説明

膜電位変化検出方法、薬物スクリーニング方法及びウェルプレート

【課題】 膜電位感受性蛍光色素を利用した、より高感度で簡便な膜電位変化検出方法を提供すること。
【解決手段】 細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による前記細胞の細胞膜の染色とを、同時に又はいずれか一方を先に実施して色素導入細胞を得るステップと、
前記色素導入細胞に励起光を照射して、前記膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を経時的に測定するステップと、を備える膜電位変化検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電位変化検出方法、薬物スクリーニング方法、及び膜電位変化検出又は薬物スクリーニングのためのウェルプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、膜電位(細胞膜の内側・外側間の電位差)の変化を検出する手法として膜電位感受性蛍光色素の利用が注目され、実際に、抗生物質の効力の検定やイオンチャネル開口薬の探索に利用されるようになっている(非特許文献1)。
【非特許文献1】DOJIN News No.103(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
膜電位感受性蛍光色素は、膜電位の変化に応じて細胞膜外側表面及び細胞内への分布の割合が変化する蛍光物質であり、膜電位が上昇する(脱分極に向かう)と細胞内への分布が増加し、逆に膜電位が下降する(過分極に向かう)と細胞膜外側表面への分布が増加するという性質を有する。
【0004】
このような膜電位感受性蛍光色素を利用すれば、この色素から生じる蛍光強度を経時的に測定することによって、膜電位の変化を検出することができる。細胞質中で細胞内タンパク質や細胞内膜に結合することにより蛍光が増強する膜電位感受性蛍光色素(DiBAC4(3)など)を用いる場合には、通常の蛍光顕微鏡で細胞全体の蛍光色素に由来する蛍光強度を経時的に測定すればよいが、その他の膜電位感受性蛍光色素を用いる場合には、細胞膜の内側又は外側の蛍光色素に由来する蛍光をコンフォーカル顕微鏡により検出し、その強度を測定する必要がある。
【0005】
いずれの場合にも、測定される蛍光強度の変化量は大きくないため、例えば、イオンチャネル又はイオン輸送体に作用する薬物のハイスループットスクリーニングにおいて利用するには、必ずしも膜電位変化の検出感度が十分ではないという問題がある。この問題は、特に活性化又は不活性化の速度が速い電位依存性イオンチャネル作用薬を探索する場合に顕著である(DOJIN News No.103(2002))。さらに、膜の内側又は外側の蛍光強度を測定する必要がある場合には、操作が煩雑であるという問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、膜電位感受性蛍光色素を利用した、より高感度で簡便な膜電位変化検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による前記細胞の細胞膜の染色とを、同時に又はいずれか一方を先に実施して色素導入細胞を得るステップ(以下場合により「導入ステップ」という。)と、前記色素導入細胞に励起光を照射して、前記膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を経時的に測定するステップ(以下場合により「測定ステップ」という。)と、を備える膜電位変化検出方法を提供する。
【0008】
蛍光消光色素が細胞内に導入された場合には、細胞内の蛍光色素に由来する蛍光が消光されるので、細胞への励起光の照射により得られる全蛍光の強度は、細胞膜上(外側表面)の蛍光色素に由来する蛍光の強度にほぼ等しくなる。また、蛍光消光色素が細胞外媒体に導入された場合には、細胞外の蛍光色素に由来する蛍光が消光されるので、細胞への励起光の照射により得られる全蛍光の強度は、細胞内の蛍光色素に由来する蛍光の強度にほぼ等しくなる。従って、上記膜電位変化検出方法によれば、膜の内側又は外側の蛍光強度を測定するに当たり、細胞膜上及び細胞内の蛍光色素に由来する全蛍光の強度を測定すれば足り、また、測定される蛍光強度の変化量は膜電位変化をより正確に反映したものとなる。すなわち、膜電位感受性蛍光色素を利用した、より高感度で簡便な膜電位変化検出方法が得られる。
【0009】
本発明の膜電位変化検出方法は、イオンチャネル及び/又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニング方法として利用することができる。すなわち、本発明は、細胞のイオンチャネル及び/又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニング方法であって、前記イオンチャネル及び/又はイオン輸送体を前記細胞に発現させるステップ(以下場合により「発現ステップ」という。)と、前記細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による前記細胞の細胞膜の染色とを、同時に又はいずれか一方を先に実施して色素導入細胞を得るステップ(以下場合により「導入ステップ」という。)と、候補薬物を前記色素導入細胞に接触させるステップ(以下場合により「接触ステップ」という。)と、前記色素導入細胞に励起光を照射して、前記膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を経時的に測定することにより、前記候補薬物との接触による前記色素導入細胞の膜電位変化を検出するステップ(以下場合により「検出ステップ」という。)と、を備えるスクリーニング方法を提供する。
【0010】
このスクリーニング方法により、膜電位感受性蛍光色素を利用した、より高感度で高効率の、イオンチャネル又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニング方法が得られる。
【0011】
ここで、イオンチャネルは、電位依存性であるか、リガンド依存性であるかを問わない。イオン輸送体とは、電位発生的なイオン輸送を行う細胞膜の輸送体であり、例として、Na,K−ATPアーゼ、Ca−ATPアーゼが挙げられる。
【0012】
上記膜電位変化検出方法及びスクリーニング方法においては、膜電位変化の検出は、測定開始時の蛍光強度を基準とした蛍光強度の最大変化量、並びに、測定時間−蛍光強度曲線の測定開始時から測定終了時までの積分値を求めて行うのが好ましい。こうすることにより、膜電位変化のより定量的な検出が可能となる。
【0013】
本発明はまた以下のウェルプレートを提供する。(1)細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色とが行われた細胞を、ウェルプレートのウェル内に備える膜電位変化検出用ウェルプレート、(2)細胞のイオンチャネル及び/又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニングのためのウェルプレートであって、前記イオンチャネル及び/又はイオン輸送体が発現し、細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色とが行われた細胞を、ウェルプレートのウェル内に備えるウェルプレート。これらのウェルプレートはそれぞれ、膜電位変化検出用、イオンチャネル及び/又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニング用、に用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、膜電位感受性蛍光色素を利用した、より高感度で簡便な膜電位変化検出方法が得られる。また、膜電位感受性蛍光色素を利用した、より高感度で高効率の、イオンチャネル又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニング方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0016】
(膜電位変化検出方法)
本発明の膜電位変化検出方法は、上述の導入ステップ及び測定ステップを備えるものである。この方法における導入ステップでは、細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入を行うが、ここで用いられる蛍光消光色素としては、使用する膜電位感受性蛍光色素の蛍光波長により、例えば、青色色素(エバンスブルー(Sigma, E2129)、ダイレクトブルー(Sigma, D2535)、アシッドブルー(Sigma, A4770)等)、赤色色素(アマランス(Sigma, A1016)、コンゴーレッド(Sigma, C6767)等)、ポリフェノール(フラボノイド系、クマリン系等)が挙げられる。
【0017】
細胞内への蛍光消光色素の導入は、例えば、細胞内の浸透圧を変化させて水分とともにピノサイトーシスにより取り込ませる方法、電気穿孔により細胞膜に孔を開けて取り込ませる方法、マイクロインジェクション法、色素を修飾して細胞内への移行性を高めた後、細胞とともにインキュベートする方法(色素にカルボン酸を導入して、そのカルボキシル基にアセトキシメチル基を結合させてエステル化する方法や、フェノール性水酸基をエステル化する方法)により可能である。色素がタンパク質の場合には、その遺伝子を導入して細胞内で発現させてもよい。
【0018】
細胞外媒体とは、細胞周囲で当該細胞に接する媒体(培養液、緩衝液など)のことをいう。細胞外媒体への消光色素の導入は、細胞が存在している媒体に蛍光消光色素を溶解したり、蛍光消光色素が溶解した媒体中に細胞を置いたりすることによって行うことができる。ここで用いられる蛍光消光色素は特に制限されないが、細胞膜透過性の低い色素が好ましく、細胞膜透過性のない色素がさらに好ましい。
【0019】
導入ステップにおいては、細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と共に、膜電位感受性蛍光色素により細胞の細胞膜の染色を行う。膜電位感受性蛍光色素は、比較的遅い膜電位変化を検出するslow response probeと、比較的早い膜電位変化を検出するfast response probeとに分類され、このいずれを用いてもよいが、本発明の膜電位変化検出方法を薬物のハイスループットスクリーニングにおいて利用する場合には、より膜電位感受性の高いslow response probeを用いるのが好ましい。slow response probeとしては、例えば、Oxonol系色素(OxonolV、OxonolVI、DiSBAC2(3)、DiSBAC4(3)、DiBAC4(3)等)、Carbocyanine系色素(DiSC3(5)等)、Merocyanine系色素が挙げられ、fast response probeとしては、例えば、Styryl系色素(di-8-ANEPPS、di-4-ANEPPS等)が挙げられる。また、ここで用いられる膜電位感受性蛍光色素は、細胞質中で細胞内タンパク質や細胞内膜に結合することにより蛍光が増強する膜電位感受性蛍光色素(DiBAC4(3)など)、及びこれ以外の膜電位感受性蛍光色素のいずれでもよい。
【0020】
細胞膜は、膜電位感受性蛍光色素を適当な溶媒に溶解して調製した染色液を、例えば、37℃の温度で細胞とともにインキュベートすることにより染色できる。このような染色により、膜電位感受性蛍光色素を、膜電位に応じて細胞膜外側表面及び細胞内に分布させることができる。染色液は、例えば、膜電位感受性蛍光色素をジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒に溶解させ、さらにこれをHepes Buffer等の緩衝液で希釈することによって調製することができる。
【0021】
細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による細胞の細胞膜の染色とは、同時に行ってもよく、いずれか一方を先に行ってもよいが、採用した手法に従って順番を決定することが好ましい。例えば、蛍光消光色素を浸透圧を変化させて水分とともにピノサイトーシスにより取り込ませる場合や、蛍光消光色素を電気穿孔により導入するような場合は、蛍光消光色素の導入を先に行うことが好ましい。色素を修飾して細胞内への移行性を高めた後、細胞とともにインキュベートする方法の場合は、細胞内への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による細胞の細胞膜の染色とを、同時に行うことができる。細胞膜の染色後は、細胞を緩衝液で洗浄するのが好ましい。
【0022】
測定ステップでは、導入ステップで得られた色素導入細胞に励起光を照射して、膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を経時的に測定する。蛍光強度は、例えば、励起光源(キセノンランプ、アルゴンレーザー等)と、励起光波長及び蛍光波長を選択する手段(フィルター)と、蛍光顕微鏡と、光検出器(CCDカメラ、光電子増倍管等)と、顕微鏡画像処理手段とを備える装置を用いて、一定のサンプリングインターバルで蛍光画像を取得することにより経時的に測定することができる。ウェルプレートのウェル内にある細胞の蛍光強度を測定する場合は、蛍光プレートリーダーを用いてもよい。蛍光消光色素が細胞外媒体に導入された場合には、蛍光強度の測定は、細胞を収容する容器の下方に光検出器を置いて行うことが好ましい。
【0023】
膜電位変化の検出は、蛍光強度の経時的測定の結果(蛍光強度の時間変化を示すグラフ)から行うこともできるが、測定開始時の蛍光強度を基準とした蛍光強度の最大変化量(以下場合により「蛍光強度の最大変化量」又は「最大変化量」という。)、並びに、測定時間−蛍光強度曲線の測定開始時から測定終了時までの積分値(以下場合により「積分値」という。)を求めてより定量的に行うのが好ましい。ここで、蛍光強度の最大変化量とは、絶対値が最大となる蛍光強度の変化量(負の場合もある)である。蛍光強度が図1のように変化した(測定時間はtとする)とすると、図1において矢印で示した幅は最大変化量の大きさを、斜線部の面積は積分値の大きさを示す。蛍光強度が図1のように減少している場合は、最大変化量も積分値も負の値となる。
【0024】
本発明の膜電位変化検出方法では、蛍光消光色素それ自体が蛍光性を有することにより生じるアーティファクトを検出するために、膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色を行っていない細胞(蛍光消光色素は導入されている)についても蛍光強度を経時的に測定しておくことが好ましい。
【0025】
蛍光強度の変化がアーティファクトでないと判断されれば、膜電位変化があったと判定することができる。例えば、蛍光消光色素が細胞内に導入された場合において、最大変化量及び積分値が負であれば、細胞膜上(外側表面)の膜電位感受性蛍光色素が減少したと判断でき、これにより膜電位の上昇を検出できる。また、蛍光消光色素が細胞外媒体に導入された場合において、最大変化量及び積分値が負であれば、細胞膜上(外側表面)の膜電位感受性蛍光色素が増加したと判断でき、これにより膜電位の下降を検出できる。
【0026】
膜電位変化の検出においては、変化の程度だけでなく、膜電位が上昇後直ちに元に戻ったか、上昇したままであったかといった変化の態様も判定することができる。例えば、蛍光強度の最大変化量により膜電位変化の程度を判定することができるが、最大変化量が同じで膜電位変化が同程度であっても、同一時間内の積分値が異なれば、膜電位変化の態様が異なっていたことが分かる。
【0027】
本発明の膜電位変化検出方法では、導入ステップ及び測定ステップの前に、細胞を培養するステップを設けることが好ましい。細胞を培養して増殖させれば、それだけ測定される蛍光強度が大きくなり、膜電位変化の検出感度も高くなる。
【0028】
本発明の膜電位変化検出方法では、各ステップにおける操作を、細胞をウェルプレートのウェル内に収容させたまま行うのが好ましい。ウェルプレートの使用により、大量の検体を一度に処理することが可能となり、より高速・高効率の膜電位変化検出が可能となる。用いるウェルプレートは、24ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェル等の各種ウェルプレートから目的に応じて選択することができる。
【0029】
(薬物スクリーニング方法)
本発明の薬物スクリーニング方法は、前述の発現ステップ、導入ステップ、接触ステップ及び検出ステップを備えるものである。この方法における発現ステップでは、目的のイオンチャネル及び/又はイオン輸送体を細胞に発現させる。イオンチャネル又はイオン輸送体の細胞への発現は、目的のイオンチャネル又はイオン輸送体の遺伝子を発現ベクターに組み込み、これを細胞に導入することにより行うことができる。
【0030】
導入ステップでは、細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入、及び膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色を、前述した膜電位変化検出方法の導入ステップと同様に行うことができる。
【0031】
接触ステップでは、導入ステップで得られた色素導入細胞に候補薬物を接触させる。この接触は、候補薬物を適当な溶媒に溶解し、得られる溶液を色素導入細胞が収容された容器内部に添加することにより接触させることができる。候補薬物と色素導入細胞との接触は、次に説明する検出ステップにおける蛍光強度の測定中に行うのが好ましい。
【0032】
検出ステップでは、導入ステップで得られた色素導入細胞に励起光を照射して、膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を経時的に測定することにより、候補薬物との接触による色素導入細胞の膜電位変化を検出する。蛍光強度の経時的測定は、前述した膜電位変化検出方法の測定ステップと同様に行うことができる。
【0033】
膜電位変化の検出は、前述の膜電位変化検出方法と同様に、蛍光強度の経時的測定の結果(蛍光強度の時間変化を示すグラフ)から行うこともできるが、測定開始時の蛍光強度を基準とした蛍光強度の最大変化量、並びに、測定時間−蛍光強度曲線の測定開始時から測定終了時までの積分値を求めてより定量的に行うのが好ましい。
【0034】
本発明の薬物スクリーニング方法では、アーティファクトを検出するために、膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色を行っていない細胞、候補薬物と接触させていない細胞、候補薬物とのみ接触させた細胞(候補薬物それ自体が蛍光性を有する場合)、又はイオンチャネル若しくはイオン輸送体を発現させていない細胞についても、蛍光強度を経時的に測定しておくことが好ましい。
【0035】
蛍光強度の変化がアーティファクトでないと判断されれば、膜電位変化があったと判定でき、これにより、候補薬物が目的のイオンチャネル又はイオン輸送体に作用したと判定できる。
【0036】
本発明の薬物スクリーニング方法では、発現ステップ後、導入ステップ及び測定ステップの前に、細胞を培養するステップを設けることが好ましい。細胞を培養して増殖させれば、それだけ測定される蛍光強度が大きくなり、膜電位変化の検出感度も高くなる。
【0037】
本発明の薬物スクリーニング方法では、各ステップにおける操作を、細胞をウェルプレートのウェル内に収容させたまま行うのが好ましい。ウェルプレートの使用により、大量の検体を一度に処理することが可能となり、より高速・高効率の薬物スクリーニングが可能となる。用いるウェルプレートは、目的に応じて各種ウェルプレートから選択することができる。
【0038】
(膜電位変化検出用ウェルプレート)
本発明の膜電位変化検出用ウェルプレートは、ウェルプレートのウェルに収容された細胞の細胞内又は細胞外媒体に蛍光消光色素を導入し、かつその細胞の細胞膜を膜電位感受性蛍光色素で染色することにより作製することができる。用いるウェルプレートは、目的に応じて各種ウェルプレートから選択することができる。細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入、及び膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色は、前述した膜電位変化検出方法におけるそれらの操作と同様に行うことができる。細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入、及び膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色を行う前に、ウェルプレートのウェル内で細胞を培養しておくのが好ましい。
【0039】
(薬物スクリーニング用ウェルプレート)
本発明の薬物スクリーニング用ウェルプレートは、ウェルプレートのウェルに収容された細胞に目的のイオンチャネル及び/又はイオン輸送体を発現させた後、この細胞内又は細胞外媒体に蛍光消光色素を導入し、かつその細胞の細胞膜を膜電位感受性蛍光色素で染色することにより作製することができる。用いるウェルプレートは、目的に応じて各種ウェルプレートから選択することができる。イオンチャネル及び/又はイオン輸送体の細胞への発現、細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入、及び膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色は、前述した膜電位変化検出方法又は薬物スクリーニング方法におけるそれらの操作と同様に行うことができる。細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入、及び膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色を行う前に、ウェルプレートのウェル内で細胞を培養しておくのが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0041】
(実施例1)
細胞の培養:
ヒト血管平滑筋細胞を96ウエルマイクロプレート(Nulgenunc, 165305)に1x10E5 cells/wellで蒔き、10%ウシ胎児血清(FBS)(GIBCO)を添加したDMEM/F12(GIBCO, 11320-033)で24時間培養した。
【0042】
蛍光消光色素及び膜電位感受性蛍光色素の負荷:
蛍光消光色素としては、波長500nm〜600nmに幅広い吸収域を持つアマランス(Sigma, A1016)を用いた。アマランスは、培養液(DMEM/F12+10%FBS)に溶解して1μg/ml溶液とした。色素導入キットのプロトコールに従って、Pinocytic Cell-Loading Reagent(Molecular Probes, I-14402)でヒト血管平滑筋細胞内の浸透圧を変化させ、アマランスを細胞に取り込ませた。
【0043】
膜電位感受性蛍光色素としては、DiSBAC2(3)(Molecular Probes, B-413)を用いた。DiSBAC2(3)をDMSOに溶解し、Hanks-Hepes Buffer(20mM Hepes, 115mMNaCl, 5.4mM KCl, 0.8mM MgCl, 1.8mM CaCl, 13.8mM D-Glucose)を加えて5μMの染色液を作製した。これを、消光色素を取り込ませたヒト血管平滑筋細胞に加え、37℃で30分間インキュベートした。その後、ヒト血管平滑筋細胞をHanks-Hepes Bufferで2回洗浄し、最終的に100μl/wellのHanks-Hepes Bufferをウェルに加えた。
【0044】
蛍光強度の測定:
蛍光強度測定装置としては、倒立型蛍光顕微鏡IX−71(オリンパス)に、75Wキセノンランプと励起光波長480nm・蛍光波長540nm以上のフィルターをセットし、そこに冷却CCDカメラ(ORCA−ER、浜松ホトニクス)を搭載した顕微鏡画像処理装置AQUACOSMOS(浜松ホトニクス)を取り付けたものを用いた。
【0045】
蛍光消光色素及び膜電位感受性蛍光色素を負荷したヒト血管平滑筋細胞の入った96ウェルマイクロプレートを顕微鏡ステージにセットし、1秒間のサンプリングインターバルで2分間蛍光画像を取り込んで、経時的に蛍光強度を測定した。測定開始から10秒後、600mMKCl溶液(終濃度200mM)(50μl)、150mM KCl溶液(終濃度50mM)(50μl)、75mMKCl溶液(終濃度25mM)(50μl)、30mM KCl溶液(終濃度10mM)(50μl)、0mMKCl溶液(終濃度0mM)(50μl)を分注した。ここで、KCl溶液は、細胞膜を脱分極させるために加えたものである。表1は、測定開始時の蛍光強度を1.0としたときの、加えたKCl溶液の濃度ごとの最大変化量及び積分値を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
(実施例2)
細胞の培養:
細胞の培養は、実施例1と同様に行った。
【0048】
蛍光消光色素及び膜電位感受性蛍光色素の負荷:
蛍光消光色素としては、ポリフェノール(フラボノイド系)の一種である青色アントシアニンをエステル化したものを用いた。
【0049】
膜電位感受性蛍光色素としては、di-8-ANEPPS(Molecular Probes, D-3167)を用いた。di-8-ANEPPSをDMSOに溶解し、Hanks-Hepes Buffer(20mM Hepes, 115mMNaCl, 5.4mM KCl, 0.8mM MgCl, 1.8mM CaCl, 13.8MM D-Glucose)を加えて5μMの染色液を作製した。
【0050】
蛍光消光色素の終濃度が100μg/mlになるように蛍光消光色素のDMSO溶液を染色液と混合し、これをヒト血管平滑筋細胞に加えて37℃で30分間インキュベートした。その後、ヒト血管平滑筋細胞をHanks-Hepes Bufferで2回洗浄し、最終的に100μl/wellのHanks-Hepes Bufferをウェルに加えた。
【0051】
蛍光強度の測定:
蛍光強度の測定は、実施例1と同様に行った。表2は、測定開始時の蛍光強度を1.0としたときの、加えたKCl溶液の濃度ごとの最大変化量及び積分値を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例1及び2の結果(表1及び2)から、本発明の膜電位変化検出方法により膜電位変化を高感度かつ簡便に検出することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、膜電位に関わる生化学・生理学的研究や種々の薬物(イオンチャネル作用薬、抗生物質等)の薬効の評価に利用することができる。特に、イオンチャネル作用薬やイオン輸送体作用薬のハイスループットスクリーニングにおいて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】蛍光強度の時間変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による前記細胞の細胞膜の染色とを、同時に又はいずれか一方を先に実施して色素導入細胞を得るステップと、
前記色素導入細胞に励起光を照射して、前記膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を経時的に測定するステップと、を備える膜電位変化検出方法。
【請求項2】
細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による前記細胞の細胞膜の染色とを、同時に又はいずれか一方を先に実施して色素導入細胞を得るステップと、
前記色素導入細胞に励起光を照射して、前記膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を経時的に測定し、測定開始時の蛍光強度を基準とした蛍光強度の最大変化量、並びに、測定時間−蛍光強度曲線の測定開始時から測定終了時までの積分値、を求めるステップと、を備える膜電位変化検出方法。
【請求項3】
細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色とが行われた細胞を、ウェルプレートのウェル内に備える膜電位変化検出用ウェルプレート。
【請求項4】
細胞のイオンチャネル及び/又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニング方法であって、
前記イオンチャネル及び/又はイオン輸送体を前記細胞に発現させるステップと、
前記細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による前記細胞の細胞膜の染色とを、同時に又はいずれか一方を先に実施して色素導入細胞を得るステップと、
候補薬物を前記色素導入細胞に接触させるステップと、
前記色素導入細胞に励起光を照射して、前記膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を経時的に測定することにより、前記候補薬物との接触による前記色素導入細胞の膜電位変化を検出するステップと、を備えるスクリーニング方法。
【請求項5】
細胞のイオンチャネル及び/又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニング方法であって、
前記イオンチャネル及び/又はイオン輸送体を前記細胞に発現させるステップと、
前記細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による前記細胞の細胞膜の染色とを、同時に又はいずれか一方を先に実施して色素導入細胞を得るステップと、
候補薬物を前記色素導入細胞に接触させるステップと、
前記色素導入細胞に励起光を照射して、前記膜電位感受性蛍光色素から生じる蛍光の強度を測定し、測定開始時の蛍光強度を基準とした蛍光強度の最大変化量、並びに、測定時間−蛍光強度曲線の測定開始時から測定終了時までの積分値、を求めることにより、前記候補薬物との接触による前記色素導入細胞の膜電位変化を検出するステップと、を備えるスクリーニング方法。
【請求項6】
細胞のイオンチャネル及び/又はイオン輸送体に作用する薬物のスクリーニングのためのウェルプレートであって、
前記イオンチャネル及び/又はイオン輸送体が発現し、細胞内又は細胞外媒体への蛍光消光色素の導入と、膜電位感受性蛍光色素による細胞膜の染色とが行われた細胞を、ウェルプレートのウェル内に備えるウェルプレート。

【図1】
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【公開番号】特開2006−126073(P2006−126073A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316512(P2004−316512)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】