説明

膜電極接合体とその製造方法および燃料電池セル

【課題】燃料電池や水素生成装置としての使用条件下で化学的および機械的に安定であり、中温型燃料電池に好適に適用可能な膜電極接合体とその製造方法およびそれを用いた燃料電池セルを提供する。
【解決手段】燃料電池セル(10)に用いられる膜電極接合体(11)は、厚さが1μm以上であり、自己支持性を有する水素透過性金属箔(12)と、水素イオン伝導性を有する非晶質の無機固体電解質膜(13)とを有し、例えば、固体電解質膜の前駆体を含む反応液を調製する工程と、水素透過性金属箔の表面に反応液を塗布し、100〜600℃で熱処理しながら前駆体を反応させ無機固体電解質膜(13)を形成する工程とを有する方法によって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体とその製造方法およびそれを用いた燃料電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解の逆反応を利用して水素(燃料)と酸素(酸化剤)とを反応させることにより継続的に電力を得る燃料電池は、クリーンな発電技術であることに加え、運動エネルギーや熱エネルギーを経ることなく化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するため、発電効率に優れており、騒音や振動も少ないという利点を有している。
【0003】
これまでに、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)等の様々な電解質を用いた燃料電池が提案されている。動作温度という観点から燃料電池を分類すると、低温型(例えば〜200℃)、中温型(例えば200〜500℃)および高温型(例えば500℃〜)に大別される。これらにはそれぞれ長所および短所があるが、自動車の動力源等への応用の観点からは、(1)高価な白金触媒の使用量を低温型に比べ低減できる、(2)高温型に比べ起動時間を短縮できる、(3)高耐熱性の材料を要しない、(4)水素以外の燃料を使用できる等の理由により、中温型燃料電池が有力な選択肢として注目を集めている。中温型燃料電池に好適に適用できる電解質材料の有力な候補として、イオン伝導性セラミックスが挙げられる。
【0004】
セラミックスを固体電解質として用いた燃料電池として、例えば、水素透過合金からなるアノード(燃料極)水素透過性金属箔12とプロトン伝導性ペロブスカイト型セラミックス電解質薄膜からなる燃料電池が提案されている(例えば、特許文献1〜4、非特許文献1、2参照)。これらの燃料電池はPdをベースとする水素透過性を有する合金箔上に、ペロブスカイト型BaCe0.90.1、およびBaZr0.9In0.1等のプロトン伝導性ペロブスカイト型セラミックスの多結晶性薄膜をPLD法により蒸着製膜し、さらにその上にPtまたはLa0.9Sr0.1CoOの多孔質からなるカソード(空気極)をスクリーンプリントすることによって形成している。
【0005】
また、特許文献5および6において、本発明者は水素イオン伝導性や酸化物イオン伝導性を有する非晶質(アモルファス)のイオン伝導膜を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−4372号公報
【特許文献2】特開2008−16457号公報
【特許文献3】特開2008−34111号公報
【特許文献4】特許公開2008−212820号公報
【特許文献5】国際公開第2009/041479号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2007/105422号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Power Sour., 152 (2005) 200−203.
【非特許文献2】J. Power Sour., 185 (2008) 922−926.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の燃料電池のうちBaCeO系のプロトン伝導性セラミックスを用いたものは、水蒸気に曝すと、プロトン伝導性セラミックスが腐食分解してしまう。燃料電池運転環境下では必ず水が生成するため、そのような材料からなる燃料電池は長時間(数百時間)以上の運転には耐えられない。
【0009】
また、BaZrO系材料の薄膜を水素透過性金属箔上に形成すると、水素透過性金属箔の垂直方向に配向した柱状結晶が成長する(例えば、J. Power Sour., 185 (2008) 922−926.参照。)。この様な材料では結晶間にボイドやピンホールを形成しやすいため、膜厚方向へのガスリークや電極物質の拡散を引き起こしやすい。電解質膜におけるガスリークは、燃料と空気との直接混合による爆発を引き起こす原因となり、電極物質の拡散は電気的ショートを引き起こすため、両者とも燃料電池への応用上重大な問題となると共に、プロトン伝導性の向上および運転温度の低下のために必要となる電解質膜の薄膜化を困難にする。
【0010】
さらに、水素透過合金をアノード水素透過性金属箔電極として用いる場合、合金とセラミックス電解質膜の熱膨張係数の違いおよび合金の水素化に起因する膨張により、セラミックス電解質薄膜に大きな応力がかかり、セラミックス電解質薄膜の破壊が起こるおそれがある。
【0011】
燃料電池の作動温度の低下や燃料電池スタックの小型化のためには、固体電解質膜を可能な限り薄くする必要があるが、薄膜化と同時に、欠陥の発生の防止や自己支持性の確保も必要となる。しかしながら、特許文献1〜4および非特許文献1、2に記載の技術では欠陥の発生の防止が困難である。また、特許文献5、6には、膜電極接合体全体の薄型化や自己支持性の発現については記載がない。
【0012】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、燃料電池や水素生成装置としての使用条件下で化学的および機械的に安定であり、中温型燃料電池に好適に適用可能な膜電極接合体とその製造方法およびそれを用いた燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、下記の(1)〜(7)のいずれかに記載の膜電極接合体を提供することにより上記課題を解決するものである。
(1)厚さが1μm以上であり、自己支持性を有する水素透過性金属箔と、水素イオン伝導性を有する非晶質の無機固体電解質膜とを有する膜電極接合体。
(2)前記水素透過性金属箔と前記固体電解質膜との間に前記水素透過性金属よりも水素吸蔵時の変形が小さい金属からなる中間層を有する(1)記載の膜電極接合体。
【0014】
(3)前記無機固体電解質膜が、SiO、TiO、ZrO、AlおよびCeOからなる群から選択される1または複数からなる金属酸化物中に5配位以上の配位数を取り得るカチオン(但し、前記金属酸化物が有する金属と同種の金属イオンを除く)がドープされ、酸素原子を介して結合した非晶質材料である(1)および(2)のいずれか1項記載の膜電極接合体。
(4)前記無機固体電解質膜が、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)のモル比が50:50〜99.9:0.1である非晶質アルミノシリケートである(1)および(2)のいずれか1項記載の膜電極接合体。
【0015】
(5)前記固体電解質膜が、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群より選択される1または複数の金属と、ホウ酸、リン酸、硫酸、炭酸および硝酸からなる群より選択される1または複数の酸素酸に由来する残基とが酸素原子を介して結合した非晶質材料である(1)および(2)のいずれか1項記載の膜電極接合体。
(6)前記固体電解質膜が、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、イリジウム(Ir)、スカンジウム(Sc)およびランタノイド群(ランタン(La)を含む)からなる群より選択される1または複数の3価の金属をさらに含む(5)記載の膜電極接合体。
(7)前記金属がジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)およびハフニウム(Hf)のいずれか1または複数であり、前記酸素酸がリン酸である(5)および(6)のいずれか1項記載の膜電極接合体。
【0016】
本発明の第2の態様は、下記の(8)〜(16)のいずれかに記載の膜電極接合体の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
(8)無機固体電解質膜の前駆体を含む反応液を調製する工程と、
厚さが1μm以上であり、自己支持性を有する水素透過性金属箔の表面に前記反応液を塗布し、前記前駆体を反応させ、水素イオン伝導性を有する非晶質の無機固体電解質膜を形成する工程とを有する膜電極接合体の製造方法。
(9)前記無機固体電解質膜の形成をゾル−ゲル法により行う(8)記載の膜電極接合体の製造方法。
(10)前記反応液を塗布する前に、前記水素透過性金属箔の表面を表面処理して所定の表面粗さとする工程をさらに有する(8)および(9)のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。
(11)前記反応液を塗布する前に、前記水素透過性金属箔の表面に前記水素透過性金属よりも水素吸蔵時の変形の小さい金属からなる中間層を形成する工程をさらに有し、前記反応液は前記中間層の表面に塗布される(8)から(10)のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。
【0017】
(12)前記反応液が、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される1または複数の金属のアルコキシドと、少なくとも5配位以上の配位数を取り得る金属イオン(但し、前記金属酸化物が有する金属と同種の金属イオンを除く)のアルコキシドを前記前駆体として含む(8)から(11)のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。
(13)前記反応液が、テトラアルコキシシランおよびアルミニウムトリアルコキシドを記前駆体として含み、該テトラアルコキシシランとアルミニウムトリアルコキシドとのモル比(Si:Al)が50:50〜99.9:0.1である(12)記載の膜電極接合体の製造方法。
【0018】
(14)前記前駆体が、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群より選択される1または複数の金属のアルコキシドと、ホウ酸、リン酸、硫酸、炭酸および硝酸からなる群より選択される1または複数の酸素酸またはその前駆体である(8)から(11)のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。
(15)前記反応液が、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、イリジウム(Ir)、スカンジウム(Sc)およびランタノイド群(ランタン(La)を含む)からなる群より選択される1または複数の3価の金属のアルコキシドをさらに含む(14)記載の膜電極接合体の製造方法。
(16)前記反応液が、ジルコニウムテトラアルコキシド、チタンテトラアルコキシドおよびハフニウムテトラアルコキシドのいずれか1または複数とリン酸とを前記前駆体として含む(15)記載の膜電極接合体の製造方法。
【0019】
本発明の第3の態様は、
(17)本発明の第1の態様に係る膜電極接合体を含む燃料電池セルを提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、燃料電池や水素生成装置としての使用条件下で化学的および機械的に安定であり、中温型燃料電池に好適に適用可能な膜電極接合体が提供される。金属酸素架橋ネットワークを基本構造としており、粒子フリーな緻密薄膜を形成する非晶質材料からなる固体電解質膜と、自己支持性を有する水素透過性金属箔を用いているため、ボイドやピンホールを形成しやすい粒界を含まない気密性の電解質薄膜を形成でき、ガスリーク、電極物質の拡散および接合界面における燃焼反応を抑制でき、薄膜化によるイオン伝導度の向上と自己支持性の両立も容易に行うことができる。
また、本発明によると、上記のような特徴を有すると共に、中温域での運転が可能で、自動車の動力源等に好適に用いることができる燃料電池セルが提供される。
さらに、本発明によると、上記のような特徴を有する膜電極接合体を安価に製造できる膜電極接合体の製造方法が提供される。固体電解質膜の形成に湿式法を用いるため、高価な真空装置が不要であると共に、大面積化も容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は本発明の一実施の形態に係る膜電極接合体を用いた燃料電池セルの概略構造を表す模式図であり、(b)は実施例1において作製した燃料電池セルの断面の透過型顕微鏡写真である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る膜電極接合体の製造方法を示す図である。
【図3】実施例1において作製した燃料電池セルの種々の温度におけるインピーダンスcole-coleプロットである。
【図4】実施例2において作製した燃料電池セルの400℃におけるインピーダンスcole-coleプロットである。
【図5】実施例3において作製した燃料電池セルの400℃におけるインピーダンスcole-coleプロットである。
【図6】実施例4において作製した燃料電池セルの電流−電圧曲線および電流−出力曲線である。
【図7】実施例4において作製した燃料電池セルの開回路条件下でのインピーダンスcole-coleプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る燃料電池セル10に用いられている膜電極接合体11は、図1(a)に示すように、水素透過性金属箔(燃料電池10において燃料極として作用する。)12と、水素イオン伝導性を有する非晶質の無機固体電解質膜13とを有している。燃料電池10において、無機固体電解質膜13の水素透過性金属箔12と反対側の面上には、空気極14が形成されている。なお、燃料電池セル10において、水素透過性金属箔12と無機固体電解質膜13との間には、水素透過性金属箔12よりも水素吸蔵時の膨張が小さい金属からなる中間層15が形成されている。
【0023】
燃料電池セル10は、固体電解質膜13の前駆体を含む反応液を調製する工程と、水素透過性金属箔12の表面に中間層15を形成する工程と、中間層15の表面に反応液を塗布し、100〜600℃で熱処理しながら前駆体を反応させ固体電解質膜13を形成する工程とを有する方法によって製造される。
【0024】
水素透過性金属箔12としては、パラジウム(Pd)、またはパラジウム−銀(Pd−Ag)、パラジウム−白金(Pd−Pt)、パラジウム−銅(Pd−Cu)等のPd合金からなる金属箔が挙げられる。あるいはバナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)から選ばれるいずれかを含んだ金属膜の両面に、上記のようなPdを含んだ膜を成膜したもの等も用いることができる。水素透過性金属箔12の厚さは、20μm以上であることが好ましい。厚さが20μmを下回ると、ピンホール等の欠陥や、無機固体電解質膜13の形成時にしわ等が発生するおそれがあると共に、得られる膜電極接合体11の機械的強度が不十分になるおそれがある。水素透過性金属箔12の厚さの上限は特にないが、無機固体電解質膜13に十分な水素が供給されるよう適宜調節される。
【0025】
無機固体電解質膜13が形成される側の水素透過性金属箔12の表面に対して、所定の表面粗さとなるよう表面処理を行ってもよい。表面粗さは、無機固体電解質膜13との間に十分な接合強度が得られるよう適宜調節されるが、例えば2〜5μmである。表面処理は、所定の表面粗さが達成できる任意の方法を、水素透過性金属箔12の材質や厚さ等に応じて適宜選択できるが、酸素プラズマ処理、RIE等のドライエッチング、バフ加工、研磨剤による機械的研磨等が挙げられる。研磨剤としては、日本磨料株式会社製の「ピカール(登録商標)」等が挙げられる。
【0026】
膜電極接合体11において、水素透過性金属箔12と無機固体電解質膜13との間に、水素透過性金属箔12よりも水素吸蔵時の変形が小さい金属からなる中間層15を形成すると、水素の吸蔵−放出に伴う水素透過性金属箔12の膨張および収縮により、両者の接合面に加わる応力を緩和し、膜電極接合体11の寿命を向上できる。また、中間層15として、熱膨張率が水素透過性金属箔12と無機固体電解質膜13の中間であるものを選択することにより、熱ショックによる水素透過性金属箔12と無機固体電解質膜13の接合面への応力集中に対する緩衝層として中間層15を機能させることができ、膜電極接合体11の熱に対する安定性を向上させることもできる。
【0027】
中間層15に用いることができる金属は、無機固体電解質膜13に水素を供給するために水素透過性を有していると好都合である。このような金属の具体例としては、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)およびこれらの合金が挙げられる。
【0028】
中間層15の厚さは、0.5〜500nmであることが好ましい。中間層15の形成は、高周波スパッタ蒸着法等の任意の方法を用いて行うことができる。
【0029】
無機固体電解質膜13として、非晶質材料からなる膜を用いることにより、膜電極接合体11およびそれを用いた燃料電池セル10において、ガスリークおよび接合界面燃焼反応を抑えることができる。また、膜厚を小さくしてもガスリークや電極物質の拡散を抑制できるため、イオン伝導度を向上させることができる。そのため、従来の固体酸化物型燃料電池よりも作動温度を低下させることができ、中温型燃料電池用の電解質膜として好適に用いることができる。
【0030】
本発明において、「非晶質材料」には、非晶質(アモルファス)材料以外のものが全く含まれていないもの以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、非晶質材料以外の成分を含んでいるものも含まれる。非晶質材料以外の成分としては、例えば、製造工程で混入する不純物等が挙げられる。また、無機固体電解質膜13は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、結晶構造を含んでいてもよい。この場合の結晶構造は、非晶質材料の体積全体の、例えば20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0031】
無機固体電解質膜13は、水素イオン伝導性を有している。本発明において、「水素イオン伝導性(プロトン伝導性)」とは、外部電場又は化学ポテンシャルによりプロトン(H)のみを伝導させ、電子またはその他のイオンの伝度および水素分子の透過を起こさない固体材料をいう。
【0032】
無機固体電解質膜13に用いられる材料としては、
(1)SiO、TiO、ZrO、AlおよびCeOからなる群から選択される1または複数の金属酸化物中に少なくとも5配位以上の配位数を取り得る金属イオン(但し、前記金属酸化物が有する金属と同種の金属イオンを除く)がドープされ、酸素原子を介して結合した非晶質材料、またはケイ素(Si)とアルミニウム(Al)のモル比が50:50〜99.9:0.1である非晶質アルミノシリケート(以下、「金属酸化物系材料」という。)、および
(2)ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群より選択される1または複数の金属と、ホウ酸、リン酸、硫酸、炭酸および硝酸からなる群より選択される1または複数の酸素酸に由来する残基とが酸素原子を介して結合した非晶質材料(以下、「金属酸化物−酸素酸系材料」という。)が挙げられる。
【0033】
(1)金属酸化物系材料
金属酸化物系材料の一例としては、SiO、TiO、ZrO、AlおよびCeOからなる群から選択される1または複数ならびにAlからなる金属酸化物中に5配位以上の配位数を取り得るカチオン(但し、前記金属酸化物が有する金属と同種の金属イオンを除く)がドープされたものが挙げられ、SiOおよびAlからなるアルミノシリケート中に5配位以上の配位数を取り得るカチオンがドープされたものがさらに好ましい。尚、カチオンは、金属酸化物が有する金属と同種の金属イオンではない。
【0034】
シリカ等の金属酸化物を主成分として採用し、かつ、5配位以上の配位数を取り得るカチオン特定のカチオンをドープすることにより、水素イオン伝導性を発現させることができる。ここで、「ドープ」とは、5配位以上の配位数を取り得る金属カチオン原子が分散して、SiO、TiO、ZrO、Al、CeO等の金属酸化物中に存在していることをいう。なお、金属酸化物は、1種類のみであってもよいし、任意の2種類以上であってもよい。
【0035】
なお、無機固体電解質膜13において、酸素がイオン等の状態で、SiO、TiO、ZrO、AlまたはCeOの組成を超えて含まれている場合があるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、このような酸化物イオン等が含まれていることを排除するものではない。
【0036】
5配位以上の配位数を取り得るカチオンは、6配位以上の配位数を取り得るカチオンであることが好ましく、6〜12の配位数を取り得るカチオンであることがより好ましい。より具体的には、本発明で用いるカチオンは、金属イオンであることが好ましく、希土類金属イオン、アルミニウム(Al)イオン、ジルコニウム(Zr)イオン、ニオブ(Nb)イオン、ハフニウム(Hf)イオン、タンタル(Ta)イオンまたは第一遷移金属イオンであることがより好ましく、セリウム(Ce)イオン、アルミニウム(Al)イオン、チタン(Ti)イオン、ジルコニウム(Zr)イオン、ニオブ(Nb)イオン、イットリウム(Y)イオン、ランタン(La)イオン、ハフニウム(Hf)イオンまたはタンタル(Ta)イオンであることがさらに好ましく、ハフニウム(Hf)イオン、アルミニウム(Al)イオン、ジルコニウム(Zr)イオンであることが特に好ましい。
また、カチオンは1種類のみ含まれていてもよいし、任意の2種類以上が含まれていてもよい。
【0037】
金属酸化物系材料中の、金属酸化物中の金属(例えば、ケイ素):カチオンの比(モル比)は、99.9:0.1〜70:30であることが好ましく、99:1〜50:50であることがより好ましく、95〜75:5〜25であることがさらに好ましく、90:10〜80:20であることが特に好ましい。
【0038】
プロトン伝導性の向上のためには、金属酸化物系材料の他の例である、SiOおよびAlからなるアルミノシリケート系材料を用いることが好ましい。アルミノシリケートは、−O−Si4+−O−Al3+−O−結合上の負電荷により、多くのプロトンを含有するため、強いプロンステッド酸性を示す。従って、結晶性のアルミノシリケート化合物であるゼオライトはプロトン伝導性を示すことが知られている。しかしながらゼオライトはそのチャンネル構造により、HやOガスを透過しやすい。また、ゼオライトは難焼結性の材料であるため、均一な薄膜を作製することは非常に困難である。しかしながら、アルミノシリケート骨格をもつ非晶質材料を採用することにより、ガスバリア性と優れたプロトン伝導性とを両立できる。アルミノシリケート系材料におけるケイ素とアルミニウムのモル比は、例えば、50:50〜99.9:0.1、好ましくは90:10〜99.9:0.1であり、膜電極接合体11および燃料電池セル10の用途等に応じて適宜調節される。
【0039】
金属酸化物系材料からなる無機固体電解質膜13は、無機固体電解質膜13の前駆体を含む反応液を調製後、水素透過性金属箔12あるいはその上に形成された中間層15の表面に反応液を塗布し、100〜600℃で熱処理しながら前駆体を反応させることにより形成される。以下、シリカにカチオンがドープされたアモルファス材料を用いた膜状のイオン伝導性材料(伝導性膜)を製造する場合を例にして説明するが、他の金属酸化物を用いる場合も同様に行うことができる。このように、従来の真空プロセスに代わって溶液プロセスで無機固体電解質膜13の形成を行うことにより、大面積表面をもつ燃料電池セル10を安価に作製できる。
【0040】
無機固体電解質膜13は、例えば、図2に示すように、金属酸化物の一例であるシリカ前駆体とカチオンを含む化合物を含む反応液を調製し、得られた反応液を水素透過性金属箔12の表面(中間層が形成されている場合は中間層15の表面。以下本実施形態の説明において同様である。)に薄層状に塗布し、塗膜に含まれる前駆体を加水分解して、好ましくはゾル−ゲル法により反応させ、焼成することにより形成される。必要に応じて、焼成後の無機固体電解質膜13をアニーリング処理してもよい。塗布および焼成ならびにアニーリング処理は、必要に応じて複数回反復してもよい。
【0041】
水素透過性金属箔12上への塗布方法としては、スピンコーティング法等の公知の方法を採用できる。スピンコーティング法を採用することにより、塗布の回数が制御でき、膜厚を調整できるため好ましい。さらに、本発明では、薄層を積層した積層体であることが好ましい。このような構成とすることにより、膜がより均一に作製され、より伝導性に優れた薄膜が得られる。
このとき、反応液中のカチオンを含む化合物の濃度が、2mM〜100mMであることが好ましい。また、ケイ素:カチオンの比は、最終的に製造されるイオン伝導性材料の比から換算して決定される。
【0042】
加水分解は、それによりシリカ前駆体をシリカとし、該シリカ中にカチオンがドープされた状態となる限り特に定めるものではない。例えば、反応液を吸着させた固体を水蒸気処理、水処理または湿潤空気中で加熱処理するのが好ましい。この場合の水は、不純物等の混入を防止し、高純度の反応液からなる薄層を形成するために、イオン交換水を用いることが好ましい。
【0043】
加水分解後、必要により、窒素ガス等の乾燥用ガスにより表面を乾燥させてもよい。さらに、酸や塩基などの触媒を用いることで、これらの工程に必要な時間を大幅に短縮することも可能である。
【0044】
焼成は、100〜500℃で、10秒〜24時間行うことが好ましい。
なお、すべての工程を500℃以下で行うことができるため、他の電池構成材料との反応による性能劣化を抑止できるという点からも好ましい。
【0045】
ここで、シリカ前駆体とは、加水分解後にシリカとなるものをいう。シリカ前駆体としては、具体的には、アルコキシシラン、ハロゲン化シラン、水ガラスおよびシランイソシアネートが好ましく、ゾル−ゲル法を採用する場合にはアルコキシシランがより好ましい。
【0046】
アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシランが好ましく、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリブトキシシラノール、メチルトリエトキシシランがより好ましい。
また、TiO、ZrO、AlまたはCeOを用いる場合も、ぞれぞれ、対応する金属を含有するハロゲン化物またはアルコキシ化合物を採用することが好ましい。
【0047】
カチオンを含む化合物としては、金属アルコキシド、イソシアネート金属化合物、ハロゲン化物、キレート錯体、有機金属錯体等加水分解により、金属酸化物を生成しうる全ての試薬が挙げられる。
金属アルコキシドとしては、例えば、M(OR)で表されるものが好ましい。ここで、Mは希土類金属原子、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)または第一遷移金属原子であり、セリウム(Ce)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)またはタンタル(Ta)であることが好ましい。ここで、Rは、アルキル基を含む基であり、炭素原子数1〜7のアルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルケトン基、アルキルジケトン基が好ましい。なお、nは1〜6の整数であることが好ましい。
【0048】
M(OR)の具体例として、Ce(OCOCH、Hf(OC、Ta(OC、Zr(OC、Al(OCH(CH、La(OCOCH、Nb(OC、Ti(OC等が挙げられる。ハロゲン化金属化合物としては、具体的には、CeCl、ZrCl、TiCl、LaCl、AlCl、TaCl等が挙げられる。また、M(OR):シリカ前駆体のモル比は、1〜50:99〜50となるよう調製することが好ましい。
【0049】
(2)金属酸化物−酸素酸系材料
金属酸化物−酸素酸系材料としては、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群より選択される1または複数の金属と、ホウ酸、リン酸、硫酸、炭酸および硝酸からなる群より選択される1または複数の酸素酸に由来する残基とが酸素原子を介して結合した非晶質材料が挙げられる。金属酸化物−酸素酸系材料は、通常、金属酸化物前駆体と、酸素酸またはその前駆体とをゾル−ゲル反応させた後、加熱して焼成することにより製造される。
【0050】
(金属酸化物前駆体)
本発明における金属酸化物前駆体としては、ゾル−ゲル反応により、金属酸化物を生成しうる全ての化合物が挙げられる。具体的には、金属アルコキシド、イソシアネート金属化合物、ハロゲン化物、キレート錯体、有機金属錯体等が挙げられ、金属アルコキシドが好ましい。
【0051】
(酸素酸またはその前駆体)
本発明における酸素酸とは、特に定めるものではないが、ホウ酸、硫酸、リン酸、炭酸および硝酸が好ましく、リン酸が最も好ましい。酸素酸およびその前駆体は、1種類のみを用いてもよいし、任意の2種類以上を用いてもよい。また、酸素酸の前駆体とは、ゾル−ゲル反応において、実質的に酸素酸と同様の働きをするものをいい、例えば、P、ポリリン酸、SOなどが挙げられる。
【0052】
金属酸化物前駆体の金属成分の主成分としては、ハフニウム(Hf)イオン、チタン(Ti)イオン、インジウム(In)イオン、ジルコニウム(Zr)イオンおよびスズ(Sn)イオンから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ジルコニウム(Zr)イオン、チタン(Ti)イオンまたはハフニウム(Hf)イオンを含むものがさらに好ましい。ここで、主成分とは、金属成分のうち、含量(モル%)が最も多い成分をいう。
【0053】
さらに、金属酸化物前駆体は、上記の金属イオンに併せて、3価の金属イオンを含むことが好ましい。3価の金属イオンとしては、イットリウム(Y)イオン、アルミニウム(Al)イオン、インジウム(In)イオン、スカンジウム(Sc)イオンおよびランタノイドイオン群(ランタン(La)イオンを含む)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、イットリウムがより好ましい。このような3価の金属イオンは、上記の金属イオン1モルに対し、0.03〜0.20モルの割合で含まれることが好ましく、金属イオン1モルに対し、0.03〜0.10モルの割合で含まれることがより好ましい。このように金属酸化物前駆体中に3価の金属イオンを含ませることにより、プロトン伝導性をより向上させる場合があり、好ましい。
【0054】
金属酸化物前駆体として、金属アルコキシドを用いる場合、M(OR)で表される金属アルコキシドがより好ましい。ここで、Mは希土類金属原子、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)または第一遷移金属原子であり、セリウム(Ce)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)またはタンタル(Ta)であることが好ましい。ここで、Rは、アルキル基を含む基であり、炭素原子数1〜7のアルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルケトン基、アルキルジケトン基が好ましい。また、nは1〜6の整数であることが好ましい。
【0055】
M(OR)の具体例として、Ce(OCOCH、Hf(OC、Ta(OC、Zr(OC、Al(OCH(CH、La(OCOCH、Y(OCOCH、Nb(OC、Ti(OC等が挙げられる。金属酸化物前駆体は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0056】
金属酸化物−酸素酸系材料において、酸素酸由来の基と、金属酸化物とのモル比は、10:1〜1:10であることが好ましく、3:1〜1:5であることがより好ましい。
【0057】
金属酸化物−酸素酸系材料からなる無機固体電解質膜13の製造方法は、上述の金属酸化物系材料からなる無機固体電解質膜13の場合と同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0058】
無機固体電解質膜13の厚さは、例えば、0.005μm〜1.0μm、さらには、100nm以下の厚さ、特に、10nm以下とすることができる。従来の結晶性セラミックからなる電解質膜は通常数十nm以上の結晶粒子からなっているため、5μm以下の厚さとすることができなかったが、膜電極接合体11に用いられる無機固体電解質膜13は、この点を回避できる点で極めて有意である。
【0059】
無機固体電解質膜13の水素イオン伝導度は、例えば、作動温度0〜500℃、好ましくは作動温度100〜400℃において、1×10−6S・cm−1以上であることが好ましく、5×10−5S・cm−1以上であることがより好ましい。
【0060】
さらに無機固体電解質膜13の面積抵抗値を10Ωcm以下とすることができ、さらには1Ωcm以下とすることができ、特には0.5Ωcm以下とすることができ、好ましくは、0.2Ωcm以下であるものができる。この中でも、作動温度0〜500℃、好ましくは作動温度100〜400℃において、面積抵抗値が上記値であることがより好ましい。面積抵抗比がこのように小さいと、イオン輸送効率が上昇し、例えば、燃料電池としての性能が向上するという利点がある。このように実用性の高い無機固体電解質膜13は、従来得られなかったものである。
【0061】
無機固体電解質膜13は、上述のとおり、膜状のものとすることができ(以下、「伝導性膜」ということがある)、無機固体電解質膜13は、固体燃料電池の電解質膜として用いることができる。
【0062】
燃料電池セル10は、無機固体電解質膜13と一対電極(燃料極である水素透過性金属箔12と空気極14)との接合体の両側に集電体を密着させて、その両側から極室分離と電極へのガス供給通路の役割を兼ねた伝導性のセパレータ(バイポーラプレート)を配したものである。この燃料電池セル10を単セルとし、この単セルを複数個積層することにより燃料電池スタックが構成される。
ここで、空気極14の構成、材料、膜電極接合体11への接合方法等は、任意の公知のものを採用できる。例えば、「固体酸化物形燃料電池:SOFCの開発」(出版元:(株)シーエムシー出版)、「燃料電池技術とその応用」の第7章(出版元:(株)テクノシステム)、「解説・燃料電池システム」(出版元:オーム社)等の各種文献に記載のものを適宜採用できる。
【0063】
燃料電池は、高い温度で作動させる方が、電極の触媒活性が上がり電極過電圧が減少するため望ましいが、電極、無機固体電解質膜13、集電体およびセパレーターの化学反応による劣化の問題が生じる場合がある。燃料電池セル10を用いた燃料電池の作動温度は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に制限は無いが、例えば、500℃以下といった高温でも、100℃〜500℃、さらには500℃未満、特に400℃以下といった温度でも十分に作動させることができる点で、極めて有意である。
【0064】
さらに、例えば、200〜400℃の中温域で作動する燃料電池とすることができる。これは、用いる燃料や触媒の選択肢を広げ、汎用性の高い電池システムを構築できるという観点から有利である。
【0065】
なお、本実施の形態では、膜電極接合体11を燃料電池セル10に用いた場合について説明したが、このようにして得られる膜電極接合体は、水素ガス生成装置等にも用いることができる。
【実施例】
【0066】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1〜3:Pt/Al−SiO//Pd燃料電池セルの作製
(1)反応液(Al−Si前駆体溶液)の調製
Al−Si混合前駆体溶液は以下の操作によって調製した。まず、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド(0.3g)にクロロホルムを10mL加え、軽く振とう後、1分間超音波照射して溶液を調製した。これをアルミニウム溶液とする。
これとは別に、テトラエトキシラン(0.49g)を1−プロパノールに15mL加えた。さらにこれに塩酸(1N)を85.5μL加え、室温で1時間撹拌して溶液を調製した。これをシラン溶液とする。
【0067】
上記操作で作製されたシラン溶液に対し、超音波を照射しながらアルミニウム溶液を1mL加え、50℃で1時間加熱撹拌した。その後、この混合溶液をセルロースアセテートフィルター(フィルター孔径:0.2μm)でろ過し、ろ液に1−プロパノールを加え、全体として50mLになるように希釈した。総金属濃度(Al+Si)が50mM、Al/Siモル比が5/95のAl−Si混合前駆体溶液を調製した。
【0068】
(2)固体電解質膜の製膜操作
上記のようにして得られたAl−Si混合前駆体溶液をスピンコーターにセットしたパラジウム(Pd)箔上に200μL滴下し、3000rpmで40秒間スピンさせた。引き続きPd箔を3000rpmで回転させながら、ヒートガンからの熱風照射によって45秒間加熱し、次いで120秒間窒素ガスを吹き付けながら放冷した。この前駆体溶液滴下から窒素ガス吹き付けまでの操作過程を1回とし、この操作を所定回数繰り返して、電解質膜をパラジウム箔上に作製した(図2参照)。
【0069】
実施例1
表面が研磨されていない、自己支持性を有するパラジウム(Pd)箔(厚さ:0.05mm)を、室温から3時間かけて450℃まで昇温し、その温度を1時間保持した。その後、自然放冷した。次に室温から20分で450℃まで再度昇温し、その温度を1時間保持し、自然放冷した。次にこの表面を酸素プラズマ処理(10W、10cm/min、30秒間)した。電解質膜の製膜操作を45回行った。製膜後にこれを3時間かけて450℃まで昇温し、その温度を1時間保持した。その後、自然放冷した。次いで電解質膜表面に直径1mmの円形白金電極を形成し、室温、200度、300度、400度での電解質膜のインピーダンス測定を行った。図3に各温度でのセルのインピーダンスcole-coleプロットを示す。室温では容量性の半円カーブしか観察されなかったが、温度の上昇とともに、拡散のスパイク(右上がり直線部)が観察され、Pt/Al−SiO/Pdセルが燃料電池セルとして接合していることが確認された。
【0070】
実施例2
表面が鏡面研磨された自己支持性を有するパラジウム(Pd)箔(厚さ:0.05mm)を、室温から3時間かけて450℃まで昇温し、その温度を1時間保持した。その後、自然放冷した。次に室温から20分で450℃まで再度昇温し、その温度を1時間保持し、自然放冷した。次にこの表面に白金を150秒間スパッタし、次いで酸素プラズマ処理(10W、10cm/min、10秒間)した。電解質膜の製膜操作を60回行った。製膜後にこれを3時間かけて450℃まで昇温し、その温度を1時間保持した。その後、自然放冷した。また電解質膜表面に直径1mmの円形白金電極を形成し、電極(白金円形電極)−電解質膜−電極(Pd箔)からなるPt/Al−SiO//Pdセルを作製した。このPt/Al−SiO//Pdセルを使って、400℃でのインピーダンス測定を行った。図4にセルのインピーダンスcole-coleプロットを示す。低周波領域においてはスパイク(右上がり直線部)が観察され、Pt/Al−SiO/Pdセルが燃料電池セルとして接合していることが確認された。
【0071】
続いてPt/Al−SiO//Pdセルを専用ホルダーに取り付けて400℃に加熱した後、カソード側(Pt極)に加湿された窒素/酸素の混合ガス(窒素および酸素の各流量は各々80cm/minならびに20cm/min)を供給し、またアノード側(Pd極)に水素/窒素混合ガス(窒素および水素の各流量は各々50cm/minならびに50cm/min)を供給した。その時の開回路電圧を測定したところ0.26Vを示した。
【0072】
実施例3
表面が未研磨の自己支持性を有するパラジウム(Pd)箔(厚さ:0.05mm)を、研磨剤(商品名:ピカール(登録商標))を使って表面を研磨した。この後、Pd箔にヘキサンに浸漬し、バス型ソニケーターで5分間超音波洗浄をした。乾燥後、室温から3時間かけて450℃まで昇温し、その温度を1時間保持した。その後、自然放冷した。次に室温から20分で450℃まで再度昇温し、その温度を1時間保持し、自然放冷した。次にこの表面に白金を150秒間スパッタし、次いで酸素プラズマ処理(10W、10cm/min、10秒間)した。電解質膜の製膜操作を60回行った。製膜後にこれを3時間かけて450℃まで昇温し、その温度を1時間保持した。次いで電解質膜表面に直径1mmの円形白金電極を形成し、電極(白金円形電極)−電解質膜−電極(中間層)−Pd箔からなるPt/Al−SiO//Pdセルを作製した。このPt/Al−SiO//Pdセルを使って、400℃でのインピーダンス測定を行った。図5にセルのインピーダンスcole-coleプロットを示す。低周波領域においてはスパイク(右上がり直線部)が観察され、Pt/Al−SiO/Pdセルが燃料電池セルとして接合していることが確認された。
【0073】
続いてPt/Al−SiO//Pdセルを専用ホルダーに取り付けて400℃に加熱した後、カソード側(Pt極)に加湿された窒素/酸素の混合ガス(窒素および酸素の各流量は各々80cm/minならびに20cm/min)を供給し、またアノード側(Pd極)に水素/窒素混合ガス(窒素および水素の各流量は各々50cm/minならびに50cm/min)を供給した。その時の開回路電圧を測定したところ、0.29Vを示した。
【0074】
実施例4:Pt/ZrP/Ni/Pd燃料電池セルの作製
プロトン伝導性固体電解質膜として、アモルファスリン酸ジルコニウム、ZrP2.48.6(以降ZrPと表記)を、水素透過合金アノードとして自己支持性を有するPd合金箔(厚さ0.05mm)をそれぞれ用いてヘテロ接合Pt/ZrP/Ni/Pd燃料電池セルを作製した。前処理としてPd箔表面を金属研磨剤(ピカール(登録商標))で約10分間研磨し、水中で5分間超音波洗浄し、最後にアセトン中で5分間超音波洗浄した。
表面研磨した合金箔上に水素透過金属中間層として、Ni金属超薄膜(厚さ0.5〜50nm)を高周波スパッタ蒸着法により形成した。蒸着後、試料を管状電気炉中1%−H/Ar雰囲気下で、昇温速度1.5°C/minで昇温後、400°Cで1時間熱処理した。
【0075】
固体電解質膜の前駆体を含む反応液(Zr−P混合前駆体溶液)の調製は、以下のように行った。ジルコニウムテトラブトキシドおよび五酸化二リンを所定の量計りとり、それぞれ2−メトキシエタノールに溶解して室温で1時間保存した。このようにして得たZrおよびP溶液を5mLずつ混合し、更にエタノール20mLを加えて希釈し、総金属濃度(Zr+P)50mM、Zr/Pモル比1/3のZr−P混合前駆体溶液を調製した。
【0076】
Ni/Pd箔上にZrP電解質膜を、Zr−P混合前駆体溶液を用いた多層スピンキャスト法(図2参照)により作製した。Zr−P混合前駆体溶液(100μL程度)を、スピンコーターに固定した水素透過性金属箔上に滴下し、回転速度3000rpmで20秒間スピンコートし、Zr−Pゲル超薄膜を析出させた。続いてヒートガンで水素透過性金属箔12に熱風を1分間吹き付けることによりゲル層を加水分解し、Zr−P酸化物層を形成した。最後に空気を吹き付けて水素透過性金属箔を冷却した。以上のスピンキャスト・加水分解・冷却過程を所定回数繰り返して酸化物薄膜を析出させた後、マッフル炉中450°Cで1時間焼成した。更に析出・焼成の過程を2回以上繰り返し、膜厚100nm程度のZrP電解質膜を形成した。ZrP薄膜表面に、空気極としてPt多孔質電極層(厚さ50nm)をスパッタ蒸着し、Pt/ZrP/Ni/Pd燃料電池セルを形成した。このようにして得られた燃料電池セルの模式図を図1(a)に、断面の走査型電子顕微鏡写真を図1(b)にそれぞれ示す。
【0077】
上記のようにして得られたPt/ZrP/Ni/Pdセルを専用ホルダーに取り付けて400°Cに加熱した後、カソード側(Pt極)に加湿空気(P(HO)=0.02atm)を100cm/minで供給し、またアノード側(Pd極)に50%−H/Ar混合ガスを100cm/minで供給して発電試験を行った。そのときの電流−電圧曲線および電流−出力曲線を図6に示す。なお、図6中に示した時間は、Pt/ZrP/Ni/Pdセルへのガス供給開始からの経過時間を表す。
【0078】
ガス供給開始から時間が経つにつれて、セルの開回路電圧および最高出力が向上していくことが分かる。とくに56分経過後には開回路電圧が1.05Vに達し、これは理論的な燃料電池の開回路電圧1.1Vにほぼ等しい値である。以上から、アモルファスZrP電解質薄膜は、膜厚100nm程度でも気密性を保持しており、ピンホールまたはクラックを通したガスリークは無視できることを示している。また、セルの最高出力は、56分後で約1.0mW/cmを示している。
【0079】
図7にPt/ZrP/Ni/Pdセルにおける、開回路電圧条件下でのセルのインピーダンスcole-coleプロットを示す。インピーダンスプロットは、高周波側および低周波側に二つの大きな半円を示している。高周波側の半円はNi/ZrP界面における電荷移動抵抗、および低周波側は空気極側のカソード分極抵抗成分をそれぞれ示している。このことは燃料電池発電環境下において、カソードおよびアノード反応が進行していることを示しており、図1bのセルが燃料電池として作動していることを示している。
【符号の説明】
【0080】
10:燃料電池セル
11:膜電極接合体
12:水素透過性金属箔
13:固体電解質膜
14:空気極
15:中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1μm以上であり、自己支持性を有する水素透過性金属箔と、
水素イオン伝導性を有する非晶質の無機固体電解質膜とを有することを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記水素透過性金属箔と前記固体電解質膜との間に前記水素透過性金属よりも水素吸蔵時の変形の小さい金属からなる中間層を有することを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記無機固体電解質膜が、SiO、TiO、ZrO、AlおよびCeOからなる群から選択される1または複数からなる金属酸化物中に5配位以上の配位数を取り得るカチオン(但し、前記金属酸化物が有する金属と同種の金属イオンを除く)がドープされ、酸素原子を介して結合した非晶質材料であることを特徴とする請求項1および2のいずれか1項記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記無機固体電解質膜が、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)のモル比が50:50〜99.9:0.1である非晶質アルミノシリケートであることを特徴とする請求項1および2のいずれか1項記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記固体電解質膜が、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群より選択される1または複数の金属と、ホウ酸、リン酸、硫酸、炭酸および硝酸からなる群より選択される1または複数の酸素酸に由来する残基とが酸素原子を介して結合した非晶質材料であることを特徴とする請求項1および2のいずれか1項記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記固体電解質膜が、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、イリジウム(Ir)、スカンジウム(Sc)およびランタノイド群(ランタン(La)を含む)からなる群より選択される1または複数の3価の金属をさらに含むことを特徴とする請求項5記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記金属がジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)およびハフニウム(Hf)のいずれか1または複数であり、前記酸素酸がリン酸であることを特徴とする請求項5および6のいずれか1項記載の膜電極接合体。
【請求項8】
無機固体電解質膜の前駆体を含む反応液を調製する工程と、
厚さが1μm以上であり、自己支持性を有する水素透過性金属箔の表面に前記反応液を塗布し、前記前駆体を反応させ、水素イオン伝導性を有する非晶質の無機固体電解質膜を形成する工程とを有することを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
前記固体電解質膜の形成をゾル−ゲル法により行うことを特徴とする請求項8記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項10】
前記反応液を塗布する前に、前記水素透過性金属箔を表面処理して所定の表面粗さとする工程をさらに有することを特徴とする請求項8および9のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項11】
前記反応液を塗布する前に、前記水素透過性金属箔の表面に前記水素透過性金属よりも水素吸蔵時の変形の小さな金属からなる中間層を形成する工程をさらに有し、前記反応液は前記中間層の表面に塗布されることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項12】
前記反応液が、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される1または複数の金属のアルコキシドと、少なくとも5配位以上の配位数を取り得る金属イオン(但し、前記金属酸化物が有する金属と同種の金属イオンを除く)のアルコキシドを前記前駆体として含むことを特徴とする請求項8から11のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項13】
前記反応液が、テトラアルコキシシランおよびアルミニウムトリアルコキシドを記前駆体として含み、該テトラアルコキシシランとアルミニウムトリアルコキシドとのモル比が50:50〜99.9:0.1であることを特徴とする請求項12記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項14】
前記前駆体が、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群より選択される1または複数の金属のアルコキシドと、ホウ酸、リン酸、硫酸、炭酸および硝酸からなる群より選択される1または複数の酸素酸またはその前駆体であることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項15】
前記反応液が、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、イリジウム(Ir)、スカンジウム(Sc)およびランタノイド群(ランタン(La)を含む)からなる群より選択される1または複数の3価の金属のアルコキシドをさらに含むことを特徴とする請求項14記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項16】
前記反応液が、ジルコニウムテトラアルコキシド、チタンテトラアルコキシドおよびハフニウムテトラアルコキシドのいずれか1または複数とリン酸とを前記前駆体として含むことを特徴とする請求項15記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項17】
請求項1から7のいずれか1項記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする燃料電池セル。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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