説明

腫瘍転移の解像度の向上

【課題】 腫瘍の進行ならびに血管新生および腫瘍の転移を観察するためのモデル系の改良。
【解決手段】 動物モデルにおいてリアルタイムで腫瘍の進行、血管新生および/または転移を観察するための、改良された方法を記述する。本発明は、可逆的に開閉することができる、観察すべき領域上の皮弁を使用する。本発明は、また、多色を用いて、2以上の腫瘍を同時に観察することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条(e)項に基づいて、2001年9月10日出願の米国仮出願第60/322,291号に対して優先権を主張する。その内容は、参考として本明細書に含まれるものとする。
【0002】
本発明は、ただ1つの細胞でもin vivoで検出することができるような解像度の向上によって腫瘍の増殖および転移を追跡する、改良された方法に関する。これは生きた動物に許容される皮弁を使用することによって達成される。マルチカラーラベリングの方法も開示する。
【背景技術】
【0003】
米国特許第6,232,523号;第6,235,967号;第6,235,968号;および第6,251,384号、ならびにPCT出願PCT US 98/08457およびPCT US 00/00243はいずれも参考として本明細書に含められるが、これらは腫瘍および腫瘍転移を蛍光マーカー、特に緑色蛍光タンパク質(様々な色の)によって標識する技法、ならびにこのような標識化を用い、必要ならば対比染色も行って、血管新生を検出する方法を記載する。上記の文献の記載にしたがって腫瘍組織を摘出することによって、もしくは、おそらくもっと優しい方法としては、全身のイメージングにより、状態の経過をリアルタイムで追跡することによって、腫瘍の進行、血管新生および転移を検出することができる。こうした状態を皮膚越しに画像化することには成功した。しかし、驚くべきことではないが、皮膚を通した散乱のため感度にはある程度限界がある。控えめな成功しか与えない侵襲的な技法によって感度不足を克服する試みが行われた。たとえば、Brown, EB, ら、Nat Med, (2001) 7:864-868は、マウスにおいて2光子型共焦点顕微鏡法でdorsal skin chamber法を用いた。こうした方法は異所性原発腫瘍に限られる。Naumov, G N, et al., J Cell Sci (1999) 112:1835-1842は、体外に出された内臓上のGFP発現腫瘍の生体顕微鏡観察法を記載した。これは深刻な死亡率という結果をもたらした。半透明材料の皮下ウィンドウはSiancio, S Jら、J Surg Res (2000) 92:228-232に記載されている。これらの方法はいずれも重大な不都合を欠点としてもつが、こうした不都合のうちで些細とはいえない点は、これらの方法が繰り返し測定することに不向きで、モデルに深刻な害を及ぼすこと、このため限られた時間しか耐えられないのみならず結果を歪めることである。
【0004】
開いて後に再縫合することができる簡単な皮弁を用意することによって、単一の細胞ほど小さくても観察することが可能な高い感度が得られ、一方で対象を観察可能な状態に維持することができる。この技法の侵襲性は最小限であるので、腫瘍の進行、血管新生および転移をしばしば単一細胞レベルに至るまできわめて正確に観察することが可能となる。皮弁法は、比較的害のない方法であるので、腫瘍の進行および転移の後期において観察することが可能である。無傷の動物が維持される。長期間にわたって観察できることは、休眠中の内壁を検出することも可能にする。
【0005】
本研究の報告は、本出願人らによって2002年3月にYang, M.ら、Proc Natl Acad Sci (2002) 99:3824-3829に発表された。この刊行物の内容は参考として本明細書に含めるものとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、腫瘍の進行ならびに血管新生および腫瘍の転移を観察するためのモデル系の改良に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本方法は腫瘍の蛍光標識を用いるが、こうした蛍光標識を当技術分野で一般的に知られた方法で埋め込むことができ、蛍光発光によって観察することができる。本発明の改良法では、可逆的に開閉できる皮弁が提供される;開いた皮弁を通して観察を行う場合には、高感度で高精度の観察が得られる。別の態様において、2つ以上の腫瘍を同時に観察することができる。
【0008】
したがって、ある態様において、本発明は腫瘍モデル系の内臓上の腫瘍の進行、血管新生および/または転移をモニターする方法に関する。ここで、この系は免疫能が減弱した実験動物、もしくは同系の実験動物であって、この方法は当該モデル系の蛍光腫瘍細胞を開かれた皮弁を通して観察することを含んでなる;ここで、前記皮弁は可逆的に開閉する。
【0009】
別の態様において、本発明は、癌の進行、血管新生および/または転移への化合物またはプロトコルの影響を評価するための方法であって、当該化合物またはプロトコルの存在下および非存在下で前記方法を実施すること、ならびに得られた結果を比較することを含んでなる方法に関する。当該化合物もしくはプロトコルが存在しない場合とは対照的に存在する場合に腫瘍の進行、血管新生および/または転移が減少することは、化合物もしくはプロトコルが抗癌治療のすぐれた候補であることを示す。
【0010】
前記の方法において、当技術分野で広く知られているように腫瘍細胞を蛍光色素で標識することができる。望ましくは、自己蛍光タンパク質(一般的に緑色蛍光タンパク質GFPとして知られる)を使用することができる。よく知られているように、”GFP”は様々な色の蛍光タンパク質に対する総称である。異なる色については代わりの名称が使われることもある。しかしながら、本明細書で使用される”GFP”は、どのような波長を発しようともそうした波長の蛍光タンパク質を指す。明確に異なる色を意味する場合には、これを、たとえば赤色蛍光タンパク質(RFP)のように称することができる。
【0011】
本発明の方法のある実施形態にしたがって、腫瘍を異なる色で標識して、同時に追跡することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法は数多くの利点を有する。第1に、感度が高まったことによって、わずかに単一の、もしくは2つの細胞を観察することが可能となる。第2に、血管新生が直接、観察可能となるが、このことは化合物候補およびプロトコル案の治療効率を評価する上できわめて重要である。第3に、2つの腫瘍を同時に観察することが可能である。このことが特に重要であるのは、異なる腫瘍の間で干渉する現象のためである。2つの異なる色を使用することができるので、2つの別々の腫瘍の相互作用を直接、観察することができる。第4に、相当長期間にわたって観察することができるため、活発に増殖している腫瘍細胞と休眠細胞との間の識別を行うことができる。したがって、休眠細胞の存在を本発明の方法によって判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】U87-GFP腫瘍細胞塊から分離した単一腫瘍細胞の、頭皮弁ウィンドウからの画像を示す。横棒は100μmである。
【図2】小腸のColo 205ヒト癌転移の、腹壁皮弁ウィンドウからの画像化を示す。
【図3】BxPC-3-GFPヒト膵臓腫瘍の血管新生を、腹壁皮弁ウィンドウから顕微鏡なし、および有りで画像化したものを示す。
【図4】SOIの1日後の下腹壁皮弁ウィンドウからの、マウス前立腺葉のDunning-GFPおよびDunning-RFP前立腺腫瘍細胞の2重に着色された直視画像を示す。横棒は1mmにあたる。
【図5】SCIDマウスにおける、静脈注射された混合物によるGFP-HT-1080およびRFP-HT-1080ヒト線維肉腫細胞の増殖を示す。
【図6】図5に示す肺転移の経時変化画像を示す。
【図7】ヌードマウスのMDA-MB-435-4A4-GFP および2C5-RFPに由来する高転移性および低転移性乳ガンの増殖の比較を示す。
【図8】皮弁法ではなく全身画像化による腫瘍細胞の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、動物腫瘍モデルにおいて、蛍光標識された細胞の高感度の観察を行うための可逆的な手段を提供することを目的とする。動物モデルは、もっとも代表的なものとしては、SCIDマウス、ヌードマウス、免疫能が減弱したラットのような免疫能が減弱した齧歯動物、ならびにモルモット、ウサギなどである。理論的には、本研究が鳥類を含めた他の免疫能が減弱した動物で実施できない理由はない。しかしながら、ラットおよびマウスは使いやすい実験動物であるため、本発明が上記の確立された腫瘍モデルの使用を伴うことに、もっとも高い頻度で遭遇する。その代わりに、これらの動物は、腫瘍に対して同系とすることができる;多数のそうしたモデルを利用できる。
【0015】
腫瘍細胞を標識するために使用する材料は、観察可能な光を発するタンパク質材料である。腫瘍の増殖につれて蛍光部分が娘細胞に与えられるように、腫瘍細胞は通常、蛍光タンパク質の発現系を含有するよう改変される。ルシフェラーゼのような代謝現象の結果として蛍光を発するタンパク質を使用することは可能であるが、励起波長を与えられることによってこうした性質を有する蛍光タンパク質を使用することが好ましい。このような蛍光標識の中でも、当技術分野で現在までに十分に確立された標識系である、様々な色の緑色蛍光タンパク質が好ましい。了解されるように、特定の形の蛍光タンパク質を、必要であるならば、宿主生物に免疫適合性となるように、またはそうした宿主内で発現を強めるように改変することができる。しかしながら、蛍光タンパク質は腫瘍細胞の内部に与えられるため、免疫原性は通常、タンパク質それ自体に関しては問題にならない。このタンパク質は事実上、モデルの免疫系から隔絶している。
【0016】
標準的な方法を用いて1以上の蛍光タンパク質に関する発現系を腫瘍細胞に与えることができる。細胞をin vitroで形質導入し、腫瘍となるようにin vitroまたはin vivoで増殖させて、その結果得られた腫瘍をモデルの被験動物に移植することができる。細胞を注入する、または外科手術で移植することができる。外科的な同所移植が特に好ましい;しかしながら、蛍光タンパク質を安定して発現する改変腫瘍細胞を有するモデルを提供する他の方法を用いることもできる。さらに、内因性の腫瘍または導入された腫瘍を有するモデルに、その動物中にすでに存在する腫瘍に感染する、タンパク質発現のためのウイルスベクター、より詳細にはレトロウイルスベクターを与えることができる。こうしたベクターは、すでに存在する腫瘍に局所的に導入されることが望ましい。
【0017】
観察のために蛍光発光を利用する、腫瘍の進行、血管新生、および/または転移に関するあらゆるモデルを、本発明の方法において使用することができる。本発明の方法は、可逆的に開閉することができる皮弁を提供することを包含する。典型的には、動物に麻酔をかけた後、円弧の形に皮膚を切開し、皮下結合組織を分離して皮弁を外す。皮弁は縫合によって閉じることができる。
【0018】
開いた皮弁から直接、標識された腫瘍細胞を観察できることは、本発明のモデル系の感度および解像度を非常に高める。このモデルを用いて簡単に状態の進行をモニターすることができ、あるいは可能性のある治療法を評価する手段、ならびに当然、処理が全くない場合よりも否定的な結果をもたらす可能性のある影響を評価する手段としても、このモデルを用いることができる。この場合、化合物および/またはプロトコルを被験動物に供して、前記化合物および/またはプロトコルが存在しない対照と比較する。このような実験条件の存在するもとで腫瘍の進行、血管新生および/または転移が増大することは、その化合物および/またはプロトコルが被験動物に対して有害であることを意味し;同様に、上記の機能のいずれかを阻害することは、その化合物および/またはプロトコルを可能性のある治療法として認めることになる。
【0019】
多くの場合、単一色を用いて、1つの腫瘍の転移を観察する。しかしながら、本発明の方法は、それぞれ異なる色の蛍光タンパク質で標識した2以上の腫瘍を同時に観察することを包含する。本方法を用いることによって、複数の腫瘍の進行を、重複して観察することが可能になるばかりでなく、それぞれの腫瘍の他腫瘍への影響もしくは干渉を直接観察することができる。
【0020】
下記の実施例は本発明を説明することを目的とするが、これを限定するものではない。
調製A - 緑色蛍光腫瘍細胞株の調製
【0021】
20-40%コンフルエントなヒトおよび動物の腫瘍細胞を、10パーセント(v/v)FBSを含有するRPMI1640培地もしくは他の培地中で72時間、PT67パッケージング細胞のレトロウイルス上清の1:1沈澱混合物とともにインキュベートした。この上清は、10パーセント(v/v)熱不活化FBSを添加したDMEM中で培養したPT67細胞から得られた。70パーセントコンフルエントなパッケージング細胞を、DOTAPトランスフェクション試薬および飽和量のpLEINの沈澱混合物とともにインキュベートした。このときに培地を補充し、トランスフェクションの48時間後に、蛍光顕微鏡によって細胞を検査した。選択のために、段階的に増加する500-2,000 mg/mlのG418の存在下で細胞を培養した。CLONTECHより入手可能なpLEINベクターは、内部リボソーム発現部位を含有する同一のバイシストロン性メッセージ上で強力な緑色蛍光タンパク質およびネオマイシン耐性遺伝子を発現する。ヒトU87神経膠腫腫瘍細胞、マウスLewis肺癌細胞、ヒトBxPC-3-癌細胞およびラットDunning前立腺癌細胞がこのように調製された。
【0022】
新しい培地を補充し、トリプシン/EDTAを用いて腫瘍細胞を再収集して、50μg/mlのG418を含有する選択培地中に入れて1:15で継代した。この濃度は800μg/mlまで段階的に増加した。GFPを発現するクローンをクローニングシリンダー(Bell-Art Products)を用いてトリプシン/EDTAによって分離し、増殖させて、選択試薬の存在しない状態に従来どおり移した。
調製B - RFPを発現する癌細胞株
【0023】
10% (v/v) FBSを含有するRPMI1640培地中でDunning前立腺癌細胞を培養し、次にLipofetamine Plus (GIBCO)および飽和量のRFP発現pLNCX2 DS Red 2プラスミドの沈澱混合物とともに6時間インキュベートした後、新しい培地を補充した。この発現ベクターは、DS Red 2をpLNCX2ベクターのEgl IIおよびNotI部位に挿入することによって得られた。上記の材料は2つともCLONTECHから入手可能である。
【0024】
トランスフェクションの48時間後にトリプシン/EDTAを用いて細胞を集め、200μg/ml G418を含有する選択培地中に1:15として継代培養した。トランスフェクトされた細胞を200μg/ml G418中で短時間増殖させることによって、安定して組み込まれたプラスミドを有する細胞を選択し、上記のようにクローニングシリンダーを用いて分離した。
調製C - 腫瘍組織の調製
【0025】
腫瘍組織ストックを得るために、6週齢の雌のNu/Nuマウスに106-107 GFPまたはRFP発現腫瘍細胞を1回投与で皮下注射した。細胞をトリプシン処理によって回収し、冷却した血清含有培地で3回洗浄し、氷上に保存した;次に脇腹の皮下部分に、回収後40分以内に総量で0.2-0.4 mlを注射した。注射の3-6週間後に、腫瘍断片の外科的同所移植のために腫瘍組織を回収した。
実施例1
脳腫瘍モデル
【0026】
頭皮を円弧の形に切開した後、頭蓋の側頭骨を露出させる。マウス当たり5×105 のU87-GFP細胞を含有する20mlを、右頭頂葉に、1ml 27G 1/2ラテックスフリーシリンジを用いて注射した。切開創を7-0外科用縫合糸で1層縫合して閉じた。動物は手術の間イソフルレン麻酔をかけた。観察するために、皮弁を開き、50ワット水銀ランプ電源装置を装備したLeica蛍光実体顕微鏡L212型を用いて観察した。520ナノメーターロングパスフィルタを通して蛍光が観察された。顕微鏡から得られた画像およびライトボックスは、Hamamatu 351810 3チップCool Color電荷結合素子カメラで捉えられた。
【0027】
コントラストおよび明度について画像を加工し、画像ソフトウェアPro Plus V40を用いて分析した。1024×724画素の高解像度画像が、IBM PC上でそのまま、または高解像度Sony VCR、SLVR1000型のビデオ出力を通して連続的に捉えられた。上記の方法および装置は、Yang, M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000) 97:1206-1211; Yang, M.ら、Ibid. (2001) 98:2616-2621; Yang, M.ら、Ibid. (2000) 97:12278-12282に記載されており、いずれも参考として本明細書に含めるものとする。
【0028】
開いた皮弁を用いた蛍光の定量的測定は、間に存在する頭皮組織を取り除くと、20倍の強度の増加を示す。1つ1つの蛍光細胞が明確に分離され、頭皮で画像化されなかった領域が観察された。図1を参照されたい。
実施例2
肺癌モデル
【0029】
GFP Lewis肺癌から形成された腫瘍からの腫瘍片1mm3をSOIによってヌードマウスの左臓側胸膜に移植した。マウスをイソフルオレンによって麻酔し、第4肋間腔から左側方胸部に小さな1センチメートルの横切開を行った。小さな切開が胸膜腔とアクセスして、全肺虚脱となった。2つの腫瘍片を、8-0ナイロン製外科用縫合糸を用いて縫合し、1つ結び目を作って固定した。肺を鉗子で取り上げて、1本の縫合糸を用いて腫瘍片を肺の下部に縫いつけた。肺組織を胸腔に戻し、胸筋および皮膚を6-0絹製縫合糸の1層縫合によって閉じた。肺は、23ゲージ針を用いて胸腔から空気を引き出すことにより再び膨張した。上記の処置は、7倍の解剖顕微鏡を用いて行った。
【0030】
実施例1に記載の観察法を用いて、皮膚を介した全身画像を、皮弁を開いたときの外側の直視画像と比較した。この直視画像は、原発腫瘍上に、皮膚を介しては見られない腫瘍の微小病巣および血管新生による脈管を認めた。原発腫瘍および微小病巣の進行を示す画像は6日間にわたって記録され、腫瘍の増殖曲線が作図された。データポイントと予想増殖曲線との間の一致は、この技法が有効な定量法を与えることを示している。同側肺の1もしくは2細胞ほどの微小な病巣を、第5日に皮弁を開くことによって画像化することができた。転移によって播種された微小病巣も、第7日に対側の肺に認めることができた。
実施例3
肝転移モデル
【0031】
GFPを安定して発現するAC34862腫瘍から得られた腫瘍断片をSOIによってヌードマウスの結腸に移植した。下部正中線腹部切開によって結腸を露出させ、漿膜を取り除き、2片の1 mm3腫瘍断片を移植した。8-0外科用縫合糸を用いて2つの腫瘍小片を貫通させ、次にそれらを結腸壁に縫合した後、これを腹腔に戻した。腹壁の切開を7-0外科用縫合糸で閉じた。KetosetおよびPromAceからなるケタミン混合物、ならびにキシラジン塩酸塩を用いて動物を麻酔した。これらの処置は7倍解剖顕微鏡を用いて実施された。
【0032】
実施例1に記載のように観察を行った場合、転移性の微小病巣は移植後第7日までには目に見えるようになった。150μmおよび300μmの2つの転移性病変が腹壁上の開かれた皮弁を通して、外側に画像化された。150μm病変は単一腫瘍性の微小病巣から形成された;300μm病変には5つの別々のコロニーがあり、その最大のものが病変の中心にある。80-100μmの範囲にわたる 4つの小さい微小病巣も観察された。
【0033】
もう一つのモデルでは、106 Colo 320 GFP細胞を含有する100μmを、1 ml 39 G1ラテックスフリーシリンジで門脈に注射した;上部正中線腹部切開後、門脈を露出させた。門脈の穿刺孔を滅菌綿棒で約10秒間圧迫し、7-0外科用縫合糸を用いて切開を1層縫合で閉じた。ケタミン混合物麻酔および7倍解剖顕微鏡を使用した。実施例1の観察法によって、開かれた皮弁を通して外側から見ると、肝臓の微小病巣および単一細胞が可視化された。
【0034】
同様の実験において、Colo 205 GFP細胞が使用され、図2は、40倍拡大図を含めた、開かれた皮弁からの画像化を示す。
実施例4
膵癌モデル
【0035】
ケタミン混合物を用いてヌードマウスを麻酔し、腹部をアルコールで消毒した。左上腹部直腸傍線および腹膜を貫いて切開を行い、膵臓を露出させた。調製Cに記載のヌードマウスから摘出され、Hanks平衡塩類溶液(ペニシリン100単位/mlおよびストレプトマイシン100単位/mlを含有)中で保存されている、GFPを発現するBxPC3ヒト膵臓腫瘍の3つの腫瘍片1mm3を、6-0 Dexon外科用縫合糸を用いて膵臓の中央に移植した。膵臓を腹腔に戻し、腹壁および皮膚を6-0 Dexon縫合糸で閉じた。再び、7倍の解剖顕微鏡を使用した。実施例1による、開かれた皮弁からの腫瘍の画像化は、暗い影として見える微細血管に取り囲まれた腫瘍を示す。こうした血管の観察は、皮弁が閉じていては不可能である。図3A-3Cは、血管新生が明確に視認できることを示す。図3Aは皮弁ウィンドウからのマクロ画像を示す;図3Bおよび3Cはそれぞれ20倍および40倍に拡大した皮弁からの画像を示す。
実施例5
前立腺癌モデル
【0036】
GFPまたはRFPのいずれかを発現するDunning前立腺癌を、調製Cに記載のようにヌードマウスから得た。この腫瘍の1 mm3切片は生細胞から構成され、滅菌条件下で保存された。ケタミン混合物を用いてマウスを麻酔し、仰臥位においた。恥骨結合の真上に円弧の形の皮弁を作り、前立腺を露出した。前立腺の腹側部分を取り巻く筋膜を分離して、前立腺の2つの腹側の側葉を小さな切開によって露出させる。1片のDunning-GFP組織を一方の側葉に8-0ナイロン製縫合糸で縫合し、1片のDunning-RFPをもう一方の側葉に縫合した。腹部を6-0縫合糸で閉じた。上記のように7倍解剖顕微鏡を使用した。
【0037】
この場合、GFPおよびRFP蛍光をいずれも同時に可視化するために、D425/60帯域通過フィルタ、470DCXRダイクロイックミラーを通して励起を生じさせ、放出された蛍光を、ロングパスフィルタGG475を通して集めた。その他の点は実施例1に記載のように画像化を行った。実施された観察によって、赤色および緑色蛍光をいずれも同時に観察できることが明らかになった。開かれた皮弁によって、左側葉上のGFP腫瘍、および右側葉上のRFP腫瘍の外部直視型の画像化が可能となった。これらの結果を図4に示す。
実施例6
マルチカラーイメージング
【0038】
ヒト線維肉腫細胞株、HT-1080の試料を、上記の調製AおよびBに記載のように、それぞれGFPおよびRFPを発現するように改変した。GFP-HT-1080およびRFP-HT-1080からなる細胞混合物をSCIDマウスに静脈注射した。この細胞混合物を注射して12日後に、生きたマウスの胸壁にある開かれた皮弁から、肺を画像化した。図5の結果は、2つの細胞株の両方の転移を示す。
【0039】
図6は、注射の12日後から注射の21日後までの時間の関数として、同じようにして得られた同様の結果を示す。
【0040】
同様に、免疫能が減弱したマウスを、急速に転移する乳癌細胞株、およびゆっくりしか転移しない乳癌細胞株の両者で処理した。GFPで標識されたMDA-MB-435-4A4細胞株、およびRFPで標識された2C5細胞株をヌードマウスに注射した。結果を、全身画像化によって図7および8に示す。図のように、2つの腫瘍タイプは、異なる増殖様式を示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
腫瘍のタイプ
本発明の方法を、骨、腎臓、膀胱、卵巣などはもちろん、例示されたものを含めてあらゆるタイプの癌の進行、血管新生、および/または転移をモニターするために使用することができる。本発明の方法はあらゆる癌モデルに適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍モデル系の内臓上の、腫瘍細胞または腫瘍組織の進行、血管新生および/または転移をモニターするための方法であって、そのモデル系は免疫能が減弱した実験動物または同系の実験動物であり、その方法が、前記モデル系において開かれた皮弁を通して蛍光腫瘍細胞および/または組織を観察することを含んでなり、ここにおいて前記皮弁が可逆的に開閉するように配置される、方法。
【請求項2】
癌の進行、血管新生および/または転移への化合物またはプロトコルの影響を評価するための方法であって、その方法が、試験される化合物またはプロトコルの存在する状態、および存在しない状態で、請求項1に記載の方法を実施すること、ならびに得られた結果を比較することを含んでなり、それによって癌の進行、血管新生および/または転移に対する前記化合物もしくはプロトコルの影響が評価される、方法。
【請求項3】
免疫能が減弱した実験動物がマウスまたはラットである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記の蛍光腫瘍細胞が、蛍光タンパク質を発現するための核酸分子を含有するように改変されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
蛍光タンパク質が緑色蛍光を発する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
蛍光タンパク質が赤色蛍光を発する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
実験動物が腫瘍細胞を皮下注射によって与えられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
実験動物が腫瘍組織を外科的同所移植(SOI)によって与えられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
腫瘍組織が内因性であって、蛍光タンパク質を発現させるためのウイルスベクターに感染することによって腫瘍組織が蛍光を発するようになる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
皮弁が円弧の形をした皮弁である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
腫瘍細胞または組織が、脳、肺、肝臓、結腸、乳房、前立腺、卵巣または膵臓の細胞または組織である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
観察が肉眼による、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
観察が顕微鏡による、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
前記腫瘍細胞または組織が、少なくとも2つの異なる色の蛍光タンパク質を生成させる核酸分子を含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも第1および第2の腫瘍細胞または組織の進行、血管新生および/または転移を同時に観察するための方法であって、その方法が少なくとも、第1の色を発する蛍光タンパク質を発現するように改変された第1の腫瘍細胞または組織、および第2の色を発する蛍光タンパク質を発現するように改変された第2の細胞または組織を提供するステップ;ならびに免疫能が減弱した実験動物または同系の実験動物において前記の細胞または組織を観察するステップを含んでなる、方法。
【請求項16】
前記の第1の腫瘍細胞または組織が第2の細胞または組織とは異なる起源を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記の細胞または組織が前立腺、乳房または線維肉腫の細胞または組織である、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−29202(P2010−29202A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227785(P2009−227785)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【分割の表示】特願2003−526186(P2003−526186)の分割
【原出願日】平成14年9月10日(2002.9.10)
【出願人】(502326772)アンチキャンサー インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】