説明

膜モジュールおよび膜モジュールの製造方法

【課題】膜エレメント固定部と複数の膜エレメントとを容易に接合することができる膜モジュールを提供する。
【解決手段】膜エレメント固定部20と膜エレメント固定部20の開口部21に挿入された膜エレメント11の透過液取出端部18とが中空部13側からの加熱と押圧によって熱溶着され、熱溶着によって接合される接合部23における膜エレメント11と膜エレメント固定部20との材質が熱可塑性樹脂であり、接合部23において隣り合う膜エレメント11の透過液取出端部18間に、中空部13側に開放され且つ熱溶着の際に溶融した熱可塑性樹脂を逃がす逃げ空間24が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過膜を有する複数の膜エレメントと、内部に中空部を有する集水部材とを備えた膜モジュールおよびこのような膜モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、膜モジュールとしては、例えば図22に示すように、板状の支持部材71に複数の貫通孔72が形成され、各貫通孔72にそれぞれ膜エレメント73の透過液取出端部74が挿入されて接着されているものがある。尚、各膜エレメント73の透過液取出端部74には透過液取出口75が形成されている。
【0003】
これによると、膜エレメント73を透過した透過液は透過液取出口75から膜エレメント73の外部へ取り出される。尚、このような膜モジュール76は例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−327946
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来形式では、支持部材71と貫通孔72に挿入した透過液取出端部74とを接着するために、透過液取出端部74と貫通孔72の内周面とに接着剤を塗布して接着する方法が考えられる。しかしながら、接着剤の塗布に手間を要し、特に膜エレメント73の枚数が増加と、支持部材71(膜エレメント固定部)と膜エレメント73との接合に多大な労力と時間を要するという問題がある。
【0006】
また、接着の際、余分な接着剤がはみ出して膜エレメント73の透過液取出口75に流れ込み、透過液取出口75を閉塞してしまう虞もある。
本発明は、製作時、膜エレメント固定部と複数の膜エレメントとを容易に接合することができ、また、接合時、透過液取出口の閉塞を防止することが可能な膜モジュールおよび膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明は、ろ過膜を有する複数の膜エレメントと、
内部に中空部を有する集水部材とを備え、
ろ過膜を透過した透過液を集水部材の中空部に取り出す透過液取出口が膜エレメントの透過液取出端部に形成され、
集水部材は各膜エレメントの透過液取出端部を固定する膜エレメント固定部を有し、
膜エレメント固定部は各々の膜エレメントの透過液取出端部が挿入される複数の開口部を有する膜モジュールであって、
膜エレメント固定部と膜エレメント固定部の開口部に挿入された膜エレメントの透過液取出端部とが中空部側からの加熱と押圧によって熱溶着され、
熱溶着によって接合される接合部における膜エレメントと膜エレメント固定部との少なくとも一方の材質が熱可塑性樹脂であり、
接合部において隣り合う膜エレメントの透過液取出端部間に、中空部側に開放され且つ熱溶着の際に溶融又は軟化した熱可塑性樹脂を逃がす逃げ空間が形成されているものである。
【0008】
これによると、膜モジュールを製作する際、複数の膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定部の各開口部に挿入し、加熱板等を用いて、膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定部とを中空部側から加熱するとともに押圧して熱溶着する。これにより、膜エレメント固定部と複数の膜エレメントとを容易に接合することができる。
【0009】
この際、溶融(又は軟化)した熱可塑性樹脂が逃げ空間に逃げ込むことにより、熱可塑性樹脂の変形および流動が促進され、膜エレメントの透過液取出端部と開口部の内面との僅かな隙間が溶融(又は軟化)した熱可塑性樹脂で容易に埋まるため、膜エレメントと膜エレメント固定部とを熱溶着で良好に接合することができる。
【0010】
さらには、過大な圧力が膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定部の開口部の内面との間に作用するのを回避することができるので、膜エレメントの透過液取出口が溶融(又は軟化)して変形(又は流動)した熱可塑性樹脂により閉塞されてしまうのを抑制することができる。
【0011】
また、熱溶着の際、逃げ空間の存在により、接合部と加熱板との接触面積が減少するため、必要な部分にのみ熱エネルギーを集中的に付与することが可能であるとともに、熱溶着に要する熱エネルギーを低減することができる。
【0012】
このような膜モジュールにおいては、各膜エレメントのろ過膜を透過した透過液が透過液取出口から集水部材の中空部に取り出されて集められる。
本第2発明における膜モジュールは、膜エレメント固定部が熱可塑性樹脂であり、
逃げ空間は、膜エレメント固定部の隣り合う開口部間に形成され且つ中空部側に開放された溝であるものである。
【0013】
本第3発明における膜モジュールは、膜エレメントは平板又はシート形状であり、
膜エレメント固定部の開口部はスリット形状であるものである。
本第4発明における膜モジュールは、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定部の開口部に挿入する際の挿入量を規制する挿入量規制手段が備えられているものである。
【0014】
これによると、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定部の開口部に挿入する際、挿入量規制手段によって透過液取出端部の挿入量が規定量に規制される。これにより、透過液取出端部の挿入量を容易且つ正確に規定量にすることができ、上記挿入量が過大になったり或は不足するといった不具合を防止することができる。
【0015】
本第5発明は、ろ過膜を有する複数の膜エレメントと、
内部に中空部を有する集水部材とを備え、
ろ過膜を透過した透過液を集水部材の中空部に取り出す透過液取出口が膜エレメントの透過液取出端部に形成され、
集水部材は各膜エレメントの透過液取出端部を固定する膜エレメント固定部を有し、
膜エレメント固定部は各々の膜エレメントの透過液取出端部が挿入される複数の開口部を有する膜モジュールの製造方法であって、
互いに接合される膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定部との少なくとも一方の材質に熱可塑性樹脂を使用し、
膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定部の開口部に挿入し、
膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定部とを中空部側からの加熱と押圧によって熱溶着し、
熱溶着の際に溶融又は軟化した熱可塑性樹脂が、隣り合う膜エレメントの透過液取出端部間に形成された逃げ空間に逃げ込むものである。
【0016】
本第6発明における膜モジュールの製造方法は、逃げ空間は、膜エレメント固定部の隣り合う開口部間に形成され且つ中空部側に開放された溝であるものである。
本第7発明における膜モジュールの製造方法は、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定部の開口部に挿入した後、加熱板を中空部側から膜エレメントの透過液取出端部に押圧して熱溶着し、
この際、加熱板に設けられた突部を膜エレメントの透過液取出口に中空部側から挿入するものである。
【0017】
これによると、加熱板を中空部側から膜エレメントの透過液取出端部に押圧して熱溶着する際、加熱板の突部を膜エレメントの透過液取出口に挿入することで、透過液取出口が突部で閉じられる。これにより、溶融(又は変形)した熱可塑性樹脂が透過液取出口を閉塞してしまうのを確実に防止することができ、透過液の取出流路を確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によると、膜エレメント固定部と複数の膜エレメントとを熱溶着で容易に接合することができる。また、熱溶着の際、溶融(又は軟化)した熱可塑性樹脂が逃げ空間に逃げ込むことにより、熱可塑性樹脂の変形および流動が促進され、膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定部との僅かな隙間が溶融(又は軟化)した熱可塑性樹脂で容易に埋まるため、膜エレメントと膜エレメント固定部とを熱溶着で良好に接合することができる。
【0019】
さらには、過大な圧力が膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定部の開口部の内面との間に作用するのを回避することができるので、膜エレメントの透過液取出口が溶融(又は軟化)して変形(又は流動)した熱可塑性樹脂により閉塞されてしまうのを抑制することができる。
【0020】
また、熱溶着の際、逃げ空間の存在により、接合部と加熱板との接触面積が減少するため、必要な部分にのみ熱エネルギーを集中的に付与することが可能であるとともに、溶着に要する熱エネルギーを低減することができる。
【0021】
さらに、熱溶着の際、加熱板の突部を膜エレメントの透過液取出口に挿入することにより、溶融した熱可塑性樹脂が透過液取出口を閉塞してしまうのを確実に防止することができ、透過液の取出流路を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態における膜モジュールを積み重ねて構成される膜分離装置の正面図である。
【図2】同、膜モジュールの斜視図である。
【図3】同、膜モジュールの集水部材の縦断面図である。
【図4】同、膜モジュールの分解斜視図である。
【図5】同、膜モジュールの膜エレメントの透過液取出端部の拡大図である。
【図6】図5におけるX−X矢視図である。
【図7】同、膜モジュールの膜エレメント固定板の斜視図であり、(a)は図4におけるX−X矢視図、(b)は図4におけるY−Y矢視図である。
【図8】同、膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入する前の状態を示す。
【図9】同、膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入した状態を示す。
【図10】図9におけるX−X矢視図である。
【図11】同、膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定板との接合部に加熱板を押圧した状態を示す。
【図12】本発明の第2の実施の形態における膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入する前の状態を示す。
【図13】同、膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入した状態を示す。
【図14】本発明の第3の実施の形態における膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入する前の状態を示す。
【図15】同、膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入した状態を示す。
【図16】同、膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定板との接合部に加熱板を押圧した状態を示す。
【図17】本発明の第4の実施の形態における膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、(a)は膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入する前の状態、(b)は透過液取出端部を開口部に挿入した状態を示す。
【図18】本発明の第5の実施の形態における膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、(a)は膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入する前の状態、(b)は透過液取出端部を開口部に挿入した状態、(c)は透過液取出端部と膜エレメント固定板との接合部に加熱板を押圧した状態を示す。
【図19】本発明の第6の実施の形態における膜モジュールの製造方法を示す一部切欠き平面図であり、(a)は膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定板の開口部に挿入する前の状態、(b)は透過液取出端部を開口部に挿入した状態、(c)は透過液取出端部と膜エレメント固定板との接合部に加熱板を押圧した状態を示す。
【図20】本発明の第7の実施の形態における膜モジュールの膜エレメントの透過液取出端部の拡大図である。
【図21】図20におけるX−X矢視図である。
【図22】従来の膜モジュールの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施の形態)
以下、本発明における第1の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、1は膜分離装置であり、この膜分離装置1は処理槽2内に設置されて被処理液3(例えば下廃水等)に浸漬されている。膜分離装置1の下方には散気装置4が設けられている。膜分離装置1は上下に積み重ねられた複数の膜モジュール10で構成されている。
【0024】
各膜モジュール10の構成を以下に説明する。
図2〜図4に示すように、膜モジュール10は、所定間隔をあけて並列に配置された複数の膜エレメント11と、これら膜エレメント11の両側部に配置された一対の集水部材12とを備えている。集水部材12は、四角箱型の部材であり、内部に中空部13を有している。
図4〜図6に示すように、膜エレメント11は、平板状又はシート形状の平膜型エレメントであり、膜支持体である四角平板状のろ板15と、ろ板15の表裏両面に取り付けられた平膜状のろ過膜16とを有している。また、ろ過膜16を透過した透過液を集水部材12の中空部13に取り出す透過液取出口17がろ板15の両側の透過液取出端部18に上下複数形成されている。
【0025】
さらに、ろ板15には、ろ過膜16を透過した透過液を各透過液取出口17へ導く透過液流路19が形成されている。透過液流路19は、透過液取出口17に連通する複数の横流路19aと、ろ過膜16の透過側と横流路19aとに連通する複数の流通孔19bとを有している。
【0026】
図3,図4に示すように、両集水部材12はそれぞれ、複数の膜エレメント11の透過液取出端部18を固定する膜エレメント固定板20(膜エレメント固定部の一例)を有している。これらエレメント固定板20は、両集水部材12の相対向する内側壁を構成する平板状の部材であり、接着剤等によって集水部材12に接着される。尚、ろ板15と膜エレメント固定板20との材質は、共に、熱可塑性樹脂が使用されている。
【0027】
図4,図7,図8に示すように、各エレメント固定板20にはそれぞれ、上下方向に長いスリット形状の開口部21が複数形成されている。開口部21は、中空部13とは反対の外側に開口し且つ中空部13側ほど幅Aが縮小するテーパー状の案内部21aと、案内部21aから中空部13の側に開口する差込部21bとを有している。差込部21bの幅Bは膜エレメント11のろ板15の板厚とほぼ同じ或は僅かに大きく、開口部21の中空部13とは反対側の端部の幅Aは開口部21の中空部13側の端部の幅Bよりも大きい。上記のような構成により、各膜エレメント11の透過液取出端部18を膜エレメント固定板20の開口部21に容易に挿入することが可能である。尚、上記幅A,Bは膜エレメント11の厚さ方向Tにおける開口部21の寸法である。
【0028】
図9〜図11に示すように、各開口部21には膜エレメント11の透過液取出端部18が挿入され、エレメント固定板20と各膜エレメント11の透過液取出端部18とは、加熱板26を用いて中空部13側から加熱するとともに押圧することにより、熱溶着され接合されている。
【0029】
このうち、図7〜図9に示すように、上記熱溶着によって接合される接合部23において隣り合う膜エレメント11の透過液取出端部18間には、熱溶着の際に溶融したろ板15と膜エレメント固定板20との熱可塑性樹脂25(図11参照)を逃がす逃げ空間24が形成されている。各逃げ空間24は、中空部13側に開放されたV形状の溝であり、膜エレメント固定板20の隣り合う開口部21間に形成されている。尚、膜エレメント11の厚さ方向Tにおける逃げ空間24の幅Cは中空部13側ほど拡大している。
【0030】
また、図9,図10に示すように、加熱板26には、膜エレメント11の透過液取出口17に対して中空部13側から挿脱自在なピン27(突部の一例)が上下方向Dおよび膜エレメント11の厚さ方向Tにおいて複数設けられている。
【0031】
図2〜図4に示すように、集水部材12の上端には突出部29が設けられ、突出部29には、上端面と集水部材12の中空部13とに連通する上部集水口30が形成されている。また、集水部材12の下端には、中空部13に連通する下部集水口31が形成されている。
【0032】
図1に示すように、下段の膜モジュール10の突出部29を上段の膜モジュール10の下部集水口31に嵌め込むことにより、複数の膜モジュール10を上下に積み重ねることができる。尚、最下段の膜モジュール10の下部集水口31は栓等によって閉塞されている。
【0033】
図8,図9に示すように、各膜エレメント11の透過液取出端部18を中空部13とは反対側から膜エレメント固定板20の開口部21に挿入する。この際、透過液取出端部18は開口部21の案内部21aに案内されて容易に保持部21bに挿入される。
【0034】
このようにして、透過液取出端部18の端面を膜エレメント固定板20の内側端面と面一にし(一致させ)、この状態で、図11に示すように、加熱板26を中空部13側から透過液取出端部18と膜エレメント固定板20とに押圧するとともに、加熱板26からの加熱によって膜エレメント固定板20と複数の膜エレメント11の透過液取出端部18とを同時に熱溶着する。これにより、膜エレメント固定板20と複数の膜エレメント11とをまとめて容易に接合することができる。この際、加熱板26のピン27が中空部13側から膜エレメント11の透過液取出口17に挿入される。
【0035】
上記熱溶着の際に溶融(又は軟化)したろ板15の熱可塑性樹脂25と膜エレメント固定板20の熱可塑性樹脂25とが逃げ空間24に逃げ込み、これにより、熱可塑性樹脂25の変形および流動が促進され、透過液取出端部18と開口部21の保持部21bの内側面との僅かな隙間が溶融した熱可塑性樹脂25で容易に埋まるため、膜エレメント11と膜エレメント固定板20とを熱溶着で良好に接合することができる。
【0036】
さらには、加熱板26を押圧した際、過大な圧力が膜エレメント11の透過液取出端部18と膜エレメント固定板20の開口部21の内面との間に作用するのを回避することができるので、膜エレメント11の透過液取出口17が溶融(又は軟化)して変形(又は流動)した熱可塑性樹脂25により閉塞されてしまうのを抑制することができる。
【0037】
また、図9に示すように、逃げ空間24の存在により、接合部23(この場合、膜エレメント固定板20)と加熱板26との接触面積が減少するため、必要な部分にのみ熱エネルギーを集中的に付与することが可能であるとともに、熱溶着に要する熱エネルギーを低減することができる。
【0038】
尚、仮に、逃げ空間24が存在しない場合では、熱溶着時、溶融した熱可塑性樹脂25の逃げ場が無いため、熱可塑性樹脂25の変形および流動が促進されず、膜エレメント11と膜エレメント固定板20とを良好に接合することが困難になるという問題が生じる。また、接合部23と加熱板26との接触面積が増大するため、熱溶着に要する熱エネルギーが増大するといった問題も生じる。
【0039】
図11に示すように、熱溶着の際、加熱板26のピン27が透過液取出口17に挿入されているため、透過液取出口17がピン27で閉じられ、これにより、溶融(又は変形)した熱可塑性樹脂25が透過液取出口17を閉塞してしまうのを確実に防止することができ、透過液の取出流路を確保することができる。
【0040】
溶着後、加熱板26を膜エレメント固定板20と膜エレメント11の透過液取出端部18とから離間させ、これにより、ピン27が透過液取出口17から脱抜される。その後、接着剤、熱融着、機械的圧着等を用いて、エレメント固定板20を集水部材12に接着することで、図2に示すような膜モジュール10が製造される。
【0041】
このようにして複数の膜モジュール10を製造し、図1に示すように、下段の膜モジュール10の突出部29を上段の膜モジュール10の下部集水口31に嵌め込むことにより、処理槽2内に複数の膜モジュール10を上下に積み重ねて膜分離装置1を形成することができる。
【0042】
ろ過運転時においては、吸引ポンプ32等によって各膜モジュール10のろ過膜16の透過側に負圧(吸引圧)を作用させることにより、処理槽2内の被処理液3がろ過膜16を透過してろ過され、図3,図5に示すように、透過液は、透過液流路19の流通孔19bと横流路19aとを通って、透過液取出口17から各集水部材12の中空部13に取り出される。
【0043】
この際、上下各膜モジュール10の中空部13同士は上部および下部集水口30,31を介して連通しているため、下段の膜モジュール10の中空部13に集められた透過液は、上部および下部集水口30,31を通って上段の膜モジュール10の中空部13に流れ込み、最終的に最上位の膜モジュール10の中空部13から上部集水口30を通って膜分離装置1の外部へ取り出される。
【0044】
(第2の実施の形態)
以下、本発明における第2の実施の形態を図12,図13を参照しながら説明する。
膜エレメント11の透過液取出端部18を膜エレメント固定板20の開口部21に挿入する際の挿入量Jを規制する挿入量規制片35(挿入量規制手段の一例)が膜エレメント固定板20に設けられている。挿入量規制片35は、開口部21の中空部13側の奥端部に位置しており、膜エレメント11の厚さ方向Tにおいて相対向する開口部21の内側面21cから開口部21内に突出している。
【0045】
以下、上記構成における作用を説明する。
膜エレメント11の透過液取出端部18を膜エレメント固定板20の開口部21に挿入する際、図13に示すように、透過液取出端部18が挿入方向Fから挿入量規制片35に当接することにより、透過液取出端部18の挿入量Jが規定量に規制される。これにより、透過液取出端部18の挿入量Jを容易且つ正確に規定量にすることができ、上記挿入量Jが過大になったり或は不足するといった不具合を防止することができる。
【0046】
(第3の実施の形態)
上記第1および第2の実施の形態では、図8,図12に示すように、開口部21の中空部13とは反対側の端部の幅Aを開口部21の中空部13側の端部の幅Bよりも大きくしたが、以下に説明する第3の実施の形態では、図14〜図16に示すように、開口部21の幅Eを中空部13側の端部からその反対側の端部にわたり一定の幅にしている。
【0047】
また、上記第1および第2の実施の形態では、図8,図12に示すように、逃げ空間24はV形状の溝として形成されているが、本第3の実施の形態では、図14〜図16に示すように、逃げ空間24は一定の幅Cを有する凹形状の溝として形成されている。
【0048】
また、上記第1の実施の形態では、図9〜図11に示すように、ピン27が加熱板26に設けられて透過液取出口17に挿入されているが、本第3の実施の形態では、図15,図16に示すように、ピン27は加熱板26に設けられていない。
【0049】
膜モジュール10の製造方法は上記第1の実施の形態と同様であり、図15に示すように、各膜エレメント11の透過液取出端部18を膜エレメント固定板20の開口部21に挿入し、図16に示すように、加熱板26を中空部13側から透過液取出端部18と膜エレメント固定板20とに押圧し、加熱板26からの加熱によって膜エレメント固定板20と複数の膜エレメント11の透過液取出端部18とを同時に熱溶着する。これにより、膜エレメント固定板20と複数の膜エレメント11とをまとめて容易に接合することができる。
【0050】
上記熱溶着の際に溶融したろ板15の熱可塑性樹脂25と膜エレメント固定板20の熱可塑性樹脂25とが逃げ空間24に逃げ込み、熱可塑性樹脂25の変形および流動が促進され、膜エレメント11と膜エレメント固定板20とを熱溶着で良好に接合することができる。
【0051】
また、本第3の実施の形態ではピン27を加熱板26に設けていないため、溶融(又は軟化)した熱可塑性樹脂25が透過液取出口17の内部に流れ込もうとするが、熱可塑性樹脂25は逃げ空間24へも流れ込むため、透過液取出口17が熱可塑性樹脂25によって閉塞されてしまうのを抑制することができる。
【0052】
(第4の実施の形態)
本第4の実施の形態では、図17に示すように、膜エレメント11の透過液取出端部18を、挿入方向Fほどその厚さGが次第に減少する先すぼまり形状(テーパー形状)に形成している。
【0053】
これによると、各膜エレメント11の透過液取出端部18を膜エレメント固定板20の開口部21に容易に挿入することが可能である。
(第5の実施の形態)
本第5の実施の形態では、図18(a)に示すように、膜エレメント固定板20に形成されている開口部21は、互いに連通する第1開口部21dと第2開口部21eとで構成されている。第1開口部21dは中空部13とは反対の外側に開口し、第2開口部21eは中空部13の側に開口している。
【0054】
第1開口部21dの幅Hは膜エレメント11のろ板15の板厚とほぼ同じか或は僅かに大きく、第2開口部21eの幅Iは第1開口部21dの幅Hよりも大きい。これにより、図18(b)に示すように、各膜エレメント11の透過液取出端部18を膜エレメント固定板20の開口部21に挿入した際、熱溶着によって接合される接合部23において隣り合う膜エレメント11の透過液取出端部18間には、中空部13側に開放された逃げ空間24が形成される。尚、逃げ空間24は、膜エレメント11の厚さ方向Tにおいて相対向する膜エレメント11の透過液取出端部18および第2開口部21eの内側面と、第2開口部21eの第1開口部21d側における端面とで囲まれて、凹形状に形成されている。
【0055】
これによると、膜モジュール10の製造方法は上記第1の実施の形態と同様であり、図19(b)に示すように、各膜エレメント11の透過液取出端部18を膜エレメント固定板20の開口部21に挿入し、これにより、隣り合う膜エレメント11の透過液取出端部18間に逃げ空間24が形成される。
【0056】
その後、図18(c)に示すように、加熱板26を中空部13側から透過液取出端部18と膜エレメント固定板20とに押圧し、加熱板26からの加熱によって膜エレメント固定板20と複数の膜エレメント11の透過液取出端部18とを同時に熱溶着する。これにより、膜エレメント固定板20と複数の膜エレメント11とをまとめて容易に接合することができる。この際、加熱板26のピン27が中空部13側から膜エレメント11の透過液取出口17に挿入される。また、上記熱溶着の際に溶融したろ板15の熱可塑性樹脂25と膜エレメント固定板20の熱可塑性樹脂25とが逃げ空間24に逃げ込む。
【0057】
(第6の実施の形態)
本第6の実施の形態では、図19(a)に示すように、膜エレメント固定板20は、複数の開口部21が形成された平板部20aと、平板部20aの周縁に一体形成された枠部20bとを有している。尚、平板部20aの板厚は枠部20bの厚さよりも薄く、また、開口部21の幅Eは膜エレメント11のろ板15の板厚とほぼ同じか或は僅かに大きい。
【0058】
図19(b)に示すように、各膜エレメント11の透過液取出端部18を、膜エレメント固定板20の開口部21に、平板部20aよりも挿入方向F側へ突出させた状態で挿入する。この際、熱溶着によって接合される接合部23において隣り合う膜エレメント11の透過液取出端部18間には、中空部13側に開放された逃げ空間24が形成される。尚、逃げ空間24は、膜エレメント11の厚さ方向Tにおいて相対向する両膜エレメント11の透過液取出端部18と膜エレメント固定板20の平板部20aとで囲まれて、凹形状に形成されている。
【0059】
その後、図19(c)に示すように、加熱板26を中空部13側から透過液取出端部18に押圧し、加熱板26からの加熱によって透過液取出端部18と膜エレメント固定板20とを熱溶着する。これにより、膜エレメント固定板20と複数の膜エレメント11とをまとめて容易に接合することができる。この際、加熱板26のピン27が中空部13側から膜エレメント11の透過液取出口17に挿入される。また、上記熱溶着の際に溶融したろ板15の熱可塑性樹脂25は逃げ空間24に逃げ込む。
【0060】
(第7の実施の形態)
本第7の実施の形態では、図20,図21に示すように、透過液流路38は、ろ板15の表面に形成され且つろ過膜16の透過側に開放された格子状の流通溝38aと、一端が流通溝38aの端部に連通するとともに他端が透過液取出口17に連通する複数の流通路38bとを有している。尚、流通溝38aは上下方向の溝と水平方向の溝とが交差して形成されている。
【0061】
これによると、処理槽2内の被処理液3がろ過膜16を透過してろ過され、透過液は、透過液流路38の流通溝38aと流通路38bとを通って、透過液取出口17から各集水部材12の中空部13に取り出される。
【0062】
上記各実施の形態では、ろ板15と膜エレメント固定板20との各々の材質に熱可塑性樹脂を使用したが、ろ板15と膜エレメント固定板20とのいずれか一方の材質のみに熱可塑性樹脂を使用してもよい。
【0063】
上記各実施の形態では、膜エレメント11は平板状又はシート形状の平膜型エレメントであるが、この形式に限定されるものではなく、例えば、複数の中空糸膜からなり、各中空糸膜の端部を開口状態で結束した中空糸型エレメントや、或は、管状のセラミック多孔質体からなる管型エレメント等であってもよい。
【0064】
尚、上記平板状又はシート形状の膜エレメント11とは、平坦な形状のもの以外に、波板形状や蛇腹折り形状等の湾曲部や屈曲部を有する形状も含んでいる。
上記各実施の形態では、図1に示すように、膜モジュール10を上下に多段に積層して、集水部材12内の中空部13を連通させることが可能であるが、このような膜モジュール10に限定されるものではない。
【0065】
上記各実施の形態では、集水部材12を膜エレメント11の両側部に配置した膜モジュール10を示したが、集水部材12を膜エレメント11の片側のみに配置したものであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 膜モジュール
11 膜エレメント
12 集水部材
13 中空部
16 ろ過膜
17 透過液取出口
18 透過液取出端部
20 膜エレメント固定板(膜エレメント固定部)
21 開口部
23 接合部
24 逃げ空間
25 溶融した熱可塑性樹脂
27 ピン(突部)
35 挿入量規制片(挿入量規制手段)
J 挿入量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過膜を有する複数の膜エレメントと、
内部に中空部を有する集水部材とを備え、
ろ過膜を透過した透過液を集水部材の中空部に取り出す透過液取出口が膜エレメントの透過液取出端部に形成され、
集水部材は各膜エレメントの透過液取出端部を固定する膜エレメント固定部を有し、
膜エレメント固定部は各々の膜エレメントの透過液取出端部が挿入される複数の開口部を有する膜モジュールであって、
膜エレメント固定部と膜エレメント固定部の開口部に挿入された膜エレメントの透過液取出端部とが中空部側からの加熱と押圧によって熱溶着され、
熱溶着によって接合される接合部における膜エレメントと膜エレメント固定部との少なくとも一方の材質が熱可塑性樹脂であり、
接合部において隣り合う膜エレメントの透過液取出端部間に、中空部側に開放され且つ熱溶着の際に溶融又は軟化した熱可塑性樹脂を逃がす逃げ空間が形成されていることを特徴とする膜モジュール。
【請求項2】
膜エレメント固定部が熱可塑性樹脂であり、
逃げ空間は、膜エレメント固定部の隣り合う開口部間に形成され且つ中空部側に開放された溝であることを特徴とする請求項1記載の膜モジュール。
【請求項3】
膜エレメントは平板又はシート形状であり、
膜エレメント固定部の開口部はスリット形状であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の膜モジュール。
【請求項4】
膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定部の開口部に挿入する際の挿入量を規制する挿入量規制手段が備えられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の膜モジュール。
【請求項5】
ろ過膜を有する複数の膜エレメントと、
内部に中空部を有する集水部材とを備え、
ろ過膜を透過した透過液を集水部材の中空部に取り出す透過液取出口が膜エレメントの透過液取出端部に形成され、
集水部材は各膜エレメントの透過液取出端部を固定する膜エレメント固定部を有し、
膜エレメント固定部は各々の膜エレメントの透過液取出端部が挿入される複数の開口部を有する膜モジュールの製造方法であって、
互いに接合される膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定部との少なくとも一方の材質に熱可塑性樹脂を使用し、
膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定部の開口部に挿入し、
膜エレメントの透過液取出端部と膜エレメント固定部とを中空部側からの加熱と押圧によって熱溶着し、
熱溶着の際に溶融又は軟化した熱可塑性樹脂が、隣り合う膜エレメントの透過液取出端部間に形成された逃げ空間に逃げ込むことを特徴とする膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
逃げ空間は、膜エレメント固定部の隣り合う開口部間に形成され且つ中空部側に開放された溝であることを特徴とする請求項5記載の膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
膜エレメントの透過液取出端部を膜エレメント固定部の開口部に挿入した後、加熱板を中空部側から膜エレメントの透過液取出端部に押圧して熱溶着し、
この際、加熱板に設けられた突部を膜エレメントの透過液取出口に中空部側から挿入することを特徴とする請求項5又は請求項6記載の膜モジュールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2011−101869(P2011−101869A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258459(P2009−258459)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】