説明

膜形成装置

【課題】低温プロセス環境下での薄膜形成で、膜の充填密度を高め、品質の高い膜形成が可能な膜形成装置を提供する。
【解決手段】ケース10内に配置されたカソード8と、ケース10の端部に配置されたアノード12,14と、カソード8とアノード12,14との間に放電電圧を印加する放電電源13とからなるケース10内で形成された第1プラズマ17中の電子を放電電圧に基づいて真空室1内に引き出す様に構成したプラズマ発生装置7を備え、真空室1内で気化状態の蒸着材料にプラズマ発生装置7からの電子を照射して第2プラズマ22を発生させ、第2プラズマ22中のイオンが基板に向けて照射されることにより成膜を行うように成した膜形成装置において、第2プラズマ22中の電子がプラズマ発生装置7側に向かう様にアノード12,14の電位をコントロールするアノード電位コントロール手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空室内にプラズマ発生装置を内蔵した膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ発生装置は、基板上に薄膜を形成するイオンプレーティング装置の如き膜形成装置において、ガス分子・蒸発粒子の高密度なプラズマ化を行い、該プラズマ中のイオンを基板に照射するのを補助している。
【0003】
図3はプラズマ発生装置を内蔵した膜形成装置の一概略例を示す。
【0004】
図中1は真空室で、この真空室の底部には、蒸発材料2を収容した坩堝3、該蒸発材料に電子ビームを照射するための電子銃4が設けられている。
【0005】
前記真空室1の上部には、複数の基板がセットされた回転可能な基板ドーム5が設けられている。尚、該基板ドームにはヒータ6が取り付けられている。
【0006】
図中7はプラズマ発生装置で、該プラズマ発生装置からの電子ビームが、前記基板ドーム5と坩堝3の間に照射される様に成っている。
【0007】
前記プラズマ発生装置7において、8はカソードで、例えば、タングステンの如き熱電子放出材料から成り、加熱電源9に接続されている。
【0008】
10は円筒状のケースで、その内部は放電室となっており、該放電室は、ガス導入口11から導入されたアルゴンガスにより前記真空室1の圧力より高い圧力の空間となっている。
【0009】
12は第1アノードで、水冷されており、抵抗R1を介して放電電源13に接続されている。該第1アノードには、表面を覆うように第2アノード14が取り付けられている。該取り付けは、互いの間の熱抵抗が大きく成る様に、互いの一部を繋ぐことによって実現されている。
【0010】
15はシールドで、前記ケース10に固定されており、先端部に電子ビームが通過するオリフィスを有している。
【0011】
16はコイルで、電子が引き出される方向と平行な磁場を形成する電磁石から成っており、前記ケース10内で生成されたプラズマ17を該ケースの中心軸方向に集束させるものである。
【0012】
前記カソード8,第1アノード12,第2アノード14,ケース10,抵抗R1,加熱電源9及び放電電源13で放電回路を構成しており、該放電回路は、抵抗R2を介して前記真空室1と接続されている。
【0013】
前記プラズマ発生装置7において、先ず前記ガス導入口11からケース10内にアルゴンガスを所定量導入して該ケース内の圧力を高めると共に、前記加熱電源9により前記カソード8を熱電子放出可能な温度まで加熱する。次に、前記コイル16に所定の電流を流し、プラズマ点火と安定なプラズマを得るために必要な磁場を発生させる。
【0014】
この状態で、前記放電電源13から前記カソード8と前記アノード(12,14)間に所定の電圧(例えば100V)を印加すると、前記シールド15のオリフィス上部に電界18が形成され、該電界によって、前記カソード8からの熱電子は前記アノード(12,14)の方向に加速し始める。該熱電子の加速により、該熱電子と前記導入したアルゴンガスとが衝突を繰り返し、前記ケース10内にプラズマ17が生成される。
【0015】
こうして生成されたプラズマ17中の電子は、前記コイル16が形成する磁場により前記ケースの中心軸方向に集束を受けながら、前記電界18により前記真空室1へと引き出される。
【0016】
一方、前記真空室1の内部においては、蒸発材料2に向けて電子銃4からの電子ビーム19が照射され、該蒸発材料は加熱されて蒸発している。又、該真空室内には、プロセスガス導入口20からプロセスガス(例えば、酸素ガス)が導入されている。
【0017】
前記真空室1に引き出された電子は、該真空室中のプロセスガス及び蒸発粒子に衝突し、それらを励起してイオン化させるので、該真空室内にプラズマ22が形成される。該プラズマ中のイオン化された蒸発粒子は前記基板ドーム5にセットされた基板に引き寄せられて付着し、該基板上には蒸発粒子の膜が形成される。
【0018】
前記真空室1に引き出された電子及びプラズマ22中の電子は、前記真空室1の内壁やアノード(12,14)に流れ込み、安定な放電が維持される。
【0019】
尚、この様な膜形成装置において光学薄膜を形成する場合では、前記真空室1の内壁は光学薄膜材料である導電性のない誘電体材料の蒸発粒子が付着し、高いインピーダンスを持った状態となる。よって、前記プラズマ発生装置7の抵抗R1,R2は、R1<R2の関係とすることで、前記真空室1に引き出された電子及び前記プラズマ22中の電子を前記アノード(12,14)に殆どを流すようにしている。
【0020】
次に、前記基板への膜形成について、もう少し詳細に説明する。
【0021】
前記プラズマ発生装置7により前記真空室1内に生成されたプラズマ22により、前記蒸発材料2からの蒸発粒子や前記プロセスガス導入口20からの酸素ガスがエネルギーを与えられ、それらの一部が励起してイオン化し、前記真空室1内に高密度なプラズマ22が生成される。又、前記プラズマ22に晒された前記基板ドーム5の表面には電子が蓄積され、該基板ドーム表面上に負の電圧が印加された状態となる。
【0022】
一方、前記プラズマ22はアースもしくは正のポテンシャルを持っているので、前記基板ドーム5の表面近傍においては、前記プラズマ22が持つポテンシャルと前記基板ドーム5が持つポテンシャルの差が生じ、該基板ドーム付近のプラズマ22中のイオンは、基板に向けて加速され該基板を照射する(叩く)現象が発生する。
【0023】
この現象と、前記蒸発粒子とプロセスガスの励起/イオン化とが合わさって、基板上へ形成される膜の品質アップ(膜の充填密度を高め、密着性を向上させる等)を図ることが可能となる。
【0024】
【特許文献1】特開平8−037098号公報
【特許文献2】特開平8−037099号公報
【特許文献3】特開平8−319562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
さて、膜形成装置によって光学薄膜を形成する場合、光学薄膜としては、膜の光学特性が環境変化に対して変化しないものが強く求められている。そのために、膜の充填密度を高めることが重要となり、前記膜形成装置においては、前記基板ドーム5付近のイオンが基板を照射する現象が大きく寄与している。
【0026】
従って、前記膜形成装置においては、前記プラズマ22の密度を高めることにより、前記基板ドーム5の持つ負のポテンシャルと前記プラズマ22の正のポテンシャルの差を大きくし、前記基板ドーム5付近のイオンが基板方向に加速されるエネルギーを高めれば良い。
【0027】
その結果、膜の充填密度を高めることが出来、耐環境性能の高い光学薄膜の形成を図ることが可能となる。
【0028】
しかし、前記真空室1中のプラズマ22の密度を高めると、該プラズマに晒される前記基板ドーム5は時間の経過と共に温度が著しく高くなってしまい、基板の耐熱温度を超えてしまう恐れがある。
【0029】
尚、前記プラズマ22の密度を下げて基板の耐熱温度以下でのコーティングを試みると、前記基板方向に加速されるイオンのエネルギーが低くなり、膜の充填密度が高められず、膜の品質が低くなってしまうという問題が発生する。
【0030】
又、前記基板に照射されるイオンのエネルギーは蒸発材料の種類により自由に変更出来ることが望ましいが、本装置では真空室中のプラズマ22の密度と前記基板方向に加速されるイオンのエネルギーを独立して制御することが出来ないため、きめ細かな成膜条件の設定が出来ない。
【0031】
本発明はこの様な問題を解決する新規な膜形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の膜形成装置は、放電室と、該放電室内に配置されたカソードと、該放電室の端部に配置されたアノードと、前記カソードに対して少なくとも前記アノードを囲うように前記放電室内に取り付けられた筒状のシールド体と、前記カソードと前記アノードとの間に放電電圧を印加するための第1電源と、前記放電室内に放電用ガスを供給するための手段を備えており、前記放電室内で形成された第1プラズマ中の電子を前記放電電圧に基づいて前記シールド体の一部を通して前記放電室外の真空室内に引き出す様に構成したプラズマ発生装置を備え、前記真空室内で少なくとも気化状態の蒸着材料に前記プラズマ発生装置からの電子を照射して第2プラズマを発生させて基板の成膜を行うように成した膜形成装置において、前記第2プラズマ中の電子が前記プラズマ発生装置側に向かう様に前記アノードの電位をコントロールすることにより、前記第2プラズマ中のイオンが前記基板に向けて照射される様にしたアノード電位コントロール手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本願発明によれば、低密度プラズマで基板温度上昇を抑え、該低密度プラズマ中のイオンによる任意のエネルギービームを基板に照射することが出来るので、低温プロセス環境下での薄膜形成における膜の充填密度を高め、品質の高い薄膜形成が可能になる。
【0034】
又、真空室内のプラズマ生成と、該プラズマ中のイオンを基板に照射するエネルギーを独立して制御出来るので、蒸発材料の種類によって、最適なエネルギーのイオンビームを基板に照射出来る様になる。その結果、各蒸発材料に対し、細かな蒸着条件の設定が出来る様になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0036】
図1は本発明の一実施の形態を示す構成図である。図中、図3で使用した記号と同一記号の付されたものは同一構成要素を示す。
【0037】
図1に示す装置の構成が、図3に示す装置の構成と異なる点は、カソード8,第1アノード12,第2アノード14,ケース10,抵抗R1,加熱電源9及び放電電源13で構成される放電回路が、インピーダンス調整回路23と直流電源から成るアシスト電源24とを介してアース電位にある真空室1と接続されていることである。
【0038】
この様に構成された装置は以下の通り動作する。
【0039】
先ず、ガス導入口11からケース10内にアルゴンガスを所定の流量導入し、該ケース内の圧力を高めると共に、加熱電源9によりカソード8を熱電子放出可能な温度まで加熱する。
【0040】
次に、コイル16に所定の電流を流し、プラズマの点火と安定なプラズマを得るのに必要な磁場を発生する。
【0041】
この状態で、放電電源13から前記カソード8とアノード(12,14)間に所定の電圧(例えば100V)を印加すると、シールド15のオリフィス上部に電界18が形成され、該電界によって、前記カソード8からの熱電子が前記アノード(12,14)の方向に加速し始める。該熱電子の加速により、該熱電子と前記導入したアルゴンガスとが衝突を繰り返し、それによりケース10内にプラズマ17が生成される。
【0042】
こうして生成されたプラズマ17中の電子は、前記コイル16が作る磁場により前記ケース10の中心軸方向に集束を受けながら、前記電界18により真空室1へと引き出される。
【0043】
前記真空室1の内部においては、蒸発材料2に向けて電子銃4からの電子ビーム19が照射され、該蒸発材料は加熱されて蒸発している。又、該真空室内には、プロセスガス道入口20からプロセスガス(例えば、酸素ガス)が導入されている。
【0044】
前記真空室1に引き出された電子は、該真空室中のプロセスガス及び蒸発粒子に衝突し、それらを励起してイオン化するので、前記真空室内にプラズマ22が形成される。
【0045】
該プラズマ中のイオン化された蒸発粒子は前記基板ドーム5にセットされた基板に引き寄せられて付着し、該基板上には蒸発粒子の膜が形成される。
【0046】
前記真空室1に引き出された電子及びプラズマ22中の電子は、前記真空室1やアノード(12,14)に流れ込み、安定な放電が維持される。
【0047】
ここで、本発明の特長を以下に説明する。
【0048】
低温プロセス環境下(例えば、150℃以下)において、本発明の膜形成装置を利用する場合について説明する。
【0049】
先ず前記プラズマ22の出力を低く設定する。ここでは、前記放電電源13のコントロールにより放電電流を10A程に設定し、基板温度上昇に影響を与えない電流値とする。ここで、放電電圧は放電電流が得られる最低の条件さえあればよく、通常は放電電流を定電流制御で使用するため、圧力条件等にもよるが、70V〜140V程度で任意に設定される。
【0050】
この状態では、前記真空室1内に生成されるプラズマ22はプラズマ密度が低く、基板の温度上昇への影響が少ない状態にある。この状態では、前述した様に、前記基板ドーム5付近のイオンが基板方向に加速されるエネルギーが低く、形成される膜の充填密度を高めることが出来ない。
【0051】
そこで、本発明において新たに設けた前記インピーダンス調整回路23では、アース部(真空室1)から放電電源13に流れる電子電流Iを制限することにより、前記アノード(12,14)の電位を高めるための任意の抵抗R(例えば20〜600Ω)が発生出来る様に成っている。その結果、インピーダンス調整回路23で発生したセルフバイアス電圧(I×R)により、アノードの電位は図2のbに示す様に、cに示すアース部(真空室1)の電位に対して正のポテンシャルを持った状態となる。
【0052】
前記図2は各場所毎の電位を示す図である。縦軸は電位、横軸は場所を表し、aは前記カソード8の電位を示す。尚、前記アノード(12,14)の電位は、抵抗R1で発生するバイアス電圧(I×R1)も影響するが、該R1の値は1Ω以下にすることにより、該抵抗R1で発生するバイアス電圧が高くならない様にしている。又、図2において、放電電圧Aは、プラズマ発生装置7のアノード(12,14)とカソード8間の電圧である。
【0053】
次に、前記アシスト電源24により、図2のeに示す様に前記アノード電位を更に高める電圧を発生する。その結果、図2に示す様に、eに示すアノードの電位とcに示すアース部の電位との電位差(=アシスト電圧)が大きくなり、前記プラズマ22中の電子が前記アノード(12,14)により加速されると同時に、該プラズマ22中のイオンが該電子と逆向きの方向に加速を受けて基板方向に移動するようになる。そして、アース部(真空室1)に流れる電流が電子に基づくもの(電子電流)からイオンに基づくもの(イオン電流)に切り替わった時に、前記インピーダンス調整回路23は発生する抵抗Rをゼロにし、該インピーダンス調整回路23に流れるイオン電流に制限をかけない様に作動する。
【0054】
この様に、前記放電電源13をコントロールすることにより任意の密度のプラズマ22を生成させ、それとは別に、前記アシスト電源24をコントロールすることにより該プラズマ22中のイオンを任意に加速し、該アシスト電源の発生電圧に応じたイオンエネルギーを基板に掛けることが可能となる。従って、低密度プラズマを生成し、該低密度プラズマ中のイオンによる強力なエネルギービームを基板に照射することが出来、これにより、薄膜形成において、膜の充填密度を高めることが可能となる。
【0055】
又、前記真空室1にプラズマ22を生成させる電源である放電電源13と該プラズマ22中の電子を前記アノード(12,14)に加速させるアシスト電源24を設けたことで、前記プラズマ22の生成と該プラズマ中のイオンを基板に照射するエネルギーを独立して制御できる様になったので、蒸発材料の種類によって、最適なイオンエネルギービームを照射することが可能となった。その為、各蒸発材料に対し、細かな蒸着条件の設定が出来る様になる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施の形態であるプラズマ発生装置を内蔵した膜形成装置の構成例を示す。
【図2】各場所毎の電位を示す図である。
【図3】プラズマ発生装置を内蔵した膜形成装置の従来構成例を示す。
【符号の説明】
【0057】
1 真空室
2 蒸発材料
3 坩堝
4 電子銃
5 基板ドーム
6 ヒータ
7 プラズマ発生装置
8 カソード
9 加熱電源
10 ケース
11 ガス導入口
12 第1アノード
13 放電電源
14 第2アノード
15 シールド
16 コイル
17 プラズマ
18 電界
19 電子ビーム
20 プロセスガス導入口
22 プラズマ
23 インピーダンス調整回路
24 アシスト電源
R1,R2 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電室と、該放電室内に配置されたカソードと、該放電室の端部に配置されたアノードと、前記カソードに対して少なくとも前記アノードを囲うように前記放電室内に取り付けられた筒状のシールド体と、前記カソードと前記アノードとの間に放電電圧を印加するための第1電源と、前記放電室内に放電用ガスを供給するための手段を備えており、前記放電室内で形成された第1プラズマ中の電子を前記放電電圧に基づいて前記シールド体の一部を通して前記放電室外の真空室内に引き出す様に構成したプラズマ発生装置を備え、前記真空室内で少なくとも気化状態の蒸着材料に前記プラズマ発生装置からの電子を照射して第2プラズマを発生させて基板の成膜を行うように成した膜形成装置において、前記第2プラズマ中の電子が前記プラズマ発生装置側に向かう様に前記アノードの電位をコントロールすることにより、前記第2プラズマ中のイオンが前記基板に向けて照射される様にしたアノード電位コントロール手段を設けたことを特徴とする膜形成装置。
【請求項2】
前記アノード電位コントロール手段は前記基板に照射されるイオンのエネルギーが制御出来る様に成っていることを特徴とする請求項1記載の膜形成装置。
【請求項3】
前記アノード電位コントロール手段は、前記アノードの電位をアース電位に対して常に正の電位に保持させることを特徴とする請求項1記載の膜形成装置。
【請求項4】
前記アノード電位コントロール手段は、前記アノードとアース間にインピーダンス調整回路とアシスト電源とを直列に接続することにより成されており、前記アノードに常に正のバイアスが印加されるようにすると同時に、前記アースに電子電流が流れた時には、前記インピーダンス調整回路で所定のインピーダンスを発生させて電子電流を制限する調整を行ない、前記アースにイオン電流が流れた時には、インピーダンスをゼロにしてイオン電流を流すようにしたことを特徴とする請求項1記載の膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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