目に腎臓における線維症進行が予防される。この早期HSC注射の長期的効果が、間質性線維症の発達における中心的相互作用となり得る[34]周皮細胞−内皮細胞相互作用の向上に起因するかどうかを解明するには、さらなる研究が必要である。予備的試験において、マウスのIRI後14日目の腎臓に対するHSCの後期の投与は、良好ではない動員をもたらし、血管修復の向上の証拠はほとんどみられなかったが(図示せず)、HSCが有効となり得る損傷後期間が限られていることを示している。
【0094】
腎臓IRIモデルは、小管上皮細胞、特に、近位小管細胞のS3切片の重度の損傷および修復を特徴とするが、PTC再生がないと、持続性虚血に起因して、それらの損傷尿細管はうまく再生しない可能性が高い[14、35]。我々の研究はまた、小管損傷スコアおよび機能回復により評価されるように、HSCが上皮再生を促進することを示した。HSCは、血管形成促進因子の高レベルの転写物を生成し、その腎臓内での場所(血管内および血管周囲)は、血管修復における主要な役割を示唆し、これは二次的に上皮修復を促進する。しかしながら、上皮に対する直接的な修復促進効果を有することが知られるHGFの高レベルの転写物および上皮修復サイトカインWNT7b(図示せず)(Lin et al.、原稿提出中)は、HSCが、PCT修復とは独立して、上皮修復に対する直接的なパラクリンの役割を有し得ることを示唆している。
【0095】
また、HSCが、腎臓修復において、CD3+およびCD68+発現を急速に誘導したことは興味深い。損傷後の腎臓においてT細胞および単球由来細胞が共に修復的役割を示していることを示す証拠が漸次増加している[36、37]。したがって、HSCは、局所的に修復T細胞および修復マクロファージに分化することも考えられる。腎臓補充HSCと末梢血からの成熟T細胞および単球との間の差異を決定するためには、さらなる研究が必要である[36、37]。
【0096】
成熟内皮細胞を直接形成することによる、内皮再生における循環内皮細胞(CECs)およびCEPの役割は、重要な研究対象となっている[18、38]。事実、我々は以前、マウス骨髄キメラにおいて、腎臓IRIおよび修復の後、内皮細胞の少数がキメラ骨髄に由来することを報告した[30]。いくつかの研究において、Tie2は白血球および内皮細胞の両方を標識化するため、上皮細胞になった白血球を検出するためのプロモーターTie2の使用は、事後解釈の問題をもたらした[39]。したがって、CEPが内皮細胞になるという主張は言い過ぎかもしれない。これらの現在の研究において、我々は一貫して、ほぼ全ての動員されたヒトHSCが共通の白血球マーカーCD45を保持することを発見したが、これは他の公開データ[11]と一致している。我々は、ヒト内皮細胞を確認するために内皮マーカーCD31を使用したが、CD31はまたB細胞および単球/マクロファージも標識化し[40]、これらの研究においては、内皮細胞に非特異的であることが証明された。しかしながら、ヒト内皮細胞に一致して、毛細血管壁内に、内皮細胞形態、CD31の発現、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)およびCD45の不在を伴う偶発的細胞が確認された[41]。我々が最初に行った、精製HSCの特性決定において、精製CECの小集団(<0.05%)[38、42]、およびCEPの小集団が観察された。IRI後腎臓において、ヒトHSCの大部分はCEPマーカーを獲得した。したがって、これらの偶発的ヒト内皮細胞は、CEPの内皮細胞との細胞融合、稀なCECの組み込み、またはCEPの分化転換から得られると考えられる。確かに、ヒト内皮細胞の出現は、腎臓PTC再生の重要な機序ではなかった。むしろ、我々の研究は、他の研究において報告されているように[18、24、43]、CEPマーカーを有するHSCおよび修復腎臓に動員されたHSCが、VEGF−A、HGF、ANG−1、IL−8、IGF−1およびFGF−2を含む血管形成因子を分泌することができることを示している。これらのサイトカインは全て、強力な血管形成因子として認識されており、血管形成の増加により腎臓修復を促進し得る[44〜46]。腎臓内のHSCの血管内および血管周囲の場所と併せて、我々は、HSCによる生存率および腎臓修復の両方の主要な機序が、パラクリン機序によるPTC再生であることを提案する[24]。
【0097】
結論として、我々は、本明細書において、全身投与された末梢血動員ヒトHSCが、傍尿細管毛細血管に対するパラクリン機序により、死亡率を低減し、急速な腎臓修復および腎臓の再生を促進することを実証した。これらの所見は、急性腎臓疾患の処置のための有望な治療戦略として、また、慢性腎臓疾患の予防において、ヒトHSCを支持している。
参照文献
実施例1で引用される参照文献
【0098】
【化1】

本明細書の別の場所で引用される参照文献
【0099】
【化2】

【0100】
【化3】

【0101】
【化4】

【0102】
【化5】

【0103】
【化6】

本明細書における組成物または処置の方法に関連する全ての記述はまた、本発明の「使用」を画定すると解釈されるべきである。例えば、本発明は、本明細書に記載の状態を処置するため、または本明細書に記載の治療目標(例えば、治療を必要とするヒトの血糖の低下)を達成するための、サリチル酸源の使用を含む。同様に、本発明はまた、そのような処置/目的のための薬剤の製造のためのサリチル酸源の使用を含む。
【0104】
上記の要約は、本発明の全ての態様を画定することを意図せず、追加的態様は、発明を実施するための形態等の他の項に記載されている。文書全体は、統合された開示として関連することを意図し、特徴の組み合わせが本文書の同じ文章または段落または項において一緒に見出されないとしても、本明細書に記載の特徴の全ての組み合わせが企図されることが理解されるべきである。
【0105】
上記に加えて、本発明は、追加的態様として、上で具体的に挙げた変形例よりもなんらかの意味で狭い範囲である、本発明の全ての実施形態を含む。属として記載された本発明の態様に関して、全ての個々の種は、個々に、本発明の別個の態様とみなされる。範囲として記載された態様に関して、全ての部分範囲および個々の値が具体的に企図される。
【0106】
出願者(ら)は、本明細書に添付される特許請求の全範囲を発明したが、本明細書に添付される請求項は、それらの範囲に、他者による従来技術の研究を包含することを意図しない。したがって、特許庁または他の団体もしくは個人により、請求項の範囲内の法定従来技術に対して出願人の注意が喚起された場合、出願人(ら)は、該当する特許法の下、そのような法定従来技術または法定従来技術の明らかな変形例を当該請求項の範囲から具体的に除外するために、当該請求項の主題を再定義するという、補正を行う権利を有する。そのような補正請求項により定義された本発明の変形例もまた、本発明の態様として意図される。本発明の追加的特徴および変形例は、本出願の全内容により当業者に明らかとなり、そのような特徴は全て、本発明の態様として意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における腎損傷を処置する方法であって、少なくとも損傷後約20時間から損傷後約14日までに、ある量の造血幹細胞(HSC)を前記患者に投与することを含み、前記量は、前記患者における前記腎損傷を処置するのに効果的である、方法。
【請求項2】
腎損傷を有する患者における腎疾患または腎臓の病状を予防する方法であって、少なくとも損傷後約20時間から損傷後約14日までに、ある量の造血幹細胞(HSC)を前記患者に投与することを含み、前記量は、前記患者における前記腎疾患または腎臓の病状を予防するのに効果的である、方法。
【請求項3】
前記腎疾患または腎臓の病状は、急性腎不全、慢性腎疾患、および間質性線維症からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
腎損傷を有する患者の生存率を増加させる方法であって、少なくとも損傷後約20時間から損傷後約14日までに、ある量の造血幹細胞(HSC)を前記患者に投与することを含み、前記量は、前記患者の生存率を増加させるのに効果的である、方法。
【請求項5】
前記腎損傷は、前記患者の腎臓における傍尿細管毛細血管喪失をもたらす、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記急性腎損傷は、前記患者における虚血、毒素、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)またはアンジオテンシンII受容体遮断薬の使用、輸血反応、筋肉に対する損傷または外傷、手術、ショック、および低血圧のうちの1つ以上によりもたらされる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記腎損傷は、腎虚血再かん流傷害である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記HSCは、少なくとも損傷後約20時間から損傷後約7日までに投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記HSCは、少なくとも損傷後約22時間から損傷後約4日までに投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記HSCは、損傷後約24時間で投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
HSCの第2の投与をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記HSCの第2の投与は、第1の投与後約少なくとも12時間で投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記HSCの第2の投与は、第1の投与後少なくとも約24時間で投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記HSCは、細胞の少なくとも30%がCD34HSCである細胞集団の一部である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞の少なくとも50%がCD34HSCである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞の少なくとも75%がCD34HSCである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞の75%超がCD34HSCである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記HSCは、ドナーの抹消血から単離された動員骨髄細胞である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ドナーは、前記患者であり、前記HSCは、前記患者の自己細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも2.5×10個のHSCが、前記患者に投与される、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記HSCは、非経口的に投与される、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
HSCの集団および薬学的担体を含む、薬学的組成物。
【請求項23】
非経口投与用に製剤化された、請求項22に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記HSCは、腎虚血再かん流傷害の治療薬に結合している、請求項22または23に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
腎疾患または腎臓の病状の治療のための治療薬をさらに含む、請求項22から24のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記治療薬は、TLR2阻害薬、ATF3遺伝子または遺伝子産物、およびミネラルコルチコイド受容体遮断薬、リゾホスファチジン酸、2−メチルアミノクロマン、21−アミノステロイド、トリメタジジン、ならびにスラミンからなる群から選択される、請求項25に記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−506681(P2013−506681A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532293(P2012−532293)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/050812
【国際公開番号】WO2011/041478
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】