説明

自動蛋白質合成方法及びそれを行うための装置

転写鋳型から該鋳型にコードされる蛋白質の生成までの一連の工程を自動で行わせる方法、ならびに当該方法を実行し得る自動蛋白質合成装置を提供する。詳しくは、細胞蛋白質合成において、転写鋳型にコードされる蛋白質を生成するまでの反応を自動で行わせる方法である。

【発明の詳細な説明】
本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本特許出願番号2003−033009からの優先権を請求する。
【技術分野】
本発明は、無細胞蛋白質合成を自動で行わせる方法、及びそのための自動蛋白質合成装置に関する。
【背景技術】
ゲノミクスが急速に進展し、種々の生物体のゲノムプロジェクトが次々と完了していく今日において、研究課題の中心は遺伝子構造解析から遺伝子機能解析へと大きく転換してきている。ノックアウトを含めたトランスジェニック技術は、既に機能が解明された遺伝子の導入・破壊により目的の機能が付加された変異体の作製などにおいては多大な成果をもたらしてきたが、未知の遺伝子機能解析においては、細胞というブラックボックスを通して得られる表現型に基づくデータ解釈にとどまっているのが現状である。このことは、これらの技術により機能の同定できた遺伝子がごく少数であるという事実からも明らかであろう。一方、機能が解明された遺伝子は、必ずといってよいほど生化学的な裏付けを伴っている。従って、ゲノム情報から得られた未知遺伝子の機能解析には、遺伝子産物の生化学的な解析が必須であるといえる。
蛋白質の合成にはクローン化した遺伝子を生細胞で発現させる遺伝子工学的手法が広く利用されているが、この方法で入手可能な外来性蛋白質は、宿主の生命維持機構をくぐり抜けられる分子種に限られてしまう。一方、有機合成技術の進展によってペプチド自動合成機が普及し、数十個のアミノ酸から成るペプチドを合成することは日常的となっているが、分子量のより大きな蛋白質を化学的に合成することは収率や副反応等の限界から現在においてもきわめて困難である。さらに欧米では、従来型の生体をそのまま利用する蛋白質生産や新規分子探索方法に対する倫理的な批判が強く、国際的な規制がさらに厳しくなる懸念もある。
このような問題点を打破する新しい蛋白質合成法として、生化学的手法を取り入れ、生物体の優れた特性を最大限に利用しようとする、無細胞蛋白質合成法を挙げることができる。この方法は、生体の遺伝情報の転写系、翻訳系を人工容器内に取り揃え、設計・合成した転写鋳型から、非天然型をも含む望みのアミノ酸を取り込むことのできる系を再構築するというものである。このシステムでは、生命体の制約を受けることがないので、合成可能な蛋白質分子種を殆ど無限大にまで広げることが期待できる。このような無細胞蛋白質合成法は、すり潰した細胞液に蛋白質合成能が残存することが40年前に報告されて以来、種々の方法が開発され、大腸菌、コムギ胚芽、ウサギ網状赤血球由来の細胞抽出液は蛋白質合成用として現在も広く利用されている。中でも、コムギ胚芽由来の細胞抽出液など、真核生物由来の細胞抽出液は、その蛋白質合成能の高さおよび蛋白質のフォールディングの正確さから、注目を浴びている。
膨大なゲノム情報から得られた遺伝子の機能解析のためには、短時間で簡便に多検体の蛋白質を合成し得るハイスループットな合成システムの開発が望まれる。無細胞蛋白質合成法においては、▲1▼転写鋳型から翻訳鋳型であるmRNAを得るための転写反応、▲2▼mRNAを鋳型として蛋白質を合成する翻訳反応の各工程をそれぞれ自動で行うための装置はすでに開発されている。また、原核生物である大腸菌由来の細胞抽出液を用いた場合には、1つの溶液中で転写反応、翻訳反応を行わしめることができるため、転写反応、翻訳反応を経て転写鋳型から蛋白質を自動で合成するための装置はすでに開発されている。しかしながら、優れた蛋白質合成能を有する小麦胚芽など真核生物由来の細胞抽出液については、上記のように転写反応により得られた翻訳鋳型を翻訳反応に供するまでの間において不可避的に手動の操作を要するために、転写鋳型からそれにコードされる蛋白質を生成させるまでの一連の操作を自動で行うことができなかった。
すなわち、上記真核生物由来の細胞抽出液を用いた従来の無細胞蛋白質合成法においては、転写反応における未反応基質や副生物が後の翻訳反応を阻害するため、これらを除去することが必須であると考えられており、アルコール沈殿やゲル濾過カラムによる除去操作が行われていた(例えば、従来法の典型的プロトコルとして、図1の右カラム工程b12〜b16を参照)。この際、ゲル濾過に使用されるバッファーに含まれる塩が後の翻訳反応を阻害するために、再度の沈殿及び/又は洗浄操作を行わないと、少なくとも一部の蛋白質については蛋白質が全くまたはわずかしか得られない。しかしながら、かかる再沈殿・洗浄操作を行うと、反応容器の底面に表面張力で保持されていた翻訳鋳型の沈殿が剥離してしまい、自動合成装置の構成として用い得る通常の遠心分離機では、再度遠心しても液中に浮遊した状態となり、翻訳鋳型をロスせずに上清を除去するためには、実験者がピペットなどを用いて手動で注意深く行わなければならなかった。
また、精製された翻訳鋳型は、従来、超純水や翻訳反応のための基質、エネルギー源等を含む溶液(翻訳反応用溶液)に一旦溶解した後で、リボソーム等の蛋白質合成装置を含む細胞抽出液と混合して翻訳反応に供していたが(図1の右カラム工程b18、b19)、翻訳鋳型であるmRNAは水もしくは翻訳反応用溶液に極めて溶けにくく、実験者が検体ごとにピペットの先などを用いて攪拌して溶解させなければならなかった。
【発明の開示】
したがって、本発明の目的は、無細胞蛋白質合成の自動化における上記課題を解決し、以って、転写鋳型から該鋳型にコードされる蛋白質の生成までの一連の工程、好ましくは転写鋳型の作製から蛋白質の生成までの工程を自動で行わせる方法を提供することであり、当該方法を実行し得る自動蛋白質合成装置、特に同時に多種類の蛋白質を合成し得る自動蛋白質合成装置を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、(1)転写反応後に得られた翻訳鋳型を沈殿させた後、未反応基質を除去する工程及びそれに付随するバッファー交換のための洗浄工程・沈殿工程を省略しても、蛋白質の翻訳効率に影響がないこと、並びに(2)翻訳鋳型の沈殿を一旦水もしくは翻訳反応用溶液に溶解させるのではなく、蛋白質合成用細胞抽出液を直接添加すると、意外にも極めて容易に沈殿が溶解することを見出した。本発明者は、これらの知見に基づいて新規な無細胞蛋白質合成のプロトコルを開発し、該プロトコルを実行し得る自動蛋白質合成装置を構築することに成功して、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下のとおりである。
1.無細胞蛋白質合成工程において、転写鋳型から該鋳型にコードされる蛋白質を生成するまでの反応工程において、転写反応後の反応液中の翻訳鋳型を沈殿、上清液の除去及び該翻訳鋳型の乾燥工程の後に、蛋白質合成用細胞抽出液を該沈殿物に直接添加することにより該沈殿物を溶解する工程を含む無細胞蛋白質合成方法。
2.目的蛋白質をコードする転写鋳型を増幅させて調製する工程をさらに含む前項1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
3.目的蛋白質をコードする遺伝子を含有する宿主細胞を、直接ポリメラーゼチェイン反応に供し、転写鋳型を増幅させて調製する工程を特徴とする前項1または2に記載の無細胞蛋白質合成方法。
4.転写鋳型の作成から該転写鋳型にコードされる蛋白質を生成するまでの反応を自動で行うことを特徴とする前項1〜3のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
5.翻訳反応用溶液を、翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液に重層して翻訳反応を行わせることを特徴とする、前項1〜4のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
6.翻訳反応用溶液を、翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液に添加・混合して翻訳反応を行わせることを特徴とする、前項1〜4のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
7.以下のいずれか1の工程を含む前項1〜6のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
(1)転写鋳型をPCRで増幅させて調製する工程;
(2)転写反応用溶液と転写鋳型を混合する工程;
(3)転写反応用溶液と転写鋳型との混合物を一定時間インキュベートする工程;
(4)翻訳鋳型を沈殿させる工程;
(5)反応容器内の上清を除去する工程;
(6)翻訳鋳型の沈殿物を乾燥させる工程;及び
(7)蛋白質合成用細胞抽出液を、乾燥させた翻訳鋳型に加え、該翻訳鋳型を溶解する工程。
8.全反応工程を、同一の反応容器内で行わせるものである、前項1〜7のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
9.同時に複数種類の蛋白質を複数の反応容器内で反応合成することを特徴とする前項1〜8のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
10.前記蛋白質合成用細胞抽出液が植物種子胚芽抽出液である前項1〜9のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
11.前記植物種子胚芽抽出液がコムギ種子胚芽抽出液である前項10に記載の無細胞蛋白質合成方法。
12.前記コムギ種子胚芽抽出液が、胚芽の胚乳成分および低分子の蛋白質合成阻害剤物質が実質的に除去された抽出液である前項11に記載の無細胞蛋白質合成方法。
13.前項1〜12のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法を実施するための装置であって、以下の制御手段の1を少なくとも備える無細胞蛋白質合成装置。
(a)反応容器内の温度を可変制御する手段;
(b)反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段;
(c)沈殿手段;
(d)上清を除去する手段;
(e)乾燥手段;及び
(f)上記(a)〜(e)の手段を前項1〜12のいずれかに1に記載の工程に沿って動作させるための制御手段
14.前記上清を除去する手段が、反応容器を裏返す動作を行わせるための手段である前項13に記載の無細胞蛋白質合成装置。
15.さらに、反応容器の蓋の開閉を行う手段を含むことを特徴とする、前項13または14に記載の無細胞蛋白質合成装置。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の方法の具体例と、従来の方法とを比較した工程に要する時間を示す図である。
図2は、実験例2の実験結果を示すグラフである。
図3は、実験例3の実験結果を示すSDS−PAGEの写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、少なくとも反応系に提供された転写鋳型から該鋳型にコードされる蛋白質を生成するまでの反応操作を自動で行わせる方法(以下、単に「本発明の方法」という場合もある)を提供する。ここで「操作を自動で行わせる」とは、一連の工程中に、実験者が反応系(反応容器)に直接的に手動の操作を加えないことを意味する。従って、各工程を実行させるに際し、用いられる本発明の自動蛋白質合成装置に設けられた所定の操作ボタンやスイッチなどの操作を実験者が手動で行うことは、本発明における「自動」の要件を損なうものではない。また、用いる反応容器は各工程において異なるものであってもよいが、本発明の方法を実行させる装置の構造の単純化や試料・生成物のロスを防ぐ等の目的から、一連の工程が同一反応容器内で実施されるように設計されることが好ましい。
本発明の方法は、転写反応工程、翻訳鋳型の精製工程および翻訳反応工程に分けられる。また、好ましくは、本発明の方法は、転写鋳型の作製から該鋳型にコードされる蛋白質の生成までの工程を自動で行わせることを特徴とする。したがって、好ましい態様においては、本発明の方法は、転写反応工程に先立って転写鋳型の作製工程をさらに含む。以下、各工程について具体的な実施態様を挙げて詳述するが、本発明の方法は、翻訳鋳型の精製工程における上記2つの特徴の少なくとも1つを有する限り、それらに制限されるものではない。
(1)転写鋳型の作製工程
本発明の方法において、本工程は必ずしも自動で行う必要はなく、手動により得られた転写鋳型を以下の自動化工程に用いることもできるが、本工程を含めて、転写鋳型の作製から該鋳型にコードされる蛋白質の生成までの一連の工程を自動で行わせることがより好ましい。
本明細書において「転写鋳型」とは、インビトロ転写反応の鋳型分子として使用し得るDNAをいい、適当なプロモーター配列の下流に目的蛋白質をコードする塩基配列を少なくとも有する。適当なプロモーター配列とは、転写反応において使用されるRNAポリメラーゼが認識し得るプロモーター配列をいい、例えば、SP6プロモーター、T7プロモーター等が挙げられる。目的蛋白質をコードするDNAはいかなるものであってもよい。
転写鋳型は、プロモーター配列と目的蛋白質をコードする塩基配列との間に翻訳効率を制御する活性を有する塩基配列を有することが好ましく、例えば、タバコモザイクウイルス由来のΩ配列などのRNAウイルス由来の5’非翻訳領域、及び/又はコザック配列等を用いることができる。さらに、転写鋳型は、目的蛋白質をコードする塩基配列の下流に転写ターミネーション領域等を含む3’非翻訳領域を含むことが好ましい。3’非翻訳領域としては、終止コドンより下流の約1.0〜約3.0キロベース程度が好ましく用いられる。これらの3’非翻訳領域は必ずしも目的蛋白質をコードする遺伝子本来のそれである必要はない。
転写鋳型の作製は、自体公知の手法により実施することができる。例えば、所望の転写鋳型と同一の塩基配列を含むDNAが挿入されたプラスミドを有する大腸菌などの宿主細胞を培養し、周知の精製方法を用いて該プラスミドを大量調製した後、適当な制限酵素を用いて該プラスミドから転写鋳型DNAを切り出し、フェノール処理及びクロロホルム処理により制限酵素を除去し、さらにエタノールやイソプロパノールによるアルコール沈殿(必要に応じて、適当量の酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等の塩を添加する)などにより転写鋳型を精製する方法が挙げられる。得られたDNAの沈殿は、超純水や後述の転写反応用溶液に溶解して以下の転写反応に供することができる。
かかる一連の操作を自動もしくは半自動(工程の一部に実験者が反応系に直接的に手動の操作を加える態様をいうものとする)で実施するための装置は知られており、これを本発明の自動蛋白質合成装置に組み込むことにより、転写鋳型の作製から目的蛋白質の生成までを自動で行わせることが可能であるが、ハイスループット解析のための自動無細胞蛋白質合成システムの提供という本発明の目的と、装置の単純化、所要時間の短縮化等を考慮すれば、以下のポリメラーゼ・チェイン反応(PCR)法により転写鋳型を作製する方法を利用することがより好ましい。
本発明の方法の好ましい実施態様においては、目的蛋白質をコードするDNAがクローン化された宿主(例えば、該DNAを含むプラスミドを有する大腸菌など)を直接PCRにかけて転写鋳型を増幅する方法が用いられる。例えば、適当なプロモーター配列、翻訳効率を制御する活性を有する5’非翻訳配列及び目的蛋白質をコードするDNAの5’端領域の一部を含むオリゴヌクレオチドを、DNA自動合成機を用いて公知の手法により合成し、これをセンスプライマー、また3’非翻訳配列の3’端領域の配列を有するオリゴヌクレオチドをアンチセンスプライマーとし、鋳型として目的蛋白質をコードするDNAおよびその下流に該3’非翻訳配列を含むプラスミドを有する大腸菌などの宿主を直接PCR反応液に加えて、通常の条件で増幅反応を行わせることにより所望の転写鋳型を得ることができる。尚、非特異的増幅により生じる短鎖DNA(結果として目的産物の収量低下及び低分子翻訳産物ノイズを生じる)の生成を防ぐために、国際公開第02/18586号パンフレットに記載のプロモーター分断型プライマーを用いることもできる。
増幅反応は、市販のPCR用サーマルサイクラーを用いて市販のPCR用96穴プレート中で行うこともできるし、同様の温度可変制御装置を本発明の自動蛋白質合成装置と連動させるか、あるいは本発明の自動蛋白質合成装置の転写・翻訳反応を行わせるための各手段をそのままPCRに適用させることもできる。
上記のようにして得られる転写鋳型DNAはクロロホルム抽出やアルコール沈殿により精製した後に転写反応に供してもよいが、装置の単純化、所要時間の短縮化のためにはPCR反応液をそのまま転写鋳型溶液として使用することが好ましい。転写鋳型の作製において、上記した宿主からの直接PCRを用いることにより、一旦プラスミドを大量調製して、これを制限酵素処理して転写鋳型を得る方法と比較して、工程を格段に省略でき、少ない工程数で短時間での転写鋳型の大量合成が可能となる(図1を参照)。すなわち、目的遺伝子を組み込んだプラスミドを有する大腸菌を培養してプラスミドを大量調製する工程(図1の右カラム工程b1)を必要としないので、培養やプラスミド精製のための超遠心に要する時間を短縮することができる(例えば、図1に示す通り72時間から6時間に大幅に短縮できる)。また、プラスミドから転写鋳型を切り出すための制限酵素処理(工程b2)、及び制限酵素等を除去するためのフェノール処理、クロロホルム処理(工程b3及びb4)、転写鋳型の精製のためのアルコール沈殿(工程b5)、転写鋳型であるDNAの沈殿を溶解する工程(工程b6)を省略することができるので、フェノール/クロロホルムの残存による転写反応の阻害や、多工程の精製操作による転写鋳型のロスがない。また、反応に要するステップ数を少なくすることができるので使用するチップ数なども少なくて済むというさらなる利点を有する。
(2)転写反応工程
本発明の方法は、自体公知の方法を用いて調製された目的蛋白質をコードする転写鋳型DNAから、インビトロ転写反応により翻訳鋳型であるmRNAを生成させる工程を含む。当該工程は、反応系(例えば、96穴タイタープレートなどの市販の容器)に提供された転写鋳型を含む溶液、好ましくは上記PCR反応液と、転写鋳型中のプロモーターに適合するRNAポリメラーゼ(例えば、SP6RNAポリメラーゼなど)やRNA合成用の基質(4種類のリボヌクレオシド3リン酸)等の転写反応に必要な成分を含む溶液(「転写反応用溶液」ともいう)とを混合した後、約20℃〜約60℃、好ましくは約30℃〜約42℃で約30分間〜約16時間、好ましくは約2時間〜約5時間該混合液をインキュベートすることにより行われる。転写鋳型溶液、転写反応用溶液の反応容器への分注、混合等の操作は後述の自動蛋白質合成装置の分注手段(例えば、ピペッター(反応容器として市販の96穴タイタープレートを用いる場合には、ウェル間隔に適合した8連もしくは12連の分注チップを有するものが好ましく用いられる)など)を用いて行うことができる。また転写反応のためのインキュベーションは、後述の自動蛋白質合成装置の温度制御手段により一定温度に制御しながら行うことができる。
(3)翻訳鋳型の精製工程
上記のようにして生成する転写産物(すなわち「翻訳鋳型」)は、所望により転写鋳型中に挿入された翻訳効率を制御する活性を有する5’非翻訳配列及び/又は3’非翻訳配列を含む、目的蛋白質をコードする塩基配列を有するRNA分子である。転写反応後の反応液中には、翻訳鋳型RNAの他に未反応のリボヌクレオシド3リン酸や反応副生物であるピロリン酸、その他転写反応用溶液に含有された塩などが混入しているが、これらの物質は後の翻訳反応を阻害することが知られているので、翻訳鋳型を選択的に沈殿させて未反応基質などを分離除去する。かかる沈殿手段としては、例えば塩析などが挙げられ、好ましくはアルコール沈殿法が例示されるが、それらに限定されない。アルコール沈殿法を用いる場合、使用するアルコールはRNAを選択的に沈殿させ得るものであれば特に制限はないが、例えばエタノール、イソプロパノールなどが好ましく、エタノールがより好ましい。エタノールの場合、転写反応液の約2倍量〜約3倍量、イソプロパノールの場合、転写反応液の約0.6倍量〜約1倍量を使用することが好ましい。また、適当な塩を共存させることにより沈殿の収量を増大させることができる。このような塩としては、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウムなどが挙げられる。例えば、酢酸アンモニウムを用いる場合、終濃度が約0.5M〜約3Mとなるように添加することが望ましい。また、アルコール沈殿は室温で行えばよい。
アルコール及び塩溶液の添加は、後述の自動蛋白質合成装置の分注手段を用いて行うことができ、また、翻訳鋳型RNAの析出は、後述の自動蛋白質合成装置の温度制御手段を用いて一定温度条件下で行うことができる。
尚、転写反応液中には転写鋳型DNAも存在するが、転写鋳型は後の翻訳反応を阻害することが報告されていたため、従来は転写反応終了後にDNase処理を行い、さらにフェノール処理、クロロホルム処理を行ってDNaseを変性除去する操作が行われていた(図1の右カラム工程b9〜b11を参照)。本発明者らは、本発明の方法においては、転写鋳型が翻訳反応液中に共存していても翻訳効率の低下を招かないことを見出し、自動蛋白質合成装置の単純化、所要時間の短縮化、並びにフェノール/クロロホルムの残存による翻訳阻害及び多工程の精製操作による翻訳鋳型のロス防止のためにDNase処理を省略した。従って、本発明の方法は、転写反応後に転写鋳型の分解・除去工程を行わないことをさらなる特徴とする。
上記のようにして析出した翻訳鋳型RNAは、自体公知の任意の手段により反応容器の底面に沈殿させることができる。このような手段としては、例えば、遠心分離、濾過、静置、凍結乾燥等が挙げられるが、好ましくは遠心分離である。遠心分離を利用する場合、例えば室温以下、好ましくは約25℃以下、より好ましくは約4℃〜約15℃で、約400×g〜約22000×gで行うことができる。かかる遠心分離操作は、公知の卓上遠心機などに使用される遠心分離手段を後述の自動蛋白質合成装置に沈殿手段として組み込むことにより実施することができる。
最初の沈殿操作により反応容器の底面に沈殿した翻訳鋳型は、表面張力により該底面上に保持されるため、該沈殿操作後の上清除去は実験者が手動で行う必要はなく、例えば、自体公知の装置(例:BioRobot8000(キアゲン社製))を用いても行うことができ、あるいは単に反応容器を上下反転させることにより行うこともできる。装置の単純化、所要時間の短縮化、用いるチップ数の削減などを考慮すれば、後者の手法が自動化のためには有利である。
上清を除去した後、翻訳鋳型RNAの沈殿を乾燥させる。乾燥は、残存する上清中の、翻訳反応を阻害する要因となり得る成分(例、アルコール)が除去されるに必要な時間以上であり、且つ完全な乾燥による不溶化を引き起こして翻訳効率を低下させない程度の時間内で行えば、その方法および時間は特に制限されないが、例えば、自然乾燥、風乾、減圧乾燥等の自体公知の方法により、好ましくは約10分間以下、より好ましくは約3分間〜約8分間行うことができる。
乾燥させた翻訳鋳型の沈殿は、以下の翻訳反応工程に供するため、蛋白質合成用細胞抽出液により溶解させる。ここで用いられる蛋白質合成用細胞抽出液としては、翻訳鋳型を翻訳して該鋳型にコードされる蛋白質を生成させ得るものであれば如何なるものであってもよいが、具体的には、大腸菌、植物種子の胚芽、ウサギ網状赤血球等の細胞抽出液等が用いられる。これらは市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には、大腸菌抽出液の場合、Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179−209,B.D.& Higgins,S.J.,eds),IRL Press,Oxford(1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。
市販の蛋白質合成用細胞抽出液としては、大腸菌由来では、E.coli S30 extract system(Promega社製)やRTS 500 Rapid Tranlation System(Roche社製)に添付のもの等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来ではRabbit Reticulocyte Lysate Sytem(Promega社製)に添付のもの等、更にコムギ胚芽由来ではPROTEIOSTM(TOYOBO社製)に添付のもの等が挙げられる。このうち、植物種子の胚芽抽出液の系を用いることが好ましく、植物種子としては、コムギ、オオムギ、イネ、コーン等のイネ科の植物、及びホウレンソウ等の種子が好ましく、特にコムギ種子胚芽抽出液を用いたものが好適である。さらに胚芽の胚乳成分および低分子の蛋白質合成阻害剤物質が実質的に除去されたコムギ種子胚芽抽出液抽出液がより好適である。これらは従来のコムギ種子胚芽抽出液と比較して、抽出液中の蛋白質合成阻害に関与する成分及び物質が低減されているからである。
コムギ胚芽抽出液の作製法としては、例えばJohnston,F.B.et al.,Nature,179,160−161(1957)、あるいはErickson,A.H.et al.,(1996)Meth.In Enzymol.,96,38−50等に記載の方法を用いることができる。更に、該抽出液中に含まれる翻訳阻害因子、例えばトリチン、チオニン、核酸分解酵素等を含む胚乳を取り除く等の処理(特開2000−236896公報等)や、翻訳阻害因子の活性化を抑制する処理(特開平7−203984号公報)を行うことも好ましい。
コムギ胚芽などの植物種子胚芽の抽出液を用いる場合、翻訳鋳型の沈殿に添加する前に該抽出液を、例えば、約15℃〜約26℃で約3分間以上プレインキュベーションすることにより翻訳効率を向上させ得る場合がある。
蛋白質合成用細胞抽出液はそのまま翻訳鋳型の沈殿に添加してもよいし、あるいは翻訳反応に必要もしくは好適な他の成分、即ち、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3’,5’−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等のうちの1つ以上を予め細胞抽出液と混合した後で該沈殿に添加してもよい。
蛋白質合成用細胞抽出液を直接翻訳鋳型の沈殿に添加することにより、該沈殿は極めて容易に溶解するので、例えば、後述の自動蛋白質合成装置の分注手段を用いて細胞抽出液を翻訳鋳型の沈殿に添加した後静置するか、あるいは分注手段が液の混合手段(例、ピペッティング、撹拌など)としても利用可能に設計されている場合、当該混合操作を実施することにより、短時間で以下の翻訳反応工程を開始することができる。
(4)翻訳反応工程
上記のようにして得られる翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液に、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3’,5’−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等の、翻訳反応に必要もしくは好適な成分を含有する溶液(「翻訳反応用溶液」ともいう)を添加して、翻訳反応に適した温度で適当な時間インキュベートすることにより翻訳反応を行うことができる。基質となるアミノ酸は、通常、蛋白質を構成する20種類の天然アミノ酸であるが、目的に応じてそのアナログや異性体を用いることもできる。また、エネルギー源としては、ATP及び/又はGTPが挙げられる。各種イオンとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸アンモニウム等の酢酸塩、グルタミン酸塩等が挙げられる。緩衝液としては、Hepes−KOH、Tris−酢酸等が用いられる。またATP再生系としては、ホスホエノールピルベートとピルビン酸キナーゼの組み合わせ、またはクレアチンリン酸(クレアチンホスフェート)とクレアチンキナーゼの組み合わせ等が挙げられる。核酸分解酵素阻害剤としては、リボヌクレアーゼインヒビターや、ヌクレアーゼインヒビター等が挙げられる。このうち、リボヌクレアーゼインヒビターの具体例としては、ヒト胎盤由来のRNase inhibitor(TOYOBO社製等)等が用いられる。tRNAは、Moniter,R.,et al.,Biochim.Biophys.Acta.,43,1(1960)等に記載の方法により取得することができ、あるいは市販のものを用いることもできる。還元剤としては、ジチオスレイトール等が挙げられる。抗菌剤としては、アジ化ナトリウム、アンピシリン等が挙げられる。これらの添加量は、無細胞蛋白質合成において通常使用され得る範囲で適宜選択することができる。
翻訳反応用溶液の添加の態様は、用いる翻訳反応系に応じて適宜選択することができる。本発明の方法に用いられる翻訳反応系は、本発明の自動蛋白質合成装置に適用し得る自体公知のいずれの系であってもよく、例えば、バッチ法(Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179−209,B.D.& Higgins,S.J.,eds),IRL Press,Oxford(1984))や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞蛋白質合成法(Spirin,A.S.et al.,Science,242,1162−1164(1988))、透析法(木川等、第21回日本分子生物学会、WID6)、あるいは重層法(国際公開第02/24939号パンフレット)等が挙げられる。更には、合成反応系に鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する不連続ゲル濾過法(特開2000−333673公報)や、合成反応槽が分子篩可能な担体によって調製され、上記の合成材料等が該担体を移動相として展開され、展開中に合成反応が実行され、結果として合成された蛋白質を回収し得る方法(特開2000−316595公報)等を用いることができる。しかしながら、自動蛋白質合成装置の構造の単純化、省スペース、低コスト、ハイスループット解析に適用可能な多検体同時合成システムの提供の点から、バッチ法または重層法が好ましく、比較的大量の蛋白質を得ることができる点で重層法が特に好ましい。
バッチ法により翻訳反応を行う場合、翻訳反応用溶液を翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液に添加して混合すればよい。あるいは翻訳反応用溶液に含まれる成分を予め蛋白質合成用細胞抽出液と混合した場合には、翻訳反応用溶液の添加を省略することもできる。翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液と翻訳反応用溶液とを混合して得られる「翻訳反応液」としては、例えば蛋白質合成用細胞抽出液としてコムギ胚芽抽出液を用いた場合、10〜50mM HEPES−KOH(pH7.8)、55〜120mM酢酸カリウム、1〜5mM酢酸マグネシウム、0.1〜0.6mMスペルミジン、各0.025〜1mM L−アミノ酸、20〜70μM、好ましくは30〜50μMのDTT、1〜1.5mM ATP、0.2〜0.5mM GTP、10〜20mMクレアチンリン酸、0.5〜1.OU/μlリボヌクレアーゼインヒビター、0.01〜10μM蛋白質ジスルフィドイソメラーゼ、及び24〜75%コムギ胚芽抽出液を含むもの等が用いられる。このような翻訳反応液を用いた場合、プレインキュベーションは約10〜約40℃で約5〜約10分間、本反応(翻訳反応)におけるインキュベーションは同じく約10〜約40℃、好ましくは約18〜約30℃、さらに好ましくは約20〜約26℃で、反応が停止するまで、バッチ法では通常10分〜7時間程度行う。
重層法により翻訳反応を行う場合、翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液上に、翻訳反応用溶液を界面を乱さないように重層することにより蛋白質合成を行う。具体的には、例えば、必要に応じて適当時間プレインキュベートした蛋白質合成用細胞抽出液を翻訳鋳型の沈殿に添加してこれを溶解し、反応相とする。この反応相の上層に翻訳反応用溶液(供給相)を、界面を乱さないように重層して反応を行う。両相の界面は必ずしも重層によって水平面状に形成させる必要はなく、両相を含む混合液を遠心分離することによって、水平面を形成することも可能である。両相の円形界面の直径が7mmの場合、反応相と供給相の容量比は1:4〜1:8が適当であるが、1:5が好適である。両相からなる界面面積は大きいほど拡散による物質交換率が高く、蛋白質合成効率が上昇する。従って、両相の容量比は、両相の界面面積によって変化する。翻訳反応は、例えばコムギ胚芽抽出液を用いた系においては、静置条件下、約10〜約40℃、好ましくは約18〜約30℃、さらに好ましくは約20〜約26℃で、通常約10〜約20時間行うことができる。また、大腸菌抽出液を用いる場合、反応温度は約30℃〜約37℃が適当である。
本発明の無細胞蛋白質合成法は、翻訳鋳型の精製工程において、(1)転写反応後の反応液中の翻訳鋳型を沈殿させる工程の後に、未反応基質を除去する工程及びそれに付随する1もしくは複数回の洗浄工程、沈殿工程を省略して、翻訳反応に供すること、及び(2)得られる翻訳鋳型の沈殿に蛋白質合成用細胞抽出液を直接添加することにより該沈殿を溶解することにより、転写鋳型から該鋳型にコードされる蛋白質の生成までの一連の操作を自動で行わせることを初めて実現したものである。しかしながら、上記(1)及び(2)の特徴は、それぞれ独立して新規であり、且つ有利な効果を奏するものである。従って、これらの一方の特徴を有する限り、他方の特徴を有しない無細胞蛋白質合成法(即ち、当該他方の特徴部分が解決した課題のみを他の手段により解決した自動無細胞蛋白質合成法、あるいは当該他方の特徴部分が解決した課題については従来通り実験者が手動で行う「半自動」の無細胞蛋白質合成法)もまた本発明に包含される。
上述の通り、本発明の方法は、上記(1)及び/又は(2)の特徴を有する限り、その他の工程については、自動化のために適用し得る従来公知の任意の手順や条件等に従って行えばよく、特に制限されるものではないが、上記(1)及び/又は(2)の特徴に加えて、下記の少なくとも1つの工程を有するものであることが好ましい。
・転写鋳型をPCRで増幅させて調製する工程
・転写反応用溶液と転写鋳型を混合する工程
・転写反応用溶液と転写鋳型との混合物を一定時間インキュベートする工程
・転写産物(即ち、翻訳鋳型)を沈殿させる工程
・反応容器内の上清を除去する工程
・翻訳鋳型の沈殿物を乾燥させる工程
・蛋白質合成用細胞抽出液を、乾燥させた翻訳鋳型に加え、該翻訳鋳型を溶解する工程
・翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液に翻訳反応用溶液を重層する工程
・翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液に翻訳反応用溶液を重層し、これを一定時間インキュベートする工程
あるいは、
・転写鋳型をPCRで増幅させて調製する工程
・転写反応用溶液と転写鋳型を混合する工程
・転写反応用溶液と転写鋳型との混合物を一定時間インキュベートする工程
・転写産物(即ち、翻訳鋳型)を沈殿させる工程
・反応容器内の上清を除去する工程
・翻訳鋳型の沈殿物を乾燥させる工程
・蛋白質合成用細胞抽出液を、乾燥させた翻訳鋳型に加え、該翻訳鋳型を溶解する工程
・蛋白質合成反応をバッチ法で行わしめる工程
本発明の無細胞蛋白質合成方法によれば、実験者が途中で手動の操作を行うことなく、無細胞蛋白質合成反応を自動で行うことが可能となる。また、本発明の方法によれば、蛋白質合成効率については従来と変わることなく、反応全体に要する工程を少なくすることができ(自動化の観点からは、工程数を少なくすることは、ミスを起こりにくくする意味でも重要である)、蛋白質合成までに要する時間を大幅に短縮することができるとともに、分解などにより翻訳鋳型等をロスすることも少なくできる。また、転写反応系を小さくすることができ、使用するDNA量を減らすことができる等のさらなる利点がある。
また、本発明によれば、無細胞蛋白質合成の反応全体を同一の反応容器内で行うことも可能となり、後述するように本発明の方法を行う装置の設計においても複雑な構造でなく、しかも省スペースが図れるというような利点もある。さらに本発明の方法によれば、転写反応や翻訳反応を行わせるための反応容器として、例えば96穴プレートなどを使用することによって、同時に複数種(特に多数種)の蛋白質を簡便に合成することが可能となり、後述するような蛋白質のハイスループットな機能解析等の用途に好適に供することができる。
本発明においては、上記方法を行うための装置(即ち、自動蛋白質合成装置)をも提供する。本発明の装置は、以下の(a)〜(f)の手段を少なくとも有することをその特徴とするものである。
(a)反応容器内の温度を可変制御する手段;
(b)反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段;
(c)沈殿手段;
(d)上清を除去する手段;
(e)乾燥手段;及び
(f)上記(a)〜(e)の手段を上述してきた本発明の方法に沿って動作させるように制御する制御手段。
かかる(a)〜(f)の構成を少なくとも有する装置を用いることで、上述してきた本発明の無細胞蛋白質合成反応を、自動で行うことを可能とできる。以下、各構成について具体的に詳述する。
(a)反応容器内の温度を可変制御する手段
反応容器内の温度を可変制御する手段とは、転写反応、翻訳反応のインキュベーション、翻訳鋳型の沈殿、または本発明の自動蛋白質合成装置を用いてPCR法による転写鋳型の作製工程を自動で実施する場合には該PCR法の増幅反応などにおいて、反応容器内の液温を適当な温度条件に調整するための手段である。可変制御する温度範囲は、特に制限はないが、転写鋳型の作製を含む無細胞蛋白質合成の一連の反応操作において通常必要とされる温度範囲(例えば、約4℃〜約100℃、好ましくは約26℃〜約99℃)内で反応容器内の液温を可変制御し得る手段であれば、これを実現し得る手段としては特に制限されるものではない。たとえば、従来公知のタカラPCRサーマルサイクラーMP(タカラバイオ株式会社製)、Gene Amp PCR System 9700(Applied Biosystems Inc.,製)などが挙げられる。具体的には、ピペッティングなどを行う場所であって反応容器を載置するための作業ステージとは別に、装置内に反応容器を載置するステージを複数設け、ステージ上の空間全体の温度を可変制御し、結果的に反応容器内の温度を可変制御するように実現される。
(b)反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段
反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段とは、反応容器内で転写反応、翻訳反応、PCRなどの一連の無細胞蛋白質合成反応を行わしめるために、反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段である。ここで「サンプル」は転写鋳型、翻訳鋳型、PCR用鋳型プラスミド(又は該プラスミドを有する宿主(例、大腸菌))等を指し、「試薬」は、転写反応用溶液、蛋白質合成用細胞抽出液、翻訳反応用溶液、アルコール、塩溶液、PCR反応用溶液などを指す。かかる分注手段としては、工程に応じてサンプル、試薬の分量を調整して分注し得るものであれば、従来公知の適宜の自動で分注し得るピペットアームなどを特に制限なく使用して実現することができる。また、当該分注手段は、上記機能に加えて2種以上の溶液の均一化や沈殿溶解のための混合機能(例、ピペッティング、撹拌など)を備えていることがより好ましい。
(c)沈殿手段
沈殿手段とは、反応容器内の適宜の対象(例えば、転写反応後の翻訳鋳型など)を沈殿させる手段である。かかる沈殿手段は、反応容器内の上記対象を沈殿させ得、固液分離可能とするものであれば、特に制限されることなく従来公知の適宜の手段にて実現することができる。たとえば、エタノール沈殿等に使用されている従来公知の遠心分離機、その他、濾過や凍結乾燥に従来より使用されている適宜の装置を用いて、沈殿手段を実現できる。
(d)上清を除去する手段
上清を除去する手段とは、上記沈殿手段によって、反応容器内の適宜の対象を沈殿させた後に、該沈殿と上清とを分離すべく上清を除去する手段である。本発明の装置において、該上清を除去する手段は、たとえば、反応容器を裏返す動作を行わせるための手段、反応容器内の上清のみを吸引する手段などによって実現することができる。すなわち、上述のように本発明の無細胞蛋白質合成方法によれば、転写反応後の反応液中の翻訳鋳型を沈殿させる工程の後に、未反応基質を除去する工程及びそれに付随する1もしくは複数回の洗浄工程、沈殿工程を省略して、翻訳反応に供するため、翻訳鋳型(mRNA)が反応容器の底に付着した状態で乾燥の工程に供することができる。したがって、上記のような上清を除去する手段にて翻訳鋳型の沈殿をロスすることなく自動で沈殿から上清を分離することが可能となる。かかる上清を除去する手段は、具体的には、反応容器を裏返す動作を行わせるための手段の場合には、たとえば、モータなどの回転動力を利用して反応容器をその上に固定したまま裏返し得るプレート等を用いた機構や、反応容器を把持して反転し得るロボットアームを用いた機構などにて実現することができる。また、反応容器内の上清のみを吸引する手段の場合には、たとえばBioRobot8000(キアゲン社製)など、従来公知の適宜のものを用いて実現することができる。
(e)乾燥手段
乾燥手段とは、自然乾燥以外の方法で乾燥させる場合には、例として遠心乾燥機、エバポレーターなどで実現することができる。但し、本発明に係る自動蛋白質合成方法装置においては、内部に組み込んだ又は外部に接続できる従来公知の乾燥装置を用いることも可能である。
(f)制御手段
制御手段には、上記(a)〜(e)の手段が動作するために各手段に用いられる駆動源(モータ、空圧・油圧機器、その他の動作制御可能なアクチュエータなど)の動作の入切、動作の程度及び状態などを制御する制御装置が含まれる。その制御の構成は、本発明の方法(たとえば、図1に示したような手順による無細胞蛋白質合成反応)に沿って、該方法の工程を行わせ、該方法の目的が達成されるように、上記(a)〜(e)の手段の動作を制御し得る構成である。
前記制御装置は、例えば、制御プログラムを有するコンピュータを含んだ制御回路、シーケンス制御回路など、上記各手段の動作の制御に必要な制御機器を組合わせて構成してもよく、本発明の方法に沿った順番で上記各手段が動作するよう、各手段に対して信号や必要に応じて電力、空圧、油圧等を供給し得る制御構成とする。また、上記各手段の駆動源に直接駆動信号を送るために必要なドライバー、上記各手段の駆動源の動作状態を検出するために必要な各種センサー、スイッチなどは適宜加えてよい。
なお本発明の装置に適用できる反応容器に特に制限はなく、無細胞蛋白質合成反応に使用されてきた従来公知の種々の反応容器を使用することが可能であり、例えば96穴PCR用プレート、96穴タイタープレート、8連チューブやチューブ(1.5mL、15mL、50mLなど)等が挙げられるが、例えば翻訳反応系としてバッチ法や重層法を用いる場合、96穴プレートなどの小さな反応系で翻訳反応を行うことができ、また、本発明の方法によれば転写反応も小さな反応系で行うことができるので、転写反応・翻訳鋳型の精製、翻訳反応、所望によりさらに転写反応に供する転写鋳型作製のためのPCRを含む一連の無細胞蛋白質合成法の反応操作を、複数の反応系で複数種の蛋白質について同時に行うことができ、短時間に多数の蛋白質を合成することができる。
また、転写反応、翻訳反応を行わしめる際には、反応容器を密閉した中で行うことが好ましく、かかる観点からは蓋付きの反応容器を用い、さらに装置がこの反応容器の蓋の開閉を行う手段を有することが好ましい。上記蓋は、反応容器としてたとえば96穴プレートを用いる場合には、1個1個の穴をそれぞれ密封できるようなゴム製の蓋が例示される。閉じた状態で蓋を反応容器に密着させ得ることが好ましいことから、ある程度の重量(たとえば、500g程度)を有する蓋を用いるか、あるいは、クリップのようなもので蓋と反応容器とを挟んで蓋を閉じることが考えられる。また、反応容器の蓋の開閉を行う手段は、たとえば、従来公知のチャッキング機構・吸引機構と、ロボットアームとを組み合わせた機構などを用いて実現することができる。
本発明の自動蛋白質合成装置は、上述した各手段以外に、反応試薬をストックする手段などを、必要に応じて有していてもよい。
上述のように、本発明の方法及び装置は、同時に複数種の蛋白質を簡便に自動で合成することが可能である。たとえば、種々の変異体の蛋白質をコードする転写鋳型、翻訳鋳型を複数取り揃え、複数の変異体の蛋白質を同時に複数合成して、変異体の詳細な設計を要することなく解析等に供することができ、有用である。
また本発明の方法及び装置は、様々な蛋白質のハイスループットな機能解析の用途に好適に供することができる。例えば、ホモロジー検索の結果、保存された共通のドメイン(例えば、キナーゼドメインなど)を含む蛋白質をコードする遺伝子群を鋳型とし、本発明の装置を用いて本発明の方法により該蛋白質を同時に合成し、一方でリン酸化の標的となり得る蛋白質群(例えば、転写因子など)を同様に合成し、両者を種々の組み合わせで混合し、例えば、32P標識したATPの取り込みを指標として、どの蛋白質キナーゼがどの蛋白質をリン酸化するかを同定することができる。
あるいは、転写因子に特有のモチーフ(例えばZnフィンガー、ロイシンジッパー等)を含む蛋白質をコードする遺伝子群を鋳型とし、本発明の装置を用いて本発明の方法により該蛋白質を同時に合成し、既知のシスエレメント配列との結合、他の転写制御因子とのヘテロダイマー形成能、さらに特定遺伝子プロモーターの転写制御領域との結合能等を調べることにより、転写因子の織りなすクロストークの解明のための情報を得ることができる。
実験例
以下に実験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実験例1:エタノール沈殿により生じるmRNA沈殿における70%アルコールによる洗浄処理の翻訳効率に対する効果検討
(1)翻訳鋳型mRNAの調製
クラゲのGFP遺伝子および大腸菌のDHFR遺伝子について、それぞれ小麦胚芽無細胞系専用プラスミドベクターpEUに挿入したものを転写鋳型として、SP6 RNAポリメラーゼ(Promega社製)を含有する転写反応用溶液(80mM Hepes−KOH、16mM酢酸マグネシウム、2mMスペルミジン、10mM DTT、3mM NTP、1U/μl SP6 RNAポリメラーゼ、1U/μl Rnasin)を用いて転写反応を行った。得られたmRNAを酢酸アンモニウムを用いたエタノール沈殿の後、70%アルコールを用いて沈殿mRNAを洗浄するものと、洗浄しないものとに分け、それぞれを翻訳鋳型として用いた。
(2)コムギ胚芽無細胞蛋白質合成系(重層法)による蛋白質合成
コムギ胚芽抽出液5.8μlを含む翻訳反応用溶液(それぞれ最終濃度で、29mM Hepes−KOH(pH7.8)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.4mMスペルミジン(ナカライ・テクトニクス社製)、各0.23mM L型アミノ酸20種類、2.9mMジチオスレオトール、1.2mM ATP(和光純薬社製)、0.25mM GTP(和光純薬社製)、15mMクレアチンリン酸(和光純薬社製)、0.9U/μl RNase inhibitor(TAKARA社製)、50ng/μl tRNA(Moniter,R.,et al.,Biochim.Biophys.Acta.,43,1−(1960))、0.46μg/lクレアチンキナーゼ(Roche社製)、2nCi/μl14C−leu(モラベック社製))25μlを調製した。上記沈殿を洗浄したmRNA、沈殿を洗浄しなかったmRNAそれぞれについて、別個に重層法で蛋白質合成反応を行った。上記翻訳反応用溶液に翻訳鋳型を8μg/μl添加して下相とし、上相(それぞれ最終濃度で、29mM Hepes−KOH(pH7.8)、95mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.4mMスペルミジン(ナカライ・テクトニクス社製)、各0.23mM L型アミノ酸20種類、2.9mMジチオスレオトール、1.2mM ATP(和光純薬社製)、0.25mM GTP(和光純薬社製)、2nCi/μl14C−leu(モラベック社製))125μlを重層して、それぞれ26℃で16時間インキュベートした。
反応開始後、16時間後の翻訳反応用溶液をそれぞれ5μl濾紙にスポットし、固体支持法により、液体シンチレーションカウンター(LS6000IC:ベックマンコールター社製)を用いて、14C−leuの取り込みを測定した。DHFR、GFP両遺伝子において、エタノール沈殿により生ずるmRNA沈殿に対して、70%アルコールによる洗浄処理をしたものと処理をしないものについて、目的蛋白質の合成量に差は見られなかった。このことは蛋白質合成系(重層法)において、エタノール沈殿により生じるmRNA沈殿における70%アルコールによる洗浄処理は翻訳効率に対する効果がないことを示す。上記の結果は、重層法にとどまらず、小麦胚芽無細胞蛋白質における他の全ての合成法に利用できる。
このように、従来行われてきたmRNA沈殿の70%アルコールによる洗浄処理という工程を除いても、翻訳効率にはなんら影響を及ばさないことが判明した。翻訳鋳型mRNAの消失や減少の恐れがある本工程を除くことにより、目的蛋白質の合成量の再現性が高くなるだけでなく、作業時間を減らすことが出来る。これらのことは、大量にサンプル処理を行う全自動蛋白質合成機には特に有効である。
実験例2:mRNAペレットのMilli Q水と蛋白質合成用細胞抽出液での可溶化率
pEU−DHFRをセンスプライマーとアンチプライマーを用いてPCRを行い、それを鋳型に転写し得られたmRNAを用いた。転写は、80mM Hepes−KOH、16mM酢酸マグネシウム、2mMスペルミジン、10mM DTT、3mM NTP、1U/μl SP6 RNAポリメラーゼ、1U/μl Rnasin、10%PCR産物となるように反応系400μlを調製し、37℃、3時間保温した。mRNAをラジオアイソトープ32Pで標識する際には、UTPの濃度を1.2mMにし[α−32P]UTP 8μlを加え反応系を400μlにした。32Pで標識したmRNAに7.5M酢酸アンモニウム53μl、エタノール1mlを加えよく撹拌し、20,000×g、15分間遠心を行った。ペレットを100μlのMilli Q水に溶かし、予め、100mM塩化ナトリウム、10mM Tris−HCl(pH7.6)、0.5mM EDTA 3mlで平衡化したNICK Column(アマシャムバイオサイエンス)にかけ、400μlの100mM塩化ナトリウム、10mM Tris−HCl(pH7.6)、0.5mM EDTAで洗い、400μlの100mM塩化ナトリウム、10mM Tris−HCl(pH7.6)、0.5mM EDTAで溶出し精製を行った。
32Pで標識していないmRNA23μlと32Pで標識したmRNA2μlにMilli Q水25μl、7.5mM酢酸アンモニウム7.7μl、エタノール144μlを加えよく撹拌し、20,000×g、15分間遠心を行った。上清を取り除きペレットを風乾したものに、Milli Q水6.25μl、或いは、30mM Hepes−KOH(pH7.8)、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mMホスホクレアチン、2mMジチオスレイトール、0.3mMスペルミジン、0.3mM 20種アミノ酸、2.7mM酢酸マグネシウム、100mM酢酸カリウム、0.005%アジ化ナトリウム、400ng/μlクレアチンキナーゼ、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が60の小麦胚芽抽出液となるように調製した翻訳反応液25μlを加えた。5分後の溶液5μlをチェレンコフ法で測定した。
上記実験結果を図2に示す。エタノール沈殿前の値は、抽出液に使用したものが66143、Milli Q水に使用したものが66741であった。溶解後のcpm値は、抽出液に使用したものが22,285、Milli Q水に使用したものが13,828であった。このことから、抽出液の方がMilli Q水より溶けやすいことが分かる。
実験例3:自動蛋白質合成装置による蛋白質合成方法
本発明の方法を実施するための自動蛋白質合成装置を用いて、それぞれ以下のものをセットし、無細胞蛋白質合成を行った。
・転写鋳型
DHFRとGFPが組み込まれたpEUプラスミドベクターをセンスプライマーとアンチセンスプライマーを用い、30μL系でPCRを行って得られたDNA(96ウェルPCRプレート内に収容)
・転写反応用溶液
終濃度80mM Hepes−KOH、16mM酢酸マグネシウム、2mMスペルミジン、10mM DTT、3mM NTP、1U/ml SP6 RNAポリメラーゼ、1U/ml Rnasinを含有する溶液
・エタノール沈殿用混合液
Milli Q水3.54ml、7.5M酢酸アンモニウム1.32ml、エタノール24.66mlの混合液
・翻訳反応用溶液
それぞれ終濃度として30mM Hepes−KOH(pH7.8)、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mMホスホクレアチン、2mMジチオスレイトール、0.3mMスペルミジン、0.3mM20種アミノ酸、2.7mM酢酸マグネシウム、100mM酢酸カリウム、0.005%アジ化ナトリウム、400ng/μlクレアチンキナーゼ、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が60ユニットの小麦胚芽抽出液を含有する溶液
・重層液
それぞれ終濃度として30mM Hepes−KOH(pH7.8)、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mMホスホクレアチン、2mMジチオスレイトール、0.3mMスペルミジン、0.3mM20種アミノ酸、2.7mM酢酸マグネシウム、10mM酢酸カリウム、0.005%アジ化ナトリウムとなるように調製した重層液
・反応容器
遠心に耐えられるもので、丸底96ウェルマイクロプレートを2枚
・分注用チップ
200μlチップ96本5箱(転写反応用溶液用、翻訳反応用溶液用 1箱、エタノール沈殿用1箱x2マイクロプレート、重層用1箱x2マイクロプレート)、20μlチップ96本2箱(PCR産物用1箱x2マイクロプレート)
・エタノール沈殿上清回収用マイクロプレート
無細胞蛋白質合成は、以下の手順で行った。
(1)PCRプレートをクーリングステージから作業ステージに移す。
(2)マイクロプレートをクーリングステージから作業ステージに移す。
(3)PCRプレートの蓋を外す。
(4)マイクロプレートの蓋を外す。
(5)マイクロプレートに転写反応用溶液を22.5μl分注する。
(6)PCRプレートのPCR産物2.5μlをマイクロプレートにトランスファーし10回ピペッティングする。
(7)PCRプレートに蓋をする。
(8)マイクロプレートに蓋をする。
(9)PCRプレートを元にもどす。
(10)マイクロプレートを37℃で3時間保温する。
(11)マイクロプレートの蓋を外して保持しておく。
(12)マイクロプレートにエタノール沈殿用混合液147.6μl分注する。10回ピペッティング。
(13)マイクロプレートに蓋をせずそのまま、1,000×g、30分間遠心にかける。
(14)マイクロプレートに脱脂綿付きプレートを重ねて裏返しにして、上清を除く。
(15)5分間自然乾燥させる。
(16)マイクロプレートに翻訳反応液25μl分注する。
(17)マイクロプレートに翻訳反応液25μlの上層に重層液125μlをゆっくりと重層する。
(18)マイクロプレートに蓋をする。
(19)マイクロプレートを26℃20時間保温する。
以上の操作で蛋白質合成を行った。比較として、手動により蛋白質合成を行った。
図3は、上記実験結果を示すSDS−PAGEの写真である。SDS−PAGEにより蛋白質合成量を確認した。合成したDHFRとGFPをよくピペッティングしたもの10μl、3×SDS sample buffer[150mM Tris−HCl pH6.8、6% SDS、0.2%(W/W)ブロモフェノールブルー、30%(V/V)グリセロール、3%(V/V)β−メルカプトエタノール]20μl、Milli Q水15μlを混合し、98℃で5分間ボイルしたもの9μlを12.5%のポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。
上記実験の結果、自動蛋白質合成装置及び手動による蛋白質合成量は同程度であった。
【産業上の利用可能性】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、無細胞蛋白質合成反応を自動で行い得る方法、ならびにその方法に使用し得る蛋白質合成装置を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞蛋白質合成工程において、転写鋳型から該鋳型にコードされる蛋白質を生成するまでの反応工程において、転写反応後の反応液中の翻訳鋳型を沈殿、上清液の除去及び該翻訳鋳型の乾燥工程の後に、蛋白質合成用細胞抽出液を該沈殿物に直接添加することにより該沈殿物を溶解する工程を含む無細胞蛋白質合成方法。
【請求項2】
目的蛋白質をコードする転写鋳型を増幅させて調製する工程をさらに含む請求項1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項3】
目的蛋白質をコードする遺伝子を含有する宿主細胞を、直接ポリメラーゼチェイン反応に供し、転写鋳型を増幅させて調製する工程を特徴とする請求項1または2に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項4】
転写鋳型の作成から該転写鋳型にコードされる蛋白質を生成するまでの反応を自動で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項5】
翻訳反応用溶液を、翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液に重層して翻訳反応を行わせることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項6】
翻訳反応用溶液を、翻訳鋳型を含む蛋白質合成用細胞抽出液に添加・混合して翻訳反応を行わせることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項7】
以下のいずれか1の工程を含む請求項1〜6のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
(1)転写鋳型をPCRで増幅させて調製する工程;
(2)転写反応用溶液と転写鋳型を混合する工程;
(3)転写反応用溶液と転写鋳型との混合物を一定時間インキュベートする工程;
(4)翻訳鋳型を沈殿させる工程;
(5)反応容器内の上清を除去する工程
(6)翻訳鋳型の沈殿物を乾燥させる工程;及び
(7)蛋白質合成用細胞抽出液を、乾燥させた翻訳鋳型に加え、該翻訳鋳型を溶解する工程。
【請求項8】
全反応工程を、同一の反応容器内で行わせるものである、請求項1〜7のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項9】
同時に複数種類の蛋白質を複数の反応容器内で反応合成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項10】
前記蛋白質合成用細胞抽出液が植物種子胚芽抽出液である請求項1〜9のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項11】
前記植物種子胚芽抽出液がコムギ種子胚芽抽出液である請求項10に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項12】
前記コムギ種子胚芽抽出液が、胚芽の胚乳成分および低分子の蛋白質合成阻害剤物質が実質的に除去された抽出液である請求項11に記載の無細胞蛋白質合成方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1に記載の無細胞蛋白質合成方法を実施するための装置であって、以下の制御手段の1を少なくとも備える無細胞蛋白質合成装置。
(a)反応容器内の温度を可変制御する手段;
(b)反応容器にサンプルまたは試薬を分注する手段;
(c)沈殿手段;
(d)上清を除去する手段;
(e)乾燥手段;及び
(f)上記(a)〜(e)の手段を請求項1〜12のいずれかに1に記載の工程に沿って動作させるための制御手段
【請求項14】
前記上清を除去する手段が、反応容器を裏返す動作を行わせるための手段である請求項13に記載の無細胞蛋白質合成装置。
【請求項15】
さらに、反応容器の蓋の開閉を行う手段を含むことを特徴とする、請求項13または14に記載の無細胞蛋白質合成装置。

【国際公開番号】WO2004/070047
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504911(P2005−504911)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001364
【国際出願日】平成16年2月10日(2004.2.10)
【出願人】(503094117)株式会社セルフリーサイエンス (19)
【Fターム(参考)】