説明

自動車ドアモジュール用基盤

【課題】 コスト、軽量性、耐衝撃性、機械的強度、さらにリサイクル性に優れた自動車ドアモジュール用基盤を提供することを目的とする。
【解決手段】 長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンペレットを射出成形してなる自動車ドアモジュール用基盤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車ドアモジュール用基盤に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車ドアは通常、図4に示されるように、鋼製のアウターパネルA、さまざまな機器B’及びパネルワイヤーハーネスW等を備え、これらを支持するインナーパネルB、及び、樹脂製の化粧板Cから構成されている。
【0003】このうち、インナーパネルはドアモジュール等の重量のある機器B’を支え、かつ、側方衝突時にはアウターパネルAと共に乗員保護に寄与する程度の強度が必要であるため、図5(a)に示すように金属製のメインパネルB1に、図5(b)に示すように樹脂からなるサブパネルB2を一体成形し、次いで図5(c)に示すように各種機器B’及び、これら各種機器等を接続するパネルワイヤーハーネスW等を付属させて形成されている。
【0004】しかしながら、上記の鋼−樹脂一体成形のインナーパネルは廃車後のリサイクル、資源回収が困難になるのみならず、自動車自体の軽量化の妨げとなる等の問題があった。
【0005】ここで、上記問題点を解決するため、樹脂のガスアシスト射出成形によりガラス繊維30重量%含有のPC/PBT(ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート)樹脂アロイ材料からなるインナーパネルが提案された。
【0006】このPC/PBT樹脂アロイ材料は耐薬品性、耐応力亀裂性を兼ね備えた優れた材料ではあるが、ポリカーボネート樹脂もポリブチレンテレフタレート樹脂も共に高価な素材であり、また比重が大きく、比強度、すなわち単位重量あたりの強度が低いため、軽量化への寄与が小さい等の欠点がある。さらにこのPC/PBT樹脂アロイ材料は成形時にエステル交換反応が生じて変質しやすく、同時に発泡する等の解決すべき問題点が山積している。ここで、ポリブチレンテレフタレートの代わりに、ポリエチレンテレフタレートを用いることにより、耐熱性及びコストに関しての問題点は解決するものの、低温時に耐衝撃性に劣ると云う問題がある。
【0007】さらに、上記ガスアシスト射出成形は設備が大がかりである上、成形条件・金型条件によりガスチャンネル部から一般板厚面へのガスのはみ出しによる強度低下や外観不良等の発生が問題となり、高度のノウハウが必要である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、コスト、軽量性、耐衝撃性、機械的強度さらにリサイクル性に優れた自動車ドアモジュール用基盤を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の自動車ドアモジュール用基盤は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンペレットを射出成形してなる自動車ドアモジュール用基盤である。
【0010】また、本発明の自動車ドアモジュール用基盤は請求項2に記載の通り、長繊維ガラス繊維・ポリプロピレン複合材料からなる自動車ドアモジュール用基盤である。本発明の自動車ドアモジュール用基盤は、また、請求項3に記載の通り、長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンスタンパブルシートにより形成された自動車ドアモジュール用基盤である。
【0011】
【発明の実施の形態】
【0012】本発明の自動車ドアモジュール用基盤の形成に当たって用いられる長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンペレット中の長繊維ガラス繊維は、その平均繊維長が4mm以上12mm以下であることが望ましい。4mm未満であると、自動車ドアモジュール用基盤として求められる各種機械的性能が急激に悪化する。また、12mm超、特に連続繊維では成形性が著しく低下し、射出成形が困難となる。
【0013】本発明ではマトリックスである樹脂としてはポリプロピレンであることが必要である。ポリプロピレン以外の樹脂では、成形性、耐薬品性、耐熱性、軽量性、耐衝撃性などの特性が充分なものとならない。さらにポリプロピレンは汎用樹脂であるため、コストも極めて低廉であり、また、自動車においても使用量が多く、熱可塑性樹脂であることもあって、リサイクル性が極めて高い。さらにポリプロピレンはゴムや無機フィラーの添加による改質により、物性の向上が容易であると云う長所を有する。
【0014】本発明の自動車ドアモジュール用基盤においてガラス繊維の含有率は30重量%以上であることが望ましく、さらに望ましい範囲は40重量%以上である。このとき密度は1.2(g/cm3)と比較的低くすることができ、曲げ弾性率も5000MPaを越えるものとすることができ、同じ曲げ弾性率の鋼材と比べた場合に重量比で48〜55%となり、著しい軽量化が可能となる。
【0015】なお、近年の車両においては側突事故からの乗員の安全を確保するためにサイドインパクトバー(クロスメンバー)が標準装備されているため、インナーパネル材料としては通常の強度よりも耐衝撃性の方が重要視されている。
【0016】ここで、本発明の自動車ドアモジュール用基盤は長繊維ガラス繊維補強ポリプロピレンからなるため、粘りのある、割れの発生しにくい樹脂材料であり、サイドインパクトバーを備えた車両での自動車ドアモジュール用基盤として用いた場合、衝突時にも自動車ドアモジュール用基盤の破片が生じにくいため、乗員への障害(裂傷)のおそれが低く最適である。
【0017】ここで従来射出成形で用いられていた、短繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレットの一例を図1(a)に示す。短繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレット中のガラス繊維はペレット長(ここでは3mm)より短い(通常0.5mm程度以下)。
【0018】図1(b)に示すような長繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレットを用いる射出により、長繊維ガラス繊維強化ポリプロピレン製品を得ることができる。この長繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレットはペレット長(この例では8mm)と同じ長さのガラス繊維を有しているものである。
【0019】本発明の自動車ドアモジュール用基盤は、上記長繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレットを射出成形して得ることができる。このとき、ペレット長(繊維長)が8mm程度のものを用いることが望ましい。ここで、ペレット長が8mmのものはそれより長いペレットに比べ、コンパクトな荷姿とすることができ、物流面で有利である。
【0020】これらペレット内のガラス繊維は射出成形時にはある程度短くなる(一般的な部位の平均繊維長は2mm程度となる)。特に、ワイヤーハーネスや各種コネクタを固定するためのホルダやスルーなどの細かい各種係止構造(0.5mm〜2mmの薄い肉厚の箇所を有する)の薄肉部分を一体成形した際には、これら部分の金型キャビティが狭いため、射出圧自体がこの部分でのショートショットを防止するために高いものとなり、その影響及び樹脂の流動等により強化材のガラス繊維が他の部分より短く(0.3mm〜0.6mm程度)なって、結果として長繊維ガラス繊維により補強されている自動車ドアモジュール用基盤と一体成形された短繊維ガラス繊維に補強されたこれら各種係止構造部分は求められる可撓性等(撓み性、曲げ柔軟性)を満足することができる。
【0021】本発明の自動車ドアモジュール用基盤はこのような長繊維ガラス繊維補強ポリプロピレンからなるため、軽量、ドアモジュール等の重量のある機器の取り付けにも充分対応でき、コスト、軽量性、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度さらにリサイクル性を満たし、同時にガスアシスト射出成形をおこなうことが必ずしも必要でないため、製造を容易とすることができる。ただし、ガスアシスト射出成形をおこなうことも可能であり、さらに、この場合、長繊維ガラス繊維を有するため、射出充填後、成形品内部が固化する前に金型コアをバックさせ、その長繊維ガラス繊維のスプリングバック力により樹脂を膨張させる射出膨張成形(IEM/Injection Expanded Molding)をおこなうことも可能であり、その結果、同重量でありながら剛性の高い製品が成形可能となる。
【0022】一方、射出成形において、ペレット長(繊維長)があまりに長いと、ゲートつまり等が頻発し、射出成形が困難となったり、あるいは、成形できてもガラス繊維の分布にむらができて、部分的に機械的強度の弱い箇所が生じる、また、ワイヤーハーネスや各種コネクタを固定するためのホルダやスルーなどの細かい各種係止構造の一体成形ができないなどの不都合が生じる。
【0023】また、自動車ドアモジュール用基盤は、上記長繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレットを原料とする射出成形の他、長繊維ガラス繊維ポリプロピレンスタンパブルシートを用いることにより形成することができる。この場合は、細部の成形性が長繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレットを原料とする射出成形に比して大幅に劣るものの、全体の強度を向上させることは容易である。すなわち、自動車ドアモジュール用基盤を射出成形で作製するか、あるいはスタンパブルシートで作製するかは、求められる構造形態に応じ、成形性(スピードあるいはコストなど)を加味して選択することができる。
【0024】なお、スタンパブルシートからなる場合にはその中の長繊維ガラス繊維の繊維長としては、長繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレットの長繊維ガラス繊維の繊維長より長いことが一般的に望ましい。このように長繊維ガラス繊維・ポリプロピレン複合材料からなる自動車ドアモジュール用基盤はコスト、軽量性、耐衝撃性、充分な機械的強度さらにリサイクル性に優れたものであり、長繊維ガラス繊維ポリプロピレンペレットを原料として射出成形によって作られた場合には細部の成形性に優れ、一方、スタンパブルシートからなる場合には、細部の成形性には劣るものの、全体としての強度及び耐衝撃性は向上する。
【0025】ここで、ガラス繊維を強化材として有するものとして、連続繊維強化構造体などが知られているが、これら技術では、自動車ドアモジュール用基盤として求められる細部の形成性が満たされず、例えば、ワイヤーハーネスや各種コネクタを固定するためのホルダやスルーなどの細かい各種係止構造の一体成形などができず、成形性が非常に劣る上、コストの点でも自動車用に用いるに適したものとすることができない。
【0026】
【実施例】以下に本発明の自動車ドアモジュール用基盤について具体的に説明する。図2にここで試作される自動車ドアモジュール用基盤(インナーパネル)の使用方法を示した。符号2を付して示される自動車ドアモジュール用基盤は各種機器3及びこれら機器3と接続するワイヤハーネスW等が設置された後、アウタパネル1に組み込まれて使用される。
【0027】図3にこのような本発明に係る自動車ドアモジュール用基盤(モデル図)を示した。このものはペレット長(繊維長)8mmの長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンペレット(繊維含有量:40重量%、出光石油化学製モストロンL)を射出成形して作製されたものである。図中符号2aを付して示されるのはドア組み込みに関与するベルトライン部、符号2cはパワーウィンド機器取り付け部、2bにはその他ワイヤーハーネスWを取り付るためのホルダー部及びスルー部であり、これらはこの自動車ドアモジュール用基盤に一体に設けられている。なお、上記ホルダー部及びスルー部は可撓性に富み、ワイヤーハーネスWの取り付けが容易であった。
【0028】この自動車ドアモジュール用基盤からホルダー部及びスルー部を切断・採取し、燃焼させてそのガラス繊維の繊維長を調べたところ、平均繊維長が0.5〜1mmであり、同様に評価したこの自動車ドアモジュール用基盤の他の部分のガラス繊維の平均繊維長(3mm)より短いことが判った。
【0029】また、同様に作製した自動車ドアモジュール用基盤の中央部に鋼球をぶつけ、一部を破壊した。また、平均繊維長0.6mmの短繊維ガラス繊維を有するポリプロピレンペレットを用いて、上記と同じ金型を用いて自動車ドアモジュール用基盤を作製し、同様にその中央部に鋼球をぶつけ、一部を破壊した。両者の破壊箇所を比較したところ、本発明に係る長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンペレットを射出成形してなる自動車ドアモジュール用基盤では、殆どの破片が本体とつながっていたが、短繊維ガラス繊維を有するポリプロピレンペレットによって形成された短繊維ガラス繊維を有するポリプロピレンペレットではその破片が飛散していた。
【0030】
【発明の効果】本発明の自動車ドアモジュール用基盤は、低コストで製造が可能で、軽量であり、耐衝撃性、機械的強度、さらにリサイクル性に優れた自動車ドアモジュール用基盤である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)短繊維ガラス繊維−ポリプロピレンペレットを示すモデル図である。
(b)長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンペレットを示すモデル図である。
【図2】本発明の自動車ドアモジュール用基盤の使用例を示す図である。
【図3】本発明の自動車ドアモジュール用基盤の一例を示すモデル図である。
【図4】自動車ドアの構成を示すモデル分解図である。
【図5】従来のインナーパネル(自動車ドアモジュール用基盤)の構成を示すモデル分解図である。
【符号の説明】
1 アウタパネル
2 自動車ドアモジュール用基盤(インナーパネル)
2a ベルトライン部
2b ホルダー部・スルー部
2c パワーウィンド固定部
3 各種機器
W ワイヤハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】 長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンペレットを射出成形してなることを特徴とする自動車ドアモジュール用基盤。
【請求項2】 長繊維ガラス繊維・ポリプロピレン複合材料からなることを特徴とする自動車ドアモジュール用基盤。
【請求項3】 長繊維ガラス繊維−ポリプロピレンスタンパブルシートにより形成されたことを特徴とする自動車ドアモジュール用基盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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