説明

自動車用前照灯

【課題】灯室内に光源ユニットを収容してなる自動車用前照灯において、得られる配光パターンがシャープで鮮明なカットオフラインを有すると共に、すれ違い用配光パターンと走行用配光パターンの切り換えを容易に行うことができる構造を実現することにある。
【解決手段】光源ユニット10を、光源20と該光源20の光出射方向の前方に順次、集光用の両凸レンズ25、配光パターン形成用の回動可能なシェード26、光源ユニット10からの照射光の照射方向を制御する投影レンズ12を配置した構成とした。これにより、光源20から出射して両凸レンズ25内を導光されて投影レンズ12の焦点でもある両凸レンズ25の第2焦点F2に向かう光がその一部を、回動するシェード26で遮蔽されて第2焦点F2に収束され、その発散光が投影レンズ12を介して照射方向に照射されてすれ違い用配光パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用前照灯に関するものであり、詳しくは、半導体発光素子を発光源とし、半導体発光素子からの出射光をリフレクタ反射面を用いることなく直接投影レンズに照射して該投影レンズを介して所定の配光パターンを形成する光源ユニットを備えた自動車用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車用前照灯としては、例えば、以下に示す構造のものが開示されている。
【0003】
開示された自動車用前照灯は、光源となるLEDランプ80を図6のように、ベース81上にマウントされた青色発光のLEDチップ82を黄色発光の蛍光体83で封止し、その上にシリコーンゲル84を充填して上面をSiO膜で覆い、その一部をすれ違い配光パターンに相似した形状の遮蔽部材85で覆って全体を透明の窓ガラス状部材86で密閉封止した構造としている。
【0004】
これにより、青色発光LEDチップ82から出射された青色光の一部と青色発光LEDチップ82から出射された青色光の一部が黄色発光蛍光体を励起することにより波長変換された黄色光との加法混色で白色光に近い色調の光を得ることができる。
【0005】
そして、LEDランプ80からの白色光に近い色調の出射光の出射パターンを図7のように、LEDランプ80の前方に位置する投影レンズ87を介して照射方向Pに投影することにより、すれ違い配光パターンHBが形成されるというものである(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−5193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、光源となるLEDランプ80は、LEDチップ82を封止する蛍光体83が光散乱性を有しており、LEDチップ82から発せられて蛍光体83で波長変換されて遮蔽部材85のエッジ近傍を通過して外部に出射される光は散乱光である。
【0008】
そのため、LEDランプ80から出射して投影レンズ87に到達した出射パターンは、遮蔽部材85のエッジを投影した明暗境界線がぼやけたものとなり、投影レンズ87を介して投影されるすれ違い配光パターンHBは遮蔽部材85のエッジを投影したカットオフラインがぼやけて不鮮明なものとなってしまう。
【0009】
また、すれ違い配光パターンHBに相似した形状の遮蔽部材85は、LEDランプ80に対して一体化された状態で設けられており、1種のLEDランプ80によって種々の配光パターンを形成することは不可能である。
【0010】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、半導体発光素子を発光源とし、半導体発光素子からの出射光をリフレクタ反射面を用いることなく直接投影レンズに照射して所定の配光パターンを形成する自動車用前照灯において、得られる配光パターンがシャープで鮮明なカットオフラインを有すると共に、すれ違い用配光パターンと走行用配光パターンの切り換えを容易に行うことができる構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、少なくとも、前端開口を有するハウジングと該ハウジングの前端開口に取り付けられた前面レンズにより形成された閉空間からなる灯室内に、複数の半導体発光素子を発光源とする光源を備えたプロジェクタ型光源ユニットを収容してなる自動車用前照灯であって、前記光源ユニットは、前端開口を有する筒状のボディと該ボディの前端開口に取り付けられた投影レンズにより形成された空間内に、光源と、光源の光出射方向に配置され該光源の位置を第1焦点とする両凸レンズと、前記両凸レンズの第2焦点の位置を焦点とする投影レンズと、前記第2焦点の真下を通り車幅方向に延びる回動支軸を有し該回動支軸を支点として上端が前記第2焦点の近傍直下と前記両凸レンズ方向の所定の位置との間を回動可能に配置されたシェードとを有し、前記光源から出射して前記両凸レンズ内を導光されて前記第2焦点に向かう光の一部を回動するシェードで遮蔽することによりカットオフラインが形成され、その後前記第2焦点に収束して該第2焦点からの発散光が前記投影レンズを介して外部に照射されてその照射光がすれ違い用配光パターンを形成することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記光源から出射して前記両凸レンズ内を導光されて前記第2焦点に向かう光が回動するシェードで遮蔽されることなく前記第2焦点に収束し、該第2焦点からの発散光が前記投影レンズを介して外部に照射されてその照射光が走行用配光パターンを形成することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2において、前記シェードの回動機構は、前記シェードの回動支軸よりも下部の近傍にバネ部材と電磁石を配置し、前記電磁石の作動時にはバネ部材の付勢力に打ち勝つ電磁石の吸引力により前記シェードの上端が前記第2焦点の近傍直下に位置し、前記電磁石の非作動時にはバネ部材の付勢力により前記シェードの上端が前記両凸レンズ方向の所定の位置に位置することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項4に記載された発明は、請求項3において、前記電磁石の作動時には走行用配光パターンを形成し、非作動時にはすれ違い用配光パターンを形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の自動車用前照灯は、ハウジングと前面レンズとにより形成された灯室内に収容するプロジェクタ型光源ユニットを、半導体発光素子を発光源とする光源の光出射方向の前方に順次、集光用の両凸レンズ、配光パターン形成用の回動可能なシェード、光源ユニットからの照射光の照射方向を制御する投影レンズを配置した構成とし、光源から出射して両凸レンズを導光された光の一部を回動するシェードで遮蔽してカットオフラインを形成し、その後投影レンズの焦点に収束させて該投影レンズを介して照射することのよりすれ違い用配光パターンを形成するようにした。
【0016】
その結果、両凸レンズから出射して一部がシェードで遮蔽されてカットオフラインが形成され、一旦投影レンズの焦点に収束した後に投影レンズに到達する発散光はシェードによる遮光の明暗境界線が明確に形成されるものとなり、投影レンズを介して照射される照射光はシャープで鮮明なカットオフラインを有するすれ違い用配光パターンを形成するものとなる。
【0017】
また、すれ違い用ビームと走行用ビームの切り換えを、スイッチにより電磁石の非作動・作動を電気的に切り換えることにより行えるようにした。これにより、簡単な切り換え機構により、すれ違い用ビームと走行用ビームの切り換えを行うことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の自動車用前照灯に係わる実施形態の縦断面説明図である。
【図2】光源となるLEDランプの斜視説明図である。
【図3】図2のA−A断面説明図である。
【図4】光源ユニットの光学系を構成する光学部品の構成説明図である。
【図5】光源ユニットの光学系における光路説明図である。
【図6】従来例の説明図である。
【図7】同じく、従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図5を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0020】
図1は本発明の自動車用前照灯の縦断面説明図、図2は光源となるLEDランプの斜視説明図、図3は図2のA−A断面説明図、図4は自動車用前照灯に係わるプロジェクタ型光源ユニットの光学系を構成する光学部品の構成説明図、図5はプロジェクタ型光源ユニットの光学系における光路説明図である。
【0021】
図1より、自動車用前照灯(以下、前照灯と略称する)1は、前端開口を有するハウジング2と、ハウジング2の前端開口に取り付けられた素通しの前面レンズ3とにより閉空間からなる灯室4が形成され、灯室4内に走行用配光パターンとすれ違い用配光パターンの両方の配光パターンを形成できる光源ユニット10が収容されている。
【0022】
光源ユニット10は、前端開口を有し後端側を絞った筒状のボディ11の該前端開口に投影レンズ12が取り付けられ、ボディ11の後端部には前記投影レンズ12の光軸Z上に配置されてその光出射方向が投影レンズ12の方向を向く光源20が位置している。
【0023】
光源20は図2及び図3より、平板状の基台部21aと該基台部21a上に位置する環状の枠部21bとによりケース21が形成され、ケース21の基台部21a上には発光源となる複数の半導体発光素子22が略直線状に実装されている。半導体発光素子22は、具体的には、本実施形態においてはLED素子が用いられている(以下、半導体発光素子をLED素子22として説明する)。そして、枠部21b内に透光性を有する封止樹脂23が充填されてLED素子22が樹脂封止されている。
【0024】
そのため、光源20の出射光による配光パターンは、LED素子22が実装された直線状に沿う方向(LED素子22の実装方向)を長手方向とする楕円形状または長円形状を呈している。
【0025】
なお、前照灯による照射光として、LED素子22の光源光とは異なる色調の光(例えば、白色光)を得る場合は、透明樹脂に1種あるいは複数種の蛍光体を分散してなる封止樹脂23によりLED素子22を樹脂封止することもある。
【0026】
具体的には、上述の白色光を得る場合は、青色光を発光するLED素子(青色LED素子)を、青色光に励起されて青色光の補色となる黄色光に波長変換する蛍光体(黄色蛍光体)が透明樹脂に分散されてなる封止樹脂で樹脂封止し、青色LED素子から出射された青色光の一部と、青色LED素子から出射された青色光の一部が黄色蛍光体を励起することにより波長変換された黄色光との加法混色で白色光に近い色調の光を形成するものである。
【0027】
また、黄色蛍光体の代わりに、青色光に励起されて緑色光に波長変換する蛍光体(緑色蛍光体)と赤色光に波長変換する蛍光体(赤色蛍光体)との混合蛍光体とし、該混合蛍光体が透明樹脂に分散されてなる封止樹脂で樹脂封止することにより、青色LED素子から出射された青色光の一部と、青色LED素子から出射された青色光の一部が緑色蛍光体を励起することにより波長変換された緑色光と、青色LED素子から出射された青色光の一部が赤色蛍光体を励起することにより波長変換された赤色光との加法混色で白色光を形成することもできる。
【0028】
その他、白色光以外の色調の光についても、LED素子の種類と透明樹脂に分散する蛍光体の種類とを適宜に組み合わせることにより、所望の色調の光を得ることができる。
【0029】
図1に戻って、光源20の前方(投影レンズ12側)には、光軸を投影レンズ12の光軸Zと共有する、両面凸状の両凸レンズ25が配置されている。両凸レンズ25は第1(前側)焦点F1の位置を光軸Z上の光源20近傍とし、第2(後側)焦点F2を投影レンズ12の光軸Z上の焦点位置としている。
【0030】
両凸レンズ25と投影レンズ12との間には、下方から延びて両凸レンズ25側と投影レンズ12側の夫々の側の所定の位置に回動可能な遮光用のシェード26が設けられている。以下に、シェード26の回動機構について説明する。
【0031】
シェード26は鉄製で板状を呈しており、その板状の面に沿い水平で且つ光軸Zに垂直な方向に、シェード26の回動の支点となる回動支軸27が設けられている。回動支軸27はボディ11の下部から下方に延設された一対のシェード支持部材28の夫々に設けられた回動支軸挿通孔29に挿通され、回動支軸27を支点としてシェード26の上部26aが両凸レンズ25側と投影レンズ12側との間を回動すると同時に、シェード26の下部26bが上部26aの回動方向と反対側に回動する。
【0032】
シェード26の下部26bは、ハウジング2により形成された突出空間5内に収容されている。また、ハウジング2の外周部には電磁石30が取り付けられ、その鉄芯30aが突出空間5を形成するハウジング2の後部側(光源20側)壁部2bを貫通してその先端部30bが突出空間5内に位置している。
【0033】
一方、突出空間5を形成するハウジング2の前部側(投影レンズ12側)壁部2aには、突出空間5内に配置されたバネ(引張コイルバネ)31の一方の端部が係止され、他方の端部はシェード26の下部26bに係止されている。
【0034】
そこで、電磁石30のコイル(図示せず)に通電が行われていないときは、シェード26の下部26bはバネ31の引張力を受けて前方側に付勢され、上部26aは両凸レンズ25側に回動される。
【0035】
一方、電磁石30のコイルに通電が行われると、シェード26の下部26bはバネ31の引張力に対抗する電磁石30の引力によりバネ31の付勢に抗して電磁石30の方向に引き付けられ、鉄芯30aの先端部30bに当接して保持される。シェード26の上部26aは当然投影レンズ12側に回動される。
【0036】
ところで、シェード26の回動支軸27は、上述したように、シェード26の板状の面に沿い水平で且つ光軸Zに垂直な方向に位置するものであるが、同時に、投影レンズ12の焦点でもある両凸レンズ25の第2焦点F2を通り光軸Zに垂直な直線に交差する位置にあり、電磁石30の作動によりシェード26の下部26bが電磁石30に引き付けられて鉄芯30aの先端部30bに当接した状態においては、シェード26は光軸Zに垂直で且つ第2焦点F2と回動支軸27とを結ぶ直線上に位置する(第1の位置:シェード26の前方側への回動)。そこで、電磁石30の作動時にシェード26がこのような位置及び方向を維持するように、シェード26の回動支軸27と電磁石30の鉄芯30aの先端部30bとの位置関係が設定される。
【0037】
一方、電磁石30が作動していないときは、シェード26の下部26bがバネ31によって投影レンズ12側の方向に引張られるため、シェード26は光軸Zの垂直方向に対して両凸レンズ25側に傾いた状態となる(第2の位置:シェード26の後方側への回動)。そこで、電磁石30が作動してないときにシェード26がこのような位置及び方向を維持するように、シェード26の回動支軸27とバネ31との位置関係が設定される。
【0038】
なお、シェード26の上端は、投影像によってすれ違い用配光パターンのカットオフラインを形成するものである。そのため、カットオフラインに寄与する形状を呈しており、すれ違い用配光パターンの垂直基準線(V)とカットオフラインとの交点位置を投影するシェード26の上端の中点位置Pが光軸Zの直下を光軸Zに沿って移動するように設定されている。
【0039】
図4は、光源20から出射した光が配光パターンを形成するまでの光路中に配置された光学部品の構成を示したものである。光源20の光出射方向の前方に順次、集光用の両凸レンズ25、配光パターン形成用の回動可能なシェード26、光源ユニット10からの照射光の照射方向を制御する投影レンズ12が配置されており、投影レンズ12からの照射光で配光パターンPAが形成される。これは、所謂プロジェクタ型と称される光源ユニットの光学部品構成である。
【0040】
次に、図5を用いて、実施形態のプロジェクタ型光源ユニットの光学系の後路形成について説明する。
【0041】
まず、複数のLED素子22が略直線状に実装されてなる光源20から、LED素子22の実装方向を長手方向とする楕円形状または長円形状の配光パターンで出射した光は、光源20の位置を第1焦点F1とする両凸レンズ25の光入射面25aに到達し、両凸レンズ25内を導光されて光出射面25bに至り、光出射面25bから第2焦点F2に向けて出射される。
【0042】
このとき、電磁石30が作動してシェード26が第1の位置に設定されていると、シェード26の上端の中点位置Pが第2焦点F2の直下に位置するため、両凸レンズ25の光出射面25bから第2焦点F2に向けて出射した光は、シェード26で遮蔽されることなくそのほとんどが第2焦点F2に到達して収束され、その後、発散されて前方に位置する投影レンズ12に到達し、投影レンズ12内を導光されて該投影レンズ12から照射方向に照射される。
【0043】
したがって、このときの光源ユニット10からの照射光の配光パターンは、光源20からの出射光の配光パターンがほぼそのまま投影されたようなものとなり、図4の点線で示すような、横方向を長手方向とする長円形状を呈するものとなる。このような、カットオフラインを有しない配光パターンは走行用配光パターンHPであり、よって、電磁石30を作動させることにより光源ユニット10から走行ビームを照射することができる。
【0044】
なお、この場合、光源20からの出射光の配光パターンと投影レンズ12を介して光源ユニット10の外部照射方向に照射される照射光の配光パターンとはほぼ相似した形状となるものであるが、実際は第2焦点F2に収束し発散された時点で、収束光と発散光とは第2焦点F2を中心に上下左右が反対の方向に向かうものであり、例えば、光源20の右下部から出射した光は一旦第2焦点F2に収束された後に発散されてその発散光が投影レンズ12から照射されて配光パターンの左上部を形成し、光源20の右上部から出射した光は一旦第2焦点F2に収束された後に発散されてその発散光が投影レンズ12から照射されて配光パターンの左下部を形成する。
【0045】
一方、電磁石30が作動しておらず、シェード26が第2の位置に設定されていると、シェード26の上端は後方側(両凸レンズ25側)に移動する。
【0046】
すると、図5のように、両凸レンズ25の光出射面25bから第2焦点F2に向けて出射した光のうち、光出射面25bの最下部からその上部にかけた位置から出射されて前方上方に向かう光がシェード26で遮蔽される。そのため、両凸レンズ25の光出射面から出射されて第2焦点F2に至る収束光は、下部がシェード26の上端形状にカットされた配光パターンを有するものとなる。そして、第2焦点F2からの発散光は収束光に対して第2焦点F2を中心とする上下左右が反対の方向に向かうため、投影レンズ12を介して照射される照射光は、図4の実線で示すような、上部がシェード26で遮光され且つシェードの上端形状を投影したカットオフラインCLを有する配光パターンLPを形成するものとなる。
【0047】
このことから分かるように、シェード26の上端形状は、その投影光が第2焦点F2で上下左右を反転された後に配光パターンのカットオフラインを形成するように設定されている。
【0048】
そこで、このような、電磁石30の非作動時におけるカットオフラインを有する配光パターンはすれ違い用配光パターンであり、電磁石30の作動時におけるカットオフラインを有しない配光パターンは走行用配光パターンである。よって、本発明のプロジェクタ型光源ユニットは、切換スイッチで電磁石30の非作動・作動を電気的に切り換えることにより、すれ違い用ビームの照射と走行用ビームの照射の両方の機能を果たすことができる。つまり、簡単な機構により、すれ違い用ビームと走行用ビームの切り換えを行うことができるものである。
【0049】
それと同時に、万一の不具合により電磁石30が作動しない場合においては、すれ違い用ビームを照射するものとなり、対向車に眩光を与えない状態を保持することにより他車の走行に支障をきたさないような手段が施されている。
【0050】
なお、シェード26の回動の支点となる回動支軸27は必ずしもボディ11の下部近傍に設けられる必要はなく、ハウジング2の下部近傍に設けられてもよい。いずれにしても、シェード26の、回動支軸27よりも下部26bの上下方向の長さに対する上部26aの上下方向の長さを長くすることにより、下部26bの僅かな回動範囲で上部26aを大きく回動することがでる。そのため、下部26bの回動に必要な突出空間5を小さくすることができ、前照灯の小型化に寄与するものとなる。
【0051】
それと共に、光源ユニット10及び前照灯1全体の構造を考慮してシェード26の支点(回動支軸27)の位置が設定される。
【0052】
また、本実施形態においては、シェード26の上端の移動を、シェード26に設けられた回動支軸27を支点とした回動により行うようにしたが、シェード26全体が移動するようにしてもよい。この場合も、本実施例と同様に電磁石30を駆動源として用いてもよいし、他の駆動手段を用いてもよい。
【0053】
更に、本実施形態は電磁石30とバネ31とによってシェード26の回動制御を行うものであるが、必ずしもこの組み合わせに限られるものではなく、上述したようなシェード26の光学的機能を果たすことができる機構であれば問題はない。
【0054】
以上のように、本発明の前照灯は、ハウジングと前面レンズとにより形成された灯室内に収容するプロジェクタ型光源ユニットを、半導体発光素子を発光源とする光源の光出射方向の前方に順次、集光用の両凸レンズ、配光パターン形成用の回動可能なシェード、光源ユニットからの照射光の照射方向を制御する投影レンズを配置した構成とし、シェードの回動により光源ユニットの照射光で形成されるすれ違い用配光パターンと走行用配光パターンの切り換えが行えるようにした。
【0055】
これにより、半導体発光素子からの出射光はリフレクタ反射面を用いることなく集光用の両凸レンズに照射され、両凸レンズからの出射光のうち前方に位置するシェードで遮蔽されることがなかった光が両凸レンズと投影レンズの共有焦点に一旦収束し、その後、共有焦点からの発散光が投影レンズを介して所定の配光パターンを形成するものである。
【0056】
その結果、両凸レンズから出射した光のうち一部がシェードで遮蔽された場合、一旦投影レンズの焦点に収束した後に投影レンズに照射される発散光はシェードによる遮光の明暗境界線が明確に形成されるものとなり、投影レンズを介して照射される照射光はシャープで鮮明なカットオフラインを有するすれ違い用配光パターンを形成するものとなる。
【符号の説明】
【0057】
1… 自動車用前照灯
2… ハウジング
2a… 前部側壁部
2b… 後部側壁部
3… 前面レンズ
4… 灯室
5… 突出空間
10… 光源ユニット
11… ボディ
12… 投影レンズ
20… 光源
21… ケース
21a… 基台部
21b… 枠部
22… 半導体発光素子(LED素子)
23… 封止樹脂
25… 両凸レンズ
25a… 光入射面
25b… 光出射面
26… シェード
26a… 上部
26b… 下部
27… 回動支軸
28… シェード支持部材
29… 回動支軸挿通孔
30… 電磁石
30a… 鉄芯
30b… 先端部
31… バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、前端開口を有するハウジングと該ハウジングの前端開口に取り付けられた前面レンズにより形成された閉空間からなる灯室内に、複数の半導体発光素子を発光源とする光源を備えたプロジェクタ型光源ユニットを収容してなる自動車用前照灯であって、
前記光源ユニットは、前端開口を有する筒状のボディと該ボディの前端開口に取り付けられた投影レンズにより形成された空間内に、光源と、光源の光出射方向に配置され該光源の位置を第1焦点とする両凸レンズと、前記両凸レンズの第2焦点の位置を焦点とする投影レンズと、前記第2焦点の真下を通り車幅方向に延びる回動支軸を有し該回動支軸を支点として上端が前記第2焦点の近傍直下と前記両凸レンズ方向の所定の位置との間を回動可能に配置されたシェードとを有し、
前記光源から出射して前記両凸レンズ内を導光されて前記第2焦点に向かう光の一部を回動するシェードで遮蔽することによりカットオフラインが形成され、その後前記第2焦点に収束して該第2焦点からの発散光が前記投影レンズを介して外部に照射されてその照射光がすれ違い用配光パターンを形成することを特徴とする自動車用前照灯。
【請求項2】
前記光源から出射して前記両凸レンズ内を導光されて前記第2焦点に向かう光が回動するシェードで遮蔽されることなく前記第2焦点に収束し、該第2焦点からの発散光が前記投影レンズを介して外部に照射されてその照射光が走行用配光パターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の自動車用前照灯。
【請求項3】
前記シェードの回動機構は、前記シェードの回動支軸よりも下部の近傍にバネ部材と電磁石を配置し、前記電磁石の作動時にはバネ部材の付勢力に打ち勝つ電磁石の吸引力により前記シェードの上端が前記第2焦点の近傍直下に位置し、前記電磁石の非作動時にはバネ部材の付勢力により前記シェードの上端が前記両凸レンズ方向の所定の位置に位置することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車用前照灯。
【請求項4】
前記電磁石の作動時には走行用配光パターンを形成し、非作動時にはすれ違い用配光パターンを形成することを特徴とする請求項3に記載の自動車用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−54150(P2012−54150A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196821(P2010−196821)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】