説明

自動車用の配電用部材

【課題】軽量化した自動車用の配電用部材を提供する。
【解決手段】実施形態に係る配電用部材10は、たとえば自動車のバッテリを各系統に配電するためのバスバーや、自動車のモータに配電するためのバスバーなどの配電用部材として用いられる。この配電用部材10は、第1材料により形成される第1層と、第1材料より電気抵抗が小さい第2材料により形成され、第1層より層の厚さが薄い第2層とを含むシートを曲げて重ねることで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のシートから形成される自動車用の配電用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の様々な装置を作動させるために、送電経路としてバスバーなどの配線用部材が用いられる(たとえば特許文献1および2参照)。特許文献1には金属製のバスバーが開示され、特許文献2には配線フィルムをロール状に巻いて成形されたワイヤーハーネスが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−339947号公報
【特許文献2】特開2010−003253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車の配電用部材には、たとえば最大で300アンペア程度の電流が流れるため高い耐電流特性が求められる。高い耐電流特性を満たすため、従来、配電用部材は銅などの金属で構成されているが、一方で配電用部材が大きく、かつ重くなるという欠点があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軽量化した自動車用の配電用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の自動車用の配電用部材は、第1材料により形成される第1層と、第1材料より電気抵抗が小さい第2材料により形成され、第1層より層の厚さが薄い第2層とを含むシートを、曲げて重ねることで形成する。この態様によると、第1材料で配線用部材を形成する場合と比べて、より小型化および軽量化できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軽量化した自動車用の配電用部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る配電用部材の斜視図である。
【図2】実施形態に係るシートの斜視図である。
【図3】実施形態に係る配電用部材を説明するための図である。
【図4】第1変形例の配電用部材を説明するための図である。
【図5】第2変形例の配電用部材を説明するための図である。
【図6】第3変形例の配電用部材を説明するための図である。
【図7】第4変形例に係る配電用部材の斜視図である。
【図8】図8(a)は第5変形例に係る配電用部材を示し、図8(b)は第6変形例に係る配電用部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、実施形態に係る配電用部材10の斜視図である。配電用部材10は、たとえば自動車のバッテリを各系統に配電するためのバスバーや、自動車のモータに配電するためのバスバーなどに用いられる。自動車の配電用部材10は、たとえばエンジンルームにおいてスペース上の制約がある中で、非常に大きい電流を流される。配電用部材10は、外部電極(不図示)に接続する2つの配電端部20と、2つの配電端部20を導通する導通部30とを備える。なお、図1には、棒状に形成された配電用部材10を示すが、配電用部材10はこの形状に限定されることなく、外部電極の位置、スペースなどの条件により形状が定められてよい。
【0010】
配電端部20は、導通部30より厚く形成され、中央には外部電極を挿入するための穴状の接続部22が形成されている。なお、外部電極への接続は、外部電極を挿入する方法のみに限定されることなく、はんだ付け、ロウ付け、溶着、カシメなど種々の方法を用いてなされてよい。なお、配電端部20に外部電極を溶接で直接接続してもよく、配電端部20が外部電極に接続するための接続部として機能してよい。配電用部材10は、シートを曲げて重ねて形成されている。このシートについて図2を用いて具体的に説明する。
【0011】
図2は、実施形態に係るシート12を模式的に示す斜視図である。なお各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。シート12は配電用部材10を成形する前の素材である。シート12は、銅などの金属材料17により形成される第1層と、金属材料17より電気抵抗が小さく、層の厚さが薄く、かつ形状が外力に対して変形しやすいグラフェン18により形成される第2層と、を重ねて構成される。
【0012】
実施形態のシート12の一部を形成するグラフェン18は、電流密度は銅の1000倍、引っ張り強度は鋼鉄の数十倍、比重は銅の4分の1、熱伝導率も銅の10倍以上という特性を有する。つまりグラフェンは、軽くて、丈夫で、耐電流特性が高い特性を有する。グラフェンを配電用部材10に用いることで、配電用部材10を小型化および軽量化できる。グラフェンは炭素の6員環が単相で形成されており、グラフェン18の第2層の厚さW2は0.35nm程度である。つまりグラフェン18の第2層は薄い透明の膜であり、金属材料17より柔軟で、剛性が低い。
【0013】
金属材料17は、導電性を有し、たとえば銅、ニッケル、コバルト、白金または鉄などで形成される。これらの金属は、グラフェンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により製造する際の金属触媒として用いられ、この金属の表面にグラフェンの層が形成される。金属材料17の厚さW3は、実施例では10μmに形成された態様として説明するが、これに限られず、1μm〜1000μmに形成されてよい。
【0014】
ここで、グラフェン18のみで配電用部材を構成すれば、配電用部材を軽くすることができるが、そのためには、金属触媒上に形成されたグラフェン18を金属触媒から剥がす必要がある。グラフェン18を金属触媒から剥がす際にグラフェン18に損傷が生じる可能性がある。そこで金属触媒上に形成されたグラフェン18を金属触媒とともにそのまま剥がさずに用いることで、グラフェン18を金属触媒から剥がす際に損傷が生じることを防ぐことができる。
【0015】
グラフェン18で構成される第2層は引っ張り強度は高いものの非常に薄い膜なので、所与の形状を保持することは困難である。一方、金属材料17で構成される第1層は、グラフェン18より厚く、形状を保持する力は高い。またグラフェン18単体での加工において、薄膜のグラフェン18同士が静電気で不必要に張り付く可能性もあり、一旦張り付くと透明な薄膜のグラフェン18を剥がすことは非常に煩瑣である。したがって、グラフェン18単体での加工は容易ではない。そこでグラフェン18と、グラフェン18より加工しやすく、加工した形状を保持できる金属材料17の第1層とで配電用部材10を形成することで、配電用部材10を所与の形状に容易に加工することが可能となる。
【0016】
第1層の金属材料17は、対向する両辺に位置するシート端部14と、シート端部の間に形成されるシート薄肉部16と、を有する。シート端部14のそれぞれは、シート薄肉部16より厚く形成される。たとえばシート端部14の厚さW1は、100μmであり、シート端部14の長尺の長さは200mmである。このシート12を成形して、配電用部材10を製造する。
【0017】
図3は、実施形態に係る配電用部材10を説明する図である。図3(a)は配電端部20の側面図を示し、図3(b)は配電用部材10の断面図を示し、図3(c)は配電用部材10の上面図を示す。なお、本図ではシート12を4つ折りした形状を示すが、4つ折りに限られず、複数回折りたたんでよい。
【0018】
配電用部材10は、シート12を所定幅で折りたたむように形成される。すなわち、配電用部材10はシート12を曲げて重ねて複数層にすることで形成されている。配電端部20は、シート端部14およびグラフェン18から形成され、導通部30はシート薄肉部16およびグラフェン18から形成されている。配電端部20に形成された接続部22は、貫通穴であって、ボルトやビスなどの外部電極が挿入されて電気的に接続される。図3(a)に示すように最外層19に金属材料17を配し、グラフェン18を最外層に露出しないようにする。配電端部20に外部電極を接続する場合、炭素で構成されるグラフェン18にはロウ付け、はんだ付け、溶着などの接続が難しい。そこで、配電用部材10の最外層19に金属材料17を配することで、配電端部20を外部電極へ容易に接続できる。
【0019】
図3(b)に示すように、配電端部20は導通部30と比べて厚く形成されている。たとえばカシメにより配電端部20を外部電極に接続しようとしても、配電端部20が導通部30のように薄ければ接続は難しい。そこで、配電端部20を厚く形成し、所定の大きさを確保することで、配電端部20の外部電極への接続を容易にすることができる。また、導通部30を薄く形成することで狭い空間に配電用部材10を配設することができる。たとえば100μmの厚さのシート端部14を10層にして、配電端部20の厚さを1mmに形成してよく、それ以上の厚さにしてもよい。
【0020】
図4は、第1変形例の配電用部材40を説明する図である。図4(a)は配電端部42の側面図を示し、図4(b)は配電用部材40の断面図を示し、図4(c)は配電用部材40の上面図を示す。配電用部材40は、外部電極に接続するための接続部46が形成される配電端部42と、配電端部42を導通する導通部44とを備える。たとえば配電端部42の軸方向長さは略10mmであり、導通部44の軸方向長さは70mm〜500mmである。
【0021】
図4(a)に示すように、配電用部材40はシート12を渦巻き形状に巻回するように形成されている。すなわち、配電用部材40はシート12を曲げて重ねて複数層にすることで形成される。配電用部材40の最外層に金属材料17を配し、グラフェン18を最外層に露出しないようにする。これにより配電端部20を外部電極へ容易に接続できる。
【0022】
図4(b)および図4(c)に示すように、導通部44は配電端部42と比べて小径に形成されている。つまり、配電端部20を大径に形成して所定の大きさを確保することで、配電端部20の外部電極への接続を容易にすることができる。また、導通部44を小径に形成することで、狭い空間に配電用部材40を配設することができる。
【0023】
図5は、第2変形例の配電用部材50を説明する図である。図5(a)は配電端部52の側面図を示し、図5(b)は配電用部材50の上面図を示す。この変形例では、図4に示す配電用部材40と同じようにシート12を渦巻き形状に巻回して形成されており、さらに導通部54がシート薄肉部16をねじることで形成されている。
【0024】
シート薄肉部16をねじることで導通部54が形成されることにより、導通部54の内部空間をほぼ無くして強度を高めることができる。また、導通部54の径を小さくでき、配電用部材10を小型化できる。また、シート薄肉部16をねじった後に導通部54にプレス加工を施して強度を高めてよい。
【0025】
図6は、第3変形例の配電用部材60を説明する図である。図6(a)は配電用部材60を成形する前の状態であるシート端部62の側面図を示し、図6(b)は配電用部材60を成形した配電端部62aの側面図を示し、図6(c)は配電用部材60の上面図を示す。
【0026】
第3変形例の配電用部材60では、シート12を中空にして巻回した後、プレス加工して成形される。具体的には、棒状の巻芯にシート12を巻き付けて図6(a)に示す円筒形状に形成し、シート薄肉部16をねじり、プレス加工により中空を潰して図6(b)に示す折り曲げたような配電端部62aを形成する。プレスして配電用部材60を形成することで、配電用部材60の強度を高めることができる。また配電用部材60の最外層に金属材料17を配することで、グラフェン18の露出を抑えることができる。図6(c)に示すように、配電端部62aは貫通孔に形成された接続部66を有する。接続部66は外部電極に接続される。
【0027】
図7は、第4変形例に係る配電用部材70の斜視図である。第4変形例の配電用部材70は、図4に示す第2変形例の配電用部材40に樹脂成形を施したものである。具体的には、配電用部材70は、エポキシ樹脂の被覆部78による導通部44にモールド成形がなされている。配電端部42に樹脂成形を施すとエポキシ樹脂が付着して絶縁されるおそれがあるため、導通部44にのみ樹脂成形がなされる。これにより導通部44を絶縁しつつ、保護することができる。被覆部78は、シリコンやウレタンなどで形成されてよい。
【0028】
被覆部78は、配電端部42と同径に形成され、配電用部材70の表面が滑らかになるように形成される。図7には配電端部42が配電端部42の形状が円筒形状であるため、被覆部78の外形も円筒形状に形成されているが、図1のように配電端部20が略直方体である場合には被覆部78の外形も直方体に形成されてよい。また被覆部78は、導通部44をコーティングするように薄い被膜で覆うように形成されてもよい。また樹脂成形により導通部44を屈曲させたりして所与の形状に変形してよい。
【0029】
図8(a)は第5変形例に係る配電用部材80を示し、図8(b)は第6変形例に係る配電用部材90を示す図である。配電用部材80および配電用部材90は導通部に弾性を有する。
【0030】
図8(a)に示す配電用部材80はシート12を巻回して形成され、接続部86が設けられた円筒形状の配電端部82と、まきばね形状に形成された導通部84を有する。グラフェンは薄膜で、しなやかな特性を有する。そこで金属材料17と合わせてまきばね形状にすることで、配電用部材80に弾性を持たせることができる。この弾性により、可動する外部電極や振動する外部電極に配電用部材80を用いることができる。なお、導通部84を樹脂でモールドすると固くなって弾性が失われる可能性があるため、導通部84の周囲を樹脂成形しなくてよい。接続部86は貫通孔に形成され、外部電極に接続される。
【0031】
図8(b)に示す配電用部材90はシート12を折りたたんで形成され、接続部96が設けられた直方体の配電端部92と、板ばねとして機能する導通部94を有する。これにより配電用部材90は弾性を有することができ、可動する外部電極や振動する外部電極に配電用部材90を用いることができる。接続部96は貫通孔に形成され、外部電極に接続される。
【0032】
本発明は上述の各実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施例も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0033】
10 配電用部材、 12 シート、 14 シート端部、 16 シート薄肉部、 17 金属材料、 18 グラフェン、 20 配電端部、 22 接続部、 30 導通部、 40 配電用部材、 42 配電端部、 44 導通部、 46 接続部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1材料により形成される第1層と、前記第1材料より電気抵抗が小さい第2材料により形成され、前記第1層より層の厚さが薄い第2層とを含むシートを、曲げて重ねることで形成したことを特徴とする自動車用の配電用部材。
【請求項2】
前記シートを渦巻き形状に巻回するように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車用の配電用部材。
【請求項3】
前記シートを折りたたむように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車用の配電用部材。
【請求項4】
最外層に前記第1層を配することを特徴とする請求項2または3に記載の自動車用の配電用部材。
【請求項5】
前記第1層は、
対向する両辺に位置するシート端部と、
前記シート端部の間に形成されて、前記シート端部より厚さの薄いシート薄肉部と、を有し、
当該自動車用の配電用部材は、
前記シート端部により形成された2つの配電端部と、
前記シート薄肉部により形成されて2つの前記配電端部を導通する導通部と、を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の自動車用の配電用部材。
【請求項6】
前記配電端部は、外部電極に接続するための接続部として機能することを特徴とする請求項5に記載の自動車用の配電用部材。
【請求項7】
前記導通部は、弾性を有することを特徴とする請求項5または6に記載の自動車用の配電用部材。
【請求項8】
前記導通部は、前記シート薄肉部をねじることで形成されることを特徴とする請求項5または6に記載の自動車用の配電用部材。
【請求項9】
前記第2材料は、グラフェンであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の自動車用の配電用部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−238487(P2012−238487A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106929(P2011−106929)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【Fターム(参考)】