説明

腹足類駆除剤

【課題】農園芸作物に対する甚大な薬害を与えることなく、腹足類を即効的に駆除することのできる腹足類駆除剤を提供すること。
【解決手段】水をベースとし、5質量%以上30質量%以下の少なくとも一種の飽和脂肪族アルコールと、0.1質量%以上10.0質量%以下のユーカリ油とを含有することを特徴とする腹足類駆除剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹足類駆除剤に関し、さらに詳しくは、植物に対する甚大な薬害を与えることなく、腹足類を即効的に駆除することのできる腹足類駆除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ナメクジ類、カタツムリ類等の腹足類は、農園芸作物栽培等において、有用作物を食害し、多大な被害をもたらす。例えば、腹足類は、レタス、白菜、イチゴ等の各種農作物、ミカン、ブドウ等の果樹類、花卉類等の園芸作物等を加害し、大きな被害を与える。また、これらの腹足類は、温室、庭園、畑地、家庭内等の至る所に出没し、不快感を与える。例えば、不快害虫として家屋の台所や風呂場等に出現して、住民に不快感を与えるだけでなく、線虫類等の中間宿主となるため衛生害虫として、忌避されている。
【0003】
それ故、腹足類を駆除する方法及び駆除剤が開発されている。現在、使用可能な駆除剤として、例えば、カルバリル、ピレスロイド等を有効成分とするスプレータイプの駆除剤等が挙げられる。これらの駆除剤は、腹足類をある程度駆除することができるものの、腹足類を完全に駆除することができないことがあるうえ、即効性を有するものではない。また、これらの駆除剤は、農園芸作物に接触すると、農園芸作物に薬害を生じさせることがあり、農園芸作物及びその近傍に出現する腹足類には、大量かつ頻繁に、駆除剤を散布することができない。さらに、これらの駆除剤に含有される有効成分は、人間及びペット等に対する毒性をも有しているから、室内で腹足類を発見した場合、例えば、鑑賞用植物等の室内で栽培等される植物等に出現した腹足類を発見した場合等には、やはり、駆除剤を大量かつ頻繁に散布することができない。
【0004】
一方、水ベースの駆除剤として、例えば、「炭素数1〜4の1価のアルコールを全体量に対して30〜59重量%と、共力剤として酢酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、安息香酸、メントール、レゾルシン及びトウガラシチンキから選ばれた1種もしくは2種以上を全体量に対して0.2重量%以上10重量%未満含有することを特徴とする水ベースの腹足動物駆除剤」が挙げられる(特許文献1参照。)。
【0005】
この駆除剤は、1価のアルコールを全体量に対して30〜59重量%と規定しているが、実際には、エタノール又はn−プロパノールの含有量が40〜55重量%という高濃度に設定されている(特許文献1の実施例1〜3を参照。)。このように、駆除剤中のアルコール含有量が高いと、アルコール類由来の刺激臭等の問題があるうえ、駆除剤自体の危険性が高く、また、コストも高くなる。したがって、アルコール含有量を低減しても、腹足類を即効的に駆除することができ、さらに、農園芸作物等に対して甚大な薬害を与えない駆除剤が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−259103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、農園芸作物に対する甚大な薬害を与えることなく、腹足類を即効的に駆除することのできる腹足類駆除剤を提供することに、ある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、水をベースとし、5質量%以上30質量%以下の少なくとも一種の飽和脂肪族アルコールと、0.1質量%以上10.0質量%以下のユーカリ油とを含有することを特徴とする腹足類駆除剤であり、
請求項2は、前記飽和脂肪族アルコールは、炭素数が1以上5以下の一価飽和脂肪族アルコールであることを特徴とする腹足類駆除剤である。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る腹足類駆除剤は、水をベースとし、特定量のユーカリ油を含有するから、飽和脂肪族アルコールの含有量を低減しても腹足類を効果的かつ即効的に駆除することができると共に、農園芸作物等に接触しても農園芸作物等に薬害を与える虞が極めて少ない。したがって、この発明によれば、農園芸作物に対する甚大な薬害を与えることなく、腹足類を即効的に駆除することのできる腹足類駆除剤を提供することが、できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明に係る腹足類駆除剤は、水をベースとし、飽和脂肪族アルコールとユーカリ油とを含有して成る。
【0011】
この発明に係る腹足類駆除剤に含有される飽和脂肪族アルコールは、基本的には特に限定されないが、一価の飽和脂肪族アルコールであるのが好ましく、その炭素数は1以上5以下であるのがさらに好ましい。すなわち、飽和脂肪族アルコールは、腹足類を効果的かつ即効的に駆除することができる点で、炭素数が1以上5以下の一価飽和脂肪族アルコールであるのがより好ましく、このようなアルコールとして、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、炭素数が1以上3以下の一価飽和脂肪族アルコールであるのがさらに好ましく、低含有量であっても腹足類を効果的かつ即効的に駆除することができる点で、n−プロピルアルコール及びi−プロピルアルコールがなお一層好ましく、安全性が高い点で、i−プロピルアルコールが特に好ましい。
【0012】
この発明に係る腹足類駆除剤に含有されるユーカリ油は、ユーカリノキ(Ecualyptus globulus Labillardiere)又はその他近縁植物(Myrtaceae)の葉を水蒸気蒸留して得られた精油である(第14改正 日本薬局方 参照)。このユーカリ油は、通常、1,8−cineole(1,8−シネオール)を主成分として約70%以上含み、他に、p−cymene、terpineol、cuminal、pinene等を含んでいる。ユーカリ油は、腹足類駆除剤に含有される飽和脂肪族アルコールの含有量を低減しても、腹足類に対する駆除性を低下させることなく、安全で即効性のある腹足類駆除剤とすることができる。ユーカリ油は、所望により適宜水蒸気蒸留して得てもよいし、市販品を使用してもよい。
【0013】
この発明に係る腹足類駆除剤は、水をベースとする。すなわち、この腹足類駆除剤は、飽和脂肪族アルコールとユーカリ油とを含有する、水を主成分とする駆除剤である。水は、上水道水、井戸水、蒸留水等を特に制限されずに使用することができる。
【0014】
この発明に係る腹足類駆除剤に含有される飽和脂肪族アルコールは、腹足類駆除剤全質量に対して、5質量%以上30質量%以下である。飽和脂肪族アルコールの含有量が5質量%未満であると、腹足類を即効的に駆除することができないことがある。この発明において、腹足類を即効的に駆除することを目的とするのであれば、飽和脂肪族アルコールの含有量は30質量%を超えてもよいが、アルコール類由来の刺激臭等の問題を解決し、駆除剤自体の危険性低下及びコスト低減を充分に達成することができる点で、飽和脂肪族アルコールの含有量は30質量%以下に調整する。飽和脂肪族アルコールの含有量は、腹足類をより一層速やかかつ効果的に駆除することができる点で、10質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、15質量%以上20質量%以下であるのが特に好ましく、腹足類駆除剤の使用量を低減しても腹足類をより一層速やかかつ効果的に駆除することができる点からは、20質量%以上30質量%以下であるのが特に好ましい。
【0015】
この発明に係る腹足類駆除剤に含有されるユーカリ油は、腹足類駆除剤全質量に対して、0.1質量%以上10.0質量%以下である。ユーカリ油の含有量が0.1質量%未満であると、ユーカリ油を添加した効果が充分に発揮されず、腹足類を即効的に駆除することができないことがある。この発明において、腹足類を即効的に駆除することを目的とするのであれば、ユーカリ油の含有量は10.0質量%を超えてもよいが、農園芸作物に対する安全性(薬害)及び安価な製剤の提供(コスト低減)を達成することができる点で、ユーカリ油の含有量は10.0質量%以下に調整する。ユーカリ油の含有量は、飽和脂肪族アルコールと併用することによって相乗的な腹足類駆除効果が発揮される含有量であり、具体的には、飽和脂肪族アルコールの含有量を低減しても、腹足類をより一層速やかかつ効果的に駆除することができる点で、0.1質量%以上1.0質量%以下であるのが特に好ましい。
【0016】
この発明に係る腹足類駆除剤のベースとなる水は、腹足類駆除剤の主成分であり、腹足類駆除剤に含有される各成分の各含有量よりも多く調整されるのが好ましい。具体的には、腹足類駆除剤が飽和脂肪族アルコールとユーカリ油と水とからなる場合には、前記含有量の飽和脂肪族アルコールと前記含有量のユーカリ油と残部が水とからなり、腹足類駆除剤が飽和脂肪族アルコールとユーカリ油と各種添加剤と水とからなる場合には、前記含有量の飽和脂肪族アルコールと前記含有量のユーカリ油と所望量の各種添加剤と残部が水とからなる。
【0017】
この発明に係る腹足類駆除剤には、飽和脂肪族アルコール及びユーカリ油の外に、所望により、薬剤の付着性の向上、効力の維持又は増進等を図るために、補助剤を含有していてもよい。この補助剤としては、界面活性剤、粉剤又は粒剤等の固形剤の調製に用いられる個体希釈剤、溶剤、固着剤、安定剤、噴射剤、共力剤等を挙げることができる。
【0018】
この発明に係る腹足類駆除剤は、水と飽和脂肪族アルコールとユーカリ油とを均一かつ充分に混合するのに、界面活性剤を用いるのがよい。腹足類駆除剤に含有される界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤等が挙げられ、これらの中でも、農園芸作物に対する安全性(薬害)、飽和脂肪族アルコールとユーカリ油との優れた相溶性等の点で、ノニオン系界面活性剤がよい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0019】
この発明に係る腹足類駆除剤は、飽和脂肪族アルコール及びユーカリ油と水とを機械的に混合することにより製造される。混合手段に制限はなく、容器回転型混合機、機械撹拌型混合機、流動撹拌型混合機等の混合機を用い、混合処理される。
【0020】
この発明に係る腹足類駆除剤は、飽和脂肪族アルコールとユーカリ油と水とを混合して得られる混合物を液剤としてそのまま使用に供することができる。この腹足類駆除剤は、いかなる剤型に調製されてもよく、例えば、前記液剤の他に、公知の製造方法により、フロアブル(FL)、マイクロエマルション(ME)、腹足類駆除剤の乳化粒子を水に分散させた剤型(エマルション オイル イン ウォーター(EW))、前記液剤と噴射剤等とを共存させて成るエアーゾル剤等が挙げられる。
【0021】
この発明に係る腹足類駆除剤の使用態様は、前記剤型に調製した腹足類駆除剤を腹足類に接触させる方法であればよく、例えば、液剤に調製された腹足類駆除剤を噴霧器等で腹足類に噴霧する方法、エアーゾル剤に調製された腹足類駆除剤を噴射器等で腹足類に噴射する方法、各種剤型に調製された腹足類駆除剤を腹足類に滴下する方法、及び、これらを併用する方法等が挙げられる。この発明に係る腹足類駆除剤の腹足類に対する接触量は、腹足類の個体数、静止体長、出現場所、及び腹足類駆除剤の使用態様等によって適宜調整される。例えば、この発明に係る腹足類駆除剤を静止体長2〜3cmの腹足類に噴射する場合には、0.5mL以上とされる。
【0022】
この発明に係る腹足類駆除剤によって駆除される腹足類は、ナメクジ類、カタツムリ類等が挙げられる。
【0023】
この発明に係る腹足類駆除剤は、水をベースとし、特定量のユーカリ油を含有するから、飽和脂肪族アルコールの含有量を低減しても腹足類を効果的かつ即効的に、例えば、腹足類に接触させた後3分以内にほぼ100%の駆除率で、駆除することができる。
【0024】
また、この発明に係る腹足類駆除剤は、天然から得られるユーカリ油を有効成分の1つとするから、人間及びペット等に対する毒性は極めて低く、腹足類駆除剤の安全性が高い。故に、この発明に係る腹足類駆除剤は、室内で腹足類を発見した場合にも大量かつ頻繁に散布することができ、屋外だけでなく、室内に出現した腹足類をも即効的に駆除することができる。したがって、この発明に係る腹足類駆除剤は、屋外だけでなく、室内に出現した腹足類をも即効的に駆除するのに、好適に用いられる。
【0025】
さらに、この発明に係る腹足類駆除剤は、天然から得られるユーカリ油を有効成分の1つとするから、農園芸作物等に対する毒性も低く、農園芸作物等に薬害を与える虞が極めて少ない。したがって、この発明に係る腹足類駆除剤は、屋外の地面上等の農園芸作物等が生息していない場所に出現する腹足類だけでなく、農園芸作物等及びその近傍に出現する腹足類を即効的に駆除するのに、好適に用いられる。この発明に係る腹足類駆除剤を散布することが可能な農園芸作物等としては、特に限定されないが、例えば、インパチェンス(ホウセンカ科)、ジニア(キク科)、ナデシコ(ナデシコ科)、ペラルゴニューム(フクロソウ科)、ヒメノボタン(ノボタン科)、ペチュニア(ナス科)、ペンタス(アカネ科)、トレニア(ゴマノハグサ科)、カリフォルニアローズ(ツリフネソウ科)、シバザクラ(ハナシノブ科)、サルビア(シソ科)、ポーチュラカ(スベリヒユ科)、ランタナ(クマツヅラ科)、パンジー(スミレ科)、チューリップ(ユリ科)、キンギョソウ(ゴマノハグサ科)、ベゴニア(シュウカイドウ科)、ストック(アブラナ科)、スイートピー(マメ科)、わすれな草(ムラサキ科)等を挙げることができる。
【0026】
したがって、この発明に係る腹足類駆除剤は、農園芸作物に対する甚大な薬害を与えることなく、腹足類を即効的に駆除することができる。
【0027】
この発明における保持治具は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0028】
次に、この発明を実施例及び比較例を挙げて説明するが、この発明は、以下の実施例及び比較例に限定されないことは勿論である。
【0029】
(実施例1〜6及び比較例1〜9)
表1に示す含有量の飽和脂肪族アルコールと、表1に示す含有量のユーカリ油(関東化学株式会社製)と、0.01質量%の界面活性剤(商品名「ナロアクティーCL50」、三洋化成工業株式会社製)と、上水道水残部とを、マグネチックスターラーで混合して、薬剤A〜Mを調製した。なお、表1において、i−PrOHはi−プロピルアルコール(中国製油株式会社製)を示し、n−PrOHはn−プロピルアルコール(中国製油株式会社製)を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
また、フェニトロチオンとカルバリルとアレスリンとを含有する薬剤N(商品名「ナメジゴクS」、レインボー薬品株式会社製)、及び、エトフェンプロックスとテルペノイドとを含有する薬剤O(商品名「なめくじドライ」、アース製薬株式会社製)を準備した。
【0032】
得られた薬剤A〜M並びに準備した薬剤N及びOを、小型ハンドスプレーを用いて、直径9cmのガラスシャーレ内に放飼したチャコウラナメクジ(静止体長2〜3cm)10匹に、シャーレ当たり表2に示す噴霧量で、約5cm離して、シャーレ全体に満遍なく噴霧した。噴霧後から所定時間経過後におけるチャコウラナメクジの異常死亡数を数え、駆除率(%)を算出した。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2から明らかなように、ユーカリ油を含有しない薬剤(比較例1〜7)におけるチャコウラナメクジの駆除率に比して、ユーカリ油を含有する薬剤(実施例1〜6)におけるチャコウラナメクジの駆除率は高く、いずれの実施例においても、従来の駆除剤(比較例1〜9)では達成することのできなかった、100%のチャコウラナメクジの駆除率を達成することができた。
【0035】
得られた薬剤A〜C及びJ〜Lを以下に示す植物(1区3株)に、小型ハンドスプレーを用いて、1区当たり100mLを噴霧した後、経日的に5日間、植物を観察することにより、これらの植物に薬害が発生するか否かを確認した。その結果、以下に示す植物において、薬害が発生した植物はなかった。
[被検植物] インパチェンス(ホウセンカ科)、ジニア(キク科)、ナデシコ(ナデシコ科)、ペラルゴニューム(フクロソウ科)、ヒメノボタン(ノボタン科)、ペチュニア(ナス科)、ペンタス(アカネ科)、トレニア(ゴマノハグサ科)、カリフォルニアローズ(ツリフネソウ科)、シバザクラ(ハナシノブ科)、サルビア(シソ科)、ポーチュラカ(スベリヒユ科)、ランタナ(クマツヅラ科)、パンジー(スミレ科)、チューリップ(ユリ科)、キンギョソウ(ゴマノハグサ科)、ベゴニア(シュウカイドウ科)、ストック(アブラナ科)、スイートピー(マメ科)、及び、わすれな草(ムラサキ科)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水をベースとし、5質量%以上30質量%以下の少なくとも一種の飽和脂肪族アルコールと、0.1質量%以上10.0質量%以下のユーカリ油とを含有することを特徴とする腹足類駆除剤。
【請求項2】
前記飽和脂肪族アルコールは、炭素数が1以上5以下の一価飽和脂肪族アルコールであることを特徴とする腹足類駆除剤。

【公開番号】特開2008−231015(P2008−231015A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72045(P2007−72045)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(591049930)サンケイ化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】