説明

膜電極複合体およびアルカリ形燃料電池

【課題】稼動開始から短時間で電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度を低下させることができ、もって、稼動開始から短時間で安定した高い電池出力を得ることができるアルカリ形燃料電池用膜電極複合体およびアルカリ形燃料電池を提供する。
【解決手段】アノード極とアニオン伝導性電解質膜11とカソード極とをこの順で備えるアルカリ形燃料電池用膜電極複合体であって、アノード極は、アニオン伝導性電解質膜11の一方の表面に積層されるアノード触媒層13を有し、カソード極は、アニオン伝導性電解質膜11の他方の表面に積層されるカソード触媒層12を有し、アノード触媒層13に含有されるアノード触媒の重量が、カソード触媒層12に含有されるカソード触媒の重量より多い膜電極複合体およびこれを用いたアルカリ形燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極複合体およびアルカリ形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、軽量化や高出力密度などを実現できる可能性を有していることから、精力的に研究が行なわれている。近年、高分子電解質膜として、アニオン(OH-)を通過させるアニオン伝導性固体高分子電解質膜(アニオン交換膜)を用いたアルカリ形燃料電池が提案されている(特許文献1等)。
【0003】
アルカリ形燃料電池においては、カソード極に酸化剤(空気等)および水を供給すると、下記式:
1/2O2+H2O+2e → 2OH-
で表される電極反応によりOH-が生成される。カソード極で発生したアニオン(OH-)は、アニオン伝導性電解質膜を介してアノード極側に伝達される。一方、アノード極では、供給された還元剤、たとえばH2ガスと伝達されたOH-とが、下記式:
2+2OH- → 2H2O+2e
で表される電極反応を起こし、水および電子を生成する。アルカリ形燃料電池では、このような電気化学反応により電力が取り出される。
【0004】
アルカリ形燃料電池は、カチオン(H+)を通過させるカチオン伝導性固体高分子電解質膜(カチオン交換膜)を用いた燃料電池と比較して、耐酸性を考慮する必要がないため、燃料電池構成部材の材質をより広範囲から選択できるなどの利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−135137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アルカリ形燃料電池には次のような課題があった。すなわち、アルカリ形燃料電池においては、電解質膜および触媒層の電解質にアニオン伝導性電解質を用いるために、稼動停止中に、電解質膜および触媒層が環境中の二酸化炭素(CO2)を吸収しやすい。これにより、電解質膜および触媒層中のOH-がCO32-および/またはHCO3-に置換されて、OH-濃度、ひいてはアニオン伝導度が低下するため、再稼動時の電池出力が低く、また、安定した比較的高い電池出力が得られるまでに時間がかかるという問題があった。
【0007】
また、酸化剤として酸素とともにCO2を含むガス(たとえば空気)をカソード極に供給して燃料電池を稼動する場合においても同様に、電解質膜および触媒層中のOH-がCO32-および/またはHCO3-に置換されるため、稼動初期における電池出力が低く、また、安定した比較的高い電池出力が得られるまでに時間がかかるという問題があった。
【0008】
上述のようなCO32-および/またはHCO3-によるOH-の置換は、下記式(1)および/または(2):
CO2+H2O → H2CO3、H2CO3+2OH- → CO32-+2H2O (1)
CO2+OH- → HCO3-、HCO3-+OH- → CO32-+ H2O (2)
の反応によって生じるものと推察される。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、稼動開始から短時間で電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度を低下させることができ、もって、稼動開始から短時間で安定した高い電池出力を得ることができるアルカリ形燃料電池用膜電極複合体およびアルカリ形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アノード極とアニオン伝導性電解質膜とカソード極とをこの順で備えるアルカリ形燃料電池用膜電極複合体であって、アノード極は、アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、カソード極は、アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有し、アノード触媒層に含有されるアノード触媒の重量が、カソード触媒層に含有されるカソード触媒の重量より多い膜電極複合体を提供する。
【0011】
本発明の膜電極複合体においては、たとえば、アノード触媒層の体積をカソード触媒層の体積より大きくすることにより、アノード触媒層に含有されるアノード触媒の重量をカソード触媒層に含有されるカソード触媒の重量より多くすることができる。この場合、アノード触媒層におけるアニオン伝導性電解質膜側の面の面積をカソード触媒層におけるアニオン伝導性電解質膜側の面の面積より大きくしてもよいし、および/またはアノード触媒層の厚さをカソード触媒層の厚さより大きくしてもよい。本発明の膜電極複合体は、たとえば平板状であることができる。アニオン伝導性電解質膜は、アニオン伝導性固体高分子電解質膜であることができる。
【0012】
また本発明は、上記膜電極複合体を備えるアルカリ形燃料電池を提供する。本発明のアルカリ形燃料電池は、還元剤をアノード極に供給するための、アノード極側に配置される還元剤流路と、酸化剤をカソード極に供給するための、カソード極側に配置される酸化剤流路とをさらに備えることが好ましい。
【0013】
さらに本発明によれば、次の構成を有するアルカリ形燃料電池が提供される。下記(1)〜(4)のアルカリ形燃料電池において、アニオン伝導性電解質膜は、アニオン伝導性固体高分子電解質膜であることができる。また、下記(1)〜(4)のアルカリ形燃料電池が有する膜電極複合体は、たとえば平板状であることができる。
【0014】
(1)アノード極とアニオン伝導性電解質膜とカソード極とをこの順で備え、アノード極は、アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、カソード極は、アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有する膜電極複合体;還元剤をアノード極に供給するための、アノード極側に配置される還元剤流路;酸化剤をカソード極に供給するための、カソード極側に配置される酸化剤流路;および、還元剤流路を流通する還元剤の圧力を、酸化剤流路を流通する酸化剤の圧力より低くするための手段を備えるアルカリ形燃料電池。
【0015】
(2)アノード極とアニオン伝導性電解質膜とカソード極とをこの順で備え、アノード極は、アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、カソード極は、アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有する膜電極複合体;還元剤をアノード極に供給するための、アノード極側に配置される還元剤流路;酸化剤をカソード極に供給するための、カソード極側に配置される酸化剤流路とを備え、還元剤流路の断面積が酸化剤流路の断面積より小さいアルカリ形燃料電池。
【0016】
(3)アノード極とアニオン伝導性電解質膜とカソード極とをこの順で備え、アノード極は、アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、カソード極は、アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有する膜電極複合体;還元剤をアノード極に供給するための、アノード極側に配置される還元剤流路;酸化剤をカソード極に供給するための、カソード極側に配置される酸化剤流路;および、アノード極の温度をカソード極の温度より高くするための手段を備えるアルカリ形燃料電池。
【0017】
(4)アノード極とアニオン伝導性電解質膜とカソード極とをこの順で備え、アノード極は、アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、カソード極は、アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有する膜電極複合体;還元剤をアノード極に供給するための、アノード極側に配置される還元剤流路;酸化剤をカソード極に供給するための、カソード極側に配置される酸化剤流路;および、アノード極側に配置される二酸化炭素吸収剤を備えるアルカリ形燃料電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、稼動開始から短時間で電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度を低下させることができ、もって、稼動開始から短時間で安定した高い電池出力を得ることができるアルカリ形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のアルカリ形燃料電池用膜電極複合体の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明のアルカリ形燃料電池用膜電極複合体の好ましい他の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明のアルカリ形燃料電池の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明のアルカリ形燃料電池の好ましい他の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明のアルカリ形燃料電池の好ましい他の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の膜電極複合体およびアルカリ形燃料電池を実施の形態を示して詳細に説明する。
【0021】
<膜電極複合体>
本発明の膜電極複合体は、アノード極とアニオン伝導性電解質膜とカソード極とをこの順で備え、アノード極は、アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、カソード極は、アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有するアルカリ形燃料電池用膜電極複合体であり、アノード触媒層に含有されるアノード触媒の重量が、カソード触媒層に含有されるカソード触媒の重量より多いことを特徴とする。
【0022】
上述のように、従来のアルカリ形燃料電池においては、その構造上、すなわち、電解質膜および触媒層の電解質にアニオン伝導性電解質を用いるために、稼動停止中や酸化剤として酸素とともにCO2を含むガス(たとえば空気)をカソード極に供給して燃料電池を稼動する場合に、電解質膜および触媒層中のOH-がCO32-および/またはHCO3-に置換され、これに伴い、電解質のアニオン伝導度が低下するため、稼動停止後の再稼動初期や酸化剤としてCO2を含むガスを用いて燃料電池を稼動する場合の稼動初期において電池出力が低い。このような稼動初期における低電池出力は、燃料電池稼動によって生じる、電解質膜および触媒層中のCO32-および/またはHCO3-のOH-による再置換(セルフパージとも呼ばれる)によって徐々に回復し、ある程度の時間後に、稼動初期より高い燃料電池が本来示す一定の電池出力を示すようになるが、従来のアルカリ形燃料電池ではこの時間に長時間を要し、改善の余地があった。ここで、セルフパージとは、燃料電池の稼動により、電解質膜および触媒層に含まれるアニオン伝導度の低下の要因であるCO32-および/またはHCO3-がアノード極に移動し、二酸化炭素ガス(CO2)としてアノード極から排出されるとともに、カソード極でOH-が生成され、CO32-および/またはHCO3-がアノード極へ移動する結果、電解質膜および触媒層中のOH-濃度が上昇する現象をいう。
【0023】
アノード極へ移動した、たとえばCO32-は、下記式(3)および/または(4):
2+CO32- → CO2+H2O+2e- (3)
CO32-+H2O → CO2+2H2O (4)
の反応によってCO2に変換され、排出されると推察される。
【0024】
本発明のアルカリ形燃料電池用膜電極複合体によれば、アノード触媒層に含有されるアノード触媒の重量をカソード触媒層に含有されるカソード触媒の重量より多くしているため、稼動開始から短時間で安定した高い電池出力を得ることが可能となる。すなわち、アノード触媒量をより多くすることにより、アノード触媒量とカソード触媒量とが同じ場合と比較して、CO32-およびHCO3-が消費される上記(3)および(4)のような反応がより多く進行することになるため、電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることができ、したがって、安定した高い電池出力をより短時間で回復することができる(セルフパージをより短時間で終わらせることができる)。また、本発明の膜電極複合体を平板状とすれば、これを用いた燃料電池のスタック化が容易であり、高集積化された燃料電池スタックを容易に構築することができるとともに、燃料電池の小型化が可能となる。さらに、アノード触媒量の増加により、アノード触媒層を流れる電流密度を低減することが可能になるため、耐久性の向上も期待される。
【0025】
このように、本発明においては、CO32-およびHCO3-が消費されるアノード極での反応をより多く進行させることでより短時間での電池出力の回復を実現するものであり、当該反応をより多く生じさせるために、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くし、これにより、アノード触媒層における三相界面の合計面積を、カソード触媒層における三相界面の合計面積より大きくしている。ここで、三相界面とは、触媒層において触媒、電解質および反応ガス(還元剤または酸化剤)が接触する部分であり、電極反応に必要な全成分が接触して電極反応が生じる部分である。アノード触媒層における三相界面の合計面積を、カソード触媒層における三相界面の合計面積より大きくする手段としては、他に、両触媒層の気孔率を調整する方法;両触媒層における電解質の触媒に対する割合を調整する方法などを挙げることができる。これらの手段によっても、短時間での電池出力の回復を達成することが可能である。
【0026】
アノード触媒層およびカソード触媒層に含有される触媒重量は、これらの触媒層の形成に用いる、触媒(担体に担持されていてもよい)、電解質および溶媒を含む触媒ペーストにおける触媒量や、触媒ペーストの塗布量(塗布厚みや塗布面積等を含む)などを調整することにより制御できる。
【0027】
アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くする手段としては、たとえば、アノード触媒層の体積をカソード触媒層の体積より大きくすることを挙げることができる。アノード触媒層の体積をカソード触媒層の体積より大きくする手段としては、具体的には、アノード触媒層の面積をより大きくする、すなわち、アノード触媒層におけるアニオン伝導性固体高分子電解質膜側の面の面積をカソード触媒層におけるアニオン伝導性固体高分子電解質膜側の面の面積より大きくする;アノード触媒層の厚さをカソード触媒層の厚さより大きくする;および、これらの組み合わせが挙げられる。このようなアノード触媒層の面積や厚みをより大きくすることは、アノード触媒層の耐久性向上の観点からも有利であり、また、アノード触媒層とカソード触媒層の形状に差異を持たせることで、これらの層の見分けが容易になるため、燃料電池製造工程におけるアノード極およびカソード極の配置ミスなどを防止することができる。
【0028】
図1は、本発明のアルカリ形燃料電池用膜電極複合体の好ましい一例を示す概略断面図である。図1に示される膜電極複合体10は、アニオン伝導性固体高分子電解質膜であるアニオン伝導性電解質膜11の一方の表面に積層されるアノード触媒層13からなるアノード極と、アニオン伝導性電解質膜11と、アニオン伝導性電解質膜11の他方の表面に積層されるカソード触媒層12からなるカソード極とをこの順で備える平板状の膜電極複合体である。この膜電極複合体10においては、アノード触媒層13におけるアニオン伝導性電解質膜11側の面の面積をカソード触媒層12におけるアニオン伝導性電解質膜11側の面の面積より大きくすることによって、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くしている。
【0029】
図2は、本発明のアルカリ形燃料電池用膜電極複合体の好ましい他の一例を示す概略断面図である。図2に示される膜電極複合体20は、膜電極複合体10と同様、アニオン伝導性固体高分子電解質膜であるアニオン伝導性電解質膜11の一方の表面に積層されるアノード触媒層13からなるアノード極と、アニオン伝導性電解質膜11と、アニオン伝導性電解質膜11の他方の表面に積層されるカソード触媒層12からなるカソード極とをこの順で備える平板状の膜電極複合体である。この膜電極複合体20においては、アノード触媒層13の厚さをカソード触媒層12の厚さより大きくすることによって、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くしている。
【0030】
また、アノード触媒層とカソード触媒層の体積を同じとした上で、あるいは上述のように異なる体積とした上で、アノード触媒層中のアノード触媒量をより多くしたり、触媒成分として触媒担持担体を用いる場合において、アノード触媒成分として触媒担持量がより多い触媒担持担体を用いたりすることにより、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くし、これにより、アノード触媒層における三相界面の合計面積をより大きくすることも勿論可能である。
【0031】
なお、アノード極は、アノード触媒層のアニオン伝導性電解質膜とは反対側の面(外側の面)に積層されたアノードガス拡散層を有することができ、カソード極は、カソード触媒層のアニオン伝導性電解質膜とは反対側の面(外側の面)に積層されたカソードガス拡散層を有することができる(図1および図2においては図示せず)。また、図1および図2に示される膜電極複合体10,20においては、アノード触媒層およびカソード触媒層より広面積のアニオン伝導性電解質膜が用いられているが、これに限定されるものではなく、たとえばアノード触媒層と同面積の電解質膜が用いられてもよい。ただし、アノード極とカソード極との間の短絡を効果的に防止する観点からは、アノード触媒層およびカソード触媒層よりも広面積の電解質膜を用いることが好ましい。アノード極とカソード極との間の短絡を防止するために、少なくともアノード極およびカソードの側面を封止する封止層(ガスケット)を設けることも好ましい。封止層は、たとえば、エポキシ系樹脂組成物の硬化物からなることができる。
【0032】
次に、アルカリ形燃料電池用膜電極複合体を構成する各部材について詳細に説明する。
(アニオン伝導性電解質膜)
アニオン伝導性電解質膜として好適に用いることができるアニオン伝導性固体高分子電解質膜は、アニオンとしてのOH-イオンを伝導でき、かつ、アノード極とカソード極との短絡を防止するために電気的絶縁性を有するアニオン伝導性高分子電解質からなる限り特に制限されず、このような電解質としては、たとえば、炭化水素系高分子電解質、フッ素樹脂系高分子電解質を挙げることができる。
【0033】
炭化水素系高分子電解質としては、たとえば、芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸との共重合体のクロロメチル化物をアミノ化して得られる電解質等が挙げられる。クロロメチル化剤としては、クロロメトキシメタン、1,4−ビス(クロロメトキシ)ブタン、1−クロロメトキシ−4−クロロブタン、ホルムアルデヒド−塩化水素、パラホルムアルデヒド−塩化水素等が使用できる。このようにして得られたクロロメチル化物を、アミン化合物と反応させてアニオン交換基を導入する。アミン化合物としては、モノアミン、1分子中に2個以上のアミノ基を有するポリアミン化合物等が使用できる。具体的には、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等のモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン等のジアルキルアミン;アニリン、N−メチルアニリン等の芳香族アミン;ピロリジン、ピペラジン、モルホリン等の複素環アミン等のモノアミン;m−フェニレンジアミン、ピリダジン、ピリミジン等のポリアミン化合物が使用できる。
【0034】
また、フッ素樹脂系高分子電解質としては、たとえば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンポリマーの末端をジアミンで処理し4級化したポリマーが挙げられる。
【0035】
アニオン伝導性固体高分子電解質膜は、上記電解質と溶媒とを含有するペーストを塗布、乾燥することにより形成することができる。また、市販のアニオン伝導性固体高分子電解質膜を使用してもよい。アニオン伝導性固体高分子電解質膜の市販品としては、たとえば、いずれも商品名で、「トスフレックス IE−SF34」(東ソー(株)製)などのフッ素樹脂系高分子電解質;「アシプレックス A−201」(旭化成(株)製)、「アシプレックス A−211」(旭化成(株)製)、「アシプレックス A−221」(旭化成(株)製)、「ネオセプタ AM−1」(トクヤマ(株)製)、「ネオセプタ AHA」(トクヤマ(株)製)などの炭化水素系高分子電解質が挙げられる。
【0036】
アニオン伝導性固体高分子電解質膜の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜200μmである。
【0037】
(アノード極およびカソード極)
アニオン伝導性電解質膜の一方の面に形成されるアノード極および他方の面に形成されるカソード極には、少なくとも触媒(それぞれアノード触媒、カソード触媒)と電解質(それぞれアノード電解質、カソード電解質)とを含有する多孔質層からなる触媒層(それぞれアノード触媒層、カソード触媒層)が設けられる。これらの触媒層は、アニオン伝導性電解質膜の表面に接して積層される。カソード触媒層に含有されるカソード触媒は、カソード極に供給された酸化剤(空気等)および水と、アノード極から伝達された電子から、OH-を生成する電極反応を生じさせる。カソード電解質は、生成したOH-をアニオン伝導性電解質膜へ伝導する機能を有する。一方、アノード触媒層に含有されるアノード触媒は、アノード極に供給された還元剤とOH-とから、水および電子を生成する電極反応を生じさせるとともに、CO32-およびHCO3-を消費する上記(3)および(4)のような反応を生じさせる。アノード電解質は、アニオン伝導性電解質膜から伝導してきたOH-を電極反応サイト(三相界面)へ伝導する機能を有する。
【0038】
アノード触媒およびカソード触媒としては、従来公知のものを使用することができ、たとえば、白金、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銀、ルテニウム、イリジウム、モリブデン、マンガン、これらの金属化合物、およびこれらの金属の2種以上を含む合金からなる微粒子が挙げられる。合金は、白金、鉄、コバルト、ニッケルのうち少なくとも2種以上を含有する合金が好ましく、たとえば、白金−鉄合金、白金−コバルト合金、鉄−コバルト合金、コバルト−ニッケル合金、鉄−ニッケル合金等、鉄−コバルト−ニッケル合金が挙げられる。アノード触媒とカソード触媒とは同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0039】
アノード触媒およびカソード触媒は、担体、好ましくは導電性の担体に担持されたものを用いることが好ましい。導電性担体としては、たとえば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭等の導電性カーボン粒子が挙げられる。また、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー等の炭素繊維を用いることもできる。
【0040】
触媒の担持量は、担体100重量部に対して、通常1〜80重量部、好ましくは3〜50重量部である。この範囲内においてアノード触媒の担持量およびカソード触媒の担持量を調整することにより、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くことが可能である。
【0041】
アノード電解質およびカソード電解質としては、上述の炭化水素系高分子電解質、フッ素樹脂系高分子電解質などの、アニオン伝導性固体高分子電解質膜などのアニオン伝導性電解質膜を構成する電解質と同様のものを用いることができる。アノード触媒層およびカソード触媒層における触媒と電解質との含有比は、重量基準で、通常5/1〜1/4であり、好ましくは3/1〜1/3である。この範囲内において触媒/電解質重量比を調整することにより、アノード触媒層における三相界面の合計面積をより大きくするが可能である。
【0042】
アノード極およびカソード極はそれぞれ、触媒層上に積層されるアノードガス拡散層、カソードガス拡散層を備えていてもよい。これらのガス拡散層は、アノード極、カソード極に供給されるガス(還元剤または酸化剤)を面内において拡散させる機能を有するとともに、触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。
【0043】
アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層としては、比抵抗が小さく、電圧の低下が抑制されることから、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;これらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などからなる多孔質材料を用いることが好ましい。より具体的には、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層として、たとえば、上記貴金属、遷移金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびに、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜などを好適に用いることができる。
【0044】
以上、膜電極複合体がアニオン伝導性固体高分子電解質膜を備える場合を例に挙げて説明したが、本発明の膜電極複合体は、アニオン伝導性固体酸化物電解質膜等の他のアニオン伝導性電解質膜を備えるものであってもよい。
【0045】
<アルカリ形燃料電池>
本発明が提供するアルカリ形燃料電池は、稼動開始から短時間で安定した高い電池出力を得ることができるものである。以下、実施の形態を示して本発明のアルカリ形燃料電池について詳細に説明する。
【0046】
(第1の実施形態)
図3は、本発明のアルカリ形燃料電池の好ましい一例を示す概略断面図である。図3に示されるアルカリ形燃料電池100は、上記本発明の膜電極複合体を備えるものであり、アニオン伝導性電解質膜11、その一方の表面に積層されるアノード触媒層13、その他方の表面に積層されるカソード触媒層12、アノード触媒層13の表面に積層されるアノードガス拡散層15およびカソード触媒層12の表面に積層されるカソードガス拡散層14からなる平板状の膜電極複合体10;アノード極側に配置された、還元剤をアノード極に供給するための還元剤流路17aを備えるアノード極セパレータ17;カソード極側に配置された、酸化剤をカソード極に供給するための酸化剤流路16aを備えるカソード極セパレータ16;ならびに、アノード極およびカソード極の側面を封止する封止層50から構成される。アノード触媒層13およびアノードガス拡散層15がアノード極を構成し、カソード触媒層12およびカソードガス拡散層14がカソード極を構成する。アノード極とカソード極とは電気的に接続される(図示せず)。
【0047】
アルカリ形燃料電池100においては、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くし、これにより、アノード触媒層における三相界面の合計面積を、カソード触媒層における三相界面の合計面積より大きくするために、アノード触媒層13におけるアニオン伝導性電解質膜11側の面の面積をカソード触媒層12におけるアニオン伝導性電解質膜11側の面の面積より大きくするとともに、アノード触媒層13の厚さをカソード触媒層12の厚さより大きくしている。これにより、稼動開始から短時間で安定した高い電池出力を得ることができる。
【0048】
なお、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くする手段は、図3に図示される手段に限定されるものではなく、膜電極複合体に関して上述した各種手段またはこれらの組み合わせを用いることができる。
【0049】
アノード極セパレータ17およびカソード極セパレータ16はそれぞれ還元剤をアノード極に供給するための還元剤流路17a、酸化剤をカソード極に供給するための酸化剤流路16aを備えた部材であり、図3に示される例においてこれらはそれぞれ、アノードガス拡散層15、カソードガス拡散層14の外側表面に接して積層されている。還元剤を収容するタンク(図示せず)と還元剤流路17aとを接続することにより、還元剤を還元剤流路17aに流通させることができる。還元剤流路17aに流通された還元剤は、アノードガス拡散層15を通ってアノード触媒層13に供給される。同様に、酸化剤を収容するタンク(図示せず)と酸化剤流路16aとを接続することにより、酸化剤を酸化剤流路16aに流通させることができる。酸化剤流路16aに流通された酸化剤は、カソードガス拡散層14を通ってカソード触媒層12に供給される。
【0050】
還元剤流路17aの出口には、未反応の還元剤と二酸化炭素や他の不純物とを分離するためのガス分離装置が接続されてもよい。分離回収された還元剤は、燃料として再利用することができる。
【0051】
還元剤としては、たとえば、H2ガス、炭化水素ガス、アンモニアガスなどを用いることができる。なかでも、H2ガスを用いることが好ましい。また、酸化剤としては、たとえば、O2ガスや、空気等のO2を含むガスなどを用いることができる。なかでも、空気が好ましく用いられる。空気は二酸化炭素を含むが、本発明によれば、酸化剤として空気を用いる場合においても、稼動開始から短時間で安定した高い電池出力を得ることができる。
【0052】
アノード極セパレータ17およびカソード極セパレータ16の材質は特に制限されず、たとえば、カーボン材料、各種金属、ステンレスに代表される合金などの導電性材料のほか、各種プラスチック材料などの非導電性材料が挙げられる。なかでも、アノード極セパレータ17およびカソード極セパレータ16に集電機能を付与できることから、導電性材料を用いることが好ましい。非導電性材料を用いる場合には、アノード極およびカソード極に別途、集電体(集電層)を設けることが好ましい。アノード極セパレータ17とカソード極セパレータ16(またはアノード集電体とカソード集電体)とを電気的に接続することにより、アノード極とカソード極との電気的接続を行なうことができる。
【0053】
還元剤流路17aおよび酸化剤流路16aはそれぞれ、アノード極セパレータ17、カソード極セパレータ16の一方の表面(ガス拡散層側表面)に形成された1または2以上の溝であることができる。還元剤流路17aおよび酸化剤流路16aは、複数の直線状の溝や、サーペンタイン状の溝であることができる。これらの流路の断面積は特に制限されない。
【0054】
(第2の実施形態)
本実施形態のアルカリ形燃料電池は、電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることにより、安定した高い電池出力をより短時間で得ることができるための手段として、還元剤流路を流通する還元剤の圧力を、酸化剤流路を流通する酸化剤の圧力より低くするための手段(以下、還元剤圧力低減手段ともいう)をさらに備えることを特徴とし、これ以外の構成については、上記第1の実施形態と同様とすることができる。還元剤圧力低減手段を備えることにより、アノード極の圧力をカソード極の圧力よりも低くすることができ、したがって、アノード極におけるCO2濃度(分圧)をより小さくすることができるため、上述のCO32-およびHCO3-を消費する上記(3)および(4)のような反応の反応速度を増加させることができ、電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることが可能となる。
【0055】
還元剤圧力低減手段としては、たとえば、アノード極セパレータに設けられた還元剤流路の出口より下流側に設けられた吸引ポンプ等の圧力制御装置などが好ましく用いられる。
【0056】
なお、本実施形態においては、還元剤圧力低減手段を備えることにより電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることが可能になるため、上記第1の実施形態のように、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くする必要は必ずしもなく、たとえば同量であってもよい。アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くするとともに、還元剤圧力低減手段を備えることにより、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0057】
(第3の実施形態)
図4に示されるように、本実施形態のアルカリ形燃料電池は、還元剤流路17aの断面積が酸化剤流路16aの断面積より小さいことを特徴とし、これ以外の構成については、上記第1の実施形態と同様とすることができる。還元剤流路17aの断面積をより小さくすることにより、還元剤流路17a内を流れる還元剤の流束(単位断面積あたりの流量)がより高くなり、その結果、アノード極におけるCO2濃度(分圧)をより小さくすることができるため、上述のCO32-およびHCO3-を消費する上記(3)および(4)のような反応の反応速度を増加させることができ、電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることが可能となる。
【0058】
還元剤流路の断面積と酸化剤流路の断面積との比は、好ましくは1/4〜95/100であり、より好ましくは1/2〜4/5である。当該範囲外であると、上記のような効果が得られにくい。
【0059】
なお、本実施形態においては、還元剤流路の断面積をより小さくすることにより電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることが可能になるため、上記第1の実施形態のように、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くする必要は必ずしもなく、たとえば同量であってもよい。アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くするとともに、還元剤流路の断面積をより小さくすることにより(さらには、還元剤圧力低減手段を備えることにより)、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0060】
(第4の実施形態)
図5に示されるように、本実施形態のアルカリ形燃料電池は、電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることにより、安定した高い電池出力をより短時間で得ることができるための手段として、アノード極の温度をカソード極の温度より高くするための手段(図5における温度制御装置60。以下、アノード温度制御手段ともいう)をさらに備えることを特徴とし、これ以外の構成については、上記第1の実施形態と同様とすることができる。アノード温度制御手段を備えることにより、上述のCO32-およびHCO3-を消費する上記(3)および(4)のような反応の反応速度を増加させることができるため、電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることが可能となる。また、アノード温度制御手段を設けることにより、アノード極の飽和水蒸気量が増加し、アノード極で生じた水が気化しやすくなるため、フラッディングを効果的に抑制し、電池出力の低下を防止することができる。
【0061】
アノード温度制御手段としては、たとえば、図5に示されるようなシート状の温度制御装置を挙げることができる。アノード温度制御手段は、アノード極セパレータの外面に積層できるほか、アノード極セパレータ内部などに配置することもできる。
【0062】
なお、本実施形態においては、アノード温度制御手段を備えることにより電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることが可能になるため、上記第1の実施形態のように、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くする必要は必ずしもなく、たとえば同量であってもよい。アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くするとともに、アノード温度制御手段を備えることにより(さらには、還元剤圧力低減手段を設けたり、還元剤流路の断面積をより小さくしたりすることにより)、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0063】
(第5の実施形態)
本実施形態のアルカリ形燃料電池は、アノード極側に配置される二酸化炭素吸収剤をさらに備えることを特徴とし、これ以外の構成については、上記第1の実施形態と同様とすることができる。二酸化炭素吸収剤をアノード極の適切な位置に配置することにより、アノード極におけるCO2濃度(分圧)をより小さくすることができるため、上述のCO32-およびHCO3-を消費する上記(3)および(4)のような反応の反応速度を増加させることができ、電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることが可能となる。
【0064】
二酸化炭素吸収剤としては、たとえば、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム等のアルカリ金属酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム等のアルカリ土類金属酸化物;リチウムフェライト、オルソチタン酸バリウム等の複合酸化物;金属と有機物とで構成される多孔性金属錯体;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物などを用いることができる。なかでも、単位体積当たりの二酸化炭素吸収容量が大きく、また取り扱い性が良好であることから、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等が好ましい。二酸化炭素吸収剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用(たとえば混合物として)してもよい。
【0065】
二酸化炭素吸収剤は、上記材料からなる粒子の形態で用いることが好ましい。粒子径は、個々の粒子における二酸化炭素の拡散性を高める観点から、0.1〜600μmの範囲が好ましく、1〜10μmの範囲がより好ましい。
【0066】
二酸化炭素吸収剤は、アノード極内において設置可能な位置であればどのような位置に配置されてもよいが、好ましくは還元剤流路内などである。
【0067】
燃料電池が二酸化炭素吸収剤を備える場合、上述の還元剤圧力低減手段および/またはアノード温度制御手段を併設することにより、二酸化炭素吸収剤の減圧および/または加熱による再生処理を燃料電池の発電中に行なうことが可能になるため好ましい。
【0068】
なお、本実施形態においては、二酸化炭素吸収剤を備えることにより電解質膜および触媒層中のCO32-およびHCO3-の濃度をより早期に低下させることが可能になるため、上記第1の実施形態のように、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くする必要は必ずしもなく、たとえば同量であってもよい。アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くするとともに、二酸化炭素吸収剤を備えることにより(さらには、還元剤圧力低減手段および/またはアノード温度制御手段を設けたり、還元剤流路の断面積をより小さくしたりすることにより)、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0069】
本発明のアルカリ形燃料電池は、たとえば自動車、家庭用コジェネレーション、携帯型電子機器などの電源として好適に適用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
<実施例1>
(1)膜電極複合体の作製
芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸との共重合体をクロロメチル化した後、アミノ化することにより、触媒層用のアニオン伝導性固体高分子電解質を得た。これをテトラヒドロフランに添加することにより、5重量%アニオン伝導性固体高分子電解質溶液を得た。
【0072】
Pt担持量が50重量%のPt/Cである触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製「TEC10E50E」)と、上記で得られた電解質溶液とを、重量比で2/0.2となるように混合し、さらにイオン交換水およびエタノールを添加することにより、アノード触媒層用の触媒ペーストを作製した。
【0073】
同様に、Pt担持量が50重量%のPt/Cである触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製「TEC10E50E」)と、上記で得られた電解質溶液とを、重量比で2/0.2となるように混合し、さらにイオン交換水およびエタノールを添加することにより、カソード触媒層用の触媒ペーストを作製した。
【0074】
次に、アノードガス拡散層としてカーボンペーパー(東レ社製「TGP−H−060」、厚み約190μm)を縦23mm×横23mmのサイズに切り出し、そのアノードガス拡散層の一方の面に、上記のアノード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が1.5mg/cm2となるように、縦23mm×横23mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、アノードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にアノード触媒層が形成されたアノード極を作製した。得られたアノード極の厚みは約220μmであった。
【0075】
同様に、カソードガス拡散層としてカーボンペーパー(東レ社製「TGP−H−060」、厚み約190μm)を縦23mm×横23mmのサイズに切り出し、そのカソードガス拡散層の一方の面に、上記のカソード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が0.5mg/cm2となるように、縦23mm×横23mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、カソードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にカソード触媒層が形成されたカソード極を作製した。得られたカソード極の厚みは約200μmであった。
【0076】
次に、50×50mmのサイズに切り出したフッ素樹脂系高分子電解質(旭化成社製「アシプレックス」)をアニオン伝導性固体高分子電解質膜として用い、上記アノード極と電解質膜と上記カソード極をこの順で、それぞれの触媒層が電解質膜に対向するように重ね合わせた後、130℃、10kNで2分間の熱圧着を行なうことにより、アノード極およびカソード極を電解質膜に接合し、膜電極複合体を得た。上記重ね合わせは、アノード極とカソード極の電解質膜の面内における位置が一致するように、かつアノード極と電解質膜とカソード極の中心が一致するように行なった。
【0077】
(2)アルカリ形燃料電池の作製
縦95mm×横95mm×厚み20mmのカーボン材料からなるアノード極セパレータおよび縦95mm×横95mm×厚み20mmのカーボン材料からなるカソード極セパレータを用意した。アノード極セパレータの一方の面には、サーペンタイン状の溝からなる還元剤流路が形成されており、カソード極セパレータの一方の面には、サーペンタイン状の溝からなる酸化剤流路が形成されている。
【0078】
上記得られた膜電極複合体のアノードガス拡散層上に、還元剤流路側がアノードガス拡散層に対向するようにアノード極セパレータを積層するとともに、カソードガス拡散層上に、酸化剤流路側がカソードガス拡散層に対向するようにカソード極セパレータを積層し、これらをボルトおよびナットを用いて締結することにより、アルカリ形燃料電池を得た。
【0079】
<実施例2〜3、比較例1>
実施例1で調製したアノード触媒層用の触媒ペーストおよびカソード触媒層用の触媒ペーストを用いて、表1に示される条件でアノード極およびカソード極を作製したこと以外は実施例1と同様にしてアルカリ形燃料電池を作製した。表中の「厚み」は、触媒層およびガス拡散層の合計厚みである(ガス拡散層の厚みは、いずれも約190μm)。各例において、ガス拡散層には、触媒層と同サイズのものを用いた。
【0080】
(燃料電池の発電特性評価)
燃料電池温度を50℃に保った状態で、還元剤流路にH2ガス(相対湿度95%)、酸化剤流路に空気(相対湿度95%)を供給し、0.1Vの一定電圧で燃料電池を発電させ、発電開始から5000Cの電気量が得られるまでに要する時間(セルフパージ時間)を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【符号の説明】
【0082】
10,20 膜電極複合体、11 アニオン伝導性電解質膜、12 カソード触媒層、13 アノード触媒層、14 カソードガス拡散層、15 アノードガス拡散層、16 カソード極セパレータ、16a 酸化剤流路、17 アノード極セパレータ、17a 還元剤流路、50 封止層、60 温度制御装置、100 アルカリ形燃料電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極と、アニオン伝導性電解質膜と、カソード極とをこの順で備えるアルカリ形燃料電池用膜電極複合体であって、
前記アノード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、
前記カソード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有し、
前記アノード触媒層に含有されるアノード触媒の重量が、前記カソード触媒層に含有されるカソード触媒の重量より多い、膜電極複合体。
【請求項2】
前記アノード触媒層の体積が、前記カソード触媒層の体積より大きい、請求項1に記載の膜電極複合体。
【請求項3】
前記アノード触媒層における前記アニオン伝導性電解質膜側の面の面積が、前記カソード触媒層における前記アニオン伝導性電解質膜側の面の面積より大きい、請求項2に記載の膜電極複合体。
【請求項4】
前記アノード触媒層の厚さが、前記カソード触媒層の厚さより大きい、請求項2または3に記載の膜電極複合体。
【請求項5】
平板状である請求項1〜4のいずれかに記載の膜電極複合体。
【請求項6】
前記アニオン伝導性電解質膜は、アニオン伝導性固体高分子電解質膜である請求項1〜5のいずれかに記載の膜電極複合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の膜電極複合体を備えるアルカリ形燃料電池。
【請求項8】
還元剤を前記アノード極に供給するための、前記アノード極側に配置される還元剤流路と、酸化剤を前記カソード極に供給するための、前記カソード極側に配置される酸化剤流路とをさらに備える、請求項7に記載のアルカリ形燃料電池。
【請求項9】
アノード極と、アニオン伝導性電解質膜と、カソード極とをこの順で備え、前記アノード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、前記カソード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有する膜電極複合体と、
還元剤を前記アノード極に供給するための、前記アノード極側に配置される還元剤流路と、
酸化剤を前記カソード極に供給するための、前記カソード極側に配置される酸化剤流路と、
前記還元剤流路を流通する前記還元剤の圧力を、前記酸化剤流路を流通する前記酸化剤の圧力より低くするための手段と、
を備える、アルカリ形燃料電池。
【請求項10】
アノード極と、アニオン伝導性電解質膜と、カソード極とをこの順で備え、前記アノード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、前記カソード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有する膜電極複合体と、
還元剤を前記アノード極に供給するための、前記アノード極側に配置される還元剤流路と、
酸化剤を前記カソード極に供給するための、前記カソード極側に配置される酸化剤流路と、
を備え、
前記還元剤流路の断面積が、前記酸化剤流路の断面積より小さい、アルカリ形燃料電池。
【請求項11】
アノード極と、アニオン伝導性電解質膜と、カソード極とをこの順で備え、前記アノード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、前記カソード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有する膜電極複合体と、
還元剤を前記アノード極に供給するための、前記アノード極側に配置される還元剤流路と、
酸化剤を前記カソード極に供給するための、前記カソード極側に配置される酸化剤流路と、
前記アノード極の温度を、前記カソード極の温度より高くするための手段と、
を備える、アルカリ形燃料電池。
【請求項12】
アノード極と、アニオン伝導性電解質膜と、カソード極とをこの順で備え、前記アノード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、前記カソード極は、前記アニオン伝導性電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有する膜電極複合体と、
還元剤を前記アノード極に供給するための、前記アノード極側に配置される還元剤流路と、
酸化剤を前記カソード極に供給するための、前記カソード極側に配置される酸化剤流路と、
前記アノード極側に配置される二酸化炭素吸収剤と、
を備える、アルカリ形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−59481(P2012−59481A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200520(P2010−200520)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】