説明

腸由来細胞の増殖促進剤

【課題】本発明の主たる目的は、製造が簡便で、経口摂取するにあたって安全である初乳に含まれる成分を有効成分とする、腸由来細胞の増殖促進剤、栄養又は薬物吸収向上剤、医薬組成物、または食品組成物を提供するところにある。
【解決手段】初乳を酸抽出して得られるカゼイン組成物を有効成分とする腸由来細胞の増殖促進剤、栄養又は薬物吸収向上剤、医薬組成物、または食品組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初乳由来のカゼイン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の乳は、生体に対して様々な恩恵を与える機能を有することが知られている。そこで乳そのものの安全性が考慮され、乳に由来する種々の成分を経口組成物として配合した食品、医薬品等が多く存在する。
【0003】
哺乳動物より採取される乳は、酸可溶性画分(いわゆるホエー画分)と、酸不溶性画分(いわゆるカゼイン画分)に分画することができる。カゼイン画分には、多数のセリン残基がリン酸化された数種類のカゼインタンパク質が含まれ、これらのカゼインタンパク質は乳に含まれるタンパク質の全体に対して大部分を占める。一般的に、カゼイン画分に含まれるカゼインタンパク質としては、例えばα−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン等が知られており、これらの各種カゼインタンパク質が、高い栄養価を有することから、様々な食品の栄養補助剤として配合されて用いられている(特許文献1)。
【0004】
また哺乳動物の乳は、分娩後10日程度の比較的短期間に搾乳される初乳と、10日程度以降の常乳に大別することもでき、初乳は特に生体に対して効果を奏することが知られている。このような効果としては、例えば腸や腸粘膜の厚さ、腸の表面領域等を増大させる効果が挙げられ、その効果は初乳のホエー画分中に含まれるEGF(上皮成長因子)、IGF(インスリン様成長因子)等の成長ホルモン刺激因子、各種ペプチド、ラクトフェリン、α−ラクトアルブミン、グルタミン(特許文献2〜6)等が担っているとされている。
【0005】
さらに、本発明者らはウシ初乳とウシ常乳を比較したところ、初乳のほうが腸に対して優位な効果を有することを明らかにし、さらに初乳のホエー画分のほうが、成長ホルモン刺激因子、各種ペプチド、ラクトフェリン等を多く含んでいることを確認している(非特許文献1)。
【0006】
一方でカゼイン画分は、腸に対する効果を有するとの報告は無く、カゼインの一部を分解させたκ−カゼイングリコマクロペプチドが、胃酸の分泌を抑制する効果を有することが報告されているのみである(特許文献7〜9)。特許文献10では、ミセルカゼイン中の酸可溶性画分が、腸に対して効果を有することが開示されているが、本文献の酸可溶性画分とは、グルカゴン様ペプチド、ラクトフェリン等が含まれる画分であり、α−カゼイン等のカゼインタンパク質は含まれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−534683号公報
【特許文献2】特開平11−505528号公報
【特許文献3】特開平6−510066号公報
【特許文献4】特開2003−033160号公報
【特許文献5】特開2004−231643号公報
【特許文献6】特開2010−006764号公報
【特許文献7】特開平4−210647号公報
【特許文献8】特開平5−065295号公報
【特許文献9】特開平5−262793号公報
【特許文献10】特開2007−525404
【非特許文献1】金丸義敬ら、「ラット培養腸細胞及びマウス小腸上皮組織に及ぼすウシ後期初乳の影響」、日本農芸化学会2009年度大会 講演要旨集、p.220 3P035A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主たる目的は、製造が簡便で経口摂取するにあたって安全である初乳に含まれる成分を有効成分とする、腸由来細胞の増殖促進剤、栄養又は薬物吸収向上剤、医薬組成物、または食品組成物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑みて鋭意研究した結果、初乳を酸抽出して得られるカゼイン組成物を有効成分とする腸由来細胞の増殖促進剤を見出した。すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記に示す態様を包含するものである。
【0010】
I.増殖促進剤
(I−1)初乳を酸抽出して得られるカゼイン組成物を有効成分とする腸由来細胞の増殖促進剤。
(I−2)カゼイン組成物が、糖鎖の一部にN−アセチルラクトサミンを有するκ−カゼインを含むものである、(I−1)に記載の増殖促進剤。
(I−3)カゼイン組成物中に、α−カゼイン、βカゼイン、κ−カゼインの3種類のカゼインタンパク質を含み、該3種類のカゼインタンパク質の総量が、カゼイン組成物に60〜99重量%含まれる(I−1)又は(I−2)に記載の増殖促進剤。
(I−4)カゼイン組成物中に、α−カゼイン:βカゼイン:κ−カゼインを、1:0.5〜0.8:0.1〜0.4の重量比で含有する(I−1)〜(I−3)のいずれかに記載の増殖促進剤。
(I−5)初乳が、分娩後10日以内に搾乳したものである、(I−1)〜(I−4)のいずれか1つに記載の増殖促進剤。
(I−6)初乳が、分娩後1日以降10日以内に搾乳したものである、(I−1)〜(I−5)いずれか1つに記載の増殖促進剤。
(I−7)腸由来細胞が、腸管上皮細胞である(I−1)〜(I−6)のいずれか1つに記載の増殖促進剤。
(I−8)腸由来細胞が、小腸上皮細胞である(I−1)〜(I−7)のいずれか1つに記載の増殖促進剤。
【0011】
II.栄養又は薬物吸収向上剤
(II−1)初乳を酸抽出して得られるカゼイン組成物を有効成分とする栄養又は薬物吸収向上剤。
(II−2)カゼイン組成物が、糖鎖の一部にN−アセチルラクトサミンを有するκ−カゼインを含むものである、(II−1)に記載の栄養又は薬物吸収向上剤。
(II−3)カゼイン組成物中に、α−カゼイン、βカゼイン、κ−カゼインの3種類のカゼインタンパク質を含み、該3種類のカゼインタンパク質の総量が、カゼイン組成物に60〜99重量%含まれる(II−1)又は(II−2)に記載の栄養又は薬物吸収向上剤。
(II−4)カゼイン組成物中に、α−カゼイン:βカゼイン:κ−カゼインを、1:0.5〜0.8:0.1〜0.4の重量比で含有する(II−1)〜(II−3)のいずれか1つに記載の栄養又は薬物吸収向上剤。
(II−5)初乳が、分娩後10日以内に搾乳したものである、(II−1)〜(II−4)のいずれか1つに記載の栄養又は薬物吸収向上剤。
(II−6)初乳が、分娩後1日以降10日以内に搾乳したものである、(II−1)〜(II−5)のいずれか1つに記載の栄養又は薬物吸収向上剤。
【0012】
III.医薬組成物
(III−1)初乳を酸抽出して得られるカゼイン組成物を有効成分とする薬組成物。
(III−2)カゼイン組成物が、糖鎖の一部にN−アセチルラクトサミンを有するκ−カゼインを含むものである、(III−1)に記載の医薬組成物。
(III−3)カゼイン組成物中に、α−カゼイン、βカゼイン、κ−カゼインの3種類のカゼインタンパク質を含み、該3種類のカゼインタンパク質の総量が、カゼイン組成物に60〜99重量%含まれる(III−1)又は(III−2)に記載の医薬組成物。
(III−4)カゼイン組成物中に、α−カゼイン:βカゼイン:κ−カゼインを、1:0.5〜0.8:0.1〜0.4の重量比で含有する(III−1)〜(III−3)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
(III−5)初乳が、分娩後10日以内に搾乳したものである、(III−1)〜(III−4)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
(III−6)初乳が、分娩後1日以降10日以内に搾乳したものである、(III−1)〜(III−5)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
(III−7)腸疾患に対する予防または治療剤である(III−1)〜(III−6)のいずれか1つに記載の医薬組成物。
(III−8)腸疾患が、炎症を伴う疾患である(III−7)に記載の医薬組成物。
(III−9)腸疾患が、小腸において発症する疾患である(III−7)、又は(III−8)に記載の医薬組成物。
【0013】
IV.食品組成物
(IV−1)初乳を酸抽出して得られるカゼイン組成物を有効成分とする食品組成物。
(IV−2)カゼイン組成物が、糖鎖の一部にN−アセチルラクトサミンを有するκ−カゼインを含むものである、(IV−1)に記載の食品組成物。
(IV−3)カゼイン組成物中に、α−カゼイン、βカゼイン、κ−カゼインの3種類のカゼインタンパク質を含み、該3種類のカゼインタンパク質の総量が、カゼイン組成物に60〜99重量%含まれる(IV−1)又は(IV−2)に記載の食品組成物。
(IV−4)カゼイン組成物中に、α−カゼイン:βカゼイン:κ−カゼインを、1:0.5〜0.8:0.1〜0.4の重量比で含有する(I−1)〜(I−3)のいずれか1つに記載の食品組成物。
(IV−5)初乳が、分娩後10日以内に搾乳したものである、(IV−1)〜(IV−4)のいずれか1つに記載の食品組成物。
(IV−6)初乳が、分娩後1日以降10日以内に搾乳したものである、(IV−1)〜(IV−5)のいずれか1つに記載の食品組成物。
(IV−7)食品添加剤である(IV−1)〜(IV−5)のいずれか1つに記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の初乳を酸抽出して得られるカゼイン組成物は、腸由来の細胞増殖促進剤、食品又は薬物吸収向上剤、医薬組成物又は食品組成物の有効成分とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】初乳由来のカゼイン組成物がIEC−6細胞に及ぼす細胞増殖促進効果。
【図2】初乳由来のカゼイン組成物を経口摂取させたマウスの小腸絨毛長の解析。
【図3】初乳由来のカゼイン組成物を経口摂取させたマウスの小腸陰窩における増殖細胞数の割合。
【発明を実施するための形態】
【0016】
カゼイン組成物について
本発明の初乳とは、哺乳類動物の分娩直後から10日以内において搾乳することのできる乳のことである。特に分娩後1日以内に搾乳するものを初期初乳、分娩後1日以降10日以内に搾乳するものを後期初乳とする。本発明の初乳としては、後期初乳が好ましい。
【0017】
上記初乳の由来は、授乳によって生育する可能な動物に由来する初乳であれば特に限定されないが、本発明のカゼイン組成物が医薬品又は機能性食品に配合して用いられることに鑑みて、既に人体に対して安全性が確認されている動物に由来する初乳が好ましい。具体的には、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ヒト等に由来する初乳が挙げられる。好ましくはウシ由来の初乳である。
【0018】
上記のウシは、バッファロー、バイソン、水牛等を含む野生のウシであってもよく、家畜として馴致・飼育される様々な品種のウシであっても良い。具体的なウシの品種としては、アングラー種、ウェルシュブラック種、エアシャー種、グロニンゲン種、ケリー種、サウスデボン種、ジャージー種、シンメンタール種、スウェーデンレッドアンドホワイト種、デキスター種、デーリィショートホーン種、ノルウェーレッド種、ノルマン種、パイルージュフランドル種、フィンランド種、ブラウンスイス種、ホルスタイン種、ミューズラインイーセル種、モンベリエール種、リンカーンレッド種、レッドデーニッシュ種、レッドポール種等が挙げられる。好ましい品種は、ホルスタイン種である。
【0019】
上記初乳には常乳に含まれるカゼインタンパク質以外に、特殊なカゼインタンパク質が含まれている。具体的には、初乳のみに、糖鎖の一部にN−アセチルラクトサミンを持つ2つのκ−カゼインを持つことを特徴としている。
【0020】
上述したN−アセチルラクトサミンを持つ2つのκ−カゼインを確認する方法としては、『T. Saitoら、Biochinica et Biophysica Acta, 678 (1981) 257-267 The Chemical Structure of Neutral and Acidic Sugar Chains Obtained From Bovine Colostrum κ−Casein.』に記載されるように、κ−カゼインより糖鎖を切り出し、メチル化したものを公知の質量分析手法を用いることによって確認することができる。
【0021】
本発明の酸抽出とは、分娩後10日以内の生乳(初乳)を脱脂粉乳化した原料に、酸を加えて酸可溶画分と酸不溶画分に分画した後、固液分離工程を施すことであり、本発明のカゼイン組成物は上記初乳に対して酸抽出を行った後の酸不溶画分(固液分離工程後の固体成分)として得ることができる。
【0022】
上記した方法において、生乳の脱脂粉乳化する際、通常は、当該分野において公知の方法に準じた脂質分離、殺菌、蛋白質濃縮、乾燥等の工程に供することによって調製することができる。
【0023】
上記の脂質の分離工程は、例えば、三元分離機を用いた方法が挙げられる。この場合、分離工程は、通常5000〜7000G程度、好ましくは5200〜6500G程度、より好ましくは5300〜6200G程度で、通常45〜120℃程度、好ましくは46〜100℃程度、より好ましくは47〜80℃程度の条件下にて行われる。例えば、分娩後7日以内に搾乳された生乳は、脂質が通常5〜10重量%程度含まれているが、上記の条件により脂質を99重量%以上分離することもできる。
【0024】
上記の殺菌工程は、例えば、通常62〜85℃程度の条件下で10秒〜30分程度の範囲内で適宜行うことができる。
【0025】
上記の蛋白質濃縮工程は、例えば、限外濾過膜を用いた方法により行うことができる。この場合、当該工程は、通常5000〜200000ダルトン程度、好ましくは10000〜100000ダルトン程度、より好ましくは12000〜50000ダルトン程度の分子量を有する蛋白質を分画することができるポアサイズの限外濾過膜を用いて行われる。
【0026】
上記の乾燥工程は、凍結乾燥、スプレードライ等任意の方法により行うことができるが、スプレードライによれば、蛋白質とそれ以外の乳由来成分とで造粒されている粉末状または顆粒状のものとすることができるので好ましい。当該スプレードライにおける乾燥工程は、送風温度が通常100〜260℃程度、好ましくは140〜240℃程度、より好ましくは180〜230℃程度の条件下で行われる。
【0027】
上述した方法における酸を加えて初乳を分画する際、通常は4〜5程度のpHにて行うことができ、より好ましくは4.5〜4.6である。このような範囲のpHにて分画することで、生体に悪影響を与える成分が含まれないカゼインカゼイン組成物を作製することができる。上記範囲のpHに調整する際に用いる酸としては、例えば酢酸、塩酸用いることができる。
【0028】
上述した方法における遠心分離工程は、常法に基づいて行うことができ、通常は1000〜1500G程度の力で、また遠心分離に係る時間は通常15〜20分間程度で、さらに温度は通常20〜25℃の条件下にて行うことができる。
【0029】
上述した方法によって得られるカゼイン組成物は、特に洗浄することなく用いてもよく、公知の方法を用いて洗浄した後に用いてもよい。
【0030】
本発明のカゼイン組成物は、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインの三種類のカゼインタンパク質を含有し、その含有量は、カゼイン組成物に対する、前記三種類のカゼインタンパク質の総量は、通常60〜99重量%程度であり。より好ましくは80〜90重量%程度である。
【0031】
また、カゼイン組成物に含まれる三種類のカゼインタンパク質の重量比はその由来により大きく異なるが、例えばウシ由来の場合は、通常、α−カゼイン:β−カゼイン:κ−カゼイン=1:0.5〜0.8:0.1〜0.4程度であり、より好ましくは1:0.4〜0.7:0.2〜0.3である。
【0032】
上記のカゼイン組成物に含まれる三種類のカゼインタンパク質の含有量及び三種類のカゼインタンパク質の重量比は、例えば、質量分析法等の公知の方法を用いることによって確認することができる。
腸由来細胞の増殖促進剤について
本発明の腸由来細胞の増殖促進剤は(以下、増殖促進剤とします。)、上述したカゼイン組成物を有効成分として含み、腸由来細胞の増殖を促進する。上記の腸由来細胞は、特に限定はされず、具体例として十二指腸由来細胞、小腸由来細胞、大腸由来細胞、結腸由来細胞、直腸由来細胞等、腸のあらゆる部位に由来する細胞が挙げられる。好ましくは小腸由来細胞である。
【0033】
腸由来細胞の増殖促進とは、腸組織を形成している細胞の腸組織中での増殖促進であっても、生体内から採取して培養される、培養細胞の増殖促進であっても良い。上記の培養細胞は初代培養細胞であっても、生体内から採取した後に、不死化処理を施して樹立した継代培養細胞であっても良い。
【0034】
腸由来細胞は、特に限定はされず、具体例として腸管上皮細胞、腸間膜細胞、粘膜固有層細胞、粘膜筋板細胞、粘膜下層細胞、輪状筋細胞、絨走筋細胞、漿膜細胞等が挙げられる。好ましくは腸管上皮細胞である。
【0035】
上記の継代培養細胞は、特に限定されないが、具体的にはIEC−6細胞、CaCo−2細胞、WiDr細胞、SW837細胞、RCN−9細胞、ACL−15細胞、ECC4細胞等が挙げられる。好ましくはIEC−6細胞である。
【0036】
本発明の増殖促進剤は、上述したカゼイン組成物を有効成分として含む。その他に、腸由来細胞に対する増殖促進効果を減殺しない公知の薬剤が含まれていてもよく、その具体的として防腐剤、殺菌剤、安定剤等が挙げられる。
【0037】
本発明の増殖促進剤に有効成分として含まれるカゼイン組成物は、通常1〜95重量%程度の割合で含有させることができ、より好ましくは10〜80%である。
【0038】
本発明の増殖促進剤は実施例に示すように、小腸の絨毛の長さの増加させる効果を有し、これによって腸の表面積が拡大する。従って、栄養(ビタミン、脂質、タンパク質、灰分、水等)や腸から吸収される薬物の小腸における吸収を増加させることができ、体内に効率よく栄養源を吸収できるようになり、栄養又は薬物吸収向上剤として利用することができる。
医薬組成物について
本発明の医薬組成物は、上記の増殖促進剤を有効成分として含む。具体的には、上述したカゼイン組成物を有効成分として含み、投与方法に応じた製剤に調製することができる。各種製剤のうち、経口製剤とすることが好ましい。換言すると本発明の医薬組成物は、初乳由来のカゼイン組成物を有効成分として含む経口医薬組成物であることが好ましい。
【0039】
上記の経口医薬組成物の剤型は、経口投与製剤であれば特に制限されないが、例えば、散剤、錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、トローチ、チュアブル錠、ドライシロップ剤等が挙げられる。また、薬効成分の放出性を制御した製剤形態を有するものであってもよい(例えば、速放性製剤、徐放性製剤等)。また、好ましくは錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)である。かかる剤型を有する製剤は、当業界の慣用法に従って調製することができる。
【0040】
経口医薬組成物は、上述の経口投与形態に製剤化するため、また、その安定化のために、薬学上経口投与に許容される各種の担体並びに添加剤を配合することもできる(例えば、局方、「医薬品添加物事典」(薬事日報社発行)等が参照できる。)。
【0041】
上記の経口投与剤用の担体または添加剤としては、コハク化ゼラチン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、炭酸カルシウム、カルメロースナトリウム等の基剤;グリセリン脂肪酸エステル、大豆レシチン、メチルセルロース、モノステアリン酸グリセリン等の乳化剤;乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビトール、トウモロコシデンプン、部分α化デンプン、結晶セルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、タルク、マクロゴール400等の賦形剤;デンプン、α−デンプン、寒天、ゼラチン、アラビアガム、デキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、結晶セルロース等の結合剤;炭酸カルシウム、クロスポピドン、デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、無水ケイ酸等の滑沢剤;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びプルロニック等の懸濁化剤;ポリソルベート80、ラウロマクロゴール、コレステロール等の界面活性剤;沈降炭酸カルシウム、アラビアゴム、プルラン、カルナウバロウ、ヒドロキシプロピルメチルフタレート等のコーティング剤;白糖、ブドウ糖、サッカリンナトリウム、ソルビトール、クエン酸、及びアスパルテーム等の矯味剤; 濃グリセリン、トリアセチン、D−ソルビトール等の可塑剤;パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クエン酸水和物等の保存剤;酸化チタン、薬用炭、銅クロロフィリンナトリウム等の着色剤等を挙げることができる。
【0042】
また上記成分の他、本発明の効果が減殺されない範囲であれば、通常医薬品の添加物として許容される安定剤、分散剤、流動化剤、緩衝剤、湿潤剤、粘稠剤、防腐剤、pH調整剤、溶剤、溶解補助剤等の任意成分を所望に応じて添加することもできる。
【0043】
さらに上記以外に、アミノ酸、ビタミン類、無機塩類等の他の活性成分を含有させても良い。他の活性成分としては、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等のアミノ酸;ビタミンA1、ビタミンA2、カロチン、リコピン(プロビタミンA)、ビタミンB6、ビタミンB1、ビタミンB2、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド等のビタミン類;塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の無機塩類が挙げられる。
【0044】
上記の経口医薬組成物は、上述の固体または液体の経口製剤(内服製剤)として調製され、投与することができ、投与量は、患者の年齢、性別、治療すべき症状の程度、及び投与方法により左右されるが、経口医薬組成物に含まれている上述のカゼイン組成物の、成人に対する1日あたりの投与量が通常10〜10000mg程度、好ましくは100〜1000mg程度、より好ましくは200〜500mg程度である。この投与範囲であれば、1日に1〜数回に分けて投与することもできる。
【0045】
本発明の医薬組成物は経口摂取することが困難な症状を患っている患者に対して行う、胃ろう処置の後に直接体内へ投与することも可能である。胃ろう処置とは、胃や腸等の消化器官にろう孔を作製し、チューブ等を介して体内に水分、栄養分等を投与する処置である。
【0046】
本発明の医薬組成物は、腸疾患に対する予防又は治療剤とすることが好ましい。ここで予防とは、疾病の発症を未然に防ぐことを意味し、具体的には、予め疾病の発症機序に作用して疾病の発症を防ぐこと、予め疾病の病変部に対して正常時又は寛解時を上回る機能を獲得させ、疾病の発症後に引き起こされる病変部の損傷を軽減すること等に解することができる。
【0047】
上述の腸疾患とは腸において発症する疾患であれば特に限定されず、具体的にはクローン病、潰瘍性腸炎等の炎症性腸疾患、ウイルス、細菌等の感染によって誘発される感染性腸炎、食品アレルギーや食中毒、薬物、アルコール等よって誘発される、感染性腸炎等の腸全体に関する炎症を伴う腸疾患;過敏性腸症候群等が挙げられる。好ましくは炎症の発生部位が十二指腸から直腸までの腸疾患であり、さらに好ましくは、小腸または、大腸である腸疾患である。
【0048】
本発明の医薬組成物は、より優れた予防又は治療効果を提供するために、公知の疾患に対する医薬品と併用することができる。
食品組成物について
本発明の食品組成物は、上記の増殖促進剤を有効成分として含む。具体的には、上述したカゼイン組成物を有効成分として含み、食品として、許容される担体や添加剤と共にさまざまな食品の形態に調製することができる。
【0049】
このような食品の種類としては、特に限定されないが、例えば、菓子類(チューイングガム、風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣粒状ガムを含む);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレート、イチゴチョコレート、ブルベリーチョコレート等の風味を付加したチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、フィルム状キャンディー(可食性フィルム);ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子);パン類;スープ類(粉末スープ等を含む)等の各種食品;ドッグフード、キャットフード等の各種ペットフードが挙げられる。
【0050】
本発明の食品組成物は、上記の食品のほかに、栄養又は薬物の吸収を向上させることを目的とする健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品等の機能性食品として、本発明の食品組成物を調製することもできる。このような食品として調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態で調製することが望ましく、なかでもカプセル、錠剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0051】
カプセル、錠剤形態に調製した食品組成物は、上述した薬学的に許容される担体を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよく、その製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0052】
なお、特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)は、その包装容器等に、例えば、栄養又は薬物の吸収を向上させる効果がある旨表示する等、食品の機能・効果を示すことが可能な食品である。
【0053】
上述の食品、機能性食品等を調製するにあたり、通常用いられる補助的な原料や添加物と共に添加することができ、具体的には、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、マンニット、デキストリン、クエン酸、クエン酸ソーダ、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンC、ビタミンB類、ビタミンE、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、界面活性剤、色素、香料、保存剤等が挙げられる。
【0054】
本発明の食品組成物は、上述した医薬組成物の用途と同様に、胃ろう処置の後に直接体内へ投与することも可能である。
【0055】
本発明の食品組成物におけるカゼイン組成物の配合量は、食品又は薬物の吸収を向上させる範囲においては特に限定されることはなく、通常0.01〜99重量%程度、好ましくは0.1〜80重量%程度、より好ましくは0.1〜30重量%程度である。
【0056】
本発明の食品組成物は、上記食品添加剤として用いることも可能であり、上述の増殖促進剤を有効成分とするものである。具体的には、上述したカゼイン組成物を有効成分として含み、各種の食品に対して、添加剤として用いることによって、上述の食品組成物と同様に、食品又は薬物等の吸収を向上させる効果を付与するものである。
【0057】
食品添加剤を用いる際の添加量は、上述の効果を奏する範囲内においては特に限定されることは無いが、添加後の食品中において、通常0.01〜99重量%程度のカゼイン組成物が含まれるように添加することができ、好ましくは0.1〜80重量%程度、より好ましくは0.1〜30重量%程度である。
栄養又は薬物吸収向上剤について
本発明の栄養又は薬剤吸収向上剤(以下、吸収向上剤とする。)は、上記の増殖促進剤を有効成分として含む。具体的には、上述したカゼイン組成物を有効成分として含み、栄養吸収能の低下に伴う疾患、PEM(低タンパク症)、小人病等の予防若しくは治療効果を促進する助剤や、外科的手術後におきる栄養状態悪化による回復遅延に対して、予防若しくは回復を促進する助剤として使用することができる。
【0058】
本発明の吸収向上剤は、腸由来細胞の増殖促進剤を有効成分として含むために、特に小腸上皮絨毛組織における表面積が増大し、栄養や薬物の吸収能が上昇することによって、その効果を達成することができる。
【0059】
本発明の吸収向上剤は、本発明の効果が減殺されない範囲であれば、上述の医薬組成物、又は食品組成物の調製法に従って調製することができる。
【0060】
本発明の吸収向上剤は、上述した医薬組成物の用途と同様に、胃ろう処置の後に直接体内へ投与することも可能である。
【0061】
本発明の吸収向上剤におけるカゼイン組成物の配合量は、通常0.01〜99重量%程度、好ましくは0.1〜80重量%程度、より好ましくは1〜50重量%程度である
【実施例】
【0062】
以下、本発明に関して詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されないことは言うまでも無い。
ウシ初乳由来の各種成分の製造について
実施例にて用いるカゼイン組成物は、以下の手法によって製造した。初乳として、分娩後6,7日のウシ(ホルスタイン種)から搾乳した100Lの乳を原料とし、常法によりスプレードライで粉末化して11kgの脱脂粉乳を得た。
その後、塩酸を用いてpHを4.6に調整した蒸留水に懸濁後、15分放置して酸分画した。酸分画した初乳は、4℃の条件下で1500Gの力にて25分間、遠心工程に供し、固液分離を行った。液相を比較例のホエー画分として用い、3kgの固層成分を得た。得られたホエー画分及び、固形成分に対してフリーズドライ処理を施すことで、比較例に使用するホエー組成物9kgと本発明のカゼイン組成物2kgを得ることができた。
【0063】
また対照実験例となる常乳由来のカゼイン画分及びホエー画分は、分娩後8日以降のウシ(ホルスタイン種)から搾乳したものを原料とし、上述した酸分画法を用いてそれぞれ同様に作製した。
【0064】
実施例1
初乳由来のカゼイン組成物の小腸上皮細胞の増殖促進能
予め24時間培養したラット小腸由来細胞(IEC−6)を、1×10細胞/ウェルとなるように無血清ダルベッコ改変イーグル(DMEM;Dulbecco‘s Modified Eagle´s Medium)培地に播種し、上述した初乳由来のカゼイン組成物をそれぞれ1mg/ml、5mg/ml、10mg/mlとなるように培地に添加して24時間培養した。24時間の培養の後、WST−1を用いた方法によって培地中に含まれる生細胞の数を、WST−1キットを用いて測定した。なお、対照実験として常乳由来のカゼインと初乳由来のホエーをそれぞれ5mg/ml、10mg/ml培地に添加して24時間培養した後、同様の方法にて生細胞数を測定した。陽性対照実験として、5%のウシ胎児血清(Fetal calf serum;FCS)を含むDMEM培地で24時間培養したIEC−6細胞を、陰性対照実験としてはDMEM培地のみで24時間培養したものに含まれる生細胞数を同様にして測定した。その結果を図1に示す。
【0065】
初乳由来のカゼインは、1mg/ml、5mg/ml、10mg/mlと濃度依存的にIEC細胞に対して増殖促進能を有することが明らかとなった。また一般的な細胞増殖条件である、5%FCS存在下での培養条件とほぼ同等かそれ以上にIEC細胞に対して増殖促進能を有することが明らかとなった。
【0066】
実施例2
初乳由来のカゼイン組成物を経口投与した後の腸管組織への有用性
6週齢のBALB/cマウス(メス)を3匹用意し、予め1週間の予備飼育を行った。その後1週間にわたって、上述した初乳由来のカゼイン組成物をそれぞれ5mg/ml又は10mg/mlを自由摂取させることで投与し、1週間後にマウスから小腸を回収した。なお陰性対照実験として、水を自由摂取によって経口投与して小腸を回収した。回収した小腸は常法に従ってパラフィン切片を作製し、増殖細胞核に対して特異的に結合する抗PCNA抗体を用いて組織免疫染色に供した。また、同時にHE染色を行った。
【0067】
その結果、初乳由来のカゼイン組成物を経口投与した群のマウス小腸粘膜上皮組織における小腸陰窩に存在する細胞が、抗PCNA抗体に対して強く染色されていることが明らかとなった。常乳カゼイン、初乳ホエー及び水との効果を比較するために、抗PCNA抗体によって染色される細胞の数を定量した結果を図2に示す。図2に示される結果から、初乳由来カゼイン組成物を経口投与することによって、常乳カゼイン、初乳ホエーと比較して小腸上皮細胞の細胞増殖を顕著に促進する効果を有することが明らかとなった。
【0068】
また図3に示すように、初乳由来のカゼイン組成物を経口投与した群のマウスの小腸絨毛の長さは、陰性対象群よりも長くなる結果が得られた。さらに、初乳由来のカゼイン組成物は、初乳に含まれるホエー画分に対しても、常乳由来のカゼイン画分に対しても、有意に小腸絨毛の長さを伸長させるという結果が得られた。従って、初乳由来のカゼイン組成物は、腸由来細胞の増殖を促進させる効果を有することが明らかとなった。
【0069】
以上の結果から、初乳由来のカゼイン組成物は小腸絨毛組織における表面積を増大させることを示し、初乳由来のカゼイン組成物が通常の食物を摂取した際に、栄養分の吸収効果を高める、栄養吸収向上剤として用いることできる。また、栄養のみならず薬物の吸収向上効果も有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初乳を酸抽出して得られるカゼイン組成物を有効成分とする腸由来細胞の増殖促進剤。
【請求項2】
カゼイン組成物が、糖鎖の一部にN−アセチルラクトサミンを有するκ−カゼインを含むものである、請求項1に記載の増殖促進剤。
【請求項3】
腸由来細胞が、腸管上皮細胞である請求項1又は2に記載の増殖促進剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の増殖促進剤を有効成分とする栄養又は薬物吸収向上剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の増殖促進剤を有効成分とする食品組成物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の増殖促進剤を有効成分とする医薬組成物
【請求項7】
腸疾患に対する予防又は治療剤である請求項6に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−201842(P2011−201842A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73463(P2010−73463)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】