説明

腐食抑制皮膜生成方法及び原子力発電プラント

【課題】既存の原子力発電プラントにおける金属の配管や機器等に対して簡易に腐食抑制皮膜の被覆処理を施すことができる腐食抑制皮膜生成方法、及び配管や機器等に腐食抑制皮膜の被覆処理が施された原子力発電プラントを提供する。
【解決手段】原子力発電プラントの主蒸気タービン系等の配管1に形成された酸化物薄膜4上に、酸化化合物5を付着し、配管1に化学反応を促進するための外的要因を付加することで配管1の酸化物薄膜4上に腐食抑制皮膜6を形成する腐食抑制皮膜生成方法、及び配管や機器等に腐食抑制皮膜6の被覆処理が施された原子力発電プラントである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の腐食抑制皮膜生成方法及び原子力発電プラントに係り、特に金属の配管・機器等に腐食抑制皮膜を形成し、被覆処理を施す金属の腐食抑制皮膜生成方法、及び腐食抑制皮膜が形成された金属の配管・機器等を用いた原子力発電プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントをはじめとする発電プラントにおいては、金属の配管・機器等が用いられている。
【0003】
特に、発電プラントでは、価格の安さや実績に基づく信頼性、応力腐食割れ(SCC)の発生のないことなどから配管・機器等には炭素鋼が多く用いられている。
【0004】
原子力発電プラントは、原子炉圧力容器の中にある原子炉の炉心から熱を除去する原子炉冷却材(炉水)が加熱されて蒸発し、発生した蒸気が高圧及び低圧タービンに供給されて発電した後に、仕事をした蒸気が冷却され、原子炉復水・給水系を通って原子炉圧力容器に戻ってくるという循環が繰り返される。
【0005】
炭素鋼は、原子力発電プラント内の高圧及び低圧のタービンセクション、並びに蒸気・水循環路の多くの付属部品(例えば配管や、温気分離器及び再加熱装置等の機器)に用いられている。
【0006】
原子力発電プラントにおいては、単相流又は気液二相流の条件下では給水等の流動速度が早い。これに対する腐食防止策として、炭素鋼からなる配管・機器等に通流する給水を、塩素などのハロゲン物質を含まない給水としている。
【0007】
しかし、腐食対策がとられた給水等であっても、炭素鋼からなる配管・機器等に溶存酸素濃度の低い流水である低酸素水が通流した場合には、その温度、流動状態及び水質等の条件によって酸化作用を受けて腐食が進展し、減肉腐食が発生する。減肉腐食は、流水の水温が150℃付近で起こりやすく、さらに流速が早く、より溶存酸素濃度の低い流水において減肉腐食が顕著に認められる。
【0008】
原子力発電プラントにおける、配管・機器等は、早い流速にさらされる箇所や、流水に対し局部的に大きな乱れを生じさせるような流速計測用のオリフィス、さらにL字型に曲がった配管の様な構造が多く存在する。
【0009】
これらに起因して、炭素鋼材料の表面近くの流れが大きく乱れることによって微視的に流速が大きくなり、流動性腐食の加速を引き起こし、配管・機器等に損傷が生じる可能性がある。
【0010】
一方、低酸素水は、給水の脱気装置、原子炉及び蒸気駆動による中央発電システムのような様々な装置で用いられる。ここで溶存酸素濃度の高い高酸素水を用いることも考えられるが、高温下では応力腐食割れの進度が早くなってしまうという欠点があるため、流水中の酸素濃度は最小にすることが望ましい。
【0011】
原子炉内の腐食は、配管等の減肉によって配管等の健全性や寿命を決定するのみならず、腐食によって生成した溶解性物質は放射線レベル、放射性廃棄物及び伝熱に関連する問題につながることとなるため、腐食生成物の制御はきわめて需要である。
【0012】
通常、低酸素水にさらされているような炭素鋼の表面には、Fe、Fe、FeOOHなどの酸化物薄膜が付着しているが、減肉腐食によって、酸化物薄膜の溶解、剥離が発生している部分の腐食速度は0.1〜10mm/年という高い値になることがある。設計寿命が30〜40年として考えられている原子力発電プラントにとっては、配管等の減肉腐食対策は非常に重要である。
【0013】
従来、金属材料の腐食抑制技術として、合金化元素の添加や、腐食環境中への腐食抑制剤の添加、あるいは金属材料の被覆処理があった。
【0014】
腐食抑制技術における合金化元素の添加は、合金化元素により金属材料の物性を変化させるものであるが、合金化元素の添加量に制限を設ける必要があった。
【0015】
また、腐食環境中への腐食抑制剤の添加は、定期的に腐食抑制剤の濃度を管理しなければならないという問題があった。
【0016】
これに対し、金属材料の被覆処理は、材料の機械的特性を変化させず、さらに加工後にその表面にのみ腐食抑制効果を付与することができる方法であった。
【0017】
金属材料の被覆処理には、レーザ溶融法による皮膜処理方法がある(例えば特許文献1)。これは、Mo等の金属イオン及び還元剤を含む水溶液中で、被覆対象物の表面にレーザ照射することにより表面改質を行い、耐食性を向上させるものである。
【0018】
また、放電加工法を用いた皮膜処理方法がある(例えば特許文献2)。これは、被覆対象物に対し高耐食性元素を有する電極を用いることにより放電加工処理し、耐食性に優れた放電加工合金層を形成するものであった。
【0019】
さらに、白金族金属による皮膜処理方法がある(例えば特許文献3)。これは、被覆対象物に対し白金族金属の皮膜を形成し、さらに水素を注入することにより耐食性を向上させるものであった。
【特許文献1】特開平4−202670号公報
【特許文献2】特開平6−182626号公報
【特許文献3】特開平5−195266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
特許文献1、2に示した皮膜処理方法は、レーザ溶融処理及び放電加工処理が必要であるため、既存の発電プラントに施工するためには運転を停止しなければならなかった。さらに、効果が期待できるのは塩素などのハロゲン物質が多く存在する環境下であり、原子力発電プラントのようなハロゲン物質を故意に取り除くようなものには適しない。
【0021】
特許文献3に示した皮膜処理方法は既存プラントに対しても施工可能であるが、水素注入のための設備を設ける必要があった。
【0022】
また、単相流の条件下で見られる流動性腐食の損傷は、約50℃〜230℃の温度範囲、気液二相流では約140℃〜260℃の温度範囲で多くの事例があり、高温状態での腐食抑制が必要であった。
【0023】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、金属の配管・機器等に腐食抑制皮膜が形成され、また高温の給水等が通流する条件下で腐食抑制皮膜を容易に生成可能な腐食抑制皮膜生成方法、及び原子力発電プラントを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の腐食抑制皮膜生成方法は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、酸化物薄膜が付着した金属に対し、酸化化合物が注入された高温水を通流させることにより前記酸化化合物を付着させる付着ステップと、前記付着ステップで前記金属に付着した前記酸化化合物と前記酸化物薄膜との反応を促進させるため、前記金属に化学反応を促進させる外的要因を付加する外的要因付加ステップと、前記外的要因付加ステップにより付加された前記外的要因により、前記金属に複合酸化物からなる腐食抑制皮膜を生成させる生成ステップとからなることを特徴とする腐食抑制皮膜生成方法である。
【0025】
また、本発明の原子力発電プラントは、請求項11に記載したように、原子力発電プラントの主蒸気タービン系、原子炉復水・給水系及び原子炉冷却材浄化系の少なくとも一系統の配管及び機器等の金属の表面上に形成した酸化物薄膜上に、酸化化合物を付着させ、前記金属に化学反応を促進させる外的要因を付加することで前記酸化物薄膜上に腐食抑制皮膜が形成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法によれば、既存発電プラントの金属の配管・機器等に対し、簡易に皮膜処理を行うことが可能である。
【0027】
また、外的要因として給水等を利用するため、新たな設備を設けることなく腐食抑制皮膜生成のための反応を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[第1実施形態]
本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法及び原子力発電プラントにおける第1実施形態を、図1を用いて説明する。
【0029】
本発明に係る第1実施形態を、一例として原子力発電プラントにおける主蒸気タービン系、原子炉復水・給水系及び原子炉冷却材浄化系等の金属の配管・機器等に適用した場合について説明する。
【0030】
図1は、原子力発電プラントにおける配管の一部を示したものである。
【0031】
配管1は、例えばSS41等の炭素鋼と、例えば銅入れのSO46Cu等の低合金鋼である炭素鋼からなる。配管1の母材2には高温水3が通流し、長時間の使用の結果、母材2表面にはFe、Fe、FeOOHなどの酸化物薄膜4が図1(a)に示すように形成される。
【0032】
高温水3は、配管1に通流する給水等であり、また図1(b)及び(c)に示すように腐食抑制皮膜6生成のための酸化化合物5が注入される。さらに腐食抑制皮膜6生成の条件のため、高温水3は50℃以上の高温とする。
【0033】
酸化化合物5は、室温の水中で安定な酸化物であり、さらに鉄との複合酸化物を生成する酸化化合物である。具体的には、酸化チタン(TiO、TiO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化クロム(Cr)、酸化ニッケル(NiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タンタル(TaO)、酸化タングステン(WO)のうち、少なくとも1つからなる。
【0034】
次に、腐食抑制皮膜6生成のための酸化物薄膜4と酸化化合物5の反応について説明する。
【0035】
酸化化合物5の一例である酸化チタン(TiO)と酸化物薄膜4とが次の化学反応式に基づく化学反応を起こすことにより、酸化物薄膜4上に腐食抑制皮膜6としての複合酸化物が形成される。
[化1]
Fe(酸化物薄膜)+TiO(酸化化合物) → FeTiO(腐食抑制皮膜)
形成された腐食抑制皮膜6は、母材2及び酸化物薄膜4上に付着し、炭素鋼からなる配管1等の腐食抑制を行う。
【0036】
なお、他の酸化化合物である酸化モリブデン(MoO)、酸化クロム(Cr)、酸化ニッケル(NiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タンタル(TaO)、酸化タングステン(WO)を用いた場合には、それぞれFeMoO,FeCrO、FeNiO,FeZrO,FeTaO,FeWOが複合酸化物として生成される。
【0037】
次に、酸化物薄膜4と酸化化合物5との化学反応を促進するための外的要因について説明する。
【0038】
外的要因には、高温水3の温度、圧力及び高温水3に含まれる放射能等を用いる。これにより、新たな設備を設けることなく、高温水3を活用することにより腐食抑制皮膜6生成のための反応を促進することができる。
【0039】
図2を用いて、高温水3の温度を外的要因として利用した場合について説明する。
【0040】
高温水3aの温度が低い場合、酸化化合物5が母材2上に形成された酸化物薄膜4に付着後、酸化物薄膜4と酸化化合物5との化学反応が十分に行われず、腐食抑制皮膜6が剥離し、十分に腐食抑制効果が得られない。
【0041】
これに対し、酸化化合物5が酸化物薄膜4上に付着後、原子力発電プラントの運転時間が経過するにつれて高温水3bが高温化するという特性を活用することで、高温水3bの温度を外的要因として用いることができる。
【0042】
図3は、配管1の母材2に腐食抑制皮膜6が形成されておらず、母材2の酸化物薄膜4が露出している場合を示したものである。
【0043】
母材2の表面に腐食抑制皮膜6が形成されていない場合、母材2から酸化物薄膜4を介して高温水3に鉄イオン8が流出する。流出した鉄イオン8は、高温水3に含まれる溶存酸素9と反応し、酸化作用を受けてFe10を生成する。Fe10の一部は高温水3中に浮遊し、その他は酸化物薄膜4に蓄積されるとともに、酸化物薄膜4の増加に伴って母材2がより一層腐食、減肉される。
【0044】
これに対し、図4は酸化物薄膜4の表面に腐食抑制皮膜6が形成されている場合を示す。図4に示すように、母材2から酸化物薄膜4を介して高温水3に流出する鉄イオン8は著しく少なくなり、母材2の減肉腐食をより一層減少させることができる。
【0045】
図5は、母材2に腐食抑制皮膜6が形成された場合と形成されていない場合とを比較した母材減肉腐食線図である。縦軸に腐食量を示し、横軸に使用時間を示している。
【0046】
また、使用条件については、母材2はSS41等の炭素鋼と、銅入れのSO46Cu等の低合金鋼であり、高温水3については水温150℃、溶存酸素4ppb以下、流速2m/secとする。
【0047】
図5におけるa、bは母材2表面に腐食抑制皮膜6が形成されている場合を、a、bは腐食抑制皮膜6が形成されていない場合の腐食量と使用時間の関係を示す。
【0048】
図5に示すように、母材2に腐食抑制皮膜6が形成されると、母材2の減肉腐食が著しく抑制されていることが認められた。
【0049】
次に、配管1に対する腐食抑制皮膜6の生成方法を説明する。
【0050】
図6は、腐食抑制皮膜6の生成方法のフローチャートである。
【0051】
ステップS1では、図1(a)に示すように、酸化物薄膜4が付着している母材2の表面上に酸化化合物5を付着させるため、酸化化合物5が注入された高温水3を通流させる。このとき高温水3は、例えば50℃以上とする。
【0052】
ステップS2では、図1(b)に示すように、酸化化合物5が母材2の酸化物薄膜4上に付着する。
【0053】
ステップS3では、母材2に、酸化物薄膜4と酸化化合物5との化学反応を促進させるための外的要因が付加される。外的要因には、高温水3の温度、圧力、あるいは高温水3に含まれる放射能等が用いられる。
【0054】
ステップS4では、酸化物薄膜4と酸化化合物5とに外的要因を用いて化学反応を起こさせることにより、酸化物薄膜4上には複合酸化物が腐食抑制皮膜6として形成される。
【0055】
本実施形態によれば、新たに設備を設けることなく既存発電プラントに腐食抑制皮膜6の被覆処理が可能であるため、簡易かつ効率的に炭素鋼等の金属の腐食抑制を行うことができる。
【0056】
また、外的要因として給水等を利用するため、新たな設備を設けることなく腐食抑制皮膜6生成のための反応を促進することができる。
【0057】
[第2実施形態]
本発明に係る金属の腐食抑制皮膜生成方法の第2実施形態を弁装置20に適用した例を、図7を用いて説明する。
【0058】
本実施形態は、酸化化合物5を被覆対象物に付着させる方法についてであり、第1実施形態における高温水通流ステップS1及び酸化化合物付着ステップS2に対応するものである。
【0059】
また、第1実施形態と対応する構成及び部分については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0060】
本実施形態では、原子力発電プラント等で用いられる炭素鋼で製造された配管1に組み込まれる弁装置20に対して腐食抑制皮膜6の被覆処理を行う。
【0061】
弁装置20は、弁ケーシング21に収容された弁体22を備え、この弁体22を弁棒23の駆動力により開閉させるものである。また弁装置20の表面上には、酸化物薄膜4が形成されているものとする。
【0062】
弁装置20等に対する酸化化合物5の付着は、酸化モリブデン(MoO)、酸化クロム(Cr)等のうち、少なくとも1つからなる酸化化合物5が注入された、水又はアルコール等の溶媒24に浸漬することにより行う。
【0063】
また、溶媒24は、コロイド状とする。これは、酸化化合物5が注入された溶媒24を被覆対象物の表面に均一に付着させるためである。
【0064】
本実施形態における、弁装置20に対する腐食抑制皮膜6の生成方法を説明する。
【0065】
図8は、腐食抑制皮膜6の生成方法のフローチャートである。
【0066】
ステップS21で、弁装置20は、酸化物薄膜4が形成された弁装置20の表面上に酸化化合物5を付着させるため、酸化化合物5が注入された溶媒24に浸漬される。
【0067】
ステップS22では、弁装置20の表面上に形成されている酸化物薄膜4上に酸化化合物5が付着される。
【0068】
外的要因付加ステップS23、腐食抑制皮膜形成ステップS24は、第1実施形態における外的要因付加ステップS3、及び腐食抑制皮膜形成ステップS4と同様であるため、説明は省略する。
【0069】
上述した実施形態によれば、腐食抑制皮膜6の被覆処理を行いたい弁装置20等に対し、原子力発電プラント等の装置から取り出すことなく、必要な部分にのみ浸漬による被覆処理を行うことができる。
【0070】
また、酸化化合物5が注入された溶媒24をコロイド状とすることで、弁装置20等の表面上に均一に酸化化合物5を付着させることができる。
【0071】
[第3実施形態]
本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法の第3実施形態について、図9を用いて説明する。
【0072】
本実施形態は、酸化化合物を被覆対象物の表面に付着させる方法についてであり、第1実施形態における高温水通流ステップS1及び酸化化合物付着ステップS2に対応するものである。
【0073】
また、第1、2実施形態と対応する構成及び部分については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0074】
本実施形態では、発電プラント等で用いられる炭素鋼で製造された配管1に組み込まれる機器が、発電プラント等の定期点検等で取り外された場合に有効な腐食抑制皮膜6の被覆処理方法である。
【0075】
図9は一例として発電プラントに用いられる熱交換器30の表面に対する、スプレーによる腐食抑制皮膜6の被覆処理について示す。熱交換器30の表面上には、酸化物薄膜4が形成されているものとする。
【0076】
スプレータンク31は溶媒24が充填されている可搬式タンクである。
【0077】
またスプレータンク31にはノズル32が接続されており、スプレータンク31に充填された溶媒24を被覆対象物である熱交換器30の表面に噴射することができる。
【0078】
本実施形態における、熱交換器30の表面に対する腐食抑制皮膜6の生成方法を説明する。
【0079】
図10は、腐食抑制皮膜6の生成方法のフローチャートである。
【0080】
ステップS31では、酸化物薄膜4が被覆されている熱交換器30の表面上に酸化化合物5を付着させるため、酸化化合物5が注入された溶媒24が充填されたスプレータンク31のノズル32から溶媒24が噴射される。
【0081】
ステップS32では、酸化化合物5が熱交換器30の表面上に形成されている酸化物薄膜4上に付着する。
【0082】
外的要因付加ステップS33、腐食抑制皮膜形成ステップS34は、第1実施形態における外的要因付加ステップS3、及び腐食抑制皮膜形成ステップS4と同様であるため、説明は省略する。
【0083】
上述した実施形態によれば、熱交換器30等の被覆対象物に対し、必要な部分のみに広範囲に被覆処理を行うことができる。
【0084】
また、酸化化合物5が注入された溶媒24をコロイド状とすることで、熱交換器30等の表面に均一に酸化化合物5を付着させることができる。
【0085】
[第4実施形態]
次に、図11を用いて本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法、及び配管や機器等に腐食抑制皮膜が施された原子力発電プラントの第4実施形態について説明する。
【0086】
本実施形態は、酸化化合物5を配管や機器等の被覆対象物に付着させる方法についてであり、第1実施形態における高温水通流ステップS1及び酸化化合物付着ステップS2に対応するものである。
【0087】
また、第1、2実施形態と対応する構成及び部分については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0088】
本実施形態では、原子力発電プラント内に被覆処理システム40を設け、腐食抑制皮膜6の被覆処理を行う。
【0089】
被覆処理システム40は、薬注系41、薬液タンク42及び薬注ポンプ43からなる。
【0090】
薬液タンク42には、酸化化合物5が注入された、水又はアルコール等の溶媒24が充填され、満たされる。
【0091】
薬液タンク42には薬注ポンプ43が接続されており、薬注ポンプ43は薬注系41を通じて原子力発電プラント内の配管や機器等の被覆対象物に溶媒24を投入する。
【0092】
本実施形態の被覆対象物を備えた原子力発電プラント44について説明する。
【0093】
原子力発電プラント44は、原子炉圧力容器45、主蒸気タービン系46、原子炉復水・給水系54、原子炉冷却材再循環系47及び原子炉冷却材浄化系48を備える。
【0094】
主蒸気タービン系46及び原子炉復水・給水系54は、原子炉圧力容器45からの主蒸気に膨張仕事をさせ、発電機(図示せず)を駆動させる蒸気タービン49と、この蒸気タービン49で熱膨張仕事を終えたタービン排気を復水器(図示せず)で冷水(復水)にして、原子炉圧力容器45に給水として戻す原子炉復水・給水系54の配管で構成されている。
【0095】
また、原子炉冷却材再循環系47は、原子炉圧力容器45内に収容するダウンカマ55に配置され、かつ炉心シュラウド50の外周方向に沿って配置される複数のジェットポンプ51と、炉外に配置される再循環ポンプ52を備え、原子炉圧力容器45内の冷却材(炉水)を強制循環させている。
【0096】
原子炉冷却材浄化系48は、ポンプ53を介して原子炉圧力容器45の炉底から引き抜いた冷却材(炉水)に含まれている腐食生成物等を脱塩塔(図示せず)等で除去後、炉心シュラウド50側に戻す。
【0097】
本実施形態では、このような原子力発電プラント44において、原子炉復水・給水系54の配管及び原子炉冷却材浄化系48の配管に被覆処理システム40を設け、給水又は冷却材(炉水)に溶媒24を投入し、配管等の腐食抑制皮膜6の被覆処理を行う。
【0098】
本実施形態における、被覆処理システム40を用いた原子力発電プラント44に対する腐食抑制皮膜6の生成方法を説明する。
【0099】
図12は、腐食抑制皮膜6の生成方法のフローチャートである。
【0100】
ステップS41で、被覆処理システム40における薬注タンク42に充填された溶媒24が、薬注ポンプ43により薬注系41を通じて被覆対象物に投入される。
【0101】
被覆対象物は、主蒸気タービン系46、原子炉復水・給水系54等の配管や機器とし、酸化化合物5が注入された溶媒24を給水又は冷却材(炉水)に投入することにより通流させる。
【0102】
ステップS42では、給水管等に被覆されている酸化物薄膜4上に、酸化化合物5が付着する。
【0103】
外的要因付加ステップS43、腐食抑制皮膜形成ステップS44は、第1実施形態における外的要因付加ステップS3、及び腐食抑制皮膜形成ステップS4と同様であるため、説明は省略する。
【0104】
なお、本実施形態において原子炉復水・給水系54及び原子炉冷却材浄化系48に被覆処理システム40を設けたが、腐食性に応じて蒸気タービン系46又は、原子炉冷却材再循環系47の必要箇所に設けてもよい。また、原子炉復水・給水系54及び原子炉冷却材浄化系48の2箇所に被覆処理システム40を設けたが、原子炉復水・給水系54及び原子炉冷却材浄化系48、蒸気タービン系46及び原子炉冷却材再循環系47等の1箇所又は2箇所以上に設けてもよい。
【0105】
上述した実施形態によれば、原子力発電プラント44に被覆処理システム40を設けることにより、直接、腐食抑制皮膜6の被覆処理を行うことが困難な場所であっても、溶媒24を注入することにより簡易に被覆処理が可能である。
【0106】
[第5実施形態]
本実施形態は、本発明に係る金属の腐食抑制皮膜生成方法及び原子力発電プラントの第5実施形態を示すもので、腐食抑制皮膜6の被覆処理を行う時期について適用した例を示したものである。
【0107】
また、第1実施形態と対応する部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0108】
図13は本発明に係る腐食抑制皮膜6の被覆処理を行う時期について示した図である。
【0109】
横軸は時間、縦軸は高温水3等の温度、圧力、高温水3等に含まれる放射能等である外的要因の反応促進力の強度を示す。
【0110】
原子力発電プラントは、運転期間、停止期間、定期点検期間からなるサイクルで稼動している。
【0111】
このうち運転期間は、起動運転期間及び定格運転期間に分けられる。
【0112】
本実施形態では、定期検査期間又は起動運転期間に、被覆対象物に酸化化合物5を付着させる。また、定格運転期間に高温水3等の温度、圧力及び高温水3等に含まれる放射能等の外的要因の反応促進力が高い定格運転期間に酸化物薄膜4と酸化化合物5との反応を行い、被覆対象物に腐食抑制皮膜6を強固に形成させる。
【0113】
本実施形態によれば、原子力発電プラントの運転サイクルを有効に活用するため、簡易に腐食抑制皮膜6の被覆処理を行うことができる。
【0114】
また、定格運転期間に腐食抑制皮膜6が形成されるので、原子力発電プラントの定格運転期間にすぐに腐食抑制効果が得られる。さらに、定期検査期間に腐食抑制皮膜6が剥離することがないため、作業効率がよい。
【0115】
図14は、原子力発電プラントの停止期間に被覆対象物に酸化化合物5を付着させ、起動運転後に酸化物薄膜4と酸化化合物5との反応を行い、腐食抑制皮膜6を形成した場合を示す。
【0116】
このような場合には、停止期間に配管等に付着させた酸化化合物5が、配管等に確実に付着されているかを定期検査期間に確認することができる。酸化化合物5が付着されていない場合には定期検査期間中に再度酸化化合物5を付着させることにより、より確実に被覆処理を行うことができるという点で効果がある。
【0117】
[他の実施形態]
上述した実施形態においては、原子力発電プラントにおける金属の配管や機器に対する腐食抑制皮膜6の被覆処理を説明したが、原子力発電プラントのみならず、例えば火力発電プラント等の他の発電プラントにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法及び原子力発電プラントの第1実施形態を示し、原子力発電プラントの配管に適用した例を示した図。
【図2】高温水の温度差を外的要因として利用した例を示す図。
【図3】配管の母材に腐食抑制皮膜が形成されていない場合を示す図。
【図4】配管の母材に腐食抑制皮膜が形成されている場合を示す図。
【図5】腐食抑制皮膜の有無を比較した母材減肉腐食線図。
【図6】第1実施形態における腐食抑制皮膜生成方法を示すフローチャート。
【図7】本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法の第2実施形態を示し、弁装置に適用した例を示す図。
【図8】第2実施形態における腐食抑制皮膜生成方法を示すフローチャート。
【図9】本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法の第3実施形態を示し、熱交換器への酸化化合物付着方法を示した図。
【図10】第3実施形態における腐食抑制皮膜生成方法を示すフローチャート。
【図11】本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法及び原子力発電プラントの第4実施形態を示し、被覆処理システムが設けられた原子力発電プラントを示す説明図。
【図12】第4実施形態における腐食抑制皮膜生成方法を示すフローチャート。
【図13】本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法及び原子力発電プラントの第5実施形態を示し、腐食抑制皮膜の被覆処理を行う時期について示した図。
【図14】本発明に係る腐食抑制皮膜生成方法及び原子力発電プラントの第5実施形態を示し、腐食抑制皮膜の被覆処理を行う時期について示した図。
【符号の説明】
【0119】
1 配管
2 母材
3、3a、3b 高温水
4 酸化物薄膜
5 酸化化合物
6 腐食抑制皮膜
8 鉄イオン
9 溶存酸素
10 Fe
20 弁装置
21 弁ケーシング
22 弁体
23 弁棒
24 溶媒
30 熱交換器
31 スプレータンク
32 ノズル
40 被覆処理システム
41 薬注系
42 薬注タンク
43 薬注ポンプ
44 原子力発電プラント
45 原子炉圧力容器
46 主蒸気タービン系
47 原子炉冷却材再循環系
48 原子炉冷却材浄化系
49 蒸気タービン
50 炉心シュラウド
51 ジェットポンプ
52 再循環ポンプ
53 ポンプ
54 原子炉復水・給水系
55 ダウンカマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物薄膜が付着した金属に対し、酸化化合物が注入された高温水を通流させることにより前記酸化化合物を付着させる付着ステップと、
前記付着ステップで前記金属に付着した前記酸化化合物と前記酸化物薄膜との反応を促進させるため、前記金属に化学反応を促進させる外的要因を付加する外的要因付加ステップと、
前記外的要因付加ステップにより付加された前記外的要因により、前記金属に複合酸化物からなる腐食抑制皮膜を生成させる生成ステップとからなることを特徴とする腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項2】
前記酸化化合物は、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化ジルコニウム、酸化タンタル及び酸化タングステンのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項3】
前記金属は、炭素鋼又は低合金鋼からなることを特徴とする請求項1に記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項4】
前記外的要因は、前記高温水の温度、圧力及び前記高温水に含まれる放射能のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項5】
前記生成ステップにおいて前記金属に通流する高温水の温度は、前記付着ステップにおいて前記金属に通流する高温水の温度よりも高温であることを特徴とする請求項1に記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項6】
前記付着ステップは、前記酸化化合物が注入された水、アルコール等の溶媒に前記金属を浸漬させることにより、前記酸化化合物を付着させることを特徴とする請求項1に記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項7】
前記付着ステップは、前記金属に対し前記溶媒をスプレーすることにより前記酸化化合物を付着させることを特徴とする請求項1に記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項8】
前記付着ステップは、前記溶媒を充填する薬液タンク、及び前記薬液タンクに充填された前記溶媒を発電プラントに注入する薬液ポンプからなる被覆処理システムを用いて前記金属に前記溶媒を付着させることを特徴とする請求項1に記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項9】
前記溶媒は、コロイド状であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項10】
前記酸化物薄膜上に前記腐食抑制皮膜を生成させる時期は、前記発電プラントの起動時又は停止時であることを特徴とする請求項1に記載の腐食抑制皮膜生成方法。
【請求項11】
原子力発電プラントの主蒸気タービン系、原子炉復水・給水系及び原子炉冷却材浄化系の少なくとも一系統の配管及び機器等の金属の表面上に形成した酸化物薄膜上に、酸化化合物を付着させ、前記金属に化学反応を促進させる外的要因を付加することで前記酸化物薄膜上に腐食抑制皮膜が形成されたことを特徴とする原子力発電プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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