説明

膜分離方法

【課題】目的物とともに、微生物菌体またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液から、膜分離によって目的物を効率的に回収する方法を提供すること。
【解決手段】微生物菌体またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液の膜分離方法であって:(p) 目的物含有粗溶液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程;および(q) 前記濃縮液側の目的物濃度を、前記透過液側の目的物濃度よりも高く保持する工程;を含む、膜分離方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的物とともに、微生物菌体やタンパク質を含む目的物含有粗溶液から、膜を用いて目的物を効率よく分離し、回収する、新規な膜分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目的物とともに微生物菌体やタンパク質を含む、目的物含有粗溶液から、微生物菌体やタンパク質を除き、目的物を分離して回収する方法は、広く知られており、実際に様々な製品を製造する際に必要とされている。例えば、微生物発酵法によって生産した酵素や生理活性物質、有用化学物質等を製品化する場合、生産菌と目的物とを分離して回収する必要がある。微生物菌体触媒や酵素触媒を用いて有用化学物質等を製造する場合も同様に、微生物菌体触媒や酵素触媒と目的物とを分離して回収する必要がある。
【0003】
これらの分離・回収は様々な方法で実施されている。例えば、微生物菌体を除菌する方法として、遠心分離、精密濾過膜(以下MFと略す。)分離、珪藻土等の濾過助剤を用いた濾過分離等が、タンパク質を除タンパクする方法として、塩析、限外濾過膜(以下UFと略す。)分離等が実施されている。特に、微生物菌体または酵素の固定化物を除去したい場合には、通常はデカンテーションやカラム法により、該固定化物と反応生成物を分離することができる。
【0004】
これらの方法のうち、微生物菌体の除菌に遠心分離を用いる場合、完全に菌体を除去することは不可能であり、更なる分離工程が必要となる。また、珪藻土を用いた濾過分離では、多量の珪藻土を用いるため、珪藻土の混入した菌体が分離され、焼却処理を行うことができず、投棄処分が必要になる。
【0005】
また、タンパク質の除タンパクにおいて、塩析を用いる場合、完全に除タンパクすることは不可能であり、製品の安全上、更なる精製が必要となる。
【0006】
微生物菌体またはタンパク質(酵素)の固定化物の分離方法としては、担体固定化法や包括固定化法等、様々な方法があるが、何れも、微生物菌体やタンパク質の漏出を完全に阻止することは困難で、やはり更なる分離工程が必要となる。
【0007】
一方、膜分離は、分離目的物に応じて膜の孔径を制御することで、完全な分離を達成することができ、非目的物が除去された目的物含有溶液を回収することができるが、透過速度が低く、透過速度を上げるためには装置が大きくなるという欠点を有していた。
【0008】
膜分離処理における透過速度の低下は、一般に膜の孔が閉塞することが原因であると言われる。例えば上記MFを用いる場合には微生物菌体が閉塞原因となり、UFを用いる場合には発酵生産物であるタンパク質やその他の代謝産物が閉塞原因となり得る。
【0009】
これらの閉塞を解消する方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1は、発酵液にキトサン水溶液を添加する方法を開示し、目的タンパク質の阻止率が改善された実施例が示されているが、具体的な透過速度の改善については記述がない。特許文献2は、組換え大腸菌を用いたL-リジンの発酵生産において、発酵液にポリエチレンイミンを添加する方法を開示し、添加ポリエチレンイミン濃度に相関して、透過速度が改善された実施例が示されているが、透過時間30分の間に急激な透過速度の低下が見られる。特許文献3は、分離膜の平均細孔径と膜間差圧の範囲を規定した方法を開示し、大腸菌を用いた連続発酵によるL-乳酸の製造において、生産速度が大幅に向上した実施例が示されているが、透過速度は700[g-乳酸/m2/Hr]程度しかない。また、微生物触媒を用いた化学物質の製造法において、特許文献4は分離膜の平均細孔径と膜間差圧の範囲を規定した方法を開示し、L-リジン脱炭酸酵素を細胞表面に局在化した大腸菌細胞を用いた連続反応によるガダベリン塩酸塩の製造において、生産速度が大幅に向上した実施例が示されているが、透過速度は1500[g-ガダベリン/m2/Hr]程度しかない。
【0010】
また、一方で、酵素や微生物菌体などの生体触媒を用いて各種化学物質を製造するための反応器に膜を組み込んだ、いわゆる膜型バイオリアクターが広く知られている。膜型バイオリアクターは、生体触媒の存在形態(遊離生体触媒および膜固定化生体触媒)と物質移動の方法(圧力を推進力とする対流に基づく移動および濃度推進力に基づく拡散移動)に基づいて、I)遊離生体触媒を用いる拡散型リアクター、II)遊離生体触媒を用いる濾過型リアクター、III)固定化生体触媒を用いる拡散型リアクター、IV)固定化生体触媒を用いる濾過型リアクターの大きく4つに分類することができる(非特許文献1)。
【0011】
上記III)およびIV)の固定化生体触媒を用いる方法は、生体触媒を固定化する工程が必要となり、決して手軽な方法とは言えない。これに対し、I)およびII)の遊離生体触媒を用いる方法は、生体触媒の包括固定化法を用いることができ、制約条件の少ない手軽な方法である。
【0012】
I)遊離生体触媒を用いる拡散型リアクターでは、膜で隔てられたフィード流体の流れる側と反対側の区画に生体触媒が閉じ込められており、フィード流体中の基質が拡散により膜を透過して生体触媒側に入り、生体触媒側で反応する。反応生成物は、膜を透過してフィード流体側に戻り、装置外に排出される。膜としては、単位体積当たりの透過面積が大きくモジュール化が容易なハローファイバー膜がよく用いられる。このタイプのリアクターは、生体触媒を手軽に包括固定化でき、しかも失活した生体触媒を新しい生体触媒と容易に入れ替えられるという利点を有する。
【0013】
II)遊離生体触媒を用いる濾過型リアクターでは、遊離生体触媒を含む反応液で満たされたリアクターに原料液を圧送して反応させ、反応生成物を濾過により膜を透過させて装置外に排出し、回収する。濾過型のリアクターは拡散を伴わず、一般的に性能がよい。
【0014】
さらに一方で、全く異なる概念として、透析膜というものが知られている。透析現象は19世紀の中ごろGrahamによって発見され、透析による溶質移動と同時に、浸透圧差による溶媒移動が逆方向に生じる。透析法が初めて実用化されたのは、ビスコースレーヨン工業におけるアルカリ回収であり、その後、耐酸性ビニール膜を用いて酸および金属塩が回収され(非特許文献2)、また、陰イオン交換膜を用いて金属塩を含んだ酸溶液から酸が回収されている(非特許文献3)。透析による溶質移動速度は非常に小さいため、工業的には広く用いられておらず、人工透析(血液透析)として幅広く実用化されている(非特許文献4)。従来のいわゆる膜型バイオリアクターにおいては、この透析法の原理を利用した、効率的な有用化学物質の製造法について、全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−169671号公報
【特許文献2】特開平9−164323号公報
【特許文献3】特開2008−263945号公報
【特許文献4】特開2008−278885号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】社団法人化学工学会編、改定6版、「化学工学便覧」、1108-1135、丸善出版(1999)
【非特許文献2】Ind. Eng.Chem.,Prod. Res. Dev.,3,244- (1964)
【非特許文献3】Ind. Eng.Chem.,54,20- (1962)
【非特許文献4】社団法人化学工学会編、改定6版、「化学工学便覧」、915-920、丸善出版(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記特許文献1〜4に記載された方法において得られる透過速度は、工業的な実施には十分とは言い難い。また、膜型バイオリアクターのうち、I)遊離生体触媒を用いる拡散型リアクターは、基質と反応生成物の拡散速度が、反応速度より遅い場合、拡散律速となり、生産性が悪くなるという欠点を有し、II)遊離生体触媒を用いる濾過型リアクターは、濾過操作による膜表面への生体触媒の蓄積により圧損の増加と濾過速度の減少を引き起こすという欠点を有している。すなわち、従来のバイオリアクターでは、目的物の十分な生産および生体触媒の効率的な分離を実現することができないという問題がある。
【0018】
以上のような背景のもと、本発明の課題は、目的物とともに、微生物菌体やタンパク質を含む、目的物含有粗溶液から、膜分離処理によって目的物を効率的に回収する膜分離方法を提供することにある。また、該膜分離方法と、微生物菌体を用いた発酵系あるいは微生物菌体または酵素タンパク質を触媒とした反応系とを組み合わせた、効率的な目的物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに、目的物とともに、微生物菌体および/またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液を膜分離処理して、該微生物菌体および/またはタンパク質を膜の濃縮液側に分離すると同時に、目的物を膜の透過液側に回収する際に、該透過液側に目的物含有粗溶液を構成する溶媒を加えて濃縮液側と回収液側における目的物の濃度差を保つことにより、濃度推進力による拡散現象が生じ、該微生物菌体および/またはタンパク質による膜孔の閉塞が抑制され、工業的実施に十分な膜分離透過速度を達成できることを発見し、本発明を完成させるに至った。さらに、そのような膜分離方法を、微生物菌体を用いた発酵系あるいは微生物菌体または酵素タンパク質を触媒とした反応系と組み合わせることにより、効率的な目的物の製造方法も完成させるに至った。
【0020】
即ち、本発明は、微生物菌体またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液の膜分離方法であって:(p) 目的物含有粗溶液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程;および(q) 前記濃縮液側の目的物濃度を、前記透過液側の目的物濃度よりも高く保持する工程;を含む、膜分離方法に関する。
本発明はまた、前記工程(q)が、膜の透過液側に、目的物含有粗溶液を構成する溶媒を添加することにより行われる、前記の膜分離方法に関する。
本発明はまた、前記工程(q)が、膜の透過液側に水を添加することにより行われる、前記の膜分離方法に関する。
本発明はまた、前記工程(q)において、濃縮液側の目的物濃度が、前記透過液側の目的物濃度よりも、目的物の乾燥重量で2〜90重量%高く保持される、前記の膜分離方法に関する。
本発明はまた、前記工程(p)において、膜の濃縮液側と透過液側との膜間差圧が、濃縮液側が5〜150kPa高くなるよう調整される、前記の膜分離方法に関する。
本発明はまた、前記微生物菌体またはタンパク質が、微生物菌体固定化物またはタンパク質固定化物として目的物含有粗溶液に含まれる、前記の膜分離方法に関する。
本発明はまた、前記微生物菌体またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液が、微生物菌体発酵液または微生物菌体、酵素もしくはそれらの固定化物から選択される1つ以上を触媒とする反応液である、前記の膜分離方法に関する。
さらに、本発明は、以下の工程:(o) 微生物菌体を発酵させて微生物菌体培養液中で目的物を生産する工程;(p) 工程(o)で生産された、目的物を含有する微生物菌体培養液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、微生物菌体濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程;(q) 前記濃縮液側の目的物濃度を、前記透過液側の目的物濃度よりも高く保持する工程;および(r) 所望により、工程(p)で得られた微生物濃縮液を、工程(o)における微生物菌体培養液中に還流する工程:を含む、微生物菌体発酵を用いた目的物の製造方法に関する。
さらに、本発明は、以下の工程:(o) 微生物菌体、酵素またはそれらの固定化物を触媒として含む反応液中で目的物を生産する工程;(p) 工程(o)で生産された、目的物を含有する反応液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、触媒濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程;(q) 前記濃縮液側の目的物濃度を、前記透過液側の目的物濃度よりも高く保持する工程;および(r) 所望により、工程(p)で得られた触媒濃縮液を、工程(o)における反応液中に還流する工程;を含む、微生物菌体、酵素またはそれらの固定化物を触媒とする反応を用いた、目的物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、目的物とともに、微生物菌体および/またはタンパク質を含む、目的物含有粗溶液から、膜分離処理によって目的物を効率的に回収することができる膜分離方法が提供される。また、該膜分離方法と、微生物菌体を用いた発酵系あるいは微生物菌体または酵素タンパク質を触媒とした反応系とを組み合わせた、効率的な目的物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一態様で用いられる、連続発酵系と多孔性膜分離処理との組合せの、一つの実施の形態を説明するための概略装置図を示す。
【図2】図2は、本発明の一態様で用いられる、連続発酵系と多孔性膜分離処理との組合せの、他の実施の形態を説明するための概略装置図を示す。
【図3】図3は、本発明の一態様で用いられる、連続反応系と多孔性膜分離処理との組合せの、一つの実施の形態を説明するための概略装置図を示す。
【図4】図4は、本発明の一態様で用いられる、連続反応系と多孔性膜分離処理との組合せの、他の実施の形態を説明するための概略装置図を示す。
【図5】図5は、本発明の一態様で用いられる、分離膜モジュールの、一つの実施の形態を説明するための概略装置図を示す。
【図6】図6は、本発明の一態様で用いられる、他の分離膜モジュールの、一つの実施の形態を説明するための概略装置図を示す。
【図7】図7は、実施例1の結果を示す。
【図8】図8は、実施例2と比較例1の結果を示す。
【図9】図9は、実施例3の結果を示す。
【図10】図10は、実施例4の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、図面における上下左右等の位置関係は、特に断らない限り図面に示す位置関係に基づくものとし、図面の寸法比率は、図示の比率に限られるものではない。
【0024】
本実施の形態は、微生物菌体またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液の膜分離方法に関する。本実施の形態において、膜分離の対象となる、微生物菌体またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液とは、膜分離により分離し回収しようとする目的物のほかに、任意の微生物菌体またはタンパク質を不純物として含む溶液である。本実施の形態における膜分離の対象として特に好ましい目的物含有粗溶液としては、たとえば、微生物菌体発酵液、微生物休止菌体、酵素もしくはそれらの固定化物を触媒とした反応液等が挙げられる。
【0025】
目的物含有粗溶液中の目的物としては、例えば、リパーゼ、セルラーゼ、キシラーゼ、アミラーゼ等の酵素、ペプチド類、タンパク類、アミノ酸類、有機酸類、アルコール類、アルデヒド類、エステル類、ケトン類、単糖/オリゴ糖類等が挙げられるがこれらに限定されない。ここで、本明細書中で「目的物」とは、後述の本実施の形態の膜分離工程において、膜の透過液側に透過させて、回収しようとする1以上の成分を指す。後述の本実施の形態の膜分離工程において、目的物含有粗溶液中の成分であって、膜の濃縮液側から透過液側に透過しない物質は、目的物と分離され、濃縮液側に残る。なお、本実施の形態における膜分離方法で得られた目的物含有透過液を、再度別の目的物含有粗溶液として本実施の形態における膜分離方法に供することもできる。
【0026】
例えば、微生物菌体を発酵して目的物を生産させて得られた微生物菌体培養液を、本実施の形態における目的物含有粗溶液として用いることができる。この場合、目的物としては、微生物発酵で生産される産業上有用な水溶性の物質であれば特に限定されないが、例えば、リパーゼ、セルラーゼ、キシラーゼ、アミラーゼ等の酵素、ペプチド類、タンパク類、アミノ酸類、有機酸類、アルコール類、アルデヒド類、エステル類、ケトン類、単糖/オリゴ糖類等を挙げることができる。
【0027】
前記微生物菌体を用いて発酵する際の発酵原料(培地)は、発酵培養する微生物菌体の生育を促し、目的物となる発酵生産物を良好に生産させる組成であれば限定されず、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミン等の有機微量栄養素を適宜含有する液体培地等が好ましく用いられる。
【0028】
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、スクロース、フルクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘蔗糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテスクトモラセス、サトウキビ搾汁、さらには酢酸、フマル酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類ならびにグリセリン等が挙げられる。
【0029】
上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助剤に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆油類または大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他アミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物等が挙げられる。
【0030】
上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等が挙げられる。
【0031】
微生物菌体が、生育のために特定の栄養素を必要とする場合、その栄養素を標品もしくはそれ含有する天然物として添加することができる。また、消泡剤も必要に応じて添加することができる。
【0032】
本実施の形態において、微生物菌体の発酵は、当業者に公知の手法を用いて行うことができる。代表的な手法としては、例えば、発酵原料と種菌を予め仕込んで微生物菌体の増殖を図る回分発酵培養、発酵原料と種菌を予め仕込んでおき、適宜または連続的に発酵原料を供給する流加発酵培養、発酵原料を供給すると同時に、発酵培養液を系外へ抜き出す連続発酵培養、の3つが挙げられるが、何れの方法を用いても行うことができる。
【0033】
連続発酵培養の場合、培養初期に回分発酵培養または流加発酵培養を行って、微生物菌体濃度を高めた後に連続発酵培養を開始してもよいし、高濃度の微生物菌体をシードし、培養開始と同時に連続発酵培養を開始してもよい。発酵原料の供給と発酵培養液の抜き出しは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。発酵原料には、上記のような微生物菌体の増殖に必要な成分を適宜添加し、微生物菌体の増殖が連続的に行われるようにすることができる。
【0034】
前記連続発酵培養液中の微生物菌体濃度は、効率的に目的物を生産するという観点から、発酵環境が微生物菌体の増殖に不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、できるだけ高い状態で維持することが好ましい。連続発酵に用いる装置の運転上の不具合や生産効率の低下を招かない限り、培養液中の微生物菌体濃度の上限値は特に限定されない。
【0035】
目的物の発酵生産能力を有するフレッシュな微生物菌体を増殖させつつ行う連続発酵培養は、培養管理上、通常、単一の発酵槽中で行われるが、発酵槽の数に制限はない。発酵槽の容量を小さくすることができる等の理由から、複数の発酵槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵槽間を配管で並列または直列に接続して連続発酵培養を行ってもよい。
【0036】
目的物の発酵生産に使用される微生物菌体は、目的物の生産能力が高いものが好ましい。元来、目的物の生産能力の高い微生物菌体を自然界から分離して用いてもよいし、人為的に目的物生産能力を高めた微生物菌体を用いてもよい。具体的には、突然変異や遺伝子組換えによって、代謝系が改変された微生物菌体を用いてもよい。
【0037】
微生物菌体の発酵培養は、通常pH=4〜8で温度が20〜40℃の範囲で行われることが多いが、発酵に使用する微生物菌体の種類によっては、この限りではない。例えば、好酸菌を用いる場合は、生育速度が十分速い範囲で、pH=4未満で発酵を行う場合もあるし、好塩基菌を用いる場合は、生育速度が十分速い範囲で、pH=8よりも高いpHで発酵を行う場合もある。また、好熱菌を用いる場合、生育速度が十分速い範囲で、40℃よりも高い温度で発酵を行う場合もある。
【0038】
発酵培養液中の溶存酸素濃度は、目的物の生産性が高くなるように制御することが好ましい。発酵培養液中の溶存酸素の制御は、供給する気体の供給速度や、供給する気体の成分比率を変更することにより達成できる。例えば、酸素の供給速度を上げる必要があれば、供給する空気に酸素を加えて酸素濃度を所定濃度(例えば21%)以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、通気量を上げる等の手段を用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要があれば、炭酸ガス、窒素、アルゴンガス等の微生物菌体にとって毒性のないガスを空気に混合して供給することが可能である。また、微生物菌体が嫌気性の場合、炭酸ガス、窒素、アルゴンガス等をそのまま供給することも可能である。
【0039】
一態様において、微生物菌体(特に微生物休止菌体)、酵素またはそれらの固定化物から選択される1つ以上を触媒として基質から目的物を生産した反応液を、本実施の形態における目的物含有粗溶液として用いることができる。前記反応液中において、触媒を用いて基質から目的物が生産される。この場合、目的物としては、任意の触媒を用いて任意の基質から生産される産業上有用な水溶性の物質であれば特に限定されないが、例えば、ペプチド類、タンパク類、アミノ酸類、有機酸類、アルコール類、アルデヒド類、エステル類、ケトン類、単糖/オリゴ糖類等を挙げることができる。
【0040】
触媒を用いて基質から目的物を生産する方法には、例えば、基質と触媒を予め仕込んで反応を行う回分反応、基質と触媒を予め仕込んでおき、適宜または連続的に基質を供給していく半回分反応、連続的に基質を供給すると同時に、連続的に反応液を系外へ抜き出す連続反応、の3つが挙げられるが、何れの方法を用いても行うことができる。
【0041】
上記基質は、触媒によって、目的物が製造され得る限り特に限定されず、例えば、触媒がニトリラーゼ酵素活性を有するものである場合、基質のニトリル化合物から目的物である有機酸アンモニウム塩が製造される。前記触媒(酵素)が機能するために補酵素が必要な場合、基質とともに補酵素を反応液中に供給することができる。補酵素としては、具体的には、ビタミン、ATP、NADH、亜鉛、マンガン、鉄、マグネシウム、カルシウム等を挙げることができる。
【0042】
上記触媒を用いた化学変換反応の条件は、触媒の種類(微生物菌体を触媒とする場合、例えば前記微生物菌体の有する酵素の種類)、使用される基質の種類、反応生成物の種類によって、決定することができる。反応温度は、該触媒の熱安定性が確保される温度以下であって、できるだけ高い反応速度が得られる温度を設定することができる。例えば、反応温度を、通常10〜90℃、好ましくは20〜70℃、さらに好ましくは30〜60℃の範囲に設定することができる。反応pHは、該触媒の反応速度が最も高くなる至適pH付近が好ましく、反応基質、反応生成物、微生物菌体のpHに対する安定性も考慮して適宜設定することができる。例えば、反応pHを、通常2〜12、好ましくは3〜10、さらに好ましくは4〜9、最も好ましくは6〜8の範囲に設定することができる。
【0043】
上記触媒を用いた反応における基質濃度は、高すぎると基質阻害の影響が顕著となり、低すぎると生産性の低下が起こることを考慮し、反応形式が半回分反応または連続反応の場合、定常濃度が、通常0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.3〜5重量%、最も好ましくは0.5〜2重量%で行うことができる。
【0044】
本実施の形態において、触媒としては、例えば、微生物、タンパク質(酵素)またはそれらの固定化物が挙げられる。
【0045】
触媒が微生物菌体である場合、基質から目的物を生産する活性を有する微生物菌体であれば特に限定されないが、目的物の生産に際して高い酵素活性を持つ微生物菌体を好ましく用いることができる。前記微生物菌体としては、例えば、発酵工業においてよく利用される酵母、大腸菌やアシネトバクター属細菌等のバクテリア、糸状菌、放線菌等が挙げられる。微生物菌体は、目的物の製造に用いる前に、上述の微生物菌体の発酵において詳述した方法に準じて当業者に公知の手法を用いて培養することができる。
【0046】
使用する微生物菌体は、自然界から単離されたものでもよいし、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものでもよい。例えば、突然変異や遺伝子組換えによって、微生物菌体の基質の取り込み能力を強化させてもよい。これによって微生物菌体触媒による基質からの目的物生産効率を高めることができる。さらに、突然変異や遺伝子組換えによって、基質から目的物を生産する触媒となる酵素に付加的な機能を加えるように、該酵素をコードする遺伝子を改変してもよい。例えば、基質から目的物を生産する酵素を微生物菌体の細胞表層に提示させるように改変した遺伝子を導入した微生物菌体を用いることができる。これにより、基質を微生物菌体細胞内へ取り込み、内部の酵素によって目的物へ変換し、生産された目的物を微生物菌体細胞外、すなわち反応液中に放出するステップを省略し、目的物の生産効率を上げることが可能となる。
【0047】
触媒として用いる微生物菌体は、目的物である反応生産物を反応液中に生産する能力を有することが望ましい。目的物が反応液中に生産されることにより、その後の膜分離処理による該微生物菌体触媒と目的物との分離を効率よく行うことができる。突然変異や遺伝子組換えによって、目的物の反応液中への生産能力を高めた、人為的改変微生物菌体も好ましく用いることができる。
【0048】
触媒がタンパク質、すなわち酵素である場合、該酵素としては、例えば、微生物菌体、動物細胞、植物細胞等から取得した酵素や、自然界に存在するメタゲノムを利用して無細胞系で人工的にタンパク合成した酵素等を用いることができる。特に、該酵素として、自然界の中に存在する微生物菌体をスクリーニングすることによって得られた、高活性酵素を有する微生物菌体から取り出した酵素を好ましく用いることができる。また、取り出された酵素の遺伝子にランダム変異等を施し、再度、微生物菌体で発現させ、高活性のものをスクリーニングすることで取得した、改変酵素を用いてもよい。
【0049】
酵素を発現することができる微生物菌体を培養することによって酵素を取得する場合、そのような微生物菌体の培養は、上述の微生物菌体の発酵において詳述した方法に準じて当業者に公知の手法を用いて行うことができる。
【0050】
上記の触媒である微生物菌体またはタンパク質(酵素)は、固定化物として用いることもできる。本明細書中において微生物菌体またはタンパク質というときには、これらの固定化物も含む。固定化の方法および固定化物の形態は特に限定されず、例えば、上記の微生物菌体や酵素を、担体に物理吸着、イオン結合、共有結合等の手法により固定化したもの、微生物菌体や酵素自身を、グルタルアルデヒドやポリエチレンイミン等で固定化したもの、あるいは微生物菌体や酵素を、ポリアクリルアミド、アルギン酸、カラギーナン等の高分子ゲルによって包括的に固定化したもの等を、微生物菌体またはタンパク質(酵素)の固定化物として用いることができる。
【0051】
上記の目的物含有粗溶液が、触媒による反応液の場合、その溶媒は特に限定されない。例えば、溶媒として、通常は水を用いることができるが、触媒の活性が高く保持できるならば、有機溶媒であっても構わない。例えばリパーゼ活性を有する触媒を用いて、加水分解反応の逆反応で、有機酸類とアルコール類からエステル化合物を製造する場合等は、平衡反応を生成物側へ傾ける効果を発揮させるため、有機溶媒中で化学変換反応を行わせることがよく知られている。
【0052】
本実施の形態における膜分離方法は、上記の目的物含有粗溶液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程を含む。この分離工程において、目的物以外の成分が、目的物とともに膜の濃縮液側から透過液側に透過しても良い。例えば、微生物菌体に加えて微生物菌体から漏出するタンパク質を含む目的物含有粗溶液を上記の分離工程に供した際、目的物ともに、微生物から漏出するタンパク質が透過液側に透過して、目的物含有透過液中に回収されても良い。得られた目的物含有透過液を、タンパク質を含む目的物含有粗溶液として、再度別の分離工程に供して目的物を回収することもできる。
【0053】
膜は、多孔性分離膜であって、上記の透過の際に目詰まりが起こりにくく、そして、透過性能が長期間安定に継続する性能を有するものであることが望ましい。一般に、微生物菌体またはタンパク質の固定化物は、微生物菌体またはタンパク質と比較して、膜の目詰まりを起こしにくく、膜の目的物透過性能が長期間安定に高く継続する。膜の種類としては、MFまたはUFが用いられる。膜は、上記の分離工程において、目的物含有粗溶液から、透過液側に透過させて回収しようとする目的物および濃縮液側に分離しようとする物質に応じて、適宜選択することができる。特に、目的物含有粗溶液から、濃縮液側に微生物菌体を分離しようとする場合、好ましくはMFが用いられる。また、目的物含有粗溶液から、濃縮液側にタンパク質を分離しようとする場合、UFが好ましく用いられる。例えば、目的物含有粗溶液から、濃縮液側に微生物菌体のみならず微生物菌体から漏出するタンパク質をも分離しようとする場合にも、UFが好ましく用いられる。さらに、目的物含有粗溶液から、濃縮液側に微生物菌体またはタンパク質の固定化物を分離しようとする場合、MFまたはさらに細孔の大きな膜が好ましく用いられる。
【0054】
上記多孔性分離膜の平均細孔径は、上記の分離工程において、目的物含有粗溶液から、濃縮液側に分離しようとする任意の対象、すなわち、微生物菌体、タンパク質またはこれらの固定化物のうち任意の対象のサイズより小さくないと、目的物からのこれらの完全な分離は達成できないが、小さすぎると透過液側に透過させて回収しようとする目的物の透過速度を低下させてしまう。目的物含有粗溶液が、濃縮液側に分離しようとする対象として微生物菌体を含む場合、前記多孔性分離膜の平均細孔径は、通常は0.01〜5μm、好ましくは0.05〜2μm、より好ましくは0.1〜0.5μmであり得る。また、目的物含有粗溶液が、濃縮液側に分離しようとする対象としてタンパク質を含む場合、前記多孔性分離膜の細孔径の目安は、通常、分画分子量という形で標記される。分画分子量とは、タンパク質の膜分離を実施した場合、その膜で分画除去できるタンパク質の分子量を示す。よって、上記多孔性分離膜の分画分子量は、上記の分離工程において、目的物含有粗溶液から、濃縮液側に分離しようとする対象タンパク質の分子量や会合度によって大きく変化するが、通常は3000〜30000、好ましくは5000〜10000であり得る。さらに、目的物含有粗溶液が、濃縮液側に分離しようとする対象として微生物菌体またはタンパク質の固定化物を含む場合、前記多孔性分離膜の平均細孔径は、対象とする微生物菌体または酵素の固定化物のサイズにより異なるが、通常は0.1〜3000μm、好ましくは10〜2000μm、より好ましくは100〜1000μmであり得る。ここで前記平均細孔径は、倍率10,0000倍の走査型電子顕微鏡観察において、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察される細孔の全ての、一方向での直径を測定し、測定値を平均することによって求めることができる。
【0055】
上記多孔性分離膜の材質は、有機材/無機材どちらでもよく、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、セルローストリアセテート系樹脂、テフロン(登録商標)系樹脂、セラミック類等を挙げることができる。特に、目的物含有粗溶液が、濃縮液側に分離しようとする対象として微生物菌体またはタンパク質の固定化物を含む場合には、より平均細孔径の大きな多孔性分離膜を用い得るため、上記材質に加えてガラス類、金属類等を挙げることができる。
【0056】
上記多孔性分離膜の膜型式は、特に限定されないが、一般的には、中空糸、チューブラー、スパイラル、平膜型モジュール等が用いられる。特に目的物含有粗溶液が、濃縮液側に分離しようとする対象として微生物菌体またはタンパク質の固定化物を含み、該固定化物が大きい場合、前記膜分離装置の流路内での該固定化物の閉塞を防止するため、前記流路が、該固定化物が十分スムーズに流れる形状および大きさを有するよう、膜型式が選択される。
【0057】
本実施の形態において、目的物含有粗溶液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程は、上記の多孔性分離膜で隔てられた一方の側(濃縮液側)に目的物含有粗溶液を供給し、他方の側(透過液側)へ目的物を透過させ、透過液側に目的物含有透過液を回収し、濃縮液側に、目的物含有粗溶液中から目的物と分離しようとする対象である微生物菌体またはタンパク質を濃縮する。分離後に回収された濃縮液は、再度分離前の目的物含有粗溶液と混合してもよい。また、目的物含有透過液は、そのまま系外に抜き出してもよいし、一部を再度分離前の目的物含有粗溶液と混合してもよい。
【0058】
上記の分離工程を行う方法は特に限定されず、例えば、ある一定量の目的物含有粗溶液を、上記多孔性分離膜で分離処理し、結果として目的物含有粗溶液中から目的物と分離しようとする対象である微生物菌体またはタンパク質を濃縮していく回分式、あるいは、回収液側で系外へ抜き出された液量に相当する新たな目的物含有粗溶液を、原液側へ連続的または間欠的にフィード液として供給しながら、原液側の微生物菌体またはタンパク質の濃度を、フィード液の微生物菌体またはタンパク質の濃度よりも高い範囲で一定に保つ運転を行う、連続式等が考えられる。
【0059】
本実施の形態の膜分離方法は、上記の分離する工程に加え、さらに前記濃縮液側の目的物濃度を、前記透過液側の目的物濃度よりも高く保持する工程を含む。つまり、通常の膜分離処理で行われる濾過では、原理上、原液と回収液の目的物濃度は同じになるが、本発明においては、膜の濃縮液側の目的物濃度が、透過液側の目的物濃度よりも高く保持され、前記多孔性分離膜を隔てて、目的物の濃度差が生じることとなる。よって、通常の圧力差のみを透過の推進力とした濾過操作とは異なり、圧力差の推進力に濃度差の推進力を加えて、もしくは濃度差の推進力のみで、目的物が分離膜を透過することとなる。
【0060】
膜の濃縮液側の目的物濃度を透過液側の目的物濃度よりも高く保持するための手段は特に限定されず、透過液側および濃縮液側の一方または両方の目的物濃度を変化させることにより行うことができる。例えば、透過液側に、目的物含有粗溶液を構成する溶媒を添加する方法が挙げられる。この溶媒は、目的物含有粗溶液を構成する成分であって、目的物以外の成分を含むものであれば特に限定されず、複数の成分を含む溶媒を用いることができる。簡便には、目的物含有粗溶液が水を含む場合、水を透過液側に添加することができる。
【0061】
上記の溶媒添加量を多くすれば、濃縮液側と透過液側との目的物濃度差が大きくなるが、溶媒添加量を多くしすぎると、回収される透過液中の目的物濃度が低くなり、回収後の濃縮の負荷が増加する。濃縮液側と透過液側の目的物濃度差は、必ずしも限定されないが、通常0重量%より大きく、好ましくは5〜90重量%、さらに好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは15〜30重量%がよい。
【0062】
本実施の形態において、目的物含有粗溶液中の目的物濃度は、目的物を生産する条件にも依存するが、低すぎると膜処理液量が多くなり、高すぎると微生物菌体またはタンパク質(酵素)の安定性低下を引き起こしたり、微生物菌体からのタンパク質の漏出の原因となったりするので好ましくない。また、濃縮液側と透過液側の目的物の濃度差を大きくするほど、目的物の拡散速度が高くなるので、目的物含有粗溶液中の目的物の濃度はできるだけ高く設定することが望ましい。目的物の濃度は、通常2〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%、最も好ましくは30〜60重量%であり得る。
【0063】
本実施の形態における膜分離方法においては、浸透圧による溶媒の逆流が問題となり得る。目的物の膜透過が進行すると同時に、膜間の濃度差を均一にする方向、つまり、透過液側から濃縮液側に向かって、前記溶媒が膜透過してしまい、膜の濃縮液側の目的物の濃度が低下する。これにより、徐々に推進力として必要な膜間での目的物の濃度差が小さくなってしまい、透過処理速度が低下する。この浸透圧による溶媒の逆流を防ぐため、分離膜を挟んだ、濃縮液と透過液との間に、濃縮液側が高くなるよう、膜間差圧を設定することができる。設定する膜間差圧は、使用する膜の孔径、処理する目的物含有粗溶液の物性、目的物含有粗溶液に含まれる微生物菌体またはタンパク質の物性等によって変化するが、目的物含有粗溶液が、濃縮液側に分離しようとする対象として微生物菌体あるいは微生物菌体またはタンパク質の固定化物を含む場合、通常は5〜150kPa、好ましくは10〜80Kpa、さらに好ましくは20〜50kPaであり得る。また、目的物含有粗溶液が、濃縮液側に分離しようとする対象としてタンパク質を含む場合、通常は5〜200kPa、好ましくは10〜150kPa、さらに好ましくは20〜100kPaであり得る。
【0064】
上記膜間差圧を発生させる方法は、特に限定されず、例えば、濃縮液側と透過液側の液位差(水頭差)を利用したサイホン現象による方法、濃縮液側の加圧または透過液側の減圧による方法、濃縮液側の循環流速と透過液側の流速とのバランスを設定する方法等を挙げることができる。
【0065】
上記膜間差圧の調整方法は、特に限定されず、例えば、濃縮液側と透過液側に、それぞれ圧力計を設けて、その圧力差を測定し調整する方法が挙げられる。また、濃縮液側と透過液側の液量および目的物の濃度の変化を測定し、浸透圧による溶媒の逆流の起こらない膜間差圧に調整する方法が挙げられる。さらに、上記連続式の膜分離処理の場合、濃縮液側の液面が一定となるように膜間差圧を調整することによって、浸透圧による溶媒逆流を防止することができる。この場合、浸透圧による溶媒逆流の防止以上に膜間差圧を設定することになり、一部濃縮液側から透過液側への溶媒の移動も伴うこととなるが、連続運転における膜間差圧の調整方法としては非常に簡易な方法である。
【0066】
上記膜分離において、目的物含有粗溶液中の微生物菌体またはタンパク質の濃度は、膜の濃縮液側の流動性が確保され、膜分離処理を継続できる範囲で有れば、特に限定されない。目的物含有粗溶液が微生物菌体を含む場合、通常は、乾燥微生物菌体濃度として、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下がよい。
【0067】
上記膜分離方法において、膜の濃縮液側の循環線速は、遅すぎると、目的物の本来の膜透過速度に対し、多孔性分離膜近傍への目的物の供給が追いつかなくなり、該供給速度が律速となって、全体透過速度を決定することとなるので好ましくない。また、膜の濃縮液側の循環線速が速すぎると、不必要に濃縮液側の圧力を上げることとなり、微生物菌体やタンパク質の分離膜への目詰まりを促進することとなり好ましくない。特に、目的物含有粗溶液が微生物菌体を含む場合には、微生物菌体に余計なシェアをかけることとなり、微生物菌体の破壊を促進するので好ましくない。また、目的物含有粗溶液がタンパク質を含む場合には、タンパク質由来の発泡現象が激しくなり、膜分離処理の安定運転に弊害を与えるので好ましくない。濃縮液側の循環線速は、通常0.01〜1.5m/s、好ましくは0.02〜0.5m/s、さらに好ましくは0.03〜0.1m/sであり得る。
【0068】
上記膜分離方法において、透過液側の循環線速は、遅すぎると、膜の透過液側において膜近傍の目的物濃度が局所的に高くなり、目的物の拡散速度が低くなり、結果として全体透過速度が低くなるので好ましくない。また、膜の透過液側の循環線速が速すぎると、透過液側の圧力が高くなり、透過液側から濃縮液側への、溶媒の逆流を助長するので好ましくない。透過液側の循環線速は、通常0.001〜1m/s、好ましくは0.002〜0.5m/s、さらに好ましくは0.005〜0.2m/sであり得る。
【0069】
上記膜分離を行う際の液温は、低すぎると目的物の拡散速度を低下させることとなり、結果として透過速度が低下する。また、液温が高すぎると、目的物含有粗溶液が微生物菌体を含む場合には、微生物菌体の熱劣化によるタンパクの漏出および破壊が進むこととなり好ましくなく、目的物含有粗溶液が、濃縮液側に分離しようとする対象としてタンパク質を含む場合には、タンパク質の熱分解が進み、オリゴペプチドやアミノ酸が生成され、透過液側へ漏出する可能性があるため好ましくない。さらには、使用する多孔性分離膜の材質上の耐熱温度も考慮しなければならない。液温は、通常10〜80℃、好ましくは20〜70℃、さらに好ましくは30〜60℃であり得る。
【0070】
上記膜分離を行う際のpHは、特に限定されないが、通常は目的物含有粗溶液調整時のpH、例えば、微生物菌体発酵液や触媒反応液の調整時のpH値を、さらに調整することなく膜分離を行うことが多い。但し、目的物の種類によっては、pHが目的物含有粗溶液の粘度に影響する場合があり、粘度が低くなるpHを選定するのが有利となることがある。pHを再調整する際には、目的物や膜分離への影響を十分に考慮する。
【0071】
また、本実施の形態において、上記で説明した微生物菌体の発酵による目的物の生産と、上記で説明した膜分離方法とを組み合わせることによる、目的物の製造方法も提供される。該製造方法においては、微生物菌体の連続発酵培養系から培養液の一部を抜き出し、上記膜分離によって、連続的に目的物を透過液側に回収するとともに、膜分離で得られた微生物菌体濃縮液を前記微生物菌体の連続発酵培養系に還流させることにより、連続的に目的物を製造することができる。
【0072】
上記の連続発酵培養系は、定常状態を維持するように管理されることが好ましい。従って、微生物菌体の連続発酵培養系における目的物の生産速度と該目的物の膜分離処理による抜き出し速度が等しくなるように運転されることが好ましい。膜分離で得られた微生物菌体濃縮液を、連続発酵培養系に還流することにより、発酵培養系内の微生物菌体は、一度増殖した微生物菌体と新たに増殖した微生物菌体の混合となり、高い微生物菌体濃度を維持することができる。定常運転中の定常微生物菌体濃度の維持は、膜分離処理で得られる微生物菌体濃縮液の一部ブローダウンによって達成される。
【0073】
また、微生物菌体の連続発酵培養系と、上記膜分離方法を組み合わせる際に、連続発酵培養系からの液抜き出し流速と、膜分離処理での液処理流速を等しくすることで、これらを組み合わせた系の定常状態が維持され、連続的に目的物を製造することができる。膜分離処理には、適切な線速度が存在するため、決められた流速、必要膜面積(目的物抜き出し速度の制御に関与)、膜分離処理線速度の全てを満たすためには、決められた流速および必要膜面積を固定した時に、膜分離処理線速度を自由に制御する仕組みが必要となる。例えば、分離膜のモジュール配列について、並列および直列を組み合わせることにより、最適な膜分離処理線速度を選択することができる。
【0074】
本実施の形態における、微生物菌体の連続発酵培養系と上記膜分離方法を組合せて目的物を製造する方法に用いる装置の代表的な一例を図1の概要図に示し、これを基に実際の操作を具体的に説明にする。なお、図1に示す装置においては図5に示す分離膜モジュール8を発酵培養槽4の外部に設置して用いる。
【0075】
図1に示す装置は、発酵培養槽4と、透過液回収槽14とを有し、これらが分離膜モジュール8を介して連結する。発酵培養槽4は、水頭差制御装置5の上に設置され、pH調整液供給ポンプ1、培地供給ポンプ2および発酵培養液循環ポンプ7が連結し、pHセンサー・制御装置6および気体供給装置15が取り付けられている。透過液回収槽14には、抜き出しポンプ12、溶媒供給ポンプ13および透過液循環ポンプ9が連結し、レベルセンサー11が取り付けられている。分離膜モジュール8には、圧力調整バルブ17および圧力計18が連結し、圧力調整バルブ17の先に切替バルブ16が連結する。
【0076】
発酵培養槽4から発酵培養液循環ポンプ7によって、目的物含有粗溶液が分離膜モジュール8に通液される。分離膜モジュール8の膜を透過した目的物含有透過液は、透過液回収槽14に回収される。分離膜モジュール8の膜を透過しなかった微生物菌体濃縮液は、圧力調整バルブ17およびその先の切替バルブ16を介して、一部発酵培養槽4に循環する。
【0077】
まず、発酵培養槽4(ジャーファーメンター)に、初期発酵培地を仕込み、121℃×15分間高圧蒸気滅菌処理を行った上で所定温度まで冷却する。その後、予めシード培養しておいた微生物菌体を、無菌的に接種し攪拌を開始し、気体供給装置15を使って、フィルター処理で除菌された必要な気体を所定速度で供給し、排ガスをベントラインから排出する。また、必要に応じて、pHセンサー・制御装置6およびpH調整溶液供給ポンプ1によって発酵中のpHを一定に維持することができる。所定時間経過後、培地供給ポンプ2を使って、培地原料を供給する。発酵中の液温は、温度調節器で所定温度に維持することで、安定的な連続発酵運転が可能となる。同時に、発酵培養液循環ポンプ7を使って、発酵培養液の一部を分離膜モジュール8の中空糸膜内部を通し、再び発酵培養槽4へ循環させる。
【0078】
分離膜モジュール8の膜(例えばMF)によって、微生物菌体の透過液への透過を阻止し、発酵培養槽4内の定常微生物菌体濃度を高く維持することができる。尚、この場合に使用する分離膜モジュール8は、例えば図5に示す構造を有し、中空糸型の膜で構成された分離膜束22と、そのハウジング23とが、上部樹脂封止層20と下部樹脂封止層21とに挟まれて、分離膜束22が束状に接着・固定化されている。上部樹脂封止層20と下部樹脂封止層21は、ともに、分離膜束22の中空糸膜の中空部を封止しており、処理液の漏出を防ぐ。中空糸膜内を発酵培養液が流れる際、微生物菌体は膜を透過できないため濃縮され、発酵培養槽4内の定常微生物菌体濃度を高く維持することができる。また、膜を透過できる発酵生産物等の目的物は、分離膜束22から、効率的に透過液側に拡散され回収される。
【0079】
上記分離膜モジュール8の膜を通過できる発酵生産物を、透過液回収槽14に効率的に透過させるために、透過液回収槽14に、溶媒供給ポンプ13を使って、所定量の溶媒を供給する。これにより透過液回収槽14中の発酵生産物濃度を発酵培養槽4中の発酵生産物濃度より低くコントロールすることが可能となり、所定の濃度差を設定することができる。
【0080】
このような透析による膜分離を行う場合、浸透圧による溶媒の逆流が起こるのを防ぐため、膜間差圧を設定する。膜間差圧の設定は、図1の水頭差制御装置5(ラボジャッキ)を用いて、発酵培養槽4の液面を透過液回収槽14の液面より高く設定することで可能となる。また、発酵培養液循環ポンプ7による、微生物菌体濃縮液側の線速度と、透過液循環ポンプ9による、透過液側の線速度のコントロールにより、膜間差圧を設定することも可能である。
【0081】
透過液回収槽14の液面は、レベルセンサー11と抜き出しポンプ12を使って、一定に制御され、分離膜モジュール8において透過した発酵生産物および溶媒等の量と、溶媒供給ポンプ13によって供給された溶媒量の和にバランスして透過液が回収されることとなる。
【0082】
発酵培養の進行に伴って、発酵培養槽4の微生物菌体濃度が上昇し、死滅菌体の割合が高くなるのを防ぐため、所定のブローダウン率で微生物菌体のブローダウンを行う。ブローダウンは、発酵生産物のロスを出きるだけ少なくするために、微生物菌体の濃縮直後に行うのがよい。よって切替バルブ16で間欠的に微生物菌体のブローダウンを行う。
【0083】
膜分離中の運転管理方法の代表例として2つを挙げて説明する。一つは圧力一定運転であり、もう一つは透過速度一定運転である。圧力一定運転では、圧力調整バルブ17と圧力計18を用いて、所定の圧力に設定し、膜分離処理を実施する。微生物菌体の目詰まりによる透過速度の低下が起こり、発酵培養槽4の液面が上昇してきたら、培地供給ポンプ2による培地供給速度を低下させ、定常運転を継続する。一方、透過速度一定運転では、圧力調整バルブ17は全開状態で膜分離処理を開始し、微生物菌体の目詰まりによる透過速度の低下が起こり、発酵培養槽4の液面が上昇してきたら、圧力調整バルブ17と圧力計18を用いて、微生物菌体濃縮液側の圧力を上げることで、定常運転を継続する。
【0084】
次に、本実施の形態における、微生物菌体の連続発酵培養系と上記膜分離方法を組合せて目的物を製造する方法に用いる装置の他の例を図2の概要図に示す。図2に示す装置は、図1に示す装置の変形例であり、分離膜モジュール8として、図6に示す分離膜モジュール8(ハウジングフリー)を透過液回収槽14の内部に設置して用いる。また、図2に示す装置は、図1に示す装置を構成する水頭差制御装置5を有さず、発酵培養槽の圧力調整弁3が発酵培養槽4に取り付けられ、透過液回収槽の圧力調整弁10および気体供給装置15が透過液回収槽14に取り付けられている。図1に示す装置は、特にラボスケールにおける装置として簡便に用いることができ、図2に示す装置は、圧力自動制御が容易であり、実際に工業レベルで用いる装置として好ましいと考えられる。図2に示す装置の基本的な操作は、図1に示す装置と同様である。
【0085】
図2に示す装置を構成する、図6に示すようなハウジングフリーの分離膜モジュール8は、中空糸型の膜で構成された分離膜束22が、上部樹脂封止層20と下部樹脂封止層21とに挟まれて、分離膜束22が束状に接着・固定化されている。上部樹脂封止層20と下部樹脂封止層21は、ともに、分離膜束22の中空糸膜の中空部を封止しており、処理液の漏出を防ぐ。中空糸膜内を発酵培養液が流れる際、微生物菌体は膜を透過できないため濃縮され、得られた微生物菌体濃縮液を発酵培養槽4に循環させることで、発酵培養槽4内の定常微生物菌体濃度を高く維持することができる。また、膜を透過できる発酵生産物等の目的物は、直接透過液回収槽14内液に接している分離膜束22から、効率的に透過液内に拡散される。
【0086】
また、図2に示す装置においては、膜間差圧の設定を、発酵培養槽の圧力調整弁3と透過液回収槽の圧力調整弁10を用いて、発酵培養槽4の圧力を透過液回収槽14の圧力より高く設定することで行うことができる。
【0087】
さらに、本実施の形態において、上記で説明した微生物菌体、酵素またはそれらの固定化物を触媒とした目的物の反応系と、上記で説明した膜分離方法とを組み合わせることによる、目的物の製造方法も提供される。該製造方法においては、基質を連続供給している連続反応系から反応液の一部を抜き出し、上記膜分離によって、連続的に目的物を透過液側に回収するとともに、得られた触媒濃縮液を前記連続反応系に還流することにより、連続的に目的物を製造することができる。
【0088】
上記の連続反応系は、定常状態を維持するように管理されることが好ましい。従って、連続反応系における目的物の生産速度と該目的物の膜分離処理による抜き出し速度が等しくなるように運転されることが好ましい。膜分離で得られた触媒濃縮液を、連続反応系に還流することにより、実質、反応系内に触媒が保持され続けるので、上記膜分離処理と連続反応とを組み合わせた系内への触媒の固定化が達成される。
【0089】
上記連続反応系の形式は、特に限定されないが、例えば、槽型反応器やループリアクター等を挙げることができる。ループリアクターの場合、基質が、該基質のフィード口から膜分離処理装置に至るまでの滞留時間を適切に設定することで、膜分離の透過液への基質の漏れ込みを完全になくすことが可能となる。
【0090】
また、連続反応系に上記膜分離方法を組み合わせる際に、連続反応系の液抜き出し流速と、膜分離処理での液処理流速を等しくすることで、これらを組み合わせた系の定常状態が維持され、連続的に目的物を製造することができる。膜分離処理には、適切な線速度が存在するため、決められた流速、必要膜面積(目的物抜き出し速度の制御に関与)、膜分離処理線速度の全てを満たすためには、決められた流速および必要膜面積を固定した時に、膜分離処理線速度を自由に制御する仕組みが必要となる。例えば、分離膜のモジュール配列について、並列および直列を組み合わせることにより、最適な膜分離処理線速度を選択することができる。
【0091】
本実施の形態における、連続反応系と上記膜分離方法とを組合せて目的物を製造する方法に用いる装置の代表的な一例を図3の概要図に示し、これを基に実際の操作を具体的に説明にする。図3に示す装置は、図1に示す装置の変形例であり、図1に示す装置を構成する発酵培養槽の圧力調整弁3、発酵培養槽4および発酵培養液循環ポンプ7の代わりに、反応槽の圧力調整弁3’、反応槽4’および反応液循環ポンプ7’をそれぞれ有する。
【0092】
反応槽4’に、所定の仕込み液を仕込み、液温を温度調節器で所定温度に維持し、原料供給ポンプ2を使って反応原料を供給し、反応を開始する。同時に、反応液循環ポンプ7’を使って、反応液の一部を分離膜モジュール8の膜(例えばMFまたはUF)中空糸内部側を通し、再び反応槽4’へ循環させる。また、必要に応じて、pHセンサー・制御装置6およびpH調整溶液供給ポンプ1によって反応中のpHを一定に維持することができる。
【0093】
上記分離膜モジュール8の膜(例えばUFまたはMF)によって、微生物菌体、酵素またはそれらの固定化物等の触媒の透過液側への透過を阻止し、得られた触媒濃縮液を反応槽4’に循環させることで、実質的に、それら触媒の反応槽4’内への固定化を達成することができる。
【0094】
上記分離膜モジュール8の膜を通過できる反応生成物を、透過液回収槽14に効率的に透過させるために、透過液回収槽14に、溶媒供給ポンプ13を使って、所定量の溶媒を供給する。これにより透過液回収槽14中の反応生成物濃度を、反応槽4中の反応生成物濃度より低くコントロールすることが可能となり、所定の濃度差を設定することができる。図3の装置において、膜分離における膜間差圧の設定、反応槽4’または透過液回収槽14の液面の調整、膜分離中の運転管理方法等の膜分離の基本的な操作は、図1の装置の操作に準じて行うことができる。
【0095】
次に、本実施の形態における、連続反応系と上記膜分離方法とを組合せて目的物を製造する方法に用いる装置の他の例を、図4の概要図に示す。図4に示す装置は、図3に示す装置の変形例であり、分離膜モジュール8として、図6に示す分離膜モジュール8(ハウジングフリー)を透過液回収槽14の内部に設置して用いる。また、図4に示す装置は、図3に示す装置を構成する水頭差制御装置5、圧力調整バルブ17および圧力計18を有さず、反応槽の圧力調整弁3’が反応槽4’に取り付けられ、透過液回収槽の圧力調整弁10が透過液回収槽14に取り付けられている。図4に示す装置の基本的な操作は、図3に示す装置と同様である。
【0096】
図4に示す装置では、図6に示すようなハウジングフリーの分離膜モジュール8を用いており、中空糸膜内を反応液が流れる際、微生物菌体、酵素およびこれらの固定化物等の触媒は膜を透過できないため濃縮され、得られた触媒濃縮液を反応槽4’に循環させることで、実質的に、それら触媒の反応槽4’内への固定化を達成することができる。また、膜を透過できる反応生産物等の目的物は、直接透過液回収槽14内液に接している分離膜束22から、効率的に透過液内に拡散される。
【0097】
また、図4に示す装置においては、膜間差圧の設定を、反応槽の圧力調整弁3’と透過液回収槽の圧力調整弁10を用いて、反応槽4’の圧力を透過液回収槽14の圧力より高く設定することで行うことができる。
【実施例】
【0098】
以下実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。尚、以下の実施例においては、特にニトリラーゼ酵素を有するアシネトバクター属微生物菌体触媒を用いた、グリコロニトリルを基質としたグリコール酸アンモニウムの製造と、該グリコール酸アンモニウム含有粗溶液の膜分離処理を示すが、本発明はこれらの実施例により必ずしも限定されるものではなく、その要旨を超えない限り、様々な変更、修飾が可能である。
【0099】
本実施例において使用する微生物菌体触媒であるAcinetobacter sp.AK226は、本発明者らが独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに国際寄託したものであり、FERM BP−08590の国際寄託番号を有するものである。
【0100】
微生物菌体懸濁液中の乾燥微生物菌体濃度の測定は、以下のごとく実施した。まず、適当な濃度の微生物菌体懸濁液を適量取り、−80℃まで冷却した後、凍結乾燥機を用いて完全に乾燥し、その重量値から前記微生物菌体懸濁液の微生物菌体濃度を算出した。
【0101】
反応液及び膜分離処理液の分析は、以下のごとく実施した。基質であるグリコロニトリルおよび生成物であるグリコール酸アンモニウムは、高速液体クロマトグラフィーで分析した。カラムはイオン排除カラム(島津Shim-pack SCR-101H)、カラム温度は40℃、移動相はリン酸水溶液(pH=2.3)、流速は0.7mL/min、検出器はUV検出器(島津SPD-10AV vp、210nm)及びRI検出器(島津RID-6A)、注入量は10μLで実施した。
【0102】
膜分離処理における透過速度および連続反応における生産速度は、以下の手順で算出した。所定の時間にサンプリングしたサンプル液のうち、微生物菌体懸濁液については0.2μmフィルター処理を行い、得られた菌体およびタンパク質を除いた清澄サンプル液を蒸留水で所定の濃度まで希釈する。上記高速液体クロマトグラフィーでグリコロニトリルおよびグリコール酸アンモニウムを定量する。本分析結果を基に、反応液側と透過液側のグリコール酸アンモニウム濃度を算出する。所定の時間内の透過液回収量と該透過液のグリコール酸アンモニウム濃度を乗じて、所定時間におけるグリコール酸アンモニウム回収量を算出する。これを膜モジュール有効膜面積と所定時間で除したものが、膜分離処理における透過速度および連続反応における生産速度となり、次の(式1)、(式2)で計算される。ここで、(式2)中のホールドアップ容量とは、連続定常状態になったときの反応槽の液量を指す。
【0103】
透過速度[kg/m/Hr]=透過液量[kg] × 透過液中のグリコール酸アンモニウム濃度[重量%] ÷ 100 ÷ 膜モジュールの有効膜面積[m2] ÷ 所定時間[Hr] ・・・(式1)

生産速度[kg/L/Hr]=透過液量[kg] × 透過液中のグリコール酸アンモニウム濃度[重量%] ÷ 100 ÷ 反応槽のホールドアップ容量[L] ÷ 所定時間[Hr] ・・・(式2)
【0104】
[参考例1] 微生物菌体触媒の調製
塩化ナトリウム0.1重量%、リン酸二水素カリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.05重量%、硫酸第一鉄七水和物0.005重量%、硫酸アンモニウム0.1重量%、硝酸カリウム0.1重量%硫酸マンガン五水和物0.005重量%を含む培養液250mlを三角フラスコに仕込み、pHが7になるように水酸化ナトリウムで調整し、121℃で20分間滅菌した後、アセトニトリル0.5重量%を添加した。これにAcinetobacter sp.AK226を単一コロニーから接種して30℃で48時間、振とう培養した(前培養)。ミーストパウダー0.3重量%、グルタミン酸ナトリウム0.5重量%、硫酸アンモニウム0.5重量%、リン酸水素二カリウム0.2重量%、リン酸ニ水素カリウム0.15重量%、塩化ナトリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.18重量%、塩化マンガン四水和物0.02重量%、塩化カルシウム二水和物0.01重量%、硫酸鉄七水和物0.003重量%、硫酸亜鉛七水和物0.002重量%、硫酸銅五水和物0.002重量%、大豆油2重量%を含む培養液3Lを5Lジャーファーメンターに仕込み、121℃で20分間滅菌した後、前記の前培養液を50mL接種して30℃で通気攪拌を行った。培養開始10時間後から大豆油のフィードを開始した。pHは7になるようにリン酸及びアンモニア水でコントロールし、最終的に48時間後、約5重量%のAcinetobacter sp.AK226懸濁液を得た。さらに0.06Mリン酸バッファーを用いて2回洗浄を行い、最終的にリン酸バッファーに懸濁されたAcinetobacter sp.AK226懸濁液(乾燥菌体濃度10.3重量%)を得た。
【0105】
[参考例2] グリコール酸アンモニウム溶液の調製
膜分離処理の対象となるグリコール酸アンモニウム溶液を、デュポン社製グリピュア(グリコール酸結晶)と和光純薬製25%アンモニア水と蒸留水を用いて調製した。まず、グリコール酸水溶液を調製し、そこへ25%アンモニア水を氷冷しながら徐々に加え、最終的にpH=7になるように25%アンモニア水添加量を決定し、所定濃度のグリコール酸アンモニウム水溶液を調製した。
【0106】
[参考例3] グリコロニトリル溶液の調製
微生物菌体触媒による反応の基質となるグリコロニトリル溶液を以下の方法で調製した。三菱ガス化学製ホルマリン(ホルムアルデヒド=37重量%、メタノール8重量%)と液体HCNを用いて、水酸化ナトリウムを触媒としてpH=4、反応温度40℃でシアンヒドリン化反応を行った。さらに脱メタノールを目的として50℃、減圧条件(最終到達圧力50mmHg)でストリッピング操作を行い、水の蒸発に伴う濃縮分だけ蒸留水を添加して、最終的に56.1重量%グリコロニトリル水溶液を得た。
【0107】
[参考例4] 微生物菌体の固定化物の調製
上記参考例1で調製されたAcinetobacter sp.AK226懸濁液(乾燥菌体濃度10.3重量%)の一部と25%グルタルアルデヒド水溶液(和光純薬製)と蒸留水を用いて、乾燥菌体濃度3.1重量%、グルタルアルデヒド0.5重量%となるようにフラスコ内で調製し、30℃×5Hr、180rpmで攪拌し、架橋処理を施した。次に10重量%NaHSO3水溶液(pH=7)を加えて、0.1重量%NaHSO3濃度とし、30℃×10min、180rpmで攪拌することで過剰(未反応)のグルタルアルデヒドを処理した。さらに0.06Mリン酸バッファーを用いて2回洗浄を行い、最終的にリン酸バッファーに懸濁された、グルタルアルデヒドで架橋処理された、Acinetobacter sp.AK226固定化物懸濁液(乾燥菌体濃度11.2重量%)を得た。なお、乾燥菌体濃度は、使用したAcinetobacter sp.AK226懸濁液(参考例1)の量から算出した。
【0108】
[実施例1] 微生物菌体を含むグリコール酸アンモニウム水溶液の膜分離処理(透過速度一定)
上記の参考例2の手順で調製した58.4重量%グリコール酸アンモニウム水溶液(pH=7.0)を原料に、図3の概要図に準じた装置を用いて膜分離処理を行った。100mLの四つ口フラスコ(反応槽)4に、10.3重量%Acinetobacter sp.AK226懸濁液(参考例1)と58.4重量%グリコール酸アンモニウム水溶液(参考例2)を用いて、全体容量が50mLかつ、AK226乾燥菌体濃度が2.8重量%の溶液を仕込み、スターラー攪拌を実施した。フラスコ4は40℃温水浴に漬けて一定温度を保った。一方、100mLビーカー(回収槽)14を用意し、約50mLの41.1重量%のグリコール酸アンモニウ水溶液を仕込み、ホールドアップ液量が約50mLになるように液面計を取り付け、抜き出し用のチューブポンプ12(10mL/min設定)をオン・オフ制御した。反応槽4と回収槽14の液面高さの差は約20cmであった。原料供給用のプランジャーポンプ2を用いて、5g/minで58.4重量%グリコール酸アンモニウム水溶液のフラスコ4へのフィードを開始した。分離膜モジュールは、旭化成ケミカルズ製ペンシル型MF(ULP-043、中空糸膜:ポリフッ化ビニリデン、ハウジング:ポリスルホン、膜内径:1.1mm、有効膜面積:120cm2、公称孔径:0.45μm)を用いた。濃縮液側循環用のチューブポンプ7、回収液側循環用チューブポンプ9、蒸留水添加用のチューブポンプ13を同時に運転開始した。濃縮液側は、循環流速:266g/min、線速度:0.08m/Hr、回収液側は、循環流速:26g/min、線速度0.0015m/s、蒸留水添加流速:2.5g/minに設定した。原料供給速度を一定にして、四つ口フラスコ内の液面が一定(50mL容量)になるように、圧力調整バルブ17の開度をコントロールし、圧力計18の指示値を記録した(透過速度一定運転)。また、所定時間ごとに回収液を回収し、その重量を測定し、上記定量方法でグリコール酸アンモニウム濃度を測定した。また、同時に、フラスコ内菌体懸濁液のサンプリングを実施し、0.2μmフィルター処理で除菌し、上記定量方法でグリコール酸アンモニウム濃度を測定した。運転とサンプリングは16時間継続した。圧力計18の指示値変化とグリコール酸アンモニウム(GA・NH3)透過速度結果を表1と図7に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
[実施例2] 微生物菌体を含むグリコール酸アンモニウム水溶液の膜分離処理(圧力一定)
上記の参考例2の手順で調製した50.8重量%グリコール酸アンモニウム水溶液(pH=7.0)を原料に、図3の概要図に準じた装置を用いて膜分離処理を行った。100mLの四つ口フラスコ(反応槽)4に10.3重量%Acinetobacter sp.AK226懸濁液(参考例1)と50.8重量%グリコール酸アンモニウム水溶液(参考例2)を用いて、全体容量が50mLかつ、AK226乾燥菌体濃度が11.1重量%の溶液を仕込み、スターラー攪拌を実施した。フラスコ4は40℃温水浴に漬けて一定温度を保った。一方、100mLビーカー(回収槽)14を用意し、約50mLの32.2重量%のグリコール酸アンモニウ水溶液を仕込み、ホールドアップ液量が約50mLになるように液面計を取り付け、抜き出し用のチューブポンプ12(10mL/min設定)をオン・オフ制御した。反応槽4と回収槽14の液面高さの差は約20cmであった。原料供給用のプランジャーポンプ2を用いて、50.8重量%グリコール酸アンモニウム水溶液のフラスコ4へのフィードを開始した。分離膜モジュールは、旭化成ケミカルズ製ペンシル型MF(ULP-043、中空糸膜:ポリフッ化ビニリデン、ハウジング:ポリスルホン、膜内径:1.1mm、有効膜面積:120cm2、公称孔径:0.45μm)を用いた。濃縮液側循環用のチューブポンプ7、回収液側循環用チューブポンプ9、蒸留水添加用のチューブポンプ13を同時に運転開始した。濃縮液側は、循環流速:266g/min、線速度:0.08m/Hr、回収液側は、循環流速:26g/min、線速度0.0015m/s、蒸留水添加流速:2.5g/minに設定した。圧力調整バルブ17の開度を調整し、圧力を100kPaに設定し、中空糸内圧力を一定にして、四つ口フラスコ内の液面が一定(50mL容量)になるように、原料供給ポンプ2の流量をコントロールした(圧力一定運転)。また、所定時間ごとに回収液を回収し、その重量を測定し、上記定量方法でグリコール酸アンモニウム濃度を測定した。同時に、フラスコ内菌体懸濁液のサンプリングも実施し、0.2μmフィルター処理で除菌し、上記定量方法でグリコール酸アンモニウム濃度を測定した。運転とサンプリングは30時間継続した。グリコール酸アンモニウム透過速度結果を表2と図8に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
[比較例1] 微生物菌体を含むグリコール酸アンモニウム水溶液の膜分離処理(蒸留水添加なし)
上記の参考例2の手順で調製した53.4重量%グリコール酸アンモニウム水溶液(pH=7.0)を原料に、図3の概要図に準じた装置を用いて膜分離処理を行った。100mLの四つ口フラスコ(反応槽)4に10.3重量%Acinetobacter sp.AK226懸濁液(参考例1)と53.4重量%グリコール酸アンモニウム水溶液(参考例2)を用いて、全体容量が50mLかつ、AK226乾燥菌体濃度が9.3重量%の溶液を仕込み、スターラー攪拌を実施した。フラスコ4は40℃温水浴に漬けて一定温度を保った。一方、100mLビーカー(回収槽)14を用意し、約50mLの50.4重量%のグリコール酸アンモニウ水溶液を仕込み、ホールドアップ液量が約50mLになるように液面計を取り付け、抜き出し用のチューブポンプ12(10mL/min設定)をオン・オフ制御した。反応槽4と回収槽14の液面高さの差は約20cmであった。原料供給用のプランジャーポンプ2を用いて、53.4重量%グリコール酸アンモニウム水溶液のフラスコ4へのフィードを開始した。分離膜モジュールは、旭化成ケミカルズ製ペンシル型MF(ULP-043、中空糸膜:ポリフッ化ビニリデン、ハウジング:ポリスルホン、膜内径:1.1mm、有効膜面積:120cm2、公称孔径:0.45μm)を用いた。濃縮液側循環用のチューブポンプ7、回収液側循環用チューブポンプ9を同時に運転開始した。濃縮液側は、循環流速:266g/min、線速度:0.08m/Hr、回収液側は、循環流速:26g/min、線速度0.0015m/sに設定し、回収液側への蒸留水の添加は行わなかった。圧力調整バルブ17の開度を調整し、圧力を100kPaに設定し、中空糸内圧力を一定にして、四つ口フラスコ内の液面が一定(50mL容量)になるように、原料供給ポンプ2の流量をコントロールした(圧力一定運転)。また、所定時間ごとに回収液を回収し、その重量を測定し、上記定量方法でグリコール酸アンモニウム濃度を測定した。同時に、フラスコ内菌体懸濁液のサンプリングも実施し、0.2μmフィルター処理で除菌し、上記定量方法でグリコール酸アンモニウム濃度を測定した。運転とサンプリングは23時間継続した。グリコール酸アンモニウム透過速度結果を表3と図8に示す。
【0113】
【表3】

【0114】
[実施例3] 微生物菌体の固定化物を含むグリコール酸アンモニウム水溶液の膜分離処理(透過速度一定)
Acinetobacter sp.AK226懸濁液(参考例1)の代わりに、上記の参考例4の手順で調製したAcinetobacter sp.AK226固定化物懸濁液を用いる以外は、実施例1と同様の操作で膜分離処理を行った。Acinetobacter sp.AK226固定化物懸濁液は、その乾燥菌体濃度が実施例1のAcinetobacter sp.AK226懸濁液中の乾燥菌体濃度と同濃度となる量使用した。圧力計18の指示値変化とグリコール酸アンモニウム透過速度結果を表4と図9に示す。
【0115】
【表4】

【0116】
[実施例4] グリコロニトリルを微生物菌体触媒下で反応させて得られたグリコール酸アンモニウム水溶液の膜分離処理(透過速度一定)
上記の参考例3の手順で調製した56.1重量%グリコロニトリル水溶液(pH=2.1)に蒸留水を加えて濃度を31.0重量%に調製したものを原料に、図3の概要図に準じた装置を用いて酵素による連続反応と膜分離の組合せ処理を行った。1Lの四つ口フラスコ(反応槽)4に10.3重量% Acinetobacter sp.AK226懸濁液(参考例1)と65.2重量%グリコール酸アンモニウム水溶液(参考例3)を用いて、全体容量が500mLかつ、AK226乾燥菌体濃度が3.1重量%の溶液を仕込み、スリーワンモーターを使って、碇型テフロン(登録商標)製2枚羽根による攪拌(回転数:100rpm)を実施した。フラスコ4は40℃温水浴に漬けて一定温度を保った。一方、1L三角フラスコ(回収槽)14を用意し、約500mLの50.8重量%のグリコール酸アンモニウ水溶液を仕込み、ホールドアップ液量が約500mLになるように液面計を取り付け、抜き出し用のチューブポンプ12(10mL/min設定)をオン・オフ制御した。反応槽4と回収槽14の液面高さの差は約20cmであった。原料供給用のプランジャーポンプ2を用いて、5g/minで31.0重量%グリコロニトリル水溶液のフラスコ4へのフィードを開始した。分離膜モジュールは、旭化成ケミカルズ製ペンシル型MF(ULP-043、中空糸膜:ポリフッ化ビニリデン、ハウジング:ポリスルホン、膜内径:1.1mm、有効膜面積:120cm2、公称孔径:0.45μm)を用いた。濃縮液側循環用のチューブポンプ7、回収液側循環用チューブポンプ9、水添加用のチューブポンプ13を同時に運転開始した。濃縮液側は、循環流速:266g/min、線速度:0.08m/Hr、回収液側は、循環流速:26g/min、線速度0.0015m/s、水添加流速:2.5g/minに設定した。原料供給速度を一定にして、四つ口フラスコ内の液面が一定(500mL容量)になるように、圧力調整バルブ17の開度をコントロールし、圧力計18の指示値を記録した(透過速度一定運転)。また、所定時間ごとに回収液を回収し、その重量を測定し、上記定量方法でグリコール酸アンモニウム濃度を測定した。同時に、フラスコ内菌体懸濁液のサンプリングも実施し、0.2μmフィルター処理で除菌し、上記定量方法でグリコール酸アンモニウム濃度を測定した。運転とサンプリングは16時間継続した。圧力計18の指示値変化とグリコール酸アンモニウム生産速度結果を表5と図10に示す。
【0117】
【表5】

【0118】
上記実施例から、目的物含有粗溶液の膜分離処理において、濃縮液側と透過液側に濃縮液側が高くなるよう目的物の濃度差を発生させることにより、膜孔の閉塞を大幅に改善し、高い透過速度を維持して膜分離処理を行うことができることが明らかになった。また、膜分離処理と微生物菌体の酵素による連続反応系とを組み合わせて、酵素反応の生成物を膜分離の目的物として、膜分離処理を連続的に行うことができることが明らかになった。当業者であれば、上記の本明細書中の詳細な説明および実施例の結果を参照することによって、他の目的物についても同様に、効率的な目的物の分離を容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、目的物とともに、微生物菌体および/またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液から、膜分離によって、目的物を効率的に長時間安定して回収することができるという産業上の利用可能性を有する。また、該膜分離方法と、微生物菌体を用いた発酵系あるいは微生物菌体または酵素タンパク質を触媒とする反応系とを組み合わせることにより、効率的に目的物を製造することが可能となるという産業上の利用可能性も有する。
【符号の説明】
【0120】
1 pH調整液供給ポンプ
2 培地および反応原料供給ポンプ
3 発酵培養槽の圧力調整弁
3’反応槽の圧力調整弁
4 発酵培養槽
4’反応槽
5 水頭差制御装置
6 pHセンサー・制御装置
7 発酵培養液循環ポンプ
7’反応液循環ポンプ
8 分離膜モジュール
9 透過液循環ポンプ
10 透過液回収槽の圧力調整弁
11 レベルセンサー
12 抜き出しポンプ
13 溶媒供給ポンプ
14 透過液回収槽
15 気体供給装置
16 切替バルブ
17 圧力調整バルブ
18 圧力計
19 集水パイプ
20 上部樹脂封止層
21 下部樹脂封止層
22 分離膜束
23 モジュールハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物菌体またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液の膜分離方法であって:
(p) 目的物含有粗溶液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程;および
(q) 前記濃縮液側の目的物濃度を、前記透過液側の目的物濃度よりも高く保持する工程;
を含む、膜分離方法。
【請求項2】
前記工程(q)が、膜の透過液側に、目的物含有粗溶液を構成する溶媒を添加することにより行われる、請求項1に記載の膜分離方法。
【請求項3】
前記工程(q)が、膜の透過液側に水を添加することにより行われる、請求項1に記載の膜分離方法。
【請求項4】
前記工程(q)において、濃縮液側の目的物濃度が、前記透過液側の目的物濃度よりも、目的物の乾燥重量で2〜90重量%高く保持される、請求項1〜3の何れかに記載の膜分離方法。
【請求項5】
前記工程(p)において、膜の濃縮液側と透過液側との膜間差圧が、濃縮液側が5〜150kPa高くなるよう調整される、請求項1〜4の何れかに記載の膜分離方法。
【請求項6】
前記微生物菌体またはタンパク質が、微生物菌体固定化物またはタンパク質固定化物として目的物含有粗溶液に含まれる、請求項1〜5の何れかに記載の膜分離方法。
【請求項7】
前記微生物菌体またはタンパク質を含む目的物含有粗溶液が、微生物菌体発酵液または微生物菌体、酵素もしくはそれらの固定化物から選択される1つ以上を触媒とする反応液である、請求項1〜6の何れかに記載の膜分離方法。
【請求項8】
以下の工程:
(o) 微生物菌体を発酵させて微生物菌体培養液中で目的物を生産する工程;
(p) 工程(o)で生産された、目的物を含有する微生物菌体培養液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、微生物菌体濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程;
(q) 前記濃縮液側の目的物濃度を、前記透過液側の目的物濃度よりも高く保持する工程;および
(r) 所望により、工程(p)で得られた微生物濃縮液を、工程(o)における微生物菌体培養液中に還流する工程:
を含む、微生物菌体発酵を用いた目的物の製造方法。
【請求項9】
以下の工程:
(o) 微生物菌体、酵素またはそれらの固定化物を触媒として含む反応液中で目的物を生産する工程;
(p) 工程(o)で生産された、目的物を含有する反応液中の目的物を、膜の濃縮液側から透過液側に透過させて、触媒濃縮液と目的物含有透過液とに分離する工程;
(q) 前記濃縮液側の目的物濃度を、前記透過液側の目的物濃度よりも高く保持する工程;および
(r) 所望により、工程(p)で得られた触媒濃縮液を、工程(o)における反応液中に還流する工程;
を含む、微生物菌体、酵素またはそれらの固定化物を触媒とする反応を用いた、目的物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−221136(P2010−221136A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71604(P2009−71604)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】