説明

膜−電極接合体の製造方法

【課題】 所望の細孔および所望のプロトン伝導度を有する触媒層を備えた膜−電極接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 膜−電極接合体(100)の製造方法は、プロトン伝導性電解質膜(10)を準備する準備工程と、プロトン伝導性電解質膜上に触媒およびプロトン伝導性電解質を含有するインク(21)を塗布して触媒層(20)を形成する触媒層形成工程と、プロトン伝導性電解質膜および触媒層に対して、所定の温度範囲に加熱しつつ、プロトン伝導性電解質膜と触媒層との積層方向に加圧する加圧工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜−電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池には、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜に多孔質触媒層を接合させた膜−電極接合体が用いられていることが多い。この膜−電極接合体は、固体高分子電解質膜上にスプレー法等によって触媒層を塗布することによって作製される(例えば、特許文献1参照)。また、膜−電極接合体は、熱転写法によって作製することもできる(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−68119号公報
【特許文献2】特開2004−193109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、触媒層を電解質膜に接合することができるが、触媒層の細孔およびプロトン伝導度を最適化することができない。また、特許文献2の技術では、触媒層を電解質膜に接合するためには、熱転写時に高温高圧にする必要がある。したがって、所望の細孔、所望のプロトン伝導度を有する触媒層を得ることができない。
【0005】
本発明は、触媒層を電解質膜に接合することができるとともに、触媒層の細孔およびプロトン伝導度を最適化することができる膜−電極接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る膜−電極接合体の製造方法は、プロトン伝導性電解質膜を準備する準備工程と、プロトン伝導性電解質膜上に触媒およびプロトン伝導性電解質を含有するインクを塗布して触媒層を形成する触媒層形成工程と、プロトン伝導性電解質膜および触媒層に対して所定の温度範囲に加熱しつつプロトン伝導性電解質膜と触媒層との積層方向に加圧する加圧工程とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
本発明に係る膜−電極接合体の製造方法においては、触媒層を電解質膜に接合することができる。また、加圧工程の際の圧力を調整することによって、触媒層のガス多孔度およびプロトン伝導度を最適化することができる。また、すでに触媒層がプロトン伝導性電解質膜に接合されていることから、熱転写法のように加熱温度および印加圧力を高くする必要がない。それにより、触媒層において十分な細孔容積を確保することができる。その結果、十分なガス拡散性を確保することができる。また、造孔材等を添加する必要がないことから、触媒層の電気抵抗を小さい値に維持することができる。
【0008】
所定の温度範囲は、触媒層に含まれるプロトン伝導性電解質のガラス転移温度以上熱劣化温度未満であってもよい。この場合、触媒層におけるプロトンの通路を確保することができる。また、プロトン伝導性電解質の熱劣化を抑制することができる。また、加圧工程における印加圧力は、プロトン伝導性電解質膜のクリープ圧以下であってもよい。この場合、プロトン伝導性電解質膜のクリープを抑制しつつ、触媒層の多孔度およびプロトン伝導度を制御することができる。
【0009】
触媒層はカソードであり、加圧工程における触媒層の酸化剤ガス入口側の印加圧力は、触媒層の酸化剤ガス出口側の印加圧力よりも高くてもよい。ここで、酸化剤ガス入口側においては酸化剤ガスの酸素濃度が高く乾燥しやすくなる。したがって、酸化剤ガス入口側の領域のようにガス多孔度を小さくすることによって触媒層の乾燥を抑制することができる。なお、ガス多孔度が小さくなることによって発電反応が抑制されるが、プロトン伝導度が大きいことから発電効率低下を抑制することができる。一方、酸化剤ガス出口側においては発電によって生じた水がフラッディングを起こしやすい。したがって、酸化剤ガス出口側の領域のようにガス多孔度を大きくすることによって、水の排出を促進することができる。また、酸化剤ガス出口側においては酸化剤ガスの酸素濃度が低くなる。発電反応において酸素が消費されるからである。したがって、酸化剤ガス出口側の領域のようにガス多孔度を大きくすることによって、発電反応を促進することができる。以上のことから、本発明に係る膜−電極接合体の発電効率を向上させることができる。
【0010】
加圧工程における印加圧力は、酸化剤ガス入口側から触媒層の酸化剤ガス出口側にかけて段階的に小さくなっていてもよい。また、加圧工程における印加圧力は、酸化剤ガス入口側から触媒層の酸化剤ガス出口側にかけて連続的に小さくなっていてもよい。なお、触媒インクは、プロトン伝導性電解質を含有する白金担持カーボンであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、触媒層を電解質膜に接合することができるとともに、触媒層の細孔およびプロトン伝導度を最適化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る膜−電極接合体100の製造方法について説明するためのフロー図である。まず、図1(a)に示すように、プロトン伝導性を有する電解質膜10を準備する。電解質膜10は、パーフルオロスルフォン酸型ポリマーであるnafion(登録商標)等のプロトン伝導性を有する固体高分子電解質からなる。電解質膜10の膜厚は、例えば、10μm〜100μm程度である。
【0014】
次に、図1(b)に示すように、触媒インク21をスプレー、アプリケータ等によって電解質膜10上に塗布する。それにより、図1(c)に示すように、触媒層20を形成することができる。この場合、触媒層20は、電解質膜10に十分に接合される。触媒インク21は、触媒を担持する導電性材料からなる。触媒インク21としては、例えば、プロトン伝導性電解質を含有する白金担持カーボンを用いることができる。この場合のプロトン伝導性電解質としては、フッ素系電解質(Nafion(登録商標)、Flemion(登録商標))、炭化水素系電解質等を用いることができる。また、カーボンとしては、ケッチェン(登録商標)、バルカン(登録商標)、グラファイト化カーボン等を用いることができる。カーボンに対するプロトン伝導性電解質の重量比率は、10%〜200%程度であることが好ましい。
【0015】
次いで、図1(d)に示すように、触媒層20に対して加熱しつつ加圧処理を施す。図1(a)〜図1(d)の処理を電解質膜10の裏面にも施すことによって、図1(e)に示すように、膜−電極接合体100が完成する。この場合、加圧処理の際の圧力を調整することによって、所望のガス多孔度および所望のプロトン伝導度を有する触媒層20を作製することができる。また、すでに触媒層20が電解質膜10に接合されていることから、熱転写法のように加熱温度および印加圧力を高くする必要がない。それにより、触媒層20において十分な細孔容積を確保することができる。その結果、十分なガス拡散性を確保することができる。また、造孔材等を添加する必要がないことから、触媒層20の電気抵抗を小さい値に維持することができる。
【0016】
以下、加圧処理の際の印加圧力の最適化の詳細について説明する。図2は、印加圧力と触媒層20のプロトン伝導度およびガス多孔度との関係を示す図である。図2の横軸は加圧処理の際の印加圧力を示し、図2の縦軸は触媒層20のプロトン伝導度およびガス多孔度を示す。図2に示すように、印加圧力を小さくすると、触媒層20のプロトン伝導度は小さくなるがガス多孔度を大きくすることができる。一方、印加圧力を大きくすると、触媒層20のガス多孔度は小さくなるがプロトン伝導度を大きくすることができる。このように、加圧処理の際の印加圧力を調整することによって、所望のガス多孔度および所望のプロトン伝導度を実現することができる。
【0017】
なお、電解質膜10の膜種、触媒層20の組成(カーボン種、電解質成分種、電解質成分/カーボン比率)等に応じて加圧条件を調整することが好ましい。例えば、2次粒子が大きくストラクチャが発達したカーボンを用いる場合には、加圧前の触媒層20の細孔容積は大きくなる。したがって、印加圧力を大きくしてもよい。また、電解質成分/カーボン比率が高い場合には、加圧前の触媒層20のプロトン伝導度が高くなる。したがって、印加圧力を小さくしてもよい。
【0018】
また、印加圧力は、電解質膜10のクリープ圧以下であることが好ましい。電解質膜10のクリープを抑制するためである。本実施の形態においては、印加圧力を1MPa〜10MPa程度に調整することが好ましく、印加圧力を1MPa〜5MPa程度に調整することがより好ましい。また、触媒層20および電解質膜10の加熱温度は、触媒層20に含まれるプロトン伝導性電解質のガラス転移温度以上かつ熱劣化温度未満であることが好ましい。ガラス転移温度以上の温度まで加熱することによって、触媒層20においてプロトンの通路を確保することができるからである。また、熱劣化温度未満の温度に制御することによって、スルホン酸基等の分解を抑制することができるからである。本実施の形態においては、触媒層20の加熱温度は、80℃〜180℃程度であることが好ましい。さらに、加圧処理の時間は、10秒〜1時間程度であり、1分〜10分程度であることが好ましい。
【0019】
(第2の実施の形態)
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る膜−電極接合体100aの製造方法について説明する。図3は、膜−電極接合体100aの製造方法を説明するためのフロー図である。まず、図3(a)に示すように、図1(c)に示す電解質膜10および触媒層20を準備する。本実施の形態においてはこの触媒層20をカソードとして用いる。
【0020】
次に、図3(b)に示すように、触媒層20に対して加熱しつつ加圧処理を施す。この場合、酸化剤ガス入口側の領域20aの印加圧力を、酸化剤ガス出口側の領域20bの印加圧力に比較して大きく設定する。それにより、領域20aのプロトン伝導度を大きくしつつガス多孔度を小さくすることができ、領域20bのガス多孔度を大きくしつつプロトン伝導度を小さくすることができる。
【0021】
ここで、酸化剤ガス入口側においては酸化剤ガスの酸素濃度が高く乾燥しやすくなる。したがって、領域20aのようにガス多孔度を小さくすることによって触媒層20の乾燥を抑制することができる。なお、ガス多孔度が小さくなることによって発電反応が抑制されるが、プロトン伝導度が大きいことから発電効率低下を抑制することができる。
【0022】
一方、酸化剤ガス出口側においては発電によって生じた水がフラッディングを起こしやすい。したがって、領域20bのようにガス多孔度を大きくすることによって領域20bにおける水の排出を促進することができる。また、酸化剤ガス出口側においては酸化剤ガスの酸素濃度が低くなる。発電反応において酸素が消費されるからである。したがって、領域20bのようにガス多孔度を大きくすることによって領域20bにおける発電反応を促進することができる。以上のことから、膜−電極接合体100aの発電効率を向上させることができる。
【0023】
本実施の形態に係る製造方法によれば、触媒層20の成分組成に分布を持たせなくても、ガス多孔度およびプロトン伝導度を最適化することができる。したがって、製造工程を簡略化することができるとともに、製造コストを低減化させることができる。
【0024】
図4は、印加圧力分布の他の例を示す図である。図4の縦軸は印加圧力を示し、図4の横軸はガス入口からの距離を示す。例えば、図4(a)に示すように、印加圧力をガス流れ方向に複数段にわたって変化させてもよい。また、図4(b)に示すように、印加圧力をガス流れ方向に連続的に変化させてもよい。
【0025】
なお、アノード側の触媒層においても同様に、燃料ガス入口側の領域の印加圧力を、燃料ガス出口側の領域の印加圧力に比較して小さく設定してもよい。この方法は、燃料ガスおよび酸化剤ガスが電解質膜を挟んで同方向に平行して流動する場合に、特に効果を発揮する。燃料ガスおよび酸化剤ガスが同方向に平行して流動する場合には、入口側において乾燥しやすく出口側においてフラッディングが発生しやすいからである。
【実施例】
【0026】
以下、上記の実施の形態に係る膜−電極接合体を作製し、その特性を調べた。
【0027】
(実施例1〜3)
実施例1〜実施例3においては、第1の実施の形態に係る膜−電極接合体100を作製した。電解質膜10としては、ゴアセレクト膜からなり、膜厚45μmのものを用いた。触媒層20としては、45wt%Pt担持カーボン(キャタラー製ケッチェン(登録商標))からなり、層厚10μmからなるものを用いた。また、触媒層20に添加したプロトン伝導性電解質としては、デュポン社製Nafion(登録商標)を用いた。触媒層20における電解質成分/カーボン重量比は、0.75とした。
【0028】
実施例1においては、加圧処理の際の加熱温度を100℃とし、印加圧力を1MPaとし、加圧時間を4分とした。実施例2においては、加圧処理の際の加熱温度を140℃とし、印加圧力を3MPaとし、加圧時間を4分とした。実施例3においては、加圧処理の際の加熱温度を140℃とし、印加圧力を5MPaとし、加圧時間を4分とした。
【0029】
(比較例1)
比較例1においては、上記第1の実施の形態に係る膜−電極接合体の製造方法において、触媒層に対して加熱処理および加圧処理を施さなかった。比較例1に係る膜−電極接合体の構成は、実施例1〜3と同様である。
【0030】
(分析1)
実施例1〜3および比較例1に係る膜−電極接合体のI−V特性を調べた。図5は、各膜−電極接合体のI−V特性を示す図である。図5の縦軸は発電電圧を示し、図5の横軸は電流密度を示す。図5に示すように、比較例1に係る膜−電極接合体に比較して、実施例1〜3に係る膜−電極接合体の発電性能が向上していることがわかる。これは、触媒層に対して加熱・加圧処理を施すことによってガス多孔度およびプロトン伝導度が適正化されたからであると考えられる。
【0031】
(実施例4)
実施例4においては、第1の実施の形態に係る膜−電極接合体100を作製した。実施例4が上記実施例1〜3と異なる点は、触媒層20として、50wt%Pt担持カーボン(ケッチェン熱処理品(田中貴金属製))を用いた点である。実施例4においては、加圧処理の際の加熱温度を140℃とし、印加圧力を5MPaとし、加圧時間を4分とした。
【0032】
(比較例2)
比較例2においては、上記第1の実施の形態に係る膜−電極接合体の製造方法において、触媒層に対して加熱処理および加圧処理を施さなかった。比較例2に係る膜−電極接合体の構成は、実施例4と同様である。
【0033】
(分析2)
実施例4および比較例2に係る膜−電極接合体のI−V特性を調べた。図6は、各膜−電極接合体のI−V特性を示す図である。図6の縦軸は発電電圧を示し、図6の横軸は電流密度を示す。図6に示すように、比較例2に係る膜−電極接合体に比較して、実施例4に係る膜−電極接合体の発電性能が向上していることがわかる。したがって、触媒層の組成成分を変化させても発電性能が向上していることがわかった。
【0034】
以上のように、電解質膜10に塗布された触媒層20に対して加熱・加圧処理を施すことによって、発電性能が向上していることが立証された。また、触媒層20に用いた材料に依存せず、発電性能が向上していることも立証された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る膜−電極接合体の製造方法について説明するためのフロー図である。
【図2】印加圧力と触媒層のプロトン伝導度およびガス多孔度との関係を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る膜−電極接合体の製造方法について説明するためのフロー図である。
【図4】印加圧力分布の他の例を示す図である。
【図5】膜−電極接合体のI−V特性を示す図である。
【図6】膜−電極接合体のI−V特性を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 電解質膜
21 触媒インク
20 触媒層
100 膜−電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性電解質膜を準備する準備工程と、
前記プロトン伝導性電解質膜上に、触媒およびプロトン伝導性電解質を含有する触媒インクを塗布して触媒層を形成する触媒層形成工程と、
前記プロトン伝導性電解質膜および前記触媒層に対して、所定の温度範囲に加熱しつつ、前記プロトン伝導性電解質膜と前記触媒層との積層方向に加圧する加圧工程とを備えることを特徴とする膜−電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記所定の温度範囲は、前記触媒層に含まれるプロトン伝導性電解質のガラス転移温度以上熱劣化温度未満であることを特徴とする請求項1記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記加圧工程における印加圧力は、前記プロトン伝導性電解質膜のクリープ圧以下であることを特徴とする請求項1または2記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記触媒層は、カソードであり、
前記加圧工程における前記触媒層の酸化剤ガス入口側の印加圧力は、前記触媒層の酸化剤ガス出口側の印加圧力よりも高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記加圧工程における印加圧力は、前記酸化剤ガス入口側から前記触媒層の酸化剤ガス出口側にかけて段階的に小さくなっていることを特徴とする請求項4記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記加圧工程における印加圧力は、前記酸化剤ガス入口側から前記触媒層の酸化剤ガス出口側にかけて連続的に小さくなっていることを特徴とする請求項4記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記触媒インクは、プロトン伝導性電解質を含有する白金担持カーボンであること特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の膜−電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−34219(P2008−34219A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205718(P2006−205718)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】