説明

膜電極接合体の製造方法及び装置

【課題】高品質の電極を優れた生産性で製造することができる膜電極接合体の製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】電解質膜8の表面上に接着剤層9を形成し、この接着剤層9が下部電極板2に対向するように電解質膜8を上部電極板1の下面に貼付する。振動装置4によりフルイ3を振動させた状態で、電源5及び6により上部電極板1と下部電極板2との間に電界を形成すると、この電界によって下部電極板2の上の電極材料7が帯電され、電界からの力を受けて、上部電極板1に向かって進行する。このとき、電極材料7が凝集していても、振動するフルイ3を通ることで分散され、上部電極板1の下面に貼付された電解質膜8の接着剤層9に均一に付着する。接着剤層9を乾燥することにより、電極材料7が電解質膜8の表面に定着し、膜電極接合体が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜電極接合体の製造方法及び装置に係り、特に固体高分子電解質膜の表面に触媒電極を接合した膜電極接合体を製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性の電解質膜の両面上に白金等の触媒を担持したカーボン微粒子を含む多孔性の負電極及び正電極を接合した構造を有しており、常温から100℃以下の温度域で作動し、小型軽量で起動性に優れた燃料電池として知られている。負電極側に水素、正電極側に酸素または空気をそれぞれ供給すると、負電極側で水素がプロトン(水素イオン)と電子になり、この電子が外部回路を通って正電極側に流れ、正電極側で電子を受けとった酸素が酸素イオンとなる。負電極側で生成されたプロトンは電解質膜中を正電極側へと移動し、酸素イオンと反応して水となる。
【0003】
従来、このような固体高分子型燃料電池の電極の製造方法として、触媒担持カーボン微粒子と電解質と溶媒とからなるインクを電解質膜の表面に直接塗布し、乾燥させる方法があったが、生産性が低く、また乾燥時の溶媒の膨張・収縮に起因してクラックを生じやすいという問題があった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、電極材料を静電的に電解質膜の表面に付着させ、さらに付着した電極材料と電解質膜を熱的に接合して電極を製造する方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−288728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法において、電極材料を電解質膜に直接付着させる場合、前記電極材料が前記電解質膜に埋設された膜電極接合体が形成されることから、電解質膜自体の特性を損なう虞があった。また、単に静電気を用いて触媒担持カーボン微粒子等の電極材料の付着を行うのでは、形成された電極と電解質膜との接合強度が十分なものではなく、電極の品質が低下して所望の特性の燃料電池を得ることができなくなるおそれがあった。
この発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、高品質の電極を優れた生産性で得ることができる膜電極接合体の製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る膜電極接合体の製造方法は、固体高分子電解質膜の表面に触媒電極を接合した膜電極接合体を製造する方法において、電解質膜の表面に接着剤層を形成し、粉体状の電極材料を接着剤層に付着させ、接着剤層を乾燥させることにより電極材料を電解質膜の表面に定着させる方法である。
【0008】
なお、電極材料の接着剤層への付着は、電極材料を帯電且つ分散し、電極材料を収容する収容手段と電解質膜の表面との間に電界を形成することにより行うことができる。
また、電極材料の分散は、電界からの力を受けて電解質膜の表面へと進行する電極材料を振動フルイに通すことにより、あるいは、帯電された電極材料を流動状態にすることにより、行うことができる。
電極材料の帯電は、収容手段と電解質膜の表面との間に形成された電界によって行うこともでき、あるいは、表面に摩擦帯電用皮膜が形成された網状体を流動状態の電極材料に接触させて振動させることにより行うこともできる。
また、電極材料を摩擦帯電用皮膜上に載置すると共に摩擦帯電用皮膜を振動させることにより電極材料の帯電及び分散を同時に行うこともできる。このとき、電極材料と共に粉砕媒体を摩擦帯電用皮膜上に載置してもよい。
【0009】
また、収容手段内に磁性体からなるキャリアを混入することにより電極材料をキャリアとの摩擦により帯電させ、電極材料が付着したキャリアによりマグネットローラ上に電磁ブラシを形成し、収容手段と電解質膜の表面との間に形成された電界により電極材料をキャリアから離脱させて電解質膜の接着剤層に付着させることもできる。
なお、好ましくは、電極材料として、白金担持カーボンと電解質と溶媒とを含むインクをスプレードライ法で粉粒化することにより得られたものが用いられる。
【0010】
この発明に係る膜電極接合体の製造装置は、固体高分子電解質膜の表面に触媒電極を接合した膜電極接合体を製造する装置において、粉体状の電極材料を収容する収容手段と、電極材料を帯電する帯電手段と、電極材料を分散する分散手段と、接着剤層が形成された電解質膜の表面と収容手段との間に電界を形成することにより帯電された電極材料を電解質膜の接着剤層に付着させる電界形成手段とを備えたものである。電解質膜の接着剤層の乾燥により電極材料が電解質膜の表面に定着される。
【0011】
なお、電極材料が載置される電界形成用電極を収容手段に備え、電界形成手段が、電解質膜の表面と電界形成用電極との間に電界を形成するように構成することができる。
さらに、電界形成手段が帯電手段を兼ねていてもよい。この場合、分散手段として、電解質膜の表面と電界形成用電極との間に配置された振動フルイ、あるいは、電界形成用電極上で電極材料を流動状態とする流動化装置を用いることができる。
また、帯電手段及び分散手段として、電界形成用電極の表面上に形成された摩擦帯電用皮膜と、電界形成用電極を振動させる振動装置とを備え、電極材料を摩擦帯電用皮膜上で振動させることにより帯電及び分散を行うこともできる。この場合、粉砕媒体を電極材料と共に電界形成用電極の上に載置してもよい。さらに、粉砕媒体として磁性体からなるキャリアを使用し、電界形成用電極の裏面側にマグネットを配置することもできる。
【0012】
また、分散手段として、電界形成用電極上で電極材料を流動状態とする流動化装置を用い、帯電手段として、流動化装置により流動状態とされた電極材料に接触すると共に表面に摩擦帯電用皮膜が形成された網状体と、この網状体を振動させる振動装置とを使用してもよい。
また、帯電手段及び分散手段として、収容手段に収容され且つ回転駆動されるマグネットローラと、電極材料と共に収容手段に収容された磁性体からなるキャリアとを有し、電極材料をキャリアとの摩擦により帯電し、電極材料が付着したキャリアによりマグネットローラ上に電磁ブラシを形成し、電界形成手段により形成された電界からの力を受けて電極材料がキャリアから離脱するように構成することもできる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、電解質膜の表面に接着剤層を形成し、粉体状の電極材料を接着剤層に付着させるので、接着剤層が電極材料を付着させる際、バッファ層のように機能し、電解質膜の特性を損なうことなく、且つ電極が電解質膜に十分な強度で接合され、高品質の電極を優れた生産性で得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1にこの発明の実施の形態1に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す。電界形成用の上部電極板1と下部電極板2が互いに間隔を隔てて平行に対向配置されている。上部電極板1及び下部電極板2の間には、これら上部電極板1及び下部電極板2に平行に金属製のフルイ3が配置され、フルイ3に振動装置4が連結されている。上部電極板1とフルイ3にはこれらの間に電界を形成するための電源5が接続され、フルイ3と下部電極板2にはこれらの間に電源5による電界と同一方向の電界を形成するための電源6が接続されている。
【0015】
上部電極板1、下部電極板2、電源5及び6により上部電極板1と下部電極板2との間に電界を形成する電界形成手段が構成されている。上部電極板1及び下部電極板2は、導電性材料、例えばアルミニウムから形成することができる。
また、下部電極板2は、電極材料7を収容する収容手段としても機能する。
さらに、フルイ3と振動装置4により、電極材料7を分散する分散手段としての振動フルイが構成されている。なお、振動装置4はフルイ3に振動を与えるものであり、バイブレータまたは超音波振動子から形成されている。
【0016】
次に、この製造装置を用いて膜電極接合体を製造する方法について説明する。まず、固体高分子電解質膜8の表面上に接着剤を塗布して接着剤層9を形成し、この接着剤層9が下方を向くように、すなわち下部電極板2に対向するように電解質膜8を上部電極板1の下面に貼付する。
一方、下部電極板2の上には、電極材料7を載置する。ここで、電極材料7としては、白金担持カーボンと電解質と溶媒とからなるインクをスプレードライ法で粉粒化したものを用いることができる。
【0017】
そして、振動装置4によりフルイ3を振動させた状態で、電源5及び6により上部電極板1と下部電極板2との間に電界を形成する。この電界によって下部電極板2の上の電極材料7が帯電され、電界からの力を受けて、図1に矢印で示されるように、上部電極板1に向かって進行する。このとき、上部電極板1と下部電極板2との間にフルイ3が存在するので、上部電極板1に向かう電極材料7はこのフルイ3を通ることとなるが、フルイ3には振動装置4により振動が与えられている。このため、電極材料7が凝集していても、振動するフルイ3を通ることで効果的に分散され、凝集が解消される。その結果、上部電極板1の下面に貼付された電解質膜8の接着剤層9に均一に電極材料7が付着する。
【0018】
このようにして電極材料7が付着された接着剤層9を乾燥することにより、電極材料7が電解質膜8の表面に定着し、触媒電極が形成される。
同様にして、電解質膜8の他方の面上にも接着剤層9を形成し、電極材料7を付着させて触媒電極を形成することで、電解質膜8の両面に触媒電極を接合した膜電極接合体が製造される。
【0019】
なお、接着剤層9としては、白金担持カーボンとプロトン伝導性樹脂の分散液を混合して得られた混合液を厚さ10〜100μmに塗布したものを例示することができる。白金担持カーボンとしては、例えば田中貴金属株式会社製のTEC10E60E(白金担持濃度55重量%)を用いることができる。
【0020】
ここで、本発明に適用する好適なプロトン伝導性樹脂について説明する。本発明では、酸性基を有するプロトン伝導性樹脂、塩基性基を有するプロトン伝導性樹脂のいずれも適用することが可能である。
【0021】
酸性基を有するプロトン伝導性樹脂は、例えば、−SOH、−COOH、−PO(OH)、−POH(OH)、−SONHSO−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等のイオン交換基を有するものである。中でも、酸性基としては、スルホン酸基(−SOH)またはホスホン酸基(−PO(OH))がさらに好ましい。
【0022】
かかるプロトン伝導性樹脂の代表例としては、例えば、
(A)主鎖が脂肪族炭化水素からなる高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入したプロトン伝導性樹脂:
(B)脂肪族炭化水素の水素原子の全てあるいは一部がフッ素原子に置換された高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入したプロトン伝導性樹脂:
(C)主鎖が芳香環を有する高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入したプロトン伝導性樹脂:
(D)主鎖に実質的に炭素原子を含まないポリシロキサン、ポリフォスファゼン等の高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入したプロトン伝導性樹脂:
(E)(A)〜(D)のスルホン酸基および/またはホスホン酸基導入前の高分子を構成する繰り返し単位から選ばれるいずれか2種以上の繰り返し単位からなる共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入したプロトン伝導性樹脂:
(F)主鎖あるいは側鎖に、塩基性を有する窒素原子を含み、硫酸やリン酸等の酸性化合物をイオン結合により導入したプロトン伝導性樹脂等が挙げられる。
【0023】
上記の(A)のプロトン伝導性樹脂としては、例えば、エチレン−ビニルスルホン酸共重合体、ポリエチレンまたはポリ(α−メチルスチレン)にスルホン化剤にてスルホン酸基を導入した樹脂等が挙げられる。ここで、エチレン−ビニルスルホン酸共重合体の場合は、モノマとして用いるエチレンとビニルスルホン酸の共重合比率でイオン交換容量を制御することができる。また、ポリエチレンまたはポリ(α−メチルスチレン)にスルホン化剤にてスルホン酸基を導入した樹脂は、スルホン化剤の使用量でイオン交換容量を制御することができる。
【0024】
また、上記の(B)のプロトン伝導性樹脂としては、Dupont社製のNafion(登録商標)、旭化成工業株式会社製のAciplex(登録商標)、旭硝子株式会社製のFlemion(登録商標)等がある。また、特開平9−102322号公報に記載された炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合によって作られた主鎖と、スルホン酸基を有する炭化水素系側鎖とから構成されるスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)や、米国特許第4,012,303号または米国特許第4,605,685号に記載された炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合によって作られたものに、α,β,β−トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにスルホン酸基を導入してプロトン伝導性樹脂としたスルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFE等も挙げられる。
【0025】
上記の(C)のプロトン伝導性樹脂としては、主鎖が酸素原子等のヘテロ原子で中断されているものであってもよく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン等の単位重合体のそれぞれに、スルホン化剤を用いてスルホン酸基が導入されたもの、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール(特開平9−110982号公報)、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)(J.Appl.Polym.Sci.,18,1969(1974))等が挙げられる。
【0026】
また、上記の(D)のプロトン伝導性樹脂としては、例えば、ポリフォスファゼンにスルホン酸基が導入されたもの、等が挙げられる。
これら(C)または(D)として例示される樹脂も、上記と同様にしてスルホン化剤の使用量によってイオン交換容量を制御することができる。
【0027】
上記の(E)のプロトン伝導性樹脂としては、ランダム共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでも、交互共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入されたものでも、ブロック共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入されたものでもよい。ランダム共重合体にスルホン酸基が導入されたものとしては、例えば、特開平11−116679号公報に記載のスルホン化ポリエーテルスルホン・ジヒドロキシビフェニル共重合体が挙げられ、かかる共重合体においてもスルホン化剤の使用量によってイオン交換容量を制御することができる。
【0028】
上記の(E)のプロトン伝導性樹脂の中で、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を持つブロック共重合体の具体例としては、例えば特開2001−250567号公報に記載のスルホン酸基を有するセグメント(親水性セグメント)と、イオン交換基を実質的に有さないセグメント(疎水性セグメント)とからなるブロック共重合体が開示されており、このようなブロック共重合体は該親水性セグメントと疎水性セグメントとの組成比によってイオン交換容量を制御することができる。
また、上記の(F)のプロトン伝導性樹脂としては、例えば特表平11−503262号公報に記載の、リン酸を含有せしめたポリベンズイミダゾール等が挙げられ、これは含有させるリン酸量でイオン交換容量を制御することができる。
【0029】
プロトン伝導性樹脂の分散液としては、上記プロトン伝導性樹脂の良溶媒によって溶液としたもの、あるいは貧溶媒中にエマルジョン化したものが挙げられ、例えば、5%ナフィオン溶液(5%アルコール水溶液:アルドリッチケミカル社)を示すことができる。分散液の溶媒は、固体高分子電解質膜を溶解させないようなものであることが好ましい。
【0030】
白金担持カーボンとプロトン伝導性樹脂の分散液の混合割合は、乾燥被膜となったときにプロトンと電子の双方が伝導できる程度につながるような割合であればよく、重量比率において、樹脂/カーボン=0.1〜2程度が好適である。また、分散液の固形分濃度は、電極材料7が付着しやすい粘度を有するものであれば特に限定されるものではないが、0.1〜10重量%程度が好適である。これより濃度が低いと、十分な接合強度を生じにくく、これより濃度が高いと、粘度が高くなり、粉体状の電極材料7同士の相互接触を損ないやすくなる。
また、この実施の形態1では、電解質膜8の表面上に接着剤層9を形成した後、この電解質膜8を上部電極板1の下面に貼付したが、これに限るものではなく、上部電極板1の下面に電解質膜8を貼付し、その後、電解質膜8の表面上に接着剤を塗布して接着剤層9を形成してもよい。
下部電極板2として、導電性材料をそのまま使用せずに、導電性材料を絶縁物で被覆したものを用いてもよい。
【0031】
実施の形態2
図2にこの発明の実施の形態2に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す。この実施の形態2は、上述した実施の形態1の製造装置において、下部電極板2の代わりに多孔質の下部電極板10を用いると共に下部電極板10の下部にチャンバ11を形成し、チャンバ11に図示しない圧縮ガス源を接続してこれら下部電極板10とチャンバ11と圧縮ガス源により流動化装置を形成したものである。
【0032】
圧縮ガス源からチャンバ11に圧縮空気または圧縮窒素を供給すると、圧縮空気または圧縮窒素は多孔質の下部電極板10を通って下部電極板10の上面から上方へ向かって吹き出される。これにより、下部電極板10の上に載置されている電極材料7が流動状態となる。電極材料7は、この流動化によって分散されると共に、電界により帯電し、上部電極板1に向かって進行する。電極材料7は、さらに振動するフルイ3によって分散され、電解質膜8の接着剤層9に付着される。このようにして電極材料7が付着された接着剤層9を乾燥することにより、電極材料7が電解質膜8の表面に定着し、膜電極接合体が形成される。
なお、流動化だけで電極材料7が十分に分散される場合には、フルイ3及び振動装置4を省略してもよい。
【0033】
実施の形態3
図3にこの発明の実施の形態3に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す。この実施の形態3は、上述した実施の形態1の製造装置において、フルイ3、振動装置4、電源5及び6の代わりに、下部電極板2の上面に摩擦帯電用皮膜12を形成すると共に下部電極板2の下面側に下部電極板2を振動させる振動装置13を配置し、上部電極板1と下部電極板2に電源14を接続したものである。
摩擦帯電用皮膜12としては、例えばテフロン(登録商標)が用いられ、振動装置13としては、バイブレータまたは超音波振動子を用いることができる。
【0034】
電極材料7は、下部電極板2の摩擦帯電用皮膜12の上に載置される。この状態で振動装置13により下部電極板2を振動させると、電極材料7が摩擦帯電用皮膜12との摩擦によって帯電すると共に分散される。したがって、電極材料7は、電源14により上部電極板1と下部電極板2との間に形成された電界からの力を受けて上部電極板1に向かって進行し、電解質膜8の接着剤層9に均一に付着する。このようにして電極材料7が付着された接着剤層9を乾燥することにより、電極材料7が電解質膜8の表面に定着し、膜電極接合体が形成される。
【0035】
実施の形態4
図4にこの発明の実施の形態4に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す。この実施の形態4は、上述した実施の形態3の製造装置において、電極材料7と共に摩擦帯電用皮膜12の上に粉砕媒体15を載置したものである。
【0036】
粉砕媒体15は、例えばセラミックスから形成されると共に電極材料7に比べて大きな径を有するものである。振動装置13により下部電極板2を振動させると、電極材料7と共に粉砕媒体15にも振動が伝わり、電極材料7に対して粉砕媒体15が相対的に動くことで、電極材料7が凝集していたとしても、粉砕媒体15により分散され、凝集が解消される。このため、電極材料7の分散がより効果的に行われ、電極材料7が電解質膜8の接着剤層9に均一に付着する。このようにして電極材料7が付着された接着剤層9を乾燥することにより、電極材料7が電解質膜8の表面に定着し、膜電極接合体が形成される。
【0037】
実施の形態5
図5にこの発明の実施の形態5に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す。この実施の形態5は、上述した実施の形態2の製造装置において、フルイ3、振動装置4、電源5及び6の代わりに、流動化装置の上部に網状体16を配置すると共にこの網状体16に振動装置17を連結し、上部電極板1と下部電極板2に電源14を接続したものである。網状体16の表面にはテフロン(登録商標)等からなる摩擦帯電用皮膜が形成されている。振動装置17としては、バイブレータまたは超音波振動子を用いることができる。
【0038】
網状体16は、流動化装置により流動状態とされた電極材料7に接触するような高さに設置されており、この網状体16を振動装置17で振動させることにより、電極材料7が網状体16との摩擦によって帯電し、電源14により上部電極板1と下部電極板2との間に形成された電界からの力を受けて上部電極板1に向かって進行する。電極材料7は、流動化によって分散されているが、網状体16を通ることでさらに分散され、電解質膜8の接着剤層9に均一に付着される。このようにして電極材料7が付着された接着剤層9を乾燥することにより、電極材料7が電解質膜8の表面に定着し、膜電極接合体が形成される。
【0039】
実施の形態6
図6にこの発明の実施の形態6に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す。この実施の形態6は、上述した実施の形態4の製造装置において、セラミックスからなる粉砕媒体15の代わりに磁性体からなるキャリア18を粉砕媒体として用い、下部電極板2の下面側にマグネット19を配置し、上部電極板1及び下部電極板2の間に金網20を配置し、電源14の代わりに上部電極板1と金網20に電源5を接続すると共に金網20と下部電極板2に電源6を接続したものである。
【0040】
振動装置13により下部電極板2を振動させると、電極材料7が摩擦帯電用皮膜12との摩擦及びキャリア18との摩擦によって帯電すると共に、キャリア18にも振動が伝わり、電極材料7に対してキャリア18が相対的に動くことで、電極材料7が凝集していたとしても、キャリア18により分散され、凝集が解消される。また、マグネット19からの磁気力によりキャリア18が連なって下部電極板2と金網20との間で電磁ブラシを形成し、このキャリア18に帯電した電極材料7が付着する。電磁ブラシが振動装置13による振動を受けると共に電極材料7が金網20と下部電極板2との間に形成されている電界から力を受け、電極材料7は電磁ブラシを形成するキャリア18から離脱する。金網20を通った電極材料7は、さらに上部電極板1と金網20との間に形成されている電界から力を受け、上部電極板1に向かって進行し、電解質膜8の接着剤層9に均一に付着する。このようにして電極材料7が付着された接着剤層9を乾燥することにより、電極材料7が電解質膜8の表面に定着し、膜電極接合体が形成される。
【0041】
なお、振動装置13を省略してマグネット19を回転させるように構成してもよい。マグネット19の回転によって電磁ブラシを形成するキャリア18が移動し、このキャリア18との摩擦により、あるいは電界により電極材料7が帯電してキャリア18に付着する。電磁ブラシがマグネット19の回転により移動すると共に電極材料7が金網20と下部電極板2との間に形成されている電界から力を受け、電極材料7がキャリア18から離脱し、電解質膜8の接着剤層9に付着する。
【0042】
実施の形態7
図7に、この発明の実施の形態7に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す。容器21の上部にホッパ22が設置されると共に容器21の一端に開口部23が形成されている。容器21内には混合ドラム24が回転自在に設けられると共に開口部23の近傍に回転シェル25が回転自在に配設されている。回転シェル25の内側にはマグネット26が固設され、これら回転シェル25及びマグネット26によりマグネットローラが構成されている。また、回転シェル25の外周面に近接してドクターブレード27が容器21内に固定されている。容器21内には磁性体からなる所定量のキャリア28が収容されている。容器21の開口部23の前方に電界形成用の電極板29が配置され、この電極板29と回転シェル25にはこれらの間に電界を形成するための電源30が接続されている。
【0043】
まず、電解質膜8の表面上に接着剤層9を形成し、この接着剤層9が容器21の開口部23を向くように電解質膜8を電極板29に貼付する。回転シェル25を所定の速度で回転させると共に電源30により回転シェル25と電極板29との間に電界を形成し、この状態で、ホッパ22から電極材料7を容器21内に供給しつつ混合ドラム24を回転駆動させると、電極材料7はキャリア28との摩擦により帯電すると共に分散する。また、マグネット26からの磁気力により回転シェル25の表面上にキャリア28が連なって電磁ブラシ31を形成し、このキャリア28に帯電した電極材料7が付着する。このようにして形成された電磁ブラシ31が回転シェル25と共に回転して容器21の開口部23に至ると、回転シェル25と電極板29との間に形成されている電界によって電極材料7がキャリア28から離脱し、電極板29に向かって進行し、電解質膜8の接着剤層9に均一に付着する。このようにして電極材料7が付着された接着剤層9を乾燥することにより、電極材料7が電解質膜8の表面に定着し、膜電極接合体が形成される。
なお、回転シェル25の回転数を調整することにより、電極材料7の供給速度を制御することができる。
【0044】
上述した各実施の形態に示すように、本発明の製造方法によれば、電解質膜の特性を損なうことなく、電解質膜上に電極材料が均一且つ十分な接合強度で定着された電極が形成される。前記電解質膜の両面に、このような電極を形成してなる膜電極接合体は、この膜電極接合体の電極に水素等の燃料ガス、空気(または酸素)等の酸化剤ガスを効率的に供給するガス拡散層及びセパレータ、ガスの噴出を防止するシール剤と組み合わせることで燃料電池が形成される。
本発明により得られる膜電極接合体は、電極材料が不均一に凝集した凝集体をほとんど有さない電極を有するため、電極材料単位面積当たりの白金の表面積が従来の電極よりも広く、燃料電池に係る電極反応を効率的に進めることができるので、発電性能に優れた燃料電池を得ることができる。
また、本発明の製造方法により得られる電極は、前記特許文献1に開示された電極のように、電解質膜に電極材料が埋設されることがないため、電解質膜自体を著しく損なうことがなく、前記膜電極接合体の信頼性を向上し、生産性に優れた燃料電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の実施の形態1に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態2に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す断面図である。
【図3】実施の形態3に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す断面図である。
【図4】実施の形態4に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す断面図である。
【図5】実施の形態5に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す断面図である。
【図6】実施の形態6に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す断面図である。
【図7】実施の形態7に係る膜電極接合体の製造装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 上部電極板、2,10 下部電極板、3 フルイ、4 振動装置、5,6,14,30 電源、7 電極材料、8 電解質膜、9 接着剤層、11 チャンバ、12 摩擦帯電用皮膜、13,17 振動装置、15 粉砕媒体、16 網状体、18,28 キャリア、19,26 マグネット、20 金網、21 容器、22 ホッパ、23 開口部、24 混合ドラム、25 回転シェル、27 ドクターブレード、29 電極板、31 電磁ブラシ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の表面に触媒電極を接合した膜電極接合体を製造する方法において、
電解質膜の表面に接着剤層を形成し、
粉体状の電極材料を前記接着剤層に付着させ、
前記接着剤層を乾燥させることにより前記電極材料を前記電解質膜の表面に定着させる
ことを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記電極材料の前記接着剤層への付着は、
前記電極材料を帯電且つ分散し、
前記電極材料を収容する収容手段と前記電解質膜の表面との間に電界を形成する
ことにより行われる請求項1に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
電界からの力を受けて前記電解質膜の表面へと進行する前記電極材料を振動フルイに通すことにより前記電極材料が分散される請求項2に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
帯電された前記電極材料を流動状態にすることにより分散がなされる請求項2に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記収容手段と前記電解質膜の表面との間に形成された電界により前記電極材料を帯電させる請求項2〜4のいずれか一項に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
表面に摩擦帯電用皮膜が形成された網状体を流動状態の前記電極材料に接触させて振動させることにより前記電極材料を帯電させる請求項4に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記電極材料を摩擦帯電用皮膜上に載置すると共に前記摩擦帯電用皮膜を振動させることにより前記電極材料の帯電及び分散を行う請求項2に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項8】
電極材料と共に粉砕媒体を前記摩擦帯電用皮膜上に載置する請求項7に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
マグネットローラを備えた収容手段内に磁性体からなるキャリアを混入することにより前記電極材料を前記キャリアとの摩擦により帯電させ、
前記電極材料が付着した前記キャリアにより前記マグネットローラ上に電磁ブラシを形成し、
前記収容手段と前記電解質膜の表面との間に形成された電界により前記電極材料を前記キャリアから離脱させる請求項2に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項10】
前記電極材料は、白金担持カーボンと電解質と溶媒とを含むインクをスプレードライ法で粉粒化することにより得られた請求項1〜9のいずれか一項に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項11】
固体高分子電解質膜の表面に触媒電極を接合した膜電極接合体を製造する装置において、
粉体状の電極材料を収容する収容手段と、
前記電極材料を帯電する帯電手段と、
前記電極材料を分散する分散手段と、
接着剤層が形成された電解質膜の表面と前記収容手段との間に電界を形成することにより帯電された前記電極材料を前記電解質膜の接着剤層に付着させる電界形成手段と
を備え、前記電解質膜の接着剤層の乾燥により前記電極材料が前記電解質膜の表面に定着することを特徴とする膜電極接合体の製造装置。
【請求項12】
前記収容手段は、前記電極材料が載置される電界形成用電極を有し、
前記電界形成手段は、前記電解質膜の表面と前記電界形成用電極との間に電界を形成する請求項11記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項13】
前記電界形成手段は、前記帯電手段を兼ねている請求項12に記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項14】
前記分散手段は、前記電解質膜の表面と前記電界形成用電極との間に配置された振動フルイからなる請求項13に記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項15】
前記分散手段は、前記電界形成用電極上で前記電極材料を流動状態とする流動化装置からなる請求項13に記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項16】
前記帯電手段及び前記分散手段は、前記電界形成用電極の表面上に形成された摩擦帯電用皮膜と、前記電界形成用電極を振動させる振動装置とを含み、前記電極材料を前記摩擦帯電用皮膜上で振動させることにより帯電及び分散が行われる請求項12に記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項17】
前記電極材料と共に前記電界形成用電極の上に載置された粉砕媒体をさらに含む請求項16に記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項18】
前記電界形成用電極の裏面側に配置されたマグネットをさらに含み、
前記粉砕媒体として、磁性体からなるキャリアが用いられる請求項17に記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項19】
前記分散手段は、前記電界形成用電極上で前記電極材料を流動状態とする流動化装置からなり、
前記帯電手段は、前記流動化装置により流動状態とされた前記電極材料に接触すると共に表面に摩擦帯電用皮膜が形成された網状体と、前記網状体を振動させる振動装置とを含む請求項12に記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項20】
前記帯電手段及び前記分散手段は、前記収容手段に収容され且つ回転駆動されるマグネットローラと、前記電極材料と共に前記収容手段に収容された磁性体からなるキャリアとを有し、
前記電極材料は前記キャリアとの摩擦により帯電し、前記電極材料が付着した前記キャリアにより前記マグネットローラ上に電磁ブラシが形成され、
前記電界形成手段により形成された電界からの力を受けて前記電極材料が前記キャリアから離脱する請求項11に記載の膜電極接合体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−135256(P2008−135256A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319765(P2006−319765)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504442805)株式会社グリーンテクノ (4)
【Fターム(参考)】