説明

自動車内装部品用射出成形材料、及びその成形体

【課題】耐熱性に優れ、自動車内装部品等の成形体として好適に用いられる、ポリ乳酸を含む射出成形材料の提供。
【解決手段】ポリ乳酸、可塑剤及び結晶核剤を含む高結晶性ポリ乳酸系樹脂と、ポリオレフィンと、相溶化剤とを含む自動車内装部品用の射出成形材料であって、前記可塑剤が、分子中に2個以上のエステル基を有し、前記エステル基を構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3個のアルキレンオキサイドを平均で0.5〜5モル付加した化合物であり、前記結晶核剤が、結晶核剤(a):分子中に水酸基及びアミド基を有する化合物、及び結晶核剤(b):フェニルホスホン酸又はその誘導体の金属塩の混合物であり、前記相溶化剤が、酸無水物基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を有する変性ポリオレフィンであるか、及び/又はエチレン性不飽和モノマーの共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含む自動車内装部品用の射出成形材料、及びその成形材料から得られる成形体の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
環境対策技術の一つとして、資源循環型プラスチックが注目されている。その中でもポリ乳酸の需要が高まりつつある。ポリ乳酸は、植物から得ることができるため、非石油資源から製造されるカーボンニュートラルな素材として、循環型社会の構築に貢献し得るものである。また、ポリ乳酸は、他の樹脂に比べて生分解性が高く、融点が140〜180℃と十分に高く、しかも透明性に優れるため、包装材料や各種成形品等、幅広い分野での普及が期待されている。
【0003】
一方、ポリ乳酸は硬くて脆い性質を有していることから、自動車部品等の成形体として使用するために、ポリ乳酸を他の樹脂とアロイ化したり、各種添加剤を配合したりして物性を改良する工夫がなされている。例えば、(特許文献1)には、非晶性のポリ乳酸を主体とするポリ乳酸とポリオレフィンとを相溶化剤によりアロイ化してなるポリマーアロイ及び有機フィラーを含有し、かつ前記ポリオレフィンの含有量が30〜60質量%であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
上記のような従来のポリ乳酸とポリオレフィンとのアロイ材は、ポリ乳酸が非晶状態であるため、耐熱性が低く、自動車内装部品、特に、直射日光が当たるインパネ等の部品には使用できないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−56743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、耐熱性に優れ、自動車内装部品の成形体として好適に用いられる、ポリ乳酸を含む射出成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の可塑剤及び結晶核剤を含み、結晶性を高めたポリ乳酸系樹脂とポリオレフィンとを含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
(1)ポリ乳酸、可塑剤及び結晶核剤を含む高結晶性ポリ乳酸系樹脂と、ポリオレフィンと、相溶化剤とを含む自動車内装部品用の射出成形材料であって、前記可塑剤が、分子中に2個以上のエステル基を有し、前記エステル基を構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3個のアルキレンオキサイドを平均で0.5〜5モル付加した化合物であり、前記結晶核剤が、結晶核剤(a):分子中に水酸基及びアミド基を有する化合物、及び結晶核剤(b):フェニルホスホン酸又はその誘導体の金属塩の混合物であり、前記相溶化剤が、酸無水物基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を有し、2,000〜70,000の重量平均分子量を有する変性ポリオレフィンであるか、及び/又はカルボキシル基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、チオール基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を有し、9.5〜12のSP値を有するエチレン性不飽和モノマーの共重合体である前記射出成形材料。
(2)結晶核剤(a)と結晶核剤(b)との割合が、結晶核剤(a)/結晶核剤(b)=20/80〜80/20(重量比)である前記(1)に記載の自動車内装部品用射出成形材料。
(3)可塑剤が、コハク酸又はアジピン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とのエステルからなる群から選択される少なくとも1種である前記(1)又は(2)に記載の自動車内装部品用射出成形材料。
(4)ポリ乳酸100重量部に対し、可塑剤が5〜30重量部、結晶核剤(a)が0.1〜3重量部、及び結晶核剤(b)が0.1〜3重量部である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の自動車内装部品用射出成形材料。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の自動車内装部品用射出成形材料を成形して得られ、JIS K7207に規定される0.45MPaの荷重を加えたときの荷重たわみ温度が100℃以上である成形体。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の自動車内装部品用射出成形材料を成形して得られ、JIS K7207に規定される0.45MPaの荷重を加えたときの荷重たわみ温度が110℃以上である成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高結晶性のポリ乳酸系樹脂とポリオレフィンとを相溶化剤を用いてアロイ化することにより、耐熱性に優れた射出成形材料を得ることができる。この射出成形材料は、インパネ等、自動車内装部品の成形体の製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1及び比較例1の自動車内装部品用射出成形材料の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】実施例1及び比較例2の自動車内装部品用射出成形材料から得られる成形体の荷重たわみ温度(HDT)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、射出成形材料を構成する各成分について説明する。
【0012】
[ポリ乳酸]
ポリ乳酸としては、ポリ乳酸、又は乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体を用いることができる。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられる。特に、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。ポリ乳酸の分子構造は、好ましくは、L−乳酸又はD−乳酸のいずれかの単位80〜100モル%と、それぞれの鏡像体の乳酸単位0〜20モル%とからなるものである。また、乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体は、L−乳酸又はD−乳酸のいずれかの単位85モル%以上〜100モル%未満と、ヒドロキシカルボン酸単位0モル%超〜15モル%以下とから構成されるものである。これらのポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸又はヒドロキシカルボン酸を原料とし、脱水重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトン等を原料として開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができるが、D−ラクチド又はL−ラクチドを主原料とすることが好ましい。
【0013】
ポリ乳酸の重量平均分子量は、成形体の機械的物性の観点から、100,000以上であることが好ましく、成形時の流動性の観点から400,000以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、溶媒にクロロホルム、カラムに東ソー社製高温SECカラム(GMHHR−H)、流量1.0ml/min、カラム温度40℃、検出器に示差屈折率検出器(RI)、リファレンスとして既知の分子量を有するポリスチレンを用いて換算して求めたものをいう。
【0014】
本発明において適用可能な市販のポリ乳酸として、例えばトヨタ自動車社製のエコプラスチックU’z(商品名)、ネイチャーワークス社製のNature works(商品名)等を挙げることができる。
【0015】
[可塑剤]
可塑剤としては、可塑化効率の観点から、分子中に2個以上のエステル基を有し、そのエステル基を構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3個のアルキレンオキサイドを平均で0.5〜5モル付加した化合物が用いられる。アルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイドが好ましく用いられる。また、可塑剤に含まれるアルキル基、アルキレン基等の炭化水素基の炭素数、例えばエステルを構成する多価アルコールや多価カルボン酸の炭化水素基の炭素数は、相溶性の観点から1〜8個が好ましく、1〜4個がより好ましい。
【0016】
可塑剤は、分子中に2個以上のエステル基を有していれば良く、特に、ポリ乳酸との相溶性の観点から2〜4個のエステル基を有することが好ましい。また、エステル基を構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3個のアルキレンオキサイド単位を平均0.5モル以上有していれば、ポリ乳酸に対して十分な可塑性を付与することができ、平均5モル以下有していれば、良好な耐ブリード性を得ることができる。
【0017】
可塑剤を製造するに際しては、従来の方法により行うことができる。例えば、可塑剤が多価カルボン酸エーテルエステルの場合は、パラトルエンスルホン酸一水和物、硫酸等の酸触媒や、ジブチル酸化スズ等の金属触媒の存在下、飽和二塩基酸又はその無水物と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとを直接反応させるか、飽和二塩基酸の低級アルキルエステルとポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとをエステル交換することにより得ることができる。具体的には、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、飽和二塩基酸、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物を、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル/飽和二塩基酸/パラトルエンスルホン酸一水和物(モル比)=2〜4/1/0.001〜0.05になるように反応容器に仕込み、トルエン等の溶媒の存在下又は非存在下に、常圧又は減圧下、温度100〜130℃で脱水を行うことにより得ることができる。溶媒を用いず、減圧下で反応を行うことが好ましい。
【0018】
本発明で用いる可塑剤としては、成形性、可塑性、耐ブリード性の観点から、コハク酸又はアジピン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とのエステルが特に好ましく用いられる。これらのエステルは、いずれかを単独で使用しても良いし、両方を組み合わせて使用しても良い。
【0019】
上記可塑剤の含有量は、十分な結晶化速度と耐熱性を得るため、ポリ乳酸100重量部に対し、5〜30重量部とすることが好ましく、10〜30重量部とすることが特に好ましい。
【0020】
[結晶核剤]
結晶核剤としては、分子中に水酸基及びアミド基を有する化合物(結晶核剤(a))と、フェニルホスホン酸又はその誘導体の金属塩(結晶核剤(b))との混合物を用いる。結晶核剤(a)である分子中に水酸基及びアミド基を有する化合物としては、ポリ乳酸との相溶性を向上させる観点から、水酸基を有する脂肪族アミドが好ましい。また、分子中に水酸基及びアミド基を有する化合物の融点は、混練時の結晶核剤の分散性を改善し、また射出成形材料の結晶化速度を向上させる観点から、65℃以上であることが好ましく、特に80〜190℃であることが好ましい。
【0021】
上記結晶核剤(a)の具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、メチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。本発明の射出成形材料の成形性、耐熱性、及び耐衝撃性の観点から、メチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のアルキレンビスヒドロキシステアリン酸アミドが好ましく、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドが特に好ましい。
【0022】
また、結晶核剤(b)であるフェニルホスホン酸又はその誘導体の金属塩は、置換基を有しても良いフェニル基とホスホン基(−PO(OH))とを有するフェニルホスホン酸又はその誘導体の金属塩である。フェニル基の置換基としては、炭素数1〜10個のアルキル基、アルコキシ基の炭素数が1〜10個のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。フェニルホスホン酸又はその誘導体の例として、無置換のフェニルホスホン酸、メチルフェニルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等を挙げることができる。無置換のフェニルホスホン酸が特に好ましい。
【0023】
フェニルホスホン酸又はその誘導体の金属塩としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、バリウム、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル等の塩が挙げられる。亜鉛塩が特に好ましい。
【0024】
結晶核剤として、分子中に水酸基及びアミド基を有する化合物(結晶核剤(a))と、フェニルホスホン酸又はその誘導体の金属塩(結晶核剤(b))とを併用する場合、これらの割合は、結晶核剤(a)/結晶核剤(b)=20/80〜80/20(重量比)とすることが好ましく、40/60〜60/40とすることが特に好ましい。
【0025】
本発明において、高結晶性ポリ乳酸系樹脂とは、ポリ乳酸と、上述の特定の可塑剤及び結晶核剤とを含む樹脂組成物を意味するものである。上述のような特定の可塑剤及び結晶核剤とポリ乳酸とを含む高結晶性ポリ乳酸系樹脂は、結晶性が高く耐熱性が向上するという格別の効果を奏する。本発明においては、高結晶性とは、耐熱性の観点から、高結晶性ポリ乳酸系樹脂の相対結晶化度が40%であることをいい、45%以上であることが好ましい。また、結晶性を高める、すなわち耐熱性を高める観点から、上記の高結晶性ポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸と、上述の特定の可塑剤及び結晶核剤とが溶融混練されたものであることが好ましい。高い結晶化度が得られる理由は定かではないが、結晶核剤(a)がポリ乳酸の溶融混練時に溶解し、成形時の冷却工程において多数の結晶核を生成する点と、結晶核剤(b)が分子中に金属イオン、アミド基等を有することによって、ポリ乳酸との相互作用(吸着性)が向上する点に起因するものと考えられる。上述の溶融混練は、例えば、押出機等を用いて、上記ポリ乳酸、可塑剤及び結晶核剤を、混練温度を好ましくは170〜240℃、より好ましくは170〜220℃にして行う。
【0026】
なお、上記相対結晶化度は次の方法により測定される。すなわち、得られた成形体を粉砕し、7.0〜8.0mg精秤し、アルミパンに封入後、DSC装置(パーキンエルマー社製ダイアモンドDSC)を用い、1stRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、さらに2ndRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から200℃まで昇温した。1stRUNに観測されるポリ乳酸樹脂の冷結晶化エンタルピーの絶対値ΔHcc、2ndRUNに観測される結晶融解エンタルピーΔHmを求め、得られた値から、下記式により相対結晶化度(%)を求めた。
相対結晶化度(%)=(ΔHm−ΔHcc)/ΔHm×100
【0027】
本発明の射出成形材料における、結晶核剤(a)の含有量は、特に限定されるものではないが、ポリ乳酸100重量部に対し、0.1〜3重量部とすることが好ましく、0.2〜2重量部とすることが特に好ましい。また、結晶核剤(b)の含有量は、ポリ乳酸100重量部に対し、0.1〜3重量部とすることが好ましく、0.2〜2重量部とすることが特に好ましい。
【0028】
[ポリオレフィン]
ポリオレフィンは、高結晶性のポリ乳酸系樹脂とポリマーアロイを形成する材料であり、本発明の射出成形材料より得られる成形体の機械的特性を高める機能を有するものである。そのようなポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン等が用いることができる。特に、ポリプロピレンは比重が小さく、本発明の射出成形材料より得られる成形体の軽量化を図ることができるとともに、入手が容易でかつ安価であるため最も好ましい。
【0029】
射出成形材料中におけるポリオレフィンの含有量は、特に限定されるものではないが、含有量が低過ぎる場合には、射出成形材料から得られる成形体の耐衝撃性等の機械的特性が低下し、また含有量が高過ぎる場合には、ポリオレフィンが過剰となり、射出成形材料の植物度が小さくなって環境に与える負荷が増すため、これらのバランスを考慮して適宜設定される。具体的には、射出成形材料中、ポリオレフィンの含有量を30〜75重量%程度とすることが好ましい。
【0030】
[相溶化剤]
ポリ乳酸、可塑剤及び結晶核剤を含む高結晶性のポリ乳酸系樹脂とポリオレフィンとは、相溶化剤によりアロイ化されてポリマーアロイが形成される。アロイ化は、高結晶性のポリ乳酸系樹脂、ポリオレフィン及び相溶化剤を加熱、溶融し、混練することにより行われる。この際に、相溶化剤の極性基がポリ乳酸に作用して、安定したポリマーアロイが形成されるものと考えられる。相溶化剤としては、上記のような機能を有する物質であれば適用可能であり特に限定されるものではないが、好適な相溶化剤の一つとして、酸無水物基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を有し、2,000〜70,000の重量平均分子量を有する変性ポリオレフィンが挙げられる。
【0031】
変性させる前の未変性のポリオレフィンとしては、1種または2種以上のオレフィンの重合体又は共重合体や、オレフィンと他のモノマーとの共重合体、及び高分子量のポリオレフィンを減成してなるもの、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
上記オレフィンとしては、炭素数2〜30個のアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ブテン等、並びに炭素数5〜30個のα−オレフィン、例えば1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1,1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。他のモノマーとしては、オレフィンと共重合性の不飽和モノマー、例えばスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及びそのアルキルエステル等が挙げられる。
【0033】
また、減成法によるポリオレフィンは、高分子量のポリオレフィンを機械的、熱的又は化学的処理により、分子量を減少させたものであり、例えば、熱処理により減成する場合には、高分子量ポリオレフィンを不活性ガス中、通常300〜450℃で0.5〜10時間程度加熱することにより行うことができる。
【0034】
変性ポリオレフィンは、上記の未変性ポリオレフィンに酸無水物基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を付与することによって得ることができる。得られる変性ポリオレフィンの重量平均分子量(上述のポリ乳酸の重量平均分子量と同様の定義)は、2,000〜70,000、好ましくは3,000〜60,000である。
【0035】
変性ポリオレフィンを製造するに際しては、未変性ポリオレフィンに、酸無水物基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を有する不飽和化合物をラジカル付加反応又はラジカルグラフト共重合させる方法、あるいは変性ポリオレフィン中の上記反応性基と反応性を有する基と、さらに酸無水物基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基とを有する二次変性剤で二次変性して、上記反応性基を導入する方法等により行うことができる。
【0036】
上記の不飽和化合物として、下記のような物質、又はこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。
・酸無水物基を有する不飽和化合物
脂肪族不飽和カルボン酸無水物(例えば無水マレイン酸、無水ハイミック酸);脂環含有不飽和カルボン酸無水物(例えば4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物);芳香環含有不飽和カルボン酸無水物(例えばテトラヒドロ無水フタル酸)等。
・カルボキシル基を有する不飽和化合物
脂肪族不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ペンテン酸、リノール酸等のモノカルボン酸や、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等のジカルボン酸);脂環含有不飽和カルボン酸(例えば、テトラヒドロ安息香酸等のモノカルボン酸や、シクロヘキセンジカルボン酸等のジカルボン酸);芳香環含有不飽和カルボン酸(例えば、けい皮酸等のモノカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等のジカルボン酸、テトラヒドロトリメリット酸等の3〜4価又はそれ以上のカルボン酸)等。
・水酸基を有する不飽和化合物
脂肪族不飽和アルコール(例えば、炭素数1〜12個の多価アルコール[エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール(メタ)アクリル酸エステル等]とアクリル酸とのエステル、ビニルアルコール、アリルアルコール);脂環含有不飽和アルコール(例えば、2−シクロペンテノール、2−シクロヘキセノール、6―メチル−2−シクロヘキセノール)等。
・アミノ基を有する不飽和化合物
脂肪族不飽和アミン(例えば、炭素数2〜12個の多価アミン[エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等]と(メタ)アクリル酸とのアミド、アリルアミン、ビニルアミン、N−メチルビニルアミン);脂環含有不飽和アミン(例えば、炭素数6〜20個の多価アミン[シクロペンタンジアミン、シクロヘキサンジアミン等]とアクリル酸とのアミド);芳香環含有不飽和アミン(例えば、炭素数6〜20個の多価アミン[フェニレンジアミン、トリレンジアミン等]と(メタ)アクリル酸とのアミド)等。
【0037】
また、二次変性剤としては下記のような物質、又はこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。
・酸無水物基及びカルボキシル基と反応性を有する二次変性剤
多価アミン(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、シクロペンタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン);多価アルコール;アルカノールアミン(例えば、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン)等。
・水酸基と反応性を有する二次変性剤
多価カルボン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリカルバリル酸、ベンゼントリカルボン酸);アミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸)等。
・アミノ基と反応性を有する二次変性剤
上記の多価カルボン酸、アミノ酸等。
【0038】
変性ポリオレフィンは、上記の不飽和化合物又は、該不飽和化合物及び二次変性剤と、未変性ポリオレフィンとを必要により適当な有機溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素、ジ−、トリ−及びテトラクロロエタン、ジクロロブタン等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジ−t−ブチルケトン等のケトン、及びエチル−n−プロピルエーテル、ジ−i−プロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−t−ブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル)に懸濁あるいは溶解させ、必要に応じて連鎖移動剤、重合禁止剤及び/又はラジカル開始剤を加え加熱撹拌することにより得ることができる。
【0039】
また、別の好適な相溶化剤として、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、チオール基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を有し、9.5〜12のSP(Solubility Parameter、溶解性パラメーター)値を有するエチレン性不飽和モノマーの共重合体を挙げることができる。共重合体中に上記カルボキシル基等の反応性基を有していれば良く、したがって、共重合体を構成する単位として上記カルボキシル基等の反応性基を有しないエチレン性不飽和モノマーや、他のモノマーを含んでいても良い。
【0040】
ここにおいてSP値とは、凝集エネルギー密度をΔE、分子容をVとするとき、下記の式で定義される量を意味するものとする。
SP値=(ΔE/V)1/2
【0041】
具体的なSP値の求め方は、例えばFedorsの方法が知られており、該方法は、該方法で得られたSP値とともに、A method for Estimating both the Solubility Parameters and Molar Volumes of Liquids, POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE, FEBRUARY, 1974, vol. 14, Issue 2, p. 147-157に記載されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0042】
反応性基を有するエチレン性不飽和モノマーの例として下記の物質、又はこれらの物質の2種以上の混合物を挙げることができる。
・カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等。
・エポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマー
グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等。
・水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー
ビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、o−、m−及びp−ヒドロキシスチレン等。
・アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマー
アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、ジフェニルアミンアクリルアミド、ジフェニルアミンメタクリルアミド等。
・チオール基を有するエチレン性不飽和モノマー
2−ビニルベンゼンチオール、ビニル−2−エチルメチルメルカプトエチルエチル、2−メルカプトエチルアクリレート、2−メルカプトエチルメタクリレート等。
・イソシアネート基を有するエチレン性不飽和モノマー
2−イソシアナトエチルアクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート、3−イソシアナトエチルアクリレート、3−イソシアナトエチルメタクリレート、ビニルイソシアネート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルメチルベンジルイソシアネート等。
【0043】
上記の、反応性基を有するエチレン性不飽和モノマーと、必要に応じてメチルアクリレート、メチルメタクリレート等の反応性基を有しないエチレン性不飽和モノマー、及び他のモノマーとを原料として、連鎖移動剤、重合禁止剤及び/又はラジカル重合開始剤等を加え共重合を行うことにより、相溶化剤としてのエチレン性不飽和モノマー共重合体を得ることができる。各モノマー種の共重合比、すなわち共重合体中の反応性基の導入率は、共重合体のSP値が9.5〜12を示すような値とする。
【0044】
相溶化剤としての上記変性ポリオレフィン、及びエチレン性不飽和モノマー共重合体は、いずれか一方を用いても良く、両方を組み合わせて用いても良い。併用する場合、変性ポリオレフィンとエチレン性不飽和モノマー共重合体との割合は、特に限定されるものではないが、例えば、変性ポリオレフィン/エチレン性不飽和モノマー共重合体(重量比)=30:70〜80:20とすることが好ましく、40:60〜70:30とすることがさらに好ましい。
【0045】
また、本発明の射出成形材料中における相溶化剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィンとのアロイ化によってポリマーアロイが形成される量であれば良く、特に限定されない。通常、射出成形材料中に1〜15重量%とすることが好ましく、3〜10重量%とすることがより好ましい。
【0046】
本発明の射出成形材料には、耐熱性をさらに向上させるため、必要に応じて有機フィラー又は無機フィラーを含有させることができる。有機フィラーとしては、ケナフ繊維、竹繊維、バナナ繊維、ヤシ繊維等の植物由来の繊維等が挙げられる。また、無機フィラーとしては、一般に熱可塑性樹脂の強化に用いられる繊維状、板状、粒状、粉末状のものであれば適用可能であり、具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維等の繊維状フィラー、ガラスフレーク、雲母、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、ベントナイト、有機変性ベントナイト、有機変性モンモリロナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト及び白土等の板状や粒状フィラーが挙げられる。これらの有機フィラー又は無機フィラーは、いずれかを単独で用いても良く、2種以上のフィラーを組み合わせて用いても良い。
【0047】
射出成形材料における有機フィラー又は無機フィラーの含有量は、種類に応じて適宜設定される。一般的には、有機フィラーは射出成形材料中に5〜20質量%、無機フィラーは射出成形材料中に1〜50重量%含有させることが好ましい。
【0048】
以上のようなポリ乳酸、本発明における可塑剤及び結晶核剤を含む高結晶性ポリ乳酸系樹脂、ポリオレフィン、相溶化剤を含む原料を、押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等の各種混練装置を用いて混練することで本発明の射出成形材料を得ることができるが、耐熱性の観点から、予め、ポリ乳酸と、本発明における可塑剤及び結晶核剤とを溶融混練し、得られた高結晶性ポリ乳酸系樹脂と、ポリオレフィン、相溶化剤とを含む原料を溶融混練することが好ましい。ポリ乳酸と、本発明における可塑剤及び結晶核剤とを溶融混練する際の混練温度は前述の通りである。
【0049】
次に、本発明の成形体について説明する。本発明の成形体は、上述の射出成形材料を、射出成形により、常法に従って成形を行うことで製造される。得られる成形体は、高い耐熱性を有し、また耐衝撃性等の機械的特性にも優れている。具体的には、JIS K7207に規定される0.45MPaの荷重を加えたときの荷重たわみ温度が100℃以上、好ましくは110℃以上である。特に、射出成形材料が有機フィラー又は無機フィラーを含む場合、110℃以上の高い荷重たわみ温度が得られ易い。このような特性を生かし、本発明の成形体は、例えば、インパネ等の自動車内装部品として好適に利用される。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
射出成形材料の原料として以下のものを用いた。
<ポリオレフィン>
ホモポリプロピレン(プライムポリマー社製、商品名J−3000GV)
【0052】
<高結晶性ポリ乳酸系樹脂>
下記の化合物をスクリュー径25mmの二軸押出機にて回転数100rpm、吐出量10kg/hの条件で混練し、作製した。混練時の樹脂温度は190℃であった。配合比率は、ポリ乳酸/(MeEO3)2SA/OHC18EB/PPA−Zn=100/10/0.25/0.25(重量比)とした。得られた高結晶性ポリ乳酸系樹脂の結晶化度は、50%であった。
・ポリ乳酸(ネイチャーワークス社製、商品名4032D、重量平均分子量200,000)
・可塑剤:コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル((MeEO3)2SA)
・結晶核剤(a):エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド(OHC18EB、日本化成社製、商品名スリパックスH)
・結晶核剤(b):フェニルホスホン酸亜鉛塩(PPA−Zn、日産化学社製、商品名エコプロモート)
【0053】
<相溶化剤>
・変性ポリオレフィン(a2)
窒素導入管、排ガス留出管、攪拌装置及び冷却管を備えた反応容器に、プロピレン99モル%及びエチレン1モル%を構成単位とするポリオレフィン(重量平均分子量:200,000)100重量部を窒素雰囲気下に入れ、気相部分に窒素を通気しながらマントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で40分間熱減成処理を行った。得られた熱減成処理物の重量平均分子量は44,000であった。
【0054】
別の反応容器に上記熱処理物95重量部、無水マレイン酸5重量部及びキシレン100重量部を入れ、窒素置換後、窒素通気下に130℃まで加熱昇温して均一に溶解させた。ここに、ジクミルパーオキサイド0.5重量部をキシレン10重量部に溶解させた溶液を滴下し、その後、キシレン還流温度まで昇温し、3時間攪拌を続けた。続いて、減圧下(1.5kPa、以下同じ)でキシレン及び未反応の無水マレイン酸を留去して、重量平均分子量45,000の1分子当たりに8個の酸無水物基を有する変性ポリオレフィン(a1)を得た。次に、変性ポリオレフィン(a1)94重量部に2−アミノエタノール6重量部を加え、180℃で1時間攪拌し、重量平均分子量45,000の1分子当たりに8個の水酸基を有する変性ポリオレフィン(a2)を得た。
【0055】
・エチレン性不飽和モノマーの共重合体
攪拌装置、加熱装置、温度計、滴下ロート、窒素吹き込み管を備えた反応容器に、メチルエチルケトン25重量部を仕込み、別のガラス製ビーカーに、メチルメタクリレート95重量部、グリシジルメタクリレート5重量部、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.5重量部を仕込み、20℃で攪拌、混合してモノマー溶液を調製し、滴下ロートに仕込んだ。反応容器の気相部の窒素置換を行った後に、密閉下80〜85℃で4時間かけてモノマー溶液を滴下し、滴下終了から2時間、83℃で熟成した後、減圧下でメチルエチルケトンを留去し、SP値10.0、重量平均分子量52,000の1分子当たりに10個のエポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマー共重合体を得た。
【0056】
相溶化剤として、上記の変性ポリオレフィン(a2)とエチレン性不飽和モノマー共重合体を重量比2:1で使用した。
【0057】
上記のポリオレフィン、ポリ乳酸系樹脂及び相溶化剤をスクリュー径18mmの二軸押出機にて回転数500rpm、吐出量5kg/hの条件で混練し、射出成形材料を得た。混練時の樹脂温度は210℃であった。
得られた射出成形材料を射出成形機を用いて金型内に射出して成形を行い、成形体を製造した。
【0058】
(比較例1及び2)
相溶化剤を配合しない以外は、上記実施例1と同様にして射出成形材料を調製し、射出成形を行って成形体を製造した(比較例1)。また、高結晶性ポリ乳酸系樹脂に代えて、上記実施例1に記載のポリ乳酸のみを用いた以外は、上記実施例1と同様にして射出成形材料を調製し、射出成形を行って成形体を製造した(比較例2)。実施例1、比較例1及び2の射出成形材料における各成分の配合量を下表にまとめて示す。
【0059】
【表1】

【0060】
製造した各成形体について、走査型電子顕微鏡観察を行い、ポリマーアロイの分散状態を調べた。また、JIS K7207に従って、試験片に0.45MPaの荷重を加えたときの荷重たわみ温度HDT(℃)を測定した。その結果を図1及び図2に示す。
【0061】
図1の電子顕微鏡写真によれば、相溶化剤を用いない比較例1では高結晶性ポリ乳酸系樹脂の大きな相(直径6〜8μm)が形成されているのに対し、実施例1では直径約2μmの高結晶性ポリ乳酸系樹脂の相が微分散しており、均一なポリマーアロイが形成されていることがわかった。また、図2に示す通り、本発明の成形体は高結晶性ポリ乳酸系樹脂が微分散しているため、高い荷重たわみ温度(耐熱性)が得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸、可塑剤及び結晶核剤を含む高結晶性ポリ乳酸系樹脂と、ポリオレフィンと、相溶化剤とを含む自動車内装部品用の射出成形材料であって、前記可塑剤が、分子中に2個以上のエステル基を有し、前記エステル基を構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3個のアルキレンオキサイドを平均で0.5〜5モル付加した化合物であり、前記結晶核剤が、結晶核剤(a):分子中に水酸基及びアミド基を有する化合物、及び結晶核剤(b):フェニルホスホン酸又はその誘導体の金属塩の混合物であり、前記相溶化剤が、酸無水物基、カルボキシル基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を有し、2,000〜70,000の重量平均分子量を有する変性ポリオレフィンであるか、及び/又はカルボキシル基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、チオール基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性基を有し、9.5〜12のSP値を有するエチレン性不飽和モノマーの共重合体である前記射出成形材料。
【請求項2】
結晶核剤(a)と結晶核剤(b)との割合が、結晶核剤(a)/結晶核剤(b)=20/80〜80/20(重量比)である請求項1に記載の自動車内装部品用射出成形材料。
【請求項3】
可塑剤が、コハク酸又はアジピン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とのエステルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の自動車内装部品用射出成形材料。
【請求項4】
ポリ乳酸100重量部に対し、可塑剤が5〜30重量部、結晶核剤(a)が0.1〜3重量部、及び結晶核剤(b)が0.1〜3重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の自動車内装部品用射出成形材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の自動車内装部品用射出成形材料を成形して得られ、JIS K7207に規定される0.45MPaの荷重を加えたときの荷重たわみ温度が100℃以上である成形体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の自動車内装部品用射出成形材料を成形して得られ、JIS K7207に規定される0.45MPaの荷重を加えたときの荷重たわみ温度が110℃以上である成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74327(P2011−74327A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229985(P2009−229985)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】