自動車のバンパー構造体
【課題】バンパーリインフォースとサイドメンバーの間のスペースが狭い場合でも、衝突時のエネルギー吸収に必要なバンパーステイの圧壊ストロークを確保する。
【解決手段】バンパーリインフォース2はアルミニウム合金中空押出材からなり、その両端部は前後方向に潰し加工されて、扁平な板状に潰された中央の縦壁部12とその上下に連なる一対の横壁部13,14からなり、後方側が開口した溝形断面を有する。バンパーステイ3の長さ方向の一部が溝形断面の溝の内側に入り、先端部が縦壁部12に取り付けられている。
【解決手段】バンパーリインフォース2はアルミニウム合金中空押出材からなり、その両端部は前後方向に潰し加工されて、扁平な板状に潰された中央の縦壁部12とその上下に連なる一対の横壁部13,14からなり、後方側が開口した溝形断面を有する。バンパーステイ3の長さ方向の一部が溝形断面の溝の内側に入り、先端部が縦壁部12に取り付けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金中空押出材製のバンパーリインフォースと、その車幅方向両端部に取り付けられるバンパーステイからなる自動車のバンパー構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、車体デザイン上の制約により、アルミニウム合金中空押出材製のバンパーリインフォースの両端部を前面側(衝突面側)から潰し加工して、その前後方向の厚みを元の厚みより減少させ、バンパーステイ取付部近傍においてバンパーリインフォースの占有スペースを縮小することが記載されている。
特許文献3には、同じく車体デザイン上の制約により、バンパーとサイドメンバーの間に十分なスペースを確保できない場合に、バンパーリインフォースの両端部を背面側(車体側)から潰し加工して、その前後方向の厚みを元の厚みより減少させ、サイドメンバーへの取付部近傍においてバンパーリインフォースの占有スペースを縮小し、バンパーリインフォースをバンパーとサイドメンバーの間に設置できるようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−25296号公報
【特許文献2】特開2009−137452号公報
【特許文献3】特開2003−146156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バンパーリインフォースの車幅方向両端部にバンパーステイを取り付けたバンパー構造体においては、衝突時に高荷重が掛かったとき、バンパーステイが潰れることにより大きいエネルギーを吸収することが求められているが、車体デザイン上の制約により、バンパーリインフォースとサイドメンバーの間にバンパーステイを設けるスペースを十分とれない場合がある。このとき、前記スペースに対応してバンパーステイの前後方向長さを短く設定すると、衝突時の圧壊ストロークが短くなって十分なエネルギー吸収ができず、これを補うためバンパーステイの強度を上げると衝突時の初期圧壊荷重が過大となり、かつバンパーステイのエネルギー吸収効率が低下するという問題が生じる。
【0005】
この場合、前記特許文献3のように、バンパーリインフォースの両端部を背面側から潰し加工して、その前後方向の厚みを元の厚みより減少させることにより、バンパーステイの設置スペースを確保することが一応考えられる。しかし、特許文献3のように潰し加工後の断面が中空構造の場合、潰し加工によるバンパーステイの設置スペースの増分は大きくなく、また、潰し加工後の断面形状が安定せず、特にバンパーステイとの接合面である背面側の形状精度の確保が難しいという問題がある。
一方、特許文献3のように潰し加工を途中で止めるのではなく、断面が扁平な板状になるまで潰し加工することにより、バンパーステイの設置スペースの増分が大きくなり、潰し加工後の断面形状も安定する。しかし、その場合、バンパーリインフォースの曲げに対する剛性が低下し、衝突時に、潰し加工した箇所で容易に屈服変形が生じ、所定の曲げ強度が得られないという問題が生じる。
【0006】
従って、本発明は、車体デザイン上の制約により、通常であればバンパーリインフォースとサイドメンバーの間にバンパーステイを設けるスペースを十分とれない場合においても、衝突時のエネルギー吸収に必要なバンパーステイの圧壊ストロークを確保し、かつバンパーリインフォースの曲げに対する剛性の低下を抑制することを主たる目的とし、併せて潰し加工後に安定して所定の断面形状を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、バンパーリインフォースとその車幅方向両端部に取り付けられるバンパーステイからなる自動車のバンパー構造体に関するもので、前記バンパーリインフォースは、断面輪郭として衝突面側の前壁と車体側の後壁及びこれらを接続する上下壁を有するアルミニウム合金中空押出材からなり、その両端部は前後方向に潰し加工されて、扁平な板状に潰された中央の縦壁部とその上下に連なる一対の横壁部からなり、前記縦壁部と一対の横壁部により後方側に開口する溝が構成され、前記バンパーステイの長さ方向の一部が前記溝の内側に入り、先端部が前記縦壁部に取り付けられている。
中央の縦壁部は前記前壁と後壁を含み、横壁部は主として上下壁からなる。縦壁部は全潰し加工されて扁平な板状となり、実質的に中空断面ではないが、横壁部は中空断面であってもよい。
【0008】
バンパーリインフォースのバンパーステイが取り付けられる両端部は、より具体的には、縦壁部と一対の横壁部により略C形(溝形)又は略H形の断面を有する。略C形断面の場合、溝は1つで後方側に開口し、略H形断面の場合、前方側に開口する溝と後方側に開口する溝があり、後方側に開口する溝にバンパーステイの前端部が入り込む。バンパーステイの設置スペースを確保するとの観点からは、略C形断面が望ましい。この略C形断面とする場合、潰し加工は後壁側から前壁側に向けて行われることになる。
なお、本発明において、車両のフロント側、リア側に関わらず、衝突面側を前、前面、前方と表現し、車体側を後、背面、後方と表現している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車体デザイン上の制約により、通常であればバンパーリインフォースとサイドメンバーの間にバンパーステイを設けるスペースを十分とれない場合においても、バンパーリインフォースのバンパーステイが取り付けられる両端部を潰し加工して、両端部の断面形状を略C形(溝形)又は略H形断面とし、特に縦壁部については全潰し加工により扁平な板状とし、そこにバンパーステイを取り付けることにより、衝突時のエネルギー吸収に必要なバンパーステイの圧壊ストロークを確保することができる。また、縦壁部の上下に一対の横壁部が形成されていることにより、断面を潰し加工したことに伴う剛性の低下を抑制し、曲げ強度の低下を抑制することができる。
【0010】
本発明では、縦壁部を扁平な板状になるまで全潰し加工することにより、潰し加工後に安定して所定の断面形状を得ることができる。なお、特許文献3のように潰し加工を途中で止める場合、安定して所定の断面形状を得ることが困難であり、特にバンパーステイの取付面の形状精度の確保が難しい点に問題がある。縦壁部を扁平な板状になるまで全潰し加工することにより、その問題点は解消する。
そして、縦壁部が扁平な1枚の板のようになっているから、縦壁部に対し例えばプレスによる穴開け等の加工を、通常の板に対すると同様に、片側から中子等なしで行うことができ、また、例えば縦壁部にバンパーステイの前端をボルト締結した場合に、締結部の潰れ変形が防止でき、締結状態が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るバンパー構造体の平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B端面図である。
【図4】図1のC−C断面図である。
【図5】本発明に係るバンパーリインフォースの端部の潰し加工方法の一例を示す図である。
【図6】本発明に係るバンパーリインフォースの端部の潰し加工方法の他の例を示す図である。
【図7】本発明に係るバンパーリインフォースの端部の潰し形態の他の例を説明する断面図である。
【図8】本発明に係るバンパーリインフォースの断面形状の好ましい例を示す図である。
【図9】本発明に係るバンパーリインフォースの断面形状の好ましい他の例を示す図である。
【図10】本発明に係るバンパー構造体におけるバンパーリインフォースとバンパーステイの取付形態の他の例を示す図である。
【図11】図10の取付形態を得る手段を示す図である。
【図12】図10の取付形態を得る他の手段を示す図である。
【図13】本発明に係るバンパーリインフォースの断面形状の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜13を参照して、本発明について具体的に説明する。
図1に示すバンパー構造体1は、図2に示す矩形断面を有するアルミニウム合金中空押出材からなるバンパーリインフォース2と、バンパーリインフォース2の左右両端部の背面側に接合されたバンパーステイ3からなる。バンパーリインフォース2を構成するアルミニウム合金押出材の断面は、図2に示すように、衝突面側の前壁4と、車体側の後壁5と、前壁4及び後壁5を接続する上壁6及び下壁7からなる。バンパーステイ3は、図4に示すように、円筒状のアルミニウム合金押出材からなり、軸部8の前端にバンパーリインフォース1の背面側への取付用フランジ9、後端にサイドメンバー(図示せず)への取付用フランジ11が一体的に形成されている。
【0013】
バンパーリインフォース2は、車幅方向の中央部が車幅方向に平行で、両端部が後方側(車体側)に曲げられて傾斜し、傾斜した端部の大部分がプレス加工により前後方向に潰し加工されている。この潰し加工は後方側から前方側に向かって行われ、前壁4側は潰し加工前と位置を変えることなく、後壁5側のみが潰し加工により前方側に押しやられている。潰し加工が行われた両端部のうちステイ取付部及びその近傍領域は、図4に示すように、後壁5が前壁4の背面に接触するまで潰し加工(いわゆる全潰し加工)が行われ、潰し加工されていない領域から全潰し加工が行われた領域にかけて、潰し加工の程度がしだいに大きくなる遷移領域が存在する(図3参照)。
【0014】
全潰し加工が行われた領域では、図4の断面図に示すように、前壁4と後壁5が接触状態の2枚重ねとなり、扁平な板状に潰され、図4に示すように、バンパーリインフォース2は全体として後方側に開口した略C形(溝形)の断面を有する。この略C形断面は扁平に潰された中央の縦壁部12とその上下に略垂直に連なる一対の横壁部13,14(これも扁平に潰されている)からなり、縦壁部12はもとの前壁4と後壁5からなり、横壁部13,14はもとの上下壁6,7からなる。バンパーステイ3は前端部が略C形断面の溝の内側に入り、前端のフランジ9が縦壁部12の背面に当接し、両者が例えばボルト締結(図示せず)されている。
【0015】
前記遷移領域では、図3の断面図に示すように、バンパーリインフォース2は、略矩形の中空部15と、中空部15の上下両端から後方に突出する外リブ状の突出部16,17からなる。中空部15は前壁4と後壁5、及び上壁6と下壁7の一部からなり、中空部15の前後方向厚み(前壁4と後壁5の間の隙間)は車幅方向外側に向かってしだいに小さくなり、前記縦壁部12へと連なっている。突出部16,17は上壁6と下壁7の一部が折り込まれて形成されたもので、前後方向高さは車幅方向外側に向かってしだいに大きくなり、前記横壁部13,14に連なっている。
【0016】
バンパーリインフォース2の両端部の潰し加工は、例えば図5に示すように、アルミニウム合金中空押出材の断面の略半分を収容可能な凹部18aを有する下金型18上に、前壁4側を下金型18側に向けて前記アルミニウム合金中空押出材(バンパーリインフォース2の端部)を置き、前壁4及び後壁5の上下幅よりやや狭幅で、前壁4に後壁5を密着させたときの後壁5の背面側形状に対応する型打ち面を有する上金型19を前進(白抜き矢印参照)させ、後壁5を上壁6と下壁7の間に押し込むことで行うことができる。この潰し加工により、上下壁6,7はほぼ中央部で180°折り曲げられ、後壁5と上下壁6,7のコーナーも180°折り曲げられる。
【0017】
あるいは、例えば図6に示すように、平らな下金型19上に前壁4側を下金型19側に向けてバンパーリインフォース2の端部を置き、平らな型打ち面を有する上金型18を前進(白抜き矢印参照)させ、いったん断面全体を扁平な板状とし(上下壁6,7は断面の外側に折り曲げる)、次いで両側部を折り曲げて略C形断面に成形することもできる。
プレスによるこのような潰し加工(図5,6)は、バンパーリインフォース2の両端部の曲げ加工と同時に行うことができる。また、必要があれば、潰し加工と同時にボルト穴や作業穴等の穴開け加工を行うこともできる。
【0018】
上記のように縦壁部12を全潰し加工(前壁4と後壁5の間に意図的に空間を形成しない潰し加工)することにより、潰し加工後に安定して所定の断面形状を得ることができる。このため、バンパーステイの取付面(縦壁部12の背面側)の形状精度が確保され、また、縦壁部12をあたかも1枚の板として取り扱うことができることから、穴開け等の加工が容易であり、また、バンパーステイを接合(例えばボルト締結)した場合に安定した接合状態が得られる。
【0019】
なお、略C形断面の縦壁部12において、前壁4と後壁5は図4に示すように密着していることが望ましいが、両壁間に多少の隙間は許容される(全潰し加工後のスプリングバックにより隙間ができることもある)。アルミニウム合金中空押出材が図2に示すような矩形断面の例であれば、前壁4の板厚をt1、後壁5の板厚をt2としたとき、縦壁部12の厚みが1.1×(t1+t2)以下程度であれば、バンパー構造体において実際上問題なく許容される。本発明では、全潰し加工後にこのように前壁4と後壁5の間にこの程度の隙間がある場合も、扁平な板状と表現している。
【0020】
図7(a),(b)に、バンパーリインフォース2の端部の潰し形態(全潰し加工した領域)の他の例を示す。
図7(a)に示す断面形状は、図4に示す断面形状と同じく、扁平に潰された中央の縦壁部12とその上下に略垂直に連なる一対の横壁部13,14(これも扁平に潰されている)からなるが、全体として略H形断面とされ、前方側に開口する溝と後方側に開口する溝を有し、後方側に開口する溝にバンパーステイ3の前端部が入り込む。この断面でも、縦壁部12はもとの前壁4と後壁5からなり、横壁部13,14はもとの上下壁6,7からなる。図2に示す断面のアルミニウム合金中空押出材を潰し加工してこの断面に成形するには、前壁4側と後壁5側の両方から潰し加工を行うようにする。
【0021】
図7(b)に示す断面形状は、図4に示す断面形状と同じく全体として略C形断面とされているが、横壁部13,14が中空断面を有する点で、図4に示す断面とは異なる。横壁部13,14を中空断面とすることにより、ねじれ剛性が向上する。図2に示す断面のアルミニウム合金中空押出材を潰し加工してこの断面に成形するには、例えば浅い凹所を有する下金型(図8の仮想線で示す下金型18参照)を用いることで可能である。
【0022】
図8に、略C形断面に全潰し加工するのに適するアルミニウム合金中空押出材の断面形状の例を示す。
図8に示す断面形状は、前壁4と上下壁6,7の前方側約半分が、後壁5と上下壁6,7の後方側約半分より厚肉とされている点で、図2に示す断面形状と異なる。図8に仮想線で示すように、バンパーリインフォース2の前面側形状に対応する浅い凹部18aを有する下金型18上に、前壁4側を下金型18側に向けてアルミニウム合金中空押出材(バンパーリインフォース2の端部)を置き、前壁4及び後壁5の上下幅よりやや狭幅で、前壁4に後壁5を密着させたときの後壁5の背面側形状に対応する型打ち面を有する上金型19を前進させ、後壁5を上壁6と下壁7の間に押し込むことで、潰し加工を行うことができる。
【0023】
図8に示す断面形状は、前記の肉厚構成になっていることにより、潰し加工において薄肉の後方側部分が大きい曲げ変形を受けることになり、全潰し加工が行いやすいという利点がある。図8の仮想線に示すように、潰し加工は後壁5側から前壁4側に向けて行われ、潰し加工後の断面形状は後方に開口する略C形断面であり、前壁4と上下壁6,7の厚肉の部分が略C形断面の外側に位置し、後壁5と上下壁6,7の薄肉の部分がC形断面の内側に位置している。C形断面の外側に位置する部分の平均肉厚が内側に位置する部分の平均肉厚より大きいという言い方もできる。
【0024】
図9に、略C形断面に全潰し加工するのに適するアルミニウム合金中空押出材の断面形状の他の例を示す。
図9に示す断面形状は、後壁5と上下壁6,7のコーナーRが他より大きく形成されている点で、図2に示す断面形状と異なる。図9に仮想線で示すように、下金型18上に、アルミニウム合金中空押出材(バンパーリインフォース2の端部)を置き、上金型19を前進させ、後壁5を上壁6と下壁7の間に押し込むことで、潰し加工を行うことができる。
【0025】
図9に示す断面形状は、初期不整として後壁5と上下壁6,7のコーナーRを大きくしたことにより、潰し加工において後壁5と上下壁6,7のコーナーの180°曲げ加工が容易となり、全潰し加工が行いやすいという利点がある。図9の仮想線に示すように、潰し加工は後壁5側から前壁4側に向けて行われ、潰し加工後の断面形状は後方に開口する略C形断面である。
【0026】
なお、以上説明したバンパー構造体において、バンパーステイ3は、フランジ9,11を含めてアルミニウム合金中空押出材から一体成形したものを想定したが(成形方法は例えば特開2004−189062号公報参照)、フランジ9,11の一方又は双方について、別体のものが軸部8に溶接又は電磁成形(例えば特開2005−152920号公報参照)等の手段により接合されたものでもよい。また、アルミニウム合金中空押出材からなるバンパーステイ3の代わりに、鋼製のバンパーステイを用いることもでき、縦圧壊型でなく横圧壊型バンパーステイを用いることもできる(縦圧壊型及び横圧壊型バンパーステイについては例えば特開2005−14836号公報参照)。
【0027】
図10に、本発明に係るバンパー構造体におけるバンパーリインフォースとバンパーステイの取付形態の他の例を示す。このバンパー構造体1は、バンパーリインフォース2の潰し加工された端部に穴(バーリング穴)21が形成され、この穴21の内周にバンパーステイ3の前端がかしめ接合されている点で、図4に示すバンパー構造体と異なる。
図10に示すように、バンパーステイ3の軸部8の前方部分(接合に関与する部分)は前記穴21に挿入され、穴21の内周面に密着するとともに穴21の内周面に沿って前方側に拡開し(密着部22)、穴21の後方側において外径方向に張り出している(張出部23)。このように、バンパーステイ3の軸部8の前方部分は、穴21の内周面に強く密着するとともに、穴21の前後で外径方向に張り出し、バンパーリインフォース2の端部に強固に接合されている。
【0028】
図10に示すバンパーリインフォース2とバンパーステイ3の接合は、好適には電磁成形で行うことができる(例えば特開2004−237818号公報参照)。図11はその電磁成形方法を説明する図である。
図11に示すように、前端がバンパーリインフォース2の端部の傾斜と同角度で傾斜し、後端が軸方向に垂直とされたステイ素材24が、穴21の中に前方側から嵌め入れられ、前端に形成された浅いフランジ25が穴21の肩に当接している。このステイ素材24は円筒状のアルミニウム合金押出材からなり、前端のフランジは例えば電磁成形により成形することができる(例えば特開2004−42066号公報参照)。
【0029】
ステイ素材24の穴21から後方側に突出した部分の周囲が、分割金型からなる電磁成形用金型26により囲繞されている。電磁成形用金型26は貫通穴27を有し、貫通穴27の内径はステイ素材24の外径より大きく、ステイ素材24の後端が電磁成形用金型26の端面28から所定長さ突出している。この状態でバンパーリインフォース2、ステイ素材24及び電磁成形用金型26を位置決めし、ステイ素材24の中空内部に図示しない電磁成形用コイルを挿入し、該電磁成形用コイルに瞬間大電流を流し、前記ステイ素材の全長に対し電磁成形による拡管を行う。
【0030】
この電磁成形によりステイ素材24が拡径し、図10に示すように、前端が穴21の内周面に密着して拡開部22が形成され、その後方部分が外径方向に張り出して張出部23が形成され、さらにその後方部分は電磁成形用金型26の貫通穴27の内周面に打ち当たり、同時に後端部分が拡開し電磁成形用金型26の端面(成形面)28に打ち当たってフランジ11が成形される。これによりステイ素材24がバンパーリインフォース2に接合されるとともに、バンパーステイ3が成形される。必要に応じて、成形されたフランジ11をプレス加工して、所望の形状に整形(例えば背面側(サイドメンバへの取付側)を平面化するなど)することもできる。
【0031】
なお、この例では、接合性及び位置決め性の向上のため、ステイ素材24の前端に浅いフランジ25を形成したが、単に切断しただけのアルミニウム合金押出材をステイ素材として用いることもできる。また、フランジ11を一体成形する代わりに、別体のものを電磁成形で接合することもできる(前記特開2005−152920号公報参照)。
【0032】
図12は、図10に示すバンパーリインフォースとバンパーステイの取付形態を得るための、別の電磁成形方法を説明する図である。
図12に示すように、前端に小径部29を有し、その後方側が径が変化する遷移領域を介して大径部31となり、後端にフランジ11が形成されたステイ素材24が、穴21の中に後方側から嵌め入れられている。ステイ素材24の前記小径部29が穴21に嵌り、穴21の下端付近から前記遷移領域が始まっている。このステイ素材24は小径部29と同径の円筒状のアルミニウム合金押出材からなり、大径部31及び後端のフランジ11は例えば電磁成形により同時成形することができる(例えば特開2004−189062号公報参照)。
【0033】
ステイ素材24の穴21から後方側に突出した部分(大径部31及び前記遷移領域)の周囲が、分割金型からなる電磁成形用金型26によりほぼ隙間なく囲繞され、フランジ11が電磁成形用金型26の端面28に当接している。この状態でバンパーリインフォース2、ステイ素材24及び電磁成形用金型26を位置決めし、ステイ素材24の中空内部に図示しない電磁成形用コイルを挿入し、該電磁成形用コイルに瞬間大電流を流し、前記ステイ素材の主として小径部29及び前記遷移領域に対し電磁成形による拡管を行う。
【0034】
この電磁成形によりステイ素材24が拡径し、図10に示すように、前端が穴21の内周面に密着して拡開部22が形成され、その後方部分が外径方向に張り出して張出部23が形成される。これによりステイ素材24がバンパーリインフォース2に接合されるとともに、バンパーステイ3が成形される。この例では、接合時の電磁成形では、ステイ素材24の前方部分のみ拡管すればよいので、電磁成形による拡管の成形力を低減することができる。
なお、この例では、フランジ11が一体成形されているが、別体のものを電磁成形で接合することもできる(前記特開2005−152920号公報参照)。
【0035】
以上説明したバンパー構造体では、バンパーリインフォース2を構成するアルミニウム合金中空押出材の断面形状を、前後壁4,5及び上下壁6,7からなる矩形としたが、本発明は種々の断面形状のアルミニウム合金中空押出材に適用することができる。図13(a)〜(f)は矩形の輪郭及び内リブを有する断面形状の例である。内リブを有する場合、潰し加工を行ったときに形成される縦壁部は前後壁4,5以外に内リブを含んだものとなる。前記縦壁部において前後壁4,5及び折り重なったリブ壁は相互に密着していることが望ましいが、リブ壁と前後壁4,5の接続部コーナーのフィレット厚みの影響やスプリングバックにより各壁間に隙間が形成されることがあり、また多少の隙間は許容される。前記縦壁部の厚みが、前後壁4,5の板厚及び折り重なったリブ壁の板厚の合計の1.1倍以下程度であれば、バンパー構造体において実際上問題は生じない。
このほか、中空断面の輪郭は図13に示すような単純な矩形でなくてもよく、また、断面輪郭から突出する外リブを有していてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 バンパー構造体
2 バンパーリインフォース
3 バンパーステイ
4 前壁
5 後壁
6 上壁
7 下壁
12 縦壁部
13,14 横壁部
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金中空押出材製のバンパーリインフォースと、その車幅方向両端部に取り付けられるバンパーステイからなる自動車のバンパー構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、車体デザイン上の制約により、アルミニウム合金中空押出材製のバンパーリインフォースの両端部を前面側(衝突面側)から潰し加工して、その前後方向の厚みを元の厚みより減少させ、バンパーステイ取付部近傍においてバンパーリインフォースの占有スペースを縮小することが記載されている。
特許文献3には、同じく車体デザイン上の制約により、バンパーとサイドメンバーの間に十分なスペースを確保できない場合に、バンパーリインフォースの両端部を背面側(車体側)から潰し加工して、その前後方向の厚みを元の厚みより減少させ、サイドメンバーへの取付部近傍においてバンパーリインフォースの占有スペースを縮小し、バンパーリインフォースをバンパーとサイドメンバーの間に設置できるようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−25296号公報
【特許文献2】特開2009−137452号公報
【特許文献3】特開2003−146156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バンパーリインフォースの車幅方向両端部にバンパーステイを取り付けたバンパー構造体においては、衝突時に高荷重が掛かったとき、バンパーステイが潰れることにより大きいエネルギーを吸収することが求められているが、車体デザイン上の制約により、バンパーリインフォースとサイドメンバーの間にバンパーステイを設けるスペースを十分とれない場合がある。このとき、前記スペースに対応してバンパーステイの前後方向長さを短く設定すると、衝突時の圧壊ストロークが短くなって十分なエネルギー吸収ができず、これを補うためバンパーステイの強度を上げると衝突時の初期圧壊荷重が過大となり、かつバンパーステイのエネルギー吸収効率が低下するという問題が生じる。
【0005】
この場合、前記特許文献3のように、バンパーリインフォースの両端部を背面側から潰し加工して、その前後方向の厚みを元の厚みより減少させることにより、バンパーステイの設置スペースを確保することが一応考えられる。しかし、特許文献3のように潰し加工後の断面が中空構造の場合、潰し加工によるバンパーステイの設置スペースの増分は大きくなく、また、潰し加工後の断面形状が安定せず、特にバンパーステイとの接合面である背面側の形状精度の確保が難しいという問題がある。
一方、特許文献3のように潰し加工を途中で止めるのではなく、断面が扁平な板状になるまで潰し加工することにより、バンパーステイの設置スペースの増分が大きくなり、潰し加工後の断面形状も安定する。しかし、その場合、バンパーリインフォースの曲げに対する剛性が低下し、衝突時に、潰し加工した箇所で容易に屈服変形が生じ、所定の曲げ強度が得られないという問題が生じる。
【0006】
従って、本発明は、車体デザイン上の制約により、通常であればバンパーリインフォースとサイドメンバーの間にバンパーステイを設けるスペースを十分とれない場合においても、衝突時のエネルギー吸収に必要なバンパーステイの圧壊ストロークを確保し、かつバンパーリインフォースの曲げに対する剛性の低下を抑制することを主たる目的とし、併せて潰し加工後に安定して所定の断面形状を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、バンパーリインフォースとその車幅方向両端部に取り付けられるバンパーステイからなる自動車のバンパー構造体に関するもので、前記バンパーリインフォースは、断面輪郭として衝突面側の前壁と車体側の後壁及びこれらを接続する上下壁を有するアルミニウム合金中空押出材からなり、その両端部は前後方向に潰し加工されて、扁平な板状に潰された中央の縦壁部とその上下に連なる一対の横壁部からなり、前記縦壁部と一対の横壁部により後方側に開口する溝が構成され、前記バンパーステイの長さ方向の一部が前記溝の内側に入り、先端部が前記縦壁部に取り付けられている。
中央の縦壁部は前記前壁と後壁を含み、横壁部は主として上下壁からなる。縦壁部は全潰し加工されて扁平な板状となり、実質的に中空断面ではないが、横壁部は中空断面であってもよい。
【0008】
バンパーリインフォースのバンパーステイが取り付けられる両端部は、より具体的には、縦壁部と一対の横壁部により略C形(溝形)又は略H形の断面を有する。略C形断面の場合、溝は1つで後方側に開口し、略H形断面の場合、前方側に開口する溝と後方側に開口する溝があり、後方側に開口する溝にバンパーステイの前端部が入り込む。バンパーステイの設置スペースを確保するとの観点からは、略C形断面が望ましい。この略C形断面とする場合、潰し加工は後壁側から前壁側に向けて行われることになる。
なお、本発明において、車両のフロント側、リア側に関わらず、衝突面側を前、前面、前方と表現し、車体側を後、背面、後方と表現している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車体デザイン上の制約により、通常であればバンパーリインフォースとサイドメンバーの間にバンパーステイを設けるスペースを十分とれない場合においても、バンパーリインフォースのバンパーステイが取り付けられる両端部を潰し加工して、両端部の断面形状を略C形(溝形)又は略H形断面とし、特に縦壁部については全潰し加工により扁平な板状とし、そこにバンパーステイを取り付けることにより、衝突時のエネルギー吸収に必要なバンパーステイの圧壊ストロークを確保することができる。また、縦壁部の上下に一対の横壁部が形成されていることにより、断面を潰し加工したことに伴う剛性の低下を抑制し、曲げ強度の低下を抑制することができる。
【0010】
本発明では、縦壁部を扁平な板状になるまで全潰し加工することにより、潰し加工後に安定して所定の断面形状を得ることができる。なお、特許文献3のように潰し加工を途中で止める場合、安定して所定の断面形状を得ることが困難であり、特にバンパーステイの取付面の形状精度の確保が難しい点に問題がある。縦壁部を扁平な板状になるまで全潰し加工することにより、その問題点は解消する。
そして、縦壁部が扁平な1枚の板のようになっているから、縦壁部に対し例えばプレスによる穴開け等の加工を、通常の板に対すると同様に、片側から中子等なしで行うことができ、また、例えば縦壁部にバンパーステイの前端をボルト締結した場合に、締結部の潰れ変形が防止でき、締結状態が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るバンパー構造体の平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B端面図である。
【図4】図1のC−C断面図である。
【図5】本発明に係るバンパーリインフォースの端部の潰し加工方法の一例を示す図である。
【図6】本発明に係るバンパーリインフォースの端部の潰し加工方法の他の例を示す図である。
【図7】本発明に係るバンパーリインフォースの端部の潰し形態の他の例を説明する断面図である。
【図8】本発明に係るバンパーリインフォースの断面形状の好ましい例を示す図である。
【図9】本発明に係るバンパーリインフォースの断面形状の好ましい他の例を示す図である。
【図10】本発明に係るバンパー構造体におけるバンパーリインフォースとバンパーステイの取付形態の他の例を示す図である。
【図11】図10の取付形態を得る手段を示す図である。
【図12】図10の取付形態を得る他の手段を示す図である。
【図13】本発明に係るバンパーリインフォースの断面形状の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜13を参照して、本発明について具体的に説明する。
図1に示すバンパー構造体1は、図2に示す矩形断面を有するアルミニウム合金中空押出材からなるバンパーリインフォース2と、バンパーリインフォース2の左右両端部の背面側に接合されたバンパーステイ3からなる。バンパーリインフォース2を構成するアルミニウム合金押出材の断面は、図2に示すように、衝突面側の前壁4と、車体側の後壁5と、前壁4及び後壁5を接続する上壁6及び下壁7からなる。バンパーステイ3は、図4に示すように、円筒状のアルミニウム合金押出材からなり、軸部8の前端にバンパーリインフォース1の背面側への取付用フランジ9、後端にサイドメンバー(図示せず)への取付用フランジ11が一体的に形成されている。
【0013】
バンパーリインフォース2は、車幅方向の中央部が車幅方向に平行で、両端部が後方側(車体側)に曲げられて傾斜し、傾斜した端部の大部分がプレス加工により前後方向に潰し加工されている。この潰し加工は後方側から前方側に向かって行われ、前壁4側は潰し加工前と位置を変えることなく、後壁5側のみが潰し加工により前方側に押しやられている。潰し加工が行われた両端部のうちステイ取付部及びその近傍領域は、図4に示すように、後壁5が前壁4の背面に接触するまで潰し加工(いわゆる全潰し加工)が行われ、潰し加工されていない領域から全潰し加工が行われた領域にかけて、潰し加工の程度がしだいに大きくなる遷移領域が存在する(図3参照)。
【0014】
全潰し加工が行われた領域では、図4の断面図に示すように、前壁4と後壁5が接触状態の2枚重ねとなり、扁平な板状に潰され、図4に示すように、バンパーリインフォース2は全体として後方側に開口した略C形(溝形)の断面を有する。この略C形断面は扁平に潰された中央の縦壁部12とその上下に略垂直に連なる一対の横壁部13,14(これも扁平に潰されている)からなり、縦壁部12はもとの前壁4と後壁5からなり、横壁部13,14はもとの上下壁6,7からなる。バンパーステイ3は前端部が略C形断面の溝の内側に入り、前端のフランジ9が縦壁部12の背面に当接し、両者が例えばボルト締結(図示せず)されている。
【0015】
前記遷移領域では、図3の断面図に示すように、バンパーリインフォース2は、略矩形の中空部15と、中空部15の上下両端から後方に突出する外リブ状の突出部16,17からなる。中空部15は前壁4と後壁5、及び上壁6と下壁7の一部からなり、中空部15の前後方向厚み(前壁4と後壁5の間の隙間)は車幅方向外側に向かってしだいに小さくなり、前記縦壁部12へと連なっている。突出部16,17は上壁6と下壁7の一部が折り込まれて形成されたもので、前後方向高さは車幅方向外側に向かってしだいに大きくなり、前記横壁部13,14に連なっている。
【0016】
バンパーリインフォース2の両端部の潰し加工は、例えば図5に示すように、アルミニウム合金中空押出材の断面の略半分を収容可能な凹部18aを有する下金型18上に、前壁4側を下金型18側に向けて前記アルミニウム合金中空押出材(バンパーリインフォース2の端部)を置き、前壁4及び後壁5の上下幅よりやや狭幅で、前壁4に後壁5を密着させたときの後壁5の背面側形状に対応する型打ち面を有する上金型19を前進(白抜き矢印参照)させ、後壁5を上壁6と下壁7の間に押し込むことで行うことができる。この潰し加工により、上下壁6,7はほぼ中央部で180°折り曲げられ、後壁5と上下壁6,7のコーナーも180°折り曲げられる。
【0017】
あるいは、例えば図6に示すように、平らな下金型19上に前壁4側を下金型19側に向けてバンパーリインフォース2の端部を置き、平らな型打ち面を有する上金型18を前進(白抜き矢印参照)させ、いったん断面全体を扁平な板状とし(上下壁6,7は断面の外側に折り曲げる)、次いで両側部を折り曲げて略C形断面に成形することもできる。
プレスによるこのような潰し加工(図5,6)は、バンパーリインフォース2の両端部の曲げ加工と同時に行うことができる。また、必要があれば、潰し加工と同時にボルト穴や作業穴等の穴開け加工を行うこともできる。
【0018】
上記のように縦壁部12を全潰し加工(前壁4と後壁5の間に意図的に空間を形成しない潰し加工)することにより、潰し加工後に安定して所定の断面形状を得ることができる。このため、バンパーステイの取付面(縦壁部12の背面側)の形状精度が確保され、また、縦壁部12をあたかも1枚の板として取り扱うことができることから、穴開け等の加工が容易であり、また、バンパーステイを接合(例えばボルト締結)した場合に安定した接合状態が得られる。
【0019】
なお、略C形断面の縦壁部12において、前壁4と後壁5は図4に示すように密着していることが望ましいが、両壁間に多少の隙間は許容される(全潰し加工後のスプリングバックにより隙間ができることもある)。アルミニウム合金中空押出材が図2に示すような矩形断面の例であれば、前壁4の板厚をt1、後壁5の板厚をt2としたとき、縦壁部12の厚みが1.1×(t1+t2)以下程度であれば、バンパー構造体において実際上問題なく許容される。本発明では、全潰し加工後にこのように前壁4と後壁5の間にこの程度の隙間がある場合も、扁平な板状と表現している。
【0020】
図7(a),(b)に、バンパーリインフォース2の端部の潰し形態(全潰し加工した領域)の他の例を示す。
図7(a)に示す断面形状は、図4に示す断面形状と同じく、扁平に潰された中央の縦壁部12とその上下に略垂直に連なる一対の横壁部13,14(これも扁平に潰されている)からなるが、全体として略H形断面とされ、前方側に開口する溝と後方側に開口する溝を有し、後方側に開口する溝にバンパーステイ3の前端部が入り込む。この断面でも、縦壁部12はもとの前壁4と後壁5からなり、横壁部13,14はもとの上下壁6,7からなる。図2に示す断面のアルミニウム合金中空押出材を潰し加工してこの断面に成形するには、前壁4側と後壁5側の両方から潰し加工を行うようにする。
【0021】
図7(b)に示す断面形状は、図4に示す断面形状と同じく全体として略C形断面とされているが、横壁部13,14が中空断面を有する点で、図4に示す断面とは異なる。横壁部13,14を中空断面とすることにより、ねじれ剛性が向上する。図2に示す断面のアルミニウム合金中空押出材を潰し加工してこの断面に成形するには、例えば浅い凹所を有する下金型(図8の仮想線で示す下金型18参照)を用いることで可能である。
【0022】
図8に、略C形断面に全潰し加工するのに適するアルミニウム合金中空押出材の断面形状の例を示す。
図8に示す断面形状は、前壁4と上下壁6,7の前方側約半分が、後壁5と上下壁6,7の後方側約半分より厚肉とされている点で、図2に示す断面形状と異なる。図8に仮想線で示すように、バンパーリインフォース2の前面側形状に対応する浅い凹部18aを有する下金型18上に、前壁4側を下金型18側に向けてアルミニウム合金中空押出材(バンパーリインフォース2の端部)を置き、前壁4及び後壁5の上下幅よりやや狭幅で、前壁4に後壁5を密着させたときの後壁5の背面側形状に対応する型打ち面を有する上金型19を前進させ、後壁5を上壁6と下壁7の間に押し込むことで、潰し加工を行うことができる。
【0023】
図8に示す断面形状は、前記の肉厚構成になっていることにより、潰し加工において薄肉の後方側部分が大きい曲げ変形を受けることになり、全潰し加工が行いやすいという利点がある。図8の仮想線に示すように、潰し加工は後壁5側から前壁4側に向けて行われ、潰し加工後の断面形状は後方に開口する略C形断面であり、前壁4と上下壁6,7の厚肉の部分が略C形断面の外側に位置し、後壁5と上下壁6,7の薄肉の部分がC形断面の内側に位置している。C形断面の外側に位置する部分の平均肉厚が内側に位置する部分の平均肉厚より大きいという言い方もできる。
【0024】
図9に、略C形断面に全潰し加工するのに適するアルミニウム合金中空押出材の断面形状の他の例を示す。
図9に示す断面形状は、後壁5と上下壁6,7のコーナーRが他より大きく形成されている点で、図2に示す断面形状と異なる。図9に仮想線で示すように、下金型18上に、アルミニウム合金中空押出材(バンパーリインフォース2の端部)を置き、上金型19を前進させ、後壁5を上壁6と下壁7の間に押し込むことで、潰し加工を行うことができる。
【0025】
図9に示す断面形状は、初期不整として後壁5と上下壁6,7のコーナーRを大きくしたことにより、潰し加工において後壁5と上下壁6,7のコーナーの180°曲げ加工が容易となり、全潰し加工が行いやすいという利点がある。図9の仮想線に示すように、潰し加工は後壁5側から前壁4側に向けて行われ、潰し加工後の断面形状は後方に開口する略C形断面である。
【0026】
なお、以上説明したバンパー構造体において、バンパーステイ3は、フランジ9,11を含めてアルミニウム合金中空押出材から一体成形したものを想定したが(成形方法は例えば特開2004−189062号公報参照)、フランジ9,11の一方又は双方について、別体のものが軸部8に溶接又は電磁成形(例えば特開2005−152920号公報参照)等の手段により接合されたものでもよい。また、アルミニウム合金中空押出材からなるバンパーステイ3の代わりに、鋼製のバンパーステイを用いることもでき、縦圧壊型でなく横圧壊型バンパーステイを用いることもできる(縦圧壊型及び横圧壊型バンパーステイについては例えば特開2005−14836号公報参照)。
【0027】
図10に、本発明に係るバンパー構造体におけるバンパーリインフォースとバンパーステイの取付形態の他の例を示す。このバンパー構造体1は、バンパーリインフォース2の潰し加工された端部に穴(バーリング穴)21が形成され、この穴21の内周にバンパーステイ3の前端がかしめ接合されている点で、図4に示すバンパー構造体と異なる。
図10に示すように、バンパーステイ3の軸部8の前方部分(接合に関与する部分)は前記穴21に挿入され、穴21の内周面に密着するとともに穴21の内周面に沿って前方側に拡開し(密着部22)、穴21の後方側において外径方向に張り出している(張出部23)。このように、バンパーステイ3の軸部8の前方部分は、穴21の内周面に強く密着するとともに、穴21の前後で外径方向に張り出し、バンパーリインフォース2の端部に強固に接合されている。
【0028】
図10に示すバンパーリインフォース2とバンパーステイ3の接合は、好適には電磁成形で行うことができる(例えば特開2004−237818号公報参照)。図11はその電磁成形方法を説明する図である。
図11に示すように、前端がバンパーリインフォース2の端部の傾斜と同角度で傾斜し、後端が軸方向に垂直とされたステイ素材24が、穴21の中に前方側から嵌め入れられ、前端に形成された浅いフランジ25が穴21の肩に当接している。このステイ素材24は円筒状のアルミニウム合金押出材からなり、前端のフランジは例えば電磁成形により成形することができる(例えば特開2004−42066号公報参照)。
【0029】
ステイ素材24の穴21から後方側に突出した部分の周囲が、分割金型からなる電磁成形用金型26により囲繞されている。電磁成形用金型26は貫通穴27を有し、貫通穴27の内径はステイ素材24の外径より大きく、ステイ素材24の後端が電磁成形用金型26の端面28から所定長さ突出している。この状態でバンパーリインフォース2、ステイ素材24及び電磁成形用金型26を位置決めし、ステイ素材24の中空内部に図示しない電磁成形用コイルを挿入し、該電磁成形用コイルに瞬間大電流を流し、前記ステイ素材の全長に対し電磁成形による拡管を行う。
【0030】
この電磁成形によりステイ素材24が拡径し、図10に示すように、前端が穴21の内周面に密着して拡開部22が形成され、その後方部分が外径方向に張り出して張出部23が形成され、さらにその後方部分は電磁成形用金型26の貫通穴27の内周面に打ち当たり、同時に後端部分が拡開し電磁成形用金型26の端面(成形面)28に打ち当たってフランジ11が成形される。これによりステイ素材24がバンパーリインフォース2に接合されるとともに、バンパーステイ3が成形される。必要に応じて、成形されたフランジ11をプレス加工して、所望の形状に整形(例えば背面側(サイドメンバへの取付側)を平面化するなど)することもできる。
【0031】
なお、この例では、接合性及び位置決め性の向上のため、ステイ素材24の前端に浅いフランジ25を形成したが、単に切断しただけのアルミニウム合金押出材をステイ素材として用いることもできる。また、フランジ11を一体成形する代わりに、別体のものを電磁成形で接合することもできる(前記特開2005−152920号公報参照)。
【0032】
図12は、図10に示すバンパーリインフォースとバンパーステイの取付形態を得るための、別の電磁成形方法を説明する図である。
図12に示すように、前端に小径部29を有し、その後方側が径が変化する遷移領域を介して大径部31となり、後端にフランジ11が形成されたステイ素材24が、穴21の中に後方側から嵌め入れられている。ステイ素材24の前記小径部29が穴21に嵌り、穴21の下端付近から前記遷移領域が始まっている。このステイ素材24は小径部29と同径の円筒状のアルミニウム合金押出材からなり、大径部31及び後端のフランジ11は例えば電磁成形により同時成形することができる(例えば特開2004−189062号公報参照)。
【0033】
ステイ素材24の穴21から後方側に突出した部分(大径部31及び前記遷移領域)の周囲が、分割金型からなる電磁成形用金型26によりほぼ隙間なく囲繞され、フランジ11が電磁成形用金型26の端面28に当接している。この状態でバンパーリインフォース2、ステイ素材24及び電磁成形用金型26を位置決めし、ステイ素材24の中空内部に図示しない電磁成形用コイルを挿入し、該電磁成形用コイルに瞬間大電流を流し、前記ステイ素材の主として小径部29及び前記遷移領域に対し電磁成形による拡管を行う。
【0034】
この電磁成形によりステイ素材24が拡径し、図10に示すように、前端が穴21の内周面に密着して拡開部22が形成され、その後方部分が外径方向に張り出して張出部23が形成される。これによりステイ素材24がバンパーリインフォース2に接合されるとともに、バンパーステイ3が成形される。この例では、接合時の電磁成形では、ステイ素材24の前方部分のみ拡管すればよいので、電磁成形による拡管の成形力を低減することができる。
なお、この例では、フランジ11が一体成形されているが、別体のものを電磁成形で接合することもできる(前記特開2005−152920号公報参照)。
【0035】
以上説明したバンパー構造体では、バンパーリインフォース2を構成するアルミニウム合金中空押出材の断面形状を、前後壁4,5及び上下壁6,7からなる矩形としたが、本発明は種々の断面形状のアルミニウム合金中空押出材に適用することができる。図13(a)〜(f)は矩形の輪郭及び内リブを有する断面形状の例である。内リブを有する場合、潰し加工を行ったときに形成される縦壁部は前後壁4,5以外に内リブを含んだものとなる。前記縦壁部において前後壁4,5及び折り重なったリブ壁は相互に密着していることが望ましいが、リブ壁と前後壁4,5の接続部コーナーのフィレット厚みの影響やスプリングバックにより各壁間に隙間が形成されることがあり、また多少の隙間は許容される。前記縦壁部の厚みが、前後壁4,5の板厚及び折り重なったリブ壁の板厚の合計の1.1倍以下程度であれば、バンパー構造体において実際上問題は生じない。
このほか、中空断面の輪郭は図13に示すような単純な矩形でなくてもよく、また、断面輪郭から突出する外リブを有していてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 バンパー構造体
2 バンパーリインフォース
3 バンパーステイ
4 前壁
5 後壁
6 上壁
7 下壁
12 縦壁部
13,14 横壁部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパーリインフォースとその車幅方向両端部に取り付けられるバンパーステイからなる自動車のバンパー構造体であり、前記バンパーリインフォースは、断面輪郭として衝突面側の前壁と車体側の後壁及びこれらを接続する上下壁を有するアルミニウム合金中空押出材からなり、前記バンパーリインフォースの両端部は前後方向に潰し加工されて、扁平な板状に潰された中央の縦壁部とその上下に連なる一対の横壁部からなり、前記縦壁部と一対の横壁部により後方側に開口する溝が構成され、前記バンパーステイの長さ方向の一部が前記溝の内側に入り、先端部が前記縦壁部に取り付けられていることを特徴とする自動車のバンパー構造体。
【請求項2】
前記潰し加工は後壁側から前壁側に向けて行われ、前記両端部は後方側に開口する溝形断面を有することを特徴とする請求項1に記載された自動車のバンパー構造体。
【請求項3】
前記溝形断面の外側に位置する部分の平均肉厚が内側に位置する部分の平均肉厚より大きいことを特徴とする請求項2に記載された自動車のバンパー構造体。
【請求項4】
前記横壁部が中空断面を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された自動車のバンパー構造体。
【請求項1】
バンパーリインフォースとその車幅方向両端部に取り付けられるバンパーステイからなる自動車のバンパー構造体であり、前記バンパーリインフォースは、断面輪郭として衝突面側の前壁と車体側の後壁及びこれらを接続する上下壁を有するアルミニウム合金中空押出材からなり、前記バンパーリインフォースの両端部は前後方向に潰し加工されて、扁平な板状に潰された中央の縦壁部とその上下に連なる一対の横壁部からなり、前記縦壁部と一対の横壁部により後方側に開口する溝が構成され、前記バンパーステイの長さ方向の一部が前記溝の内側に入り、先端部が前記縦壁部に取り付けられていることを特徴とする自動車のバンパー構造体。
【請求項2】
前記潰し加工は後壁側から前壁側に向けて行われ、前記両端部は後方側に開口する溝形断面を有することを特徴とする請求項1に記載された自動車のバンパー構造体。
【請求項3】
前記溝形断面の外側に位置する部分の平均肉厚が内側に位置する部分の平均肉厚より大きいことを特徴とする請求項2に記載された自動車のバンパー構造体。
【請求項4】
前記横壁部が中空断面を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された自動車のバンパー構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−131647(P2011−131647A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291242(P2009−291242)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
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