説明

自動車のリターダにおける制動特性の調整方法

自動車のリターダにおける制動特性の調整方法において、リターダの制御ないし調整装置に、操作量と制動トルクとの間の関係を表す特性線図ないし制動特性曲線が記憶される。その制動特性曲線は、操作量と制動トルクとの割付けが個々のオフセットによって変更され得るという複数の再始動点(サポートポイント)を有し、各リターダのための連続検査試験機において、規定点に関して、制動トルクの目標設定値と実際値との比較が実施される。個々のオフセットで変更可能な再始動点が、目標設定値と実際値との前記比較に基づいて、前記実際値が予め規定された公差域内に存在するというように、上昇あるいは下降される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1の上位概念部分に従う自動車のリターダにおける制動特性の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、特に商用車において、一般的に摩耗を生ずる摩擦ブレーキである常用ブレーキのほかに、補助減速装置が、ますます立法者(Gesetzgeber)によって要求され、車両製造業者によって提供されている。
【0003】
リターダおよびエンジンブレーキの形態の、非摩耗式のそのような補助減速装置は、下り坂において車速を一定に保つためにも利用され得る。
【0004】
リターダとしては、変速機に追加的に配置される、動流体式、静液圧式あるいは電気動力学式の制動装置、並びに、変速機ケースの内部に「インターダ(Intarder)」の形態で設けられるシステム、が属する。
【0005】
リターダは、商用車において特に、例えば高い車速からの制動時に生ずる運動学的な制動エネルギを吸収して熱に変換するために、採用される。また、例えば長い降坂走行において要求される連続制動出力に対しても良好に適用される。
【0006】
動流体式リターダの場合には、液体の流れエネルギが制動のために利用され、その物理的作用原理は、固定タービンを有する流体クラッチの作用原理に相当している。それに応じて、動流体式リターダは、動力伝達経路(パワーフロー)に存在するロータと、リターダケースに固く結合されたステータと、を有している。リターダの作動の際、所望の制動出力に対応する油量が、ベーンポケットに運び入れられ、回転するロータが、ステータに支えられた油を運ぶ(持ち上げる)。これにより、ロータ軸に制動作用が生成される。
【0007】
動流体式リターダを有する制動装置の例は、独国特許第19853830号明細書に記載されている。その動流体式リターダは、相互に作動室を形成するロータ及びステータ、その作動媒体を冷却するための冷却装置、作動媒体を収容するための収容タンク、および、制御装置、を有しており、制動運転中、リターダと冷却装置とが循環の形で作動媒体により貫流される。
【0008】
本件出願人による独国特許出願公開第10141794号明細書から、リターダを制御するための、液圧ポンプと熱交換器と弁と制御・調整装置とを有する回路、を備えた動流体式リターダが知られている。そのポンプの搬送容量は、車速ないし駆動軸回転数あるいはリターダ回転数に依存して体積流が設定可能であるように、調整可能である。
【0009】
動流体式リターダの制動トルクは、通常、リターダ室に制御あるいは調整装置を介して予め設定される対応圧力が形成される、ということによって調整される。この場合、操作量(制御量)と制動トルクとの間の関係は、一般に特性曲線図を介して形成される。しかし、予め設定される操作圧とそれにより結果として生ずる制動トルクとの関係は、常には一定ではない。このために、要求される目標トルクと有効な実際トルクとの間に差が生じてしまう。
【0010】
この偏差の原因は、特には、リターダのベーン(羽根)の品質、油案内ハウジングの公差、および、例えばアクチュエータ、調整ピストン、ばね要素のような機械式操作(制御)要素の公差、に存在する。
【0011】
制動管理(制御)の枠内で、車両の常用ブレーキに加えて、リターダがますます採用されるので、リターダの制動トルクを操作量の関数としてできるだけ狭い公差限度に保つことが、必要である。
【0012】
目標トルクからの制動トルクの偏差を最小にするために、従来においては、リターダの制動トルクが連続試験機で求められる。特定の目標トルクに対する測定された実際トルクの偏差に応じて、リターダの制動特性曲線が補正される。
【0013】
この場合、連続試験機における制動トルクの偏差を最小にするために、特に以下の方式が知られている。
【0014】
−試験機で制動トルクを測定し、ハードウェア的な調整装置により、例えば調整ねじを介して、制動トルクを補正する。
【0015】
−試験機で制動トルクを測定し、電子制御装置に記憶された特性線図のうちの1つを、例えば抵抗やエンコードスイッチ(Kodierschalter)を介して、択一的に選出する。
【0016】
また、走行運転中にリターダにおける制動トルクを測定し、当該測定に基づいて特性曲線を補正することが知られている。さらに、適切なトルクセンサによって制動トルクを調整する方式も存在している。
【0017】
制動トルクの偏差を最小にするための従来公知の方式は、一方では、特性線図が全体として移動されるだけであり、電子制御装置において選出される特性線図が目標状態に近似しているだけである、という欠点を有する。また、制動トルクを検査して調整するために、高価な機器が必要である。
【0018】
他方では、走行運転中における制動トルクの測定のために、補助的なセンサが必要とされ、これは製造コストおよび取付コストを高める結果となる。
【発明の開示】
【0019】
本発明の課題は、目標トルクからの制動トルクの偏差が最小化され、前述の従来技術の欠点が解消されるような、リターダにおける制動特性の調整方法を提供すること、である。
【0020】
この課題は、特許請求の範囲の請求項1に記載の特徴によって解決される。更なる本発明に基づく実施態様および利点は、従属請求項から理解できる。
【0021】
それに応じて、リターダにおける制動特性の調整方法において、リターダの制御ないし調整装置に、操作量と制動トルクとの関係を表す特性線図ないし制動特性曲線を記憶すること、が提案される。本発明によれば、その特性線図は、操作量と制動トルクとの割付けが個々のオフセットによって変更され得る複数のサポートポイント(Stuetzpunkte)を有している。
【0022】
本発明によれば、各リターダのための連続(生産)検査試験機において、規定点に関して、制動トルクの目標設定値と実際値との比較が実施され、個々のオフセットで変更可能なサポートポイントが、設定値と実際値との前記比較に基づいて、前記実際値が予め規定された公差域内に存在する、というように上昇あるいは下降される。
【0023】
このようにして求められた補正値は、制御あるいは調整装置に適当な態様で永続的に記憶される。この場合、調整装置とリターダとの明白な相関関係が必要である。この補正値に基づいて、補正特性線図が生じる。その中間値は、補間法によって求められ得る。
【0024】
可変のサポートポイントの数を増大することによって、ないし、関連する当該公差域を制限することによって、発生される実際トルクの精度が一層高められる。他方において、精度の向上は、連続受入試験機における調整の、長い所要時間およびそれに伴う高い経費を意味する。これにより、高い精度とそれに伴う経費との適当な妥協点が選定されなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、添付の図面に基づいて、以下に例示的に詳述される。
【0026】
図には、リターダのための3つの制動特性曲線A、B、C(即ち、リターダ回転数の関数としてのリターダの制動トルク)が破線で示され、また、対応する目標制動曲線が実線で示されている。
【0027】
本発明に基づいて、リターダの制御あるいは調整装置に、操作量と制動トルクとの間の関係を表す特性線図ないし制動特性曲線が記憶され、当該特性線図ないし特性曲線は、操作量と制動トルクとの割付けが個々のオフセットによって変更され得るという複数のサポートポイント(Stuetzpunkte、再始動点)を有している。図には、各制動特性曲線に対して、例示的に、2個のサポートポイントが設けられている。
【0028】
連続(生産)受入(検査)試験機において、各リターダ毎に、それらのポイントについて、制動トルクの目標設定値(図における実線)と実際値との比較が実施される。個々のオフセットにより変更可能なサポートポイントは、実施された設定値と実際値との比較に基づいて、実際値が予め規定された公差域内に存在するというように、上昇あるいは下降される。
【0029】
この処置は、図において、サポートポイントの値の変位を表す矢印で示されている。サポートポイントに対する補正値に基づいて、補正制動特性曲線が決定される。その中間値が、補間法によって決定される。これら補正値は、リターダの制御あるいは調整装置に記憶される。
【0030】
各リターダが連続受入試験機において複数点で補償されるという本発明に基づく構想によって、補助的なセンサを設ける必要なしに、リターダの実際トルクがその電子制御あるいは調整装置によって極めて正確に調整され得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】リターダにおける制動特性の調整方法を表した特性線図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リターダの制御ないし調整装置に、操作量と制動トルクとの間の関係を表す特性線図ないし制動特性曲線が記憶され、
当該制動特性曲線は、操作量と制動トルクとの割付けが個々のオフセットによって変更され得るという複数のサポートポイントを有しており、
各リターダのための連続検査試験機において、規定点に関して、制動トルクの目標設定値と実際値との比較が実施され、
個々のオフセットで変更可能なサポートポイントが、目標設定値と実際値との前記比較に基づいて、前記実際値が予め規定された公差域内に存在するというように、上昇あるいは下降される
ことを特徴とする自動車のリターダにおける制動特性の調整方法。
【請求項2】
サポートポイントについての補正された値に基づいて、補正された制動特性曲線が決定され、その中間値が補間法によって決定され、それら補正値がリターダの制御あるいは調整装置に記憶される
ことを特徴とする請求項1に記載の自動車のリターダにおける制動特性の調整方法。
【請求項3】
制動特性調整の精度は、サポートポイントの数の関数として調整され得る
ことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車のリターダにおける制動特性の調整方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−540226(P2008−540226A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510435(P2008−510435)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003636
【国際公開番号】WO2006/119849
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】