説明

自動変速装置のシフトレバー装置

【課題】 駐停車中にNポジションに位置するシフトレバーへの不意の誤操作によるシフトレバーの移動を抑制し、クリープ現象の不用意な発生を防止する。
【解決手段】 シフトレバー装置は、RポジションとNポジションと複数段の変速を手動で行うことが可能なDポジションとに移動自在なシフトレバー31を有する。シフトレバー31がR又はDポジションに位置するときクリープ現象が発生し、Nポジションに位置するときクリープ現象が発生しない。Dポジションは第1の経路34の一端側に配置され、第1の経路34はシフトレバー32のほぼ直線状の移動を許容する。Rポジションは第2の経路35に配置され、第2の経路35は第1の経路34の他端側から第1の経路34と略直交して延びる。Nポジションは、第1の経路34と第2の経路35との交叉部とDポジションとを結ぶ直線から外れて位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる自動変速装置のシフトレバー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるシーケンシャルマニュアルトランスミッションと称される自動変速機を備えた車両用の自動変速装置のシフトレバー装置には、少なくともリバースポジションとニュートラルポジションと複数段の変速を手動で行うことが可能なドライブポジションとに移動自在なシフトレバーを有するものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2003−74684
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記シフトレバー装置には、いわゆるオートマチックトランスミッションと異なり、一般にパーキングポジションを有さないものがある。係るシフトレバー装置では、車両の駐停車の際のシフトレバーの位置として、ニュートラルポジションが使用される。
【0005】
ここで、上記シフトレバー装置において、シフトレバーの操作性等の理由から、ドライブポジションを、シフトレバーのほぼ直線状の移動を許容する第1の経路の一端側に、リバースポジションを、第1の経路の他端側から第1の経路と略直交して延びてシフトレバーの移動を許容する第2の経路に、ニュートラルポジションを、第1の経路の中間部に、それぞれ配置する場合がある。この場合、ニュートラルポジションに位置するシフトレバーは、一方向への入力操作によって第1の経路内を容易に移動する。
【0006】
一方、上記自動変速装置の中には、シフトレバーがリバースポジション又はドライブポジションの少なくとも一方に位置するときに、クリープ現象が発生しアクセル開度を開くことなく駆動輪に駆動力が伝達されるものがある。
【0007】
このようなリバースポジションやドライブポジションにてクリープ現象が発生する車両において、上記のシフトポジションを採用した場合、車両の駐停車中に、乗員が車室内を移動したり物を取ろうとした際に誤ってシフトレバーに触れてしまうなどの理由により、ニュートラルポジションのシフトレバーが不意の誤操作を受けてリバースポジションやドライブポジションへ移動し、不用意にクリープ現象が発生してしまう可能性が生じる。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、ニュートラルポジションに位置するシフトレバーが不意の誤操作を受けた場合であっても、シフトレバーの容易な移動を抑制してクリープ現象の不用意な発生を防止することが可能な自動変速装置のシフトレバー装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係るシフトレバー装置は、車両用の自動変速装置を構成する。自動変速装置は、さらに自動変速機と変速機作動手段と自動クラッチとクラッチ作動手段と制御手段とを備える。シフトレバー装置は、少なくともリバースポジションとニュートラルポジションと複数段の変速を手動で行うことが可能なドライブポジションとに移動自在なシフトレバーを有する。変速機作動手段は、シフトレバーの位置に基づいて自動変速機の変速段を変更する。自動クラッチは、エンジンから自動変速機への動力伝達を断接する。クラッチ作動手段は、自動クラッチを作動させる。制御手段は、シフトレバーの位置に基づいて少なくともクラッチ作動手段を制御する。自動変速装置は、シフトレバーの位置に基づいて自動変速を行う。自動変速装置では、シフトレバーがリバースポジション又はドライブポジションの少なくとも一方に位置するときにはクリープ現象が発生し、ニュートラルポジションに位置するときにはクリープ現象が発生しない。
【0010】
シフトレバー装置において、シフトレバーのドライブポジションは、第1の経路の一端側に配置される。第1の経路は、シフトレバーのほぼ直線状の移動を許容する。リバースポジションは、第2の経路に配置される。第2の経路は、第1の経路の他端側から第1の経路と略直交して延びて、シフトレバーの移動を許容する。ニュートラルポジションは、第3の経路に配置され、第1の経路と第2の経路との交叉部とドライブポジションとを結ぶ直線から外れて位置する。第3の経路は、第1の経路の中間部分からニュートラルポジションへのシフトレバーの移動を許容する。
【0011】
上記構成では、ニュートラルポジションは、第3の経路に配置され、第1の経路と第2の経路との交叉部とドライブポジションとを結ぶ直線から外れて位置するので、車両の駐停車中に、乗員が車室内を移動する際に誤ってシフトレバーに触れてしまうなどの理由により、ニュートラルポジションに位置するシフトレバーが不意の誤操作を受けた場合であっても、シフトレバーがニュートラルポジションからリバースポジションやドライブポジションへ移動し難い。従って、車両の駐停車中における不用意なクリープ現象の発生を防止することができる。
【0012】
上記シフトレバー装置は、レバー移動規制手段と操作入力手段とを備えてもよく、ニュートラルポジションは、第1のニュートラルポジションと第2のニュートラルポジションとを含んでもよい。第1のニュートラルポジションは、第1の経路と第3の経路との交叉部に配置される。第2のニュートラルポジションは、第3の経路に配置される。レバー移動規制手段は、操作者から操作入力手段への操作入力に応じて、シフトレバーを、第1のニュートラルポジションから第2のニュートラルポジションへの移動を阻止する禁止状態とこの移動を許容する解除状態とに選択的に設定する。
【0013】
上記構成では、車両の運転者は、ニュートラルポジションのうち第1のニュートラルポジションと第2のニュートラルポジションとを、適宜選択して使用することができる。
【0014】
例えば、車両の運転中におけるシフトレバーの操作に際しては、第1の経路と第3の経路との交叉部に配置された第1のニュートラルポジションを使用することにより、リバースポジション及びドライブポジションと第1のニュートラルポジションとの間のシフトレバーの移動を円滑且つ簡単に行うことができる。また、第1のニュートラルポジションから第2のニュートラルポジションへシフトレバーを移動させるためには、運転者は、操作入力手段を都度操作しなければならず、第1のニュートラルポジションへの移動に伴ってシフトレバーが不必要に第2のニュートラルポジションへ移動してしまうことが防止され、シフトレバーの操作性が損なわれることがない。
【0015】
また、車両の駐停車に際しては、第3の経路に配置された第2のニュートラルポジションを使用することにより、シフトレバーが不意の誤操作を受けた場合であっても、シフトレバーがリバースポジションやドライブポジションへ移動し難い。従って、車両の駐停車中における不用意なクリープ現象の発生を防止することができる。また、車両の発進時には、操作入力手段への操作を伴うことなく第2のニュートラルポジションから第1のニュートラルポジションへシフトレバーを移動させることができ、操作性が良好である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両の駐停車中において、ニュートラルポジションに位置するシフトレバーへの不意の誤操作によるシフトレバーの移動が抑制されるので、クリープ現象の不用意な発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る車両の動力伝達装置の概略構成を示す模式図、図2はシフトレバー装置を模式的に示す外観斜視図、図3はシフトパターンを示す模式図である。
【0018】
図1に示すように、車両用の自動変速装置は、自動変速機(以下、変速機と称する)T/Mと、シフトレバー装置30と、変速機作動手段としての変速機アクチュエータ40と、自動クラッチ(以下、クラッチ機構と称する)1と、クラッチ作動手段としての油圧回路19と、制御手段としてのエンジンコントロールユニット(以下、ECUと称する)22とを備える。クラッチ機構1は、流体継手2と湿式多板クラッチ3とを備える。
【0019】
シフトレバー装置30は、複数のシフトポジションに移動自在なシフトレバー31を有する。変速機アクチュエータ40は、シフトレバー31の位置に基づいて変速機T/Mの変速段を変更する。クラッチ機構1(流体継手2と湿式多板クラッチ3)は、油圧回路19の状態に応じて、エンジンEから変速機T/Mへの動力伝達を断接する。ECU22は、シフトレバー31の位置等に基づいて、変速機アクチュエータ40及び油圧回路19を制御し、変速機T/Mの自動変速を行う。この自動変速装置では、シフトレバー31が後述するリバースポジション、ドライブポジション、又はオートマチックポジションの何れかに位置するとき、湿式多板クラッチ3が機能し、クリープ現象が発生する。また、シフトレバー31が後述するニュートラルポジションに位置するとき、湿式多板クラッチ3が機能せず、クリープ現象が発生しない。
【0020】
図2及び図3に示すように、シフトレバー装置30は、シフトレバー31と、複数のシフトポジションと、シフトレバー31が挿通される溝状の経路としてのシフトゲート33とを有する。シフトレバー31の先端には、運転者に把持されるノブ32が設けられている。上記複数のシフトポジションは、リバースポジション(Rポジション)とニュートラルポジション(Nポジション)とドライブポジション(Dポジション)とオートマチックポジション(Aポジション)とを含み、各シフトポジションは、シフトゲート33の所定位置に配置されている。
【0021】
上記シフトゲート33は、第1〜第4の経路34〜37を有する。第1の経路34は、車幅方向に沿って延び、シフトレバー31のほぼ直線状の移動を許容する。第4の経路37は、車両前後方向に沿って延び、第1の経路34の一端側で該第1の経路34と交叉する。この交叉部にDポジションが配置され、第1の経路34の一端部にAポジションが配置されている。また、第4の経路37の車両前後方向の前端部にはシフトアップポジション(+ポジション)が配置され、第4の経路37の車両前後方向の後端部にはシフトダウンポジション(−ポジション)が配置されている。なお、第4の経路37の後端部にシフトアップポジション(+ポジション)を、第4の経路37の前端部にシフトダウンポジション(−ポジション)をそれぞれ配置してもよい。
【0022】
第2の経路35は、第1の経路35の他端部から第1の経路34と略直交して前方へ所定距離だけ延び、Rポジションは、第2の経路35の前端部に配置されている。第3の経路36は、第1の経路34の中間部に設けられ、第1の経路34から車両後方へ膨出する略L形状を有する。Nポジションは、第3の経路36の後端部に配置され、第1の経路34と第2の経路35との交叉部とDポジションとを結ぶ直線から外れて位置する。シフトレバー31をDポジションからRポジションへ移動させた場合、シフトレバー31は、第1の経路34を車幅方向に沿って略直線的に移動し、第1の経路34から第3の経路36へ進入し、Nポジションを経て第3の経路36から第1の経路34へ戻り、第1の経路34を車幅方向に沿って略直線的に移動し、第1の経路34から第2の経路35へ進入し、第2の経路35を前方へ移動する。なお、第3の経路36は、第1の経路34との間でシフトレバー31を移動させる際のシフト操作性を損なわない大きさ及び形状に設定されている。
【0023】
Rポジションは、車両を後退させるために選択される位置である。Nポジションは、クラッチ機構1を切断状態として、エンジンEから変速機T/Mへの動力伝達を遮断するために選択される位置である。Aポジションは、自動変速装置を自動変速モードにて作動させる場合に選択される位置である。Dポジションは、自動変速装置を、複数段の変速を手動で行うことが可能な状態となる自動変速モードにて作動させる場合に選択される位置である。すなわち、シフトレバー31がDポジションに維持されている状態では、自動変速モードに従って変速機T/Mの変速段が変更され、シフトレバー31が+ポジションへ1回移動される毎に変速機T/Mの変速段が1段シフトアップし、シフトレバー31が−ポジションへ1回移動される毎に変速機T/Mの変速段が1段シフトダウンする。
【0024】
シフトレバー31の下端には、ロッド(図示外)が固着されている。シフトレバー31がシフトゲート33に沿って操作されると、ロッドは車幅方向に移動する。また、シフトレバー装置30は、図1に示すように、シフトレバー31のシフトポジションを検出するシフト位置検出センサ38と、シフトレバー31の移動を検出するシフトストローク検出センサ39とを備え、シフト位置検出センサ38及びシフトストローク検出センサ39からの検出信号は、ECU22へ出力される。
【0025】
次に、自動変速装置について、さらに詳細に説明する。
【0026】
変速機T/Mは、クラッチ機構1を介してエンジンEと接続されている。クラッチ機構1は、流体継手(フルードカップリング)2と湿式多板クラッチ(変速クラッチ)3とを備える。流体継手2はエンジンEから変速機T/Mに至る動力伝達経路の途中の上流側に、湿式多板クラッチ3は同下流側に直列に設けられる。なお、この流体継手は、トルクコンバータを含む広い概念であり、本実施形態においてもトルクコンバータが使用されている。
【0027】
流体継手2は、エンジンEの出力軸(クランク軸)1aに接続されたケーシング18と、ケーシング18と一体に回転するポンプ部4と、ケーシング18内でポンプ部4と対向配置され湿式多板クラッチ3の入力側に接続されたタービン部5と、タービン部5とポンプ部4との間に介設されたステータ部6と、ポンプ部4とタービン部5との締結及び切離を行うロックアップクラッチ7と、ロックアップクラッチ7を作動する油圧回路19からなるロックアップ装置20と、を備える。
【0028】
湿式多板クラッチ3は、その入力側が入力軸3aを介してタービン部5に接続され、出力側が変速機T/Mの入力軸8に接続されて、流体継手2と変速機T/Mとの間を断接する。湿式多板クラッチ3は、初期状態においてスプリング(図示せず)により断方向に付勢され、油圧回路19からの圧油により接とされる。
【0029】
変速機T/Mは、入力軸8と、これと同軸に配置された出力軸9と、これらに平行に配置された副軸10とを有する。入力軸8には、入力主ギヤ11が設けられている。出力軸9には、1速主ギヤM1と、2速主ギヤM2と、3速主ギヤM3と、4速主ギヤM4と、リバース主ギヤMRとが夫々軸支されていると共に、6速主ギヤM6が固設されている。副軸10には、入力主ギヤ11に噛合する入力副ギヤ12と、1速主ギヤM1に噛合する1速副ギヤC1と、2速主ギヤM2に噛合する2速副ギヤC2と、3速主ギヤM3に噛合する3速副ギヤC3と、4速主ギヤM4に噛合する4速副ギヤC4と、リバース主ギヤMRにアイドルギヤIRを介して噛合するリバース副ギヤCRとが固設されていると共に、6速主ギヤM6に噛合する6速副ギヤC6が軸支されている。
【0030】
変速機T/Mでは、出力軸9に固定されたハブH/R1にスプライン噛合されたスリーブS/R1を、リバース主ギヤMRのドグDRにスプライン噛合すると、出力軸9がリバース回転し、上記スリーブS/R1を、1速主ギヤM1のドグD1にスプライン噛合すると、出力軸9が1速相当で回転する。出力軸9に固定されたハブH/23にスプライン噛合されたスリーブS/23を、2速主ギヤM2のドグD2にスプライン噛合すると、出力軸9が2速相当で回転し、上記スリーブS/23を3速主ギヤM3のドグD3にスプライン噛合すると、出力軸9が3速相当で回転する。出力軸9に固定されたハブH/45にスプライン噛合されたスリーブS/45を、4速主ギヤM4のドグD4にスプライン噛合すると、出力軸9が4速相当で回転し、上記スリーブS/45を入力主ギヤ11のドグD5にスプライン噛合すると、出力軸9が5速相当(直結)で回転する。副軸10に固定されたハブH6にスプライン噛合されたスリーブS6を、6速副ギヤC6のドグD6にスプライン噛合すると、出力軸9が6速相当で回転する。
【0031】
上記各スリーブSの移動は、変速機アクチュエータ40を介してECU22により制御される。
【0032】
変速機T/Mの変速段の切換時には、まず、湿式多板クラッチ3が断とされ、シフト操作前にスプライン係合してたスリーブSが対応するドグDと切り離されてニュートラルにされる。その後、後述するように、変速先の主ギヤMのドグDとハブHのスリーブSの回転合わせが行われた後、スリーブSが移動されて対応するドグDとスプライン係合されてニュートラル位置から変速先のギヤ段に切り替えられると共に湿式多板クラッチ3が接とされる。
【0033】
アクセルペダル23の踏み込み量は、センサ24により検出され、その踏み込み量がECU22に入力される。またブレーキペダル25の踏み込み量は、センサ26で検出され、その踏み込み量がECU22に入力される。
【0034】
変速機T/Mの入力主ギヤ11又は入力主ギヤ11に噛合する入力副ギヤ12に回転数を検出する回転センサ27Aと、出力軸の回転を検出する回転センサ(車速センサ)27Bと、エンジンの回転を検出する回転センサ28Tと、クラッチ3の回転を検出する回転センサ28Cが設けられ、これら回転センサ27A,27B,28T,28Cの検出値がECU22に入力される。
【0035】
ECU22のロックアップ制御は、ギヤイン状態で、エンジン回転数が例えば800rpm以下のときには、流体継手2のロックアップ装置20を断側に、1000rpm以上となったとき、ロックアップ装置20を接側に作動する。
【0036】
次に、流体継手2とロックアップ装置20と湿式多板クラッチ3とを詳細に説明する。
【0037】
エンジンの出力軸(クランク軸)1aに接続されたケーシング18には、流体継手2のポンプ部4が一体に設けられる。ポンプ部4は、軸受(図示外)により湿式多板クラッチ3の入力軸3aに対して回転自在に設けられる。またケーシング18内には、ポンプ部4に対向されてタービン部5が、湿式多板クラッチ3の入力軸3aに接続されて設けられる。なお、図中符号6はステータ部である。
【0038】
タービン部5には、ダンパースプリング(図示外)を介して、クラッチディスク(図示外)が連結される。クラッチディスク(図示外)は、ケーシング18と対向するようタービン部5のタービンハブ(図示外)に対して軸方向に摺動可能に設けられ、そのケーシング18側に面したクラッチディスク(図示外)の外側部にクラッチフェージング(図示外)が装着される。
【0039】
このクラッチディスクにより、ケーシング18とクラッチディスク間に外側室(図示外)が形成され、タービン部5とクラッチディスク間に内側室(図示外)が形成される。
【0040】
入力軸3aには、内側通路(図示外)が形成され、その入力軸3aの外周に外側通路(図示外)が形成される。
【0041】
この流体継手2で、ロックアップ装置20が断のとき、圧油は、内側通路からケーシング18とクラッチディスク間の外側室に流れ、外側室からタービン部5とポンプ部4内を流れ、一部は軸受けを通って外側通路に流れて、ポンプ部4の回転をタービン部5に伝達する。またロックアップ装置20が接のときは、圧油の流れは上述と逆に切り換えられる。すなわち、圧油は、外側通路から軸受けを通ってポンプ部4とタービン部5内を流れると共に、内側室に流れる。これによりクラッチディスクのクラッチフェージングがケーシング18に摩擦接触し、ケーシング18の回転が、クラッチディスクよりダンパースプリングを介してタービン部5に伝達され、ポンプ部4とタービン部5とが機械的に締結される。
【0042】
湿式多板クラッチ3は、油が満たされたクラッチケーシング(図示外)内で、入力側と出力側とにそれぞれ複数枚ずつ互い違いにクラッチプレート(図示外)がスプライン噛合され、これらクラッチプレート同士をクラッチピストン(図示外)により押し付け合い、或いは解放して、クラッチの接続・分断を行うものである。クラッチピストンはクラッチスプリング(図示外)により常に断側に付勢されると共に、これを上回る油圧がクラッチピストンに付加されたとき湿式多板クラッチ3が締結される。
【0043】
次に、本実施形態に係る動力伝達装置の作動を説明する。
【0044】
この動力伝達装置では、エンジンEの動力を流体継手2、湿式多板クラッチ3、変速機T/Mという順で伝達する。
【0045】
シフトレバー31がNポジションに位置する場合、ECU22は、ロックアップクラッチ7と湿式多板クラッチ3とを断とする。従って、車両の駐停車中には、シフトレバー31はNポジションに位置される。
【0046】
車両を発進(前進又は後進)させるため、運転者がシフトレバー31をRポジション、Dポジション又はAポジションの何れかに移動すると、ECU22は、湿式多板クラッチ3を接とする。係る状態では、流体継手2のタービン部5は、駆動輪側から止められているので、ポンプ部4のみが回転し、クリープ力が発生する。係る状態から、運転者がブレーキペダル25を離し、アクセルペダル23を踏み込むことにより、タービン部5が回転して変速機T/M側に動力が伝達され、車両が発進する。なお、クリープ力を利用して車両を微速で前進又は後退させることにより、車両の駐停車位置の微調整を行うことができる。
【0047】
シフトレバー31がDポジション又はAポジションに位置する自動変速モードにおいて、運転者がアクセルペダル23を踏み込むと、ECU22は、回転センサ28Tが検出するエンジン回転、回転センサ27Bが検出する車速、シフト位置検出センサ38が検出するシフトレバー31の位置、及びシフトストローク検出センサ39が検出するシフトレバー31の移動等に基づいて、油圧回路19を制御してクラッチ機構1(流体継手2と湿式多板クラッチ3)の断接制御を行うと共に、変速機アクチュエータ40を制御して変速機T/Mの変速段の変更を自動的に行う。また、運転者がシフトレバー31をDポジションから+ポジションへ1回移動すると、ECU22は、これを検出してクラッチ機構1の断接制御及び変速機T/Mの1段分のシフトアップ制御を実行する。反対に、運転者がシフトレバー31をDポジションから−ポジションへ1回移動すると、ECU22は、これを検出してクラッチ機構1の断接制御及び変速機T/Mの1段分のシフトダウン制御を実行する。
【0048】
本実施形態のシフトレバー装置30では、Nポジションは、第3の経路36に配置され、第1の経路34と第2の経路35との交叉部とDポジションとを結ぶ直線から外れて位置する。このため、車両の駐停車中に、乗員が車室内を移動したり物を取ろうとした際に誤ってシフトレバー31に触れてしまうなどの理由により、Nポジションに位置するシフトレバー31が不意の誤操作を受けた場合であっても、シフトレバー31がNポジションからRポジションやDポジションへ移動し難い。従って、車両の駐停車中における不用意なクリープ現象の発生を防止することができる。
【0049】
次に、本発明の第2実施形態を図4及び図5に基づいて説明する。図4は本実施形態に係るシフトレバー装置を模式的に示す外観斜視図、図5はシフトパターンを示す模式図である。なお、本実施形態は、シフトレバー装置の構成が第1実施形態と相違するものであり、他の第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0050】
図4及び図5に示すように、シフトレバー装置50は、シフトレバー31と、複数のシフトポジションと、シフトレバー31が挿通される溝状の経路としてのシフトゲート51とを有する。シフトレバー31の先端には、運転者に把持されるノブ32が設けられている。上記複数のシフトポジションは、Rポジションと2箇所のニュートラルポジション(N1ポジション及びN2ポジション)とDポジションとAポジションとを含み、各シフトポジションは、シフトゲート51の所定位置に配置されている。N1ポジションは、運転中等のシフト操作時に使用される通常のニュートラルポジションであり、N2ポジションは、車両の駐停車中等のようにニュートラルポジションを比較的長時間維持する場合に使用されるニュートラルホールドポジションである。
【0051】
上記シフトゲート51は、第1〜第4の経路52,35,53,37を有する。第1の経路52は、車幅方向に沿って延び、シフトレバー31のほぼ直線状の移動を許容する。第4の経路37は、車両前後方向に沿って延び、第1の経路52の一端側で該第1の経路52と交叉する。この交叉部にDポジションが配置され、第1の経路52の一端部にAポジションが配置されている。また、第4の経路37の車両前後方向の前端部にはシフトアップポジション(+ポジション)が配置され、第4の経路37の車両前後方向の後端部にはシフトダウンポジション(−ポジション)が配置されている。なお、第4の経路37の後端部にシフトアップポジション(+ポジション)を、第4の経路37の前端部にシフトダウンポジション(−ポジション)をそれぞれ配置してもよい。
【0052】
第2の経路35は、第1の経路52の他端部から第1の経路52と略直交して前方へ所定距離だけ延び、Rポジションは、第2の経路35の前端部に配置されている。第3の経路53は、第1の経路51の中間部から車両後方へ延びている。2つのニュートラルポジションの一方であるN1ポジションは、第1の経路52と第3の経路53との交叉部に配置されて、他方であるN2ポジションは、第3の経路53の後端部に配置されている。このN2ポジションは、第1の経路52と第2の経路35との交叉部とDポジションとを結ぶ直線から外れて位置する。N1ポジション及びN2ポジションは、共にクラッチ機構1を切断状態として、エンジンEから変速機T/Mへの動力伝達を遮断するために選択される位置である。シフトレバー31をDポジションからRポジションへ移動させた場合、シフトレバー31は、第1の経路34を車幅方向に沿って略直線的に移動し、N1ポジションを経て、第1の経路34から第2の経路35へ進入し、第2の経路35を前方へ移動する。
【0053】
本実施形態のシフトレバー装置50は、レバー移動規制手段としてのレバー移動規制機構55を備えているのが好ましく、その操作入力手段としては例えば入力ボタン54を備えている。入力ボタン54は、シフトレバー31のノブ32に配置されている。レバー移動規制機構55は、操作者から入力ボタン54への操作入力に応じて、シフトレバー31を、N1ポジションからN2ポジションへの移動を阻止する禁止状態とこの移動を許容する解除状態とに選択的に設定する。レバー移動規制機構55は、例えば、シフトレバー31の下端に固着されたロッド(図示外)に形成された溝又は孔(図示外)と、入力ボタン54への操作に応じて溝又は孔と係合してロッドの移動又は回転を規制するソレノイド(図示外)とから構成される。
【0054】
本実施形態では、車両の運転者は、ニュートラルポジションのうちN1ポジションとN2ポジションとを、適宜選択して使用することができる。
【0055】
例えば、車両の運転中におけるシフトレバー31の操作に際しては、第1の経路52と第3の経路53との交差部に配置されたN1ポジションを使用することにより、Rポジション及びDポジションとN1ポジションとの間のシフトレバー31の移動を円滑且つ簡単に行うことができる。また、N1ポジションからN2ポジションへシフトレバー31を移動させるためには、運転者は、入力ボタン54を都度操作しなければならず、N1ポジションへの移動に伴ってシフトレバー31が不必要にN2ポジションへ移動してしまうことが防止され、シフトレバー31の操作性が損なわれることがない。
【0056】
また、車両の駐停車に際しては、第3の経路53に配置されたN2ポジションを使用することにより、シフトレバー31が不意の誤操作を受けた場合であっても、シフトレバー31がRポジションやDポジションへ移動し難い。従って、車両の駐停車中における不用意なクリープ現象の発生を防止することができる。また、車両の発進時には、入力ボタン54への操作を伴うことなくN2ポジションからN1ポジションへシフトレバー31を移動させることができ、操作性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、いわゆるシーケンシャルマニュアルトランスミッションと称される自動変速機を備えた様々な車両用のシフトレバー装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1実施形態に係る車両の動力伝達装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1のシフトレバー装置を模式的に示す外観斜視図である。
【図3】図2のシフトレバー装置のシフトパターンを示す模式図である。
【図4】第2実施形態に係るシフトレバー装置を模式的に示す外観斜視図である。
【図5】図4のシフトレバー装置のシフトパターンを示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1:クラッチ機構(自動クラッチ)
2:流体継手
3:湿式多板クラッチ
19:油圧回路(クラッチ作動手段)
22:エンジンコントロールユニット(ECU、制御手段)
30:シフトレバー装置
31:シフトレバー
33:シフトゲート(経路)
34:第1の経路
35:第2の経路
36:第3の経路
37:第4の経路
38:シフト位置検出センサ
39:シフトストローク検出センサ
40:変速機アクチュエータ(変速機作動手段)
50:シフトレバー装置
51:シフトゲート(経路)
52:第1の経路
53:第3の経路
T/M:自動変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機と、少なくともリバースポジションとニュートラルポジションと複数段の変速を手動で行うことが可能なドライブポジションとに移動自在なシフトレバーを有するシフトレバー装置と、前記シフトレバーの位置に基づいて前記自動変速機の変速段を変更する変速機作動手段と、エンジンから前記自動変速機への動力伝達を断接する自動クラッチと、前記自動クラッチを作動させるクラッチ作動手段と、前記シフトレバーの位置に基づいて少なくとも前記クラッチ作動手段を制御する制御手段とを備え、前記シフトレバーの位置に基づいて自動変速が行われ、前記シフトレバーが前記リバースポジション又は前記ドライブポジションの少なくとも一方に位置するときにクリープ現象が発生し前記ニュートラルポジションに位置するときにクリープ現象が発生しない車両用の自動変速装置の前記シフトレバー装置であって、
前記ドライブポジションを、前記シフトレバーのほぼ直線状の移動を許容する第1の経路の一端側に配置し、
前記リバースポジションを、前記第1の経路の他端側から該第1の経路と略直交して延びて前記シフトレバーの移動を許容する第2の経路に配置し、
前記ニュートラルポジションを、前記第1の経路と第2の経路との交叉部と前記ドライブポジションとを結ぶ直線から外れて位置し、且つ前記第1の経路の中間部分からの前記シフトレバーの移動を許容する第3の経路に配置した
ことを特徴とする自動変速装置のシフトレバー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速装置のシフトレバー装置であって、
レバー移動規制手段と操作入力手段とを備え、
前記ニュートラルポジションは、前記第1の経路と前記第3の経路との交叉部に配置された第1のニュートラルポジションと、前記第3の経路に配置された第2のニュートラルポジションとを含み、
前記レバー移動規制手段は、前記操作入力手段への操作入力に応じて、前記シフトレバーを、前記第1のニュートラルポジションから前記第2のニュートラルポジションへの移動を阻止する禁止状態と該移動を許容する解除状態とに選択的に設定する
ことを特徴とする自動変速装置のシフトレバー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−7885(P2006−7885A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185546(P2004−185546)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】