説明

自動車用ホイールリムの成形方法

【課題】 アルミニウム合金からなる円筒形素材を電磁成形により拡径して、外径の小さいドロップ部と外径の大きい両側部からなる筒状体2を成形した後、カーリング金型5,5により両側部2b,2cの端部を軸方向にプレスして外カーリング加工する場合に、筒状体2の座屈を防止する。
【解決手段】 カーリング加工の際、筒状体2のドロップ部の外周を座屈防止用金型3aで拘束する。座屈防止用金型がカーリング金型による軸圧縮の加圧力を受け止めるので、筒状体2の座屈変形が防止される。この座屈防止用金型3aは、電磁成形に際し円筒形素材の外周側に配置する分割金型を、そのまま用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製板又は押出材からなる自動車用ホイールリムの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車やトラック、バギーカー等に用いられるホイールの製造方法として、下記特許文献1に、アルミニウム合金からなる円筒形素材の外周側に、内面側が成形面とされた電磁成形用金型を配置し、前記円筒形素材の内周側に電磁成形用コイルを配置し、その状態で前記電磁成形用コイルに電気エネルギーを投入し、前記円筒形素材を拡径して前記成形用金型の成形面に押し付け、外径の小さいドロップ部と該ドロップ部より外径の大きい両側部からなる筒状体を成形し、さらに両側部の端部にカーリング加工を加えてホイールリムを成形することが記載されている。
【0003】
なお、電磁成形とは、高電圧で蓄電されている電気エネルギー(電荷)を電磁成形用コイルに瞬時に投入(放電)することにより、電磁成形用コイルがきわめて短時間に強力な磁場を形成し、この磁場内に置かれたワーク(被加工物)が磁場の反発力(フレミングの左手の法則に従ったLorentz力)によって強い拡張力や収縮力を受けて高速で塑性変形することを利用し、ワークを所定形状に成形する技術であり、この例では、カップ状の部材は強い拡張力により外径方向に拡径し、電磁成形用金型の成形面に押し付けられる。
【0004】
上記の方法では、円筒形素材として、均一な肉厚の押出材又は板材を曲げ加工して筒形とし端部を溶接したものを用い、ドロップ部より両側部を大きく拡径することから、ドロップ部の肉厚が大きく(拡径による肉厚の減少量が小さい)、両側部の肉厚がより小さい(拡径による肉厚の減少量が大きい)ホイールリムを成形することができる。そのため、ドロップ部にディスクを固定したときホイールリム側に溶接歪みが生じにくく、かつ肉厚に見合った大きい荷重を支えることができる。また、ドロップ部の肉厚が同じであれば、両側部の肉厚が薄い分、ホイールリム全体を軽量化することができ、しかも両側部、特に端部近傍の肉厚が小さいことにより、カーリング等の端部加工が行いやすい利点がある。なお、ホイールリムの端部カーリング加工については下記特許文献2にも記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−95982号公報
【特許文献2】特開2004−224292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電磁成形後のカーリング加工において、両側部の端部にプレスによりカーリング金型を押し付け、該端部をカーリング加工して外方向に湾曲成形(外カーリング加工)する際に、カーリング金型による軸方向の押圧力により、筒状体のドロップ部が軸方向内向きに座屈するという問題がある。
従って、本発明は電磁成形法及びプレスによるカーリング加工法を適用して筒形素材からホイールリムを成形する場合に、上記問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動車用ホイールリムの成形方法は、金属製の円筒形素材の外周側に、内周面が成形面とされた電磁成形用金型を配置し、前記円筒形素材の内周側に電磁成形用コイルを配置し、その状態で前記電磁成形用コイルに電気エネルギーを投入し、前記円筒形素材を拡径して前記成形用金型の成形面に押し付け、外径の小さいドロップ部と該ドロップ部より外径の大きい両側部からなる筒状体を成形し、前記筒状体のドロップ部の外周を座屈防止用金型で拘束し、両側部の端部を軸方向にプレスして外カーリング加工することを特徴とする。
【0008】
円筒形素材としては、均一な肉厚の押出材又は板材を曲げ加工して筒形とし端部を溶接したものを用いることができる。その素材としては導電率が高いアルミニウム(アルミニウム合金を含む)や銅(銅合金を含む)などが望ましく、特にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)が望ましい。
前記電磁成形用金型としては、成形後の筒状体のドロップ部と両側部に対応する形状の成形面を有するものを用いることができる。ほかに、両側部の一部又は全部に対応する成形面をもたず、成形される筒状体の軸方向長さに比べて成形面の軸方向長さが短い電磁成形用金型、すなわち、内周面が筒状体のドロップ部に対応する形状の成形面からなるもの、あるいは内周面が筒状体のドロップ部と両側部の一部に対応する形状の成形面からなるものを用いることができる。
【0009】
プレスによる外カーリング加工は、両側部の端部にカーリング金型を押し付けることにより行われる。カーリング金型は周知の円弧状工具(半円弧、1/4円弧)又は円錐状工具を使用することができる。
前記座屈防止用金型は、少なくとも筒状体のドロップ部に対応する内周面をもつ。また、当該金型がプレスによるカーリング加工を妨げないように、カーリング加工を受ける両端部は金型から露出している必要がある。座屈防止用金型として専用の金型を用いてもよいが、前工程で用いた電磁成形用金型をそのまま用いることもできる。
カーリング加工後は、必要に応じて、ロールフォーミング加工を施す。ロールフォーミング加工は、筒状体の内側と外側をローラで挟み込んで行う加工法であり、筒状体の断面形状をホイールリムの最終形状に整える際に用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電磁成形法及びカーリング加工法を適用して筒形素材からホイールリムを成形する場合に、プレスによるカーリング加工において、筒状体のドロップ部に軸方向内向きの座屈が発生するのが防止される。また、座屈防止用金型として、電磁成形用金型をそのまま用いる場合、設備投資の負担が軽減され、かつ電磁成形用金型から座屈防止用金型への交換を行わずに済むので、成形工程の簡略化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1〜図5を参照して、本発明をより具体的に説明する。
図1は、仮想線で示す円筒形素材1を電磁成形法により拡径して、外径の小さいドロップ部2aとそれより外径の大きい両側部2b,2cからなる筒状体2(図2参照)を成形する工程を示す。
円筒形素材1は、円形断面を有する均一な肉厚のアルミニウム合金押出材からなる。この円筒形素材1の外周側に、内面側が成形面とされた電磁成形用金型3が配置され、円筒形素材1の内周側に電磁成形用コイル体4が配置され、円筒形素材1、電磁成形用金型3及び電磁成形用コイル体4は、それぞれの中心軸がほぼ一致している。電磁成形用金型3は、図1に示すように、長さ方向に分割された3つの分割金型3a〜3cからなり、分割金型3aは筒状体2のドロップ部2aに対応し、分割金型3b,3cは両側部2b,2cに対応する内周面形状(成形面)を有する。また、各分割金型3a〜3cは縦方向に2つに分割可能とされている。
【0012】
電磁成形用金型3において、筒状体2のドロップ部2aに対応する分割金型3aの成形面は中央部が円筒形で内径が最も小さく、その両側は外側(分割金型3b,3c側)に向かってしだいに内径が大きくなっている。筒状体2の両側部2b,2cに対応する分割金型3b,3cの成形面は分割金型3aに近い部分のみがしだいに内径が大きくなり、その外側はほぼ円筒形である。分割金型3aの成形面の中央部では、円筒形素材1の外周面と成形面の間に若干の隙間が形成されている。また、円筒形素材1の内周面と電磁成形用コイル体4の間にも大きくない隙間が形成されている。
【0013】
なお、電磁成形用金型3は導電率の低い金属、例えばステンレス鋼等からなるのが望ましい。後述する座屈防止用金型として用いるのでなければ、金属以外の材料、例えば繊維強化プラスチックやベークライトなどの導電性のない構造材を用いることもできる。電磁成形用コイル体4は、電気絶縁体内に成形用コイルが埋め込まれたものである。
円筒形素材1の材質としては、成形しやすく導電率が高いものが望ましく、例えば6063,6061,6N01等のJIS6000系アルミニウム合金のO材(調質;焼きなまし)が好適である。
【0014】
図1(a)の仮想線に示すように、電磁成形用金型3の内部に円筒形素材1を設置し、その内部に電磁成形用コイル体4を挿入し、該電磁成形用コイル体4に電気エネルギーを投入すると、円筒形素材1に磁気反発力が生じ、円筒形素材1は瞬間的に拡径して金型3の成形面に打ち当たり、当該成形面に沿った形状に成形され、ドロップ部2aの外径が小さく、両側部2a,2bの外径が大きくなった筒状体2となる(図2参照)。この例では、ドロップ部2aはその中央部において拡径率はゼロに近く、外側に行くほど拡径率が高く、両側部2b,2cでは拡径率が最も大きくなっているから、両側部2b,2cの肉厚は、ドロップ部2a(特にその中央部)に比べて薄肉となっている。
【0015】
電磁成形後は、分割金型3b.3cを分割して外し、電磁成形用コイル体4を抜き出し、筒状体2の両側部2b,2cの端部に対し、プレスによる外カーリング加工を行う。
図3はカーリング加工工程を説明するもので、電磁成形用金型3の一部である分割金型3aが継続して筒状体2の周囲に配置され、ドロップ部2aの外周を拘束した状態となっている。この分割金型3aが本発明でいう座屈防止用金型に相当する。
筒状体2の両側部2b,2cの端部に対し、それ自体周知のカーリング金型5,5を同時に前進させて押し付けると、図4に示すように、前記端部が略半円弧状の溝5aに沿って外カーリング変形を起こす。このとき、筒状体2はプレスの強い加圧力で軸圧縮されるので、通常であればドロップ部2aにおいて座屈変形を起こしやすいが、分割金型3aがドロップ部2aの外周を拘束して、軸圧縮の加圧力を受け止めるので、座屈変形が防止される。
カーリング加工後、図5に示すように、カーリング金型5,5を後退させ、分割金型3aを分割して取り外すことにより、筒状体6(ホイールリム)が得られる。必要に応じて、この筒状体6に対し、さらにローリング加工を施して、ホイールリム製品とすることもできる。
【0016】
なお、上記の例では、電磁成形工程において、円筒形素材1の全長をカバーする電磁成形用金型3(3a〜3c)を用いたが、全長をカバーするのではなく、例えば筒状体2のドロップ部2aに相当する範囲をカバーする電磁成形用金型(すなわち分割金型3a)のみを円筒形素材1の周囲に配置し、ドロップ部2aを前記金型の成形面に沿った形状に成形するとともに、両側部を電磁成形力に応じて自由変形させる方法をとることもできる。
また、上記の例では、カーリング加工工程において、電磁成形用金型3を構成する分割金型3aを座屈防止用金型として用いたが、別途、専用の座屈防止用金型を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】円筒形素材を電磁成形する工程を説明する断面図である。
【図2】電磁成形された筒状体の断面図である。
【図3】円筒形素材をカーリング加工する工程を説明する断面図である。
【図4】同じく円筒形素材をカーリング加工する工程を説明する断面図である。
【図5】同じく円筒形素材をカーリング加工する工程を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 円筒形素材
2 筒状体
2a ドロップ部
2b,2c 両側部
3 電磁成形用金型
3a〜3c 電磁成形用金型を構成する分割金型
4 電磁成形用コイル体
5 カーリング金型
6 筒状体(ホイールリム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の円筒形素材の外周側に、内周面が成形面とされた電磁成形用金型を配置し、前記円筒形素材の内周側に電磁成形用コイルを配置し、その状態で前記電磁成形用コイルに電気エネルギーを投入し、前記円筒形素材を拡径して前記成形用金型の成形面に押し付け、外径の小さいドロップ部と該ドロップ部より外径の大きい両側部からなる筒状体を成形し、続いて前記筒状体のドロップ部の外周を座屈防止用金型で拘束し、両側部の端部を軸方向にプレスして外カーリング加工することを特徴とする自動車用ホイールリムの成形方法。
【請求項2】
前記座屈防止用金型として、電磁成形用金型をそのまま用いることを特徴とする請求項1に記載された自動車用ホイールリムの成形方法。
【請求項3】
カーリング加工後、筒状体の内側と外側をローラで挟み込んでロールフォーミング加工することを特徴とする請求項1又は2に記載された自動車用ホイールリムの成形方法。
【請求項4】
前記円筒形素材がアルミニウム製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された自動車用ホイールリムの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−175728(P2007−175728A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376441(P2005−376441)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000207425)大同工業株式会社 (45)