説明

膜エレメントの浸漬方法、及び膜エレメントのろ過運転方法

【課題】被処理水が充填された処理水槽に新しい膜エレメントを浸漬する際に、急激なろ過性能の低下を来たさない膜エレメントの浸漬方法を提供する。
【解決手段】被処理水に膜エレメント10を浸漬し、当該膜エレメント10を透過した処理水を得るための膜エレメント10の浸漬方法であって、処理水を透過させる樹脂製の分離膜11を備え、分離膜11が乾燥状態で保存された膜エレメント10に対して、少なくとも分離膜11を水または親水性の液体で濡らした後に、前記被処理水に浸漬することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水に膜エレメントを浸漬し、当該膜エレメントを透過した処理水を得るための膜エレメントの浸漬方法、及び膜エレメントのろ過運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機性排水などの被処理水を浄化する方法として、活性汚泥中の微生物を用いて有機性排水を生物的に分解する浄化処理を行うとともに、被処理水から膜エレメントを用いて処理水を透過させる膜分離活性汚泥法が広く採用されている。このような膜エレメントに精密ろ過膜、限外ろ過膜等の分離膜が用いられている。
【0003】
特許文献1や特許文献2には、このような分離膜が樹脂製であり、その表面に親水化剤が塗布された後に、乾燥保存されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3442353号
【特許文献2】特開2009−214023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、既存の膜エレメントが破損した場合や、定期的な交換処理時に、新たな膜エレメントをいきなり被処理水が充填された処理槽に浸漬すると、処理水のろ過性能が低下する場合があるという問題があった。
【0006】
つまり、親水化剤が塗布された後に乾燥状態で長期保管された分離膜を備えた膜エレメントを、多量の油脂成分を含有する被処理水にそのまま浸漬すると、親水化剤による親水基と水が結合する前に、分離膜を構成する樹脂が備える親油基と油脂成分が結合して、膜表面に油脂成分が吸着・堆積して処理水のろ過性能が急激に大きく低下するという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、被処理水が充填された処理水槽に新しい膜エレメントを浸漬する際に、急激なろ過性能の低下を来たさない膜エレメントの浸漬方法、及び膜エレメントのろ過運転方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明による膜エレメントの浸漬方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、被処理水に膜エレメントを浸漬し、当該膜エレメントを透過した処理水を得るための膜エレメントの浸漬方法であって、処理水を透過させる樹脂製の分離膜を備え、前記分離膜が乾燥状態で保存された膜エレメントに対して、少なくとも前記分離膜を水または親水性の液体で濡らした後に、前記被処理水に浸漬する点にある。
【0009】
分離膜が乾燥状態で保存された膜エレメントを被処理水に浸漬する前に、分離膜を水で濡らすことにより、分離膜の膜面が水と馴染んで親水性を示すようになり、被処理水に浸漬したときに膜面に水の薄層が形成され、その結果、被処理水に含まれる油分と膜を構成する樹脂との結合が妨げられるので、ろ過性能が急激に低下することなく安定して良好なろ過性能が維持される。
【0010】
また、膜エレメントを被処理水に浸漬する前に、分離膜を親水性の液体で濡らす場合には、分離膜の膜面に親水基が付着して親水性を示すようになり、その後、被処理水に浸漬したときに膜面に水の薄層が形成され、その結果、被処理水に含まれる油分と膜を構成する樹脂との結合が妨げられる。尚、水として、上水や、工水、分離膜の透過水が例示でき、親水性の液体として、表面活性剤、アルコールが例示できる。
【0011】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記膜エレメントが浸漬される被処理水が、油脂成分を含有する被処理水である点にある。
【0012】
上述した通り、膜エレメントを被処理水に浸漬する前に、分離膜を水または親水性の液体で濡らすことにより、被処理水に浸漬したときに膜面に水の薄層が形成されるので、一般的な分離膜の材料のように樹脂自体が親油性(疎水性)を示す場合であっても、当該水の薄層によって分離膜の膜面と被処理水中の油脂成分との結合が妨げられるようになり、膜面に油脂成分が吸着することによる急激なろ過性能の低下を来たすことがなくなる。
【0013】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成に加えて、前記分離膜を濡らすための親水性の液体は、表面活性剤がその成分に含まれている点にある。
【0014】
分離膜を濡らすための親水性の液体は、表面活性剤がその成分に含まれているので、分離膜面での界面張力を低下させて、ぬれ性を向上させることができる。表面活性剤として、例えば、陰イオン系(アニオン系)界面活性剤、非イオン系(ノニオン系)界面活性剤、及び、陽イオン系(カチオン系)界面活性剤が好ましく例示できる。
【0015】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記分離膜は、製膜時に予め親水化処理され、製造後に乾燥状態で保存されている点にあり、このような分離膜に本発明を好適に用いることができる。
【0016】
乾燥保存される前に膜面が親水化処理されている場合には、分離膜を水で濡らすことにより、親水性が発現し易くなる。
【0017】
本発明による膜エレメントのろ過運転方法の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述した第一から第四の何れかの特徴構成による膜エレメントの浸漬方法を用いて、被処理水に膜エレメントを浸漬した後に、被処理水から膜エレメントを透過した処理水を得るろか運転を行なう点にあり、これによって、急激なろ過性能の低下を来たさずにろ過運転を実行することができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明した通り、本発明によれば、被処理水が充填された処理水槽に新しい膜エレメントを浸漬する際に、急激なろ過性能の低下を来たさない膜エレメントの浸漬方法、及び膜エレメントのろ過運転方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】排水処理設備の説明図
【図2】膜分離装置の説明図
【図3】膜エレメントの説明図
【図4】膜分離装置の稼働時間と膜間差圧の説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による膜エレメントの浸漬方法、及び膜エレメントのろ過運転方法を説明する。
図1に示すように、有機性排水などの被処理水を浄化する排水処理設備1は、前処理設備2と、流量調整槽3と、活性汚泥が充填された膜分離槽4と、膜分離槽4に浸漬配置され槽内の被処理水から透過水を得る膜分離装置6と、処理水槽5や制御装置を備えている。
【0021】
前処理設備2には原水に混入している夾雑物を除去するバースクリーン2a等が設けられ、バースクリーン2a等で夾雑物が除去された被処理水が流量調整槽3に一旦貯留される。原水の流入量が変動する場合であっても、ポンプやバルブ等の流量調整機構3aによって、流量調整槽3からは一定流量の被処理水が膜分離槽4に安定供給されるように構成されている。
【0022】
膜分離装置6には複数の膜エレメント10が収容され、膜エレメント10の下方には散気装置7が設置されている。複数の膜エレメント10は、夫々に備えた分離膜11の膜面が縦姿勢となるように一定間隔を隔てて配列されている。各膜エレメント10には集液管を介してろ過ポンプ8が接続され、ろ過ポンプ8による差圧で膜分離槽4内の被処理水が膜エレメント10の分離膜11を透過する。
【0023】
図3に示すように、膜エレメント10は、上部に集水管13を備えた樹脂製の膜支持体12の表裏両面に分離膜11が配置されて構成されている。分離膜11は、不織布の表面に多孔性を有する樹脂が塗布及び含浸されて接合された公称孔径が0.4μm程度の精密ろ過膜で構成されている。分離膜11は、製造後に親水化処理をする構成であってもよく、また、予め製膜時に、樹脂含んだ製膜液中に親水化剤を混入させる等の親水化処理をする構成であってもよい。該膜エレメント10は、製膜後は、乾燥状態で保存される。
【0024】
尚、本発明における乾燥状態とは、デシケータ等で積極的に除湿乾燥された状態のほかに、不活性ガス雰囲気中や、大気開放空間での自然乾燥状態を含む広い意味での乾燥状態を示す。
【0025】
逆浸透膜等の限外ろ過膜は、製造後から使用時までに、湿潤状態を保つ必要がある。そのため、分離膜を乾燥させないように、膜エレメントを湿潤状態で保管し、輸送する必要があるため、梱包作業や、開梱作業が煩雑である。精密ろ過膜は、乾燥状態で保存することができるので、搬送等の作業が容易となる。
【0026】
尚、精密ろ過膜を構成する多孔質性の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルフォン等のろ過膜として一般的なものが用いられる。また、膜エレメント10は、平膜に限るものではなく、中空糸膜、チューブラー膜等であってもよい。
【0027】
散気装置7は複数の散気孔が形成された散気管と、散気管に空気等を供給するブロワなどの給気源を備えている。
【0028】
前記制御装置は、膜分離槽4内に設置された水位計からの水位の測定値に基づいて、槽内の水位が一定に維持されるように、流量調整機構3aを制御して流量調整槽3から膜分離槽4に供給する被処理水を調整し、散気装置7による曝気を行いながら膜エレメント10の膜間差圧を計測する圧力計の測定値に基づいて、ろ過ポンプ8を制御して活性汚泥によって生物学的に処理された被処理水を膜分離装置6の分離膜11によって固液分離するろ過運転工程を実行している。
【0029】
膜分離装置6の分離膜11の透過水は、処理水槽5に導かれて一時貯留され、必要に応じて消毒され放流される。尚、膜分離槽4で増殖した余剰汚泥は槽外に引き抜かれるように構成されている。
【0030】
しかし、膜エレメント10の分離膜11は、ある程度の継続的使用によって膜透過流束が低下する。
【0031】
このような、透過流束の低下の原因として、分離膜11への活性汚泥の付着や、経時的に形成されるファウリング層によるろ過抵抗の増大が考えられる。そこで、膜エレメント10は、一定期間毎、例えば数カ月に一度、薬液として次亜塩素酸ナトリウム等による薬洗や、処理水槽4から引き上げて人手で洗浄等の洗浄処理がされる。さらに、ろ過性能がある程度低下する数年単位、例えば3年から7年毎に膜エレメント10が交換される。
【0032】
膜エレメント10は、洗浄処理により、分離膜11に付着した活性汚泥やファウリングが除去される。しかし同時に、洗浄により分離膜11に付着している親水性の有機物も洗浄されてしまい、分離膜11は樹脂本来の親油性(疎水性)を呈する。
【0033】
ここで、排水処理設備1が処理する被処理水に油脂成分が混入しているような場合、洗浄後に一旦乾燥した分離膜11をそのまま処理水槽4に浸漬し、ろ過運転を再開すると、分離膜11の表面に、被処理水に含まれる油脂成分が付着し、ろ過性能が急激に大きく低下することが問題となる。
【0034】
尚、油脂成分とは被処理水に含まれる植物性油脂、動物性油脂、鉱物性油脂等、ノルマルヘキサン抽出物質をいう。
【0035】
そして、被処理水中のノルマルヘキサン抽出物質濃度が100mg/Lを超えると、前述のろ過性能の低下が顕著となり問題となる。
【0036】
また、新しい膜エレメント10に交換するときにも同様の問題がある。分離膜11は、製造後、または、製造時に親水化剤によって親水化処理されているが、膜エレメント10を乾燥状態で保存していると、分離膜11は、部分的に樹脂本来の親油性(疎水性)を呈する。このような分離膜11を、処理水槽4に浸漬すると、分離膜11の表面に、被処理水に含まれる油脂成分が付着し、ろ過性能が急激に大きく低下する。
【0037】
そこで、洗浄後の膜エレメント10を処理水槽4に浸漬する前、及び、新しい膜エレメント10を処理水槽4に浸漬する前に、水または親水性の液体で濡らす処理を施す。
【0038】
水として、上水や、工水、分離膜の透過水が例示でき、親水性の液体として、表面活性剤、アルコールが好ましく例示でき、表面活性剤として、例えば、陰イオン系(アニオン系)界面活性剤、非イオン系(ノニオン系)界面活性剤、及び、陽イオン系(カチオン系)界面活性剤が好ましく例示できる。
【0039】
また、水又は親水性の液体で濡らす方法としては、放水、散水、浸漬、噴霧等が挙げられるが、分離膜の全面が濡れればどのような方法であってもよい。
【0040】
図4は、膜エレメント10を、乾燥状態のままノルマルヘキサン抽出物質濃度で200mg/Lの油脂成分濃度を有する被処理水に浸漬した場合の稼働時間と膜間差圧の関係と、水で濡らしてから前記被処理水に浸漬した場合の稼働時間と膜間差圧の関係と、表面活性剤としてショ糖脂肪酸エステルで濡らしてから前記被処理水に浸漬した場合の稼働時間と膜間差圧の関係を示している。尚、稼働中は、フラックスを0.4m/(m・day)で一定させて運転を行った。
【0041】
膜エレメント10を、乾燥状態のまま被処理水に浸漬すると、稼働開始から24時間程度で急激に膜間差圧が上昇する。つまり、ろ過性能が急激に大きく低下する。
【0042】
一方、膜エレメント10を、水で濡らしてから被処理水に浸漬した場合は、分離膜を水で濡らすことで分離膜が親水性を示し、被処理水となじむので、稼働開始から24時間程度で僅かな膜間差圧の上昇が見られるが、乾燥状態のまま被処理水に浸漬する場合に比べて、ろ過性能の低下は改善され、良好なろ過処理を行うことができる。
【0043】
膜エレメント10を、表面活性剤で濡らしてから被処理水に浸漬した場合は、分離膜を表面活性剤で濡らすことで分離膜が親水性を示し、被処理水となじむので、稼働開始から96時間経過しても、膜間差圧の上昇が殆ど見られず、さらに、良好なろ過処理を行うことができる。
【0044】
このように、分離膜が乾燥状態で保存された膜エレメントを処理水槽に浸漬する際に、分離膜を水や親水性の液体で濡らした後に、被処理水に浸漬することで、分離膜は親水化剤によって親水化され、分離膜を構成する樹脂が備える親油基と油脂成分が結合することが防止でき、急激なろ過性能の低下を来たすことなく、良好なろ過処理を行うことができる。
【0045】
つまり、上述した膜エレメントの浸漬方法を用いて、被処理水に膜エレメントを浸漬した後に、被処理水から膜エレメントを透過した処理水を得るろか運転を行なう膜エレメントのろ過運転方法が実行される。
【0046】
以上のように、被処理水が充填された処理水槽4に新しい膜エレメント10を浸漬する際に、急激なろ過性能の低下を来たさない膜エレメント10の浸漬方法を提供することができるようになった。
【0047】
上述した実施形態は本発明の一態様であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成や制御態様は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1:排水処理設備
2:前処理設備
3:流量調整槽
4:膜分離槽
5:処理水槽
6:膜分離装置
7:散気装置
8:ろ過ポンプ
10:膜エレメント
11:分離膜
12:膜支持体
13:集水管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に膜エレメントを浸漬し、当該膜エレメントを透過した処理水を得るための膜エレメントの浸漬方法であって、
処理水を透過させる樹脂製の分離膜を備え、前記分離膜が乾燥状態で保存された膜エレメントに対して、少なくとも前記分離膜を水または親水性の液体で濡らした後に、前記被処理水に浸漬することを特徴とする膜エレメントの浸漬方法。
【請求項2】
前記膜エレメントが浸漬される被処理水が、油脂成分を含有する被処理水である請求項1記載の膜エレメントの浸漬方法。
【請求項3】
前記分離膜を濡らすための親水性の液体は、表面活性剤がその成分に含まれている請求項1または2記載の膜エレメントの浸漬方法。
【請求項4】
前記分離膜は、製膜時に予め親水化処理され、製造後に乾燥状態で保存されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の膜エレメントの浸漬方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載された膜エレメントの浸漬方法を用いて、被処理水に膜エレメントを浸漬した後に、被処理水から膜エレメントを透過した処理水を得るろか運転を行なうことを特徴とする膜エレメントのろ過運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−205980(P2012−205980A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72001(P2011−72001)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】