説明

膨張機

【課題】 圧力センサ、及びこれを制御する制御部、また、逆止弁等を要することなく、簡易且つコストを低減した構成で、過膨張現象を的確に抑制できる膨張機を提供することを目的とする。
【解決手段】 上部軸受8側に上部連通溝6aを形成し、第一シリンダ11側に下部連通溝9aを形成し、これらを膨張室19の低圧側膨張室19bと冷媒流出孔15とを湾曲状に結ぶようにするとともに、下部連通溝9aに冷媒流出孔15と連通する連通孔9bを穿設し、また、前記下部連通溝9aに前記連通孔9bを塞ぐように、樹脂材からなるチップシール22を収納する。過膨張現象が発生した際、前記冷媒流出孔15側と低圧側膨張室19bとの差圧が前記チップシール22に掛かり、冷媒流出孔15側の冷媒が、前記低圧側膨張室19bに逆流し、圧力を回復させ過膨張現象を的確に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧流体の膨張力によりエネルギ回収を行う膨張機に係わり、より詳細には、エネルギ回収効率低下の原因となる過膨張現象を防止する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の膨張機は、例えば図8で示すように、円筒状の内部空間を有するシリンダ59と、このシリンダ59の内部空間内周壁に沿って公転運動を行う偏心ロータ61と、前記シリンダ59と前記偏心ロータ61との間に、同偏心ロータ61の公転運動に伴って、往復的に摺動運動を行うベーン63とを備え、前記シリンダ59の円筒状の内部空間に膨張室62を形成している。
【0003】
前記シリンダ59には、開閉弁69を備え高圧流体を前記膨張室62に導入する流入ポート64と、高圧状態から膨張し低圧となった流体を外部に導出する流出ポート65とが前記ベーン63を挟むように接続されている。前記偏心ロータ61はクランク軸を介して動力回収シャフト60に接続されており、前記偏心ロータ61が前記流入ポート64から導入された高圧流体の膨張により公転運動を行うと、クランク軸を介して前記動力回収シャフト60が回転運動を行い、この回転動力は発電機等に利用されるようになっている。
【0004】
前記偏心ロータ61の公転運動に伴い、前記シリンダ59の内部空間に形成される膨張室62は膨張側であった部分が排出側に、排出側であった部分が膨張側に順次切り換わるようになっており、前記偏心ロータ61の吸入過程と、膨張過程の角度範囲は予め設定され、流体の膨張比は一定となるようになっている。そして、吸入過程の角度範囲で高圧流体をシリンダに導入する一方、膨張過程の角度範囲で流体を設定された膨張比で膨張させ、これにより回転動力を回収するようになっている。しかしながら、膨張機が接続された冷凍サイクルでは、冷却対象の温度変化や放熱対象の温度変化により冷凍サイクル内の高圧側圧力と低圧側圧力が変動するので、それに伴ない膨張機への吸入冷媒と、排出冷媒の圧力も変動してしまう。運転条件の変化により冷凍サイクルの実際の膨張比が、膨張機の設計膨張比よりも大きくなると、膨張室の圧力が冷凍サイクルの低圧側圧力よりも低くなる状態が生じ、所謂、膨張機での過膨張現象が発生してしまう。過膨張現象が発生すると、冷凍サイクルの低圧側圧力を回復させる必要が生じ、これに伴って膨張機でのエネルギ回収効率が低下してしまう不具合が生じる。
【0005】
冷媒の過膨張現象発生を抑制するため、例えば、図8で示すように、前記流出ポート65と、前記膨張室62の膨張過程中間位置とを結び、開閉弁67aと逆止弁68とを備えたバイパス路67を設け、前記開閉弁67aが前記流出ポート65と前記膨張室62との差圧に応じて開閉するようにした技術が提示されている。前記膨張室62で過膨張が発生し、同膨張室62の圧力が前記流出ポート65の圧力より低くなると、前記開閉弁67aが開放され、前記流出ポート65から前記膨張室62に冷媒が逆流することにより、同膨張室62の圧力を冷媒回路の低圧側圧力まで回復させて過膨張現象を抑制するようになっている。また、前記流入ポート64と前記膨張室62とを開閉機構66aを備えた連絡通路66で結ぶ方法もある(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、前記流出ポート64と前記膨張室62との差圧を検出する圧力センサ等による検出手段と、前記開閉弁67a及び逆止弁68と、前記開閉弁67aを適宜開閉する制御手段を設けることは、膨張機の製造に多くの工数を要するばかりでなく、製造コストの上昇、惹いては冷凍サイクルの製造コストの上昇を招くこととなり、これに対し、より簡便でコスト上昇を抑制できる過膨張対策が求められていた。また、前記バイパス路67は、流体の膨張過程における死容積となり、膨張効率の低下を招く虞があった。
【特許文献1】特開2004−190559号(7頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、圧力センサ、及びこれを制御する制御手段、また、開閉弁、逆止弁等を要することなく、簡易且つコストを低減した構成で、過膨張現象を的確に抑制できる膨張機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、密閉容器内に設けられた、内部空間を有するシリンダと、同シリンダの上下端を挟持する上部軸受及び下部軸受と、クランク軸を備え前記上部軸受及び下部軸受に軸支されるシャフトと、前記クランク軸に遊嵌され前記シリンダの内部空間で公転運動するロータと、前記内部空間を区画するベーンと、前記密閉容器と前記シリンダとを貫き、前記内部空間に高圧流体を流入させる冷媒流入孔及び前記内部空間から低圧流体を流出させる冷媒流出孔とからなり、前記冷媒流入孔からの高圧の流体を前記内部空間内で膨張させて前記ロータを公転運動させ、膨張し低圧となった流体を前記冷媒流出孔から流出させてなる膨張機において、
前記上部軸受あるいは下部軸受に、一端を前記内部空間に開口し、他端を前記冷媒流出孔に平面的に交差させた上部連通溝を形成する一方、前記シリンダに前記上部連通溝に相対向するとともに、前記冷媒流出孔に連通する連通孔を備えた下部連通溝を形成し、同下部連通溝内に、前記内部空間と前記冷媒流出孔との差圧により作動して前記連通孔を開閉するチップシールを収容してなる構成となっている。
【0009】
また、密閉容器内に設けられた、内部空間を有するシリンダと、同シリンダの上下端を挟持する上部軸受及び下部軸受と、クランク軸を備え前記上部軸受及び下部軸受に軸支されるシャフトと、前記クランク軸に遊嵌され前記シリンダの内部空間で、同内部空間の周壁に一端を接触させて公転運動するロータと、前記内部空間を区画するベーンと、前記密閉容器と前記シリンダとを貫き、前記内部空間に高圧流体を流入させる冷媒流入孔及び前記内部空間から低圧流体を流出させる冷媒流出孔とからなり、前記冷媒流入孔からの高圧の流体を前記内部空間内で膨張させて前記ロータを公転運動させ、膨張し低圧となった流体を前記冷媒流出孔から流出させてなる膨張機において、
前記ロータに、同ロータと前記周壁との接触点より公転運動方向に位置して、一端を開放した第一連通孔を設ける一方、前記ロータと前記周壁との接触点より公転運動後方側に位置して、一端を開放した第二連通孔を設け、前記ロータの一側面に、前記第一連通孔の他端と前記第二連通孔の他端とに連通する溝を設けるとともに、同溝に、前記第一連通孔と前記第二連通孔との差圧に応じて作動するチップシールを収容してなる構成となっている。
【0010】
また、前記ロータが前記冷媒流出孔側に公転駆動した位置において、前記チップシールは、前記第二連通孔の圧力が前記第一連通孔より高い場合、同第一連通孔を閉塞する一方、前記第二連通孔の圧力が前記第一連通孔より低くなった場合、同チップシールに設けられた切欠きを介して前記第二連通孔と前記第一連通孔とを連通させてなる構成となっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、圧力センサ、及びこれを制御する制御手段、また、開閉弁、逆止弁等を要することなく、樹脂材からなるチップシールを冷媒流出孔側と低圧側膨張室の差圧により作動させることにより、簡易且つコストを低減した構成で、過膨張現象を的確に抑制できる膨張機とすることができるようになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいた実施例として詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は膨張機が用いられる冷媒回路であり、図2は本発明による膨張機の断面図である。図3(A)、図3(B)は膨張機の断面を模式的に示した説明図であり、図4(A)〜図4(C)は要部断面図である。図5(A)〜図5(C)は膨張機の動作を示す説明図であり、図6(A)及び図6(B)は第一実施例でのバイパス路の動作を示す説明図である。また、図7は第二実施例を示す断面図である。
【0014】
本発明による膨張機4を備えた冷媒回路1は、図1で示すように、圧縮機2と、放熱器3と、膨張機4と、吸熱器5とを順次接続して構成されており、同冷媒回路1には自然冷媒としての二酸化炭素冷媒が循環するようになっている。前記圧縮機2はスクロール圧縮機、あるいはロータリー圧縮機で構成され、前記放熱器3と、前記吸熱器5とは、平行して並べられた多数のフィンと、同フィンに直交するように配設された蛇行状の伝熱管とからなるクロスフィン型の熱交換器で構成されている。
【0015】
前記圧縮機2で圧縮され、超臨界状態となった二酸化炭素冷媒は、前記放熱器3に流入し、同放熱器3で熱を放出する。熱を放出した二酸化炭素冷媒は、前記膨張機4に流入し、同膨張機4内で膨張して、気相と液相からなる二相状態となる。二相状態の二酸化炭素冷媒は、前記吸熱器5で熱を吸収して気相状態となり前記圧縮機2に還流するようになっている。また、前記膨張機4内で二酸化炭素冷媒は、膨張するエネルギにより後述するシャフト11を回転駆動させるようになっており、同シャフト11の回転動力は、例えば、これに接続された発電機等に利用されて発電を行なうようになっている。これにより、冷媒の膨張エネルギは廃棄されることなく有効に利用されるようになっている。
【0016】
前記膨張機4は、図2の断面図で示すように、厚肉の鋼材からなり両端部にフランジを備え、円筒状に形成されたメインケース4bと、同メインケース4bの上面に被着される、周縁にフランジを備え、ドーム状に形成されたアッパーカバー4aと、同メインケース4aの下面に被着され、周縁にフランジを備えるとともに、シャフト11の軸受を中央部に備えたロワーカバー4cとで密閉容器を構成しており、前記メインケース4b内には、上下二段に膨張機構が設けられている。
【0017】
前記膨張機4の膨張機構は、図2の断面図、及び図3(B)の説明図で示すように、軸受を備えた中央部が突出して山形状に形成された上部軸受6と、円環状に形成され、内部に断面円形状の内部空間を備えた第一シリンダ9と、軸受を備えた円筒状の中間板7と、前記第一シリンダ9と同形状に形成された第二シリンダ10と、前記上部軸受6と相対向する形状に形成された下部軸受8とを上下方向に重ね合わせ、これらの中央部に、前記上部軸受6と中間板7と下部軸受8とにより、クランク軸11a及びクランク軸11bを上下二段に備えたシャフト11を回動自在に軸支している。また、同シャフト11の側方には、略コ字状に折曲された潤滑油供給孔18が上下方向に穿設されており、同潤滑油供給孔18により、潤滑油が前記上部軸受6と中間板7と下部軸受8との軸受に供給されるようになっている。
【0018】
前記第一シリンダ9と前記第二シリンダ10の断面円形状の内部空間には、図3(A)の断面図で示すように、前記シャフト11の軸芯から偏心した薄型円柱状のクランク軸11a及びクランク軸11bが位置するとともに、これらの外周面には、ベーン12aを側面に突設させた円環状のロータ12及びロータ13が夫々、クランク軸11a及びクランク軸11bの外周面に対し摺動自在に遊嵌されている。
【0019】
前記ロータ12のベーン12aは、前記第一シリンダ9の円形状の窪みに回動自在に遊嵌された、左右一対のブッシュ20に挟みこまれるようにして支持されるとともに、同ブッシュ20に対し往復的に摺動自在となっている。前記ブッシュ20が時計方向あるいは反時計方向に回動し、前記ベーン12aがブッシュ20に対し往復的に摺動することにより、前記ロータ12は前記第一シリンダ9の内部空間内で、前記クランク軸11aの外周面と滑りながら、同ロータ12の外周面一端を内部空間の周壁に接触させて、公転運動を行うことができるようになっている。これは、前記ロータ13も同様である。また、ロータ12と内部空間の周壁との間には膨張室19が形成されるようになっている。
【0020】
前記メインケース4b及び第一シリンダ9には、図3(A)の断面図で示すように、これらを貫通して冷媒流入孔14と、冷媒流出孔15とが相対向するようにV字状に穿設されており、同冷媒流入孔14と冷媒流出孔15との夫々一端は、前記ベーン12aを挟むようにして前記第一シリンダ9の内部空間に接続され、夫々の他端は前記メインケース4bの外周壁に設けられた配管接続具14a及び15aに夫々接続されている。前記冷媒流入孔14と連通した配管接続具14aは、図1の冷媒回路において前記放熱器3側に配管接続され、前記冷媒流出孔15と連通した配管接続具15aは前記吸熱器5側に配管接続されるようになっている。また、前記冷媒流入孔14側には、図示しない開閉弁が接続されており、同開閉弁は第一シリンダ9の内部空間に冷媒を吸入する、前記ロータ12の所定角度範囲内で開放されるようになっている。尚、第二シリンダ10の構成も第一シリンダ9と同様である。
【0021】
前記上部軸受6と、前記第一シリンダ9には、図3(A)の点線で示すように、前記膨張室19と前記冷媒流出孔15とを湾曲状に結ぶように、断面矩形状の連通部21が設けられ、同連通部21は、図4(A)のA−A断面図で示すように、前記上部軸受6側に形成された上部連通溝6aと、前記第一シリンダ9側に形成された下部連通溝9aとからなっている。また、同下部連通溝9aは底面に穿設された連通孔9bにより、前記前記第一シリンダ9に形成された前記冷媒流出孔15と接続されており、前記下部連通溝9aには前記連通孔9bを塞ぐように、樹脂材からなり弾力性を有する長尺状のチップシール22が収納されている。また、前記連通孔21の前記膨張室19側は、図4(B)のB−B断面図で示すように、前記チップシール22が脱落しないように前記下部連通溝9aは閉鎖されている。図4(C)は、上記構成の模式図であり、前記上部連通溝6aは前記膨張室19側に延設されて開口部6bを、前記膨張室19に開口している。尚、前記第二シリンダ10側も同様に形成されている。尚、前記連通部21は、前記上部軸受6に限られるものではなく、前記中間板7あるいは前記下部軸受8に形成してもよい。
【0022】
次に、動作について、まず冷媒の膨張過程を説明する。前記第一シリンダ9の内部空間は、図5(A)で示すように、前記ベーン12aによって、膨張室19が高圧側膨張室19aと低圧側膨張室19bとに区画されるようになっている。前記高圧側膨張室19aは、高圧の冷媒が流入することにより、次第に容積を増加させて前記ロータ12を反時計方向に公転運動させるとともに、前記クランク軸11a及びこれに連結されたシャフト11を反時計方向に回動させ、前記低圧側膨張室19bで冷媒が膨張し容積が増加したことにより低圧状態となるようにしている。同低圧側膨張室19bで低圧となった冷媒は、公転運動する前記ロータ12に押圧されて前記冷媒流出孔15から流出していくようになっている。
【0023】
前記放熱器3から流出した高圧の冷媒は、図5(A)で示すように、前記配管接続具14aを経て前記冷媒流入孔14から前記高圧側膨張室19aに流入する。この際、前記ロータ12の公転運動中に、高圧冷媒が前記シリンダ9内に供給される流入過程の前記ロータ12の角度範囲は予め定められており、一定量流入したら遮断されるようになっている。高圧側膨張室19aに流入した高圧の冷媒は、図5(B)で示すように、高圧力で前記ロータ12を反時計廻りに公転駆動させる。同ロータ12の内周面に遊嵌されたクランク軸11aはロータ12の内周面と摺動しながら回動するとともに、これに連結された前記シャフト11を反時計方向に回動させるようになっている。また、容積が増大した高圧側膨張室19aは前記ロータ12の公転運動に伴い低圧側膨張室19bへと移行し、膨張し低圧となった冷媒は、図5(C)で示すように、前記ベーン12aの近傍に位置し、膨張過程の終点側となる流出孔15aから前記冷媒流出孔15に流出し、これを経て外部に流出するようになっている。また、上記したように、前記シャフト11は、その一端を発電機等に接続されており、同シャフト11が回転駆動されると、発電機等が発電作用を行なうことにより、冷媒の膨張エネルギを廃棄することなく有効に回収することができるようになっている
前記第一シリンダ9の下部連通溝9aに収納された前記チップシール22は、図6(A)で示すように、通常時は、下部連通溝9aの底面に押圧されて前記冷媒流出孔15と連通した前記連通孔9bを塞ぐようになっている。これは、低圧側膨張室19bの圧力P1が、前記冷媒流出孔15側の圧力P2より高いと、その差圧が、前記冷媒流出孔15の流出孔15aから約1/4周程度、公転運動後方側に位置する開口部6bから、上部連通溝21を介して前記チップシール22に掛かり、前記下部連通溝9aの底面に押圧することによる。
【0024】
運転環境あるいは運転条件の変化により、前記冷媒回路1での冷媒膨張比が、前記膨張機4の設計膨張比よりも大きくなると、前記低圧側膨張室19bの圧力P1が冷媒流出孔15側の圧力P2より低くなる状態が生じ、所謂、前記膨張機4に過膨張現象が発生して、これにより、エネルギ回収効率が低下してしまう不具合が生じる。過膨張現象が発生した際は、図6(B)で示すように、前記冷媒流出孔15側の圧力P2と低圧側膨張室19bの圧力P1との差圧が前記連通孔9bを介して前記チップシール22に掛かり、同チップシール22を前記下部連通溝9aの底面から離反させるようになっている。
【0025】
前記チップシール22が前記下部連通溝9aの底面から離反すると、冷媒流出孔15側の冷媒が、図6(B)で示す矢印のように、前記連通孔9bと上部連通溝21とを介して、前記低圧側膨張室19bの始点側に位置する前記開口部6bから逆流し、同低圧側膨張室19bの圧力を回復させるようになっている。これにより、低圧側膨張室19bと冷媒流出孔15側との圧力を均衡させて過膨張現象を抑制することができるようになっている。また、低圧側膨張室19bの圧力が回復したら、前記チップシール22が再度、前記連通孔9bを塞ぐようになっている。
【実施例2】
【0026】
次に、第二実施例について説明する。第二実施例は、図7(A)で示すように、ロータ23の一側面に円弧状に溝24を形成し、同溝24に、同溝24より断面の縦寸法及び横寸法が小さい長尺状のチップシール25を収容している。また、同ロータ23には、前記シリンダ9の周壁との接触点より公転運動方向に位置する低圧側膨張室19bに一端を開放した第一連通孔24aがシリンダ9の内壁面に直交するように直線状に設けられ、また、図7(C)で示すように、前記ロータ23には、同ロータ23と前記シリンダ9の周壁との接触点より公転運動後方側に位置する高圧側膨張室19aに一端を開放し、断面L字状に形成された第二連通孔24bが設けられており、これら第一連通孔24a及び第二連通孔24bの他端は、夫々前記溝24の両端部に連通している。また、第二連通孔24bの位置に対応するチップシール25の部位には、図7(D)で示すように、略三角形状に切欠き25aが形成されており、後述するように、過膨張現象が発生した際には、同切欠き25aを介して前記低圧側膨張室19bの冷媒が前記高圧側膨張室19aに流入するようになっている。
【0027】
次に、動作について説明する。前記高圧側膨張室19aの冷媒圧力が、前記低圧側膨張室19bより高い場合は、その差圧が、図7(C)で示すように、前記第一連通孔24bを介して前記チップシール25に掛かり、同チップシール25を、図7(A)で示すように、前記第二連通孔24a側に押圧する。この状態では、同第二連通孔24aは遮断されるようになっている。
【0028】
前記ロータ23が前記冷媒流出孔15側に公転駆動した位置において、過膨張現象が発生し、前記高圧側膨張室19aの冷媒圧力が、前記低圧側膨張室19bよりも低くなった場合は、その差圧が、図7(E)で示すように、前記第一連通孔24aを介して前記チップシール25に掛かり、同チップシール25を、図7(F)で示すように、前記第二連通孔24b側に押圧する。同第二連通孔24b側にチップシール25を押圧した冷媒ガスは、同チップシール25に形成された前記切欠き25aと前記第二連通孔24bとを介して前記高圧側膨張室19aに逆流し、これにより高圧側膨張室19aの圧力を回復させ、過膨張現象を抑制するようになっている。
【0029】
以上、説明したように、前記上部軸受6側に上部連通溝21を形成し、前記第一シリンダ9側に下部連通溝9aを形成し、これら上部連通溝21と下部連通溝9aとが、前記膨張室19と前記冷媒流出孔15とを湾曲状に結ぶようにするとともに、下部連通溝9aに前記冷媒流出孔15と連通する連通孔9bを穿設し、また、前記下部連通溝9aに前記連通孔9bを塞ぐように、樹脂材からなり弾力性を有する長尺状のチップシール22を収納することにより、過膨張現象が発生した際、前記冷媒流出孔15側と低圧側膨張室19bの差圧が前記チップシール22に掛かり、同チップシール22を前記下部連通溝9aの底面から離反させるようになっている。前記チップシール22が前記下部連通溝9aの底面から離反すると、冷媒流出孔15側の冷媒が、前記低圧側膨張室19bに逆流し、同低圧側膨張室19bの圧力を回復させることにより、過膨張現象を的確に抑制することができるようになっている。これは前記第二シリンダ10側も同様である。また、第二実施例でも説明したように、ロータ23に形成した溝24にチップシール25を収容し、過膨張現象が発生した際は、前記低圧側膨張室19bから前記第二連通孔26b側に冷媒を逆流させることにより、過膨張現象を抑制することもできるようになっている。
【0030】
圧力センサ、電磁開閉弁及びこれらを制御する制御部、また、逆流弁等を要することなく、樹脂材からなる前記チップシール22を前記下部連通溝9aに収容して、前記冷媒流出孔15側と低圧側膨張室19bの差圧により作動させることにより、簡易且つコストを低減した構成で、過膨張現象を的確に抑制できる膨張機とすることができるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による膨張機が用いられる冷媒回路である。
【図2】本発明による膨張機の断面図である。
【図3】(A)、(B)は同膨張機の断面を示す説明図である。
【図4】(A)〜(C)は連通孔の要部断面図及び模式図である。
【図5】(A)〜(C)は同膨張機の膨張動作を示す説明図である。
【図6】(A)〜(B)はバイパス路の動作を示す説明図である。
【図7】第二実施例を示す断面図である。
【図8】従来の膨張機の過膨張抑制手段を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 冷媒回路
2 圧縮機
3 放熱器
4 膨張機
4a アッパーカバー
4b メインケース
4c ロワーカバー
5 吸熱器
6 上部軸受
6a 上部連通溝
6b 開口部
7 中間板
8 下部軸受
9 第一シリンダ
9a 下部連通溝
9b 連通孔
10 第二シリンダ
11 シャフト
11a、11b クランク軸
12 ロータ
12a ベーン
13 ロータ
14 冷媒流入孔
14a 配管接続具
15 冷媒流出孔
15a 配管接続具
16 冷媒流入孔
17 冷媒流出孔
18 潤滑油供給孔
19 膨張室
19a 高圧側膨張室
19b 低圧側膨張室
20 ブッシュ
21 連通部
22 チップシール
23 ロータ
24 溝
24a 第一連通孔
24b 第二連通孔
25 チップシール
25a 切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に設けられた、内部空間を有するシリンダと、同シリンダの上下端を挟持する上部軸受及び下部軸受と、クランク軸を備え前記上部軸受及び下部軸受に軸支されるシャフトと、前記クランク軸に遊嵌され前記シリンダの内部空間で公転運動するロータと、前記内部空間を区画するベーンと、前記密閉容器と前記シリンダとを貫き、前記内部空間に高圧流体を流入させる冷媒流入孔及び前記内部空間から低圧流体を流出させる冷媒流出孔とからなり、前記冷媒流入孔からの高圧の流体を前記内部空間内で膨張させて前記ロータを公転運動させ、膨張し低圧となった流体を前記冷媒流出孔から流出させてなる膨張機において、
前記上部軸受あるいは下部軸受に、一端を前記内部空間に開口し、他端を前記冷媒流出孔に平面的に交差させた上部連通溝を形成する一方、前記シリンダに前記上部連通溝に相対向するとともに、前記冷媒流出孔に連通する連通孔を備えた下部連通溝を形成し、同下部連通溝内に、前記内部空間と前記冷媒流出孔との差圧により作動して前記連通孔を開閉するチップシールを収容してなることを特徴とする膨張機。
【請求項2】
密閉容器内に設けられた、内部空間を有するシリンダと、同シリンダの上下端を挟持する上部軸受及び下部軸受と、クランク軸を備え前記上部軸受及び下部軸受に軸支されるシャフトと、前記クランク軸に遊嵌され前記シリンダの内部空間で、同内部空間の周壁に一端を接触させて公転運動するロータと、前記内部空間を区画するベーンと、前記密閉容器と前記シリンダとを貫き、前記内部空間に高圧流体を流入させる冷媒流入孔及び前記内部空間から低圧流体を流出させる冷媒流出孔とからなり、前記冷媒流入孔からの高圧の流体を前記内部空間内で膨張させて前記ロータを公転運動させ、膨張し低圧となった流体を前記冷媒流出孔から流出させてなる膨張機において、
前記ロータに、同ロータと前記周壁との接触点より公転運動方向に位置して、一端を開放した第一連通孔を設ける一方、前記ロータと前記周壁との接触点より公転運動後方側に位置して、一端を開放した第二連通孔を設け、前記ロータの一側面に、前記第一連通孔の他端と前記第二連通孔の他端とに連通する溝を設けるとともに、同溝に、前記第一連通孔と前記第二連通孔との差圧に応じて作動するチップシールを収容してなることを特徴とする膨張機。
【請求項3】
前記ロータが前記冷媒流出孔側に公転駆動した位置において、前記チップシールは、前記第二連通孔の圧力が前記第一連通孔より高い場合、同第一連通孔を閉塞する一方、前記第二連通孔の圧力が前記第一連通孔より低くなった場合、同チップシールに設けられた切欠きを介して前記第二連通孔と前記第一連通孔とを連通させてなることを特徴とする請求項2に記載の膨張機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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