説明

膝蓋骨可動性評価装置

【課題】再現性の高い定量的な値に基づいて膝蓋骨可動性を評価できると共に、適切な療法を決定するための判断材料として有益な値を容易に得ることができる膝蓋骨可動性評価装置を提供すること。
【解決手段】膝蓋骨可動性評価装置1によれば、一対のアーム3,4により被検者の膝蓋骨前方に基準面2bを固定した後、キャリパ部9を膝蓋骨測定部位に位置合わせし、表示パネル9bよる表示を確認することにより、測定方向における膝蓋骨測定部位の位置が数値で得られる。すなわち、膝蓋骨104が止まるまで測定方向Aに押圧されたときの、測定方向Aにおける膝蓋骨104の移動距離を数値で取得することができる。測定方向にAおける膝蓋骨の移動距離は、膝蓋骨の可動性に相当する。よって、表示パネル9を確認し、測定方向Aにおける膝蓋骨104の移動距離を数値で取得することで、測定方向Aにおける膝蓋骨104の可動性を定量的な値に基づいて評価できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膝蓋骨可動性評価装置に関し、特に、再現性の高い定量的な値に基づいて膝蓋骨可動性を評価できると共に、適切な療法を決定するための判断材料として有益な値を容易に得ることができる膝蓋骨可動性評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膝蓋大腿関節痛は、整形外科疾患として非常に頻度の高い疾患である。膝蓋大腿関節痛の原因の一つとして、膝蓋骨可動性の異常が知られている。
【0003】
図7を参照して、膝関節について説明する。図7は膝関節を模式的に示す図である。図7に示すように、膝関節は、大腿骨100と脛骨102とからなる大腿頸骨関節と、大腿骨100と膝蓋骨104とからなる膝蓋大腿関節とから構成される。さらに、大腿骨100と脛骨102との間は、内側側副靱帯108、外側側副靱帯110、前十字靱帯112、後十字靱帯114とにより連結されている。通常、膝蓋骨104は、大腿骨100に対し相対移動可能であり、その可動性は適度に保たれているが、何らかの要因により、膝蓋骨可動性のバランスが崩れると、膝蓋大腿関節痛の原因となる。よって、整形外科分野においては、膝蓋大腿関節痛の原因を究明するために、患者の膝蓋骨可動性を評価することが行われている。
【0004】
整形外科分野において、膝蓋骨可動性の評価は、主にパテラグライディングテストにより行われている。パテラグライディングテストとは、被検者の大腿骨顆部100a,100b(大腿骨100下端の左右にふくらんだ箇所であり、内側を大腿骨内側顆、外側を大腿骨外側顆という)を把持し、膝蓋骨104を検者が徒手により内側または外側に止まるまで押圧し、大腿骨100に対する膝蓋骨104の相対移動距離を判断するテストである。相対移動距離が大きければ、膝蓋骨104の可動性が高く、相対移動距離が小さければ、膝蓋骨104の可動性が低いと判断される。
【0005】
このパテラグライディングテストは、理学療法分野においても応用されている。例えば、パテラグライディングテストによる膝蓋骨可動性の評価結果をもとに、膝蓋大腿関節障害患者に対し、ストレッチング、筋力増強訓練、テーピング、装具療法などの適切な治療を行う。
【0006】
また、人工膝関節術(膝関節を人工関節に置換する術)後や、膝関節骨折後に、膝関節屈曲性や膝蓋骨可動性に低下が見られる場合がある。このような場合、理学療法の分野では、膝関節屈曲性を回復させる訓練と膝蓋骨可動性を回復させる訓練とを並行して実施する。ここで、臨床上の経験から、膝関節屈曲性と膝蓋骨可動性との間には一定の相関関係があることが知られているから、パテラグライディングテストにより膝蓋骨可動性を評価しつつ、その評価結果をもとに被検者の回復状態に適した訓練内容が決められる。
【0007】
このように整形外科分野、理学療法分野において、膝蓋骨可動性を評価することは、適切な治療法、訓練法を選択する上で非常に重要である。なお、膝関節の状態を評価するための他の方法としては、例えば、MRI、CT、X−rayなどにより膝関節を画像診断することが知られている(例えば、特許文献1参照)。これらによれば、膝関節の静的アライメントを評価できるが、膝蓋骨可動性を評価することはできないので、膝蓋骨可動性の評価は、上記パテラグライディングテストに頼る他はなかった。
【特許文献1】特表2004−537357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、パテラグライディングテストは、膝蓋骨の可動性を検者が触診により主観的に評価するものである。すなわち、パテラグライディングテストを実施した検者は、自らが主観的に評価した膝蓋骨可動性をもとに、適切な治療法または訓練法(以下、治療法等という)を決定しなければならない。よって、パテラグライディングテストの結果として評価された膝蓋骨可動性と、適切な治療法等との相関関係は、パテラグライディングテストの検者自身が経験的に修得しなければならず、経験の浅い施術者では、誤った治療法などを選択してしまうおそれがあるという問題点があった。
【0009】
また、上述のように、膝蓋大腿関節痛や膝関節屈曲性と膝蓋骨可動性との間には一定の相関関係があることが経験上知られているものの、その明確な相関関係は未だ確立されていない。したがって、パテラグライディングテストにより膝蓋骨可動性を評価しても、必ずしも適切な治療法等を選択することができないという問題点があった。
【0010】
また、長期間におよぶリハビリテーションまたは治療の間に、施術者が代わる場合があるが、その場合、後の施術者は、治療経過、訓練経過における膝蓋骨可動性の変化を明確に知ることができず、誤った治療法などを選択してしまう場合があるという問題点があった。
【0011】
このような問題点を解決するために、膝蓋骨可動性を定量的に評価できる機器が研究されている。被検者の膝蓋骨可動性が定量的な値として得られれば、適切な治療法を選択するために有益な判断材料となり得るからである。しかしながら、使用法が簡便ではないという問題点、測定結果として得られる値に再現性がないという問題点があるため臨床応用にまで至っていない。検者間における再現性がなく(被検者が同一であっても検者が異なると測定結果が変わる)、また、検者内における再現性がない(検者が同一であり且つ被検者が同一であっても、測定毎に測定結果が異なる)場合、定量的に得られた値であっても、臨床には応用することはできない。再現性が得られない原因としては、膝蓋骨の押圧により、被検者の大腿骨が測定中に回旋すること、被検者の大腿四頭筋の緊張が考えられる。
【0012】
さらに、従来研究されている他の機器では、膝蓋骨可動性を評価するための定量的な値が一応は得られるものの、その値は各被検者の解剖学的個人差、特に大腿骨のアライメントのばらつきを考慮していなかったため、適切な治療法を決定するための臨床データとして、真に有益なデータは得られないという問題点があった。
【0013】
図8は、整形外科分野において大腿骨のアライメントを評価する指標として用いられるQアングルを説明するための図である。図8に示すように、上前腸骨棘116と膝蓋骨104の中央104aを結ぶ仮想的な直線118(以下、大腿長軸118と称する)と、膝蓋骨中央104aを通り脛骨102に沿った縦の直線120との間の角度をQアングル122という。このQアングル122により評価される大腿骨のアライメントは被検者個々により異なるが、下肢機能に影響を及ぼすと共に、膝蓋骨可動性にも影響を及ぼす。
【0014】
したがって、各被検者の大腿骨アライメントのバラツキを考慮することにより、各被検者間の解剖学的個人差が排除された値を得ることができれば、その値を臨床データとして蓄積することにより、膝蓋大腿関節痛や膝関節屈曲性と膝蓋骨可動性との相関関係が明らかになり、その相関関係を治療法決定の際の判断材料とすることが期待されるのだが、上記従来の他の機器では、そのような効果が期待できなかったのである。
【0015】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、再現性の高い定量的な値に基づいて膝蓋骨可動性を評価できると共に、適切な療法を決定するための判断材料として有益な値を容易に得ることができる膝蓋骨可動性評価装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的を達成するために、請求項1記載の膝蓋骨可動性評価装置は、被検者の膝蓋骨前方に配置される基準面を有する基部と、その基部に設けられ、被検者の大腿骨顆部を内側と外側とから挟み込み、大腿骨に対し前記基準面を固定する少なくとも一対のアームと、前記基部の基準面に平行な測定方向における位置に関する数値を表示する表示手段とを備えている。
【0017】
請求項2記載の膝蓋骨可動性評価装置は、請求項1記載の膝蓋骨可動性評価装置において、前記基準面に対し、前記測定方向に相対移動可能に設けられた測定体と、前記測定方向における前記測定体の位置を、前記膝蓋骨の測定部位に位置合わせするために前記測定体に設けられた位置合わせ手段とを備え、前記表示手段は、前記測定方向における測定体の位置に関する数値を表示するものである。
【0018】
請求項3記載の膝蓋骨可動性表示装置は、請求項2記載の膝蓋骨可動性評価装置において、前記表示手段は、前記基準面に対し平行な直線方向において前記測定体を往復移動可能に支持する支持部を備え、前記支持部は、前記測定体の往復移動方向が検者の希望する測定方向に一致するように、基準面に垂直な軸心回りに揺動可能に前記基部に設けられている。
【0019】
請求項4記載の膝蓋骨可動性評価装置は、請求項2または3に記載の膝蓋骨可動性評価装置において、前記位置合わせ手段は、前記アームが大腿骨顆部を挟み込み前記基準面が固定された状態において、被検者の膝蓋骨前面に向けて光を照射可能に構成されると共に、少なくとも測定方向において前記測定体に対し相対移動不能に設けられた光照射手段を備えるものである。
【0020】
請求項5記載の膝蓋骨可動性評価装置は、請求項1から4のいずれかに記載の膝蓋骨可動性評価装置において、前記一対のアームのうち少なくとも一方のアームと前記基部とを連結する連結部材を備え、前記連結部材は、前記一方のアームの前記基部に対する相対移動を、他方のアームとの間の距離を縮める方向へは許容し、且つ他方のアームとの間の距離を広げる方向へは規制するものであって、使用者の操作に応じて、他方のアームとの間の距離を広げる方向への移動規制を解除する解除手段を備える。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の膝蓋骨可動性評価装置によれば、測定方向における位置に関する数値が表示手段に表示されるので、表示手段に表示される数値を確認することにより、膝蓋骨が止まるまで測定方向に押圧されたときの、測定方向における膝蓋骨の移動距離を数値で取得することができる。ここで、測定方向における膝蓋骨の移動距離は、膝蓋骨の可動性に相当する。よって、表示手段による位置の表示を確認し、測定方向における膝蓋骨の移動距離を数値で取得することにより、測定方向における膝蓋骨の可動性を定量的な値に基づいて評価することができるという効果がある。
【0022】
また、膝蓋骨の押圧や、被検者の挙動に起因して、被検者の大腿骨が回旋したとしても、アームにより基準面が大腿骨に固定されているので、大腿骨の回旋と基準面の回旋とが連動し、大腿骨の回旋により測定結果に誤差が生じることが抑制され、再現性の高い結果が得られるという効果がある。
【0023】
請求項2記載の膝蓋骨可動性評価装置によれば、請求項1記載の膝蓋骨可動性評価装置の奏する効果に加え、前記基準面に対し前記測定方向に相対移動可能に設けられた測定体を、前記膝蓋骨の測定部位に位置合わせするための位置合わせ手段が前記測定体に設けられているので、検者は、位置合わせ手段を用いることにより、測定方向における膝蓋骨の移動距離、すなわち膝蓋骨可動性を定量的に取得することができるという効果がある。すなわち、まず、位置合わせ手段を用いることにより、膝蓋骨の測定部位に測定体を正確に位置合わせし、次に、膝蓋骨が止まるまで測定方向に押圧する。この押圧により膝蓋骨の測定部位も測定方向に移動するから、再び位置合わせ手段を用いることにより、測定体を膝蓋骨の測定部位に移動させる。このときの測定体の移動距離は膝蓋骨可動性に相当するので、表示手段における表示を確認することにより、測定方向における膝蓋骨の移動距離、すなわち測定方向における膝蓋骨の可動性を定量的に得ることができるのである。
【0024】
請求項3記載の膝蓋骨可動性評価装置によれば、請求項2記載の膝蓋骨可動性評価装置の奏する効果に加え、支持部を揺動させることにより測定体の往復移動方向を検者の希望する測定方向に一致させることができるので、被検者の解剖学的個人差に拘わらず、検者の希望する方向における膝蓋骨の可動性を評価することができる。よって、各被検者間の解剖学的個人差に拘わらず、個々の患者等に対し適切な療法を決定するための判断材料として有益な値を得ることができるという効果がある。
【0025】
請求項4記載の膝蓋骨可動性評価装置によれば、請求項2または3に記載の膝蓋骨可動性評価装置の奏する効果に加え、前記位置合わせ手段は、前記アームが大腿骨顆部を挟み込み前記基準面が固定された状態において、被検者の膝蓋骨前面に向けて光を照射可能に構成され、少なくとも測定方向において前記測定体に対し相対移動不能に設けられた光照射手段を備えるので、被検者の膝蓋骨前面の測定部位に光が照射されるように測定体を移動させることにより、3次元的(すなわち、左右方向、上下方向、前後方向)に移動する膝蓋骨の測定部位を的確に指し示すことができ、測定体の位置を膝蓋骨の測定部位に容易かつ正確に位置合わせすることができる。よって、例えば、経験の浅い検者であっても、誤差が少なく再現性の高い有益な値を容易に得ることができるという効果がある。
【0026】
請求項5記載の膝蓋骨可動性評価装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の膝蓋骨可動性評価装置の奏する効果に加え、一方のアームの前記基部に対する相対移動を、他方のアームとの間の距離を縮める方向へは許容し、且つ他方のアームとの間の距離を広げる方向へは規制する連結部材が設けられているので、一対のアームの間に被検者の膝を介在させ、それら一対のアームの間隔を徐々に縮めて大腿骨顆部を挟み込んだ後は、それら一対のアームの間隔は広がらず、一対のアームで大腿骨顆部を確実に挟み込むことができる。よって、大腿骨に対する基準面のずれが抑制され、再現性の高い値が得られるという効果がある。また、連結部材は、使用者の操作があった場合に、他方のアームとの間の距離を広げる方向への移動規制を解除する解除手段を備えているので、測定後、移動規制を解除することにより、一対のアームの間隔を広げ、被検者の膝から膝蓋骨可動性評価装置を容易に取り外すことができるという効果がある。また、一対のアームで様々な太さの膝を挟み込むことが可能であるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1,図2,図3は、本発明の膝蓋骨可動性評価装置の一実施の形態である膝蓋骨可動性評価装置1の外観斜視図である。膝蓋骨可動性評価装置1は、被検者の下肢124(図3参照)に取り付けられ、被検者の膝蓋骨可動性を定量的に評価するための装置である。
【0028】
図1〜図3に示すように、膝蓋骨可動性評価装置1は、主に、基部2と、基部2に設けられた固定アーム3、摺動アーム4と、アーム3,4に対し基部2の反対側に設けられたデジタル式キャリパゲージ5と、デジタル式キャリパゲージ5のキャリパ部9に取り付けられた位置合わせ部6と、アジャスタ15とを備える。
【0029】
基部2は、角形棒状の部材である。なお、基部2のうち、一対のアーム3,4が取り付けられている面を下面2aと称し、下面2aの反対側の面を基準面2bと称する。
【0030】
固定アーム3と摺動アーム4とは、被検者の大腿骨顆部100a,100bを下肢124(図3参照)の内側と外側とから挟み込み、基準面2bを大腿骨100に対し固定するためのものである。固定アーム3が基部2の下面2aに直に連結され、基部2に対し固定されているのに対し、摺動アーム4は連結部材7を介して基部2の下面2aに連結され、基部2に対し基部2の長手方向に相対移動可能である。したがって、被検者の膝蓋骨前方に基準面2bを配置し、固定アーム3との間の距離を縮める方向に摺動アーム4を摺動させることにより、被検者の大腿骨顆部100a,100bをアーム3,4で挟み込むことができる(図3参照)。
【0031】
固定アーム3と摺動アーム4とは、それぞれ、一端が基部2側に連結される円弧状の腕部3a,4aと、腕部3a,4aの他端に一体的に設けられる円形の把持部3b,4bと、把持部3b,4bの内側の面(互いに対向する面)に設けられるパット部3c,4cとを備える。パット部3c,4cは、アーム3,4で被検者の大腿骨顆部100a,100bを挟み込むときに、大腿骨顆部100a,100b(図7参照)に当接するものであり、当接面が凹面とされている。図7に示すように、大腿骨顆部100a,100bは半球形状に突き出た形状であるので、パット部3c,4cの凹面が被検者の大腿骨顆部100a,100bに密着することにより、一対のアーム3,4で大腿骨100を確実に把持することができる。また、パット部3c,4cは、弾性を有する部材で構成される。したがって、被検者に肉体的苦痛を与えない。
【0032】
なお、把持部3b,4bにおいて、把持部3b,4bの外側(基部2の長手方向端側)には、把持部3b,4bに対し軸心回りに回動可能な楕円部材3d,4dが設けられている。楕円部材3d,4dは、環状の連結具3e,4eを保持するためのものである。一本のベルト8の端部を、連結具3e,4eに挿通し、ベルト8端部を折り曲げて、ベルト8の面に予め設けられたマジックテープ(登録商標)によりベルト8端部を留めることで、把持部3b,4bの間をベルト8で連結することができる。したがって、把持部3b,4bとで被検者の大腿骨顆部100a,100b(図7参照)を挟み込んだ後、被検者の膝裏側にベルト8を巻回し、ベルト8の端部を把持部3b,4bを連結することで、膝蓋骨可動性評価装置1を、被検者の膝周りにより確実に固定することができる。
【0033】
連結部材7は、摺動アーム4を基部2に対して相対移動させるためのものである。連結部材7は、レール状のガイド部7aと、ガイド部7aの両端を基部2の下面2aに固定する一対の固定部7bと、ガイド部7aに案内されると共に、摺動アーム4の一端が連結される摺動部7cとを備える。摺動部7cは、摺動アーム4の基部2に対する相対移動を、固定アーム3との距離を縮める方向へは許容し、固定アーム3との間の距離を広げる方向へは規制するものである。したがって、固定アーム3と摺動アーム4との間に被検者の膝を介在させた状態で、固定アーム3との間の距離を縮める方向に摺動アーム4を摺動させ、把持部3b,4bにより被検者の大腿骨顆部100a,100bを挟み込んだ後は、固定アーム3と摺動アーム4との間が広がることがなく、被検者の大腿骨顆部100a,100bを確実に挟み込み、被検者の大腿骨に対し、基準面2bを確実に固定することができる(図4参照)。なお、摺動部7は、ラチェットなどワンウェイの移動のみを許容する公知のメカニズムを利用して構成することができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0034】
また、摺動部7cは解除ボタン7dを備えている。解除ボタン7dは、固定アーム3との間の距離を広げる方向への摺動アーム4の移動規制を解除するためのものである。解除ボタン7dを押圧している間は、摺動アーム4を、固定アーム3との間の距離を広げる方向へ摺動させることができる。したがって、後述する方法により、膝蓋骨可動性評価装置1を被検者の下肢124に取り付けて膝蓋骨可動性の評価をし、評価が終了した後には、解除ボタン7dを押圧し、固定アーム3と摺動アーム4との間隔を広くすることにより、固定アーム3と摺動アーム4とを被検者の膝から容易に取り外すことができる。また、解除ボタン7dを押圧しつつ固定アーム3と摺動アーム4との間を適宜広げることで、様々な太さの膝に対応が可能である。
【0035】
デジタル式キャリパゲージ5は、測定方向における被検者の膝蓋骨可動性(膝蓋骨測定部位の移動距離)を定量的に表示するためのものであり、キャリパ部9と、目盛り部10とから構成される。なお、目盛り部10は基準面2bに平行な上面において、長手方向位置を表示する目盛り10aが刻印された薄板棒状の部材である。またキャリパ部9は、目盛り部10の長手方向(請求項の直線方向に相当)に往復移動可能であり、キャリパ部9の往復移動方向が測定方向に相当する。なお、図中の矢印Aは、キャリパ部9の往復移動方向(測定方向)を示している。
【0036】
キャリパ部9は、被検者の膝蓋骨測定部位の測定方向における位置を表示するためのものである。キャリパ部9の底面の一面には側面視T字状のスライド溝9aが設けられ、上面には表示パネル9bが設けられる。キャリパ部9は、このスライド溝9aにより往復移動可能に目盛り部10に支持される。キャリパ部9を指などで把持してスライドさせることにより、目盛り部10に対しキャリパ部9を往復移動させることができる。表示パネル9bには、測定方向Aにおけるキャリパ部9の位置が数値で表示される。よって、被検者の膝蓋骨の測定部位にキャリパ部9を位置合わせすることにより、被検者の膝蓋骨の測定部位の測定方向Aにおける位置を数値で表示パネル9bに表示させることができる。
【0037】
キャリパ部9は、さらに、電源オンオフボタン9c(図5参照)と、リセットボタン9d(図5参照)とを備える。電源オンオフボタン9cは、表示パネル9bにおける表示のオンとオフとを切り替えるためのボタンである。リセットボタン9dは、表示パネル9bに表示される測定方向位置を0にリセットするためのボタンである。なお、図1〜図3においては、図面を見易くするために、電源オンオフボタン9cおよびリセットボタン9dの図示を省略する。
【0038】
位置合わせ部6は、被検者の膝蓋骨測定部位にキャリパ部9を位置合わせし、またデジタル式キャリパゲージ5の基部2に対する角度を調整するためのものであって、発光部11と、連結部材12とを備える。発光部11は、被検者の上前腸骨棘116(図8参照)あるいは膝蓋骨104へ向けて光を照射するためのものであり、内部に光源、例えば赤色発光ダイオードを有する筒状部材で構成される。筒状部材の底面11aには、小径の孔が形成されている。よって、点状の光を被検者の上前腸骨棘116あるいは膝蓋骨104に向けて照射することができる。なお、発光部11内の光源は、基部2の一端に連結された電池ボックス13に装着された電池から、コード14を介して供給される電源を利用して発光する。
【0039】
連結部材12は、発光部11をキャリパ部9に連結するための部材である。図3に示すように、連結部材12は、キャリパ部9に対し固定される第1連結部12aと、第1連結部12aに一端が連結され、第1連結部12aに対し測定方向Aに平行な一回転軸心C回りに回動可能に連結された第2連結部12bと、第2連結部12bの他端側と発光部11とを連結するものであって、第2連結部12bに対し測定方向Aに平行な一回転軸心D回りに回動可能に連結された第3連結部12bとを備える。よって、発光部11は、キャリパ部9に対し、測定方向Aに平行な方向へは相対移動不可能であり、測定方向Aに対し垂直な面において回動可能である。
【0040】
アジャスタ15は、デジタル式キャリパゲージ5を、基準面2bに対し垂直な一軸心(図示せず)回りに揺動可能に、基部2に設けるためのものであり、ベース部16と、調節部17と、ロック部材18とを供える。ベース部16は、目盛り部10よりも幅狭の薄板棒状に構成され、目盛り部10下面に固着されると共に、基準面2bに対しては垂直な一軸心周りに揺動可能に基準面2bに設けられている。よって、ベース部16を基部2に対し揺動させることにより、デジタル式キャリパゲージ5を、基準面2bに対し垂直な軸心回りに揺動させることができる。
【0041】
調節部17は、ベース部16の一端に設けられる円弧状の部材であって、板厚方向に貫通する溝部17aを備える。溝部17aの溝形状は、ベース部16の揺動軸心を中心とした仮想的な円の円弧に沿ったものである。
【0042】
ロック部材18は、ベース部16の揺動をロックするためのものであって、基部2の上方へ向けて突設された螺合軸18aと、嵌合部18bと、嵌合部18bの外周面に設けられたハンドル部18cとを備えている。螺合軸18aは略円柱状に形成されており、その一端側が基準面2bに固着され、外周にはおねじが螺刻されている。螺合軸18aの径は溝部17aの溝幅よりも小さく、螺合軸18aは、溝部17aを貫通する。かかる螺合軸18aの他端側には略円柱状の嵌合部18bが螺合されている。
【0043】
したがって、ハンドル部18cを用いて螺合方向に嵌合部18bを回動し、嵌合部18bと基準面2bとの距離を近づけ、嵌合部18b下面と基準面2bとで調節部17を上下から締め付けることにより、調節部17およびベース部16の揺動をロックし、デジタル式キャリパゲージ5を固定することができる。
【0044】
次に、図4〜図6を参照して、膝蓋骨可動性評価装置1の使用法の一例を説明する。図4は、膝蓋骨可動性評価装置1を、被検者の下肢124に固定した状態を示す図である。まず、ベットで背臥位となった被検者の膝蓋骨前方に基部2を配置し、固定アーム3のパット部3cを被検者の大腿骨顆部100aにあてがい、摺動アーム4を固定アーム3と近づける方向に摺動させて摺動アーム4のパット部4cを被検者の大腿骨顆部100bにあてがい、一対のアーム3,4により、基部2の基準面2bを被検者の大腿骨に対し固定する。なお、ベルト8を検者の膝裏に巻回し、ベルト8の両端を連結具3d,4dに連結することにより、この固定が一層確実なものとなる。
【0045】
次に、基部2に対するデジタル式キャリパゲージ5の角度を調節し、デジタル式キャリパゲージ5による測定方向Aを検者が希望する方向に一致させる。被検者のQアングル122のバラツキをなるべく排除したデータを得るために、ここでは、大腿長軸118に対し垂直な方向に測定方向Aを一致させる場合について説明する。
【0046】
まず、ロック部材18によるロックを解除し、デジタル式キャリパゲージ5を基準面2bに対し揺動可能とする。そして、デジタル式キャリパゲージ5を揺動させつつ、測定方向A(キャリパ部9の往復移動方向)が大腿長軸118に対し垂直となる角度を探す。そして、測定方向Aを大腿長軸118に対し垂直な方向に一致させることができたら、その位置でデジタル式キャリパゲージ5をロックする。
【0047】
具体的には、まず、デジタル式キャリパゲージ5のキャリパ部9の測定方向Aにおける位置を、被検者の膝蓋骨中心104a(図8参照)に位置合わせする。これは、発光部11から照射される点状の光を、被検者の膝蓋骨中心104aに向けて照射できるように、連結部材12を調整し、またはキャリパ部9を移動させることにより行われる。これにより、目盛り部10上におけるキャリパ部9の位置が決定される。
【0048】
次に、目盛り部10上におけるキャリパ部9の測定方向位置は固定しつつ、デジタル式キャリパゲージ5を揺動させ、且つ連結部材12を調整して発光部11を回動させることにより、発光部11からの光を被検者の上前腸骨棘116(図7参照)へ向けて照射することができる角度を探す。図4は、発光部11からの光が、被検者の上前腸骨棘116(図8参照)に向けて照射されている状態を示す図であり、図4における*は光の照射位置を示す。このように発光部11から照射される光で膝蓋骨中心104aと上前腸骨棘116とを照射することができる角度が決定されたら、その位置でデジタル式キャリパゲージ5をロックする。すなわち、大腿長軸118(膝蓋骨中心104aと上前腸骨棘116とを結ぶ直線)に平行な面において発光部11が回動可能な角度に、デジタル式キャリパゲージ5を固定する。
【0049】
上述のように、発光部11は、キャリパ部9の往復移動方向(すなわち測定方向A)に垂直な面でのみ回動可能である。よって、発光部11の回動可能な面が、大腿長軸118に平行となる角度でデジタル式キャリパゲージ5を固定することで、測定方向Aを、大腿長軸118に対し垂直な方向に一致させることができる。
【0050】
次に、検者は、被検者の膝蓋骨を指でつまみ、膝蓋骨外側縁104b(請求項の測定部位に相当)を決定する。次に、検者が触診により決定した膝蓋骨外側縁104bへ向けて発光部11により光を照射できる位置にキャリパ部9を移動させることにより、キャリパ部9の測定方向Aにおける位置が膝蓋骨外側縁104bに位置合わせされる。図5において、*は発光部11からの光の照射位置を示す。図5に示すように、膝蓋骨外側縁104bへ向けて光が照射される位置にキャリパ部9の位置合わせが完了したら、リセットボタン9dを押下し、表示パネル9bに表示される値を0とする。
【0051】
図5は、リセットボタン9dが押下された状態を示す図である。これにより、膝蓋骨を押圧していない状態における膝蓋骨外側縁104bに位置合わせされたキャリパ部9の測定方向位置が基準位置(0)として設定される。
【0052】
次に、検者は徒手により、被検者の膝蓋骨を、内側から外側へ膝蓋骨が止まるまで押圧する。なお、このときの押圧方向は、図6において矢印aで示す。すなわち、検者が徒手により押圧し、膝蓋骨を移動可能な量だけ外側(矢印a方向)へ移動させる。これに伴って膝蓋骨外側縁104bが膝蓋骨外側へ移動するので、キャリパ部9を測定方向(矢印a方向)へ移動させ、外側へ押圧された膝蓋骨の膝蓋骨外側縁104bにキャリパ部9を位置合わせする。このときも同様に、膝蓋骨外側縁104bへ向けて発光部11により光を照射できる位置にキャリパ部9を移動させることにより測定方向におけるキャリパ部9の位置合わせが行われる。
【0053】
図6は、被検者の膝蓋骨が、徒手により膝蓋骨が外側へ押圧され、そのときの膝蓋骨外側縁104bにキャリパ部9が位置合わせされた状態を示す図である。キャリパ部9の表示パネル9bに表示されているのは、測定方向Aの位置におけるキャリパ部9の位置であり、且つ、基準位置(0)からのキャリパ部9の移動距離である。キャリパ部9の移動距離は膝蓋骨外側縁104bの外側方向への移動距離に等しいから、これにより、膝蓋骨の外側可動性に相当する定量的な値が得られる。
【0054】
同様にして、膝蓋骨内側縁を測定部位としてキャリパ部9の基準位置を決定し、その後、外側から内側へ膝蓋骨が止まるまで押圧し、膝蓋骨内側縁にキャリパ部9を位置合わせすることにより、膝蓋骨内側可動性に相当する定量的な値を得ることもできる。
【0055】
なお、発光部11からの光が、被検者の膝蓋骨前面の測定部位に向けて照射されるようにキャリパ部9が移動させられることにより、キャリパ部9の位置合わせがされるので、3次元的(すなわち、左右方向、上下方向、前後方向)に移動する膝蓋骨の測定部位を的確に指し示すことができ、経験の浅い検者であってもキャリパ部9の位置を膝蓋骨の測定部位に容易かつ正確に位置合わせすることができる。
【0056】
また、膝蓋骨可動性評価装置1によれば、一対のアーム3,4およびベルト8により、基部2が大腿骨に対し確実に固定されているので(図3参照)、膝蓋骨可動性装置1を被検者の下肢124に取り付けた状態において、検者の両手は自由となる。よって、検者は徒手により被検者の膝蓋骨を押圧することができる。さらに、徒手により、被検者の膝蓋骨を押圧すると、直接大腿四頭筋を触診することとなるので、膝蓋骨を左右に動かす時の抵抗感で、大腿四頭筋の収縮や弛緩を確認しながら測定することができ、膝蓋骨可動性を適切に評価することができる。膝蓋骨を徒手ではなく装置により機械的に押圧することとすると、装置では膝蓋骨の位置を正確に判断することが難しく、押圧箇所が不適当であることに起因して評価結果に誤差が生じやすいのである。
【0057】
次に、膝蓋骨可動性評価装置1により定量的に得られる値の再現性について説明する。下記条件で実験し、膝蓋骨可動性評価装置1により得られた値の再現性を確認した。なお、この実験は、検者内再現性と検者間再現性とを調べるための実験である。
【0058】
<被検者条件>
被検者 :健常成人30名30膝(男性15名、女性15名)
被検者平均年齢:29±6歳、
被検者平均身長:167±8cm
被検者平均体重:59±11kg
<手順>
二人の検者により、異なる二日間で測定した。それぞれの測定結果はブラインドされている。被験者はベッドで背臥位となり、膝関節0度(完全伸展位、すなわち膝を伸ばした状態)と膝関節30度(完全伸展位に対し、膝を30度屈曲した状態)の肢位で測定された。下肢は中間位として股関節0度回旋位とされた。膝蓋骨可動性評価装置1は股関節0度回旋位でベッドに対し平行に配置され、一対のアーム3,4により被検者の大腿骨顆部に固定された。前述のごとく、デジタル式キャリパーゲージ5は、その測定方向Aが大腿長軸118に対し垂直となるようにアジャスタ15で調整された。まず、膝蓋骨外側可動性測定では、膝蓋骨外側縁を触診しその膝蓋骨外側縁104bに発光部11から光を照射し、キャリパ部9の値を0にリセットする(図5参照)。次に、膝蓋骨を徒手的に内側から外側へ膝蓋骨が止まるまで押圧し、キャリパ部9をスライドさせ発光部11からの光を再度膝蓋骨外側縁104bに照射し、キャリパ部9の表示パネル9bに表示された値を読む(図6参照)。そのキャリパ部9の移動距離(表示パネル9bに表示された値)を膝蓋骨外側可動量とした。膝蓋骨内側可動性も同様に膝蓋骨を外側から内側に押圧し測定した。外側、内側の膝蓋骨可動性は膝関節0度と30度の両方の肢位で測定された。また、膝蓋骨可動量を膝蓋骨幅で補正した値を膝蓋骨可動性指数とした。膝蓋骨幅は可動性測定と同様の設定にて膝蓋骨内側縁、外側縁を触診し両端の距離を発光部11とキャリパ部9とを使用し測定した。それぞれの可動性と膝蓋骨幅の代表値は3回測定の平均値とした。平均値は小数点弟2位を四捨五入した。
【0059】
<結果>
上述のようにして得られた膝蓋骨可動性指数をもとに、級内相関係数と標準誤差とを、検者内、検者間のそれぞれについて算出した。その結果が、下記表1である。表1に示すように、検者内再現性は級内相関係数0.87から0.97であり、検者間再現性は0.72から0.91であった。
【0060】
【表1】

<考察>
臨床評価において級内相関係数0.7もしくは0.75以上あれば良好な再現性とされており、本研究より本法による膝蓋骨可動性評価は臨床応用可能と考えられる。
【0061】
本実施例の膝蓋骨可動性評価装置1によれば、一対のアーム3,4により被検者の膝蓋骨前方に基部2の基準面2bを固定した後、キャリパ部9を膝蓋骨測定部位に位置合わせし、表示パネル9bよる表示を確認することにより、基準面2bに平行な測定方向における膝蓋骨測定部位の位置が数値で得られる。したがって、表示パネル9に表示される数値を確認することにより、膝蓋骨104が止まるまで測定方向Aに押圧されたときの、測定方向Aにおける膝蓋骨104の移動距離を数値で取得することができる。ここで、測定方向にAおける膝蓋骨の移動距離は、膝蓋骨の可動性に相当する。よって、表示パネル9による位置の表示を確認し、測定方向Aにおける膝蓋骨104の移動距離を数値で取得することにより、測定方向Aにおける膝蓋骨104の可動性を定量的な値に基づいて評価することができる。
【0062】
また、膝蓋骨可動性評価装置1によれば、検者による膝蓋骨の押圧や、被検者の挙動に起因して、測定中に大腿骨が回旋したとしても、一対のアーム3,4により基準面2bが大腿骨100に固定されているので、大腿骨100の回旋と基準面2bの回旋とが連動し、大腿骨100の回旋により測定結果に誤差が生じることが抑制され、再現性の高い結果が得られる。上述した実験で証明されたように、膝蓋骨可動性評価装置1により定量的に得られる値の再現性の高さは、十分に臨床応用可能なものである。なお、大腿骨顆部100a,100bの形状を考慮すると、大腿骨に対し基準面を固定することに替えて、脛骨102(図7参照)に対し基準面を固定する方が、固定性の観点では容易である。しかしながら、脛骨102に対し、基準面2bを固定すると、被検者の挙動により、基準面2bあるいは大腿骨100のみが回旋する場合があるので、誤差が生じやすい。
【0063】
また、膝蓋骨可動性評価装置1によれば、基部2に対し目盛り部10を揺動させることにより、キャリパ部9の往復移動方向を検者の希望する測定方向Aに一致させることができるので、Qアングルのバラツキなどの被検者の解剖学的個人差に拘わらず、検者の希望する方向における膝蓋骨の可動性を評価することができる。よって、個々の患者等に対し適切な療法を決定するための判断材料として有益な値を得ることができる。
【0064】
なお、従来は膝蓋骨可動性評価として、主観的評価であるパテラグライディングテストが用いられてきたため、膝蓋大腿関節痛や膝関節屈曲性と膝蓋骨可動性の低下、増大、内側外側バランスの関連が厳密には判明していない。しかし、膝蓋骨可動性評価装置1を用いて多くの被検者について、被検者個々の解剖学的個人差の影響が少ない膝蓋骨可動性データを蓄積することにより、膝蓋大腿関節痛や膝関節屈曲性と膝蓋骨可動性との相関関係が証明されれば、これらの障害に対する重要な治療指針になり得る。
【0065】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0066】
例えば、本実施例では、キャリパ部9上面に設けられた表示パネル9bに膝蓋骨測定部位の移動距離(膝蓋骨可動性を示す定量的な値)が表示される場合を説明したが、表示パネル9bは必ずしもキャリパ部9に設けられていなくてもよい。例えば、キャリパ部9からデータを出力し、外部のプリンタに膝蓋骨測定部位の移動距離を紙媒体に印刷させるよう構成してもよい。この場合、膝蓋骨測定部位の移動距離が印刷された紙媒体が、特許請求の範囲における表示手段に相当する。また、目盛り部10には測定方向Aにおける位置を表示する目盛り10aが刻印されているので、検者は、目盛り10aからキャリパ部9の移動距離(膝蓋骨可動性を示す定量的な値)を読み取っても良い。この場合、目盛り10aが特許請求の範囲における表示手段に相当する。
【0067】
また、本実施例では、発光部11からは点状の光が照射されるものとして説明したが、発光部11から照射される光は例えばライン状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施例の膝蓋骨可動性評価装置を前方から見た斜視図である。
【図2】図1の膝蓋骨可動性評価装置を後方から見た斜視図である。
【図3】図1の膝蓋骨可動性評価装置を側方から見た斜視図である。
【図4】膝蓋骨可動性評価装置を、被検者の下肢に固定した状態を示す図である。
【図5】リセットボタンが押下された状態を示す図である。
【図6】被検者の膝蓋骨が、徒手により膝蓋骨が外側へ押圧され、そのときの膝蓋骨外側縁にキャリパ部が位置合わせされた状態を示す図である。
【図7】膝関節を模式的に示す図である。
【図8】整形外科分野において大腿骨のアライメントを評価する指標として用いられるQアングルを説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
1 膝蓋骨可動性評価装置
2 基部
2a 基準面
3 固定アーム(一対のアームの一部)
4 摺動アーム(一対のアームの一部)
6 位置合わせ部(位置合わせ手段)
7 連結部材
7d 解除ボタン(解除手段)
9 キャリパ部(測定体)
9a 表示パネル(表示手段)
10 目盛り部(支持部)
11 光照射部(位置合わせ手段の一部、光照射手段)
100 大腿骨
104 膝蓋骨
104b 膝蓋骨外側縁(測定部位)
A 測定方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の膝蓋骨前方に配置される基準面を有する基部と、
その基部に設けられ、被検者の大腿骨顆部を内側と外側とから挟み込み、大腿骨に対し前記基準面を固定する少なくとも一対のアームと、
前記基部の基準面に平行な測定方向における位置に関する数値を表示する表示手段とを備えていることを特徴とする膝蓋骨可動性評価装置。
【請求項2】
前記基準面に対し、前記測定方向に相対移動可能に設けられた測定体と、
前記測定方向における前記測定体の位置を、前記膝蓋骨の測定部位に位置合わせするために前記測定体に設けられた位置合わせ手段とを備え、
前記表示手段は、前記測定方向における測定体の位置に関する数値を表示するものであることを特徴とする請求項1記載の膝蓋骨可動性評価装置。
【請求項3】
前記表示手段は、前記基準面に対し平行な直線方向において前記測定体を往復移動可能に支持する支持部を備え、
前記支持部は、前記測定体の往復移動方向が検者の希望する測定方向に一致するように、基準面に垂直な軸心回りに揺動可能に前記基部に設けられていることを特徴とする請求項2記載の膝蓋骨可動性評価装置。
【請求項4】
前記位置合わせ手段は、前記アームが大腿骨顆部を挟み込み前記基準面が固定された状態において、被検者の膝蓋骨前面に向けて光を照射可能に構成されると共に、少なくとも測定方向において前記測定体に対し相対移動不能に設けられた光照射手段を備えるものであることを特徴とする請求項2または3に記載の膝蓋骨可動性評価装置。
【請求項5】
前記一対のアームのうち少なくとも一方のアームと前記基部とを連結する連結部材を備え、
前記連結部材は、前記一方のアームの前記基部に対する相対移動を、他方のアームとの間の距離を縮める方向へは許容し、且つ他方のアームとの間の距離を広げる方向へは規制するものであって、
使用者の操作に応じて、他方のアームとの間の距離を広げる方向への移動規制を解除する解除手段を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の膝蓋骨可動性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−136102(P2007−136102A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337837(P2005−337837)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(505433208)
【Fターム(参考)】