説明

自動分析装置による乳酸脱水素酵素アイソザイム測定方法

【目的】自動分析装置を用いて,乳酸脱水素酵素のアイソザイム(LD1〜LD5)活性を簡便に求める.
【構成】各アイソザイム測定用試薬を密封したカートリッジに入れ,その各液量を1mlから,最大10mlとし,液量を増量する場合は,各測定試薬の濃度を増す.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,試薬を自動的に吸引,混合,定量を行う自動分析装置において,乳酸脱水素酵素のアイソザイムの測定を,pHを変えた5種類の緩衝液を用いて行うための試薬部分に特徴をもたせ,乳酸脱水素酵素アイソザイムを測定できる方法に関する.
【技術背景】
【0002】
従来から,乳酸脱水素酵素のアイソザイムは,電気泳動法と吸光濃度測定装置(デンシトメーター)によって測定されている.この方法では,電気泳動膜への試料の塗布,電気泳動,活性染色,デンシトメトリー(吸光濃度測定)の作業が必要で,すべて手作業によるもので大変煩雑であり,かつ迅速な測定ができないという問題がある.
【0003】
上記の問題を解決するためにpH値を変えた5種類の緩衝液で,試料中の酵素活性を測定し,得られた結果から連立方程式を用いてアイソザイムの測定を電気泳動法および吸光濃度測定装置を用いないで行うことができる(下記非特許文献1参照).この方法を用いて,pH値を変えた5種類の緩衝液を作製し,汎用の自動分析装置に適用することで簡便・迅速な測定ができる(下記非特許文献2参照).しかし,この方法では,調製した試薬は,試薬瓶に入った状態で置かれるため,試薬のpH値が空気中の二酸化炭素を吸収して変化することにより,安定した測定値を得ることができない問題がある.
【0004】
【非特許文献1】山内淳一ら.酵素活性測定の基礎.臨床病理.特集55号.1−22,1983.
【非特許文献2】白田忠雄ら.超微量分析装置JCA−BM1650の応用測定−LDアイソザイムの測定,日本臨床検査自動化学会会誌.25(4):604,2000.
【発明が解決しようとしている課題】
【0005】
本発明は,試薬のpH値を小数点以下第2位まで安定に保つ方法を提供することを目的とするものである.
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,基本的には,調製した試薬を大気に直接触れない専用容器に封入することで,使用時まで試薬を大気から遮断することでき,安定なpH値の試薬を提供できる.しかし,いったん開封し,測定を行い,その残液を保存している間にpHが変化してしまう.
【0007】
(1)上記の課題を解決するために,本発明の試薬は,調製した試薬を,溶液のまま少量を専用容器(カートリッジ)に封入する.
(2)上記の課題を解決するために,本発明の試薬は,使用時の濃度より高い濃度に調製した試薬を,溶液のまま専用容器(カートリッジ)に封入する.
【0008】
(1)と(2)をそれぞれ別個にではなく,溶液量を少なくして試薬濃度を減らすか,溶液量をなくして試薬濃度を濃くすることにより,様々な問題を解決した.
【0009】
(3)上記の課題を解決するために,本発明の試薬は,溶解時に所定の濃度になるように試薬を粉末状態に調製したものを,粉末状のまま専用容器(カートリッジ)に封入する.これで安定なpH値の試薬が提供できる.
【発明の効果】
【0010】
すなわち,本発明によれば,電気泳動法および吸光濃度測定装置による煩雑な手段を用いないで,汎用の自動分析装置で乳酸脱水素酵素のアイソザイムの測定が,簡便・迅速に行うことができる.
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図面1は,本発明の試薬カートリッジの基本構成を表す概略図である.図面1に示されるとおり,本発明の試薬は,溶液または粉末状で専用容器に封入されて,気密性に富んでおり,使用時に開封する.粉末状のものは,開封したら,水を所定量入れて,混ぜる.
【0012】
図面1の▲1▼はカートリッジの専用容器で,気密性に富んだ材質である.▲2▼はシールで,カートリッジを封じるもの.装置の試薬ノズルの挿入で,穴が容易に開く材質である.
【0013】
試薬の部分が,溶液状態の場合は、実施例1に記載の通常処方による試薬[通常処方とは,これを典型例とし,現在,一般的に用いられている処方すべてを含む]を用いる場合の液量をおよそ1mlとし,試薬を2倍に濃くした場合約5ml,3倍に濃くした場合は約10mlというように,液量に応じて濃度を増加させる.
【0014】
試薬が,粉末の場合,上述になるように水の量を加減するか、試薬量を少なめ,多め,などと充てん量を変えておく.
【0015】
試薬の部分が,粉末状態で複数回のみの使用の場合は,試薬は,高濃度の状態で使用に十分な量を封入し,使用後は容器を廃棄する.
【0016】
本発明の試薬カートリッジの製造方法は,気密性に富んだ材質による容器に,所定の量の試薬(溶液または粉末)を入れ,シールで蓋をする.
【0017】
次に、LD1〜LD5の求め方を記すと,
(1)検量線を作成する.すなわちあらかじめ乳酸脱水素酵素(LD)の総活性値が既知の検量用試料を測定して吸光度を求め,総活性値と吸光度の関係を検量係数として設定する.この総括性値を求める試薬は,本発明のカートリッジと
(2)しないで,LD1〜LD5とは別に設けて設定してもよいし,本発明のようなカートリッジ式にして別個にしてもよいし,LD5のカートリッジを共用してもよい.
【0018】
(3)乳酸脱水素酵素(LD)のアイソザイム(LD1〜LD4,LD1〜LD3,LD1〜LD2,LD1)測定用のそれぞれの試薬を用いた活性測定の検量線は,上記(1)の検量係数を用いる.
【0019】
(4)上記で得られた各pH値による試薬でのLD活性値を用いて,連立方程式を立てる.
【0020】
(5)患者血清などの被測定試料をpH値の異なる5種類の試薬で活性測定を行い得られた活性値を上記(3)の式にそれぞれ代入してLD1〜LD5の活性値および相対パーセント値を求める.
【0021】
以下に通常処方による測定試薬の調製法を記す.本発明では,これを基本に液量に応じて2倍,3倍濃度を調製する.ただし,基質は一定とし,緩衝液のみ2倍,3倍としてもよい.
(ア)乳酸脱水素酵素(LD)の総活性用の基質緩衝液は,L−乳酸塩(和光純薬工業社製)51mmol/Lと緩衝液をジエタノールアミン(和光純薬工業社製)と塩酸(和光純薬工業社製)を用いてpHを8.80にしたもの.緩衝液中のジエタノールアミンの濃度は360mmol/Lである.反応中の濃度は,L−乳酸塩は60mmol/L,ジエタノールアミンは300mmol/Lである.
【0022】
(イ)乳酸脱水素酵素アイソザイムLD1〜LD4測定用の基質緩衝液は,L−乳酸塩(和光純薬工業社製)51.5mmol/Lと緩衝液をN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(和光純薬工業社製)と水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製)を用いてpHを9.40にしたもの.緩衝液中のN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸の濃度は206mmol/Lである.反応中の濃度は,L−乳酸塩は40mmol/L,N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸は160mmol/Lである.
【0023】
(ウ)乳酸脱水素酵素アイソザイムLD1〜LD3測定用の基質緩衝液は,L−乳酸塩(和光純薬工業社製)51.5mmol/Lと緩衝液をN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(和光純薬工業社製)と水酸化ナトリウム(和光純薬業社製)を用いてpHを9.80にしたもの.緩衝液中のN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸の濃度は206mmol/Lである.反応中の濃度は,L−乳酸塩は40mmol/L,N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸は160mmol/Lである。
【0024】
(エ)乳酸脱水素酵素アイソザイムLD1〜LD2測定用の基質緩衝液は,L−乳酸塩(和光純薬工業社製)51.5mmol/Lと緩衝液をN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(和光純薬工業社製)と水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製)を用いてpHを10.25にしたもの.緩衝液中のN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸の濃度は206mmol/Lである.反応中の濃度は,L−乳酸塩は40mmol/L,N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸は160mmol/Lである.
【0025】
(オ)乳酸脱水素酵素アイソザイムLD1測定用の基質緩衝液は,L−乳酸塩(和光純薬工業社製)51.5mmol/Lと緩衝液をN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(和光純薬工業社製)と水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製)を用いてpHを10.60にしたもの.緩衝液中のN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸の濃度は206mmol/Lである.反応中の濃度は,L−乳酸塩は40mmol/L,N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸は160mmol/Lである.
【0026】
(カ)反応開始液は,補酵素β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(和光純薬工業社製)の25.75mmol/Lの水溶液である.反応中の濃度は20mmol/Lである.
【0027】
(キ)分析装置JCA−BM1650(日本電子社製)の汎用の自動分析装置を用いたときの測定に用いる試料の量と試薬の量は,乳酸脱水素酵素(LD)の総活性測定用は,試料量は2μL,試薬の基質緩衝液量は80μL,補酵素液量は20μLである.
【0028】
(ク)分析装置JCA−BM1650(日本電子社製)の汎用の自動分析装置を用いたときの測定に用いる試料の量と試薬の量は,乳酸脱水素酵素(LD)アイソザイム測定用は,試料量は3μL,試薬の基質緩衝液量は80μL,補酵素液量は20μLである.
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の専用カートリッジを用いる乳酸脱水素酵素アイソザイムの測定は,汎用の自動分析装置に適用可能であり,簡便・迅速に行うことができる.得られた結果を用いることで,病態の識別および診断を迅速に行うことができる.
【図面の簡単な説明】
【0030】
図面1はカートリッジの正面図である.▲1▼は空間,▲2▼は試薬,▲3▼は密封シール.
【0031】
図面2は,本発明のカートリッジを組み込んだ自動分析装置の基本構成を表す概略図である.装置側には,2本の専用ノズルがある.▲1▼は,サンプリングノズルで,測定試料の血清の一定量を採取し,装置の反応管に吐き出すもの.▲2▼は,試薬ノズルで,カートリッジに入った試薬の一定量を採取し,装置の反応管テーブルにある反応管に吐き出すもの.▲4▼〜▲9▼はカートリッジで,反応に用いる試薬が入っている。▲4▼は乳酸脱水素酵素(LD)の総活性を測定する乳酸と緩衝液が入ったもの.▲5▼〜▲8▼は乳酸脱水素酵素(LD)のアイソザイム(LD1〜LD4,LD1〜LD3,LD1〜LD2,LD1)測定用の乳酸とpHの異なる緩衝液(基質緩衝液)が入ったもので,▲5▼はLD1〜LD4測定用,▲6▼はLD1〜LD3測定用,▲7▼はLD1〜LD2測定用,▲8▼はLD1測定用である。
【0032】
▲9▼は反応の開始に用いる補酵素(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)液である.▲10▼は反応テーブルで,▲11▼の反応管が数十本装着されている.▲11▼の反応管は,37℃の保温されている.反応は,▲11▼の反応管に,▲3▼の血清試料の一定量を▲1▼のサンプリングノズルで採取し,▲11▼の所定の反応管に吐出する.▲2▼の試薬ノズルで▲4▼の試薬(基質緩衝液)の一定量を採取し,▲11▼の血清試料が入った反応管に分注する.一定時間後に,▲2▼の試薬ノズルで▲9▼の試薬(補酵素液)の一定量を採取し,▲11▼の血清試料と▲4▼の試薬(基質緩衝液)が入った反応管に分注して反応を行う.一定時間後に,反応の大きさを340nmの波長の光を反応管に当て,反応で生成する補酵素(NADH)の吸光度の大きさを測定する.
【0033】
測定した吸光度の大きさから,乳酸脱水素酵素の総活性を算出する.▲4▼の代わりに▲5▼〜▲8▼について同様な操作を行い,乳酸脱水素酵素(LD)のアイソザイム(LD1〜LD4,LD1〜LD3,LD1〜LD2,LD1)の活性をそれぞれ測定する.得られた総活性と乳酸脱水素酵素(LD)のアイソザイム(LD1〜LD4,LD1〜LD3,LD1〜LD2,LD1)の活性から,連立方程式により,乳酸脱水素酵素(LD)のアイソザイム(LD1,LD2,LD3,LD4,LD5)をそれぞれ算出する.
【実施例】
【0034】
ヒトプール血清について,[0021]〜[0028]の通常処方の試薬液1mlの場合,通常処方濃度の2倍試薬4mlの場合のカートリッジをセットし、JCA−BM1650を用いてLD1〜LD5を測定した.その結果を表に示す.

【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸脱水素酵素(LD)のアイソザイム(LD1〜LD5)を測定する自動分析装置において,LD1〜LD5の測定のための試薬液はそれぞれカートリッジに納められ,通常処方による測定試薬濃度の場合を最少液量とし,カートリッジ内の試薬液量を増加させる場合は,試薬濃度を増加させることとし,しかも液量は1〜10mlの間にあることを特徴とする乳酸脱水素酵素アイソザイム(LD1〜LD5)測定方法.

【公開番号】特開2011−97907(P2011−97907A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269285(P2009−269285)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(504390366)一般社団法人 検査医学標準物質機構 (5)
【出願人】(509325787)
【出願人】(598049436)
【Fターム(参考)】