説明

膜電極複合体、及び固体高分子電解質型燃料電池

【課題】カソード無加湿条件下でも高い出力を有する膜電極接合体及び、その膜電極接合体を備える固体高分子電解質型燃料電池を提供する。
【解決手段】高分子電解質膜と、その高分子電解質膜を両側から挟む、アノード触媒層と、カソード触媒層と、を備える膜電極接合体であって、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層は、それぞれ、導電性粒子とその上に担持された電極触媒粒子とを含む複合粒子と、高分子電解質と、を含み、前記カソード触媒層における前記高分子電解質の25℃における水中含水率が、前記アノード触媒層における前記高分子電解質の25℃における水中含水率よりも大きい、膜電極接合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極複合体、及び固体高分子電解質型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で、水素、メタノール等を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを、直接、電気エネルギーに変換して取り出すものであり、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。特に、固体高分子電解質型燃料電池は、他の燃料電池と比較して低温で作動することから、自動車代替動力源、家庭用コジェネレーションシステム、携帯用発電機等として期待されている。
このような固体高分子電解質型燃料電池は、電極触媒層とガス拡散層とが積層されたガス拡散電極がプロトン交換膜の両面に接合した膜電極接合体を少なくとも備えている。ここでいうプロトン交換膜は、高分子鎖中にスルホン酸基、カルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換膜としては、化学的安定性の高いナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜が好適に用いられる。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池は、電極触媒層、すなわちアノード触媒を備えるアノード触媒層及びカソード触媒を備えるカソード触媒層、が高分子電解質膜であるプロトン交換膜の両面に接合された膜電極接合体(以下「MEA」と略記することがある。)を少なくとも備えている。また、電極触媒層の更に外側に一対のガス拡散層を対向するように接合したものについても、MEAと呼ばれる場合がある。
【0004】
固体高分子電解質型燃料電池の運転時、アノード側のガス拡散電極に燃料(例えば、水素)、カソード側のガス拡散電極に酸化剤(例えば、酸素や空気)がそれぞれ供給され、両電極間が外部回路で接続されることにより、燃料電池の作動が実現される。具体的には、水素を燃料とした場合、アノード触媒上で水素が酸化されてプロトンが生じる。このプロトンは、アノード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通った後、プロトン交換膜内を移動し、カソード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通ってカソード触媒上に達する。一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は、外部回路を通ってカソード側ガス拡散電極に到達する。カソード触媒上では、上記プロトンと酸化剤中の酸素とが反応して水が生成される。そして、このときに電気エネルギーが取り出される。
【0005】
特許文献1には、当量重量(以下、「EW」とも表記する。)が555〜715であり、側鎖に特定の官能基を2個有する繰り返し単位を含むパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を含む電極触媒層を用いる技術が開示されている。また、特許文献2には、EW250〜EW680を有するプロトン伝導性パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を、触媒粒子と共に電極触媒層として用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−186784号公報
【特許文献2】特開2010−225585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固体高分子電解質型燃料電池は、高出力特性を得るために高加湿条件下で運転されるのが通常である。現在、アノードにおいては現状よりも低加湿条件、カソードにおいては無加湿条件下での運転が望まれている。
【0008】
高分子電解質膜としてEWが1100程度である従来のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜、例えばナフィオン(登録商標、デュポン社製)を用いた膜電極接合体を備えた燃料電池は、低加湿条件下、特にカソード無加湿条件下では、燃料電池を運転することができないのが実情である。また、特許文献1及び特許文献2に開示の電極触媒層は、カソード無加湿条件下における出力特性という点において、なお改良の余地を有するものであった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、カソード無加湿条件下でも高い出力を有する膜電極接合体及び、その膜電極接合体を備える固体高分子電解質型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、膜電極接合体に備えられるカソード触媒層及びアノード触媒層における高分子電解質が、特定の関係を有することによって、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
(1)高分子電解質膜と、その高分子電解質膜を両側から挟む、アノード触媒層と、カソード触媒層と、を備える膜電極接合体であって、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層は、それぞれ、導電性粒子とその上に担持された電極触媒粒子とを含む複合粒子と、高分子電解質と、を含み、前記カソード触媒層における前記高分子電解質の25℃における水中含水率が、前記アノード触媒層における前記高分子電解質の25℃における水中含水率よりも大きい、膜電極接合体。
(2)高分子電解質膜と、その高分子電解質膜を両側から挟む、アノード触媒層と、カソード触媒層と、を備える膜電極接合体であって、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層は、それぞれ、導電性粒子とその上に担持された電極触媒粒子とを含む複合粒子と、高分子電解質と、を含み、前記カソード触媒層における前記高分子電解質の当量重量が、前記アノード触媒層における前記高分子電解質の当量重量よりも小さい、膜電極接合体。
(3)前記カソード触媒層における前記高分子電解質の当量重量が、前記アノード触媒層における前記高分子電解質の当量重量よりも、100〜1000小さい、(1)又は(2)の膜電極接合体。
(4)前記カソード触媒層における前記高分子電解質の当量重量が、250〜1000である、(1)〜(3)のいずれか1つの膜電極接合体。
(5)前記カソード触媒層における前記高分子電解質が、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であり、前記パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂は、下記一般式(1):
−(CF2−CFZ)− (1)
(式中、Zは、H、Cl、F又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を示す。)
で表される繰り返し単位と、下記一般式(2):
−(CF2−CF(−O−(CF2m−SO3H))− (2)
(式中、mは1〜12の整数である。)
で表される繰り返し単位と、を有する共重合体である、(1)〜(4)のいずれか1つの膜電極接合体。
(6)(1)〜(5)のいずれか1つの膜電極接合体を備える固体高分子電解質型燃料電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、カソード無加湿条件下でも高い出力を有する膜電極接合体及び、その膜電極接合体を備える固体高分子電解質型燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下「本実施の形態」と記載する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施の形態の膜電極接合体は、高分子電解質膜と、その高分子電解質膜を両側から挟むアノード触媒層とカソード触媒層とを備える。アノード触媒層は、アノードとしての燃料電池用電極触媒層(以下、単に「電極触媒層」ともいう。)であり、カソード触媒層は、カソードとしての電極触媒層である。各電極触媒層は、それぞれ、導電性粒子とその上に担持された電極触媒粒子とを含む複合粒子と、高分子電解質とを含む。
【0015】
まず、高分子電解質について説明する。本実施の形態において用いられる高分子電解質としては、例えば、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物、分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物にイオン交換基を導入したものが好ましい。上記分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルスルホン、ポリチオエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサジノン、ポリキシリレン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセン、ポリシアノゲン、ポリナフチリジン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステル及びポリカーボネートが挙げられる。高分子電解質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0016】
中でも、上記分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物としては、耐熱性、耐酸化性及び耐加水分解性の観点から、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルスルホン、ポリチオエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサジノン、ポリキシリレン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセン、ポリシアノゲン、ポリナフチリジン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリイミド及びポリエーテルイミドが好ましい。上記分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物の芳香族環に導入するイオン交換基としては、例えば、スルホン酸基、スルホンイミド基、スルホンアミド基、カルボン酸基及びリン酸基が挙げられ、スルホン酸基であることが好ましい。
【0017】
本実施の形態において用いられる高分子電解質としては、化学的安定性の観点から、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物が好適である。上記イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂、パーフルオロカーボンスルホンイミド樹脂、パーフルオロカーボンスルホンアミド樹脂、パーフルオロカーボンリン酸樹脂、又はこれら樹脂のアミン塩、金属塩が挙げられる。これらの中では、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂が特に好ましい。
【0018】
本実施形態におけるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂としては、特に限定されないが、下記一般式(2A)で表されるフッ化ビニルエーテル化合物と下記一般式(1A)で表されるフッ化オレフィンモノマーとの共重合体からなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体を加水分解して得られるものが好ましい。
【0019】
CF2=CF−O−(CF2CFXO)n−(CF2m−W (2A)
ここで、式(2A)中、Xは、フッ素原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を示し、nは0〜5の整数であり、mは0〜12の整数である。ただし、nとmとは同時に0にならない。Wは加水分解によりSO3Hに転換し得る官能基である。
CF2=CFZ (1A)
ここで、式(1A)中、Zは、水素原子、塩素原子、フッ素原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を示す。
【0020】
上記式(2A)中の加水分解によりSO3Hに転換しうる官能基であるWとしては、SO2F、SO2Cl又はSO2Brが好ましい。また、上記式(2A)及び(1A)において、XがCF3、WがSO2F、Zがフッ素原子であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体が好ましく、中でも、nが0であり、mが0〜6の整数(ただし、nとmとは同時に0にならない)であり、XがCF3、WがSO2F、Zがフッ素原子であるものが、高い樹脂濃度の溶液が得られる観点から、より好ましい。
【0021】
上記パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体は、公知の手段により合成できる。例えば、含フッ素炭化水素等の重合溶剤を使用し、上記フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを充填溶解して反応させ重合する方法(溶液重合)、含フッ素炭化水素等の溶媒を使用せずフッ化ビニル化合物そのものを重合溶剤として重合する方法(塊状重合)、界面活性剤の水溶液を媒体として、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを充填して反応させ重合する方法(乳化重合)、界面活性剤及びアルコール等の助乳化剤の水溶液に、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを充填乳化して反応させ重合する方法(ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合)、及び懸濁安定剤の水溶液にフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを充填懸濁して反応させ重合する方法(懸濁重合)が挙げられる。本実施形態においては、いずれの重合方法で合成されたものでも使用することができる。
【0022】
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂は、下記式(1):
−(CF2−CFZ)− (1)
で表される繰り返し単位と、下記一般式(2B):
−(CF2−CF(−O−(CF2CFXO)n−(CF2m−SO3H))− (2B)
で表される繰り返し単位とを有する共重合体であると好ましい。ここで、式(1)中、Zは上記式(1A)におけるものと同義であり、式(2B)中、Xはフッ素原子又はCF3であり、nは0〜5の整数であり、mは0〜12の整数である。ただし、nとmとは同時に0にならない。パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂が上記構造を有する共重合体であると、膜電極接合体は高性能を有し、かつ燃料電池運転中に生成する過酸化水素ラジカルへの耐性が強くなる傾向にある。
また、カソード触媒層におけるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2):
−(CF2−CF(−O−(CF2m−SO3H))− (2)
で表される繰り返し単位とを有する共重合体であると好ましい。ここで、式中、mは1〜12の整数である。パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂が上記構造を有する共重合体であると、含水率が高くなり、かつプロトン伝導性が向上する傾向にある。
【0023】
さらに、上記一般式(2)中、mが1〜6の整数であると、燃料電池の発電性能の観点からより好ましい。
【0024】
また、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の耐久性を改善するために、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の前駆体が有する不安定末端基を、安定化処理してもよい。上記前駆体が有する不安定末端基としては、カルボン酸基(−COOH)、カルボン酸塩の基(−COOM;Mは塩を形成する金属原子)、カルボン酸エステル基(−COOR;Rは1価の有機基)、カーボネート基(−OCOOR;Rは1価の有機基)、アルキル基及びメチロール基(−CH2OH)が挙げられる。不安定末端基は、上記重合方法や、その重合方法に用いられる開始剤、連鎖移動剤、重合停止剤の種類等によって変化する。例えば、重合方法として乳化重合を選択し、連鎖移動剤を用いない場合、不安定末端基はそのほとんどがカルボン酸基となる。上記前駆体が有する不安定末端基を安定化する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、前駆体をフッ素化剤で処理して不安定末端基を−CF3に変換して安定化する方法、前駆体を加熱脱炭酸して不安定末端基を−CF2Hに変換して安定化する方法が挙げられる。
【0025】
本実施の形態における膜電極接合体の一つの例において、カソード触媒層における高分子電解質の25℃における水中含水率が、アノード触媒層における高分子電解質の25℃における水中含水率よりも大きい。高分子電解質の水中含水率は、高分子電解質を25℃の水中に1時間静置後、水中から取り出して表面の水滴を拭き取った後の質量(含水質量)と、それを更に160℃で十分乾燥した後の質量(乾燥質量)とをそれぞれ測定し、乾燥質量に対する含水質量の質量増加率として表される。一般的に、水中含水率は、当量重量(以下、「EW」とも表記する。)が小さいと高く、当量重量が大きいと低い。ここで、「当量重量」とは、プロトン交換基1当量あたりの高分子電解質の乾燥質量グラム数を意味する。
【0026】
上述から明らかなとおり、高分子電解質の25℃における水中含水率は、例えば、当量重量により調整することができる。より詳細には、当量重量を小さくすることにより、高分子電解質の水中含水率を高くすることができる。
【0027】
また、本実施の形態における高分子電解質は、吸水性の微細粒子状及び/又は繊維状シリカを含有することにより、含水性が付与されてもよい。さらに、非定形の吸水性材料を高分子電解質中に均一に分散させる方法として、ゾルゲル反応を利用して吸水性金属酸化物を含有させる方法を用いてもよい。
【0028】
本実施の形態において、アノード触媒層における高分子電解質の25℃における水中含水率は、特に限定されないが、好ましくは10〜200%であり、より好ましくは10〜100%であり、更に好ましくは20〜100%である。一方、カソード触媒層における高分子電解質の25℃における水中含水率は、特に限定されないが、好ましくは20〜500%であり、より好ましくは20〜400%であり、更に好ましくは50〜400%である。
【0029】
本実施の形態において、カソード触媒層における高分子電解質とアノード触媒層における高分子電解質との間で、25℃における水中含水率の差は、カソード触媒層における高分子電解質の25℃における水中含水率が、アノード触媒層における高分子電解質の25℃における水中含水率よりも1.5〜50倍大きいことが好ましく、1.5〜40倍大きいことがより好ましく、2〜20倍大きいことが更に好ましい。25℃における水中含水率を上記範囲に設定し、かつ後述の複合粒子を共存させることにより、カソード無加湿下での燃料電池運転時に、より高い出力を実現することが可能となる。
【0030】
本実施の形態における膜電極接合体の別の一例において、カソード触媒層における高分子電解質の当量重量が、アノード触媒層における高分子電解質の当量重量よりも小さい。本実施の形態において、アノード触媒層における高分子電解質の当量重量としては、特に限定されないが、350〜2000であることが好ましく、より好ましくは400〜1500であり、更に好ましくは500〜1000である。一方、カソード触媒層における高分子電解質の当量重量としては、特に限定されないが、250〜1000であることが好ましく、より好ましくは300〜900であり、更に好ましくは400〜800である。低いEWを有する高分子電解質は、高いプロトン伝導度を有する傾向にあるので、カソード触媒層の高分子電解質として用いることが望ましい。EWが250以上であることにより、耐熱水溶解性が十分となる傾向にあり、EWが1000以下であることにより、プロトン伝導度の低下を抑制でき、カソードに十分なプロトンを供給しやすくなる傾向にある。高分子電解質の当量重量は、高分子電解質を塩置換し、その溶液をアルカリ溶液で逆滴定することにより測定することができる。
【0031】
高分子電解質の当量重量は、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の場合、例えば、フッ化ビニルエーテル化合物(例えば上記一般式(2A)で表されるもの)とフッ化オレフィンモノマー(例えば上記一般式(1A)で表されるもの)との重合比を変えることにより調整することができる。より詳細には、フッ化ビニルエーテル化合物の重合比を大きくすることにより、高分子電解質の当量重量を小さくすることができる。
【0032】
アノード触媒層における高分子電解質とカソード触媒層における高分子電解質との間での当量重量の差は、特に限定されないが、カソード触媒層における高分子電解質の当量重量が、アノード触媒層における高分子電解質の当量重量よりも100〜1000小さいことが好ましく、150〜1000小さいことがより好ましく、200〜1000小さいことが更に好ましい。
【0033】
アノード触媒層における高分子電解質とカソード触媒層における高分子電解質とは互いに同一の電解質であっても異なる電解質であってもよい。また、互いに異なる高分子電解質である場合、少なくともいずれか一方がパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であると好ましい。さらに、それらの高電子電解質が互いに同一であっても異なっていても、いずれもがパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であると好ましく、いずれもが上記で好ましいパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂として説明したもの、例えば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位と上記一般式(2)で表される繰り返し単位とを有する共重合体、であると更に好ましい。
【0034】
次に、本実施形態に係る電極触媒層に含有される、導電性粒子上に触媒粒子を担持した複合粒子について説明する。
【0035】
導電性粒子を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛及び各種金属が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
導電性粒子の平均粒子径は、好ましくは10オングストローム〜10μmであり、より好ましくは50オングストローム〜1μmであり、更に好ましくは100オングストローム〜5000オングストロームである。導電性粒子がこのように微粒子化された平均粒子径を有することにより、その表面積を増大させ触媒粒子を効率よく分散して担持するという効果が得られる。導電性粒子の平均粒子径は、主に透過型電子顕微鏡により目視にて測定することができる。
【0037】
触媒粒子は、アノード触媒層では、例えば水素などの燃料を酸化して容易にプロトンを生成すると共に、カソード触媒層では、プロトン及び電子と、例えば酸素及び空気などの酸化剤とを反応させて水を生成させる機能を有する。
【0038】
触媒粒子を構成する材料は、上記反応に寄与するものであれば特に限定されないが、上記反応に対する触媒活性が高くなる傾向にあるため、特に白金が好ましい。また、CO等の不純物に対する白金の耐性を強化するために、白金にルテニウム等の貴金属を添加したもの、あるいは、それらを合金化したものも好ましい。貴金属は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0039】
触媒粒子の平均粒子径は、10オングストローム〜1000オングストロームであると好ましく、10オングストローム〜500オングストロームであるとより好ましく、15オングストローム〜100オングストロームであると更に好ましい。触媒粒子が上記範囲の平均粒子径を有することにより、表面積を増大させバインダーポリマーとの接触面積を増大させることができるという効果を奏する。触媒粒子の平均粒子径は、主に透過型電子顕微鏡により目視にて測定することができる。
【0040】
本実施形態に係る複合粒子においては、触媒粒子が複合粒子100質量%に対して、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは20〜80質量%担持されていることが好ましい。触媒粒子の担持量を上記範囲内に調整することにより、所望の触媒活性を容易に得られる傾向にある。
【0041】
本実施形態に係る複合粒子は、固体粒子上に触媒粒子を担持させる常法により製造されてもよく、市販のものを入手してもよい。市販の複合粒子としては、例えば、田中貴金属工業(株)社製、商品名「TEC10E40E」、デグッサ(株)社製、商品名「F101RA/W」が挙げられる。
【0042】
電極触媒層における上記複合粒子の含有量は、電極触媒層の一方の主面の面積に対して、好ましくは0.001〜10mg/cm2であり、より好ましくは0.01〜5mg/cm2であり、更に好ましくは0.1〜1mg/cm2である。発電量は触媒粒子の総面積、すなわち質量に依存するため、複合粒子の含有量を0.001mg/cm2以上にすることにより、高い発電特性を得ることが容易になる。また、複合粒子の含有量を10mg/cm2以下にすることにより、電解質のプロトン伝導抵抗による電圧ロスを抑制できるため、より高い発電特性が得られる傾向にある。
【0043】
上記触媒粒子に対する上記高分子電解質の質量比は、プロトン伝導性を良好なものとする観点から、好ましくは0.1以上、より好ましく0.5以上である。また、上記質量比は、電子伝導性及び燃料ガス拡散性を向上させる観点から、好ましくは10以下、より好ましくは2以下である。
【0044】
本実施形態の電極触媒層の厚みは、好ましくは0.1〜50μmであり、より好ましくは0.5〜30μmであり、更に好ましくは1〜20μmである。厚みが0.1μm以上であると、十分な発電性能を示し得る触媒担持量の電極触媒層を形成させることが容易となる。また、厚みが50μm以下であると、電極触媒層内のガス拡散性の低下を抑制できると共に電気抵抗も低くすることができる。なお、電極触媒層の厚みは、接触式膜厚計によって測定することができる。
【0045】
本実施形態の電極触媒層は、イオン伝導性を良好なものにする観点から、その空隙率が、好ましくは1体積%以上、より好ましくは10体積%以上、更に好ましくは20体積%以上である。また、燃料ガス及び発電により発生した水の拡散性を向上させる観点から、上記空隙率が99体積%以下であると好ましく、90体積%以下であるとより好ましく、80体積%以下であると更に好ましい。なお、電極触媒層の空隙率は水銀圧入法により測定することができる。
【0046】
次に、本実施形態に係る膜電極接合体の製造方法について説明する。膜電極接合体の製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法であってもよい。例えば、電極触媒層に含まれる高分子電解質がパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂である場合、以下の(1)〜(3)の各工程を含む方法により膜電極接合体を得ることが望ましい。すなわち、(1)パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶媒に溶解又は懸濁してパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得る工程と、(2)パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液と上述の複合粒子と溶媒とを混合した混合液を得る工程と、(3)上記混合液を用いて高分子電解質膜上に電極触媒層を形成させ、膜電極接合体を得る工程とを含む方法であると好ましい。
以下、各工程について説明する。
【0047】
(工程1)
工程1では、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶媒に溶解又は懸濁して高分子電解質溶液であるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得る。なお、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液には、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶媒に懸濁して得られるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂懸濁液も包含される。パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液の状態として、より具体的には、液体中に液体粒子がコロイド粒子又はそれよりも粗大な粒子として分散して乳状をなす乳濁液、液体中に固体粒子がコロイド粒子又は顕微鏡で見える程度の粒子として分散した懸濁液、巨大分子が分散した状態のコロイド状液体、多数の小分子が分子間力で会合して形成された親液コロイド分散系であるミセル状液体も包含される。パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液は、これらのうちの1種の状態であってもよく、2種以上を組み合わせた状態であってもよい。
【0048】
上記溶媒としてはパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂との親和性が良好な溶媒が好ましく、具体的には、水、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、グリセリンに代表されるプロトン性有機溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンに代表される非プロトン性溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。1種の溶媒を用いる場合、溶媒として特に水が好ましい。また、2種以上の溶媒を組み合わせて用いる場合、水とプロトン性有機溶媒との混合液が特に好ましい。
【0049】
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶媒に溶解又は懸濁する方法は、特に限定されない。例えば、まず、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を溶媒(例えば水とプロトン性有機溶媒との混合溶媒)に添加して組成物を得る。次に、得られた組成物を必要に応じてガラス製内筒を有するオートクレーブ中に収容し、窒素などの不活性気体でオートクレーブ内部の空気を置換した後、内温が50℃〜250℃の条件下、0.25〜12時間で加熱及び攪拌する。これにより、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液が得られる。パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液における総固形分濃度は0.5〜50質量%であると好ましく、1〜50質量%であるとより好ましく、3〜40質量%であると更に好ましく、5〜30質量%であると特に好ましい。その総固形分濃度が0.5質量%以上であると、電極触媒層の収率が向上する傾向にあり、50質量%以下であると、粘度の上昇に伴う取扱いの困難性及び未溶解物の発生を抑制できる傾向にある。
【0050】
溶媒として水とプロトン性有機溶媒との混合液を用いる場合、それらの混合比は、溶解方法、溶解条件、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の種類、総固形分濃度、溶解温度、攪拌速度等に応じて適宜選択される。ただし、プロトン性有機溶媒が多くなると溶液粘度が高くなり、水が多くなると溶解し難くなることから、水に対するプロトン性有機溶媒の質量比が、0.1〜10であると好ましく、0.1〜5であるとより好ましい。
【0051】
上記パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液は、工程2に供する前に濃縮してもよい。濃縮の方法としては特に限定されないが、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を、加熱して溶媒を揮発させる方法、減圧濃縮する方法が挙げられる。濃縮して得られるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液における総固形分濃度は0.5〜50質量%であると好ましく、1〜50質量%であるとより好ましく、3〜40質量%であると更に好ましく、5〜30質量%であると特に好ましい。その総固形分濃度が0.5質量%以上であると電極触媒層の収率が向上する傾向にあり、50質量%以下であると、粘度の上昇に伴う取扱いの困難性及び未溶解物の発生を抑制できる傾向にある。
【0052】
上述のようにして得られた未濃縮又は濃縮後のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を更にろ過してもよい。ろ過することにより、未溶解ポリマー、ゲル化ポリマー、大きな分散ポリマー、又はパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得るまでの工程中に混入した塵などを取り除くことができる。ろ過に用いるろ材としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースが挙げられる。ろ材の孔径も特に限定されず、例えば、0.5〜100μmの範囲であってもよい。
【0053】
(工程2)
工程2では、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液と上述の複合粒子と溶媒とを混合した混合液すなわち燃料電池用電極触媒組成物(以下「電極触媒組成物」ともいう。)を得る。それらの混合は常法により行われ、溶媒中のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液及び複合粒子の分散性を向上させるために、様々な装置を用いてそれらの分散処理を行ってもよい。上記装置としては、例えば、ホモジナイザー、ボールミル、超音波処理、加圧分散処理が挙げられる。
【0054】
電極触媒組成物の溶媒としては、例えば、水、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシドが挙げられ、好ましくは水、エタノール、1−プロパノールであり、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。電極触媒組成物は、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のスルホン酸単位モル当りの低級アルコール溶媒量(低級アルコール/SO3H)(モル比)が好ましくは100以上、より好ましくは170以上である。その割合が100以上であることにより、組成物のゲル化が抑制される傾向にある。このゲル化抑制効果は、当量重量が250〜680のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を含む電極触媒組成物において顕著である。一方、当量重量が700以上のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を含む電極触媒組成物では、上記割合が100未満でもゲル化は顕著に進行せず、流動性の高いものが得られる。
【0055】
(工程3)
工程3では、上記混合液を用いて高分子電解質膜上に電極触媒層を形成させ、膜電極接合体を得る。本実施形態の膜電極接合体は、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液と複合粒子とを含有する混合液である電極触媒組成物を、高分子電解質膜上に塗布して電極触媒層を形成させ、更に乾燥及び熱処理を施すことで得られる。あるいは、上記電極触媒組成物を基材上、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上に塗布して、更に乾燥及び熱処理を施して電極触媒層を得た後、その電極触媒層を高分子電解質膜に積層して接合することによって、本実施形態の膜電極接合体が得られる。この場合、電極触媒層と高分子電解質膜とをその積層方向に100〜200℃で加熱プレスすることにより、それらを接合することができる。
【0056】
電極触媒組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法等の一般的に知られている各種塗布方法を用いることが可能である。
【0057】
上述のようにして得られた本実施の形態の電極触媒層の耐熱水溶解性を向上させる観点から、工程3で電極触媒層を形成した後に電極触媒層に対して熱処理を施すことが好ましい。この熱処理における電極触媒層の加熱温度は、130〜200℃であると好ましく、150〜180℃であるとより好ましい。加熱温度は、電極触媒層の熱水への溶解抑制、電池性能の観点から130℃以上、高分子電解質の熱酸化分解抑制の観点から200℃以下が好ましい。
【0058】
また、この熱処理における電極触媒層の加熱時間は、3〜120分であると好ましく、5〜90分であるとより好ましい。加熱時間は、電極触媒層の熱水への溶解抑制、電池性能の観点から5分以上、高分子電解質の熱酸化分解抑制の観点から120分以下が好ましい。
【0059】
本実施の形態の膜電極接合体が備える高分子電解質膜の種類としては特に限定されないが、その膜電極接合体が備える電極触媒層を構成する高分子電解質と同じ分子構造を有する高分子電解質を含有する高分子電解質膜が好ましい。
【0060】
また、このような高分子電解質膜は、ポリアゾール及び/又はチオエーテル基を有するポリマーを0.1〜10質量%含有するか、それに代えて/加えて、公知の活性ラジカルスカベンジャーやH22分解触媒作用を有する物質を含有することが、化学的安定性の観点から好ましい。また、公知の補強材で補強された膜であってもよい。なお、公知の炭化水素電解質を含有する電解質膜であっても、必要に応じて、その接合に、イオン伝導に影響のない接着層等設けるなどの工夫を施すことによって、本実施の形態に係る高分子電解質膜として用いることができる。
【0061】
更に、このような高分子電解質膜のEWとしては特に制限はないが、250〜1200であることが好ましく、250〜900であるとより好ましい。また、膜厚としては、1〜500μmであると好ましく、2〜100μmであるとより好ましく、5〜50μmであると更に好ましい。
【0062】
本実施の形態の膜電極接合体は、更に必要に応じて、各電極触媒層の外側に一対のガス拡散層を備えてもよい。その膜電極接合体がガス拡散層を備える場合も、電極触媒層と高分子電解質膜とを接合するのと同様に、電極触媒層に加熱プレスしてガス拡散層を接合すればよい。
【0063】
本実施の形態の固体高分子電解質型燃料電池は、上記本実施の形態の膜電極接合体を備える以外は、バイポーラプレート、バッキングプレートといった一般的な固体高分子型燃料電池に用いられる構成要素を備えることができる。
【0064】
このうちバイポーラプレートは、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流動させるための溝を形成したグラファイト又はグラファイトと樹脂との複合材料、金属製のプレート等のことである。バイポーラプレートは、電子を外部負荷回路へ伝達する機能を有する他に、燃料や酸化剤を電極触媒近傍に供給する流路としての機能を有している。
【0065】
例えば、一対のバイポーラプレートとそれらのバイポーラプレートの間に挿入したMEAとを備える複合体を複数積み重ねることにより、本実施の形態の固体高分子電解質型燃料電池が作製される。
【0066】
固体高分子電解質型燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素又は空気を供給することによって行われる。
【0067】
本実施の形態に係る固体高分子電解質型燃料電池は、例えば、運転温度80〜90℃、アノード加湿温度60℃、カソード無加湿条件下であっても、良好な出力特性を有している。この詳細な理由は詳らかではないが、カソードの高分子電解質の含水率をアノードの高分子電解質の含水率よりも大きくすることによって、燃料電池運転で生成した水が高分子電解質膜を通過し、カソード側からアノード側に移動する水の逆拡散を促進すると考えられる。その結果、高分子電解質膜のプロトン伝導性が上昇するため、カソード無加湿条件下において高出力特性を得ることができると考えられる。
【0068】
本実施の形態の電極触媒層は、燃料電池の電極触媒層としての用途の他、クロルアルカリ、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に備えられる電極触媒層として用いることも可能である。
【0069】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は、上記形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【実施例】
【0070】
以下、本実施の形態を実施例に基づいて具体的に説明するが、本実施の形態は下記実施例に制限されるものではない。
【0071】
(25℃における水中含水率の測定)
高分子電解質を25℃の水中に1時間静置後、水中から取り出し、表面の水滴を拭き取った後秤量した(含水質量)。次いで、高分子電解質を160℃で乾燥させ、乾燥後の質量を秤量した(乾燥質量)。乾燥質量に対する含水質量の質量増加率を算出し、25℃水中含水率とした。25℃水中含水率の数値が高いほど含水性が高いことを示す。
【0072】
(EWの測定)
高分子電解質を、25℃で飽和NaCl水溶液30mLに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した。次いで、その飽和NaCl水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和滴定後に得られたスルホン酸基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっている電解質膜を純水ですすぎ、更に真空乾燥した後に秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、スルホン酸基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっている電解質膜の質量をW(mg)とし、下記式(A)より当量重量EW(g/eq)を求めた。
EW=(W/M)−22 (A)
【0073】
(プロトン伝導度の測定)
日本ベル(株)社製の高分子膜水分量試験装置MSB−AD−V−FC(商品名)を用いて、高分子電解質のプロトン伝導度を測定した。
【0074】
(メルトフローレート(MFR)の測定)
高分子電解質の前駆体のMFRは、ASTM規格D1238に従って、270℃、荷重2.16kgの条件下で、MELT INDEXER TYPE C−5059D(商品名、東洋精機社製)を用いて測定した。MFRの単位として、押し出された前駆体の質量を10分間当たりのグラム数で表した。
【0075】
(燃料電池評価)
膜電極接合体の電池特性を調べるため、下記のような燃料電池評価を実施した。まず、アノード側ガス拡散層とカソード側ガス拡散層とを対向させて、それらの間に膜電極接合体を挟み込み、評価用セルに組み込んだ。アノード側及びカソード側のガス拡散層として、カーボンペーパー(GDL35BC,SGLカーボン社製)を用いた。この評価用セルを評価装置(東陽テクニカ(株))に設置して以下の条件1及び2で評価した。
(条件1)セル温度80℃、アノード加湿温度60℃、カソード無加湿
(条件2)セル温度90℃、アノード加湿温度60℃、カソード無加湿
水素ガスは、水バブリング方式により加湿して評価用セルへ供給した。空気ガスは、空気ガスボンベから直接ガスを評価用セルへ供給した。各条件下、評価用セルを0.25A/cm2の電圧で30分間保持した後、電圧、抵抗を測定した。このとき、ガス流量は、水素ガスの利用率が75%、空気ガスの利用率が55%になるように設定した。
【0076】
(実施例1)
(パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体の作製)
ステンレス製攪拌式オートクレーブに、C715COONH4の10%水溶液と純水とを仕込み、十分に真空、窒素置換を行った後、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)(以下、「TFE」と略記する。)ガスを導入して、ゲージ圧力で0.7MPaまで昇圧した。引き続いて、過硫酸アンモニウム水溶液を注入して重合を開始した。重合により消費されたTFEを補給するため、連続的にTFEガスを供給してオートクレーブの圧力を0.7MPaに保持するようにし、かつ、供給したTFEに対して、質量比で2.00倍に相当する量のCF2=CFO(CF22−SO2Fを連続的に供給して重合を行った。こうして、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のペレットを得た。また、供給するCF2=CFO(CF22−SO2Fの質量比を2.00から0.70に変更する以外は上記と同様にして、別のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のペレットを得た。
【0077】
(パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液の作製)
上述のようにして得られたパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体のペレットを準備した。それらのペレットを、水酸化カリウム(15質量%)とメチルアルコール(50質量%)とを溶解した水溶液中で、80℃で20時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、それらのペレットを水溶液から取り出して、60℃の水中に5時間浸漬して、水から取り出した。次に、それらのペレットを、60℃の2N塩酸水溶液に1時間浸漬させる処理を、毎回塩酸水溶液を更新して5回繰り返した後、イオン交換水で水洗、乾燥した。これにより、互いに異なるEWを有する、−(CF2−CF2)−で表される繰り返し単位と、−(CF2−CF(−O−(CF22−SO3H))−で表される繰り返し単位とを有するパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂A1及びA2のペレットを得た。
【0078】
加水分解、及び酸処理後のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のEWはA1について455、A2について720であった。これらの樹脂のMFR(前駆体にて測定)は、A1について0.4、A2について3.0であった。これら樹脂の25℃における水中含水率は、A1について337質量%、A2について36質量%であった。これらの樹脂の120℃、30%RH条件におけるプロトン伝導度は、A1において0.09S/cm、A2について0.02S/cmであった。
【0079】
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のペレットをエタノール水溶液(水:エタノール=50:50(質量比))と共に5Lオートクレーブ中に入れて密閉し、翼で攪拌しながら160℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、5質量%の均一なパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂分散液を作製した。次に、100gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂分散液に純水100gを添加、攪拌した後、この液を80℃に加熱して、攪拌しながら、固形分濃度が20質量%になるまで濃縮して、20%パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂分散液を得た。樹脂A1の分散液をAS1、樹脂A2の分散液をAS2とする。
【0080】
(膜電極接合体の作製)
Pt担持カーボン(田中貴金属社製、商品名「TEC10E40E」、Pt36.4質量%担持)1.00gに対し、20質量%パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液AS1又はAS2を2.0g、エタノールを8.4g添加した後、ホモジナイザーでよく混合して電極インクを得た。樹脂溶液AS1から得られた電極インクをBS1、樹脂溶液AS2から得られた電極インクをBS2とする。
電極インクBS1をスクリーン印刷法にて高分子電解質膜(商品名「イオン交換膜−SF7203」、20μm、旭化成イーマテリアルズ株式会社製)の一面に塗布し、これをカソード触媒層とした。その高分子電解質膜の他面に電極インクBS2をスクリーン印刷法にて塗布し、これをアノード触媒層とした。塗布量は、カソード触媒層においてPt担持量及びポリマー担持量が共に0.3mg/cm2となるように、また、アノード触媒層においてPt担持量及びポリマー担持量が共に0.2mg/cm2となるように調整した。塗布後、室温下で1時間、空気中140℃で5分間熱処理を行うことにより、高分子電解質膜と、それを挟むアノード触媒層とカソード触媒層とを備える膜電極接合体を得た。
【0081】
この膜電極接合体を用いて、燃料電池評価を上述のようにして行った。その結果を表1に示す。電圧は、条件1で0.745V、条件2で0.659Vとなり、カソード無加湿条件においても高い電圧を示した。そのときの抵抗は、条件1で157mΩ・cm2、条件2で343mΩ・cm2であった。
【0082】
(比較例1)
カソード触媒層及びアノード触媒層を形成するための電極インクに両方ともBS2を用いたこと以外は実施例1と同様にして膜電極接合体を作製し、燃料電池評価を行った。その結果、電圧は、条件1で0.701V、条件2で0.540Vとなり、カソード無加湿条件において実施例1に比べて電圧が低下した。そのときの抵抗は、条件1で198mΩ・cm2、条件2で544mΩ・cm2であり、実施例1に比べて抵抗が増大した。
【0083】
(比較例2)
カソード触媒層及びアノード触媒層を形成するための電極インクに両方ともBS1を用いたこと以外は実施例1と同様にして膜電極接合体を作製し、燃料電池評価を行った。その結果、電圧は、条件1で0.708V、条件2で0.558となり、カソード無加湿条件において実施例1に比べて電圧が低下した。そのときの抵抗は、条件1で201mΩ・cm2、条件2で548mΩ・cm2であり、実施例1に比べて抵抗が増大した。
【0084】
(比較例3)
カソード触媒層の電極インクにBS2を、アノード触媒層の電極インクにBS1を用いたこと以外は実施例1と同様にして膜電極接合体を作製し、燃料電池評価を行った。その結果、電圧は、条件1で0.684V、条件2で0.321となり、カソード無加湿条件において実施例1に比べて電圧が低下した。そのときの抵抗は、条件1で206mΩ・cm2、条件2で1050mΩ・cm2であり、実施例1に比べて抵抗が増大した。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例1及び比較例1〜3の結果から明らかなように、カソード触媒層における高分子電解質の25℃における水中含水率を、アノード触媒層における高分子電解質の25℃における水中含水率よりも大きくすることによって、カソード無加湿条件下において高出力を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の膜電極接合体は、カソード無加湿条件下、例えば、運転温度80〜90℃、アノード加湿60℃、カソード無加湿の条件下で高い出力を有する。そのため、本発明の膜電極接合体を備えることで、加湿器を省略した固体高分子電解質型燃料電池等を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、その高分子電解質膜を両側から挟む、アノード触媒層と、カソード触媒層と、を備える膜電極接合体であって、
前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層は、それぞれ、導電性粒子とその上に担持された電極触媒粒子とを含む複合粒子と、高分子電解質と、を含み、
前記カソード触媒層における前記高分子電解質の25℃における水中含水率が、前記アノード触媒層における前記高分子電解質の25℃における水中含水率よりも大きい、膜電極接合体。
【請求項2】
高分子電解質膜と、その高分子電解質膜を両側から挟む、アノード触媒層と、カソード触媒層と、を備える膜電極接合体であって、
前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層は、それぞれ、導電性粒子とその上に担持された電極触媒粒子とを含む複合粒子と、高分子電解質と、を含み、
前記カソード触媒層における前記高分子電解質の当量重量が、前記アノード触媒層における前記高分子電解質の当量重量よりも小さい、膜電極接合体。
【請求項3】
前記カソード触媒層における前記高分子電解質の当量重量が、前記アノード触媒層における前記高分子電解質の当量重量よりも、100〜1000小さい、請求項1又は2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記カソード触媒層における前記高分子電解質の当量重量が、250〜1000である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記カソード触媒層における前記高分子電解質が、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であり、前記パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂は、下記一般式(1):
−(CF2−CFZ)− (1)
(式中、Zは、水素原子、塩素原子、フッ素原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を示す。)
で表される繰り返し単位と、下記一般式(2):
−(CF2−CF(−O−(CF2m−SO3H))− (2)
(式中、mは1〜12の整数である。)
で表される繰り返し単位と、を有する共重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜電極接合体を備える固体高分子電解質型燃料電池。

【公開番号】特開2012−212523(P2012−212523A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76503(P2011−76503)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部 共同研究「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発 基盤技術開発 定置用燃料電池システムの低コスト化のためのMEA高性能化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】