説明

自動車用摩擦材料およびその製造方法

【課題】
長時間の激しい摩擦下でも層間剥離を起こすことがなく、また、摩擦面側の表層部では高い動摩擦係数、他方の面側の表層部では高い熱伝導抑制性などの特性を有する自動車用摩擦材料を提供する。
【解決手段】
液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛の、摩擦面とする側の面に、流体噴射加工を施して、前記液晶性高分子繊維をフィブリル化し、摩擦面側の表層部に、他方の面側の表層部よりも多くのフィブリルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能な自動車用摩擦材料およびその製造方法に関する。前記材料は単層の布帛に由来してなり、表裏フィブリル化の細かさが異なることにより自動車用摩擦材料として有用である。
【0002】
本発明の高性能の自動車用摩擦材料は、機械的強度、熱伝導性,動摩擦係数、摩耗耐久性に優れた特性を有することから、従来の接着された複層からなる摩擦材料より、高い耐久性と形態維持ができる。
【背景技術】
【0003】
新しいトランスミッションシステムおよびブレーキシステムが自動車業界により開発されつつある。これにともない、摩擦材料もより高性能な特性の開発が行われている。
【0004】
特にスポーツ多目的車(SUV車)やトラックなどは、高エネルギータイプの摩擦材料が必要であり、表面速度の高速化や高フェーシングライニング圧力に耐える摩擦材料でなければならない。さらに、摩擦材料は高温で長時間安定で有り続けなければならなく、また、優れた熱遮断性を有している必要がある。つまり、摩擦材料は運転時に発生する高熱を迅速に放散したり熱伝達を遅らせなければならない。
【0005】
特許文献1には、高性能2プライ摩擦材として2層を貼り合せた摩擦材料が開示されている。しかしながら、このような2層構造では、層間の接合部分が長時間の激しい摩擦下で剥がれて変形する可能性を完全に否定することが難しい。
【0006】
また、特許文献2には、フィブリル化の少ないアラミド繊維と合成黒鉛とを含む摩擦ブレーキライニングが開示され、特許文献3には、アラミド繊維と熱硬化性樹脂とを含む摩擦材料が開示されている。しかしながら、このような材料は、要求される摩擦特性が高まっていることに鑑みれば、十分な特性を示すものとはいい難い。すなわち、熱分解温度の高いアラミド繊維を用いることで耐熱性が高くなるものの、表面摩擦特性については未だ改善の余地がある。
【特許文献1】特開2000−37804号公報(請求項1、5、6、10段落0033、0034,0036)
【特許文献2】特開平7−151174号公報(請求項1、2、3、8,9、段落0021、0022、0023)
【特許文献3】特開平9−118755号公報(請求項1、2,3、7、11、段落0011、0013、0019)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、長時間の激しい摩擦下でも層間剥離を起こすことがなく、また、摩擦面側の表層部では高い動摩擦係数、他方の面側の表層部では高い熱伝導抑制性などの特性を有する自動車用摩擦材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、かかる従来技術の問題点を解消するため、次の(1)〜(10)のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1) 液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛に由来してなり、摩擦面側の表層部に、他方の面側の表層部よりも多くのフィブリルを有することを特徴とする自動車用摩擦材料。
(2)前記液晶性高分子繊維がアラミド繊維である、前記(1)に記載の自動車用摩擦材料。
(3) 前記摩擦面側の表層部が、フィブリル化されていない液晶性高分子繊維の繊維径の平方視野範囲内に、3〜200本のフィブリルを有する、前記(1)または(2)に記載の自動車用摩擦材料。
(4) 前記他方の面側の表層部が、フィブリル化されていない液晶性高分子繊維の繊維径の平方視野範囲内に、0〜30本のフィブリルを有する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の自動車用摩擦材料。
(5) 請求項1〜4のいずれかに記載の前記自動車用摩擦材料を用いたクラッチ板。
(6) 請求項1〜4のいずれかに記載の前記自動車用摩擦材料を用いたブレーキ板。
(7) 液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛の、摩擦面とする側の面に、流体噴射加工を施して、前記液晶性高分子繊維をフィブリル化する工程を含むことを特徴とする自動車用摩擦材料の製造方法。
(8) 液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛の、摩擦面とする側の面に、他方の面側の表層部よりも大きな総エネルギー量の流体噴射加工を施して、前記液晶性高分子繊維をフィブリル化する工程を含むことを特徴とする自動車用摩擦材料の製造方法。
(9) 前記布帛が不織布である、前記(7)または(8)に記載の自動車用摩擦材料の製造方法。
(10) 前記流体噴射加工の流体が水である、前記(7)〜(9)のいずれかに記載の自動車用摩擦材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の自動車用摩擦材料によれば、摩擦面側の表層部が、他方の面側の表層部よりも多くのフィブリルを有することで高摩擦係数を有するものとなる。また、他方の面側の表層部は、摩擦面側の表層部に比べてフィブリルが少なく空隙部が多いので、熱伝導抑制性に優れたものとなる。そして接着面を有しない単層の布帛に由来しているため、長時間の激しい摩擦下でも層間剥離を起こすおそれがなく、形態維持性等に優れた効果を発揮する。
【0010】
またかかる自動車用摩擦材料は、液晶性高分子繊維を含んだ単層の布帛に流体噴射加工を施し、該液晶性高分子繊維をフィブリル化することで効率的に製造することができる。このとき、摩擦面側のみに流体噴射加工を施したり、摩擦面側に、他方の面側よりも大きな総エネルギー量の流体噴射加工を施すことで、摩擦面側の表層部を他方の面側の表層部よりもフィブリル化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の自動車用摩擦材料は、液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛に由来してなり、摩擦面側の表層部は他方の面側の表層部よりも多くのフィブリルを有することを特徴とする。
【0012】
前記布帛は液晶性高分子繊維を含んでなる単層から構成されている。これは、接着面を有しないので、長期使用によっても、また長時間の激しい摩擦下でも、接着面の剥離が生じず、接着剤との相性などによる不具合の発生もないので、形態維持性に優れるものである。
【0013】
前記布帛の摩擦面側の表層部は、図2(a)に示すよう、細かいフィブリルを多く有している。該フィブリルが蜘蛛の巣状になっていることにより、摩擦面どうしの密着性を上げることができるので、摩擦係数を高くすることができるのである。これに対して、他方の面側の表層部は、図2(b)に示すように、フィブリルが少ないので、空隙部が多くなる。この空隙部に例えばオイル等の冷却流体や気体等が流通することにより、発生した摩擦熱を冷却したり本体への熱伝達を抑制するが、空隙部が多くなることでかかる冷却流体等が空隙部に流れやすくなり、熱伝達率を抑制することができる。
【0014】
布帛を構成する前記液晶性高分子繊維としては、例えば、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、商標名「ベクトラン」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキザゾール繊維(例えば東洋紡株式会社製、商標名「ザイロン」)などが挙げられる。
【0015】
なかでも、本発明の狙いとするフィブリル化し易い点から、アラミド繊維が好ましい。
【0016】
アラミド繊維にはメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維とがある。メタ系アラミド繊維としては例えば、ポリメタフェニレンイソフタールアミド繊維(デュポン社製、商標名「ノーメックス」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。また、パラ系アラミド繊維としては例えば、ポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商標名「ケブラー」)およびコポリパラフェニレン−3,4−ジフェニールエーテルテレフタールアミド繊維(帝人株式会社製、商標名「テクノーラ」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。
【0017】
これらの中でも、高強度および高弾性率であり、耐熱性、耐摩耗性に優れるとともに、本発明の狙いとするフィブリル化がし易い点から、ポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維が特に好ましい。一方、特に耐熱性を要求される用途では、ポリメタフェニレンイソフタールアミド繊維を用いることも好ましい。用途によって、適宜使い分けることができる。
【0018】
また、布帛は、液晶性高分子繊維の1種類を単独で用いたものであってもよいし、素材や繊維構成が異なる2種以上を混繊したものであっても構わない。
【0019】
本発明の自動車用摩擦材料は、前記摩擦面側の表層部が、フィブリル化されていない液晶性高分子繊維の繊維径の平方視野範囲内に、3本以上、200本以下のフィブリルを有することが好ましい。
【0020】
摩擦面側の表層部のフィブリル本数が3本を下回る場合、摩擦係数が低くなり易く、例えばエンジンから車輪への伝達力やブレーキの制動力が低下しやすくなるのである。一方、かかる本数が200本を超える場合、摩擦面の平滑性が良過ぎて摩擦係数は逆に低くなる場合がある。摩擦面側の表層部のフィブリル本数としては5本〜100本がより好ましい範囲である。
【0021】
また、前記他方の面側の表層部においては、フィブリル化されていない液晶性高分子繊維の繊維径の平方視野範囲内に、30本以下のフィブリルを有することが好ましい。かかる領域において、フィブリルは、30本以下であれば0本であってもよい。
【0022】
前記他方の面側の表層部のフィブリル本数を30本以下にすることで、繊維間の空隙が粗くなり熱伝達が抑制されるので、前記摩擦面側で起こる発熱が摩擦材料の断面方向に通じにくくなり、かかる他方の面側に配置される金属板や本体装置に熱伝達されにくくなる。
【0023】
次に本発明の製造方法について説明する。上記のような自動車用摩擦材料は、液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛の、摩擦面とする側の面に、流体噴射加工を施し、該液晶性高分子繊維をフィブリル化することで得られる。このとき、摩擦面側のみに流体噴射加工を施したり、摩擦面側に、他方の面側よりも大きな総エネルギー量の流体噴射加工を施すことで、摩擦面側の表層部を他方の面側の表層部よりもフィブリル化することができる。
【0024】
本発明において、フィブリル化前の布帛としては、長繊維や短繊維からなる編織物や、ニードルパンチ加工、軽い熱プレス加工、樹脂加工などが施された不織布を挙げることができる。これらのうち、フィブリル化し易くかつ後述するような流体噴射加工の繰り返し処理が可能である不織布を用いるのが好ましい。不織布は、短繊維がランダムに配列し、方向性のない均一な摩擦作用を形成しやすいという点でも好ましい。その中でもニードルパンチ加工によって製造した不織布がより好ましい。
【0025】
かかる不織布は、たとえば、液晶性高分子短繊維をカード機を用いてウエブとし、これを積層したシートの上から、幅方向および長さ方向に植えた例えば9バーブ型の針を、前記積層したシートに向かって1分間に数百回打ち込みながら、前記シートを移動させ、繊維同士を互いに絡めるニードルパンチ加工を行うことによって製造することができる。
【0026】
液晶性高分子繊維の布帛をフィブリル化する工程を詳細に説明する。前記液晶性高分子繊維の布帛にウオータージェットパンチ等の流体噴射加工を施すことにより、液晶性高分子繊維を効率よくまた面方向に均一にフィブリル化させることができ、さらに片面のみに施すことにより、フィブリルを実質的に摩擦面側の表層部にのみ形成させることができる。また、流体噴射加工を施すことにより布帛を厚さ方向に圧縮させ、前記布帛の厚みを薄くし、さらにフィブリル化させた短繊維を緻密に絡ませることができるので、摩擦面側の表層部の摩擦特性や硬さを目的に沿って改質することができる。
【0027】
流体噴射加工の流体圧力としては5〜30MPaが好ましく、安全性や製造コストおよび均一性などから、15〜20MPaがより好ましい。5MPa未満ではフィブリル化の度合いが不十分となり易く、フィブリル化繊維どうしの絡みも不十分となり易い。一方、30MPaを超えると、短繊維あるいはフィブリル化繊維が飛散したり、噴射孔筋が生じやすくなるので品質上好ましくない。
【0028】
流体噴射孔の孔径としては、0.05〜2.0mmが好ましい。流体噴射孔の孔間隔としては、0.3〜10mmが好ましい。このような間隔で並べたものを一列に、あるいは複数列に配列した流体噴射加工装置を用いるとよい。
【0029】
噴射孔と処理対象の布帛との間隔としては、1〜10cmが好ましい。処理対象の布帛を相対的に移動させる加工速度としては、0.1〜10m/minが好ましく、より好ましくは1〜3m/minである。加工速度が遅い方がフィブリル化の効果は大きくなるが、0.1m/min未満では短繊維あるいはフィブリル化繊維の脱落や噴射孔筋が生じやすく、10m/minを超えるとフィブリルが少なくなるので適宜設定することである。
【0030】
液晶性高分子繊維を含む布帛には流体噴射加工を複数回繰り返し施すことが好ましい。そうすることで容易に目標のフィブリル化を達成することができる。1回のみの高圧流体噴射加工では、前述のように短繊維あるいはフィブリル化の脱落や噴射孔筋が発生しやすく、均一なフィブリル化は達成し難いので、望ましくは複数回の流体噴射加工を施すことが好ましい。2回〜7回程度片面に繰り返すことが好ましいが、多くすれば製造コスト高になることから、適宜設定することである。
【0031】
また、流体噴射加工は、摩擦面のみに行うことが好ましいが、短繊維の脱落防止、形状維持などの理由から、摩擦面と他方の面の両方に施してもよい。その場合、摩擦面側に、他方の面側よりも大きな総エネルギー量の流体噴射加工を施すことが必要である。具体的には、たとえば摩擦面側を高圧流体で、他方の面側を低圧流体で処理する。
【0032】
流体噴射加工の流体としては、噴射エネルギーや流体コスト面あるいは安全性から、水が最も好ましい。
【0033】
上記したように得られる本発明の自動車用摩擦材料は、クラッチ板やブレーキ板に好適に用いられる。すなわち、従来、自動車のクラッチ板やブレーキ板の金属板に貼り付ける摩擦材料は、不織布やペーパーあるいはパルプなど表層部に黒鉛、炭素粒子、ケイソウ土(セライト)などの粉体をシリコーン系樹脂やフェノール系樹脂などで接着させたものであり、かかる黒鉛、炭素粒子、ケイソウ土(セライト)などを接着した面を摩擦面として用い、他方の面を前記金属板に直接張り付けて用いられていた。本発明の自動車用摩擦材料は、このような従来の摩擦材料に代わり、クラッチ板あるいはブレーキ板に用いることができる。
具体的には、本発明の自動車用摩擦材料の摩擦面側の表層部にカーボン粒子をフェノール系樹脂で微量ドット接着させ、ドーナツ状または扇状に切断し、この小片の他方の面側の表層部をクラッチ板やブレーキ板の金属板に接着させてブレーキ板やクラッチ板を製造することができる。本発明の自動車用摩擦材料は、上述したように形態安定性に優れ、摩擦面側の表層部が高摩擦係数を有し、他方の面側が熱伝導抑制性に優れているので、エンジンが高速回転したりエンジンに大きな負荷抵抗が加わるスポーツタイプの自動車やトラックに特に効果的である。
【0034】
なお、断熱効果が特に必要な車種、例えばトッラク,特殊車両などにおけるクラッチ板あるいはブレーキ板に用いる場合には、本発明の自動車用摩擦材料と金属板との間に、断熱材料として、メタ系アラミドの布帛(不織布、スクリムなど)を配置することも好ましい。
【実施例】
【0035】
[測定方法]
(1)フィブリルの本数
自動車用摩擦材料表面を、走査型電子顕微鏡(日立製作所製 S−3500N)にて1000〜3000倍に拡大して撮影し、フィブリル化されていない繊維の繊維径を実測する。測定は10本の繊維について行い、それらの平均値d0(μm)を算出し、フィブリル化されていない繊維の繊維径とする。
【0036】
撮影した写真からフィブリル化されていない繊維の繊維径の平方視野を無作為に10抽出し、当該平方視野範囲内に有するフィブリルの数を測定し、10の視野の平均値を算出した。図1に平方視野範囲内におけるフィブリルの数え方の例を示す。
【0037】
(2)目付(g/m
JIS L 1906:2000 5.2に基づき、20cm×25cmの試験片を3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表す。
【0038】
(3)厚さ(mm)
JIS L 1906:2000 8.5に基づき、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、NAKAYAMA ERECTORIC IND Ltd.製の圧縮弾性率測定機を用いて、240gf/cmの(23.535KPa)加圧下で10秒後における各試験片の厚さを5箇所測り、その平均値を厚さ(mm)で表す。
【0039】
(4)通気量(cm/cm/s)
JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定する。すなわち、試料から20cm×20cmの試験片を5枚採取し、フラジール形試験機を用いて、円筒の一端(吸気側)に試験片を取り付ける。試験片の取り付けに際し、円筒の内径と同一の内径を有する平面状ゴム製リングパッキン(厚さ1mm)を円筒の試験片取り付け側に設置し、その上に試験片を置き試験片上から吸気部分を塞がないように均等に約98N(10kgf)の荷重を加え試験片の取り付け部におけるエアーの漏れを防止する。試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、5枚の試験片についての平均値を算出する。
【0040】
(5)摩擦係数
上用布試験片としてタテ15cm、ヨコ5cmを、下用布試験片としてタテ17cm、ヨコ6.8cmを採取する。フィブリル化した面どうしを擦るように上下の両面を合わせる。上用布試験片に荷重を載せUゲージに繋げ、上用布試験片の下に、下用布試験片を敷き紐で引張りながら移動速度を4.8cm/分距離で動かす。荷重は300g、600gとし、動かし始めのピーク抵抗値(D1)、移動中の平均抵抗値(D2)を読み取る。
上記で測定した抵抗値から、次式によって算出する。
【0041】
静摩擦係数 μ13=D1(g)/300(g)
μ16=D1(g)/600(g)
動摩擦係数 μ23=D2(g)/300(g)
μ26=D2(g)/600(g)
(6)見掛け密度
次式により算出する。
見掛け密度(g/cm)=目付け(g/m)/厚さ(mm)×面積1(m
ここに、Ag:見掛け比重
Sm:目付け(g/m
t :厚さ(mm)
(7)熱伝導率
試験機にはKES−F7(サーモラボII型)/カトーテック株式会社製を用い、サンプルをタテ5cm×ヨコ5cmの25cmにカットし4枚採取する。BT−BOXを皮膚温相当の温度32℃に、室温ヒータ温度を22℃にそれぞれ設定し、カットしたサンプル1枚を室温ヒータ台に載せ、その上にBT−BOXを載せて、BT−BOXが90秒後に失われた電力量(W)を測定する。その後、次式により熱伝導率を算出する。これを4枚のサンプルそれぞれについて行い、平均値を算出する。
ΔT:皮膚温度−室温=32−22=10(℃)
D :サンプルの厚み(cm)
A :熱板面積(25cm
W :電力量(W)
熱伝導率k(W/cm・℃)=(W×D)/(A×ΔT)にて算出した。
【0042】
[実施例1〜4]
(液晶性高分子繊維)
平均繊維長が51mm、繊度が2.5dtex(断面直径15.1μm)のポリパラフェニレンテレフタールアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー」)短繊維を用いた。
【0043】
(ウエブ加工)
カード機によりウエブを製造し積層したシートを得た。
【0044】
(ニードルパンチ加工工程)
上記シートに、下記条件でニードルパンチ加工を施し、目付が305g/m、見掛け密度が0.145g/cmの不織布を得た。
【0045】
(ニードルパンチ加工条件)
有限会社大和機工製:上針間欠型装置
ニードル種類 :9バーブニードル(オルガン社製 FPD−1)
ニードル間隔 :10mm間隔1列に幅方向80針、長さ方向に40列
パンチング回数 :1分間に200回
シート移動速度 :1分間に1.2m
(フィブリル化する工程)
ニードルパンチ加工が施された不織布に、高圧流体噴射加工として下記条件でウオータージェットパンチ処理を施し、自動車用摩擦材料を得た。
【0046】
(ウオータージェットパンチ処理条件)
PERFOJET社製:商標登録名「JETLACE」装置
ノズル孔径:0.1mm、ノズル列:1列、ノズルピッチ:0.6mm
ノズル噴射孔と不織布の距離:1.5cm
不織布移動速度 :1m/分
最大水圧 :20MPa
処理 :実施例1(片面2回)
実施例2(片面3回)
実施例3(片面8回)
実施例4(片面10回)
処理方法 :片面のみ実施
[実施例5、6]
(液晶性高分子繊維)
平均繊維長が51mm、繊度が2.5dtex(断面直径15.1μm)のポリパラフェニレンテレフタールアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー」)短繊維を用いた。
【0047】
(ウエブ加工)
カード機によりウエブを製造し積層したシートを得た。
【0048】
(ニードルパンチ加工工程)
上記シートに、下記条件でニードルパンチ加工を施し、目付が305g/m、見掛け密度が0.145g/cmの不織布を得た。
【0049】
(ニードルパンチ加工条件)
有限会社大和機工製:上針間欠型装置
ニードル種類 :9バーブニードル(オルガン社製 FPD−1)
ニードル間隔 :10mm間隔1列に幅方向80針、長さ方向に40列
パンチング回数 :1分間に200回
シート移動速度 :1分間に1.2m
(フィブリル化する工程)
ニードルパンチ加工が施された不織布に、高圧流体噴射加工として下記条件でウオータージェットパンチ処理を施し、自動車用摩擦材料を得た。
【0050】
(ウオータージェットパンチ処理条件)
PERFOJET社製:商標登録名「JETLACE」装置
ノズル孔径:0.1mm、ノズル列:1列、ノズルピッチ:0.6mm
ノズル噴射孔と不織布の距離:1.5cm
不織布移動速度 :1m/分
最大水圧 :表面20MPa
裏面10MPa
処理 :実施例5(表3回/裏1回)
実施例6(表3回/裏2回)
処理方法 :両面実施
[比較例1]
(液晶性高分子繊維)
平均繊維長が51mm、繊度が2.5dtex(断面直径15.1μm)のポリパラフェニレンテレフタールアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー」)短繊維を用いた。
【0051】
以下、(ウエブ加工)(ニードルパンチ加工工程)まで、実施例1〜6と同一条件で実施し得た不織布を自動車用摩擦材料とした。
【0052】
[評価結果]
実施例1〜6および比較例1で得られた自動車用摩擦材料に対して、前記の方法により諸特性を測定し、表1、表2に各物性を示した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
これら実施例の結果から、摩擦面側の表層部のフィブリルが多くなると摩擦係数が高くなり、自動車摩擦材料として適したものとなることが確認できる。また、他方の面側の表層部がフィブリル化されていないほうが、材料密度が粗く空気層を多く含むので、熱伝導率が小さく、摩擦による発熱が本体装置に伝導されにくいことを確認できる。特に自動車用摩擦材料の摩擦面側の表層部で発生した摩擦熱が他方の面側の裏面部には伝達されにくくなるので、クラッチ板やブレーキ板に用いると効果的であるといえる。
【0056】
さらに、実施例1〜4では、ウオータージェットパンチの処理回数を増やし表面のフィブリル化数を変化させたが、フィブリル数が200本超となる実施例4では、摩擦係数がやや低下する傾向が認められた。これは、フィブリル本数が多くなりすぎて、フィブリル化した細い短繊維が摩擦面側の表層部を覆い該面を滑らかにすることにより、摩擦係数が低下したためである。また、片面処理において、ウオータージェットパンチの処理回数が多くなると、他方の面側の空気層も次第に薄くなるので、熱伝導率が高くなる傾向にあることを確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の自動車用摩擦材は、摩擦面側の表層部が高荷重下で摩擦係数が高いこと、他方の面側の表層部の短繊維交絡密度が粗く摩擦熱伝達抑制に優れることから、自動車用摩擦材のクラッチ板やブレーキ板に用いることが最適である。
【0058】
その他、フィブリル本数が前記自動車用摩擦材の表裏で異なるため、フィブリル本数が少ない他方の面側の表層部からフィブリル本数が多い摩擦面側の表層部に向かって、気体や液体を濾過する濾材として用いることができる。
【0059】
また、発癌性が高いとされているアスベス製ガスケットの代替として、本発明の自動車用摩擦材を安全に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例におけるフィブリル本数の測定方法を例示した図である。
【図2】本発明にかかる自動車用摩擦材料の一実施形態を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛に由来してなり、摩擦面側の表層部に、他方の面側の表層部よりも多くのフィブリルを有することを特徴とする自動車用摩擦材料。
【請求項2】
前記液晶性高分子繊維がアラミド繊維である、請求項1に記載の自動車用摩擦材料。
【請求項3】
前記摩擦面側の表層部が、フィブリル化されていない液晶性高分子繊維の繊維径の平方視野範囲内に、3〜200本のフィブリルを有する、
請求項1または2に記載の自動車用摩擦材料。
【請求項4】
前記他方の面側の表層部が、フィブリル化されていない液晶性高分子繊維の繊維径の平方視野範囲内に、0〜30本のフィブリルを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の自動車用摩擦材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用摩擦材料を用いたクラッチ板。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用摩擦材料を用いたブレーキ板。
【請求項7】
液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛の、摩擦面とする側の面に、流体噴射加工を施して、前記液晶性高分子繊維をフィブリル化する工程を含むことを特徴とする自動車用摩擦材料の製造方法。
【請求項8】
液晶性高分子繊維を含んでなる単層の布帛の、摩擦面とする側の面に、他方の面側の表層部よりも大きな総エネルギー量の流体噴射加工を施して、前記液晶性高分子繊維をフィブリル化する工程を含むことを特徴とする自動車用摩擦材料の製造方法。
【請求項9】
前記布帛が不織布である、請求項7または8に記載の自動車用摩擦材料の製造方法。
【請求項10】
前記流体噴射加工の流体が水である、請求項7〜9のいずれかに記載の自動車用摩擦材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−132055(P2009−132055A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310355(P2007−310355)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】