説明

腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子

【課題】腸管伝播性非A非B肝炎(ET−NANB)ウイルス由来のウイルスタンパク質、およびその断片からなる新規の組成物、ならびに該組成物の調製法および使用法の提供。
【解決手段】ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)中に存在する、1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する、腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子由来のタンパク質。該組換型ウイルスタンパクは、診断薬およびワクチンとして使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対するクロスリファレンス)
この出願は、1989年4月11日に提出された米国特許出願第336,672号の一部継続出願であり、後者は、1988年6月17日に提出された米国特許出願第208,997号の一部継続出願である。この両方の一部継続出願は、この明細書に組み込まれたものとする。
【0002】
(緒言)
(発明の分野)
この発明は、組換型タンパク、遺伝子および遺伝子プローブに関し、さらに詳細には、腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来するタンパクおよびプローブに関する。また、この発明は、該タンパクおよびプローブを使った診断法およびワクチンヘの応用に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
腸管伝播性非A非B(ET−NANB)肝炎ウイルス因子は、アジア、アフリカ、インド亜大陸にみられる何らかの流行性および散在性肝炎の原因と報告されている。感染は、一般に便の夾雑した水によって起こるが、ウイルスは、身体の密接な接触によっても伝播する可能性がある。しかし、そのウイルスが長期的な感染を引き起こすとは考えられない。ET−NANBにおける病因は、プールした便の分離物を使った志願者の感染によって示されてきた。また、免疫電子顕微鏡法(IEM)による研究では、感染者の便中に直径27〜34nmのウイルス粒子の存在が示された。このウイルス粒子は、地理的に隔たった地域の感染者からの血清抗体と反応するため、単独のウイルス、すなわち1種類のウイルスが、世界中に見られるET−NANB肝炎の大部分の原因であると示唆された。抗体反応は、血液伝播性非A非Bウイルスでの感染者の血清中には見られないため、2つの非A非Bタイプには異なった特異性のあることが指摘された。
【0004】
血清学的相異に加えて、非A非B感染の2つのタイプには、異なった臨床像が認められる。ET−NANBには、特徴的な急性の感染があり、しばしば発熱および関節痛を伴い、肝生検の検体での門脈の炎症および胆汁の鬱血が認められている(非特許文献1)。症状は、通常6週間以内に消失する。これとは対照的に、血液伝播性非A非Bは、約50%の症例に慢性感染をもたらす。この場合、発熱および関節痛の発現は稀であって、炎症は実質組織で顕著である(非特許文献6)。2種類のウイルスは、霊長類の宿主感受性を基準に区別することもできる。ET−NANBは、血液感染性ウイルスとは異なり、カニクイザルヘの伝播が可能である。血液伝播性ウイルスは、チンパンジーにET−NANBよりも一層容易に感染する(非特許文献3)。
【0005】
ET−NANB肝炎に関連したウイルスのゲノム配列を同定し、クローニングするために、世界中で多大の努力が払われてきた。この努力の一つの目標は、ウイルス特異的ゲノム配列の解明を目指し、ウイルスおよびその産生タンパクの性質を同定して特性を決定することである。もう一つの目標は、抗体診断法およびワクチンに使用できる組換型ウイルスタンパクを産生することである。そういった努力とは裏腹に、ET−NANB肝炎の関連ウイルスの塩基配列は、今まで同定およびクローニングされておらず、いかなるウイルス特異的タンパクも同定および産生されていない。
【0006】
【非特許文献1】V.A.アランカレら、The Lancet,(1988年3月12日)550
【非特許文献2】D.W.ブラッドレイら、J Gen.Virol.,(1988年)69:1
【非特許文献3】D.W.ブラッドレイら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,(1987年)84:6277
【非特許文献4】C.R.グラベラら、J.Infect.Diseases,(1975年)131:167
【非特許文献5】M.A.カーネら、JAMA,(1984年)252:3140
【非特許文献6】M.S.クーロー Am.J.Med,(1980年)48:818
【非特許文献7】M.S.クー口ーら、Am.J.Med.,(1983年)68:818
【非特許文献8】T.マニアチスら、Molecular Cloning:A Laboratory Manua1,Cold Spring Harbor Laboratory(1982年)
【非特許文献9】B.Setoら、Lancet,(1984年)11:941
【非特許文献10】M.A.m.スリーニバサンら、J.Gen.Viro1.,(1984年)65:1005
【非特許文献11】E.Taborら、J.Infect.Dis.,(1979年)140:789
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要約)
この発明は、ET−NANBウイルス因子由来のウイルスタンパクおよびその断片からなる新規の組成物、ならびに該組成物の調製法および使用法を提供する。ET−NANBウイルスタンパクの調製法は、ET−NANBゲノム配列の同定を含み、それに続いて、クローニングおよび宿主細胞注での発現が行われる。その結果得られた組換型ウイルスタンパクは、診断薬およびワクチンとして使用される。ゲノム配列およびその断片は、ET−NANBウイルスタンパクの調製に、およびウイルスの検出プローブとして使用される。
【0008】
本発明は、ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)中に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来するタンパクを提供する。
【0009】
好ましい実施態様において、上記タンパクは、前記1.33kbのEcoRI挿入片中のコード領域にてコードされている。
【0010】
本願発明はまた、以下の第1配列、第2配列、第3配列もしくは第4配列、またはそれらに相補的な配列をもった2本鎖DNAに相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来する組換型タンパク:
第1配列
【0011】
【化1】




【0012】
第2配列
【化2】




【0013】
第3配列
【化3】


【0014】
第4配列
【化4】


【0015】
本発明はまた、(a)腸管伝播性非A非B感染個体に存在する抗体と免疫反応性しそして(b)ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来するタンパクを提供する。
【0016】
好ましい実施態様において、上記タンパクは、前記1.33kb DNAのEcoRI挿入片中のコード領域にコードされる。
【0017】
本発明はまた、被験個体において腸管伝播性非A非Bウイルスの感染を検出する方法であって、(a)腸管感染性非A非B感染者に存在する抗体と免疫反応性しそして(b)ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来するペプチド抗原を用意すること、被験個体から得た血清を該抗原と反応させること、および該抗体を検出して、結合した抗体の存在を調べること、を含んでなる検出法を提供する。
【0018】
好ましい実施態様において、上記の検出法では、前記血清抗体がIgMもしくはIgG抗体または両者の混合物であり、用意される前記抗原が支持体に結合しており、前記反応が該抗体と該支持体との反応を含み、および前記検出が該支持体ならびに結合血清抗体とリポーター標識抗ヒト抗体との反応を含んでなる。
【0019】
本発明はまた、腸管伝播性非A非B肝炎感染の診断を下せる血清抗体の存在を確認するためのキットであって、(a)腸管感染性非A非B感染者に存在する抗体と免疫反応性しそして(b)のゲノムが、ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来する表面結合性組換型ペプチド抗原をもつ支持体、およびリポーター標識抗ヒト抗体を含んでなるキットを提供する。
【0020】
本発明はさらに、ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来するDNA断片を提供する。
【0021】
好ましい実施態様において、上記断片は、前記1.33kbのEcoRI挿入片に由来する。
【0022】
本発明はさらに、以下の第1配列、第2配列、第3配列もしくは第4配列、またはそれらに相補的な配列をもった2本鎖DNAに相同の領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来するDNA断片:
第1配列
【0023】
【化5】




【0024】
第2配列
【化6】




【0025】
第3配列
【化7】



【0026】
第4配列
【化8】


を提供する。
【0027】
好ましい実施態様において、上記DNA断片は、前記第1配列の2番目から101番目のヌクレオチド、前記第2配列の594番目から643番目のヌクレオチド、または前記コード配列に相補的配列と相同なコード配列を含む。
【0028】
本発明はまた、1つの容器または複数の容器に、ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kbDNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来する2本鎖DNAの対立鎖の相同領域に由来する一対の1本鎖プライマーを含むキットを提供する。
【0029】
好ましい実施態様において、上記キットのプライマーは、前記プラスミド中のEcoRI2本鎖挿入片の対立鎖に由来する。
【0030】
本発明はまた、生物試料中における腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子の有無を検出する方法であって、試料由来の2本鎖DNA断片の混合物を調製し、該2本鎖断片を変性させ、該変性DNA断片に、ATCC寄託第677l7号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来する2本鎖DNAの対立鎖の相同領域に由来する一対の1本鎖プライマーを添加し、腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子由来の2本鎖DNA断片の対立鎖の相同領域に前記プライマーをハイブリッドさせ、配列の増幅が目的の程度に達するまで、該プライマー断片鎖をDNAヌクレオチドの存在下でDNAポリメラーゼと反応させて、該プライマー配列を含む新たなDNA2本鎖を形成させ、そして前記の変性、添加、ハイブリッド、および配列の各工程を繰り返す、ことを含んで成る検出法を提供する。
【0031】
好ましい実施態様では、上記方法において、前記プライマーが、前記プライマー中のEcoRI挿入片2本鎖の対立鎖に由来する。
【0032】
別の好ましい実施態様では、上記方法は、前記ウイルス因子に感染した培養細胞試料中でウイルス因子の有無を検出するために使用される。
【0033】
本発明はさらに、腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に大して個体を免疫するワクチンであって、生理学的に許容性のあるアジュバントと、ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来する2本鎖DNAの対立鎖の相同領域に由来する組換型タンパクとを含んで成るワクチンを提供する。
【0034】
好ましい実施態様では、上記ワクチンは、前記タンパクが、前記プラスミド中のEcoRI挿入片に由来する。
【0035】
本発明はまた、腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子または該ウイルス因子によって産生された核酸断片を分離する方法であって、前記ウイルス因子源として、腸管伝播性非A非B肝炎に感染したヒトまたはカニクイザルから得られた胆汁を利用することを特徴とする分離法を提供する。
【0036】
好ましい実施態様では、上記方法において、胆汁が、感染したカニクイザルから得られる。
【0037】
本発明はさらに、ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来する2本鎖DNAの対立鎖の相同領域に由来するタンパクで免疫したヒトから得られるヒトポリクローナル抗血清を提供する。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、ET−NANBウイルス因子由来のウイルスタンパクおよびその断片からなる新規の組成物、ならびに該組成物の調製法および使用法が提供される。ET−NANBウイルスタンパクの調製法は、ET−NANBゲノム配列の同定を含み、それに続いて、クローニングおよび宿主細胞注での発現が行われる。その結果得られた組換型ウイルスタンパクは、診断薬およびワクチンとして使用される。ゲノム配列およびその断片は、ET−NANBウイルスタンパクの調製に、およびウイルスの検出プローブとして使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(特殊な態様の説明)
ET−NANBウイルス由来の遺伝子配列およびその断片からなる組成物、ならびに該ゲノム配列を使って産生した組換型ウイルスタンパクおよび該組成物の使用法が提供される。
【0040】
ET−NANBウイルス因子のゲノムは、ATCC寄託第67717号の大腸菌株BB4に担持される1.33kb DNAのEcoRI挿入断片と相同性のある領域を含むことが確かめられている。初期の研究では、この挿入断片の両末端領域および中間領域の配列が決定された。この挿入断片の5’末端領域は、以下の配列を含む:
【0041】
【化9】

【0042】
中間領域は以下の配列を有する:
【化10】


【0043】
3’−末端領域は次の配列を有する:
【化11】

【0044】
以下に述べるように、追加の研究から、両方向の全配列が提供された。どちらのDNA鎖に遺伝子が位置するか不明であるため、両方のDNA鎖の配列を提供する。しかし、既知のタンパクに統計的類似性がみられるため、一方向の配列を「順方向」配列と呼ばれている。この配列は、考え得る3つの翻訳配列と共に、以下に述べる。イソロイシンに対する145番目のヌクレオチドで始まり、配列未端に伸長する、1つの長鎖オープンリーディングフレームが存在する。その他の2つのオープンリーディングフレームには、多くの終止コドンがある。この明細書では、ヌクレオチドおよびアミノ酸に対する標準的な略号を使用する。
【0045】
【化12】





【0046】
この明細書で「逆方向配列」とした相補的鎖を以下に、上記で示した順方向配列と同じ方法で記載する。いくつかのオープンリーディングフレームは、順方向配列に見いだされた長鎖オープンリーディングフレームより短く、この逆方向方法配列も見いだされる。
【0047】
【化13】





【0048】
上記の配列を病原因子中の配列であるとする同定は、ビルマで分離されたウイルス株に相当する配列を決定することによって確認された。このビルマの分離株には、以下のヌクレオチド配列が含まれる。
【0049】
非A非BET:ビルマ株
【化14】


【0050】
この明細書で記載した方法が、その他のNANB肝炎株からの遺伝子物質を分離して同定する能力は、メキシコで得られた分離株からの遺伝子物質を同定することによって確認された。上記の分離株の配列は、前記のET1.1配列と75%の一致をみた。配列は、以下の第II.B節で述べる条件でのハイブリダイゼーションによって同定した。1611個のヌクレオチドからなるcDNAの部分的配列を以下に示す。
【0051】
非A非BET:メキシコ株
【化15】


【0052】
上記のビルマ株とメキシコ株とを比較すると、メキシコ株の13番目のヌクレオチドおよびビルマ株の331番目のヌクレオチドから始まる1372個のヌクレオチドに重複が認められている。
【0053】
分子遺伝学の技術者には、上記の2つの配列はどちらも、相対する相補的DNA配列、ならびに該主配列および相補的DNAの両方に対するRNA配列を開示する、ことが明らかである。また、ペプチドをコードするオープンリーディングフレームが存在しており、発現可能なペプチドは、アミノ酸配列を明言せず、上記のヌクレオチド配列によって開示される。それは、ET1.1配列の場合のように、あたかもアミノ酸が分かっているときと同様の方法で行われる。
【0054】
(発明の詳細な説明)
(第I節 定義)
以下に定義する用語は、次の意味をもつ。
【0055】
1.「腸管伝播性非A非B(ET−NANB)肝炎ウイルス因子」とは、(1)水系感染性肝炎を引き起こす、(2)カニクイザルで伝播可能である、(3)A型肝炎ウイルス(HAV)とは血清学的に区別される、および(4)ATCC寄託第67717号と同定された大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)中の1.33kb cDNAに相同なゲノム領域を含む、ウイルス、ウイルス型またはウイルス種をいう。
【0056】
2.2つの核酸断片が、ハイブリド鎖にせいぜい約25〜30%の塩基対のミスマッチが含まれるハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズ可能であれば、これらの断片は「相同」である。一般に、2つの短鎖核酸種が、マニアチスら(op.cit.,pp.320−323)記載の条件下で、洗浄操作〔2×SCC, 0.1%SDS、室温で2回各30分 ; 2×SCC, 0.1%SDS,50℃で1回30分; 2×SCC,0.1%SDS、室温で2回各10分〕に従ってハイブリダイズすれば、これらの核酸は相同といえよう。相同核酸鎖が15〜25%の塩基対のミスマッチを含むものであれば尚好ましく、それが5〜15%であれば更に好ましい。これら相同性の程度は、当該技術で周知のように、遺伝子ライブラリー(またはその他の遺伝子材料源)の洗浄条件を変えることによって、選定可能である。
【0057】
3.DNA断片は、それがET−NANBウイルス因子ゲノムと同一または実質的に同一の塩基対をもてば、そのウイルス因子に「由来」する。
【0058】
4.タンパクは、それがET−NANBウイルス因子からのDNAまたはRNAのオープンリーディングフレームにコードされていれば、そのウイルス因子に「由来」する。
【0059】
(第II節 クローニングET−NANB断片の採取)
この発明の一態様に従えば、ウイルス特異的DNAクローンは、(a)既知のET−NANB感染症にかかったカニクイザルの胆汁からRNAを分離する、(b)cDNA断片をクローニングして断片のライブラリーを作成する、および(C)感染または非感染胆汁源から得られた放射能標識cDNAに対する識別ハイブリダイゼーションによってライブラリーをスクリーニングする、ことによって産生可能である。
【0060】
(A)cDNA断片混合物
カニクイザルでのET−NANB感染は、この動物に感染症のヒト(27〜34nmET−NANB粒子−平均粒径32nm−陽性)の便から得られた10容量%懸濁液を静脈接種することによって始まる。感染した動物は、アルカリ性アミノトランスフェラーゼのレベル上昇を監視し、肝炎感染を調べる。ET−NANB感染は、既法(グラベレ)に従って、血清学的陽性の抗体の免疫特異的結合を調べることによって確認される。すなわち、感染3〜4週後に感染動物から得られた便(または胆汁)検体をリン酸緩衝液で10倍に希釈し、この10%懸濁液を低速遠心で清澄化してから、1.2および0.45ミクロンのフィルターを通して濾過する。材料は、30%ショ糖層を通してペレット化することによって更に精製が可能である(ブラッドレイ)。一晩のインキュベーションの後、混合物を一晩遠心して免疫凝集体をペレット化し、これらを染色して、VLP結合抗体を電子顕微鏡で検鏡する。
【0061】
また、ET−NANB感染は、VLP陽性血清のセロコンバージョンによっても確認できる。ここで、感染動物の血清は、感染症にかかったヒトの便検体から分離した27〜34nmVLPで上記のように混合し、免疫電子顕微鏡法によってVLPに結合する抗体を調べる。
【0062】
胆汁は、胆管への挿管および胆汁の採取、または剖検中の胆管ドレナージによって採取することができる。全RNAは、実施例1Aで概説するように、熱フェノール抽出によって胆汁から抽出される。RNA断片は、やはり実施例1Aで概説するように、ランダムプライミングによって相当の二重鎖cDNAを合成するために使用する。cDNAは、ゲル電気泳動または密度勾配遠心によって分画して、目的サイズの断片(すなわち、500〜4,OOO塩基対断片)を得ることができる。
【0063】
便検体(実施例4記載)から得られるVLPなど、別のウイルス材料もcDNAを産生するのに使用できるが、胆汁源が好ましい。この発明の一態様に従えば、ET−NANB感染のサルから得られる胆汁には、免疫電子顕微鏡法で判明するように、便試料から得られる材料より、多数の完全なウイルス粒子数が認められることが分かった。ET−NANB感染ヒトまたはカニクイザルから得られる胆汁(ET−NANBウイルスタンパクまたはゲノム材料源として利用するため)、または完全なウイルスは、この発明の一部をなす。
【0064】
(B)cDNAライブラリーおよびスクリーニング
上記で得られるcDNA断片を適当なクローニングベクターにクローニングし、cDNAライブラリーを形成する。これは、断片の平滑末端に、EcoRI配列などの適当な末端リンカーをつなげ、ユニークなEcoRI部位でのようにクローニングベクターの適当な挿入部位に断片を挿入することができる。最初のクローニングの後、必要に応じて、断片の挿入片を含むベクターの割合を増加させることもできる。実施例1Bに記載したライブラリーの作成は、一例である。ここでは、cDNA断片が平滑末端であって、EcoRI部位につなげ、λファージベクターのEcoRI部位に挿入する。ライブラリーファージは、挿入断片の5%未満であって、これを単離して、断片挿入片をλgt10ベクターに再クローニングすると、95%以上の挿入片含有ファージが産生される。
【0065】
cDNAライブラリーは、感染または非感染源由来のcDNAプローブでの識別的ハイブリダイゼーションによって、ET−NANB特異的配列に対してスクリーニングする。感染または非感染源の胆汁または便の分離物から得られるcDNA断片は、上記のように調製することができる。断片の放射能標識は、従来法(マニアチス、p.109)に従った、ランダムラベッリング、ニックトランスレイションまたはエンドラベッリングによるものである。cDNAライブラリーは、実施例2で説明するように、2組のニトロセルロースフィルターへのトランスファー、ならびに感染源および非感染源(対照)の放射能標識プローブでのハイブリダイゼーションによってスクリーニングする。塩基対ミスマッチの好ましい上限値25〜30%でハイブリドするために、マニアチスら(op.cit.,pp.320−323)記載の条件下で、かつ洗浄条件〔2×SCC,O.1%SDS、室温で2回各30分;2×SCC,0.1%SDS,50℃で1回30分;2×SCC,O.1%SDS、室温で2回各10分〕に従ってハイブリダイズするか否かを調べて、クローンを選択する。これらの条件によれば、プローブにET1.1を使うことによって上記のメキシコ分離物の同定が可能である。感染源プローブに対する選択的ハイブリダイゼーションを示すプラークは、低プレート濃度で再プレーティングすることが好ましく、ET−NANB配列にスペクトラムな単独クローンを分離する。実施例2で示されるように、感染源プローブと特異的にハイブリッドする16個のクローンは、一連の手順を踏んで同定された。これらクローンの1つは、λgt101.1と命名され、1.33kbの挿入断片を含むものである。
【0066】
(C)ET−NANB配列
(B)からのET−NANB断片のクローニング領域の塩基配列を、標準的な配列決定法によって決定する。実施例3に記載した1例では、選ばれたクローニングベクターからの挿入断片を切り出し、これを挿入部位の片側の塩基配列が未知のクローニングベクターに挿入する。実施例3で使用する特定のベクターは、図1の左側に示すpTZ−KF1ベクターである。λgtl01.1ファージからのET−NANB断片は、pTZ−KF1プラスミドのユニークなEcoRI部位に挿入した。目的の挿入片をもつ組換体は、実施例3に記載したように、分離した1.33k断片とのハイブリダイゼーションによって同定した。ある選ばれたプラスミドは、pTZ−KF1(ET1.1)と同定され、ベクターをEcoRIで消化したのち、予想どうり1.33kb断片を生じる。
【0067】
pTZ−KF1(ET1.1)プラスミドを感染させた大腸菌BB4株は、アメリカ基準培養コレクション(ロックビル,メリーランド州)に寄託され、ATCC寄託第67717号と同定された。
【0068】
pTZ−KF1(ET1.1)プラスミドを図1の下に例示する。この挿入片は、それぞれAおよびBと命名した5’末端領域および3’末端領域、ならびにBと命名した中間領域をもつ。上記のこれら領域は、標準的なジオキシ法によって塩基配列の決定を行う。3つの短い配列(A,BおよびC)は、同一の挿入片鎖のものである。実施例3にみられるように、B領域の配列は、実際には、対立鎖から決定されたものなので、上記のB領域配列は、配列決定された鎖の相補的配列である。部分配列の塩基数は、おおよその値である。
【0069】
発明者らのその後の研究では、上記のように、完全な配列が同定された。この全配列の各断片は、制限エンドヌクレアーゼを使って容易に調製することができる。順方向と逆方法配列の両者のコンピュータ解析によって、多数の切断部位が同定された。特異的切断部位(順方向に)を以下の表に示す。
【0070】

【表1】


【0071】
(第III節 ET−NANB断片)
別の態様によれば、この発明は、ET−NANBゲノム配列またはそれ由来のcDNA断片を含む。これら断片は、第II節で記載したような完全な長さのcDNA断片を含むこともあり、クローニングされたcDNA断片中の短配列領域由来の場合もある。短かい断片は、目的のサイズの断片を生じる条件下で完全な長さの断片を酵素的に消化することによって調製できる。これは第IV節に記載する。また、断片は、cDNA断片由来の配列を使って、オリゴヌクレオチド合成法によって調製することもできる。特定配列のオリゴヌクレオチド断片を調製する方法または機関も利用できる。
【0072】
あるET−NANB断片が実際にET−NANBウイルス因子に由来することを確かめるために、断片が感染源由来のcDNAと選択的にハイブリッドすることが示される。例を挙げると、pTZ−KF1(ET1.1)プラスミドの1.33kb断片がET−NANB起源であることを確認するには、断片をpTZ−KF1(ET1.1)から切り出して精製し、ランダムラベリングによって放射能標識した。放射能標識した断片は、感染または非感染源からの分画cDNAとハイブリッドさせ、プローブが感染源cDNAとのみ反応することを確かめた。この方法を実施例4に示すが、これでは、pTZ−KF1(ET1.1)プラスミドからの放射能標識1.33kb断片が、感染および非感染源から調製したcDNAと結合するか否かを調べた。感染源は、(1)既知のET−NANB感染症にかかているビルマの患者の便試料由来のウイルス株を感染させたカニクイザルからの胆汁、および(2)メキシコのET−NANB感染者の便試料由来のウイルス因子、である。各断片混合物中のcDNAは最初に、実施例4に記載したリンカー/プライマー増幅法によって増幅した。断片の分離は、アガロースゲル上で、続いてサザン法で、さらに分画cDNAに対するハイブリダイゼーションによって行った。感染源からのcDNAを含む列は、予想どうり、結合プローブの塗抹バンドを示した(リンカー/プローブ増幅法によって増幅させたcDNAは広範囲のサイズを有することが予想された)。非感染源からの増幅cDNAに結合したプローブは認められなかった。この結果から、1.33kbプローブは、ET−NANB感染に関連したcDNA断片に特異的であることが分かる。これと同じタイプの研究では、ET1.1をプローブにして、タシュケント、ソマリア、ボルネオおよびパキスタンから集めたET−NANB試料に対するハイブリダイゼーション傾向が示された。第二に、そのプローブが様々な大陸(アジア、アフリカおよび北アメリカ)由来の、ET−NANB関連配列に特異的である事実から、クローニングされたアフリカからのET−NANB配列が、一般的なET−NANBウイルス(すなわち、全世界的なET−NANB肝炎感染症の原因となるウイルス種)由来であることが分かる。
【0073】
関連の確認的研究では、ヒトまたはアカゲザルのゲノムDNAから調製された分画ゲノム断片に対するプローブの結合が調べられた。プローブの結合は、どちらのゲノム断片に対しも認められず、これは、ET−NANB断片がヒトまたはアカゲザルの内因性断片ではないことを示している。
【0074】
断片中のET−NANB特異的配列の別の確認手段は、断片中のコード領域から得られるET−NANBタンパクを発現能である。以下の第IV節では、断片を使ったタンパクの発現法を考察する。
【0075】
ET−NANB特異的断片の一つの重要な使用法は、配列のその他の情報を含むET−NANB由来cDNAを同定することである。新たに同定されたcDNAは、続いて、新しい断片プローブを生じ、全ウイルスゲノムが同定され配列決定されるまで一層の反応を可能にする。さらに別のET−NANBライブラリーのクローンを同定する手順、およびそれから新しいプローブを生み出す手順は、第II節に記載したクローニングおよび選択の後に行われる。
【0076】
断片(および下記の配列に基づいて調製されたオリゴヌクレオチド)も、患者のET−NANBゲノム材料を検出する、ポリメラーゼ鎖反応法のプローブとして有用である。この診断法は、以下の第V節に記載されよう。
【0077】
(第IV節 ET−NANBタンパク)
上記のごとく、ET−NANBタンパクは、ET−NANB断片でオープンリーディングフレーム領域を発現させることによって調製が可能である。一つの好ましい態様では、タンパクの発現に使われるET−NANB断片が、目的のサイズの断片、好ましくは、主要なサイズが約100ないし300塩基対の間にあるランダム断片を生じる処理を行ったクローニングcDNA由来である。実施例5では、DNA消化による断片の調製法を記載する。アミノ酸数が約30ないし100のペプチド抗原を得ることが好ましいので、消化断片は、約100ないし300塩基対範囲のものを、例えばゲル電気泳動でサイズ的に分画することが望ましい。
【0078】
(A)発現ベクター
ET−NANB断片を、適当な発現ベクターに挿入する。代表的な発現ベクターは、λgt11であって、これは、β−ガラクトシダーゼ遺伝子の翻訳終始コドン上流のユニークなEcoRI挿入部位53塩基対を含む。こうして、挿入された配列は、β−ガラクトシダーゼのN末端遺伝子、ヘテロペプチド、および任意にβ−ガラクトシダーゼペプチドのC末端(C末端部分は、配列をコードするヘテロペプチドが翻訳終始コードをもたないとき発現される)。このベクターも、許容温度(例えば、32℃)ではウイルスを溶原性とし、高温(例えば、42℃)ではウイルスを溶解させる温度感受性レプレッサー(c1857)を産生する。さらに、ヘテロ挿入片を含む不活性β−ガラクトシダーゼを産生させるので、挿入片をもったファージはβ−ガラクトシダーゼ呈色−基質反応によって容易に同定することができる。
【0079】
発現ベクターへの挿入では、ウイルスの消化断片は、必要に応じて、従来の方法に徒ってEcoRIリンカーなどの特定制限部位リンカーを含めるために、修飾することもできる。実施例1では、λgt11へ消化断片をクローニングする方法を例示するが、これには、断片を平滑末端にする工程、EcoRIリンカーで連結する工程、およびその断片をEcoRIで切り出したλgt11中に導入する工程が含まれる。得られたウイルスゲノムのライブラリーを調べて、比較的大きな(代表的な)ライブラリーを産生されることを確認することもできる。これは、λgt11ベクターの場合、適当な細菌宿主を感染させ、その細菌をプレートにまいて、プラークでβ−ガラクトシダーゼ活性の喪失を見いだすことによって実施できる。実施例1に記載した方法を使うと、約50%のプラークに酵素活性の喪失が認められた。
【0080】
(B)ペプチド抗原の発現
上記で作成したウイルスゲノムのライブラリーは、ET−NANB血清型陽性の患者からの抗血清と免疫反応するペプチド抗原(融合タンパクとして発現)の産生に対して、スクリーニングする。好ましいスクリーニング法では、ファージライブラリーのゲノムを上記のようにプレートにまき、このプレートをニトロセルロースフィルターでブロットし、細胞によって産生された組換型タンパク抗原をニトロセルロースフィルター上に移し取る。続いて、このフィルターをET−NANB抗血清と反応させ、未結合抗体を除くために洗浄して、レポーター標識抗ヒト抗体と反応させる。サンドイッチ法では、この抗体は、抗ET−NANB抗体を介してフィルターに結合させる。
【0081】
一般に、目的の組換型抗原の産生を調べて同定されるファージのプラークは、抗体反応性融合タンパクの産生に関して比較的低濃度で再検査する。免疫反応性組換型抗原を産生する何個かの組換型ファージのクローンが、この方法で同定された。
【0082】
選ばれた発現ベクターは、組換型タンパクの精製を目的として、大量産生用に使用することもできる。大量産生は、(a)大腸菌などの適当な宿主をλgt11組換体で溶原化する、(b)高レベルのヘテロベプチドを産生する条件下で導入細胞を培養する、および(c)溶解した細胞から組換型抗原を精製する、様々な既法の一つを使って行われる。
【0083】
上記のλgt11クローニングベクターに関する、ある好ましい方法では、高生産性の大腸菌宿主BNNl03に所定のライブラリーを感染させ、レプリカを2枚のプレートにとる。このプレートの1枚はウイルスの溶原性が生じる32℃で培養し、もう1枚は、感染ファージが溶菌状態であって細胞増殖を抑制する42℃で培養する。従って、低温で増殖するが高温では増殖しない細胞が、巧みに溶原化すると考えられる。
【0084】
続いて、溶原化した宿主細胞は、ウイルス挿入片を含む融合タンパクの高産生に有利な条件下で増殖させ、急速凍結によって溶解して、目的の融合タンパクを放出させる。
【0085】
(C)ペプチドの精製
組換型ペプチドは、標準的なタンパク精製法、例えば、分別沈澱、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、等電点フォーカシング、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィーなどによって精製することができる。上記で調整したβ−ガラクトシダーゼ融合タンパクなどの融合タンパクの場合、使用するタンパク分離技術は、もとのタンパクの分離に使われているものからの応用が可能である。こうして、β−ガラクトシダーゼ融合タンパクの分離には、このタンパクを、簡単なアフィニティークロマトグラフィー(表面結合性の抗β−ガラクトシダーゼ抗体をもつ固体担体上に細胞溶解物を通過させる方法)によって容易に分離することができる。
【0086】
(D)ウイルスタンパク
この発明のET−NANBは、ET−NANBウイルス因子から直接由来するものでもよい。上記のごとく、感染者の便試料から分離したVLPは、ウイルスタンパクの適切な材料源である。便試料から分離したVLPは、タンパク分離に先立って、クロマトグラフィーによって一層精製することができる(以下参照)。ウイルス因子はまた、培養細胞中で発現し、これが、都合のよいウイルスタンパク濃縮源となる可能性がある。
【0087】
1986年4月1日に出願さた共有の米国特許第846,757号には、培養細胞中でNANB感染を支える永久分裂性のトリオーマ(trioma)肝細胞が記載されている。トリオーマ細胞系は、ヒト染色体の安定性に着目して選択した。マウス/ヒト融合細胞とヒト肝細胞を融合することによって調製される。目的のNANBウイルス因子を含む細胞は、抗ET−NANBヒト抗体を使った免疫蛍光法によって同定することができる。
【0088】
ウイルス因子は、タンパクの分離に先立って、従来法(超音波処理、高濃度もしくは低濃度の塩処理、または界面活性剤の使用)によって破砕する。
【0089】
ET−NANBウイルスタンパクの精製は、標準法で結合させた抗ET−NANB抗体を使ったアフィニティークロマトグラフィーによって実施することができる。免疫血清源からの抗ET−NANB抗体の分離には、上記のような免疫反応性の組換体ET−NANBタンパクを固体支持体に結合させるアフィニティークロマトグラフィーによって抗体自体を精製することもできる。結合抗体は、標準的な方法によって支持体から放出する。
【0090】
また、抗ET−NANB抗体は、組換型ET−NANBタンパクでマウス、その他の動物を免疫すること、動物から得られるリンパ球を分離して細胞を適当な融合細胞で永久分裂性を獲得させること、および組換体タンパク免疫原と反応する融合タンパクを選択することによって調製したモノクローナル抗体(Mab)であってもよい。次に、これらは、上記のごとく、アフィニティークロマトグラフィーで精製して、もとのET−NANB抗原を得ることもできる。
【0091】
(第V節 利用法)
(A)診断法
この発明の粒子および抗原、ならびに遺伝子材料は、診断法に使用することができる。ET−NANB肝炎の罹患を検査する方法は、ET−NANB肝ウイルスの関連被検体の存在に対して、血液試料、便試料、肝生検検体などの生物試料を解析するものである。
【0092】
この被検体は、少なくとも約16個のヌクレオチド(通常、30〜200ヌクレオチド)から実質的には上記の塩基配列(cDNA)の全配列までの配列からなるプローブとハイブリドするヌクレオチド配列の場合もある。被検体は、RNAまたはcDNAでもよい。一般に、被検体はET−NANBまたは分類不能な粒子の存在が疑われるウイルス粒子である。さらに、このウイルス粒子の特徴は、上記の「順方向」および「逆方向」配列の少なくとも12個連続したヌクレオチド配列に少なくとも約80%相同な配列(一般には、配列中で少なくとも約60個連続したヌクレオチドに少なくとも90%相同なヌクレオチド配列)からなるRNAウイルスゲノムを持つことであるが、このウイルス粒子は、全長の配列に実質的に相同な配列を含むこともある。プローブにハイブリドする被検体を検出するには、プローブが検出可能な標識を含む場合もある。
【0093】
この被検体はまた、ET−NANB上にある、細胞表面抗原などの抗原を認識する抗体からなることもある。さらに、被検体は、ET−NANBウイルス粒子でもあり得る。被検体が抗体または抗原である場合、それぞれ標識した抗原または抗体のどちらかを、被検体に結合させて免疫複合体を形成させることが可能であって、これらは、標識を介して検出される。
【0094】
一般に、被検体(表面抗原および/または全粒子など)の検出法は、イムノアッセイに基づいている。イムノアッセイは、ET−NANB肝炎ウイルス感染によって形成された宿主の抗体を測定して行うか、ウイルス粒子または抗原の存在を直接測定する検出法によって行うことができる。こういった手法は既知であって、ここで詳細に記載する必要はない。例えば、ヘテロおよびホモイムノアッセイ法の両者が可能である。両方の手法は、ウイルス粒子またはウイルス抗原と相当する特異的抗体との間の免疫複合体の形成に基づくものである。ウイルス抗原用のヘテロ検出法では一般に、固体表面に結合した特異的モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体が使われる。サンドウッチ法は次第に人気が高まっている。ホモ検出法は、固相を必要とせず、例えば、酵素−抗原結合体への遊離抗体の結合によって生じる酵素活性の差を測定することによって溶液中で行われる。適切な多数の検出法が、米国特許第3,817,837号、第4,006,360号、第3,996,345号に開示されている。
【0095】
ET−NANBウイルスによって誘導された抗体の存在を検定する場合、この発明のウイルスおよび抗原は、IgGおよびIgM抗体のどちらかを検出する特異的結合因子として使用することができる。IgM抗体は、感染の経過中現れる最初の抗体であるので、IgG合成が開始されないうちは、宿主の血中に存在するIgGとIgMとを識別することで、内科医、その他の研究者は感染が急性か慢性かを判定できよう。
【0096】
ある診断法では、試験血清を、表面結合性タンパク抗原を有する固相試薬と反応させる。抗ET−NANB抗体を試薬に結合させ、洗浄によって未結合成分を除去してから、試薬をリポーター標識抗ヒト抗体と反応させ、固体担体上で結合した抗ET−NANB抗体の量に比例してリポーターが試薬に結合する。試薬を再び洗浄して未結合標識抗体を除去し、試薬に結合したリポーターの量を測定する。通常、リポーターは、適当な蛍光または呈色性基質の存在下で固相をインキュベーションすることによって検出される酵素である。
【0097】
上記検出法での固体表面試薬は、重合体ビーズ、ディップスティック、フィルター材料などの固体支持体材料にタンパク物質を結合させる既知の方法によって調製される。これらの結合法には、通常、支持体へのタンパクの非特異的吸着、または一般に遊離アミノ基を介して、活性化カルボキシル基、水酸基もしくはアルデヒド基などの固体支持体上の化学的反応基へのタンパクの共有結合が挙げられる。
【0098】
ホモ検出法として知られる二番目の診断法では、固体支持体に結合する抗体が、培地中で直接検定可能な、反応培地中の変化をもたらす。前記ホモ検定法の一般的なタイプでは、(a)抗原結合性抗体が報告されている移動度の変化(スピン分裂ピークの広域化)によって検出されるスピンラベルリポーター、(b)結合が蛍光効率の変化によって検出される蛍光リポーター、(C)抗体結合が酵素/基質相互作用を起こす酵素リポーター、および(d)結合がリポソームの溶解およびカプセル化リポーターの放出につながるリポソーム結合性リポーター、が含まれる。ホモ検出法試薬の調製のための従来法に続いて、この発明のタンパク抗原に対する一連の方法を適用する。
【0099】
上記の各検出法では、それらに、被験者からの血清をタンパク抗原と反応させる工程、および結合抗体の存在を抗原で調べる工程が関与してもよい。検査には、第1の方法のように、被検抗体(急性期でのIgM、または回復期でのIgG)に対する標識抗ヒト抗体を反応させる工程、および固体支持体に結合するリポータの量を測定する工程が関与してもよい。また、第2の方法のように、ホモ検定法試薬上での抗体結合の効果を観察する工程が関与してもよい。
【0100】
さらに、この発明を構成する一部は、上記に記載した検定法を実施するための検定系またはキットである。キットは一般に、表面結合性の組換型タンパク抗原を持った支持体を含むが、この抗原は、(a)腸管経由感染性非A非Bウイルス因子による感染者に存在する抗体に免疫反応性を示して、(b)ウイルス肝炎因子のゲノムが、大腸菌BB4(ATCC寄託第67717号)に担持されるプラスミドKF1(ET1.1)に存在する1.3kbのDNA EcoRI挿入片に相同な領域を含む、そのウイルス肝炎因子由来である。キットのリポーター標識抗ヒト抗体は、表面結合性抗ET−NANB抗体を検出するために使われる。
【0101】
(B)ウイルスゲノム診断法の応用
この発明の遺伝子材料はこれ自体、天然に存在する感染物中の遺伝子材料用のプローブとして様々な検定に使用することができる。標的核酸のある増幅法は、ハイブリダイゼーション法による後の解析であるが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)として知られている。このPCR法は、感染の疑わしい試料でこの発明のウイルス粒子の検出に応用することができる。その検出は、互いに離れたオリゴヌクレオチドプライマーが使われ、上記の遺伝子配列に基づいている。これらのプライマーは、2本鎖DNA分子の反対方向の鎖に相補的であって、約50〜450以上のヌクレオチド(通常、2000ヌクレオチド以下)で隔てられている。この方法では、特異的オリゴヌクレオチドプライマーの調製し、標的DNAの変成の反復サイクルおよびDNAポリメラーゼでの伸長が行われ、プライマーのスペーシングを基準とする予想断片が得られる。あるプライマーから生じた伸張産物は、他のプライマー用の標的配列の役割を兼ねる。標的配列の増幅の程度は、サイクルの反復回数によって調節され、理論的には、単純式2n(nは、サイクル数)によって計算する。1サイクル当たりの平均効率が約65%ないし85%の範囲であれば、25サイクルで0.3ないし4.8万回の標的配列コピーが生じる。PCR法は、多数の出版物〔サイキら、Science(1985)230:1350−1354;サイキら、Nature(1986)324−163−166;およびシャーフら、Science (1986)233:1076−1078など〕に記載されている。米国特許第4,683,194号、第4,683,195号、および第4,683,202号も参照。
【0102】
この発明には、ET−NANB断片の選択的増幅に基づく、ET−NANBウイルス因子を決定するための特異的診断法が含まれる。この方法では、2本鎖断片の対立鎖の非相同領域由来の1本鎖対プライマーが用いられる。なお、この2本鎖断片は、腸管感染性ウイルス肝炎因子由来であって、この因子のゲノムは、大腸菌BB4株(ATCC寄託第67717号)に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含む。これらのプライマー断片は、この発明の一つの態様をなすが、上記第III節に記載したようなET−NANB断片から調製される。この方法に続いて、上記の米国特許第4,683,202号に記載されているような特定の核酸配列を増幅する方法が行われる。
【0103】
(C)ペプチドワクチン
この発明のどの抗原も、ワクチンの調製に使用することができる。ワクチン調製用の好ましい出発物質は、胆汁から分離した粒子状の抗原である。これらの抗原は、最初、上記のような完全な粒子として回収することが好ましい。しかし、他の起源または非粒子の組換型抗原から分離した粒子で適切なワクチンを調製することも可能である。非粒子の抗原を使う場合(一般には可溶性抗原)、ウイルスのエンベロープまたはキャプシドをワクチンの調製に使用することが好ましい。これらのタンパクは、アフィニティークロマトグラフィーによって精製できる(上記参照)。
【0104】
この精製タンパクがそれ自体で免疫性を持たなければ、これを担体に結合させてタンパク免疫原とすることもできる。これら担体には、ウシ血清アルブミン、キーホール・リンピット(keyhole limpet)のヘモシアニンなどが含まれる。常にではないが、実質上ヒトのタンパクを含まない抗原を精製することが望ましい。しかし、抗原類は、タンパク、ウイルス、その他のヒト起源でない材料を含まないことがより重要である。これらは、栄養培地、細胞系、またはウイルスが培養および収穫される病原液から導入されるか、それらの夾雑によって導入される場合がある。
【0105】
ワクチン接種は、従来の方法によって実施できる。例えば、抗原は、ウイルス粒子かタンパクかによらず、水、生理食塩水、塩添加緩衝液、完全または不完全アジュバントなどの適当な希釈物中に混合して使用することができる。免疫源は、抗体誘導の標準法を用い、不活化または弱毒化されたウイルス粒子または抗原を含む生理学的適合性のある滅菌溶液を皮下注射するなどして、投与される。免疫反応を起こすウイルス粒子の量は、通常、1ml以下の容量のワクチン注射で投与される。
【0106】
ワクチン組成物の特殊な例としては、生理学的に許容し得るアジュバントに混合した、腸管感染性非A非Bウイルス肝炎因子由来の組換型タンパクまたはタンパク混合物が挙げられる。これには、大腸菌BB4株(ATCC寄託第67717号)に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域が含まれる。ワクチンは、ET−NANBの有為な力価が血清中に検出されるまで、周期的に投与する。このワクチン投与は、ET−NANB感染を予防するためである。
【0107】
(D)予防および治療を目的とする抗体および抗原
ワクチンとしての使用に加えて、上記の組成物は、ウイルス粒子に対する抗体を調製するために使うことができる。抗体を調製するには、宿主の動物をウイルス粒子で免疫処置するか、必要に応じて、ウイルス粒子のもとの非粒子抗原を上記のようにワクチン用の担体に結合させる。宿主の血清または血漿を適当な時間間隔をおいて採取すると、ウイルス粒子に反応性の抗体を含む組成物が得られる。IgG分画またはIgG抗体は、例えば、飽和NH4S04またはDEAEセファッデクスの使用するか、または当該分野の技術者に既知の方法を使って、得られる。これらの抗体には、薬剤などの他の抗ウイルス因子が関連し得る多数の副作用が実質上ない。抗体組成物は、起こり得る副作用の免疫系応答を最小限にすることによって、宿主系との適合性をより高めることができる。これは、異種抗体のFc領域の全部もしくは一部を除去するか、または宿主動物と同種の抗体の使用(例えば、ヒト/ヒトハイブリドーマの使用によって、実施される。
【0108】
また、抗体/ウイルス複合体がマクロファージによって認識されるので、抗体は、免疫応答を高める手段としても使用できる。これらの抗体は、その他、抗体の治療用投与に使われる量と類似の量で投与することができる。例えば、プールしたIgGは、狂犬病、はしか、B型肝炎など他のウイルス疾患の初期潜伏期に体重1ポンド当たり0.02〜0.1mlで投与し、ウイルスが細胞内に入るのを阻止する。従って、ET−NANBに反応性の抗体は、ET−NANBウイルスに感染した宿主に単独またはその他の抗ウイルス因子と組み合わせて受動的に投与し、抗ウイルス薬の免疫応答および/または効果を高めることができる。
【0109】
また、抗ET−NANB抗体は、免疫原として抗イディオタイプ抗体を投与することによって調製できる。好都合なことに、上記のように調製した、抗ET−NANBウイルス抗体調製物を使って、宿主動物に抗イディオタイプ抗体を誘導する。組成物は、適当な希釈剤に溶かして、宿主の動物に投与する。この投与(通常は反復的投与)の後、宿主は、抗イディオタイプ抗体を産生する。Fc領域に対する免疫応答を除去するために、宿主と同種の動物によって産生された抗体を使用するか、投与抗体のFc領域を除くことができる。宿主動物における抗イディオタイプ抗体の誘導後、血清または血漿を除いて、抗体組成物が出来る。この組成物は、上記のように抗イディオタイプ抗体の精製をするか、アフィニティーマトリックスに結合した抗ET−NANBウイルス抗体を使ったアフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。産生された抗イディオタイプ抗体は、本来のET−NANB抗原とコンホーメイションが類似しており、ET−NANB粒子抗原の直接使用ではなく、ET一NANBワクチンを調製するのに使用される。
【0110】
患者に抗ET−NANBウイルス抗体を誘導する手段として使用する場合、ワクチン用に抗体を注射する方法は、筋肉内、腹腔内、皮下などで同じであって、アジュバントの有無にかかわらず、生理学的に適切な希釈剤中に溶かした有効濃度で投与される。1種類または2種類以上のブースターの注射が望ましい。抗ET−NANBウイルス抗体誘導の抗イディオタイプ法は、抗ET−NANBウイルス抗体の受動投与によって引き起こされることがある問題、例えば、副作用の免疫応答、および未発見ウイルスの感染といった精製血液成分の投与との関連問題を緩和し得る。
【0111】
さらに、この発明のET−NANB由来タンパクは、ウイルス暴露前または後の予防用抗血清の産生に使用されることがある。ここでは、ET−NANBタンパクまたはタンパクの混合物が、適当なアジュバントとともに調剤され、ヒト抗血清の既知の産生法に従って志願者に投与される。投与タンパクに対する抗体の応答は、免疫処置に続く数週間監視されるが、これは、第IIA節に記した通り、血清の周期的な採取で抗ET−NANBウイルス抗体の存在を検出することによって行われる。
【0112】
免疫処置から患者からの抗血清は、接触感染の危険にさらされている人達への暴露前の予防的方法として投与することができる。抗血清は、B型肝炎ウイルスの暴露後の発症予防に対する高力価抗血清の使用に類似した、ウイルス暴露後の処置にも有用である。
【0113】
(E)モノクローナル抗体
ET−NANBウイルス粒子およびタンパクに対する抗体と抗イディオタイプ抗体の両者のin vivo使用、ならびに診断的使用に関して、モノクローナル抗体の利用が好ましいことがある。免疫処置した動物の膵臓またはリンパ球を摘出して、株化するか、当該分野の技術者に既知の方法によってハイブリドーマを作成するために利用する。ET−NANBウイルスに感染したことのあるドナー(この場合の感染は、例えば、血中の抗ウイルス抗体の存在またはウイルスの培養によって確認される)が、リンパ球のドナーにふさわしいことがある。リンパ球は、抹消血液試料から分離するか、ドナーが膵臓生検の患者であれば膵臓細胞が使用可能である。エプシュタイン−バー・ウイルス(EBV)はヒトのリンパ球を株化するのに使用でき、ヒトのリンパ球もヒト/ヒトハイブリドーマの作成に利用できる。ヒトのモノクローナル抗体の産生には、まず、ペプチドによるin vitroでの免疫処置が行われる。
【0114】
株化細胞によって分泌される抗体をスクリーニングして、目的の特異性をもつ抗体を分泌するクローンを捜し出す。モノクローナルの抗ウイルス粒子抗体の場合には、抗体をET−NANBウイルス粒子に結合させねばならない。目的の特異性抗体を産生する細胞を選択する。
【0115】
以下の実施例は、この発明の様々な局面を説明するものであるが、その請求の範囲を限定させる意図はない。
【実施例】
【0116】
(材料)
以下の実施例で用いられた材料は、次の通りである。
【0117】
酵素:DNアーゼおよびアルカリフォスファターゼは、Boehringer Mannheim Biochemicals(BMB,インジアナポリス,IN)から;EcoRI,EcoRIメチラーゼ、DNAリガーゼおよびDNAポリメラーゼIは、New
England Biolabs(NEB,ベルリー,MA)から;またRNアーゼAは、Sigma(セントルイス,MO)から、それぞれ入手した。
【0118】
その他試薬:EcoRIリンカーは、NEBから;またニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、5−ブロム−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)、5−ブロム−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−gal)およびイソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)は、Sigmaから、それぞれ入手した。
【0119】
cDNA合成用キットおよびランダムプライミング標識用キットは、Boehriger Mannheim Biochemical(BMB,インジアナポリス,IN)から入手できる。
【0120】
(実施例1)
cDNAライブラリーの調製
(A)ET−NANBウイルス源
便中の27−34nmのウイルス様粒子(VLPs)が、ET−NANB患者から得た免疫血清に結合することで明らかではあるが、便がET−NANBに陽性の、ビルマでの症例から分離されたET−NANBウイルス株に感染した第二継代のカニクイザル(cyno #37)から得た便プールの10%浮遊液を2匹のカニクイザルに静注した。この動物では、免疫後24−36日の間に、アルカリフォスファターゼ(ALT)レベルが上昇し、1匹は、感染の前急性期に、胆汁中に27−34nmのVLPsを排泄した。
【0121】
それぞれの感染動物の胆管にカニューレを挿入し、毎日1−3ccの胆汁を集めた。RNAは、標準的なRNA分離法を用い、ホットフェノール抽出によって、1例の胆汁(cyno #121)から抽出した。二本鎖cDNAは、Boehringer−Mannheim(インジアナポリス,IN)から入手したcDNA合成用キットを用いて、1本鎖のランダムプライミングにより、分離したRNAから生成した。
【0122】
(B)2本鎖断片のクローニング
2本鎖cDNA断片は、標準的条件下(マニアチス、p.118)にてT4 DANポリメラーゼで平滑末端とし、フェノール/クロロフォルムで抽出し、エタノールで沈澱させた。平滑末端としたcDNAを標準的条件下(マニアチス、pp.396−397)にてEcoRIリンカーで連結させ、リンカーの余分な末端を除去するため、EcoRIで消化した。非連結性リンカーは、イソプロパノール沈澱を繰り返すことによって、除去した。λgt10ファージベクター(Huynh)は、Promega Biotec(マジソン,W1)から入手した。このクローニングベクターは、ファージcIレプレッサー遺伝子に、ユニークなEcoRIクローニング部位を有している。上記のcDNA断片は、0.5−1.0ugのEcoRI消化のgtl0,0.5−3μlの上記2本鎖断片、0.5μlの10X連結反応用バッファー、0.5.μlのリガーゼ(200単位)、および蒸留水を混合(5μl)して、EcoRI部位に導入した。混合物は、14℃にて一晩インキュベートし、次いで標準法(マニアチス、pp.256−268)に従って、in vitroでパッケージングした。
【0123】
パッケージ層は、HG415株などの大腸菌hf1株を感染させるために用いた。また、Promega Biotec(マジソン,WI)から入手できる大腸菌のC600hf1株を用いることができた。EcoRI末端消化断片の挿入によって得られた組替え型プラークの割合は、ランダムな20個のプラークを解析したところ、5%に満たなかった。
【0124】
その結果得られたcDNAライブラリーをプレートにまき、溶出用バッファーを添加して、選択プレートからファージを溶出した。ファージからDNAを抽出した後、DNAをEcoRIで消化して、ヘテロ挿入片を放出させ、DNA断片をアガロースでフラクション化して、ファージ断片を除いた。500−4000個の塩基対挿入片が分離され、上記のλgtl0の中に再クローン化し、パッケージングしたファージを大腸菌株HG415の感染に用いた。組替えが成功する割合は、95%を越えていた。約5000プラーク/プレートにて、全部で8枚のプレートを用い、ファージライブラリーを大腸菌株HG415でプレート培養した。
【0125】
(実施例2)
ET−NANBクローン化断片の選択
(A)cDNAプローブ
非感染およびET−NANB感染のカニクイザル由来の2本鎖cDNA断片を、実施例1と同様に調製した。cDNA断片に、Boehringer Mannheim(インジアナポリス,IN)社製のランダムプライミング標識用キットを用いて、ランダムプライミングによる放射能標識を行った。
【0126】
(B)クローンの選択
実施例1でプレート培養したcDNAライブラリーを2個のニトロセルロースフィルターのそれぞれに移植し、標準的方法(マニアチス、pp.320−323)に従って、加熱によりファージDNAをフィルターに固定した。2つのフィルターは、感染源または上記のようにして得られた対照のcDNAプローブのどちらかとハイブリダイゼーションを行った。フィルターのオートラジオグラフで、感染源のみに由来する(すなわち、非感染源から得たcDNAプローブとは、ハイブリダイゼーションしなかった)、放射能標識cDNAプローブとハイブリダイゼーションしたライブラリークローンを同定する試験を行った。このような削減的選択法で、全部で約40000個の試験したクローンのうち、そのようなクローンは16個同定された。
【0127】
16個のクローンはどれも、寒天プレート上で低濃度にて選択し、プレートにて再培養した。それぞれのプレート上のクローンは、2系列でニトロセルロースに移し、上記のように、感染および非感染源の放射能標識cDNAプローブとのハイブリダイゼーション試験を行った。クローンは、感染源プローブと選択的に結合するものを選んだ(すなわち、感染源プローブと結合し、実質上非感染源プローブとは結合しないもの)。感染源プローブに選択的に結合するクローンのうちの一つを、さらに研究を進めるために、分離した。選択したベクターは、図1に示した、λgtl0−1.1と同定された。
【0128】
(実施例3)
ET−NANBの配列
実施例2のクローン、λgt10−1.1で、ヘテロ挿入片を除くため、EcoRI消化を行い、ベクー断片からゲル電気泳動によって分離した。電気泳動での断片の泳動度は、1.33kb断片と一致していた。この断片は、EcoRI末端を含み、pTZ−KF1ベクターのEcoRI部位に入り込んでいたが、その構造と性質は、1987年11月25日に提出された共有の米国特許出願第125650号「クローニングベクター系およびユニークなクローンの同定」に記載されている。要約すると、図1に図解したとおり、このプラスミドにはユニークなEcoRI部位が含まれ、隣にはT7ポリメラーゼプロモーター部位およびプラスミドならびにファージの複製開始点がある。EcoRI部位の両側の隣接配列がわかっている。Stratagene(ラジョラ,CA)から入手した大腸菌BB4は、プラスミドで形質転換した。
【0129】
放射能標識したET−NANBプローブは、実施例2でのλgtl0−1.1ファージから1.33kb挿入片を切り出し、ゲル電気泳動で断片を分離し、上記のようにランダムに標識することによって調製した。上記のpTZ−KF1でトランスフェクションさせた。目的のET−NANB挿入片を有する細菌を、実施例2に概要を示した方法に従って、レプリカ法および放射能標識ET−NANBプローブとのハイブリダイゼーションによって選択した。
【0130】
組換えに成功した1個の細菌コロニーを、1.33kb挿入片の一部の配列決定に用いた。この分離菌は、pTZ−KF1と命名され(ET1.1)、アメリカ基準培養コレクションに寄託されており、ATCC寄託第67717号である。標準的なジデオキシ法でEcoRI部位の側面にある配列のプライマーを用いて、挿入片の5’末端領域および3’末端領域から約200−250個の塩基対を得た。配列は、第II節に示してある。同じ技法を用いて後のほうの配列を決定することによって、両方向の配列が完全に分かった。
【0131】
(実施例4)
ET−NANB配列の決定
非感染およびET−NANB感染したカニクイザルの胆汁から得られたcDNA断片混合物は、上記のようにして調製した。ヒト便検体から得られたcDNA断片は、以下のようにして調製した。ET−NANBが突発した結果、ET−NANB感染と診断されたあるメキシコ人から得た10%便浮遊液30ml、および健康な非感染者から得た同容量の便を、30%ショ糖の密度勾配法にかけ、SW27ローターで15℃にて25000xgで6時間遠心した。感染体から得た便での沈澱物には、感染便検体でのET−NANB感染に特徴的な27−34nmのVLP粒子が含まれていた。感染および非感染の両検体のショ糖勾配ペレットからRNAが分離されたが、分離したRNAは、実施例1に述べたcDNA断片の作成に用いた。
【0132】
感染および非感染の胆汁、また感染および非感染のヒトの便を起源として得られたcDNA断片混合物はそれぞれ、1988年6月17日出願の「DNAの展開および削減法」という共有の特許出願第07/208512号に記載された、新しいリンカー/プライマー複製法によって展開させた。要約すると、各検体中の断片は、DNAポリメラーゼIで平滑末端とし、次いでフェノール/クロロフォルムで抽出し、エタノールで沈澱させた。平滑末端とした物質は、以下の配列を有するリンカーで連結した。
【0133】
5’−GGAATTCGCGGCCGCTCG−3’
3’−TTCCTTAAGCGCCGGCGAGC−5’。
【0134】
2量体リンカーを除くため、2本鎖断片をNruIで消化し、5’−GGAATTCGCGGCCGCTCG−3’を有するプライマーと混合した後、熱変成させ、単鎖DNA/プライマー複合体にするために、室温まで冷却した。その複合体は複製され、サーマスアクアティクス(Thermys aquaticus, Taq)ポリメラーゼおよび4つの全デオキシヌクレオチドを添加することによって、2本鎖断片を形成した。連続的な鎖の変成を含めた複製過程、鎖/プライマー複合体の形成および複製を、25回繰返した。
【0135】
展開したcDNA配列は、2%アガロース基質を用いて、アガロースゲル電気泳動によって分画した。DNA断片をアガロースゲルからニトロセルロース紙に移した後、(i)上記のようにして得たpTZ−KF1(ET1.1)プラスミドをEcoRIで処理する、(ii)遊離した1.33kb ET−NANB断片を分離する、および(iii)分離した断片をランダムに標識することによって、ランダムに標識された32Pプローブにフィルターをハイブリダイゼーションした。プローブのハイブリダイゼーションは、簡便なサザン法(マニアチス、pp.382−389)で行った。図2に、感染(I)ならびに非感染体(N)の胆汁(2A)、および感染(I)ならびに非感染体(N)のヒト便(2B)由来の、cDNAsで得たハイブリダイゼーションパターンを示す。明らかに、ET−NANBプローブは、両感染体から得た断片とハイブリダイゼーションしたが、非感染体から得た配列にはどちらも、同等のことは見られなかったため、誘導された配列の特異性が確かめられた。
【0136】
放射能標識した1.33kb断片と、ヒトおよびカニクイザルの両DNA由来のゲノムDNA断片とのサザン法ブロットを調製した。プローブのハイブリダイゼーションが、どちらのゲノム断片混合物へも見られなかったことから、ET−NANB配列は、ヒトまたはカニクイザルのゲノムのどちらでも、外因性のものであることが確認された。
【0137】
(実施例5)
ET−NANBタンパクの発現
(A)ET−NANBコード配列の調製
実施例2で得たpTZ−KF1(ET1.1)プラスミドは、ゲル電気泳動で直線化したプラスミドから精製した、1.33kb ET−NANB挿入片を除くため、EcoRIで消化した。精製した断片は、標準的な消化用バッファー(0.5M Tris HCl, pH7.5; 1mg/ml BSA;10mM MnCl2)中に、濃度約1mg/mlになるように浮遊させ、DNアーゼIで室温にて約5分間消化した。これら反応条件は、予め行っておいた較正試験から決定したが、そこでは100−300塩基対からなる断片の生成に要するインキュベート時間を決定した。その物質は、エタノールで沈澱させる前に、フェノール/クロロフォルムで抽出した。
【0138】
消化混合物中の断片は、実施例1と同様に、平滑末端になっており、EcoRIとリガンドを形成していた。その他断片は、PhiX174/HaeIIIおよびラムダ/HindIIIのサイズマーカーを用いて、1.2%アガロースゲル上での電気泳動(5−10V/cm)で解析した。100−300bpの分画がNA45ストリップに溶出したが(SchleicherとSchuell)、その後これを溶出用溶液(1M NaC1, 50mMアルギニン、pH9.0)の入った1.5mlの小管中に移し、67℃にて30−60分間インキュベートした。溶出してきたDNAは、フェノール/クロロフォルムで抽出した後、2倍量のエタノールで沈澱させた。沈澱物は、20μlTE(0.01M Tris−HCl,pH7.5,0.001M EDTA)中に再浮遊させた。
【0139】
(B)発現ベクター中でのクローニング
λgt11ファージベクター(Huyny)は、Promega Biotec(マジソン,W1)から入手した。このクローニングベクターは、β−ガラクトシダーゼ翻訳末端コドンから53塩基対上方に、ユニークなEcoRIクローニング部位を有する。それから得たゲノム断片を、0.5−1.0μgのEcoRIで開裂されたgt11,0.3−3μlの上記サイズの断片、0.5μlの10X連結反応用バッファー(上記)、0.5μlリガーゼ(200単位)、および蒸留水を混合(5ml)することによって、EcoRI部位に導入した。混合物は14℃にて一晩インキュベートした後、標準的方法(マニアチス、pp.256−268)に従って、in vitroでパッケージ化した。
【0140】
パッケージングファージは、DNAX(パロアルト,CA)のKevin Moore博士から譲渡された、大腸菌株KM392の感染に用いた。また、アメリカ基準培養コレクション(ATCC #37197)から入手可能なE.Coli株Yl090を使用できた。感染菌は、プレート培養し、その結果得られたコロニーで、標準的X−gal基質プラーク測定法(マニアチス)を用いてX−gal存在下でのβ−ガラクトシダーゼ活性の消失(明瞭なプラーク)をチェックした。約50%のファージプラークで、β−ガラクトシダーゼの酵素活性の消失が見られた(組換型)。
【0141】
(C)ET−NANB組換型タンパクのスクリーニング
メキシコ、ボルネオ、パキスタン、ソマリア、およびビルマで突発的に発生したET−NANBによって感染した患者から、ET−NANBの回復期の抗血清を得た。その血清は、別のET−NANB肝炎患者の数人からそれぞれ得られた便検体中のVLPsと、免疫反応性を示した。
【0142】
約104pfuの上記ファージストックに感染した大腸菌KM392細胞のクローンを
、150mmプレート上で調製し、倒置させて、37℃にて5−8時間インキュベートした。クローンをニトロセルロースシートで覆うことによって、発現したET−NANBの組換型タンパクをプラークから紙に移した。相当するプレートおよびフィルターの位置を合わせるため、プレートとフィルターに指標を付けた。フィルターは、TBSTバッファー(10mM Tris,pH8.0;105mM NaCl,0.05% Tween20)で2度洗浄し、AIB(1%ゼラチンを含むTBSTバッファー)で阻害し、TBSTで再洗浄し、抗血清(AIBで1:50に希釈して、12−15mlプレート)を添加して、一晩インキュベートした。シートをTBSTで2度洗浄した後、フィルター中の抗血清によって認識された抗原を含む部位に標識した抗体を付けるため、酵素標識した抗ヒト抗体と接触させた。最終洗浄した後、5mlのアルカリフォスファターゼバッファー(100mM Tris,pH9.5,100mM NaCl,5mM MgCl2、)
中で、16μlBCIP(5℃に保った、50mg/mlストック用溶液)と混合した、33μlNTB(5℃に保った、50mg/mlストック用溶液)を含む基質培地中で、フィルターを展開した。抗血清を確認すると、抗原生成部位が紫色を呈した。
【0143】
(D)スクリーニング用プレート培養
前段階で決定した抗原生成領域を、径82mmのプレート上で約100−200pfuにて再びプレート培養した。ET−NANB抗体と反応できる抗原を分泌するファージをプラークから精製するため、5−8時間のインキュベーションに始まって、NBT−BCIP展開を経る、上記の諸段階を繰り返し行った。同定されたプラークを、ファージ用バッファーで選択的に溶出した(マニアチス、p.443)。
【0144】
(E)エピトープの同定
実施例2で、本来的pTZ−KF1(ET1.1)プラスミドから誘導された一連のサブクローンを、上に述べた方法と同じ方法を用いて分離した。これら5つのサブクローンは、それぞれ(C)の抗−ET抗血清プールと免疫反応性を有していた。そのサブクローンには、以前述べた「逆方向」配列からの短い配列が含まれていた。サブクローン中の配列の開始点および終了点(完全な逆方向配列に相対的)は以下の表のように同定された。
【0145】
【表2】

【0146】
表2で同定された全遺伝子配列には、エピトープをコードする配列が含まれるはずなので、エピトープのコード用配列は、594番目のヌクレオチド(5’末端)と643番目のヌクレオチド(3’末端)間の領域に入り込んでいることは明らかである。従って、この比較的短い配列に長さが等しくて相補的な遺伝子配列は、このコード化領域を用いて生成されたペプチドと同様に、この発明の様々な態様に特に好ましい。全く異なったエピトープを同定する、2番目の一連のクローンが、メキシコ人の一血清で単離された。
【0147】
【表3】

【0148】
このエピトープのコード体系は、2番目のヌクレオチド(5’−末端)と101番目のヌクレオチド(3’−末端)の間に入り込んでいる。従って、このコード化領域を用いて生成したペプチドと同様に、この短い配列に関する遺伝子配列も好ましいものである。
発明は、特別な実施例、方法、構成体および使用法に関して記載されたが、当該分野の技術者には、この発明逸脱することなく、種々の変化および修飾を行うことができよう。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】クローニングET−NANB断片を得て配列決定をする際に使われるベクター構成体および操作を示す図である。
【図2】図2A〜2Bは、感染(I)した胆汁源(2A)および非感染(N)の胆汁源(2A)、ならびに感染(I)した便試料源(2B)および非感染(N)の便試料源(2B)から分離したRNAより調製した増幅cDNA断片と放射能標識ET−NANBをハイブリドさせたときのサザン法による展開図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATCC寄託第67717号の大腸菌BB4株に担持されるプラスミドpTZ−KF1(ET1.1)中に存在する1.33kb DNAのEcoRI挿入片に相同な領域を含むゲノムを有する腸管伝播性非A非B肝炎ウイルス因子に由来するタンパク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−31440(P2007−31440A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217544(P2006−217544)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【分割の表示】特願2004−306268(P2004−306268)の分割
【原出願日】平成1年6月16日(1989.6.16)
【出願人】(398055462)ジェネラブス テクノロジーズ,インコーポレイテッド (6)
【出願人】(398029728)アメリカ合衆国 (3)
【Fターム(参考)】