説明

自動変速機の制御方法

【課題】ロックアップ解除のための所定車速を引き上げて設定しておけば、所定車速に応じて早期にロックアップが解除されるために、トルクコンバータを介しての車輪の駆動時間が長くなり、結果として燃費を低下させることがある。
【解決手段】動力源である内燃機関と、トルクコンバータ及びロックアップ機構を備えて内燃機関の駆動力が入力される自動変速機とを備えてなる車両において、走行車速又は機関回転数が判定値以下となる場合に、自動変速機のロックアップ機構におけるロックアップを解除する自動変速機の制御方法であって、車両周辺の環境温度を測定又は推定し、ロックアップを解除するための前記判定値を、得られた環境温度が低いほど高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に搭載される自動変速機の制御方法に関し、特に、ロックアップ機構を備える自動変速機におけるロックアップ解除に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃費を向上させるために、トルクコンバータを備えた自動変速機では、エンジンのクランク軸に接続されるトルクコンバータの入力側と歯車変速機に接続される出力側とを直結するためのロックアップ機構を備えるものが知られている。このようなロックアップ機構は、車速が所定車速より高くなった場合に作動させることが一般的である。
【0003】
このようなロックアップ機構は、作動油の油圧で作動するロックアップクラッチを備えており、車速が判定車速に達した場合にロックアップクラッチの係合を解除することでロックアップを解除するものである。ロックアップの解除に際しては、ロックアップクラッチにかけられていた油圧を0にすることにより実施される。また、例えば雪道などの路面の摩擦係数が低い場合に急制動がかけられて、アンチロックブレーキシステム(以下、ABSと称する)が作動した場合には、その時の車速に依存せずにABSが作動した時点でロックアップ解除を実施するものである。
【0004】
このような自動変速機におけるロックアップ動作において、上述した摩擦係数の低い路面であることを検出した際に、エンジンの停止を防止するために、例えば特許文献1や特許文献2には、ブレーキ操作時に、外気温を測定又は推測し、得られた外気温が所定値以下の場合に自動変速機のロックアップを解除するように構成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5‐141525号公報
【特許文献2】特開平7‐233869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで油圧でロックアップクラッチを制御するものにあっては、ロックアップの解除信号がロックアップ機構に出力されてから、油圧により実際にロックアップクラッチが作動してロックアップが解除されるまでには、タイムラグが発生する。上述したような雪道あるいはアイスバーンなどの摩擦係数の低い路面において、タイヤロックを起こす程度に急制動を行った場合、このタイムラグの間にタイヤ側からの回転によりエンジン回転を降下させることになる。この場合に、急制動のタイミングが低車速での走行中であると、その時の変速比によりエンジン回転数が急激に降下するため、エンジンの運転が停止することがある。
【0007】
このような不具合を考慮して、ロックアップ解除のための判定車速を引き上げて設定しておけば、前述のタイムラグの間にエンジン回転数が降下しても、タイムラグの間に降下するエンジン回転数はほぼ同じだけ降下するため、最も降下した際のエンジン回転数、つまり最低エンジン回転数は高くなる。しかしながら、このようにロックアップ解除のための判定車速を引き上げると、低摩擦係数の路面状態を含んで全ての運転環境、運転状況において、ロックアップ中にその判定車速に達するとロックアップ解除が実現する。このため、判定車速に応じて早期にロックアップが解除される、言い換えれば高い車速であるにもかかわらずロックアップが解除されるために、トルクコンバータを介しての車輪の駆動時間が長くなるために燃費を低下させる恐れがある。
【0008】
そこで本発明は、このような不具合を解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の自動変速機の制御方法は、動力源である内燃機関と、トルクコンバータ及びロックアップ機構を備えて内燃機関の駆動力が入力される自動変速機とを備えてなる車両において、走行車速又は機関回転数が判定値以下となる場合に、自動変速機のロックアップ機構におけるロックアップを解除する自動変速機の制御方法であって、車両周辺の環境温度を測定又は推定し、ロックアップを解除するための前記判定値を、得られた環境温度が低いほど高く設定することを特徴とする。
【0010】
本発明における環境温度とは、車両が走行している地域の外気温、路面温度、内燃機関の吸入空気温度等を含むものである。環境温度は、外気温や路面温度をそれぞれの専用のセンサにより測定し、また吸入空気温度に基づいて推定するものであってよい。
【0011】
このような構成によれば、環境温度が低いほどロックアップを解除する判定値を高く設定するので、環境温度が低い際にはロックアップの解除を早期に実施することが可能になる。したがって、自動変速機においてロックアップの解除の開始から実際にロックアップの解除が完了するまでの間に時間的なずれが発生しても、内燃機関の運転が停止することを確実に抑制することが可能になる。又、環境温度に基づいて判定値を設定するので、環境温度が高い場合には低い判定値によりロックアップの解除を判定するために、燃費の低下を抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上説明したような構成であり、環境温度が低いほどロックアップを解除する判定値を高く設定するので、環境温度が低い際にはロックアップの解除を早期に実施することができ、内燃機関の運転が停止することを確実に抑制することができるとともに、環境温度が高い場合には低い判定値によりロックアップの解除を判定するために、燃費の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を実施する制御システムの構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態の制御手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態における外気温と判定値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
この実施形態の車両すなわち自動車は、図1に示すように、例えば火花点火式の多気筒の内燃機関(以下、エンジンと称する)1と、エンジン1に接続される自動変速機2と、エンジン1の運転を制御する電子制御装置3とを搭載している。この自動車には、ABSが搭載されているとともに、外気温を測定する外気温センサ4が車体の外面に取り付けてある。このような自動車自体の構成は、この分野でよく知られているものを適用するものであってよい。
【0016】
エンジン1には、その運転状態を検出するために、各種のセンサが取り付けてある。具体的には、エンジン回転数を検出する回転数センサ5を備えるとともに、図示しないアイドルスイッチ、水温センサ、O2センサ、クランク角センサなどを備える。又、車体には、上述した外気温センサ4の他に、車速を検出するための車速センサ6が、例えばプロペラシャフトの基端側に取り付けてある。このようなエンジン1自体の構成は、この分野でよく知られているものを適用するものであってよい。
【0017】
自動変速機2は、ロックアップ機構7を備えるトルクコンバータとベルト、チェーンあるいはローラを使用した連続可変変速機構(無段変速機構)をトルクコンバータの出力側に備える。ロックアップ機構7自体は、この分野で公知のものであってよく、トルクコンバータの入力側と出力側とをロックアップするロックアップクラッチと、そのロックアップクラッチを駆動するための油圧を制御するロックアップソレノイド8とを備えている。ロックアップ機構7は、例えば低速走行時や所定速度以上の走行時など、車速が設定された車速域となった際に、ロックアップソレノイド8を作動させて、作動油の油圧によりロックアップクラッチを接続することで作動して、ロックアップを実施する。なお、自動変速機2としては、連続可変変速機構に代えて、歯車変速機とを備えるものであってもよい。
【0018】
電子制御装置3は、マイクロコンピュータ3aを中心として構成してあり、入力インターフェース3bとメモリ3cと出力インターフェース3dとを備えている。入力インターフェース3bには、上述した外気温センサ4、車速センサ6から出力される信号が入力されるとともに、エンジン1の運転に必要な吸気管圧力やスロットル弁開度などのための情報が入力される。又、出力インターフェース3dからは、燃料噴射弁を制御する噴射信号、点火プラグに対する点火信号、ロックアップ機構7のロックアップソレノイド8の作動を制御するためのロックアップ信号などが出力される。
【0019】
電子制御装置3のメモリ3cには、エンジン1の運転を制御するためのプログラム、自動変速機2の制御プログラム及びそれらのための各種データが格納してある。この実施形態の自動変速機制御プログラムは、走行車速が判定値以下となる場合に、自動変速機2のロックアップ機構7におけるロックアップを解除する自動変速機2の制御方法であって、車両周辺の環境温度たる外気温を測定し、ロックアップを解除するための前記判定値を、得られた外気温が低いほど高く設定するようにプログラムされている。以下に、図2により、この実施形態の制御手順を説明する。なお、この自動変速機制御プログラムは、エンジン1の運転中は所定周期で繰り返し実行するものである。
【0020】
まず、ステップS1において、外気温センサ4から出力される温度信号に基づいて外気温を測定する。この後、ステップS2において、測定した外気温に基づいて、ロックアップの解除を判定する判定値を、例えばマップにより設定する。例えば図3に示すように、低温、具体的には0°C近傍からそれ以下の外気温に対して判定値を高く設定し、それより高い温度例えば常温(5°C〜35°C)では漸次低くなるように判定値を設定し、さらにそれ以上の温度領域は外気温に依存することなく同一の最も低い値で判定値を設定する。この実施形態においては、ロックアップの解除は車速が判定値以下になる場合に実行するので、判定値は車速に対応する値である。設定した判定値は、電子制御装置3のメモリ3cに記憶してあり、この自動変速機制御プログラムの実行毎に更新されるものである。
【0021】
このような構成において、エンジン1を始動した後は、所定周期で上述したステップS1及びステップS2を繰り返し実行し、計測した外気温に基づいて時々刻々と判定値を更新する。例えば冬季において路面が凍結するような気温である場所で自動車がエンジン1を運転している状態あるいは走行している際は、測定した外気温が低い。したがって、判定値を高い値に設定するものである。これとは逆に、夏季において路面温度が気温以上に上昇するような場合にあっては、測定した外気温は高くなるので、判定値を低い値に設定する。
【0022】
次に、所定の車速以上にて自動車を走行させると、電子制御装置3は、ロックアップ機構7のロックアップソレノイド8を作動させてロックアップクラッチを接続することで、自動変速機のロックアップを実施する。このロックアップは、ブレーキが操作されて急制動がかかってABSが作動するか、あるいは車速がその時に設定されているつまりメモリ3cに保存されている判定値以下になるまで継続される。
【0023】
判定値は、上述したように、外気温が低温である場合は判定値を高く設定するので、外気温が低温である場合のロックアップの解除は、外気温が高温の場合に比べて高い車速での走行状態で実施される。すなわち、電子制御装置3から出力しているロックアップソレノイド8の駆動信号を停止し、ロックアップクラッチに対する油圧を取り除く。これにより、ロックアップの解除が開始されるが、ロックアップソレノイド8の駆動信号の停止から油圧が完全に0になるつまりロックアップクラッチが完全に切れるまでにはタイムラグ(応答遅れ)が生じる。このタイムラグの間に、減速された車速に追従してエンジン回転数が降下する。
【0024】
この時、低摩擦係数の路面において、車輪がほぼロックされる状態にあってエンジン回転数が大きく降下するような走行状態であっても、判定値が高く設定してある。つまり、ラグタイムの間に降下するエンジン回転数の降下開始回転数が、判定値を高く設定することにより高くなるものである。このため、ラグタイムの間にエンジン回転数が降下しても、判定値を低く設定している場合に比較してエンジン回転数が降下し切ったところの最低エンジン回転数が高くなる。この結果、この最低エンジン回転数が、エンジン1が運転を維持することができる自立回転数を下回ることがなく、ラグタイムが経過するまでにエンジン1が停止することを回避することができる。
【0025】
また、判定値は、外気温の高低に応じて設定するので、全ての運転環境、運転状況において一律に判定値を高く設定する場合に比較して、外気温を低くした場合に判定値を高く設定しても、全体としてロックアップ機構7を作動させた状態で自動車を走行させることが長くなるため、燃費の低下を抑えることができる。
【0026】
なお、上述の実施形態においては、車速に基づいてロックアップの解除を判定するものを説明したが、エンジン回転数に基づいてロックアップを解除するように構成するものであってもよい。この場合、その時の変速比とエンジン回転数とに基づいて車速が推定し得るので、エンジン回転数によるロックアップの解除判定が可能となる。
【0027】
また、外気温を測定する代わりに、路面温度を測定するものであってもよい。
【0028】
さらには、外気温の代わりに、吸入空気温度を測定し、測定した吸入空気温度から外気温を推定するものであってもよい。
【0029】
加えて、外気温(路面温度、吸入空気温度)と判定値との関係は、図3に示したように、低温側と高温側とにおいて一定に設定し、その中間範囲において直線的に低温から高温にかけて低下するように設定するものを説明したが、低温側から高温側にかけて直線的に低下するように設定されるものであってもよい。
【0030】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の活用例として、無段変速機などの、トルクコンバータとそのトルクコンバータをロックアップするロックアップ機構を備える自動変速機を搭載する車両に対して、適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…エンジン
2…自動変速機
3…電子制御装置
4…外気温センサ
5…回転数センサ
7…ロックアップ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源である内燃機関と、トルクコンバータ及びロックアップ機構を備えて内燃機関の駆動力が入力される自動変速機とを備えてなる車両において、走行車速又は機関回転数が判定値以下となる場合に、自動変速機のロックアップ機構におけるロックアップを解除する自動変速機の制御方法であって、
車両周辺の環境温度を測定又は推定し、
ロックアップを解除するための前記判定値を、得られた環境温度が低いほど高く設定する自動変速機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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