説明

腐食および汚れを低減する低エネルギー表面

本発明は、金属表面と、金属表面の汚れを低減する方法とに関し、さらに詳しくは、腐食性物質を輸送または保有する配管および熱交換器のような金属表面に関する。本発明は、金属表面と、金属汚染材料の汚れを低減する方法とに関する。金属表面を、厚さが単分子層の範囲にある有機金属被膜の形成によって保護できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属表面の汚れおよび腐食を低減する方法に関する。さらに詳しくは、それによって、腐食性材料および汚染材料を輸送または保有する配管および熱交換器のような金属表面を、厚さが単分子層の範囲にある有機金属被膜を形成することによって保護できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製油所および化学プラントで使用される配管、熱交換器およびリアクターのような金属表面の汚れは、清浄化および機器の停止時間を含む重大なコストをもたらす要因となる。このような汚れは、原油、留出物、プロセス原料その他同類のもののような多くの原因物質から生じる可能性がある。多くの例において、コストには、コークのような汚れ物質の存在によって必要になる非常に厳しい運転条件と付随する安全問題とに関連するエネルギーコストも含まれる場合がある。製油所にとって、清浄化および機器停止時間に関連するコストは年間数億ドルに達する可能性がある。
【0003】
汚れを軽減する多くの方法が行われてきたが、金属表面に対する被膜もそれに含まれる。保護用の表面膜形成のための1つの方法は、アルコキシシランの酸化分解から得られるシリカの層を蒸気相において金属表面に析出させる方法である。もう1つの方法は、蒸気相においてケイ素含有前駆体を熱分解して析出させたセラミック材料の数ミクロンから数ミリメータまでの厚さの層でリアクターの表面を被膜処理することによって、コーキングに曝されるリアクターの表面を不動態化する方法である。この2つの方法共、比較的高い表面エネルギーを有する表面酸化物を結果的に生成させ、これが望ましくない表面の沈積物を引き寄せる。これらの被膜は、腐食の防止にはある程度の価値を有することがあるが、汚れの低減には効果がないことが判明している。
【0004】
他の被膜は、ポリエチレンおよびポリフッ化ビニルのような高分子材料を指向しているが、これは、その表面エネルギーが低く、自然条件の水環境における生物汚れに用いられる。高分子被膜は、製油所の運転に通例の高温条件に耐えることができず、炭化水素の汚れには有効でない。
【0005】
汚れた機器を清浄化するために、高水圧噴射または水蒸気注入のような物理的な清浄化が用いられてきた。化学的な軽減法も採用できる。この代表例として、好ましくない沈積の生成を排除または最小化する防汚剤の使用がある。このような防汚剤には、硫黄およびリン含有化合物並びにフェノール化合物が含まれる。
【0006】
工業的な導管用の代表的な被膜は一般的にミクロンからミリメータ範囲の厚さである。これは、通常、良好な表面の被覆を保証し、同時に運転条件において強靭な十分な厚さの保護層を形成するためであるが、このような厚い被膜は熱交換を制限する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
配管および熱交換器を含む製油所および化学プロセスの機器における腐食および汚れの両者を軽減するための効果的かつ安価な被膜であって、厚さが単分子層の範囲内にあり、低い(最適)表面エネルギーを有するような被膜の出現が望まれるところである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属表面の腐食および汚れの両者を軽減する処理法に関する。この処理法は、金属表面を、金属表面に結合して1〜10分子の層厚の有機金属分子の層を形成し得る有機金属化合物と接触させる工程を含む。この層は、450℃までの温度において実質的に分解しないものであり、かつ、50ミリジュール/mより低い表面エネルギーを有する。
【0009】
別の実施形態は、金属表面を有する製油所および化学プラントの機器の汚れおよび腐食を軽減する処理法に関する。この処理法は、金属表面を、金属表面に結合して1〜10分子の層厚の有機金属分子の層を形成し得る有機金属化合物と接触させる工程を含む。この層は、450℃までの温度において実質的に分解しないものであり、50ミリジュール/mより低い表面エネルギーを有し、かつ、金属表面の25%より多く100%までの表面に析出する。
【0010】
さらに別の実施形態は、金属表面を有する製油所および化学プラントの機器の汚れを軽減する処理法に関する。この処理法は、金属表面を、酸素含有雰囲気において、100℃〜500℃の温度で、前記金属表面から炭素質の残留物を除去するに十分な時間加熱する工程と、金属表面を、金属表面に結合して1〜10分子の層厚の有機金属分子の層を形成し得る有機金属化合物と接触させる工程とを含む。この層は、450℃までの温度において実質的に分解しないものであり、50ミリジュール/mより低い表面エネルギーを有し、かつ、金属表面の25%より多く100%までの表面に析出する。
【0011】
さらに別の実施形態は、腐食層を含む金属表面を有する製油所および化学プラントの機器の汚れを軽減する処理法に関する。この処理法は、腐食層を含む金属表面を高圧水または水蒸気の少なくともいずれかと接触させて、水または水蒸気清浄化された金属表面を生成する工程と、水または水蒸気清浄化された金属表面を、酸素含有雰囲気において、100℃〜500℃の温度で、前記金属表面から炭素質の残留物をさらに除去するに十分な時間加熱する工程と、このさらに清浄化された金属表面を、金属表面に結合して1〜10分子の層厚の有機金属分子の層を形成し得る有機金属化合物と接触させる工程とを含む。この層は、450℃までの温度において実質的に分解しないものであり、95〜160°の水接触角を有する表面を形成し、かつ、金属表面の25%より多く100%までの表面に析出する。
【0012】
また別の実施形態は、大気圧以上の圧力において腐食性物質またはコーク形成物質に曝露された時に汚れを抑止し得る金属表面であって、金属の表面と、その金属の表面上に析出した有機金属分子の層とを含み、その有機金属分子の層が1〜10分子の層厚である金属表面に関する。この層は、450℃までの温度において実質的に分解しないものであり、50ミリジュール/mより低い表面エネルギーを有し、かつ、金属表面の25%より多く100%までの表面に析出する。
【0013】
ケイ酸塩ゾルによる処理、あるいはケイ素またはアルミニウムリッチな塗料は、一般的には、下地の金属を腐食から保護する物理的な境界となり得る比較的厚い(ミクロン〜ミリメータ)表面を生成する。しかし、この種の処理は、表面が酸化物/水酸化物の表面層で終わっていると低い表面エネルギーを呈しないであろう。“化学蒸着法”用としてシランを用いることも知られているが、これは、高温(例えば600℃)によって金属表面内にSi、C、Hおよび他の元素を拡散させる意図で行われる。この表面は、結果的に、非金属性ではあるがなお高い表面エネルギーを有する可能性があり、潜在的な汚れ物質を拒絶しないであろう。
【0014】
本発明においては、有機金属の有機部分が保持(化学吸着)されるような有機金属の反応によって表面が生成され、安定で、薄く、単分子層に近い表面が形成される。この単分子層に近い表面は、より厚い被膜より耐スポーリング性および耐き裂性が高く、しかも、可能な沈積を阻みかつ排除するに必要な低い表面エネルギーを有する。すなわち、先行技術は金属の被膜に物理的な遮蔽を用いるが、本発明は、金属表面の保護に化学修飾の方法を用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
典型的な製油所プロセスおよび化学プラントプロセスにおいては、多くの原料油がプロセス機器の汚れをもたらす傾向を有する。このような原料に原油が含まれる。原油は、残留物および/または腐食成分を沈積することによって機器に汚れを生成する汚染物質を含有する場合が多いからである。このような汚染物質の例としては、塩類、金属、硫黄および窒素含有化学種、蒸留ボトムその他同類のものがある。腐食成分には、硫黄含有酸性化学種およびナフテン酸のような酸性化合物が含まれる。このような汚染物質を含む原料は、流量および熱交換を制限するコークおよび他の望ましくない沈積物を生成する。
【0016】
本発明は、金属表面と、この金属表面を用いる処理法とに関する。この処理法においては、有機金属の被膜が金属表面、特に製油所および化学プラントに存在する金属表面の保護に用いられる。ほとんどの製油所プロセスおよび化学プラントプロセスの機器は炭素鋼およびその合金から製作される。ステンレス鋼は高い耐腐食性を有するが、コストが高いので製作用の金属として用いられる頻度は少ない。
【0017】
本処理法において使用する有機金属は、金属表面に結合することが可能であり、その金属表面が曝露される温度において分解しないような有機金属である。先行技術において使用されるほとんどの有機金属は前駆体として用いられ、保護被膜として機能する酸化物に転換される。本発明においては、有機金属化合物、その酸化物でなく有機金属化合物自体が保護被膜として機能する。従って、本発明の有機金属被膜は、単分子層の範囲において化学的な保護層として機能する。これは、厚い被膜によって形成される先行技術の物理的な遮蔽と比べると対照的である。
【0018】
被膜材料として使用される有機金属化合物において、有機金属化合物の金属成分は、1族〜18族を含むIUPAC形式の周期律表に基づいて、4族〜15族、好ましくは14族から選択され、さらに好ましくはケイ素およびスズ、特にケイ素である。有機金属化合物の有機成分は、1〜30個の炭素原子、好ましくは1〜20個の炭素原子、さらに好ましくは1〜10個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である。ヒドロカルビル基は脂肪族基または芳香族基とすることができるが、この脂肪族基または芳香族基は、酸素、水素、ヒドロキシルその他同類のような官能基で置換することができる。好ましいヒドロカルビル基には、メチル、エチル、メトキシ、エトキシおよびフェニルが含まれる。好ましい有機金属化合物には、アルキルシラン、アルコキシシラン、シラン、シラザン、および、アルキルおよびフェニルシロキサンが含まれる。特に好ましい化合物には、1〜20個のアルキル基またはアルコキシ基を有するアルキルシランまたはアルコキシシラン、特に、テトラエトキシシランのようなテトラアルコキシ化合物、1〜6個のアルキル基を有するアルキルシラン、特にヘキサメチルジシロキサンが含まれる。
【0019】
金属表面上の有機金属被膜は低エネルギーの表面を有するべきである。低エネルギーの表面という用語によって、50ミリジュール/平方メートル(mJ/m)未満、好ましくは21〜45mJ/mの表面自由エネルギーを有する被膜を意味するものとする。表面の自由エネルギーは水の接触角を測定することによって決定される。層の表面エネルギーが低いと、例えば原油と被膜層との間の界面における界面エネルギーが、原油予熱熱交換器トレイン用の典型的な熱交換器に見られる高温条件、例えば200℃〜400℃においても確実に低くなる。この結果、汚れ物質および腐食性化学種の表面との相互作用が弱くなり、汚れおよび腐食の速度が低下することになる。
【0020】
有機金属の被膜層が被覆する量は、金属表面の25%より多く金属表面の100%まで、好ましくは50%〜100%、さらに好ましくは80%〜100%の表面である。被覆される金属表面の量は、最も好ましくは100%、もしくは可能な限り100%に近い表面である。
【0021】
保護される金属表面は、コークのような炭素質の沈積物が除去されて清浄化されていることが望ましい。これは、製油所および化学プラント用途に用いられる配管、熱交換器および炉の加熱管のような金属表面と接触しながら原料が加熱される連続プロセスにおいて重要である。軽質サイクル油、他の軽質油または他の溶剤、および高圧水噴射または高圧水蒸気清浄化による標準的な初期清浄化の後、金属表面を、酸素含有気体好ましくは空気の存在下で、200℃〜500℃好ましくは300℃〜400℃の温度で、所要の沈積物、特に炭素質の沈積物を除去するに十分な時間加熱することによって清浄化することが望ましい。この加熱は通常大気圧で行われるが、より高圧で行うことも可能である。塩類が存在する場合は、塩類除去のために水洗を用いてもよい。清浄化された金属表面は、有機金属被膜処理法の有効性を強化するために、金属塩の溶液で処理することも可能である。例えば、炭素鋼の表面は最初にCr塩溶液で処理することができる。
【0022】
清浄化され、加熱された金属表面を続いて有機金属被膜処理する。これは、加熱された金属を気相、液相または気液混合相において有機金属化合物に曝露することによって行う。有機金属化合物は、窒素のようなキャリヤーガスによって蒸気状態に噴霧してもよいし、あるいは、希釈溶液として、シクロヘキサン、キシレン、水四塩化炭素、クロロホルム、燃料油、潤滑油範囲の炭化水素、原油その他同類のもののようなキャリヤー液体と例えば5容積%まで混合してもよい。この有機金属被膜処理法は、好ましくは酸素含有気体が存在しない状態で行うべきである。被膜処理法の温度は、外気温から500℃までの範囲にすることができる。被膜処理の上限温度範囲は、被膜処理に使用する特定の有機金属の安定性の関数である。
【0023】
有機金属被膜による表面修飾の程度は水接触角によって測定できる。この試験は、化学修飾された金属表面と接触する水の接触角を測定する。水接触角測定の試験手順の1つの例はASTM D−5725である。水接触角が大きいことは、疎水性が高く、下地の金属表面(あるいは金属酸化物/硫化物の表面)を有機金属被膜によって良好に被覆していることを意味している。本発明に従って修飾された金属表面の場合、測定される水接触角は95〜160°、好ましくは110〜150°である。
【0024】
有機金属被膜の厚さは、1〜10分子の層厚、好ましくは1〜3分子の層厚、さらに好ましくは単分子層の厚さである。分子層の厚さは、析出工程によって、例えば、金属表面を有機金属化合物に曝露する時間の制御および被膜塗着圧力の制御によって管理することができる。
【0025】
本発明に従って有機金属分子被膜された金属表面の運転温度は、450℃以下、好ましくは400℃以下、さらに好ましくは350℃以下に維持されるべきである。有機金属被膜の若干の分解が、被膜として使用された有機金属の性質および採られる運転温度に応じて生じることがある。例えば、被膜剤としてのフェニルシランは、アルキルシランよりも高温において安定であり得るので、より厳しい用途に用いることができる。有機金属分子の層の「実質的な分解」という用語は、被膜層(被覆層)における有機金属分子が金属表面の25%被覆未満に低減したことを意味するものとする。
【0026】
本発明の有機金属被膜の作用は、少なくとも部分的には有機部分の機能であると信じられる。いかなる特定の理論にも結び付けられることを望むわけではないが、有機部分が極性および非極性両方の炭化水素との相互作用エネルギーを最小化し、これによって汚れおよび腐食を軽減すると思われる。腐食の最小化は汚れの最小化と連関している。例えば、腐食は金属表面積を増大する傾向を有しており、それによって汚れ物質の捕捉部位を作り出す。金属表面の通常のセラミック被膜は、腐食を軽減する物理的な遮蔽に依拠している。しかし、セラミック被膜は、表面エネルギーがなお高い、すなわち100mJ/mを超える場合があるので、有機金属ほど有効ではないであろう。同じ理由が、物理的な遮蔽を設けるために用いられる酸化物被膜についても当てはまる。従って、金属、特に鋼材およびその合金には、製油所および化学プラントにおける腐食と汚れの沈積との両方を抑止する有機金属被膜の低表面エネルギーの単分子層または単分子層に近い層を設けることができる。このような使用例に、原油予熱トレイン、水蒸気分解装置移送ライン、およびポリマー製造に用いられる移送ラインが含まれる。有機金属被膜によって保護するべき材料は、他の金属であってもよく、またセラミックのような非金属材料でもよい。
【0027】
本発明を例証する製油所プロセスの1例は、多くの製油所装置に共通するボイラのような熱交換器である。これらの熱交換器は、清浄化のために定期的に稼動状態から外されるが、これは装置の停止時間並びに清浄化コストを惹起する。本発明の処理法においては、熱交換器を、従来方式で清浄化した後、空気中で加熱して炭素質の沈積物を除去し、続いてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)のような有機金属で被膜処理する。この被膜処理は、加熱された(300℃〜400℃)清浄な金属表面を、無酸素環境の中で、HMDSOに、被膜が完成するまで、通例1時間未満、低圧で曝露することによって行う。その後、この装置は稼動に戻し得る状態になる。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の実施例においてさらに説明する。
【0029】
実施例1
この例は、有機シランの非常に薄い(単分子層に近い)被膜が硫化鉄スケールの形成を大きく低減する様子を示す。
【0030】
304ステンレス鋼の3個のクーポンおよび炭素鋼の3個のクーポンを、ステンレス鋼の管式リアクター内で、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)によって、20トル(torr)と温度300℃、400℃および500℃とにおいて30分間処理した。処理後リアクターを1×10−6トルに排気し、室温に冷却してクーポンを次の試験のために空気中に取り出した。同じ熱履歴を加えたがHMDSOへの曝露は行っていない304ステンレス鋼の3個のクーポンと炭素鋼の3個のクーポンとについて比較処理を行った。Siの表面被覆はX線電子分光法(XPS)によって測定した。その結果を次の表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1において、XPSによって測定した表面のSi含有量は、300℃処理の場合6.56%であった。比較的平滑な表面においては、これは完全な単分子層に近いと推定される。ステンレス鋼のクーポンは、500℃の場合でも約25%の被覆があることを示している。初めに発生されている表面化学種は、表面酸素から金属部位までつながるトリメチルシリルを含むと考えられる。
【0033】
300℃で処理したクーポンを、350℃において、24時間トパシオ(Topacio)原油によってミニボンブ内で試験し、その結果のクーポンを走査電子顕微鏡法(SEM)およびエネルギー分散型分光法(EDS)によって特性調査した。
【0034】
図1のSEMマイクログラフはクーポンの外側の表面から得たものである。このマイクログラフは、トパシオ原油に曝露したHMDSO処理クーポンの表面がほとんど変化を示していない結果になっているのに対して、熱処理されたクーポンは粗い組織を有する表面を呈することを明示している。さらに、クーポンの代表的な表面をEDX(エネルギー分散型X線分光法)分析した結果は、HMDSO処理クーポンが最小量の硫黄の存在量を有するのに対して、熱処理クーポンはそのクーポン上により多い硫黄の存在量を有することを示している。
【0035】
図2に示すSEMマイクログラフも同じクーポンの断面から得たものである。HMDSO処理クーポンの画像はクーポン/エポキシ界面の端部に沿ってほとんど変化を示していないのに対して、熱処理クーポンは、クーポン/エポキシ界面の端部に沿って非常に粗い組織を示す。クーポン/エポキシ界面はクーポンの外側の表面の粗さを示すものである。外側表面の分析および断面分析の結果は、熱処理クーポンがトパシオ原油に曝露されると腐食損傷を受けるのに対して、HMDSO処理クーポンは最小の腐食損傷しか示さないことを示唆している。
【0036】
HMDSO処理クーポンのすべてのマイクログラフはクーポンからエポキシへの遷移領域を全く示していないが、これはHMDSOから析出した層が非常に薄いので、SEMの倍率では観察し得ないことを表している。
【0037】
実施例2
この例は、鋼材表面に被覆を施す手順に関するもので、ほとんどの炭素質沈積物を除去した表面を用意することの重要性を示す。炭素鋼はステンレス鋼よりも多くの炭素質汚染物質を保持する傾向があり、最良の効果を得るために予備処理するべきである。多くの場合、空気中またはO中における約350℃への予熱が、あらゆる炭素質残留物の除去に十分であることが多い。この方法は、先行稼動している熱交換器の処理にも適用できる。異なる量の炭素沈積物が付着した鋼材試験片を、異なる時間、20トル圧力および300℃でHMDSOによって処理して、鋼材試験片から異なる量の炭素沈積物を除去した。その結果を図3に示す。図3は、クーポンの重量に基づく炭素の重量%に対するケイ素の重量%を示すグラフである。図3において、T1Aは炭素−1/2%モリブデン鋼、1018は炭素鋼、310および304はステンレス鋼である。試験番号(Run)5もステンレス鋼である。図3から分かるように、鋼材試験片上のSiの重量%は炭素質沈積物の残留量によって変化する。約30重量%炭素から、Si量は増大し始め、炭素の残留量が減少すると共に増大し続ける。
【0038】
残留物を燃焼除去するのにさらに高温が必要である場合は、この燃焼ステップに続けて、塊状部から表面に移動する可能性がある塩類を除去するために水洗および乾燥を行う必要があるかもしれない。例えば、ナトリウムおよび塩素系の化学物質は350℃を超える温度において炭素鋼上に成長するので、最大のHMDSO被覆を得るためには処理施工前に回避もしくは除去するべきである。
【0039】
化学修飾は種々の条件範囲において変えることが可能であり、また異なる媒体から行うことができる。HMDSOの真空析出は、上記の実施例1の実験に示されるように、腐食および汚れを抑止する表面を生成するのに効果的である。
【0040】
表面を、例えば有機シランを可溶化する高温の沸騰潤滑油炭化水素を用いて気液混合相から化学修飾することができる。また、処理を、不活性気体(例えばNまたはAr)を液体の修飾剤中に吹き込んで蒸気を反応部位に輸送することによって行うこともできる。この方式の処理においては、単分子層に近い層を確実に形成するために数時間の時間が必要になる可能性がある。処理温度は、ステンレス鋼に対して200℃〜500℃の範囲にすることができ、炭素鋼に対しては好ましくは300℃〜400℃である。
【0041】
薬剤の選択は意図する用途および/または処理条件の制約に応じて変化する。種々のアルコキシシラン、および、アルキルおよびアリール置換されたシロキサンおよびシラザンが有機金属の例である。
【0042】
実施例3
この例は、低い吸着エネルギーを得るためには、水接触角が約98°よりも大きくなければならないことを示す。図4Aおよび4Bは、ギブズ(Gibbs)自由エネルギー対表面エネルギーのプロット(4A)、および、表面エネルギー対水接触角の対応するプロット(4B)である。汚れ物質材料が液体から表面上に吸着される強さは、ギブズの吸着式および吸着等温式によって決定できる。ギブズの式は界面エネルギーに対する界面被覆率に関係し、ラングミュア(Langmuir)吸着等温式のような吸着等温式は吸着のギブズ自由エネルギーに対する界面被覆率に関係する。これら2つの式を組み合わせると、吸着の最小ギブズ自由エネルギーと界面エネルギーとの間の関係が得られる。界面エネルギーは液体の表面エネルギーと固体の表面エネルギーとの関数である。固体の表面エネルギーは低いので、固体と油との間の相互作用は弱い分散である。従って、界面エネルギーγLSは、固体の表面エネルギーγおよび液体の表面エネルギーγの関数として、次式、すなわち、
【数1】

のように書くことができる。
【0043】
図4Aの曲線Aは、液体の表面エネルギーγ=32.65mJ/mを用いて、界面エネルギーの変化を固体の表面エネルギーの関数として示している。図4Aの曲線Bは、吸着の最小ギブズ自由エネルギーの変化を固体の表面エネルギーについて示す。これは、界面エネルギーが低く、固体の表面エネルギーが液体の表面エネルギーに近いと、吸着が弱いことを示している。
【0044】
固体の表面自由エネルギーは水接触角測定装置を用いて決定される。図4Bは、固体の表面エネルギーと水接触角θとの間の関係を、次式、すなわち、
γ=66.613(1+cosθ)
を用いて、低表面エネルギーの固体に対して示す。50mJ/mをより低い表面エネルギーを得るには、水接触角は98°より大きくなければならない。
【0045】
実施例4
表面の化学修飾ステップによる表面修飾の程度の測定は、水が処理表面上において球になる程度(水接触角)を計算する装置を用いて行うことができる。角度が大きいことは、疎水性が高く、下地の基材が修飾剤によって良好に被覆されていることを意味する。汚れの傾向の低減と水接触角の増大との間に相関関係が存在することは、表面エネルギーを水接触角の関数として示すグラフである図5から看取できる通りである。
【0046】
水接触角は、Kruss社のDSA100装置制御パネルを備えた自動接触角試験機を用いて測定した。計器は高純度純水によって校正した。水接触角の計算はビデオカメラに撮影された画像を用いて行った。液滴の輪郭がトレースされ、トレース曲線を用いて平均接触角が計算される。表面が平滑でない場合は、液滴の輪郭を表面まで全範囲を完全に見ることはできず、ある距離を水接触角の分析から排除する。測定し得る液滴の輪郭から対応する輪郭線が編集される。撮影された画像からのデータが水接触角の計算において平均化される。いくつかの測定から得た左および右方向の接触角を平均して、度(°)表示の全体接触角を得る。
【0047】
原油予熱熱交換器に存在すると見られる条件を模擬するため、炭素鋼のクーポンをマヤ(Maya)全原油に350℃において3時間曝露した。クーポンをオクタトリデシルトリクロロシランで種々に修飾し、被覆率のレベルを変化させた。空気か焼ステップを介在させた多重処理が、最大の接触角(130°を超える)を有するクーポンを生成した。これらのクーポンはほとんど測定し得ないような沈積物しか形成しなかったが、接触角の低いクーポン、特に未処理の炭素鋼クーポンは、重量増加と電気抵抗の低下との双方によって測定し得る相当量の沈積物を示した。図6は、水接触角の関数としてのクーポンの汚れを示す。大きな水接触角は、新鮮な鋼材表面、または先に稼動していたものを続いて清浄化した鋼材表面において実現できる。
【0048】
金属表面上に大きな水接触角を付与することは、新鮮な鋼材表面上においても、あるいは稼動していた鋼材表面上においても実現できる。金属表面を化学修飾する即座の手順が、稼動していた熱交換チューブで腐食層を発現しているチューブにおいても有効であることが判明した。これらのチューブが従来の手段で清浄化される限り、残留物が付着した腐食層は、引き続く表面修飾のための優れた基材を提供する。この表面修飾は新鮮な金属チューブの場合と同じステップに準拠して行われる。すなわち、空気加熱ステップと、それに続く例えば有機シランによる処理とである。
【0049】
先に稼動していた熱交換器のチューブは、通常、硫化鉄と炭素質の沈積物とが混合した組み合わせを有することが認められる。製油所においては、このようなチューブバンドルを高圧水で清浄化(「高水圧噴射(hydroblasting)」)し、脆く付着した残留物をチューブの内外両表面から洗い流して、再使用に戻す。この処理を施されるチューブは、通常、当初の新鮮な金属表面とは異なる硫化物/酸化物層を保持している。当初の新鮮な金属表面は、一般的に、鉄および酸化鉄(炭素鋼の場合)または高合金鋼を使用する場合はFeおよびCrの多分スピネル型の酸化物を含んでいる。
【0050】
原油の予熱用途に数ヶ月間または数年間使用された炭素鋼および5−Cr鋼のチューブは、通常、高水圧噴射および乾燥に続いて低角度から中角度の水接触角(80°以下)を呈する。これは、金属の酸化物と例えばFeSのような硫化物との混合物と関連する高い表面エネルギーと相関関係を有している。例えば、SEMは、炭素鋼のチューブが、高水圧噴射および乾燥後に20ミクロン厚さの硫化鉄層を保持していたことを示す。
【0051】
引き続いて350℃において1時間空気加熱すると、水接触角がさらに低下する(すなわち表面エネルギーが増大する)。これは、非常に親水性の(おそらくヒドロキシル化された)表面が生成したことを示す。これは、その後の適切な表面修飾剤との反応に対する良好な基材になり得る。次に、例えばヘキサメチルジシロキサンのようなシランによる処理によって非常に大きな水接触角が実現されるが、これは、表面が修飾剤によってほぼ完全に被覆されたことを示す。これは、炭素質残留物、無機塩類等を含む沈積物の形成を阻止することによって、さらなる腐食を効果的に抑止し、汚れを軽減し得る表面であると信じられる。
【0052】
次の表2は、汚れ(および腐食)の抑止に有効な表面を、表面が新鮮なものまたは稼動していたもののいずれであっても生成し得ることを示す。
【0053】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】高温原油に曝露された鋼材クーポンの走査電子顕微鏡法マイクログラフを示す写真であり、エネルギー分散型分光法による硫黄含有量を示す対応グラフと共に示す。
【図2】高温原油に曝露された鋼材クーポンの走査電子顕微鏡法マイクログラフの断面図を示す写真である。
【図3】各種鋼材試験片上の炭素重量%の関数としてのケイ素重量%を示すグラフである。
【図4A】ギブズ自由エネルギー対表面エネルギーのプロットである。
【図4B】表面エネルギー対水接触角の対応するプロットである。
【図5】水接触角の関数としての表面エネルギーを示すグラフである。
【図6】水接触角の関数としての炭素鋼クーポンの汚れを示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面の汚れを軽減する処理法であって、前記処理法が、前記金属表面を、前記金属表面に結合して1〜10分子の層厚の有機金属分子の層を形成し得る有機金属化合物と接触させる工程を含み、前記層が、450℃までの温度において実質的に分解しないものであり、かつ、50ミリジュール/mより低い表面エネルギーを有することを特徴とする処理法。
【請求項2】
腐食層を含む金属表面を有する製油所および化学プラントの機器の汚れを軽減する処理法であって、前記処理法が、腐食層を含む金属表面を高圧水または水蒸気の少なくともいずれかと接触させて、水または水蒸気清浄化された金属表面を生成する工程と、前記水または水蒸気清浄化された金属表面を、酸素含有雰囲気において、100℃〜500℃の温度で、前記金属表面から炭素質の残留物をさらに除去するに十分な時間加熱する工程と、前記さらに清浄化された金属表面を、前記金属表面に結合して1〜10分子の層厚の有機金属分子の層を形成し得る有機金属化合物と接触させる工程とを含み、前記層が、450℃までの温度において実質的に分解しないものであり、95〜160°の水接触角を有する表面を形成し、かつ、前記金属表面の25%より多く100%までの表面に析出することを特徴とする処理法。
【請求項3】
前記有機金属化合物中の金属が4族〜15族から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の処理法。
【請求項4】
前記有機金属分子の層が前記金属表面の80〜100%の表面に析出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項5】
前記金属表面が、有機金属化合物と接触させる前に酸素含有雰囲気において100℃〜500℃の温度に加熱され、かつ、炭素鋼またはステンレス鋼であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項6】
前記有機金属化合物中の金属がケイ素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項7】
前記有機金属化合物中の有機部分が1〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項8】
前記ヒドロカルビル基が脂肪族または芳香族であり、少なくとも1個の官能基で置換されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項9】
前記有機金属化合物がアルコキシシラン、シラン、シラザンまたはフェニルシロキサンであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項10】
前記有機金属化合物がヘキサメチルジシロキサンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項11】
前記表面エネルギーが18〜50mJ/mであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項12】
前記有機金属化合物が、キャリヤー流体の存在下で液相、気相、または気液混合相において金属表面と接触されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項13】
前記有機金属分子の層が1〜3分子の層厚であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の処理法。
【請求項14】
前記温度が400℃より低いことを特徴とする請求項1または2に記載の処理法。
【請求項15】
大気圧以上の圧力において腐食性物質またはコーク形成物質に曝露されたとき汚れを抑止し得る金属表面であって、前記金属表面が、金属の表面と前記金属の表面上に析出した有機金属分子の層とを含み、前記有機金属分子の層は1〜10分子の層厚であり、前記層が、450℃までの温度において実質的に分解しないものであり、かつ、50ミリジュール/mより低い表面エネルギーを有することを特徴とする金属表面。
【請求項16】
前記有機金属分子の層が前記金属表面の80〜100%の表面に析出することを特徴とする請求項15に記載の金属表面。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−527172(P2008−527172A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550401(P2007−550401)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/047101
【国際公開番号】WO2006/076160
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】