説明

膜電極接合体及び燃料電池

【課題】 出力性能が改善された膜電極接合体及び燃料電池を提供する。
【解決手段】 電解質膜7と、前記電解質膜7の一方の面側に配置されたアノード触媒層8、前記アノード触媒層8の前記電解質膜7側と反対側に配置されたアノードガス拡散層9、及び前記アノードガス拡散層9に対向して配置された親水性バリア層10を備えるアノード5と、前記電解質膜7の他方の面側に配置され、粒状導電物質及び繊維状導電物質を含むカソード触媒層11、及びカソードガス拡散層12を備えるカソード6とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体及び燃料電池に関し、特に液体燃料を用いた直接供給型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代わって、小型の燃料電池が注目を集めている。特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell: DMFC)は、水素ガスを燃料として使用する燃料電池に比べ、水素ガスの取り扱いの困難さや、有機燃料を改質して水素を作り出す装置等が必要なく、小型化に優れている。
【0003】
DMFCの発電では、アノード(例えば燃料極)において水とメタノールの酸化分解反応(内部改質反応)が生じ、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成する。一方、カソード(例えば空気極)では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトン、および燃料極から外部回路を通じて供給される電子によって水が生成する。また、この外部回路を通る電子によって、電力が供給されることになる。
【0004】
よって、一般的に燃料電池の発電には、アノード触媒層には水が、カソード触媒層には空気が必要である。そのため、アノード側にはMPLなどの撥水層や保水層を設け、カソード側は空気が入り易くなる構造とするなどの工夫がなされている。
【0005】
例えば特許文献1では、アノード側電極触媒層とガス拡散層との間に保水層を設け、アノード側電極触媒層内の湿度を一定に維持して電解質膜の乾燥・湿潤を生じ難くさせたMEAが開示されている。また、特許文献2では、燃料電池の少なくとも一方の触媒電極層と拡散層との間に、吸水材と繊維状導電材とからなる保水層が形成され、高加湿条件下において十分なガス透過率を確保し、低加湿条件下において十分な水分を保持する燃料電池が開示されている。また、特許文献3及び4では、電極触媒層とガス拡散層の間に保水層を設け、電解質膜のプロトン導電性を保持するのに十分な水分を確保した電極構造体が開示されている。
【0006】
しかしながら、発電と休止を繰返す間欠運転を長期間行う場合は、発電によって生じる水や、燃料ガス及び酸化ガスのようなガスの流出入のバランスをとることが難しく、安定した発電性能を維持することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−085984号公報
【特許文献2】特開2006−244789号公報
【特許文献3】特開2004−158387号公報
【特許文献4】特開2004−158388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、間欠運転を長期間行っても安定した性能が維持される、出力性能が改善された膜電極接合体及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る膜電極接合体は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の面側に配置されたアノード触媒層、前記アノード触媒層の前記電解質膜側と反対側に配置されたアノードガス拡散層、及び前記アノードガス拡散層に対向して配置された親水性バリア層を備えるアノードと、前記電解質膜の他方の面側に配置され、粒状導電物質及び繊維状導電物質を含むカソード触媒層、及びカソードガス拡散層を備えるカソードと、を具備することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る燃料電池は、上記本発明に係る膜電極接合体を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、間欠運転を長期間行っても安定した性能を維持できる、出力性能が改善された膜電極接合体及び燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る膜電極接合体の拡大断面図である。
【図2】第2実施形態に係る膜電極接合体の拡大断面図である。
【図3】第3実施形態に係る膜電極接合体の拡大断面図である。
【図4】実施形態に係る燃料電池を示す内部透視断面図である。
【図5】図4の燃料電池の燃料分配機構を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る膜電極接合体は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の面側に配置されたアノード触媒層、前記アノード触媒層の前記電解質膜側と反対側に配置されたアノードガス拡散層、及び前記アノードガス拡散層に対向して配置された親水性バリア層を備えるアノードと、前記電解質膜の他方の面側に配置され、粒状導電物質及び繊維状導電物質を含むカソード触媒層、及びカソードガス拡散層を備えるカソードと、を具備することを特徴とする。
【0014】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る膜電極接合体は、親水性バリア層が、アノードガス拡散層のアノード触媒層側と反対側に配置され、さらに、親水性バリア層のアノードガス拡散層側と反対側に、第2ガス拡散層が配置されることを特徴とする。
【0016】
図1は、第1実施形態に係る膜電極接合体1の一実施例を示す拡大断面図である。
図1において、膜電極接合体1は、アノード(燃料極)5と、カソード(空気極)6と、燃料極5及び空気極6の間に配置されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜7とから構成される。
【0017】
電解質膜7にはプロトン伝導性材料が含まれ、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂(デュポン社製の商品名ナフィオン(登録商標)や旭硝子社製の商品名フレミオン(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸重合体等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、無機物(例えば、タングステン酸、リンタングステン酸、硝酸リチウムなど)等が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
燃料極5は、電解質膜7の一方の面に積層された燃料極触媒層8と、燃料極触媒層8に積層された燃料極ガス拡散層9と、燃料極ガス拡散層9に積層された親水性バリア層10と、親水性バリア層10に積層された燃料極第2ガス拡散層16を有する。
【0019】
燃料極触媒層8には、触媒及びプロトン伝導性材料が含まれる。触媒は、例えば、白金族元素である、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の単体金属、白金族元素を含有する合金などが用いられる。具体的には、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなどが好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれを使用することもできる。燃料極触媒層8に含まれるプロトン伝導性材料は、触媒上で電気化学反応によって発生するプロトンを伝導させるために用いられ、上記の電解質膜7に含まれるものと同様であってよい。
【0020】
燃料極ガス拡散層9は、燃料極触媒層8に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、燃料極触媒層8の集電体も兼ねている。燃料極ガス拡散層9は、カーボン材料や導電性高分子などの繊維からなるペーパー、不織布、織布、編物や、導電性の多孔質膜などから形成され、好ましくはカーボンペーパーが用いられる。ガス拡散層には、撥水性を付与しても良いし、撥水性を付与しなくてもよい。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。
【0021】
親水性バリア層10は、水を保持し、且つ液体燃料を遮断するために備えられる。親水性バリア層10は、カーボン材料及びポリビニルアルコール(PVA)を含む。
【0022】
親水性バリア層10は、カーボン材料を含有することにより導電性を有する。カーボン材料は、例えばTIMCAL社製TIMREX(所品名:KS6)を用いることができる。
【0023】
親水性バリア層10は、ポリビニルアルコールを含有することにより吸水性を有し、水を保持することが可能である。
【0024】
ポリビニルアルコールは、水不溶化処理されたポリビニルアルコールを用いることができる。水不溶化処理は、本願発明の効果が得られる限り、特に限定されない。或いは、親水性バリア層10にポリビニルアルコールとともに架橋剤を含有させ、親水性バリア層10の形成中又は形成後に架橋することによって、ポリビニルアルコールを水不溶性にすることもできる。また或いは、ポリビニルアルコールを含む親水性バリア層を、その形成中又は形成後に高温処理することによって、ポリビニルアルコールを水不溶性にすることもできる。或いは、水不溶性ポリビニルアルコールの使用と上記の水不溶化処理の何れか又は全てを組合せてもよい。
【0025】
さらに、親水性バリア層10は、保水性を高めるためにシリカ(SiO2)を含有することができる。
【0026】
親水性バリア層10に含まれる各成分の重量割合は、親水性バリア層10の総重量に対して、カーボン材料が60〜90%であり、水不溶性ポリビニルアルコールが10〜40%であることが好ましい。カーボン材料が60%以上含まれることにより、親水性バリア層10の導電性を確保することができる。また、カーボン材料の含有量が90%以下であることにより、10%以上のPVAが結着剤となり、層としての構造を保つことができる。親水性バリア層10にシリカ(SiO2)が含まれる場合は、カーボン材料が60〜80%であり、水不溶性ポリビニルアルコールが10〜30%であり、シリカが10〜30%であることが好ましい。シリカの含有量が10%以上であると、シリカによる保水性の増強効果を得ることができる。シリカの含有量が30%以下であることにより、60%以上の導電性を確保できるカーボン材料と、10%以上のPVAが結着剤となり、層としての構造を保つことができる。例えば、親水性バリア層10は、カーボン材料を約70%、水不溶性ポリビニルアルコールを約20%、シリカを約10%の割合で含む。
【0027】
親水性バリア層10の吸水性は、水不溶性ポリビニルアルコール及びシリカのような親水性材料に起因するものである。よって、そのような親水性材料を含む層を親水性バリア層と見なすことができる。親水性バリア層10の吸水性は、単体の層として高湿槽へ入れ、その前後の重量変化を測定することによって評価することができる。
【0028】
親水性バリア層10の厚さは、20〜60μmの範囲であることが好ましく、膜電極全体の厚さを低減するために、20〜40μmの範囲であることがより好ましい。
【0029】
親水性バリア層10の厚さは断面のSEM観察によって測定することができる。
具体的には、まず、燃料電池から膜電極接合体を取り出し、圧力ダメージ等を与えないように注意しながら1cm×2cmのサイズにカッターで切り出す。切り出した試料を専用ホルダーにクリップで固定させ、2成分型液体エポキシ系冷間埋め込み樹脂(製品名:エポフィクス、丸本ストルアス株式会社製)を流し込み、真空ポンプで減圧したベルジャー内で脱泡しながら硬化させる。硬化した試料入り樹脂の塊をホルダーから取り出し、切断機を使って試料の真ん中(1cm×1cmサイズ)を垂直に切断する。次にその切断面を研磨機により磨く。サンドペーパーは最初粗いものから徐々に細かいものに変え(少なくとも3段階:#800、#1200、#2400の順)、最後の仕上げに専用の不織布で拭き、観察試料を準備する。得られた観察観測試料をSEM観察する。SEMでは試料を垂直に切断された断面を水平になるようセットし、厚みが測れる任意の倍率で観察する。観察した全視野から平均値を算出し、層の厚さとする。
【0030】
以上のような親水性バリア層10は、吸水性を有するため、空気極6において発電反応により生成されて燃料極5に戻された水を保持することができる。親水性バリア層10に水が保持されているため、燃料極5における発電反応に必要な水が燃料極触媒層8に充分に供給されることができる。また、親水性バリア層10は、発電休止中も水を保持し続けることができるため、発電再開時にも十分な量の水が存在しており、出力を直ちに上昇させることができる。
【0031】
通常、膜電極接合体は、発電休止中に乾燥することによって劣化し、発電と休止を繰返す度に出力が低下する。しかしながら、親水性バリア層10を備える膜電極接合体は、発電休止中であっても内部に水分が保たれるため、劣化が防止される。よって、発電と休止を繰返しても、長期に渡って高い出力を維持することができる。
【0032】
また、親水性バリア層10は、燐片状カーボンが積み重なる緻密な構造により液体燃料を透過せず、液体燃料に対してのバリア効果を発揮することができる。例えば、発電再開時に制御の遅延によって燃料が過供給される等の理由により、高濃度の液体燃料が触媒層に流入すると、触媒層に含まれるプロトン伝導体に影響し、触媒層の劣化の原因となる。しかしながら、親水性バリア層10を備える膜電極接合体は、触媒層への液体燃料の流入が防止されるため、触媒層の劣化が抑制される。よって、長期間にわたって高い出力を維持することができる。
【0033】
親水性バリア層10は、各成分を混合して親水性バリア層用スラリーを調製し、基材に塗布して乾燥することによって形成することができる。形成された親水性バリア層10は、基材から剥離してガス拡散層9に積層される。また或いは、第2ガス拡散層9を基材として用いてもよい。この場合、親水性バリア層用スラリーを第2ガス拡散層9上に塗布して親水性バリア層10を形成する。
【0034】
ポリビニルアルコールの不溶化のための高温処理は、親水性バリア層用スラリーを基材に塗布し、乾燥した後に加熱することによって行うことができる。高温処理の条件は、例えば、150℃の温度で10分間であってよいが、これに限定されない。
【0035】
本実施形態においては、親水性バリア層10にさらに燃料極第2ガス拡散層16が積層される。この第2ガス拡散層は、上記の燃料極ガス拡散層9と同じ構成であってよい。
【0036】
空気極6は、電解質膜7の燃料極5と反対の面に積層された空気極触媒層11と、空気極触媒層11に積層された空気極ガス拡散層12とを有する。
【0037】
空気極触媒層11には、触媒、プロトン伝導性材料、及び導電物質が含まれる。触媒は、例えば、白金族元素である、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の単体金属、白金族元素を含有する合金などが用いられる。具体的には、白金やPt−Niなどが好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれを使用することもできる。空気極触媒層11に含まれるプロトン伝導性材料は、触媒上で電気化学反応によって発生するプロトンを伝導させるために用いられ、上記の電解質膜7に含まれるものと同様であってよい。
【0038】
空気極触媒層11に含まれる導電物質には、粒状の導電物質及び繊維状の導電物質が用いられる。ここで、粒状の導電物質とは、アスペクト比(長さ/直径の比)が5未満である導電物質を意味し、その平均粒径は特に限定されないが、1〜10μmであることが好ましい。例えば、Denka Black(電気化学工業株式会社製)、Vulcan XC-72(Cabot Corporation製)、Black Pearl 2000(CabotCorporation製)のようなアセチレンブラック及びケッチェンブラックのような炭素粒子を用いることができる。
【0039】
一方、繊維状の導電物質は、アスペクト比(長さ/直径の比)が5以上である導電物質を意味する。その直径(外径)は特に限定されないが、直径が大きすぎると、触媒層の表面に凸凹が生じ、他層と接触したときに抵抗が大きくなる恐れがあるため、0.1〜0.3μmであることが好ましい。繊維状導電物質の平均線長は特に限定されないが、1〜20μmであることが好ましい。例えば、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのような炭素繊維を用いることができる。
【0040】
粒状導電物質及び繊維状導電物質の平均径や平均線長は粒度分布測定装置によって測定することができる。
具体的には、まず、燃料電池から膜電極接合体を取り出し、電解質膜から空気極側の空気極ガス拡散層(例えば、カーボンペーパーにより構成されている)を剥す。空気極触媒層は電解質膜か空気極ガス拡散層のどちらかに貼り付いている状態で剥がれるので、それらをカッターの刃を用いてこそぎ落とす。その得られた触媒層粒子を粒度分布測定装置にて測定する。また、凝集塊が多い場合にはこそぎ落とした物質を超音波分散機にかけ、解してから測定しても良い。
【0041】
空気極触媒層11に含まれる粒状導電物質及び繊維状導電物質は、触媒のための導電性担持体として用いられることもでき、触媒を担持した状態で存在してもよいが、これに限定されず、触媒を担持しない状態で存在してもよい。
【0042】
本発明に係る空気極触媒層11は、上記のような繊維状導電物質を含有することにより、触媒層の形成の際にひび割れが発生することを防ぐことができる。触媒層にひび割れが生じると、他の部分の密度が増大して気孔率が低くなるとともに層厚も大きくなる。しかしながら、本発明に従って繊維状導電物質を含有させることにより、ひび割れの発生を防止することができ、密度が均一で気孔率が高く、厚みも薄い触媒層を得ることができる。
【0043】
空気極触媒層11に含まれる粒状導電物質と繊維状導電物質の割合は、空気極触媒層11中の全導電物質の重量に対して、粒状導電物質が40〜99wt%であり、繊維状導電物質は60〜1wt%であることが好ましい。
【0044】
繊維状導電物質は、その平均線長が長いほど混合量を減少させることができるとともに、均一な触媒層を形成することができる。しかしながら、平均線長が長いほどスラリー中で分散し難い。一方、平均線長が短いほど、必要な混合量が大きくなる。よって、繊維状導電物質の含有割合は、平均線長に依存して適宜決定されるが、繊維状導電物質を適度な含有量で混合することにより、ひび割れがなく表面が滑らかな触媒層を得ることができる。より好ましくは、粒状導電物質が70〜90wt%であり、繊維状導電物質は30〜10wt%である。空気極触媒層11の総重量に対する導電物質の含有割合は、触媒金属の含有量によって決定される。
【0045】
空気極触媒層11に含まれる粒状導電物質及び繊維状導電物質の割合は、SEM観察や細孔分布測定の結果を合わせることによって測定することができる。
具体的には、SEM観察の場合には、まず、燃料電池から膜電極接合体を取り出し、圧力ダメージ等を与えないように注意しながら1cm×2cmのサイズにカッターで切り出す。切り出した試料を専用ホルダーにクリップで固定させ、2成分型液体エポキシ系冷間埋め込み樹脂(製品名:エポフィクス、丸本ストルアス株式会社製)を流し込み、真空ポンプで減圧したベルジャー内で脱泡しながら硬化させる。硬化した試料入り樹脂の塊をホルダーから取り出し、切断機を使って試料の真ん中(1cm×1cmサイズ)を垂直に切断する。次にその切断面を研磨機により磨く。サンドペーパーは最初粗いものから徐々に細かいものに変え(少なくとも3段階:#800、#1200、#2400の順)、最後の仕上げに専用の不織布で拭き、観察試料を準備する。得られた観察観測試料をSEM観察する。SEMでは試料を垂直に切断された断面を水平になるようセットし、粒状導電性物質と繊維状導電性物質を確認し、その割合を求める。なお、燃料電池から膜電極接合体を取り出し、電解質膜から空気極側の空気極ガス拡散層(例えば、カーボンペーパーにより構成されている)を剥す。空気極触媒層は電解質膜か空気極ガス拡散層のどちらかに貼り付いている状態の剥がされた面を検察しても良い。
【0046】
次に、細孔分布測定は、燃料電池から膜電極接合体を取り出し、電解質膜から空気極側の空気極ガス拡散層(例えば、カーボンペーパーにより構成されている)を剥す。空気極触媒層は電解質膜か空気極ガス拡散層のどちらかに貼り付いている状態で剥がれるので、それらをカッターの刃を用いてこそぎ落とす。セルからMEAを取り出す。電解質膜からカソード側のカーボンペーパーを剥す。触媒層は電解質かカーボンペーパーのどちらかに貼り付いているので、それらをカッターの刃を用いてこそぎ落とす。その得られた触媒層粒子を粒度分布測定装置にて測定する。
【0047】
空気極ガス拡散層12は、空気極触媒層11に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、空気極触媒層11の集電体も兼ねている。
空気極ガス拡散層12は、カーボン材料や導電性高分子などの繊維からなるペーパー、不織布、織布、編物や、導電性の多孔質膜などから形成され、好ましくはカーボンペーパーが用いられる。ガス拡散層には、撥水性を付与しても良いし、撥水性を付与しなくてもよい。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。
【0048】
以上に詳述した第1実施形態に係る膜電極接合体1は、空気極触媒層11に粒状導電物質及び繊維状導電物質が含まれることにより、空気極触媒層11が高い気孔率と優れたガス拡散性を有している。このため、空気が取り込み易く、空気極における反応性が向上し、その結果、出力が向上する。同時に、反応性が向上することによって水の生成が活発になり、燃料極5側へ移動する水が多くなる。
【0049】
一方、燃料極5側では、親水性バリア層10を備えることにより、空気極6から移動してきた水を保持することができ、燃料極触媒層9へ発電反応に必要な水を充分に供給することができるため、出力が向上する。また、発電再開時にも十分な水を供給することができ、発電反応を直ぐに立ち上げることができる。親水性バリア層10はさらに、高濃度で送られる液体燃料に対してのバリア効果を発揮するため、アノード触媒層のダメージを軽減させることができる。
【0050】
さらに、親水性バリア層10が水を保持することにより、発電休止中も膜電極接合体内部の水分が保たれるため、膜電極接合体1の劣化を防ぐことができ、間欠運転を長期間にわたって行っても、高い出力を維持することができる。
【0051】
また、本実施形態では、第2ガス拡散層16を備えることにより、燃料の拡散領域が形成されるため、燃料が均一に供給され、より耐久性に優れた構造を得ることができる。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る膜電極接合体1は、上記構成を有することにより、発電と休止を繰り返す間欠運転を行っても、長期にわたり安定して高い出力を維持することが可能である。
【0053】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る膜電極接合体について説明する。第2実施形態に係る膜電極接合体は、燃料極第2ガス拡散層を備えない他は、上記第1実施形態に係る膜電極接合体と同様の構成を有する。
【0054】
図2は、第2実施形態に係る膜電極接合体200の一実施例を示す拡大断面図である。
図2において、膜電極接合体200は、アノード(燃料極)205と、カソード(空気極)206と、燃料極205及び空気極206の間に配置されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜207とから構成される。電解質膜207及び空気極206は、上記第1実施形態におけるものと同様である。
【0055】
燃料極205は、電解質膜207の一方の面に積層された燃料極触媒層208と、燃料極触媒層208に積層された燃料極ガス拡散層209と、燃料極ガス拡散層に積層された親水性バリア層210とを備える。親水性バリア層210は、上記第1実施形態におけるものと同様である。
【0056】
本実施形態に係る膜電極接合体200は、空気極触媒層211に粒状導電物質及び繊維状導電物質が含まれることにより、空気極触媒層211が高い気孔率と優れたガス拡散性を有している。このため、空気が取り込み易く、空気極における反応性が向上し、その結果、出力が向上する。同時に、反応性が向上することによって水の生成が活発になり、燃料極205側へ移動する水が多くなる。
【0057】
一方、燃料極205側では、親水性バリア層210を備えることにより、空気極206から移動してきた水を保持することができるため、出力が向上するとともに、運転休止中も膜電極接合体200の劣化を防ぐことができる。また、液体燃料に対してのバリア効果を発揮し、アノード触媒層のダメージを軽減させることができる。よって、間欠運転を長期間にわたって行っても、高い出力を維持することができる。
【0058】
本実施形態における親水性バリア層210は、上記第1実施形態と同様に親水性バリア層用スラリーを基材に塗布して乾燥することにより形成されることができる。親水性バリア層用スラリーを塗布する基材として、燃料極ガス拡散層209を用いてもよい。この場合、燃料極ガス拡散層209の一方の面に触媒層208を形成した後、他方の面に親水性バリア層210を形成することが好ましい。
【0059】
本実施形態では、燃料極205が触媒層208、ガス拡散層209及び親水性バリア層210から構成されるため、燃料極の厚みを薄くすることができ、膜電極接合体200の出力性能を向上させることができる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る膜電極接合体について説明する。第3実施形態に係る膜電極接合体は、親水性バリア層が、アノード触媒層とアノードガス拡散層の間に配置された構成を有する。
【0061】
図3は、第3実施形態に係る膜電極接合体300の一実施例を示す拡大断面図である。
図3において、膜電極接合体300は、アノード(燃料極)305と、カソード(空気極)306と、燃料極305及び空気極306の間に配置されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜307とから構成される。電解質膜307及び空気極306は、上記第1実施形態におけるものと同様である。
【0062】
燃料極305は、電解質膜307の一方の面に積層された燃料極触媒層308と、燃料極触媒層308に積層された親水性バリア層310と、親水性バリア層310に積層された燃料極ガス拡散層309とを備える。親水性バリア層310は、上記第1実施形態におけるものと同様である。
【0063】
本実施形態に係る膜電極接合体300は、空気極触媒層311に粒状導電物質及び繊維状導電物質が含まれることにより、空気極触媒層311が高い気孔率と優れたガス拡散性を有している。このため、空気が取り込み易く、空気極における反応性が向上し、その結果、出力が向上する。同時に、反応性が向上することによって水の生成が活発になり、燃料極305側へ移動する水が多くなる。
【0064】
一方、燃料極305側では、親水性バリア層310を備えることにより、空気極306から移動してきた水を保持することができるため、出力が向上するとともに、運転休止中も膜電極接合体300の劣化を防ぐことができる。また、液体燃料に対してのバリア効果を発揮し、アノード触媒層のダメージを軽減させることができる。よって、間欠運転を長期間にわたって行っても、高い出力を維持することができる。
【0065】
本実施形態における親水性バリア層310は、上記第1実施形態と同様に親水性バリア層用スラリーを基材に塗布して乾燥することにより形成されることができる。親水性バリア層用スラリーを塗布する基材として、燃料極ガス拡散層309を用いてもよい。この場合、燃料極ガス拡散層309上に親水性バリア層310を形成し、次いで、該親水性バリア層310上に燃料極触媒層308を形成することが好ましい。
【0066】
本実施形態では、燃料極305が触媒層308、親水性バリア層310及びガス拡散層309から構成されるため、燃料極の厚みを薄くすることができ、膜電極接合体300の出力性能を向上させることができる。また、親水性バリア層310が触媒層308とガス拡散層309の間に配置されることによって、親水バリヤ層に保持された水が、発電に必要な触媒のある触媒層に近い位置にあるため、効率よく水を供給することが可能となる。
【0067】
(燃料電池)
次に、本発明の燃料電池について、図面を参照して説明する。本発明の燃料電池は、上記各実施形態に係る膜電極接合体の何れかを備えるが、ここでは第1実施形態に係る膜電極接合体1を備える場合を例に説明する。図4は、本発明の実施形態に係る燃料電池100の内部透視断面図であり、図5は、図4の燃料電池100の燃料分配機構2を示す斜視図である。
【0068】
図4に示す燃料電池100は、上記で説明した膜電極接合体1と、この膜電極接合体1に燃料を供給する燃料分配機構2と、液体燃料Fを収容する燃料収容部3と、これら燃料分配機構2と燃料収容部3とを接続する流路4とから主として構成されている。
【0069】
燃料電池100において、燃料極第2ガス拡散層16及び空気極ガス拡散層12には、必要に応じて導電層13が積層される。これら導電層13としては、例えば、金、ニッケルなどの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材などが用いられる。また、空気極6にはさらに、カバープレート14が積層される。
【0070】
電解質膜7と各導電層13との間には、それぞれゴム製のOリング15が介在されており、これらによって膜電極接合体(MEA)1からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。
【0071】
図示を省略したが、カバープレート14は酸化剤である空気を取入れるための開口部を有している。このようなカバープレート14を備えることにより、酸化剤を供給するためのブロワを用いることなく、酸化剤をカソード6に自然供給することができる。なお、酸化剤は、空気に限定されるものではなく、O2を含むガスを使用可能である。
【0072】
カバープレート14と空気極6との間には、必要に応じて保湿層や表面層が配置される。保湿層は、空気極触媒層で生成された水の一部が含浸されて水の蒸散を抑制するとともに、カバープレートの開口部から取り込んだ空気の空気極触媒層への取入れ量を調整し且つ空気の均一拡散を促進するものである。また、表面層は空気の取入れ量を調整するものであり、空気の取入れ量に応じて個数や大きさ等が調整された複数の空気導入口を有している。
【0073】
燃料収容部3には、膜電極接合体1に対応した液体燃料Fが収容されている。液体燃料Fとしては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料Fは必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料Fは、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部3には膜電極接合体1に応じた液体燃料Fが収容される。
【0074】
液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、複数の燃料排出口22を有する燃料分配機構2の特徴がより顕在化するのは燃料濃度が濃い場合である。このため、燃料電池は、濃度が80%以上のメタノール水溶液もしくは純メタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。
【0075】
膜電極接合体1の燃料極5側には、燃料分配機構2が配置されている。燃料分配機構2は配管のような液体燃料の流路4を介して燃料収容部3と接続されている。燃料分配機構2には燃料収容部3から流路4を介して液体燃料が導入される。流路4は燃料分配機構2や燃料収容部3と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構2と燃料収容部3とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。燃料分配機構2は流路4を介して燃料収容部3と接続されていればよい。
【0076】
液体燃料を燃料収容部3から燃料分配機構2まで送る機構は特に限定されるものではない。例えば、使用時の設置場所が固定される場合には、重力を利用して液体燃料を燃料収容部3から燃料分配機構2まで落下させて送液することができる。また、多孔体等を充填した流路4を用いることによって、毛細管現象で燃料収容部3から燃料分配機構2まで送液することができる。さらに、燃料収容部3から燃料分配機構2への送液は、図4に示すように、ポンプ17で実施してもよい。あるいは、燃料分配機構2から膜電極接合体1への燃料供給が行われる構成であればポンプ17に代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0077】
燃料分配機構2は、図5に示すように、液体燃料が流路4を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口21と、液体燃料やその気化成分を排出する複数個の燃料排出口22とを有する燃料分配板23を備えている。燃料分配板23の内部には図4に示すように、燃料注入口21から導かれた液体燃料の通路となる空隙部24が設けられている。複数の燃料排出口22は燃料通路として機能する空隙部24にそれぞれ直接接続されている。
【0078】
燃料注入口21から燃料分配機構2に導入された液体燃料は空隙部24に入り、この燃料通路として機能する空隙部24を介して複数の燃料排出口22にそれぞれ導かれる。複数の燃料排出口22には、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示せず)を配置してもよい。これによって、膜電極接合体1の燃料極5には液体燃料の気化成分が供給される。なお、気液分離体は燃料分配機構2と燃料極5との間に気液分離膜等として設置してもよい。液体燃料の気化成分は複数の燃料排出口22から燃料極5の複数個所に向けて排出される。このような気液分離体を備えることにより、親水性バリア層10のバリア効果をさらに補強することができる。
【0079】
燃料排出口22は、膜電極接合体1の全体に燃料を供給することが可能なように、燃料分配板23の燃料極5と対向する面に複数設けられている。燃料排出口22の個数は2個以上であればよいが、膜電極接合体1の面内における燃料供給量を均一化する上で、0.1〜10個/cm2の燃料排出口22が存在するように形成することが好ましい。燃料排出口22の個数が0.1個/cm2未満であると、膜電極接合体1に対する燃料供給量を十分に均一化することができない。燃料排出口22の個数を10個/cm2を超えて形成しても、それ以上の効果が得られない。
【0080】
上述した燃料分配機構2に導入された液体燃料は空隙部24を介して複数の燃料排出口22に導かれる。燃料分配機構2の空隙部24はバッファとして機能するため、複数の燃料排出口22からそれぞれ規定濃度の燃料が排出される。そして、複数の燃料排出口22は膜電極接合体1の全面に燃料が供給されるように配置されているため、膜電極接合体1に対する燃料供給量を均一化することができる。
【0081】
燃料分配機構2から均一に放出された燃料ガスは、燃料極第2ガス拡散層16及び親水性バリア層10を透過し、燃料極ガス拡散層9を拡散して燃料極触媒層8に供給される。燃料としてメタノール燃料を使用する場合には、次の式(A)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。
【0082】
CHOH+HO → CO+6H+6e …式(A)
内部改質反応で生成されたプロトン(H)は、電解質膜7を伝導し、空気極触媒層11に到達する。空気極ガス拡散層12から供給される気体燃料(たとえば空気)は、空気極ガス拡散層12を拡散して、空気極触媒に供給される。空気極触媒に供給された空気は、次の式(B)に示す反応を生じる。この反応によって、水が生成され、発電反応が生じる。
【0083】
(3/2)O+6H+6e → 3HO …式(B)
発電反応により生じた水は、空気極6から電解質膜7を通して燃料極触媒層8に供給される。
【0084】
本実施形態においては、空気極触媒層12が繊維状導電物質を含むため、気孔率が高く均一である。よって、拡散性が高く、空気極に十分な空気を供給することができる。その結果、前述した(B)の反応が促進され、空気極側の発電効率が増加するとともに、水の生成が活発になり、より多くの水が燃料極に十分に戻される。同時に、燃料極には親水性バリア層10が備えられるため、空気極から戻された多くの水を十分に保持し、燃料極の反応に十分な水を供給することができる。その結果、前述した(A)の内部改質反応の反応抵抗が小さくなり、燃料極側の発電効率が増加する。
【0085】
さらに、発電休止中も親水性バリア層10に水分が保持されるため膜電極接合体の劣化が抑制され、間欠運転を長期間行っても高い出力を維持することができる。
【0086】
本発明に適用可能な燃料電池は、その形態から、液体燃料と酸化剤の供給をポンプなどの補器を用いて行うアクティブ型燃料電池、液体燃料の気化成分をアノードに供給するパッシブ型(内部気化型)燃料電池、前述した図4に示すセミパッシブ型の燃料電池などが挙げられる。アクティブ型燃料電池では、メタノール水溶液からなる燃料について、その量が一定になるようにポンプで調整しながらMEAのアノードへ供給する一方、カソードに対しても空気をポンプで供給する方式が採られる。パッシブ型燃料電池では、MEAのアノードに気化したメタノールを自然供給で送り、一方カソードに対しても外部の空気を自然供給することで、ポンプなどの余計な機器を装備しない方式が採られる。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料収容部から膜電極接合体に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部に戻されることはない。セミパッシブ型の燃料電池では、燃料を循環させないことから、アクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、セミパッシブ型の燃料電池は、燃料の供給にポンプを使用しており、内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。なお、このセミパッシブ型の燃料電池では、燃料収容部から膜電極接合体への燃料供給が行われる構成であればポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられる。
【実施例】
【0087】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
<空気極の作製>
触媒を担持した粒状導電物質として、白金を70wt%担持したケッチェン担持体であるTEC10E70TPM(田中貴金属株式会社製)を用いた。また、触媒を担持した繊維状導電物質として、白金を50wt%担持したカーボンナノチューブ(平均線長10μm)を用いた。
【0089】
白金担持ケッチェンブラックと白金担持カーボンナノチューブを、95:5の重量割合で用い、ナフィオン溶液DE2020(デュポン社製)及び溶媒と混合し、触媒スラリーを調製した。
【0090】
ガス拡散層として撥水処理を施したカーボンペーパー(東レ(株)製TGP-H-090)を用い、このカーボンペーパーに触媒スラリーを貴金属の量が3 mg/cm2になるよう塗布し、乾燥させて空気極を得た。
【0091】
<燃料極触媒層の作製>
触媒層の導電物質として、白金ルテニウムを54wt%担持したケッチェン担持体であるTEC60E54DM(田中貴金属株式会社製)を用いた。
【0092】
白金ルテニウム担持ケッチェンブラックを、ナフィオン溶液DE2020(デュポン社製)及び溶媒と混合し、触媒スラリーを調製した。
【0093】
ガス拡散層として撥水処理を施したカーボンペーパー(東レ(株)製TGP-H-120)を用い、このカーボンペーパーに触媒スラリーを貴金属の量が4.5 mg/cm2になるよう塗布し、乾燥させて燃料極触媒層を得た。
【0094】
<親水性バリア層の作製>
カーボン70wt%、ポリビニルアルコール(PVA)20wt%、シリカ(SiO2)10wt%を混合し、溶媒と混合して親水性バリア層用スラリーを調製した。
【0095】
撥水処理を施したカーボンペーパー(東レ(株)製TGP-H-060)に親水性バリア層用スラリーを、厚さ40μmになるよう塗布し、乾燥させて親水性バリア層を得た。親水性バリア層用スラリー中に架橋剤としてマツモトファインケミカル株式会社製オルガチックスTC−315をポリビニルアルコール(PVA)の5wt%の溶液に対して2wt%添加混合。更に、塗布乾燥させた後、150℃のオーブンに10分間熱処理を行い不溶化の処理をした。
【0096】
<膜電極接合体及び燃料電池セルの作製>
上記で作製した空気極、ナフィオン膜(デュポン社製ナフィオンNRE212)、燃料極触媒層、及び、親水性バリア層を順に重ね、温度150℃のホットプレスにて5分間加熱加圧して、膜電極接合体を得た。さらにこの膜電極接合体を用いて試験用の燃料電池セルを組み立てた。
【0097】
(実施例2)
空気極用の触媒スラリーの調製において、白金担持ケッチェンブラックと白金担持カーボンナノチューブを90:10の重量割合で用いた以外は、実施例1と同様に膜電極接合体を作製し、燃料電池セルを組立てた。
【0098】
(実施例3)
空気極用の触媒スラリーの調製において、白金担持ケッチェンブラックと白金担持カーボンナノチューブを80:20の重量割合で用いた以外は、実施例1と同様に膜電極接合体を作製し、燃料電池セルを組立てた。
【0099】
(実施例4)
空気極用の触媒スラリーの調製において、白金担持ケッチェンブラックと白金担持カーボンナノチューブを70:30の重量割合で用いた以外は、実施例1と同様に膜電極接合体を作製し、燃料電池セルを組立てた。
【0100】
(実施例5)
空気極用の触媒スラリーの調製において、白金担持ケッチェンブラックと白金担持カーボンナノチューブを55:45の重量割合で用いた以外は、実施例1と同様に膜電極接合体を作製し、燃料電池セルを組立てた。
【0101】
(比較例1)
空気極用の触媒スラリーの調製において、触媒担持導電物質として白金担持ケッチェンブラックのみを用い、繊維状導電物質を用いなかった。また、燃料極に親水性バリア層を設けなかった。それ以外は、実施例1と同様にして膜電極接合体を作製し、燃料電池セルを組み立てた。
【0102】
(比較例2)
空気極用の触媒スラリーの調製において、触媒担持導電物質として白金担持ケッチェンブラックのみを用い、繊維状導電物質を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、燃料電池セルを組み立てた。
【0103】
(比較例3)
空気極用の触媒スラリーの調製において、白金担持ケッチェンブラックと白金担持カーボンナノチューブを70:30の重量割合で用いた。また、燃料極に親水性バリア層を設けなかった。それ以外は、実施例1と同様にして膜電極接合体を作製し、燃料電池セルを組み立てた。
【0104】
(出力測定)
実施例1〜5及び比較例1〜3の燃料電池セルをそれぞれ燃料電池評価装置に組み込み、燃料極側へは直接メタノールを供給し、空気極側へは25℃50%の空気雰囲気に調整しながら、空気極温度55℃・電圧0.35Vで、初期出力密度及び3000サイクル後の出力維持率を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0105】
空気極触媒層に粒状導電物質と繊維状導電物質を含み、且つ、燃料極に親水性バリア層を備えた実施例1〜5は何れも、親水性バリア層を備えない比較例1及び3、並びに繊維状導電物質を含まない比較例2と比較して初期出力及び出力維持率ともに高かった。
【0106】
比較例2は親水性バリア層を具備するが空気極触媒層に繊維状導電物質を含んでいないため、出力維持率は、比較例1よりは高いものの、実施例1〜5と比較すると顕著に低かった。
【0107】
比較例3は空気極触媒層に繊維状導電物質を含むが親水性バリア層を備えていないため、出力維持率は、比較例1よりは高いものの、実施例1〜5と比較すると顕著に低かった。
【0108】
以上のことから、空気極触媒層に粒状導電物質と繊維状導電物質を含み、且つ、燃料極に親水性バリア層を備えることにより、初期出力及び出力維持率が向上することが示された。
【符号の説明】
【0109】
1…膜電極接合体(MEA)、2…燃料分配機構、3…燃料収容部、4…流路、5…アノード(燃料極)、6…カソード(空気極)、7…電解質膜、8…燃料極触媒層、9…燃料極ガス拡散層、10…親水性バリア層、11…空気極触媒層、12…空気極ガス拡散層、13…導電層、14…カバープレート、15…Oリング、16…燃料極第2ガス拡散層、17…ポンプ、21…燃料注入口、22…燃料排出口、23…燃料分配板、24…空隙部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面側に配置されたアノード触媒層、前記アノード触媒層の前記電解質膜側と反対側に配置されたアノードガス拡散層、及び前記アノードガス拡散層に対向して配置された親水性バリア層を備えるアノードと、
前記電解質膜の他方の面側に配置され、粒状導電物質及び繊維状導電物質を含むカソード触媒層、及びカソードガス拡散層を備えるカソードと、
を具備することを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記親水性バリア層が、前記アノードガス拡散層の前記アノード触媒層側と反対側に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記親水性バリア層の前記アノードガス拡散層側と反対側に、さらに第2ガス拡散層が配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記親水性バリア層が、前記アノード触媒層と前記アノードガス拡散層の間に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記親水性バリア層が、導電物質及び水不溶性ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜電極接合体を具備することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−134600(P2011−134600A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293266(P2009−293266)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】