説明

自動車の前部構造

【課題】 十分な面積の開口部を形成することができる自動車の前部構造を提供すること。
【解決手段】 本発明の前部構造は、車体前部の左右に取付けられたフロントサイドフレーム2と、フロントサイドフレームの前端部分を連結して車幅方向に延び、上壁、下壁、前壁を備え車体後方に向かって開口したコ字状断面形状を有するフロントバンパーレインフォースメント4とを備え、フロントバンパーレインフォースメントは、車幅方向中央に、車幅方向の端部18より上下方向の幅が狭く形成され、且つ、車幅方向の端部より上方にオフセットして配置されている幅狭部20を備え、端部との幅狭部との間に、上下方向の幅が直線的に狭くなっていく移行部22が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部構造に関するものであり、詳細には、フロントバンパーレインフォースメントを含む自動車の前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の前部構造では、車体前方の両側部に車体前後方向に延びるように配置されているフロントサイトフレームの前端を、フロントバンパーレインフォースメントで連結した構造が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−331889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車体前部には、エンジン冷却用のラジエタが配置されているため、車体の前端部には、ラジエタに外気を導く開口部(走行風導入口)が形成されている。この開口部は、ラジエタを十分に冷却するため、所定の面積を確保する必要がある。
【0005】
しかしながら、この開口部が形成される位置には、フロントバンパーレインフォースメントが車幅方向に横断して配置されているので、開口部はフロントバンパーレインフォースメントと干渉して、その面積が制限される。
そして、フロントバンパーレインフォースメントの上方側で、インタークーラーとの干渉、デザイン上の制約等により、開口部として利用できる領域が制約されることがある。
【0006】
このような場合には、フロントバンパーレインフォースメントの下方側で広い開口部を確保する必要があるが、フロントバンパーレインフォースメントの下方側では、路面との干渉を考慮しなければならないので、他の部分で確保できなかった分の面積をかせぐために開口部を広くとることが難しい。
【0007】
この結果、ラジエタ用の開口部の面積を確保するため、車両の構造、デザイン等が制約を受けることがあった。
【0008】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、十分な面積の開口部を形成することができる自動車の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、車体前部の左右に取付けられたフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの前端部分を連結して車幅方向に延び、上壁、下壁、前壁を備え車体後方に向かって開口したコ字状断面形状を有するフロントバンパーレインフォースメントとを備え、前記フロントバンパーレインフォースメントは、車幅方向中央に、車幅方向の端部より上下方向の幅が狭く形成され、且つ、車幅方向の端部より上方にオフセットして配置されている幅狭部を備え、前記端部との幅狭部との間に、上下方向の幅が直線的に狭くなっていく移行部が設けられていることを特徴とする自動車の前部構造が提供される。
【0010】
このような構成によれば、端部から幅狭部への移行部の傾斜は、フロントバンパーレインフォースメントの下面側の方が上面側より大きくなる。
この傾斜が上面側と下面側で等しいと、フロントバンパーレインフォースメントに正面からかかった荷重(衝撃)によって、フロントバンパーレインフォースメントの両端に接続されているフロントサイドフレームが上方に向かって押し上げられ、フロントサイドフレームを軸圧縮させて衝撃を吸収させることができなくなる。
【0011】
しかしながら、本発明のように端部から幅狭部への移行部の傾斜が、フロントバンパーレインフォースメントの下面側の方が上面側より大きな構成であると、フロントバンパーレインフォースメントに正面からかかった荷重(衝撃)によって、フロントバンパーレインフォースメントの両端に接続されているフロントサイドフレームが上方に向かって押し上げられにくくなり、この結果、フロントサイドフレームを軸圧縮させて衝撃を吸収させることができる。
【0012】
又、本発明のように、傾斜が下面側の方が上面側より大きな移行部によって、端部が幅狭部に接続されている構成では、中央部の幅が狭くなったことによる剛性の低下が抑制される。
【0013】
従って、本発明の構成によれば、正面衝突時のフロントサイドフレームの上方への押し上げと、フロントバンパーレインフォースメントの剛性低下を抑制しつつ、必要な開口面積を確保することができる。
【0014】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記移行部内で、車両前後方向に延びる板状部を備えた節部材が、前記上壁および下壁に接合されている。
このような構成によれば、衝突時等による荷重が加わったときに変形し易い移行部の変形が抑制される。
なお、節部材は、移行部の幅狭部側の端付近に配置されるのが好ましい。
【0015】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記フロントバンパーレインフォースメントの車幅方向両端の開口部を閉鎖する蓋部材が、前記上壁、下壁および前壁に接合されることによって前記フロントバンパーレインフォースメントに取付けられている。
このような構成によれば、蓋部材によってフロントバンパーレインフォースメントの両端の剛性が向上するので、オフセット衝突時の強度が確保される。
【0016】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記フロントバンパーレインフォースメントの車幅方向中央の幅狭部内に、断面コ字状の補強部材が、車体前方に向かって開口するように配置され且つ前記上壁および下壁に接合されることによって前記フロントバンパーレインフォースメントに取付けられている。
このような構成によれば、補強部材によって、幅狭部の中央に閉断面構造が形成されるので、剛性が最も低くなるこの部分の補強が図れる。
【0017】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記節部材が、前記フロントバンパーレインフォースメントの長手方向に延びる延長部を備え、該延長部に、牽引フックの取付け部材が形成されている。
このような構成によれば、節部材を牽引フックの取付け部として利用できるので、部品点数が削減され、軽量化、コスト低減が達成される。
【0018】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記フロントバンパーレインフォースメントの前壁は、下方部分が上方部分より前方に突出している。
このような構成によれば、正面衝突の場合に下方部分に先に荷重が入力され易くなる。したがって、荷重入力点が下方、すなわち、フロントサイドフレームの高さに近い高さ位置となるので、正面衝突時に、フロントサイドフレームが上方に持ち上げられにくくなり、フロントサイドフレームを軸圧縮させて衝撃を吸収し易くなる。
【0019】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記フロントバンパーレインフォースメントは、上壁が車体前方に向かって下方に傾斜し、且つ、下壁が車体前方に向かって上方に傾斜しており、前記上壁の傾斜の角度が、下壁の傾斜の角度より大きく設定されている。
このような構成によれば、フロントバンパーレインフォースメントの上壁の傾斜がきつくなるので、正面衝突時に、フロントサイドフレームが上方に持ち上げられにくくなり、フロントサイドフレームを軸圧縮させて衝撃を吸収し易くなる。
【0020】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記フロントバンパーレインフォースメントの幅狭部の前方に、バンパーフェースに設けられた走行風導入開口が配置される。
このような構成によれば、走行風導入口から導入された走行風が、フロントバンパーレインフォースメントとの干渉が小さい状態でラジエタに導かれる。
【発明の効果】
【0021】
このような構成によれば、車体前部に十分な面積の開口部を形成することができる自動車の前部構造が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態の自動車の前部構造を詳細に説明する。図1は、本発明の好ましい実施形態の自動車の前部構造1を斜め前方上方から見た分解斜視図である。
図1に示されているように、前部構造1は、車体前部に取付けられ車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム2、2と、左右のフロントサイドフレーム2、2の前端を連結するフロントバンパーレインフォースメント4と、左右のフロントサイドフレーム2、2の前端部間に取付けられるラジエターシュラウド6とを備えている。
【0023】
フロントバンパーレインフォースメント4は、ラジエターシュラウド6の上下方向の中央よりやや下方の位置で、ラジエターシュラウド6の前方を横切るように配置される。従って、フロントバンパーレインフォースメント4は、ラジエターシュラウド6内に取付けられるラジエタ(図示せず)と車両前後方向に重なり、これに干渉することになる。又、フロントバンパーレインフォースメント4の前方側には、バンパーフェースが取付けられる。
【0024】
フロントバンパーレインフォースメント4は、車幅方向に延びるレイン本体部8が左右両端に取付けられたブラケット部材10を介して、左右のフロントサイドフレーム2の前端を連結するように取付けられる。
【0025】
レイン本体部8は、上壁12、下壁14、前壁16を有するコ字の縦断面形状を有し、開口部分が車体後方を向くように配置されている。また、レイン本体8の車幅方向両端は開放している。
【0026】
フロントバンパーレインフォースメント4の一端側部分の正面図である図2から明らかなように、レイン本体部8は、車幅方向両端に配置されブラケット部材10が連結される端部18、18と、両方の端部18、18間に延びる車幅方向中央の中央部20とを備えている。中央部20は、端部18より上下方向の幅(高さ)が狭く形成された幅狭部20となっている。
【0027】
また、フロントバンパーレインフォースメント4の一端側部分の平面図である図3から明らかなように、幅狭部20は、両方の端部18、18間で、車体前方に向かって凸状に湾曲する形状を有している。
【0028】
さらに、図2から明らかなように、幅狭部20は、両方の端部18、18より上方にオフセットして配置されている。端部18と幅狭部20とは、端部18から幅狭部20に向かって直線的に上下方向の幅が狭くなっていく移行部22が設けられている。移行部22における上壁12および下壁14の車幅方向の傾斜は、下壁12の傾斜の方が大きくなっている。
【0029】
図2および図3に示されているように、レイン本体8の移行部22には、節部材24が取付けられている。節部材24は、図4に示されているように、車両前後方向に延びる板体である節板26と、この節板26の前端から車幅方向外方に折れ曲がって延びる横板28を備えている。本実施形態では、節板26は、移行部22と幅狭部20の境界より僅かに移行部22側に配置されている。また、節板26および横板28の高さは、レイン本体8の上下方向の幅(高さ)と略等しくされている。
【0030】
節板26の上端および下端には、車幅方向外方に向かって延びるフランジ30、32が設けられている。また、横板28の上端および下端にも、車体後方に向かって延びるフランジ34、36が設けられている。
節部材24は、節板26の上方のフランジ30と、横板28の上方のフランジ34を、レイン本体8の上壁12の裏面(下面)に接合し、節板26の下方のフランジ32と、横板28の下方のフランジ36を、レイン本体8の下壁14の裏面(上面)に接合することによって、レイン本体8内に取付けられている。
図2および図3は、レイン本体8の一端(向かって左端)側のみを示すが、他端(右端)側も対称的な構成の節部材が取付けられている。
【0031】
本実施形態では、図示されている左側の節部材24の横板28には、牽引フックが取付けられるフック取付け部材38が固定されている。フック取付け部材38は、円柱状の部材であり、横板28に取付けられた一端から、車体前方に延び、他端側がレイン本体8に前壁16に形成された開口40から突出する。
【0032】
幅狭部20の車幅方向中央には、水平断面がコ字状の補強部材42が、開口部が車体前方に向かうように配置されている。補強部材42は、図5に示されているように、車幅方向に延びる板体である本体44と、この本体44の前端から車体前方に延びる縦板46、46を備えている。本体44には軽量化のために複数の孔48が形成されている。本体44と縦板46の高さは、レイン本体8の上下方向の幅(高さ)と略等しくされている。
【0033】
本体44の上端および下端には、車体後方に向かって延びるフランジ50、52が設けられている。また、縦板46の上端および下端にも、車幅方向外方に向かって延びるフランジ54、56が設けられている。
補強部材42は、本体44の上方のフランジ50と縦板46の上方のフランジ54を、レイン本体8の上壁12の裏面(下面)にスポット溶接で接合し、本体44の下方のフランジ52と縦板46の下方のフランジ56を、レイン本体8の下壁14の裏面(上面)にスポット溶接で接合することによって、レイン本体8内に取付けられている。
【0034】
図2および図3のVI−VI線に沿った断面図である図6に示されているように、レイン本体8の幅狭部20は、レイン本体8の前壁14の下方部分58が上方部分60より前方に突出している。
さらに、レイン本体8の幅狭部20は、上壁12が車体前方(前壁14)に向かって下方に傾斜し、且つ、下壁14が車体前方(前壁14)に向かって上方に傾斜しており、前方に向かって先細りする縦断面形状を有している。そして、上壁12の傾斜角(α)が、下壁14の傾斜角(β)より大きく設定されている。
【0035】
フロントバンパーレインフォースメント4は、レイン本体8の車幅方向両端の開口部にを閉鎖する蓋部材62を更に備えている。蓋部材62は、図7に示されているように、レイン本体8の車幅方向両端の開口部に対応した形状を有する蓋本体64と、蓋本体64の上縁、前縁、下縁のそれぞれから車幅方向内方に延びるフランジ66、68、70とを備えている。
蓋部材62は、蓋本体64がレイン本体8の端部の開口部を覆い、各フランジ66、68、70が、レイン本体8bの上壁、前壁および下壁の内面にスポット溶接で接合されることによってフロントバンパーレインフォースメントに取付けられている。
【0036】
フロントバンパーレインフォースメント4の前方に、図8に想像線(一点鎖線)で示すようにバンパーフェース72が取付けられる。このバンパーフェース72の中央に形成されラジエタグリル(図示せず)が取付けられる走行風導入口74は、フロントバンパーレインフォースメント4の幅狭部20の前方に位置している。この結果、走行風導入口74から導入された走行風は、フロントバンパーレインフォースメント4との干渉が少ない状態でラジエタに導かれる。
【0037】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術事項の範囲内で種々の変更又は変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の好ましい実施形態の自動車の前部構造を斜め前方上方から見た分解斜視図である。
【図2】フロントバンパーレインフォースメントの一端側部分の正面図である。
【図3】フロントバンパーレインフォースメントの一端側部分の平面図である。
【図4】レイン本体内に取付けられる節部材の斜視図である。
【図5】レイン本体内に取付けられる補強部材の斜視図である。
【図6】図2および図3のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】レイン本体に取付けられる蓋部材の斜視図である。
【図8】フロントバンパーレインフォースメントの幅狭部とバンパーフェースの走行風導入口との関係を示す部分的な正面図である。
【符号の説明】
【0039】
1:前部構造
2:フロントサイドフレーム
4:フロントバンパーレインフォースメント
6:ラジエターシュラウド
8:レイン本体
10:ブラケット部材
12:上壁
14:下壁
16:前壁
18:端部
20:幅狭部(中央部)
22:移行部
24:節部材
38:フック取付け部材
42:補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の左右に取付けられたフロントサイドフレームと、
該フロントサイドフレームの前端部分を連結して車幅方向に延び、上壁、下壁、前壁を備え車体後方に向かって開口したコ字状断面形状を有するフロントバンパーレインフォースメントとを備え、
前記フロントバンパーレインフォースメントは、車幅方向中央に、車幅方向の端部より上下方向の幅が狭く形成され、且つ、車幅方向の端部より上方にオフセットして配置されている幅狭部を備え、
前記端部との幅狭部との間に、上下方向の幅が直線的に狭くなっていく移行部が設けられている、
ことを特徴とする自動車の前部構造。
【請求項2】
前記移行部内に、車両前後方向に延びる板状部を備えた節部材が、前記上壁および下壁に接合されている、
請求項1に記載の自動車の前部構造。
【請求項3】
前記フロントバンパーレインフォースメントの車幅方向両端の開口部を閉鎖する蓋部材が、前記上壁、下壁および前壁に接合されることによって前記フロントバンパーレインフォースメントに取付けられている、
請求項1または2に記載の自動車の前部構造。
【請求項4】
前記フロントバンパーレインフォースメントの車幅方向中央の幅狭部内に、断面コ字状の補強部材が、車体前方に向かって開口するように配置され且つ前記上壁および下壁に接合されることによって前記フロントバンパーレインフォースメントに取付けられている、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の自動車の前部構造。
【請求項5】
前記節部材が、前記フロントバンパーレインフォースメントの長手方向に延びる延長部を備え、該延長部に、牽引フックの取付け部材が形成されている、
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の自動車の前部構造。
【請求項6】
前記フロントバンパーレインフォースメントの前壁は、下方部分が上方部分より前方に突出している、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の自動車の前部構造。
【請求項7】
前記フロントバンパーレインフォースメントは、上壁が車体前方に向かって下方に傾斜し、且つ、下壁が車体前方に向かって上方に傾斜しており、
前記上壁の傾斜の角度が、下壁の傾斜の角度より大きく設定されている、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の自動車の前部構造。
【請求項8】
前記フロントバンパーレインフォースメントの幅狭部の前方に、バンパーフェースに設けられた走行風導入開口が配置される、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の自動車の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−82721(P2006−82721A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270137(P2004−270137)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)