説明

膜電極接合体の製造方法

【課題】膜電極間の密着性と、連通させた空隙の確保とを両立可能なMEA(膜電極接合体)の製造方法を提供する。
【解決手段】成長用基板26上のCNT触媒層20と、電解質膜12とをプレスする。これにより、電解質膜12とCNT触媒層20との界面を十分に密着させる。次に、熱プレス板の位置を調整して上方に移動させる。これにより、CNT触媒層20に所望の幅の空隙を作ることができる。熱プレス板の移動距離は、CNTのウェーブの強度に応じて適宜決定できる。続いて、熱プレス板の位置をキープしたまま冷却する。これにより、狙い通りの構造を作り込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜電極接合体(以下、MEAともいう。)の製造方法に関し、より詳細には、カーボンナノチューブ(以下、CNTともいう。)により触媒層が構成されたMEAの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、基板上に成長用触媒を分散担持させ、基板の面方向に対しコイル軸が垂直となるようにコイル状のCNTを成長させ、このCNTに触媒を担持させてアイオノマーで被覆した後に、基板のCNT成長面と、電解質膜とを対向させて、CNTを電解質膜に熱転写してMEAを製造する方法が開示されている。コイル状のCNTは、その構造から明らかなように、コイル軸方向に弾力性を有する。そのため、同様に成長させた直線状のCNTを転写する場合に比べて、電解質膜への密着性を高めることが可能となる。従って、電解質膜との密着性の高いMEAを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−059841号公報
【特許文献2】特開2006−339124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記CNTは成長用触媒を起点とし、基板の面方向に対して垂直に成長させたものである。そのため、隣り合うCNT間には、必然的に空隙が形成される。また、このようなCNTを電解質膜に転写し、CNTの非転写端側にガス拡散層を配設した場合、この空隙は、電解質膜からガス拡散層かけて連通することになる。このようなMEAを燃料電池に用いれば、ガス拡散層の外側から供給したガスを、ガス状態のまま電解質膜側に到達させることが可能となる。従って、カーボンブラックといった一般的なカーボン材料を触媒層に用いた燃料電池に比べ、各種電池特性を向上させることができる。
【0005】
CNTの表面をアイオノマーで被覆する場合も同様で、CNTの表面を被覆するアイオノマーの量を調節すれば、被覆後のCNT間に、空隙を形成させることができる。空隙が形成されたCNTを電解質膜に転写し、CNTの非転写端側にガス拡散層を配設すれば、電解質膜の表面からガス拡散層にかけて空隙を連通させることができる。従って、CNTの表面をアイオノマーで被覆する場合も、各種電池特性を向上させることができる。
【0006】
しかしながら、アイオノマーで被覆したCNTに対して、上記特許文献1の製造方法を適用すると、空隙が遮断されてしまうという問題があった。即ち、ウェーブ状のCNTの弾力性を利用し、電解質膜への密着性を担保するため、1MPa〜10MPaの圧力が加えられている。同時に、電解質膜やアイオノマーに対しては、それらの軟化点以上の温度が加えられている。そのため、熱転写時に、コイル状のCNTが加圧方向に折り畳まれて収縮し、その収縮や加温によりCNT表面に凝集したアイオノマーが、CNT間を隔てて絡み合う可能性がある。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、膜電極間の密着性と、連通させた空隙の確保とを両立可能なMEAの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、MEAの製造方法であって、
基板上に成長用触媒を分散担持させる工程と、
前記成長用触媒を起点とし、前記基板の表面に対して垂直方向に弾性変形可能なカーボンナノチューブを成長させる工程と、
前記カーボンナノチューブの表面をアイオノマーで被覆し、隣り合う被覆後のカーボンナノチューブ間に、前記基板側からカーボンナノチューブの成長端側にかけて連通する通気経路を形成させる工程と、
前記基板のカーボンナノチューブ成長面と電解質膜とを対向させ、前記基板と電解質膜との間に熱を加えながら、前記被覆後のカーボンナノチューブを前記電解質膜に接合させるために必要な一次圧力を加える工程と、
前記一次圧力を加えた後に、前記被覆後のカーボンナノチューブを前記電解質膜に接合させるために必要な圧力であって前記一次圧力よりも低い二次圧力を、前記基板と電解質膜との間に加える工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、基板の表面に対して垂直方向に弾性変形可能なカーボンナノチューブを成長させ、その表面をアイオノマーで被覆し、被覆後のカーボンナノチューブを電解質膜に接合させるために必要な一次圧力を加え、一次圧力よりも低い二次圧力を加えることができる。従って、先ず一次圧力を加えることで電解質膜との密着性を高めることができる。次に、二次圧力を加えることで、隣り合う被覆後のカーボンナノチューブ間に、所望の幅の通気経路を確保することができる。従って、膜電極間の密着性と、連通させた空隙の確保とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態で製造されるMEAの断面模式図である。
【図2】本実施形態のMEAの製造方法の各工程を説明する図である。
【図3】成長用基板と電解質膜の間に十分な温度と圧力をかけて製造されたMEAの断面模式図である。
【図4】2種類のウェーブ状CNTの圧縮歪特性の結果を示した図である。
【図5】圧縮歪特性試験に用いたH−CNTの断面写真(SEM)である。
【図6】図5のH−CNTのウェーブ部分を拡大した写真(SEM)である。
【図7】圧縮歪特性試験に用いたM−CNTの断面写真(SEM)である。
【図8】図7のM−CNTの圧縮後のウェーブ部分を拡大した写真(SEM)である。
【図9】図2の熱転写工程の詳細を説明する図である。
【図10】ホットローラーを用いた熱転写工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[MEAの構造]
以下、図1乃至図10を参照して、実施形態のMEAの製造方法について説明する。先ず、図1を参照して、本実施形態で製造されるMEA10の構造について簡単に説明する。図1は、本実施形態で製造されるMEA10の断面模式図である。図1に示すように、MEA10は、電解質膜12を備えている。また、電解質膜12上には、ウェーブ状のCNT14が複数設けられている。CNT14は、隣り合うCNT14が互いに支え合うように、電解質膜12の面方向に対して垂直に配向している。
【0012】
また、図1に示すように、CNT14の外表面には、触媒粒子16が設けられている。また、CNT14の外表面には、CNT14及び触媒粒子16を覆うようにアイオノマー18が設けられている。CNT14、触媒粒子16、アイオノマー18からCNT触媒層20が形成される。CNT触媒層20の外側には、CNT触媒層20の一端に隣接して、多孔質の基材から構成されるガス拡散層24が配置される。なお、CNT触媒層20やガス拡散層24は、図に示す電解質膜12の他面側にも設けられるが、同様の構造であるため、本図においては一面だけを図示し、他面については省略している。
【0013】
また、図1に示すように、隣り合うアイオノマー18間には、空隙22が形成されている。空隙22が形成されることで、ガス拡散層24の外側から供給された反応ガスを、電解質膜12の近傍までガス状態のまま到達させることができる。外部から供給された反応ガスは、アイオノマー18に溶解し、アイオノマー18中を拡散しながら触媒粒子16の近傍に到達すると考えられている。通常のMEAにおいては、空隙は形成されないので、反応ガスの溶解や拡散は、ガス拡散層と触媒層との接面付近から始まる。接面付近から始まるため、電解質膜に近い触媒粒子に反応ガスが到達するのにはある程度の時間が必要となる。
【0014】
一方、MEA10においては、電解質膜12の近傍までガス状態のまま到達させることができるので、より電解質膜12に近い触媒粒子16付近まで短時間で反応ガスを到達させることができる。また、空隙22は、電気化学反応により生じた水の排水路としても活用できる。従って、MEA10を燃料電池に用いれば、電解質膜12近傍の触媒粒子16をも有効に利用できる。更に、このことは、触媒使用量を減らせることにも繋がるので、燃料電池の低コスト化を図ることも可能となる。
【0015】
[MEAの製造方法]
次に、図2を参照して、上述したMEA10の製造方法の各工程を説明する。本実施形態のMEAの製造方法は、(i)CNT作製工程、(ii)金属塩溶液滴下工程、(iii)乾燥・焼成還元工程、(iv)アイオノマー分散工程、(v)乾燥工程、(vi)熱転写工程を含む。以下、これらの各工程について、詳細を説明する。
【0016】
(i)CNT作製工程
本工程は、化学気相成長法(CVD法)を用いて、成長用基板26の面方向に対して、CNT14を垂直に配向させる工程である。本工程では、先ず、成長用基板26の表面に種触媒28を分散担持させる。ここで、成長用基板26としては、シリコン基板やガラス基板、石英基板等を用いることができる。成長用基板26は、必要に応じて表面を洗浄してもよい。成長用基板26の洗浄方法としては、例えば、真空中における加熱処理等が挙げられる。また、成長用基板26は、ゼオライトやシリカ、ジルコニア、チタニアといった多孔質セラミック層から構成されていてもよい。
【0017】
成長用基板26の表面に分散担持される種触媒28は、CNT14が成長する際の核となるものである。種触媒28は、金属又は合金の微粒子で構成される。種触媒28としては、例えば、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、パラジウム、インジウム、スズ又はこれらの合金が挙げられる。
【0018】
種触媒28の具体的な担持方法としては、次の方法が挙げられる。先ず、種触媒の金属又はこれらの錯体を含む溶液を塗布、電子ビーム蒸着法等によって、成長用基板26の表面に薄膜を形成させる。次に、不活性雰囲気下又は減圧下、成長用基板26を200℃程度で加熱する。これにより、上記の薄膜に含まれる金属を微粒子化させ、分散状態で担持させることができる。
【0019】
次に、上記種触媒28を基点として、成長用基板26の上方にCNT14を成長させる。成長方法としては、具体的に、成長用基板26を、CNTの成長に適した所定温度(通常、800℃程度)、不活性雰囲気の空間内に配置した状態で、種触媒28に原料ガスを供給する。これにより、CNT14が種触媒28を起点として成長する。CNT14は、互いに交差することなく成長する。従って、CNT14を成長用基板26の面方向に対して垂直に配向できる。本工程で好ましく使用できる原料ガスとしては、例えば、メタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、アルコール等の炭素源ガスが挙げられる。
【0020】
供給する原料ガスの流量、供給時間、総供給量等は特に限定されず、CNT14のチューブ長さやチューブ径等を考慮して、適宜決定できる。例えば、供給する原料ガスの濃度(原料ガス流量/(原料ガス流量+不活性ガス流量))によって、CNT14の長さやウェーブの形状を適宜設計できる。
【0021】
なお、本工程は、種触媒28と原料ガスを高温条件下、共存させることによってCNT14を生成するCVD法を用いたものである。しかし、CNT14を生成させる方法はこのCVD法に限定されず、例えば、アーク放電法やレーザー蒸着法などの気相成長法、或いはその他の公知の合成法を用いることもできる。
【0022】
(ii)金属塩溶液滴下工程
本工程は、CNT14に金属塩の溶液を滴下する工程である。本工程を経ることで、CNT14の表面に、触媒粒子16となる金属の塩(イオン)を注入できる。
【0023】
金属塩の溶液に含まれる金属としては、燃料電池の電極触媒として機能することが可能な金属であれば特に限定されない。このような金属としては、アルミニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、オスニウム、イリジウム、白金等が挙げられる。これらの金属は、単独で用いてもよいし、2種類以上を同時に用いてもよい。従って、本工程では、上述した金属のハロゲン物、酸ハロゲン物、無機酸塩、有機酸塩、錯塩等を含む溶液を用いることができる。溶液は、水溶液でも有機溶媒溶液でもよい。
【0024】
例えば、電極触媒に白金を用いる場合は、エタノールやイソプロパノール等のアルコール中に塩化白金酸や白金硝酸溶液(例えば、ジニトロジアミン白金硝酸溶液など)等を適量溶解させた白金塩溶液を用いることができる。CNTの表面に白金を均一に分散担持できるという観点から、特に、エタノール中にジニトロジアミン白金硝酸溶液を溶解させた白金塩溶液を用いることが好ましい。
【0025】
なお、ここで説明した工程では、金属塩の溶液を滴下することでCNT14の表面に金属塩を注入させたが、他の方法で注入させることもできる。例えば、金属塩の溶液中にCNT14を浸漬することや、金属塩の溶液をCNT14の表面に噴霧(スプレー)することで、CNT14の表面に金属塩を注入させてもよい。
【0026】
(iii)乾燥・焼成還元工程
本工程は、上記(ii)の工程で注入した金属塩の溶液から溶媒を乾燥除去し、その後、金属塩を還元することでCNT14の表面に触媒粒子16を担持させる工程である。ここで、溶媒を乾燥除去させる方法は特に限定されず、加熱乾燥、真空乾燥等を適宜選択することができる。
【0027】
また、金属塩の還元方法としては、2つの方法が挙げられる。第1の方法として、CNT14を加熱還元する方法が挙げられる。加熱還元の条件としては、用いた金属塩の種類に応じて適宜変更できる。例えば、金属塩として白金を用いた場合には、水素雰囲気中で150℃以上に加熱しながら還元する。また、第2の方法として、CNT14に還元剤を添加して還元する方法が挙げられる。用いる還元剤は、上記第1の方法と同様に、用いた金属塩の種類に応じて適宜変更できる。具体的な還元剤としては、エタノール、メタノール、ギ酸、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、エチレングリコール等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
なお、ここで説明した工程は、金属塩の溶液を乾燥・焼成還元してCNT14の表面に触媒粒子16を担持させる湿式法を用いたものであるが、乾式法を用いた工程であってもよい。乾式法を用いた工程としては、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法、静電塗装法等が挙げられる。
【0029】
(iv)アイオノマー分散液滴下工程
本工程は、触媒粒子16を担持させたCNT14の表面に、アイオノマー18の溶液を滴下する工程である。アイオノマー18は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やジメチルスルホオキシド(DMSO)といった適当な溶剤に分散ないし溶解させた状態で滴下される。本工程を経ることで、CNT14及び触媒粒子16を、アイオノマー18の溶液で被覆できる。
【0030】
滴下するアイオノマー18としては、炭化水素系の高分子電解質が用いられる。炭化水素系の高分子電解質としては、(a)主鎖が脂肪族炭化水素からなる炭化水素系高分子、(b)主鎖が脂肪族炭化水素からなり、主鎖の一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換された高分子や、(c)主鎖が芳香環を有する高分子等が挙げられる。また、高分子電解質としては、酸性基を有する高分子電解質、塩基性基を有する高分子電解質のいずれも用いることができる。このうち、酸性基を有する高分子電解質を用いると、発電性能に優れた燃料電池が得られる傾向にあるため好ましい。酸性基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基などが挙げられる。このうち、スルホン酸基又はホスホン酸基が好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。
【0031】
なお、本工程では、アイオノマー18を分散ないし溶解させた溶液を滴下することで、CNT14及び触媒粒子16をアイオノマー18の溶液で被覆した。しかし、他の方法を用いて被覆してもよい。他の方法としては、例えば、スプレー、ダイコーター、ディスペンサー、スクリーン印刷等を用いてCNT14の表面をアイオノマー18の分散溶液で被覆してもよい。
【0032】
(v)乾燥工程
本工程は、アイオノマー18の溶液で被覆したCNT14及び触媒粒子16を真空乾燥する工程である。本工程を経ることで、溶液中の溶剤を除去できるので、CNT14の表面に担持された触媒粒子16と、CNT14とをアイオノマー18で被覆したCNT触媒層20を得ることができる。本工程と、上記(vi)の工程とを繰り返し実施することで、CNT14の表面に所望の厚さのアイオノマー18の層を形成できる。また、同時に、隣り合うCNT14の間に、所望の幅の空隙22を形成できる。
【0033】
(vi)熱転写工程
本工程は、プレス機を用い、成長用基板26を電解質膜12に対向させて、CNT触媒層20を電解質膜12に熱転写する工程である。具体的には、CNT14の成長端側が電解質膜12の表面に対向するように成長用基板26を配置する。そして、加温しながら成長用基板26上のCNT14と、電解質膜12とをプレスする。これにより、電解質膜12の面方向に対してCNT14を垂直配向させることができる。
【0034】
[熱転写工程における問題点]
ところで、本工程においては、CNT触媒層20が電解質膜12と密着するように、換言すれば、CNT14が電解質膜12から脱離しないように、成長用基板26と電解質膜12の間に十分な温度と圧力をかける。そのため、CNT14が加圧方向に折り畳まれるように収縮され、その収縮や加温によりCNT14表面に凝集したアイオノマー18が、隣り合うCNT14間を隔てて絡み合う可能性がある。
【0035】
図3を用いて、上記問題を詳細に説明する。図3は、成長用基板と電解質膜の間に十分な温度と圧力をかけて製造されたMEA10’の断面模式図である。電解質膜12’やCNT14’、触媒粒子16’、アイオノマー18’、ガス拡散層24’は、図1との比較のため、MEA10に用いた材料と同一のもので構成されている。図3に示すように、十分な温度と圧力をかけると、CNT14’はMEA10’の積層方向に折り畳まれるように収縮された状態となる。
【0036】
CNT14’が収縮されれば、アイオノマー18’も連動するように収縮する。加えて、アイオノマー18’は、加温により流動性が上昇している。そのため、アイオノマー18’は、CNT14’の表面に凝集して塊状に形成される。故に、空隙22’が、図1に示す空隙22よりも小さく形成されることになる。仮に、隣り合うCNT14’上の塊状のアイオノマー18’が絡み合った場合には、空隙22’が潰れてしまう。このように、膜−触媒層間の密着性に重点を置いた熱転写方法では、空隙22’が小さく形成されることになるので、上述した各種の効果が薄れることになってしまう。
【0037】
(冷却条件変更試験)
下表に、熱転写後の冷却条件を変えた場合の転写可否試験の結果を示す。転写可否試験における加熱圧条件は、140℃、10MPaとした。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から分かるように、熱転写後、圧力開放して冷却すると(2.加圧なし冷却)、界面が剥離して転写できなかった。一方、表1から分かるように、加圧した状態で冷やし固めると、転写できた(1.加圧維持冷却、3.冷却前に一時的に圧開放)。これらの結果から、冷却時に界面を押し付ける力がないと、電解質膜の吸湿や残留応力等による変形で密着状態を維持できず、加圧した状態で冷やし固めることで結合力を維持できるようになると考えられた。
【0040】
また、表1から分かるように、加圧冷却前に圧力を短時間開放しても転写できた(3.冷却前に一時的に圧開放)。つまり、界面密着させた後に圧力が変わる履歴があっても、界面剥離する前に再加圧して冷やし固めれば界面結合は可能であり、よって界面剥離しなければ冷却前に圧力を若干弱めてもよいと考えられた。
【0041】
(圧縮歪特性試験)
図4は、2種類のウェーブ状CNT(M−CNT(黒)/H−CNT(白))の圧縮歪特性試験の結果を示した図である。図5〜8は、試験に用いたこれらのCNTの断面写真(SEM)である。図5は、転写可否試験にも用いたウェーブの強いH−CNTの断面写真である。図6は、図5のH−CNTのウェーブ部分を拡大した写真である。図7は、ウェーブが弱く、直線状のM−CNTの断面写真である。図8は、図7のM−CNTの圧縮後のウェーブ部分を拡大した写真である。圧縮歪特性試験は、これら2種類のウェーブ状CNTに対し、温度条件一定(140℃)の下、0MPaから10MPaまで加圧していき、その後、10MPaから0MPaまで減圧させることにより行った。
【0042】
図4の縦軸は歪み率を示し、試験前のCNTを基準(歪み率=0)とする。図4の横軸は圧力を示す。図4に示すように、CNTを加圧していくと、4MPaよりも高圧領域で歪み率がほぼ一定になる。また、減圧していくと、2MPaよりも低圧領域で、歪み率が減少する。特にH−CNTでは、圧力の低下に従って歪み率が大きく減少する。
【0043】
このことから、M−CNT、H−CNTの両方にばね性があり、一定の範囲までなら加圧を弱めても電解質膜との界面が剥離しないことが分かった。これは、ウェーブ状のCNTが互いに支え合って配向を維持する構造の下、それぞれのCNTがコイルばねのような作用をしたためであると推測された。従って、例えば高い圧力(例えば10MPa)を加えた後に、低い圧力(例えば1〜4MPa)を加えれば、電解質膜との界面からCNTを剥離させずに転写できる。
【0044】
[MEAの製造方法の特徴]
図9は、本実施形態における(vi)熱転写工程の詳細を示した図である。表1及び図4の結果から、(vi)熱転写工程においては、先ず、電解質膜12及びアイオノマー18のガラス転移点以上に加温しながら、成長用基板26上のCNT触媒層20と、電解質膜12とをプレスする(vi−1)。これにより、電解質膜12とCNT触媒層20との界面を十分に密着させる。
【0045】
次に、熱プレス板の位置を調整して上方に移動させる。これにより、CNT14を伸長させる。CNT14が伸長されれば、アイオノマー18も連動するように伸長される。従って、アイオノマー18をCNT14の表面方向に移動させて、CNT触媒層20に所望の幅の空隙22を作ることができる。熱プレス板の移動距離は、CNT14のウェーブの強度に応じて適宜決定できる。続いて、熱プレス板の位置をキープしたまま冷却する(vi−2)。これにより、アイオノマー18を、互いに支え合う構造を固める接着剤として作用させることができる。冷却温度は、電解質膜12及びアイオノマー18のガラス転移点よりも低い温度とする。これにより、狙い通りの構造を作り込むことができる。
【0046】
以上、本実施の形態のMEAの製造方法によれば、電解質膜−CNT触媒層間の密着性を維持しつつ、所望の幅の空隙を確保することができる。従って、狙い通りの構造を作り込むことが可能となる。
【0047】
尚、本実施の形態のMEAの製造方法においては、図1に示すような規則性を有するウェーブ状のCNT14を用いたが、規則性を有しないウェーブ状でもよく、コイル状であってもよい。即ち、転写圧を加える方向に対して垂直に弾性変形可能なCNTであれば、その形状は特に限定されない。
【0048】
また、本実施の形態のMEAの製造方法においては、(vi)熱転写工程においてプレス機を用いたが、例えばホットローラーを用いてCNT触媒層20を電解質膜12に熱転写してもよい。
【0049】
本変形例について、図10を用いて説明する。図10は、ホットローラーを用いた熱転写工程の一例を示す図である。図10に示すように、ホットローラー30は、加熱ロール32a,32b、冷却ロール34a,34bを備える。加熱ロール32a,32b、冷却ロール34a,34bは、内部に温度制御可能な熱源を備えている。加熱ロール32aの径は、冷却ロール34aの径と等しいが、加熱ロール32aは、冷却ロール34aよりも低い位置に設置されている。一方、加熱ロール32bの径は、冷却ロール34bの径と等しく、加熱ロール32bは、冷却ロール34bと同じ高さに設置されている。
【0050】
電解質膜12を搬送用シート36上に、成長用基板26付きCNT触媒層20を搬送用シート38上にそれぞれ設置し、加熱ロール32a,32bの間、続いて冷却ロール34a,34bの間に一定の速度で通過させる。これにより、加熱ロール32a,32bの間を通過させる間に、電解質膜12とCNT触媒層20との界面を十分に密着させ、冷却ロール34a,34bの間を通過させる間に、CNT触媒層20に所望の幅の空隙22を作ることができる。
【符号の説明】
【0051】
10 MEA
12 電解質膜
14 CNT
16 触媒粒子
18 アイオノマー
20 触媒層
22 空隙
24 ガス拡散層
26 成長用基板
28 種触媒
30 ホットローラー
32a,32b 加熱ロール
34a,34b 冷却ロール
36,38 搬送用シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に成長用触媒を分散担持させる工程と、
前記成長用触媒を起点とし、前記基板の表面に対して垂直方向に弾性変形可能なカーボンナノチューブを成長させる工程と、
前記カーボンナノチューブの表面をアイオノマーで被覆し、隣り合う被覆後のカーボンナノチューブ間に、前記基板側からカーボンナノチューブの成長端側にかけて連通する通気経路を形成させる工程と、
前記基板のカーボンナノチューブ成長面と電解質膜とを対向させ、前記基板と電解質膜との間に熱を加えながら、前記被覆後のカーボンナノチューブを前記電解質膜に接合させるために必要な一次圧力を加える工程と、
前記一次圧力を加えた後に、前記被覆後のカーボンナノチューブを前記電解質膜に接合させるために必要な圧力であって前記一次圧力よりも低い二次圧力を、前記基板と電解質膜との間に加える工程と、
を備えることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−198724(P2011−198724A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67397(P2010−67397)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】