説明

自動車の荷物室構造

【課題】乗用車の既存の車体を変更することなく、積載効率に優れた荷物室を有効に形成する。
【解決手段】乗用車の後部座席付近を改修した荷物室の床面を、フロアのリヤシート取付部に固定されるステー12,13で支持されるロワーボード9によって形成し、このロワーボード9の上方でリヤウィンド下端より若干高い位置に配設されるアッパーボード10により上下2室に仕切る。アッパーボード10は、2枚のアッパーボード10a,10bの左右の側縁に細長のフレーム17L,17Rを取付けられて一体化され、センターピラーに設けた取付部とリヤピラーのリヤシートベルトアンカー取付部とで支持される。これにより、既存の車体を変更することなく積載効率に優れた荷物室を有効に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車の車体を利用し、乗用車の後部座席付近を改修して荷物積載用の荷物室を形成した自動車の荷物室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車においては、車体の大きさに応じて荷物の積載空間が限定されることから、荷物室に棚を設置する等して積載効率を向上しようとする試みがなされている。例えば特許文献1には、荷物室のフロアの一部にカバーにより開閉される落し込み部を凹設すると共に、この落し込み部にほぼ対応するルーフの位置に蓋にて開閉される開口部を設け、荷物室内の高さ方向中程に複数の棚を配置変えできるよう取り外し可能に設置した荷物室構造が開示されている。
【特許文献1】実開平5−46674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示の荷物室構造は、元々積載空間が比較的大きいバン型貨物自動車を対象とするものであり、後部座席を備える乗用車の場合、積載空間を拡大するためには、後部座席を取り外す必要がある。このため、積載効率の良い荷物室を形成しようとすると、既存の車体の大幅な設計変更を強いられ、コスト上昇を招く虞がある。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、乗用車の既存の車体を変更することなく、積載効率に優れた荷物室を有効に形成することのできる自動車の荷物室構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明による自動車の荷物室構造は、乗用車の車体を利用し、乗用車の後部座席付近を改修して荷物積載用の荷物室を形成した自動車の荷物室構造であって、上記荷物室に、上記後部座席のフロアへの取付け部で支持されるロワーボードと、上記ロワーボードの上方に配置され、少なくともリヤシートベルトアンカーの取付部を介して支持されるアッパーボードとを備え、上記ロワーボードと上記アッパーボードとにより、上記荷物室を上下2室に分割したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、乗用車の既存の車体を殆ど変更する必要がなく、積載効率に優れた荷物室を有効に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図7は本発明の実施の一形態に係り、図1は自動車後部の荷物室を示す説明図、図2はガードバーの外観図、図3はロワーボード及びアッパーボードの全体構成を示す斜視図、図4はロワーボードのフロアへの取付けを示す説明図、図5はアッパーボードの車体への取付けを示す説明図、図6は図5のA矢視図、図7は図5のB矢視図である。
【0008】
図1に示す自動車1は、乗用車の車体を利用して、本来乗用車の後席として設計された部分を荷物室に改修することで乗車定員2人とすると共に荷物積載用の空間を確保したものであり、例えば郵便物の集配等に利用される電気自動車(EV)である。この自動車1の荷物室1aは、フロントシート2,3の背面で、左右のリヤドアからリヤパネルにかけての側壁4とルーフ5とリヤゲート6とフロア7(図4参照)とによって形成され、リヤゲート開口下端のトリム部8から略水平に前方に延出されるロワーボード9と、このロワーボード9の上方でリヤウィンド下端より若干高い位置に配設されるアッパーボード10とにより上下に仕切られている。
【0009】
また、アッパーボード10の前端側には、図2に示すように、フロントシート2,3の背面側の部位に、それぞれ、パイプ材を下向きコ字形に屈曲して門形に形成したガードバー11,11が立設されている。このガードバー11,11により、アッパーボード10上に積載された荷物の前方への飛び出しを防止することができ、安全性を向上することができる。
【0010】
ロワーボード9及びアッパーボード10は、例えば木質系の化粧合板等で形成される平板であり、図3に示すように、それぞれ、前後方向に2枚のボード9a,9b、10a,10bを連結して構成されている。本実施の形態においては、前側のロワーボード9a及びアッパーボード10aには、運転席側のフロントシート2を助手席のフロントシート3よりも後退可能とする切り欠き部が設けられており、ドライバーの体格に応じたフロントシート2の後方へのスライド調整に余裕を持たせようにしている。
【0011】
ロワーボード9は、前側のロワーボード9aが前後2つのステー12,13で支持されてフロア7に固定され、このフロア7に固定される前側のロワーボード9aに、ブラケット14を介して後側のロワーボード9bが係合・連結されることで、荷物室1aの床面が形成されている。ステー12,13は、断面L字状やコの字状の鋼材を用いて門形に形成したものであり、前側のステー12は車幅方向に配置される4本の脚部を有し、後側のステー13は車幅方向に配置される2本の脚部を有している。
【0012】
図4に示すように、ロワーボード9aを支持するステー12,13は、フロア7に設けらたリヤシート取付部のネジ孔を利用して固定される。フロア7のリヤシート取付部のネジ孔は、フロントシート2,3の背面側のフロア面7aから段状に立ち上がる壁面7bと、この壁面7bから後方の段部を形成するフロア面7cとに設けられており、前側のステー12の脚部下端が壁面7bにボルト(図示せず)により固定され、後側のステー13の脚部下端がフロア面7cにボルト(図示せず)により固定される。尚、ステー12は、外部に露呈しないようにカバー15によって覆われている(図3参照)。
【0013】
ステー12,13によってフロア7に固定される前側のロワーボード9aに対して、後側のロワーボード9bは、ロワーボード9a後端の略中央に取付けられるブラケット14を介してロワーボード9aに前端部が係合・連結される。また、ロワーボード9bの後端側は、フロア面7cからリヤゲート開口下端のトリム部8へ向かって立ち上がる段部7dに係止されて支持される。
【0014】
この場合、フロントシート2,3の背面側で前側のロワーボード9aの下面側とフロア面7aとの間に生じる空間(すなわち、リヤシートが装着されたときに乗員のフットスペースとなる空間)も、足元収納室16aとして設けられる。この足元収納室16aは、比較的小さい荷物を収納するためのものであり、リヤドアの開閉により荷物を収納/取り出すことができる。また、後側のロワーボード9bとフロア面7cとの間の空間16bには、自動車1のコントロールボックス(制御ユニット)が収納され、後側のロワーボード9bを前側のロワーボード9aから分離して取り外すことにより、コントロールボックスの保守・点検を行うことができる。
【0015】
一方、アッパーボード10は、図3に示すように、前側のアッパーボード10a及び後側のアッパーボード10bの左右の側縁に、L字状断面の細長のフレーム17L,17Rが取付けられて一体化される。フレーム17L,17Rにより一体化されたアッパーボード10は、前後計4カ所で左右のブラケット18L,18R及び左右のブラケット19L,19Rを介して車体に固定される。具体的には、前側のブラケット18L,18Rは、図5に示すように、センターピラー20に取り付けられ、後側のブラケット19L,19Rは、リヤピラー21に取り付けられる。
【0016】
尚、フレーム17L,17R、ブラケット18L,18R、ブラケット19L,19Rは、左右対称の形状に形成されている。図5は、アッパーボード10を除いた右側のフレーム17Rのブラケット18R,19Rによる取付けを示しており、図5及び以下の説明では、左右のフレーム17L,17Rを代表してフレーム17と記載し、左右のブラケット18L,18R、及び左右のブラケット19L,19Rを代表して、それぞれブラケット18,19と記載する。
【0017】
前側に配置されるブラケット18は、略長方形に形成されて取付け穴を穿設した取付部18aと、この取付部18aの長辺側から略直角に折り曲げられた第1の受部18bと、この第1の受部18bから更に折り曲げられて取付部18aと略直交する面を形成する第2の受部18cとを有している。センターピラー20のアッパーボード10支持用の取付部には、ブラケット18をボルト止めするためのプレート(図示せず)が固設されており、ブラケット18の第2の受部18cを天側に向けた状態でブラケット18の取付部18aをプレートに当接させ、ボルト(図示せず)で締結し、ブラケット18をセンターピラー20に固定する。
【0018】
また、後側に配置されるブラケット19は、略L字のフック形状のブラケットであり、リヤピラー21への取付部19aと、この取付部19aから若干の段差を持って延出され、リヤピラー21の傾きに沿うように形成された吊下部19bと、この吊下部19bから略直角に折り曲げられた受部19cとを有している。
【0019】
ブラケット19は、受部19cを天側に向けた状態で取付部19aがリヤピラー21に当接され、リヤピラー21に設けられた雌ネジ部21aにボルト22によって締結・固定される。ボルト22が螺合されるリヤピラー21側の雌ネジ部21aは、元来、リヤシートベルト(ショルダーベルト)のアンカーを取り付けるための取付部であり、新たなネジ穴を設けることなくブラケット19を取り付けることができる。
【0020】
前後のブラケット18,19を車体に固定した後は、アッパーボード10を固定したフレーム17を、ブラケット18の第2の受部18cとブラケット19の受部19cとに乗せ、前後をボルト止めして固定する。フレーム17は、図6に示すように、アッパーボード10を乗せる一方の側面17aの一端側から略直角に折り曲げられた舌状の取付部17bが延出され、この取付部17bを介してブラケット18に固定される。
【0021】
フレーム17の舌状の取付部17bには、ナット17cが溶接されて固着されており、フレーム17の側面17aの一端側をブラケット18の第2の受部18cに乗せて舌状の取付部17bをブラケット18の第1の受部18bに当接させ、ナット17cに蝶ボルト23を螺合することで、フレーム17の前方側がブラケット18に固定される。また、フレーム17の側面17aの他端側にもナット17dが溶接されて固着されており、図7に示すように、フレーム17の側面17aの他端側をブラケット19の受部19cに乗せ、下側から蝶ボルト24をナット17dに螺合することで、フレーム17の後方側がブラケット19に固定される。
【0022】
尚、フレーム17に乗せる2枚のアッパーボード10a,10bは、ボルト止めされて固定されるが、後側のアッパーボード10bは、適宜、取り外し可能である。すなわち、図5,図7に示すように、フレーム17の側面17aの後端下側(ナット17dの斜め下方側)に、ナット17eが溶接されて固着されており、アッパーボード10bの後端両側は、ナット17dに蝶ボルト25を螺合して固定されている。従って、蝶ボルト25を緩めて外すことにより、後側のアッパーボード10bを前側のアッパーボード10aから分離して取り外すことができ、残った前側のアッパーボード10aを棚として利用することができる。
【0023】
以上のように本実施の形態においては、乗用車の後部座席付近を改修し、後部座席のフロアへの取付部でロワーボード9を支持すると供に、不要となったリヤシートベルトのアンカー取付部とセンターピラーに設けた取付部とでアッパーボード10を支持するのみで、上下2室の荷物室を形成することができる。これにより、既存の車体を変更することなく積載効率に優れた荷物室を形成することができ、コスト上昇を抑制することができる。
【0024】
しかも、アッパーボード10の一部を着脱自在に構成したことで、積載する荷物の種類やユーザの使用形態に応じた利便性の高い荷物室とすることができる。更には、フロントシート背面側でロワーボード下面側とフロア面との間に生じる空間も、比較的小さい荷物を収納するための足元収納室として利用可能に構成するため、特に、小型の乗用車のような積載空間の小さい自動車に適用した場合、実用上の利便性を大幅に向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】自動車後部の荷物室を示す説明図
【図2】ガードバーの外観図
【図3】ロワーボード及びアッパーボードの全体構成を示す斜視図
【図4】ロワーボードのフロアへの取付けを示す説明図
【図5】アッパーボードの車体への取付けを示す説明図
【図6】図5のA矢視図
【図7】図5のB矢視図
【符号の説明】
【0026】
1 自動車
1a 荷物室
2,3 フロントシート
7 フロア
9 ロワーボード
10 アッパーボード
11 ガードバー
16a 足元収納室
20 センターピラー
21 リヤピラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗用車の車体を利用し、乗用車の後部座席付近を改修して荷物積載用の荷物室を形成した自動車の荷物室構造であって、
上記荷物室に、
上記後部座席のフロアへの取付け部で支持されるロワーボードと、
上記ロワーボードの上方に配置され、少なくともリヤシートベルトアンカーの取付部を介して支持されるアッパーボードとを備え、
上記ロワーボードと上記アッパーボードとにより、上記荷物室を上下2室に分割したことを特徴とする自動車の荷物室構造。
【請求項2】
上記アッパーボードを、上記リヤシートベルトアンカーの取付部とセンターピラーに設けた取付部とで支持することを特徴とする請求項1記載の自動車の荷物室構造。
【請求項3】
上記アッパーボードを前後方向に分離可能な2枚のボードで構成し、少なくとも後側のボードを着脱自在としたことを特徴とする請求項1又は2記載の自動車の荷物室構造。
【請求項4】
前部座席の背面側で上記ロワーボードの下面側と上記フロアとの間に生じる空間を、リヤドアの開閉によって荷物を収納/取り出し可能な足元収納室として設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の自動車の荷物室構造。
【請求項5】
上記ロワーボードを、車両後部の制御用コントロールボックスを収納する部位の蓋として兼用することを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の自動車の荷物室構造。
【請求項6】
上記アッパーボードに、上記アッパーボード上に積載した荷物の前方への飛び出しを防止するガードバーを立設したことを特徴とする請求項1〜5の何れか一に記載の自動車の荷物室構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−100255(P2010−100255A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275793(P2008−275793)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】