説明

膜が形成されたガラスの再資源化方法

【課題】膜が形成されたガラスから、少ない労力とエネルギーにて、薬液など廃棄物の発生を伴わず、かつ、大がかりな設備を使用せず、ガラスと膜を分離する方法を提供する。
【解決手段】膜が形成されたガラスを破砕する破砕工程と、ガラスから膜を剥離する剥離工程と、剥離工程により得られた処理物をガラスと剥離物に分離する剥離物分離工程とを含むガラスの再資源化方法であって、ガラスの厚みをTとしたとき、前記剥離物分離工程において、0.7Tで分級することでガラスと剥離物を分離することを特徴とするガラスの再資源化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜が形成されたガラスの再資源化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会における生産・消費活動全般について一般廃棄物や産業廃棄物が増加し、不法投棄や埋立地逼迫など地球環境問題が注目を集め、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済システムから資源循環型経済システムへの転換が社会的に重要な課題となってきている。
【0003】
このような状況を受け、2001年4月より家電リサイクル法が施行された。家電リサイクル法においては、2011年2月現在において、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の家電4品目のリサイクルが義務付けられ、また、それぞれの製品の再商品化率については、エアコン70%以上、ブラウン管式テレビ55%以上、薄型テレビ50%以上、冷蔵庫60%以上、洗濯機65%以上の法定基準値が定められている。
【0004】
これら家電4品目においては、関係者の鋭意努力のもと、法律施行当初に比べリサイクルが格段に進んでいる。現在、家電4品目に使用されている鉄、銅、アルミなどの金属はもとより、プラスチックについてもリサイクルが拡大しつつある。また、テレビにおいては、CRT(Cathode Ray Tube)のガラスを切断して電子銃や蛍光体を除去した後、ガラスカレットとして元のCRT用ガラスに再生使用するリサイクル技術がすでに実用化されている。
【0005】
一方、最近、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、FED(Field Emission Display)などのフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display:以下FPDと記載する)が身の回りの製品に搭載されてきており、たとえば、テレビ、パーソナルコンピュータ、モニター、ビデオ、カメラ、携帯電話、カーナビゲーション、情報携帯端末、小型ゲーム機など、様々な分野で幅広く利用されてきている。FPDの市場規模はその省電力、省スペース、軽量といった特性から、近年の高度情報化社会の進展に伴い急激に増加している。これに伴い、これらFPDの廃棄量も年々増加していくことが予想され、リサイクル活動などの環境活動において、リサイクル性向上などの要求が強くなってきている。
【0006】
ところが、これらFPDは比較的新しい製品であること、また、現状は比較的廃棄物の量が少ないこともあり、前記CRTのような適切なリサイクルは実用化されていない。廃棄されたFPDは廃棄物の処理施設で破砕されて、シュレッダーダストとともに埋め立て処理あるいは焼却処理されているのが現状である。
【0007】
FPD表示部の基材は、ガラス基板が多く用いられている。ガラスは製品重量の大半を占めるため、リサイクル率向上の観点からも再資源化が望ましく、再度同一製品のガラス原料として再生するなどの高位なリサイクルを行うことがより望ましい。また、基材には透明性導電膜が加工されており、その多くは酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide:以下ITOと記載する)が用いられている。ITO中にはレアメタルであるインジウムが含まれていることから、ガラスに並びリサイクル方法が模索されている。
【0008】
FPDに使用されたガラス、およびITOに含まれるインジウムの回収技術について、各企業、研究機関において研究開発が行われている。
【0009】
たとえば特開2009−155717号公報(特許文献1)では、廃液晶パネルに対し酸処理を施すことでITO膜を溶かし、中和することでインジウムを析出させる方法が提案されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されたような薬液を用いる方法においては、廃酸、廃アルカリなどの処理施設が必要であり、洗浄に大量の水を使用するなど環境負荷は少なくない。また、強酸、強アルカリを使用することも多く、作業安全性のほか処理施設の耐用性も考慮する必要があり、多大な設備投資が必要となる。
【0011】
また特開2010−022966号公報(特許文献2)では液晶パネルの粉砕物に対し850〜1400℃にて加熱を行うことでITO膜を昇華させ、850℃以下に冷却することで凝縮し、フィルターにて捕集する方法が開示されている。
【0012】
しかし、特許文献2に開示されたような手法では処理物全体を高温処理することにより多くの有機ガスが発生するため、排ガス処理施設が必要となる。また、高温での処理であるため、エネルギー消費が大きいといった問題がある。
【0013】
上述のように、市場から回収された廃FPDからガラスやインジウムなどの材料を再生するにあたって、膨大なエネルギーと大掛かりな設備を要せず、またインジウムの回収において湿式プロセスを使用しない廃FPDの再資源化方法の開発が強く望まれているにもかかわらず、そのような再資源化方法は未だ公知となっていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−155717号公報
【特許文献2】特開2010−022966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、膜が形成されたガラスから、少ない労力とエネルギーにて、薬液など廃棄物の発生を伴わず、かつ、大がかりな設備を使用せず、ガラスと膜を分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、膜が形成されたガラスを破砕しガラス片とした後、前記ガラス片同士がこすり合うように撹拌することで、前記ガラス片に形成されている膜を剥離し、さらにこの剥離物がガラスの膜厚の0.7倍以下の粒度に高濃度に濃縮されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0017】
本発明のガラスの再資源化方法は、膜が形成されたガラスを破砕する破砕工程と、ガラスから膜を剥離する剥離工程と、剥離工程により得られた処理物をガラスと剥離物に分離する剥離物分離工程とを含むガラスの再資源化方法であって、ガラスの厚みをTとしたとき、前記剥離物分離工程において、0.7Tで分級することでガラスと剥離物を分離することを特徴とする。
【0018】
本発明のガラスの再資源化方法は、前記破砕工程において、ガラスを100mm以下の大きさにすることが好ましい。
【0019】
本発明のガラスの再資源化方法は、前記剥離工程において、自転するように構成された容器を用いて、ガラスから膜を剥離することが好ましい。
【0020】
剥離工程において前記容器を用いる場合、前記容器に入れるガラスの量が容器容積の30%以下であることが好ましい。
【0021】
また剥離工程において前記容器を用いる場合、前記容器に、密度が2.0〜4.0g/cmの砥粒を入れることが好ましく、前記容器に入れる砥粒は、10〜25mmの大きさであることがより好ましい。またこの場合、前記容器に入れる砥粒の量が容器容積の15%以下であることがより好ましい。
【0022】
また、剥離工程において前記容器を用いる場合、前記容器を0.6〜1.0m/sの周速度で自転させることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、環境負荷をかけることなく、また大がかりな設備を必要とせずに、ガラスに形成された膜を剥離し、この剥離物がガラス厚の0.7倍以下の粒度に濃縮されるため、ガラスと剥離物を分離・回収することで、剥離物中の有用物、及びガラスを資源として有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のガラスの再資源化方法の概念を示すフローチャートである。
【図2】本発明のガラスの再資源化方法に供される典型的な一例の液晶パネル1を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示した液晶パネル1に本発明のガラスの再資源化方法を適用した場合の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の剥離工程において好適に用いられる剥離装置21の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明のガラスの再資源化方法の概念を示すフローチャートである。本発明のガラスの再資源化方法は、図1に示すように、膜が形成されたガラスを破砕する破砕工程と、ガラスから膜を剥離する剥離工程と、剥離工程により得られた処理物をガラスと剥離物に分離する剥離物分離工程とを基本的に含む。本発明のガラスの再資源化方法は、ガラスの厚み(ガラス厚)をTとしたとき、前記剥離物分離工程において、0.7Tで分級することでガラスと剥離物を分離することを特徴とする。このようにすることで、環境負荷をかけることなく、また大がかりな設備を必要とせずに、ガラス厚の0.7倍以下のものとして剥離物と、ガラス厚の0.7倍を超えるものとしてガラスとに分離することができ、剥離物中の有用物、及びガラスを資源として有効に活用することができる。
【0026】
本発明のガラスの再資源化方法は、ガラス上に膜が形成されている製品、たとえば、FPD、太陽電池、タッチパネル、およびこれらと類似の構造を有する製品の再資源化に好適に適用できる。以下、液晶パネルを例に挙げて説明する。
【0027】
図2は、本発明のガラスの再資源化方法に供される典型的な一例の液晶パネル1を模式的に示す断面図である。本発明には、従来公知の適宜の構造の液晶パネルを特に制限されることなく供することができる。図2には、一例として、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下TFTと記載する)などのアクティブ素子(図示せず)を備えた液晶パネル1を示しているが、本発明には、TN(Twisted Nematic)液晶パネル、STN(Super Twisted Nematic)液晶パネルなどのデューティ液晶パネルも勿論適用可能である。
【0028】
図2に示す例の液晶パネル1は、たとえば、対向配置された厚み0.4〜1.1mm程度の2枚のガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板2a、TFT側ガラス基板2b)を備える。これらガラス基板2a,2bは、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体(シール材)3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。また、これらガラス基板2a,2bとシール樹脂体3とによって密封された領域には、液晶が封入され、厚み4〜6μm程度の液晶層4が形成されている。また、各ガラス基板2a,2bの対向配置された側とは反対側(外面側)には、厚み0.2〜0.4mm程度の偏光板5が粘着剤により貼着されている。さらに、液晶パネルの周縁部には、液晶駆動用のドライバーICが接続され、周縁部の外側がベゼル・プラスチックで覆われている(図示せず)。
【0029】
典型的な液晶パネル1では、図2に示すように、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に、カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。カラーフィルタ6は有機物を主体とした材料からなる。反射防止膜7は炭素を主成分とした薄膜などからなる。透明導電膜8はインジウムなどを含む薄膜からなる。配向膜9はポリイミドなどの有機物からなる。
【0030】
また、典型的な液晶パネル1では、図2に示すように、TFT側ガラス基板2bの内面側に、画素電極10、バス電極11、絶縁膜12、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。透明導電膜8は、インジウムなどを含む薄膜からなる。画素電極10およびバス電極11はタンタル、モリブデン、アルミニウム、チタンなどの金属を主成分とする薄膜からなる。前記カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10、バス電極11および絶縁膜12の膜厚は、前記2枚のガラス基板2a,2bの厚みと比較して、十分に薄い。
【0031】
図3は、図2に示した液晶パネル1に本発明のガラスの再資源化方法を適用した場合の一例を示すフローチャートである。以下、図3を参照し、図2に示した液晶パネル1に本発明のガラスの再資源化方法を適用した場合について詳細に説明する。
【0032】
〔1〕液晶パネル取出し工程
図3に示す例では、まず、たとえば家庭や製造工場などから廃棄された液晶テレビを回収し、液晶パネルの取出しを行う(ステップS1)。図3には、液晶テレビを例に挙げているが、これに限られるものではない。回収された液晶テレビを従来公知の適宜の手法にて解体(たとえば、手解体)し、シールドケースや鋼板などの金属部品や、プリント基板、筐体やスタンドなどのプラスチック部品、蛍光管などに解体し、液晶パネルを取り出す。
【0033】
〔2〕ガラス品種選別工程
図3に示す例では、続くガラス品種選別工程において、液晶パネルをガラスの種類(品種)別に選別する(ステップS2)。ガラスは、ガラスメーカによって、あるいはガラス品種、品番などによって組成が異なる。したがって、回収したガラスをたとえばガラス基板用の材料として再利用するためには、多種多様なガラスを品種別に選別することが必要となる。また、回収したガラスをたとえば一般ガラス用の材料として再利用する場合にも、ある程度、ガラスを品種別に選別することが要求される場合がある。
【0034】
本発明のガラス基板の再資源化方法においては、蛍光X線装置を用いて、液晶パネルのパネルガラスを品種別に選別するようにしてもよい。この場合、具体的には、エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用い液晶パネルに軟X線を直接照射することが挙げられる。これにより、液晶パネルのパネルガラスに含まれるそれぞれの元素に特有なエネルギーをもった蛍光X線が発せられる。この蛍光X線を蛍光X線センサにてエネルギーごとにカウントすることで、液晶パネルのパネルガラスにどのような元素がどのような割合で含まれているかを測定(分析)する。パネルガラスの化学組成を品種ごとに予め調べておき、それらの値と液晶パネルのパネルガラスでの測定値とを比較することにより、パネルガラスをガラス品種ごとに短時間で、確実に、かつ経済的に選別することができる。また、液晶パネルのパネルガラスにガラス品種の表示を予め設けておくようにしてもよい。
【0035】
なお、図3に示すフローチャートでは、このガラス品種選別工程(ステップS2)を偏光板剥離工程(ステップS3)の前に行なう場合を例示しているが、この順序に限定されるものではない。
【0036】
複数の品種のパネルガラスが混合していても問題ない用途にパネルガラスを再生利用する場合はガラス品種選別工程を省略することができる。
【0037】
〔3〕偏光板剥離工程
図2に示したように、各ガラス基板の外面側に偏光板が貼着された液晶パネルユニットの場合には、図3に示す例のように偏光板を剥離する偏光板剥離工程(ステップS3)を含むことが好ましい。偏光板を有しない液晶パネルユニットの場合には、この偏光板剥離工程を省略しても勿論よい。
【0038】
偏光板の剥離は、偏光板に対し応力を付加することによって行なうことができる。偏光板の剥離は、たとえば手作業で行なってもよく、また市販の偏光板剥離装置、クラッシャーなどを用い応力を付加してもよい。
【0039】
〔4〕ガラス分離工程
図3に示す例では、続くガラス分離工程において、貼り合わされたガラス基板を2枚に分離する(ステップS4)。分離方法としては、たとえばシール樹脂体を加熱する方法、ガラス基板の周縁部を切断する方法などが挙げられる。ガラス基板を分離すると、ガラス基板の隙間に封入されていた液晶層が表面に露出する。
【0040】
シール樹脂体を加熱して分離する方法では、シール樹脂体を加熱し、シール樹脂体の強度を低下させることにより分離する。上述したように、2枚のガラス基板は、通常、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体が設けられ、互いに貼り合わされてなる。シール樹脂体としては、通常、エポキシ系樹脂などが用いられ、加熱することでシール樹脂体の強度を低下させることができる。シール樹脂体の加熱温度としては、シール樹脂体の形成材料に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、たとえばエポキシ系樹脂のシール樹脂体の場合には、300℃以上が望ましく、400℃以上がより望ましい。加熱の方法としては、たとえば、ランプ加熱、赤外線加熱、ヒートプレスなどが挙げられる。加熱によりシール樹脂体の強度を低下させることで、手作業で容易にガラス基板を分離することが可能となる。
【0041】
また、ガラス基板の周縁部を切断することによってガラス基板を分離する場合には、ガラス基板の内側の四辺を切断することで、それぞれ1枚ずつガラスを切り出すようにすればよい。ガラス基板の切断には、たとえばガラスカッター、ダイヤモンドソー、スクライバーなどを用いることができる。
【0042】
また、ガラス基板の分離と同時に、液晶パネルユニットに接続されているドライバーICを取り外す。ドライバーICは、通常、液晶パネルユニットの周縁部に、導電性の接着剤を用いて、接続されている。取り外しの方法としては、通常、手作業でドライバーICを引き剥がす。導電性の接着剤の接着力は弱いため、外力を加えることにより接続部を容易に引き剥がすことができる。また、カッターナイフのような刃物で接続部を切断することもできる。取り外したドライバーICは、非鉄精錬所などで適切な処理を施すことで、含有される金属を回収することができる。ドライバーICは、手作業で容易に取り外すことが可能なため、このドライバーICの取り外しは、ガラスを回収するまでのいずれの工程で行なってもよい。また、ガラス基板の周縁部を切断することによってガラス基板を分離する場合には、ドライバーICも同時に取り外される。なお、ガラス分離工程は必ず設ける必要はなく、適宜省略してもよい。
【0043】
〔5〕液晶回収工程
図3に示す例では、続く液晶回収工程において、上述のようにして分離されたガラス基板上に露出する液晶を回収する(ステップS5)。液晶は、たとえば、ガラス基板の表面を液晶回収用のスクレーパを用いてスクレーピングすることによって回収することができる。液晶回収用のスクレーパとしては、ガラス基板上に形成されている配向膜よりも柔らかいポリプロピレンゴム、ポリエチレンゴムなどで形成されたスクレーパを好適に用いることができる。また、ゴム製のスキージを用いることにより、配向膜を削り取らずに液晶のみを回収することができる。また液晶回収工程は必ず設ける必要はなく、適宜省略してもよい。
【0044】
〔6〕破砕工程
図3に示す例では、続く破砕工程において、ガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板およびTFT側ガラス基板)を破砕する(ステップS6)。破砕工程は、上述したガラス品種選別工程(ステップS2)で選別した単一の品種のパネルガラスを使用しているガラス基板ごとに行なう。ただし、品種が分かれていなくてもよい用途にガラス片を使用する場合には、品種が混在した状態でガラス基板を破砕することができる。
【0045】
ガラス基板の破砕には市販の各種方式の破砕機を用いることができ、破砕機の種類は特に制限されるものではないが、塵の発生が少なく容易に破砕することができ、環境に悪影響を及ぼさず、かつ、ランニングコストが安価であるなどの観点から、2軸剪断方式の破砕機がより好ましい。また2軸剪断方式の破砕機は、サイズの揃った破砕片が得られやすいこと、微粉末の発生比率が小さく、破砕片をガラスカレットとして最終的に再利用しやすいことなどの利点も有している。また他にも、市販のハンマークラッシャー、ロールミル、ジョークラッシャーなどを用いることができる。
【0046】
後述する剥離工程において、パネルを破砕したときのガラス片の大きさは100mm以下であることが好ましい。ガラス片の大きさが100mmを超える場合、容器内でのガラス片の移動が制限されるため、ガラス片が衝突、摩擦を起こす可能性が低下する。
【0047】
〔7〕剥離工程
図3に示す例では、続く剥離工程において、ガラス(ガラス片)から膜(透明導電膜)を剥離する(ステップS7)。ここで、図4は、本発明の剥離工程において好適に用いられる剥離装置21の概略構成を示す斜視図である。図4に示す例の剥離装置21は、筒状の容器22を備え、この容器22が回転軸23を中心に自転するように構成されている。剥離装置21は、容器22内にガラス片25を入れるための開口を塞ぐための蓋24を備え、図4には、上述した破砕工程で得られたガラス片25および砥粒26を容器22内に入れ、蓋24を固定した状態を示している。本発明のガラスの再資源化方法の剥離工程では、図4に示すような自転するように構成された容器22を用いてガラスから膜を剥離するようにすることが好ましい。
【0048】
剥離工程において、図4に示す状態の剥離装置21を用い、所定の時間にわたり容器22を自転させるようにする。これによって、容器22内においてガラス片25および砥粒26が移動する。ガラス片25同士またはガラス片25と砥粒26とが衝突し、摩擦を起こすことにより、ガラス片25から透明導電膜を剥離することができる。
【0049】
なお、図4には、剥離装置21が筒状の容器22を備える場合を例示したが、容器の形状はこれに限定されるものではなく四角柱型、六角柱型など、多角柱型の形状でもよい。
【0050】
剥離装置21における容器22の大きさは、ガラス片25が入るものであればよい。容器22に入れるガラス片25の量は、容器22の容積の30%以下であることが好ましい。容器22の容積の30%を超える量のガラス片25を容器22内に入れた場合、容器22内でのガラス片25の移動が制限されるため、ガラス片25が摩擦、衝突する回数が減少し、ガラス片25から透明導電膜を剥離する効果が低下する。
【0051】
また、剥離装置21を用いた剥離工程では、砥粒26を使用しない場合でもガラス片25から透明導電膜を剥離することは可能であるが、砥粒26を用いる方が好ましい。ガラス片25同士でこすり合わせる場合に比べ、砥粒26を入れることによりガラス片25の接触回数が増加し、短時間で均一に透明導電膜を剥離することができる。
【0052】
本発明のガラスの再資源化方法において、砥粒26の密度は2.0〜4.0g/cmであることが好ましい。砥粒の密度が2.0g/cm未満の場合、砥粒の重量が不十分であるため、透明導電膜を剥離する効果が低下する虞がある。一方、砥粒の密度が4.0g/cmを超える場合、ガラス片が破砕される割合が増加するため、剥離物とガラスの微粉との分離が困難になる虞がある。
【0053】
砥粒26は1種類でもよく複数種類を組み合わせて用いてもよい。また砥粒26の大きさは、10〜25mmであることが好ましい。25mmを超える大きさの砥粒を用いた場合、ガラス片を破砕する可能性が高くなるため、剥離物とガラスの微粉との分離が困難になる虞がある。一方、10mm未満の大きさの砥粒を用いた場合、砥粒の重量が不十分であるため、透明導電膜を剥離する効果が低下する虞がある。
【0054】
砥粒26の形状は球状が好ましいが、円柱、円錐、三角柱、四角柱、菱形などの形状の砥粒も用いることができる。また、砥粒26の投入量は容器22の容積の15%以下であることが好ましい。容器22の容積の15%を超える量の砥粒を容器に入れた場合、容器内でのガラス片と砥粒の移動が制限されるため、透明導電膜の剥離効果が低下する虞がある。
【0055】
また、本発明のガラスの再資源化方法では、前記容器22は0.6〜1.0m/sの周速度で自転させることが好ましい。容器の周速度が1.0m/sを超える場合、遠心力により容器内でのガラス片および砥粒の移動が制限されることにより、ガラス片の接触回数が減少してしまう虞がある。また周速度が0.6m/s未満の場合、ガラス片同士、またはガラス片と砥粒との接触回数が減少することから、透明導電膜を剥離する効果が低減される。
【0056】
なお、上記した条件下では、容器を回転させる時間は、1時間以上4時間以下であることが好ましい。1時間未満であると、ガラス片同士、または砥粒とガラス片との接触回数が不十分であるため、透明性導電膜の剥離が十分に行われない。一方4時間を超える時間処理した場合、ガラスの微粉が増加するため、剥離物とガラス粉の分離が困難となる。
【0057】
〔8〕剥離物分離工程
図3に示す例では、続く剥離物分離工程において、前記剥離工程において得られた剥離物とガラス片、砥粒を分離する(ステップS8)。剥離物はガラス厚の0.7倍以下の粒度に存在する。そのためガラス厚の0.7倍の大きさで、前記剥離工程で得られた処理物を分級することで、剥離物を効率的に分離・回収することができる。分級方法は特に限定されるものではなく、公知であるサイクロン方式、または振動式篩分け分級機などを用いることができる。なお、分級方法に振動式篩分け分級機を用いる場合、目開きがガラス厚の0.7倍の篩に加え、目開きがガラス厚の0.7倍から、破砕工程で得られるガラス片の最大の大きさ以下の篩を用いることで、剥離物を効率的に分離・回収することができる。また、ガラス片と砥粒についても、篩分けを行うことにより両者を分離することができる。
【0058】
回収した剥離物から、不純物を除去することで、剥離物中の有用物を再び材料として再資源化することができる。またガラス片についても、適切な粒度に調整することで、煉瓦やタイルなどの建材用原料に使用することができる。
【0059】
なお、本発明におけるガラスの再資源化方法の適用対象は液晶パネルに限定されるものではなく、膜が形成されたガラスについて適用することができる。また、処理工程は図3に示したフローに限定されるものではなく、破砕工程(ステップS6)、剥離工程(ステップS7)および剥離物分離工程(ステップS8)を含んでいればよい。
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
液晶パネル中のインジウム濃度が400ppmであり、ガラス厚が0.7mmである液晶パネルに対し、偏光板を手作業にて剥離した。その後、ガラス基板をハンマーにより破砕し、大きさを100mm以下とした。容積5L、直径0.25mの筒状の容器22を備える図4に示したような剥離装置21を用い、容器22内にガラス片を、容器22の容積の15%の量を入れた後、密度が3.6g/cmである径25mmの球状の砥粒を、容器22の容積の10%の量を入れた。その後、容器の蓋を閉めた。そしてこの容器を、自転軸を中心に0.9m/sの周速度にて90分間回転させた。その後、剥離物、ガラス片、砥粒を容器から取り出した。砥粒を手作業にて取り除いた後、剥離物およびガラス片を目開き0.5mm、2.0mmの篩を用い分級し、各質量を測定することで粒度分布を測定した。分級後、各粒度の剥離物およびガラス片を7%濃度の塩酸に浸すことでインジウムを溶出させた。その後、各溶液中のインジウム濃度をICP−AESにより測定することで、各粒度のインジウム濃度を調べた。また、質量と濃度からインジウムの収率を算出した。結果を表1に示す。インジウムの収率の算出方法は、各粒度における質量(%)とインジウム濃度の積を、ガラス全体のインジウム濃度とガラス全体の質量(%)との積で割る事で求めることができる。表1より、0.5mm以下の粒度におけるガラス中のインジウム濃度は6000ppmであり、またインジウムの収率は90%であった。
【0062】
【表1】

【0063】
<実施例2>
ガラス厚を0.4mmとし、また篩の目開きを0.25mm、2.0mmとした以外は、実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、ガラスの厚みの0.7倍以下のインジウム濃度は6000ppm以上となり、インジウムの収率は80%を超えた。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
<実施例3>
ガラス厚を1.1mmとし、また篩の目開きを0.75mm、2.0mmとした以外は、実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、ガラスの厚みの0.7倍以下のインジウム濃度は6000ppm以上となり、インジウムの収率は80%を超えた。結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
<実施例4>
密度2.0g/cmの砥粒を用い、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、ガラスの厚みの0.7倍以下のインジウム濃度は6000ppm以上となり、インジウムの収率は80%を超えた。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
<実施例5>
密度4.0g/cmの砥粒を用い、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、ガラスの厚みの0.7倍以下のインジウム濃度は6000ppm以上となり、インジウムの収率は80%を超えた。結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
<実施例6>
径10mmの球状の砥粒を用い、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、ガラスの厚みの0.7倍以下のインジウム濃度は6000ppm以上となり、インジウムの収率は80%を超えた。結果を表6に示す。
【0072】
【表6】

【0073】
<実施例7>
容器の周速度を0.6m/sとし、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、ガラスの厚みの0.7倍以下のインジウム濃度は6000ppm以上となり、インジウムの収率は80%を超えた。結果を表7に示す。
【0074】
【表7】

【0075】
<実施例8>
容器の周速度を1.0m/sとし、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、ガラスの厚みの0.7倍以下のインジウム濃度は6000ppm以上となり、インジウムの収率は80%を超えた。結果を表8に示す。
【0076】
【表8】

【0077】
<比較例1>
目開き1.0mm、2.0mmの篩を用い、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、粒度1.0mm以下におけるガラス中のインジウム濃度は2500ppmであり、インジウムの収率は92%であった。結果を表9に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度が低下していることが分かる。そのためインジウムを高濃度に回収するためには、ガラスの厚みの0.7倍で分級する必要がある。
【0078】
【表9】

【0079】
<参考例1>
ガラス基板の破砕径を150〜200mmとし、それ以外は実施例1と同条件にて処理した。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は3700ppmであり、インジウムの収率は2%であった。結果を表10に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度および収率が低下していることが分かる。そのためインジウムを高濃度、高収率に回収するためにはガラスの破砕径を100mm以下にすることが好ましいと考えられる。
【0080】
【表10】

【0081】
<参考例2>
容器容積の40%のガラス片を容器に入れ、それ以外は実施例1と同条件にて処理した。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は3700ppmであり、インジウムの収率は2%であった。結果を表11に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度、及びインジウムの収率が低下していることが分かる。そのためインジウムを高濃度、高収率に回収するためには、ガラス片の投入量を容器容積の30%以下にすることが好ましいと考えられる。
【0082】
【表11】

【0083】
<参考例3>
密度1.0g/cmの砥粒を用い、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は3000ppmであり、インジウムの収率は2%であった。結果を表12に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度が低下していることが分かる。また、インジウムの収率が低下していることが分かる。この結果から、インジウムを高濃度、高収率に回収するためには、密度2.0g/cm以上の砥粒を用いることが好ましいと考えられる。
【0084】
【表12】

【0085】
<参考例4>
密度5.0g/cmの砥粒を用い、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は600ppmであり、インジウムの収率は82%であった。結果を表13に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度が低下していることが分かる。この結果から、インジウムを高濃度、高収率に回収するためには、密度4.0g/cm以下の砥粒を用いることが好ましいと考えられる。
【0086】
【表13】

【0087】
<参考例5>
径5mmの球状の砥粒を用い、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は5000ppmであり、インジウムの収率は3%であった。結果を表14に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度が低下していることが分かる。また、インジウムの収率が低下していることが分かる。この結果から、インジウムを高濃度、高収率に回収するためには、径10mm以上の砥粒を用いることが好ましいと考えられる。
【0088】
【表14】

【0089】
<参考例6>
径40mmの球状の砥粒を用い、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は710ppmであり、インジウムの収率は86%であった。結果を表15に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度が低下していることが分かる。この結果から、インジウムを高濃度、高収率に回収するためには、径25mm以下の砥粒を用いることが好ましいと考えられる。
【0090】
【表15】

【0091】
<参考例7>
容器に入れる砥粒の量を容器容積の30%とし、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は3500ppmであり、インジウムの収率は5%であった。結果を表16に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度、及びインジウムの収率が低下していることがわかる。そのため、インジウムを高濃度、高収率に回収するためには、容器に入れる砥粒の量を容器容積の15%以下にすることが好ましいと考えられる。
【0092】
【表16】

【0093】
<参考例8>
容器の周速度を0.3m/sとし、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は3700ppmであり、インジウムの収率は7%であった。結果を表17に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、インジウム濃度およびインジウムの収率が低下していることが分かる。そのため、インジウムを高濃度、高収率に回収するためには、容器の周速度を0.6m/s以上とすることが好ましいと考えられる。
【0094】
【表17】

【0095】
<参考例9>
容器の周速度を2.0m/sとし、それ以外は実施例1と同条件にて処理を行った。その結果、粒度0.5mm以下でのインジウム濃度は1500ppmであり、インジウムの収率は38%であった。結果を表18に示す。実施例1にて得られた結果に比べ、それぞれインジウム濃度およびインジウムの収率が低下していることがわかる。そのため、インジウムを高濃度、高収率に回収するためには、容器の周速度を1.0m/s以下とすることが好ましいと考えられる。
【0096】
【表18】

【0097】
以上の結果より、インジウムを高濃度、高収率で回収するためには、ガラスの厚みをTとした時、剥離物分離工程において0.7Tで分級することが効果的であり、さらには、剥離物分離工程に供するガラス片の大きさや投入量、砥粒の密度および大きさ、投入量、また、剥離処理に用いる容器の周速度の条件を最適化することにより、さらなる効果を得られることが分かった。
【0098】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0099】
1 液晶パネル、2a カラーフィルタ側パネルガラス、2b TFT側パネルガラス、3 シール樹脂体、4 液晶層、5 偏光板、6 カラーフィルタ、7 反射防止膜、8 透明導電膜、9 配向膜、10 画素電極、11 バス電極、12 絶縁膜、21 剥離装置、22 容器、23 回転軸、24 蓋、25 ガラス片、26 砥粒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜が形成されたガラスを破砕する破砕工程と、
ガラスから膜を剥離する剥離工程と、
剥離工程により得られた処理物をガラスと剥離物に分離する剥離物分離工程とを含むガラスの再資源化方法であって、
ガラスの厚みをTとしたとき、前記剥離物分離工程において、0.7Tで分級することでガラスと剥離物を分離することを特徴とするガラスの再資源化方法。
【請求項2】
前記破砕工程において、ガラスを100mm以下の大きさにすることを特徴とする、請求項1に記載のガラスの再資源化方法。
【請求項3】
前記剥離工程において、自転するように構成された容器を用いて、ガラスから膜を剥離することを特徴とする請求項1または2に記載のガラスの再資源化方法。
【請求項4】
前記容器に入れるガラスの量が容器容積の30%以下であることを特徴とする請求項3に記載のガラスの再資源化方法。
【請求項5】
前記容器に、密度が2.0〜4.0g/cmの砥粒を入れることを特徴とする請求項3または4に記載のガラスの再資源化方法。
【請求項6】
前記容器に入れる砥粒は、10〜25mmの大きさであることを特徴とする請求項5に記載のガラスの再資源化方法。
【請求項7】
前記容器に入れる砥粒の量が容器容積の15%以下であることを特徴とする請求項5または6に記載のガラスの再資源化方法。
【請求項8】
前記剥離工程において、前記容器を0.6〜1.0m/sの周速度で自転させることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載のガラスの再資源化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−239974(P2012−239974A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112063(P2011−112063)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】