説明

膜濾過方法及び濾過装置

【課題】 膜モジュールの構造を複雑にして設備費を高くすることなく、膜表面のファウリングを必要最低限のエネルギーで防止することが可能で、長時間安定な膜濾過性能を有する膜濾過方法及び装置を提供する。
【解決手段】 外圧型の膜モジュール10が長手方向には一単位分設けられている濾過装置1であり、膜モジュールの膜面に沿って被処理水を膜モジュールの一端部10a側から他端部10b側に流動させるクロスフロー方式で濾過処理を行い他端部側で濾過処理水を集水する濾過装置での膜濾過方法であり、一端部と他端部との間において、膜モジュールの膜面に沿って流れる被処理水の膜面流速Ufが、膜11の細孔11aへの吸い込み流速Upに等しい限界膜面流速Ufreqより大きく、且つ長手方向における膜面流速の分布が限界膜面流速の分布に比例或いは近似するように、一端部側から他端部側に近づくに従って膜面流速を増速する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース型濾過装置,タンク型濾過装置、あるいは浸漬型濾過装置による膜濾過方法及び濾過装置に関するもので、加圧式と吸引式のいずれの方式にも共通するものである。更に詳しくは、本発明は河川水、湖沼水、地下水、海水、生活排水、工場排水、下水二次処理水等の原水について除濁、除菌を行う濾過装置、あるいは活性汚泥水の固液分離を膜で行う膜分離活性汚泥装置に用いられる膜濾過方法及び膜濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外圧型の膜モジュールの使用にあたっては、膜によって透過を阻止された懸濁物質などの成分が膜面に堆積して、膜の細孔を閉塞するファウリング(膜詰まり)と呼ばれる現象が生じる。この現象は、膜濾過性能を本質的に低下させるため、ファウリングを低減・防止することが非常に重要である。
【0003】
ファウリングは、被処理水中の懸濁物質やゲル状物質が膜表面の細孔内に侵入することにより発生する。懸濁物質が細孔に侵入するか否かは、細孔入口における吸い込み流速Up(運転フラックスに比例)と、被処理水内でのクロスフロー流によって生起される膜面に平行な長手方向の膜面流速Ufとの大小関係に依存している。つまり、Up<Ufであれば、懸濁物質は細孔に吸い込まれない。逆に、Up>Ufであれば、懸濁物質は細孔に吸い込まれて膜詰まりが生じる。ここで、膜面流速Ufは、クロスフロー流によって生起され、膜面に平行な長手方向の流速であり、膜面に近付くほど小さくなる速度分布を持ち、クロスフロー平均流速UCFを大きくするとほぼ比例的に大きくなる傾向をもつ。ここで、クロスフロー平均流速UCFとは、膜モジュールのクロスフロー総流量を、流れ方向に垂直なモジュール断面の断面積で割って計算される平均流速のことであり、膜面近傍の局所的な渦流等の影響は含んでいない。
【0004】
通常、濾過膜においては、クロスフロー流を長手方向に有効に活用して膜面でのファウリングを防止するようにしているので、膜モジュールを長尺にしている。また、膜モジュールを設置する際の空間利用効率を上げるために、中空糸膜では糸を細く、また、平膜では膜間の距離を狭くしている。この結果、膜を透過した後の透過水の流路は長くかつ狭くなってしまい、例えば、図8(a)のような外圧型の中空糸膜モジュール110を利用した従来の膜濾過装置100の場合、被処理水側(図中、右側)を加圧するか、或いは集水部に吸引負圧を与えると、膜モジュールの集水側(図中、左側)から遠ざかるほど、中空糸内部の圧力損失が大きくなって透過流速が減少する傾向がある。平膜の場合にも同様である。
【0005】
また、膜モジュール内に被処理水のクロスフロー流動を生成させるには、ポンプによる方法や、曝気の気泡によるエアリフト作用による方法などもある。いずれの方法によっても、クロスフロー流動のためのエネルギーは、流体輸送のために投入されたエネルギーがファウリングを防止するために使用される効率は10%程度と極めて小さい。つまり、集水側近傍以外(反集水側や長手方向の中間部分)で過剰なクロスフロー流速を与えることによって、莫大なエネルギーの無駄遣いを招いている。
【0006】
特許文献1では、膜モジュールを長手方向に分割することにより膜透過後の圧力損失による透過流速の不均一性を軽減し、反集水側と集水側の実質的なフラックスの差を小さくしている。この結果、集水側と反集水側で必要なクロスフロー平均流速UCFの差も小さくなり、クロスフロー流動によるエネルギーの無駄遣いを軽減している。図8(a)のような従来方式においても、1単位の膜モジュールを長手方向に2単位以上の膜モジュールに分割し、膜面積の総和を等しくなるようにすれば、分割されて短くなった膜モジュール内では、膜透過後の圧力損失の不均一性は軽減されており、エネルギーの無駄も少なくなっている。しかし、この方法では、エネルギーは節約できるが、膜モジュールが増えて濾過装置の構造が複雑になり、設備費が高くなる問題がある。
【0007】
また、特許文献2は、スパイラル型膜エレメントの例である。前記特許文献1と同様に、膜モジュールを長手方向に分割すると同時に被処理水の流入口を膜モジュールの分割数と同数にすることにより、被処理水が膜エレメント内を通過する際の圧力損失による透過流速の長手方向の不均一性を軽減して、反集水側と集水側の実質的なフラックスの差を小さくしている。特許文献2の例は、被処理水のクロスフロー流動のためのエネルギーを節約する目的ではなく、被処理水を供給圧力のためのエネルギーを節約する目的であるが、前記特許文献1と同様に、膜モジュールが増えて濾過装置の構造が複雑になり、設備費が高くなる問題がある。
【特許文献1】特開平08−024592公報
【特許文献2】特開2003−251154公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決することであり、濾過装置の構造を複雑にして設備費を高くすることなく、膜表面のファウリング(膜詰まり)を必要最低限のエネルギーで防止することが可能で、長時間安定な膜ろ過性能を実現できる膜濾過方法及び濾過装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る膜濾過方法は、外圧型の膜モジュールを長手方向には一単位分設けられている濾過装置であって、膜モジュールの膜面に沿って、被処理水を膜モジュールの一端部側から他端部側に流動させるクロスフロー方式で濾過処理を行い他端部側で濾過処理水を集水する濾過装置での膜濾過方法であって、上記一端部と他端部との間において、膜モジュールの膜面に沿って流れる被処理水の膜面流速が、膜モジュールを構成する膜の細孔での吸い込み流速に等しい限界膜面流速より大きく、且つ長手方向における膜面流速の分布が長手方向における限界膜面流速の分布に比例或いは近似するように、一端部側から他端部側に近づくに従って膜面流速を増速させる、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る濾過装置は、外圧型の膜モジュールが長手方向には一単位分設けられており、膜モジュールの膜面に沿って、被処理水を前記膜モジュールの一端部側から他端部側に流動させるクロスフロー方式で濾過処理を行い他端部側で濾過処理水を集水する濾過装置であって、膜モジュールの膜面に沿って流れる被処理水の膜面流速を一端部側から他端部側に近づくに従って増速させる手段を備え、その増速させる手段は、上記一端部と他端部との間において、膜面流速が、膜モジュールを構成する膜の細孔への吸い込み流速に等しい限界膜面流速より大きく、且つ長手方向における膜面流速の分布が長手方向における限界膜面流速の分布に比例或いは近似するように、一端部側から他端部側に近づくに従って膜面流速を増速させる、ことを特徴とする。
【0011】
限界膜面流速の大きさは、膜の細孔での吸い込み流速の大きさに等しいため、膜面流速が限界膜面流速より大きければファウリング(膜詰まり)を低減・防止することが可能である。上記膜濾過方法及び濾過装置では、膜モジュールの一端部側から他端部側に近づくに従って被処理水の膜面流速を増速させて、長手方向に渡って膜面流速が上記限界膜面流速より大きくしているため、長手方向において膜表面のファウリング(膜詰まり)を防止することができる。そして、上記膜濾過方法及び濾過装置では、長手方向における膜面流速の分布が、上記限界膜面流速の分布に比例或いは近似することになるので、膜表面のファウリング(膜詰まり)を必要最低限のエネルギーで防止することが可能であり、長時間安定な膜ろ過性能を実現できる。また、濾過装置において、膜モジュールは長手方向には一単位分設けられていることから、膜濾過方法を適用する濾過装置の構造を複雑にして設備費を高くすることがない。
【0012】
本発明に係る膜濾過方法では、膜モジュールの長手方向において複数の領域から被処理水を供給して被処理水のクロスフロー平均流速を増速させることによって膜面流速を増速させる、ことが好適である。同様に、本発明に係る濾過装置では、膜モジュールを収容するケースを有しており、ケースには、膜モジュールの一端部と他端部の間に、被処理水の流入口が複数形成されており、増速させる手段は、複数の流入口のうち一端部に最も近い流入口以外の流入口である、ことが好適である。
【0013】
また、本発明に係る上記膜濾過方法が、被処理水が貯留された水槽を有しており、膜モジュールの一端部が水槽の底壁側に位置すると共に、膜モジュールの長手方向が底壁に略直交する方向となるように膜モジュールが水槽内に配置されており、底壁側から曝気流を生じせしめることによって被処理水を膜モジュールの一端部側から他端部側に流動させて濾過処理を行う濾過装置での膜濾過方法である場合には、膜モジュールの一端部と他端部との間において上記曝気流とは別の曝気流を生じさせることによって膜面流速を増速させる、ことが好適である。
【0014】
また、同様に、本発明に係る濾過装置では、膜モジュールが内部に配置されると共に、被処理水を貯留する水槽と、膜モジュールに対して設けられており、水槽内に配置され水槽に貯められた被処理水に曝気流を生じせしめる複数の散気装置と、を更に備え、膜モジュールは、一端部が水槽の底壁側に位置すると共に、他端部が、被処理水の水面側に位置するように水槽内に配置されており、複数の散気装置は、膜モジュールに対して膜モジュールの長手方向に配置されており、上記増速させる手段は、複数の散気装置のうち底壁に最も近い散気装置以外の散気装置である、ことが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、膜面へのファウリングを、膜モジュールの長手方向全域において最小のエネルギーで効率的に防止することができる。このため、本発明によれば、膜モジュールの透過流束を最小エネルギーで長時間安定に維持することが可能とされ、膜濾過理効率は大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。以下に、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る膜濾過方法の説明図である。図1では、複数の膜11を束ねて両端部を接着固定して構成される長尺な膜モジュール10がケース20に収容されて構成されるケース型の濾過装置1の場合を示している。膜11としては中空糸膜が例示される。図1中のハッチングで示している部分は、膜モジュール10において接着固定された端部10a,10bである。なお、図示していないが、端部10bは濾過処理水を流出可能なように構成されている。図1(a)、図1(b)、図1(c)では、それぞれ濾過装置1の種々の実施例を模式的に示している。以下の説明では、図1(a),図1(b),図1(c)に示した濾過装置1を、説明の便宜上、濾過装置1、濾過装置1、濾過装置1とも称し、各濾過装置が有するケース20もケース20,20,20と称する場合もある。
【0018】
濾過装置1は、外圧型の膜モジュール10を利用したものであり、膜モジュール10の一方の端部(一端部)10a側から他方の端部(他端部)10b側に被処理水を膜モジュール10の膜面に沿って流し、他端部10b側で濾過処理水を集水する、いわゆるクロスフロー方式で被処理水を処理する。そして、他端部10b側に流れてきた被処理水は、ケース20に形成された被処理水流出口21から排出され、集水された濾過処理水は、ケース20の濾過処理水流出口22から排出されるようになっている。このように、膜モジュール10の他端部10b側で被処理水が集水されるため、本明細書では、膜モジュール10の他端部10b側を集水側端部10bとも称し、一端部10a側を反集水側端部10aとも称す。
【0019】
膜モジュール10のような外圧型の膜モジュールの使用にあたっては、膜によって透過を阻止された懸濁物質などの成分が膜面に堆積して、膜の細孔を閉塞するファウリング(膜詰まり)と呼ばれる現象が生じる。この現象は、膜濾過性能を本質的に低下させるため、ファウリングを低減・防止することが非常に重要である。
【0020】
ここで、ファウリングの発生原理及びファウリングを低減・防止する原理について図2及び図3を利用して説明する。説明の簡略化のため、図2,3の説明においては、図1に示した膜モジュール10の構成要素と対応するものには同様の符号を付して説明する。図3では、ファウリングは、被処理水中の懸濁物質Mやゲル状物質が膜11表面の細孔11a内に侵入することにより発生する。懸濁物質Mが細孔11aに侵入するか否かは、細孔11aの入口における吸い込み流速Up(運転フラックスに比例)と、被処理水内でのクロスフロー流によって生起される膜面に平行な長手方向の膜面流速Ufとの大小関係に依存している。つまり、
【数1】


であれば、懸濁物質Mは細孔11aに吸い込まれない。逆に、
【数2】


であれば、懸濁物質Mは細孔11aに吸い込まれて膜詰まりが生じる。ここで、膜面流速Ufは、クロスフロー流によって生起され、膜モジュール10を構成する膜11の膜面に平行な長手方向の流速である。膜面流速Ufは、いわゆる膜面近傍流速とすることができる。なお、懸濁物質Mの大きさが細孔11aより充分に大きければファウリング(=細孔内への侵入)の恐れは無く、また、充分に小さければ細孔11a内で捕捉されずに透過する。従って、ファウリングの防止対象となる懸濁物質Mの大きさは、細孔構造によって異なるが通常は細孔11aの直径以下から直径の2分の1程度以上である。例えば、細孔11aの平均孔径が0.1μmの場合には、ファウリングの防止対象となる懸濁物質Mの大きさは0.05〜0.1μm程度である。このとき、膜面近傍流速とは、膜面から懸濁物質Mの大きさと同程度の寸法、即ち、膜面から距離0.05〜0.1μmの範囲内での流速とすることができる。膜面流速Ufは、クロスフロー平均流速UCFを大きくするとほぼ比例的に大きくなる傾向をもつ。つまり、次式が成り立つ。
【数3】


ここで、クロスフロー平均流速UCFとは、膜モジュール10のクロスフロー総流量を、流れ方向に垂直なモジュール断面の断面積で割って計算される平均流速のことであり、膜面近傍の局所的な渦流等の影響は含んでいない。
【0021】
次の(4)式におけるUfreqは、(1)式と(2)式におけるUfの臨界値であり、ファウリング防止に必要な長手方向の膜面流速Ufの限界値を与えるものである。膜面全域において、長手方向の膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqを超えていれば、すなわち(5)式が成立していれば、細孔11a入口における吸い込み流速Upも上回ることになるので、この結果、懸濁物質Mの細孔11aへの侵入すなわちファウリングを防止することができる。
【数4】


【数5】


上記のような濾過膜11においては、クロスフロー流を長手方向に有効に活用して膜面でのファウリングを防止するようにしているので、膜モジュール10を長尺にしている。また、膜モジュール10を設置する際の空間利用効率を上げるために、中空糸膜では糸を細く、また、平膜では膜間の距離を狭くしている。この結果、膜を透過した後の透過水の流路は長くかつ狭くなってしまい、例えば、図8(a)に示すような外圧型の中空糸膜モジュール110を利用した従来型の濾過装置100の場合、被処理水側(図中、右側)を加圧するか、或いは集水部に吸引負圧を与えると、膜モジュール110の集水側(図中、左側)から遠ざかるほど、中空糸内部の圧力損失が大きくなって透過流速が減少する傾向がある。平膜の場合にも同様である。
【0022】
ここで、図3(a)に示すような膜濾過モデルを用いて集水側と反集水側の実質的なフラックスFを試算した結果について説明する。図3(a)に示すように、膜11を中空糸膜としてここでは説明する。中空糸膜11において閉塞されている側が反集水側であり、開放されている側が集水側に対応する。図3(a)は濾過運転を行っている状態である。図3(a)に示した膜11では、長手方向に中空糸膜をN個(Nは2以上の整数)の区間に区切り、i番目(iは1〜Nの何れかの整数)の区間における糸内の圧力をP(i)、糸内の流量をQ(i)、糸内の流速をU(i)として表している。また、i番目の区間における膜間差圧(=細孔11aの圧力損失)をPp(i)、i番目の区間における総流量をQp(i)、細孔11aの吸い込み流速をUp(i)、糸外の圧力をPh(i)、集水側端部における濾過圧力をPo、糸外径をDfout、糸内径をDfin、区間の糸長をδLとして表している。また、図3(a)では、計算モデルの説明のため、細孔は模式的に直線的な孔で示しているが、実際の膜の細孔はスポンジのような迷路構造になっており、図3(a)のような単純な直線的な孔ではない。そのため、細孔長さをLporeとしたとき、細孔長さLporeは、必ずしも糸の外径と内径との差には一致しない。
【0023】
糸内の圧力バランスは、次の式(6)で表される。
【数6】


なお、i=1の場合は、集水側端部の位置での糸外部の圧力をPh(0)として、
Po−k1・U(1)+(Ph(1)−Ph(0))=P(1)
を採用する。
【0024】
また、糸内の流量バランスは次の(7)式で表される。
【数7】


なお、i=Nの場合、
Q(N)−Qp(N)=0
とする。
【0025】
更に、糸内の流速と流量の関係は、次の式(8)で表される。
【数8】


そして、糸内外の圧力と膜間差圧の関係は、次の(9)式で表される。
【数9】


膜間差圧(細孔の圧力損失)は、次の(10)式で表される。
【数10】


また、細孔内の流速と流量の関係は、次の(11)式で表される。
【数11】


poreは、1m当たりの細孔数である。この値は、直接的に測定することができないので、測定可能な表面開孔率ηと細孔径Dpを使って、下式により推定する。
【数12】

【0026】
また、i番目の区間における実質的なフラックスF(i)は、Up(i)に比例し、下記式で表される。
【数13】

【0027】
例えば、図3(a)に示す計算モデルにおいて、
中空糸膜の膜長Lf:2m
糸外径Dfout:1.2φmm
糸内径Dfin:0.7φmm
細孔径Dp:0.1μm
細孔長さLpore:0.3mm
表面開孔率η:35%
1m当たりの細孔数npore:1.7×1011個/m
区間分割数N:100個
とする。そして、粘度μが0.01Pa・secの被処理水を平均フラックスFAVが0.5m/m/dで運転したという条件の下で、式(6)〜(11)の連立方程式を解いてUp(i)を求め、(13)式により、実質的なフラックスFを試算してみると、集水側端部は最大で0.88m/m/d、反集水側端部は最小で0.33m/m/dとなることが判った。上記条件で、実質的なフラックスFの長手方向の詳細な分布(試算結果)を図3(b)に示す。
【0028】
長手方向の膜面全域においてファウリングを防止するためには、全域において前記(5)式が成立するような膜面流速Ufを生成させなければならない。
【0029】
ところで、(13)式は、i番目の区間での実質的なフラックス分布F(i)とUp(i)との関係を示しているが、一般化すればF=K・Upと表すことができる。そして、臨界条件の(4)式を考慮すると、以下の式が成り立つ。
【数14】


このことは、限界膜面流速Ufreqの長手方向の分布が、実質的なフラックスFの分布(図3(b))と同じ傾向になることを示している。実質的なフラックスFが最も大きくなる集水側端部(の膜表面)では、細孔入口における吸い込み流速Upも最も大きくなるので、限界膜面流速Ufreqも長手方向で最大となる。また、Ufreqは、反集水側へ向かって集水側から遠ざかるに連れて、図3(b)に示す実質的なフラックスFと同じ傾向で小さくなっていく。実質的なフラックスFの分布と限界膜面流速Ufreqの関係を図4(a),(b)に示す。
【0030】
図4(a)は、実質的なフラックスFの長手方向の分布を示しており、前記(14)式の関係から、ファウリング防止に必要な限界膜面流速Ufreqの分布も実質的なフラックスFと同じ傾向になるので、図4(b)に示すように、Ufreqが最大となる場所は集水側端部(流出口近傍)となり、逆に、Ufreqが最小となる場所は反集水側端部(流入口近傍)となる。長手方向の膜面流速Ufが膜面全域において過剰にならないようにするには、図4(b)のUfreqの曲線と同じ分布のUfを与えればよい。すなわち、集水側端部から反集水側端部までの膜全域において、図4(b)のUfreq曲線より大きなUf(長手方向の膜面流速)を与えることにより、最小のエネルギーでファウリングを防止することできる。或いは、(3)式の関係に示すように、クロスフロー平均流速UCFはUfと比例関係であることから、クロスフロー平均流速UCFの長手方向の分布を、(膜の長手方向の)実質的なフラックス分布Fに比例或いは近似させるように決定すれば、このときのUfには無駄が無く、最小のエネルギーでファウリングを防止することができる。
【0031】
図8(a)は、前述したように、外圧型中空糸膜モジュールを有する従来のケース型濾過装置100の一例の模式図である。濾過装置100は、中空糸膜モジュール110がケース120に収容されて構成されており、被処理水は反集水側の被処理水流入口123から流入し、濾過処理された濾過処理水はケース120が有する流出口122から流出し、被処理水は、流出口121から流出するようになっている。中空糸膜モジュール110を構成する中空糸膜111を透過する流量qを微小と考えて無視すれば、膜モジュール110内におけるクロスフロー平均流速UCF及び膜面流速Ufは長手方向で一定となる。図8(a)の従来例について、長手方向の膜面流速Ufとファウリング防止に必要なUfreqとの関係を図9に示す。長手方向の膜面流速Ufは膜面全域で一定値となり、この値は膜面全域での最大値、すなわち集水側端(流出口近傍)で必要なUfであるUfOUT−reqにする必要があるので、膜面全域において、図9のハッチングで示すように、Ufが大幅に過剰になってしまいエネルギーの無駄が大きい。
【0032】
より具体的に説明する。図8(a)において、被処理水は反集水側の流入口123から流量Qで流入し、集水側の流出口121から流量Q’で流出する。中空糸膜111を透過した流量qの分だけ、流出流量Q’は減少するので、厳密には、
【数15】


であるが、一般的に、qはQに対して微少なので、ここでは、
【数16】


と考える。ここで注目すべきは、図8(a)のような膜モジュール110を利用した従来の濾過装置100では、膜面に沿って長手方向のクロスフロー平均流速UCFが、反集水側(又は流入口123)近傍から集水側(又は流出口121)近傍まで一定になっているか、若しくは、中空糸膜111を透過した流量qの分だけ遅くなっている点である。前述の通り、限界膜面流速Ufreqの分布は、膜面に沿って長手方向の分布が実質的なフラックスFの分布(図4(a),図4(b)参照)と同じなので、吸い込み流速Upが最も大きい集水側端部において最大値が必要とされ、集水側から遠ざかるに連れて、図4(b)のように、実質的なフラックスFと同じ傾向で小さくなる。従って、図8(a)のような従来方式のように、クロスフロー平均流速UCFを長手方向に一定にする場合には、膜面流速Ufは、集水側端部のUfreqを基準に決まってしまうので、集水側端部以外の(反集水側や長手方向の中間)部分ではUfが過剰になってしまうことになる。この様子が図9に示されており、集水側端部から反集水側端部まで、Ufの過剰分が徐々に増加していることが判る。
【0033】
例えば、図3(b)の例で、数値を使ってUfの過剰分を試算してみる。図3(b)では、集水側端部の実質的なフラックスFが反集水側端部のFに対して約2.7倍(0.88÷0.33)も大きいので、図4(a)と(b)の関係から、集水側端部での限界膜面流速Ufreqも反集水側端部で必要なUfreqの約2.7倍も大きくなってしまう。つまり、図8(a)のような従来方式では、長手方向全域にわたって集水側端部で必要なUfreqを一定に与えるので、この結果、反集水側では1.7倍も過剰なUfを与えてしまうことになる。なお、この比率は、中空糸の外径,内径,膜長,開孔率などに依存しており、常に一定値になるものではない。
【0034】
これに対して、図1(a)に示した濾過装置1の一実施例である濾過装置1では、ケース20が有しており膜モジュール10の一端部10a側に位置する被処理水の第1流入口23とは別に、第1流入口23と膜モジュール10の他端部10b側との間に第2流入口(増速させる手段)24を更に設け、一端部10aと他端部10bとの間で膜面流速Ufを限界膜面流速Ufreqより大きくすると共に、長手方向における膜面流速Ufの分布を限界膜面流速Ufreqの分布に近似させるようにしている。
【0035】
すなわち、第1流入口23からは、濾過装置1の長手方向において第2流出口24が位置する中間部Aにおいてファウリング防止に必要なUfA-reqを生成するだけの流量を流入させる。さらに、第2流入口24からは、第1流入口23から流入した被処理水との総和によって、集水側端部10b(又は流出口21近傍)で必要なUfOUT-reqを生成するだけの流量を追加流入させる。この結果生成される長手方向の膜面流速Ufとファウリング防止に必要なUfreqとの関係を図5(a)に示す。
【0036】
図5(a)に示すように、図1(a)に示す実施例では、反集水側端部(一端部)10aと集水側端部(他端部)10bとの間で膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqより大きく、且つ膜面流速Ufの分布が限界膜面流速Ufreqの分布に近似される。換言すれば、膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqの分布に応じて集水側端部10bに近づくにつれて段階的に増速されている。そして、図5(a)と図9とを比較すると、膜面流速Ufの分布と限界膜面流速Ufreqの分布との差(ハッチングで示す部分)が図9に示した場合よりも小さくなっており、中間部Aから反集水側端部10aの区間においてファウリングの防止を図りながらUfの過剰分を節約できることが判る。前述したように、膜面流速Ufは、クロスフロー流速UCFに比例するため、膜面流速Ufを上記のように増速させるには第2流入口24から流入させる被処理水の量を調整することで実現できる。例えば、限界膜面流速Ufreqと実質的なフラックスFとは(14)式の関係を有するので、長手方向における実質的なフラックス分布に応じてクロスフロー流速UCFを増加させればよい。
【0037】
次に、図1(b)の濾過装置1の一実施例である濾過装置1では、ケース20が有しており膜モジュール10の一端部10a側に位置する被処理水の第1流入口23とは別に、第1流入口23と膜モジュール10の他端部10b側との間に更に第2流入口24及び第3流入口25を更に設け、図1(a)の実施例よりも、長手方向における膜面流速Ufの分布を限界膜面流速Ufreqの分布に近似させるようにしている。
【0038】
すなわち、第1流入口23からは、濾過装置1の長手方向において第2流入口24が位置する中間部Bにおいてファウリング防止に必要なUfB-reqを生成するだけの流量を流入させる。さらに、第2流入口24からは、第1流入口23から流入した被処理水との総和によって、濾過装置1の長手方向において第3流入口25が位置する中間部Cにおいてファウリング防止に必要なUfC-reqを生成するだけの流量を追加流入させる。さらに、第3流入口25(中間部C)からは、第1流入口23と第2流入口24(中間部B)から流入した被処理水との総和によって、集水側端部10b(又は流出口21近傍)で必要なUfOUT-reqを生成するだけの流量を追加流入させる。この結果生成される長手方向の膜面流速Ufとファウリング防止に必要なUfreqとの関係を図5(b)に示す。
【0039】
図5(b)に示すように、図1(b)に示す実施例でも、反集水側端部(一端部)10aと集水側端部(他端部)10bとの間で膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqより大きく、且つ膜面流速Ufの分布が限界膜面流速Ufreqの分布に近似される。換言すれば、膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqの分布に応じて集水側端部10bに近づくにつれて段階的に増速されている。そして、図5(b)と図9を比較すると、膜面流速Ufの分布と限界膜面流速Ufreqの分布との差(ハッチングで示す部分)が図9に示した場合よりも小さくなっており、中間部Cから反集水側端部10aの区間においてファウリングの防止を図りながらUfの過剰分を節約できていることが判る。前述したように、膜面流速Ufは、クロスフロー流速UCFに比例するため、膜面流速Ufを上記のように増速させるには第2流入口24及び第3流入口25から流入させる被処理水の量を調整することで実現できる。例えば、限界膜面流速Ufreqと実質的なフラックスFとは(14)式の関係を有するので、長手方向における実質的なフラックス分布に応じてクロスフロー流速UCFを増加させればよい。
【0040】
次に、図1(c)に示す濾過装置1の一実施例である濾過装置1では、膜モジュール10の一端部10a側に被処理水を流入させるための第1流入口23が設けられており、膜モジュール10の他端部10b側に濾過処理水を流出させるための濾過処理水流出口22、被処理水を流出させるための被処理水流出口21が形成されたケース20を使用している。濾過装置1では、膜モジュール10の中間部から被処理水の追加流入を行わず、流入口23(又は反集水側端部10a)から流出口21(又は集水側端部10b)までの区間で断面積(膜モジュール10の内径)を連続的に変化させることにより、クロスフロー平均流速UCFを増速させ、この結果、反集水側端部(一端部)10aと集水側端部(他端部)10bとの間で膜面流速Ufを限界膜面流速Ufreqより大きくすると共に、長手方向の膜面流速Ufの分布をファウリング防止に必要なUfreqの分布に近付ける方法である。図1(c)に示すように、上記断面積の変化は、ケース20の内径を変化させることで実現することができる。よって、ケース20が膜面流速Ufを増速させる手段として機能していることになる。
【0041】
集水側端部10bで必要なUfOUT-reqから集水側端部10b側の断面積SOUT(図1(c)中のIIout―IIout線の位置での断面積)を決定し、また、反集水側端部10aで必要なUfIN-reqから反集水側端部10a側の断面積SIN(図1(c)中のIIN―IIN線の位置での断面積)を決定する。図1(c)の実施例では、長手方向の中間部分はこれら2箇所を直線的に補間している場合を一例として示している。これにより、長手方向の膜面流速Ufは二次関数的に変化する。この結果生成される長手方向の膜面流速Ufとファウリング防止に必要なUfreqとの関係を図5(c)に示す。
【0042】
図5(c)に示すように、図1(c)に示す実施例でも、反集水側端部(一端部)10aと集水側端部(他端部)10bとの間で膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqより大きく、且つ膜面流速Ufの分布が限界膜面流速Ufreqの分布に近似される。換言すれば、膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqの分布に応じて集水側端部10bに近づくにつれて連続的に増速されている。そして、図5(c)と図9とを比較すると、膜面流速Ufの分布と限界膜面流速Ufreqの分布との差(ハッチングで示す部分)が図9に示した場合よりも小さくなっており、膜面全域においてファウリングの防止を図りながらUfの過剰分を節約できていることが判る。本実施例では、反集水側から集水側までの断面積を連続的に変化させたが、階段上に(不連続に)変化させても良い。
【0043】
以上説明したように、濾過装置1,1,1として例示した濾過装置1では、膜面へのファウリングを、膜モジュール10の長手方向全域において最小のエネルギーで効率的に防止することができる。ファウリングを効率的に低減・防止する観点から、膜面流速Ufは、反集水側近傍に対して集水側近傍が1.5倍以上であることが好ましい。また、濾過装置1では長手方向には、膜モジュール10は、一単位分だけ設ければよいため、濾過装置1の構造は簡易であり設備費を高くすることもない。
【0044】
図1に示した実施例は、ケース型の濾過装置についての説明であるが、次に、膜分離活性汚泥装置等に使われている浸漬型の濾過装置の実施例について説明する。なお、図1に示した実施例の場合と対応する要素には、同じ符号を付して説明する。
【0045】
図6は、浸漬型の濾過装置の一例を示す模式図である。濾過装置2は、被処理水を貯める水槽30を有し、水槽30中には複数本の膜モジュール10,10が、膜モジュール10の一端部10a側が水槽30の底壁31側に位置するように並列に配置されている。なお、図6では、一例として2本の膜モジュール10,10を示している。各膜モジュール10の他端部10b側には、膜濾過処理水を流出させるためのヘッド40が取り付けられて、膜カートリッッジが構成されている。この構成では、膜モジュール10の長手方向には、一単位の膜モジュール10が設けられ、長手方向と直交する方向には、複数本の膜モジュール10が設けられている。また、複数本の膜モジュール10に対して、図6に示すようにバッフル板50が設けられると共に、膜モジュール10の一端部10a側に第1散気装置61が配置されている。第1散気装置61から噴出する曝気流が形成する旋回流により、クロスフロー方式での膜濾過処理が可能となっている。また、バッフル板50の中間部には、被処理水の中間流入口51が形成されており、中間流入口51には、第2散気装置62が配置されている。
【0046】
ここで、図9(b)を参照して、従来の浸漬型濾過装置130について説明する。図9(b)は、中空糸膜モジュール110を用いた従来の浸漬型濾過装置130の一例である。濾過装置130の構成は、バッフル板に中間流入口が形成されておらず、第2散気装置を備えていない点で、濾過装置2と相違する。
【0047】
濾過装置130は、集水側(ヘッド40側)から吸引することにより濾過を行うが、膜を透過後の濾過水の挙動は前記図8(a)のケース型の濾過装置100の実施例と全く同じで、膜モジュール110の集水側から遠ざかるほど、中空糸内部の圧力損失が大きくなって透過流速が減少する傾向がある。すなわち、実質的なフラックスFの分布は図3(b)或いは図4(a)のようになり、ファウリング防止に必要な膜面流速Ufの分布も図4(b)のようになる。
【0048】
また、膜モジュール下部の第1散気装置61から噴出する曝気流が形成する旋回流により、被処理水は反集水側の下部から流入して膜面に沿って上方へ流れ、これにより膜面流速を生成している。数本の膜モジュール110群に対して、旋回流が効率的に形成されるように側面にバッフル板140を設けているので、膜モジュール110の長手方向の中間部分からは被処理水の流入は無い。つまり、モジュール下部(反集水側)からモジュール群へ供給される被処理水量の総量をQとしたとき、モジュール上部(集水側)から旋回流としてバッフル板140の外側へ下向きに返流される被処理水量の総量もQとなり、図8(b)の従来例では、クロスフロー平均流速UCFが、膜モジュール下部(反集水側)と上部(集水側)で等しくなる。従って、長手方向の膜面流速Ufとファウリング防止に必要なUfreqとの関係は、図8(a)のケース型の従来例と同じになり、図9のようになる。ケース型の従来例と同様に、長手方向の膜面流速Ufは膜モジュール下部から上部にかけて膜面全域で一定値となり、この値は膜面全域における最大値、すなわち上部の集水側端で必要なUfであるUfOUT−reqにする必要があるので、膜面全域においてUfが大幅に過剰になってしまいエネルギーの無駄が大きい。
【0049】
これに対して、図6の実施例では、膜モジュール下部の第1散気装置61に加えて、長手方向の中間部に第2散気装置62と、中間部より上部の旋回流を増幅するための被処理水流入口としての中間流入口51をバッフル板50の途中に設けている。膜モジュール下部からは、長手方向において中間流入口51が位置する中間部Dにおいてファウリング防止に必要なUfD-reqを生成するだけの被処理水の総量Qを流入させる。さらに、中間流入口51からは、下部から流入した被処理水との総和によって、集水側端部10b(膜モジュール上部)で必要なUfOUT-reqを生成するだけの流量を追加流入させる。この結果生成される長手方向の膜面流速Ufとファウリング防止に必要なUfreqとの関係を図7に示す。
【0050】
図7に示すように、図6に示す実施例でも、反集水側端部(一端部)10aと集水側端部(他端部)10bとの間で膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqより大きく、且つ膜面流速Ufの分布が限界膜面流速Ufreqの分布に近似される。換言すれば、膜面流速Ufが限界膜面流速Ufreqの分布に応じて集水側端部10bに近づくにつれて段階的に増速されている。そして、図7と図9とを比較すると、膜面流速Ufの分布と限界膜面流速Ufreqの分布との差(ハッチングで示す部分)が図9に示した場合よりも小さくなり、中間部Dから反集水側端部10a(膜モジュール下部)の区間においてファウリングの防止を図りながらUfの過剰分を節約できていることが判る。
【0051】
前述したように、膜面流速Ufは、クロスフロー流速UCFに比例するため、膜面流速Ufを上記のように増速させることは第2散気装置62で生成する曝気流を調整することで実現できる。例えば、限界膜面流速Ufreqと実質的なフラックスFとは(14)式の関係を有するので、長手方向における実質的なフラックス分布に応じて第2散気装置62で生成する曝気流を調整しクロスフロー流速UCFを増加させればよい。なお、ファウリングを効率的に低減・防止する観点から、膜面流速Ufは、反集水側近傍に対して集水側近傍が1.5倍以上であることが好ましい。また、濾過装置2では長手方向には、膜モジュール10は、一単位分だけ設ければよいため、濾過装置2の構造は簡易であり設備費を高くすることもない。
【0052】
なお、図2(b)に示す従来例においては、実物の装置では、気泡の上昇速度は水面に近づくに連れて徐々に速くなっているので、クロスフロー平均流速がモジュール下部(反集水側)から上部(集水側)に向かって増速しているように錯覚するが、マスバランスの原理により、被処理水の上向きの総流量Qが増えることはないので、膜モジュール下部と上部におけるクロスフロー平均流速の差は無い。また、曝気による気泡が膜面に摩擦する際の剪断効果や気泡上昇に伴う体積膨張効果などによるファウリング防止効果も作用しているが、これらの効果は小さいので、本発明においては除外して考える。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、図1(a)及び図1(b)では、膜モジュール10の他端部側と第1流入口との間には、1つ又は2つの流入口を更に設けていたが、追加する流入口は、3つ以上であってもよい。図6に示した浸漬型の濾過装置2においても、第2散気装置62とは別に更に散気装置を配置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明による膜濾過方法の実施例を示す説明図である。
【図2】ファウリング発生原理の説明図である
【図3】中空糸の実質的なフラックスを計算するための膜濾過モデルと、実質的なフラックスの長手方向分布を計算した試算結果を示す図面である。
【図4】実質的なフラックス及び限界膜面流速を示すグラフを示す図面である。
【図5】図1に示した各膜濾過方法による膜面流速の長手方向分布を示すグラフを示す図面である。
【図6】本発明による膜濾過方法の他の実施例を示す説明図である。
【図7】図6に示した膜濾過方法による膜面流速の長手方向分布を示すグラフを示す図面である。
【図8】従来の膜濾過方法の例を示す説明図である。
【図9】図8に示した従来の膜濾過方法による膜面流速の長手方向分布を示すグラフを示す図面である。
【符号の説明】
【0055】
1,1,1,1…濾過装置、11a…膜が有する細孔、2…濾過装置、10…膜モジュール、10a…一端部(反集水側端部)、10b…他端部(集水側端部)、11…膜、20,20,20…ケース、20…ケース(増速させる手段)、23…流入口、24…流入口(増速させる手段)、25…流入口(増速させる手段)、30…水槽、31…底壁、61…散気装置、62…散気装置(増速させる手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外圧型の膜モジュールが長手方向には一単位分設けられている濾過装置であって、前記膜モジュールの膜面に沿って、被処理水を前記膜モジュールの一端部側から他端部側に流動させるクロスフロー方式で濾過処理を行い前記他端部側で濾過処理水を集水する前記濾過装置での膜濾過方法であって、
前記一端部と前記他端部との間において、前記膜モジュールの膜面に沿って流れる前記被処理水の膜面流速が、前記膜モジュールを構成する膜の細孔への吸い込み流速に等しい限界膜面流速より大きく、且つ前記長手方向における前記膜面流速の分布が前記長手方向における前記限界膜面流速の分布に比例或いは近似するように、前記一端部側から前記他端部側に近づくに従って前記膜面流速を増速する、ことを特徴とする膜濾過方法。
【請求項2】
前記膜モジュールの長手方向において複数の領域から前記被処理水を供給して前記被処理水のクロスフロー平均流速を増速させることによって前記膜面流速を増速させることを特徴とする請求項1に記載の膜濾過方法。
【請求項3】
被処理水が貯留された水槽を有しており、前記膜モジュールの一端部が前記水槽の底壁側に位置すると共に、前記膜モジュールの長手方向が前記底壁に略直交する方向となるように前記膜モジュールが前記水槽内に配置されており、前記底壁側から曝気流を生じせしめることによって前記被処理水を前記膜モジュールの一端部側から他端部側に流動させて濾過処理を行う前記濾過装置での膜濾過方法であって、
前記膜モジュールの前記一端部と前記他端部との間において前記曝気流とは別の曝気流を生じさせることによって前記膜面流速を増速させる、ことを特徴とする請求項1に記載の膜濾過方法。
【請求項4】
外圧型の膜モジュールが長手方向には一単位分設けられており、前記膜モジュールの膜面に沿って、被処理水を前記膜モジュールの一端部側から他端部側に流動させるクロスフロー方式で濾過処理を行い前記他端部側で濾過処理水を集水する濾過装置であって、
前記膜モジュールの膜面に沿って流れる前記被処理水の膜面流速を前記一端部側から前記他端部側に近づくに従って増速させる手段を備え、
前記増速する手段は、前記一端部と前記他端部との間において、前記膜面流速が、前記膜モジュールを構成する膜の細孔への吸い込み流速に等しい限界膜面流速より大きく、且つ前記長手方向における前記膜面流速の分布が前記長手方向における前記限界膜面流速の分布に比例或いは近似するように、前記一端部側から前記他端部側に近づくに従って前記膜面流速を増速させる、ことを特徴とする濾過装置。
【請求項5】
前記膜モジュールを収容するケースを有しており、
前記ケースには、前記膜モジュールの前記一端部と前記他端部の間に、前記被処理水の流入口が複数形成されており、
前記増速させる手段は、前記複数の流入口のうち前記一端部に最も近い流入口以外の流入口である、ことを特徴とする請求項4に記載の濾過装置。
【請求項6】
前記膜モジュールが内部に配置されると共に、前記被処理水を貯留する水槽と、
前記膜モジュールに対して設けられており、前記水槽内に配置され前記水槽に貯められた前記被処理水に曝気流を生じせしめる複数の散気装置と、
を更に備え、
前記膜モジュールは、前記一端部が前記水槽の底壁側に位置すると共に、前記他端部が、前記被処理水の水面側に位置するように前記水槽内に配置されており、
前記複数の散気装置は、前記膜モジュールに対して前記膜モジュールの前記長手方向に配置されており、
前記増速させる手段は、前記複数の散気装置のうち前記底壁に最も近い散気装置以外の散気装置である、ことを特徴とする請求項4に記載の濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−291744(P2009−291744A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149628(P2008−149628)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】