説明

膝下輻射暖房装置

【課題】本発明は、スライド式シートが採用された自動車においても、暖房効率が良く、乗員が安定した膝下輻射を得られる膝下輻射暖房装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る膝下輻射暖房装置10は、自動車の直進方向に対して前後にスライド自在なスライド式シート20の背もたれ部22の裏面22aに設置されている輻射熱ヒーター40と、輻射熱ヒーター40の周囲に設置され、かつ、輻射熱ヒーター40から輻射される熱線51を所望の照射方向のみに照射させる集光部材50と、を備え、集光部材50は、熱線51の照射方向を、スライド式シート20の後側に位置するシート95に乗員90が座ったときに乗員90の膝下部分90aが位置する領域93の一部を照射する方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱ヒーターから輻射される熱線を利用した膝下輻射暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の冷暖房空調装置は、エンジンの冷却水の熱を利用している。そのため、冬季に自動車を始動する際、自動車の冷暖房空調装置は、エンジンの水温が上昇するまでのおおよそ5分間程度、乗員を暖めることができていない。このため、乗車後すぐに乗員を暖められるように、乗車前に予めエンジンを作動させて水温を上昇させておくこともできるが、その場合は、排ガスなどの負荷があり好ましくない。
【0003】
輻射熱ヒーターを利用した輻射暖房装置(例えば、特許文献1〜3を参照。)は、即暖性に優れ、エンジン効率の向上に伴う冷却水の水温の低下による熱源を補う技術として期待されている。しかし、従来のバッテリーを備える自動車では消費電力の問題があり、自動車用としての実現が困難とされていた。近年、ハイブリッド自動車又は電気自動車が大容量のバッテリーを備えることによって、自動車用の輻射暖房装置の実現の可能性が見えてきた。
【0004】
【特許文献1】特開平6−234318号公報
【特許文献2】特開平10−79287号公報
【特許文献3】特開平4−159124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、多くの自動車ではスライド自在なスライド式シートが採用されている。しかし、特許文献1〜3をはじめとする従来の輻射暖房装置では、輻射熱ヒーターを自動車の内壁面や床面に固定するので、輻射熱ヒーターの熱線がスライド式シートの位置によっては遮られる場合があり、暖房効率が悪く、乗員が安定した膝下輻射を得ていない問題がある。また、前方からつま先を暖房することによって乗員が効果的に暖房感を得えることができる。しかし、従来の輻射暖房装置は、その固定位置の関係から、つま先の側方又はふくらはぎを暖房しており、乗員が効果的に暖房感を得ていない。さらに、従来の輻射暖房装置は、輻射熱ヒーターがスライド式シートに隠れ、乗員が輻射熱ヒーターの作動状態を目視しにくく、例えば、乗員の被服が加熱されすぎるといった安全上の問題となることがある。
【0006】
そこで、本発明は、前記課題を解決する為になされたもので、スライド式シートが採用された自動車においても、暖房効率が良く、乗員が安定した膝下輻射を得られる膝下輻射暖房装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、輻射熱ヒーターをスライド式シートの座部の裏面又は背もたれ部の裏面に設置することで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る膝下輻射暖房装置は、自動車の直進方向に対して前後及び/又は左右にスライド自在なスライド式シートの座部の裏面又は背もたれ部の裏面に設置されている輻射熱ヒーターと、該輻射熱ヒーターの周囲に設置され、かつ、前記輻射熱ヒーターから輻射される熱線を所望の照射方向のみに照射させる集光部材と、を備え、該集光部材は、前記熱線の前記照射方向を、前記スライド式シートの後側に位置するシートに乗員が座ったときに該乗員の膝下部分が位置する領域の全部又は一部を照射する方向とすることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る膝下輻射暖房装置では、前記輻射熱ヒーターは、前記スライド式シートの前記座部の裏面の後方又は前記背もたれ部の裏面の下方に設置されていることが好ましい。膝下輻射暖房装置は、乗員から目視し易く、熱線の前記照射方向を広くとれ、さらに、乗員の邪魔となりにくい。
【0009】
本発明に係る膝下輻射暖房装置では、前記輻射熱ヒーターが、前記スライド式シートのうち前記自動車の直進方向における最後列以外のシートの全部又は一部に設置されていることを含む。
【0010】
本発明に係る膝下輻射暖房装置では、前記輻射熱ヒーターのオン−オフスイッチと前記輻射熱ヒーターの作動状態を表示する輻射熱ヒーター作動表示部とを備えることが好ましい。オン−オフスイッチによって膝下輻射暖房装置を自在に作動及び停止させることができる。また、輻射熱ヒーター作動表示部によって膝下輻射暖房装置の作動状態を確認し易くなる。
【0011】
本発明に係る膝下輻射暖房装置では、前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を開始させる制御手段を設け、該制御手段は、前記自動車のバッテリーの電圧の信号及び前記自動車の冷暖房空調装置が停止している状態を示す信号が受信される入力部と、該入力部が、前記バッテリーの電圧が所定値以上である信号及び前記冷暖房空調装置が停止している状態を示す信号を受信したときに、前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を開始させると判断する判断部と、該判断部の判断によって前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を開始させる作動部と、を備えることが好ましい。自動車のエンジンの水温が上昇するまでの間、乗員を暖めることができる。
【0012】
本発明に係る膝下輻射暖房装置では、前記入力部は、前記自動車の車内空間の温度の信号及び前記自動車の冷暖房空調装置が作動している状態を示す信号を受信し、前記判断部は、前記自動車の車内空間の温度が所定値以上の信号及び前記自動車の冷暖房空調装置が作動している状態を示す信号を受信したときに、前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を停止させると判断し、前記作動部は、前記判断部の判断によって前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を停止させることが好ましい。バッテリーの電圧が低下しすぎることによって自動車を始動できなくなる事態を防止できる。
【0013】
本発明に係る膝下輻射暖房装置では、前記自動車の冷暖房空調装置のリアダクトの少なくとも一部をフレキシブルダクトとし、前記リアダクトのリア吹き出し口を前記スライド式シートの前記座部の裏面に固定し、前記集光部材を反射板とし、前記リアダクトの前記リア吹き出し口の手前の外壁に前記反射板を密着した状態で固定しているか、或いは、前記リアダクトの前記リア吹き出し口の手前の外壁を反射板としていることが好ましい。反射板に蓄積された熱がリアダクトに流れる温風に伝わるので、反射板が加熱されすぎることを防ぎ、かつ、冷暖房空調装置の暖房効率が向上する。さらに、膝下輻射暖房装置の省スペース性を向上させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、スライド式シートが採用された自動車においても、暖房効率が良く、乗員が安定した膝下輻射を得られる膝下輻射暖房装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。また、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものでない。なお、同一部材・同一部位には同一符号を付した。
【0016】
図1に、スライド式シート20が前にスライドされた状態における膝下輻射暖房装置10の概略図を図示した。図1に示すように、本実施形態に係る膝下輻射暖房装置10は、自動車の直進方向に対して前後にスライド自在なスライド式シート20の背もたれ部22の裏面22aに設置されている輻射熱ヒーター40と、輻射熱ヒーター40の周囲に設置され、かつ、輻射熱ヒーター40から輻射される熱線51を所望の照射方向のみに照射させる集光部材50と、を備え、集光部材50は、熱線51の照射方向を、スライド式シート20の後側に位置するシート95に乗員90が座ったときに乗員90の膝下部分90aが位置する領域93の一部を照射する方向とする。さらに、スライド式シート20は、脚部23を備える。また、図1において、座部21の裏面21a及び背もたれ部22の裏面22aを2点鎖線で示し、熱線51を点線で示し、膝下部分90aが位置する領域93(以後、「乗員の膝下部分が位置する領域」を「膝下領域」と略記する。)を破線で示した。さらに、乗員90は、膝下部分90aを実線で示し、他の部分を一点鎖線で示した。以後の説明において、特に明記しない限り、前後左右といった方向は、自動車の直進方向を基準とする。
【0017】
輻射熱ヒーター40は、熱線51を輻射するのであれば特に制限されないが、輻射する熱線51の波長を2μm以上とすることが好ましい。乗員90が2μm以上の波長を有する赤外線を吸収しやすい為である。輻射熱ヒーター40としては、例えば、両口金形若しくは片口金形のハロゲンランプ、ハロゲンランプにブラックコーティングを施したハロゲンヒーター、赤外線LED又はペルチェ素子がある。
【0018】
集光部材50は、輻射熱ヒーター40が輻射した熱線51を反射又は屈折して、熱線51を、膝下領域93の一部に照射する。ここで、集光部材50は、つま先から膝下までの膝下領域93の全部に熱線51を照射しても良い(不図示)。集光部材50としては、例えば、反射板、内面反射膜又はレンズがある。
【0019】
集光部材50を反射板とする場合、反射板の形状は特に制限されないが、箱状、半球体上又は楕円体状としても良い。輻射熱ヒーター40を両口金形のハロゲンランプ等の線熱源とする場合、横切る断面が放物線状となる放物湾曲板状に反射板を形成し、その放物線の焦点を結んだ線上に線熱源を設置することが好ましい。また、輻射熱ヒーター40を片口金形のハロゲンランプ等の点熱源とする場合、回転放物面状に反射板を形成し、その焦点に点熱源を設置することが好ましい。これによって、反射板の反射効率がより高くなる。
【0020】
反射板の素材は、熱線51を反射すれば特に制限されない。反射板の素材としては、例えば、ステンレス、金、銀、銅、ニッケル又はアルミニウム等の金属がある。また、これらの金属をコーティングしたものでも良い。さらに、熱線51の反射効率を高めるため、反射板の反射面(不図示)を鏡面研磨することが好ましい。
【0021】
集光部材50を内面反射膜(不図示)とする場合、ハロゲンランプの外表面を形成するガラス管の一部に内面反射膜を被覆する。ガラス管の形状は特に制限されないが、両口金形のハロゲンランプであれば放物湾曲板状、片口金形のハロゲンランプであれば回転放物面状とすることが好ましい。これによって、内面反射膜の反射効率がより高くなる。内面反射膜の成膜方法は、特に制限されないが、塗工又は蒸着等の成膜方法を用いても良い。
【0022】
集光部材50をレンズ(不図示)とする場合、赤外線LEDの光軸上に曲線形状部分が形成されるように赤外線LEDの発光面をエポキシ樹脂体で固める。この曲線形状部分がレンズを形成する。レンズの大きさ若しくは曲率又はレンズと赤外線LEDとの位置関係を変更することによって、熱線51の照射方向を調整できる。また、熱線51がレンズを通過せずにエポキシ樹脂体から照射されることを防ぐ為、赤外線LEDランプの周囲に熱線51を反射させる反射体を設けることが好ましい。また、輻射熱ヒーター40と集光部材50とをスライド式シート20の背もたれ部22に埋め込んで設置することがより好ましい(不図示)。乗員90が輻射熱ヒーター40に接触しにくくなる。
【0023】
スライド式シート20は、脚部23によって支持される。また、脚部23は、スライド式シート20を前後にスライド自在とするスライド手段(不図示)を有する。スライド式シート20に座った運転手(不図示)が、例えば、スライド手段から延設されたレバー(不図示)を引き上げている間、スライド式シート20を前後にスライドさせることができる。運転手がこのレバーを引き上げていない場合、スライド式シート20は、スライドしない。また、スライド手段を電動スライド手段としても良い。
【0024】
図2に、スライド式シート20が後ろにスライドされた状態における膝下輻射暖房装置10の概略図を図示した。図1及び図2に示すように、スライド式シート20を前後にスライドさせても、スライド式シート20が熱線51を遮ることはなく、輻射熱ヒーター40と膝下領域93との位置関係が大きく変化せず、膝下輻射暖房装置10が乗員90の膝下部分90aを前方から暖めることができる。よって、暖房効率が良く、乗員90が安定した膝下輻射を得られる。
【0025】
本実施形態に係る膝下輻射暖房装置では、輻射熱ヒーター40は、スライド式シート20の座部21の裏面21aに設置されても良い。また、図3に、輻射熱ヒーター40がスライド式シート20の座部21の裏面21aの後方に設置された状態における膝下輻射暖房装置11の概略図を図示した。図3に示すように、本実施形態に係る膝下輻射暖房装置11では、輻射熱ヒーター40は、スライド式シート20の座部21の裏面21aの後方に設置されていることが好ましい。ここで、後方とは、スライド式シート20の座部21の裏面21aにおいての乗員90の側である。また、輻射熱ヒーター40と集光部材50とをスライド式シート20の座部21の裏面21aの後方に埋め込んで設置することがより好ましい。膝下輻射暖房装置11が乗員90の膝下部分90a、特に、前方からつま先を暖めることができ、乗員90が暖房感を効果的に得られる。また、膝下輻射暖房装置11は、輻射熱ヒーター40が乗員90から見てスライド式シート20に隠れにくく、目視し易い。これによって、乗員90の膝下部分90aが輻射熱ヒーター40に接触する危険性を低減できる。また、スライド式シート20の座部21の裏面21aが熱線51を遮えぎらないので、熱線51の照射方向を広くとれる。さらに、膝下輻射暖房装置11は、輻射熱ヒーター40がスライド式シート20の背もたれ部22の裏面22aから出っ張らないので、乗員90の邪魔となりにくい。なお、輻射熱ヒーター40をスライド式シート20の背もたれ部22の裏面22aの下方に設置しても、上記と略同様の効果が得られる(不図示)。ここで、下方とは、スライド式シート20の背もたれ部22の裏面22aにおいての床面98の側である。
【0026】
図4に、3列のシート20,30,95を備える自動車に装着された膝下輻射暖房装置12の概略図を図示した。本実施形態に係る膝下輻射暖房装置12では、輻射熱ヒーター40が、スライド式シート20,30のうち自動車の直進方向における最後列以外のシート20,30の全部に設置されている。図4に、自動車の直進方向における最後列に位置するシート95を示した。シート95の後ろ側に乗員90が座ることがないため、シート95に輻射熱ヒーター40を設置する必要がない。ここで、輻射熱ヒーター40は、スライド式シート20,30のうち自動車の直進方向における最後列以外のシート20,30の一部、例えば、運転席となるスライド式シート20及び助手席となるスライド式シート(不図示)のみに設置されても良い。なお、スライド式シート30は、例えば、前後、左右又は前後左右にスライドする。
【0027】
図5に、自動車の冷暖房空調装置の作動パネル49の表示例を図示した。作動パネル49は、例えば、図4のインストルメントパネル97に設置される。図5に示すように、本実施形態に係る膝下輻射暖房装置10,11,12では、輻射熱ヒーター40のオン−オフスイッチ44と輻射熱ヒーターの作動状態を表示する輻射熱ヒーター作動表示部47とを備えることが好ましい。オン−オフスイッチ44は、例えば、押下位置になると輻射熱ヒーター(不図示)が作動し、復帰位置になると輻射熱ヒーターが停止する。或いは、オン−オフスイッチ44を押す度、輻射熱ヒーターが作動及び停止を交互に繰り返しても良い。輻射熱ヒーター作動表示部47は、例えば、輻射熱ヒーターが作動している状態で点灯し及び輻射熱ヒーターが停止している状態で消灯する。ここで、輻射熱ヒーターから熱線と共に輻射される可視光線が運転の邪魔となる場合があり、この可視光線を遮るためのフィルムを集光部材に装着することがある。この場合、輻射熱ヒーターの作動状態が目視しにくく、輻射熱ヒーター作動表示部47によって輻射熱ヒーターの作動状態を確認できて便利である。オン−オフスイッチ44及び輻射熱ヒーター作動表示部47は、例えば、作動パネル49又はスライド式シートの背もたれ部の裏面或いはこれらの両方に設ける。乗員が、オン−オフスイッチ44によって輻射熱ヒーターを作動及び停止させることができ、輻射熱ヒーター作動表示部47によって輻射熱ヒーターの作動状態を確認し易くなる。ここで、オン−オフスイッチ44は、例えば、助手席となるスライド式シート(不図示)に設置された輻射熱ヒーター用のオン−オフスイッチ44aと運転席となるスライド式シート(不図示)に設置された輻射熱ヒーター用のオン−オフスイッチ44bとする。オン−オフスイッチ44a,44bを備えることによって、助手席及び運転席となるスライド式シートの後方にシートに座っている乗員のそれぞれが、個別に輻射熱ヒーターの温度調整をできる(不図示)。
【0028】
図6に、膝下輻射暖房装置10と冷暖房空調装置60とを併設した状態の概略図を図示した。また、図7は、膝下輻射暖房装置10と冷暖房空調装置60とを併設した状態における床面98を天井から見た概略図であり、(a)は全体図であり、(b)は部分拡大図である。図6及び図7に示すように、本実施形態に係る膝下輻射暖房装置10では、自動車の冷暖房空調装置60のリアダクト61の少なくとも一部をフレキシブルダクト62とし、リアダクト61のリア吹き出し口63をスライド式シート20の座部21の裏面21aに固定し、集光部材(不図示)を反射板55とし、リアダクト61のリア吹き出し口63の手前の外壁63aを反射板55としていることが好ましい。図6において、フレキシブルダクト62を点線で示した。図7において、スライド式シート20を破線で示し、フレキシブルダクト62を斜線で示し、手前の外壁63aを一点鎖線で示し、リアダクト61に流れる温風64を示した。
【0029】
リアダクト61の一方の端は、冷暖房空調装置60のヒーターユニットのリアフットドア(不図示)に接続されている。リアダクト61は、自動車の床面98に向けて延設し、床面98に達したら床面98に沿って後ろに向かい、助手席及び運転席となるスライド式シート20の間を通る。リアダクト61は、スライド式シート20の座部21の後方に達したら、左右に分岐する。スライド式シート20が前後にスライドするため、リアダクト61の少なくとも一部をフレキシブルダクト62とする。リアダクト61の少なくとも一部をフレキシブルダクト62としなければ、スライド式シート20を前後にスライドさせることができない。ここで、リアダクト61が左右に分岐した箇所から、スライド式シート20の座部21の裏面21aに接する箇所までをフレキシブルダクト62とすることが好ましい。左右に分岐したリアダクト61は、図7(b)に示すように、クランク状に折れ曲がり、その端が助手席及び運転席となるスライド式シート20の座部21の裏面21aに達するリア吹き出し口63を形成する。
【0030】
図7(b)において、リアダクト61のリア吹き出し口63の手前の外壁63aが、反射板55となっている。ここで、手前の外壁63aを反射板55とする形態としては、以下の形態がある。第1の形態は、リア吹き出し口63の手前の外壁63aに窪みを設け、その窪みに反射板55を押し込んで、接着又はネジ止め等の手段により固定する形態である。第2の形態は、反射板55の外壁とリア吹き出し口63の手前の外壁63aとを溶着又は接着させる形態である。また、第3の形態は、リア吹き出し口63の手前の外壁63aにアルミ等の反射膜を塗布して反射面を形成し、リア吹き出し口63の手前の外壁63aを反射板55として兼用する形態である。
【0031】
輻射熱ヒーター40が輻射した熱線51の一部は、反射板55で反射されてから膝下領域93に照射される。ここで、反射板55に輻射された熱線51の熱量の一部が、反射板55に吸収され、反射板55が加熱されることがある。そして、反射板55が加熱されすぎて安全上の問題となることが考えられる。反射板55の温度は、例えば、70〜100℃であり、温風64の温度は、例えば、60〜70℃である。このとき、リアダクト61のリア吹き出し口63の手前の外壁63aが反射板55となることで、反射板55の熱をリアダクト61に逃すことができ、この熱によってリア吹き出し口63が送風する温風64の温度を高くすることができる。これによって、反射板55が加熱されすぎることを防ぎ、かつ、冷暖房空調装置60の暖房効率が向上する。さらに、スライド式シート20の座部21の裏面21aにおける省スペース性が向上する。なお、リアダクト61のリア吹き出し口63の手前の外壁63aに反射板55を密着した状態で固定しても、上記と略同様の効果が得られる(不図示)。
【0032】
図8に、膝下輻射暖房装置の制御手段のブロック図を図示した。図8に示すように、本実施形態に係る膝下輻射暖房装置では、輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を開始させる制御手段100を設け、制御手段100は、自動車のバッテリーの電圧の信号及び自動車の冷暖房空調装置60が停止している状態を示す信号が受信される入力部101と、入力部101が、バッテリーの電圧が所定値以上である信号及び冷暖房空調装置60が停止している状態を示す信号を受信したときに、輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を開始させると判断する判断部102と、判断部102の判断によって輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を開始させる作動部103と、を備えることが好ましい。図8に、測定した自動車の車内空間の温度(以後、「自動車の車内空間の温度」を「車内温度」と略記する。)を入力部101に送信する車内温度測定部106及び測定した自動車のバッテリーの電圧の信号を入力部101に送信するバッテリー電圧測定部107を示した。また、冷暖房空調装置60は、例えば、作動している状態及び停止している状態を示す信号を入力部101に送信する。ここで、外気温測定手段が、測定した外気温度の信号を入力部101に送信しても良い(不図示)。自動車の始動時、車内温度、外気温度或いはこれら両方の温度が所定の上限値より高ければ、判断部102は、輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を開始させないと判断することが好ましい。また、この所定の上限値は、乗員が寒さを感じない温度、例えば16℃とする。これによって、膝下輻射暖房装置が、例えば、真夏に作動してしまうことを防止できる。
【0033】
さらに、本実施形態に係る膝下輻射暖房装置では、入力部101は、車内温度の信号及び自動車の冷暖房空調装置60が作動している状態を示す信号を受信し、判断部102は、車内温度が所定値以上の信号及び自動車の冷暖房空調装置が作動している状態を示す信号を受信したときに、輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を停止させると判断し、作動部103は、判断部102の判断によって輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を停止させることが好ましい。図9に、制御装置100の処理の流れを示すフローチャートを図示した。以下、図8及び図9を用いて制御装置100の処理の流れを説明する。
【0034】
ステップS1において、判断部102は、冷暖房空調装置60が停止しているか判断する。冷暖房空調装置60が停止していれば、ステップS2の処理を実行する。一方、冷暖房空調装置60が作動していれば、判断部102は、ステップS4の処理を実行する。
【0035】
ステップS2において、判断部102は、自動車のバッテリーの電圧が所定値以上であるか判断する。ここで、バッテリーの電圧の所定値は特に制限されないが、例えば、10V以上とする。バッテリーに充分な電圧がない状態で輻射熱ヒーター40を作動させると、自動車を始動できなくなる場合がある。バッテリーの電圧が所定値以上であれば、判断部102は、輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を開始させると判断し、ステップS3の処理を実行する。一方、バッテリーの電圧が所定値未満であれば、判断部102は、ステップS1の処理に戻る。
【0036】
ステップS3において、作動部103は、判断部102の判断によって輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を開始させ、その後、ステップS1の処理に戻る。
【0037】
ステップS4において、判断部102は、車内温度が所定値以上であるか判断する。ここで、車内温度の所定値は特に制限されないが、冷暖房空調装置60の設定温度と同じ温度としても良い。また、車内温度の所定値は、乗員が一般的に快適と感じる温度、例えば24℃とすることが好ましく、さらに、乗員が自由に変更できることがより好ましい。車内温度が所定値以上であれば、判断部102は、輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を停止させると判断し、ステップS5の処理を実行する。一方、車内温度が所定値未満であれば、判断部102は、ステップS1の処理に戻る。
【0038】
ステップS5において、作動部103は、判断部102の判断によって輻射熱ヒーター40に熱線の輻射を停止させ、その後、ステップS1の処理に戻る。
【0039】
自動車を始動する際、制御装置100は、ステップS1〜S3のみを一連の処理として起動しても良いが、ステップS1〜S5の一連の処理を起動することが好ましい。一度処理を起動すると、制御装置100は、自動車の運転中も継続的に膝下輻射暖房装置の制御を行う。よって、ステップS1〜S3の一連の処理を起動すれば、自動車のエンジンの水温が上昇するまでの間、膝下輻射暖房装置によって乗員を暖めることができる。ステップS1〜S5の一連の処理を起動すれば、制御装置100は、さらに、バッテリーの電圧が低下しすぎることによって自動車を始動できなくなる事態を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】スライド式シートが前にスライドされた状態における膝下輻射暖房装置の概略図である。
【図2】スライド式シートが後ろにスライドされた状態における膝下輻射暖房装置の概略図である。
【図3】輻射熱ヒーターがスライド式シートの座部の裏面の後方に設置された状態における膝下輻射暖房装置の概略図である。
【図4】3列のシートを備える自動車に装着された膝下輻射暖房装置の概略図である。
【図5】自動車の冷暖房空調装置の作動パネルの表示例の図である。
【図6】膝下輻射暖房装置と冷暖房空調装置とを併設した状態の概略図である。
【図7】膝下輻射暖房装置と冷暖房空調装置とを併設した状態における床面を天井から見た概略図であり、(a)は全体図であり、(b)は部分拡大図である。
【図8】膝下輻射暖房装置の制御手段のブロック図である。
【図9】制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
10,11,12 膝下輻射暖房装置
20、30 スライド式シート
21、31 座部
21a、31a 座部の裏面
22、32 背もたれ部
22a、32a 背もたれ部の裏面
23、33 脚部
40 輻射熱ヒーター
44、44a、44b オン-オフスイッチ
47 輻射熱ヒーター作動表示部
49 作動パネル
50 集光部材
55 反射板
51 熱線
60 冷暖房空調装置
61 リアダクト
62 フレキシブルダクト
63 リア吹き出し口
63a 手前の外壁
64 温風
90 乗員
90a 膝下部分
93 膝下領域
95 シート
97 インストルメントパネル
98 床面
100 制御装置
101 入力部
102 判断部
103 作動部
106 車内温度測定部
107 バッテリー電圧測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の直進方向に対して前後及び/又は左右にスライド自在なスライド式シートの座部の裏面又は背もたれ部の裏面に設置されている輻射熱ヒーターと、
該輻射熱ヒーターの周囲に設置され、かつ、前記輻射熱ヒーターから輻射される熱線を所望の照射方向のみに照射させる集光部材と、を備え、
該集光部材は、前記熱線の前記照射方向を、前記スライド式シートの後側に位置するシートに乗員が座ったときに該乗員の膝下部分が位置する領域の全部又は一部を照射する方向とすることを特徴とする膝下輻射暖房装置。
【請求項2】
前記輻射熱ヒーターは、前記スライド式シートの前記座部の裏面の後方又は前記背もたれ部の裏面の下方に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の膝下輻射暖房装置。
【請求項3】
前記輻射熱ヒーターが、前記スライド式シートのうち前記自動車の直進方向における最後列以外のシートの全部又は一部に設置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の膝下輻射暖房装置。
【請求項4】
前記輻射熱ヒーターのオン−オフスイッチと前記輻射熱ヒーターの作動状態を表示する輻射熱ヒーター作動表示部とを備えることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の膝下輻射暖房装置。
【請求項5】
前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を開始させる制御手段を設け、
該制御手段は、前記自動車のバッテリーの電圧の信号及び前記自動車の冷暖房空調装置が停止している状態を示す信号が受信される入力部と、
該入力部が、前記バッテリーの電圧が所定値以上である信号及び前記冷暖房空調装置が停止している状態を示す信号を受信したときに、前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を開始させると判断する判断部と、
該判断部の判断によって前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を開始させる作動部と、を備えることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の膝下輻射暖房装置。
【請求項6】
前記入力部は、前記自動車の車内空間の温度の信号及び前記自動車の冷暖房空調装置が作動している状態を示す信号を受信し、
前記判断部は、前記自動車の車内空間の温度が所定値以上の信号及び前記自動車の冷暖房空調装置が作動している状態を示す信号を受信したときに、前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を停止させると判断し、
前記作動部は、前記判断部の判断によって前記輻射熱ヒーターに前記熱線の輻射を停止させることを特徴とする請求項5に記載の膝下輻射暖房装置。
【請求項7】
前記自動車の冷暖房空調装置のリアダクトの少なくとも一部をフレキシブルダクトとし、
前記リアダクトのリア吹き出し口を前記スライド式シートの前記座部の裏面に固定し、
前記集光部材を反射板とし、
前記リアダクトの前記リア吹き出し口の手前の外壁に前記反射板を密着した状態で固定しているか、或いは、前記リアダクトの前記リア吹き出し口の手前の外壁を反射板としていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6に記載の膝下輻射暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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