説明

自動車構造メンバ用のパイプ材、貫通孔形成パンチ及び貫通孔形成方法

【課題】自動車構造メンバとして用いられるパイプ材において、貫通孔を形成しながら、端材や亀裂の問題を解消する。
【解決手段】塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔2を形成した自動車構造メンバ用のパイプ材1において、貫通孔2は折れ曲がり縁21によりパイプ表面11と繋がった端材22を前記折れ曲がり縁21を軸として内部に向けて折り込んで形成する。前記貫通孔2は、平坦な円形先端面の縁部を刃とし、前記刃の周方向の一部を切り欠いて側面にまで延びる面取部を設けた円柱状とした貫通孔形成パンチにより、面取部を除いた範囲でパイプ表面11を打ち抜き、前記面取部の範囲で残した折れ曲がり縁21によりパイプ表面11と繋がった端材22を、前記折れ曲がり縁21を軸として内部に向けて折り込んで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を形成した自動車構造メンバ用のパイプ材、塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を自動車構造メンバ用のパイプ材に形成する貫通孔形成パンチ、そして塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を自動車構造メンバ用のパイプ材に形成する自動車構造メンバ用のパイプ材に対する貫通孔形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シャシフレームを構成するサイドメンバ又はクロスメンバ、ラテラルロッド、リヤアクスル等の自動車構造メンバは、断面円形のパイプ材を所定形状に加工して用いられる。これら自動車構造メンバ用のパイプ材は、長期にわたって腐食しないように、内面及び外面に防錆処理を施す必要がある。パイプ材の内部に対する防錆処理は、例えば特許文献1に見られるように、パイプ材からなるサイドメンバ及びクロスメンバを組み付けたシャシフレームを塗料槽又は防錆処理液槽へ完全に浸漬させ、サイドメンバ及びクロスメンバを構成するパイプ材の内面及び外面に塗料又は防錆処理液を塗布する方法が用いられる。このとき、パイプ材の内部に侵入した塗料又は防錆処理液は、シャシフレームを塗料槽又は防錆処理液槽から引き上げることにより、パイプ表面に形成された貫通孔から排出される。貫通孔は、後述する形成方法により、通例円形状である。
【0003】
【特許文献1】特開2004-074819号公報([0015]、[0029]及び[0031])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
貫通孔は、従前ドリルにより形成されていたが、生産性を向上させ、製造コストを低減する目的から、貫通孔形成パンチ(打ち抜きパンチ)による形成に移行しつつある。通常使用される貫通孔形成パンチは、先端を円錐状に尖らせた円柱形状で、パイプ表面を内向きに押し開きながら、貫通孔相当の大きさ及び形状の端材を前記パイプ表面から切り離す。ところが、すべての端材が確実にパイプ表面から切り離されることはなく、端材が貫通孔内周と僅かに繋がって残ってしまうことがあった。前記端材は、以後永続的に貫通孔内周と繋がっていれば問題ないが、ほとんどの場合、接続部分の経時的な劣化等により貫通孔内周から切り離され、パイプ材の内部に落下してしまう。これにより、パイプ材の内部で移動する端材が異音を発生させるほか、防錆を担う塗料又は防錆処理液の皮膜を端材が傷つけ、パイプ材の防錆性能を劣化させてしまう問題があった。
【0005】
また、パイプ材の材質やパイプ表面の板厚と貫通孔の大きさとの関係にもよるが、貫通孔形成パンチにより貫通孔を形成すると、貫通孔内周から亀裂が生ずる虞がある。亀裂は、貫通孔形成パンチをパイプ表面に突き立てる際、前記貫通孔形成パンチが正確にパイプ表面の直交方向から突き立てられず、パイプ表面を突き破る負荷が偏ってしまうために生ずる。仮に、貫通孔形成パンチを円周状の刃を有する構成にしても、前記刃を周方向均等にパイプ表面に突き立てられないと、やはり負荷が偏り、亀裂が生じてしまう。この貫通孔内周から生ずる亀裂は、パイプ材を自動車構造メンバとして構成される部分、例えばシャシフレームの構造強度を低下させる問題を招く。この結果、仕様を満足できない不良なシャシフレームが増え、シャシフレームの生産性を低下させる原因にもなる。
【0006】
パイプ表面に形成する貫通孔は、パイプ材の内部に塗料又は防錆処理液を侵入したり、逆に前記内部から塗料又は防錆処理液を排出するために必要であり、例えばシャシフレームの仕様として必要なものではない。しかし、現実的には、シャシフレームについて、貫通孔内周に繋がる端材による問題を解消し、またパイプ表面に亀裂を発生させない形成方法についての工夫が必要となる。そこで、自動車構造メンバとして用いられるパイプ材において、内部に塗料又は防錆処理液を侵入したり、逆に前記内部から塗料又は防錆処理液を排出する目的を十分に果たすことのできる貫通孔を形成しながら、前記端材や亀裂の問題を解消するため、貫通孔の構成及び形成方法について検討した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
検討の結果、塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を形成した自動車構造メンバ用のパイプ材において、貫通孔は、折れ曲がり縁によりパイプ表面と繋がった端材を、前記折れ曲がり縁を軸として内部に向けて折り込んで形成した自動車構造メンバ用のパイプ材を開発した。本発明のパイプ材は、貫通孔に相当する大きさ又は形状の端材を前記パイプ表面の延長として残し、前記パイプ表面から切り離されにくくしている。また、折れ曲がり縁を除く貫通孔内周のみを切断できればよいため、前記折れ曲がり縁を除く貫通孔内周に偏らせて負荷をかけてもよく、負荷を貫通孔内周に対して均等に加える必要がないことから、亀裂がパイプ表面に生じにくい利点もある。
【0008】
本発明の貫通孔は、貫通孔内周から亀裂を発生させる虞がほとんどないが、貫通孔内周と折れ曲がり縁との境界から亀裂が発生する虞がある。そこで、貫通孔は、パイプ表面を陥没させて形成されるすり鉢状凹部の底部に形成するとよい。これにより、貫通孔内周と折れ曲がり縁との境界に加わる応力は、パイプ表面を塑性変形させてすり鉢状凹部を形成する応力として分散され、前記貫通孔内周と折れ曲がり縁との境界から亀裂を発生させる虞をなくす。また、弯曲したパイプ表面に直接貫通孔を形成する場合、残す端材の向きによって貫通孔周囲の構造強度を不均一にする虞があるが、すり鉢状凹部を形成すると、貫通孔内周を含む範囲で均等に陥没した平坦な底部に貫通孔を形成でき、端材の向きにより貫通孔周囲の構造強度を不均一にする問題が解消される。更に、すり鉢状凹部はパイプ材の断面形状を複雑にする補強部位として働き、パイプ材の剛性を高める働きもある。
【0009】
貫通孔自体は、次の構造にするとよい。まず、端材がパイプ表面から確実に切り離されないために、折れ曲がり縁における厚みはパイプ表面の板厚に対して80%〜100%とし、前記折れ曲がり縁の長さは貫通孔内周の周長に対して15%〜20%にするとよい。折れ曲がり縁は、サイドメンバ又はクロスメンバであるパイプ表面そのままの板厚(100%)から、端材の折り込みに際する延びを考慮したパイプ表面の板厚の80%まで確保できる。また、折れ曲がり縁が貫通孔内周の周長に対して15%より小さいと、折れ曲がり縁の構造強度が低下して端材が切り離される可能性が出てくるし、貫通孔内周の周長に対して20%より大きいと、貫通孔内周に占める折れ曲がり縁が長くなりすぎて、貫通孔の開口面積を十分に確保できなくなることから、折れ曲がり縁は貫通孔内周の周長に対して15%〜20%の長さにする。
【0010】
上記貫通孔の形成には、次の貫通孔形成パンチを用いる。すなわち、塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を自動車構造メンバ用のパイプ材に形成する貫通孔形成パンチにおいて、平坦な円形先端面の縁部を刃とし、前記刃の周方向の一部を切り欠いて円形先端面から側面にまで延びる面取部を設けた円柱状とした貫通孔形成パンチである。この貫通孔形成パンチは、折れ曲がり縁以外の貫通孔内周を切断して端材を形成し、折れ曲がり縁を軸に前記端材を内部に折り込むため、平坦な円形先端面の縁部を刃としてパイプ表面を切断し、前記円形先端面で端材のみを内部に折り込むことができる。折れ曲がり縁の長さは面取部に比例するから、既述したところから理解されるように、この貫通孔形成パンチの面取部は、少なくとも円形先端面における幅が刃の周長に対して15%〜20%の長さにするとよい。
【0011】
本発明のパイプ材は、次の形成方法に基づいて作られる。すなわち、塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を自動車構造メンバ用のパイプ材に形成するに際し、平坦な円形先端面の縁部を刃とし、前記刃の周方向の一部を切り欠いて側面にまで延びる面取部を設けた円柱状とした貫通孔形成用パンチの前記刃により、面取部を除いた範囲でパイプ表面を打ち抜き、前記面取部の範囲で残した折れ曲がり縁によりパイプ表面と繋がった端材を、前記折れ曲がり縁を軸として内部に向けて折り込んで貫通孔を形成する。この場合、貫通孔形成パンチは、円形先端面によりパイプ表面を押し込んで陥没させたすり鉢状凹部を形成し、前記すり鉢状凹部の底部に貫通孔を形成する。また、貫通孔形成パンチは、パイプ表面の板厚に対して80%〜100%の厚みで、更に貫通孔内周の周長に対して15%〜20%の長さで、面取部の範囲の折れ曲がり縁を残すように、パイプ表面を打ち抜くとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、内部に塗料又は防錆処理液を侵入したり、逆に前記内部から塗料又は防錆処理液を排出する目的を十分に果たすことのできる貫通孔を形成しながら、端材が内部に落下する虞をなくし、前記貫通孔を形成する際に亀裂が発生する問題を解消した自動車構造メンバとして用いられるパイプ材を提供できるようになる。これは、平坦な円形先端面の縁部を刃とし、前記刃の周方向の一部を切り欠いて側面にまで延びる面取部を設けた円柱状とした貫通孔形成パンチを用い、パイプ表面を陥没させて形成されるすり鉢状凹部の底部に、折れ曲がり縁によりパイプ表面と繋がった端材を前記折れ曲がり縁を軸として内部に向けて折り込んで貫通孔を形成したことによる効果である。端材がパイプ表面と繋がったままになることから、端材の処理を要しない副次的効果も得られる。
【0013】
また、上記貫通孔形成パンチを用いて形成される貫通孔は、ドリルを用いて形成される貫通孔に比べて、加工時間が短く、また加工コストが低廉である利点が得られる。更に、パイプ表面に直接貫通孔を形成するとパイプ材の構造強度の低下を招くことも考えられるが、本発明のようにすり鉢状凹部の底部に貫通孔を形成すれば、前記すり鉢状凹部がかえってパイプ材の剛性を高めることのできる効果をもたらす。本発明は、貫通孔の形成に際する端材の始末と前記貫通孔の形成時の亀裂に対する対処を主眼とするが、本発明は貫通孔形成パンチを用いて貫通孔を形成できるようにすることで、ドリルを用いて形成される貫通孔によるパイプ材、ひいては前記パイプ材を自動車構造メンバとして構成されるシャシフレーム等の構造強度の低下までをも解消する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明に基づく貫通孔2を形成した自動車構造メンバ用のパイプ材1の一部を表わした斜視図、図2は貫通孔2を形成したパイプ材1により構成されたシャシフレーム4を防錆処理している状態を表した概念図、図3は図1中A矢視部の拡大平面図、図4は図1中A矢視部の延在直交方向拡大断面図、図5は図1中A矢視部の延在方向拡大断面図、図6は貫通孔形成パンチ3の一例を下方から見た斜視図、図7〜図9は本例の貫通孔2を形成する手順を表した図4相当断面図であり、図7はパイプ表面11の上方に貫通孔形成パンチ3を配置した段階、図8はパイプ表面11に貫通孔形成パンチ3を押し当て始めた段階、そして図9はパイプ表面11を貫通孔形成パンチ3で打ち抜き、貫通孔2を形成し終えた段階をそれぞれ表わしている。
【0015】
本発明のパイプ材1は、図1に見られるように、パイプ表面11を陥没させて形成されるすり鉢状凹部23の底部に、折れ曲がり縁21によりパイプ表面11と繋がった端材22を、前記折れ曲がり縁21を軸として内部に向けて折り込んだ貫通孔2を形成している。こうしたパイプ材1は、シャシフレーム4を構成するサイドメンバ又はクロスメンバ、ラテラルロッド、リヤアクスル等の自動車構造メンバとして利用される。貫通孔2は、パイプ材1の内部に対する塗料又は防錆処理液の侵入口又は排出口となり、パイプ材1を用いた自動車構造メンバにおける防錆処理を容易かつ短時間にする働きを有する。
【0016】
例えばパイプ材1をサイドメンバ及びクロスメンバとして構成したシャシフレーム4に防錆処理を施す際、図2に見られるように、シャシフレーム4を塗料槽又は防錆処理液槽5へ完全に浸漬させ、サイドメンバ及びクロスメンバとしたパイプ材1に形成した貫通孔2から塗料又は防錆処理液を内部に侵入させ、再びシャシフレーム4を引き上げて前記貫通孔2から塗料又は防錆処理液を外部に排出させる(図2中破線は排出される塗料又は防錆処理液を表す)。このとき、パイプ材1の端部が開放していれば、前記端部から塗料又は防錆処理液を内部に侵入又は内部から排出させることもできるが、パイプ材1の途中に貫通孔2を設けておくことにより、塗料又は防錆処理液の侵入口又は排出口が増え、より円滑な塗料又は防錆処理液の侵入又は排出が促されるわけである。
【0017】
貫通孔2は、図1、図3〜図5に見られるように、貫通孔形成パンチ3を打ち込むことによりパイプ表面11をなだらかに陥没させて形成されるすり鉢状凹部23の底部に形成される。すり鉢状凹部23は、パイプ材1の延在方向に長く、パイプ材1の延在直交方向に短い平面視楕円形にとなる。このすり鉢状凹部23は、本発明の貫通孔2の働き(塗料又は防錆処理液)に直接関係はないが、パイプ材1の断面形状を複雑にして一種の補強部位を構成し、パイプ材1の剛性を高める役割を果たす。すなわち、本発明の貫通孔2は、パイプ表面11に直接形成するだけではかえってパイプ材1の剛性を弱めてしまう虞があるが、前記すり鉢状凹部23を併せて形成することにより、むしろパイプ材1の剛性を高める効果を有することになる。
【0018】
本例の貫通孔2は、平面視円形で、折れ曲がり縁21をパイプ材1の延在方向と平行に形成し、端材22をパイプ材1の延在方向に向けている。本例は、すり鉢状凹部23の底部に貫通孔2を形成していることから、端材22の向きは任意でよいが、例えばパイプ表面11に直接貫通孔2を形成する場合、端材22をパイプ表面11に繋ぎ止める折れ曲がり縁21をパイプ材1の延在方向に平行な直線状とすることにより、端材22を内部に折り込む際に折れ曲がり縁21を中心とした範囲でパイプ表面11を潰してしまう虞をなくすことができる。
【0019】
既述したように、本例の端材22の向きは任意でよいが、貫通孔2の周長に対する折れ曲がり縁21が長すぎると十分に端材22を折り込むことができず、そもそも貫通孔2を小さくしすぎるし、逆に折れ曲がり縁21が短く過ぎると端材22がパイプ材1から切断、分離する虞が増加する。そこで、折れ曲がり縁21の長さWSCは、貫通孔2の周長Lに対して一定割合の範囲に収めるとよい(図3及び図5参照)。例えば、内径12mmφの貫通孔2の場合、周長Lは37.7mmとなり、折れ曲がり縁21の長さWSCは6〜7mmが好適である(貫通孔2の周長Lに比べて15%〜20%)。
【0020】
また、本発明の貫通孔2は、パイプ表面11をなだらかに陥没させて形成されるすり鉢状凹部23の底部に、折れ曲がり縁21を残して端材22を内部に折り込んで形成されるが、パイプ表面11から貫通孔形成パンチ3の剪断により切り離された端材22がそのまま貫通孔形成パンチ3に折り込まれる際、折れ曲がり縁21が塑性変形を起こして薄くなる虞がある。そして、前記折れ曲がり縁21の厚みが薄くなりすぎると、やはり端材22がパイプ表面11から切断、分離する危険性が増加する。これから、後述するように、貫通孔形成パンチ3は貫通孔2を形成するに十分な程度だけパイプ表面11を貫通させ、過剰に端材22を内部に押し込まないように途中に留めることにより、折れ曲がり縁21の厚みtSCを一定範囲に収めることが望ましい。例えば、パイプ表面11の厚みtPが2.5mmである場合、折れ曲がり縁21における厚みtSCは2.0mm以上確保するとよい(パイプ表面11の厚みtPの80%〜100%)。
【0021】
本例の貫通孔2をパイプ材1に形成する貫通孔形成パンチ3は、図6に見られるように、平坦な円形先端面31の縁部を刃32とし、前記刃32の周方向の一部を切り欠いて側面にまで延びる面取部33を設けた円柱状である。円形先端面31は、刃32がパイプ表面11を剪断する前に前記パイプ表面11を内部に向けて押し込み、すり鉢状凹部23を形成する働きを有する。この円形先端面31は、刃32によりパイプ表面11から端材22が剪断、分離された後、最初に端材22を内部に向けて折り曲げる働きも有する。
【0022】
面取部33は、折れ曲がり縁21に対応してパイプ表面11を剪断しない部分である。この面取部33は、例えば垂直面でも構わないが、面取部33は刃32によりパイプ表面11から剪断、分離された端材22を内部に押し込む働きも有するので、本例のように傾斜面とすることが望ましい。この場合、面取部33の傾斜角度α(図7参照)は60度〜70度の範囲が好ましい。また、折れ曲がり縁21の長さWSCは、垂直面である面取部33の幅又は傾斜面である面取部33の下縁の幅に等しくなることから、少なくとも円形先端面31における幅は、刃32の周長(=貫通孔の周長L)に対して15%〜20%の長さにする。
【0023】
上記貫通孔形成パンチ3を用いた貫通孔2の形成手順は、次の通りである。まず、図7に見られるように、貫通孔2の形成対象となるパイプ材1を治具(図示略)に位置固定し、貫通孔2の形成位置上方に配置する。本例では、端材22の向きをパイプ材1の延在方向に揃えているで、貫通孔形成パンチ3の面取部33は、この段階でパイプ材1の延在方向(図7中紙面直交方向)に揃えておく。前記面取部33とパイプ材1の延在方向とは、例えば方向を固定した貫通孔形成パンチ3に対して水平方向の向きを調整自在にパイプ材1を治具に固定したり、逆に特定方向を向けて治具に固定したパイプ材1に対して貫通孔形成パンチ3の面取部33の向きを調整自在にすることにより、一致させることができる。
【0024】
こうして準備を終えた後、次に、図8に見られるように、貫通孔形成パンチ3を下降させ、パイプ表面11を打ち抜き始める。この段階で、貫通孔形成パンチ3は、面取部33を除く円形先端面31の縁部に設けられた刃32によりパイプ表面11を剪断し、貫通孔2の周縁と端材22とを形成し始める。貫通孔形成パンチ3がパイプ表面11に押し当てられた直後は、当然端材22は形成されておらず、貫通孔2もない状態にあるため、パイプ表面11は貫通孔形成パンチ3の円形先端面31を中心として全体が押し込まれ、すり鉢状凹部23が形成される。そして、面取部33は刃32を有していないので、面取部33に対応する部位は剪断されない。これにより、端材22は、刃32によって剪断を受ける貫通孔2の内周と、面取部33により剪断を受けない折れ曲がり縁21とに分かれ、円形先端面31により押し込まれていくことになる。
【0025】
そして、図9に見られるように、貫通孔形成パンチ3の円形先端面31が完全にパイプ表面11を打ち抜いた段階では、端材22が折れ曲がり縁21を除いて完全にパイプ表面11から切断、分離され、貫通孔形成パンチ3の面取部33により押し込まれる。端材22の折れ曲がり角度は、まず面取部33の傾斜角度に倣うが、実際には折れ曲がり縁21が面取部33の圧迫を受けて、端材22を内部へ押し込む結果、端材22は貫通孔2に対して略直交するまで折り曲げられる。ここで、既述したように、貫通孔形成パンチ3を過剰に打ち込むと、折れ曲がり縁21が薄く塑性変形するため、円形先端面31が完全に内部まで打ち込まれた後、面取部33が折れ曲がり縁21を圧迫する程度に至れば、貫通孔形成パンチ3の打ち込みをやめ、貫通孔2の形成作業を終了するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に基づく貫通孔を形成した自動車構造メンバ用のパイプ材の一部を表わした斜視図である。
【図2】貫通孔を形成したパイプ材により構成されたシャシフレームを防錆処理している状態を表した概念図である。
【図3】図1中A矢視部の拡大平面図である。
【図4】図1中A矢視部の延在直交方向拡大断面図である。
【図5】図1中A矢視部の延在方向拡大断面図である。
【図6】貫通孔形成パンチの一例を下方から見た斜視図である。
【図7】本例の貫通孔を形成する手順として、パイプ表面の上方に貫通孔形成パンチを配置した段階を表した図4相当断面図である。
【図8】本例の貫通孔を形成する手順として、パイプ表面に貫通孔形成パンチを押し当て始めた段階を表した図4相当断面図である。
【図9】本例の貫通孔を形成する手順として、パイプ表面を貫通孔形成パンチで打ち抜き、貫通孔を形成し終えた段階を表した図4相当断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 パイプ材
2 貫通孔
21 折れ曲がり縁
22 端材
23 すり鉢状凹部
3 貫通孔形成パンチ
31 円形先端面
32 刃
33 面取部
WSC 折れ曲がり縁の長さ
WSC 折れ曲がり縁の長さ
tSC 折れ曲がり縁の厚み
tP パイプ表面の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を形成した自動車構造メンバ用のパイプ材において、貫通孔は、折れ曲がり縁によりパイプ表面と繋がった端材を、前記折れ曲がり縁を軸として内部に向けて折り込んで形成したことを特徴とする自動車構造メンバ用のパイプ材。
【請求項2】
貫通孔は、パイプ表面を陥没させて形成されるすり鉢状凹部の底部に形成した請求項1記載の自動車構造メンバ用のパイプ材。
【請求項3】
貫通孔は、折れ曲がり縁がパイプ表面の板厚に対して80%〜100%の厚みである請求項1又は2いずれか記載の自動車構造メンバ用のパイプ材。
【請求項4】
貫通孔は、折れ曲がり縁が貫通孔内周の周長に対して15%〜20%の長さである請求項1〜3いずれか記載の自動車構造メンバ用のパイプ材。
【請求項5】
塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を自動車構造メンバ用のパイプ材に形成する貫通孔形成パンチにおいて、平坦な円形先端面の縁部を刃とし、前記刃の周方向の一部を切り欠いて円形先端面から側面にまで延びる面取部を設けた円柱状としたことを特徴とする貫通孔形成パンチ。
【請求項6】
面取部は、少なくとも円形先端面における幅が刃の周長に対して15%〜20%の長さである請求項5記載の貫通孔形成パンチ。
【請求項7】
塗料又は防錆処理液を内部に侵入させる又は内部から排出させる円形状の貫通孔を自動車構造メンバ用のパイプ材に形成するに際し、平坦な円形先端面の縁部を刃とし、前記刃の周方向の一部を切り欠いて側面にまで延びる面取部を設けた円柱状とした貫通孔形成用パンチの前記刃により、面取部を除いた範囲でパイプ表面を打ち抜き、前記面取部の範囲で残した折れ曲がり縁によりパイプ表面と繋がった端材を、前記折れ曲がり縁を軸として内部に向けて折り込んで貫通孔を形成することを特徴とする自動車構造メンバ用のパイプ材に対する貫通孔形成方法。
【請求項8】
貫通孔形成パンチは、円形先端面によりパイプ表面を押し込んで陥没させたすり鉢状凹部を形成し、前記すり鉢状凹部の底部に貫通孔を形成する請求項7記載の自動車構造メンバ用のパイプ材に対する貫通孔形成方法。
【請求項9】
貫通孔形成パンチは、パイプ表面の板厚に対して80%〜100%の厚みで、面取部の範囲の折れ曲がり縁を残す請求項7又は8いずれか記載の自動車構造メンバ用のパイプ材に対する貫通孔形成方法。
【請求項10】
貫通孔形成パンチは、貫通孔内周の周長に対して15%〜20%の長さで、面取部の範囲の折れ曲がり縁を残す請求項7〜9いずれか記載の自動車構造メンバ用のパイプ材に対する貫通孔形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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