説明

膜形成用組成物およびシートならびに包装材料

【課題】セルロース繊維および無機層状化合物を含む膜形成用組成物を用いてガスバリア層を形成しても、塗膜強度が高く、かつ高湿度下でも優れたガスバリア性を有するシートおよび包装材料を提供する。
【解決手段】膜形成用組成物が、少なくともセルロース繊維と無機層状化合物の他に、水溶性高分子を含む。特に、水溶性高分子が、ポリビニルアルコールであり、セルロース繊維および水溶性高分子の重量比(セルロース繊維の重量/水溶性高分子の重量)が、100/100以上100/5以下の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然資源を有効利用した環境負荷の少ないシートに関するものであり、具体的には、セルロース繊維を含む膜形成用組成物によって形成された層を有するシートおよび上記シートを備えた包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品や医療品をはじめとする包装材料分野では、内容物保護のため、包装材料を透過する酸素や水蒸気などの気体を遮断するガスバリア性が求められる。
【0003】
従来、このような包装材料に用いるガスバリア性材料として、温度や湿度による影響の少ないアルミニウムやポリ塩化ビニリデンが用いられてきた。しかしながら、環境負荷の低減が求められる近年、アルミ焼却時の残渣問題、塩化ビニリデン焼却時のダイオキシン発生により、環境汚染を招く上記材料の使用を控える動きが活発になってきている。
【0004】
例えば、特許文献1にあるように、同じ化石資源からつくられる材料であっても、アルミニウムや塩素を含まないポリビニルアルコールやエチレンビニルアルコール共重合体への一部代替が進められている。しかし、さらに将来的には、石油由来材料からバイオマス材料への代替が期待されている。
【0005】
そこで、現在、新たなガスバリア性材料として、地球上で最も多く生産されるセルロースに注目が集まっている。セルロースは、繊維状で高い結晶性を有し、高強度、低線膨張率であり、化学的安定性や生体への安全性に優れる。特に、セルロース繊維は、近年、包装材料をはじめ各種機能性材料に利用が期待され、盛んに開発が進められている。
【0006】
セルロース繊維の製造方法として、例えば、特許文献2には、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(以下「TEMPO」という。)触媒を用いて、水酸基の一部をカルボキシル基に酸化させたセルロースを媒体中に分散させて、セルロース繊維を得る方法が記載されている。この方法によれば、負の電荷を有するカルボキシル基の電気的反発作用を利用し、セルロースI型の結晶構造を有するセルロース繊維を比較的容易に得ることが可能である。
【0007】
また、特許文献3には、TEMPO酸化処理により得た酸化セルロースを水中に分散させて、平均繊維径200nm以下のセルロース繊維を含むガスバリア用材料を調製し、これを、PETフィルムやポリ乳酸等の基材上に塗工し、乾燥させてガスバリア性複合成形体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開2008−1728号公報
【特許文献3】特開2009−57552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、セルロース繊維をガスバリア性材料として用い、ガスバリア層を形成した場合、乾燥下あるいは低湿度下では高いガスバリア性を示すものの、高湿度下ではセルロース繊維が膨潤し、ガスバリア性が低下してしまう。
【0010】
そこで、高湿度下でのガスバリア性を向上させるため、セルロース繊維にマイカやモンモリロナイトのような無機層状化合物を混合した膜形成用組成物によってガスバリア層を形成した場合、無機層状化合物の曲路効果によりガスバリア性が大幅に向上するが、以下の問題が生じる。
【0011】
無機層状化合物を用いた場合、高いガスバリア性を発現させるためには、無機層状化合物の配合量を増やす必要がある。しかし、無機層状化合物がある添加量を超えると、塗膜強度(膜凝集力)が大幅に低下してしまう。
【0012】
また、塗膜強度の低いガスバリア層を包装材料として用いた場合、基材またはシーラント層との密着性がどんなに強固であっても、ガスバリア層自体の塗膜強度が弱いため、包装材料として十分な密着強度(剥離強度)を得ることができなくなってしまう。
【0013】
そこで、本発明では、セルロース繊維および無機層状化合物を含む膜形成用組成物を用いてガスバリア層を形成しても、塗膜強度が高く、かつ高湿度下でも優れたガスバリア性を有するシートおよび包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、少なくともセルロース繊維と無機層状化合物と水溶性高分子とを含むことを特徴とする膜形成用組成物である。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の膜形成用組成物である。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記セルロース繊維および前記水溶性高分子の重量比(セルロース繊維の重量/水溶性高分子の重量)が、100/100以上100/5以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の膜形成用組成物である。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、前記セルロース繊維および前記無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)が、100/100以上100/3以下の範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の膜形成用組成物である。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、前記セルロース繊維および前記無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)が、100/50以上100/5以下の範囲であり、前記セルロース繊維および前記水溶性高分子の重量比(セルロース繊維の重量/水溶性高分子の重量)が、100/50以上100/10以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の膜形成用組成物である。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、前記セルロース繊維の繊維幅が、3nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の膜形成用組成物である。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、前記セルロース繊維が、結晶性セルロースであり、かつ、セルロースI型の結晶構造を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の膜形成用組成物である。
【0021】
また、請求項8に記載の発明は、前記セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、カルボキシル基およびアルデヒド基から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、前記官能基の総和が、セルロース繊維の全重量に対し、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の膜形成用組成物である。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に請求項1から8のいずれか一項に記載の膜形成組成物により形成された層とを備えることを特徴とするシートである。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のシートを備えた包装材料である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、膜形成用組成物としてセルロース系材料を用いることで、環境負荷の少ないシートおよび包装材料を提供することができる。
また、セルロース繊維、無機層状化合物、水溶性高分子を含む膜形成用組成物から形成される層を有するシートおよび上記シートを備えた包装材料は、塗膜強度が高く、かつ高湿度下においても優れたガスバリア性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、少なくともセルロース繊維と無機層状化合物と水溶性高分子とを含む膜形成用組成物である。また、上記膜形成用組成物により形成された層を、少なくとも基材の一方の面上に備えたシートおよび上記シートを備えた包装材料である。
無機層状化合物は、高湿度下でガスバリア性が低下してしまうセルロース繊維に対して添加することで、その曲路効果によりガスバリア性を大幅に向上させることができる。ただし、高いガスバリア性を発現するために無機層状化合物の添加量を増やすと、塗膜強度が低下し、包装材料として用いる際には複合強度が不足してしまう。
一方、水溶性高分子は、上記塗膜強度を補う目的で配合され、セルロース繊維とセルロース繊維間、およびセルロース繊維と無機層状化合物間に生じる隙間を埋めることができる。このため、セルロース繊維と無機層状化合物と水溶性高分子とからなる膜形成用組成物は、セルロース繊維と無機層状化合物からなる膜形成用組成物と比べて、膜凝集力を向上させ、塗膜強度を高めることができる。
【0026】
本発明の膜形成用組成物に含まれるセルロース繊維としては、その繊維幅が、3nm以上50nm以下のものを用いることができる。繊維長さはとくに限定しないが、数百nm以上数μm以下のものを用いることができる。繊維幅が上記範囲内であると、透明、かつ強度の高い膜を得ることができる。特に、繊維幅が3nm以上10nm以下の範囲が好適であり、繊維同士の絡み合いがより緻密となるため、ガスバリア性や強度などの性能に優れた膜を得ることができる。
【0027】
セルロース繊維の繊維幅についての測定には、0.001重量%セルロース繊維分散液をマイカ基板上に1滴落とし、乾燥させたものをサンプルとして用いる。測定方法は、例えば、表面形状をAFM(ナノスコープ、日本ビーコ社製)により観察し、マイカ基材と繊維の高低差を繊維幅とみなし、計測を行うことができる。
【0028】
また、セルロース繊維の絡み合いが密であるかどうかは、例えば、SEM(S−4800、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた表面観察や、キャストフィルムの比重を測定することで判断することができる。キャストフィルムの比重の測定については、デジタル比重計(SD−220L、アルファーミラージュ社製)を用いて測定することができ、サンプルであるキャストフィルムは、セルロース繊維分散液をポリスチレン製の角型ケース内に所定量流し込み、50℃、24時間加熱乾燥することにより作製することができる。
【0029】
また、本発明のセルロース繊維は、繊維状であれば、天然セルロース、再生セルロースどちらを用いても良いが、特にセルロースIの結晶構造を有する天然セルロースを用いることが好ましい。天然セルロースの原料としては、特に限定されるものではなく、例えば、木材、非木材パルプ、微生物生産セルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース等を用いることができる。
【0030】
また、本発明のセルロース繊維の結晶構造は、X線回折により測定することができる。I型の結晶構造であれば、2θ=15°〜16°および22°〜23°付近の二箇所に典型的なピークを得ることができる。II型の結晶構造であれば、2θ=12°〜13°、19°〜21°および21°〜23°付近の三箇所に典型的なピークを得ることができる。測定サンプルとしては、セルロース繊維を乾燥させたもの、または本発明の膜形成用組成物を乾燥させたものを用いることができる。
【0031】
また、本発明のセルロース繊維は、構成するセルロースの水酸基の一部をカルボキシル基およびアルデヒド基から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、その官能基の総和が、セルロース繊維の全重量に対し、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下であることが好ましい。上記官能基の量の総和が0.5mmol/g未満であると、セルロース繊維の解繊が困難となるため好ましくない。また、3.5mmol/gを超えると、水や水蒸気に対する膨潤性が増すため好ましくない。
【0032】
本発明の無機層状化合物としては、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、マイカ、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチーブンサイト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石などを用いることができる。
市販品としては、水分散性に優れ、アスペクト比の高い膨潤系合成マイカのDMA−350、NTS−5(トピー工業株式会社製)、スメクタイト系の粘土鉱物に属するサポナイト構造を有するスメクトンSA(クニミネ工業社製)、ソジウム型のモンモリロナイトであるクニピア−F(クニミネ工業社製)、精製された天然ベントナイトであるベンゲルシリーズ(株式会社ホージュン製)等を用いることができる。また、層状鉱物に対して有機化合物を複合化したものであってもよい。例えば、長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウムイオンをイオン交換によって層間にインターカレートした複合体が挙げられる。市販品としては、ベントン27、ベントン38(エレメンティススペシャリティーズ社製)、4C−TS(トピー工業株式会社製)、エスベン(株式会社ホージュン製)等が挙げられる。
上記のうち、合成マイカは、一次粒子が大きく、水中で分散し高アスペクト比となり、低添加量で高いガスバリア性を付与することができるためより好ましい。
【0033】
また、無機層状化合物としては、そのアスペクト比が、5以上5000以下のものが好ましい。アスペクト比(Z)とはZ=L/aなる関係で示されるものであり、Lは無機層状化合物の水中での平均粒子径であり、aは無機層状化合物の厚みである。厚みは、膜断面をSEMやTEMによる写真観察によって求めた値である。平均粒子径は0.1μm以上30μm以下が好ましく、とりわけ0.5μm以上10μm以下が好ましい。平均粒子径が0.1μm未満になると、アスペクト比が小さくなる上、膜中で面に対して平行に並びにくくなり、曲路効果が得られ難くなり、ガスバリア性が不十分になる。平均粒子径が30μmを越えると、膜内から無機層状化合物が突き出てしまい、外観不良、およびガスバリア性や膜強度低下の原因となるため好ましくない。平均粒子径は、平均粒子径が0.1μm以上のものは光散乱理論を応用したレーザー回折による粒度分布測定装置において測定した値である。また、水または溶剤に分散された平均粒子径が0.1μmより小さいものについは動的光散乱法を用いて測定した値である。
【0034】
また、本発明で用いる無機層状化合物の好ましいアスペクト比は、5以上であり、特に好ましくは10以上である。アスペクト比が5未満のものは、曲路効果が小さいためにガスバリア性が不十分となる。アスペクト比は大きいほど無機層状化合物の膜中における層数が大きくなるため、高いガスバリア性能を発現することができる。
【0035】
本発明の水溶性高分子としては、合成高分子類からは、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエステル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリアミン、ポリウレタンやそれらの誘導体等、水溶性多糖類からは、ポリウロン酸、澱粉、カルボキシメチル澱粉、カチオン化澱粉、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸、ペクチン、ゼラチン、グアガム、カラギーナンやそれらの誘導体等から選ばれる1種または2種以上のものを用いることができる。
【0036】
中でも、ポリビニルアルコール系重合体を用いることが特に好ましい。造膜性、透明性、柔軟性などに優れるポリビニルアルコールは、セルロース繊維との相性も良いため、容易に繊維間の隙間を充填し、強度と柔軟性を併せ持つ膜をつくることができる。一般に、ポリビニルアルコール(以下「PVA」ということがある。)は、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであるが、酢酸基が数十%(モル百分率)残存している、いわゆる部分けん化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全けん化PVAまで存在する。本発明においては、70%以上99.9%以下が好ましく、80%以上99%以下がさらに好ましい。
また、PVAの重合度は、100以上3000以下が良く。100未満になると塗膜強度が低下し、3000を越えると塗工適性が低下するため、好ましくない。
【0037】
また、本発明の膜形成用組成物に含まれるセルロース繊維および水溶性高分子の重量比(セルロース繊維の重量/水溶性高分子の重量)は、100/100以上100/5以下の範囲であることが好ましく、特に、100/50以上100/10以下の範囲であることがより好ましい。上記範囲から外れて、水溶性高分子の配合量が少ないと、塗膜強度不足の原因となるセルロース繊維とセルロース繊維間、およびセルロース繊維と無機層状化合物間に生じる隙間を埋めることができず、膜凝集力を高め、塗膜強度を向上させることができない。一方、水溶性高分子がポリビニルアルコールの場合であって、ポリビニルアルコールのうち、部分けん化PVAを添加する場合、上記範囲から外れて、ポリビニルアルコールの重量がセルロース繊維の重量に比べて多くなると、プラスチック材料を用いた基材に対する濡れ性は向上するも、コーティング剤が泡立ちやすい液となるため、好ましくない。一方、ポリビニルアルコールのうち、完全けん化PVAを添加する場合、この範囲から外れて、ポリビニルアルコールの重量がセルロース繊維の重量に比べて多くなると、泡立ちの少ない液となるが、プラスチック材料を用いた基材に対する濡れ性が低下し、ハジキ等の原因となるため、好ましくない。また、ポリビニルアルコールの配合量が多すぎると、膜形成用組成物内のセルロース繊維の割合が減るためバイオマス度が低下してしまい、環境負荷の低減効果も少なくなるため好ましくない。
【0038】
また、本発明の膜形成用組成物に含まれるセルロース繊維および無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物)は、100/100以上100/3以下の範囲であることが好ましく、特に、100/50以上100/5以下の範囲であることがより好ましい。上記範囲から外れて、無機層状化合物の配合量が少ないと、十分なガスバリア性を得ることができない。一方、上記範囲から外れて、無機層状化合物の配合量が上記配合量より多すぎると膜は脆くなり十分な塗膜強度を得ることができない。
【0039】
また、セルロース繊維および無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)が、100/100以上100/3以下の範囲であり、かつ、セルロース繊維および水溶性高分子の重量比(セルロース繊維の重量/水溶性高分子の重量)が、100/100以上100/5以下の範囲であることがより好ましい。特に、セルロース繊維および無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)が、100/50以上100/5以下の範囲であり、かつ、セルロース繊維および水溶性高分子の重量比(セルロース繊維の重量/水溶性高分子の重量)が、100/50以上100/10以下の範囲であることがより好ましい。上記範囲の場合、ガスバリア性および塗膜強度共に優れた性能を得ることができる。
【0040】
本発明のセルロース繊維は、例えば、以下の方法によりセルロース繊維分散液として得ることができる。まず、水または水/アルコール中にて、天然セルロース原料に、酸化触媒であるN−オキシル化合物と酸化剤を作用させることで、セルロースのミクロフィブリル表面を酸化処理する。次に、不純物を除去した後、水または水/アルコール混合液中にて分散処理を施すことで、セルロース繊維の分散体として得ることができる。
【0041】
原料の天然セルロースは、針葉樹や広葉樹などから得られる各種木材パルプ、またはケナフ、バガス、ワラ、竹、綿、海藻などから得られる非木材パルプ、ホヤから得られるセルロース、微生物が生産するセルロース等を用いることができる。また、結晶構造については、上述の通り、セルロースI型のセルロースが好ましい。
【0042】
酸化触媒としては、N−オキシル化合物、共酸化剤および酸化剤を含む溶液または懸濁液を使用する。N−オキシル化合物は、TEMPOや、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPOなどのTEMPO誘導体を用いることができる。共酸化剤は、臭化物またはヨウ化物が好ましく、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属を挙げることができ、特に、反応性の良い臭化ナトリウムが好ましい。酸化剤は、ハロゲン、次亜ハロゲン酸やその塩、亜ハロゲン酸やその塩、過酸化水素などを用いることができるが、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0043】
天然セルロース原料および酸化触媒を含む反応液のpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から、pH9以上pH12以下の範囲であることが好ましい。
【0044】
酸化反応の温度条件は、5℃以上70℃以下の範囲内であれば良いが、反応温度が高くなると副反応が生じやすくなることを考慮し、50℃以下がより好ましい。
【0045】
酸化処理を施すことによって得られた酸化セルロースは、ミクロフィブリル表面にカルボキシル基が導入され、さらに、上記カルボキシル基同士の静電反発による浸透圧効果が、ナノオーダーのミクロフィブリルを独立(分散)しやすくする。このため、得られた酸化セルロースを水/アルコール混合液中にて分散処理することで、セルロース繊維の分散液を得ることができる。特に、分散媒として水を用いた場合、最も安定な分散状態を有する。ただし、乾燥条件、液物性の改良・制御など種々の目的に応じて、アルコール類(例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール)を始め、エーテル類、ケトン類を含んでもよい。
【0046】
分散方法としては、例えば、ミキサー、高速ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー磨砕、凍結粉砕、メディアミル、ボールミルの何れかまたはこれらを組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明の膜形成用組成物は、上記セルロース繊維分散液に、無機層状化合物、水溶性高分子を混合、攪拌することで得られる。上記材料を混合した後、ミキサーやホモジナイザー処理をおこなうことで、無機層状化合物の分散性に優れた膜形成用組成物を得ることができる。
【0048】
本発明の膜形成用組成物には、セルロース繊維、無機層状化合物、水溶性高分子のほかに、シロキサン化合物が含まれていてもよい。シロキサン化合物とは、シランカップリング剤の加水分解物が縮重合によりシロキサン結合した化合物である。シロキサン結合による架橋構造は、耐水性や基材へ密着性に加え、セルロースの膨潤を抑える効果が非常に高い。特に、オルトケイ酸テトラエチルから得られるシロキサン化合物は、シロキサン結合のみから形成される高度な架橋構造を有するため、膜内への水蒸気の浸入を最も抑える化合物である。その他には、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルなど種々のシランカップリング剤から得られるシロキサン化合物を用いることができる。また、これらを2種以上混合して用いても良い。
【0049】
また、膜形成用組成物には、機能性付与のために、さらに添加剤を加えても良い。例えば、レベリング剤、消泡剤、合成高分子、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料或いは安定剤などを用いることができ、これらはガスバリア性を損なわない範囲内で膜形成用組成物に添加することができ、用途に応じてフィルム特性を改良することもできる。
【0050】
次に、本発明におけるシートの製造方法について説明する。本発明のシートは、基材の少なくとも一方の面に、少なくともセルロース繊維と無機層状化合物と水溶性高分子とを含む水溶液を主剤とする膜形成用組成物を塗布し、乾燥させることにより得ることができる。
【0051】
本発明の基材としては、種々の高分子組成物からなるプラスチック材料を用いることができる。例えば、ポリオレフィン系(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、セルロース系(例えば、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等)、ポリアミド系(例えば、6−ナイロン、6,6−ナイロン等)、アクリル系(例えば、ポリメチルメタクリレート等)や、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、エチレンビニルアルコール等からなるものが用いられる。また、上記プラスチック材料の中から、少なくとも1種以上の成分を持つ、もしくは共重合成分に持つ、またはそれらの化学修飾体を成分に有する有機高分子材料を用いることも可能である。
【0052】
更に、近年では、少しでも環境負荷を低減させる材料を利用することが有効とされている。本発明の基材においても、例えば、ポリ乳酸、バイオポリオレフィンなど植物から化学合成されるバイオプラスチック、またはヒドロキシアルカノエートなど微生物が生産するプラスチックを含む基材、または木材や草木などのパルプ化、抄紙などの工程を経て得られる紙などを用いることができる。更には、セルロース系材料を含む、セロハン、アセチル化セルロース、セルロース誘導体、セルロース繊維を含む基材を用いることも可能である。
【0053】
基材の選定は、用途によって適宜行うことができる。例えば、本発明のシートを包装材料とする場合には、価格面、防湿性、充填適性、風合い、廃棄性から、上記材料のうち、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド系材料が好ましいが、環境配慮型材料として用いる場合には、紙やポリ乳酸フィルムの方がより好ましい。
【0054】
本発明の基材は、各種層と基材との密着性を向上させるために、予め基材表面に、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、アンカーコート処理等の表面改質を施してあってもよい。
【0055】
また、本発明の基材は、セラミック蒸着を施した基材を用いてもよい。例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化ケイ素等の金属酸化物を蒸着した基材を用いることができる。上記金属酸化物の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法などが挙げられる。
【0056】
基材の厚みとしては、シートまたは後述する包装材料の用途によって適宜選択されるが、0.1μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0057】
また、これらの基材の形状は、特に限定されることはなく、フィルム状、シート状、ボトル状、筒状などの各種成形体を用途によって適宜選択することができる。特に、セルロース繊維の有する透明性や屈曲性を活かすことを考慮すると、基材はフィルム状であることが好ましい。フィルム状の基材の表面に、本発明の膜形成用組成物により層を形成することで得られるシートは、後述の通り、塗膜強度が高く、かつ高湿度下においても優れたガスバリア性を有する各種包装材料として用いることができる。
【0058】
基材には、周知である種々の添加剤や安定剤、例えば、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線防止剤などを用いて機能を付加させたものを用いることも可能である。
【0059】
本発明の膜形成組成物により形成される層の形成方法としては、公知の塗布法を用いることができ、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーター等を用いることができる。上記塗布方法を用いて、基材の少なくとも一方の面に塗布する。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、熱風乾燥、UV乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等を用いることができる。
【0060】
さらに、膜形成組成物により形成された層上には、必要に応じて中間フィルム層、ヒートシール可能な熱可塑性樹脂層(以下「ヒートシール層」という。)、印刷層などを積層し、本発明の包装材料とすることができる。また、各層をドライラミネート法やウェットラミネート法で積層するための接着層(以下「ラミネート用接着剤層」という。)や、ヒートシール層を溶融押出し法で積層する場合のプライマー層やアンカーコート層などを積層しても良い。
【0061】
以下、本発明のシートを包装材料として用いる場合の構成例(a)〜(c)を示す。ただし、本発明の包装材料はこれに限定されるものではない。
(a)基材/ガスバリア層/ラミネート用接着剤層/ヒートシール層
(b)基材/ガスバリア層/印刷層/ラミネート用接着剤層/ヒートシール層
(c)基材/ガスバリア層/ラミネート用接着剤層/中間フィルム層/ラミネート用接着剤層/ヒートシール層
【0062】
中間フィルム層は、ボイルおよびレトルト殺菌時の破袋強度を高めるために設けられるもので、一般的に、機械強度および熱安定性の面から二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内から選ばれることが多い。厚さは、材質や要求品質等に応じて決められるが、一般的には10μm以上30μm以下の範囲である。形成方法としては、2液硬化型ウレタン系樹脂等の接着剤を用いて貼り合わせるドライラミネート法により積層することができる。また、紙などのガス透過性の高い基材を用いる場合は、デンプン系の水溶性接着剤や酢酸ビニルエマルジョンのような水性接着剤を用いたウェットラミネーション法により積層できる。
【0063】
また、ヒートシール層は、袋状包装体などを形成する際に密封層として設けられるものである。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体またはそれらの金属架橋物等の樹脂の1種からなるフィルムが用いられる。ヒートシール層の厚さは、目的に応じて決められるが、一般的には15μm以上200μm以下の範囲である。形成方法としては、ヒートシール層を形成するフィルムを2液硬化型ウレタン樹脂などの接着剤を用いて貼り合わせるドライラミネート法等を用いることが一般的であるがいずれも公知の方法により積層することができる。
【0064】
また、ラミネート用接着剤層として用いられる接着剤としては、積層される各層の材質に応じてアクリル系、ポリエステル系、エチレン−酢酸ビニル系、ウレタン系、塩化ビニル−酢酸ビニル系、塩素化ポリプロピレン系などの公知の接着剤を用いることができる。ラミネート用接着剤層を形成するための接着剤の塗布方法としては、公知の塗布法を用いることができ、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーター等を用いることができる。接着剤の塗布量としては、1g/m以上10g/m以下が好ましい。
【0065】
また、印刷層は、包装袋などとして実用的に用いるために形成されるものであり、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系、塩化ビニル系等の従来から用いられているインキバインダー樹脂に各種顔料、体質顔料および可塑剤、乾燥剤、安定剤等の添加剤などが添加されてなるインキにより構成される層であり、文字、絵柄等が形成されている。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0067】
以下に示す方法により、セルロースのTEMPO酸化反応、及び分散処理を順におこない、セルロース繊維を作製した。
【0068】
[セルロースのTEMPO酸化]
<材料>
セルロース:漂白クラフトパルプ(フレッチャーチャレンジカナダ、Machenziej)
TENPO:市販品(東京化成工業)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(和光純薬)
臭化ナトリウム:市販品(和光純薬)
<TEMPO酸化>
漂白クラフトパルプ10g(乾燥重量換算)を水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。これを20℃に調整し、TEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加し、パルプの懸濁液とした。さらに、攪拌しながらセルロース重量当たり10mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、パルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。3時間反応をおこなった後、2N塩酸で中和処理し、さらに水洗し酸化セルロース(COOH型)を得た。
【0069】
[酸化セルロースの分散処理]
得られた酸化セルロースをイオン交換水で固形分濃度1%に調整し、pH8になるよう0.5N水酸化ナトリウムを用いてpH調整をおこなった。その後、高速回転ミキサーを用いて1時間攪拌し、透明なセルロース繊維分散液を得た。
【0070】
[膜形成用組成物の製造]
セルロース繊維、無機層状化合物、水溶性高分子を表1に従い配合し、溶媒に水を用いて固形分濃度が1%になるよう調整した。その後、超音波ホモジナイザー処理により、十分に分散処理を施し、膜形成用組成物(コーティング液)を得た。
なお、配合量の単位は重量部である。
【0071】
<実施例1〜9>
25μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、表1に記載の配合を行った膜形成用組成物であるコーティング液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、オーブンで乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このシートの酸素透過度測定および水蒸気透過度測定の結果を表4に示す。
次に、作製したシートを包装材料として用いるために、ガスバリア層側に、ラミネート用接着剤層を介してヒートシール層をドライラミネーション法により貼り合わせ、50℃、4日間養生して、包装材料用シートを作製した。ヒートシール層としては、厚さが50μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(TUX−FCS、東セロ社製)を使用し、ラミネート用接着剤層を形成する接着剤としては、二液硬化型ポリウレタン系ラミネート用接着剤(A515/A50、三井化学ポリウレタン社製)を使用した。接着剤は、グラビアコート法により、乾燥後の塗布量が3.0g/mとなるようにガスバリア層上に塗布した。作製した包装材料用シートの密着強度測定の結果を表4に示す。
【0072】
<実施例2−1〜2−6>
膜形成用組成物に含まれる無機層状化合物および水溶性高分子を表2に記載の材料に変更した以外は、実施例2と同様にしてシートおよび包装材料用シートを形成した。
なお、実施例2−4のセロウロン酸は、下記の通り合成した。予めベンリ―ゼ(旭化成社製)5gを水に分散させた。この分散液にTEMPO0.96g及び臭化ナトリウム1.27gを溶解させた水溶液を加え、ベンリーゼの固形分濃度が約1.3重量%になるよう調製した。次に、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液57gを添加し酸化反応を開始した。反応は、系内温度が5℃、PHが10.5の条件で行った。(反応が進むとPHが下がるのでNaOH水溶液を滴下し一定を保った)10時間後反応を停止し、水/アセトン混合液で十分に洗浄した後、さらに減圧乾燥することによりセロウロン酸を得た。
得られたシートの酸素透過度測定および水蒸気透過度測定、包装材料用シートの密着強度測定の結果を表5に示す。
【0073】
<比較例1〜10>
25μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、表3に記載の配合を行った膜形成用組成物であるコーティング液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、オーブンで乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このシートの酸素透過度測定および水蒸気透過度測定の結果を表6に示す。
次に、作製したシートを包装材料として用いるために、ガスバリア層側に、ラミネート用接着剤層を介してヒートシール層をドライラミネーション法により貼り合わせ、50℃、4日間養生して、包装材料用シートを作製した。ヒートシール層としては、厚さが50μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(TUX−FCS、東セロ社製)を使用し、ラミネート用接着剤層を形成する接着剤としては、二液硬化型ポリウレタン系ラミネート用接着剤(A515/A50、三井化学ポリウレタン社製)を使用した。接着剤は、グラビアコート法により、乾燥後の塗布量が3.0g/mとなるようにガスバリア層上に塗布した。作製した包装材料用シートの密着強度測定結果を表6に示す。
【0074】
得られたシートおよび包装材料用シートの性能は、下記の方法に従って評価した。
【0075】
<高湿度条件における酸素透過率測定>
シートの酸素透過度(cc/m・day・atm)を、酸素透過度測定装置MOCON OX−TRAN2/21(モダンコントロール社製)を用いて、30℃×70%RH雰囲気下で測定をおこない、高湿度条件での酸素バリア性を評価した。
【0076】
<高湿度条件における水蒸気透過率測定>
シートの水蒸気透過度(g/m/day)を、40℃、90%RH雰囲気下で、JIS Z0208に準拠し、カップ法により測定することで、高湿度条件での水蒸気バリア性を評価した。
【0077】
<密着性試験>
包装材料用シートを幅15mm長さ100mmの短冊状に切りとり、剥離速度300mm/minにおけるT型剥離強度(N/15mm)を測定した。
また、SEM−EDX(S−4100、日立社製)を用いて剥離箇所を調べた。なお、表4〜6に記載の剥離箇所の欄の表記の意味は下記の通りである。

界面 : 基材とガスバリア層との界面で剥離した。
凝集破壊 : 基材とガスバリア層との界面で剥離せず、
ガスバリア層の凝集破壊が生じた。

【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
測定の結果、実施例1〜9の包装材料用シートは、比較例1〜3と比べ、高い密着強度を示した。また、実施例1〜9のシートは、比較例4〜6と比べ、高いガスバリア性を示した。よって、密着強度およびガスバリア性共に高い値を示すためには、セルロース繊維に加え、無機層状化合物、ポリビニルアルコールが有用であることが分かった。
また、比較例7のポリビニルアルコール配合量が少ない包装用シートでは、密着性試験の結果より、十分な塗膜強度が得られないため膜凝集破壊となった。一方、比較例8のポリビニルアルコール配合量が過剰な包装用シートでは、密着性は良好であったのに対し、ガスバリア性は劣る結果となった。
また、比較例9の合成マイカ配合量が少ない包装用シートでは、密着性は良好であったが、十分なガスバリア性を得ることはできなかった。一方で、比較例10の合成マイカ配合量が過剰な包装用シートでは、膜は脆く、密着性試験の結果より、密着強度は低く、膜凝集破壊となった。
また、実施例2−1〜2−3の結果より、無機層状化合物として合成マイカ以外の有機マイカ、モンモリロナイト、スメクタイトを用いた場合においても、ガスバリア性および密着強度共に良好な結果が得られた。同様に実施例2−4〜2−6の結果より、水溶性高分子としてポリビニルアルコール以外のセロウロン酸、水溶性ポリエステル樹脂、ペクチンを用いた場合においても、ガスバリア性、密着強度共に良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の膜形成用組成物によれば、塗膜強度が高く、かつ高湿度下においても優れたガスバリア性を有する層を形成することができるため、本発明は、食品や医療品などに用いられる包装材料に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセルロース繊維と無機層状化合物と水溶性高分子とを含むことを特徴とする膜形成用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
前記セルロース繊維および前記水溶性高分子の重量比(セルロース繊維の重量/水溶性高分子の重量)が、100/100以上100/5以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
前記セルロース繊維および前記無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)が、100/100以上100/3以下の範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項5】
前記セルロース繊維および前記無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)が、100/50以上100/5以下の範囲であり、前記セルロース繊維および前記水溶性高分子の重量比(セルロース繊維の重量/水溶性高分子の重量)が、100/50以上100/10以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
前記セルロース繊維の繊維幅が、3nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項7】
前記セルロース繊維が、結晶性セルロースであり、かつ、セルロースI型の結晶構造を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項8】
前記セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、カルボキシル基およびアルデヒド基から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、前記官能基の総和が、セルロース繊維の全重量に対し、0.5mmol/g以上3.5mmol/g以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の膜形成用組成物。
【請求項9】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に請求項1から8のいずれか一項に記載の膜形成組成物により形成された層とを備えることを特徴とするシート。
【請求項10】
請求項9に記載のシートを備えた包装材料。

【公開番号】特開2012−149114(P2012−149114A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6792(P2011−6792)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】