説明

自動分析装置

【課題】自動分析装置の保冷庫内外に発生する結露による障害を低減することができる自動分析装置を提供することを目的とする。
【解決手段】試薬容器1を複数設置した試薬庫と、当該試薬庫を保冷する保冷手段と、計時制御機能付き加熱手段4とを有する試薬保冷庫を備え、加熱手段4は、保冷手段が保冷機能停止後に自動的に動作し、計時制御機能により規定時間後に停止することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に関し、特に、自動分析装置の保冷庫内外に発生する結露による障害を低減する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置では、分析用の試薬が入った試薬容器を試薬庫に設置したまま長期間稼働させることが多い。これにより、分析担当者の作業量を低減させたり、同一試薬を用いることによる分析の同等性を確保したりすることが可能となっている。試薬庫には保冷機能が付加され、長時間にわたる自動分析中の試薬劣化を防いでいる。
【0003】
これらの分析用試薬は分析終了時に冷蔵庫等に保管され、自動分析装置の停止と同時に保冷機能は終了するが、多くの場合において保冷庫は周辺環境温度より低温であるため、保冷庫周辺には結露が生じている。保冷時には低温により発生を抑制されていたカビは、保冷機能終了後は、結露した水分を用いて増殖することになる。
【0004】
保冷庫の周囲雰囲気由来の結露により、結露水が試薬容器のバーコードに付着して読み取りエラーを起こしたり、結露水が試薬中に混入して試薬性能が劣化したりする問題があった。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1では、発生した結露が試薬容器内に滴下しないよう保冷この蓋部を傾斜させて対処することが提案されている。また特許文献2では、試薬吸引の有無に関わらず試薬容器を移動させ、試薬が同位置に長時間停止しないことにより対処することが提案されている。
【特許文献1】特開平8−262030号公報
【特許文献2】特開2006−300847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試薬庫内の結露は、他にもカビや材質劣化の原因となる。とりわけ装置内部に発生したカビは、外観を損ね不快であるばかりでなく、試薬容器内に侵入し試薬の性能劣化の原因となったり、環境中に拡散することによりアレルゲンとなって人体へ悪影響を及したりする可能性もある。
【0007】
カビの対策には清浄度を保ち、乾燥状態を維持しておくことが重要であるが、試薬庫と保冷庫や保冷庫外周の空隙の結露は、空隙が狭小であるために拭き取ったり自然乾燥させたりするのも難しかった。
【0008】
図8は、従来技術の保冷庫周辺の結露の一例を示す断面図である。図において二点鎖線で示した部分が、結露の発生しやすい場所である。図に示されるように、冷却層3の回りには、結露が発生し、とくに、冷却層3と発泡スチロール6の間の空隙の結露は拭き取りにくく、自然乾燥しにくいものである。また、保冷庫では、試薬を扱うため、試薬がこぼれること等により、それを基に結露との相乗効果によりカビがさらに発生しやすくなっている。
【0009】
上記課題に鑑みて、本発明は、自動分析装置の保冷庫内外に発生する結露による障害を低減することができる自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の自動分析装置は、試薬容器を複数設置した試薬庫と、当該試薬庫を保冷する保冷手段と、計時制御機能付き加熱手段とを有する試薬保冷庫を備え、前記加熱手段は、前記保冷手段が保冷機能停止後に自動的に動作し、前記計時制御機能により規定時間後に停止することを特徴とする。
【0011】
さらに本発明の自動分析装置は、前記加熱手段は、前記保冷手段近傍に配設された電熱線又はラバーヒータによることを特徴とする。さらに本発明の自動分析装置は、前記保冷手段を掌る電源系統と、前記加熱手段を掌る電源系統が独立に存在し、前記保冷手段の電源系統と前記加熱手段の電源系統は同時に通電されることのないように制御されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自動分析装置において、自動分析装置の保冷庫内外に発生する結露による障害を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
本発明は、保冷庫内外に生じる結露による悪影響を防止するために、保冷機能停止時に乾燥状態を維持するという目的を、単純な加熱機構を追加することにより分析性能に影響を与えることなく実現したことを特徴とする。また、自動停止機構を盛り込むことにより、装置使用者の作業量を増加させることなく乾燥状態を維持することを実現した。
【0015】
以下図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は実施例1の自動分析装置の保冷庫を示す平面図であり、図2は実施例1の自動分析装置の保冷庫を示す断面図(試薬容器はない状態)である。従来の試薬保冷庫は、複数の試薬容器1を設置した試薬庫2の周囲を断熱層および冷却パイプから成る冷却層3で取り囲み、試薬庫を保冷するようになっている。ここでは、この試薬保冷庫に電熱線4を付加した。電熱線は断熱層の一部に埋設されており、図に示すように試薬庫2の内周側と外周側、および試薬庫2の上部と下部の合計4箇所に設置されている。
【0017】
図で説明する保冷庫は、試薬ディスク114であり、ドーナツ状の形状をしている。冷却層3は、ステンレスの板によって周囲が囲まれるように形成されており、その中には内部空間を有している。当該内部空間には、冷却のための冷却パイプが通っており、これにより、冷却層3が冷却されている。本実施例では、当該内部空間の試薬庫2側の内側と外側の壁面の上下に4箇所、ディスクをほぼ一周して電熱線4を通したものである。
【0018】
電熱線4に接続された電源をいれると、電熱線4が加熱され、まず、試薬庫2側の壁面や底面が温められ、結露等が蒸発される。さらに、電熱線4で加熱された熱は、冷却層3全体も暖めることができ冷却層3全体の周囲を暖め結露等を蒸発されることが可能となる。
【0019】
図3は、本発明の自動分析装置の保冷庫の動作タイミングの一実施形態を示すチャートである。自動分析装置において、分析中は分析装置と保冷機能(すなわち冷却層3による冷却機能)が動作し、電熱線4による加熱機能には電源供給されない。また、図3において分析一時停止時で示したように、分析操作は終了していても、試薬は冷蔵庫等に戻さず、自動分析装置内で保管する場合には、保冷機能のみ動作し、加熱機能の電源は入らない。しかし、全ての分析操作が終了した場合には、保冷機能が動作していないことを確認後、加熱機能が稼働開始する。
【0020】
これは、自動分析装置の分析機能を掌る電源系統と、試薬保冷庫の保冷機能を掌る電源系統が独立に存在し、加熱機能の電源系統は試薬保冷庫の電源系統と同時に通電されることのないように制御されていることで可能となっている。これは、加熱乾燥手段が試薬容器設置時に異常に動作し、試薬を劣化させる危険を防ぐためであり、保冷機能と加熱乾燥機能が同時には動作しないようなフィードバック回路が組まれていることが望ましい
【0021】
また、加熱機能は一定時間経過後、もしくは一定電流通電後、自動的に停止されることが好ましい。これにより、分析担当者の作業を低減することができ、また分析終了後、速やかに分析装置から離れることができるようになる。
【0022】
また、自動分析装置の設定によっては、分析装置停止時にも試薬保冷庫の保冷機能のみ稼働させ、試薬を冷蔵庫等に移さずに保管できる場合もある。このような装置の場合、保冷時の乾燥機能は不要だが、装置を長期間に渡って使用しない場合などに加熱機能が必要になる。
【0023】
加熱温度は、室温〜60℃程度が好ましいが、周辺の材質の耐熱温度によってはより高温まで加熱することもありうる。より強力なカビの発生抑制を望むのであれば、高温であればあるほど望ましいといえる。
【0024】
図4は本発明の自動分析装置の一実施形態の概略を示した平面図である。以下は、自動分析装置の使用例である。
【0025】
ピペッタ116は液面検知機能が付加された分注プローブであり、分注プローブと液体との間の静電容量を検出し、液面に分注プローブが接触したときの静電容量の変化を利用して液面を検知することが可能となっている。試薬ディスク114は低温に保冷されており、測定用試薬や揮発性物質(ここではエタノール)が設置されている。ビーズ攪拌119は、試薬ディスク114上の磁性粒子試薬を分注前に攪拌し、磁性粒子を分散させるための機構である。
【0026】
この装置を用いて、HBs−Ag(B型肝炎表面抗原)の免疫測定を行った。検体としてヒト血清を用い、担体にはマウス由来の抗HBsモノクローナル抗体を結合させた磁性粒子(100μg/mL)を用いた。磁性粒子試薬には0.1%BSAを含んでいる。サンプルディスク113上の検体50μLを反応容器フィーダー120よりフィードされたホームポジション117上の反応容器にピペッタ116を用いて分注する。ここに磁性粒子試薬200μLを加えるが、磁性粒子試薬は試薬ディスク114上に設置されており、分注前にはビーズ攪拌119により攪拌される。2液が分注された反応容器は、グリッパ108によりインキュベータ109上に移され、37℃にて10分間インキュベーションした後、洗浄ユニット104により第1B/F分離を行った。
【0027】
第一B/F分離後、試薬ディスク114に設置された酵素標識抗体350μLを反応容器に添加する。この酵素標識抗体にはアルカリホスファターゼ(ALP)により標識されたマウス由来の抗HBsモノクローナル抗体0.8μg/mLが含まれている。反応容器内で担体とよく混合し、37℃にて10分間インキュベーションした後、第2B/F分離を行った。
【0028】
最後に、基質115に設置されたAMPPD (3−(2’−spiroadamantane)−4−methoxy−4−(3”−phosphoryloxy)phenyl−1,2−dioxetane disodium salt / 3−(2’−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4− (3”−ホスホリルオキシ)フェニル−1,2−ジオキセタン・2ナトリウム塩)0.2mg/mLを含む基質液200μLを反応容器に加え、37℃にて5分間インキュベーションし、検出器105内で波長477nmにて発光量を測定した。この時の発光量はアルカリホスファターゼにより分解されたAMPPD量に依存するため、発光量を血清中のHBs−Ag量に換算することが可能である。
【0029】
この分析が終わった後に、試薬ディスク114の保冷機能をOFFとし、その後、加熱機能をONとするとすることで、電熱線4が加熱され、冷却層3周りの試薬庫2等の結露等を蒸発させることができる。その後、計時制御機能により規定時間後に加熱機構が停止する。
【実施例2】
【0030】
実施例2は、実施例1の電熱線4の追加を行ったものであり、それ以外の部分は実施例1と同じである。
【0031】
図5は、実施例2の自動分析装置の保冷庫を示す断面図である。図5のように電熱線4を、冷却層3の内部空間の外周部側と内周部側の上下に追加することにより、加熱乾燥機能がより強化される。具体的には、冷却層3の外周部や、内周部、さらには、上面、下面ともに、いち早く、確実に加熱することができ、冷却層3まわりの結露等を蒸発させることができる。
【実施例3】
【0032】
実施例3は、実施例1に電熱線4をラバーヒータ5に変更したものであり、それ以外の部分は実施例1と同じである。
【0033】
図6は、実施例3の自動分析装置の保冷庫を示す平面図であり、図7は、実施例3の自動分析装置の保冷庫を示す断面図である。周囲の断熱層の一部にラバーヒータ5を埋設し、試薬庫の内周側と外周側に設置することになる。
【0034】
具体的は、冷却層3の内部空間の試薬庫2の内周部側と外周部側にラバーヒータ5を配設する。また、図6では、円形ディスクの一部分にラバーヒータ5が配設されている図が示されているが、これに限らず、必要に応じ、各所にバーヒータ5は配設することが可能である。ラバーヒータ5により、面による加熱が可能となる。
【0035】
以上各実施例では、加熱乾燥機構として、機構が簡単である電熱線とラバーヒータのみ図示したが、加熱乾燥機構はこれらに限らない。ペルチェやハロゲンランプ、またはコイルを埋め込んだIH機構なども適用可能である。また、周辺装置への悪影響を防止するため、温度制御は必要であるが、周辺装置の耐熱性以上にならないように加熱上限を規定するだけの温度制御でも問題ない。制御手段としては、温度センサによるフィードバック、最大電流量、フューズなどが適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1の自動分析装置の保冷庫を示す平面図である。
【図2】実施例1の自動分析装置の保冷庫を示す断面図である。
【図3】本発明の自動分析装置の保冷庫の動作タイミングの一実施形態を示すチャート図である。
【図4】本発明の自動分析装置の一実施形態の概略を示した平面図である。
【図5】実施例2の自動分析装置の保冷庫を示す断面図である。
【図6】実施例3の自動分析装置の保冷庫を示す平面図である。
【図7】実施例3の自動分析装置の保冷庫を示す断面図である。
【図8】従来技術である保冷庫周辺の結露の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 試薬容器
2 試薬庫
3 冷却層
4 電熱線
5 ラバーヒータ
6 発泡スチロール
104 洗浄ユニット(2箇所)
105 検出器
108 グリッパー
109 インキュベータ
113 サンプルディスク
114 試薬ディスク
115 基質
116 ピペッタ(2箇所)
117 ホームポジション
119 ビーズ攪拌
120 反応容器フィーダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬容器を複数設置した試薬庫と、当該試薬庫を保冷する保冷手段と、計時制御機能付き加熱手段とを有する試薬保冷庫を備え、前記加熱手段は、前記保冷手段が保冷機能停止後に自動的に動作し、前記計時制御機能により規定時間後に停止することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記加熱手段は、前記保冷手段近傍に配設された電熱線又はラバーヒータによることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の自動分析装置において、
前記保冷手段を掌る電源系統と、前記加熱手段を掌る電源系統が独立に存在し、前記保冷手段の電源系統と前記加熱手段の電源系統は同時に通電されることのないように制御されていることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−162735(P2009−162735A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3319(P2008−3319)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】