説明

臨床検査値の管理装置、管理方法及び管理プログラム

【課題】検査過誤を検出することができる臨床検査値の管理装置、方法及びプログラムを提供すること。
【解決手段】管理装置(1)は、
臨床検査値の検査過誤を検出可能な装置であって、
記録部(13)と演算処理部(11)とを備え、
記録部に、第1及び第2検査値が検査項目と対応させて記録されており、
演算処理部が、記録部から2つの検査項目に対応する第1検査値を読み出して、相関係数(r)を計算し、相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th1)よりも大きい場合、2つの検査項目を検査過誤の判断に使用可能な組として決定し、その組の第2主成分の標準偏差を計算し、
演算処理部が、組として決定された2つの検査項目の第2検査値を記録部から読み出し、主成分分析によって第2主成分を計算し、その第2主成分をその組の第2主成分の標準偏差で除した値が、第2のしきい値(Th2)よりも大きい場合、対応する第2検査値に検査過誤があると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、統計処理を用いた臨床検査値の管理に関し、特に、主成分分析、χ検定、数値分類理論を用いて臨床検査値を処理し、その結果から検査過誤および検体の取り違いの有無を判断する管理装置、管理方法及び管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関においては、日々様々な臨床検査が行われ、その結果が診療に利用されている。測定結果である臨床検査値(以下、単に「検査値」とも記す)には測定の不備や検査の対象者(以下「被験者」とも記す)の取り違いにより発生した、間違った検査値(以下「検査過誤」と記す)が一定の割合で含まれている。これに対し医療機関では検査値の信頼性を確保するため検査過誤が疑われた検査値に対し再検査を施行する。沢山の再検査を施行すれば検査値の信頼性は向上する。しかし、再検査のための時間的、経済的コスト(以下「再検査コスト」と記す。)が増大する。従って、診療に貢献するには検査過誤を正確に検出することができる高精度の精度管理法を用いて検査値の信頼性の確保と再検査コストの低減の相反する要求を両立させることが必要である。
【0003】
検査値を管理する方法は、例えば下記特許文献1〜4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2828609号明細書
【特許文献2】特開平8−147396号公報
【特許文献3】特開平11−45302号公報
【特許文献4】特開2006−31264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、診療に貢献するには、検査結果の信頼性確保と再検査コスト低減の相反する要求を両立させることが必要である。しかし、上記の特許文献1〜4に記載された管理方法では、検査過誤の見逃しが多く間違った検査値を高精度に検出するこができない。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決すべく、検査値の集合を統計処理することによって、検査過誤を高精度に検出することができる臨床検査値の管理装置、管理方法及び管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した課題を解決すべく鋭意研究した結果、臨床検査項目間に相関の高い項目の組合せが存在すること、前回検査値と今回検査値の間に相関の高い項目が存在することに着目した。これに主成分分析、χ検定、数値分類理論を組み合わせることにより検査過誤を高精度に検出できることを見出し、これに基づき本願発明をするに至った。なお、下記において、括弧を付して図面の符号を記載しているが、これは本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【0008】
本発明に係る第1の臨床検査値の管理装置は、臨床検査値の検査過誤を検出可能な装置であって、
記録部(13)と演算処理部(11)とを備え、
前記記録部(13)に、複数の第1検査値及び第2検査値が検査項目と対応させて記録されており、
前記演算処理部(11)が、前記記録部(13)から2つの検査項目(X、Y)に対応する、複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算し、該相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th1)よりも大きい場合、2つの前記検査項目(X、Y)を検査過誤の判断に使用可能な組として決定し、
前記演算処理部(11)が、前記組として決定された前記検査項目(X、Y)の第2主成分(aXYi)を、前記処理対象検査値を用いて計算し、前記第2主成分の標準偏差(σXY)を計算し、
前記演算処理部(11)が、前記組として決定された2つの前記検査項目の前記第2検査値を前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって前記第2検査値の第2主成分(aXYk)を計算し、前記第2検査値の前記第2主成分(aXYk)を前記標準偏差(σXY)で除した値が、第2のしきい値(Th2)よりも大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断し、
前記主成分分析の対象とされる2つの前記検査項目の検査値が、同じ検体の検査値であり、
前記第1のしきい値(Th1)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th2)が2以上である
ことを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る第2の臨床検査値の管理装置は、臨床検査値の検査過誤を検出可能な装置であって、
記録部(13)と演算処理部(11)とを備え、
前記記録部(13)に、複数の第1検査値及び第2検査値が、検査項目および検査日と対応させて記録されており、
前記演算処理部(11)が、前記記録部(13)から1つの検査項目(A)に対応し、所定の日差を満たす前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算し、該相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th3)よりも大きい場合、該検査項目および該日差を検査過誤の判断に使用可能な組として決定し、
前記演算処理部(11)が、前記組として決定された前記検査項目および前記日差の第2主成分(aABi)を、前記処理対象検査値を用いて計算し、前記第2主成分(aABi)の標準偏差(σAB)を計算し、
前記演算処理部(11)が、前記組として決定された検査項目および日差に該当する第1検査値および第2検査値を前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって該第1検査値および第2検査値の第2主成分(aABm)を計算し、該第1検査値および第2検査値の前記第2主成分(aABm)を前記標準偏差(σAB)で除した値が、第2のしきい値(Th4)よりも大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断し、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値(Th3)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th4)が2以上であり、
同じ検査項目と組を構成する日差が複数ある場合、最小の日差を含む組に対応する処理対象検査値のみを用いて前記第2主成分が計算される
ことを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る第3の臨床検査値の管理装置は、臨床検査における検体の取り違いを検出可能な装置であって、
記録部(13)と演算処理部(11)とを備え、
前記記録部(13)に、複数の第1検査値及び第2検査値が、検体、検査項目および検査日と対応させて記録されており、
前記演算処理部(11)が、前記記録部(13)から1つの検査項目(A)に対応し、所定の日差を満たす前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算し、該相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th3)よりも大きい場合、該検査項目および該日差を検体取り違いの判断に使用可能な組として決定し、
前記演算処理部(11)が、前記組として決定された前記検査項目および前記日差の第2主成分(aABi)を、前記処理対象検査値を用いて計算し、前記第2主成分(aABi)の標準偏差(σAB)を計算し、
前記演算処理部(11)が、前記検体毎に、前記組として決定された前記検査項目および前記日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を、前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分(aABm)を計算し、前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差(σAB)で除して第1除算値を計算し、
前記演算処理部(11)が、前記検査項目および前記日差の全てについて、得られた前記第1除算値の二乗和(ΣSDIABm2)を計算し、該二乗和からχ分布を用いて第1確率(p1)を求め、
前記演算処理部(11)が、前記検査項目ごとの平均値及び標準偏差から、前記第2検査値の偏差を前記標準偏差で除して、検査項目ごとに第2除算値を求め、得られた前記第2除算値の二乗和(ΣSDIAm2)を計算し、該二乗和からχ分布を用いて前記第2検査値の出現確率である第2確率(p2)を求め、
前記演算処理部(11)が、第2確率/(第1確率+第2確率)によって計算された計算値が、第2のしきい値(Th5)よりも大きい場合、該計算値を求めた元の第2検査値に対応する検体に取り違いがあると判断し、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値(Th3)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th5)が0.90以上である
ことを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る第4の臨床検査値の管理装置は、上記の第1の臨床検査値の管理装置において、
決定された前記組が、
PT比およびPT(INR)の組、
PT−TおよびPT比の組、
PT−TおよびPT(INR)の組、
HGBおよびHCTの組、
網赤血球数および網赤血球数%の組、
FDP−EおよびD−ダイマーの組、
MPVおよびPDWの組、
PLTおよびPCTの組、
RBCおよびHCTの組、
TBILおよびDBILの組、
CHOLおよびLDL−Cの組、
RBCおよびHGBの組、
TTRおよびTRFの組、
MCVおよびMCHの組、
NaおよびCLの組、
TBILおよびγGTP(γ−GT)の組、
ALBおよびTRFの組、
AST(GOT)およびALT(GPT)の組、
蛋白定量(CSF)およびKの組、
TPおよびALBの組、
AT−3およびα2−PIの組、
α2−PIおよびPLGの組、
RBPおよびTTRの組、
PLGおよびTPの組、
CRNNおよび24H−CCRの組、
分葉核球およびリンパ球の組、
好中球およびリンパ球の組、
APTT−TおよびAPTT−%の組、
PT−TおよびPT−%の組、
PT−%およびPT比の組、並びに、
PT−%およびPT(INR)の組
からなる群の中から選択される1つの組であることを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る第5の臨床検査値の管理装置は、上記の第1〜第4の臨床検査値の管理装置の何れかにおいて、
前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とすることが、
前記演算処理部(11)が、読み出された複数の前記第1検査値を前記検査項目ごとにトランケーションして、該第1検査値を処理対象検査値とするか否かを判断すること、及び、
歪度を基に前記検査項目ごとの前記処理対象検査値の分布形を判断し、該判断結果に応じて前記処理対象検査値を変換して、新たに処理対象検査値として前記記録部(13)に記録することを含むことを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る第1の臨床検査値の管理方法は、臨床検査値の検査過誤を検出可能な方法であって、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検査項目と対応させて記録された記録部(13)から、2つの検査項目(X、Y)に対応する、複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算する第1ステップと、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th1)よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、2つの前記検査項目(X、Y)を検査過誤の判断に使用可能な組として決定する第2ステップと、
前記組として決定された前記検査項目(X、Y)の第2主成分(aXYi)を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3ステップと、
前記第2主成分(aXYi)の標準偏差(σXY)を計算する第4ステップと、
前記組として決定された2つの前記検査項目の前記第2検査値を前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって前記第2検査値の第2主成分(aXYk)を計算する第5ステップと、
前記第2検査値の前記第2主成分(aXYk)を前記標準偏差(σXY)で除した値が、第2のしきい値(Th2)よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断する第6ステップとを含み、
前記主成分分析の対象とされる2つの前記検査項目の検査値が、同じ検体の検査値であり、
前記第1のしきい値(Th1)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th2)が2以上である
ことを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る第2の臨床検査値の管理方法は、臨床検査値の検査過誤を検出可能な方法であって、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検査項目および検査日と対応させて記録された記録部(13)から、1つの検査項目(A)に対応し、所定の日差(B)を満たす複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算する第1ステップと、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th3)よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該検査項目および該日差を検査過誤の判断に使用可能な組として決定する第2ステップと、
前記組として決定された前記検査項目(A)と前記日差(B)の第2主成分(aABi)を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3ステップと、
前記第2主成分(aABi)の標準偏差(σAB)を計算する第4ステップと、
前記組として決定された検査項目および日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分(aABm)を計算する第5ステップと、
前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分(aABm)を前記標準偏差(σAB)で除した値が、第2のしきい値(Th4)よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断する第6ステップとを含み、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値(Th3)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th4)が2以上であり、
同じ検査項目と組を構成する日差が複数ある場合、最小の日差を含む組に対応する処理対象検査値のみを用いて前記第2主成分が計算される
ことを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る第3の臨床検査値の管理方法は、臨床検査における検体の取り違いを検出可能な方法であって、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検体、検査項目および検査日と対応させて記録された記録部(13)から、1つの検査項目(A)に対応し、所定の日差(B)を満たす複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算する第1ステップと、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th3)よりも大きい場合、該検査項目および該日差を検体取り違いの判断に使用可能な組として決定する第2ステップと、
前記組として決定された前記検査項目(A)と前記日差(B)の第2主成分(aABi)を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3ステップと、
前記第2主成分(aABi)の標準偏差(σAB)を計算する第4ステップと、
前記検体毎に、前記組として決定された前記検査項目および前記日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を、前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分(aABm)を計算する第5ステップと、
前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分(aABm)を前記標準偏差(σAB)で除して第1除算値を計算する第6ステップと、
前記検査項目および前記日差の全てについて、得られた前記第1除算値の二乗和を計算し、該二乗和からχ分布を用いて第1確率(p1)を求める第7ステップと、
前記検査項目ごとの平均値及び標準偏差から、前記第2検査値の偏差を前記標準偏差で除して、検査項目ごとに第2除算値を求め、得られた前記第2除算値の二乗和(ΣSDIAm2)を計算し、該二乗和からχ分布を用いて前記第2検査値の出現確率である第2確率(p2)を求める第8ステップと、
第2確率/(第1確率+第2確率)によって計算された計算値が、第2のしきい値(Th5)よりも大きい場合、該計算値を求めた元の第2検査値に対応する検体に取り違いがあると判断する第9ステップとを含み、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値(Th3)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th5)が0.90以上である
ことを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る第1の臨床検査値の管理プログラムは、臨床検査値の検査過誤を検出可能なコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
複数の第1検査値及び第2検査値が検査項目と対応させて記録された記録部(13)から、2つの検査項目(X、Y)に対応する、複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算する第1の機能と、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th1)よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、2つの前記検査項目(X、Y)を検査過誤の判断に使用可能な組として決定する第2の機能と、
前記組として決定された前記2つの検査項目(X、Y)の第2主成分(aXYi)を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3機能と、
前記第2主成分(aXYi)の標準偏差(σXY)を計算する第4機能と、
前記組として決定された2つの前記検査項目の前記第2検査値を前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって前記第2検査値の第2主成分(aXYk)を計算する第5の機能と、
前記第2検査値の前記第2主成分(aXYk)を前記標準偏差(σXY)で除した値が、第2のしきい値(Th2)よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断する第6の機能とを実現させ、
前記主成分分析の対象とされる2つの前記検査項目の検査値が、同じ検体の検査値であり、
前記第1のしきい値(Th1)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th2)が2以上である
ことを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る第2の臨床検査値の管理プログラムは、臨床検査値の検査過誤を検出可能なコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検査項目および検査日と対応させて記録された記録部(13)から、1つの検査項目(A)に対応し、所定の日差を満たす複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算する第1の機能と、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th3)よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該検査項目および該日差を検査過誤の判断に使用可能な組として決定する第2の機能と、
前記組として決定された前記検査項目(A)と前記日差(B)の第2主成分(aABi)を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3の機能と、
前記第2主成分(aABi)の標準偏差(σAB)を計算する第4の機能と、
前記組として決定された検査項目および日差(B)に該当する前記第1検査値および第2検査値を、前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分(aABm)を計算する第5の機能と、
前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分(aABm)を前記標準偏差(σAB)で除した値が、第2のしきい値(Th4)よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断する第6の機能とを実現させ、
前記日差が、前記第1検査値及び第2検査値からなる群の中から選択される2つの検査値の検査日の差を日数に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値(Th3)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th4)が2以上であり、
同じ検査項目と組を構成する日差が複数ある場合、最小の日差を含む組に対応する処理対象検査値のみを用いて前記第2主成分が計算される
ことを特徴としている。
【0018】
また、本発明に係る第3の臨床検査値の管理プログラムは、臨床検査値の検査過誤を検出可能なコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検体、検査項目および検査日と対応させて記録された記録部(13)から、1つの検査項目(A)に対応し、所定の日差を満たす複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数(r)を計算する第1の機能と、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値(Th3)よりも大きい場合、該検査項目および該日差を検体取り違いの判断に使用可能な組として決定する第2の機能と、
前記組として決定された前記検査項目(A)と前記日差(B)の第2主成分(aABi)を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3の機能と、
前記第2主成分(aABi)の標準偏差(σAB)を計算する第4の機能と、
前記検体毎に、前記組として決定された前記検査項目および前記日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を、前記記録部(13)から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分(aABm)を計算する第5の機能と、
前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分(aABm)を前記標準偏差(σAB)で除して第1除算値を計算する第6の機能と、
前記検査項目および前記日差の全てについて、得られた前記第1除算値の二乗和を計算し、該二乗和からχ分布を用いて第1確率(p1)を求める第7の機能と、
前記検査項目ごとの平均値及び標準偏差から、前記第2検査値の偏差を前記標準偏差で除して、検査項目ごとに第2除算値を求め、得られた前記第2除算値の二乗和(ΣSDIAm2)を計算し、該二乗和からχ分布を用いて前記第2検査値の出現確率である第2確率(p2)を求める第8の機能と、
第2確率/(第1確率+第2確率)によって計算された計算値が、第2のしきい値(Th5)よりも大きい場合、該計算値を求めた元の第2検査値に対応する検体に取り違いがあると判断する第9の機能とを含み、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差を日数に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値(Th3)が0.5以上であり、
前記第2のしきい値(Th5)が0.90以上である
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、臨床検査値群の中から、検査過誤を高精度に検出することができる。検出可能な検査過誤は、医師などに報告されて診療に利用された過去の検査値の検査過誤に限定されず、医師などに報告されておらず、診療に利用されていない検査値の検査過誤も含まれる。この後者の検査過誤を検出できる点が、臨床検査値の管理において特に重要である。従って、臨床検査値の管理を高精度且つ効率的に行うことができ、検査結果の信頼性確保と再検査コスト低減の相反する要求を両立させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る臨床検査値の管理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した管理装置による、検査過誤の検出機能を示すフローチャートである。
【図3】図2に示した処理を説明する相関図である。
【図4】図1に示した管理装置による、別の検査過誤の検出機能を示すフローチャートである。
【図5】図4に示した処理を説明する相関図である。
【図6】図1に示した管理装置による、検体取り違い検出機能を示すフローチャートである。
【図7】図6に示した処理を説明する相関図である。
【図8】図6に示した処理を説明する正規分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付した図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る臨床検査値の管理装置(以下、単に「管理装置」とも記す)の概略構成を示すブロック図である。管理装置(1)は、演算処理部(11)と、一時記憶部(12)と、記録部(13)と、操作部(14)と、表示部(15)と、入出力インタフェース部(16)(以下、入出力IF部(16)と記す)と、通信インタフェース部(17)(以下、通信IF部(17)と記す)と、これら各部間でデータを交換するための内部バス(18)とを備えて構成されている。
【0022】
操作部(14)は、演算処理部(11)に対する指示やデータを入力するための手段である。表示部(15)は、演算処理部(11)による処理結果などを表示する。入出力IF部(16)は、操作部(14)および表示部(15)との、インタフェースを担う。通信IF部(17)は、ネットワーク(LAN、イントラネット、インターネットなど)を介して、外部の測定装置(2)やデータベース(3)(以下、DB(3)と記す)とデータ交換を行う。測定装置(2)は、臨床検査用の装置であり、例えば、血液分析装置、血液凝固測定装置、染色装置など(東芝製TBA-200FR NEO、Sysmex製 XE-5000など)である。また、測定装置(2)は、複数備えていてもよい。
【0023】
管理装置(1)を、例えばコンピュータを利用して構成する場合、演算処理部(11)、一時記憶部(12)、および記録部(13)には、それぞれCPU、RAM、およびハードディスクドライブを用いることができる。また、操作部(14)には、コンピュータ用のキーボード、マウス、タッチパネルなどを使用することができる。入出力IF部(16)には、操作部(14)に応じたシリアル若しくはパラレルインタフェースを採用すればよい。また、入出力IF部(16)は、ビデオメモリおよびDA変換部を備え、表示部(15)のビデオ方式に応じたアナログ信号を出力することによって、表示部(15)に情報を提示するための画像が表示される。
【0024】
図2、4、6は、管理装置(1)の機能、即ち、検査過誤の検出機能を示すフローチャートである。以下においては、特に断らない限り、管理装置(1)の演算処理部(11)が行う処理として説明する。演算処理部(11)は、操作部(14)が操作されて通信IF部(17)を介してデータを取得して記録部(13)に記録し、適宜記録部(13)からデータを一時記憶部(12)に読み出し、所定の処理を行った後、その結果を記録部(13)に記録する。また、演算処理部(11)は、操作部(14)の操作を促す画面データや処理結果を表示する画面データを生成し、入出力IF部(16)のビデオRAMを介して、これらの画像を表示部(15)に表示する。また、後述するしきい値などは、予め初期値として記録部(13)に記録されているとする。
【0025】
以下の説明で、処理対象とする検査項目は、例えば次の合計118項目である。但し、これらに限定される訳ではなく、これらの一部が別の検査項目で置き換えられても、これらに別の検査項目が追加されても、これらの一部が削除されてもよい。
・血清学検査(19項目):TPAb、HbeAg、HbeAg、HbsAg、HbsAb、HTLV-1Ab、HIVAb、HCVAb、HCVcAg、BNP尿HCG、血清HCG、FT3、FT4、TSH、AFP、CEA、CA19-9、IRI
・生化学検査(42項目):TP、K、ALB、Cl、TBIL、S-OSM、DBIL、HDLc、AST、UIBC、ALT、Fe、CHE、U-OSM、ALP、24H-CCR、LAP、1H-CCR、γ-GT、アンモニア、CK、髄液蛋白定量、LD、髄液糖定量、CHOL、髄液Na、TGL、髄液K、AMY、髄液Cl、IP、FBS、Ca、RBP、UN、TTR、CRE、TRF、UA、LDLc、Na、CRP
・血液学検査(57項目):PT-T、PT-%、APTT-T、APTT-%、フィブリノーゲン、FDP-E、AT3、α2PI、PLG、出血時間、PT比、PT(INR)、第13因子、プロテインC、D-ダイマー、プラスミンα2PI複合体、トロンビンATIII複合体、可溶性トロンボモジュリン、WBC、RBC、HGB、HCT、MCV、MCH、MCHC、RDW、PLT、MPV、PDW、PCT、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、網赤血球数、網赤血球数%、ヘモグロビンA1C、IRF、好塩基球(用手)、好酸球(用手)、骨髄球(用手)、後骨髄球(用手)、かん状該球(用手)、分葉核球(用手)、リンパ球(用手)、単球(用手)、異形リンパ球(用手)、異常リンパ球(用手)、異常細胞(用手)、芽球(用手)、前骨髄球(用手)、赤芽球(用手)、NNC(用手)、MEG(用手)、plasma cell(用手)顆粒リンパ球(用手)。
【0026】
予め記録部(13)には、検体コード、検査項目コード、検査値、および検査日の対応が分かるように、記録されている。例えば、検体コード、検査項目コード、検査値、および検査日がテーブルとして記録されているとする。
【0027】
まず、図2を参照して、相関の高い2つの検査項目を用いて、検査過誤を検出する機能について説明する。ステップS1からステップS11はパラメータ作成のための過程(パラメータ計算過程)であり、ステップS12からステップS17は管理対象検査値に対し検査過誤を検出する過程(管理過程)である。
【0028】
ステップS1において、通信IF部(17)を介して、測定装置(2)またはDB(3)から過去から現在までの検査値を取得し、記録部(13)に記録する。取得されたデータは、複数の検体に関する検査データである。従って、複数の検体についての検査値が、検体を特定する情報(例えば検体コード)および検査項目を特定する情報(例えば検査項目コード)と対応させて、記録部(13)に記録される。すなわち、複数の検体、検査項目および検査結果が、それらの対応関係が分かるように記録される。なお、本明細書中において、過去の検査値とは、既に医師などに報告されて診療に利用された検査値を意味し、現在の検査値とは、医師などに報告される前、即ち診療に利用される前の検査値を意味する。
【0029】
ステップS2において過去の検査値を検査項目ごとに読み出す。
【0030】
ステップS3において、ステップS2で読み出された検査値に対してトランケーションを行う。具体的には、検査項目ごとに集計し平均と標準偏差を算出する。これを基に平均+3倍の標準偏差以上を示す検査値、および平均−3倍の標準偏差以下を示す検査値を、以下に説明する処理の対象から除外する。これにより異常な検査値が含まれることが多い極端な外れ値を除外することができる。この過程がトランケーションである。なお、検査項目によっては、トランケーション処理を行わなくてもよい場合もある。
【0031】
ステップS4において、ステップS3でトランケーション済みの検査値(ステップS4〜S11の処理において、検査値とはトランケーション済みの検査値を意味することとする)に対し、検査項目ごとの歪度を公知の次式1で計算する。
このとき、検査値をそのまま用いて歪度を計算した結果(以下、歪度1と記す)と検査値を自然対数の底を用いて対数変換した変換値から歪度を計算した結果(以下、歪度2と記す)を比較する。具体的には、歪度1の絶対値と歪度2の絶対値のうち、どちらが0に近いかを判断する。歪度1の絶対値の方が0に近ければ、その検査項目の検査値の分布は正規分布に近似しているとして、記録部(13)に記録されている検査値をそのままステップS6からステップS17の計算に用いる。これに対し、歪度2の絶対値の方が0に近ければ、その検査項目の検査値の分布は対数正規分布に近似しているとして検査値を対数変換して記録部(13)に記録し、この対数変換した値をステップS6からステップS17の計算に用いる。但し対数変換以前の検査値が0.000である場合、対数変換不可能であるため近似値として0.001を対数変換した値を用いる。なお、最初から正規分布する検査項目のみを処理対象とする場合には、ステップS4の処理は不要である。
【0032】
これは、検査値の分布が正規分布に近似する検査項目と、対数正規分布に近似する検査項目があり、本法では正規分布に近似することを前提としているため、対数正規分布に近似する検査項目の検査値を対数変換により正規分布に近似させる措置である。
Sq=[Σi(x−xav3/n0]/xσ3 (式1)
ここで、Xは検査項目、x(i=1〜n0)は多数の検体を測定して得られた検査項目(X)の検査値を示す。xavは検査項目(X)の平均値である。n0は検査値数である。xσは検査項目(X)の標準偏差である。Σiは、添え字(i)についての和を意味する。
【0033】
ステップS5において、検査項目(上記の118項目)の中から異なる2つの検査項目(X、Yとする)を選択し、それらの検査値を記録部(13)から読み出す。
【0034】
ステップS6において、ステップS5で読み出したn1個の検査項目(X)と検査項目(Y)の検査値対「x、yi(i=1〜n1)」を用いて、相関係数(r)を公知の次式2で計算する。
r=Σi(xi−xav)(yi−yav)/{Σi(xi−xav2Σi(yi−yav21/2 (式2)
ここで、xav、yavは各検査値の平均値である。Σiは、添え字(i)についての和を意味する。
【0035】
ステップS7において、ステップS6で計算された相関係数(r)の絶対値が所定のしきい値Th1(例えば0.5)よりも大きく、且つ、2つの検査項目の検査値対(ペア)の数が所定数以上(例えば50以上、望ましくは100以上)である場合、ステップS8に移行に移行し、そうでなければステップS9に移行する。検査値対の数についての条件は、統計的に有効な結果が得られるようにするためである。
【0036】
ステップS8において、ステップS5で選択された2つの検査項目を、後述する検査過誤の可能性の判定の対象として決定する。例えば、2つの検査項目の情報を対応付けて記録部(13)に記録する。
【0037】
ステップS9において、重複せずに選択された全ての検査項目の組み合わせについて、ステップS5〜S8の処理が終了したか否かを判断し、終了した場合、ステップS10に移行する。残っている組み合わせがあれば、ステップS5に戻る。ステップS5に戻った場合、再び検査項目の中から異なる2つの検査項目を選択し、ステップS6〜S7の処理を実行する。このとき、既にステップS5で選択された項目と重複しないように、2つの検査項目を選択する。
【0038】
以上のように、ステップS1〜S9によって、相関の高い2つの検査項目の、複数の組が決定される。以下のステップS10〜S17の処理においては、ここで決定された組が使用される。
【0039】
ステップS10において、ステップS8で決定された組の検査値対の第2主成分を計算する。これをaXYiとする。ここで、aXYiは、2つの検査項目(X、Y)の対応する検査値「xi、yi(i=1〜n1)」に対して、公知の主成分分析を適用して決定された第2主成分(短軸成分)である。ここで、対応する検査値(xi、yi)とは、同じ検体に関する検査値を意味する。検査値(xi、yi)のそれぞれの平均をxav、yav、標準偏差をxσ、yσとして、aXYiは、
相関係数(r)>0.5の場合、aXYi={(xi−xav)/xσ−(yi−yav)/yσ}/21/2 で、
相関係数(r)<−0.5の場合、aXYi={(xi−xav)/xσ+(yi−yav)/yσ}/21/2 で計算される。
【0040】
ステップS11において、ステップ10で計算された「aXYi(i=1〜n1)」の標準偏差を計算する。これを検査項目(X、Y)の第2主成分の標準偏差(σXY)としてパラメータに設定し、記録部(13)に記録する。
【0041】
ステップS12において、ステップS8で決定された複数の組のうち、1つの組を記録部(13)から読み出し、さらに、この組に対応する現在の検査値を記録部(13)から読み出す。なお、ステップS4において、正規分布に近似していると判断された検査項目は、そのままの検査値を用い、対数正規分布に近似していると判断された検査項目は対数変換された検査値を用いる。これをx、yとする。この結果対は過去の検査値からパラメータであるσXYが設定された後、本法によって検査過誤検出の対象となる管理対象検査値である。
【0042】
ステップS13において、次式3によってSDIXYkを計算する。
SDIXYk=aXYk/σXY (式3)
ここで、aXYkは、ステップS12で読み出されたx、yに対し以下のように計算される。
ステップS10で用いられた検査値(xi、yi)のそれぞれの平均をxav、yavとし、標準偏差をxσ、yσとして、aXYkは、
相関係数(r)>0.5の場合、aXYk={(x−xav)/xσ−(y−yav)/yσ}/21/2 で、
相関係数(r)<−0.5の場合、aXYk={(x−xav)/xσ+(y−yav)/yσ}/21/2 で計算される。
また、σXYは、ステップS11で計算された第2主成分の標準偏差である。
主成分分析において、第1主成分(長軸成分)、第2主成分(短軸成分)は、それぞれ系統誤差成分、偶発誤差成分を表すと考えられる。主成分分析は公知であるので、説明を省略する。
【0043】
ステップS14において、ステップS13で計算されたSDIが、所定のしきい値Th2よりも大きいか否かを判断する。この条件を満たす場合、ステップS15に移行し、そうでなければステップS16に移行する。しきい値Th2は、標準偏差(σXY)を基準として設定することができる。しきい値Th2は、例えば2以上、望ましくは4以上である。
【0044】
ステップS15において、ステップS14の条件を満たす検査値対が、検査過誤の可能性があると判断し、その情報を記録する。例えば、2つの検査項目コード、及び、それぞれの検査値を対応付けて記録部(13)に記録する。
【0045】
図3は、2つの検査項目(X、Y)について、上記の処理を概念的に説明するための相関図である。図3では省略しているが、検査項目(X)、検査項目(Y)の複数の検査値対(ペア)がプロットされている。楕円は、プロットされた検査値対の分布範囲を示している。検査項目(X)と検査項目(Y)は正の相関を示している。ベクトル(α)は分布範囲内の検査値対を表すベクトルであり、ベクトル(β)は分布範囲を逸脱している検査値対を表すベクトルである。また、ベクトル(α)、(β)は、短軸方向に平行であり、それぞれの長さは、長軸から検査値対までの垂直距離(短軸方向の距離)である。このベクトル(α)、(β)の「長さ」が偶発誤差成分(第2主成分)である。ベクトル(β)のように偶発誤差成分が任意の管理限界(しきい値Th2)を逸脱する場合、どちらかの検査値(x、y)に過誤があると判断できる。
【0046】
ステップS16において、全ての組について処理を終了したか否かを判断し、残っている組があればステップS12に戻り、全て終了していればステップS17に移行する。ステップS12に戻った場合、再び1つの組を選択し、ステップS13〜S15の処理を実行する。このとき、既にステップS12で選択された組を除外して選択する。
【0047】
ステップS17において、ステップS15で記録された、検査項目、検査値、及び、関連する情報を表示部(15)に表示する。なお、ステップS4において対数変換した検査値は変換前の検査値に戻して表示する。表1に、表示の一例を示す。ここで、測定年月日は西暦の年月日が8桁で表されている。
【0048】
【表1】

【0049】
以上によって、検査過誤検出の対象となる実検体の検査値対のうち、検査過誤に該当する可能性の高い検査値を提示することができる。
【0050】
なお、以上の処理において、検査値群が異なれば、即ち、医療機関や検査値の測定装置が異なれば、ステップS5で決定される相関の高い検査項目や第2主成分の標準偏差(σXY)が異なり得る。従って、ステップS1〜S11の処理は、検査値群が追加、変更される毎に、行うことが望ましい。
【0051】
その一方、特定の医療機関で同じ測定装置を使用していれば、既に決定された相関の高い2つの項目を用いて、ステップS12〜S17の処理を行っても、高い信頼性で検査過誤の可能性を提示することができる。
【0052】
また、相関係数(r)の絶対値が0.6以上である組を使用すれば、医療機関によらず高い信頼性で検査過誤の可能性を提示することができる。
【0053】
図4は、図2とは別の方法で、検査過誤を検出する機能を説明するフローチャートである。ここで、図2と異なる点は、1つの検査項目について、検査日を考慮した2つの検査値(前回値、今回値)を処理対象とする点である。ステップS21からステップS33はパラメータ作成のための過程(パラメータ計算過程)であり、ステップS34からステップS39は管理対象検査値に対し検査過誤を検出する過程(管理過程)である。
【0054】
ステップS21において、図2のステップS1と同様に、過去から現在までの検査値を取得し、記録部(13)に記録する。複数の検体についての検査値が、検体を特定する情報(例えば検体コード)、検査項目を特定する情報(例えば検査項目コード)、および検査日(例えば年月日)と対応させて、記録部(13)に記録される。すなわち、複数の検体、検査項目、検査結果、検査日が、それらの関連性が分かるように記録される。
【0055】
ステップS22において、検査項目(上記の118項目)の中から1つの検査項目(Aとする)を指定し、過去の検査値を検査日と共に記録部(13)から読み出す。
【0056】
ステップS23において、ステップS22で呼び出した検査値に対しトランケーションを行う。計算法はステップS3と同一である。
【0057】
ステップS24において、検査項目ごとの検査値の分布が正規分布と対数正規分布のどちらに近似しているかを判別する。計算方法はステップS4と同一である。即ち、検査項目のトランケーション済みの検査値(ステップS24〜S33の処理において、検査値とはトランケーション済みの検査値を意味することとする)の分布が正規分布に近似している場合は、そのままの検査値を記録部(13)に記録しステップS27からステップS39の計算に用いる。これに対し、検査項目の検査値の分布が対数正規分布に近似している場合は、検査値を対数変換した値を記録部(13)に記録し、この対数変換した値をステップS27からステップS39の計算に用いる。
【0058】
ステップS25においてステップS22で呼び出した複数の検査項目から1項目を指定する。
【0059】
ステップS26において、ステップS22で読み出した複数の検査値について、2つ検査値の検査日の差(以下「日差」と記す)を1つ指定する。日差は、0以上の整数値であり、例えば1年以内の検査日を対象とする場合、0〜365の整数値である。また、日差は単独の整数だけでなく、連続する複数の整数を纏めることもありうる。即ち、連続した日差(例えば、3、4、5)を1つのグループとして、代表する日差(代表日差)を割り当てる(例えば、日差=4とする)。これは、後述のステップS28において、2つの検査項目の検査値対の数が所定数以上(例えば50以上、望ましくは100以上)に満たない場合に、連続した日差の検査値を纏めることにより検査値の数を満たすためである。なお、日差が1年を超過する場合も同様である。
【0060】
ステップS27において、ステップS6と同様に、上記の式2を用いて相関係数(r)を計算する。但し、ここでは、xi、yiは、同一被験者の同一検査項目(A)の検査値であり、前回値をxi、今回値をyiで表す。それらの検査日はステップS26で指定された日差の関係にある。なお、本明細書において、「前回値」とは、同一被験者、同一検査項目で所定の日差を有する2つの検査値のうち、より以前に測定された検査値を意味し、「今回値」とは前回値よりも後に測定された検査値を意味する。検査日が同日の場合(日差=0)、前回値、今回値を検査時刻で区別する。
【0061】
ステップS28において、ステップS7と同様に、相関係数(r)の絶対値が所定のしきい値Th3(例えば0.5)よりも大きく、且つ、2つの検査項目の検査値対の数が所定数以上(例えば50以上、望ましくは100以上)であるか否かを判断し、判断結果に応じて分岐する。
【0062】
ステップS29において、ステップS25およびS26で指定された検査項目および日差を、後述する検査過誤の可能性の判断に使用する組として決定する。例えば、検査項目および日差を対応付けて記録部(13)に記録する。
【0063】
ステップS30において、全ての日差について、ステップS27〜S29の処理が終了したか否かを判断し、終了した場合、ステップS31に移行する。残っている日差があれば、ステップS26に戻る。ステップS26に戻った場合、再び日差を指定し、ステップS27〜S29の処理を実行する。このとき、既にステップS26で指定された日差と異なる日差が指定される。
【0064】
以上のステップS21〜S30によって、ステップS26で指定された1つの検査項目と相関の高い日差が、全て決定される。
【0065】
ステップS31において、全ての検査項目について処理が終了したか否かを判断し、その結果に応じて分岐する。終了していなければ、ステップS25に戻り、別の検査項目を選択し、ステップS26〜S30の処理を繰り返す。
【0066】
以上のステップS21〜S31によって、全ての検査項目について、各検査項目と相関の高い日差が、全て決定される。以下のステップS32〜S39においては、ここで決定された組(検査項目,日差)のみが使用される。
【0067】
ステップS32において、ステップS29で決定された検査項目(A)及び日差(B)の組ごとに、前回値、今回値の組合せの検査値対の第2主成分を計算する。これをaABiとする。ここで、aABiは、検査項目(A)が日差(B)であるときの、前回値(X)、今回値(Y)の対応する検査値「xABi、yABi(i=1〜n1)」に対して、公知の主成分分析を適用して決定された第2主成分(短軸成分)である。検査値(xABi、yABi)のそれぞれの平均をxABav 、yABav標準偏差をxABσ、yABσとして、aABjは、
相関係数(r)>0.5の場合、aABi={(xABi−xABav)/xABσ−(yABi−vABav)/yABσ}/21/2 で、
相関係数(r)<−0.5の場合、aABi={(xABi−xABav)/xABσ+(yABi−vABav)/yABσ}/21/2 で計算される。
【0068】
ステップS33において、ステップS32で計算された検査項目及び日差の組ごとの「aABi(i=1〜n1)」の標準偏差が計算される。これを検査項目(A)及び日差(B)の組ごとの第2主成分の標準偏差(σAB)としてパラメータに設定し、記録部(13)に記録する。
【0069】
ステップS34において、ステップS29で決定された複数の組(検査項目,日差)のうち、1つの組を記録部(13)から読み出し、さらに、この組に対応する現在の検査値と過去の検査値とを記録部(13)から読み出す(現在の検査値および過去の検査値は、それぞれ今回値および前回値である)。但し、検査項目ごとに日差が最小である組のみを使用する。即ち、1つの検査項目と組を構成する日差が複数ある場合、それらのうち最小の日差のみを使用する。なお、ステップS24において、正規分布に近似していると判断された検査項目は、そのままの検査値を用い、対数正規分布に近似していると判断された検査項目は対数変換された検査値を用いる。また、ステップS26において日差が纏められている場合は、該当する日差は前述の代表日差とする。
検体(m)、検査項目(A)、日差(B)に該当する読み出された結果対を(xABm、yABm)とする。この結果対は過去の検査値からパラメータであるσABが設定された後、本法によって検査過誤検出の対象となる管理対象検査値である。
【0070】
ステップS35において、次式4によってSDIABmを計算する。
SDIABm=aABm/σAB (式4)
ここで、ステップS34で読み出されたxABm、yABmに対しステップS32で用いられた平均をxABav 、yABav、標準偏差をxABσ、yABσとして、
ABmは、
相関係数(r)>0.5の場合、aABm={(xABm−xABav)/xABσ−(yABm−yABav)/yABσ}/21/2 で、
相関係数(r)<−0.5の場合、aABm={(xABm−xABav)/xABσ+(yABm−yABav)/yABσ}/21/2 で計算される。
また、σABは、ステップS33で計算された第2主成分の標準偏差である。
主成分分析において、第1主成分(長軸成分)、第2主成分(短軸成分)は、それぞれ系統誤差成分、偶発誤差成分を表すと考えられる。主成分分析は公知であるので、説明を省略する。
【0071】
ステップS36において、ステップS35で計算されたSDIABmが、所定のしきい値Th4よりも大きいか否かを判断する。SDIABmがこの条件を満たす場合、ステップS37に移行し、そうでなければステップS38に移行する。しきい値Th4は、標準偏差(σAB)を基準として設定することができ、例えば2以上、望ましくは4以上である。
【0072】
ステップS37において、ステップS35でSDIABmを求めるのに使用された検査値対(前回値および今回値)が、検査過誤の可能性があると判断し、その情報を記録する。例えば、1つの検査項目コード、前回値の検査日、および今回値の検査日を対応付けて記録部(13)に記録する。
【0073】
図5は、図3と同様の相関図である。ここで、図3との違いは、項目(X、Y)の代わりに、1つの検査項目の検査値の前回値と今回値を使用する点である。その他の説明は、上記と同様であるので省略する。
【0074】
ステップS38において、全ての組(検査項目,最小日差)について処理を終了したか否かを判断し、残っている組があればステップS34に戻り、全て終了していればステップS39に移行する。ステップS34に戻った場合、再び1つの組を選択し、ステップS35〜S37の処理を実行する。このとき、既にステップS34で選択された組を除外して選択する。
【0075】
最後に、ステップS39において、ステップS37で記録された、検査項目、前回値の検査日、今回値の検査日、および関連する情報(検体番号、実際の検査値など)を表示部(15)に表示する。なお、ステップS24において対数変換した検査値は変換前の検査値に戻して表示する。表2に、表示の一例を示す。
【0076】
【表2】

【0077】
以上によって、検査過誤検出の対象となる実検体の検査値対のうち、検査過誤に該当する可能性の高い検査値を提示することができる。
【0078】
次に、図6を用いて、管理装置(1)による、検体取り違いを検出する機能に関して説明する。ステップS41はパラメータ作成のための過程(パラメータ計算過程)であり、ステップS42からステップS53は管理対象検査値に対し検査過誤を検出する過程(管理過程)である。
【0079】
ステップS41において、ステップS42〜S53において使用する検査項目、その前回値および今回値を決定する。このステップS41の処理は、図4のステップS21〜S33と同じであり、結果として検査項目(A)及び日差(B)の組ごとの第2主成分の標準偏差(σAB)が算出される。
【0080】
ステップS42において、記録部(13)に記録された1人の被験者の複数の検体の中から1つの検体(m)を指定する。
【0081】
ステップS43において、ステップS41で決定された複数の検査項目のうち、1つの検査項目(A)を指定する。
【0082】
ステップS44において、ステップS43で指定した検査項目に対応する日差(ステップS41で決定された日差)のうち、1つの日差(B)を指定する。また、ステップS26(図4)において説明したように、日差が纏められている場合は、該当する日差は前述の代表日差とする。
【0083】
ステップS45において、ステップS42〜S44で指定された検体(m)、検査項目(A)、日差(B)に該当する現在の検査値(管理対象検査値)と過去の検査値とを記録部から読み出し(読み出された現在の検査値および過去の検査値は、それぞれ今回値および前回値である)、図4のステップS35と同様にSDIABmを計算して、検体、検査項目及び日差に対応させて記録部(13)に記録する。
【0084】
ステップS46において、全日差(ステップS41で検査項目に対応させて決定された日差)について処理を終了したか否かを判断し、その結果に応じて分岐する。処理されるべき日差が残っていれば、ステップS44に戻り、別の日差を指定し、ステップS45の処理を行う。
【0085】
全日差について処理が終了すれば、ステップS47において、全検査項目(ステップS41で決定された検査項目)について処理を終了したか否かを判断し、その結果に応じて分岐する。処理されるべき検査項目が残っていれば、ステップS43に戻り、別の検査項目を指定し、ステップS44〜S46の処理を行う。
【0086】
全検査項目について処理が終了すれば、ステップS48において、ステップS45で記録された複数のSDIABmのうち、同一検体で測定された全ての検査項目のSDIABmの二乗和(ΣSDIABm2)を計算しχ2分布曲線(またはχ2分布表)を用いて、対応する確率(p1)を求める。確率(p1)は、前回値および今回値が同じ被験者から得られた値である可能性を表す。ここで、χ2分布の自由度は、同一検体で測定された検査項目数である。
【0087】
図7は、ここでの処理を、一例として2つの項目(A、B)を用いて、概念的に説明するための図である。図7では、検体(α)の項目(A)の第2主成分(αA2)、項目(B)の第2主成分(αB2)は共に小さく、前回値と今回値が近接している。従って(αA2)+(αB2)の値は小さく、検体(α)が患者本人の検体である確率は高いと判断される。
【0088】
これに対し、検体(β)は項目(A)の第2主成分(βA2)、項目(B)の第2主成分(βB2)が共に大きく、前回値と今回値が乖離している。従って(βA2)+(βB2)の値は大きく、検体(β)が患者本人の検体である確率は低いと判断される。
【0089】
図7の場合、項目数は2であるので(αA2)+(αB2)及び(βA2)+(βB2)は自由度2のχ分布に従う。このように、前回値と今回値の乖離を総合的に判断して患者本人の検体である確率を算出する。なお、3つ以上の検査項目に関しても同様である。
【0090】
ステップS49においてステップS45で記録された検査項目の今回値(管理対象検査値である現在の検査値)を、その検査項目の検査値分布と比較して、今回値の出現確率を求める。検体(m)、検査項目(A)の今回値(yAm)と、検査項目(A)の平均値(yAav)、標準偏差(yAσ)から検査項目(A)の今回値のSDIAmを求める。
さらに、同一検体で測定された全検査項目のSDIAmの二乗和(ΣSDIAm2)を計算し、χ2分布曲線(またはχ2分布表)を用いて、対応する確率(p2)を求める。確率(p2)は、今回値が、ある被験者以外の被験者(他人)から得られた値である可能性を表す。ここで、χ2分布の自由度は、ステップS48で定められた自由度に一致する。(SDIAm)の計算式を式5に示す。
SDIAm=(yAm−yAav)/vAσ (式5)
ここでyAmは検体(m)、検査項目(A)の今回値、yAavは検査項目(A)の平均値、(vAσ)は検査項目(A)の標準偏差、(yAm−yAav)は偏差を示す。yAavとvAσは検査項目(A)について前回値、今回値を考慮せず集計した結果である。
【0091】
図8は、ここでの処理を、図7に対応する2つの項目(A、B)を用いて、概念的に説明するための図である。図8では、検体(α)の項目(A)の今回値(αA)、項目(B)の今回値(αB)は共に正規分布曲線の中心付近にあり、取り違い検体の値として出現しやすい。従って(αA)+(αB)の値は小さく、検体(α)の今回値は他人の検体である確率が高い。これに対し、検体(β)の今回値(βA)、項目(B)の今回値(βB)は共に、正規分布曲線の中心から大きく外れた辺縁部にあり、取り違い検体の値として出現しにくい。従って(βA)+(βB)の値は大きく、検体(β)の今回値は他人の検体である確率は低い。
【0092】
ステップS50において、ステップS48で計算された確率(p1)、ステップS49で各検査項目の今回値(yAm)について計算された確率(p2)から、p2/(p1+p2)を計算し、その値が、所定のしきい値Th5よりも大きいか否かを判断する。p2/(p1+p2)>Th5の条件を満たす場合、ステップS51に移行し、そうでなければステップS52に移行する。所定のしきい値Th5は適宜設定すればよいが、例えば、0.90、望ましくは0.99とすることができる。
【0093】
ステップS51において、上記の処理が適用された検体が、他の被験者の検体である可能性があると判断し、その情報を記録する。例えば、1つの検体コード、検査項目コード、および今回値の検査日を対応付けて記録部(13)に記録する。
【0094】
ステップS52において、全ての検体について処理を終了したか否かを判断し、残っている検体があればステップS42に戻り、全て終了していればステップS53に移行する。ステップS42に戻った場合、再び1つの検体を指定し、ステップS43〜S52の処理を実行する。このとき、既にステップS42で選択された検体と重複しないように、検体を指定する。
【0095】
最後に、ステップS53において、ステップS51で記録された、検査項目、前回値の検査日、今回値の検査日、および関連する情報(検体番号、実際の検査値など)を表示部(15)に表示する。表3に、表示の一例を示す。
【0096】
【表3】

【0097】
以上によって、検体の取り違いに該当する可能性の高い検査値を検出することができ、従って、その検査値を得た検体を特定することができる。なお、検体と被験者との対応関係が別に記録されていれば、その検体に対応する被験者を特定することができる。
【0098】
以上、本発明の実施の形態に係る臨床検査値の管理装置、およびそれを用いた管理方法について説明したが、本発明は上記に限定されない。例えば、管理装置(1)は、図1の構成から変更して構成され得る。また、図2、4、6に示したフローチャートは、種々変更されて実行され得る。
【0099】
例えば、図1では、管理装置(1)が過去及び現在の検査値を、ネットワークを介して取得する場合を説明したが、可搬性の記録媒体(光磁気記録媒体、フラッシュメモリなど)を介して取得してもよい。
【0100】
また、専用の管理装置として実現する代わりに、上記した機能をコンピュータに実現させるプログラムを、既存の臨床検査装置に搭載してもよい。
【0101】
また、しきい値は任意である。例えば、Th1、Th3として0.6以上の値を使用すれば、医療機関などに依存せずに一般的に使用できる検査項目、日差を決定できる。
【0102】
また、Th2、Th4として、標準偏差の4倍よりも大きい値を使用することも、標準偏差の4倍よりも小さい値を使用することもできる。但し、Th2、Th4は、小さ過ぎると無駄な再検査が増加し、大きすぎると結果の信頼性が低下するので好ましくない。少なくとも標準偏差の2倍であることが必要である。
【0103】
また、図2、4、6の判断ステップ(S7、S14、S28、S36、S50)において、値を計算する度に判断する代わりに、計算結果を記録し、全ての計算が完了した後に、計算結果の全てについて、条件を満たすか否かを判断してもよい。
【0104】
また、測定された検査値が、正規分布または対数正規分布する場合に限定されず、これらの分布に対応しない場合には、変換後の検査値が正規分布となるように変換すればよい。
【0105】
また、上記では、現在の検査値(医師に報告されていない検査値)の検査過誤を検出する場合を説明したが、これに限定されない。将来の検査値(将来において測定された場合の検査値)の検査過誤を検出することも可能である。また、過去の検査値(医師に報告されて診療に利用された検査値)についても、同様に検査過誤を検出することが可能である。
【実施例1】
【0106】
以下に実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
【0107】
2007年10月1日〜2008年3月31日の間に、大分大学医学部附属病院で検査された検体の検査値に、本発明を適用した。検体の総数は148,825であり、上記で示した生化学検査、血液学検査、血清学検査の合計118項目の検査値を用いた。
【0108】
表4に、図2のステップS1〜S9に対応する処理を行った結果、得られた相関の高い2つの検査項目(|r|>0.5)の組を示す。従って、これらの検査項目の組の検査値を用いて、検査過誤の可能性を判断することが望ましい。なお、|r|>0.6の検査項目の組には、右端列に“1”が表示されている。これらの検査項目の組は、別の医療機関においても、検査過誤の判断に使用することができる。
【0109】
【表4】

【0110】
表5に、図4のステップS21〜31に対応する処理を行った結果、得られた相関の高い検査項目および日差の組の一部を示す。表5から、RBCは日差0〜23の範囲で全て|r|>0.5と高く、ステップS29で前回値、今回値として設定可能である。CRPは、日差0〜15、21、24は|r|>0.5であり前回値、今回値として設定可能であるが、日差16〜20、22、23は|r|<0.5であり前回値、今回値として設定できない。また、|r|>0.6である場合は別の医療機関においても、検査過誤の判断に使用することができる。
【0111】
【表5】

【符号の説明】
【0112】
1 管理装置
11 演算処理部
12 一時記憶部
13 記録部
14 操作部
15 表示部
16 入出力インタフェース部(入出力IF部)
17 通信インタフェース部(通信IF部)
18 内部バス
2 測定装置
3 データベース
4 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臨床検査値の検査過誤を検出可能な装置であって、
記録部と演算処理部とを備え、
前記記録部に、複数の第1検査値及び第2検査値が検査項目と対応させて記録されており、
前記演算処理部が、前記記録部から2つの検査項目に対応する、複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算し、該相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きい場合、2つの前記検査項目を検査過誤の判断に使用可能な組として決定し、
前記演算処理部が、前記組として決定された前記検査項目の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算し、前記第2主成分の標準偏差を計算し、
前記演算処理部が、前記組として決定された2つの前記検査項目の前記第2検査値を前記記録部から読み出し、主成分分析によって前記第2検査値の第2主成分を計算し、前記第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除した値が、第2のしきい値よりも大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断し、
前記主成分分析の対象とされる2つの前記検査項目の検査値が、同じ検体の検査値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が2以上である
ことを特徴とする臨床検査値の管理装置。
【請求項2】
臨床検査値の検査過誤を検出可能な装置であって、
記録部と演算処理部とを備え、
前記記録部に、複数の第1検査値及び第2検査値が、検査項目および検査日と対応させて記録されており、
前記演算処理部が、前記記録部から1つの検査項目に対応し、所定の日差を満たす前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算し、該相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きい場合、該検査項目および該日差を検査過誤の判断に使用可能な組として決定し、
前記演算処理部が、前記組として決定された前記検査項目および前記日差の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算し、前記第2主成分の標準偏差を計算し、
前記演算処理部が、前記組として決定された検査項目および日差に該当する第1検査値および第2検査値を前記記録部から読み出し、主成分分析によって該第1検査値および第2検査値の第2主成分を計算し、該第1検査値および第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除した値が、第2のしきい値よりも大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断し、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が2以上であり、
同じ検査項目と組を構成する日差が複数ある場合、最小の日差を含む組に対応する処理対象検査値のみを用いて前記第2主成分が計算される
ことを特徴とする臨床検査値の管理装置。
【請求項3】
臨床検査における検体の取り違いを検出可能な装置であって、
記録部と演算処理部とを備え、
前記記録部に、複数の第1検査値及び第2検査値が、検体、検査項目および検査日と対応させて記録されており、
前記演算処理部が、前記記録部から1つの検査項目に対応し、所定の日差を満たす前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算し、該相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きい場合、該検査項目および該日差を検体取り違いの判断に使用可能な組として決定し、
前記演算処理部が、前記組として決定された前記検査項目および前記日差の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算し、前記第2主成分の標準偏差を計算し、
前記演算処理部が、前記検体毎に、前記組として決定された前記検査項目および前記日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を、前記記録部から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分を計算し、前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除して第1除算値を計算し、
前記演算処理部が、前記検査項目および前記日差の全てについて、得られた前記第1除算値の二乗和を計算し、該二乗和からχ分布を用いて第1確率を求め、
前記演算処理部が、前記検査項目ごとの平均値及び標準偏差から、前記第2検査値の偏差を前記標準偏差で除して、検査項目ごとに第2除算値を求め、得られた前記第2除算値の二乗和を計算し、該二乗和からχ分布を用いて前記第2検査値の出現確率である第2確率を求め、
前記演算処理部が、第2確率/(第1確率+第2確率)によって計算された計算値が、第2のしきい値よりも大きい場合、該計算値を求めた元の第2検査値に対応する検体に取り違いがあると判断し、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が0.90以上である
ことを特徴とする臨床検査値の管理装置。
【請求項4】
決定された前記組が、
PT比およびPT(INR)の組、
PT−TおよびPT比の組、
PT−TおよびPT(INR)の組、
HGBおよびHCTの組、
網赤血球数および網赤血球数%の組、
FDP−EおよびD−ダイマーの組、
MPVおよびPDWの組、
PLTおよびPCTの組、
RBCおよびHCTの組、
TBILおよびDBILの組、
CHOLおよびLDL−Cの組、
RBCおよびHGBの組、
TTRおよびTRFの組、
MCVおよびMCHの組、
NaおよびCLの組、
TBILおよびγGTP(γ−GT)の組、
ALBおよびTRFの組、
AST(GOT)およびALT(GPT)の組、
蛋白定量(CSF)およびKの組、
TPおよびALBの組、
AT−3およびα2−PIの組、
α2−PIおよびPLGの組、
RBPおよびTTRの組、
PLGおよびTPの組、
CRNNおよび24H−CCRの組、
分葉核球およびリンパ球の組、
好中球およびリンパ球の組、
APTT−TおよびAPTT−%の組、
PT−TおよびPT−%の組、
PT−%およびPT比の組、並びに、
PT−%およびPT(INR)の組
からなる群の中から選択される1つの組であることを特徴とする請求項1に記載の臨床検査値の管理装置。
【請求項5】
前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とすることが、
前記演算処理部が、読み出された複数の前記第1検査値を前記検査項目ごとにトランケーションして、該第1検査値を処理対象検査値とするか否かを判断すること、及び、
歪度を基に前記検査項目ごとの前記処理対象検査値の分布形を判断し、該判断結果に応じて前記処理対象検査値を変換して、新たに処理対象検査値として前記記録部に記録することを含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の臨床検査値の管理装置。
【請求項6】
臨床検査値の検査過誤を検出可能な方法であって、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検査項目と対応させて記録された記録部から、2つの検査項目に対応する、複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算する第1ステップと、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、2つの前記検査項目を検査過誤の判断に使用可能な組として決定する第2ステップと、
前記組として決定された前記検査項目の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3ステップと、
前記第2主成分の標準偏差を計算する第4ステップと、
前記組として決定された2つの前記検査項目の前記第2検査値を前記記録部から読み出し、主成分分析によって前記第2検査値の第2主成分を計算する第5ステップと、
前記第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除した値が、第2のしきい値よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断する第6ステップとを含み、
前記主成分分析の対象とされる2つの前記検査項目の検査値が、同じ検体の検査値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が2以上である
ことを特徴とする臨床検査値の管理方法。
【請求項7】
臨床検査値の検査過誤を検出可能な方法であって、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検査項目および検査日と対応させて記録された記録部から、1つの検査項目に対応し、所定の日差を満たす複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算する第1ステップと、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該検査項目および該日差を検査過誤の判断に使用可能な組として決定する第2ステップと、
前記組として決定された前記検査項目と前記日差の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3ステップと、
前記第2主成分の標準偏差を計算する第4ステップと、
前記組として決定された検査項目および日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を前記記録部から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分を計算する第5ステップと、
前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除した値が、第2のしきい値よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断する第6ステップとを含み、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が2以上であり、
同じ検査項目と組を構成する日差が複数ある場合、最小の日差を含む組に対応する処理対象検査値のみを用いて前記第2主成分が計算される
ことを特徴とする臨床検査値の管理方法。
【請求項8】
臨床検査における検体の取り違いを検出可能な方法であって、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検体、検査項目および検査日と対応させて記録された記録部から、1つの検査項目に対応し、所定の日差を満たす複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算する第1ステップと、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きい場合、該検査項目および該日差を検体取り違いの判断に使用可能な組として決定する第2ステップと、
前記組として決定された前記検査項目と前記日差の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3ステップと、
前記第2主成分の標準偏差を計算する第4ステップと、
前記検体毎に、前記組として決定された前記検査項目および前記日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を、前記記録部から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分を計算する第5ステップと、
前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除して第1除算値を計算する第6ステップと、
前記検査項目および前記日差の全てについて、得られた前記第1除算値の二乗和を計算し、該二乗和からχ分布を用いて第1確率を求める第7ステップと、
前記検査項目ごとの平均値及び標準偏差から、前記第2検査値の偏差を前記標準偏差で除して、検査項目ごとに第2除算値を求め、得られた前記第2除算値の二乗和を計算し、該二乗和からχ分布を用いて前記第2検査値の出現確率である第2確率を求める第8ステップと、
第2確率/(第1確率+第2確率)によって計算された計算値が、第2のしきい値よりも大きい場合、該計算値を求めた元の第2検査値に対応する検体に取り違いがあると判断する第9ステップとを含み、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が0.90以上である
ことを特徴とする臨床検査値の管理方法。
【請求項9】
臨床検査値の検査過誤を検出可能なコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
複数の第1検査値及び第2検査値が検査項目と対応させて記録された記録部から、2つの検査項目に対応する、複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算する第1の機能と、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、2つの前記検査項目を検査過誤の判断に使用可能な組として決定する第2の機能と、
前記組として決定された前記2つの検査項目の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3機能と、
前記第2主成分の標準偏差を計算する第4機能と、
前記組として決定された2つの前記検査項目の前記第2検査値を前記記録部から読み出し、主成分分析によって前記第2検査値の第2主成分を計算する第5の機能と、
前記第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除した値が、第2のしきい値よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断する第6の機能とを実現させ、
前記主成分分析の対象とされる2つの前記検査項目の検査値が、同じ検体の検査値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が2以上である
ことを特徴とする臨床検査値の管理プログラム。
【請求項10】
臨床検査値の検査過誤を検出可能なコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検査項目および検査日と対応させて記録された記録部から、1つの検査項目に対応し、所定の日差を満たす複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算する第1の機能と、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該検査項目および該日差を検査過誤の判断に使用可能な組として決定する第2の機能と、
前記組として決定された前記検査項目と前記日差の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3の機能と、
前記第2主成分の標準偏差を計算する第4の機能と、
前記組として決定された検査項目および日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を、前記記録部から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分を計算する第5の機能と、
前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除した値が、第2のしきい値よりも大きいか否かを判断し、大きい場合、該第2主成分に対応する第2検査値に検査過誤があると判断する第6の機能とを実現させ、
前記日差が、前記第1検査値及び第2検査値からなる群の中から選択される2つの検査値の検査日の差を日数に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が2以上であり、
同じ検査項目と組を構成する日差が複数ある場合、最小の日差を含む組に対応する処理対象検査値のみを用いて前記第2主成分が計算される
ことを特徴とする臨床検査値の管理プログラム。
【請求項11】
臨床検査値の検査過誤を検出可能なコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
複数の第1検査値及び第2検査値が、検体、検査項目および検査日と対応させて記録された記録部から、1つの検査項目に対応し、所定の日差を満たす複数の前記第1検査値を読み出して処理対象検査値とし、該処理対象検査値の相関係数を計算する第1の機能と、
前記相関係数の絶対値が第1のしきい値よりも大きい場合、該検査項目および該日差を検体取り違いの判断に使用可能な組として決定する第2の機能と、
前記組として決定された前記検査項目と前記日差の第2主成分を、前記処理対象検査値を用いて計算する第3の機能と、
前記第2主成分の標準偏差を計算する第4の機能と、
前記検体毎に、前記組として決定された前記検査項目および前記日差に該当する前記第1検査値および第2検査値を、前記記録部から読み出し、主成分分析によって前記第1検査値および第2検査値の第2主成分を計算する第5の機能と、
前記第1検査値および第2検査値の前記第2主成分を前記標準偏差で除して第1除算値を計算する第6の機能と、
前記検査項目および前記日差の全てについて、得られた前記第1除算値の二乗和を計算し、該二乗和からχ分布を用いて第1確率を求める第7の機能と、
前記検査項目ごとの平均値及び標準偏差から、前記第2検査値の偏差を前記標準偏差で除して、検査項目ごとに第2除算値を求め、得られた前記第2除算値の二乗和を計算し、該二乗和からχ分布を用いて前記第2検査値の出現確率である第2確率を求める第8の機能と、
第2確率/(第1確率+第2確率)によって計算された計算値が、第2のしきい値よりも大きい場合、該計算値を求めた元の第2検査値に対応する検体に取り違いがあると判断する第9の機能とを含み、
前記日差が、2つの検査値の検査日の差を日数に対応する整数値であり、
前記第1のしきい値が0.5以上であり、
前記第2のしきい値が0.90以上である
ことを特徴とする臨床検査値の管理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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