説明

膜電極接合体および燃料電池

【課題】燃料電池において、低温環境下でも構造が破棄されにくくする。
【解決手段】 燃料電池10は、反応ガスの電気化学反応によって発電を行う膜電極接合体100を備える。膜電極接合体100は、電解質膜110と、電解質膜110に接している触媒層112,114と、触媒層112,114に対して電解質膜110とは逆の側に設けられた拡散層120,122と、触媒層112と拡散層120との間に設けられた排水層116を備える。排水層116は、触媒層112と拡散層120とを結ぶ孔116hを備える。孔116hは、触媒層112側の端面から拡散層120側の端面に至る第1の部分A1と、触媒層112側の端面から拡散層120側の端面に至り第1の部分A1よりも親水性が高い第2の部分A2と、を内面A0に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、低温環境下でも性能が低下しにくい燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水素イオンを透過する電解質の両面に電極を配し、酸素と燃料ガスを接触させて発電を行う燃料電池が開発されている。たとえば、ある燃料電池システムにおいては、空気極反応層と空気拡散層との間に空気極反応層よりも細孔の容積が大きい水分散層が設けられている。この燃料電池システムは、空気極反応層のガス通路内の水を水分散層の細孔に分散させることによって、低温運転時における空気極反応層のガス通路内の凍結を防止している。たとえば、特許文献1の燃料電池システムは、このような燃料電池システムである。
【0003】
【特許文献1】特開2005−174768号公報
【特許文献2】特開2003−68330号公報
【0004】
しかし、上記の技術においては、水分散層の細孔内で水が凍結し、氷の体積膨張によって水分散層の構造が破壊されるおそれがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、燃料電池において、低温環境下でも構造が破棄されにくくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、一態様として、反応ガスの電気化学反応によって発電を行う燃料電池の膜電極接合体を以下のような構成とする。この膜電極接合体は、触媒層と、触媒層に接している電解質膜と、触媒層に対して電解質膜とは逆の側に設けられた拡散層と、触媒層と拡散層との間に設けられる排水層であって、触媒層の側から拡散層の側に達する孔を備えた排水層と、を有する。そして、排水層の孔は、内面に、触媒層側の端から拡散層側の端に至る第1の部分と、触媒層側の端から拡散層側の端に至り第1の部分よりも親水性が高い第2の部分と、を有する。
【0007】
このような態様とすれば、排水層の孔内の第2の部分を通じて、触媒層から拡散層に水を排出することができる。また、第2の部分に比べて親水性が低い第1の部分には、第2の部分に比べて水が付着しにくいため、孔内を水が流通している際にも、第1の部分の周辺はガスが流通する空間となる。よって、低温環境下において孔内の水が凍結した場合にも、第1の部分周辺の空間が縮小されることで、氷の体積膨張による構造の破壊を防止することができる。
【0008】
また、孔の軸方向に垂直な断面における孔の内面の全周に対する第1の部分の長さの割合の、軸方向についての平均値は9%以上であることが好ましい。このような態様とすれば、孔全体について、凍結時の破壊を防止することができる。
【0009】
なお、孔の軸方向に垂直な任意の断面における孔の内面の全周に対する第1の部分の長さの割合が、9%以上であることがより好ましい。このような態様とすれば、凍結時にも、孔内においてガスの流路を確保することができる。
【0010】
また、拡散層は、孔の平均細孔径よりも大きい平均細孔径を有する互いに連通した細孔を含むことが好ましい。このような態様とすれば、孔内の水は、孔よりも大きな空隙を有する拡散層に向かって効率的に排出される。
【0011】
なお、孔の軸方向に垂直な断面における孔の内面の全周に対する第1の部分の長さの割合の、軸方向についての平均値は75%以下であることが好ましい。このような態様とすれば、孔内の第2の部分を通じて触媒層から拡散層に効率的に水を排出することができる。
【0012】
また、排水層と触媒層との端面において、第1の部分の長さは、孔の内面の全周の9%以上であることが好ましい。このような態様とすれば、凍結時の水の体積膨張を第1の部分周辺の空間で吸収することができる。よって、低温環境下における膜電極接合体の構造の破壊を防止することができる。
【0013】
なお、第1の部分は、水滴の接触角が90度よりも大きい部分であることが好ましく、第2の部分は、水滴の接触角が90度よりも小さい部分であることが好ましい。このような態様とすれば、孔内の第2の部分を通じて効率的に水を拡散層に排出することができる。そして、孔内の第1の部分には水が付着しにくいため、第1の部分を通じてガスを触媒層に供給することができる。
【0014】
また、本発明の一態様として、以上で説明した膜電極接合体を備えた膜電極接合体を構成することもできる。
【0015】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池、燃料電池に用いられる膜電極接合体、燃料電池の製造方法、燃料電池用の膜電極接合体の形成方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
A.第1の実施の形態:
図1は、第1の実施の形態の燃料電池10を示す断面図である。なお、図1においては、理解を容易にするために各層の厚さを拡大して示している。すなわち、図1に示される各層の厚みは実際の厚さを反映しているものではない。
【0017】
燃料電池10は、セパレータ20、セパレータ30、および膜電極接合体100を有している。膜電極接合体100は、セパレータ20とセパレータ30の間に位置する。
【0018】
膜電極接合体100は、電解質膜110と、電解質膜110の両側に設けられた触媒層112,114と、触媒層112,114の外側に設けられた拡散層120,122と、触媒層112と拡散層120の間および触媒層114と拡散層122の間に設けられた排水層116,118と、を有している。
【0019】
電解質膜110は、水を含有した状態で水素イオンを伝導することができる固体高分子膜である。本実施形態では、一例としてナフィオン(登録商標)を使用する。
【0020】
触媒層112,114は、電解質膜110の両側に接触するように設けられる。触媒層112,114は、たとえば、カーボン粒子の表面に白金触媒を担持させたものを電解質膜110の表面に積層して作成される。カーボン粒子の表面には、電解質膜110と同素材の電解質が付着されている。各カーボン粒子は、その電解質を介して電解質膜110および他のカーボン粒子と接合する。触媒層112は、酸素極(カソード)として機能する。触媒層114は、水素極(アノード)として機能する。燃料電池の運転中は、電子は、図示しない電気回路を通って水素極(触媒層114)から酸素極(触媒層112)に移動する。
【0021】
拡散層120は、触媒層112に対して電解質膜110とは逆の側に設けられる。拡散層122は、触媒層114に対して電解質膜110とは逆の側に設けられる。拡散層120,122は、たとえば、撥水処理されたカーボンクロスとすることができる。カーボンクロスの平均細孔径は約35μmである。膜電極接合体100内に存在する水は、拡散層120,122を伝わって外部に排出される。このため、膜電極接合体100の酸素極および水素極において水が滞留して燃料ガスおよび酸化ガスと電極との接触が妨げられ、その結果、発電が阻害されてしまう可能性が低減される。
【0022】
排水層116は、触媒層112に対して電解質膜110とは逆の側に、触媒層112に接するように設けられる。排水層118は、触媒層114に対して電解質膜110とは逆の側に、触媒層112に接するように設けられる。
【0023】
排水層116,118は、たとえば、カーボン粒子を拡散層120,122の表面に積層して作成される。カーボン粒子の表面には、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)が付着されている。各カーボン粒子は、PTFEを介して他のカーボン粒子と結合してカーボン粒子の塊を構成している。カーボン粒子の塊は、さらに、PTFEを介して互いに結着している。また、拡散層120,122に接しているカーボン粒子の塊は、PTFEを介して拡散層120,122の表面に結着している。排水層116は、撥水処理されている。排水層116の詳細な構成については後に説明する。
【0024】
セパレータ20は酸素流路22を有している。この酸素流路22内を流通する酸素含有ガスは、拡散層120、排水層116を介して触媒層112と接触する。第1の実施の形態では、酸素含有ガスは空気である。本明細書においては、この酸素含有ガスを「酸化ガス」ともいう。
【0025】
一方、セパレータ30は水素流路32を有している。この水素流路32内を流通する水素含有ガスは、拡散層122、排水層118を介して触媒層114と接触する。本明細書においては、この水素含有ガスを「燃料ガス」とも言う。また、酸化ガスと燃料ガスをまとめて「反応ガス」ともいう。燃料ガス中の水素のイオンは、水素極114側から酸素極112側に膜電極接合体100を透過し、酸素極112側において酸素と反応する。
【0026】
なお、図1では、燃料電池10の主要な構成部分のみを示した。図1では図示を省略したが、燃料電池10は、酸素流路22内の空気が外部に漏出せず、かつ、水素極側に漏出しないように構成されている。また、燃料電池10は、水素流路32内の水素ガスが外部に漏出せず、かつ、酸素極側に漏出しないように構成されている。
【0027】
図2は、膜電極接合体100の断面の拡大図である。なお、図2においても、各層の厚みは実際の厚さを反映しているものではない。排水層116は、触媒層112側から拡散層120側に貫通する孔116hを複数、有している。孔116hの直径は、たとえば15μm〜20μmである。すなわち、孔116hの平均細孔径は、拡散層120の平均細孔径よりも小さい。この孔116hは、たとえば、拡散層120上にカーボン粒子の塊を積層させて排水層116を形成した後に、レーザで排水層116に孔をあけることによって設けることができる。また、孔116hの直径はレーザ光の径を調節することによって好ましい値にすることができる。
【0028】
図2の上段に、孔116hの軸116aの方向に垂直な面についての孔116hのA−A断面図を示す。A−A断面図は、触媒層112と接する排水層116の端面における孔116hの形状を示している。孔116hの内面A0のうち第1の部分A1は、疎水性である。そして、他の第2の部分A2は親水性である。第1の部分A1と第2の部分A2は、ともに孔116hの内面A0において、触媒層112から拡散層120に至るまで孔116hの軸116aの方向に沿って設けられている。
【0029】
触媒層112と接する排水層116の端面において、孔116hの内面A0の周のうち、第1の部分A1の長さL1の割合は、孔116hの内面A0の全周長の約9%である。なお、本明細書において「約r%」という場合には、r%を中心にプラスマイナス1割の範囲を意味する。たとえば、「約9%」という場合には、8.1%〜9.9%を意味する。
【0030】
図3は、孔116hの内面A0に第1の部分A1および第2の部分A2を形成する方法を示す図である。レーザで排水層116に孔116hを設けた後、まず、排水層116を、たとえばPTFEで撥水処理する。その後、排水層116上にマスキングプレートMPを載せる。このマスキングプレートは、円弧状のスリットSlを有している。スリットSlは、略円形の蓋部MPcを支える支持部Sp1〜Sp3によって、Sl1〜Sl3に分割されている。
【0031】
マスキングプレートMPは、スリットSl1〜Sl3が孔116hの内面A0の一部に一致し、略円形の蓋部MPcが孔116h上に位置するように、排水層116上に配される。その後、親水性素材Mhi、たとえばシリコン系の親水材を噴射ノズルNzからスリットSlに向けて噴射する。その結果、孔116hの内面A0うち、スリットSl1〜Sl3の下方に位置する部分を親水性とすることができる。
【0032】
なお、支持部Sp1によって親水性素材Mhiが遮られるため、孔116hの内面A0のうち支持部Sp1の下方には、親水性素材Mhiは付着しない。一方、支持部Sp2,Sp3は十分に細いため、支持部Sp2,Sp3の下方には、親水性素材Mhiが付着する。その結果、孔116hの内面A0のうち支持部Sp1の下方以外の部分には、親水性素材Mhiが付着する。
【0033】
このようにして設けられた親水性の部分が第2の部分A2である。孔116hの内面A0うち親水性素材が付着しなかった部分が第1の部分A1である。なお、第1の部分A1と第2の部分A2との境界Baは、孔116hの軸116aの方向にほぼ平行となる。なお、図3では、理解を容易にするために、排水層116およびマスキングプレートMPは一部のみを示している。しかし、マスキングプレートMPには、複数の孔116hに対応するスリットSl1〜Sl3が複数組、設けられている。
【0034】
以上のような構成を有する膜電極接合体100の効果について、図2を参照しつつ説明する。酸素極として機能する触媒層112においては、電気化学反応によって水が生成される。この水は、排水層116の孔116hを介して拡散層120に排出される。そして拡散層120内を流通している空気(酸化ガス)の流れAgに押されて、拡散層120を伝って外部に排出される。
【0035】
より詳細には、触媒層112で生成された水は、矢印Awで示すように、触媒層112と撥水処理された排水層116の界面を伝って図2の横方向に移動する。そして、排水層116に設けられたの複数の孔116hのうちいずれかの孔116hを通って拡散層120に排出される。孔116hの内面A0には、親水性の第2の部分A2が設けられているため、水は第2の部分A2を通じて効率的に拡散層120に排出される。
【0036】
また、触媒層112と排水層116の界面から排水層116内に侵入した水も、撥水処理された排水層116内を伝っていずれかの孔116hに至り、親水性の第2の部分A2に沿って拡散層120に排出される。
【0037】
なお、孔116hの直径は、15μm〜20μmである。このように孔116hの直径は充分小さいため、水は、毛管吸引力によって効率的に触媒層112と排水層116の界面または触媒層112内から孔116hに吸い出される。
【0038】
また、触媒層112では水が生成されており、一方で、拡散層120では、水は外部に排出されている。このため、触媒層112と拡散層120との間の水圧の差によって、孔116hの拡散層120側の端から孔116hの外に向かって水が排出される。
【0039】
さらに、表示を簡略にするため図には表されていないが、カーボンクロスの空隙による平均細孔径は約35μmである。そして、孔116hの直径は、15μm〜20μmである。このため、孔116h内の水は、孔116hより広い空間であるカーボンクロスの繊維と繊維の隙間に向かって排出される。
【0040】
図4は、触媒層112から拡散層120に向かって生成水が排出される際の孔116h内の状態を示す断面図である。孔116hの内面A0のうち第1の部分A1は、疎水性である。このため、第1の部分A1には水は付着しにくい。その結果、第1の部分A1の周辺には、空気(酸化ガス)が拡散層120から触媒層112に向かって流通する部分Parが残される。一方、親水性の第2の部分A2には水が付着する。このため、第2の部分A2の周辺には、水が触媒層112から拡散層120に向かって流通する経路Pwtとなる。孔116hの直径が15μm〜20μmであり、長さL1が孔116hの内周の9%である場合には、酸化ガスの経路Parの断面積は、最も水が多く排出されるとき孔116hの断面積の約9%となる。
【0041】
図5は、図4の状態から燃料電池の運転が停止され、氷点下の環境下に置かれた際の孔116h内の状態を示す断面図である。図4の状態において経路Pwtに存在した水は凍結して氷Icとなり、体積が約1.1倍となる。その結果、図5の状態においては、空気が存在する経路Parは、図4の状態に比べて小さくなる。すなわち、本実施形態においては、孔116h内の空気が存在する部分Parが小さくなって氷の膨張分を相殺する。このため、孔116h内の水の凍結によって孔116hおよび排水層116の構造が破壊されてしまう可能性が低い。なお、図5においては、図4に示された凍結前の経路Parを破線で示す。
【0042】
疎水性の第1の部分A1は、触媒層112から拡散層120に至るまで孔116hの軸116aの方向に沿って設けられている。このため、触媒層112から拡散層120に至るまで孔116hの内部には空気が存在する部分Parがある(図4のPar、および図5において破線で示すPar参照)。その結果、水が凍結した場合にも、孔116h内においては、触媒層112から拡散層120に至るまで空気が流通する経路Parが確保される。このため、本実施形態は、低温時に孔116hが氷でふさがれてしまう態様に比べて、低温時においても発電性能が低下しにくい。また、触媒層112から拡散層120に至るまで、孔116hおよび排水層116の構造は、氷の体積膨張によって破壊される可能性が低い。
【0043】
図6は、疎水性の第1の部分A1と、親水性の第2の部分A2とに付着した水滴Wd1〜Wd3を示す模式的な側面図である。疎水性の第1の部分A1に付着した水滴Wd1の接触角θ1は、90度よりも大きくなる。一方、親水性の第2の部分A2とに付着した水滴Wd2の接触角θ2は、90度よりも小さくなる。そして、疎水性の第1の部分A1と、親水性の第2の部分A2との境界に付着した水滴Wd3においては、疎水性の第1の部分A1の側の接触角θ31は90度より大きくなり、親水性の第2の部分A2の側の接触角θ32は90度より小さくなる。
【0044】
疎水性の第1の部分A1と親水性の第2の部分A2との境界Ba(図3〜図5参照)は、以下のようにして決定することができる。すなわち、孔116h内に徐々に水蒸気を吹き込んで、孔116hの内面A0に水滴を付着させる。そしてて、さらにそれらの水滴を成長させる。すると、それぞれの水滴の接触角を測定することができる。なお、水滴の接触角は、FE-SEM(field emission scanning electron microscopy:電界放射型走査電子顕微鏡)で測定することができる。水滴Wd3のように、一方の側の接触角が90度より大きく、他方の側の接触角が90度より小さい水滴が存在する位置が、第1の部分A1と第2の部分A2との境界Baである。
【0045】
なお、本明細書においては、「疎水性」とは、上記のようにしてある物質の表面に水滴を成長させたときに、その水滴の接触角が90度よりも大きくなる物質の性質をいう。また、本明細書においては、「親水性」とは、上記のようにしてある物質の表面に水滴を成長させたときに、その水滴の接触角が90度よりも小さくなる物質の性質をいう。
【0046】
なお、水滴Wd3のように、一方の側の接触角が90度より大きく他方の側の接触角が90度より小さい水滴が存在しない場合、またはそのような水滴が広い範囲に存在する場合には、以下のような方法で第1の部分A1と第2の部分A2を決定することもできる。すなわち、水滴Wd1のような接触角が90度より大きい水滴が存在する割合が100%である位置から、徐々に割合が減少して50%となった位置が、第1の部分A1と第2の部分A2との境界Baである。
【0047】
B.第2の実施の形態:
第1の実施の形態では、排水層116を撥水処理した後、マスキングプレートMPの上から親水性素材Mhiをスプレーすることで孔116h内に第1の部分A1と第2の部分A2とを設けている(図3参照)。第2の実施の形態では、孔116h内に第1の部分A1と第2の部分A2とを設ける他の方法を示す。
【0048】
図7は、孔116h内に第1の部分A1と第2の部分A2とを設ける方法を示す図である。第2の実施の形態においては、排水層116に撥水処理を行った後、まず、レーザで孔116oを設ける。そして、孔116oに相当する部分に孔を有するマスキングプレートを排水層116上に配して、孔116o内に、たとえばシリコン系の親水性素材Mhiをスプレーする。その結果、孔116o内には親水性素材Mhiが充填される。なお、図7において、親水性素材Mhiで構成される部分を斜線で示す。
【0049】
その後、レーザで、排水層116に孔116hをあける。その際、孔116hの一部が孔116o内に充填された親水性素材Mhiにかかるように孔116hをあける(図7参照)。このようにすることで、孔の内面のうち、孔116o内の親水性素材Mhiで構成される部分は、親水性の第2の部分A2となる。そして、排水層116のうち撥水処理された他の部分で構成される部分は疎水性の第1の部分A1となる。
【0050】
このような方法によっても、内面のうち一部が撥水性で一部が親水性である孔を有する排水層116を設けることができる。
【0051】
C.実施例:
上記の実施形態において、孔116hの内面A0の内周に対する第1の部分A1の長さL1の割合を0から100%まで様々に変えて燃料電池を製造し、発電性能および凍結時の状態について実験を行った。なお、各実施例および比較例は、孔116hの内面A0の内周に対する第1の部分A1の長さL1の割合以外の点は、共通の構成を有する。
【0052】
【表1】

【0053】
なお、各実施例および比較例において、第1の部分A1と第2の部分A2の境界Ba(図3参照)は、孔116hの軸116aに対してほぼ平行である。このため、孔116hの軸116aに垂直な断面における、孔116hの内面A0の全周に対する第1の部分A1の長さL1の割合の、軸方向についての平均値は、それぞれ端面における第1の部分A1の長さL1の割合と等しい。また、孔の内面A0の面積に対する第1の部分A1の面積の割合も、端面における第1の部分A1の長さL1の内周に対する割合とほぼ等しい。
【0054】
各実施例および比較例の燃料電池10を運転して発電を行った。その際の起電力(V)を、表1の「電圧」の欄に示す。なお、燃料電池10の運転に際して、膜電極接合体100の温度は摂氏80度に保たれた。また、各実施例および比較例の燃料電池には、加湿されて飽和状態となっている酸化ガス(空気)が供給された。
【0055】
表1より、第1の部分A1の面積の割合が50%である実施例2の起電力が最も起電力が高いことがわかる。すなわち、フル加湿条件においてガス拡散性を阻害しないために、起電力が高い。
【0056】
比較例1においては、発電時の電圧は、0.36Vであった。比較例1においては、孔116hの内面A0すべてが疎水性の第1の部分A1である。このため、少なくとも一部の孔116hについては、発電時に、水が孔116h中の触媒層112近傍で停滞し、それ以上、孔116h内部に流入しなかったものと推定される。すなわち、そのような孔116hは、触媒層112近傍で水によってふさがれたものと推定できる。その結果、そのような孔116hについては、孔116hの内部を空気が流通することができなくなり、電圧が低下したものと推定できる。
【0057】
また、比較例2においては、発電時の電圧は、0.32Vであった。比較例2においては、孔116hの内面A0すべてが親水性の第2の部分A2である。このため、発電時に、少なくとも一部の孔116hについては、水が孔116h内を満たした状態で、触媒層112から拡散層120に水が排出されたものと考えられる。このため、そのような孔116hについては、孔116hの内部を酸化ガスとしての空気が流通することができなくなり、すなわち、ガス拡散性が阻害されたため、電圧が低下したものと推定できる。
【0058】
各実施例および比較例の燃料電池10について、発電を行った後、環境温度を0度以下として、膜電極接合体100内の水を凍結させた。その後、氷を解かして、排水層116の孔116hを顕微鏡で観察し、孔116hの構造が破壊されているか否かを判定した。なお、判定に際しては、観察した複数の孔116hの中に、円形であった孔116hの形状が変形しているものがある場合には、「破壊あり」と判定した。一方、観察した複数の孔116hがすべて円形を保っている場合は、「破壊なし」と判定した。より詳細には、たとえば、円形の外周の一部を構成するカーボンファイバーが、凍結前には折れておらず、凍結後には折れている場合には、「破壊あり」と判定することができる。判定の結果を、表1の「破壊」の欄に示す。
【0059】
表1より、比較例2においては、孔116hの構造が破壊されていることがわかる。一方、実施例1〜3では、観察したすべての孔116hについて破壊が見られない。
【0060】
これらの実験結果より、以下のことが分かる。すなわち、排水層116の孔116hには、孔116hの軸116aの方向に沿って、疎水性の第1の部分A1と親水性の第2の部分A2との両方を含むことが好ましい。また、実施例の中では、第1の部分A1と第2の部分A2の割合がそれぞれ50%である実施例2の態様が最も好ましい。
【0061】
E.他の態様:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0062】
E1.他の態様1:
第1の実施形態においては、疎水性の第1の部分A1の割合は、孔116hの軸116aに垂直な任意の断面において、内周の約9%である。しかし、第1の部分A1の割合は、実施例に示したように他の値とすることができる。ただし、任意の断面において第1の部分A1の割合を内周の約9%以上とすることで、燃料電池が氷点下の環境におかれた場合にガスの流通路が氷でふさがれる可能性を低減することができる。
【0063】
E2.他の態様2:
第1の実施形態においては、疎水性の第1の部分A1と親水性の第2の部分A2との境界Baは、孔の軸116aの方向にほぼ平行であった。すなわち、第1の部分A1の幅は、孔116hの軸116aの方向についてほぼ一定であった。しかし、第1の部分A1は、触媒層112に近いほど広くなるような態様とすることもでき、拡散層120に近いほど広くなるような態様とすることもできる。
【0064】
孔116h内において、水は、触媒層112に近いほど存在確率が高い。このため、第1の部分A1の割合が触媒層112に近いほど大きい態様においては、第1の実施形態にくらべて、触媒層112と排水層116の界面を伝ってくる水をより効率的に孔116h内に導入することができる。なお、少なくとも排水層116と触媒層112との端面において第1の部分を9%以上とすることで、水の凍結によって孔116hが破壊される可能性、および氷によって孔が塞がれる可能性を低減することができる。
【0065】
なお、孔116hの軸116aに垂直な任意の断面において、第1の部分A1の長さL1の全周に対する割合が9%以上であることが好ましい。そして、孔116hの軸116aに垂直な任意の断面において、第1の部分A1の長さL1の全周に対する割合が75%以下であることが好ましい。
【0066】
E3.他の態様3:
第1の実施形態においては、孔116hの径は15μm〜20μmである。しかし、孔116hの径は他の大きさとすることもできる。ただし、孔116hの径は、拡散層120の空隙による平均細孔径よりも小さいことが好ましい。そのような態様においては、孔116h内の水が効率的に拡散層120の空隙に排出される。たとえば、拡散層120の平均細孔径が25μmより大きいときには、孔116hの径は25μm以下とすることが好ましい。
【0067】
なお、各層や膜の空隙の平均細孔径は、以下のような方法で決定することができる。たとえば西華産業株式会社のパームポロメータ(商品名)を使用して、バブルポイント法(JIS K3832)により測定した代表径の大きさを平均細孔径とすることができる。バブルポイント法とは、以下のような方法である。すなわち、測定対象の膜や層の上面に水またはアルコールなどの液体を載せ、測定対象の下面からガス圧をかけて、測定対象の上面に気泡の発生が観測できる最小圧力Pを測定する。このとき、測定対象の代表径dは、以下の式(1)で計算される。
【0068】
d=4σ(cosθ)/P ・・・ (1)
σ:液体の表面張力
θ:接触角
【0069】
E4.他の態様4:
第1および第2の実施形態においては、排水層116全体に撥水処理を行った後、親水性の第2の部分A2を設けていた(図3および図7参照)。しかし、排水層116全体に親水処理を行った後、撥水性の第1の部分A1を設けることもできる。たとえば、排水層116全体に親水処理を行った後、マスキングプレートを介して撥水素材をスプレーすることで、孔116hの内面A0の一部に撥水性の第1の部分A1を設けることができる(図3参照)。また、排水層116全体に親水処理を行った後、排水層116に孔をあけて、その孔の中に撥水素材を充填し、一部がその撥水素材にかかるように孔116hをあけることで、孔116hの内面A0の一部に撥水性の第1の部分A1を設けることができる(図7参照)。
【0070】
E5.他の態様5:
第1および第2実施形態においては、孔116hの内面A0のうち第1の部分A1は疎水性であり、第2の部分A2は親水性である。すなわち、第1の部分A1においては、水滴の接触角が90度よりも大きくなり、第2の部分A2においては、水滴の接触角が90度よりも小さくなる。しかし、第1の部分と第2の部分とのいずれにおいても、水滴の接触角が90度よりも大きくなるような態様とすることができる。また、第1の部分と第2の部分とのいずれにおいても、水滴の接触角が90度よりも小さくなるような態様とすることができる。ただし、第2の部分は、第1の部分よりもより親水性が高いことが好ましい。「第2の部分が第1の部分よりもより親水性が高い」とは、第2の部分における水滴の接触角が第1の部分における水滴の接触角よりも小さいことをいう。
【0071】
E6.他の態様6:
第1の実施形態では、孔116hは、酸素極として機能する触媒層112の側の排水層116に設けられていた。しかし、同様に構成された孔を、水素極として機能する触媒層114の側の排水層118に設けることもできる。そのような態様においては、電解質膜110を介して触媒層114側に浸透した水を、効率的に触媒層114から拡散層122に排出することができる。また、疎水部には水が付着しにくいため、疎水部近傍を燃料ガスの流通路とすることができる。さらに、孔の内周における疎水部の割合を9%以上とすることによって、燃料電池が氷点下の環境におかれた場合に燃料ガスの流通路が氷でふさがれる可能性を低減することができる。すなわち、孔116hは、酸素極として機能する触媒層112と、水素極として機能する触媒層114の、いずれか一方に設けることもでき、両方に設けることもできる。
【0072】
E7.他の態様7:
なお、第1の実施形態においては、拡散層120,122は、カーボンクロスである。しかし、拡散層は、カーボンペーパなど、他の態様とすることもできる。すなわち、拡散層は、連通する空隙を有する層とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1実施例の燃料電池10を示す断面図。
【図2】膜電極接合体100の断面の拡大図。
【図3】孔116hの内面A0に第1の部分A1および第2の部分A2を形成する方法を示す図。
【図4】触媒層112から拡散層120に向かって生成水が排出される際の孔116h内の状態を示す断面図。
【図5】図4の状態から燃料電池の運転が停止され、氷点下の環境下に置かれた際の孔116h内の状態を示す断面図。
【図6】疎水性の第1の部分A1と、親水性の第2の部分A2とに付着した水滴Wd1〜Wd3を示す模式的な側面図。
【図7】孔116h内に第1の部分A1と第2の部分A2とを設ける方法を示す図。
【符号の説明】
【0074】
10…燃料電池
20…セパレータ
22…酸素流路
30…セパレータ
32…水素流路
100…膜電極接合体
110…電解質膜
112,114…触媒層
112…触媒層(酸素極)
114…触媒層(水素極)
116,118…排水層
116h…孔
116o…孔
120,122…拡散層
A0…孔116hの内面
A1…第1の部分
A2…第2の部分
Aw…水の流れを示す矢印
Ba…第1の部分と第2の部分の境界
Ic…氷
MP…マスキングプレート
MPc…蓋部
Mhi…親水性素材
Nz…噴射ノズル
Par…ガスが流れる経路
Pwt…水が流れる経路
Sl…スリット
Sl1〜Sl3…スリット
Sp1〜Sp3…支持部
Wd1…第1の部分に生成された水滴
Wd2…第2の部分に生成された水滴
Wd3…第1の部分と第2の部分の境界に生成された水滴
d…代表径
θ1…接触角
θ2…接触角
θ31…接触角
θ32…接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスの電気化学反応によって発電を行う燃料電池の膜電極接合体であって、
触媒層と、
前記触媒層に接している電解質膜と、
前記触媒層に対して前記電解質膜とは逆の側に設けられた拡散層と、
前記触媒層と前記拡散層との間に設けられる排水層であって、前記触媒層の側から前記拡散層の側に達する孔を備えた排水層と、を有し、
前記孔は、内面に、前記触媒層側の端から前記拡散層側の端に至る第1の部分と、前記触媒層側の端から前記拡散層側の端に至り前記第1の部分よりも親水性が高い第2の部分と、を有する、膜電極接合体。
【請求項2】
請求項1記載の膜電極接合体であって、
前記孔の軸方向に垂直な断面における前記孔の内面の全周に対する前記第1の部分の長さの割合の、前記軸方向についての平均値は9%以上である、膜電極接合体。
【請求項3】
請求項2記載の膜電極接合体であって、
前記拡散層は、前記孔の平均細孔径よりも大きい平均細孔径を有する互いに連通した細孔を含む、膜電極接合体。
【請求項4】
請求項2記載の膜電極接合体であって、
前記孔の軸方向に垂直な断面における前記孔の内面の全周に対する前記第1の部分の長さの割合の、前記軸方向についての平均値は75%以下である、膜電極接合体。
【請求項5】
請求項1記載の膜電極接合体であって、
前記排水層と前記触媒層との端面において、前記第1の部分の長さは、前記孔の前記内面の全周の9%以上である、膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1記載の膜電極接合体であって、
前記第1の部分は、水滴の接触角が90度よりも大きい部分であり、
前記第2の部分は、水滴の接触角が90度よりも小さい部分である、膜電極接合体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の膜電極接合体を備えた燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−47394(P2008−47394A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221097(P2006−221097)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】