説明

膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法

【課題】陽極で得られた電解反応生成物又は分解物を高効率で製造することができるとともに、流路圧力損失を抑え、且つ、製造能力を落とすことなく装置を小型化することができ、簡単な工程により安定した性能を有する製品を安価に製造することのできる、膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法、廃水・廃液処理方法を提供すること。
【解決手段】貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を有する陽極と、陽極と同一部位に貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を有する陰極と、陽極又は陰極の少なくともいずれか一方の片面又は全面に貫通孔を維持したままコーティングした固体高分子電解質隔膜とよりなり、陽極、固体高分子電解質隔膜及び陰極を密着させて、膜−電極接合体を構成した膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法、廃水・廃液処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解反応を利用した化学物質の製造は、塩素・苛性ソーダ製造などで工業的に実施され近代産業の基盤の一部を担っている。また、有害物質の分解除去を目的として、廃水処理にも用いられる。それらのプロセスに用いられる反応槽は、一般に、陽極及び陰極あるいは陽極・陰極、あるいは、それらに加えその間に挟まれた固体高分子電解質隔膜が筐体中に納められた構造をとり、電解槽あるいは電解セルと呼称される。多くの電解セルでは、陽極側と陰極側に存在する溶液あるいはガスが物理的に互いに分離された構造を採る。ところが、一部の電解プロセスに於いては、陽極液と陰極液が互いに混じり合うことを必要とするか、或いは、混じり合うことが許容されるため、使用される電解セルもそれに応じた構造を用いることになる。
【0003】
本発明は、後者の陽極液と陰極液が混合するプロセスであって、且つ、原料液の電離度が低く陽極と陰極の間に固体高分子電解質隔膜が挟み込まれた構造の膜−電極接合体、これを用いる電解セルに係わるものである。
また、本発明は、膜−電極接合体、これを用いる電解セルを用いたオゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法、廃水処理方法及び電解合成方法に関するものであり、有機電解合成、ダイオキシンを含む有機塩素化合物の分解、廃液処理、災害時および開発途上国における河川水の飲料水化等、オゾン水製造などの用途だけでなく、オゾン水製造以外の用途の同様な課題の解決も展望することができる。
【0004】
オゾン水は、殺菌効果や有機物分解作用に優れ、医学及び食品衛生分野、あるいは半導体製造装置などにおいて、近年広範に用いられている。その製造方法は、純酸素あるいは酸素含有ガス中における放電による気相製造法と水の電解による電気化学的製造法に大別される。
気相製造法はエネルギー効率が高いが、高電圧や純酸素を必要とし、比較的大容量の製造装置に用いられる。気相製造法では、オゾン水が最終製品の場合、気液反応槽で水と接触させオゾン含有水を得る。
一方、電解製造法は、数十ボルト以下の低電圧電源と電解セルにより水を原料として直接オゾン水を製造する方法であり、高純度のオゾン水が比較的容易に得られ、かつ製造装置は基本的に電解セルと電源のみの単純構成であるため、小、中容量製造に適する。
【0005】
電離度の低い純水を用いたオゾン水製造電解では、水の電離度が低いため、単に陽極と陰極を水中に設置しただけでは電解反応が進行しない。そのため水素イオンの移動経路として陰極/陽極間に固体高分子電解質隔膜が挿入され、電解セルは、陽極及び陰極そしてそれらに挟まれた固体高分子電解質隔膜を機能要素として構成される。オゾンの生成は以下の反応式による。
オゾン生成反応(陽極):3H2O=O3+6H++6e-
0=+1.51V
酸素発生反応(陽極):2H2O=O2+4H++4e-
0=+1.23V
水素発生反応(陰極):2H++2e-=H2
上記オゾン発生反応は下段の酸素発生反応との競合反応であり、発生電位の低い酸素が優先的に生成するためその電流効率は低い。加えて、酸素発生を抑える目的から酸化鉛あるいは導電性ダイヤモンド電極など過電圧の高い陽極を用い高ポテンシャル下で電解を行うため、操業時に高い電解電圧を必要とする。その結果、電流効率と電圧効率の積であるオゾン水電解の電力効率は低くその改善が望まれる。
一般に、従来のオゾン水製造電解では、陽極側と陰極側は、固体高分子電解質隔膜により物理的に隔離され、陽極液と陰極液は互いに隔てられ、混合することなく電解が行われる。電解セル内には、たとえば、特許文献1などで例示されるように、陽極と陰極が並列に置かれ、それらと平行に電解液が通過する構造をとる。このような構造は、特許文献2及び3においても同様である。このように、従来、原料水は、一般に陰極及び陽極の電極面に平行に流れ、電極の一端から入り、他端から排出される。
【0006】
そのため、電解反応の進行に伴い液組成が変化し、十分な流速が確保できない場合、入側と出側で反応条件が異なることがある。この構造上の不都合は、特に一般の上水道水、井戸水、雨水などの非精製水を原料とするオゾン水製造における水酸化物の堆積問題で顕著である。すなわち、このような非精製水を用いたオゾン水製造においては、電解の進行に伴い、陰極液のpHが上がり、原料水中に存在する微量のアルカリ土類金属の水酸化物が反応の進む出口側で陰極面に著しく堆積し、電解の継続が困難になる。そのため、特許文献4に詳細に示されているように、一定時間毎に操業を停止し、酸洗浄などにより堆積物を取り除く必要がある。このことは、上記、特許文献3で示されるような一般的な構造の電解セルのみならず、特許文献5で提案されているような特殊構造の電解セルにあっても同様に問題となる。
【0007】
また、堆積低減の目的で、特許文献6または7では、陰極室を分離し陰極室液として酸を用いる方式が提案されているが、構成が複雑となり、また、操業上、安全管理が負担となる。一方、特許文献8では、電解特性劣化時に電解セルの陽・陰極を逆転させ、逆電流を通じて性能回復を図る方法が提案されている。この場合、そのような逆電流を流す際、陰極は一時的に陽極として作用し、構成金属成分が溶出する。この溶出金属のイオンは、固体高分子電解質膜に浸透し、そのイオン輸送能力を著しく劣化させるため、陰極にはバルブ金属を用い、さらにその表面に高価な貴金属コーティングなどを施して金属成分の溶出を防止する必要がある。また、一時的に陰極となる陽極の劣化も懸念される。
一方、電解セルの構造設計上の問題点として、従来の電解セルでは、原料水導入口が電解セル端部に設けられ、電極面を平行に流れた原料水は、特許文献9に示すように、電解セルの他端に設けられた排出口から排出される。このような構造は、設置場所を確保できる据え付け型装置では問題とされないが、家庭用上水道への取り付けなど、既存の配管の途中に後付で簡易的に取り付けることを想定した電解セルでは小型化設計の支障となる。
【0008】
また、従来、特許文献10においては、陽極と陰極との間に陽イオン交換膜が狭持されてなる触媒電極に水を供給するオゾン生成装置において、陽イオン交換膜の原料水供給路に臨む部分に、陽極電極と陰極電極とが互いに連通する連通穴が設けられ、原料水供給路から流れた水道水等の水が、陽極電極及び陰極電極のうち一方の電極に供給されるとともに、連通穴を介して他方の電極に供給されることが開示されている(当該文献の公報第3頁第22行〜32行)。
然るに、特許文献10においては、陽極室と陰極室を連通させる連通穴が設けられているが、陽極電極、陰極電極、イオン交換膜それ自体には、貫通孔は、設けられておらず、原料水は、陽極電極、陰極電極、イオン交換膜の同一部位を流れることはなく、電解効率がきわめて低いという欠点を有している。
【0009】
また、従来、特許文献11においては、空気中の水分が電気分解されてオゾンが発生する電解式オゾン発生素子において、陽極と、固体高分子電解質隔膜と、陰極を貫通する直径5mmの貫通孔を中央にあけることが開示されている(当該文献の公報第4頁右欄第11〜13行、第7頁右欄第7〜14行及び第10図参照)。
然るに、特許文献11においては、空気を供給してその中の水分からオゾンを発生させる気相反応に関するものであり、貫通孔は、原料である空気が流通するためのものであり、液体を流通させるためのものではなく、液体を流通させる場合と貫通孔を設ける目的を異にしている。尚、この文献10の図10においては、陽極に複数の穴を設けることが記載されているが、陽極の穴に対応する全ての部分の固体高分子電解質隔膜と、陰極に、貫通する穴が設けられておらず、貫通孔26は、中央の一つのみであり、これを液相反応に利用した場合、電解液のスムーズな流れを維持することはできず、効率的な電解を行うことができない。
【0010】
本発明は、オゾン水製造分野以外の分野としては、以下の分野にも適用される。
1.廃水・廃液処理
1)アンモニア化合物の電解
生活廃水、畜産廃液、養殖場廃水、および一部の工業廃水などに含まれるアンモニア化合物の分解手段として、これら廃水、廃液の電気分解が有効であることが、明らかにされている。たとえば、住友電工技術論文集、「ダイヤモンド電極を用いたアンモニア性窒素廃液の電気化学的処理の基礎研究」があり、この中では、電解を効率的におこなう目的で、塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムなどの支持電解質が添加されているが、固体高分子電解質隔膜を陽陰極間に挟み込んだ本発明による膜−電極接合体を用いることにより、第三成分であるそれらの電解質を添加することなく処理をおこなうことが可能となる。なお、本発明による膜−電極接合体の構造上のその他の特長は、このような用途に於いても実用セル設計上有益である。
【0011】
2)有機物含有水の処理
有機物含有廃水の電解処理装置に関連して複数の特許が出願されているが、いずれも、本発明と異なった構造の電解セルを用いたものである。たとえば、特許文献12では、スタックセルの提案がなされている、この提案になるセルは、液が電極面に平行に流れることを前提としているため、反応均一性および流体力学的効率が低い。また、この提案のセルでは、固体高分子電解質隔膜を用いないため、導電性の低い廃水の処理に難点がある。
また、特許文献13では、メッシュ状の電極を用い、陽極・陰極間を処理液が通過する構造を提案しているが、最終的にセルの側面から流出するため、マクロの流路は同様に電極と平行となる。固体高分子電解質隔膜を持たない欠点は、上記と同様である。
さらに、特許文献14では、芳香族化合物、PCB、ダイオキシンなどの溶存難分解性物質の電解による除去方法が提案されている。ここでは、ニッケルフェライト電極が用いられ、高い分解効率を得るためには出来る限り高い電流密度で電解することが推奨されている。本発明による膜−電極接合体を用い陽極をたとえば導電性ダイヤモンドとすることにより、高い電流密度が実現できる。また、固体電解質を用いているため、導電性の低い被処理水に於いても高い電流密度による操業が可能となる。また、特許文献15においても同様にダイオキシンなどの有機塩素化合物の電解による分解除去方法が提案されているが、固体高分子電解質隔膜を用いた本発明による膜−電極接合体を用いることで、そこで加えられる電解質水溶液が不要となり、コストならびに環境負荷を低減できる。
【0012】
2.災害時・途上国向け飲料水製造装置
災害時あるいは発展途上国においては、河川水の飲用水化ニーズが高い。そのため、安全な水の確保を可能とする技術が開発され、特許出願もなされている。特許文献16は、被処理水に食塩を添加し電解により生成される次亜塩素酸ソーダによる殺菌効果により病原菌を殺菌するものであるが、光触媒による殺菌とのハイブリッドという煩雑さに加え、次亜塩素酸ソーダが比較的長時間残留すること、また、含有有機物、特にダイオキシンを初めとする極めて有害な有機塩素化合物の分解効果は、期待しがたいという問題がある。(注記:水道水のように処理後、飲用前に一定時間の経過が担保される状況では次亜塩素酸の残留は問題とならないが、このようなオンサイト型の一般用途向けでは、処理後直ちに飲用されるケースを想定する必要がある。)また、特許文献17に代表される次亜塩素酸化合物を殺菌剤として注入して用いる方法は、上記と同様な問題があり、また一部の溶存有機物が塩素化されることによる有害物質の生成も危惧される。膜−電極接合体によるセルを用いた場合、殺菌は主に生成されるオゾンによるものである。オゾンは、生成後、急速に分解し飲用時にはその濃度が十分に低下する。
【0013】
3.電解合成
特定の化学物質製造プロセスとして、しばしば、電解合成法が用いられる。その際、原料溶液の電離度が低く伝導性に乏しい場合、支持電解質として酸あるいは塩類が添加される。たとえば、特許文献18では、ヒドロキシピバルアルデヒドとアルコ−ルから電解反応によりヒドロキシピバリン酸エステルを電解合成するにあたり、中性ハロゲン酸塩を支持電解質として用いることを提案している。それにより、電解効率は高められるとするが、支持電解質の製品中残留が懸念される。また、プロセスが複雑となり、コスト的にも不利である。本提案の膜−電極接合体によるセルを用いた場合、陽極および陰極に接して固体電解質が設けられているため支持電解質の添加を必要としない。なお、本発明による膜−電極接合体の構造上のその他の特長は、有機物の電解合成用途に於いても有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−269686号公報
【特許文献2】特開2005−336607号公報
【特許文献3】特開平9−157900号公報
【特許文献4】特開平10−130876号公報
【特許文献5】特開2004−060010号公報
【特許文献6】特開2002−173789号公報
【特許文献7】特開2005−177671号公報
【特許文献8】特開2008−150665号公報
【特許文献9】特開2004−285374号公報
【特許文献10】特開2008−279341号公報
【特許文献11】特開平11−131276号公報
【特許文献12】特開2006−281013号公報
【特許文献13】特表2002−531704号公報
【特許文献14】特開2003−126860号公報
【特許文献15】特開2004−305290号公報
【特許文献16】特開2010−064045号公報
【特許文献17】特開2009−262079号公報
【特許文献18】特開平6−73584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記の従来方法の欠点を解消し、電解セルの流入口より流入した原料水は、その流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである両電極面に到達し、短時間で電解セル外に排出され、秒オーダーで分解し、時間と共に急速に濃度の低下するオゾンを含有する水、いわゆるオゾン水を高効率で製造でき、流路圧力損失を抑え、且つその製造能力を落とすことなく装置を小型化することができ、さらに簡便な方法によって高効率かつ低コストで生産できるとともに高機能性をも獲得した膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明における第1の課題解決手段は、上記目的を達成する為、貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を有する陽極と、該陽極と同一部位に、貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を有する陰極と、前記貫通孔を持った陽極又は陰極の少なくともいずれか一方の片面又は全面に前記貫通孔を維持したままコーティングした固体高分子電解質隔膜とよりなり、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極を密着させて、膜−電極接合体を構成したことにある。
【0017】
本発明における第2の課題解決手段は、前記膜−電極接合体の前記貫通孔を持った前記陰極の片面に、前記貫通孔を維持したまま固体高分子電解質隔膜をコーティングしたことにある。
【0018】
本発明における第3の課題解決手段は前記膜−電極接合体の前記貫通孔を持った前記陰極の全面に、前記貫通孔を維持したまま固体高分子電解質隔膜をコーティングしたことにある。
【0019】
本発明における第4の課題解決手段は、前記膜−電極接合体の前記貫通孔を持った陽極又は陰極の表面及び貫通孔内に、前記貫通孔を維持したまま陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成して固体高分子電解質隔膜を形成したことにある。
【0020】
本発明における第5の課題解決手段は、前記膜−電極接合体の前記陽極の陽極触媒として、導電性ダイヤモンド、二酸化鉛、貴金属及び貴金属酸化物を用いたことにある。
【0021】
本発明における第6の課題解決手段は、前記膜−電極接合体の陽極及び陰極に通電部材を設けることにより電解セルを構成したことにある。
【0022】
本発明における第7の課題解決手段は、前記膜−電極接合体を複数段重ねてスタック構造とし前記陽極及び陰極に通電部材を設けることにより電解セルを構成したことにある。
【0023】
本発明における第8の課題解決手段は、前記電解セルを構成する前記陽極及び前記陰極の一方に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に原料水を供給する手段を設けるとともに、前記陽極及び前記陰極の他方に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記電解セルにより生成したオゾン水を流出する手段を設けることによりオゾン水製造装置を構成したことにある。
【0024】
本発明における第9の課題解決手段は、前記電解セルを構成する前記陽極に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に原料水を供給する手段を設けるとともに、前記陰極にこれと直角方向又は斜め方向に対流誘導筒を設け、前記電解セルを処理水タンク内に投げ入れ、前記陰極及び陽極より発生する、水素、酸素及びオゾンガスに伴う自然対流を利用して、前記電解セルを稼働することによりオゾン水製造装置を構成したことにある。
【0025】
本発明における第10の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記電解セルを上水道蛇口あるいはそれに類する非精製水の排出口に取り付けたことによりオゾン水製造装置を構成したことにある。
【0026】
本発明における第11の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、原料水を通過させてオゾン水を製造するオゾン水製造方法を構成したことにある。
【0027】
本発明における第12の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記原料水として微量のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む水を用い、前記原料水の水流を陽極側から陰極方向に供給し、かつ、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に前記原料水を通過させ、陰極及び隔膜に水酸化析出物が堆積することを抑制し、オゾン水を製造するオゾン水製造方法を構成したことにある。
【0028】
本発明における第13の課題解決手段は、前記オゾン水製造方法によって製造したオゾン水を用いて被処理水を殺菌することにある。
【0029】
本発明における第14の課題解決手段は、前記オゾン水製造方法によって製造したオゾン水を用いて廃水・廃液を処理することにある。
【0030】
本発明における第15の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記原料水として殺菌用の被処理水を用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記被処理水を通過させて前記被処理水を殺菌することにある。
【0031】
本発明における第16の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記原料水として廃水・廃液を用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記廃水・廃液を通過させて前記陽極及び前記陰極に接触させることによって、前記廃水・廃液を処理し、より低分子量の化合物に分解させることにある。
【0032】
本発明において、オゾン水とは、純水又は水道水等、殺菌用被処理液、廃水・廃液等を本発明による電解セルを用いて電解することによって得られたオゾンガスを主として含有する電解生成物であるが、オゾンガスのほかOHラジカルやスパーオキサイドアニオン等の酸素ラジカル、過酸化水素及びその他の酸化性物質をも含有するオゾンガス含有水を意味するものである。このオゾン水の作用としては、低pH(酸性)ではオゾンガス自体が酸化の主体となり、高pH(アルカリ性)ではオゾンガスが分解し、そのとき生成するOHラジカルによる酸化が主体となり、総酸化等量が同じ場合でも酸化作用はさらに強力となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明による膜−電極接合体、これを用いる電解セルによれば、貫通孔を持った陽極又は陰極の少なくともいずれか一方の片面又は全面に前記貫通孔を維持したままコーティングした固体高分子電解質隔膜とよりなり、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極を密着させて、膜−電極接合体を構成しているので、従来構造による電解セルと比較し装置の小型化・低コスト化が可能である。また、電解電圧が低く高効率であるため、蓄電池あるいは太陽電池を電源とする電解装置の設計が容易である。さらに、微量アルカリ土類金属イオンを含む原料水を用いた場合に問題とされる陰極へのデポジットが抑制されるため、経時電圧上昇が少なく、極めて長寿命となり、メンテナンスの低減、コスト削減効果を達成することができるとともに、電解電圧が低いため、消費電力を大幅に削減することができる。
また、微量アルカリ土類金属イオンを含む原料水を用いた電解の場合、固体高分子電解質隔膜は、陽極よりも陰極にコーティングする方が、長寿命となる。更に、陰極の片面のみにコーティングするよりも、陰極全面を覆うようにコーティングしたものが、電圧上昇が緩やかとなるため、更に長寿命となる。
本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置によれば、
1)本発明による電解セルの流入口より流入した原料水は、その流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである両電極面に到達し、短時間で電解セル外に排出され、秒オーダーで分解し、時間と共に急速に濃度の低下するオゾンを含有する水、いわゆるオゾン水を高効率で製造できる。
2)本発明において、微量アルカリ土類金属イオンを含む原料水を用い、この原料水を陽極側から電解セルに供給した場合、陽極を通過したオゾン水は、直ちに陰極側に流れ込み、その後円滑にかつ速やかに電解セル外に排出され、そのため、陰極液は生成直後の高濃度オゾンガスを含みかつ電位が比較的高く保たれるため、主に微量のアルカリ土類金属のイオンを含む水を原料とするオゾン水製造方法で問題とされる水酸化物の堆積を抑制することができる。
3)流体配管の中間の長手方向にごく短い幅で配置することができるため流路圧力損失が抑えられ、且つ装置の小型化が可能となるとともに、また、陽極、陰極及び固体高分子電解質隔膜から成るユニット(膜−電極接合体)は、必要に応じ複数を重ねて電解セルを構成し、装置能力を容易に増大させることが可能であり、製造能力を落とさずに装置のさらなる小型化が実現できる。そのため、一般上水道への後付による設置を前提とするような、小型装置の商品化設計が容易となる。
4)水の入った容器に脱着の容易な可搬式電解セルを投入して電解を行う、いわゆる投げ込み型装置によるオゾン水製造電解にも適する。水の循環は、装置に組み合わせたポンプによってもよいが、入り口と出口をオープンとし原料水の流れ方向が重力方向に平行となる様に電解セルを設置しさらに装置の出口側に対流促進誘導筒を設けた構造として、電解によるオゾンガス並びにオゾンガスとともに生成される酸素ガス及び水素ガスの上昇に伴う自然対流を利用することで、投げ込み型装置の構造が簡素化され実用上有益である。
5)更に、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置は、既存の技術と組み合わせると多くの用途に実用化の範囲を広げることができる。たとえば、オゾンは水中で容易に分解するため、オゾン濃度が時間と共に急速に低下するオゾン水の実用寿命を延長するために提案されたナノバブルオゾン水(特開2005−246293)の製造装置は、本発明によるオゾン水製造装置の一部にたとえば超音波発生装置を組み込むことにより実現が可能である。この際、陰極あるいは陽極を超音波伝達板として利用すれば、装置サイズをあまり大きくせずに機能を追加できる。
6)また、同様に安定したオゾン水を得る方法として、原料水中あるいは生成オゾン水中に炭酸ガスを溶解させる方法(特開2003−117570他)が提案されているが、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置と組み合わせることが容易に可能となる。
更に、本発明方法による殺菌方法及び廃水・廃液処理方法によれば、時間と共にオゾン濃度の減少するオゾン水を遅滞なく製造することが出来ることに加え、本発明による膜−電極接合体は容易に複数段をスタックすることが可能であるため小型で高効率の処理装置が実現できる。また、その低い電解電圧により高電力効率でオゾン水を製造することが出来るため、効率的に殺菌又は廃水・廃液処理を実施することができる。また、被処理液を電解セルに直接通過させると、電解液と被処理液とが反応サイトである電極と固体電解質の境界面をほぼ同一条件で通過する構造となり、且つ、オゾン水中のオゾンガスの通常の酸化作用に加え陽極液中のオゾン水が陰極に接することにより生成し強力な酸化作用を持つOHラジカルの作用により被処理液が遅滞なく均一に処理されるため、更に高効率の処理を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に使用する膜−電極接合体8’及び電解セル8の一実施態様を示す図。
【図2−1】本発明で使用する膜−電極接合体8’の一実施態様を示す断面図
【図2−2】図2−1の膜−電極接合体8’の陰極側を示す断面図
【図3−1】本発明で使用する膜−電極接合体8’の他の実施態様を示す断面図
【図3−2】図3−1の膜−電極接合体8’の陽極側の本発明によるオゾン水製造装置の一実施態様を示す断面図。
【図4−1】本発明で使用する膜−電極接合体8’の更に他の実施態様を示す断面図
【図4−2】図4−1の膜−電極接合体8’の陰極側を示す断面図
【図5−1】本発明によるオゾン水製造装置の一実施態様を示す断面図。
【図5−2】本発明によるオゾン水製造装置の一実施態様を示す概念図。
【図6】本発明に使用するオゾン水製造装置の他の実施態様を示す図。
【図7】本発明に使用するオゾン水製造装置の更に他の実施態様を示す図。
【図8】本発明の参考例に使用するオゾン水製造装置の一実施態様を示す図。
【図9−1】比較例に用いた電解セル20’を示す図
【図9−2】比較例に用いたオゾン水製造装置の断面を示す図
【図10】実施例3、実施例4、参考例2及び比較例2における電解電圧の経時変化を示す図。
【図11】実施例5、実施例6、参考例3及び比較例4における電解電圧の経時変化を示す図。
【図12】実施例7、実施例8及び比較例5の脱色効果の差異を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の態様を図1に基づいて説明する。
図1は、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置に使用する電解セルの一態様を示す図面であり、1は、貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔11を有する陽極、2は、該陽極1と同一部位に、貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔11を有する陰極であり、3は、前記貫通孔11を持った陰極2の片面に陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成して形成した固体高分子電解質隔膜であり、前記陽極1、前記固体高分子電解質隔膜3及び前記陰極2を密着させて、膜−電極接合体8’が構成されている。陽極1は、オゾン発生用の陽極触媒を所定の形状と物性を持つ構造体に担持させたものであり、その前面に通電部材4が設けられており、陰極2は、水素発生用の陰極触媒を所定の形状と物性を持つ構造体に担持させたものであり、その前面に通電部材5が設けられ、電解セル8が構成されている。6及び7は、通電部材4及び5にそれぞれ接続された通電コードである。貫通孔11は、2個以上としその数は多い方がオゾン発生部位である陽極/固体高分子電解質隔膜界面の露出面積が増大し、好ましい。ただし、本発明の効果を十分に発揮させるためには、貫通孔11は、小さすぎると水の流路抵抗が増大するため、直径0.1mm以上とし、しかも、その数は可能な限り多数として水の円滑な流れを確保することが望ましい。貫通孔11の直径は、1〜5mmが好ましい。
【0036】
固体高分子電解質隔膜3は、前記貫通孔11を持った陽極1又は陰極2の少なくともいずれか一方の片面又は全面に陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成して形成したものである。図2−1、図2−2、図3−1、図3−2及び図4−1、図4−2は、それぞれ、前記陰極1の片面、前記陽極2の片面、及び前記陰極1の全面に陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成した電極およびそれを用いて構成した膜−電極接合体の断面図である。この3様態中では、前記陰極1の片面又は全面に陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成して固体高分子電解質隔膜3を形成することが好ましい。その理由としては、両極で発生する電解ガスの違いによるものであり、発生ガスは、固体高分子電解質隔膜3中の微小間隙等を通じて外部に拡散する必要があるが、陰極で発生する水素の方が、陽極で発生する酸素及びオゾンよりも圧倒的に分子サイズが小さく、拡散が容易である。そのため、図3−1、3−2に示すように、陽極1の表面に固体高分子電解質隔膜3をコーティングした場合、発生した酸素及びオゾンは、コーティングされた固体高分子電解質隔膜3を持ち上げ、固体電解質・電極間の密着性を劣化させ、本発明の効果が十分に発揮されないためである。1aは、陽極基材、1bは、ダイヤモンドコーテイング、2aは、陰極基材、2bは、陰極触媒である。ただし、本特許で使用される主要な陰極基材2aは、そのまま陰極触媒2bとしても作用させることができる。
【0037】
更に、図4−1、4−2に示すように、膜−電極接合体8’の前記陰極全体に陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成して固体高分子電解質隔膜3を形成することが、更に好ましい。その理由は、陰極の片面のみにコーティングするよりも、陰極全体を覆うように陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成して、固体高分子電解質隔膜3を形成した方が電圧上昇が緩やかとなるため、寿命が飛躍的に向上する。その理由としては、陰極全体を固体電解質隔膜により覆うことにより、水酸化物の堆積が陽極との対向面、すなわち、電解反応面に集中せず、陰極全体に分散するからである。これは、電解後の堆積物観察より明らかである。更に、水酸化物が堆積しても、陰極の金属またはセラミックス面との間に存在する固体電解質隔膜により、水酸化物の堆積が反応面である金属またはセラミックス面すなわち陰極触媒表面を直接覆うことが無いため、陰極の水素発生反応が阻害されにくいと考えられる。具体的には、原料水中の微量のアルカリイオン例えばNa+は陰極表面に引き寄せられ、そこで陰極反応、Na++H2O+e-→NaOH+(1/2)H2によって陰極表面はアルカリ性となり、固体高分子電解質隔膜表面から滲みだして原料水中へ拡散する。このとき、イオン半径がNa+より大きい微量のアルカリ土類金属イオン例えばCa2+はNa+よりイオンの輸率としては小さいから、陰極表面に達する前に、固体高分子電解質隔膜表面近傍でアルカリ析出してCa(OH)2となる。この現象は膜−電極接合体の目視ないしは若干の拡大観察により、陰極の全面を固体高分子電解質隔膜で覆った場合には、陽極に対向する部分だけでなく、裏面も含めて陰極全面に同じように出現することが分かる。このように、陰極触媒表面それ自体は直接Ca(OH)2の析出層で覆われることがなくなり、電解は継続されることになる。ただし陰極表面で生成される水素分子の固体高分子電解質隔膜内の排出経路は次第に狭められることになるから、わずかながらも次第にセル電圧は上昇することになる。
【0038】
本発明の上記の態様においては、前記貫通孔11を持った陽極1又は陰極2の少なくともいずれか一方の片面又は全面に前記貫通孔11を維持したままコーティングした固体高分子電解質隔膜3を形成するためには、前記貫通孔を持った陽極1又は陰極2の少なくともいずれか一方の片面又は全面に陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成しており、陽イオン交換樹脂の分散液として、陽イオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基等を持った樹脂が挙げられるが、特にスルホン酸基を有し、化学安定性に優れるパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換樹脂の分散液が好適である。いわゆるこのパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換樹脂は完全には溶媒に溶けず、溶媒中で直径10nm前後の比較的大きなコロイドとして凝集していると考えられている。
イオン交換樹脂膜の形成工程は、先ず前述した電極基材上にこの分散液をスプレー、ローラー、刷毛、スポンジ等により塗布し、室温で所定の時間静置して溶媒の乾燥を行う。このとき分散液をノズル及びチップから滴下したまま放置し、平準化は分散液の拡張濡れに任すこともできる。さらに乾燥塗膜化した分散液−電極基材を120〜350℃に加熱する。加熱は乾燥器やマッフル炉やヒーティングガンを用いてもよく、ホットプレート上で行なってもよい。加熱温度は溶媒を蒸発するのみではなく、凝集コロイドを焼結させる必要があるが、あまりに高いと高分子が変質する恐れもあるので、150〜250℃程度が好ましい。このとき前述の微小間隙が形成されるものと考えられる。
電極基材上にあらかじめフッ素樹脂メッシュを置いたり、分散液にフッ素樹脂の架橋剤やフッ素樹脂フィラーを含有させておくと、加熱処理後に、補強された被膜を得ることができる。その他プロトン導電性の物質を利用して機械的強度を向上させる方法もある。
前記貫通孔を持った陽極1又は陰極2の少なくともいずれか一方の片面又は全面に前記貫通孔11を維持したままコーティングした固体高分子電解質隔膜3を形成するための他の方法としては、イオン交換樹脂の粉体により電極表面を被覆し、その後、加熱して半溶融状態で皮膜を形成する粉体コーティング法もある。
【0039】
図5−1及び図5−2は、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置の一態様を示す図面であり、電解セル8には、通常電解用直流電源が接続されている。9は、陽極1の前面に設けられた陽極室、10は、陰極2の前面に設けられた陰極室、12は、電解セル8の陽極室9に原料水を供給するパイプ、13は、電解セル8の陰極室10より電解により生成するオゾン水を流出するパイプ、14は、電解セル8の陽極室9に原料水を供給する流入口、15は、電解セル8の陰極室10よりオゾン水を流出する流出口である。
【0040】
図5−1及び図5−2においては、前記電解セル8を構成する前記陽極1及び前記陰極2の同一部位に、これらを貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔11が2個以上設けられ、前記陽極1又は前記陰極2の少なくともいずれか一方の片面には、前記貫通孔11を維持したまま、前記固体高分子電解質隔膜3がコーティングされ、かつ、前記陽極室9に前記陽極1、前記固体高分子電解質隔膜3及び前記陰極2の表面に対して、これと直角方向又は斜め方向に原料水の流入口14、原料水供給用のパイプ12が接続され、前記陰極室10にこれと直角方向又は斜め方向にオゾン水の流出口15、オゾン水流出用のパイプ13が接続される。尚、前記固体高分子電解質隔膜3としては、前述の通り、前記陰極2の表面、裏面、貫通孔の全面を覆うように設けてもよい。
電解セル8としては、陽極室9、陰極室10、原料水の流入口14、オゾン水の流出口15は設けることなく、通電部材4、5を直接、原料水供給用のパイプ12、オゾン水流出用のパイプ13に接続してもよい。
また、前記電解セル8は、原料水の流れ方向に対して、直角方向ではなく、斜め方向に設けることもでき、斜め方向に設けた場合、電解面積が広くなり、オゾンの生成量を更に増加することができる。
【0041】
原料水としては、純水、水道水又は少量の塩素又は次亜塩素酸塩を含有する水を使用することができる。原料水は、通常、陽極側より流入し、陰極側より電解により生成するオゾン水を流出させることが好ましい。しかるに、原料水として、純水を使用する場合には、上記に加えて、原料水としての純水を陰極側より流入し、陽極側より電解により生成するオゾン水を流出させることもできる。
【0042】
前記電解セル8は、膜−電極接合体8’を複数段重ねてスタック構造とした電解セルを用いることができる。即ち、陽極/固体高分子電解質隔膜/陰極を単位とする要素体を2段重ねとし、上記と同様に電解セルを構成すると、オゾン濃度及び電流効率を向上することができる。膜−電極接合体8’を2段とすることで必要な電解電圧は2倍強となるが、得られるオゾン水中のオゾン濃度を57〜67%高めることが出来る。なお、膜−電極接合体8’は薄い構造体のためそれらを複数重ねてもほぼ同一形状の電解セルを用いることができる。
【0043】
前記原料水として微量のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む水、例えば水道水を用いる場合には、原料水の水流を陽極側から陰極方向に流すよう、前記陽極室9に前記陽極1、前記固体高分子電解質隔膜3及び前記陰極2の表面に対して、これと直角方向又は斜め方向に原料水の流入口14、原料水供給用のパイプ12を接続し、前記陰極室10にこれと直角方向又は斜め方向に電解により生成するオゾン水の流出口15、オゾン水流出用のパイプ13を接続し、原料水を陽極側より陰極側に通過させることが必要である。これにより陰極2及び固体高分子電解質隔膜3に水酸化析出物が堆積することを抑制することができる。
【0044】
図6は、本発明の更に他の実施態様を示すものであって、前記電解セル8に通電コード6、7を接続するとともに、電解により生成するオゾン水の流出口15に直角方向又は斜め方向に対流誘導筒17を設け、前記電解セル8を処理タンク18内に投げ入れたものである。本装置によると、陰極2及び陽極1より発生する、水素、酸素及びオゾンガスに伴う自然対流により、前記電解セルを稼働することができるようになり、電動ポンプ等の動力機構を設ける必要が無くなり、装置を小型化することができる。
また、通電コード6、7を設ける代わりに、電解セル8に電池を組み込めば、更に、可搬性を向上させることができる。
【0045】
図7は、本発明の更に他の実施態様を示すものであって、前記電解セル8を上水道蛇口19あるいはそれに類する非精製水の排出口に取り付けたものである。本発明による電解セル8は、前記陽極室9及び前記陰極室10のいずれか一方より、前記陽極1、前記固体高分子電解質隔膜3及び前記陰極2の表面に対して、直角方向又は斜め方向に原料水を通過させてオゾン水を製造するので、本発明で用いる電解セル8は、流体配管の中間の長手方向にごく短い幅で配置することができるため流路圧力損失が抑えられ、且つ装置の小型化が可能である。
【0046】
電解セル8に使用する陽極1の陽極触媒としては、導電性ダイヤモンド電極が好ましい。貴金属及び貴金属酸化物電極に比較して、オゾン発生効率が高く、また二酸化鉛電極のような環境に及ぼす負荷がなく、停止時に放置しても活性が維持されるため、汎用性に優れているからである。
ダイヤモンドは、ドーピングにより電気伝導性の制御も可能であることから、電極材料として有望とされている。ダイヤモンド電極は非常に広い電位窓を持ち、酸素発生反応に対する活性化過電圧が大きく、酸化反応では酸素以外にオゾンの生成が報告されている(特開平11−269686号公報)。陽極基材としては処理水中で安定な不働態化被膜を形成するタンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム及びシリコン等の金属及びそれらの合金を用いれば、ダイヤモンド触媒は必ずしも陽極を完全に覆わなくともよく、前記基材の一部が露出していても大きな支障はない。代表的な熱フィラメントCVD法について以下に説明する。炭素源となるメタンCH4など炭化水素ガス、或いはアルコールなどの有機物を用い、CVDチャンバー内に水素ガスと共に送り込み、還元雰囲気に保ちながら、フィラメントを熱し、炭素ラジカルが生成する温度1800〜2400℃にする。このときダイヤモンドが析出する温度(750〜950℃)領域に電極基材を設置する。水素に対する炭化水素ガス濃度は0.1〜10vol%、圧力は20hPa〜1013hPa(1気圧)である。
【0047】
ダイヤモンドが良好な導電性を得るために、原子価の異なる元素を微量添加することは不可欠である。ホウ素BやリンPの好ましい含有率は1〜100000ppmであり、更に好ましくは100〜10000ppmである。原料化合物にはトリメチルボロン(CH33Bを用いるが、毒性の少ない酸化ホウ素B23、五酸化二燐P25などの利用も好ましい。電極基材の形状としては、板のみならず、粒子、繊維、棒及び本発明で用いたような穴明き板などが可能である。
【0048】
電解セル8に使用する陰極2の陰極反応は主に水素発生であり、水素に対して脆化しない電極触媒が好ましく、白金族金属、ニッケル、ステンレス、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、シリコン、金、銀、カーボン、ダイヤモンド、各種金属炭化物などが好ましい。陰極2の陰極基材としてはステンレスの他、ジルコニウム、カーボン、ニッケル、チタン、モリブデン、タングステン、シリコン及びそれらの炭化物などに限定される。本発明の装置では、いずれもオゾン等の酸化性物質の溶解した水と接触する配置となるため、酸化耐性に優れたものが好ましく、またステンレスやニッケル等電極基材は、そのまま電極触媒として使用することができる。
【0049】
また、陽極触媒として、導電性ダイヤモンド、無定型カーボン、グラファイト、二酸化鉛、貴金属および貴金属酸化物を反応触媒活性等の観点から適宜選択して、電極を入れ替えるだけで、有機電解合成、ダイオキシンを含む有機塩素化合物の分解、廃液処理、開発途上国における河川水の飲料水化、オゾン水製造等の用途に対応させることができる。
【0050】
更に、本発明による殺菌方法においては、原料水として、純水又は水道水等を用いて、本発明による電解セルによりオゾン水を製造した後、製造されたオゾン水を用いて、被処理液を殺菌する。
【0051】
また、本発明による他の殺菌方法としては、原料水として、純水又は水道水等の代わりに、直接、殺菌に適用する被処理液を電解液として、本発明による電解セルに供給し、該被処理液を直接電解し、被処理液を殺菌してもよい。
【0052】
更に、本発明による廃水・廃液処理法においては、原料水として、純水又は水道水等を用いて、本発明による電解セルによりオゾン水を製造した後、製造されたオゾン水を用いて、廃水・廃液を処理する。
【0053】
また、本発明による他の廃水・廃液処理法としては、原料水として、純水又は水道水等の代わりに、直接、被処理液である廃水・廃液を電解液として、本発明による電解セルに供給し、該廃水・廃液を直接電解し、廃水・廃液を処理してもよい。
【実施例】
【0054】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
<実施例1、実施例2、参考例1、比較例1>−純水電解−
実施例1として、図1に示す電解セル8、図2−1、2−2に示した膜−電極接合体、図5−1、図5−2に示すオゾン水製造装置を次のようにして製作した。
直径25mm厚さ3mmのニオブ板に直径3mmの孔を図1の配置で31個設けた基材にボロンドープダイヤモンド(BDD)を約9.6g/m2単位面積重量でコーティングし陽極とした。また、SUS304の板材を陽極と同一形状に加工し陰極とした。さらに、陰極の片面には、市販の陽イオン交換樹脂5%分散液(商品名:ナフィオンDE520、デュポン(株)の登録商標)を塗布し、200℃で焼成して固体高分子電解質隔膜被膜とし、前記陽極と組み合わせ、膜−電極接合体を構成した。この接合体を樹脂製の筐体に組み入れ電解セルとし、陽極及び陰極の両側に設けた純チタン製通電部材を通じ通電した。両電極と固体高分子電解質間の密着度合いは電解装置のオゾン生成特性に影響を与えるため、電解セルの一端に切られたM30のねじを5Nmのトルクで締め込むことで一定の圧力を確保した。このように構成した電解セルは、小型で且つ内部の被電解水の流路が直線的であり圧力損失が抑えられると同時に、既存配管への取り付けも容易である。
原料水としては20℃に保った純水(イオン交換水)を用い上記電解セルに一定流量を陽極側から導入した。また、直流定電流装置を用いて装置に一定電流を通電し、電圧計により電極間電圧(セル電圧)をモニターした。設定した原料水の流量及び電流値は表1中に示す。電解により生成したオゾン水中のオゾン濃度は、電解開始後5分以上経過して条件が安定した時点で電解セル出口水を一定量採取し、日本オゾン協会の暫定規格「オゾン濃度測定方法(平成6年3月刊)」に準拠し、硫酸酸性、ヨウ素・チオ硫酸ナトリウム滴定法により測定した。電解試験は、電流値を1.67Aとし、流水量を毎分170mlに設定して行った。
実施例2として、実施例1と同一のセルを用い、電解試験を、電流値を3.34Aとし流水量を毎分320mlに設定して行った。
生成されるオゾン水中のオゾン濃度は、オゾン水としての殺菌作用や洗浄作用の効果を左右するパラメーターであり、その用途により異なる一定範囲内の濃度で有ることが求められるが、そのような用途要求濃度より生成オゾン水中の濃度が高い場合には、流水量を増やすなどにより容易に調整が可能であるため、一般に装置能力としての生成オゾン濃度は高い方が好ましいとされる。
【0056】
参考例1として、図8に示した電解セル8を次のようにして製作した。
直径25mm厚さ3mmのニオブ板に直径3mmの貫通孔11を31個設けた基材にボロンドープダイヤモンド(BDD)を約9.6g/m2単位面積重量でコーティングした陽極1とSUS304の板材を陽極1と同一形状に加工し両面をエミリー紙で1000番まで研磨した陰極2を用い、陽極1/陰極2間には、市販のパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換膜(商品名:ナフィオン350、デュポン(株)の登録商標)を直径25mmに切り出し電極と同様に直径3mmの貫通孔11を計31個空けた固体高分子電解質隔膜3を挟み、膜−電極接合体8’を作成した。この膜−電極接合体8’を樹脂製の筐体に組み入れ、陽極1及び陰極2の両側に純チタン製通電部材4、5及び通電コード6、7を設け、電解セル8通じ通電し、実施例1と同様に純水を用いたオゾン水製造試験を実施した。
【0057】
比較例1として、図9−1に示す膜−電極接合体20’、図9−2に示すオゾン水製造装置を次のようにして製作した。即ち、実施例1及び実施例2と同様に貫通孔を設けた陽極21及び陰極22の間に、孔加工を行っていない市販のパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換膜(商品名:ナフィオン350、デュポン(株)の登録商標)より成る固体高分子電解質隔膜23を挟み込み、樹脂製M2ねじ24で固定して膜−電極接合体20’を構成し、これに通電リング25を接続し、電解セル20とし、長手方向に拡大した電解セル20の内部に原料水が電極面に平行に流れるように配置したオゾン水製造装置を用い実施例1と同様に純水を原料水としたオゾン水生成試験を実施した。
実施例1、実施例2、参考例1、比較例1の結果を表1に示す。
【0058】

【0059】
表1から明らかなように、実施例1及び実施例2では、本発明による電解セルによるオゾン水生成効率が、固体高分子電解質隔膜として既成の陽イオン交換膜を用いた以外は本発明と同一構成の電解セルを用いた参考例1、および従来構成の電解セルによる比較例1と比較し、セル電圧が顕著に低く電流効率及び生成オゾン水中のオゾン濃度も同等以上であることが、明らかとなった。
また、電解によるオゾン水製造装置の性能は、一般に、生成したオゾン水中のオゾン濃度あるいは電流効率により評価されるが、環境負荷の低減あるいはバッテリー駆動の可搬式装置設計の観点からは、電流効率ではなく、消費される電力効率により比較することが有意義であろう。その目的で、表1中に電力効率も併せて記載した。表1より、本発明による電解セルの電力効率の高さが顕著であることが分かる。なお、実施例2の消費電力量が高いのは、水の流量が毎分320mlと、実施例1、比較例1、及び参考例1の2倍であり、単位時間あたり倍のオゾン水を製造したためである。
【0060】
<実施例3、実施例4、参考例2、比較例2>−水道水電解−
次に、原料水として純水の代わりに水道水を用いた場合の実施例、参考例及び比較例を実施例3〜4、参考例2及び比較例2として示す。
実施例3〜4として、先ず、オゾン水製造装置を次のようにして製作した。実施例1及び実施例2に記載の方法でニオブ板を加工しボロンドープダイヤモンドのコーティングを行ない陽極とした。また、SUS304の板材を陽極と同一形状に加工し陰極とした。実施例3では、図3−1、3−2に示すように、陽極の片面に市販の陽イオン交換樹脂5%分散液(商品名:ナフィオンDE520、デュポン(株)の登録商標)を塗布し、200℃で焼成して固体高分子電解質隔膜とし、前記陰極と組み合わせ、膜−電極接合体を構成した。
また、実施例4では、図2−1、2−2に示すように、陰極の片面に同様に陽イオン交換樹脂をコーティングし、前記ボロンドープダイヤモンドをコーティングした陽極と組み合わせ、膜−電極接合体を実施例1〜2と同一構成とした。これらの膜−電極接合体を実施例1〜2と同様に樹脂製の電解セルに組み入れ電解セルとし、陽極及び陰極の両側に設けた純チタン製通電部材を通じ通電した。原料水として一般上水道水を用い、流量及び電解電流をそれぞれ、毎分170ml、0.5Aとし、200時間の連続電解試験により、主にCaなど水道中に微量に含まれるアルカリ土類金属イオンが水酸化物として堆積する程度を調べた。また、電解時における陽極/陰極間の電圧を電解電圧としてモニターし、5分間隔で自動記録した。
【0061】
次に、参考例1と同一構成の電解セルを用い、水道水を原料として、実施例3〜4と同一電解条件でオゾン水製造実験を行い参考例2とした。
【0062】
更に、比較例1と同一構成の電解セルを用い、水道水を原料として同一条件でオゾン水製造実験を行い、比較例2とした。
【0063】
<比較例3>
一般の水道水は微量のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、塩素イオン及び炭酸イオンなどを含むため若干の導電性を示す。そのため、固体高分子電解質隔膜を陽極/陰極間に設置せずに実施例1記載の貫通孔を設けた陽極と陰極を至近距離に設置することで、本発明と同様な効果が得られる可能性を検証した。比較例3では、実施例1及び実施例2記載のコーティングによる固体高分子電解質隔膜に換えて、直径25mmに加工した厚さ0.75mm、メッシュサイズLW6.6mm、SW4.4mmのポリエチレンメッシュをセパレーターとして陽/陰極間に設置し、水道水電解試験に供した。原料の水道水は、実施例3〜4と同様に両極に開けられた貫通孔を通じて陽極側から陰極側に流出する。ただし、固体高分子電解質隔膜を用いない本例では、実施例3〜4と同程度の電流を通電することは、電解電圧が電源の電圧能力の上限である30Vに達するため不可能であり、電解電流を0.1Aとした。
本明細書記載の他の水道水電解と同様、電解電圧は時間と共に上昇し約140時間で20Vに達した。その後、電解を継続したが、電源の電圧能力の上限である30Vに達した330時間を経過した時点で最終的に電解を中止した。
試験後の電解セルを分解して調べたところ、電流値は5分の1と少ないにもかかわらず、比較例2と同程度の水酸化物の堆積が確認された。
すなわち、本例より固体高分子電解質隔膜を用いないオゾン水製造は、極めて非効率であることが明らかである。
【0064】
実施例3、実施例4、参考例2、比較例2、比較例3の結果を表2に示す。また、実施例3、実施例4、参考例2、比較例2の電圧の経時変化を図10に示す。
【0065】

【0066】
表2から明らかなように、連続電解を200時間行った後に電解セルを分解し、水酸化物の堆積状態を目視により調べた結果、比較例2では陰極全面に厚い堆積が認められたのに対し、実施例3、実施例4、及び参考例2では、堆積量はほぼ同程度で比較的軽度であった。
一方、電解電圧は水酸化物の堆積に伴い徐々に増加するが、図10に示すように、その上昇の程度は膜−電極接合体の構成の違いにより、明確に異なった。比較例2では、電解電圧は、200時間で30Vに達したのに対し、参考例2、実施例3、実施例4の順にその上昇が緩やかであり、本提案の優位性が確認できる。特にカソード側に固体電解質をコーティングし膜−電極接合体を構成した実施例4では、アノード側に固体電解質をコーティングした実施例3と比較して電解電圧が安定しており、その上昇も極めて緩やかであった。これは、コーティングされた固体電解質は、構成する高分子間の間隙あるいは、分散液からのコーティングプロセス中に膜中に生じる無数の微小間隙等を通じたガス透過特性に関連しているものと推測される。すなわち、電解により発生する気体は、陰極側では水素であり、分子サイズが小さく容易に膜中を通過拡散できるのに対し、陽極側では、発生する酸素及びオゾンの分子サイズが大きいため膜透過性が低いことに起因し、陽極側では、発生した酸素ガス及び水中に溶け込むことの無かったオゾンガスが固体高分子電解質隔膜を持ち上げ、本発明のポイントである固体高分子電解質隔膜・電極間の密着性を劣化させるため、結果的に膜−電極接合体が既存の固体高分子電解質隔膜を用いた構成に近づき、本発明の効果が十分に発揮されないものと考えられる。また逆に、ガスによる固体電解質の密着性劣化が発生しない場合には、陽極を全面的に覆った固体高分子電解質隔膜により、原料である水の供給が制限され電解反応が律速されることも高電圧の要因となり得る。なお、一般に実用水電解では電解電圧がある一定値に達した時点を目安に酸洗等により堆積物を除去し機能を復活させるためのメンテナンス作業が行われるため、電解電圧の上昇が緩やかであることは、メンテナンス低減の観点から有益である。
【0067】
<実施例5、実施例6、参考例3、比較例4>−水道水電解−
オゾン水製造効率の向上を目的として、水道水を原料とした高電流密度電解を行った。先ず、陽極用ニオブ板材及び陰極用SUS304板材を実施例1〜2と同様に加工し、陰極には実施例1、2、4記載の固体電解質をコーティングした。その際、固体電解質コーティングを片面に施した陰極による膜−電極接合体を用いた電解セル(実施例1、2、4と同一構成)による電解試験を実施例5とし、図4−1、4−2に示すように、通電部を除いた全露出表面、すなわち陽極との対向面、その裏面及び貫通孔壁面を固体高分子電解質隔膜のコーティングで覆った陰極による膜−電極接合体を用いた電解セルによる電解試験を実施例6とした。電流は、2.0Aとし、水流量は、毎分170mlとした。その他の電解試験実施要領は、実施例3及び実施例4と同一である。
また、参考例3として、参考例1と同一構成の電解セルを用い、水道水を原料として、実施例5〜6と同一電解条件でオゾン水製造実験を行い参考例3とした。
さらに、比較例1と同一構成の電解セルを用い、水道水を原料として実施例5〜6と同一条件でオゾン水製造実験を行い、比較例4とした。電解開始後のオゾン濃度は、実施例1〜2記載の方法により測定した。ただし、本実施例では、原料水中に微量に含まれる塩素イオンから生成される次亜塩素酸などオゾン以外の酸化性物質も生じるため、実施例1〜2記載のヨウ素法ではオゾンにそれらを加えた酸化性物質の総酸化等量が求められる。
実施例5、実施例6、参考例3、比較例4の結果を表3に示す。また、電圧の経時変化を図11に示す。
【0068】

【0069】
表3及び図11から明らかなように、参考例3及び比較例4の電解試験では、何れも電解電圧が早期に上昇し、先ず比較例4、次いで参考例3が順次20Vを超えたため、5時間で電解を中止した。また、実施例5及び実施例6では電圧上昇が穏やかであったため、それぞれ電圧が20Vに達した59時間及び122時間の時点で電解を中止した。以上の結果より、水道水のような微量アルカリ及びアルカリ土類イオンを含む原料水を用いたオゾン水製造用装置の場合、メンテナンスなしで操業できる稼働時間は、実施例6>実施例5>>参考例3>比較例4の順で長い。すなわち、本提案による膜−電極接合体を用いた電解セルは、従来の電解セルと比較し顕著に優れており、また、本提案による実施例間の比較からは、陰極全体を固体電解質で覆うことでさらに優れた性能が発揮されることがわかる。
なお、実施例5及び実施例6において測定されたオゾン濃度換算の酸化性物質量は、参考例3と同等で、比較例4を上回った。
【0070】
<実施例7、実施例8、比較例5>−廃水処理(脱色効果の確認)−
実施例7として、固体高分子電解質隔膜被膜を陰極の片面に形成した実施例5に記載の膜−電極接合体及び電解セルを用いて、以下の通り廃水処理試験を行った。また、実施例8として、固体高分子電解質隔膜被膜を陰極の全面に形成した実施例6に記載の膜−電極接合体及び電解セルを用いて、以下の通り廃水処理試験を行った。
原料水としては、純水(イオン交換水)に赤色の染色原料であるアマランスを被処理物質として100ppm添加した溶液を用いた。本実施例で用いたダイヤモンド陽極は、環境ホルモンや農薬等の多数の化合物が分解できるため被処理物質はこれに限定されるものではない。
原料水500mlを上部開放の三角フラスコに入れて20℃に保ち、上記電解セルに毎分70mlで陽極側から導入し、陰極側から排出させ、さらに三角フラスコに還流させた。また、直流定電流装置を用いて電解セルに2.0Aを通電した。
電解開始後、初期及び0.5時間、1.0時間、1.5時間経過時において、上記三角フラスコ中から液を5mlずつ採取し、300〜700nmの波長範囲で紫外可視分光光度計(型番UV−2500PC、(株)島津製作所製)による測定を行った。アマランスの0.5時間経過時における吸収スペクトルを図12に示した。吸光度が小さいほどアマランス濃度も小さい。
波長521nm付近の吸収スペクトルを用い、初期の原料液の吸光度から検量線を作成して、0.5時間経過時のアマランス濃度を定量したところ、その濃度は固体高分子電解質隔膜被膜をSUS304陰極の片面に施した実施例7の膜−電極接合体が8.0ppm、全面に施した実施例8の膜−電極接合体は9.3ppmであった。
実施例7及び8の膜−電極接合体は、いずれもアマランス濃度は時間が経過するごとに低下して、1.5時間経過時にはほとんど脱色され、その濃度はいずれも0.3ppmであった。分解生成物を分析したところ、アマランスの分解生成物であるCO3-、シュウ酸等の低分子量化合物が生成していることが確認された。
【0071】
比較例5として、比較例1に記載の膜−電極接合体及び電解セルを用いたこと以外は、実施例7、実施例8に記載の原料水、電解方法及び測定方法を用いて実験を行った。アマランスの0.5時間経過時における吸収スペクトルを図12に示した。吸光度が小さいほどアマランス濃度も小さい。
0.5時間経過時のアマランス濃度を定量したところ、その濃度は10.9ppmであった。
アマランス濃度は時間が経過するごとに低下して、1.5時間経過時にはほとんど脱色され、その濃度は0.3ppmであった。分解生成物を分析したところ、アマランスの分解生成物であるCO3-、シュウ酸等の低分子量化合物が生成していることが確認された。
図12から、実施例7及び実施例8のアマランス濃度の減少の速度が比較例5より大きいことは明らかである。なお、実施例8の濃度減少速度が実施例7と比較しやや劣るのは、固体高分子電解質隔膜により陰極の全面が覆われているため、陽極で生成したオゾンが陰極触媒に触れることにより発生し強い酸化力を持つOHフリーラジカルの生成が抑制されるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の膜−電極接合体によれば、貫通孔を持った陽極1又は陰極2の少なくともいずれか一方の片面または全面に陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成して固体高分子電解質隔膜3としているので、装置の製作コストを著しく抑えることができるとともに、電解電圧が低下し、電力効率を飛躍的に向上させることができる。
本発明は、流体配管の中間の長手方向にごく短い幅で配置することができるため流路圧力損失が抑えられ、且つ装置の小型化が可能となるとともに、また、陽極、陰極及び固体高分子電解質隔膜から成る膜−電極接合体は、必要に応じ複数を重ねて電解セルを構成し、装置能力を容易に増大させることが可能であり、オゾン水製造能力を落とさずに装置のさらなる小型化が実現できる。そのため、一般上水道への後付による設置を前提とするような、小型装置の商品化設計が容易となるとともに、更に、水の入った容器に脱着の容易な可搬式電解セルを投入して電解を行う、いわゆる投げ込み型装置によるオゾン水製造電解にも適する。しかも、水の循環は、装置に組み合わせたポンプによってもよいが、入り口と出口をオープンとし原料水の流れ方向が重力方向に平行となる様に電解セルを設置しさらに装置の出口側に対流促進誘導筒を設けた構造として、電解によりオゾンガス以外に生成される酸素ガス及び水素ガスの上昇に伴う自然対流を利用することで、投げ込み型装置の構造が簡素化され実用上有益である。更に、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置は、既存の技術と組み合わせると多くの用途に実用化の範囲を広げることができる。たとえば、オゾンは水中で容易に分解するため、オゾン濃度が時間と共に急速に低下するオゾン水の実用寿命を延長するために提案されたナノバブルオゾン水の製造装置は、本発明によるオゾン水製造装置の一部にたとえば超音波発生装置を組み込むことにより実現が可能である。この際、陰極あるいは陽極を超音波伝達板として利用すれば、装置サイズをあまり大きくせずに機能を追加できる。また、同様に安定したオゾン水を得る方法として、原料水中あるいは生成オゾン水中に炭酸ガスを溶解させる方法が提案されているが、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置と組み合わせることが容易に可能となる。
また、本発明は、有機電解合成、ダイオキシンを含む有機塩素化合物の分解、廃液処理、開発途上国における河川水の飲料水化等の用途に対応させることができる。
【符号の説明】
【0073】
1:陽極
1a:陽極基材
1b:ダイヤモンドコーテイング
2:陰極
2a:陰極基材
3:固体高分子電解質隔膜
4、5:通電部材
6、7:通電コード
8:電解セル
8’:膜−電極接合体
9:陽極室
10:陰極室
11:貫通孔
12:原料水の流入パイプ
13:オゾン水の流出パイプ
14:流入口
15:流出口
16:面積制限リング
17:対流誘導筒
18:処理槽
19:水道蛇口
20:電解セル
20’:膜−電極接合体
21:陽極
22:陰極
23:固体高分子電解質隔膜
24:ねじ
25:通電部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を有する陽極と、該陽極と同一部位に、貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を有する陰極と、前記貫通孔を持った陽極又は陰極の少なくともいずれか一方の片面又は全面に前記貫通孔を維持したままコーティングした固体高分子電解質隔膜とよりなり、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極を密着させて、膜−電極接合体を構成したことを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項2】
前記膜−電極接合体の前記貫通孔を持った前記陰極の片面に、前記貫通孔を維持したまま固体高分子電解質隔膜をコーティングしたことを特徴とする請求項1に記載の膜−電極接合体。
【請求項3】
前記膜−電極接合体の前記貫通孔を持った前記陰極の全面に、前記貫通孔を維持したまま固体高分子電解質隔膜をコーティングしたことを特徴とする請求項1に記載の膜−電極接合体。
【請求項4】
前記膜−電極接合体の前記貫通孔を持った陽極又は陰極の表面及び貫通孔内に、前記貫通孔を維持したまま陽イオン交換樹脂の分散液を塗布、焼成して固体高分子電解質隔膜を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の膜−電極接合体。
【請求項5】
前記陽極の陽極触媒として、導電性ダイヤモンド、二酸化鉛、貴金属及び貴金属酸化物を用いたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の膜−電極接合体の陽極及び陰極に通電部材を設けたことを特徴とする電解セル。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の膜−電極接合体を複数段重ねてスタック構造とし前記陽極及び陰極に通電部材を設けたことを特徴とする電解セル。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電解セルを構成する前記陽極及び前記陰極の一方に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に原料水を供給する手段を設けるとともに、前記陽極及び前記陰極の他方に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記電解セルにより生成したオゾン水を流出する手段を設けたことを特徴とするオゾン水製造装置。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の電解セルを構成する前記陽極に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に原料水を供給する手段を設けるとともに、前記陰極にこれと直角方向又は斜め方向に対流誘導筒を設け、前記電解セルを処理水タンク内に投げ入れ、前記陰極及び陽極より発生する、水素、酸素及びオゾンガスに伴う自然対流により、前記電解セルを稼働することを特徴とするオゾン水製造装置。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の電解セルを用い、前記電解セルを上水道蛇口あるいはそれに類する非精製水の排出口に取り付けたことを特徴とするオゾン水製造装置。
【請求項11】
請求項6又は7に記載の電解セルを用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、原料水を通過させてオゾン水を製造することを特徴とするオゾン水製造方法。
【請求項12】
請求項6又は7に記載の電解セルを用い、前記原料水として微量のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む水を用い、前記原料水の水流を陽極側から陰極方向に供給し、かつ、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に前記原料水を通過させ、陰極及び隔膜に水酸化析出物が堆積することを抑制し、オゾン水を製造することを特徴とするオゾン水製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のオゾン水製造方法によって製造したオゾン水を用いて被処理水を殺菌することを特徴とする殺菌方法。
【請求項14】
請求項11又は12に記載のオゾン水製造方法によって製造したオゾン水を用いて廃水・廃液を処理することを特徴とする廃水・廃液処理方法。
【請求項15】
請求項6又は7に記載の電解セルを用い、前記原料水として殺菌用の被処理水を用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記被処理水を通過させて前記被処理水を殺菌することを特徴とする殺菌方法。
【請求項16】
請求項6又は7に記載の電解セルを用い、前記原料水として廃水・廃液を用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記廃水・廃液を通過させて前記廃水・廃液を処理することを特徴とする廃水・廃液処理方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−246800(P2011−246800A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197149(P2010−197149)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(510122980)アクアエコス株式会社 (2)
【出願人】(390014579)ペルメレック電極株式会社 (62)
【Fターム(参考)】